(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063640
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】レーザーダイシング用粘着テープ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230428BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230428BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/78 B
C09J7/38
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173587
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白石 優里
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 教一
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F063
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
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4J004DA04
4J004DB02
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4J040PA42
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5F063EE22
5F063EE25
5F063EE27
5F063EE43
5F063EE44
(57)【要約】
【課題】レーザーがウォータージェットでガイドされるレーザーダイシングにおいて、ダイシング時の水流によるチップ飛びや、チップの欠陥が生じることを防止し、さらに個片化したチップのピックアップ時にチップへ糊残り(粘着剤層の転着)しないレーザーダイシング用粘着テープを提供すること。
【解決手段】基材と、前記基材の一方の面の上に粘着剤層とセパレータフィルムとを順次積層した粘着テープであり、前記基材は繊維で形成された開口部を有するメッシュ基材とし、前記粘着剤層は水酸基含有化合物を含む粘着剤組成物からなり、かつ、前記粘着剤層は連続膜ではなく、少なくとも前記メッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に開口部を有する粘着テープとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーがウォータージェットでガイドされるレーザーダイシングに用いる粘着テープであって、基材と、前記基材の一方の面の上に粘着剤層とセパレータフィルムとを順次積層してなり、前記基材は繊維で形成された開口部を有するメッシュ基材であり、前記粘着剤層は水酸基含有化合物を含む粘着剤組成物からなり、かつ、前記粘着剤層は連続膜ではなく、少なくとも前記メッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に開口部を有していることを特徴とするレーザーダイシング用粘着テープ。
【請求項2】
前記メッシュ基材を形成する繊維の材質は、ポリエステルまたはナイロンであり、前記メッシュ基材の開口率が25%~75%である請求項1に記載のレーザーダイシング用粘着テープ。
【請求項3】
前記粘着剤層は、加熱または放射線照射により粘着力が低下することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザーダイシング用粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハをウォータージェットでガイドされるレーザーによってダイシングする際に、半導体ウェーハを固定するために用いるレーザーダイシング用粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体ウェーハおよび半導体関連材料のダイシング方法としては、高速回転させたダイシングブレードを用いて切断するブレードカット方式が一般的である。この方法では切断時にはブレードによる切削抵抗が半導体ウェーハに直接かかり、この切削抵抗によって個片化したチップが、固定している粘着テープから飛散してしまうチップ飛びが生じたり、チップの微小な欠け、ひび割れ等の欠陥が生じたりして、半導体チップの生産性や品質が低下する問題があった。特に、近年は電子装置の小型化、薄膜化の需要により、より深刻な問題となっている。
【0003】
一方、ダイシングブレートを用いた半導体ウェーハの切断技術に代わるダイシング方法の1つとして、レーザービームを使ったダイシング方法が種々検討されており、その中にウォータージェットによってガイドされるレーザービームを使用したレーザーダイシング方法がある。
【0004】
この方法でウェーハをダイシングする場合、ブレードカット方式のようにブレードによる切削抵抗がウェーハに直接かかることがないため、チップの欠け、ひび割れ等の欠陥の発生を低減することができる。また、ウォータージェットでガイドされるため、ウェーハが効率よく冷却され、熱負荷を低減することができる。
【0005】
このレーザーがウォータージェットでガイドされるレーザーダイシングでは、ダイシング時にウェーハを固定している粘着テープの接着面に水流による圧力がかかり、個片化されたチップが粘着テープから剥離し易いという問題があるが、それに対しては特許文献1に、支持基材に水透過性がある穿孔を有する基材を用いて、水流による剥離を防ぐ水透過性粘着テープが提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1のように水透過性がある基材として、不織布や穿孔加工した基材を用いた場合、穿孔が不均一であったり、穿孔面積を大きくできないため、チップサイズ、ダイシング条件により水流が透過しにくくなり、チップ飛びが発生する場合があった。
【0007】
これに対して特許文献2では、水透過性のある基材にメッシュ基材を使用することで、孔の大きさ及びオープニングエリアを、不織布や穿孔加工した基材に対して比較的大きいサイズで確保でき、水透過性が安定して、チップ飛びやチップの欠陥をより低減できることが記載されている。
【0008】
しかしながら、メッシュ基材の場合、個片化したチップをピックアップするときに、開口部の基材に保持されていない粘着剤層がチップ側に転着しやすく、チップへの糊残りが発生しやすいものであった。
【0009】
【特許文献1】特開2001-316648号公報
【特許文献2】特開2008-117943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、レーザーがウォータージェットでガイドされるレーザーダイシングにおいて、ダイシング時の水流によるチップ飛びや、チップの欠陥が生じることを防止し、さらに個片化したチップのピックアップ時に粘着剤層がチップ側へ転着(チップへの糊残り)しないレーザーダイシング用粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明は、レーザーがウォータージェットでガイドされるレーザーダイシングに用いる粘着テープであって、基材と、前記基材の一方の面の上に粘着剤層とセパレータフィルムとを順次積層してなり、前記基材は繊維で形成された開口部を有するメッシュ基材であり、前記粘着剤層は水酸基含有化合物を含む粘着剤組成物からなり、かつ、前記粘着剤層は連続膜ではなく、少なくとも前記メッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に開口部を有していることを特徴とするレーザーダイシング用粘着テープである。
【0012】
第2発明は、前記メッシュ基材を形成する繊維の材質は、ポリエステルまたはナイロンであり、前記メッシュ基材の開口率が25%~75%である第1発明に記載のレーザーダイシング用粘着テープである。
【0013】
第3発明は、前記粘着剤層は、加熱または放射線照射により粘着力が低下することを特徴とする第1発明または第2発明に記載のレーザーダイシング用粘着テープである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレーザーダイシング用粘着テープは、支持基材としてメッシュ基材を用いることで、ウェータージェットの水透過性を安定に維持することができ、ダイジング時のチップ飛びや、チップ欠けの欠陥が生じたりすることを防止し、さらに粘着剤層はメッシュ基材の繊維部分に形成され、メッシュ基材表面の開口部と一致した位置に開口部を有しており、チップ側へ転着しやすい基材に保持されていない粘着剤層がないため、個片化したチップのピックアップ時にチップへの糊残りがないレーザーダイシング用粘着テープを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のレーザーダイシング用粘着テープの一実施形態を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
本発明のレーザーダイシング用粘着テープは、メッシュ基材と、粘着剤層、セパレータフィルムが順次積層されたもので、粘着剤層は連続膜ではなく、少なくともメッシュ基材の表面(粘着剤層と接する表面)の開口部と一致した位置に開口部を有する構造である。
【0018】
(基材)
本発明のレーザーダイシング用粘着テープを構成する基材は、フィラメント糸からなるメッシュ状の織物であるメッシュ基材を用いる。織物の組織としては、主に平織り、綾織り、朱子織りなどの組織が挙げられるが、たて糸とよこ糸の拘束力が高く強度に優れるという点で平織りが好ましい。
【0019】
フィラメント糸の繊維素材としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、アクリル、ナイロンなどの合成繊維や、絹などの天然繊維、ステンレスや真鍮などの金属、ガラス、炭素繊維などの無機繊維が挙げられる。これら繊維素材の中では柔軟性や加工性の観点から合成繊維が好ましく、その中でもダイシングに使用されるレーザーの透過性および粘着剤との密着性の観点からポリエステルまたはナイロンがより好ましい。
【0020】
これらの繊維は、モノフィラメントまたはマルチフィラメントのいずれであってもよいが、メッシュの開口の大きさを均一にするためには、モノフィラメントであることが好ましい。繊維径は、直径が10~300μm程度が好ましく、水の透過性の観点からは25~150μm程度がより好ましい。また、メッシュの開口率は15~85%が好ましく、より好ましくは25~75%である。メッシュの開口率が前記範囲未満であると、水の透過性が悪くなり、水流によりチップが剥離しやすくなる。一方、開口率が前記範囲を超えると、本発明の粘着テープはメッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に、粘着剤層も開口部を有する構造のため、粘着剤層とチップの接触面積が小さくなり、チップが剥離しやすくなる。
【0021】
基材の厚さは、粘着テープの加工性、ハンドリング性およびダイシング時の破損や切断性の観点から、10~400μmが好ましく、より好ましくは30~250μmである。
【0022】
基材の粘着剤層を積層する面には、必要に応じてコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、プライマー処理などの表面処理を行ってもよい。
【0023】
(粘着剤層)
本発明のレーザーダイシング用粘着テープの粘着剤層に用いる粘着剤組成物として、通常使用されるアクリル系粘着剤または放射線硬化型粘着剤を適宜使用することができる。特に、放射線照射により粘着力が低下し、剥離が容易になる放射線硬化型粘着剤を使用するのが好ましい。放射線硬化型粘着剤は、一般的にはアクリル系粘着剤と放射線重合性化合物からなるものである。また、粘着剤組成物中には、メッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に粘着剤層の開口部を形成するために、水酸基含有化合物を配合する。これにより粘着剤層を硬化熟成する際に、粘着剤層組成物がメッシュ基材の繊維部分に集まり、メッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に粘着剤層の開口部を形成することができる。
【0024】
アクリル系粘着剤は、(メタ)アクリル系共重合体および硬化剤を必須成分とするものである。(メタ)アクリル系共重合体は、例えば、アルキル基の炭素数が4~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上と、他の共重合可能なエチレン性不飽和結合を有するモノマーの1種または2種以上とを常法により共重合させることによって得ることができる。
【0025】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
前記共重合可能なエチレン性不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、α―メチルスチレン、酢酸ビニル、N-ビニル-2-ピロリドン、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸、フマル酸などが挙げられる。
【0027】
前記(メタ)アクリル系共重合体において、共重合可能なエチレン性不飽和結合を有するモノマーとしては、後述する硬化剤と反応しうる官能基を有するモノマーを必須成分として使用する。官能基を有するモノマーとしては、特に、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有するモノマーが好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1万~100万であり、より好ましくは20万~80万である。重量平均分子量が前記範囲から外れると、粘着力の低下や、熱分解しにくくなるなどの不都合を生じることがある。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン換算値である。
【0029】
硬化剤は、(メタ)アクリル系共重合体が有する官能基と反応させて粘着力及び凝集力を調整するために用いられるものである。硬化剤としては、例えば、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤、金属キレート系硬化剤などが挙げられるが、官能基が水酸基である場合、イソシアネート系硬化剤が好ましい。
【0030】
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート、ポリイソシアネートの3量体、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られるイソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマー、該ウレタンプレポリマーの3量体等の1分子中にイソシアネート基を2以上有するポリイソシアネート系化合物などが挙げられる。
【0031】
ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4- トリレンジイソシアネート、2,5-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、リジンイソシアネート等が挙げられる。硬化剤は、単独で使用してもよいし、また2種以上を併用することもできる。
【0032】
硬化剤の添加量は、所要の粘着力に応じて適宜調整することができ、(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対して、通常、0.01~30質量部、より好ましくは0.1~15.0質量部である。
【0033】
前記放射線硬化型粘着剤の放射線重合性化合物は、例えば、光照射によって三次元網状化しうる分子内に光重合性炭素-炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物が広く用いられ、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートや、オリゴエステルアクリレート等が広く適用可能である。
【0034】
また、上記の様なアクリレート系化合物のほかに、ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、ポリエステル型またはポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアナート化合物(例えば、2,4-トリレンジイソシアナート、2,6-トリレンジイソシアナート、1,3-キシリレンジイソシアナート、1,4-キシリレンジイソシアナート、ジフェニルメタン4,4-ジイソシアナートなど)を反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を有するアクリレートあるいはメタクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなど)を反応させて得られる。
【0035】
放射線硬化型粘着剤中のアクリル系粘着剤と放射線重合性化合物との配合比としては、アクリル系粘着剤100質量部に対して、放射線重合性化合物を10~200質量部、より好ましくは20~120質量部の範囲で配合される。前記範囲から外れると、粘着力を低下させることが難しくなったり、糊残りが発生しやすくなるなどの不都合を生じる可能性がある。さらに、放射線硬化型粘着剤は、上記のようにアクリル系粘着剤に放射線重合性化合物を配合する替わりに、アクリル系粘着剤自体を放射線重合性アクリル酸エステル共重合体とすることも可能である。
【0036】
また、放射線硬化型粘着剤には、放射線重合性開始剤を配合するのが好ましい。放射線重合性開始剤として、例えば、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、クロロチオキサントン、ベンジルメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシメチルフェニルプロパン等が挙げられる。これらのうち少なくとも1種類を粘着剤層に添加することにより、効率よく重合反応を進行させることができる。なお、ここで言う放射線とは、紫外線のような光線、または電子線のような電離性放射線のことを意味する。
【0037】
放射線重合開始剤の配合量は、放射線硬化型粘着剤100質量部に対して、通常、0.05~15質量部、好ましくは0.2~10質量部である。
【0038】
本発明の粘着剤層を形成する粘着剤組成物には、前記アクリル系粘着剤または放射線硬化型粘着剤の成分のほかに、粘着剤層とメッシュ基材の密着性向上およびメッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に粘着剤層の開口部を形成するために、水酸基含有化合物を配合する。粘着剤組成物に水酸基含有化合物を配合することにより、粘着剤層とメッシュ基材の繊維と密着性が上がり、放射線粘着剤を使用して粘着力が低下した場合でも、粘着剤層と基材の密着力を確保することができ、チップへの粘着剤層の転着を防ぐことができる。また、水酸基含有化合物は、粘着剤層塗膜の界面張力を上げる効果があり、セパレータフィルムを積層して粘着剤層を硬化熟成するときに、硬化前の粘着剤層がメッシュ基材の繊維部分に移動して、繊維部分に粘着剤層が形成され、メッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に粘着剤層の開口部を形成することができる。
【0039】
水酸基含有化合物としては、アクリル系、ポリエステル系、ポリエーテル系などの化合物が挙げられるが、多官能水酸基導入やポリマー設計がしやすい点からアクリル系化合物が好ましい。
【0040】
水酸基含有アクリル化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2-ジヒドロキシメチルブチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシアルキルマレエート、ポリヒドロキシアルキルフマレートなどの分子内に1個以上の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルの単量体、および、前記(メタ)アクリル酸エステルの単量体と、これに共重合可能な別の単量体とを共重合させることによって得られる共重合体が挙げられる。
【0041】
前記共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル(C1~C12)、マレイン酸、マレイン酸アルキル、フマル酸、フマル酸アルキル、イタコン酸、イタコン酸アルキル、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、3-(2-イソシアネート-2-プロピル)-α-メチルスチレン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これら単量体を、適当な溶剤および重合開始剤の存在下において共重合させることによって、水酸基含有アクリル化合物を得ることができる。
【0042】
水酸基含有ポリエステル化合物としては、例えば、多価アルコールと多塩基酸との縮合重合により得られる水酸基含有ポリエステル化合物や、ラクトン類の開環重合により得られる水酸基含有ポリエステル化合物などが挙げられる。
【0043】
前記水酸基含有ポリエステル化合物を得るための縮合重合に使用する多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、テトラメチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3-ジヒドロキシアセトン、ヘキシレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジトリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトール、及びペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0044】
前記水酸基含有ポリエステル化合物を得るための縮合重合に使用する多塩基酸としては、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アゼライン酸、クエン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シトラコン酸、1,10-デカンジカルボン酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、無水ピロメリット酸、及び無水トリメリット酸などが挙げられる。
【0045】
前記水酸基含有ポリエステル化合物を得るための開環重合に使用するラクトン類としては、例えば、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、及びγ-ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0046】
水酸基含有ポリエーテル化合物としては、例えば、多価アルコール類への環状エーテル化合物の付加反応により得られる水酸基含有ポリエーテル化合物、及びアルキレンオキシドの開環重合により得られる水酸基含有ポリエーテル化合物などが挙げられる。
【0047】
前記水酸基含有化合物の水酸基価は、50~500mgKOH/gの範囲が好ましく、より好ましくは100~400mgKOH/gである。水酸基価が前記範囲未満であると粘着剤層塗膜の界面張力を上げるのが困難となり、メッシュ基材の繊維部分に粘着剤層を移動させ、粘着剤層に開口部を形成することが困難となる。また、支持基材との密着性も低下するため、粘着剤層が基材から剥がれやすくなる。一方、前記範囲を超えると粘着性能が低下する。
【0048】
前記水酸基含有化合物の重量平均分子量は、140~8,000の範囲が好ましく、より好ましくは140~5,000の範囲である。重量平均分子量が前記範囲未満であると低分子量成分が被着体に移行してしまう。一方、前記範囲を超えると粘着剤層塗膜の流動性が低下し、メッシュ基材の繊維部分に粘着剤層を移動させ、粘着剤層に開口部を形成することが困難となる。
【0049】
前記水酸基含有化合物の配合量は、粘着剤層固形分中に5~50質量%、より好ましくは10~40質量%である。配合量が前記範囲未満であると粘着剤層塗膜の界面張力を上げるのが困難となり、メッシュ基材の繊維部分に粘着剤層を移動させ、粘着剤層に開口部を形成することが困難となる。一方、前記範囲を超えると粘着性能が低下する。
【0050】
本発明の粘着剤層には、必要に応じて、酸化防止剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤などの各種添加剤を配合することができる。
【0051】
粘着剤層の塗工量は、被着体に対する接着力、保持力の確保およびメッシュ基材の繊維部分に粘着剤層を形成し、粘着剤層に開口部を有する構造とするためには、5~50g/m2程度、より好ましくは10~30g/m2である。粘着剤層の塗工量が5g/m2未満であると被着体に対する接着力によっては、剪断方向の保持力が確保できず、被着体から剥がれやすくなる。また、粘着剤層の塗工量が50g/m2を超える場合には、粘着剤組成物の体積量が多くなり、粘着剤層に開口部を形成することが困難となる。
【0052】
本発明の粘着剤層の形成方法としては、粘着剤組成物をそのまま、又は溶剤などで粘度を調整した塗工液として、離型処理されたセパレータの離型処理面上に、前記塗工液を所定の厚みとなるように均一に塗工し、溶剤乾燥して粘着剤層を形成し、その粘着剤層面にメッシュ基材を貼り合せて、常温もしくは所定温度で硬化熟成することにより、メッシュ基材の繊維部分に粘着剤層が移動し、メッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に粘着剤層の開口部を形成することができる。
【0053】
本発明の粘着剤層の塗工液の塗工法としては、例えば、グラビアコーター、バーコーター、コンマナイフコーター、ダイコーター、リバースコーターなどが挙げられる。
【0054】
本発明の粘着テープの粘着力は、1N/25mm以上、より好ましくは2N/25mm以上である。粘着力が低いと、ダイシングしたチップが剥離しやすくなる。また、放射線硬化型粘着剤を使用する場合には、放射線照射後の粘着力が、1N/25mm未満、さらに0.5N/25mm未満であることが好ましい。粘着力は低いほうが、ピックアップ時におけるチップの欠け等の欠陥を低下させることができる。ここで、粘着力は、測定温度が23±3℃、剥離角度180°、剥離速度300mm/分の条件でシリコンウェーハミラー面に対する剥離力を測定したときの値である。
【0055】
(セパレータフィルム)
本発明の粘着テープは、片面が離型処理されたセパレータフィルムが粘着剤層の上に積層された構成である。なお、セパレータフィルムは、粘着テープを使用する際には剥がすものである。
【0056】
前述のように、粘着剤層は離型処理されたセパレータフィルムの離型処理面上に形成し、粘着剤層面にメッシュ基材を貼り合せて硬化熟成するが、離型処理面上に形成した硬化前の粘着剤層塗膜は、自身の高い界面張力と離型処理面の低い界面張力の相互作用により流動し、メッシュ基材の繊維部分に移動するため、メッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に粘着剤層の開口部を形成することができる。
【0057】
セパレータフィルムのフィルム材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリウレタンなどの合成樹脂が挙げられるが、耐熱性、強度などの観点からポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。セパレータフィルムの厚みは、通常、6~200μm程度、ハンドリング性およびコスト面からは、12~100μm程度がより好ましい。
【0058】
セパレータフィルムの離型処理に使用する剥離剤は、例えば、シリコーン系剥離剤、長鎖アルキル系剥離剤、フッ素系剥離剤など従来公知のものが使用できる。これらの中でも、比較的安価で安定した剥離性が得られるシリコーン系剥離剤を使用するのが好ましい。
【0059】
シリコーン系剥離剤としては、熱硬化型シリコーン系剥離剤を好適に使用することができる。熱硬化型シリコーン系剥離剤は、例えば、1分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンと、架橋剤としてオルガノハイドロジェンポリシロキサンからなるシリコーン組成物を付加反応により硬化させるものを使用することがきる。また、熱硬化型シリコーン系剥離剤には、必要に応じて、MQレジン等の剥離コントロール剤を添加することもできる。
【0060】
熱硬化型シリコーン系剥離剤は、通常、硬化触媒として白金系触媒が用いられる。白金触媒としては、例えば、塩化白金酸、白金のオレフィン錯体、塩化白金酸のオレフィン錯体などが挙げられる。
【0061】
離型処理の厚さは、離型性および厚みの安定性の観点から0.01~10μmが好ましく、より好ましくは0.03~5μmであり、さらに好ましくは0.1~1μmである。
【実施例0062】
以下に実施例と比較例を示して本発明のレーザーダイシング用粘着テープを詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0063】
<セパレータフィルム1の準備>
シリコーン剥離剤(信越化学工業(株)製KS-776A)95質量部、架橋剤(信越化学工業(株)製CAT.PL-50T)5質量部、トルエン500質量部を混合した剥離剤塗工液を、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、乾燥重量が0.3g/m2となるようグラビアコーターで塗工し、次いで140℃のギアオーブンで1分間乾燥硬化させてシリコーン離型処理層を形成し、セパレータフィルム1を得た。
【0064】
<使用する粘着テープ用基材>
[メッシュ基材1]:ナイロン繊維、モノフィラメント、平織り、繊維径:100μm、目開き:150μm、開口率:36%
[メッシュ基材2]:ナイロン繊維、モノフィラメント、平織り、繊維径:100μm、目開き:100μm、開口率:25%
[メッシュ基材3]:ナイロン繊維、モノフィラメント、平織り、繊維径:40μm、目開き:260μm、開口率:75%
[メッシュ基材4]:ポリエステル繊維、モノフィラメント、平織り、繊維径:48μm、目開き:140μm、開口率:55%
メッシュ基材の開口率は次式で算出した値である。
開口率=(目開き)2÷(目開き+繊維径)2
【0065】
<粘着剤層塗工液の調整>
下記に示すアクリル系共重合体、硬化剤、放射線重合性化合物、光重合開始剤、水酸基含有化合物を用いて、表1の配合通り、粘着剤層塗工液1~7を調整した。
[アクリル系共重合体]:n-ブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(重量平均分子量60万、水酸基価20mgKOH/g)の酢酸エチル溶液(不揮発分50%)
[硬化剤]:トリレンジイソシアネート-トリメチロールプロパン(TMP)アダクト体の酢酸エチル溶液(不揮発分75%)
[放射線重合性化合物]:ウレタンアクリレートオリゴマー(アクリレート6官能、重量平均分子量2,000)
[光重合開始剤]:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
[水酸基含有化合物A]:2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体(重量平均分子量2,500、水酸基価120mgKOH/g)
[水酸基含有化合物B]:4-ヒドロキシブチルアクリレート(分子量144、水酸基価389mgKOH/g)
[水酸基含有化合物C]:n-ブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートの共重合体(重量平均分子量5,000、水酸基価200mgKOH/g)
【0066】
【0067】
(実施例1)
セパレータフィルム1のシリコーン離型処理面の上に、乾燥後の粘着剤層の塗工量が15g/m2となるように粘着剤層塗工液1を塗布し、溶剤を加熱乾燥させた後、粘着剤層面にメッシュ基材1を貼り合せ、45℃で48時間硬化熟成し、粘着テープを得た。
【0068】
(実施例2)
実施例1において、粘着剤層に貼り合せるメッシュ基材1をメッシュ基材2に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
【0069】
(実施例3)
実施例1において、粘着剤層に貼り合せるメッシュ基材1をメッシュ基材3に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
【0070】
(実施例4)
実施例1において、粘着剤層に貼り合せるメッシュ基材1をメッシュ基材4に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
【0071】
(実施例5)
実施例1において、粘着剤層塗工液1を粘着剤層塗工液2に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
【0072】
(実施例6)
実施例1において、粘着剤層塗工液1を粘着剤層塗工液3に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
【0073】
(実施例7)
実施例1において、粘着剤層塗工液1を粘着剤層塗工液4に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
【0074】
(実施例8)
実施例1において、粘着剤層塗工液1を粘着剤層塗工液5に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
【0075】
(実施例9)
実施例1において、粘着剤層塗工液1を粘着剤層塗工液6に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
【0076】
(比較例1)
実施例1において、粘着剤層塗工液1を粘着剤層塗工液7に変更した以外は実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
【0077】
<粘着剤層の積層状態確認>
実施例1~9、比較例1で得られた各粘着テープから3cm角のサンプルを切り出し、セパレータフィルムを剥がして、粘着剤層の表面状態をマイクロスコープ(50倍)で5箇所観察した。観察結果について、メッシュ基材の表面の開口部と一致した位置に粘着剤層も開口部を有しているものを「○」、メッシュ基材の全面に粘着剤層が連続膜になって積層しているものは「×」を表2に示した。
【0078】
<ダイシング時のチップ飛び評価>
実施例1~9、比較例1の各粘着テープを用いて、以下の加工条件でシリコンウェーハをダイシングし、加工時のチップ飛びを以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表2に示した。
(加工条件)
加工機:SYNOVA社製レーザーマイクロジェットダイシング装置
ダイシング速度:100mm/s
ウォータージェット径:50μm
ウェータージェット圧:40MPa
レーザー波長:532nm
ウェーハサイズ:6インチ
ウェーハ厚さ:100μm
チップサイズ:0.6mm×0.6mm
(評価基準)
◎:チップ飛び率が0%~0.1%未満
○:チップ飛び率が0.1%~3%未満
×:チップ飛び率が3%以上
【0079】
<チップへの糊残り評価>
上記条件でシリコンウェーハをダイシングした後、粘着テープの基材面側からUV(紫外線)照射(高圧水銀ランプ、出力120W/cm、積算光量500mJ/cm2)を行い、個片化したチップ100個を粘着テープから剥がし、チップ裏面の糊残り(粘着剤層の転移)を目視確認し、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表2に示した。
(評価基準)
◎:全てのチップで糊残りなし
○:糊残りのあるチップが1~2個
×:糊残りのあるチップが3個以上
【0080】
<UV照射前後の対シリコンウェーハ剥離力の確認>
実施例1~9、比較例1の各粘着テープから、幅25mm、長さ120mmのサイズのサンプルを各2枚ずつ切り出し、切り出したサンプルのセパレータフィルムを剥がして、その粘着剤層面をキャノシス製シリコンウェーハミラー面に貼り付け、粘着テープの基材の上から2kgfのゴムローラーで1往復圧着して、各粘着テープでそれぞれ2枚の剥離力測定用サンプルを作製した。各粘着テープの剥離力測定用サンプル2枚のうち一方は、温度23±3℃、湿度50±5%RHで30分放置した後、引張試験機を用いて、貼り付けた粘着テープを剥離角度180°、剥離速度300mm/分で剥離させて、UV照射前の対シリコンウェーハ剥離力を測定した。もう一方は、温度23±3℃、湿度50±5%RHで30分放置した後、貼り付けた粘着テープの基材面側からUV照射(高圧水銀ランプ、出力120W/cm、積算光量500mJ/cm2)を行ってから、引張試験機を用いて、貼り付けた粘着テープを剥離角度180°、剥離速度300mm/分で剥離させて、UV照射後の対シリコンウェーハ剥離力を測定した。各粘着テープのUV照射前後の対シリコンウェーハ剥離力を表2に示した。
【0081】