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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063657
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】自走歩行器
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/04 20060101AFI20230428BHJP
【FI】
A61H3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173608
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】393011038
【氏名又は名称】リョーエイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌司
(72)【発明者】
【氏名】平野 卓哉
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA24
4C046BB07
4C046CC01
4C046DD02
4C046DD26
4C046DD28
4C046DD33
4C046EE06
4C046EE09
4C046EE14
4C046EE32
4C046FF12
4C046FF25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】床面に凹凸があったり、段差があったり、うねりがあるような場合にも左右の駆動輪を確実に接地させ、安定した駆動力を得ることができる自走歩行器を提供する。
【解決手段】本発明の自走歩行器は、中央にユーザーが立つことができる本体と、本体の左右に配置され個別の駆動モータ16を備えた駆動輪14と、各駆動輪の前後に配置された補助輪と、各駆動輪14を揺動可能に支持し、各駆動輪の重量およびガスダンパー23の押圧力により駆動輪を床面に押し付ける駆動輪接地機構18とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央にユーザーが立つことができる本体と、
本体の左右に配置され個別の駆動モータを備えた駆動輪と、
各駆動輪の前後に配置された補助輪と、
各駆動輪を揺動可能に支持し、各駆動輪の重量およびガスダンパーの押圧力により駆動輪を床面に押し付ける駆動輪接地機構と、を備えたことを特徴とする自走歩行器。
【請求項2】
前記駆動輪接地機構は、前端部が水平軸により本体に軸支された駆動輪支持部材と、この駆動輪支持部材に下向きの回転モーメントを加えるガスダンパーとを備え、駆動輪は駆動輪支持部材の後端部に軸支されていることを特徴とする請求項1に記載の自走歩行器。
【請求項3】
本体に前記水平軸の取付孔を複数個形成し、取付孔を変更することによりガスダンパーによる駆動輪の床面への押し付け力を調節可能とした請求項2に記載の自走歩行器。
【請求項4】
本体は、各駆動モータの電流値からユーザーの歩行状態を検出し、歩行をアシストする走行演算処理部と、本体の傾斜を検出するジャイロセンサーとを備えることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の自走歩行器。
【請求項5】
本体に、遠隔操作のための無線通信部を搭載したことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の自走歩行器。
【請求項6】
本体に、カメラおよび障害物センサーを搭載したことを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の自走歩行器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体の中央にユーザーが立って使用し、ユーザーの歩行をアシストする自走歩行器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本体の中央にユーザーが立って使用する自走歩行器は、本発明者らが従来から開発を継続中であり、その成果の一部を特許文献1として既に提案済みである。特許文献1の自走歩行器は、中央にユーザーが立てるように平面形状がU字状の本体を備えている。本体の左右両側には駆動輪が配置され、各駆動輪はそれぞれ駆動モータを備えている。また特許文献1の自走歩行器は、カメラにより床面のテープを読み取り、所定の経路上を自走することも可能である。
【0003】
自走歩行器の左右の駆動輪の前後には、転倒防止用の補助輪が設けられている。これらの4個の補助輪は、転倒のおそれが生じたときにも荷重を支えることができるように、本体に強固に固定されている。使用時にはユーザーが本体に体重を掛けるので駆動輪はその力によって床面に接地し、駆動力を得ることができる。しかし床面に凹凸があったり、段差があったり、うねりがあるような場合には、補助輪の中央にある駆動輪が床面から浮き上がって接地力が失われ、空回りして適切な駆動力が得られないことがある。駆動輪が空転すると駆動力が失われるのみならず、駆動輪の回転数と走行距離が一致しなくなり、自走歩行器の位置を正確に捕捉できなくなるという問題も発生するおそれがある。
【0004】
このような問題は、駆動輪の前後に補助輪を設けた搬送装置に共通のものである。この種の搬送装置は重量や外力を補助輪が支えるため、駆動輪は駆動力だけを考慮すればよい構造である。しかし上記のように床面が平坦ではなく部分的に窪んでいるような場合には、補助輪の間に配置された駆動輪が床面から浮き上がる可能性がある。そこで特許文献2の走行装置では、駆動輪の中央に配置された駆動輪を、押し付け機構により床面に押し付ける構造が採用されている。この押し付け機構は、駆動輪の前進方向側に回転ヒンジを設け、この回転ヒンジに軸支されたリンクに駆動輪を取り付けるとともに、このリンクと本体との間に圧縮スプリングを介在させ、圧縮スプリングを利用して駆動輪を床面に押し付ける構造である。
【0005】
しかし圧縮スプリングを利用した押し付け機構では、駆動輪が本体に近付いた場合には圧縮スプリングが圧縮され大きい反発力が得られるが、逆に駆動輪が本体から離れた場合には圧縮スプリングが伸びて反発力が弱くなるという問題がある。このため、坂道の上り始めのように最も駆動力を大きくしたい場面において、接地力が低下してしまうおそれがある。図14はその様子を示した概念図であり、(A)のように床面が平坦であり、前側の補助輪1と後側の補助輪2が同一平面にある状態では、駆動輪3は圧縮スプリング4により所定の力で床面に押し付けられる。しかし(B)のように後側の補助輪2は平坦面にあるが前側の補助輪1が坂道の上り始めで持ち上げられた状態では、圧縮スプリング4が伸びるため、駆動輪3の接地力が(A)の状態よりも低下してしまうこととなる。
【0006】
また特許文献2の無人搬送車は、小回りを実現するために本体の中央に単一の駆動輪を設け、前後左右に補助輪を配置した5輪構造となっている。このため駆動輪を左右独立に制御することはできない。この点は貨物を積載して平坦な床面を走行する無人搬送車においては特に問題とはならないが、身体が不自由なユーザーが使用するため左右のバランスを重視する自走歩行器においては問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-99379号公報
【特許文献2】特開平11-301486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、床面に凹凸があったり、段差があったり、うねりがあるような場合にも左右の駆動輪を確実に接地させ、安定した駆動力を得ることができる自走歩行器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明の自走歩行器は、中央にユーザーが立つことができる本体と、本体の左右に配置され個別の駆動モータを備えた駆動輪と、各駆動輪の前後に配置された補助輪と、各駆動輪を揺動可能に支持し、各駆動輪の重量およびガスダンパーの押圧力により駆動輪を床面に押し付ける駆動輪接地機構と、を備えたことを特徴とするものである。
【0010】
なお、前記駆動輪接地機構は、前端部が水平軸により本体に軸支された駆動輪支持部材と、この駆動輪支持部材に下向きの回転モーメントを加えるガスダンパーとを備え、駆動輪は駆動輪支持部材の後端部に軸支されていることが好ましい。また、本体に前記水平軸の取付孔を複数個形成し、取付孔を変更することによりガスダンパーによる駆動輪の床面への押し付け力を調節可能とすることが好ましい。
【0011】
また本体は、各駆動モータの電流値からユーザーの歩行状態を検出し、歩行をアシストする走行演算処理部と、本体の傾斜を検出するジャイロセンサーとを備えることが好ましい。さらに、本体に、遠隔操作のための無線通信部、カメラおよび障害物センサーを搭載することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自走歩行器は、駆動輪の重量およびガスダンパーの押圧力を利用して駆動輪を床面に押し付ける駆動輪接地機構を備えている。ガスダンパーはスプリングとは異なり、全ストロークにわたり押圧力の変化が小さい特性があり、駆動輪が本体に接近した場合にも、本体から離れた場合にもほぼ一定の力で駆動輪を床面に押し付けることができる。このため、床面に凹凸があったり、段差があったり、うねりがあるような場合にも駆動輪の接地力を略一定とすることができ、確実な駆動力を得ることができる。また駆動輪が空転することがないため、回転数から自走歩行器の位置を正確に把握することができる。さらに本発明の自走歩行器は、駆動輪接地機構により左右の駆動輪を独立して昇降させることができるので、片側の床面だけが窪んでいるような場合にも、左右のバランスを失うことなくユーザーをアシストすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の自走歩行器の平面図である。
図2】実施形態の自走歩行器の正面図である。
図3】駆動輪接地機構を示す正面図である。
図4】ガスダンパーの取付角度を変えた駆動輪接地機構を示す正面図である。
図5】ガスダンパーの取付角度を変えたときの接地力の変化を示す線図である。
図6】駆動輪接地機構を左右独立に設けた利点を示す模式的な説明図である。
図7】駆動輪接地機構の利点を示す模式的な説明図である。
図8】駆動輪の制御系統を示すブロック図である。
図9】自走歩行器がのぼりの入口に差し掛かった状態の説明図である。
図10】様々な走行状態におけるトルクと車輪の回転数のグラフである。
図11】減速とスロープ下りの走行状態におけるトルクと車輪の回転数のグラフである。
図12】制御系統の全体図である。
図13】ユーザーが便座に座った状態の説明図である。
図14】先行技術の問題点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は実施形態の自走歩行器の平面図、図2はその正面図である。図1に示すように、本体10はU字状またはコ字状の平面形状を持ち、その中央にユーザーが立って使用する構造である。本体10は左右の側枠11とそれらの前部を接続する前面構造部12を備え、左右の側枠11の上面にはユーザーが手を置くアーム13が設けられている。中央にユーザーが立って歩行できるように、左右の側枠11は前面構造部12のみによって接続されている。この前面構造部12を床面より500mm以上の高さとしておけば、便座の上を通過させることも可能となる。
【0015】
この前面構造部12の内部には、演算装置やバッテリーなどが収納されている。後述するように、この自走式歩行器はユーザーの歩行をアシストする機能を有するのみならず、無人状態で自走する機能をも有する。
【0016】
(基本構成)
本体10の左右の側枠11の下部にはそれぞれ駆動輪14が配置され、各駆動輪14の前後には小径の補助輪15が配置されている。自走歩行器は前進後進だけではなく、その場で反転したり、進行方向を急に変えたりできることが望ましい。このため各補助輪15は前後方向だけではなく、斜め方向や横方向にも自由に回転できる自在車輪とすることが好ましく、本実施形態ではオムニホイール(登録商標)の商品名で市販されている自在車輪を採用している。これらの補助輪15は側枠11の下部に直接取り付けられている。
【0017】
図3に示すように、駆動輪14は個別に駆動モータ16を備え、左右独立に駆動制御される。駆動輪14の中心軸17は駆動輪接地機構18によって本体10の下部に取付けられている。駆動輪接地機構18は板状で前後方向に延びる駆動輪支持部材19を備え、この駆動輪支持部材19の前端部が水平軸20により側枠11の下部ブラケット21に軸支されている。また駆動輪支持部材19の後端部に駆動輪14の中心軸17が取り付けられている。このため駆動輪14は、水平軸20を中心として側枠11に対して上下に揺動することができる。このように駆動輪14は上下に直線運動をするのではなく、前進方向に対して少し後ろ方向に円弧状に揺動するため、床面の凹凸に追従し易くなる。水平軸20には駆動輪14の横ブレをなくすために、スラストワッシャを組み込み、スラスト方向のガタをなくしている。
【0018】
図3に示すように、駆動輪14には駆動モータ16と減速機22が設けられている。このためこれらの重量により駆動輪支持部材19に水平軸20を中心とする下向きの回転モーメントが作用し、駆動輪14は床面に押し付けられる。しかし本発明では駆動輪14の接地力を更に高めるために、駆動輪接地機構18にガスダンパー23が組み込まれている。
【0019】
ガスダンパー23はシリンダ内に窒素ガスなどを封入し、ガス圧を利用してピストンロッドを押し出す構造であり、スプリングとは異なり全ストロークにわたり反発力の変化が小さい特性を持つ。ガスダンパー23の後端は駆動輪支持部材19の後部上端に軸24により軸支されている。またガスダンパー23の前端は、側枠11に固定された取付板25に取付けられている。図3図4に示すように、取付板25には軸24を中心とする2列の円弧上に複数の取付孔26が形成されており、これらの2列の取付孔26の何れかに板27がボルトにより取り付けられ、ガスダンパー23の前端は軸28によって板27に取付けられる。取付孔26に対する板27の取付け位置を変えることによって、ガスダンパー23の前端の軸28の位置を上下に変えることができる。
【0020】
図5にガスダンパー23の軸28の位置を変更したときの接地力の変化を示す。図5の(A)は図3に対応し、(B)は図4に対応している。Oは駆動輪支持部材19の回転中心となる水平軸20であり、Oは駆動輪14の中心軸17である。点Pはガスダンパー23の後端を軸支する軸24であり、点Sと点Sはガスダンパー22の前端の軸28の位置を示している。ガスダンパー22の押圧力の方向はSPとSPで示され、ガスダンパー22の押圧力は一定としてPQのベクトルで示した。
【0021】
図5の(A)の場合、ガスダンパー23の押圧力は水平に近い角度で点Pに作用し、駆動輪支持部材19の回転方向の分力はPRとなる。なお、PRはOPに対して直角であり、回転力の大きさを示すベクトルである。(B)の場合、ガスダンパー23の押圧力は水平よりも大きい角度で点Pに作用し、駆動輪支持部材19の回転方向の分力はPRとなる。PRよりもPRは大きく、駆動輪支持部材19により大きい回転モーメントが加わるので、駆動輪14は(A)の場合よりも大きい力で床面に押し付けられる。このように、ガスダンパー23の前端の軸28の取付位置を変更することにより、駆動輪14の接地力を変えることができ、ユーザーの体重や年齢に応じて接地力を調整することが可能となる。
【0022】
図6は駆動輪接地機構18を左右独立に設けた利点を示す模式的な説明図である。左側は特許文献2の従来構造を示し、右側は本願発明の構造を示す。床面が進行方向に対して左右に傾斜している場合、左側の従来構造では本体が左右に傾斜するが、右側は本願発明では床面が低い側の駆動輪14が下側に移動するため、本体の左右の傾きを抑制することができる。図7は駆動輪接地機構18の利点を示す模式的な説明図である。駆動輪接地機構がない従来構造では、坂道の上り始めの最も駆動力を大きくしたい場面において、駆動輪14が浮き上がり接地力が低下してしまうのに対して、本願発明の構造では、駆動輪14は常に一定の力で床面に押し付けられ、駆動力の低下を抑制することができる。
【0023】
(アシスト力の制御)
本発明の自走歩行器は、ユーザーの歩行をアシストする機能を有する。以下にその詳細を説明する。
図8の制御系統図に示すように、左右の駆動輪14の駆動モータ16にはそれぞれエンコーダ50とアンプ51が内蔵されている。図8ではこれらを、左車輪、左モータ、左エンコーダ、右車輪、右モータ、右エンコーダ等と略記している。52は走行測定処理部であり、走行演算処理部53に接続されている。54は電源、55は本体10に取付けられたジャイロセンサーである。走行演算処理部53や電源54は、前記した前面構造部12に収納されている。
【0024】
走行演算処理部53からの走行指令により左車輪と右車輪は左モータと右モータにより駆動されるが、これらのモータの回転は内蔵のエンコーダ50により検出され、走行測定処理部52で速度信号に変換されて走行演算処理部53に送られる。またこれらのモータのトルクも電流値により検出され、走行演算処理部53に送られる。前進の場合には左車輪と右車輪は同一速度で回転し、ユーザーの前進歩行をアシストする。もし何らかの原因で左右の車輪径に誤差が生じた場合には、そのままでは自走歩行器の進行方向に変化が生ずる。しかしユーザーが進行方向を変えず前進を続けようとして本体10に力を加えると、左右の車輪の回転数及びモータのトルクが変化するため、走行演算処理部53はユーザーの意図を読み取り、左右の車輪の回転数を変化させて直進を維持することができる。
【0025】
また、ユーザーが左右に旋回しようとして本体10に力を加えると、左右の車輪に速度差が発生し、電流値が変化する。走行演算処理部53は左右の車輪のトルク及び速度信号からユーザーの意図を読み取り、左右の車輪の回転数を変化させて進行方向を変化させる。さらにユーザーがその場で反転しようとして本体10に力を加えると、片側の車輪には前向き、反対側の車輪には後ろ向きの回転力が加わる。走行演算処理部53はユーザーの意図を読み取り、左右の車輪の回転方向を逆向きにして本体10をその場で反転させる。このように本発明の自走歩行器はユーザーが本体10を押し引きする力を左右の車輪の回転や電流値で検出し、ユーザーの意図に沿ったアシストを行うものである。
【0026】
次にジャイロセンサー55の出力を利用したアシスト力の制御について説明する。ジャイロセンサー55はチップ状の角速度センサーであり、本体10に取付けてその傾斜を検出することができる。
【0027】
図9は本発明の自走歩行器がのぼりの入口に差し掛かった状態と、のぼり維持の状態を示している。まずのぼりの入口に差し掛かったときには、図9の上段のトルクのグラフに示すように、左右の駆動モータのトルクが上昇する。また中段のグラフに示すように、車輪の回転速度が低下する。さらに下段のグラフに示すように、ジャイロセンサー55が本体10の傾斜を検出する。走行演算処理部53はこれらの信号から本体10がのぼりの入口に差し掛かったと判断し、左右の車輪により大きな電流を与えてのぼりの歩行をアシストする。なお、のぼり維持の状態に入るとこれらの信号は一定となる。
【0028】
図10図11に、様々な走行状態におけるトルクと車輪の回転数のグラフを示す。図10に示す一定速度で走行の場合には、左右の車輪のトルク及び回転数は一定である。ユーザーが走行速度を速めたい場合に本体10を前向きに押すと、車輪が強制的に回転されるために一時的にトルクが増加し、c1時間後に加速が終わるとトルクは一定となる。また車輪の回転数は増加したままとなる。これらのトルク変動及び車輪の回転数には閾値と速度限界値が設定されている。自走歩行器の走行速度が速くなり過ぎると、ユーザーの歩行が付いて行けなくなるからである。本発明の自走歩行器は障害者施設や病院などで使用されるものであり、不特定のユーザーの使用を想定していない。このためユーザーの年齢、性別、体重、障害の程度などに応じて、最大速度や各種の閾値を予め設定しておくことが好ましい。
【0029】
図10に示す前側転倒はユーザーがつまづいて前側に転倒し始めた場合である。このとき本体は急激に押し出され、トルクと車輪の回転数がc2として示す短時間内に閾値を超え、車輪の回転数もc2として示す短時間内に速度限界値を超える。このような急激な変動が検出された場合には、走行演算処理部53は異常事態発生と判断し、車輪を非常停止する。ユーザーは停止した本体に掴まることによって転倒事故を防止することが可能となる。なお、後側転倒の場合も同様である。段差越えの場合には、一時的にトルクが増加し、車輪の回転数は落ちる。ジャイロセンサー55が段差による本体10の傾きを検出し、アシスト力を増加する。段差を通過した後は、一定速度で走行の状態に戻る。
【0030】
図11に示す減速の場合はユーザーが本体の前進を抑制するために逆トルクが発生し、走行演算処理部53は車輪の回転数を減速する。トルク変動から、ユーザーが求める速度まで減速されたと判断されるとその速度を維持するようにアシストする。スロープ下りの場合には、車輪を駆動するトルクが低下するとともに、車輪の回転数が増加する傾向となる。ジャイロセンサー55が下りに差し掛かったことを検出すると、走行演算処理部53は車輪を制動する方向に制御し、速度を一定に維持する。このようにして床面の変化やユーザーの挙動を検出し、ユーザーの意思に沿ったアシスト力を発揮する制御が行われる。
【0031】
(制御系統の全体)
図12は制御系統の全体図である。左下の遠隔操作・表示部60はユーザーが操作する携帯型の端末であるが、その他の電源部61、センサー部62、統括管理部63、走行演算処理部53等は全て本体10に搭載されている。センサー部62には前記したジャイロセンサー55のほかに、照明64、アシスト荷重切替スイッチ65、障害物センサー66、カメラ67等が含まれている。
【0032】
照明64は本体下部に取付けられ、ユーザーの足元を照らす。またカメラ67もユーザーの足元の床面を撮影し、ユーザーの足が視界から消えた場合には転倒の可能性があるため走行演算処理部53に非常信号を送り本体10を停止させる。
【0033】
またカメラ67はユーザーがいない無人状態では床面に貼り付けられたテープを撮影し、画像処理部68がその方向を読み取り、走行演算処理部53が左右の車輪の回転を操作して本体10を無人走行させる。ユーザーが入院患者であるような場合には、床面にテープが貼ってあれば、室外の待機場所から自分のベッドまで、無人走行車を自走させて呼び寄せることもできる。
【0034】
障害物センサー66は本体の前方及び側方の障害物を検知し、検知したときには統括管理部63の総合処理部69に検出信号を送る。障害物を検知した場合に直ちに非常停止させないのは、本発明の自走歩行器が便所で使用される場合があるからである。本発明の自走歩行器は本体10の中心にユーザーが立って使用するため、図13に示すように便座80の位置まで走行させることがある。このとき便座80を障害物と認識しないように、総合処理部69が判断する。このためには総合処理部69が自走歩行器の位置を把握している必要がある。自動走行中に障害物が検知された場合には、自走歩行器を直ちに非常停止させる。なお前記したように、本発明の自走歩行器は前面構造部12を床面より500mm以上の高さとして、便座80の上を通過させることが可能となっている。
【0035】
アシスト荷重切替スイッチ65は、ユーザーのユーザーの年齢、性別、体重、障害の程度などに応じて、前記した閾値を変更したり、アシスト力を設定するためのスイッチである。
【0036】
統括管理部63には、無線通信部71、状態表示LED72、モード切替部73が含まれている。無線通信部71は遠隔操作・表示部60との間で無線通信を行い、自走歩行器の現在位置を知らせたり、自走歩行器を床面のテープに沿って自走させたりすることができる。また転倒その他の異常事態を検出したときには、監視室などに非常信号を送信することができる。
【0037】
状態表示LED72は自走歩行器が手動状態にあるのか、自動走行状態にあるのか、異常状態にあるのかを表示する。モード切替部73は、手動状態と自動走行状態とを切り替える。
【0038】
以上に説明したように、本発明の自走歩行器は、床面に凹凸があったり、段差があったり、うねりがあるような場合にも左右の駆動輪14を確実に接地させ、安定した駆動力を得ることができるとともに、走行状態に応じてユーザーの歩行をアシストすることができる。また駆動輪が空転しないので、回転数から走行距離を正確に演算することができ、マップ上の現在位置を常に正確に把握することができる。このため転倒などの異常事態が発生したときには、監視室などから救助に直ちに駆けつけることが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 前側の補助輪(先行技術)
2 後側の補助輪
3 駆動輪
4 は圧縮スプリング
10 本体(実施形態)
11 側枠
12 前面構造部
13 アーム
14 駆動輪
15 補助輪
16 駆動モータ
17 中心軸
18 駆動輪接地機構
19 駆動輪支持部材
20 水平軸
21 下部ブラケット
22 減速機
23 ガスダンパー
24 軸
25 取付板
26 取付孔
27 板
28 軸
50 エンコーダ
51 アンプ
52 走行測定処理部
53 走行演算処理部
54 電源
55 ジャイロセンサー
60 遠隔操作・表示部
61 電源部
62 センサー部
63 統括管理部
64 照明
65 アシスト荷重切替スイッチ
66 障害物センサー
67 カメラ
71 無線通信部
72 状態表示LED
73 モード切替部
80 便座
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14