(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063791
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】電力系統の慣性把握装置および方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230428BHJP
H02J 3/24 20060101ALI20230428BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/24
H02J3/38 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173806
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】大原 伸也
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA01
5G066AA03
5G066AD01
5G066AD07
5G066AE03
5G066AE09
5G066HA11
5G066HA13
5G066HB01
5G066HB03
5G066HB06
5G066HB08
5G066HB09
5G066JA05
5G066JB03
(57)【要約】
【課題】模擬慣性力の周波数維持への貢献を正しく把握することで、回転型の発電機停止量を増加し、インバータ型の発電機の連系量を増加でき、また系統安定化を図るに有益な情報を供する。
【解決手段】電気出力がインバータを介して電力系統に接続されるとともに、電力系統の変動に応じて電気出力を調整する模擬慣性機能を備えたインバータ型電源を含む電力系統の慣性把握装置であって、電力系統における想定事故の事故条件を設定する事故条件設定部と、想定事故時のインバータ型電源の慣性の変化量を推定する慣性性能計算部と、電力系統に設定した部分系統エリア内の慣性を推定するエリア慣性推定部と、インバータ型電源の慣性の変化量、または部分系統エリア内の慣性量または電力制御変化量を保存する慣性量データベースを備えることを特徴とする電力系統の慣性把握装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気出力がインバータを介して電力系統に接続されるとともに、電力系統の変動に応じて電気出力を調整する模擬慣性機能を備えたインバータ型電源を含む電力系統の慣性把握装置であって、
前記電力系統における想定事故の事故条件を設定する事故条件設定部と、前記想定事故時の前記インバータ型電源の慣性の変化量を推定する慣性性能計算部と、電力系統に設定した部分系統エリア内の慣性を推定するエリア慣性推定部と、インバータ型電源の慣性の変化量、または前記部分系統エリア内の慣性量または電力制御変化量を保存する慣性量データベースを備えることを特徴とする電力系統の慣性把握装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力系統の慣性把握装置であって、
前記インバータ型電源の慣性の変化量、または前記部分系統エリア内の慣性量または電力制御変化量から、電力系統の周波数変動の評価指標を計算する周波数変動指標計算部を備えることを特徴とする電力系統の慣性把握装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力系統の慣性把握装置であって、
前記周波数変動の評価指標は、周波数変化率(RoCoF)または周波数最大偏差(Nadir)であることを特徴とする電力系統の慣性把握装置。
【請求項4】
電気出力がインバータを介して電力系統に接続されるとともに、電力系統の変動に応じて電気出力を調整する模擬慣性機能を備えたインバータ型電源を含む電力系統の慣性把握方法であって、
計算機を用いて実行される慣性把握方法は、前記電力系統における想定事故の事故条件を設定し、前記想定事故時の前記インバータ型電源の慣性の変化量を推定し、電力系統に設定した部分系統エリア内の慣性を推定し、インバータ型電源の慣性の変化量、または前記部分系統エリア内の慣性量または電力制御変化量を得ることを特徴とする電力系統の慣性把握方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器を介して系統に連携される発電や充放電設備を含む電力系統の慣性力を把握し、系統の周波数制御に有益な情報を供することができる電力系統の慣性把握装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の周波数は、発電と需要が時々刻々一致するように制御されることで保たれる。発電と需要のバランスが、例えば発電機や需要の停止によって保たれなくなる場合、周波数は変動し、その変動量が一定以上となると保護リレーによって発電や負荷が系統から切り離される保護が働き、大規模な停電に至る場合がある。そのために、発電と需要のバランスを保つため(需給バランスを保つため)に、発電出力の変更や需要の遮断など、急いで制御を行うことが必要となる。
【0003】
この際に、例えば回転型発電機が持つ慣性エネルギー(慣性力)が大きいほど、周波数の変化は遅くなり、需給バランスを保つための操作のための時間余裕が増え、遮断する負荷(需要)の量も少なくすることが可能となる。また系統に存在する慣性が大きいほど、需要と供給の差(需給アンバランス)に対する周波数変化の最大値も小さくなり、周波数維持が容易となる。
【0004】
ここで、需給アンバランスが発生した場合の、時間当たりの周波数変化の大きさを表す指標として、周波数変化率(RoCoF:Rate of Change of Frequency)が用いられる。また、周波数変化の最大値を表す指標として、周波数最大偏差(Nadir)が用いられる。
【0005】
近年は、災害や落雷による系統事故で発電機が脱落し、周波数維持が困難となって大規模停電に至る事故が発生している(例:北海道胆振地震、福島沖地震による停電など)。また近年、太陽光発電や風力発電などの、電力変換器(インバータ)によって系統に連系されるインバータ型の発電設備が増加し、そのため回転型発電機が停止する量も増えて、系統の慣性が減少する時間帯が増加している。
【0006】
系統の慣性が低下すると周波数が変化しやすくなるため、慣性が一定以上となるように系統は運用されるなどの対策がなされる場合もある。前述のように、通常、慣性は回転型の発電機で保たれるためにインバータ型の太陽光、風力発電は一定量以上連系できない制約が設けられる場合もある。
【0007】
これに対し、最近インバータ型の発電機(太陽光、風力)や蓄電設備の過渡的な動きに、回転型発電機と同様な慣性をもつ動きをさせる、模擬慣性制御機能が開発されている。インバータ型の負荷である充電設備などにもこの機能を持たせることも可能である。
【0008】
一方で、模擬慣性制御は、系統事故中や事故除去直後などの系統電圧が低下する場合に、平常時のような慣性模擬が困難となる課題がある。そのため、系統事故によってどの程度慣性が保たれるかを把握し、需給バランスをとるための周波数制御量決定に反映することが重要となる。
【0009】
系統事故時の電圧低下は、事故時に測定することで把握することも可能であるが、事故を仮定した過渡安定度シミュレーションによっても把握可能である。系統事故時の電圧や周波数の変化を事前に把握する場合には、このような系統事故を想定した過渡安定度シミュレーションによって過渡的な状態変化を把握することが有効である。
【0010】
前述のインバータ型の発電機は、系統事故時の応動が電力用変換器の制御方法に依存して決まることになる。例えば、非特許文献1には、事故時運転継続(FRT:Fault Ride Through)要件(以下「FRT要件」という。)の規定が示されている。この規定に従って、インバータ型電源が運転される場合、系統事故直後に運転が継続されるかどうかは系統状態によって決まることになる。
【0011】
また、系統事故後に電力動揺に伴って系統電圧が変動する場合があるが、その電圧低下時にはインバータ型電源は変換器の最大電流容量の制約から定格電力よりも小さい電力で出力が制限される場合がある。このような場合は、前述の模擬慣性制御が出力制約で困難となる場合が生じる。
【0012】
いずれのケースも、系統の慣性が減少することになり、需給アンバランスによる周波数変化が大きくなるとともに、系統の周波数維持に必要な対策(負荷遮断や発電機出力変更量)も多く必要となる。また、負荷遮断を行う場合についても、負荷遮断領域に含まれるインバータ型発電が底止することによる、模擬慣性の低下が発生することになり、その慣性低下を考慮した周波数維持制御が必要となる。
【0013】
例えば、非特許文献2には、系統の慣性定数を計測する手法が示されている。ここで,慣性Hは、(1)式のように定義されている。なお、ここで,Hは単位慣性定数(MW・s/MVA),df/dtは周波数変化率(Hz/s),fsは基本周波数(Hz)を表す。
[数1]
H=0.5×(△P×fn)/(df/dt) (1)
このように,周波数の変化に応じて出力を変化させる制御をインバータ型電源に組み込むことで,模擬慣性制御が可能となる。
【0014】
例えば、特許文献1には、周波数変化率と監視対象の電気所が属するローカル系統内の発電機の慣性定数を用いて、監視対象の電気所が属するローカル系統の需給アンバランス量を所定の演算により推定し、推定した需給アンバランス量に応じて負荷制限量あるいは電源制限量を決定する手法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】「日本電気技術規格委員会、JESC E0019 系統連系規定 JEAC 9701-2012[2013年 追補版(その1)]」、社団法人日本電気協会系統連系専門部会JEAC 9701-2012(2013)
【非特許文献2】「島嶼系統に於ける慣性定数のリアルタイム計測試験(その1~システム概要~)」、令和2年電気学会全国大会、No.6-090(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前述の特許文献1に記載の方法には、ローカル系統内の発電機の慣性定数を用いて電力系統の周波数安定化を図る手法は示されているが、インバータ型発電設備の模擬慣性の量の把握や慣性の変化に応じた周波数制御手法が示されていない。
【0018】
以上より、ローカル系統や、そのエリアに含まれるインバータ型電源の模擬する慣性力を把握できず、周波数制御の精度が低下する課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決する為に本発明は、「電気出力がインバータを介して電力系統に接続されるとともに、電力系統の変動に応じて電気出力を調整する模擬慣性機能を備えたインバータ型電源を含む電力系統の慣性把握装置であって、電力系統における想定事故の事故条件を設定する事故条件設定部と、想定事故時のインバータ型電源の慣性の変化量を推定する慣性性能計算部と、電力系統に設定した部分系統エリア内の慣性を推定するエリア慣性推定部と、インバータ型電源の慣性の変化量、または部分系統エリア内の慣性量または電力制御変化量を保存する慣性量データベースを備えることを特徴とする電力系統の慣性把握装置」としたものである。
【0020】
また本発明は、「電気出力がインバータを介して電力系統に接続されるとともに、電力系統の変動に応じて電気出力を調整する模擬慣性機能を備えたインバータ型電源を含む電力系統の慣性把握方法であって、計算機を用いて実行される慣性把握方法は、電力系統における想定事故の事故条件を設定し、想定事故時のインバータ型電源の慣性の変化量を推定し、電力系統に設定した部分系統エリア内の慣性を推定し、インバータ型電源の慣性の変化量、または部分系統エリア内の慣性量または電力制御変化量を得ることを特徴とする電力系統の慣性把握方法」としたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、模擬慣性力の周波数維持への貢献を正しく把握することで、回転型の発電機停止量を増加し、インバータ型の発電機の連系量を増加でき、また系統安定化を図るに有益な情報を供することができる。また、模擬慣性制御の周波数維持への貢献量を定量化でき、インセンティブ付与も可能となり、発電事業者には発電収入増となり、系統運用者には系統安定化効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例に係る電力系統の慣性把握装置10の処理機能構成例を示す図。
【
図2】電力系統の慣性把握装置の処理アルゴリズムの一例を示す図。
【
図3】本発明の実施例に係る電力系統の慣性把握装置10の構成例を示す図。
【
図4】インバータ型電源を含む電力系統の構成例を示す図。
【
図5】系統解析モデルにおけるインバータ型電源の模擬の一例を示す図。
【
図6】インバータ型電源(自然エネ発電)のFRT特性の一例を示す図。
【
図7】インバータ型電源(自然エネ発電)のFRT特性の一例を示す図。
【
図8】インバータ型電源(自然エネ発電)のFRT特性の一例を示す図。
【
図9】系統事故(三相地絡事故)が発生した場合の事故中の各ノード電圧の計算例を示す図。
【
図10】系統事故中および事故後のノード電圧変化の計算例を示す図。
【
図11】系統事故中および事故後の電源の出力変化の計算例示す図。
【
図12】系統の周波数変化率と周波数最大偏差の一例を示す図。
【
図13】系統の電圧低下と感度係数の関係例を示す図。
【
図14】インバータ型電源の停止と感度係数の関係例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。尚、下記はあくまでも実施の例に過ぎず、下記具体的内容に発明自体が限定されることを意図する趣旨ではない。
【実施例0024】
まず、インバータ型電源の模擬慣性が系統事故時に変化する事例の概要について、
図4を用いて説明する。
【0025】
図4は、インバータ型電源GI1、GI2、GI3、GI6、GI7、GI8を含む電力系統の一例を示した図である。この図が表す電力系統は、ノード(母線)Nおよびそれらを接続する送電線路L、ノードNに接続される回転機型の電源である発電機G、負荷Ld、変圧器Trなどで構成される。なお、ノード(母線)Nの上に四角で囲んだ数字は、便宜上設定したノード番号を示すものである。
【0026】
図4において、部分系統エリアA1および部分系統エリアA2は、インバータ型電源GIを含む部分系統を表すものであり、この範囲はあらかじめ系統運用者によって設定されるものとする。なおインバータ型電源GIの多くは配電系統に設置されていることから、部分系統エリアA1,A2は、配電系統単位として、例えば変電所ごとにその下位側の配電系統全体を含む領域として設定しておくのがよい。
【0027】
また、本発明においてインバータ型電源GIとは、電気出力を、インバータを介して電力系統に接続する設備の総称であり、太陽光発電、風力発電、および蓄電設備がこれに該当し、同期発電機などの回転機により発電を行うものを発電機Gとして区別している。
【0028】
このような系統で、落雷等の系統事故Fが発生した場合、発電機Gの加速(回転数上昇)や動揺(振動)が発生し、これに伴い周波数や電圧が変動する。また例えばこの発電機の加速が一定量以上であるか、動揺が発散する場合、発電機の運転を継続することができず、発電機が停止し、需給アンバランスが発生して周波数が変動する。需給アンバランスは、系統事故だけでなく、地震や発電機の事故に起因する発電停止によっても発生する。
【0029】
このような要因で発生する電力系統の事故中および事故後の電圧低下は、その大きさによってはインバータ型電源GIの運転一時停止や出力低下を招く場合がある。その場合、インバータ型電源GIの模擬慣性として期待される動きができなくなり、系統全体の周波数安定性が低下することになる。この場合、失われた模擬慣性に対応して、周波数維持に必要な制御量を増加することが必要になる。系統事故や発電機脱落による過渡安定度シミュレーションを行い、失われる模擬慣性量を推定することで、周波数維持に必要な制御量を補正することが可能となる。
【0030】
このように、電力系統の過渡安定度シミュレーションによる周波数変動の計算には、インバータ型電源GI1、GI2、GI3、GI6、GI7、GI8の事故時の動きが影響を与えることになる。シミュレーションにおいても、前述のように、系統事故時の動作特性(FRT特性、電圧低下時の出力上限など)を正確に模擬し、インバータ型電源の模擬慣性動作の性能を正しく把握することが重要となる。
【0031】
図3は、本発明の実施例に係る電力系統の慣性把握装置10の構成例を示す図である。電力系統の慣性把握装置10は計算機システムで構成されており、表示装置11、キーボードやマウス等の入力手段12、コンピュータCPU、通信手段14、ランダムアクセスメモリRAM15、および各種データベースDBがバス線30に接続されている。また計算機システムのデータベースDBとして、系統モデルデータベースDB1、インバータ型電源データベースDB2、慣性量データベースDB3、周波数制御データベースDB4、およびプログラムデータベースDB5を備える。
【0032】
ここでコンピュータCPUは、計算プログラムを実行して表示すべき画像データの指示や、各種データベース内のデータの検索等を行う。ランダムアクセスメモリRAM15は、シミュレーションに用いる系統モデルデータ、慣性制御特特性や設置点などのインバータ型電源データ、系統の各エリアで発生する慣性量や電力制御量などのデータ、周波数変化に対する発電機・負荷の制御量などの周波数制御データを一旦格納するメモリである。これらのデータに基づき、コンピュータCPUによって必要な画像データを生成して、表示装置11(例えば表示ディスプレイ画面)に表示する。
【0033】
電力系統の慣性把握装置10内には、大きく分けて5つのデータベースDBが搭載されている。このうち、系統モデルデータベースDB1には、線路L(抵抗、リアクタンス、対地静電容量)や発電機G(容量、過渡リアクタンスなど)などの電力系統を構成する設備に関するデータが記憶されている。このデータを用いることで、電力系統の潮流計算や感度係数計算や過渡安定性計算が可能となり、系統事故に伴う幹線発電機の電圧位相変化などを把握することができる。
【0034】
インバータ型電源データベースDB2には、例えばインバータ型電源GI1等の設置ノードN、制御構成と制御パラメータ、FRT特性(運転継続可否、有効電力出力パターン)のデータが記憶されている。これらの情報と、前述の電圧に関する計算結果情報から、インバータ型電源GI1等の系統事故中、系統事故後の動き(運転継続可否や出力制限量、慣性低下量など)が決定される。
【0035】
慣性量データベースDB3には、系統の部分エリアAの慣性の合計量や慣性を発生するために使われる電源の電力量などが記憶されている。また、系統の部分エリアAのインバータ型電源GIが、系統事故時などにどの程度周波数変化を発生させるかを表す感度指標(例えば、LoCoF、Nadirなど)が記憶される。
【0036】
周波数制御データベースDB4には、本アルゴリズムによって計算された、インバータ型電源の慣性の変化量に対して、系統の周波数変化が規定範囲内となるようにするための、発電・負荷制御量もしくは制御補正量を記憶する。
【0037】
プログラムデータベースDB5には、計算プログラムである潮流計算プログラムPR1、過渡安定性計算プログラムPR2、感度係数計算プログラムPR3を格納する。これらのプログラムは、必要に応じてコンピュータCPUに読み出され、計算が実行される。
【0038】
図1を用いて、本発明の実施例に係る電力系統の慣性把握装置10の処理機能構成について説明する。電力系統の慣性把握装置10は、事故条件設定部31、系統シミュレーション部32、慣性性能計算部33、エリア慣性推定部34、系統事故時の周波数変動指標計算部35、周波数安定化制御量計算部36の各機能と、前述の4つのデータベースである、系統モデルデータベースDB1、インバータ型電源データベースDB2、慣性量データベースDB3、周波数制御データベースDB4で構成される。
【0039】
事故条件設定部31は、
図4の電力系統において仮想の系統事故Fを定めるものであり、系統事故条件として、場所、様相や、脱落する発電機などを設定する部分である。ユーザからの入力によって設定されてもよいし、あらかじめ準備されたパターンから適宜系統事故Fを選定してもよい。
【0040】
系統シミュレーション部32は、系統モデルデータベースDB1とインバータ型電源データベースDB2の情報から系統解析モデルを作成し、それを入力として、計算プログラムである潮流計算PR1、過渡安定性計算PR2を実行する。計算結果から、各インバータ型電源GIの事故中や事故後の電圧低下量を把握し、その値を慣性性能計算部33に渡す。
【0041】
慣性性能計算部33は、各インバータ型電源GIの接続点の電圧低下量から、インバータ型電源GIの運転可否や、事故後の慣性性能の低下量や電力制御量の低下量を計算し、エリア慣性推定部34に渡す。
【0042】
エリア慣性推定部34は、電力系統の各エリアA内のインバータ型電源GIの慣性性能の低下量や電力制御変化量の低下量を集計し、エリアA内の慣性量・電力制御変化量、を集計し、慣性量データベースDB3に記憶するとともに、系統事故時の周波数変動指標計算部35に渡す。
【0043】
系統事故時の周波数変動指標計算部35は、設定された条件において、インバータ型電源GIの慣性性能の変化量を考慮した場合の、周波数変動の評価指標を計算し、周波数安定化制御量計算部36に渡す。
【0044】
周波数安定化制御量計算部36では、周波数変動の評価指標に基づいて、周波数や周波数変動指標が規定範囲に収まるために必要な、電源遮断量(電制量)や負荷遮断量(負制量)を計算し、その結果を周波数制御データベースDB4に記憶する。
【0045】
図2を用いて、電力系統の慣性把握装置の処理アルゴリズムの一例を示す処理フローを説明する。この処理フローは
図1の事故条件設定部31、系統シミュレーション部32、慣性性能計算部33、エリア慣性推定部34、系統事故時の周波数変動指標計算部35の処理に相当する。
【0046】
まず処理ステップS1において、系統事故条件を設定する。処理ステップS2で、系統モデルデータベースDB1とインバータ型電源データベースDB2の情報から系統解析モデルを作成し、それを入力として計算プログラムである潮流計算プログラムPR1、過渡安定性計算プログラムPR2を実行する。
【0047】
処理ステップS3で、各インバータ型電源GIの事故中や事故後の電圧低下量を把握する。処理ステップS4で、各インバータ型電源GIの電圧変化に対する出力変化特性を把握する(電圧の大きさ、位相変化に対する慣性動作特性など)。処理ステップS5で、各インバータ型電源GIの出力電力変化量および慣性の変化量を計算する。
【0048】
処理ステップS6で、初期設定として、系統エリアAj=1に設定し、以下各系統エリアに対して処理ステップS7からS11の処理を行う。処理ステップS7では、系統エリアAj内のインバータ型電源の電力変化量、慣性の変化量を計算する。処理ステップS8では、エリアAjのインバータ型電源の電力変化が、系統の周波数変化率LoCoF、周波数最大偏差Nadirに与える影響を表す指標の感度係数Lj、Njを計算する。
【0049】
処理ステップS9では、各系統エリアAjの計算が完了していなければS6に戻る分岐処理を行う。処理ステップS10では、これまでに計算された各エリアAj・各インバータ型電源GIの電力変化量、慣性の変化量、感度係数を慣性量データベースDB3に保存する。
【0050】
図5は、系統解析モデルにおけるインバータ型電源GIの模擬の一例を示す図である。インバータ型電源GIモデルは、電力系統のノードNに接続された電流源510の大きさと位相を制御するモデルとして構成される。また、ノード電圧計測値は電圧計測装置530を介して各制御モデルに取り込まれる。
【0051】
インバータ型電源GIの制御部分は、発電機・コンバータモデル540、コンバータ制御モデル550、太陽光PV/風車・電池モデル560で構成される。発電機・コンバータモデル540は、コンバータ制御モデル550から有効・無効電流指令値を受け、また電圧計測装置530から電圧計測値を受け、コンバータ制御モデル550に発電機有効・無効電力量を、太陽光PV/風車/電池モデル560に発電機有効電力量をそれぞれ渡す。
【0052】
コンバータ制御モデル550は、発電機・コンバータモデルから受けた発電機有効・無効電力と、太陽光PV/風車/電池モデル560から受けた電力指令と、電圧計測装置530から受けた電圧計測値から、有効・無効電流指令値を決定し、発電機・コンバータモデル540へ渡す。
【0053】
太陽光PV/風車/電池モデル560は、発電機・コンバータモデル540から受けた発電機有効電力をもとに、コンバータ制御モデル550に有効電力制御指令を与える。なお、このインバータ型電源GIモデルは、模擬慣性制御を実行する型式のものであり、例えば(1)式で算出される模擬慣性制御量が反映された形での電力指令がコンバータ制御モデル550に与えられるように太陽光PV/風車/電池モデル560が調整したものとされる。
【0054】
このようなインバータ型電源モデルを用意することで、系統の電圧やコンバータの応答を考慮した風力発電の出力変化、運転可否を模擬することが可能となる。後述のFRT特性と合わせて、系統事故時の運転継続可否を、より実際に近く模擬可能となる効果がある。なお、
図4の部分系統エリア内の全てのインバータ型電源GIについてインバータ型電源GIモデルを用いた解析が実行されている。
【0055】
図6、
図7、
図8は、インバータ型電源GIのFRT特性を説明する図である。
図6、
図7、
図8のインバータ型電源GIのFRT特性は、横軸に事故後の時間、縦軸に事故時の電圧低下量(残電圧)を示している。
【0056】
非特許文献1によれば、高圧系統の三相発電設備のFRT要件として、2017年3月末以降に連系するものについて、事故などでの電圧低下時に、以下の事項を満たすシステムが望まれている。これら事項の1つ目は、残電圧が20%以上で継続時間が0.3秒以下の電圧低下に対しては運転を継続し(
図6の(a)の領域)、電圧の復帰後0.1秒以内に電圧低下前の出力の80%以上の出力まで復帰することであり、
図7にこのときの出力パターン例を示している。
【0057】
2つ目は、残電圧が20%未満で継続時間が0.3秒以下の平衡した電圧低下に対しては運転継続またはゲートブロックにて対応し(
図6の(b)の領域)、この場合、電圧復帰後1.0秒以内(0.2秒以内が望ましい)に電圧低下前の出力80%以上の出力まで復帰することであり、
図8にこのときの出力パターン例を示している。
【0058】
このように、電圧低下が0.3秒以下となる場合や、電圧復帰後の出力復帰パターンは、系統の状態や発電機の状態によって異なってくる。そのため、電圧低下が大きいノードに接続されるインバータ型電源GIは、系統事故後に一旦停止し、あるいは出力を大きく低下することとなり、当初期待されていた慣性性能が発揮できず失われることとなる。
【0059】
従って例えば、事故Fに比較的近い部分系統エリアA2では、全てのインバータ型電源GI6-GI8が事項1、事項2の条件を満たさずに、解列してしまうと予測されたときには、インバータ型電源GI6-GI8の模擬慣性による電力系統安定度改善への貢献は期待できないことになり、逆に例えば事故Fから遠方の部分系統エリアA1では、全てのインバータ型電源GI1-GI3が事項1、事項2の条件を満たし運転継続すると予測されたときには、インバータ型電源GI1-GI3の模擬慣性による電力系統安定度改善への貢献は期待できることになる。これにより、系統事故によって変化する慣性性能やインバータ電源の停止する電力量を把握することが可能となる。
【0060】
次に、
図9、
図10、
図11を用いて、本発明の提案手法の有効性を模式例によって説明する。
図9は、
図4の系統において、系統事故F(三相地絡事故)が発生した場合の事故中における各ノードNの電圧を示したものである。この例によれば、
図9の右側に示したノード番号が81,91,910,92,920,93,930の電圧が大きく低下しているが
図9の左側に示したノード番号では電圧低下が少ない。。
【0061】
この結果から、部分系統エリアA1のノード電圧は、いずれも電圧20%よりも大きく、したがってインバータ型電源GI1~GI3も運転継続可能となることが推測される。そのため、部分系統エリアA1では慣性性能の低下は小さいと推測される。
【0062】
一方で、部分系統エリアA2のノード電圧は、インバータ型電源GI6、GI7、GI8が各々0.2、0.15、0.1である。これは、いずれのインバータ型電源GI6、GI7、GI8ともに一旦出力が停止することが想定され、事故直後に慣性が失われると判定される。インバータ型電源の出力についても事故前の発電量が失われると推定される。
【0063】
図10には例えばノードNが930の電圧の例を示す。時刻0.0~0.05秒の事故中は、電圧は0.1puまで低下し、事故後の時刻0.4秒付近では電圧は0.6pu付近まで低下している。
図11は発電機の出力の時間変化の例を示している。ここでノードNが930に接続されるインバータ型電源GI8は、仮に運転継続できたとすると、0.4秒付近で出力が0.6pu付近まで低下することになる。
【0064】
なお、火力発電機などの同期電源(Synchronous Generator)が仮にこのノードに接続されていたとすると、慣性と同期化力および過負荷耐量によって、電圧低下時にも定格出力もしくはそれ以上の発電電力量を系統に供給することも可能となる。このように、発電機に対して、インバータ型電源GIは事故時の電圧変化によって本来の電力出力や慣性が損なわれることがあり、周波数制御においてはその値を正しく把握することが重要となる。
【0065】
図12は発電機が脱落した場合の系統周波数変化を示している。時刻0秒で発電機が一定量停止した条件を仮定している。発電機停止直後に系統の周波数は急激に低下する。この低下の時間変化率は周波数変化率(RoCoF)の指標で定義される。また、周波数が最も低下した値を、定格周波数からの最大偏差として周波数最大偏差(Nadir)の指標で定義される。
【0066】
図12には系統の慣性が大きい場合のグラフ(a)と慣性が小さい場合のグラフ(b)を示している。慣性が小さいほうが、周波数変化率(RoCoF)の傾きは大きく、周波数最大偏差(Nadir)の値も大きい。
【0067】
系統事故時には、これらの指標が一定量以下となるように需給バランスを保つ必要があり、その制御に失敗すると系統の停電範囲が拡大し、あるいは状況によっては系統が全停電に至る場合も懸念される。したがって、インバータ型電源GIの失われる慣性や電力が、周波数変化率(RoCoF)や周波数最大偏差(Nadir)の指標に与える量(感度)を把握して、周波数制御量の決定に反映することが重要となる。
【0068】
なお,RoCoFは(2)式で,Nadirは(3)式で計算することができる。ここで,△fは基準周波数からの周波数偏差,△tは周波数低下の発生している時間、fnは基準周波数,fbは最大低下時の周波数を表す。
[数2]RoCoF=△f/△t (2)
[数3]Nadir=fn―fb (3)
図13、
図14に感度の計算例を示す。
図13は事故後の電圧低下量に対する、インバータ型電源の電力低下量や周波数変化率(RoCoF)や周波数最大偏差(Nadir)の指標を計算した事例を示している。
図14は事故中の電圧低下に応じたFRT動作によってインバータ型電源が停止した場合の、周波数変化率(RoCoF)や周波数最大偏差(Nadir)の指標を計算した事例を示している。これらの感度は、慣性量データベースDB3に記憶される。
【0069】
このように、系統事故時のインバータ型電源の失われる慣性や電力が、周波数変化率(RoCoF)や周波数最大偏差(Nadir)の指標に与える量(感度)を把握して、周波数制御に反映することで、停電のリスクを低減するとともに、周波数制御に必要な発電や負荷制御量の過不足を低減し、負荷制限による停電を低減する効果が得られる。また、インバータ型電源の慣性供給による効果も計算できることから、慣性制御効果の定量化とそれに応じたインセンティブ提供も可能となり、系統全体の慣性増加による周波数安定性向上が向上する効果がある。
【0070】
図15に本発明を活用したサービスの一例を示す。この例では,本発明の電力系統の慣性量推定装置10を用いて,慣性力アグリゲータ601が慣性制御の価値を用いたサービスを提供する構成を示している。慣性力アグリゲータ601は,模擬慣性制御を可能とするインバータ型電源運用者602から,慣性の制御量などのインバータ型電源の運転,制御情報を収集し,その制御効果に見合った制御インセンティブを対価として渡す。また,系統運用者603には,慣性制御や系統安定化制御を提供するとともにその運用情報を提供し,制御量にみあった対価として制御インセンティブを受け取る。また,慣性力アグリゲータ601は,慣性力取引市場604に対して,慣性力制御を応札し,対価を受け取る。このようにサービスの関係を構築することで,様々なインバータ型電源の慣性力を発揮することを可能とし,多種多様なのインバータ型電源から効率的に慣性力を発揮させることが可能となる。
自然エネ発電などの電力用変換器を含む分散電源が連系された電力系統の周波数安定性維持するための監視装置、周波数制御装置、シミュレーション解析装置として活用することができる。また、オンラインで用いられる想定事故に対する安定化対策決定装置(周波数維持装置)として活用することができる。また、自然エネ発電や蓄電設備の増設、火力発電機などの回転型の発電設備の停止などに対応した系統の設備増強などを検討する系統設備設計支援システムとして活用することができる。また、インバータ型電源に慣性制御を持たせることに対する系統安定化インセンティブの計算支援システムとして活用することができる。