(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063822
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】加工パス生成装置、加工パス生成方法及び加工物生産方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4093 20060101AFI20230428BHJP
B23Q 15/00 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
G05B19/4093 D
B23Q15/00 301M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173850
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩室 優春
(72)【発明者】
【氏名】山田 悠
(72)【発明者】
【氏名】神代 淑貴
(72)【発明者】
【氏名】宮内 元春
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB01
3C269BB03
3C269CC02
3C269EF39
3C269EF59
3C269EF70
3C269EF71
3C269MN09
3C269MN42
3C269QB02
3C269QC01
3C269QC03
3C269QD02
(57)【要約】
【課題】
加工対象である被削材から加工により生成される完成品や中間品等の寸法精度を向上させ、工作機械の故障を防止する。
【解決手段】
被削材を加工する加工パスを生成する加工パス生成装置であって、前記被削材の被削材情報と前記被削材を加工する工具の工具情報を受信する通信部と、前記通信部と接続された処理部とを有し、前記処理部は、前記通信部で受信した前記被削材情報と前記工具情報に基づき、前記被削材から除去される除去部の加工形状を生成し、生成された前記加工形状を複数の分割要素に分割し、前記複数の分割要素の剛性を推定し、推定した前記分割要素の剛性に基づいて、前記複数の加工パスの内の一つを選択する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削材を加工する加工パスを生成する加工パス生成装置であって、
前記被削材の被削材情報と前記被削材を加工する工具の工具情報を受信する通信部と、
前記通信部と接続された処理部とを有し、
前記処理部は、
前記通信部で受信した前記被削材情報と前記工具情報に基づき、前記被削材から除去される除去部の加工形状を生成し、
生成された前記加工形状を複数の分割要素に分割し、
前記複数の分割要素の剛性を推定し、
推定した前記分割要素の剛性に基づいて、前記複数の加工パスの内の一つを選択する
加工パス生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加工パス生成装置において、
前記処理部は、
前記分割要素の総表面積に対する、前記分割要素の各々と被削材や他の分割要素との接触面積の面積割合を元に、前記分割要素の剛性を推定する
加工パス生成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の加工パス生成装置において、
前記処理部は、
前記面積割合が大きい場合には、前記分割要素の剛性を高いと推定し、前記面積割合が小さい場合には、前記分割要素の剛性を低いものと推定する
加工パス生成装置。
【請求項4】
請求項3に記載の加工パス生成装置において、
前記処理部は、
前記面積割合に加えて、前記分割要素の接触面の法線方向の種類の数に応じて前記分割要素の剛性を推定する
加工パス生成装置。
【請求項5】
請求項4に記載の加工パス生成装置において、
前記処理部は、
前記分割要素の接触面の法線方向の種類の数が多い場合には、前記分割要素の剛性が高いと推定し、前記分割要素の接触面の法線方向の種類の数が少ない場合には、前記分割要素の剛性が低いと推定する
加工パス生成装置。
【請求項6】
請求項3に記載の加工パス生成装置において、
前記処理部は、
前記被削材情報と前記工具情報をもとに、前記複数の分割要素を加工する際の、加工効率、騒音レベル、エネルギー消費量のうち、少なくとも1つをもとに、加工順序を決定する
加工パス生成装置。
【請求項7】
請求項3に記載の加工パス生成装置において、
前記通信部が受信する前記被削材情報は、
加工前の前記被削材の形状、前記被削材の材質を含む情報であり、
前記通信部が受信する前記工具情報は、
被削材を加工する工具の切削工具の外径を含む情報である
加工パス生成装置。
【請求項8】
請求項3に記載の加工パス生成装置において、
前処理部は、
前記通信部で受信した前記被削材情報と前記工具情報に基づき、前記被削材を加工する工具を選択し、
前記被削材から除去される除去部の加工形状を前記選択された工具の1回の移動で除去しうる形状である分割要素に分割する
加工パス生成装置。
【請求項9】
請求項3に記載の加工パス生成装置において、
前記処理部は、
前記被削材の材質に応じた材料剛性パラメータに基づき、前記面積割合を重み付け算出し、算出結果に基づいて前記分割要素の剛性を推定する
加工パス生成装置。
【請求項10】
通信部と前記通信部に接続される処理部とを備える加工パス生成装置により、被削材を加工する加工パスを生成する加工パス生成方法であって、
前記通信部は、前記被削材の被削材情報と前記被削材を加工する工具の工具情報を受信し、
前記処理部は、
前記通信部で受信した前記被削材情報と前記工具情報に基づき、前記被削材から除去される除去部の加工形状を生成し、
生成された前記加工形状を複数の分割要素に分割し、
前記分割要素の総表面積に対する、前記分割要素の各々と被削材や他の分割要素との接触面積の面積割合を元に、前記分割要素の剛性を推定し、
推定した前記分割要素の剛性に基づいて、前記複数の加工パスの内の一つを選択する
加工パス生成方法。
【請求項11】
請求項10に記載の加工パス生成方法において、
前記処理部は、
前記面積割合が大きい場合には、前記分割要素の剛性を高いと推定し、前記面積割合が小さい場合には、前記分割要素の剛性を低いものと推定する
加工パス生成方法。
【請求項12】
請求項11に記載の加工パス生成方法において、
前記処理部は、
被削材の材質に応じた材料剛性パラメータに基づき、前記面積割合を重み付け算出し、算出結果に基づいて前記分割要素の剛性を推定する
加工パス生成方法。
【請求項13】
NC工作機械に接続され、通信部と前記通信部に接続される処理部とを備える加工パス生成装置により、被削材を加工する加工パスを生成し、前記NC工作機械が生成された加工パスで被削材を加工する加工物生産方法であって、
前記加工パス生成装置の前記通信部は、前記被削材の被削材情報と前記被削材を加工する工具の工具情報を受信し、
前記加工パス生成装置の前記処理部は、
前記通信部で受信した前記被削材情報と前記工具情報に基づき、前記被削材から除去される除去部の加工形状を生成し、
生成された前記加工形状を複数の分割要素に分割し、
前記分割要素の総表面積に対する、前記分割要素の各々と被削材や他の分割要素との接触面積の面積割合を元に、前記分割要素の剛性を推定し、
推定した前記分割要素の剛性に基づいて、前記複数の加工パスの内の一つを選択し、前記NC工作機械に出力し、
前記NC工作機械は、前記加工パス生成装置から出力された加工パスに応じて前記被削材を加工し、加工物を生成する
加工物生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工パス生成装置、加工パス生成方法及び加工物生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2018-32157公報(特許文献1)がある。この公報には、「本発明は、加工形状に応じた加工条件を設定することができ、加工形状に応じて、加工動作の道筋をコード化したツールパスを作成することができる数値制御プログラムの生成方法、要素作成方法、数値制御プログラムの生成システム及び数値制御プログラムの生成プログラムを提供することを目的とする。材料の加工の際に行われる機械加工の加工動作を制御するための数値制御プログラムの生成方法であって、コンピュータ支援設計プログラムで実行して、前記材料の設計モデルである材料設計モデルに基づいて前記材料の形状に関する要素を作成する要素作成ステップと、前記コンピュータ支援設計プログラムで作成した前記要素をコンピュータ支援製造プログラムで読み込む要素読み込みステップと、前記コンピュータ支援製造プログラムを実行して、読み込んだ前記要素ごとに前記加工動作の道筋をコード化したツールパスを作成するツールパス作成ステップと、前記コンピュータ支援製造プログラムを実行して、作成した前記ツールパスを繋ぎ合わせて数値制御プログラムを作成するツールパス接続ステップと、を含むことを特徴とする数値制御プログラムの生成方法。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、加工により除去される除去部の剛性が考慮されていない。即ち、除去部を構成する加工形状の剛性をもとに、加工パスの良否を評価して、複数の加工パス候補から加工パスを決定する機能は有していない。そのため、加工対象である被削材から加工により生産される完成品や中間品等の寸法精度が期待できない。本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、加工により生産される完成品や中間品等の寸法精度を向上させる技術を提供することを目的とする。
【0005】
また、複数の加工パス候補から、加工による除去部の剛性低下を回避し、不具合の発生を抑制した加工パスを生成することを目的とする。ここで、不具合とは、加工に起因する不具合であり、代表的なものは、被削材の変形や破損、工作機械の故障がある。
【0006】
さらに、複数の加工パス候補から、加工による除去部の剛性低下を回避し、不具合の発生を抑制した加工パスにより被削材を加工して完成品を生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は前記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、被削材を加工する加工パスを生成する加工パス生成装置であって、前記被削材の被削材情報と前記被削材を加工する工具の工具情報を受信する通信部と、前記通信部と接続された処理部とを有し、前記処理部は、前記通信部で受信した前記被削材情報と前記工具情報に基づき、前記被削材から除去される除去部の加工形状を生成し、生成された前記加工形状を複数の分割要素に分割し、前記複数の分割要素の剛性を推定し、推定した前記分割要素の剛性に基づいて、前記複数の加工パスの内の一つを選択する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加工対象である被削材から加工により生成される完成品や中間品等の寸法精度を向上することができる。
【0009】
また、被削材を加工する場合に、除去部の内、一回の加工により除去される部分や加工により除去された後に残る被削材残部分の剛性の低下を回避し、不具合の発生を抑制して加工することが可能となる。
【0010】
さらに、複数の加工パス候補から、加工による除去部の剛性低下を回避し、不具合の発生を抑制した加工パスにより被削材を加工して完成品を生産することができる。前記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】加工パス生成装置のハードウェアブロック図の一例を示す図である。
【
図2】使用工具選定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3B】被削材の加工形状の分割例の一例を示す図である。
【
図3C】被削材の加工形状の分割例の一例を示す図である。
【
図3D】被削材の加工形状の分割例の一例を示す図である。
【
図4A】被削材の加工形状の分割例の一例を示す図である。
【
図4B】被削材の加工順序別の接触面の一例を示す例である。
【
図4C】被削材の加工順序別の接触面の一例を示す例である。
【
図4D】被削材の加工順序別の接触面の一例を示す例である。
【
図5】加工パス生成処理の一例を説明するフローチャートである。
【
図6A】複合材料の加工前の形状の一例を示す図である。
【
図6B】複合材料の加工後の形状の一例を示す図である。
【
図7A】複合材料の分割方法の一例を示す図である。
【
図7B】複合材料の分割方法の一例を示す図である。
【
図8A】複合材料の加工前の形状の一例を示す図である。
【
図8B】複合材料の加工後の形状の一例を示す図である。
【
図9A】複合材料の分割方法の一例を示す図である。
【
図9B】複合材料の分割方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の複数の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、各実施形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0013】
尚、以下の説明では、「プログラム」や機能ブロックを主語として処理を説明する場合があるが、プログラムは、CPUによって実行されることで、定められた処理を行うため、処理の主語が、プログラムや機能ブロックに代えて、CPUとされてもよい。
【実施例0014】
<加工パス生成装置10の構成>
図1は、本発明の実施例1に係る加工パス生成装置10のハードウェアブロック図を示している。本発明の加工パス生成装置10は、個々の加工で除去される除去部の剛性を評価することで、切削加工後の完成品または中間品の不具合を防止する。ここで、不具合とは、加工に起因する不具合であり、代表的なものは、被削材の変形や破損、工作機械の故障がある。
【0015】
以下、機械加工される対象を被削材、加工により除去される部分を除去部、加工により得られる形状を有するものを完成品、あるいは加工物と称する。但し、以下の本明細書では、完成品は、機械加工によって得られる形状を有する物品であって、必ずしも最終形態の製品形態のことではない。
【0016】
除去部の内、一回の加工により除去される部分や加工により除去された後に残った除去部の剛性低下を最小限に抑えることで、不具合の発生を抑制し、より安定的に加工できる切削加工パスを生成する。そして、加工パス生成装置10は、生成した切削加工パスをNC(Numerical Control)工作機械を制御するための数値制御プログラムに変換し、NC工作機械に出力するものである。NC工作機械において、切削加工パスを数値制御プログラムに変更する機能を有する場合には、切削加工パスを加工パス生成装置10からNC工作機械に出力すればよい。
【0017】
また、切削加工パスとは、切削工具による被削材の除去経路と工具条件を含む。工具条件は、切削工具の種類、切削工具の回転速度、切削工具の送り速度等を含む情報である。以下、切削加工パスを加工パスと称することがある。
【0018】
加工パス生成装置10は、パーソナルコンピュータ等の一般的なコンピュータと同様の構成を有し、処理部11を構成するCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、記憶部12を構成するDRAM(Dynamic Random Access Memory)等のメモリやHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等のストレージ、入力部13を構成するキーボード、マウス、タッチパネル、出力部14を構成するディスプレイ等の出力デバイス、及び、通信部15を構成するNIC(Network Interface Card)等の通信モジュールを備える。処理部11、記憶部12、入力部13、出力部14、通信部15は、バス等の接続装置(図示せず)により、互いに接続されている。
【0019】
処理部11は、情報取得処理部111、加工パス生成部112、加工パス評価部113、加工条件調整部114、及び変換部115の機能ブロックを構成する。これらの機能ブロックは、コンピュータのプロセッサがメモリにロードされた所定のプログラムを実行することによって実現される。情報取得処理部111、加工パス生成部112、加工パス評価部113、加工条件調整部114は、一つの加工パス生成プログラムとして提供されていても良い。また、加工パス生成プログラムには、変換部115の機能を実現するプログラムが含まれても良い。これらの機能ブロックの一部または全部を集積回路等によりハードウェアとして実現してもよい。
【0020】
通信部15は、CAD(Computer Aided Design)等の外部から被削材情報121と、NC工作機械等の外部から工具情報122を受信し、情報取得処理部111に送信する。
【0021】
情報取得処理部111は、通信部15を介して被削材情報121を取得して記憶部12に格納する。被削材情報121は、被削材の情報として、例えば、CADモデルのような材料情報を持つ情報媒体から供給される、加工前の被削材の形状、被削材の材質の他、被削材における切削箇所の形状、切削加工後完成品の形状、被削材の固定方法、被削材の固定箇所等の一部や全部を含む情報である。
【0022】
また、情報取得処理部111は、被削材を加工するNC工作機械またはNC工作機械に紐づいた工具管理用プログラムファイルから、工具情報122を取得して記憶部12に格納する。工具情報122は、被削材を加工する工具の工具情報として、例えば、切削工具の外径、突き出し長、使用可能な材質、工具の刃の枚数、工具のねじれ角、工具に割り当てられた加工方法や加工条件等の一部、或いは全部が含まれる。
【0023】
加工パス生成部112は、情報取得処理部111で取得した被削材情報121及び工具情報122に基づき、使用工具を選定する。また、加工パス生成部112は、加工パスの候補となる加工パス1を生成し、加工パス情報123として記憶部12に格納する。加工パス1には、切削工具による被削材の除去経路の他、加工条件を示す切削工具の種類、切削工具の回転速度、切削工具の送り速度等の情報を含む。加工パス1は、NC工作機械に送信される前の複数の加工パスを含む場合があるため、仮加工パスとして扱われる。
【0024】
使用工具の選定方法については後述する。なお、生成する加工パス1の数が現実的な値となるように、切削工具の進行方向の角度や、工具と被削材との当接の仕方の種類は離散的かつ有限な値にすることが望ましい。加工パス生成方法の詳細については後述する。
【0025】
加工パス評価部113は、被削材情報121と加工パス情報123から、除去部の剛性を推定する。除去部の剛性は、除去部の内、一回の加工する部分や加工後に残る加工対象部分の剛性を含む。加工パス評価部113は、加工効率や騒音レベル、エネルギー消費量などから加工パス1の優先順位を設定し、優先順位に従って加工された場合の除去部の剛性を推定し、評価する。剛性の推定方法については後述する。さらに、加工パス評価部113は、加工パス1に含まれる複数の加工パスの各々について、除去部の剛性を比較し、比較結果に基づいて加工パス1から一つを採用する。
【0026】
加工条件調整部114は、加工パスが採用可能であるか否かを判定する加工パス評価部113の評価により、工具情報122の加工条件で加工することができないと判断された場合、加工パス1の加工条件を調整して加工パス2を生成し、加工パス情報123として、記憶部12に格納する。
【0027】
変換部115は、加工パス評価部113により採用された加工パス1の一つ、または、加工条件調整部114で加工条件を調整された加工パス2を、NCプログラムに変換する。尚、NC工作機械が変換部115の機能を有する場合、加工パス生成装置10は変換部がなくても良い。この場合、加工パス評価部113により採用された加工パス1あるいは加工条件調整部114で加工条件を調整された加工パス2の情報がNC工作機械へ出力される。
【0028】
記憶部12は、上述した被削材情報121、工具情報122、及び加工パス情報123を格納する。なお、記憶部12には、上述した情報以外の情報を格納してもよい。
【0029】
入力部13は、ユーザからの各種の操作を受け付ける。出力部14は、例えば、生成された加工パスを表す画面(不図示)等を表示する。通信部15は、インターネットや携帯電話通信網等の所定のネットワークを介し、CADモデルを出力するコンピュータやNC工作機械等と接続して各種のデータを通信する。
【0030】
<工具選定>
次に、加工パス生成部112による工具選定方法について説明する。
【0031】
図2に、加工パス生成装置10の加工パス生成部112による使用工具選定のフローチャートを示す。
【0032】
加工パス生成部112は、情報取得処理部111で取得した、被削材情報121と工具情報122を入力情報として、使用可能な工具の条件を決定する(S1)。この時、予め、工具情報122に含まれる工具には、使用優先順位を設定しておく。これは作業者の経験や学習結果、使用頻度をもとにつける。初めに、工具情報122を参照し、各工具の使用条件を工具ごとに設定する。例えば、工具径10mmのドリルは、工具を被削材表面に対して垂直に当てて、穴径10mmの真円穴を加工する場合に採用、などとする。ステップ(S1)では、被削材情報121を用いて、選定された使用工具(仮選定工具)の条件を決定する。仮選定工具とは、被削材を加工し、幾何学的に完成形状を創成しうるものである。具体的には、仮選定工具の刃長と必要切り込み深さの関係、仮選定工具の形状と加工形状の丸みの関係などを参照する。
【0033】
次に、加工パス生成部112は、ステップ(S2)により、ステップ(S1)で決定された使用可能な工具の条件に対し、工具情報122の使用条件を参照し、使用可能な工具を仮選定する。
【0034】
ステップ(S2)では、複数の工具を仮選定されてもよいし、一意に定まっていてもよい。ただ、仮選定された工具がない場合、使用可能な工具条件を出力するものとする。
【0035】
最後に、加工パス生成部112は、ステップ(S3)により、仮選定工具の中から、優先順位の高いものを使用工具として採用し、採用工具の工具情報122を取得する。
【0036】
上述したように、工具は加工パス生成装置10で選択することの他、作業者により任意に選択されてもよいものとする。
【0037】
<加工パス生成>
次に、加工パス生成部112による加工パス生成方法について説明する。加工パス生成部112は、被削材情報121、工具情報122を用いて、加工パスを生成する。初めに、被削材情報121より、加工により除去する部分の形状を抽出する。以下、加工により除去する除去部の形状を加工形状と称する。
【0038】
次に、工具情報122より、分割要素の形状を設定する。分割要素の形状とは、工具が1回の移動で除去しうる形状である。1回の移動とは、移動開始から工具の移動方向が角度を持って変化するまでを指す。円弧切削のように曲線上に移動する場合、移動開始から、曲線の終点までとする。
【0039】
加工により除去する除去部の形状(加工形状)と分割要素の形状を用いて、加工形状を分割する。この際、分割方法が現実的な数になるように、分割数や分割方向を制限するとよい。
【0040】
図3Aでは、被削材、除去部、完成品を、それぞれ被削材B1、除去部の形状(加工形状)B2、完成品B3で示している。例えば、
図3Aに示すような、被削材B1から加工形状B2を加工除去する場合、
図3B-Dに示すように、工具移動方向D1をY軸、X軸、Z軸の各軸に直行するように加工形状を分割する。ここで、分割要素B4は1度の工具移動によって除去される領域を示している。
【0041】
次に、それぞれの分割要素に対し、加工される順序を割り当てて、加工パス1の切削工具による被削材の除去経路とする。その際、それぞれの分割要素をつなぐ順序は、加工効率や騒音、エネルギー負荷などを考慮して決定するべきであるが、経験や学習結果に基づき、任意に選定してもよい。このようにして、加工形状に対して、分割方法と加工順序を割り当て、加工パス1として生成する。
【0042】
<加工パス評価>
次に、加工パス評価部113による剛性の推定方法について説明する。加工パス評価部113は、加工パス1に定められる分割要素の加工順で、加工される分割要素と被削材との接触状態に基づいて、分割要素の剛性を推定する。分割要素の剛性の推定は、除去部の内、一回の加工により除去される部分(特定の分割要素)の剛性、加工により除去された後に残った除去部(他の分割要素)の剛性を推定することである。
【0043】
図4A-Dは各分割要素の接触状態を用いて剛性を推定する方法を説明する図である。
図4A-Dは、被削材B1に対して、加工形状B2を加工するため、加工パス生成部112で生成した加工パス1のうち、分割要素をY方向に分割した場合を例として示している。
【0044】
初めに、
図4Aに示すように、分割要素はY方向に分割された3つである。
図4Aで示した分割要素を削除する加工する順番は、
図4B、
図4C、
図4Dに示すように3通りである。
【0045】
図4Bでは、分割要素A41、分割要素A42、分割要素A43の順に加工され、
図4Cでは分割要素B41、分割要素B42、分割要素B43の順に加工され、
図4Dでは分割要素C41、分割要素C42、分割要素C43の順に加工されていることを示している。ただ、同図の例では、加工形状が対称形であるため、送り方向の違いを考慮していないが、非対称形の場合、考慮され、別の加工順序とされるべきである。
【0046】
次に、分割要素の接触状態について説明する。
【0047】
図4Bは、加工パス1のうち、X方向に最も負の位置の分割要素から順に加工する加工パス、即ち、分割要素A41、分割要素A42、分割要素A43の順に加工される。それぞれの分割要素のうち、周囲の材料と接触している面(接触面)を色塗りにて示す。周囲の材料とは、完成品B3の他、分割要素A41に対する分割要素A42のように、加工パス1に含まれる他の分割要素である。
【0048】
初めに除去される分割要素A41はXZ平面の2面とXY平面(Z方向正の面)の1面が接触せず、その他の面は接触面である。つまり、分割要素A41は、完成品B3とYZ平面で接触する接触面C1、完成品B3とXY平面で接触する接触面C2、分割要素A42とYZ平面で接触する接触面C3の3つの接触面を有する。同様に、2番目に除去される分割要素A42は分割要素A41が除去された後に除去される要素ため、分割要素A41との接触面は非接触面となるため、接触面の数は、完成品B3とXY平面で接触する接触面と、分割要素A43とYZ平面で接触する接触面の2面となる。3番目に除去される分割要素A43の接触面の数は、完成品B3とXY平面で接触する接触面と、完成品B3とYZ平面で接触する接触面の2面となる。
【0049】
図4Cは、初めに除去される分割要素B41と2番目に除去されるB42の加工パスが
図4Bの分割要素A41と同様の状態である。一方で、3番目に除去される分割要素B43は分割要素B41と分割要素B42の要素が除去されるため、接触面が1面のみとなる。このように、加工パス生成部112で分割した分割要素に対して、加工順序を仮設定することで、被削材の接触状態を検討する。ここで、接触状態は、分割要素の総表面積に対する、分割要素の各々と完成品や他の分割要素との接触面積の割合で把握される。この接触状態をもとに各分割要素の剛性を評価する。分割要素の総表面積に対する接触面積の割合が大きいほど良好なスコアつけ、小さいほど、不良のスコアを付ける。例えば、
図4Cについて、分割要素B41と分割要素B42は良好なスコアとし、分割要素B43の要素は不良なスコアと判定する。
【0050】
接触状態により、上述の通りスコア付けする理由は、分割要素を切削加工する際、分割要素の総表面積に対する接触面積の割合が大きいほど、加工に起因する不具合(被削材の変形や破損、工作機械の故障)が発生しにくいためである。これは、
図4Bで示したように、分割要素A41、A42を除去した後、残る分割要素A43の接触面は二面のみとなり、分割要素A41より分割要素A43の剛性が小さくなる。そのため、完成品B3において、分割要素A41と接触する面より、分割要素A43と接触する面の加工精度が劣化する。実施例1では、各分割要素の剛性、特に、分割要素A41、A42を加工した後、分割要素A43の剛性を、分割要素の総表面積に対する接触面積の割合をもとに評価する。
【0051】
接触状態として、接触面積の割合に加えて、接触面同士の位置関係を考慮することができる。接触面同士の位置関係は、接触面の法線方向の種類が多ければ多いほど、良好なスコアとし、小さいほど不良のスコアとする。例えば、
図4Cの場合、分割要素B41と分割要素B42が3方向であるので高評価とし、分割要素B43は1方向であるので低評価とする。接触面の法線方向の種類が多いほど、切削加工の力が各方向に均等に分散し、被削材の変形や破損、工具の破損を含む工作機械の故障を防止できるためである。
図4Cの分割要素B41、B42を加工した後の残存部分の分割要素B43の剛性は、低く評価される。
【0052】
以上の通り、それぞれの加工順序に対して、除去部の剛性について、分割要素の接触状態に基づいて評価を行い、すべての分割要素の剛性が閾値を上回り、かつ最良のスコアを持つ加工順序を採用する。
【0053】
<加工パス生成>
次に、
図5は、第1の実施形態に係る加工パス生成装置10の加工パス生成処理の一例を説明するフローチャートである。
【0054】
ユーザからの所定の操作に応じて開始される。初めに、情報取得処理部111が、例えば、CAD(Computer Aided Design)モデルのような材料情報を持つ情報媒体から、被削材情報121を取得して記憶部12に格納する。また、情報取得処理部111がNC工作機械またはNC工作機械に紐づいた工具管理用プログラムファイルから、工具情報122を取得して記憶部12に格納する(S11)。
【0055】
次に、加工パス生成部112は、被削材情報121、工具情報122を用いて、使用工具を選定し、加工条件を決定する(S12)。尚、このステップの詳細は、
図2を用いて説明している。
【0056】
次に、被削材情報121と工具情報122に基づき、被削材B1から除去される除去部の加工形状を生成し、さらに、除去部の加工形状を分割要素に分割する。そして、分割した分割要素に対して加工順序を組み合わせることにより、複数の加工パスを生成する(S13)。
【0057】
生成された複数の加工パスの評価を行うため、複数のパスの内、総加工時間が短い加工パスを選択する(S14)。総加工時間が短いという評価基準に代えて、被削材情報121と工具情報122をもとに、分割要素を加工する順を、加工効率、騒音レベル、エネルギー消費量のうち、少なくとも1つをもとに、決定して加工パスを選択しても良い。
【0058】
次に、加工パス評価部113が、加工パス生成部112により生成された加工パスを、総加工時間の短い順に着目し、それぞれの加工により除去される分割要素の剛性を評価する(S15)。除去される分割要素の剛性は、
図4で説明したように、各分割要素の接触状態により推定される。
【0059】
続けて、着目中の加工パスが採用可能であるか否かを判定する(S16)。ここで、着目中の加工パスが採用不可と判定された場合、加工パス評価部113が、未着目の加工パスが残っているか否かを判定する(S17)。ここで、未着目の加工パスが残っていると判定された場合、処理はステップ(S14)に戻されて、ステップ(S4)以降が繰り返される。
【0060】
ステップ(S17)で、未着目の加工パスが残っていないと判定された場合、加工パス評価部113は、最も評価の高い加工パスを選択する(S18)。ステップS18において、加工条件調整部114が、採用不可と判定された加工パスのうちの評価が最も高い加工パスを対象として加工時の条件を調整しても良い。なお、加工時の条件は、ユーザが調整するようにしてもよい。
【0061】
次に、加工パス評価部113がステップ(S18)で最も高いスコアと評価した加工パス、或いは、ステップ(S18)で変換部115により加工条件が調整された加工パスを、変換部115がNCプログラムに変換する(S19)。尚、NC工作機械が変換部の機能を有する場合、加工パス作成装置10では、ステップS19を省略し、ステップS18の加工パスの情報をNC工作機械に出力すればよい。
【0062】
なお、変換されたNCプログラムは、通信部15によりNC工作機械に送信される。NC工作機械は、加工パス生成装置10から送信された加工パスに応じて被削材を加工し、加工物を生成する。また、加工パスをNCプログラム以外の出力先の機械に適したプログラムに変換するようにしてもよい。
【0063】
実施例1によれば、加工対象である被削材から加工により生成される完成品や中間品等の寸法精度を向上することができる。また、被削材を分割要素に分けて加工する場合に、加工による除去部の内、一回の加工後に残る加工対象部分の剛性低下を回避し、不具合の発生を抑制することが可能となる。
実施例2の加工パス生成装置10は、実施例1の加工パス生成装置10の加工パス評価部113に材料物性としての材料剛性パラメータを考慮する機能を追加したものである。
実施例2によれば、複合材の加工により生成される完成品や中間品等の寸法精度を向上することができる。また、複合材を分割要素に分けて加工する場合に、不具合の発生を抑制することが可能となる。