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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063852
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】検査装置および情報処理システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20230428BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173900
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 九輝
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043EA01
2G043GA25
2G043GB21
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA07
2G043KA03
2G043LA01
2G043NA01
(57)【要約】
【課題】蛍光を発する測定対象物が芳香族アミノ酸由来の蛍光と重畳するスペクトルを有する蛍光を担持している場合であっても、蛍光および偏光によって被検出物を検出可能な技術を提供する。
【解決手段】検査装置(1)は、紫外光で測定対象物(100)を照射するための第一の光学系と、測定対象物(100)からの200~400nmの特定の偏光および蛍光の少なくともいずれかを検出器(20)で検出するための第二の光学系と、検出器(20)で検出した光の検出値に応じて、被照射部(101)における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する演算部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光で測定対象物を照射するための第一の光学系と、
前記紫外光で照射された前記測定対象物の被照射部から発する200nm以上400nm以下の波長の円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光からなる群から選ばれる一種以上の光を検出器で検出するための第二の光学系と、
前記検出器で検出された光の検出値に応じて、前記被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する演算部と、
を備える検査装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記検出器で検出された円偏光の蛍光および円偏光の反射光の検出値に応じて、200nm以上320nm以下の波長のタンパク質の二次構造由来の円偏光の吸収、240nm以上320nm以下の波長のアミノ酸の側鎖由来の円偏光の吸収、および、これらの円偏光における左右円偏光の発光強度の差、からなる群から選ばれる一以上の特性を算出して、前記被照射部における前記芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
超音波または電磁波によって前記測定対象物までの距離を測定するための測距装置をさらに有し、
前記演算部は、前記測距装置による距離の測定値に応じて前記検出器で検出された光の検出値を補正する、
請求項1または2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記測定対象物の表面に可視光を照射して距離確認用の構造化照明を形成するための照明装置をさらに有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項5】
前記第一の光学系は、点照射、線照射または面照射で前記測定対象物の表面を前記紫外光で照射する、請求項1~4のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記第一の光学系は、前記測定対象物の表面を前記紫外光で走査して照射する、請求項5に記載の検査装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記検出器で検出された光の検出値に応じて前記検出器で検出された光の時系列データを取得し、前記時系列データに応じて前記検出器で検出された光の空間分布の情報を取得する、請求項6に記載の検査装置。
【請求項8】
前記第一の光学系は、紫外光の構造化照明によって紫外光で前記測定対象物を照射し、
前記演算部は、前記検出器で検出された光の検出値に応じて前記検出器で検出された光の時系列データを取得し、前記紫外光の構造化照明のパターンと前記時系列データとを数学的に処理することで画像を再構成するシングルピクセルイメージングの形態をとることによって前記検出器で検出された光の空間分布の情報を取得する、
請求項1~7のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項9】
前記第一の光学系は、強度が変調された紫外光で前記測定対象物を照射し、
前記演算部は、前記検出器で検出された光の検出値を同期検波によって復調する、
請求項1~8のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項10】
前記第一の光学系は、紫外光を拡散させる光拡散層をさらに備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項11】
前記光拡散層は蛍光発生剤をさらに含む、請求項10に記載の検査装置。
【請求項12】
前記演算部が取得した前記被照射部における前記芳香族アミノ酸およびその残基の情報をユーザに通知するための通知装置をさらに有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項13】
紫外光で測定対象物を照射するための照射制御部と、
紫外光で照射された前記測定対象物の被照射部から発する200nm以上400nm以下の波長の円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光からなる群から選ばれる一種以上の光を検出器で検出するための検出制御部と、
前記検出器で検出された光の検出値に応じて、前記被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する演算部と、
前記演算部が取得した前記被照射部における前記芳香族アミノ酸およびその残基の情報をユーザに通知するための通知制御部と、
を備える情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置および情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
公衆衛生または畜産業において、食中毒あるいは感染症の原因となる危険因子の早期発見が求められる。特に、掃除(洗浄、清掃)後になお残留しているタンパク質などの有機物は、微生物の繁殖の温床となりやすい。
【0003】
物体表面の有機物の有無を光学的に検出する技術には、紫外光などの励起光で測定対象物である金属製の物体の表面を照射し、物体表面での可視光の蛍光を検出して物体表面の油脂の有無を検出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、蛍光の検出により有機物を検出する技術には、生体組織に関連付けられた複数種の蛍光マーカに励起光を照射して、いずれの蛍光マーカが蛍光を発生するかによって、生体組織の状態を判定する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、蛍光の検出により有機物を検出する技術には、トリプトファンおよびチロシンを励起させる励起光で流体中の生体由来の粒子を照射し、発生する蛍光を含む被検出光のうちの、特定の波長以上の光を検出することで当該粒子由来の蛍光を検出して、当該粒子の試料中の濃度を測定する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
さらに、アミノ酸およびその二次構造体であるタンパク質は紫外領域に特異な円偏光吸収および円偏光発光を示すことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-205203号公報
【特許文献2】特開2017-189626号公報
【特許文献3】特開2021-032867号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Le. Pan、「Detection and characterization of biological and other organic-carbon aerosol particles in atmosphere using fluorescence」,Journal of Quantitative Spectroscopy & Radiative Transfer、p.12-35、2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術では、タンパク質などの被検出物を担持している測定対象物が被検出物と同様の条件で蛍光を発する場合に、被検出物が発する蛍光と、それを担持する測定対象物が発する蛍光とを区別することが困難となることがある。
【0010】
本発明の一態様は、蛍光を発する測定対象物が芳香族アミノ酸由来の蛍光と重畳するスペクトルを有する蛍光を担持している場合であっても、蛍光および偏光によって被検出物を検出可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る検査装置は、紫外光で測定対象物を照射するための第一の光学系と、前記紫外光で照射された前記測定対象物の被照射部から発する200nm以上400nm以下の波長の円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光からなる群から選ばれる一種以上の光を検出器で検出するための第二の光学系と、前記検出器で検出された光の検出値に応じて、前記被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する演算部と、を備える。
【0012】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理システムは、紫外光で測定対象物を照射するための照射制御部と、紫外光で照射された前記測定対象物の被照射部から発する200nm以上400nm以下の波長の円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光からなる群から選ばれる一種以上の光を検出器で検出するための検出制御部と、前記検出器で検出された光の検出値に応じて、前記被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する演算部と、前記演算部が取得した前記被照射部における前記芳香族アミノ酸およびその残基の情報をユーザに通知するための通知制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、蛍光を発する測定対象物が芳香族アミノ酸由来の被検出物を担持している場合であっても、蛍光および偏光によって被検出物を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る検査装置の機能的構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態における第一の光学系の第一の例を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施形態における第一の光学系の第二の例を模式的に示す図である。
図4】本発明の実施形態における第一の光学系の第三の例を模式的に示す図である。
図5】本発明の実施形態の第一の光学系における紫外光の強度均一化形態の第一の例を模式的に示す図である。
図6】本発明の実施形態の第一の光学系における紫外光の強度均一化形態の第二の例を模式的に示す図である。
図7】本発明の実施形態の第一の光学系における測定対象物の照射形態の第一の例を模式的に示す図である。
図8】本発明の実施形態の第一の光学系における測定対象物の照射形態の第二の例を模式的に示す図である。
図9】本発明の実施形態の第一の光学系における測定対象物の照射形態の第三の例を模式的に示す図である。
図10】本発明の実施形態の第二の光学系における被検出光の受光形態の第一の例を模式的に示す図である。
図11】本発明の実施形態の第二の光学系における被検出光の受光形態の第二の例を模式的に示す図である。
図12】本発明の実施形態の第二の光学系における被検出光の受光形態の第三の例を模式的に示す図である。
図13】本発明の実施形態の第二の光学系における被検出光の受光形態の第四の例を模式的に示す図である。
図14】本発明の実施形態における被検出光の波長を変換する形態の第一の例を模式的に示す図である。
図15】本発明の実施形態における被検出光の波長を変換する形態の第二の例を模式的に示す図である。
図16】本発明の実施形態における可視光による距離確認用の構造化照明の第一の例を模式的に示す図である。
図17】本発明の実施形態における可視光による距離確認用の構造化照明の第二の例を模式的に示す図である。
図18】本発明の一実施形態に係る情報処理システムの機能的構成の一例を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
生体組織を扱う現場では、洗浄後に残留するタンパク質などの生体組織の残留物が、食中毒あるいは感染症などの微生物による悪影響を生じることがある。生物および生体組織を扱う現場では、通常、衛生面で清浄であることが要求され、当該残留物の有無を検査する技術が求められている。
【0016】
残留物の例には、水、脂質およびタンパク質が含まれ、タンパク質は、全ての生物が有するアミノ酸を含んでいる。そのため、測定対象物におけるアミノ酸の有無を把握することは、生物の存在および繁殖リスクの評価の一つの指標と成り得る。アミノ酸のうち、芳香族アミノ酸、すなわちトリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニン、は、紫外光励起時に紫外蛍光を発することが知られており、定量的な測定が可能である。そのため、当該紫外蛍光の蛍光強度を定量的に測定することで、非接触かつ即時の測定が実現可能となる。さらには、上記芳香族アミノ酸は、紫外域において特徴的な円偏光吸収および円偏光発光を示すことが知られている。芳香族アミノ酸の円偏光の吸収および発光特性を測定するによっても、芳香族アミノ酸の選択的な検出が可能となる。以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0017】
〔検査装置〕
[全体構成]
本発明の一実施形態に係る検査装置は、例えばハンドヘルド型、移動体搭載型または非据え置き型の形態、すなわち持ち運びが可能な形態、である。図1は、本発明の一実施形態に係る検査装置の構成を模式的に示す図である。
【0018】
図1に示されるように、検査装置1は、紫外光(UV)光源10、検出器20、測距装置30、照明装置40および制御装置50を有する。制御装置50は、表示装置60に接続されており、検査装置1は、表示装置60に検査の情報を表示可能に構成されている。
【0019】
[検査対象]
検査装置1による検査の対象は、測定対象物100である。測定対象物100は、例えば、食品工場における厨房の作業台であり、あるいは養鶏場などの畜産現場における飼育用のゲージである。測定の対象(被検出物)は、前述の芳香族アミノ酸およびその残基であり、その例には、芳香族アミノ酸そのもの、および、その二次構造物であるタンパク質、が含まれる。本実施形態では、固体の測定対象物100の表面に被検出物としてタンパク質が付着している場合を例に、検査装置の実施形態を説明する。
【0020】
なお、実施形態の説明において、「蛍光」および「円偏光」は、特に言及されていない限り、「紫外域の蛍光」および「紫外域の円偏光」を意味する。また、実施形態の説明において、「~」は、その両端の数字を含む以上以下の範囲を意味する。
【0021】
[第一の光学系]
第一の光学系は、紫外光で測定対象物100を照射するための光学系である。本発明の実施形態において、「紫外光」の波長は、芳香族アミノ酸の選択的な検出が可能な範囲において適宜に決定することが可能である。芳香族アミノ酸の選択的な検出の観点から、照射する紫外光の波長は、200~400nmであることが好ましく、200~320nmであることがより好ましく、200~300nmであることがさらに好ましい。
【0022】
第一の光学系は、紫外光を出力する光源を含み、必要に応じて光学フィルタなどの光学素子を適宜に含んでいてよい。図1の検査装置1では、UV光源10および光学フィルタ11が第一の光学系を構成している。当該第一の光学系では、光学フィルタ11が、UV光源10と測定対象物100との間に配置されている。光学フィルタ11は、波長選択用の光学フィルタであり、例えばロングパスフィルタまたはバンドパスフィルタである。光学フィルタ11には、偏光選択用の偏光フィルタを配置することもでき、例えば光弾性変調器である。
【0023】
第一の光学系は、紫外光で測定対象物100を照射可能な範囲で、屈折光学系、反射光学系、位相光学系または回折光学系のいずれであってもよい。
【0024】
本発明の実施形態における第一の光学系の例を図2図4に模式的に示す。図2に示されるように、第一の光学系は、前述の光学フィルタを有さずにUV光源10のみから構成されていてもよい。あるいは、図3に示されるように、第一の光学系は、前述の光学フィルタ以外に投光レンズ12をさらに含んでもよい。あるいは、図4に示されるように、第一の光学系は、前述の光学フィルタ以外に、UV光源10からの紫外光を測定対象物100に向けて反射する反射光学素子13をさらに含んでもよい。
【0025】
特に紫外域では、レンズの材料による透過損失が問題となることがある。加えて、レンズが発する蛍光が誤信号として検出器20での蛍光の信号に重畳するため、正確な測定が困難となることがある。よって、紫外透過性が高く、紫外光による蛍光の発生が少ない材料で作製された光学素子を第一の光学系で用いることは、上記の問題の発生を抑制する観点から好ましい。紫外透過性が高く、紫外光による蛍光の発生が少ない材料の例には、石英およびシリコーン系樹脂が含まれる。
【0026】
(光源)
UV光源10は、所望の波長の紫外光、例えば200~400nmの波長の紫外光を発生する構成であればよい。芳香族アミノ酸およびその残基の吸収波長帯域には、225nm前後と280nm前後との二つの帯域が存在する。UV光源10は、前者の帯域に対応する波長(例えば222nm)の光を発生する構成であることが、発生するUVによる生体への影響を低減させる観点から好ましい。
【0027】
UV光源10の例には、キセノンランプのように放電を用いる装置、発光ダイオード(LED)、レーザー、レーザーダイオード(LD)および波長変換光源が含まれる。検査装置1の低コスト化の観点から、UV光源10は発光ダイオードであることが好ましい。
【0028】
第一の光学系は、強度が変調された紫外光で測定対象物を照射可能であることが、検出器における検出精度を高める観点から好ましい。この点については後に詳述する。このような第一の光学系は、紫外光の強度を変調可能なUV光源10を用いることによって実現可能である。UV光源10における強度の変調は、光源駆動電圧または電流を直接変調する方法、電気光学効果による方法、またはチョッパおよびポリゴンミラーなどの機械式機構を用いる方法、によって実現可能である。UV光源10の変調における周波数は、例えば100Hz~10MHzとすればよく、照射強度およびデューティ比は、任意に調整すればよい。
【0029】
第一の光学系は、紫外光を拡散させる光拡散層をさらに備えることが、紫外光の発光強度の分布を均一にする観点から好ましい。光拡散層は、第一の光学系におけるいずれの位置にあってもよいが、上記の観点から、測定対象物100側においてUV光源10に隣接して配置されていることが好ましい。
【0030】
本発明の実施形態の第一の光学系における紫外光の強度均一化形態の例を図5および図6に模式的に示す。光源の多くは、有限の発光面積を有することから、発光強度の分布が不均一になることがある。そのため、均一な発光強度を実現する観点から、光源の後段(被照射部101側)に拡散板が配置される。光源から拡散板までの距離が大きくなると拡散板が二次的な発光源となり、光源からの光が拡散板で広範囲に拡散し、光の損失につながる。このため、好ましくは光源の直後に光拡散層が配置される。
【0031】
このような光拡散層は、例えば図5に示されるように、UV光源10を覆う照明用レンズ14とUV光源10との隙間に形成される光拡散部15であってもよい。光拡散部15は、散乱媒質を含有する液体が上記の隙間に封入されて構成される。これにより、散乱媒質のブラウン運動による光散乱によって光の空間的な強度ムラを低減され、光の空間強度の分布をより均質にすることが可能となる。その結果、第一の光学系が上記の構成を含む場合に、後段のレンズによる光束の制御がより容易となる。液体には、絶縁性の液体を用いることができる。
【0032】
なお、光の空間強度の分布の均質化は、光源の輝度分布に合わせて、光拡散部15の光軸方向の厚みによって調整することが可能である。当該厚みを最適化することにより、光の空間強度の分布をより均一化することが可能である。
【0033】
また、光拡散層は、例えば図6に示されるように、照明用レンズ14とUV光源10との隙間に封じられるように配置される拡散板16であってもよい。また、拡散板16には、空間的に透過率分布の異なる板を配置してもよく、例えばアポダイズドフィルタを用いることができる。
【0034】
UV光源10がレーザーまたはレーザーダイオードのような時間的コヒーレンスが高い光源の場合、当該光源の空間コヒーレンスも高いことが多い。そのため、紫外光にスペックルパターンが生じる場合がある。第一の光学系において光拡散層を配置することは、光源の時空間コヒーレンスを低減させ、スペックルパターンの発生を抑制し、かつ時空間的にスペックルパターンを変化させる観点から好ましい。
【0035】
さらに、UV光源10に隣接して光拡散部15を配置することにより、UV光源10の熱を有効に利用することができる。すなわちUV光源10が発する熱により、光拡散部15の温度を上げることができ、散乱媒質の熱運動(ブラウン運動)がより活性化される。これにより、液体中に散乱媒質の粒子が局所的に滞ることが抑制され、より均一な空間強度の分布を有する紫外光を常時発生させることが可能となる。
【0036】
光拡散層は、蛍光発生剤をさらに含んでもよい。蛍光発生剤は、UV光源10の紫外光で可視光領域の蛍光を発する成分であればよく、光拡散部15中の液体または散乱媒質であってもよいし、拡散板16に分散される分散質であってもよい。
【0037】
光拡散層が蛍光発生剤を含むことにより、紫外光と同軸で蛍光を測定対象物100へ照射することができる。たとえば、可視蛍光で測定対象物100を照射することで、測定対象物100に紫外光が照射されている部位をユーザが視覚的に認識することが可能となる。このように光拡散層(光拡散部15)の液体もしくは散乱媒質に蛍光発光能を持たせることで、紫外光の空間強度のムラをより低減させることが可能になるとともに、紫外光の照射位置を示す可視光を同軸で発生させることが可能となる。
【0038】
また、光拡散層が蛍光発生剤を含むことにより、紫外光の多波長化も可能となる。測定対象物の蛍光を検出する場合は、第二の光学系に波長帯域の異なる光学フィルタおよびそれに対応する検出器、をさらに配置することで、当該蛍光を含む多波長の紫外光による計測が可能となる。この場合、すべての紫外光が同期しているため、対応する蛍光の識別は光学フィルタに依存する。
【0039】
なお、紫外光の多波長化は、発光波長の異なる複数の光源を準備することによっても実現可能である。この場合、波長の異なる紫外光による被検出光のそれぞれについて、非同期でマルチチャネルの同期検波を行ってもよい。
【0040】
(照射形態)
第一の光学系における測定対象物100への紫外光の照射形態は、種々の形態であり得る。本発明の実施形態における、第一の光学系における測定対象物の照射形態の例を図7図9に模式的に示す。
【0041】
図7に示されるように、紫外光の照射形態は、点照射または線照射であってもよいし、図8に示されるように面照射であってもよい。また、第一の光学系は、点照射、線照射または面照射で測定対象物100の表面を紫外光で走査して照射してもよい。紫外光の走査は、例えば図7に示されるように、紫外光の光路中にポリゴンミラー17のような機械的要素を配置することによって実現可能である。
【0042】
また、第一の光学系は、構造化照明によって紫外光で測定対象物100を照射してもよい。第一の光学系による紫外光の構造化照明を「紫外光の構造化照明」とも言う。紫外光の構造化照明による測定対象物100の照射は、図9に示されるように、紫外光の光路中に空間光変調器19を配置することによって、既知の濃淡のパターンでの照射として実現可能である。
【0043】
紫外光の走査または紫外光の構造化照明での照射によれば、後に詳述するように、測定対象物100からの被検出光(円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光の少なくともいずれか)の空間分布を可視化することが可能となる。たとえば、点照射または線照射の走査によって被検出光の空間的な強度分布が時系列データとして検出される。この時系列データを解析することで、測定対象物100における背景光と芳香族アミノ酸由来の検出光(円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光)とを識別することが可能となり、さらに検出光の強度の空間分布を取得することが可能となる。
【0044】
紫外光の構造化照明は、例えば、MEMSミラー、ガルバノミラー、デジタルミラーデバイス、液晶を用いたプロジェクタ方式、画像表示能を有する発光体、回転する円盤上に任意のマスクパターンを配列して逐次投影する方式、アレイ化した光源、干渉縞などの種々の技術によって測定対象物100の表面に形成することが可能である。
【0045】
また、測定対象物100の表面に対して斜めに照明する場合では、第一の光学系は、照明の方向による紫外光の構造化照明の幾何学的歪みを補償する光学系を含んでいてもよい。この場合、例えばシャインプルーフの原理を利用することにより、測定対象物100上での紫外光の構造化照明の結像を担保することが可能となる。さらに、第一の光学系は、測距装置30の測定値に応じて、測定対象物100の表面に結像される紫外光の構造化照明を形成してもよい。
【0046】
(その他の光学素子)
第一の光学系は、前述したバンドパスフィルタおよびロングパスフィルタなどの波長フィルタを適宜に有していてよい。また、第一の光学系は、偏光変調器をさらに含んでいてもよい。
【0047】
[第二の光学系]
本発明の実施形態において、第二の光学系は、紫外光で照射された測定対象物の被照射部から発する200~400nmの波長の円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光からなる群から選ばれる一種以上の光を検出器で検出するための光学系である。図1の検査装置1では、第二の光学系は、検出器20、集光レンズ21および光学フィルタ22によって構成されている。集光レンズ21と光学フィルタ22は、測定対象物100と検出器20との間に配置されている。光学フィルタ22は、例えばロングパスフィルタである。本発明の実施形態において、第二の光学系は、本実施形態の効果が得られる範囲において、必要に応じて集光用の光学系を任意の組み合わせによって構成し得る。
【0048】
本発明の実施形態の第二の光学系における被検出光の受光形態の例を、図10図13に模式的に示す。図10に示されるように、第二の光学系は、検出器20のみから構成されていてもよいし、図11に示されるように、集光レンズ21をさらに含んでいてもよい。
【0049】
また、第二の光学系は、図12および図13に示されるように、反射光学素子23、24をさらに含んでいてもよい。反射光学素子23は、ミラーまたはダイクロイックミラーであり、反射面の形状が非平面の形状となっており、より具体的には測定対象物100に対する凹曲面となっている。反射光学素子23は、測定対象物100からの光を受け、検出器20に向けて集束するように反射させ、かつ所望の波長の光(例えば芳香族アミノ酸による紫外蛍光)を透過させる。
【0050】
反射光学素子24は、ミラーであり、検出器20よりも測定対象物100とは反対側に配置される。反射光学素子24は、測定対象物100および検出器20に対する凹曲面を有し、測定対象物100からの光を受け、検出器20に向けて集束するように反射させる。
【0051】
第二の光学系が反射光学素子を含むことは、測定対象物100から検出器20への入射効率を高める観点から好適である。
【0052】
第二の光学系は、波長変換光学素子をさらに含んでいてもよい。本発明の実施形態における被検出光の波長を変換する形態の例を図14および図15に模式的に示す。たとえば、図14に示されるように、第二の光学系は、波長変換光学素子25を含んでもよい。波長変換光学素子25は、量子ドットのような波長変換能を有する粒子を含有する層を有する光学素子である。図中、λ1およびλ2は、いずれも測定対象物100からの光の波長を表しており、λ2の方がλ1よりも長い。波長変換光学素子25を含む第二の光学系では、可視光に感度を有する検出器を検出器20に用いることが可能となる。
【0053】
また、例えば図15に示されるように、第二の光学系は、波長変換光学素子26を含んでもよい。波長変換光学素子26は、紫外光透過素子26aの凹曲面上に誘電体多層膜26bと波長変換層26cとを有する。図中、λ1~λ3は、いずれも、測定対象物100からの光の波長および背景光を表しており、λ3の方がλ1よりも長い。
【0054】
第二の光学系は、波長変換光学素子26を含むことにより、所望の波長の紫外光のみを検出することが可能となる。波長変換光学素子26は、測定対象物100から検出器20に向かう紫外光のみを透過させ、その後、当該紫外光の波長を長波長に変換をする。波長変換光学素子26は、検出器20に対向する凹曲面を有することから、誘電体多層膜26bで測定対象物100側に反射する光の反射方向を制御することが可能である。また、波長変換後の紫外光の検出器20への入射効率をより高めることが可能である。
【0055】
また、第二の光学系は、円偏光の蛍光または円偏光の反射光を検出するために、光変調素子および偏光素子を含んでいてよい。詳しくは後述するが、第二の光学系が当該円偏光の蛍光または円偏光の反射光を検出可能に構成されていることは、前述の背景の蛍光と芳香族アミノ酸由来の蛍光との分離が困難な場合でも、芳香族アミノ酸およびその残基の有無を識別可能にする観点から好適である。
【0056】
(検出器)
検出器20は、波長200~400nmの範囲の内の一以上の波長域での円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光を検出可能な装置であり、例えば発光の光強度、および、当該波長域での左右円偏光吸収率、の測定に用いられる装置である。検出器20は、UV光源10からの紫外光を受けた被照射部101が発する200~400nmの範囲の波長を有する紫外光を検出する装置であればよい。検出器20は、紫外光を検出する装置であってもよいし、波長変換後の特定の波長の可視光を検出する検出器であってもよい。
【0057】
検出器20が紫外光のみに感度を有する検出器(例えばSiCフォトダイオードを有する検出器)であると、実質的に所望の紫外蛍光のみを検出することが可能となり、検出器20および計測回路のダイナミックレンジをより有効に利用することが可能である。また、第二の光学系における光学フィルタの光学濃度(OD値)を緩和することが可能となる。
【0058】
また、検出器20が、1mm以上の受光面積を有する検出器(例えばSiPM、MPPC、PMT)であると、第二の光学系を集光光学系として構成しなくても十分に測定対象物からの光の検出が可能となる。よって、第二の光学系の構成を簡素化することが可能となり、検査装置の小型化を実現する観点から好適である。
【0059】
検出器20における測光は、アナログ方式であってもよいし、光子計数法などのデジタルサンプリング方式(デジタル方式)であってもよい。
【0060】
[測距装置]
測距装置30は、超音波または電磁波によって測定対象物までの距離を測定するための装置である。測距装置30は、例えば紫外光が照射される測定対象物100の表面までの距離を、非接触かつ任意のタイミングで測定する。測距装置30は、UV光源10の出射面から測定対象物100の表面までの距離を測定可能な範囲において、検査装置1のいかなる位置に配置されていてもよい。測距装置30を有することにより、詳しくは後述するが、検出器20で検出した光(円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光または円偏光の反射光)の強度を補償することが可能となる。よって、検査装置1と測定対象物100との間の距離が一様でない場合における検出精度を高める観点から好適である。
【0061】
[照明装置]
照明装置40は、測定対象物100の表面に可視光を照射して距離確認用の構造化照明を形成するための装置である。照明装置40は、任意の照射空間に焦点位置を有する可視の距離確認用の構造化照明を照射することが可能である。よって、検査装置1のユーザに測定距離の情報を視覚的に認知させることが可能である。
【0062】
測定対象物100の表面に対して斜めに照明する場合では、第一の光学系における紫外光の構造化照明と同様に、照明装置40は、照明の方向による距離確認用の構造化照明の幾何学的歪みを補償する光学系を含んでいてもよい。たとえば、照明装置40は、シャインプルーフの原理を利用することで測定対象物100上での距離確認用の構造化照明の結像を担保してもよい。さらに、照明装置40は、測距装置30の測定値に応じて、測定対象物100の表面に結像される距離確認用の構造化照明を形成してもよい。
【0063】
本発明の実施形態における可視光による距離確認用の構造化照明の例を図16および図17に模式的に示す。図16に示されるように、照明装置40は、測定対象物100の表面に可視光による距離確認用の構造化照明である構造化照明41を形成している。構造化照明41は、円と、当該円の互いに直交する直径を表す日本の直線(十字形状)とによる形状を有している。測定対象物100の表面において、照明装置40の照射位置は、第一の光学系による照射位置と関連している。測定対象物100の表面における第一の光学系による紫外光の照射位置を被照射部101としたときに、構造化照明41の円の中心は、被照射部101の中心に位置し、かつ構造化照明41の円は被照射部101を囲むように位置する。適正距離の目安となる補助光として、任意の結像位置を有する可視光構造化照明を測定対象物へ照射することで、ユーザへ視覚的に適正距離を認識させることができる。
【0064】
照明装置40は、あるいは、一定の焦点位置に構造化照明41を形成してもよい。たとえば、図17に示されるように、構造化照明41の焦点位置が測定対象物100の表面から離れると、構造化照明41が薄くなり、またその輪郭が不鮮明になる。よって、ユーザは、構造化照明41によって、紫外光が照射されている部分を視認することができ、また検査装置1と測定対象物100との距離が適切な距離からずれていることを確認することができる。
【0065】
[表示装置]
表示装置60は、検出器20の検出結果を表示するための装置である。表示装置60は、後述の演算部が取得した被照射部101における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を数値または画像情報として表示する。ここで「芳香族アミノ酸およびその残基の情報」とは、芳香族アミノ酸およびその残基の有無の情報、および、芳香族アミノ酸およびその残基の量の情報、である。前者は、例えば閾値を参照する検出値の判定によって取得され得る。後者は、例えば予め求められている検量関係を参照する検出値の判定によって取得され得る。
【0066】
表示装置60には、有線または無線通信によって当該情報が制御装置50から送信される。表示装置60は、芳香族アミノ酸およびその残基の情報をユーザに通知するための通知装置の一形態である。本発明の実施形態では、表示装置60に代えて、音声または発信音によって芳香族アミノ酸およびその残基の情報が適切に取得できていることをユーザに通知可能な音声案内装置を通知装置として採用してもよい。
【0067】
[制御装置]
制御装置50は、光の照射および検出、ならびに検出結果のユーザへの通知の操作を制御する。制御装置50は、種々の電子回路によって構成することが可能である。制御装置50における電子回路は、制御装置50に求められる情報処理機能を実現可能な範囲において適宜に選択され得る。図1では、このような電子回路群の一例として、光源駆動回路51、同期検波回路52、無線通信回路53および演算回路54が図示されている。制御装置50は、その他にも、増幅回路、周波数フィルタ回路、参照信号発生回路およびAD変換回路などの各種電子回路を適宜に含んでいてよい。制御装置50の情報処理に関する機能的な構成は、例えば図18に示される。
【0068】
〔情報処理システム〕
図18は、本発明の一実施形態に係る情報処理システムの機能的構成の一例を模式的に示すブロック図である。図18に示されるように、制御装置50は、照射制御部510、検出制御部520、演算部530および通知制御部540を備える。これらの機能的な構成は、上記の電子回路によって実現される。
【0069】
照射制御部510は、200~300nmの波長の紫外光(紫外線)で測定対象物を照射するための制御を実施する。照射制御部510は、例えば、UV光源のオンオフ、紫外光の強度および変調した紫外光で測定対象物の表面を走査する場合には紫外光の走査などを制御する。
【0070】
検出制御部520は、紫外光で照射された測定対象物の被照射部から発する200~400nmの波長の(すなわち紫外域の)円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光の少なくともいずれかを検出器で検出するための制御を実施する。検出制御部520は、例えば、検出器20による光の検出のタイミング、検出器20における光の検出モードの設定などを制御する。
【0071】
通知制御部540は、演算部が取得した被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報をユーザに通知するための制御を実施する。通知制御部540は、例えば、当該情報を通知のための装置に応じた態様で出力させる。当該情報が画像データであればこの画像データに応じた画像を表示装置60に表示させる。当該情報が音声データであればこの音声データに応じた音声をスピーカから出力させる。
【0072】
演算部530は、検出器に20による円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光少なくともいずれかの検出値に応じて、被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する。演算部530は、例えば、検出器による円偏光の蛍光および円偏光の反射光の検出値に応じて、200~320nmの波長のタンパク質の二次構造由来の円偏光の吸収、240~320nmの波長のアミノ酸の側鎖由来の円偏光の吸収、および、これらの円偏光における左右円偏光発光の強度の差、からなる群から選ばれる一以上の特性を算出して、被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する。
【0073】
演算部530は、検出器20からの検出値から所望の光の情報を選択的に検出する。この光の情報の選択的な検出には、同期検波方式を採用することができる。同期検波方式の採用において、同期検波方式に好適な各種機器または構成を適宜に採用することが可能である。このような機器または構成の例には、ロックインアンプ、ボックスカー積分器およびゲート方式が含まれる。このように、演算部530は、検出器20で検出された光の検出値を同期検波によって復調してもよい。
【0074】
演算部530における演算方式は、アナログ方式であってもよいし、デジタル方式であってもよい。同期検波を実施する場合において、アナログ方式を採用すれば、同期検波回路の低コスト化を実現することが可能である。デジタル方式を採用すれば、検出器20からの出力値(検出結果)からバイアス電圧および電圧ドリフトの影響を実質的に除去することが可能である。
【0075】
被検出物が金属板上に存在する場合は、被検出物の自家蛍光のみを選択的に検出することができる。しかしながら、自家蛍光を発する測定対象物、例えば樹脂板、に被検出物が存在する場合、樹脂の自家蛍光が被検出物の蛍光に重畳し、これらの蛍光の検出器20での検出結果をこれらの蛍光の違いに応じて分離することが困難になることがある。そのような場合、被検出物が発する自家蛍光および被検出物から生じる散乱光などの反射光および発光の偏光特性を検出することが、検出結果から被検出物の蛍光に由来する成分を分離することの一助となる。
【0076】
波長200~320nmでは、タンパク質の二次構造由来の円偏光吸収が存在する。また、波長240~320nmでは、アミノ酸の側鎖由来の円偏光吸収が存在し、左右円偏光発光にも差を有する。これらの吸収または発光の差を検出することで、被検出物以外からの蛍光との分離が困難な場合でも、被検出物の有無を識別することが可能となる。
【0077】
一方で、残留アミノ酸の高感度な測定が必要でない場合も存在する。そのような場合では、上記の測定対象物の自家蛍光の影響を無視できる場合がある。たとえば、このように高感度な測定が必要でない場合では、測定値に任意の閾値を設ければよい。このような閾値の設定により、測定対象物の蛍光を含む検出結果から被検出物の蛍光の検出結果を十分に抽出することが可能となる。
【0078】
演算部530は、検出器20で検出された光の検出値に応じて当該光の時系列データを取得し、時系列データに応じて上記光の空間分布の情報を取得してもよい。時系列データは、例えば前述した紫外光の走査と、それによる検出器での検出結果とから取得することが可能である。当該時系列データには、空間的な蛍光強度分布の情報が含まれる。よって、時系列データを解析することにより、測定対象物が発する蛍光(背景光)と被検出物が発する蛍光とを識別することが可能となり、また、蛍光強度の空間分布の情報を取得することが可能となる。
【0079】
また、演算部530は、検出器20で検出された光の検出値に応じて当該光の時系列データを取得し、前述の紫外光の構造化照明のパターンと時系列データとを数学的に処理することで画像を再構成するシングルピクセルイメージングの形態をとることによって上記光の空間分布の情報を取得してもよい。
【0080】
数学的処理により再構成された画像データは、前述した紫外光の構造化照明と、それによる検出器20での検出結果とから取得することが可能である。複数の異なる紫外光の構造化照明により測定対象物100を照射し、紫外光の構造化照明毎の蛍光強度を時系列データとして記録し、既知である紫外光の構造化照明パターンと時系列データとを数学的に処理する。それにより、測定対象物100の表面における蛍光強度の空間分布の情報を取得することが可能となる。また、このような情報処理においては、同期検波方式を併用することができる。
【0081】
シングルピクセルイメージングを用いる場合、測定中における蛍光の褪色は、測定値の低下となり測定の誤差となり得る。この場合、演算部530は、当該褪色の影響を補償する観点から、例えば以下のような演算処理を実施することが好ましい。すなわち、紫外光の構造化照明の数をn、測光毎の光強度値または光子数をI(n)とし、n個のI(n)を取得し、n点の時系列データの近似直線の傾きの補正、近似曲線の補正、および、各測定値に対し重みづけを施す処理、を実施することが好ましい。近似直線の傾き補正の一例としては、まず時系列データに対し、線形近似式y(n)=a×n+bを求める。そして、a×nをI(n)に加算または減算し時系列データの補正を行う。その後、補正後の時系列データを用いて画像の再構成を実施する。
【0082】
本実施形態において、演算部530は、測距装置30による距離の測定値に応じて検出器20で検出された光の検出値を補正する。当該検出値の補正は、例えば、測距装置30による距離の測定値と検出器における検出値(例えば光子数)の減衰率との既知の関係(相関式、マップなど)を参照することによって実施することが可能である。この補正により、検出器20の実測値から測定対象物100までの距離の影響を実質的に除くことが可能となり、検出の精度をより高めることが可能となる。
【0083】
一方、適正距離から大きく外れた状態での測定では、測距装置30による距離の測定値に基づく検出器20で検出された光の検出値の補償が困難となる。ユーザが検査装置1を操作する場合では、検査装置1による測定における適正距離をユーザへ視覚的、聴覚的あるいは触覚的に認識させることが、検出の精度を高める観点から好ましい。このような適正距離の示唆は、例えば、前述した照明装置40による可視光の構造化照明(距離確認用の構造化照明)の形成によって実施することが可能である。
【0084】
[ソフトウェアによる実現例]
制御装置50(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御装置50に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0085】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0086】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0087】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0088】
また、上記の実施形態などで説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0089】
[その他の好ましい構成]
本発明の実施形態における検査装置は、無線通信装置をさらに有していてもよい。この構成によれば、モバイル機器などへのデータ遠隔送信およびモバイル機器からの遠隔操作が可能となる。この場合、制御装置は、出力信号の信号処理および双方向の無線通信を制御する通信制御部をさらに備えることが好ましい。
【0090】
検査装置は、電源をさらに有することが、取り回しの容易さの観点から好ましい。電源には、低ノイズ電源を採用することが好ましい。低ノイズ電源は、電池の中点電位をグラウンドとして用いて取り出した正負電圧側のそれぞれにリニアレギュレータを接続した構成を有する。一般に計測用回路は低ノイズであることが望ましく、よって、検査装置の電源は低ノイズ電源であることが望ましい。
【0091】
計測用の回路では、一般に正負両方の電源が必要であることが多い。小型の検査装置においては、一般に、両電源のそれぞれに、電池、スイッチング電源あるいは電圧変換回路が用いられる。電池は、中点電位が不安定であり、スイッチング電源および電圧変換回路は、スイッチングノイズの発生、熱損失による発熱、および、消費電力、が課題となる。上記の低ノイズ電源は、電池の中点電位をグラウンドとして用いて取り出される正負電圧のそれぞれの側にリニアレギュレータが接続される。よって、小型かつ低ノイズな電源を実現することができる。
【0092】
検査装置は、測定対象物としてのセル、あるいは、第二の光学系において励起光の測定対象物との作用長を稼ぐことができる装置(積分球またはマルチパスセルなど)をさらに有していてもよい。この場合、気体状または液状の試料を測定するのに好適ある。
【0093】
また、検査装置は、超音波による局所的な音圧、あるいは光による放射圧を流体状の測定対象物に向けて出力する装置をさらに含んでいてよい。このような出力装置を有することにより、例えば流体中の粒子状の測定対象物が流体中で凝集し、または保持され、流体中の測定対象物をより好適に測定することが可能である。
【0094】
また、検査装置の制御装置は、紫外光の照射と検出器での検出とのタイミングを任意に調整可能な機能をさらに備えていてもよい。たとえば、被検出物の蛍光の寿命がそれ以外の部分の蛍光の寿命より長い場合、光源からの紫外光の照射と検出器による検出のタイミングに任意の遅延時間を設定する。そして、被検出物の蛍光の強度がそれ以外の蛍光(背景光)の強度を上回るタイミングで、検出器での検出を実施する。このように、光源からの紫外光の照射と検出器での検出のタイミングを適宜に設定することは、検出の精度を高める観点から好適である。
【0095】
また、検査装置において、演算部は、既知の背景光の情報を参照して検出器による検出値の情報を算出し、算出した当該情報に応じて被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得してもよい。既知の背景光の情報は、例えば、測定対象物の自家蛍光を検査装置によって事前に測定することにより取得することが可能である。この場合、演算部は、被検出物の検出値と既知の自家蛍光の検出値との差分を算出し、当該差分に応じて被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する。この構成は、背景光(測定対象物の自家蛍光)の影響をより低減させる観点から有効である。
【0096】
検査装置は、測距装置に加えて、測距装置による距離の測定値に基づく測定距離の情報をユーザに通知するための測定距離通知装置をさらに有してもよい。測定距離通知装置は、測定に最適な距離をユーザに認知させるように信号を発信してもよい。発信する信号の例には、音、振動および可視光が含まれる。より具体的には、測定距離通知装置は、音声による通知、音声のパターンまたは音量、光源または照明装置の紫外光の点滅などによって、測定に最適な距離をユーザに認知させてもよい。
【0097】
また、検査装置が二以上の測距装置を有する場合では、演算部は、測距装置による距離の測定値の情報に応じて、光源からの紫外光の測定対象物への入射角度を取得することが可能である。そして、演算部は、このように取得した入射角度の情報に応じて、検査装置の測定位置についてのフィードバック処理を行ってもよい。制御装置は、フィードバック処理の結果は、表示装置に表示してもよいし、前述の測定距離通知装置によってユーザに通知してもよい。
【0098】
また、検査装置が上記の測距装置または照明装置を有する場合では、第一光学系および第二光学系の一方または両方は、焦点フォーカス機能をさらに有してもよい。この構成は、測定距離に関わらずに安定した測定を可能にする観点からより一層好適である。
【0099】
また、検出器による検出値を時系列データとして取得する場合は、当該時系列データは、測定対象物の表面が光源に対して相対的に移動していれば取得可能である。よって、検査装置は、光源の走査によらず、光源から紫外光を照射したまま検査装置の全体を移動させることによって測定対象物の表面を走査してもよい。この場合の時系列データは、検査装置を測定対象物の表面に沿って移動させている間ずっと取得されてもよいし、検査装置による走査開始から特定の時間のみ取得されてもよいし、検査装置による走査中にユーザが指定した期間であってもよい。この場合、制御装置50は、ユーザからの指定の指示を受信するための入力部をさらに備えていてよい。当該入力部は、無線通信を受信するための機能的構成であってもよいし、キーボードまたはタッチパネルなどの入力装置からの信号を受信するための機能的構成であってもよい。
【0100】
[用途、用法]
本発明の実施形態の検査装置は、携帯用の生体試料の有無を検出が求められる様々な場面で好適に採用することが可能である。検査装置1は、携帯用の形態に限らず、移動体への搭載が可能な形態であってもよいし、測定対象物に対して固定して配置される固定式の形態であってもよい。また、検査装置は、自家蛍光を発しない測定対象物はもちろん自家蛍光を発する測定対象物に付着している、あるいは担持されている被検出物の検出に利用可能である。
【0101】
検査装置は、例えば外科医療用のハンドヘルド型の細菌可視化装置であり得る。このような手持ちの形態で使用する場合には、検査装置と測定対象物との間の距離が一定とは限らないため、検出器に入射する光子数が上記距離に応じて大きく変動し、低く見積もられる可能性がある。この場合、1画像内での相対的な蛍光の強度分布は認識可能であるが、時系列データを用いる場合には、検出精度のばらつきを生じることがある。上記のように距離情報から蛍光強度の補償をする機能を有することは、測定値の定量性を担保する観点から有効であり、ハンドヘルド型の検査装置のみならず、ドローンあるいはラジコンカーなどの移動体に搭載される形態の検査装置にも有用である。
【0102】
このような構成によれば、医療、畜産業および食品加工業などの生体組織に関する現場において、生体組織由来の汚染をより簡易かつ十分に高い精度で検出することが可能になる。これにより、上記現場に関わる人々への健康的な生活の確保および作業効率化が期待され、持続可能な開発目標(SDGs)の達成への貢献が期待される。
【0103】
[主な作用効果]
生体試料の残留物には、水、脂質、タンパク質などがあり、中でもタンパク質には全ての生物が有するアミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)が含まれている。そのため、残置アミノ酸の有無を把握することは、生物の存在および繁殖リスク評価の一つの指標と成り得る。
【0104】
このような生体試料の残留物を検出する既存の検査手法には、蛍光試薬を用いてアデノシンnリン酸(n=1、2、3)を検出する手法(ATP法、A3法)が存在する。ATP法,A3法では、蛍光試薬の特性上、阻害剤(食塩、エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウムなど)による蛍光発光強度の低下が生じやすい。また、ふき取りによるサンプルの採取のため、局所的なサンプリング検査となるだけでなく、ふき取り方(面積、こする強さ)で、サンプリングされる測定対象物の総量が変化する傾向にある。このように、上記の既存の検査方法は、主に定量性の課題を有している。
【0105】
上記アミノ酸は、紫外光励起時に蛍光を発することが知られており、定量的な測定が可能である。そのため、蛍光強度を定量的に測定することで、非接触かつその場測定が実現可能となる。たとえば、前述の特許文献1及び特許文献2では、紫外光の照射によるアミノ酸の可視域の蛍光を検出することが記載されている。ただし、可視域の蛍光を検出する場合では、暗室下などの他の可視光が実質的に影響を及ぼさない条件下での実施が必要となる。また、可視域の蛍光を検出することから、被検出物であるアミノ酸が発する蛍光と、それを担持する測定対象物が発する蛍光とを区別することが困難である。さらに、一般的に精密な蛍光測定は、遮光下で蛍光顕微鏡や蛍光分光光度計を用いて行われる。そのため、生体試料を取り扱う現場での使用は困難である上、作動距離(被検出物-検査装置間の距離)が1cm以下になるか、または狭視野となる。
【0106】
これに対して、本発明の実施形態の検査装置は、紫外光を照射し、芳香族アミノ酸およびその残基による紫外域の円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光からなる群から選ばれる一種以上の光を検出し、検出器で検出した光の検出値に応じて、被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する構成を有する。当該検査装置は、簡素ながら即時に芳香族アミノ酸およびその残基の定量的な情報を取得可能である。このため、小型、運搬容易に構成され、非接触で広範囲に危険因子の要素(芳香族アミノ酸およびその残基)をリアルタイムにその場で測定することが可能である。よって、従来のふき取り式では困難であった広範囲の測定を実現する。これにより、公衆衛生上の危険因子の早期把握および迅速な対策が可能となる。
【0107】
本発明の実施形態において、200nm以上400nm以下の波長の自家蛍光が被照射部で発生しない場合では、検査装置は、非円偏光の蛍光を検出器で検出することにより、被照射部おける芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得することが可能ある。なお、「自家蛍光が被照射部で発生しない場合」とは、測定対象物が当該自家蛍光を発生しない場合、および測定対象物における被照射部に付着している付着物が当該自家蛍光を発生しない場合、などである。
【0108】
また、本発明の実施形態において、被照射部が200nm以上400nm以下の波長の自家蛍光を発生する場合では、検査装置は、円偏光の蛍光を検出器で検出することにより、被照射部おける芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得することが可能ある。円偏光の蛍光を検出することにより、芳香族アミノ酸に特有の円偏光発光が検出される。
【0109】
あるいは、本発明の実施形態において、被照射部が200nm以上400nm以下の波長の自家蛍光を発生する場合では、検査装置は、円偏光の反射光を検出器で検出することにより、被照射部おける芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得することが可能ある。円偏光の反射光を検出することにより、タンパク質の二次構造由来または芳香族アミノ酸の側鎖由来の円偏光の吸収が検出される。
【0110】
検出器で検出する光は、検査装置の用途あるいは検査装置で求められる精度、利便性に応じて適宜に決めてよい。たとえば、汎用性の観点であれば、検査装置は、上記の三種の光の全てを検出可能に構成されていてよい。あるいは、簡易的な検査の用途であれば、検査装置は、非円偏光または円偏光の蛍光のみを検出可能に構成されていてよい。あるいは、タンパク質に限定される簡易的な検査の用途であれば、検査装置は、円偏光の反射光のみを検出可能に構成されていてよい。あるいは、芳香族アミノ酸およびその残基の定量的な検査の用途であれば、検査装置は、少なくとも円偏光の蛍光および円偏光の反射光を検出可能に構成されていてよい。
【0111】
また、本発明の実施形態の測定装置は、芳香族アミノ酸等の紫外域の自家蛍光および円偏光発光の測定が可能であるため、芳香族アミノ酸の選択的検出が可能であり、これを画像データ化することにより可視化を実現することが可能である。本実施形態において、検出器で検出される光の波長は200~400nmの範囲に含まれる。上記波長域は、地上での太陽光放射の寄与が少ない。このため、屋外での使用時に検出器およびその後段に設けた回路のダイナミックレンジを有効に使うことができる。加えて、紫外光にのみ感度を有する検出器を用いることで、その前段に配置され得るフィルタの光学密度(OD値)を緩和することも可能となる。
【0112】
本発明の実施形態において、演算部は、検出器で検出された光の検出値に応じて、200~320nmの波長のタンパク質の二次構造由来の円偏光の吸収、240~320nmの波長のアミノ酸の側鎖由来の円偏光の吸収、および、これらの円偏光における左右円偏光の発光強度の差、からなる群から選ばれる一以上の特性を算出して、被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得し得る。円偏光吸収および円偏光発光を同時に測定することで、測定対象物が自家蛍光を発する場合でも被検出物の自家蛍光を検出することが可能である。
【0113】
また、本発明の実施形態では、検査装置が、超音波または電磁波によって測定対象物までの距離を測定するための測距装置をさらに有し、演算部が、測距装置による距離の測定値に応じて検出器で検出された光の検出値を補正してもよい。このように、本発明の実施形態において、上記の距離の情報から蛍光強度の補償をする機能を有することは、測定値の定量性を担保する観点から好適である。この構成は、ハンドヘルド型の検査装置に有用であり、また移動体に搭載される検査装置にも有用である。
【0114】
また、本発明の実施形態では、別途可視光源を配置することによって、適切な測定距離をユーザに認知させることが可能となる。すなわち、本発明の実施形態において、検査装置は、測定対象物の表面に可視光を照射して距離認識用の構造化照明を形成するための照明装置をさらに有してもよい。この構成は、特にハンドヘルド型の検査装置において、出力の安定性を高める観点から好適である。このような距離認識に関する機能をさらに有することで、検査装置と測定対象物との間の距離が安定しない環境下でも、安定した測定が可能となる。
【0115】
また、本発明の実施形態では、励起光走査またはシングルピクセルイメージングの採用によるロックイン蛍光イメージングが可能である。すなわち、本発明の実施形態では、測定対象物の表面を紫外光で走査したときの検出器で検出された光の検出値から時系列データを取得し、それに応じて当該光の空間分布の情報を取得し得る。この場合、芳香族アミノ酸などによる検出光の空間分布の情報を取得することが可能である。
【0116】
あるいは、本発明の実施形態では、第一の光学系は、紫外光の構造化照明によって紫外光で測定対象物を照射し、演算部は、検出器で検出された光の検出値の時系列データを取得し、紫外光の構造化照明のパターンと時系列データとを数学的に処理することで画像を再構成するシングルピクセルイメージングの形態をとることによって当該光の空間分布の情報を取得し得る。
【0117】
本発明の実施形態において、上記のような紫外光の走査またはシングルピクセルイメージングの形態を採用することによって、ロックインイメージングが可能となる。これらの構成は、外乱の排除の観点から好適である。
【0118】
また、シングルピクセルイメージングを採用する場合では、測定時間の短縮が可能となり、加えて褪色の影響を補償することが可能となる。測定時間の短縮は、シングルピクセルイメージングの形態において、圧縮センシング、深層学習あるいはAI解析を用いることによって実現することが可能であり、走査型測定に比べて測定時間の短縮の観点から有利である。
【0119】
また、本発明の実施形態では、同期検波方式を採用することで、SN比の向上に有利である。すなわち、本発明の実施形態において、第一の光学系は、強度が変調された紫外光で測定対象物を照射してよく、演算部は、検出器で検出された光の検出値を同期検波によって復調し得る。
【0120】
紫外光の強度の変調は、紫外光によってもたらされ得る危険因子の不活性化も可能となる。紫外光に採用される紫外光は、生物にとって有害とされ、JIS C7550では照射強度によりリスク管理されている。本発明の実施形態に係る測定装置は、高い感度の検出特性を有する。このため、より微弱な紫外光を照射することが可能となり、当該リスク管理における低リスクグループまたはリスク免除として扱うことが可能となる。また、測定後に別途不活性装置を用いる必要がなくなるため、作業の効率化と不活性処理漏れの防止とを実現する観点から有利である。
【0121】
本発明の実施形態では、同期検波方式による外乱の除去および、必要に応じて最適な設計をした高効率集光系を組み合わせることが可能である。同期検波方式は、例えばロックインアンプを採用することで実現可能である。その結果、本発明の実施形態では、例えば作動距離が1cm以上離れた状態でも効率よく微弱な蛍光信号を検出することが可能となり、広い視野を確保することも可能となる。
【0122】
したがって、ハンドヘルドの形態あるいは移動体に搭載した利用、に適用することができ、測定対象物まで距離が必要な場合でも対象の蛍光を十分に高い精度で検出することが可能となる。よって、励起光と非同期の光(室内照明光、太陽光など)の影響が検出値から実質的に排除され、使用環境に限定されない測定を実現する観点から有利である。このように上記の構成は、多くの外乱が存在する屋外あるいは移動体搭載下でのより安定した測定を可能にする。
【0123】
また、本発明の実施形態では、第二の光学系においてバンドパスフィルタを採用することは、必要な蛍光のみを選択的に検出するのに有効である。
【0124】
[まとめ]
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態の検査装置(1)は、紫外光で測定対象物(100)を照射するための第一の光学系と、当該紫外光で照射された測定対象物の被照射部(101)から発する200nm以上400nm以下の波長の円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光からなる群から選ばれる一種以上の光を検出器(20)で検出するための第二の光学系と、検出器で検出された光の検出値に応じて、被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する演算部(530)と、を備える。
【0125】
また、本発明の実施形態の情報処理システムは、紫外光で測定対象物を照射するための照射制御部(510)と、当該紫外光で照射された測定対象物の被照射部から発する200nm以上400nm以下の波長の円偏光の蛍光、非円偏光の蛍光および円偏光の反射光からなる群から選ばれる一種以上の光を検出器で検出するための検出制御部(520)と、検出器で検出された光の検出値に応じて、被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得する演算部と、演算部が取得した被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報をユーザに通知するための通知制御部(540)と、を備える。
【0126】
したがって、本発明の実施形態では、蛍光を発する測定対象物が芳香族アミノ酸由来の被検出物を担持している場合であっても、蛍光および偏光によって被検出物を検出することができる。
【0127】
本発明の実施形態において、演算部は、検出器で検出された円偏光の蛍光および円偏光の反射光の検出値に応じて、200~320nmの波長のタンパク質の二次構造由来の円偏光の吸収、240~320nmの波長のアミノ酸の側鎖由来の円偏光の吸収、および、これらの円偏光における左右円偏光発光の強度の差、からなる群から選ばれる一以上の特性を算出して、被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報を取得してもよい。この構成は、自家蛍光を発する測定対象物に担持されている被検出物の自家蛍光を検出する観点からより一層効果的である。
【0128】
本発明の実施形態において、測定装置は、超音波または電磁波によって測定対象物までの距離を測定するための測距装置(30)をさらに有し、演算部は、測距装置による距離の測定値に応じて検出器で検出された光の検出値を補正してもよい。この構成は、測定値の定量性を担保する観点からより一層効果的である。
【0129】
本発明の実施形態において、測定装置は、測定対象物の表面に可視光を照射して距離認識用の構造化照明を形成するための照明装置(40)をさらに有してもよい。この構成は、検査装置と測定対象物との間の距離によらずに安定した測定を実現する観点からより一層効果的である。
【0130】
本発明の実施形態において、第一の光学系は、点照射、線照射または面照射で測定対象物の表面を前述の紫外光で照射してもよい。この構成は、検出される蛍光における強度の空間分布の情報を取得する観点および外乱の排除の観点からより効果的である。この場合、第一の光学系は、測定対象物の表面を紫外光で走査して照射してもよい。この構成は上記の観点からより一層効果的である。
【0131】
さらに、上記の場合、演算部は、検出器で検出された光の検出値に応じて当該光の時系列データを取得し、当該時系列データに応じて上記の光の空間分布の情報を取得してもよい。この構成は、検出される蛍光における強度の空間分布の情報を取得する観点および外乱の排除の観点からさらに一層効果的である。
【0132】
本発明の実施形態において、第一の光学系は、紫外光の構造化照明によって紫外光で測定対象物を照射し、演算部は、検出器で検出された光の検出値に応じて当該光の時系列データを取得し、紫外光の構造化照明のパターンと当該時系列データとを数学的に処理することで画像を再構成するシングルピクセルイメージングの形態をとることによって上記の光の空間分布の情報を取得してもよい。この構成は、外乱の排除および測定時間の短縮を実現する観点からより一層効果的である。
【0133】
本発明の実施形態において、第一の光学系は、強度が変調された紫外光で測定対象物を照射し、演算部は、検出器で検出された光の検出値を同期検波によって復調してもよい。この構成は、外乱の除去の観点、および、による生体への影響を低減させる観点、からより一層効果的である。
【0134】
本発明の実施形態において、第一の光学系は、紫外光を拡散させる光拡散層(例えば光拡散部15)をさらに備えてもよい。この構成は、紫外光の空間強度の分布を均質にする観点からより一層効果的である。
【0135】
本発明の実施形態において、光拡散層は蛍光発生剤をさらに含んでもよい。この構成は、紫外光の照射をユーザに視認可能にする観点からより一層効果的である。
【0136】
本発明の実施形態において、測定装置は、演算部が取得した被照射部における芳香族アミノ酸およびその残基の情報をユーザに通知するための通知装置(例えば表示装置60)をさらに有してもよい。この構成は、ユーザによる適切な、あるいは効率的な測定を実現する観点からより一層効果的である。
【0137】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0138】
1 検査装置
10 UV光源
11、22 光学フィルタ
12 投光レンズ
13、23、24 反射光学素子
14 照明用レンズ
15 光拡散部
16 拡散板
17 ポリゴンミラー
19 空間光変調器
20 検出器
21 集光レンズ
25、26 波長変換光学素子
26a 紫外光透過素子
26b 誘電体多層膜
26c 波長変換層
30 測距装置
40 照明装置
41 構造化照明
50 制御装置
51 光源駆動回路
52 同期検波回路
53 無線通信回路
54 演算回路
60 表示装置(通知装置)
100 測定対象物
101 被照射部
510 照射制御部
520 検出制御部
530 演算部
540 通知制御部

図1
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