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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063934
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/18 20160101AFI20230428BHJP
【FI】
H02P6/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174041
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】丸山 真
(72)【発明者】
【氏名】中口 和馬
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560BB04
5H560BB12
5H560DA12
5H560DB20
5H560DC12
5H560EB01
5H560EC02
5H560RR03
5H560SS01
5H560TT01
5H560TT15
5H560UA01
5H560XA02
5H560XA04
5H560XA05
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】位置センサレス制御によってモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、180度通電ワンパルス駆動を行う場合でも、位置推定系の位置推定誤差を低減して安定した制御を行うことができる構成を得る。
【解決手段】モータ駆動制御装置1は、複数のスイッチング素子SW1~SW6を有するインバータ3の駆動を制御することにより、インバータ3から電力供給されるモータ2の駆動を制御する。モータ駆動制御装置1は、電圧位相指令θrefに基づいて、インバータ3の出力電圧を推定する第1出力電圧推定部12と、第1出力電圧推定部12によって推定されたインバータ3の出力電圧に基づいて、モータ2の回転位置を推定する位置推定部13と、位置推定部13によって推定された前記回転位置を用いて、インバータ3に矩形波の電圧を出力させるゲート信号を生成する制御信号生成部14と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子を有するスイッチング回路の駆動を制御することにより、前記スイッチング回路から電力供給されるモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置であって、
電圧位相指令に基づいて、前記スイッチング回路の出力電圧を推定する第1出力電圧推定部と、
前記第1出力電圧推定部によって推定された前記スイッチング回路の出力電圧に基づいて、前記モータの回転位置を推定する位置推定部と、
前記位置推定部によって推定された前記回転位置を用いて、前記スイッチング回路に矩形波の電圧を出力させる制御信号を生成する制御信号生成部と、
を備える、
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記第1出力電圧推定部は、
前記電圧位相指令に基づいて、前記スイッチング回路における前記複数のスイッチング素子のスイッチング状態の切替タイミングを推定するスイッチングタイミング推定部と、
前記スイッチングタイミング推定部によって推定された前記切替タイミングに応じて、所定の演算周期ごとに、前記スイッチング回路の出力電圧を推定する推定出力電圧演算部と、
を有する、
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記推定出力電圧演算部は、
前記切替タイミングから、次の演算周期及びその次の演算周期における前記複数のスイッチング素子のスイッチング状態を推定するスイッチング状態推定部と、
前記スイッチング状態推定部によって推定された前記複数のスイッチング素子のスイッチング状態に応じて、前記スイッチング回路の出力電圧を算出する電圧算出部と、
を有する、
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のモータ駆動制御装置において、
電流指令に基づいて、前記スイッチング回路の出力電圧を推定する第2出力電圧推定部と、
前記第2出力電圧推定部によって推定された前記出力電圧を用いて、前記スイッチング回路における前記複数のスイッチング素子を駆動させるためのPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
をさらに備え、
前記位置推定部には、前記スイッチング回路に対して矩形波の電圧を出力させる駆動制御を行う場合に、前記第1出力電圧推定部によって推定された前記出力電圧が入力される一方、前記スイッチング回路に対して前記PWM信号による駆動制御を行う場合に、前記第2出力電圧推定部によって推定された前記出力電圧が入力される、
モータ駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの駆動を制御するモータ駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のスイッチング素子を有するスイッチング回路の駆動を制御することにより、前記スイッチング回路から電力供給されるモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置が知られている。このようなモータ駆動制御装置として、例えば非特許文献1には、永久磁石同期モータを位置センサレスベクトル制御によって駆動させる際に、インバータのPWM過変調駆動時まで動作可能な位置推定系を備えた制御装置が開示されている。
【0003】
前記非特許文献1では、インバータのPWM過変調駆動時に位置推定誤差が発生する現象について記載されている。前記非特許文献1では、このような位置推定誤差が発生する原因として、位置推定系が利用する電圧指令値及び電流フィードバック値に含まれる周波数成分の不一致が挙げられている。そのため、前記非特許文献1には、上述の周波数成分の不一致を防止する方法として、位置推定系の位置推定オブザーバに入力する電圧指令に、インバータの推定出力電圧を使用することが記載されている。
【0004】
なお、前記非特許文献1では、前記推定出力電圧は、インバータの高調波電圧を推定する過程で推定されている。すなわち、前記推定出力電圧は、電流制御系によって算出された電圧指令に基づいて生成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】近藤孔亮、外1名、“永久磁石同期モータの位置センサレスベクトル制御のためのインバータ過変調駆動まで動作可能な位置推定系”、電気学会論文誌D(産業応用部門誌)、2016、Vol.136、No.11、pp.829-836
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、インバータ電源電圧の利用率向上に加えて、モータの高速化などの要求がある。そのため、インバータを、180度の通電角で且つ出力電圧が矩形波となるように180度通電ワンパルス駆動させることが考えられている。
【0007】
しかしながら、前記180度通電ワンパルス駆動では、インバータ出力電圧は、低次高調波が重畳した矩形波になるため、モータの出力電流にも低次高調波が重畳している。モータの回転位置を検出せずにモータの駆動制御を行う位置センサレス制御では、前記モータの出力電流に基づいて位置推定を行う。そのため、前記位置センサレス制御において前記180度通電ワンパルス駆動を行うと、低次高調波が重畳した電流により位置推定系の位置推定精度が著しく低下したり、制御が不安定化したりする可能性がある。
【0008】
よって、従来、前記位置センサレス制御と前記180度通電ワンパルス駆動との組み合わせは困難であると考えられていた。
【0009】
これに対し、前記180度通電ワンパルス駆動における前記位置センサレス制御に、上述の非特許文献1に開示されているように位置推定系の位置推定オブザーバに入力する電圧指令としてインバータの推定出力電圧を用いる方法が考えられる。しかしながら、以下の問題により、前記180度通電ワンパルス駆動において、上述の非特許文献1に開示されている方法を適用しても、前記位置センサレス制御を精度良く且つ安定して行うことができない。
【0010】
上述の非特許文献1に開示されている方法では、前記推定出力電圧は、電流制御系によって算出された電圧指令に基づいて生成されている。しかしながら、前記180度通電ワンパルス駆動では、電流を制御対象とする電流制御系の演算は実行されず、電圧位相を制御対象とした電圧位相制御が行われる。したがって、前記180度通電ワンパルス駆動では、インバータの前記推定出力電圧を算出できず、上述の非特許文献1に開示されているような位置推定誤差の低減の方法を利用することができない。
【0011】
そのため、位置センサレス制御において180度通電ワンパルス駆動を行う場合でも、位置推定系の位置推定精度が著しく低下したり制御が不安定化したりするのを抑制可能なモータ駆動制御装置が求められている。
【0012】
本発明の目的は、位置センサレス制御によってモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、180度通電ワンパルス駆動を行う場合でも、位置推定系の位置推定誤差を低減して安定した制御を行うことができる構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態に係るモータ駆動制御装置は、複数のスイッチング素子を有するスイッチング回路の駆動を制御することにより、前記スイッチング回路から電力供給されるモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置である。このモータ駆動制御装置は、電圧位相指令に基づいて、前記スイッチング回路の出力電圧を推定する第1出力電圧推定部と、前記第1出力電圧推定部によって推定された前記スイッチング回路の出力電圧に基づいて、前記モータの回転位置を推定する位置推定部と、前記位置推定部によって推定された前記回転位置を用いて、前記スイッチング回路に矩形波の電圧を出力させる制御信号を生成する制御信号生成部と、を備える(第1の構成)。
【0014】
上述の構成では、電圧位相指令に基づいて、第1出力電圧推定部によって、スイッチング回路の出力電圧を推定できる。よって、位置センサレス制御によってモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、スイッチング回路に矩形波の電圧を出力させる180度通電ワンパルス駆動を行う場合に、電流制御系の演算を行うことなく、位置推定部に入力する前記出力電圧を推定することができる。
【0015】
したがって、前記第1出力電圧推定部によって推定された前記スイッチング回路の出力電圧を前記位置推定部に入力することにより、電流制御系の演算を行わない180度通電ワンパルス駆動においても、モータの回転位置の推定を精度良く行うことができる。これにより、位置センサレス制御によってモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、180度通電ワンパルス駆動を行う場合でも、位置推定系の位置推定誤差を低減して安定した制御を行うことができる構成が得られる。
【0016】
前記第1の構成において、前記第1出力電圧推定部は、前記電圧位相指令に基づいて、前記スイッチング回路における前記複数のスイッチング素子のスイッチング状態の切替タイミングを推定するスイッチングタイミング推定部と、前記スイッチングタイミング推定部によって推定された前記切替タイミングに応じて、所定の演算周期ごとに、前記スイッチング回路の出力電圧を推定する推定出力電圧演算部と、を有する(第2の構成)。
【0017】
これにより、電圧位相指令に基づく、スイッチング回路における複数のスイッチング素子のスイッチング状態の切替タイミングの推定結果に応じて、演算周期ごとに、前記スイッチング回路の出力電圧を推定することができる。よって、前記切替タイミングを考慮して、前記スイッチング回路の出力電圧を精度良く推定することができる。
【0018】
したがって、位置センサレス制御によってモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、180度通電ワンパルス駆動を行う場合に、位置推定系の位置推定誤差をより確実に低減することができる。よって、180度通電ワンパルス駆動の制御をより安定して行うことができる。
【0019】
前記第2の構成において、前記推定出力電圧演算部は、前記切替タイミングから、次の演算周期及びその次の演算周期における前記複数のスイッチング素子のスイッチング状態を推定するスイッチング状態推定部と、前記スイッチング状態推定部によって推定された前記複数のスイッチング素子のスイッチング状態に応じて、前記スイッチング回路の出力電圧を算出する電圧算出部と、を有する(第3の構成)。
【0020】
これにより、次の演算周期及びその次の演算周期におけるスイッチング素子のスイッチング状態を推定し、その推定結果に応じてスイッチング回路の出力電圧を算出することができる。よって、次の演算周期及びその次の演算周期におけるスイッチング素子のスイッチング状態を考慮して、前記スイッチング回路の出力電圧をより精度良く推定することができる。
【0021】
したがって、位置センサレス制御によってモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、180度通電ワンパルス駆動を行う場合に、位置推定系の位置推定誤差をより確実に低減することができる。よって、180度通電ワンパルス駆動の制御をより安定して行うことができる。
【0022】
前記第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成において、モータ駆動制御装置は、電流指令に基づいて、前記スイッチング回路の出力電圧を推定する第2出力電圧推定部と、前記第2出力電圧推定部によって推定された前記出力電圧を用いて、前記スイッチング回路における前記複数のスイッチング素子を駆動させるためのPWM信号を生成するPWM信号生成部と、をさらに備える。前記位置推定部には、前記スイッチング回路に対して矩形波の電圧を出力させる駆動制御を行う場合に、前記第1出力電圧推定部によって推定された前記出力電圧が入力される一方、前記スイッチング回路に対して前記PWM信号による駆動制御を行う場合に、前記第2出力電圧推定部によって推定された前記出力電圧が入力される(第4の構成)。
【0023】
これにより、スイッチング回路の駆動がPWM駆動であるか180度通電ワンパルス駆動であるかに応じて、位置推定部に入力される出力電圧を切り替えることができる。すなわち、モータ駆動制御装置は、スイッチング回路の駆動がPWM駆動の場合には、電流指令に基づいてスイッチング回路の出力電圧を推定する一方、スイッチング回路の駆動が180度通電ワンパルス駆動の場合には、電圧位相指令に基づいてスイッチング回路の出力電圧を推定する。
【0024】
このように、インバータの駆動方式に応じて推定された出力電圧を、インバータの駆動方式に応じて前記位置推定部に入力することにより、インバータの駆動が180度通電ワンパルス駆動の場合だけでなく、PWM駆動の場合でも、位置推定系の位置推定誤差を低減することができる。したがって、PWM駆動及び180度通電ワンパルス駆動の制御を安定して行うことができる。
【0025】
しかも、上述のように、インバータの駆動を180度通電ワンパルス駆動とPWM駆動とに切り替えられるようにすることで、インバータを、より効率の良い駆動方式で駆動することができる。したがって、モータをより効率良く駆動させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一実施形態に係るモータ駆動制御装置は、電圧位相指令に基づいて、スイッチング回路の出力電圧を推定する第1出力電圧推定部と、前記第1出力電圧推定部によって推定された前記スイッチング回路の出力電圧に基づいて、前記モータの回転位置を推定する位置推定部と、前記位置推定部によって推定された前記回転位置を用いて、前記スイッチング回路に矩形波の電圧を出力させる制御信号を生成する制御信号生成部と、を備える。
【0027】
これにより、電流制御系の演算を行わない180度通電ワンパルス駆動においても、モータの回転位置の推定を精度良く行うことができる。したがって、位置センサレス制御によってモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、180度通電ワンパルス駆動を行う場合でも、位置推定系の位置推定誤差を低減して安定した制御を行うことができる構成が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施形態1に係るモータ駆動制御装置の概略構成を示す制御ブロック図である。
図2図2は、インバータの概略構成を示す回路図である。
図3図3は、180度通電ワンパルス駆動における各スイッチング素子のスイッチング状態を示す図である。
図4図4は、180度通電ワンパルス駆動において、電圧位相指令がπのときの各スイッチング素子のスイッチング状態の一例を示す図である。
図5図5は、第1パターンの場合に、例えばスイッチング素子SW1がオン状態で且つスイッチング素子SW2がオフ状態のときのu相の出力電圧を示す図である。
図6図6は、第1パターンの場合に、例えばスイッチング素子SW1がオフ状態で且つスイッチング素子SW2がオン状態のときのu相の出力電圧を示す図である。
図7図7は、第2パターンの場合に、例えばスイッチング素子SW1がオンした状態からスイッチング素子SW2がオンした状態に切り替えるときのu相の出力電圧を示す図である。
図8図8は、第2パターンの場合に、例えばスイッチング素子SW2がオンした状態からスイッチング素子SW1がオンした状態に切り替えるときのu相の出力電圧を示す図である。
図9図9は、実施形態2に係るモータ駆動制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図10図10は、PWM駆動制御部及びワンパルス駆動制御部を有するモータ駆動制御装置の概略構成の一例を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0030】
[実施形態1]
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態1に係るモータ駆動制御装置1の概略構成を示すブロック図である。モータ駆動制御装置1は、モータ2を駆動制御するインバータ3(スイッチング回路)を、目標速度ωref及びモータ電流検出値Iuvw_adに応じて、180度通電ワンパルス駆動で駆動させる。
【0031】
モータ2は、三相交流モータである。すなわち、モータ2には、インバータ3から、三相の電流Iuvwが入力される。モータ2の構成は、従来の構成と同様である。よって、モータ2の構成については、説明を省略する。なお、モータ2は、三相交流モータ以外の構成を有するモータであってもよい。
【0032】
インバータ3は、モータ駆動制御装置1から出力されるゲート信号に応じて、モータ2に対して三相の電流を出力する。図2は、インバータ3の回路構成の一例を示す回路図である。図2に示すように、インバータ3は、三相フルブリッジ回路の各相を構成する複数のスイッチング素子SW1~SW6を有する。図2に示す例では、スイッチング素子SW1とスイッチング素子SW2とが電気的に直列に接続されていて、スイッチング素子SW3とスイッチング素子SW4とが電気的に直列に接続されていて、スイッチング素子SW5とスイッチング素子SW6とが電気的に直列に接続されている。それらの中点が、それぞれモータ2に電気的に接続されている。なお、図2に示す例では、インバータ3に直流電圧Vdcが印加されている。
【0033】
インバータ3のスイッチング素子SW1~SW6は、モータ駆動制御装置1のゲート信号切替部42から出力されるゲート信号に応じて、スイッチング状態が切り替えられる。前記ゲート信号は、180度通電ワンパルス駆動の場合、図3に示すように、後述する電圧位相指令θrefが60度変わるごとに、スイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態を切り替えるような信号である。すなわち、インバータ3のスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態は、後述する電圧位相指令θrefに応じて決まっている。
【0034】
なお、前記ゲート信号が、インバータ3に矩形波の電圧を出力させる制御信号に対応する。
【0035】
モータ駆動制御装置1は、インバータ3の出力電流を用いてモータ2の回転位置を推定し、その推定結果を用いて、インバータ3を180度通電ワンパルス駆動するためのゲート信号を生成した後、該ゲート信号をインバータ3に出力する。なお、特に図示しないが、モータ駆動制御装置1は、PWM駆動に用いられるキャリア周波数に同期した制御周期毎に、演算を行っている。
【0036】
モータ駆動制御装置1は、速度制御演算部11と、第1出力電圧推定部12と、位置推定部13と、制御信号生成部14と、アナログ信号取得部15とを有する。
【0037】
速度制御演算部11は、目標速度ωref及び位置推定部13によって推定されたモータ2の推定速度ωestから、進角量θadvanceを算出する。具体的には、速度制御演算部11は、目標速度ωrefに対する推定速度ωestの差分に基づいて、進角量θadvanceを算出する。速度制御演算部11は、例えば、PI制御器やI制御器などによって構成されている。
【0038】
第1出力電圧推定部12は、速度制御演算部11から出力される進角量θadvance及び位置推定部13によって推定されたモータ2の推定位置θestを用いて、インバータ3の推定出力電圧Vest_uvw_out(出力電圧)を推定する。この推定出力電圧Vest_uvw_outは、位置推定部13の演算に用いられる。なお、推定位置θestは、位置推定部13によって推定されたモータ2の回転子の磁極位置である。
【0039】
第1出力電圧推定部12は、加算器21と、スイッチングタイミング推定部22と、推定出力電圧演算部23とを有する。
【0040】
加算器21は、速度制御演算部11から出力される進角量θadvanceに、位置推定部13によって推定されたモータ2の推定位置θestを加算して、電圧位相指令θrefを求める。
【0041】
スイッチングタイミング推定部22は、加算器21によって算出された電圧位相指令θref及び位置推定部13によって推定されたモータ2の推定速度ωestを用いて、インバータ3のスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態が切り替わるタイミング(以下、スイッチングタイミングという)を推定する。具体的には、スイッチングタイミング推定部22は、電圧位相指令θref及び推定速度ωestを用いて、次の制御周期における処理タイミングから、インバータ3のスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態が切り替えられるタイミングまでの時間Tsw(以下、切替タイミング時間という)を算出する。
【0042】
より詳しくは、スイッチングタイミング推定部22は、図3に示す180度通電ワンパルス駆動におけるスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態から、以下の各式を用いて、切替タイミング時間Tswを求める。
(1)0≦θref<π/3のとき
Tsw=(π/3-θref)/ωest
(2)π/3≦θref<2π/3のとき
Tsw=(2π/3-θref)/ωest
(3)2π/3≦θref<πのとき
Tsw=(π-θref)/ωest
(4)π≦θref<4π/3のとき
Tsw=(4π/3-θref)/ωest
(5)4π/3≦θref<5π/3のとき
Tsw=(5π/3-θref)/ωest
(6)5π/3≦θref<2πのとき
Tsw=(2π-θref)/ωest
【0043】
スイッチングタイミング推定部22から出力される切替タイミング時間Tswは、推定出力電圧演算部23及び後述の内部タイマ41に入力される。すなわち、切替タイミング時間Tswは、インバータ3の推定出力電圧Vest_uvw_outを求める際に用いられるとともに、制御信号生成部14でゲート信号を生成する際に用いられる。
【0044】
推定出力電圧演算部23は、スイッチングタイミング推定部22から出力される切替タイミング時間Tswを用いて、インバータ3の推定出力電圧Vest_uvw_outを求める。具体的には、推定出力電圧演算部23は、図3に示す180度通電ワンパルス駆動におけるスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態と、スイッチングタイミング推定部22から出力される切替タイミング時間Tswとを用いて、次の制御周期の処理開始タイミングから、その次の制御周期の処理開始タイミングまでの間(以下、処理開始タイミングの間隔Tfixという)のインバータ3の出力電圧の波形を推定する。そして、推定出力電圧演算部23は、推定した出力電圧の波形に基づいて次の制御周期内での出力電圧の平均値を求め、この値を推定出力電圧Vest_uvw_outとする。推定出力電圧Vest_uvw_outは、u相の推定出力電圧、v相の推定出力電圧及びw相の推定出力電圧を含む。なお、前記処理開始タイミングは、各制御周期において演算処理を開始するタイミングを意味する。
【0045】
推定出力電圧演算部23は、スイッチング状態推定部24と、電圧算出部25とを有する。
【0046】
スイッチング状態推定部24は、図3に示す180度通電ワンパルス駆動におけるスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態に基づいて、処理開始タイミングの間隔Tfixにおけるインバータ3の出力電圧の波形を推定する。具体的には、スイッチング状態推定部24は、処理開始タイミングの間隔Tfixにおけるインバータ3の出力電圧の波形が、後述するような第1パターン及び第2パターンの2種類のパターンのうち、いずれのパターンであるかを推定して、その推定結果を電圧算出部25に信号出力する。
【0047】
電圧算出部25は、スイッチング状態推定部24によって推定された出力電圧のパターンの結果に基づいて次の制御周期内での出力電圧の平均値を求め、この値を推定出力電圧Vest_uvw_outとする。
【0048】
図4は、180度通電ワンパルス駆動において、電圧位相指令θrefがπのときの各スイッチング素子のスイッチング状態の一例を示す図である。図4に一例を示すように、インバータ3を180度通電ワンパルス駆動させる場合、処理開始タイミングの間隔Tfixにおけるインバータ3の出力電圧の波形は、以下の2つのパターンに分けられる。
【0049】
第1パターンは、処理開始タイミングの間隔Tfixで、全ての相のスイッチング素子のスイッチング状態が一定であるパターンである。このパターンの場合には、切替タイミング時間Tswが、処理開始タイミングの間隔Tfixよりも大きい。
【0050】
図5は、前記第1パターンの場合に、例えばスイッチング素子SW1がオン状態で且つスイッチング素子SW2がオフ状態のときのu相の出力電圧を示す図である。この場合には、処理開始タイミングの間隔Tfixにおけるインバータ3のu相の出力電圧は、インバータ3に入力される直流電圧Vdcの半分であるVdc/2で一定である。よって、電圧算出部25は、処理開始タイミングの間隔Tfixにおけるu相の出力電圧の平均値であるVdc/2を、u相の推定出力電圧として出力する。
【0051】
図6は、前記第1パターンの場合に、例えばスイッチング素子SW1がオフ状態で且つスイッチング素子SW2がオン状態のときのu相の出力電圧を示す図である。この場合には、処理開始タイミングの間隔Tfixにおけるインバータ3のu相の出力電圧は、-Vdc/2で一定である。よって、推定出力電圧演算部23は、処理開始タイミングの間隔Tfixにおけるu相の出力電圧の平均値である-Vdc/2を、u相の推定出力電圧として出力する。
【0052】
なお、電圧算出部25は、前記第1パターンの場合におけるインバータ3のv相及びw相の推定出力電圧についても、上述のu相の推定出力電圧と同様に求めて出力する。
【0053】
第2パターンは、処理開始タイミングの間隔Tfixで、一つの相のスイッチング素子のスイッチング状態が変化するパターンである。このパターンの場合には、切替タイミング時間Tswが、処理開始タイミングの間隔Tfixよりも小さい。
【0054】
前記第2パターンの場合には、切替タイミング時間Tswを経過した時点で、一つの相のスイッチング素子のスイッチング状態を切り替える。この場合、例えば、図7に示すように、スイッチング素子SW1がオンした状態からスイッチング素子SW2がオンした状態に切り替えると、インバータ3におけるu相の出力電圧は、Vdc/2から-Vdc/2に変化する。このときの処理開始タイミングの間隔Tfixにおけるu相の出力電圧の平均値Vave_uは、下式(7)によって求められる。
Vave_u={Tsw×Vdc/2+(Tfix-Tsw)×(-Vdc/2)}/Tfix (7)
【0055】
電圧算出部25は、u相の出力電圧の平均値Vave_uを、u相の推定出力電圧として出力する。
【0056】
一方、例えば、図8に示すように、スイッチング素子SW2がオンした状態からスイッチング素子SW1がオンした状態に切り替えると、インバータ3におけるu相の出力電圧は、-Vdc/2からVdc/2に変化する。このときの処理開始タイミングの間隔Tfixにおけるu相の出力電圧の平均値Vave_uは、下式(8)によって求められる。
Vave_u={Tsw×(-Vdc/2)+(Tfix-Tsw)×Vdc/2}/Tfix (8)
【0057】
電圧算出部25は、u相の出力電圧の平均値Vave_uを、u相の推定出力電圧として出力する。
【0058】
なお、前記第2パターンの場合には、処理開始タイミングの間隔Tfixにおいて、スイッチング素子のスイッチング状態を切り替える相は、インバータ3の三相のうち一つの相である。したがって、処理開始タイミングの間隔Tfixにおいて、上述のようにu相のスイッチング素子のスイッチング状態を切り替えた場合には、v相及びw相のスイッチング素子のスイッチング状態を切り替えることはない。よって、スイッチング状態が切り替わる相以外の相の推定出力電圧は、第1パターンと同様である。例えば、v相の推定出力電圧は、-Vdc/2であり、w相の推定出力電圧は、Vdc/2である。
【0059】
電圧算出部25は、前記第2パターンの場合で且つv相のスイッチング素子のスイッチング状態を切り替えた場合におけるv相の推定出力電圧、または、前記第2パターンの場合で且つw相のスイッチング素子のスイッチング状態を切り替えた場合におけるw相の推定出力電圧についても、それぞれ、上述のu相の推定出力電圧と同様に求めて出力することができる。
【0060】
以上のように、推定出力電圧演算部23は、スイッチングタイミング推定部22から出力される切替タイミング時間Tswを用いて、インバータ3の推定出力電圧Vest_uvw_outを求めることができる。
【0061】
位置推定部13は、推定出力電圧演算部23から出力された推定出力電圧Vest_uvw_out及び後述するアナログ信号取得部15によって取得されたモータ電流検出値Iuvw_adを用いて、モータ2の回転速度及び回転位置を推定する。すなわち、位置推定部13は、推定出力電圧Vest_uvw_out及びモータ電流検出値Iuvw_adを用いて、モータ2の推定速度ωest及び推定位置θestを求める。位置推定部13は、いわゆる位置推定オブザーバである。位置推定部13は、推定出力電圧Vest_uvw_out及びモータ電流検出値Iuvw_adを用いて、モータ2の推定速度ωest及び推定位置θestを推定可能な構成であれば、どのような構成を有していてもよい。
【0062】
アナログ信号取得部15は、モータ2の電流を検出した結果を、モータ電流検出値Iuvw_adとして、位置推定部13に出力する。モータ電流検出値Iuvw_adは、u相のモータ電流検出値、v相のモータ電流検出値及びw相のモータ電流検出値を含む。
【0063】
制御信号生成部14は、スイッチングタイミング推定部22から出力された切替タイミング時間Tswを用いて、インバータ3に入力するゲート信号を生成する。制御信号生成部14は、内部タイマ41と、ゲート信号切替部42とを有する。
【0064】
内部タイマ41は、スイッチングタイミング推定部22から出力された切替タイミング時間Tswでゲート信号切替部42に対する割り込み信号を発生するように、カウントを行う。すなわち、内部タイマ41は、切替タイミング時間Tswで、ゲート信号切替部42に対し、インバータ3のスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態を切り替えるような割り込み信号を出力する。
【0065】
以上のようなモータ駆動制御装置1の構成により、モータ2の目標速度ωref、位置推定部13によって得られたモータ2の推定速度ωest及び推定位置θestを用いて、電圧位相指令θrefを得ることができる。
【0066】
また、電圧位相指令θrefに基づいて、インバータ3のスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態が切り替わるタイミングを推定することができ、インバータ3の推定出力電圧Vest_uvw_outが得られる。得られた推定出力電圧Vest_uvw_out及びモータ電流検出値Iuvw_adにより、位置推定部13は、モータ2の推定速度ωest及び推定位置θestを求めることができる。
【0067】
よって、180度通電ワンパルス駆動を行うモータ駆動制御装置1において、電流制御系の演算を行うことなく、位置推定部13によって、モータ2の推定速度ωest及び推定位置θestを求めることができる。
【0068】
本実施形態では、モータ駆動制御装置1は、複数のスイッチング素子SW1~SW6を有するインバータ3の駆動を制御することにより、インバータ3から電力供給されるモータ2の駆動を制御するモータ駆動制御装置である。このモータ駆動制御装置1は、電圧位相指令θrefに基づいて、インバータ3の出力電圧を推定する第1出力電圧推定部12と、第1出力電圧推定部12によって推定されたインバータ3の出力電圧に基づいて、モータ2の回転位置を推定する位置推定部13と、位置推定部13によって推定された前記回転位置を用いて、インバータ3に矩形波の電圧を出力させるゲート信号を生成する制御信号生成部14と、を備える。
【0069】
上述の構成では、電圧位相指令θrefに基づいて、第1出力電圧推定部12によって、インバータ3の出力電圧を推定できる。よって、位置センサレス制御によってモータ2の駆動を制御するモータ駆動制御装置1において、インバータ3に矩形波の電圧を出力させる180度通電ワンパルス駆動を行う場合に、電流制御系の演算を行うことなく、位置推定部13に入力する出力電圧を推定することができる。
【0070】
したがって、第1出力電圧推定部12によって推定されたインバータ3の出力電圧を位置推定部13に入力することにより、電流制御系の演算を行わない180度通電ワンパルス駆動においても、モータ2の回転位置の推定を精度良く行うことができる。これにより、位置センサレス制御によってモータ2の駆動を制御するモータ駆動制御装置1において、180度通電ワンパルス駆動を行う場合でも、位置推定系の位置推定誤差を低減して安定した制御を行うことができる構成が得られる。
【0071】
第1出力電圧推定部12は、電圧位相指令θrefに基づいて、インバータ3における複数のスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態の切替タイミングを推定するスイッチングタイミング推定部22と、スイッチングタイミング推定部22によって推定された前記切替タイミングに応じて、所定の演算周期ごとに、インバータ3の出力電圧を求める推定出力電圧演算部23と、を有する。本実施形態では、前記所定の演算周期は、処理開始タイミングの間隔Tfixである。なお、前記所定の演算周期は、処理開始タイミングの間隔Tfix以外の周期であってもよい。
【0072】
これにより、電圧位相指令θrefに基づく、インバータ3における複数のスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態の切替タイミングの推定結果に応じて、演算周期ごとに、インバータ3の出力電圧を求めることができる。よって、前記切替タイミングを考慮して、インバータ3の出力電圧を精度良く求めることができる。
【0073】
したがって、位置センサレス制御によってモータ2の駆動を制御するモータ駆動制御装置1において、180度通電ワンパルス駆動を行う場合に、位置推定系の位置推定誤差をより確実に低減することができる。よって、180度通電ワンパルス駆動の制御をより安定して行うことができる。
【0074】
本実施形態では、推定出力電圧演算部23は、前記切替タイミングから、次の演算周期及びその次の演算周期における複数のスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態を推定するスイッチング状態推定部と、スイッチング状態推定部によって推定された複数のスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態に応じて、インバータ3の出力電圧を算出する電圧算出部と、を有する。
【0075】
これにより、次の演算周期及びその次の演算周期におけるスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態を推定し、その推定結果に応じてインバータ3の出力電圧を算出することができる。よって、次の演算周期及びその次の演算周期におけるスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態を考慮して、インバータ3の出力電圧をより精度良く求めることができる。
【0076】
したがって、位置センサレス制御によってモータ2の駆動を制御するモータ駆動制御装置1において、180度通電ワンパルス駆動を行う場合に、位置推定系の位置推定誤差をより確実に低減することができる。よって、180度通電ワンパルス駆動の制御をより安定して行うことができる。
【0077】
[実施形態2]
図9は、本発明の実施形態2に係るモータ駆動制御装置100の概略構成を示すブロック図である。モータ駆動制御装置100は、PWM駆動の場合と180度通電ワンパルス駆動の場合とによって、位置推定部13に入力する入力電圧Vuvw_outを切り替える点で、実施形態1の構成とは異なる。よって、以下では、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる部分についてのみ説明する。
【0078】
図9に示すように、モータ駆動制御装置100は、PWM駆動用速度制御演算部101と、ワンパルス駆動用速度制御演算部102と、第1出力電圧推定部12と、電流制御演算部111(第2出力電圧推定部)と、入力電圧セレクタ112と、位置推定部13と、制御信号生成部121と、アナログ信号取得部115とを有する。なお、特に図示しないが、モータ駆動制御装置100も、実施形態1のモータ駆動制御装置1と同様、PWM駆動に用いられるキャリア周波数に同期した制御周期毎に、演算を行っている。
【0079】
PWM駆動用速度制御演算部101は、目標速度ωref及び位置推定部13によって推定された推定速度ωestから、電流指令Idq_refを生成する。具体的には、PWM駆動用速度制御演算部101は、目標速度ωrefに対する推定速度ωestの差分に基づいて、電流指令Idq_refを生成する。電流指令Idq_refは、d軸の電流指令及びq軸の電流指令を含む。PWM駆動用速度制御演算部101は、従来の構成と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0080】
ワンパルス駆動用速度制御演算部102は、実施形態1の速度制御演算部11と同様の構成を有する。よって、ワンパルス駆動用速度制御演算部102は、目標速度ωrefに対する推定速度ωestの差分に基づいて、進角量を算出する。ワンパルス駆動用速度制御演算部102の詳しい構成については、説明を省略する。
【0081】
電流制御演算部111は、PWM駆動用速度制御演算部101から出力された電流指令Idq_ref及びアナログ信号取得部115によって取得されたモータ電流検出値Idq_adを用いて、PWM駆動時のインバータ3の出力電圧を推定する。詳しくは、電流制御演算部111は、電流指令Idq_refに対するモータ電流検出値Idq_adの差分に基づいて、PWM駆動時のインバータ3の推定出力電圧Vest_pwm_out(出力電圧)を求める。推定出力電圧Vest_pwm_outは、u相の推定出力電圧、v相の推定出力電圧及びw相の推定出力電圧を含む。この電流制御演算部111の構成も、従来の構成と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0082】
入力電圧セレクタ112は、インバータ3の駆動方式に応じて、第1出力電圧推定部12から出力された推定出力電圧Vest_uvw_out及び電流制御演算部111から出力された推定出力電圧Vest_pwm_outのうち一方を選択して出力する。すなわち、入力電圧セレクタ112は、インバータ3が180度通電ワンパルス駆動している場合には、第1出力電圧推定部12から出力された推定出力電圧Vest_uvw_outを、位置推定部13の入力電圧Vuvw_outとして、位置推定部13に対して出力し、インバータ3がPWM駆動している場合には、電流制御演算部111から出力された推定出力電圧Vest_pwm_outを、位置推定部13に対して出力する。
【0083】
入力電圧セレクタ112には、図示しないコントローラから選択指令信号が入力される。具体的には、インバータ3がPWM駆動している場合には、例えば、前記コントローラから入力電圧セレクタ112に対して前記選択指令信号としてゼロが入力され、インバータ3が180度通電ワンパルス駆動している場合には、例えば、前記コントローラから入力電圧セレクタ112に対して前記選択指令信号として1が入力される。前記選択指令信号は、ゼロ及び1以外の信号であってもよい。
【0084】
位置推定部13は、入力電圧セレクタ112から出力された推定出力電圧及びアナログ信号取得部115から出力されたモータ電流検出値Idq_adを用いて、モータ2の推定速度ωest及び推定位置θestを求める。アナログ信号取得部115は、モータの三相の出力電流Iuvwを、d軸のモータ電流検出値及びq軸のモータ電流検出値を含むモータ電流検出値Idq_adに変換する。
【0085】
制御信号生成部121は、PWM駆動用のゲート信号及び180度通電ワンパルス駆動用のゲート信号を生成して、インバータ3の駆動方式に応じて、インバータ3に対して前記ゲート信号を出力する。制御信号生成部121は、PWM駆動する場合には、電流制御演算部111によって生成された推定出力電圧Vest_pwm_outを用いて生成されたゲート信号を、インバータ3に出力し、180度通電ワンパルス駆動する場合には、スイッチングタイミング推定部22によって生成された切替タイミング時間Tswを用いて生成されたゲート信号を、インバータ3に出力する。
【0086】
詳しくは、制御信号生成部121は、PWMモジュール122と、内部タイマ41と、ゲート信号切替部42と、ゲート信号セレクタ123とを有する。
【0087】
PWMモジュール122は、電流制御演算部111から出力された推定出力電圧Vest_pwm_outを用いて、PWM信号であるゲート信号を生成する。具体的には、PWMモジュール122は、キャリア周波数と推定出力電圧Vest_pwm_outとを比較し、その比較結果に基づいて、インバータ3の複数のスイッチング素子SW1~SW6を駆動させるゲート信号を生成して出力する。PWMモジュール122は、PWM信号を生成するPWM信号生成部である。PWMモジュール122の構成は、従来の構成と同様である。
【0088】
ゲート信号セレクタ123は、インバータ3の駆動方式に応じて、PWMモジュール122から出力されるゲート信号及びゲート信号切替部42から出力されるゲート信号のうち、一方を選択して、インバータ3に出力する。具体的には、ゲート信号セレクタ123は、インバータ3をPWM駆動する場合には、PWMモジュール122から出力されるゲート信号を、インバータ3に出力し、インバータ3を180度通電ワンパルス駆動する場合には、ゲート信号切替部42から出力されるゲート信号を、インバータ3に出力する。
【0089】
ゲート信号セレクタ123には、図示しないコントローラから選択指令信号が入力される。具体的には、インバータ3がPWM駆動している場合には、前記コントローラからゲート信号セレクタ123に対して前記選択指令信号としてゼロが入力され、インバータ3が180度通電ワンパルス駆動している場合には、前記コントローラからゲート信号セレクタ123に対して前記選択指令信号として1が入力される。前記選択指令信号は、ゼロ及び1以外の信号であってもよい。
【0090】
以上より、本実施形態のモータ駆動制御装置100は、電流指令Idq_refに基づいて、インバータ3の出力電圧を推定する電流制御演算部111と、電流制御演算部111によって推定された前記出力電圧を用いて、インバータ3における複数のスイッチング素子SW1~SW6を駆動させるためのPWM信号を生成するPWMモジュール122と、インバータ3に対して矩形波の電圧を出力させる駆動制御を行う場合には、第1出力電圧推定部12によって推定された前記出力電圧を位置推定部13に入力する一方、インバータ3に対して前記PWM信号による駆動制御を行う場合には、電流制御演算部111によって推定された前記出力電圧を位置推定部13に入力する入力電圧セレクタ112と、をさらに備える。
【0091】
これにより、インバータ3の駆動がPWM駆動であるか180度通電ワンパルス駆動であるかに応じて、入力電圧セレクタ112によって、位置推定部13に入力する出力電圧を切り替えることができる。すなわち、インバータ3の駆動がPWM駆動の場合には、電流指令に基づいてインバータ3の出力電圧を推定する一方、インバータ3の駆動が180度通電ワンパルス駆動の場合には、電圧位相指令に基づいてインバータ3の出力電圧を推定する。
【0092】
このように、インバータ3の駆動方式に応じて推定された出力電圧を、インバータ3の駆動方式に応じて入力電圧セレクタ112によって選択し、位置推定部13に入力することにより、インバータ3の駆動が180度通電ワンパルス駆動の場合だけでなく、PWM駆動の場合でも、位置推定系の位置推定誤差を低減することができる。したがって、PWM駆動及び180度通電ワンパルス駆動の制御を安定して行うことができる。
【0093】
しかも、上述のように、インバータ3の駆動を180度通電ワンパルス駆動とPWM駆動とに切り替えられるようにすることで、インバータ3を、より効率の良い駆動方式で駆動することができる。したがって、モータ2をより効率良く駆動させることができる。
【0094】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0095】
前記各実施形態では、モータ駆動制御装置1,100は、PWM駆動に用いられるキャリア周波数に同期した制御周期毎に、演算を行っている。しかしながら、モータ駆動制御装置は、キャリア周波数以外の周期で演算を行ってもよい。
【0096】
前記各実施形態では、制御信号生成部14,121は、内部タイマ41から、ゲート信号切替部42に対して割り込み信号を出力することにより、インバータ3のスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング状態を切り替えるゲート信号を生成する。しかしながら、制御信号生成部は、180度通電ワンパルス駆動を実現するゲート信号を生成可能な構成であれば、他の構成を有していてもよい。
【0097】
前記各実施形態では、3相交流モータ2の駆動を制御するモータ駆動制御装置1の構成について説明したが、この限りではなく、3相以外の複数相の交流モータの駆動を制御する制御装置に適用してもよい。すなわち、モータ2は、同期電動機であれば、どのような構成を有していてもよい。
【0098】
前記実施形態2では、モータ駆動制御装置100は、入力電圧セレクタ112と、ゲート信号セレクタ123とを有する。しかしながら、モータ駆動制御装置は、PWM駆動時には、PWM駆動制御部から、インバータに対してゲート信号を出力するとともに位置推定部に対して推定出力電圧を出力し、180度通電ワンパルス駆動時には、ワンパルス駆動制御部から、インバータに対してゲート信号を出力するとともに位置推定部に対して推定出力電圧を出力してもよい。
【0099】
図10は、PWM駆動制御部201及びワンパルス駆動制御部202を有するモータ駆動制御装置200の概略構成の一例を示す制御ブロック図である。以下の説明において、実施形態1、2と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0100】
図10に示すように、PWM駆動制御部201は、PWM駆動用速度制御演算部101と、電流制御演算部111と、PWMモジュール122とを有する。ワンパルス駆動制御部202は、ワンパルス駆動用速度制御演算部102と、第1出力電圧推定部12と、制御信号生成部14とを有する。
【0101】
PWM駆動制御部201は、インバータ3をPWM駆動する場合には、PWMモジュール122からインバータ3に対してゲート信号を出力するとともに、電流制御演算部111から位置推定部13に対して推定出力電圧Vest_pwm_outを出力する。このとき、ワンパルス駆動制御部202は、インバータ3及び位置推定部13に対して信号出力しない。
【0102】
ワンパルス駆動制御部202は、インバータ3を180度通電ワンパルス駆動する場合には、ゲート信号切替部42からインバータ3に対してゲート信号を出力するとともに、第1出力電圧推定部12から位置推定部13に対して推定出力電圧Vest_uvw_outを出力する。このとき、PWM駆動制御部201は、インバータ3及び位置推定部13に対して信号出力しない。
【0103】
以上のように、位置推定部13には、インバータ3に対して矩形波の電圧を出力させる駆動制御を行う場合に、第1出力電圧推定部12によって推定された推定出力電圧Vest_uvw_out(出力電圧)が入力される一方、インバータ3に対してPWM信号による駆動制御を行う場合に、電流制御演算部111によって推定された推定出力電圧Vest_pwm_out(出力電圧)が入力される。
【0104】
これにより、インバータ3の駆動がPWM駆動であるか180度通電ワンパルス駆動であるかに応じて、位置推定部13に入力される推定出力電圧を切り替えることができる。すなわち、モータ駆動制御装置200は、インバータ3の駆動がPWM駆動の場合には、電流指令に基づいてインバータ3の出力電圧を推定する一方、インバータ3の駆動が180度通電ワンパルス駆動の場合には、電圧位相指令に基づいてインバータ3の出力電圧を推定する。
【0105】
このように、インバータ3の駆動方式に応じて推定された出力電圧を、インバータ3の駆動方式に応じて位置推定部13に入力することにより、インバータ3の駆動が180度通電ワンパルス駆動の場合だけでなく、PWM駆動の場合でも、位置推定系の位置推定誤差を低減することができる。したがって、PWM駆動及び180度通電ワンパルス駆動の制御を安定して行うことができる。
【0106】
しかも、上述のように、インバータ3の駆動を180度通電ワンパルス駆動とPWM駆動とに切り替えられるようにすることで、インバータ3を、より効率の良い駆動方式で駆動することができる。したがって、モータ2をより効率良く駆動させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、複数のスイッチング素子を有するスイッチング回路の駆動を制御することにより、前記スイッチング回路から電力供給されるモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0108】
1、100、200 モータ駆動制御装置
2 モータ
3 インバータ(スイッチング回路)
11 速度制御演算部
12 第1出力電圧推定部
13 位置推定部
14、121 制御信号生成部
15、115 アナログ信号取得部
21 加算器
22 スイッチングタイミング推定部
23 推定出力電圧演算部
24 スイッチング状態推定部
25 電圧算出部
41 内部タイマ
42 ゲート信号切替部
101 PWM駆動用速度制御演算部
102 ワンパルス駆動用速度制御演算部
111 電流制御演算部(第2出力電圧推定部)
112 入力電圧セレクタ
122 PWMモジュール(PWM信号生成部)
123 ゲート信号セレクタ
201 PWM駆動制御部
202 ワンパルス駆動制御部
SW1~SW6 スイッチング素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10