(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006398
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】逆浸透膜の脱塩性能回復方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/10 20060101AFI20230111BHJP
B01D 65/06 20060101ALI20230111BHJP
B01D 71/16 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B01D61/10
B01D65/06
B01D71/16
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108976
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堀 孝義
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】上戸 龍
(72)【発明者】
【氏名】横川 翔
(72)【発明者】
【氏名】勝西 純久
(72)【発明者】
【氏名】植田 篤斉
(72)【発明者】
【氏名】桝井 貴裕
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006JA53Z
4D006JA57Z
4D006JA67Z
4D006KA02
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4D006MC18
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4D006MC55
4D006PA01
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】プラントの運転停止時間を短くでき、薬品の使用量も少なくできる、逆浸透膜の脱塩性能回復方法を提供する。
【解決手段】逆浸透膜の脱塩性能回復方法は、洗浄液を循環させて逆浸透膜に洗浄液を接触させる洗浄工程と、循環中の前記洗浄液に回復剤を添加し、前記回復剤を前記逆浸透膜に接触させる回復工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を循環させて逆浸透膜に洗浄液を接触させる洗浄工程と、
循環中の前記洗浄液に回復剤を添加し、前記回復剤を前記逆浸透膜に接触させる回復工程と、
を備えた、逆浸透膜の脱塩性能回復方法。
【請求項2】
前記逆浸透膜の構成材料に酢酸セルロースが含まれ、
前記洗浄液にクエン酸が含まれ、
前記回復剤に、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールが含まれる、
請求項1に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法。
【請求項3】
前記クエン酸の濃度が0.3質量%以上2.2質量%以下であり、
前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度が1%以上である、
請求項2に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法。
【請求項4】
前記回復工程に要する時間は、前記洗浄工程に要する時間よりも短い、
請求項1から3のいずれか一項に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法。
【請求項5】
前記回復工程に要する時間は、前記洗浄工程に要する時間の50%以下である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法。
【請求項6】
洗浄液が貯蔵された洗浄液タンクと、
前記洗浄液タンク及び逆浸透膜容器を含み、前記洗浄液が循環するように設けられた循環ラインと、
前記循環ラインに接続され、前記洗浄液に回復剤を添加するように設けられた回復剤添加ラインと、
を備えた、
逆浸透膜の脱塩性能回復装置。
【請求項7】
前記循環ラインは、前記洗浄液タンクの下流に設けられた循環ポンプを含み、
前記回復剤添加ラインは、前記洗浄液タンクと前記循環ポンプとの間に接続される、請求項6に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、逆浸透膜の脱塩性能回復方法及び逆浸透膜の脱塩性能回復装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された逆浸透膜の脱塩性能回復方法には、逆浸透膜に洗浄液を接触させる洗浄工程と洗浄工程の後に逆浸透膜に回復液を接触させる回復工程とが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された逆浸透膜の脱塩性能回復方法では、洗浄工程の終了後に洗浄液を排出してから回復液を調製・接触させるために、洗浄工程の終了から回復工程の開始・終了までに時間が必要となり、洗浄工程の開始から回復工程の終了までに長時間を要していた。また、洗浄工程と回復工程が異なることから洗浄液と回復液とに使用する薬品を別々に用意する必要があり、使用する薬品も多大なものとなっていた。
【0005】
本開示は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、洗浄工程の開始から回復工程の終了までに要する時間を短くでき、洗浄工程と回復工程で同じ薬剤を使用する場合は、薬品の使用量も少なくできる、逆浸透膜の脱塩性能回復方法及び逆浸透膜の脱塩性能回復装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法は、
洗浄液を循環させて逆浸透膜に洗浄液を接触させる洗浄工程と、
循環中の前記洗浄液に回復剤を添加し、前記回復剤を前記逆浸透膜に接触させる回復工程と、
を備える。
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置は、
洗浄液が貯蔵された洗浄液タンクと、
前記洗浄液タンク及び逆浸透膜容器を含み、前記洗浄液が循環するように設けられた循環ラインと、
前記循環ラインに接続され、前記洗浄液に回復剤を添加するように設けられた回復剤添加ラインと、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の逆浸透膜の脱塩性能回復方法によれば、循環中の洗浄液に回復剤を添加させ、回復剤を逆浸透膜に接触させることで、十分な回復性能が得られるので、使用済みの洗浄液の排出と回復液の調製に要する時間の分だけ洗浄工程の開始から回復工程の終了までに要する時間を短くできる。また、新たに回復液を調製する必要がなくなるので、洗浄工程と回復工程で同じ薬剤を使用する場合は、両工程共に使用する薬品の使用量を少なくできる。
【0009】
本開示の逆浸透膜の脱塩性能回復装置によれば、回復剤添加ラインが循環ラインに接続されているので、循環ラインを循環中の洗浄液に回復剤を添加し回復液とすることができる。そして、循環中の洗浄液に回復剤を添加すれば、回復剤が逆浸透膜に接触し、十分な回復性能が得られる。これにより、使用済みの洗浄液の排出と回復液の調製の必要がなくなり、洗浄工程の開始から回復工程の終了までに要する時間を短くできる。また、新たに回復液を調製する必要がないので、洗浄工程と回復工程で同じ薬剤を使用する場合は、両工程共に使用する薬品の使用量を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置の構成を概略的に示す模式図である。
【
図2】逆浸透膜の脱塩性能回復効果の検証試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法及び逆浸透膜の脱塩性能回復装置について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0012】
<実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置1の構成>
図1は、実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置1の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置1は、逆浸透膜を洗浄するための洗浄液CLが貯蔵される洗浄液タンク3、洗浄液タンク3と逆浸透膜容器2との間で洗浄液CLが循環する循環ライン4及び循環ライン4に接続される回復剤添加ライン5を備える。
【0013】
逆浸透膜容器2に収容される逆浸透膜の構成材料は特に限定されないが、洗浄液CLによる逆浸透膜の劣化を極力抑制する観点から酢酸セルロース、三酢酸セルロース、硝酸セルロース、セルロース等のセルロース系高分子、及び、ポリアミド、芳香族ポリアミド等のポリアミド系高分子から選択される材料であることが好ましい。
【0014】
洗浄液タンク3には、洗浄液CLを加熱するヒータ31を設けてもよい。洗浄液タンク3に貯蔵される洗浄液CLは淡水に洗浄薬剤を添加した常温または好ましくは45°C以上60°以下に加熱した洗浄水であり、逆浸透膜の劣化を抑えつつ十分な洗浄力を得ることができる。洗浄水の温度は、洗浄液CLの加熱に要するエネルギを節約する観点、逆浸透膜の物性変化を予防する観点等から、45°C以上60°C以下が好ましく、48°C以上55°C以下がより好ましく、50°C以上54°C以下が更に好ましい。
【0015】
従来の洗浄液には、洗浄力を高める目的で次亜塩素酸や過酸化水素等の酸化剤が含まれていることが一般的であるが、本実施形態に係る洗浄水には、次亜塩素酸や過酸化水素等のラジカルを発生しやすい酸化剤が含まれないことが好ましい。これは、洗浄水が酸化剤を含むと、逆浸透膜の酸化劣化を著しく促進してしまうからである。但し、極めて低濃度であれば、本実施形態に係る洗浄水に次亜塩素酸や過酸化水素等の酸化剤が含まれていてもよい。具体的な含有濃度としては、例えば、好適には0.001~1.0質量%、より好適には0.01~0.1質量%である。
【0016】
洗浄水のpHは、強酸もしくは強アルカリの条件になるほど洗浄効果が得られる一方、強酸もしくは強アルカリの条件になるほど膜劣化が進行する傾向がある。このため、洗浄水のpHは、pH3.5~5.5が好ましく、pH4.0~5.5がより好ましく、pH4.0~5.0がさらに好ましい。pHを調整する方法は特に限定されず、例えば、塩酸や硫酸等の無機酸、水酸化ナトリウムや水酸化マグネシウム等のアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0017】
洗浄水には、有機酸を含ませてもよい。有機酸は酸化剤よりも膜劣化の原因になり難く、洗浄効果を高めることができる。好適な有機酸として、例えば、クエン酸、ホスホン酸、グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ギ酸、シュウ酸等が挙げられる。本実施形態の洗浄水には、ここで例示した複数の有機酸からなる群から選択される1種以上の有機酸が含まれていてもよい。有機酸は、アンモニウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等のカウンターカチオンを有する有機酸塩として含まれていてもよい。
【0018】
洗浄水に含まれる有機酸の濃度は特に限定されず、膜劣化をより充分に抑制できる範囲で、使用する有機酸の種類によって適宜設定できる。好適な有機酸の濃度範囲は、例えば、0.001~5.0質量%(0.01~50g/L)が好ましく、0.01~3.0質量%(0.1~30g/L)がより好ましく、0.02~2.0質量%(0.2~20g/L)がさらに好ましい。
【0019】
洗浄水に含まれる有機酸は、洗浄効果を高め、膜劣化を十分に抑制する観点から、クエン酸であることが好ましい。クエン酸はカウンターカチオンと対になるクエン酸塩の形態で含まれていてもよい。カウンターカチオンは特に限定されず、例えば、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等のカチオンが挙げられる。一例として、洗浄水にクエン酸を所定量加えた後、アンモニアを滴下することにより、例えばpH3.0~5.5に調整したクエン酸及びクエン酸アンモニウム塩を含む洗浄水を得ることができる。
【0020】
洗浄水にクエン酸及びクエン酸塩の少なくとも一方が含まれる場合、クエン酸濃度として、2.0~22g/Lの範囲で含まれることが好ましい。クエン酸を含む洗浄水1L当たりのクエン酸及びクエン酸塩の含有量は、クエン酸の質量に換算して、3.0~22gが好ましく、5.0~20gがより好ましく、7.0~15gがさらに好ましい。この範囲を質量基準の%に変換すると、洗浄水100%に対して、クエン酸含有量は、0.3~2.2%が好ましく、0.5~2.0%がより好ましく、0.7~1.5%がさらに好ましい。
【0021】
循環ライン4は、洗浄液タンク3及び逆浸透膜容器2を含んでいる。循環ライン4には循環ポンプ41が設けられ、循環ライン4に洗浄液CLを循環させる。例えば、循環ポンプ41には化学洗浄用の循環ポンプ41が用いられるが、これに限られるものではない。また、循環ライン4にはフィルタ42が設けられてもよい。循環ライン4にフィルタ42が設けられた場合には、洗浄液CLに含まれる固形物が取り除かれる。例えば、フィルタ42にはカートリッジ式のフィルタ42が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0022】
回復剤添加ライン5は、循環ライン4を流れる洗浄液CLに回復剤RFを添加するように、洗浄液タンク3と循環ポンプ41との間に接続される。このように接続されると、回復剤RFを循環ポンプ41の吸い込み口に少しずつ注入して混合することができ、洗浄液CL中における回復剤RFの濃度のムラを抑制できる。回復剤添加ライン5には、回復剤容器51及び回復剤ポンプ52が設けられ、回復剤ポンプ52によって回復剤容器51に貯蔵された回復剤RFが循環中の洗浄液CLに添加される。
【0023】
循環中の洗浄液CLに添加される回復剤RFは、逆浸透膜の脱塩性能回復剤である。逆浸透膜の構成材料に酢酸セルロースが含まれる膜(以下「酢酸セルロース膜」という)は、アセチル基を有しており、このアセチル基が酢酸セルロース膜の脱塩性能に寄与している。酢酸セルロース膜が逆浸透膜として使用されると、使用時間の経過とともにアセチル基が加水分解により減少して水酸基が増加し(酢酸セルロース膜が変質し)、酢酸セルロース膜の脱塩性能が低下する。よって、逆浸透膜の構成材料に酢酸セルロースが用いられる場合に、回復剤RFに、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールを含むものとする。酢酸セルロース膜に残っている疎水性のアセチル基と変性ポリビニルアルコールの疎水性のアセチル基はともに疎水性を有しているために互いに吸着されやすい。よって、回復剤RFに変性ポリビニルアルコールを含むものとすると、酢酸セルロース膜に残っている疎水性のアセチル基に変性ポリビニルアルコールの疎水性のアセチル基が吸着され、酢酸セルロース膜が効果的にコーティングされる(逆浸透膜の脱塩性能が回復する)。
【0024】
ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールには、ポリビニルアルコールの少なくとも一部の水酸基の水素原子をアセチル基に置換した構造を有する変性ポリビニルアルコールが含まれる。循環中の洗浄液CLに添加される回復剤RFは、変性ポリビニルアルコールとともに、溶媒として、例えば、水を含んでいる。この場合、溶媒(水)及び水に添加された水中に分散した変性ポリビニルアルコールが循環中の洗浄液CLに添加される回復剤RFを構成する。
【0025】
変性ポリビニルアルコールのアセチル化度1%以上が好ましく、15%以上30%以下がより好ましい。アセチル化度は、変性ポリビニルアルコールの水酸基のモル量をA、変性ポリビニルアルコールのアセチル基のモル量をBとして場合に、B/(A+B)を百分率で表した値で定義される。尚、変性ポリビニルアルコールのアセチル化度30%は、変性ポリビニルアルコールが水中で分散できるアセチル化度の上限値である。
【0026】
変性ポリビニルアルコールを含む回復剤のpHは、3~9が好ましく、pH3~8がより好ましく、pH4~6がさらに好ましい。
【0027】
<実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置1の動作>
実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置1では、脱塩性能を回復する逆浸透膜が逆浸透膜容器2に収容され、実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法が実行される。実施形態に係る脱塩性能回復方法は、洗浄工程及び回復工程を備えている。
【0028】
洗浄工程は、洗浄液CLを循環させて逆浸透膜に洗浄液CLを接触させる工程である。洗浄工程では、循環ポンプ41を稼働することによって、洗浄液タンク3に貯蔵された洗浄液CLが循環ポンプ41を通り逆浸透膜容器2に供給され、逆浸透膜に洗浄液CLが接触する。そして、逆浸透膜に接触し逆浸透膜を通過した洗浄液CLは、逆浸透膜容器2から排出され、洗浄液タンク3に回収される。これにより、洗浄液タンク3及び逆浸透膜容器2を含む循環ライン4に洗浄液CLが循環し、逆浸透膜に洗浄液CLが接触させられる。
【0029】
洗浄水を逆浸透膜に接触させる時間、すなわち洗浄時間は、長くなるほど洗浄効果が得られる一方、長くなるほど膜劣化が進行する傾向がある。これにより、洗浄時間は2~12時間が好ましく、4~10時間がより好ましく、4~8時間がさらに好ましい。
【0030】
回復工程は、循環中の洗浄液CLに回復剤RFを添加し、回復剤RFを逆浸透膜に接触させる工程である。回復工程では、循環ポンプ41を稼働したまま回復剤ポンプ52を稼働することによって、循環ライン4を循環中の洗浄液CLに回復剤RFが添加される。洗浄液CLに添加された回復剤RFは循環ポンプ41及びフィルタ42を通り逆浸透膜容器2に供給され、逆浸透膜に回復剤RFが接触する。
【0031】
循環中の洗浄液CLに添加された回復剤RFを逆浸透膜に接触させる時間、すなわち回復時間は、洗浄時間よりも短いことが好ましく、洗浄時間の50%以下がより好ましく、たとえば、1~3時間が好ましい。
【0032】
<逆浸透膜の脱塩性能回復効果の検証試験>
逆浸透膜の脱塩性能回復効果の検証試験として、実施形態に係る脱塩性能回復方法に含まれる実施例と、実施形態に係る脱塩性能回復方法と異なる比較例1及び2を行った。
【0033】
この逆浸透膜の脱塩性能回復効果の検証試験には、
図1に示した実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置1を用いている。この検証試験に用いている逆浸透膜の構成材料はいずれも酢酸セルロースであり、同一である。洗浄液CL(洗浄水)に含まれるクエン酸の濃度はいずれも1.0~2.0質量%であり、同一である。また、洗浄液CL(洗浄水)の温度はいずれも54°Cであり、同一である。回復剤RFはいずれもポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールであり、同一である。尚、変性ポリビニルアルコールのアセチル化度は、実施例、比較例1及び2において同一である。
【0034】
実施例に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法では、6時間の洗浄工程後に循環中の洗浄液CLに回復剤RFを添加し2時間の回復工程が行われる。6時間の洗浄工程では洗浄液CLを循環させることで逆浸透膜に洗浄液CLが接触し、2時間の回復工程では循環中の洗浄液CLに回復剤RFを添加した洗浄液CLを循環させることで逆浸透膜に回復剤RFが接触する。2時間の回復工程では洗浄と回復を兼ねてもよい。
【0035】
比較例1に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法は、6時間の洗浄工程後に6時間の回復工程が行われる。6時間の洗浄工程では洗浄液CLを循環させることで逆浸透膜に洗浄液CLが接触する。6時間の洗浄工程が終了すると使用済みの洗浄液CLを排出する。6時間の回復工程では新たに回復液を調製し循環させることで逆浸透膜に回復液(回復剤RF)が接触する。尚、この検証試験において回復液は、洗浄液CLに回復剤RFを添加したものが用いられている。
【0036】
比較例2に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法は、洗浄工程と回復工程を同時に進行させる方法である。比較例2に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法では、回復剤RFを添加した洗浄液CLを循環させることで洗浄工程と回復工程を同時に進行させる。これにより、逆浸透膜に洗浄液CLと回復剤RFとが接触する。
【0037】
図2に、実施例、比較例1及び2の検証試験の結果を示す。
図2に示すB値は、塩透過係数(B-value)であり、逆浸透膜における溶質の透過性を示す係数であり、一般に、溶質透過流速Js=B値×(膜面の溶質濃度Cm-透過水の溶質濃度Cp)の関係式で表される。また、
図2に示す変化率は、処理前のB値に対する処理後のB値の値であり、例えば、B値の変化率が-40と-50とでは後者(-50)の方が逆浸透膜の回復効果が大きいことを意味する。
【0038】
図2に示すように、実施例のB値の変化率は-52であり、比較例1のB値の変化率は-51である。実施例のB値の変化率は、比較例1のB値の変化率と差がなく(僅かに上回っているが誤差の範囲であると考えられる)、同等の回復性能が得られている。よって、実施形態に係る脱塩性能回復方法は、比較例1の脱塩性能回復方法と同等の脱塩性能回復効果が得られる。
【0039】
比較例2のB値の変化率は-41であり、比較例1のB値の変化率は-51である。比較例2のB値の変化率は、比較例1の変化率よりも小さく、十分な回復効果が得られていない。よって、比較例2に係る脱塩性能回復方法は、実施例及び比較例1と同等の脱塩性能回復効果が得られない。
【0040】
上記したように、実施形態に係る脱塩性能回復方法は、比較例1の脱塩性能回復方法と同等の脱塩性能回復効果が得られるので、洗浄工程の終了後に使用済みの洗浄液CLを排出し、回復液を調製する必要がなくなり、使用済みの洗浄液CLの排出と回復液の調製に要する時間の分だけ洗浄工程の開始から回復工程の終了までに要する時間を短くできる。また、使用済みの洗浄液CLを排出し、回復液を調製する必要がないので、洗浄工程と回復工程で同じ薬剤を使用する場合は、薬品(例えば、クエン酸)の使用量を少なくできる。
【0041】
<実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置1の効果>
実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置1によれば、回復剤添加ライン5が循環ライン4に接続されているので、循環ライン4を循環中の洗浄液CLに回復剤RFを添加することができる。そして、循環中の洗浄液CLに回復剤RFを添加すれば、回復剤RFが逆浸透膜に接触し、十分な回復性能が得られる。これにより、使用済みの洗浄液の排出と回復液の調製の必要がなくなり、洗浄工程の開始から回復工程の終了までに要する時間を短くできる。また、回復液を調製する必要がないので、洗浄工程と回復工程で同じ薬剤を使用する場合は、薬品の使用量を少なくできる。
【0042】
回復剤添加ライン5は、洗浄液CLの下流であって循環ライン4に設けられた循環ポンプ41の上流に接続されるので、回復剤RFを循環ポンプ41の吸い込み口に少しずつ注入して混合することができ、洗浄液CL中における回復剤RFの濃度のムラを抑制できる。
【0043】
<実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法の効果>
実施形態に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法によれば、循環中の洗浄液CLに回復剤RFを添加させ、回復剤RFを逆浸透膜に接触させることで、十分な回復性能が得られるので、使用済みの洗浄液の排出と新たな回復液の調製に要する時間の分だけ洗浄工程の開始から回復工程の終了までに要する時間を短くできる。また、新たに回復液を調製する必要がなくなるので、洗浄工程と回復工程で同じ薬剤を使用する場合は、薬品の使用量を少なくできる。
【0044】
洗浄液CLにクエン酸が含まれるので、洗浄効果が高められ、膜劣化が抑制される。また、回復剤RFに、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールを含むことにすることで、酢酸セルロース膜に残っている疎水性のアセチル基に変性ポリビニルアルコールの疎水性のアセチル基が吸着され、酢酸セルロース膜が効果的にコーティングされる(逆浸透膜の脱塩性能が回復する)。
【0045】
また、回復工程に要する時間は、洗浄工程に要する時間の50%以下で、十分な回復性能が得られるので、薬液の入れ替えに要する時間を除いても、脱塩性能回復方法に要する時間を短くできる。
【0046】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0047】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば、以下のように把握される。
【0048】
[1]の態様に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法は、
洗浄液(CL)を循環させて逆浸透膜に洗浄液(CL)を接触させる洗浄工程と、
循環中の前記洗浄液(CL)に回復剤(RF)を添加し、前記回復剤(RF)を前記逆浸透膜に接触させる回復工程と、
を備える。
【0049】
このような方法によれば、循環中の洗浄液(CL)に回復剤(RF)を添加させ、回復剤(RF)を逆浸透膜に接触させることで、十分な回復性能が得られるので、使用済みの洗浄液(CL)の排出と回復液の調製に要する時間の分だけ洗浄工程の開始から回復工程の終了までに要する時間を短くできる。また、新たに回復液を調製する必要がなくなるので、洗浄工程と回復工程で同じ薬剤を使用する場合は、薬品の使用量を少なくできる。
【0050】
[2]別の態様に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法は、[1]に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法であって、
前記逆浸透膜の構成材料に酢酸セルロースが含まれ、
前記洗浄液(CL)にクエン酸が含まれ、
前記回復剤(RF)に、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールが含まれる。
【0051】
このような方法によれば、洗浄液(CL)にクエン酸が含まれるので、洗浄効果が高められ、膜劣化が抑制される。また、酢酸セルロースを構成材料に含む酢酸セルロース膜は、アセチル基を有しており、このアセチル基が酢酸セルロース膜の脱塩性能に寄与している。酢酸セルロース膜は、使用時間の経過とともにアセチル基が加水分解により減少して水酸基が増加し(酢酸セルロース膜が変質し)、酢酸セルロース膜の脱塩性能が低下する。よって、回復剤(RF)に、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有するポリビニルアルコールが含まれることで、酢酸セルロース膜に残っているアセチル基に回復剤(RF)に含まれるアセチル基が吸着され、酢酸セルロース膜が効果的にコーティングされる。
【0052】
[3]別の態様に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法は、[1]又は[2]に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法であって、
前記クエン酸の濃度が0.3%以上2.2%以下であり、
前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度が1%以上である。
【0053】
このような方法によれば、洗浄効果を高めつつ膜劣化を抑制でき、逆浸透膜の回復効果を十分に得ることができる。
【0054】
[4]別の態様に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法は、[1]から[3]のいずれか一つに記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法であって、
前記回復工程に要する時間は、前記洗浄工程に要する時間よりも短い。
【0055】
このような方法によれば、回復工程に要する時間は、従来の回復工程に要する時間よりも短いので、洗浄工程の開始から回復工程の終了までに要する時間を短くできる。
【0056】
[5]別の態様に係る逆浸透膜の脱塩性能回復方法は、[1]から[4]のいずれか一つに記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法であって、
前記回復工程に要する時間は、前記洗浄工程に要する時間の50%以下である。
【0057】
このような方法によれば、回復工程に要する時間は、洗浄工程に要する時間の50%以下で、十分な回復性能が得られるので、洗浄工程の開始から回復工程の終了までに要する時間を短くできる。
【0058】
[6]の態様に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置(1)は、
洗浄液(CL)が貯蔵された洗浄液タンク(3)と、
前記洗浄液タンク(3)及び逆浸透膜容器(2)を含み、前記洗浄液(CL)が循環するように設けられた循環ライン(4)と、
前記循環ライン(4)に接続され、前記洗浄液(CL)に回復剤(RF)を添加するように設けられた回復剤添加ライン(5)と、
を備える。
【0059】
このような構成によれば、回復剤添加ライン(5)が循環ライン(4)に接続されているので、循環ライン(4)を循環中の洗浄液(CL)に回復剤(RF)を添加することができる。そして、循環中の洗浄液(CL)に回復剤(RF)を添加すれば、回復剤(RF)が逆浸透膜に接触し、十分な回復性能が得られる。これにより、使用済みの洗浄液の排出と回復液の調製が必要なくなり、洗浄工程の開始から回復工程の終了までに要する時間を短くできる。また、回復液を調製する必要がないので、洗浄工程と回復工程で同じ薬剤を使用する場合は、薬品の使用量を少なくできる。
【0060】
[7]の態様に係る逆浸透膜の脱塩性能回復装置(1)は、[6]に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復装置(1)であって、前記循環ライン(4)は、前記洗浄タンク(3)の下流に設けられた循環ポンプ(41)を含み、前記回復剤添加ライン(5)は、前記洗浄液タンク(3)と前記循環ポンプ(41)との間に上流に接続される。
【0061】
このような構成によれば、回復剤添加ライン(5)は、洗浄液タンク(3)と循環ポンプ(41)との間に接続されるので、回復剤(RF)を循環ポンプ(41)の吸い込み口に少しずつ注入することができ、洗浄液(CL)中における回復剤(RF)の濃度のムラを抑制できる。
【符号の説明】
【0062】
1 逆浸透膜の脱塩性能回復装置
2 逆浸透膜容器
3 洗浄液タンク
31 ヒータ
4 循環ライン
41 循環ポンプ
42 フィルタ
5 回復剤添加ライン
51 回復剤容器
52 回復剤ポンプ
CL 洗浄液
RF 回復剤
【手続補正書】
【提出日】2022-11-11
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を循環させて逆浸透膜に洗浄液を接触させる洗浄工程と、
循環中の前記洗浄液に回復剤を添加し、前記回復剤を前記逆浸透膜に接触させる回復工程と、
を備えた、逆浸透膜の脱塩性能回復方法。
【請求項2】
前記逆浸透膜の構成材料に酢酸セルロースが含まれ、
前記洗浄液にクエン酸が含まれ、
前記回復剤に、ポリビニルアルコールの少なくとも一部にアセチル基構造を有する変性ポリビニルアルコールが含まれる、
請求項1に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法。
【請求項3】
前記クエン酸の濃度が0.3質量%以上2.2質量%以下であり、
前記変性ポリビニルアルコールのアセチル化度が1%以上である、
請求項2に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法。
【請求項4】
前記回復工程に要する時間は、前記洗浄工程に要する時間よりも短い、
請求項1から3のいずれか一項に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法。
【請求項5】
前記回復工程に要する時間は、前記洗浄工程に要する時間の50%以下である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の逆浸透膜の脱塩性能回復方法。