(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063996
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】偏心回転体の軸受摩擦指標の決定方法及び偏心回転体の変動回転指標の決定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/04 20190101AFI20230428BHJP
【FI】
G01M13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174165
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】521467906
【氏名又は名称】笹藏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笹 俊博
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AC00
2G024BA01
2G024BA11
2G024CA08
2G024CA09
2G024CA12
2G024CA30
2G024DA09
2G024DA30
2G024EA13
2G024FA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】慣性モーメントや摩擦トルクと変動回転指標と軸受摩擦指標を精度よく求める。
【解決手段】本発明の軸受摩擦指標値の測定方法は、回転角度θ
j+1[rad]、平均軸受摩擦指標である[-2(T
fm/I)][rad/s
2]の値を、それぞれ以下の式から求め、
平均回転角速度ω
m[rad/s]を、
の値とし、偏心回転体がJ回転する間の測定区間を1または複数に分割し、分割測定区間における平均軸受摩擦指標と平均回転角速度を計算し、各分割測定区間における平均軸受摩擦指標と平均回転角速度の関係を表す近似式を求める。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる軸受に回転可能に支持された偏心回転体に回転トルクを付与することにより該偏心回転体を回転させ、
前記回転トルクの付与を停止し、前記偏心回転体の自走回転による回転開始後の任意の時点である測定開始から該偏心回転体がJ(Jは整数)回転する間における該偏心回転体の単位角度Δθ[rad]あたりの回転時間Δt[s] または速度を逐次測定し、
前記単位角度Δθ[rad]と前記回転時間Δt[s] 、または前記単位角度Δθ[rad]と前記速度とから前記偏心回転体がJ回転する間における回転角度と回転角速度を逐次求めることにより、軸受摩擦を表す指標である軸受摩擦指標を決定する方法であって、
前記偏心回転体が1回転する間にn回(n=2π/Δθ、nは整数)ずつ前記回転時間Δt[s]を測定するとして、前記偏心回転体がJ回転するまでの測定回数2Jπ/Δθのうち前記測定の解析開始時における回転角度をθ
1[rad]、その時の回転角速度をω
1[rad/s]とし、j番目の測定直後における回転角度をθ
j+1 [rad]、その時の回転角速度をω
j+1 [rad/s]とし、解析開始時からk回転(kは整数)した直後の回転角速度をω
nk+1 [rad/s]とし、前記軸受の平均摩擦トルクをT
fm、前記偏心回転体の慣性モーメントをIとしたとき、
前記回転角度θ
j+1 [rad]を以下の式から求め、
【数1】
平均軸受摩擦指標である[-2(T
fm/I)][rad/s
2]の値を以下の式から求め、
【数2】
平均回転角速度ω
m [rad/s]を、
【数3】
の値とし、
前記偏心回転体がJ回転する間の測定区間を1または複数に分割し、分割測定区間における平均軸受摩擦指標と平均回転角速度を計算し、各分割測定区間における平均軸受摩擦指標と平均回転角速度の関係を表す近似式を求める、軸受摩擦指標決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受摩擦指標決定方法において、
前記近似式から、瞬時の回転角速度ω[rad/s]に対する瞬時の軸受摩擦指標[-2(Tf/I)][rad/s2]の関係を求める、軸受摩擦指標決定方法。
【請求項3】
測定対象となる軸受に回転可能に支持された偏心回転体に回転トルクを付与することにより該偏心回転体を回転させ、
前記回転トルクの付与を停止し、前記偏心回転体が自走回転による回転後、測定開始後J(Jは整数)回転する間における該偏心回転体の単位角度Δθ[rad]あたりの回転時間Δt[s]または速度を逐次測定し、
前記単位角度Δθ[rad]と前記回転時間Δt[s]、または前記単位角度Δθ[rad]と前記速度とから前記偏心回転体がJ回転する間における回転角度と回転角速度を逐次求めることにより、変動回転指標を決定する方法であって、
前記回転時間の測定開始時における前記偏心回転体の回転中心と重心とを結ぶ線と水平線とのなす角度をθ
0、前記測定開始を基準に測定した値のうち、データ解析開始の回転角度をθ
1、その時の回転角速度をω
1としたとき、測定開始からの角度θと、測定した回転角速度ω
1の2乗であるω
1
2と、軸受摩擦指標である[-2T
f/I]とを次式に代入してEの値を求め、
【数8】
回転角速度ωの2乗と上記Eの値との差分である[ω
2-E]の値を求め、該差分の変動の中心が0になるように、該差分値にCの値を導入した[ω
2-E+C]を、
以下の[数9]を前提に、測定開始からの角度θに関する振幅Aの三角関数-A sin(θ+θ
0)を用いて近似し、
【数9】
上記式に基づく振幅Aの三角関数近似から求められた前記振幅Aの値を偏心回転体の変動回転指標Aとして決定するとともに、位相差θ
0を決定する、変動回転指標決定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の変動回転指標決定方法において、
瞬時の軸受摩擦指標の回転角度に対する積分の値を、平均軸受摩擦指標と回転角度を用いて表された以下の式で近似する、変動回転指標決定方法。
【数41】
【請求項5】
測定対象となる軸受に回転可能に支持された偏心回転体に回転トルクを付与することにより該偏心回転体を回転させ、
前記回転トルクの付与を停止し、前記偏心回転体が自走回転による回転後、測定開始後J(Jは整数)回転する間における該偏心回転体の単位角度Δθ[rad]あたりの回転時間Δt[s]または速度を逐次測定し、
前記単位角度Δθ[rad]と前記回転時間Δt[s]、または前記単位角度Δθ[rad]と前記速度とから前記偏心回転体がJ回転する間における回転角度と回転角速度を逐次求めることにより、変動回転指標を決定する方法であって、
前記回転時間の測定開始時における前記偏心回転体の回転中心と重心とを結ぶ線と水平線とのなす角度をθ
0、前記測定開始を基準に測定のうちデータ解析開始の回転角度をθ
1、その時の回転角速度をω
1としたとき、測定開始からの角度θと、測定した回転角速度ω
1の2乗であるω
1
2 と、平均軸受摩擦指標である[-2T
fm/I]とを次式に代入してEの値を求め、
【数11】
回転角速度ωの2乗と上記Eの値との差分である[ω
2-E]の値を求め、該差分の変動の中心が0になるように、該差分値にCの値を導入した[ω
2-E+C]を、
以下の[数9]を前提に、測定開始からの角度θに関する振幅Aの三角関数-A sin(θ+θ
0)を用いて近似し、
【数9】
上記式に基づく振幅Aの三角関数近似から求められた前記振幅Aの値を偏心回転体の変動回転指標Aとして決定するとともに、位相差θ
0を決定する、変動回転指標決定方法。
【請求項6】
請求項3~5のいずれかに記載の変動回転指標決定方法において数値決定した前記変動回転指標Aと回転体の持つ各量との関係を、以下の式(1)で記述し、前記変動回転指標Aと式(1)を用いて、回転体の持つ量M、g、r
g、Iのうちのいずれかの量を決定する方法。
【数10】
なお、式(1)において、Iは偏心回転体の慣性モーメント、Mは偏心回転体の質量、gは重力加速度、r
g(但し、r
g>0)は偏心回転体の重心と回転中心との距離を表す。
【請求項7】
請求項3~5のいずれかに記載の変動回転指標決定方法で変動回転指標Aを求めるとともに、請求項6に記載の方法で該変動回転指標Aから偏心回転体の慣性モーメントIを求め、該慣性モーメントIと請求項1に記載の方法によって求めた平均軸受摩擦指標[-2Tfm/I]とから平均摩擦トルクを決定し、さらに前記慣性モーメントIと請求項2の関係により決定した軸受摩擦指標[-2Tf/I]とから摩擦トルクを決定する、摩擦トルク決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角速度測定から偏心回転体の重力、慣性モーメントの変動回転指標と軸受摩擦を表す指標の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン、タービン、モータ等の回転機械、車輪やタイヤでは慣性モーメントが性能に影響する重要な物理量である。また、摩擦の測定も必要である。慣性モーメントはCADの進歩により設計図面から計算出来、重要であるにもかかわらず、測定されていない。また、例えば第三者の回転機械のように、設計図面を入手できない回転機械の場合は実際に測定しなければ慣性モーメントを求めることができない。したがって、回転機械の性能比較のために汎用性に優れた慣性モーメントの測定法に対する要求は高い。慣性モーメントの測定法の一つに、回転体に巻き付けたひもにおもりを取付け、おもりの落下時の落下時間をストップウォッチ等で計測し、その測定時間から慣性モーメントを推定する方法があるが、この方法では落下状況の測定が難しい。また、軸受の摩擦が測定誤差の要因となり正確に測定できない。
【0003】
エンジン、タービン、モータ等の回転機械に使用されている軸受の性能評価試験の一つに摩擦試験がある。摩擦試験では、回転時の回転軸や軸受等の構造体のトルク(摩擦トルク)を測定するが、従来の摩擦試験では、それら構造体のひずみをひずみゲージで測定し、このひずみから摩擦トルクを求める方法が採用されていた。ところが、ひずみゲージは、摩擦のような微小トルクによる応力に対する感度が低い。また、残留ひずみによりゼロ点移動しやすく、摩擦測定時に軸や軸受など構造体に発生する振動や衝撃による変形に伴うひずみによっても誤差が発生し易い。また、市販のトルク計には軸の微小なねじり変形を、光学系を用いて測定することもあるが、微小なトルク測定に向かない。
【0004】
上記の慣性モーメント測定の問題点を解消する方法として、回転体に巻き付けたひもにおもりを取付け落下時の落下時間をフォトトランジスタの信号を用いて時間測定する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、高精度の時間測定が可能である。
【0005】
また、上記摩擦測定の問題点を解消する方法として、軸受に支持された回転体を定常回転させた後、その慣性力で自走回転させ、自走開始点から停止点までの時間と回転体の回転角度との関係から摩擦トルクを求める方法が提案されている(特許文献2,3参照)。
【0006】
回転体に巻き付けたひもにおもりを取付けて落下させる方法の本質的な問題は回転体を支える軸受と回転体の間に摩擦が発生し、これが落下時の速度に依存して変化することである。特許文献1の方法では上記の問題が解決されておらず、測定した落下時間に基づく慣性モーメントの推定値に、摩擦の影響を受ける。
特許文献2,3の方法では、回転体の回転角速度や角加速度に関係なく摩擦抵抗を一定として摩擦トルクを求めているが、軸受内の潤滑油膜は、ニュートン流体の粘性の性質に従いせん断抵抗と速度が比例する。そのため、回転体の回転角速度や回転角加速度が変化して軸と軸受との間の相対速度が変化すると潤滑油膜のせん断抵抗が変化し、それに伴い摩擦抵抗が変化する。上記方法では、このような摩擦抵抗の変化が考慮されていないため、高い精度で摩擦トルクを測定することができない。
【0007】
これに対して、特許文献4には、測定対象の軸受に回転可能に支持された回転体に回転トルクを付与して回転させた後、回転トルクの付与を停止したときの前記回転体の自走回転時の回転角速度の変化、即ち回転角加速度を求め、その回転角加速度と前記回転体の慣性モーメントとから摩擦トルクを求める方法が記載されている。また、特許文献4には、回転体が偏心質量である場合の回転変動から慣性モーメントを測定する方法についても記載されている。特許文献4に記載されている方法では、慣性モーメントが未知の回転体に、慣性モーメント、質量、重心位置が既知の偏心おもりを付加して回転組立体を構成し、この回転組立体の慣性モーメントを測定する。そして、測定された慣性モーメントから偏心おもりの既知の慣性モーメントを除算して回転体の慣性モーメントを求め、また同時にその回転体の瞬時の回転速度に対応した摩擦トルクを求める。つまり、この方法では、慣性モーメントと摩擦トルクが同時に測定される。特許文献4の手法は、回転の変動と減衰を利用して慣性モーメント測定の誤差要因である摩擦トルクを状況に即して測定することから、特許文献1~3の誤差要因を直接的でかつ同時に解決する先進的で高精度な測定法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭53-148487号公報
【特許文献2】特開平11-142263号公報
【特許文献3】特開平11-241957号公報
【特許文献4】特開2014-157159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4に記載の方法では、光学式またはインダクタンス式の回転角検出装置(ロータリーエンコーダ)で回転体の回転角度と時間の関係を測定し、その測定結果から回転角速度と回転角加速度を演算したり、光学式回転計、磁界式回転計、ドップラー効果による速度計の測定値を利用して回転体の回転角速度を求め、データサンプリングの時間間隔と回転角速度の変化から回転角加速度を求めたりしている。上述した回転角検出装置、回転計、速度計では、回転体と非接触で回転角度、回転角速度を測定するため、軸や軸受等の構造体に発生する振動や衝撃の影響を排除することができる。
【0010】
特許文献4に記載の方法は回転角度と時間測定が誤差なく行われる場合には物理的・数学的に完全な方法であるが、工学的・技術的には製作誤差と測定誤差という現実の問題がある。回転角度と時間の関係、又は回転角速度の測定結果から回転角加速度を算出しているが、この場合、回転角度と時間の関係や回転角速度の測定値に含まれる誤差が回転角加速度を算出する際の数値差分時に増幅される。特許文献4の手法では、ロータリーエンコーダの製作誤差(または角速度測定精度)を、測定する回転角度の±0.02%以内にすべきことが実験で明らかとなり、回転体の慣性モーメントと摩擦トルクを精度よく求めるためには原測定における誤差を0.02%以内にすることが必要要件である。しかし、測定角度間隔が1°の廉価なロータリーエンコーダで製作誤差をこの範囲内にすることは現実的には不可能であるという問題があった。
【0011】
なお、ここでは回転体の慣性モーメントと軸受の摩擦トルクを求める場合を例に挙げて説明したが、回転体の慣性モーメントと摩擦トルクを算出するための式やその式に含まれる係数等、回転変動に関連する値等(重心、重力)を求める場合も同様の問題があった。本明細書では、回転体の慣性モーメントと軸受摩擦に関連する値等を変動回転指標と軸受摩擦指標と呼ぶこととする。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、回転角検出装置(ロータリーエンコーダ)の製作誤差に対して角加速度を使わない強靭な計算式とデータ処理法により、より精度の高い慣性モーメントや摩擦トルクと変動回転指標と軸受摩擦指標を精度よく求めることである。また、特許文献4では測定分割角度を15°以下の小さい側に取っているが、これを1°、さらにはもっと小さい値とすることを目指し、製作誤差率が増大しても、その影響に対して強靭な計算式とデータ処理法、さらには重心の方向など、実験(測定)開始トリガ(ロータリーエンコーダのz相パルス)や偏心質量の取り付け方向(ロータリーエンコーダのz相パルス発生時の偏心質量の重心方向の水平からの角度)なども自動的にデータ処理する便利な計算法を提示することである。これは装置組み立時の精度調整が不要となり作業時間と調整の手間を著しく短くでき、実験後のデータ解析にとっても都合が良い。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係る軸受摩擦指標の決定方法は、
測定対象となる軸受に回転可能に支持された偏心回転体に回転トルクを付与することにより該偏心回転体を回転させ、
前記回転トルクの付与を停止し、前記偏心回転体の自走回転による回転開始後の任意の時点である測定開始から該偏心回転体がJ(Jは整数)回転する間における該偏心回転体の単位角度Δθ[rad]あたりの回転時間Δt[s] または速度を逐次測定し、
前記単位角度Δθ[rad]と前記回転時間Δt[s] 、または前記単位角度Δθ[rad]と前記速度とから前記偏心回転体がJ回転する間における回転角度と回転角速度を逐次求めることにより、軸受摩擦を表す指標(軸受摩擦指標)を決定する方法であって、
前記偏心回転体が1回転する間にn回(n=2π/Δθ、nは整数)ずつ前記回転時間Δt[s]を測定するとして、前記偏心回転体がJ回転するまでの測定回数2Jπ/Δθのうち前記測定の解析開始時における回転角度をθ
1[rad]、その時の回転角速度をω
1[rad/s]とし、j番目の測定直後における回転角度をθ
j+1 [rad]、その時の回転角速度をω
j+1 [rad/s]とし、解析開始時からk回転(kは整数)した直後の回転角速度をω
nk+1 [rad/s]とし、前記軸受の平均摩擦トルクをT
fm、前記偏心回転体の慣性モーメントをIとしたとき、
前記回転角度θ
j+1 [rad]を以下の式から求め、
【数1】
平均軸受摩擦指標である [-2(T
fm/I)][rad/s
2]の値を以下の式から求め、
【数2】
平均回転角速度ω
m [rad/s]を、
【数3】
の値とし、
前記偏心回転体がJ回転する間の測定区間を1または複数に分割し、分割測定区間における平均軸受摩擦指標と平均回転角速度を計算し、各分割測定区間における平均軸受摩擦指標と平均回転角速度の関係を表す近似式を求めるものである。
【0014】
上記の軸受摩擦指標決定方法において、k=1の場合、平均軸受摩擦指標及び平均回転角速度はそれぞれ次の式で表される。
【数4】
【数5】
より厳密には
【数6】
としても良い。
また、1回転のうねり変動を考慮し、半回転の値ω
n/2+1を加えた簡易的平均化により平均回転角速度を求めてもよい。例えば、平均回転角速度は、
【数7】
の値とすることができる。
【0015】
上記の軸受摩擦指標決定方法においては、各分割測定区間における平均軸受摩擦指標と平均回転角速度の関係を表す近似式から瞬時の回転角速度による瞬時の軸受摩擦指標を求めることができる。
具体的には、平均軸受摩擦指標である[-2Tfm/I]を平均回転角速度ωmの関数としての近似式で表すと、これを瞬時の軸受摩擦指標[-2Tf/I]と角速度ωの関係として用いることができる。すなわち近似式を関数Funcとすると、
Tfm = Func(ωm)
としたとき、
Tf = Func(ω)
と表すことができる。
【0016】
上記の軸受摩擦指標の測定方法において、「逐次測定する」、「逐次求める」、「逐次算出する」の「逐次」とは、「単位角度毎に」の意味である。したがって、自走回転により偏心回転体が回転する間における該偏心回転体の回転角度1°あたりの回転時間を測定する場合は、回転角速度、[-2Tfm/I]も、それぞれ回転角度1°毎の回転角速度の値とそこから1回転先の回転角速度の値から計算することになる。J回転であれば最初の計算から1°おきに計算区間を移動し、(J-1)×360個の[-2Tfm/I]とωmを計算することになる。
【0017】
また、偏心回転体とは、重心が回転中心軸上に位置しない回転体をいう。偏心回転体は、軸受に回転可能に支持された回転中心軸上に重心が位置する軸と、該軸に取り付けられた、重心が回転中心軸上にない偏心おもりとから構成することができる。
【0018】
偏心回転体の大きさや重量(質量)、重心位置が分かれば該偏心回転体の慣性モーメントIを算出することができる。この場合は、上記[-2T
fm/I]とω
mとの関係を表すグラフから求められる近似式から、平均摩擦トルクT
fmを算出することができる。
また、
図9~11に示すように、1回転の平均的な角速度と平均的な摩擦との関係から、微小回転角(今回は1°)ごとに変化する角速度に基づく摩擦を計算し、瞬時値と1回転平均値を比較して1回転平均値を瞬時値とみなしても数値的に問題の無いことを確認した。このことから、帰納的に1回転平均の[-2T
fm/I]とω
mとの関係を瞬時の[-2T
f/I]とωとの関係としてよいことが分かった。つまり、近似式やこの近似式に含まれる係数、[-2T
f/I]の値とωとの関係が軸受摩擦指標に相当する。
【0019】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る変動回転指標の決定方法は、
測定対象となる軸受に回転可能に支持された偏心回転体に回転トルクを付与することにより該偏心回転体を回転させ、
前記回転トルクの付与を停止し、前記偏心回転体が自走回転による回転後、測定開始後J(Jは整数)回転する間における該偏心回転体の単位角度Δθ[rad]あたりの回転時間Δt[s]または速度を逐次測定し、
前記単位角度Δθ[rad]と前記回転時間Δt[s]、または前記単位角度Δθ[rad]と前記速度とから前記偏心回転体がJ回転する間における回転角度と回転角速度を逐次求めることにより、変動回転指標を決定する方法であって、
前記回転時間の測定開始時における前記偏心回転体の回転中心と重心とを結ぶ線と水平線とのなす角度をθ
0、前記測定開始を基準に測定した値のうち、データ解析開始の回転角度をθ
1、その時の回転角速度をω
1としたとき、測定開始からの角度θと、測定した回転角速度ω
1の2乗であるω
1
2と、軸受摩擦指標である[-2T
f/I]とを次式に代入してEの値を計算し、
【数8】
回転角速度ωの2乗と上記Eの値との差分である[ω
2-E]の値を求め、該差分の変動の中心が0になるように、該差分値にCの値を導入した[ω
2-E+C]を、以下の[数9]を前提に、測定開始からの角度θに関する振幅Aの三角関数-A sin(θ+θ
0)を用いて近似する。
【数9】
上記式に基づく振幅Aの三角関数近似から求められた前記振幅Aの値を偏心回転体の変動回転指標Aとして決定するとともに、位相差θ
0を決定するものである。
ここで、θ
0は測定開始時の偏心回転体の重心の方向(水平からの角度)であり、θ+θ
0はその後の水平線からの重心の角度(
図5参照)、該変動回転指標Aと回転体の持つ各量との関係は、以下の式(1)で表される。回転体の持つ量M、g、r
g、Iのうちの不明な量の決定方法である。
【数10】
式(1)において、Iは偏心回転体の慣性モーメント、Mは偏心回転体の質量、gは重力加速度、r
g(但し、r
g>0)は偏心回転体の重心と回転中心との距離を表す。Mとr
gは偏心回転体の質量と重心と回転中心との距離とすることもできる。
なお、物理的に同じ現象で同じ技術が、角度の基準や角度と回転の方向など、定義上の違いで数学的に異なる式で表現をされる場合は、上記概念に含まれる。
【0020】
さらにまた、上記課題を解決するために成された本発明に係る変動回転指標の決定方法は、
測定対象となる軸受に回転可能に支持された偏心回転体に回転トルクを付与することにより該偏心回転体を回転させ、
前記回転トルクの付与を停止し、前記偏心回転体が自走回転による回転後、測定開始後J(Jは整数)回転する間における該偏心回転体の単位角度Δθ[rad]あたりの回転時間Δt[s] または速度を逐次測定し、
前記単位角度Δθ[rad]と前記回転時間Δt[s] 、または前記単位角度Δθ[rad]と前記速度とから前記偏心回転体がJ回転する間における回転角度と回転角速度を逐次求めることにより、変動回転指標を決定する方法であって、
前記回転時間の測定開始時における前記偏心回転体の回転中心と重心とを結ぶ線と水平線とのなす角度をθ
0、前記測定開始を基準に測定のうちデータ解析開始の回転角度をθ
1、その時の回転角速度をω
1としたとき、測定開始からの角度θと、測定した回転角速度ω
1の2乗であるω
1
2 と、平均軸受摩擦指標である[-2T
fm/I]とを次式に代入してEの値を求め、
【数11】
回転角速度ωの2乗と上記Eの値との差分である[ω
2-E]の値を求め、該差分の変動の中心が0になるように、該差分値にCの値を導入した[ω
2-E+C]を、以下の[数9]を前提に、測定開始からの角度θに関する振幅Aの三角関数-A sin(θ+θ
0)を用いて近似する。
【数9】
上記式に基づく振幅Aの三角関数近似から求められた前記振幅Aの値を偏心回転体の変動回転指標Aとして決定するとともに、位相差θ
0を決定するものである。
ここで、θ
0は測定開始時の偏心回転体の重心の方向(水平からの角度)であり、θ+θ
0はその後の水平線からの重心の角度(
図5参照)、該変動回転指標Aと回転体の持つ各量との関係は、以下の式(1)で表される。回転体の持つ量M、g、r
g、Iのうちの不明な量の決定方法である。
【数10】
式(1)において、Iは偏心回転体の慣性モーメント、Mは偏心回転体の質量、gは重力加速度、r
g(但し、r
g>0)は偏心回転体の重心と回転中心との距離を表す。Mとr
gは偏心おもりの質量と重心と回転中心との距離とすることもできる。
なお、物理的に同じ現象で同じ技術が、角度の基準や角度と回転の方向など、定義上の違いで数学的に異なる式で表現をされる場合は、上記概念に含まれる。
【0021】
上述した変動回転指標の決定方法は、瞬時摩擦まで考慮した振動成分の解析であり、特許文献4に記載されている手法を上回る精度での変動回転指標の測定と解析が可能になる。
【0022】
上述した変動回転指標の決定方法を用いて変動回転指標Aを求めるとともに、該変動回転指標から偏心回転体の慣性モーメントIを求め、さらに、上述した軸受摩擦指標決定方法を用いて平均軸受摩擦指標[-2T
fm/I]を求めることにより、前記慣性モーメントIと、前記平均軸受摩擦指標[-2T
fm/I]とから平均摩擦トルクを決定することができる。また前記慣性モーメントIと、軸受摩擦指標[-2T
f/I]とから瞬時の摩擦トルクを決定することができる。この手法は、特許文献4に記載の回転体と偏心おもりの組合せを併用すれば、慣性モーメント測定機の精度良い測定と解析法になる。
また、変動回転指標は、Eの値と回転角速度ωの2乗との差分(
図15)の振動成分の振幅Aで、実測からこれを求めれば、[数10]の式(1)より、質量と重心が既知の時は慣性モーメントを測定することになり、慣性モーメントと質量が既知の時は重心位置を測定することになる。
本実験では、質量と重心が何らかの方法で測定され、既知であることとしている。また、地球上以外のように重力が不明な場合には、質量、重心、慣性モーメントのすべてが既知の試験機を作り、変動回転指標に基づく重力測定装置として用いることも出来る。
【発明の効果】
【0023】
本発明の軸受摩擦指標、変動回転指標の決定方法では、回転角速度を用いて軸受の摩擦トルク等の摩擦要素を求めて、それを用いて 回転角度に対する角速度の変化に対応する摩擦トルクの変動を推定して回転角速度の2乗の変動から摩擦成分を除去して、変動回転指標を求めるため、摩擦に伴う変動回転指標の測定精度が高くなり、[数10]の関係から慣性モーメントなどの回転体の持つ量の測定精度を高くすることが出来る。これに伴い慣性モーメントの測定精度が向上して摩擦指標から摩擦トルクを計算する精度も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の妥当性を確かめるために作製した、特許文献4に記載の装置と同等の装置であって、変動回転指標(ここでは慣性モーメント)と軸受摩擦指標を測定するための装置を概略的に示す正面図。
【
図2A】偏心おもりを示す平面図(a)、断面図(b)。
【
図2B】クラッチを構成する2個のクラッチディスクの平面図(a)、(b)および断面図(c)および(d)。
【
図3】偏心おもりから切り落とされた弓形部分の説明図。
【
図4】ロータリーエンコーダのパルス波形の概念図。
【
図5】軸と偏心おもりからなる回転体の重心位置と回転角との関係を説明する図。
【
図6】測定角速度を2乗した値と回転角との関係を示す図。
【
図7】1回転する間の[-2T
fm/I]とω
mとの関係を示す図。
【
図9】角速度ωおよび平均角速度ω
mと回転角との関係を示す図。
【
図10】摩擦トルクT
fおよび平均摩擦トルクT
fmと回転角との関係を示す図。
【
図11】角速度ωと摩擦トルクT
f、平均角速度ω
mと平均摩擦トルクT
fmとの関係を示す図。
【
図12】[-2T
f/I]と角速度ωとの関係を示す図。
【
図13】角速度ωの履歴から求めた[-2T
f/I]の履歴を表すグラフ。
【
図14】角速度ωの2乗(ω
2)と軸受摩擦指標の積分を含む[数8]のEとの関係を示す図。
【
図15】実験での角速度ωの2乗(ω
2)-軸受摩擦指標の積分を含む[数8]のEで、これの三角関数近似の結果を表すグラフ。
【
図16】グラフ法の摩擦トルクの測定値を表すグラフ。(全軸受の値、ここでは2軸受)
【
図17】数値だけの処理で求めた慣性モーメントによる摩擦トルクの測定値を表すグラフ。(全軸受の値、ここでは2軸受)
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の軸受摩擦指標決定方法では、
測定対象となる軸受に回転可能に支持された偏心回転体に回転トルクを付与することにより該偏心回転体を回転させ、
前記回転トルクの付与を停止し、
前記偏心回転体の自走回転による回転開始後の任意の時点である測定開始から該偏心回転体がJ(Jは整数)回転する間における該偏心回転体の単位角度Δθ[rad]あたりの回転時間Δt[s] または速度を逐次測定し、
前記単位角度Δθ[rad]と前記回転時間Δt[s]、または前記単位角度Δθ[rad]と前記速度とから前記偏心回転体がJ回転する間における回転角度θと回転角速度ωを逐次求めることにより、軸受摩擦を表す指標を決定する方法であって、
前記偏心回転体が1回転する間にn回(n=2π/Δθ、nは整数)ずつ前記回転時間Δt[s]を測定するとして、前記偏心回転体がJ回転するまでの測定回数2Jπ/Δθのうち前記測定の解析開始時における回転角度をθ
1[rad]、その時の回転角速度をω
1[rad/s]とし、その後j番目の測定直後における回転角度をθ
j+1 [rad]、その時の回転角速度をω
j+1 [rad/s]とし、解析開始時からk回転(kは整数)した直後の回転角速度をω
nk+1 [rad/s]とし、前記軸受の平均摩擦トルクをT
fm、前記偏心回転体の慣性モーメントをIとしたとき、
前記回転角度θ
j+1 [rad]を以下の式から求め、
【数1】
平均軸受摩擦指標である [-2(T
fm/I)] [rad/s
2]の値を以下の式から求め、
【数2】
平均回転角速度ω
m [rad/s]を、
【数3】
の値とし、
前記偏心回転体がJ回転する間の測定区間を1または複数に分割し、分割測定区間における平均軸受摩擦指標と平均回転角速度を計算し、各分割測定区間における平均軸受摩擦指標と平均回転角速度の関係を表す近似式を求める。
【0026】
また、1回転のうねり変動を考慮し、半回転の値ω
n/2+1を加えた簡易的平均化により平均回転角速度を求めてもよい。例えば、平均回転角速度は、
【数7】
の値としてもよい。なお、k回転では1回転ごとに[数7]の平均回転角速度を求め、k個の各回転のω
mの平均をk回転の平均回転角速度とする。
なお、ここではω
1を任意の1回転で最初の回転時間の測定値から求められた回転角速度としているが、後の連続複数回転の解析では解析最初の角速度として用いている。
【0027】
回転角速度は、偏心回転体の回転角度と時間の関係を測定し、その測定結果から求めることができる。また、偏心回転体の回転角度と時間の関係の測定には、光学式、磁気式、電磁誘導式等、様々な方式のロータリーエンコーダを用いることができる。回転角速度を回転角度と速度で求める場合はロータリーエンコーダに加え、ドップラー効果による速度計等の装置を用いることができる。
【0028】
以下、本発明の変動回転指標と軸受摩擦指標の測定方法を検証するために用いられる試験装置の一実施形態について図面を参照して説明する。この試験装置は特許文献4に基づき作製されたものである。
図1は、試験装置の全体構成を示す正面図である。
図1において、試験装置100は、大きく分けて駆動系10、回転体および軸受の保持装置20、検出系30から構成される。
【0029】
軸受および回転体の保持装置20は、床面の上に設置された基台40上に立設された一対の軸受保持脚21、21を備えており、該保持脚21の上部に測定対象である一対の軸受200がそれぞれ固定されている。前記一対の軸受200は軸201を回転自在に支持しており、該軸201の途中部に、偏心おもり22が前記軸201と一体的に回転するように取り付けられている。軸201の左右の端部はそれぞれ左側の軸受200よりも左側、右側の軸受200よりも右側に突出している。
図1に示した装置の例では、
図2Aに示すように、偏心おもり22は、円筒体から弓形部分(
図2Aにおいて符号22aが付された部分)を切り取った形状を有している。なお、偏心おもり22は検証実験での測定の正当性をチェックする目的で製作したものであり、重心と慣性モーメントが既知の形状としたが、実際の測定では偏心おもりの形状は任意であり、したがって重心、慣性モーメントは未知である。
【0030】
図1に示すように、前記駆動系10は、前記基台40上の左部に配置された左右方向に往復移動するスライド機構101と、このスライド機構101の上に固定された軸受台102及びモータ103と、電源供給装置104と、軸受台102の上に固定された一対の軸受105と、該一対の軸受105に回転自在に支持された、前記モータ103によって回転される駆動軸106と、前記モータ103の回転力を前記駆動軸106に伝達するプーリ107A、107B及びベルト108と、駆動軸106の右端部及び前記軸201の左端部に設けられた、互いの凹凸が軽くかみ合ったクラッチディスク111及び112とを備えている。
【0031】
図2Bに示すように、クラッチディスク111及びクラッチディスク112は外形状が円形状であり、その中央に駆動軸106および軸201が嵌挿される孔1111、1121を有している。クラッチディスク111及びクラッチディスク112の互いに対向する面には、それぞれ放射状に延びる4個の凹部115及び4個の凸部116が形成されている。クラッチディスク111の凹部115の形状及び位置と、クラッチディスク112の凸部116の形状及び位置がそれぞれ対応し、クラッチディスク111の凸部116の形状及び位置と、クラッチディスク112の凹部115の形状及び位置がそれぞれ対応している。このような構成により、スライド機構101によって軸受台102が右方に移動されてクラッチディスク111がクラッチディスク112に当接し、互いの凹部115と凸部116とが噛み合うと、駆動軸106と軸201とが連結される。これにより、駆動軸106の回転力は軸201に伝達される。以下、クラッチディスク111とクラッチディスク112とを併せてクラッチ110ともいう。
【0032】
検出系30は、前記軸201の回転角度を検出するロータリーエンコーダ301と、測定制御兼測定装置(ハードウエア)302に基づき前記軸201の回転角速度を求める装置制御兼解析装置303とを備える。測定制御兼測定装置302には、ロータリーエンコーダ301のZ相(1回転1パルス)とA相(1回転nパルス、今回はn=360)の検出信号が入力される。そして、Z相の検出信号が入力されると、それを測定開始のトリガとしてA相とZ相パルスの間隔時間を5×10-9sの極めて高精度で測定する。ロータリーエンコーダ301は、右側の軸受保持脚21に固定された保持板310に保持されている。測定制御兼測定装置302は、CPU等から成るコンピュータの装置制御兼解析装置303とソフトウエアによって連動して、それぞれの機能を実現するものとすることができる。
【0033】
ここで、
図1の試験装置100の運転時における各部の位置について次のように定義する。電源供給装置104からモータ103に電力を供給し、軸201,偏心おもり22を回転させる。スライド機構101をスライドさせてクラッチ110のクラッチディスク111とクラッチディスク112を切り離した時が自走回転開始時である。電源供給装置104からモータ103に電力が供給されると、ロータリーエンコーダ301はパルス信号を測定制御兼測定装置302に発信し、測定制御兼測定装置302は装置制御兼解析装置303から送られてくる指令を待つ。装置制御兼解析装置303から測定制御兼測定装置302に測定指令が来ると、ロータリーエンコーダ301の測定トリガ(最初のz相パルス信号)で測定を開始する。この瞬間の回転体(偏心おもり+軸+クラッチ)の重心位置の水平面からの角度をθ
0とすると(
図5参照)、このθ
0が回転角θの出発点(つまりθ=0の時)になり、「測定開始」点と定義する。測定制御兼測定装置302はロータリーエンコーダ301から送られてくるパルスとその時間測定データを装置制御兼解析装置303に送り続ける。これは装置制御兼解析装置303から測定制御兼測定装置302に停止命令が来るまでのJ回転までの間続けられる。そのデータは装置制御兼解析装置303で解析される。装置制御兼解析装置303でデータの解析処理が開始されたときの角度(
図5のθ)をθ
1とする。角度θ
1は測定開始点を基準にする角度(測定開始点であるθ
0からの角度)である。解析の都合により、通常はθ
1>0であるが、θ
1=0でもよい。
【0034】
以上をまとめると次のようになる。
自走回転開始:トルク供給停止(クラッチを切る)。このときの角度θは未定(測定せず)。
測定開始:測定トリガ(最初のz相のパルス信号)が測定制御兼測定装置302に入る。測定開始以降のz相パルス信号は無視される。このときの角度θを「0」として、Δθ[rad]間の、Δt[s]を測定し、装置制御兼解析装置303で測定開始後のΔθを加算した角度θと角速度ω[rad/s]を計算する。
解析開始:装置制御兼解析装置303で行われる。θは測定開始時を0とるその後の角度で、θ1は実験の測定値が解析に都合のよい期間の解析開始角度θである。θ1は測定開始時期を起点とする値で、すでに測定しているのでθ1の値は大きい値となる。式内のθ1、ω1はこの時の値。
なお、自走回転開始前から測定開始することも出来るが、自走回転後の測定値で解析を開始する。この場合、重心の方向θ0を求めるために、角度θは自走回転開始前後の何れを基準に選んでも、必ず測定開始点としてのz相パルスが発生した時を基準(θ=0)として、その後のA相またはこれに相当するパルスに従いΔθを加算したものでなければならないが、自走回転前の測定データは破棄する。従って、自走回転開始、測定開始、解析開始の順と基本的に異なるものではなく、操作の順序が本考案の基本概念を覆すものではない。
【0035】
ロータリーエンコーダ301には、光学式エンコーダ、磁気式エンコーダ、電磁誘導式エンコーダ等があり、これらいずれの方式のエンコーダも用いることができる。光学式エンコーダは、発光素子及び受光素子と、放射状に形成された多数のスリットを有する円盤とを有しており、軸201の回転角度位置情報を光パルスの信号として検出する。磁気式エンコーダは、永久磁石と磁気センサを有しており、軸201の回転角度位置情報を磁界の変化として検出する。電磁誘導式エンコーダは、誘導コイル (励磁コイル) と固定コイル (検出コイル) との間で発生する磁界の変化を回転角度位置情報として検出する。
【0036】
<実験>
次に、上記試験装置100を用いて偏心おもりによる変動回転に関する指標(変動回転指標)と軸受200の摩擦に関連する指標(軸受摩擦指標)を求めるために行った実験について説明する。実験では、軸受200としてすべり軸受を、ロータリーエンコーダ301として磁気式のものを用いた。また、以下の表1に示す寸法諸元の偏心おもり22、クラッチ112、軸201を用いた。偏心おもり22、クラッチ112、軸201は互いに接着固定されており、これらから、本発明の偏心回転体が構成される。
【表1】
【0037】
図3に示すように、偏心おもり22は、中心角βの扇形状の弓形部分22aを切り取った残りの部分からなり、表1中、偏心おもり22のD1、D2は、弓形部分22aを切り取る前の円筒体の外径及び内径を、L1は直径から弓形部部分を除いた長さを、L2は厚さを表している。また、クラッチ112のD1は外径、D2は内径、L1は全体の軸方向長さ、L2は凸部116を除いた部分の軸方向長さをそれぞれ表している。また、軸201のD1、L1は軸受200で保持されている部分の直径及び長さ、D2、L2は軸受200から突出しロータリーエンコーダと結合している部分の直径及び長さをそれぞれ表している。
【0038】
ここでは、表1のD1、D2、L1、L2の単位をmmからmに変換したことを前提に記述する。表1に示す、偏心おもり22、クラッチ112、軸201、及び回転体全体(=偏心回転体)それぞれの重心位置(表1では回転中心からの距離(m)で示す。)、慣性モーメントは、上述した寸法諸元から計算により求めた値である。例えば偏心おもり22の密度をρ、内半径をr
i(=偏心おもり22の内径D2×(1/2))、外半径をR
i(=偏心おもり22の外径D1×(1/2))、厚さをb
i(=偏心おもり22の厚さL2)とすると、偏心おもり22の慣性モーメントI
i、重心位置r
gは、以下の式(2)、(3)から求めることができる。なお、βは、弓形部分22a(
図3参照)の中心角である。
【数12】
【数13】
なお、上記式(2)、(3)において、
【数14】
である。
ここで、表1に示す各部品の密度ρは測定質量を測定形状から計算される体積で割った値とした。クラッチや軸の慣性モーメントはその定義式や工業力学の教科書に示された式から計算出来る。
【0039】
式(2)、(3)は、特許文献4に記載されている式である。本実施形態では、上記式(2)、(3)の計算値と測定値を比較し、本発明の手法の妥当性を判定する。式(2)から計算される偏心おもり22の慣性モーメントに軸201の慣性モーメントとクラッチ112の慣性モーメントを加えた値が真値であり、表1の右下欄に示す慣性モーメントの値(回転体の慣性モーメント)に相当する。慣性モーメントの真値と、式(2)から計算される偏心おもり22の重心の位置と質量、変動回転指標の測定値とから求められる慣性モーメントとが一致すれば、測定は形状の異なる任意の回転体にも適用できる。
【0040】
本実験では、モータ103を起動させ、一定の回転角速度(約15Hz、900rpm)で軸201を回転させた後、クラッチディスク111、112を分離して軸201を自走回転させ、自走回転時におけるロータリーエンコーダ301の出力パルスを測定制御兼測定装置302(横河計測株式会社製のパルス測定解析装置(WE7000))に取り込み、装置制御兼解析装置303でデータ処理を行った。ロータリーエンコーダ301から測定制御兼測定装置302に取り込む信号しては、A相とZ相(1回転1パルス)のパルス信号とした。Z相のパルス信号を測定開始のトリガとした。なお、A相のパルス信号に代えてB相のパルス信号を測定制御兼測定装置302に取り込む信号としても良い。
【0041】
図4はロータリーエンコーダ301のパルスを表わす。連続する2つのパルスの間の角度をΔθ[rad]、その時間をΔt[s]とすると、Δtの測定値とΔθとから角速度ω(=Δθ/Δt)[rad/s]を求めることができる。なお、
図4中のΔt
1とΔt
2、ω
1とω
2はパルスと測定時間Δt、角速度ωの関係を説明するために用いたものであって、これらの記号の下付きの数字は、本発明における「(偏心回転体の)j番目の測定直後の回転角度θ
j+1 [rad]」のjと対応するものではない。
【0042】
図4の中央のパルス発信時における偏心回転体の角度位置をθ[rad]とすると、これは、Δt
1[s]の測定直後の角度であり、Δt
1に対応する角速度をω
1[rad/s]、次の測定値であるΔt
2[s]に対応する角速度をω
2[rad/s]とすると、角度θ[rad]における角速度ωは、次の式で表される。
ω=(ω
1+ω
2)/2=Δθ(1/Δt
1+1/Δt
2)/2 [rad/s]
【0043】
したがって、解析開始からj番目のΔtj[s]の測定直後における角速度ωj+1は、そのときの回転角度をθj+1 [rad]、j+1番目の測定値をΔtj+1[s]とすると、次の式で表される。
ωj+1=Δθ(1/Δtj+1/Δtj+1)/2 [rad/s]
測定開始後のΔtは連続的に測定しており、角度θは測定開始からの角度である。測定開始後、解析開始時にθ1とω1を決めるので、角度θ1の前のΔt値も測定されていることになる。
【0044】
上述した以外に、角速度ωj+1は以下の式から計算しても良い。
ωj+1=2Δθ/(Δtj+Δtj+1)
また、パルス位置からΔθ/2ずらせた位置を角度とする場合、すなわち、解析開始時における回転角度θ1[rad]をパルス後Δθ/2とし、j番目のΔtj測定による角速度をωj=Δθ/Δtjとする場合、回転角度θj[rad]はj番目パルス後Δθ/2であるとしても良い。また、Δθが小さくなるとパルス後Δθ/2の補正を無視しj+1番目のΔtj+1測定とするとωj+1≒Δθ/Δtj+1またはωj+1≒Δθ/Δtjとしても数値計算にほとんど影響はない。
また、時間測定以外の角速度または速度測定手段を用いるときは、測定制御兼測定装置(ハードウエア)302に角速度または速度測定手段を接続し、該ロータリーエンコーダ301のパルス指令で測定制御兼測定装置302がデータを取り込むので、上述した[数1]の式で計算されるパルス位置の角度での測定値を用いて求めた角速度がその角度の回転角速度になる。
【0045】
本実験では、A相(1°)パルスの立ち上がり(電圧上昇)と次のパルスの立ち上がり(電圧上昇)の時間間隔の測定を連続的に行った。これと同時に、Z相(1回転1パルス)のパルスの立ち上がり(電圧上昇)と次のパルスの立ち上がり(電圧上昇)の時間間隔の測定も連続的に行った。これにより、単位角度1°あたりの回転時間が逐次測定され、単位角度1°毎の回転角速度を逐次求めることができる。測定開始角度を統一するため、Z相のパルスの立ち上がり(電圧上昇)を測定制御兼測定装置302の測定開始トリガとして用いた。なお、パルスの立ち下がり(電圧下降)と次のパルスの立ち下がり(電圧下降)の時間間隔を測定してもよく、パルスの立ち上がりの時間間隔にするか、立下りの時間間隔にするかは適宜選択できる。また、A相パルスはB相パルスに置き換えても良く、A相パルス又はB相パルスのバー(逆パルス)に置き換えても良い。
【0046】
実験結果の検証に先立ち、本発明の変動回転指標と軸受摩擦指標について説明する。以下の説明で用いた各記号の定義は次の通りである。式や記号は明記しない限りSI単位、kg、m、s、Nに基づく。
F:摩擦力(すべり軸受では軸受内軸表面のせん断応力の積分値)〔N〕
g:重力加速度〔m/s2〕
I:回転体の慣性モーメント〔kg・m2〕
M:回転体の質量〔kg〕(rgが回転体の重心の時)、偏心おもりの質量〔kg〕(rgが偏心おもりの重心の時)
r:内半径〔m〕
rg:回転軸と重心の距離(偏心距離)〔m〕(Mが回転体の質量の場合は回転体の重心、Mが偏心おもりの質量の場合は偏心おもりの重心)
なお、Mrgは、Mが回転体の質量の場合、偏心おもりの質量の場合のいずれでも同じ値になる。
R:半径または軸半径(回転中心から摩擦位置までの半径)〔m〕
t:時間〔s〕
T:トルク〔Nm〕
W:荷重〔N〕
α:回転体の角加速度〔rad/s2〕(減速時は負値)
θ:測定開始時からの回転体の回転角度〔rad〕
μ:摩擦係数
ω:回転体の角速度(回転角速度)〔rad/s〕
ρ:密度 〔kg/ m3〕
添え字
f:摩擦
m:平均
x,y:水平,垂直軸方向
【0047】
<摩擦トルク>
図5に示すような回転体(偏心おもり+軸+クラッチ)の回転軸とすべり軸受との間に作用する摩擦トルクT
f[Nm]は次の式(4)で表される。ここで、θ
0は、回転角度の測定開始時における回転体の重心位置の水平線からの回転角度[rad]、θはθ
0を起点とする回転角度で、θ
0+θが回転角度の測定時における回転体の重心位置の水平線からの回転角度[rad]である。また、摩擦トルクT
fは、全ての軸受の摩擦トルクの合算値であり、本実施形態で用いた装置の場合は2個の軸受の摩擦トルクの合算値である。後述する平均摩擦トルクT
fmの場合も同様である。
【数15】
式(4)において、右辺の第1項(回転体の慣性モーメントI×角加速度α)は、回転する回転体が減衰しながら停止するまでの現象を表し、第2項は重力による回転変動(単調な増速と減速)のトルクを表す。
【0048】
特許文献4には、式(4)に相当する式として、式(4)からθ0を除いた式が記述されている。これは、偏心おもりの重心が、回転体の回転中心を通る水平面上に位置する状態を測定開始(z相パルスのトリガ発生)時の状態としていたためである。しかし、上記の状態になるように偏心おもりの取付け位置を調節する作業は非常に手間がかかる。そこで本実施形態では、測定開始(z相パルスのトリガ発生)時の偏心おもりの重心位置を表す角度θ0を式に導入した。つまり、本実施形態においては、偏心おもりを任意に取付けて測定した後、位相が合致するようにθ0の数値を設定すればよく、偏心おもりの取付け位置の調節作業が不要となる。
【0049】
角速度ωと角加速度αは以下の式で記述されるため、
図4を用いると数値計算で求めることができる。
【数16】
【0050】
ロータリーエンコーダの製作誤差をδとすると、あるタイミングの出力パルスの誤差が+δであるときは、その次の出力パルスの誤差は-δとなる確率が高い。これを加速度の計算に導入すると、加速度の真値からのずれは大まかに、
【数17】
となる。(Δt
2+Δt
1)/(Δt
1-Δt
2)の値は概ね「100」であるから、加速度の誤差は以下の式で表される。
【数18】
【0051】
つまり、角速度では製作誤差が角速度の誤差になるのに対し、角加速度では製作誤差の100倍以上の誤差になることがある。上述した式から分かるように、角速度ωよりも角加速度αの方が、ロータリーエンコーダ301の出力パルスの角度間隔の精度の影響を大きく受け、ロータリーエンコーダ301の角度間隔の精度が悪いと、角加速度αが安定しない。なお、ロータリーエンコーダの製作精度δと角加速度αの不安定さは実験で確認している。したがって、角加速度を用いない式を誘導して解析することが、製作精度が良くないロータリーエンコーダを用いてパルス間隔を1°、0.5°さらには0.1°と短くした極限での測定を目指すうえで必要である。なお、ロータリーエンコーダ以外の角速度測定手段を用いても、製作誤差の角加速度に与える影響は同じである。
【0052】
ロータリーエンコーダ301の出力パルスの時間間隔をt、角度をθとすると、角速度ωおよび角加速度αは、物理法則を数学的に記述して以下の式で表される。
【数19】
【0053】
実験データの処理は数値計算になるので、角加速度αを消去する。ωdt=dθ、dω=αdtとして、式(4)を角加速度αを用いない式に変形する。以下に示す式において、θ
1は、回転角度の解析開始から1番目に採取した回転角度を示している。
【数20】
【0054】
以上より、角加速度を用いない次の式(5)を導くことができる。ここでは、回転体が連続的に複数回、回転することとする。上記の式におけるω
1はθ
1に対応する値であり、解析開始から終了まで固定値とした。したがって、式(5)のω
1と、[数2]や[数4]の式のω
1とは扱いが異なる。
【数21】
【0055】
なお、回転角度の解析開始からi番目に採取した回転角度をθ
i+1、その時の摩擦トルクをT
fi、角度ステップをΔθとすると、式(5)の右辺の第1項は、以下に示すように、解析開始からj番目までの積分値として表される。
【数22】
ここで、T
fはωに依存して変化するので、T
fiはω
iに対応する。オイラー法により積分の数値計算を上記で記述したが、数値計算は上記に限定されるものではない。
【0056】
したがって、解析開始からn回、回転角度を逐次測定した場合の平均摩擦トルクをT
fmとすると、式(5)は、以下の式(6)のように変形することができる。ここでは、式(5)のω=ω
n+1、θ=θ
n+1に置き換えている。
【数23】
【0057】
任意の1回転における最初の回転時間の測定値から求められた回転角速度をω
1、最後(次の回転における最初)の回転時間の測定値から求められた回転角速度をω
n+1としたとき、n回で1回転したとすると、θ
n+1-θ
1=2πとなり、式(6)の三角関数項が「0」となるため、式(6)から重力が影響する項がなくなり、平均摩擦トルクと慣性モーメントの関係は以下の式(7)で表される。
【数4】
【0058】
また、1回転の平均角速度ω
mは以下の式(8)で表される。
【数5】
【0059】
なお、式(7)、式(8)では、1回転の平均摩擦トルク、平均角速度を求めたが、[数2]、[数3]の式のように複数回転に拡張することができる。式(8)は[数6]、[数7]の式のように表記することも可能である。また、回転角度1°おきのロータリーエンコーダ301のパルス間隔時間Δtを連続測定し、実験の角速度ωを以下の計算式から求めることもできる。
ω=Δθ/Δt[rad/s]
より厳密な説明は
図4を用いてすでに行った。
【0060】
図6は、回転角度1°おきのパルス間隔時間Δtを実際に測定し、その結果から算出した角速度の二乗の値(ω
2)と、Δtを測定したときの重心位置の測定トリガがかかった後の角度θ[rad]との関係を表すグラフである。なお、水平線からの角度はθ+θ
0[rad]である。
図6において横軸は角度θ、縦軸はω
2を表す。また、
図7は、
図6に示したω
2を、式(7)および式(8)に代入して求めた[-2T
fm/I]の値(単位は[rad/s
2])と平均角速度ω
m[rad]をそれぞれ縦軸、横軸とする座標にプロットしたグラフである。以下、「-2T
fm/I」を平均摩擦指標値と呼ぶ。
【0061】
摩擦による減速は、
図8に示すストライベック線図の特性を持つことが知られている。なお、
図8においてη[Pa・s]は軸受を滑らせる油の粘度を表している。摩擦トルクT
f[Nm]は軸受周の摩擦力(接線方向の抵抗の力)F[N]に回転軸の半径(腕の長さ)を掛けたものであるため、摩擦係数をμ、軸受にかかる力をW[N]とすると、摩擦係数μは、以下の式で表される。
μ=F/W
【0062】
また、軸受の半径をR[m]、幅をB[m]とすると、摩擦トルクT
f[Nm]、平均面圧P
m[Pa]は、それぞれ以下の式で表される。
T
f=FR
P
m=W/(BR)
なお、高速回転時は軸受にかかる力は主に遠心力Wであり、低速回転時に軸受にかかる力は主に重力Wである。
【数24】
【0063】
本実験では、
図8のストライベック線図の横軸を表す値のうちηは一定である。また、高速回転時のP
mはωの関数である。また、ストライベック線図の低速方向(左方向)で急激に摩擦係数μが上昇するのは軸とすべり軸受との接触による。そこで、この領域は摩擦トルクの計算に用いず、
図8において摩擦係数μが単調増加する領域の摩擦特性のみを使用した。つまり、すなわちP
mが一定の時、角速度ωが大きくなるほど摩擦トルクT
fが増加する。なお、
図7は負値で示しており、同図で低速側が上昇するのは遠心力が小さくなることによりP
mが低下し、摩擦が減少するためである。
【0064】
図9は、ロータリーエンコーダの1°おきのパルス間隔時間Δtを実際に測定した結果から得られた角速度ωの履歴と平均角速度ω
mとの関係を示す。また、
図10は、ストライベック線図の特性から、
図7に示した平均摩擦トルクT
fmと平均角速度ω
mの関係式を摩擦トルクT
fと角速度ωの近似式と仮定して、角速度ωに依存する摩擦トルクT
fの履歴と平均摩擦トルクT
fmを比較して示している。
図9及び
図10はいずれも、横軸は角度θである。
図9および
図10から角度θを消去し、角速度ωと摩擦トルクT
fの関係、平均角速度ω
mと平均摩擦トルクT
fmの関係を表したのが
図11である。
図11から両者の関係がほぼ一致していることが分かる。このことから仮定は妥当であり、
図7に示したグラフは、平均摩擦指標値[-2T
fm/I]を摩擦指標値[-2T
f/I]に、平均角速度ω
mを角速度ωに置き換えたグラフに変換することができる。横軸及び縦軸をそれぞれ摩擦指標値[-2T
f/I]と 角速度ωに置き換えたグラフを
図12に示す。また、
図12に示すグラフから求められた、摩擦指標値[-2T
f/I]と角速度ωとの関係を表す近似式を表2に示す。
【表2】
【0065】
図13は、表2に示す近似式に角速度ωを代入して求めた摩擦指標値[-2T
f/I]の履歴を角度θに対して表した図である。
【0066】
<慣性モーメントの解析>
次に、回転変動を角速度の二乗ω
2で解析するために、以下のように式(5)を変形し、単純な三角関数を用いた式にした。
【数25】
式(10)は、ω
2の変動を重力によるものとして表すために式(9)を変形したものであり、式(10)中のCは以下の式で表される。ここでは複数の連続回転とし、上記の3つの式におけるω
1はθ
1に対応する値とし、解析開始から終了まで固定値とする。
【数26】
【0067】
ここでは、式(10)を対象とし、
図13の各回転角度における摩擦指標値[-2T
f/I]の値を用いて、以下の式の値Eを計算し、これとω
2と回転角度θとの関係を
図14に示す。
【数8】
【0068】
図14から分かるように、実測のωから求めたω
2の変動と減衰に対し、値Eはほぼ直線で変化する。
【0069】
本発明の[数15]の式(4)を用いた手法と、特許文献4に記載の[数2]を用いた手法とは、摩擦トルクを表す式等を「θ+θ0」で記述するか、「θ」で記述するかの違いであるが、このような数式上の違いは、θ0を用いないことにより偏心おもりの組付け位置の測定開始時の水平方向からの角度がゼロになるように正確に合わせたり、測定制御兼測定装置302と装置制御兼解析装置303で解析を開始する角度θ1を解析前に決定したりする等の作業の要否に影響を及ぼす。これらの作業は、実験上大変手間のかかる作業で数日に及ぶこともあり、これらの作業を不要とすることができることは実用上有利である。短時間で適当に装置を組立ても、「数式と解析処理の数値計算で都合よくなるように選んだθ0とθ1がその装置のθ0とθ1の真値となる」ことに気づいた点は、特許文献4に示されている測定法に対して、工学的、技術的に大きく進歩した点といえる。
【0070】
また、上記説明では水平方向を角度の基準としたが、基準を変えても物理的現象が同じであれば数学的な記述が変わるだけである。 また、正弦関数sinと余弦関数cosはπ/2の位相差を持つだけで数学的に変換可能である。したがって、正弦関数sinを使って表されている式は、余弦関数cosを使った式に変更することができる。
【0071】
式(10)と
図14を用いて、重力による変動を計算する。「θ
1+θ
0」が任意であるとすると、ω
2から摩擦の影響[数8]のEを取り除いた(Eを引いた)ω
2-Eは変動(振動)する。Cの値を調整して振動の中央が「0(ゼロ)」となるようにする。これは、θ
0が初期設定の重心方向であり(
図5参照)、振動の中央とθ
1の関係を調べることになる。実験結果から、振動の中央が0になるようにCの値を調整した結果を
図15に示す。
図15から分かるように、この場合は三角関数で近似できる(なお、
図15では、sin関数に近似したが、cos関数に近似しても良い。)。sin関数の振幅をAとすると、その振幅Aから(2Mgr
g)/Iが求まり、sin関数と一致するように「θ+θ
0」を決めると、位相差からθ
0が求まる。以下に、具体的に説明する。
【0072】
測定開始からの角度θと測定したω
2 (ωの2乗)の履歴は決まると、データ解析開始時のω
1の2乗の値も決まる。下記に示す上記式(10)の左辺(以下では「X」とする)のうちCの値だけが決まらない。
【数27】
【0073】
そこで、Xの値の中央値が0となる変動をするようにC値を決める。変動の振幅をAとし、角度θに対して中央値が0となる変動を正弦関数sinで近似すると、位相を合わせることで重心の方向θ
0を求めることが出来る。すなわち、
-Asin(θ+θ
0)
で振幅Aを合わせ、位相が合うようにθ
0を決めるとこれが測定開始時の偏心おもりの重心の方向である。また、このC値とA、θ
0、θ
1には次の関係にある。
【数28】
ここで、Aは変動回転指標であり、回転体の持つ各量との関係は以下の式(1)で表される。
【数10】
なお、Mとr
gは偏心おもりの質量と重心と回転中心との距離とすることもできる。
【0074】
回転体全体の慣性モーメントIが未知のときは、表1に示した偏心おもりの諸元(質量M、回転軸から重心位置までの距離rg)を用いて、以下の式から回転体全体の慣性モーメントIを算出できる。慣性モーメントIについては後述する。
I=(2Mgrg)/A
【0075】
また、距離r
g、質量Mの一方が未知のときは、他方と慣性モーメントIの値から、該一方の値を求めることができる。つまり、慣性モーメントIだけでなく、それ以外の変動回転指標を構成する物理量の値の測定法にもなる。表3は、上記のようにして求めた回転体の慣性モーメントの値を示している。なお、C値の調整を行わない場合は
図15の振動の中央値が0からずれる。そこで表3にずれa
0を導入している。表3のa
0の値で調整することがC値の調整に相当する。ここでは、θ
1が sin(θ
1+θ
0)=0 の角度、すなわちa
0=0(C=0)のところに取られていた。
【表3】
【0076】
表3に示した慣性モーメントの値は、表1の寸法諸元から求めた慣性モーメントの真値7.5633E-03[kgm
2]に対して-2.3%であり、ほぼ一致していた。また、慣性モーメントが分かれば、摩擦トルクT
fを求めることができる。この結果を
図16に示す。
【0077】
なお、本発明においては、表2の近似式を用いて実験のθに対するωの履歴から[数8]のEの履歴が計算できるので、θ
0値、A値、C値を仮定して、式(9)に代入し、θに対する仮想ω
2を繰り返し計算して
図6の実験値と比較して偏差が最小となるようにした値に基づき振幅や摩擦を決めることもできる。
【0078】
以上の説明は、
図1に示した装置を使った測定の原理と解析例の説明であるが、
図1の装置制御兼解析装置303でC値を算出し、
図15に示すグラフを作図して表3の値を決めることは面倒である。そこで、式(10)より以下の式
【数29】
を導き、さらにこの式を次のように書き直して、θの関数とする。ここでCは、
【数26】
である。
【数30】
上記式の左辺を実験値f(θ)とすると、
【数31】
となり、位相角θ
0は、
【数32】
となる。また、振幅Aは、以下の式で表される。
【数33】
【0079】
ここで、
【数34】
であるから、任意の1回転の最初の回転時間の測定時の回転角速度をω
1、角度をθ
1とし、1回転にnパルス出力されることとして最後(次回転の最初)の回転時間の測定時の回転角速度をω
n+1、角度をθ
n+1とすれば、
【数35】
となる。
【0080】
そして、
【数36】
で近似することができるから、
【数37】
となり、3つの定数a
0, a
1, b
1を計算することができる。なお、積分は数値計算に置き換える。例えば、1~n回測定で1回転なら次回転の最初の角度θ
n+1と本回転の最初角度θ
1の差 θ
n+1 -θ
1 = 2πで分割角度はΔθ = 2π/nとなり、3つの定数a
0, a
1, b
1は、以下の式で表される。
【数38】
ただし、
【数39】
実験に対する計算結果を表4に示す。なお、上記では数値計算の基本的な計算式を記述しているが、積分記号で表す基本概念の式を数値変換する場合には、これに限るものではない。より厳密な方法や簡略化した方法などが存在する。
連続k回転のときのa
0、a
1、b
1は1回転ずつa
0、a
1、b
1 をk回転分計算して、平均をとったa
0、a
1、b
1と同じになる。
また、不連続のk回転に適用するときは、k回転の1回転ごとに、この解析をk回繰り返し、全体のa
0、a
1、b
1は各回転のa
0、a
1、b
1の平均とする。また、ここでのa
0=-2Cで、表3のa
0=Cと異なっている。
【0081】
【0082】
θ
1=262[rad]からの1回転について計算し、表1に示した回転体の慣性モーメントIの真値7.5633E-03[kgm
2]に対して、表4に示した慣性モーメントIの値は-2.26%であった。この慣性モーメントを使って求めた摩擦トルクを
図17に示す。
【0083】
以下に示す式(11)を利用して摩擦トルクを求めることも出来る。これは、回転体が1回転する毎に平均摩擦指標値を計算する方法であり、特許文献4に記載されているように回転中の摩擦が平均値で一定とする考え方である。
図13において摩擦指標値[-2T
f/I]は変動しているが、これの積分値は、
図14から分かるように、実測のωから求めたω
2変動と減衰に対し値Eはほぼ直線で変化することから、回転平均の摩擦トルクを用いて表すこともできる。すなわち、平均摩擦指標値「-2T
fm/I」 は、以下の式(11)より求めることができる。
【数40】
【数41】
平均摩擦トルクを用いる場合は、1回転内の核回転角度における摩擦トルクは、1回転の平均摩擦トルクに等しいとした。この場合、上述した式(9)は以下の式(12)となる。
【数42】
【0084】
この場合、式(12)は以下の式(13)で表すことができる。また、式(10)は次の式(13)に簡略化できる。
【数43】
【0085】
Eは、
【数11】
である。また、測定から
ω
2-E
を求めるとこれは単調に振動する、この振動の中心をゼロにするようにCを与えたものがXであり、以下の式で表される。
【数44】
Xを -Asin(θ+θ
0)で近似すると(つまり、X≒-Asin(θ+θ
0))、
この振幅Aが求まる。また、位相差θ
0も求まる。[数43]の式(13)は力学に基づくので、これに合わせると、このAは変動回転指標であり、回転体の持つ各量と以下の式(1)の関係にある。
【数10】
なお、Mとr
gは偏心おもりの質量と重心と回転中心との距離とすることもできる。
解析開始角θ
1、重心方向θ
0、変動回転指標A、X振動の中心をゼロにするCには、 [数42]の式(12)と[数43]の式(13)から次の関係にある。
【数28】
【0086】
また、以下に示す[数30]の式
【数30】
で、
【数41】
であるため、上記式を[数30]の式に代入すると、以下の式となる。
【数45】
【0087】
そして、上記[数45]の式の左辺を実験値f(θ)とすると、
【数31】
となり、位相角θ
0は、
【数32】
振幅Aは、
【数33】
となる。表4で、Σの中のi番目で記述する、以下の式
【数46】
を、
【数47】
に置き換えて計算すれば良い。
【0088】
上記は何れも、回転ごとに切り替えていく方法である。瞬時の摩擦トルクを積分する前述の方法に比べて、振幅Aや3つの定数a0, a1, b1の計算精度が落ちるが、実用上は十分である。
【0089】
本発明は特許文献4に記載の手法を改良するもので、変動回転指標の求め方を本方法に置き換えれば慣性モーメントや摩擦の測定に幅広く用いられうるものである。また、軸受以外に摩擦が存在する場合は、それを含めたものを軸受摩擦指標や摩擦トルクとして本発明の方法を用いてデータ解析することが出来る。
なお、モータの回転子の慣性モーメントの測定は
図1や特許文献4を応用すれば可能であるが、この場合、回転トルクの付与と回転トルクの付与の停止は、クラッチディスク111とクラッチディスク112は接合状態で、スライド機構101は停止の状態で、電源供給装置104によるモータ103への供給電力の供給と停止で行う。そのため、回転速度比による補正を行う事が必要になる。また、
図1の駆動系10を電源供給装置104とモータ103だけにし、モータ軸に直接クラッチディスク111を取り付けてクラッチディスク112と接合した状態を維持し、電源供給装置104によるモータ103への供給電力の供給と停止で回転トルクの付与と回転トルクの付与の停止を行うとさらに良い。好ましくは、モータ103の軸に既知の偏心おもり22と検出系30を直接取付け、電源供給装置104でモータへの供給電力の供給と停止で回転トルクの付与と回転トルクの付与の停止を行い、自走回転、本測定、本解析を行えば電機子の慣性モーメントの測定とモータ軸受の摩擦や回転子に発生する抵抗力を測定できる。
【0090】
最後に、本発明者が用いたロータリーエンコーダの精度は、測定の結果±0.01°(1°パルス間隔当たり±1%)のものであった。角速度を真値±2%以内の精度で測定するとすれば0.5°のパルス間隔まで可能である。また、10°パルス間隔未満で数値差分による角加速度に基づく特許文献4の解析はできないと判断された。また、本発明者が過去に測定に使った光学式ロータリーエンコーダの精度は±0.001°(1°パルス間隔当たり±0.1%)であったため、角速度を真値±2%以内の精度で測定するとすれば0.05°のパルス間隔まで可能である。しかし、5°パルス間隔未満で数値差分による角加速度に基づく特許文献4の解析はできないと判断された。パルス間隔の最小値はロータリーエンコーダの製作精度に依存する。
【0091】
なお、上記の説明では一部の数式は単位の記述を省略しているが、該数式の単位は、その数式を構成する記号で表された諸量の単位によって決定されるものとする。
【符号の説明】
【0092】
10…駆動系
100…試験装置
101…スライド機構
102…軸受台
103…モータ
104…電源供給装置
105…軸受
106…駆動軸
107A、107B…プーリ
108…ベルト
110…クラッチ
111…クラッチディスク
112…クラッチディスク
115…凹部
116…凸部
20…軸受および回転体の保持装置
200…軸受
201…軸
21…軸受保持脚
22…偏心おもり
30…検出系
301…ロータリーエンコーダ
302…測定制御兼測定装置
303…装置制御兼解析装置
310…保持板