IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 後藤 勇毅の特許一覧

特開2023-64003スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法
<>
  • 特開-スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法 図1
  • 特開-スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法 図2
  • 特開-スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法 図3
  • 特開-スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法 図4
  • 特開-スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法 図5
  • 特開-スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法 図6
  • 特開-スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法 図7
  • 特開-スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法 図8
  • 特開-スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法 図9
  • 特開-スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064003
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/012 20060101AFI20230428BHJP
   A41D 27/00 20060101ALI20230428BHJP
   A41D 27/10 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A41D13/012
A41D27/00 A
A41D27/10 F
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174175
(22)【出願日】2021-10-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年5月20日の出願人による製品の販売
(71)【出願人】
【識別番号】521467928
【氏名又は名称】後藤 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】弁理士法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勇毅
【テーマコード(参考)】
3B011
3B035
【Fターム(参考)】
3B011AA00
3B011AB12
3B011AC09
3B011AC22
3B035AA10
3B035AB02
3B035AB11
3B035AC20
(57)【要約】
【課題】装着者(ユーザ)による着脱の容易性を阻害することなく、肌とスーツとの隙間の海水流通による低体温を招くのを防止する。
【解決手段】
スーツ母材2を有し、スーツ母材2において、切り込み部5と、ファスナー部4と、裏当て生地部25と、裏当て生地部25においてスリット9を有し、ウェットスーツ1の着脱時にはファスナー部4を開き状態として、裏当て生地部25のうちスリット9を挟んだ第2方向Qの一方Q′側と他方Q″側とを離間させることで着脱を容易化し、ウェットスーツ1の着用時にはファスナー部4を閉じ状態として、裏当て生地部25のうちスリット9を挟んだ第2方向Qの一方Q′側と他方Q″側とを密着させることで、第1方向P及び第2方向Qにそれぞれ直交する第3方向Rに沿ってスリット9の外方から内方への海水の侵入防止を図る、スキューバダイビング用のウェットスーツ1。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の肌と密着するスキン面を内周側に備えたスーツ母材を有する、スキューバダイビング用のウェットスーツであって、
前記スーツ母材において、前記装着者の身体の手首部又は足首部をスーツ外へ露出させる開口部から前記身体の胴体側へ向かう第1方向に沿って切り込まれるように形成された、切り込み部と、
前記切り込み部を前記開口部側から開き操作可能に設けられたファスナー部と、
前記ファスナー部の前記身体側を裏当てするように設けられ、前記装着者の肌と密着するスキン面を前記身体側に備えた、裏当て生地部と、
前記ファスナー部よりも、前記第1方向に直交する第2方向における一方側及び他方側のそれぞれにおいて、前記スーツ母材と前記裏当て生地部とを密着させつつ固定する固定部と、
前記裏当て生地部において、前記ファスナー部の開閉線に対応する位置に、前記第1方向に略沿いつつ前記開口部まで至るように設けられたスリットと、
を有し、
前記ウェットスーツの着脱時には前記ファスナー部を開き状態として、前記裏当て生地部のうち前記スリットを挟んだ前記第2方向の前記一方側と前記他方側とを離間させることで当該着脱を容易化し、
前記ウェットスーツの着用時には前記ファスナー部を閉じ状態として、前記裏当て生地部のうち前記スリットを挟んだ前記第2方向の前記一方側と前記他方側とを密着させることで、前記第1方向及び前記第2方向にそれぞれ直交する第3方向に沿って前記スリットの外方から当該スリットの内方への海水の侵入防止を図る
ことを特徴とするスキューバダイビング用のウェットスーツ。
【請求項2】
請求項1記載のスキューバダイビング用のウェットスーツにおいて、
前記スリットは、
前記第3方向に対し所定の鋭角θで傾斜した状態で形成されている
ことを特徴とするスキューバダイビング用のウェットスーツ。
【請求項3】
請求項2記載のスキューバダイビング用のウェットスーツにおいて、
前記ファスナー部は、
前記第2方向の前記一方側及び前記他方側にそれぞれ位置する、一方側テープ及び他方側テープと、
前記一方側テープ及び前記他方側テープにそれぞれ設けられた、一方側エレメント及び他方側エレメントと、
前記一方側エレメントと前記他方側エレメントとを噛み合わせるように設けられるスライダーと、
を有し、
前記スーツ母材のうち前記切り込み部よりも前記第2方向の前記一方側の領域と、前記裏当て生地部のうち前記スリットよりも前記第2方向の前記一方側の領域と、の間に、前記一方側テープが挟まれて固定されており、
前記スーツ母材のうち前記切り込み部よりも前記第2方向の前記他方側の領域と、前記裏当て生地部のうち前記スリットよりも前記第2方向の前記他方側の領域と、の間に、前記他方側テープが挟まれて固定されている
ことを特徴とするスキューバダイビング用のウェットスーツ。
【請求項4】
装着者の肌と密着するスキン面を内周側に備えたスーツ母材を有する、スキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法であって、
前記スーツ母材の一部となる所定大きさの略矩形のユニット母材と、前記ユニット母材に備えられる第1方向に沿った切り込み部を開き操作可能なファスナー部と、前記ファスナー部を裏当てするように設けられた裏当て生地部とを一体化して、裏当て生地つきのファスナーユニットを形成する第1手順と、
前記スーツ母材における前記装着者の身体の手首部又は足首部に対応する部位において、前記ファスナーユニットの輪郭と略同一形状の切り抜き線に沿って切断具を用いた切り抜きを行うことで、対応する当該ファスナーユニットと略同等の大きさの略矩形状の切り抜き部を形成する第2手順と、
前記第2手順により前記スーツ母材に形成された前記切り抜き部に対し前記第1手順で形成された前記ファスナーユニットをあてがい、縫製により当該ファスナーユニットを当該スーツ母材に取り付ける第3手順と、
前記第3手順の縫製によって前記スーツ母材と前記ファスナーユニットとが一体化した状態で、当該ファスナーユニットの前記ファスナー部を開き、当該開いた状態から露出されている前記裏当て生地部に対し、当該ファスナー部の開閉線と略一致する態様となるようにハサミで切り込むことによりスリットを形成する第4手順と、
を有することを特徴とするスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキューバダイビング用のウェットスーツ及びスキューバダイビング用のウェットスーツの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スキューバダイビング等のマリンスポーツ時に着用するためのウェットスーツが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の図1図2、段落[0004]~[0005]等には、ウェットスーツの着脱を容易にするために、ウェットスーツ1の脚部にファスナー2を設け、ウェットスーツ1の脚部の下部にファスナー開放防止どめ3が設けることが記載されている。さらに、近年では、このようなウェットスーツの海水流入防止を図るために、ファスナーの裏側に、スーツ母材の幅方向の一方側で連結された、防水の当て布を設け、ウェットスーツの装着中にはこの当て布がファスナーの裏側から被さった状態となることで、装着者(ユーザ)の身体側への海水流入を抑制する構成が提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-362484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の当て布を設けたウェットスーツでは、着脱容易性を確保するために、当て布が、スーツ母材の一方側にのみ連結され他方側には連結されていない。そのため、ファスナーを越えて侵入した海水がスーツ母材と当て布との隙間から装着者身体側へと漏れ出し、肌とスーツとの隙間に流通して装着者の体温低下の原因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、装着者(ユーザ)による着脱の容易性を阻害することなく、肌とスーツとの隙間の海水流通による低体温を招くのを防止するスキューバダイビング用のウェットスーツを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本願発明は、装着者の肌と密着するスキン面を内周側に備えたスーツ母材を有する、スキューバダイビング用のウェットスーツであって、前記スーツ母材において、前記装着者の身体の手首部又は足首部をスーツ外へ露出させる開口部から前記身体の胴体側へ向かう第1方向に沿って切り込まれるように形成された、切り込み部と、前記切り込み部を前記開口部側から開き操作可能に設けられたファスナー部と、前記ファスナー部の前記身体側を裏当てするように設けられ、前記装着者の肌と密着するスキン面を前記身体側に備えた、裏当て生地部と、前記ファスナー部よりも、前記第1方向に直交する第2方向における一方側及び他方側のそれぞれにおいて、前記スーツ母材と前記裏当て生地部とを密着させつつ固定する固定部と、前記裏当て生地部において、前記ファスナー部の開閉線に対応する位置に、前記第1方向に略沿いつつ前記開口部まで至るように設けられたスリットと、を有し、前記ウェットスーツの着脱時には前記ファスナー部を開き状態として、前記裏当て生地部のうち前記スリットを挟んだ前記第2方向の前記一方側と前記他方側とを離間させることで当該着脱を容易化し、前記ウェットスーツの着用時には前記ファスナー部を閉じ状態として、前記裏当て生地部のうち前記スリットを挟んだ前記第2方向の前記一方側と前記他方側とを密着させることで、前記第1方向及び前記第2方向にそれぞれ直交する第3方向に沿って前記スリットの外方から当該スリットの内方への海水の侵入防止を図るスキューバダイビング用のウェットスーツであることを特徴としている。
【0007】
本願のウェットスーツでは、スーツ母材に設けた切り込み部をファスナー部によって開き操作可能である。このとき、そのファスナー部の装着者身体側(裏側)を裏当てするように裏当て生地部が設けられるとともに、その裏当て生地部にスリットが形成されている。
【0008】
ウェットスーツの着脱時には、ファスナー部を開き状態とし、裏当て生地部のうちスリットを挟んだ第2方向一方側と他方側とを離間させる。これにより、スーツ母材及び裏当て生地部それぞれの開口部付近をいわゆる先開き状態とすることができるので、装着者による着脱を容易に行うことができる。
【0009】
ウェットスーツの着用時には、ファスナー部を閉じ状態とする。このとき、裏当て生地部の第2方向一方側部分は固定部によってスーツ母材の第2方向一方側部分に密着固定されており、裏当て生地部の第2方向他方側部分は固定部によってスーツ母材の第2方向他方側部分に密着固定されている。この結果、上記のようにファスナー部を閉じた際、当該ファスナー部の噛み合い部におけるわずかな隙間からファスナー部を越えて海水が侵入したとき、その海水が、比較例のようにスーツ母材と裏当て生地部との隙間から装着者身体側へと漏れ出して肌とスーツとの隙間に流通することはない。
【0010】
またスリットは、前述のようにファスナー部を閉じた時、裏当て生地部のうちスリットを挟んだ第2方向一方側と他方側とが密着するよう構成されている。これにより、上記のようにファスナー部を越えて侵入した海水は、スリットを通って装着者身体側へ漏れ出して肌とスーツとの隙間に流通することもない。
【0011】
以上の結果、本願発明によれば、装着者(ユーザ)による着脱の容易性を阻害することなく、肌とスーツとの隙間の海水流通による低体温を招くのを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、装着者(ユーザ)による着脱の容易性を阻害することなく、肌とスーツとの隙間の海水流通による低体温を招くのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係るウェットスーツの斜視図である。
図2】ウェットスーツ着用時の装着者の左手首部近傍の斜視図である。
図3】閉じ状態のファスナーユニット付近の斜視図である。
図4】ファスナーユニットの斜視図及び側面図である。
図5】ファスナーユニットの裏面から見た斜視図である。
図6】開き状態のファスナーユニット付近の斜視図である。
図7図6のファスナーユニットの拡大図である。
図8】比較例に係るファスナーユニットの斜視図である。
図9図8のファスナーユニットの拡大図である。
図10】本実施形態に係るウェットスーツの製造方法を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。なお、図1~7、図10は本実施形態を説明する図面であり、図8図9は、本実施形態と比較するための比較例を説明する図面である。
【0015】
図1に本実施形態に係るスキューバダイビング用のウェットスーツ1の斜視図を示す。図1に示す方角は、ウェットスーツ1を装着した際に、装着者から見た上下方向、前後方向、左右方向であり、これらは互いに直交する。
【0016】
ウェットスーツ1は、装着者の肌と密着する面を内周側に備えたスーツ母材2を有する、スキューバダイビング用のウェットスーツ1である。
【0017】
スーツ母材2は、装着者の身体の手首部及び足首部をウェットスーツ1の外部へ露出させる4か所の開口部3を有する。ウェットスーツ1は、4か所の開口部3の付近に、ウェットスーツ1の着脱を容易にするためのファスナーユニット19を備える。
【0018】
図2はウェットスーツ1着用時の装着者の左手首部H近傍の斜視図である。開口部3は、装着者の左手首部Hを露出させている。なお、装着者の右手首部、右足首部、左足首部を露出させる他の3か所の開口部3の近傍についても同様の構造となっている。
【0019】
ファスナーユニット19は、ユニット母材20と、ファスナー部4と、裏当て生地部25とが一体化されて形成されている。
【0020】
ユニット母材20は、スーツ母材2の一部であり、スーツ母材2のうち、ファスナーユニット19に含まれないスーツ母材2′との連結部17において、縫製等により連結され、一体化されている。すなわち、スーツ母材2のうち、ファスナーユニット19に含まれるものをユニット母材20、含まれないものをスーツ母材2′と呼ぶ。ユニット母材20はスーツ母材2′と同様の素材で形成されている。ユニット母材20は所定大きさの略矩形状に構成されている。
【0021】
ユニット母材20は、装着者の身体の左手首部Hをスーツ外へ露出させる開口部3から前記身体の胴体側へ向かう第1方向Pに沿って切り込まれるように形成された、切り込み部5を有する。
【0022】
ファスナー部4は、切り込み部5を開口部3側から開き操作可能に設けられている。この図では、ファスナー部4は閉じ状態となっている。
【0023】
裏当て生地部25は、ファスナー部4の前記身体側を裏当てするように設けられ、前記装着者の肌と密着するスキン面6を前記身体側に備える。裏当て生地部25は、スキン面6側に配置されるスキン部材7と、スキン部材7とユニット部材20との間に配置されるファスナー固定部材16とを含む。固定部8はユニット母材20と裏当て生地部25とを密着させつつ、接着剤等により固定している。裏当て生地部25は、ファスナー部4に対応する位置に設けられたスリット9を有する。裏当て生地部25に含まれるスキン部材7及びファスナー固定部材16とは、スーツ母材2と同じ素材、あるいは類似の素材で形成され、例えば、吸水性のないスポンジゴム素材などで構成されている。
【0024】
図3はウェットスーツ1におけるファスナーユニット19付近の斜視図である。なお、この図では、ファスナーユニット19は平板状として図示している。
【0025】
ファスナー部4は、装着者の手または足の幅方向に相当する第2方向Qの一方Q′側及び他方Q″側にそれぞれ位置する、一方側テープ10及び他方側テープ11と、一方側テープ10及び他方側テープ11にそれぞれ設けられた、一方側エレメント12及び他方側エレメント13と、一方側エレメント12と他方側エレメント13とを噛み合わせるように設けられるスライダー14とを有する。
【0026】
ファスナー部4の閉じ状態において、一方側エレメント12と他方側エレメント12とが互いに噛み合わされて形成される噛み合い線を開閉線15とする。この図では開閉線15は第1方向Pに沿って配置されている。
【0027】
固定部8は、ファスナー部4よりも、第1方向Pに直交する第2方向Q(この図の左右方向)における一方Q′側 (この図の左方向側)及び他方Q″側 (この図の右方向側)のそれぞれにおいて、ユニット母材20と裏当て生地部25とを密着させつつ固定する。
【0028】
ユニット母材20のうち、切り込み部5よりも第2方向Qの一方Q′側の領域と、裏当て生地部25のうちスリット9よりも第2方向Qの一方Q′側の領域と、の間に、一方側テープ10が挟まれて固定されており、ユニット母材20のうち、切り込み部5よりも第2方向Qの他方Q″側の領域と、裏当て生地部25のうちスリット9よりも第2方向Qの他方Q″側の領域との間に、他方側テープ13が挟まれて固定されている。
【0029】
ファスナー固定部材16は、一方側テープ10及び他方側テープ11の剛性を補強しファスナー部4の開閉をスムーズに行わせるために配置される。ファスナー固定部材16は接着剤等により、スキン部材7とは一体的に、全面的に固定され、ユニット母材20とは固定部8と重畳する領域のみで固定されている。
【0030】
裏当て生地部25のスリット9は、ファスナー部4の開閉線15に対応する位置に、第1方向Pに略沿いつつ開口部3まで至るように設けられている。
【0031】
ウェットスーツ1は、着脱時にはファスナー部4を開き状態として、裏当て生地部25のうちスリット9を挟んだ第2方向Qの一方Q′側と他方Q″側とを離間させることで当該着脱を容易化し、ウェットスーツ1の着用時にはファスナー部4を閉じ状態として、裏当て生地部25のうちスリット9を挟んだ第2方向Qの一方Q′側と他方Q″側とを密着させることで、第1方向P及び第2方向Qにそれぞれ直交する第3方向R(装着者の体外から体内に向かう方向)に沿ってスリット9の外方からスリット9の内方への海水の侵入防止を図るようになっている。この図では、例えば、黒い矢印で図示した方向から、海水が侵入するのを防止するようになっている。
【0032】
この図では、スリット9の左右方向の幅(隙間)を強調して図示しているが、実際のスリット9は実質的な幅はなく、さらに、実際に着用した際には、図2に示したように、開口部3が手首部の外周に沿って曲線状となるため、スリット9を挟んで裏当て生地部25に左右方向からの圧力がかかり隙間がなくなる、もしくは非常に少なくなるようになっている。
【0033】
スリット9は、第3方向Rに対し所定の鋭角θで傾斜した状態で形成されている。鋭角θは、例えば20°~60°の範囲、より好ましくは、50°前後である。この図ではスリット9は右上方向から左下方向に向かう方向に沿っているが、左上方向から右下方向に向かう方向に沿うように構成されていてもよい。
【0034】
なお、ウェットスーツ1の前記着脱時とは、スキューバダイビング等を行う際にウェットスーツ1を装着したり、脱いだりする時を指し、前記着用時とは、ウェットスーツ1を装着した状態で、海水に潜っている時等を指す。
【0035】
ウェットスーツ1は、通常、開口部3のサイズを装着者の手首や足首に合わせて製造するため、ファスナー部4等を配置しなければ、着脱時に脱ぎ着が行いにくくなっている。
【0036】
図4にファスナーユニット19のみを抽出した斜視図及び側面図を示す。図4(a)はユニット母材20の側を開口部3を構成する方向から見たファスナーユニット19の斜視図であり、図4(b)はファスナーユニット19を開口部3を構成する側から見た側面図である。
【0037】
図4(a)に示すようにファスナーユニット19は開口部3から遠い方の短辺が半円状になった略長方形状に構成されるが、他の形状であってもかまわない。図4(a)、図4(b)に示すように、ファスナーユニット19はスキン面6の側から、裏当て生地部25、テープ10及びテープ11、スーツ母材20の順に積層された構造を含むユニットとなっており、ファスナーユニット19単体で販売することもできる。
【0038】
図4(a)に示すように、ファスナー部4の閉じ状態においては、裏当て生地部25のうちスリット9を挟んだ第2方向Qの一方側端面23と他方側端面24とが略密着する。
【0039】
図5(a)及び(b)はファスナーユニット19を裏当て生地部25の側から見た斜視図である。裏当て生地部25はユニット母材20と略同一形状である。スリット9は、裏当て生地部25において、ファスナー部4の開閉線15(図示なし)に対応する位置に、第1方向Pに略沿いつつ開口部3まで至るように設けられる。この図では、スリット9の第1方向Pにおける寸法は、ファスナーユニット19の第1方向Pにおける寸法よりも、短い。
【0040】
図6は、開き状態にあるファスナーユニット19付近の斜視図であり、図7図6のファスナーユニット19の拡大図である。これらの図では、構造の明確化のために、ユニット母材20の切り込み部5の縁部を広げて展開して見せている。開き状態においては、ユニット母材20の切り込み部5、ファスナー部4の一方側エレメント12及び他方側エレメント13、スリット9を挟んだ裏当て生地部25の第2方向Qの一方Q′側及び他方Q″側を互いに離間させることができ、ウェットスーツ1の着脱を容易とすることができる。
【0041】
図8は比較例に係るファスナーユニット19′の斜視図である。図8のファスナーユニット19′は閉じ状態にある。図9(a)は開き状態にあるファスナー部ユニット19′の斜視図である。比較例のファスナーユニット19′の裏側には、ユニット母材20の幅方向の片側で連結された、防水の当て布18が設けられる。この図では、第2方向Qの他方Q″側でのみ、当て布18が、固定部8′により、接着剤等で、ユニット母材20に固定されている。ファスナーユニット19′を備えるウェットスーツ1′(図示なし)の装着中にはこの当て布18がファスナーユニット19′の裏側から被さった状態となっている。
【0042】
図9(b)に、図8のファスナーユニット19′の拡大図を示す。当て布18を設けたウェットスーツ1′では、着脱容易性を確保するために、当て布18をユニット母材20のQ″側のみにしか連結できないので、Q′側では密閉効果がない。また、ユニット部材20と、その裏面に重ねられた当て布18との間には段差Dが形成されるため、装着者の肌との間に隙間(空間)が形成されることとなる。このような理由により、ファスナー部4の開閉線15の隙間等を越えて侵入した海水が、例えば図中の黒い矢印方向に沿って、ユニット母材20と当て布18との隙間から装着者身体側へと侵入する。
【0043】
図10に、実施形態に係るスキューバダイビング用のウェットスーツ1の製造方法を説明する概念図を示す。ウェットスーツ1の製造方法は例えば工程(A)~(G)を含む。
【0044】
工程(A)において、スーツ母材2の一部となる所定大きさの略矩形のユニット母材20と、ユニット母材20に備えられる第1方向Pに沿った切り込み部5を開き操作可能なファスナー部4と、ファスナー部4を裏当てするように設けられた裏当て生地部25′とを一体化して、裏当て生地つきのファスナーユニット19″を形成する。
【0045】
裏当て生地部25′はスキン部材7′とファスナー固定部材16′とを含む。ファスナーユニット19″は、裏当て生地部25′にスリット9が入っていない点以外においては、ファスナーユニット19と同じである。
【0046】
次いで、工程(B)~工程(C)において、スーツ母材2′における装着者の身体の手首部又は足首部に対応する部位において、ファスナーユニット19″の輪郭と略同一形状の、略U字状の切り抜き線21に沿って、カッター等の切断具を用いた切り抜きを行うことで、対応するファスナーユニット19″と略同等の大きさの略矩形状の切り抜き部22を形成する
【0047】
次いで、工程(D)において、スーツ母材2′に形成された切り抜き部22に対し工程(A)で形成された前記ファスナーユニット19″をあてがい、縫製によりファスナーユニット19″をスーツ母材2′に取り付ける。この工程により、スーツ母材2′とファスナーユニット19″とが一体化する。
【0048】
次いで、工程(E)において、ファスナーユニット19″のファスナー部4を開き、当該開いた状態から露出されている裏当て生地部25′に対し、工程(F)において、ファスナー部4の開閉線15と略一致する態様となるようにハサミで切り込むことによりスリット9を形成する。
【0049】
上述の工程により、工程(G)においてウェットスーツ1を製造することができる。
【0050】
<実施形態の効果>
ウェットスーツ1は、スーツ母材2に設けた切り込み部5をファスナー部4によって開き操作可能である。このとき、そのファスナー部4の装着者身体側(裏側)を裏当てするように裏当て生地部25が設けられるとともに、その裏当て生地部25にスリット9が形成されている。
【0051】
ウェットスーツ1の着脱時には、ファスナー部4を開き状態とし、裏当て生地部25のうちスリット9を挟んだ第2方向一方Q′側と他方Q″側とを離間させる。これにより、スーツ母材2及び裏当て生地部25それぞれの開口部3付近をいわゆる先開き状態とすることができるので、装着者による着脱を容易に行うことができる。
【0052】
ウェットスーツ1の着用時には、ファスナー部4を閉じ状態とする。このとき、裏当て生地部25の第2方向一方Q′側部分は固定部8によってスーツ母材2(ユニット母材20)の第2方向一方Q′側部分に密着固定されており、裏当て生地部25の第2方向他方Q″側部分は固定部8によってスーツ母材2(ユニット母材20)の第2方向他方Q″側部分に密着固定されている。この結果、上記のようにファスナー部4を閉じた際、ファスナー部4の噛み合い部におけるわずかな隙間からファスナー部4を越えて海水が侵入したとき、その海水が、図8~9に示した比較例のようにスーツ母材2と裏当て生地部25との隙間から装着者身体側へと漏れ出して肌とウェットスーツ1との隙間に流通することはない。
【0053】
またスリット9は、前述のようにファスナー部4を閉じた時、裏当て生地部25のうちスリット9を挟んだ第2方向一方Q′側と他方Q″側とが密着するよう構成されている。特に、上記4か所の開口部3に対応する装着者の手首部・足首部はいずれも断面形状が略円形又は楕円形となるため、装着者が装着したとき、ウェットスーツ1の身体側(内径側)はその反対側(外径側)に比べて圧縮方向への力が大きく作用することとなる。この結果、スリット9を閉塞する方向に大きな力が作用し、上記裏当て生地部25のうちスリット9を挟んだ第2方向一方Q′側と他方Q″側とが強く密着する。これにより、上記のようにファスナー部4を越えて侵入した海水は、スリット9を通って装着者身体側へ漏れ出して肌とウェットスーツ1との隙間に流通することはない。
【0054】
以上の結果、本願発明によれば、装着者(ユーザ)による着脱の容易性を阻害することなく、肌とウェットスーツ1との隙間の海水流通による低体温を招くのを防止することができる。
【0055】
また、本実施形態では特に、スリット9が第3方向Rに対し所定の鋭角θで傾斜した状態で形成されることにより、ファスナー部4を閉じた時、裏当て生地部25のうちスリット9を挟んだ第2方向一方Q′側と他方Q″側とが突き合わされるとき、スリット9を第3方向Rに沿ってまっすぐに形成した場合に比べ、突き合わせ部分を良好に摺動させつつ密着させることができる。この結果、スリット9の隙間を確実に埋めることができ、海水侵入防止のための良好なシール効果を確実に得ることができる。
【0056】
また、本実施形態では特に、スーツ母材2と裏当て生地部25との間にファスナー部4のテープ10、11が挟みまれて固定されている構造により、前述のようにファスナー部4を閉じ状態とした際、ファスナー部4を越えて侵入した海水がスーツ母材2と裏当て生地部25との隙間から漏れ出すのを防止する海水シール効果を確実に向上させることができる。
【0057】
なお、以上の説明において、外観上の寸法や大きさが「同一」「等しい」「異なる」等の記載がある場合は、当該記載は厳密な意味ではない。すなわち、それら「同一」「等しい」「異なる」とは、設計上、製造上の公差、誤差が許容され、「実質的に同一」「実質的に等しい」「実質的に異なる」という意味である。
【0058】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0059】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0060】
1、1′ ウェットスーツ
2、2′ スーツ母材
3 開口部
4 ファスナー部
5 切り込み部
6 スキン面
7、7′ スキン部材
8 固定部
9 スリット
10 一方側テープ
11 他方側テープ
12 一方側エレメント
13 他方側エレメント
14 スライダー
15 開閉線
16、16′ ファスナー固定部材
17 連結部
18 当て布
19、19′、19″ ファスナーユニット
20 ユニット母材
21 切り抜き線
22 切り抜き部
23 第2方向Qの一方側端面
24 第2方向Qの他方側端面
25、25′ 裏当て生地部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10