(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064006
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】パイル編成用横編機およびシンカー、ならびに横編機でのパイル編成方法
(51)【国際特許分類】
D04B 15/06 20060101AFI20230428BHJP
【FI】
D04B15/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174180
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101638
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 峰太郎
(72)【発明者】
【氏名】小▲高▼ 憲夫
(72)【発明者】
【氏名】下野 正裕
(72)【発明者】
【氏名】川端 祥太
【テーマコード(参考)】
4L054
【Fターム(参考)】
4L054AA01
4L054AB02
4L054BA08
4L054BB04
4L054BD03
4L054KA23
4L054NA05
4L054NA07
(57)【要約】
【課題】 パイル編成と天竺編成とを切換えて混在させることを可能にする。
【解決手段】 度決めの位置Aで、天竺編成では地糸10とパイル糸11との両方が地糸用掛爪13dに掛かって新ループ40のシンカーループとなり、シンカー13の再進出位置Bまでに地糸用掛爪13dから抜ける。旧ループ41は、フック12aが歯口3に進出すると、べら12bを開いて針幹側に移行してクリアされ、編針12が歯口3から引込まれる際に、相対的に歯口3側に進出し、べら12bを閉じながらフック12aを乗り越えて、歯口3側にノックオーバーされる。ノックオーバーされた旧ループ41が歯口付近に滞留しても、再進出位置Bまでに、シンカー13の押込み部13gで歯口3の下方に押込むことができる。パイル編成では、再進出位置Bで地糸用掛爪13dに掛かるパイル糸11を押込むことで、地糸10と旧ループ41とを押込むことができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針床の長手方向に並設され、該長手方向に垂直な方向に進退して、歯口に進出すると上昇する編針と、歯口に進退するシンカーとを備え、
シンカーは先端に地糸用掛爪とパイル糸用掛爪とを有し、
歯口上方で先行する給糸口から給糸される地糸と後行する給糸口から給糸されるパイル糸とを、シンカーの先端で仕分けしながらパイル編成を行う、パイル編成用横編機において、
歯口上方での地糸とパイル糸との給糸口の位置を、
パイルループを形成するパイル編成では、地糸の給糸口が先行し、パイル糸の給糸口が間隔をあけて後行するように、
パイルループを形成しない編成では、パイル編成時に後行していたパイル糸の給糸口を先行する地糸の給糸口側に寄せて、シンカーの先端で仕分けられない範囲の位置となるように、
それぞれ切換える切換え手段を含み、
パイルループを形成しない編成では、地糸とパイル糸とを、編針のフックに捕捉してニードルループを形成し、地糸とパイル糸との両方をシンカーの地糸用掛爪に掛けてシンカーループを形成して、パイルループ無しの天竺編成が可能な、
ことを特徴とするパイル編成用横編機。
【請求項2】
前記編針および前記シンカーは、前記針床の前記長手方向に沿って往復動するキャリッジに搭載される駆動機構で前記歯口に進退するようにそれぞれ駆動され、
前記地糸を給糸する給糸口と前記パイル糸を給糸する給糸口とは、往復動するキャリッジと独立に走行して、キャリッジに追従することが可能な自走式のキャリアに設けられる、
ことを特徴とする請求項1記載のパイル編成用横編機。
【請求項3】
前記シンカーは、前記歯口側の先端付近に、下方に突出して、歯口への進出で進退経路上の前記地糸および前記パイル糸を歯口に押込み可能な押込み部を有する、
ことを特徴とする請求項1または2記載のパイル編成用横編機。
【請求項4】
前記シンカーは、度決め時に歯口に進出した後、一旦歯口から退入してから歯口に再進出し、少なくとも再進出時に、前記押込み部を、前記針床に設定される天歯位置よりも歯口下方に進出させる、
ことを特徴とする請求項3記載のパイル編成用横編機。
【請求項5】
パイル編成用横編機に用いられ、歯口に進退する先端に地糸用掛爪とパイル糸用掛爪とを有し、地糸とパイル糸との仕分けが可能なシンカーにおいて、
該先端付近に、下方に突出し、歯口への進出で、進退経路上の地糸およびパイル糸を歯口側に押込み可能な押込み部を有する
ことを特徴とするシンカー。
【請求項6】
上昇しながら歯口に進出する編針と、歯口に進退するシンカーとを備え、
シンカーの先端に地糸用掛爪とパイル糸用掛爪とを有し、
歯口上方で先行して給糸される地糸と後行して給糸されるパイル糸とを、歯口から退入する編針のフックに捕捉して、
地糸とパイル糸とをシンカーの先端で仕分けしながら、地糸のシンカーループとパイル糸のパイルループとをそれぞれ形成する、
横編機でのパイル編成方法において、
歯口上方での地糸とパイル糸との給糸位置を、
パイルループを形成するパイル編成では、地糸の給糸口が先行し、パイル糸の給糸口が間隔をあけて後行するように、
パイルループを形成しない編成では、パイル編成時に後行していたパイル糸の給糸口を先行する地糸の給糸口側に寄せて、シンカーの先端で仕分けられない範囲の位置となるように、
それぞれ切換え、
パイルループを形成しない編成では、地糸とパイル糸とを、編針のフックに捕捉してニードルループを形成し、地糸とパイル糸との両方をシンカーの地糸用掛爪に掛けてシンカーループを形成して、パイルループ無しの天竺編成が可能な、
ことを特徴とする横編機でのパイル編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地糸とパイル糸とによるパイル編成が可能な、パイル編成用横編機およびシンカー、ならびに横編機でのパイル編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パイル編成が可能な横編機は、地糸とパイル糸とを編針に給糸して、可動のシンカーの先端で地糸とパイル糸とを仕分けしながらパイル編地を形成する。シンカーの先端は、地糸とパイル糸とを掛ける掛爪をそれぞれ有し、地糸を先に給糸して地糸用掛爪に掛けて係止し、パイル糸を後で給糸してパイル糸用掛爪に掛けて係止することで仕分けする。このようなシンカーは、パイル糸によるシンカーループを地糸によるシンカーループよりも長く形成してパイルループにすることができる。パイル編地の手袋(たとえば特許文献1参照)は、指先から手首までのすべてがパイル編成で、手首にはゴム糸がタックで挿入され、パイルループが内側に出る状態で編成される。このような手袋は、外側にラテックスなどをコーティングして防水や防寒機能を持たせたり、パイル糸にアラミド繊維などを使用し、パイルを外側にして耐切創性や耐熱性を持たせたりすることができる。パイル編地は、靴下としても形成することもでき、たとえばパイルループを内側にすることで、防寒機能を持たせることができる。
【0003】
可動シンカーを用いてパイル編成を行う横編機は、パイル編成のみを効率よく行うことができ、パイル糸を使用しないで地糸のみを使用すれば天竺編成を行う区間を混在させることもできる。しかしながら、地糸のみで天竺編成を行うと、パイル糸は、パイル編成の区間の終端から次のパイル編成の区間の始端まで、編地に編込まれずに渡るようになってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようなパイル編成方法で編成される手袋や靴下のパイル編地は、内側または外側の表面の全面にパイルループが形成され他方がパイルループの無い表面となっている。パイル編成と、パイルループを形成しない天竺編成とを自在に混在させることができれば、新規な外観デザイン、凹凸による滑り止めやグリップ効果の向上が期待される。
【0006】
本発明の目的は、パイル編成と天竺編成とを切換えて混在させることが可能な、パイル編成用横編機およびシンカー、ならびに横編機でのパイル編成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、針床の長手方向に並設され、該長手方向に垂直な方向に進退して、歯口に進出すると上昇する編針と、歯口に進退するシンカーとを備え、
シンカーは先端に地糸用掛爪とパイル糸用掛爪とを有し、
歯口上方で先行する給糸口から給糸される地糸と後行する給糸口から給糸されるパイル糸とを、シンカーの先端で仕分けしながらパイル編成を行う、パイル編成用横編機において、
歯口上方での地糸とパイル糸との給糸口の位置を、
パイルループを形成するパイル編成では、地糸の給糸口が先行し、パイル糸の給糸口が間隔をあけて後行するように、
パイルループを形成しない編成では、パイル編成時に後行していたパイル糸の給糸口を先行する地糸の給糸口側に寄せて、シンカーの先端で仕分けられない範囲の位置となるように、
それぞれ切換える切換え手段を含み、
パイルループを形成しない編成では、地糸とパイル糸とを、編針のフックに捕捉してニードルループを形成し、地糸とパイル糸との両方をシンカーの地糸用掛爪に掛けてシンカーループを形成して、パイルループ無しの天竺編成が可能な、
ことを特徴とするパイル編成用横編機である。
【0008】
また本発明で、前記編針および前記シンカーは、前記針床の前記長手方向に沿って往復動するキャリッジに搭載される駆動機構で前記歯口に進退するようにそれぞれ駆動され、
前記地糸を給糸する給糸口と前記パイル糸を給糸する給糸口とは、往復動するキャリッジと独立に走行して、キャリッジに追従することが可能な自走式のキャリアに設けられる、
ことを特徴とする。
【0009】
また本発明で、前記シンカーは、前記歯口側の先端付近に、下方に突出して、歯口への進出で進退経路上の前記地糸および前記パイル糸を歯口に押し込み可能な押込み部を有する、
ことを特徴とする。
【0010】
また本発明で、前記シンカーは、度決め時に歯口に進出した後、一旦歯口から退入してから歯口に再進出し、少なくとも再進出時に、前記押し込み部を、前記針床に設定される天歯位置よりも歯口下方に進出させる、
ことを特徴とする。
【0011】
さらに本発明は、パイル編成用横編機に用いられ、歯口に進退する先端に地糸用掛爪とパイル糸用掛爪とを有し、地糸とパイル糸との仕分けが可能なシンカーにおいて、
該先端付近に、下方に突出し、歯口への進出で、進退経路上の地糸およびパイル糸を歯口側に押し込み可能な押し込み部を有する
ことを特徴とするシンカーである。
【0012】
さらに本発明は、上昇しながら歯口に進出する編針と、歯口に進退するシンカーとを備え、
シンカーの先端に地糸用掛爪とパイル糸用掛爪とを有し、
歯口上方で先行して給糸される地糸と後行して給糸されるパイル糸とを、歯口から退入する編針のフックに捕捉して、
地糸とパイル糸とをシンカーの先端で仕分けしながら、地糸のシンカーループとパイル糸のパイルループとをそれぞれ形成する、
横編機でのパイル編成方法において、
歯口上方での地糸とパイル糸との給糸位置を、
パイルループを形成するパイル編成では、地糸の給糸口が先行し、パイル糸の給糸口が間隔をあけて後行するように、
パイルループを形成しない編成では、パイル編成時に後行していたパイル糸の給糸口を先行する地糸の給糸口側に寄せて、シンカーの先端で仕分けられない範囲の位置となるように、
それぞれ切換え、
パイルループを形成しない編成では、地糸とパイル糸とを、編針のフックに捕捉してニードルループを形成し、地糸とパイル糸との両方をシンカーの地糸用掛爪に掛けてシンカーループを形成して、パイルループ無しの天竺編成が可能な、
ことを特徴とする横編機でのパイル編成方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パイル編成用横編機は、パイルループを形成するパイル編成とパイルループを有しない天竺編成との切換えを、切換え手段を作用させれば、どの編針に対しても行うことができる。パイル編成から切換えられる天竺編成は、コースの途中でも、コース単位でウエール方向にも、混在させることが可能になり、渡り糸が生じることもない。天竺編成が混在するパイル編地は、新規な外観デザイン、凹凸による滑り止めやグリップ効果の向上が期待される。
【0014】
また本発明によれば、地糸とパイル糸とを給糸する給糸口を自走式にするので、給糸位置の切換えによるパイル編成と天竺編成との切換えを効率良く行うことができる。
【0015】
また本発明によれば、天竺編成時にノックオーバーされた旧ループが歯口付近に滞留しても、シンカーの押込み部で歯口下方に押込むことができる。シンカーの押込み部による押し込みは、次にフックが歯口に進出する際に旧ループが滞留しないようにするので、天竺編成を安定して行うことが可能になる。
【0016】
また本発明によれば、パイル編成用横編機は、シンカーの押込み部を、再進出時に針床の天歯位置よりも歯口下方まで進出させるので、歯口付近に旧ループが滞留しても、確実に歯口下方に押込むことができる。
【0017】
さらに本発明によれば、パイル編成用横編機に用いるシンカーは、天竺編成時にノックオーバーされて歯口付近に滞留する旧ループを押込み部で歯口下方に押込むことができるので、パイル編成に混在させる天竺編成を安定して行うことができる。
【0018】
さらに本発明によれば、パイル編成と天竺編成とは、コースの途中でも、コース単位でウエール方向にも、混在させるように切換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例あるパイル編成用横編機1の主要部部分の構成を、簡略化して示す右側面断面図である。
【
図2】
図2は、編針12およびシンカー13を駆動するカムの配置図である。
【
図3】
図3は、編針12およびシンカー13によるパイル編成の動作を示す簡略化した側面断面図である。
【
図4】
図4は、編針12およびシンカー13による天竺編成の動作を示す簡略化した側面断面図である。
【
図5】
図5は、シンカー13に設ける押込み部13gについての構成と動作を示す部分的な側面断面図である。
【
図6】
図6は、
図1のパイル編成用横編機1で編成された手袋50の外観を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1から
図6は、本発明の一実施例であるパイル編成用横編機1の構成と動作を示す。各図で対応する部分は,同一の参照符を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。また説明の便宜上、説明対象の図には記載されていない部分について、他の図に記載される参照符を付して言及する場合がある。
【実施例0021】
図1は、本発明の一実施例であるパイル編成用横編機1の主要部の構成を簡略化して示す。パイル編成用横編機1は、前後に針床2を有する。前後の針床2は、歯口3を挟んで対向し、歯口中心面3aに関して面対称となるように配置される。歯口3で前後の針床2で挟まれる部分は、上方から見れば図の奥行き方向に細長い矩形である。この奥行き方向について、以下では長手方向と記載する。各針床2は、基板4と、基板4の長手方向に一定間隔で立設されるニードルプレート5とを有する。基板4の歯口3側には、編目抑止杆6が配置される。編目抑止杆6は、たとえば特開2013-019062号公報で説明されているように、手袋の指袋を股重ねしながら編成するために使用される。各針床2の歯口3側の上方には、シンカー床7が配置される。歯口3の上方には、給糸口8,9が配置され、パイル編成のための地糸10とパイル糸11とを、それぞれ給糸する。給糸口8,9の上方には、長手方向に延びる糸道レールが架設される。糸道レールには、トラックが設けられ、キャリアを長手方向に走行可能に支持する。給糸口8,9は、それぞれキャリアから垂下するヤーンフィーダーの下端に設けられる。
【0022】
針床2のニードルプレート5間は、針溝となり、編針12が摺動可能な状態で収容される。編針12は、歯口3側の先端にフック12aを有する。この編針12はべら針であり、フック12aで歯口3から離れる側に開口する鈎口は、べら12bで開閉される。編針12の摺動は、フック12aが歯口3に進出しながら上昇し、退入しながら下降するような、傾斜した方向で行われる。シンカー床7には、隣接する編針12の中間となるように、シンカー13が配置される。シンカー13は、進出面13aおよび退入面13bを有し、パイル糸用掛爪13cおよび地糸用掛爪13dを有する先端が歯口3に進退するように、後述するシンカーカム30によって駆動される。この駆動によるシンカー13の摺動は、歯口3に進出しながら下降し、退入しながら上昇するような、傾斜した方向で行われる。細線の破線は、先端が歯口3に最も進出している状態を示す。
【0023】
図2は、編針12およびシンカー13を駆動する駆動機構となる編成カム20およびシンカーカム30の配置を示す。このようなカムの配置は、基本的に特許第5079682号公報などに記載されており、針床2の長手方向に往復移動するキャリッジに設けられる。キャリッジは、針床2とシンカー床7に臨むカム板をそれぞれ有し、針床2に臨むカム板には、編成カム20が搭載される。編成カム20は、ガイドカム21、ゴム山カム22、編出しカム23、ニードルレイジングカム24、中山カム25、天山カム26、編出し用出没カム27、度山カム28、ガイドカム29を含む。この編成カム20は、キャリッジが図の左方に走行しながらパイル編成または天竺編成を行う際に、編針12のバットに作用して、軌跡12cとして示すような駆動を行う。フック12aは、軌跡12cを、バットとフック12aとの間隔だけ歯口3側に移した軌跡で、歯口3に進退する。
【0024】
シンカー床7に臨むカム板には、シンカーカム30が搭載される。シンカーカム30は、進出カム面30aと退入カム面30bとを有する。図の右方に破線で示すように、進出カム面30aおよび退入カム面30bは、シンカー13の進出面13aおよび退入面13bをそれぞれ押圧する。シンカーカム30に付属して、可動カム31,32が設けられる。可動カム31は、シンカー13で退入面13bが設けられるバット状の部分で、退入面13bに対向する面を、歯口3に進出する方向に押圧する。この押圧でシンカー13は歯口3側に進出する山となり、続く退入カム面30bでシンカー13は歯口3からシンカー床7に退入する谷となる。可動カム32は、キャリッジの左方への走行時にはシンカーカム30内に隠れる状態で、作用しない。したがって、シンカー13の駆動は、進出カム面30aおよび可動カム31による歯口3への進出方向の駆動と、退入カム面30bによる歯口3からの退入方向への駆動との組合せで行われる。この駆動によって、シンカー13の先端および尾端は、軌跡13e,13fを通る。
【0025】
給糸口8,9による地糸10とパイル糸11との給糸位置8a,8b,8c;9a,9b,9cは、編成カム20の配置を基準に、三角形で示す位置に設定される。パイル編成時の給糸位置8a,9aについて、地糸10の給糸位置8aが先行し、間隔をあけてパイル糸11の給糸位置9aが後行することは、従来からのパイル編成と同様である。本実施例では、地糸10の給糸位置8bは給糸位置8aと同じにして、パイル糸11の給糸位置9bを給糸位置9aより先行側に寄せて給糸位置8bに近づけて、天竺編成を行う。給糸位置8b,9bから給糸される地糸10とパイル糸11とは、シンカー13の先端の地糸用掛爪13dとパイル糸用掛爪13cとで仕分けられず、両方が地糸用掛爪13dに掛かって、パイルループを有しない天竺編成が可能となる。なお、天竺編成は、給糸位置8b,9bだけでなく、一定の許容範囲L内なら、給糸口8の給糸位置8cよりも給糸口9の給糸位置9cが先行しても可能である。許容範囲Lは、地糸10およびパイル糸11の両方がパイル糸用掛爪13cには掛からず、両方が地糸用掛爪13dに掛かり、かつ両方をフック12aに捕捉させることができる範囲である。この許容範囲L内なら、地糸10およびパイル糸11の給糸口8,9のどちらが先行してもよく、また同じ位相になってもよい。
【0026】
本実施例では、給糸口8,9のキャリアを、キャリッジとは独立に走行可能な自走式にしているので、パイル編成の給糸位置8a,9aと天竺編成の給糸位置8b,9bとの切換えも容易である。パイル編成および天竺編成に関するシンカー13の作用は、図の位置A,Bで特徴づけられる。位置Aは、度山カム28による引込みで歯口3から退入する編針12のフック12aに掛かるニードルループと、シンカー13の先端で受けるシンカーループとで、新ループが形成される度決めの位置である。位置Bは、位置Aの後でシンカー13が歯口3から位置Cでシンカー床7側に退入し、再度歯口3側に進出してシンカーループを押込む再進出の位置である。パイル編成用横編機1は、少なくとも位置Bでの再進出時に、シンカー13でシンカーループを歯口3の下方に押込むことで、ノックオーバーされた旧ループが歯口3下方に移行し易くしている。
【0027】
図3および
図4は、
図2の位置A,Bでのシンカー13の動作でパイル編成および天竺編成を行う状態を、それぞれ示す。
図3に示すように、度決めの位置Aで、地糸10とパイル糸11とは、パイル編成では地糸用掛爪13dとパイル糸用掛爪13cとにそれぞれ掛かって仕分けられながら、新ループ40のシンカーループとなる。
図4に示すように、度決めの位置Aで、天竺編成では両方が地糸用掛爪13dに掛かって新ループ40のニードルループとなり、パイル糸用掛爪13cには掛からない。新ループ40が形成される前にフック12aに保持されていたニードルループは、旧ループ41となる。地糸10およびパイル糸11の給糸を受けるために、ニードルレイジングカム24および中山カム25による駆動でフック12aが歯口3に進出すると、旧ループ41のニードルループは、編針12に対する相対的な移動で、べら12bを開いて針幹側に移行してフック12aからクリアされる。クリアされた旧ループ41は、度山カム28が編針12を引込む際に、相対的に歯口3側に進出し、べら12bを閉じながらフック12aを乗り越えて、歯口3側にノックオーバーされる。
【0028】
図2に示すように、度決めの位置Aと再進出の位置Bとの間の位置Cで、シンカー13は一旦、歯口3からシンカー床7側に退入する。この際に、
図3のパイル編成でパイル糸用掛爪13cに係止されていたパイル糸11は、パイル糸用掛爪13cから抜けて地糸用掛爪13dの方に移行するか、または地糸用掛爪13dからも抜ける。位置Cからシンカー13が再進出を開始すると、地糸用掛爪13dに移行しているパイル糸11はそのまま掛かる状態で位置Bまでで押込まれる。一旦抜けたパイル糸11も、再進出する地糸用掛爪13dに突刺され、地糸用掛爪13に掛かる状態となり、位置Bまでで押込まれる。この押込みで、地糸10と旧ループ41は、歯口3の下方に押込まれる。地糸用掛爪13dに掛かっていたパイル糸11は、位置Bの後のシンカー13の退入で、シンカー13の先端から抜けてパイルループとなる。
図4に示す天竺編成では、位置Cで地糸10およびパイル糸11とは両方とも地糸用掛爪13dから抜け、位置Bまでの再進出でもシンカー13の先端には残らず、パイルループが形成されない天竺編みの編目となる。
図4に示すように、本実施例のシンカー13は、先端付近に、下方に突出し、歯口3への進出で、進退経路上の地糸10およびパイル糸11を歯口3側に押込み可能な押込み部13gを有する。
【0029】
図5は、シンカー13に設ける押込み部13gについて示す。説明の便宜上、
図1で下降するように傾斜している歯口3への進出方向は、
図4では水平な右方向となるように角度を変えている。押込み部13gは、地糸用掛爪13dの先端からの距離Hの位置に設ける。本実施例の押込み部13gは、図の下方に高さGだけ傾斜しながら突出する段差の形状であるけれども、垂直な形状や、曲線状や鈎状など、他の形状とすることも可能である。押込み部13gを設けることによって、シンカー13の歯口3への再進出時に、進退経路上の地糸10およびパイル糸11は、歯口3側に押込み可能となる。押込み部13gの形状は、パイル編成に支障がないように選定され、使用する地糸10およびパイル糸11によって異ならせることもある。
【0030】
本実施例のパイル編成用横編機1では、針床2の歯口3側で編目抑止杆6を使用するので、編目抑止杆6の歯口3側上端が天歯6aとして作用し、ノックオーバーされた旧ループ41に連なる編地の方向が下方に向かうように屈折する。針床2の構成によっては、長手方向に貫通するワイヤーなどが天歯となることもある。
図4(B)のように、天竺編成では地糸10およびパイル糸11の両方がシンカー13の地糸用掛爪13dから外れているので、天竺編成が複数コース続くと、ノックオーバーされた旧ループ41のニードルループは、天歯6aを越えずに、フック12aの進出方向の前方に滞留するおそれがある。滞留している旧ループ41は、次の編成動作でフック12aが歯口3に進出しながら上昇する際に、フック12aの頂部で押し上げられたり、フック12a内に再度捕捉されたりして、編成不良を発生させる。押込み部13gは、旧ループ41が滞留しても、再進出の位置Bで歯口3の下方に押込んで滞留を解消させることができる。歯口3の下方への押込みを確実に行うためには、押込み部13gが天歯6aの位置よりも深さDだけ下方の位置となるように、シンカー13を押下げる。なお、シンカー13として、本実施例のような直線的な方向の進退ではなく、揺動も含む進退で、先端で仕分けしながらパイル編成を行う場合でも、押込み部を設ければ、天竺編成での旧ループの滞留を解消させることができる。
【0031】
図6は、サンプルとして編成された手袋50の外観を示す。手袋50は、地糸10とパイル糸11とに同種の糸を使用して編成し、親指51、人差指52、中指53、薬指54および小指55の各指袋と、掌56および手首57を有する。親指51、人差指52および掌56は、パイル編成と天竺編成とを交互に2コースずつウエール方向に繰返し、凹凸のある縞模様になって、すべり止めの効果も期待される。天竺編成は地糸10とパイル糸との両方を編込むので、パイル11の渡り糸が生じることもない。中指53、薬指54、小指55および手首57は、全コースがパイル編成であり、手首57には、
図2のゴム山カム22を使用してゴム糸を挿入している。手袋50の甲側は、パイル編成に天竺編成を同様に混在させたり、全部パイル編成にしたりすることもできる。地糸10とパイル糸11とに異なる糸を使用すれば、手袋や靴下の外観や機能を多様に展開することができる。パイル編成に天竺編成を混在させると、パイル糸11の消費量を低減することができる効果もある。
【0032】
本実施例では、地糸10の給糸口8およびパイル糸11の給糸口9を自走式のキャリアでそれぞれ移動させるので、給糸位置の違いによるパイル編成と天竺編成との切換えを容易に行うことができる。この切換えは、1コースの途中でも、キャリッジおよびキャリアを一旦停止させて、給糸位置を変えることで行うことができる。コース単位でウエール方向に、パイル編成と天竺編成とを混在させるには、編幅の端部で、キャリッジおよびキャリアの走行方向を反転する際に、給糸位置を切換えるようにすればよい。パイル編成用横編機1の制御部は、キャリッジおよびキャリアの走行を制御して、パイル編成と天竺編成との切換えを行う切換え手段となる。キャリアがキャリッジに連行されて移動する連行式でも、キャリッジによる連行位置を切換えれば、パイル編成と天竺編成との切換えは可能である。ただし、キャリッジによるキャリアの連行位置は、パイル編成用と天竺編成用との2箇所設けることが必要で、キャリッジの往復走行では4箇所設けることが必要となり、キャリッジには切換えるための余分な走行が必要となって、編成効率が低下してしまう。連行式のキャリアを使用する場合は、キャリッジの走行と、キャリアの連行の切換えとを制御する横編機の制御部が切換え手段となる。
【0033】
以上のように本実施例のパイル編成用横編機1は、上昇しながら歯口3に進出する編針12と、下降しながら歯口3に進出するシンカー13とを備える。シンカー13は、先端に地糸用掛爪13dとパイル糸用掛爪13cとを有する。編針12は、歯口3の上方で先行して給糸される地糸10と後行して給糸されるパイル糸11とを、歯口3から退出するフック12aに捕捉する。パイル編成では、地糸10とパイル糸11とをシンカー13の先端で仕分けしながら、地糸10のシンカーループとパイル糸11のパイルループとをそれぞれ形成する。歯口上方での地糸10とパイル糸11との給糸位置を、パイルループを形成する編成では、地糸10の給糸口8が先行し、パイル糸11の給糸口9が間隔をあけて後行するようにする。パイルループを形成しない編成では、地糸10の給糸口8とパイル糸11の給糸口9とを、パイル編成時に後行していたパイル糸11の給糸口9を先行する地糸10の給糸口9側に寄せて、シンカー13の先端で仕分けられない範囲の位置となるように切換える。パイルループを形成しない編成では、地糸10とパイル糸11とを、編針12のフック12aに捕捉してニードルループを形成し、シンカー13の地糸用掛爪13dに掛けてシンカーループを形成して、パイルループ無しの天竺編成が可能となる。