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特開2023-64007医療用やすり、歯科用切削器具、及び、研磨方法
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  • 特開-医療用やすり、歯科用切削器具、及び、研磨方法 図1
  • 特開-医療用やすり、歯科用切削器具、及び、研磨方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064007
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】医療用やすり、歯科用切削器具、及び、研磨方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 3/02 20060101AFI20230428BHJP
【FI】
A61C3/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174182
(22)【出願日】2021-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000136941
【氏名又は名称】株式会社ベテル
(74)【代理人】
【識別番号】110001782
【氏名又は名称】弁理士法人ライトハウス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英利也
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052DD06
4C052DD10
(57)【要約】
【課題】
電気又は圧縮空気駆動式の治療器具を使用できない状況においても、歯科硬化物を効率的に研磨することができる歯科治療器具を提供することを目的とする。
【解決手段】
作業部の表面の少なくとも一部にダイヤモンド研磨部を備える医療用やすり又は歯科用切削器具により上記目的が達成される。上記ダイヤモンド研磨部が、ダイヤモンド電着により形成されたものであることが好ましい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業部の表面の少なくとも一部にダイヤモンド研磨部を備える、医療用やすり又は歯科用切削器具。
【請求項2】
ダイヤモンド研磨部が、ダイヤモンド電着により形成されたものである、請求項1に記載の医療用やすり又は歯科用切削器具。
【請求項3】
ダイヤモンド研磨部のダイヤモンド粒の平均粒子径が100~270μmである、請求項1又は2に記載の医療用やすり又は歯科用切削器具。
【請求項4】
作業部の表面の少なくとも一部にダイヤモンド研磨部を備える、医療用やすり又は歯科用切削器具を用いて歯科硬化物を研磨する、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用やすり、歯科用切削器具、及び、研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、う蝕の進行度合いによって、う蝕部分を削り取り、削り取った箇所をレジンやセメントなどの歯科用硬化物により修復する方法がとられることがある。歯科用硬化物は、硬化後、その表面が自然な歯と同レベルの粗さになるように研磨される。
【0003】
歯科用硬化物の研磨は、歯科医院などでは、圧縮空気によりヘッド部を高速回転させるエアータービンを用いて行われている。また、訪問歯科治療では、ポータブル式のハンドピースを使用して行われることがある(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、ポータブル式のハンドピースを有さない訪問歯科医院や、ハンドピースの振動、振動音を好まない患者に対する治療においては、歯科用硬化物を通常の程度に研磨する手段がないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-165817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためのものである。すなわち、本発明は、歯科硬化物を効率的に研磨することができる歯科治療器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記目的は、
[1]作業部の表面の少なくとも一部にダイヤモンド研磨部を備える、医療用やすり又は歯科用切削器具;
[2]ダイヤモンド研磨部が、ダイヤモンド電着により形成されたものである、前記[1]に記載の医療用やすり又は歯科用切削器具;
[3]ダイヤモンド研磨部のダイヤモンド粒の平均粒子径が100~270μmである、前記[1]又は[2]に記載の医療用やすり又は歯科用切削器具;
[4]作業部の表面の少なくとも一部にダイヤモンド研磨部を備える、医療用やすり又は歯科用切削器具を用いて歯科硬化物を研磨する、研磨方法;
により達成することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、歯科硬化物を効率的に研磨することができる新たな歯科治療器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態の少なくとも1つに対応する、歯科用器具の概略図である。
図2】JIS規格に規定されている歯科用エキスプローラの寸法及び角度を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明をするが、本発明の趣旨に反しない限り、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0011】
(医療用やすり及び歯科用切削器具)
本実施の形態において、医療用やすり又は歯科用切削器具(以下において、これらをあわせて、「歯科用器具」という)は、歯科治療において用いられる器具である。医療用やすりは、歯又は歯科硬化物にやすりをかけることが可能な歯科用の器具であって、例えば、歯科用辺縁仕上げファイルなどが挙げられる。歯科用切削器具は、歯又は歯科硬化物を切削する機能を備えた歯科用の器具であって、例えば、歯科用エキスプローラ、歯科用スケーラーや、歯科用カービングに用いる器具などが挙げられる。歯科硬化物は、例えば、歯科治療においてう蝕の治療の際に用いられるグラスアイオノマーが挙げられる。
【0012】
歯科用辺縁仕上げファイルは、歯科用のやすり器具であって、一般に、歯槽骨辺縁などの骨形成に用いる器具である。歯科用エキスプローラは、口腔内診査用の器具であって、一般に、口腔内の汚物の除去、う窩の深さや大きさの測定、歯髄の有無などを診査するために用いるものである。歯科用スケーラーは、歯科用の器具であって、一般に、歯面に沈着したプラークや歯石などを除去するために用いるものである。また、歯科用カービングは、歯科用の器具であって、一般に、歯科硬化物を切削したり、彫刻したりするために用いるものである。歯科用カービングとしては、例えば、アイオノマーカービング(株式会社ベテル製、品番X401PC0、品番X400P30)などが挙げられる。
【0013】
歯科用器具は、使用に際して電気や圧縮空気などの駆動を要しない、非電動式の手用器具であることが好ましい。歯科用器具が、非電動式の手用器具であることによって、訪問歯科医院における患者に対する治療や、ハンドピースの振動、振動音を好まない患者に対する治療において、特に有用である。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態の少なくとも1つに対応する、歯科用器具の概略図である。図1では、歯科用器具1の一例として、アイオノマーカービング(株式会社ベテル製、品番X401PC0)を図示している。図1に示すように、歯科用器具1は、作業部2と柄部3とから構成される。
【0015】
(作業部)
歯科用器具1の作業部2は、歯又は歯科硬化物に接触する部分である。作業部2は、歯又は歯科硬化物に対する治療等に好適な材料から形成することができ、マルテンサイト系ステンレス鋼や、オーステナイト系ステンレス鋼からなることが好ましい。作業部2は、これらのステンレス鋼に限られず、これらのステンレス鋼と同等の品質確保が担保できる同系統の素材からなるものであってもよい。
【0016】
作業部2の形状は、歯科用辺縁仕上げファイルなどの医療用やすりや、歯科用エキスプローラ、歯科用スケーラーや、歯科用カービングに用いる器具などの歯科用切削器具の公知の形状とすることができる。例えば、図1に示す形状のほか、歯科用器具1が歯科用エキスプローラの場合は、JIS T5402(2000年)に規定される種類A(010)~H(080)の形状や、これらに類する市販の歯科用エキスプローラの形状などが挙げられる。また、歯科用器具1が歯科用スケーラーの場合、作業部2の形状は、JIS T5406(2000年)に規定される種類H3~H9の形状や、#3、#B、#I1、#J1、#H5、#H6、#H7の形状や、これらに類する市販の歯科用スケーラーの形状などが挙げられる。歯科用器具1が歯科用カービングの場合は、公知の歯科用カービングに用いる器具の作業部の形状をいずれも採用することができる。また、歯科用器具1が歯科用辺縁仕上げファイルの場合は、公知の歯科用辺縁仕上げファイルの作業部の形状をいずれも採用することができる。
【0017】
これらの形状のなかでも、歯科用器具1が歯科用エキスプローラの場合は、作業部2の形状が、JIS T5402(2000年)に規定されるH(080)に適合する寸法であることが好ましく、H(080)#9に適合する寸法であることが特に好ましい。作業部2がこのような形状の場合は、後述のダイヤモンド研磨部を設けて歯又は歯科硬化物の研磨をする作業に好適である。
【0018】
図2は、JIS規格、JIS T5402(2000年)に規定されている歯科用エキスプローラの寸法及び角度を説明するための図である。歯科用エキスプローラの作業部2の先端には、所定のブレード(不図示)が設けられている。上記H(080)に適合する作業部2の形状は、具体的には、ブレードの先端から図2に示す中心線までの距離を示すブレードの高さhが3.5mm以上11.5mm以下であり、ブレード内側の曲率半径を示すブレード半径rが11mmであり、ブレードの中心線と器具の中心線とがなす角度を示すブレードの角度αが20度以上50度以下である。H(080)#9に適合する作業部2の形状は、ブレードの高さhが6±0.5mmであり、ブレード半径rが11mmであり、ブレードの角度αが35±5度である。
【0019】
作業部2は、図1に示すように柄部3の一端に設けられてもよく、柄部3の両端に設けられてもよい。以下、作業部2の、柄部3と接していない方を、作業部2の先端という。
【0020】
作業部2の太さは、特に限定されない。例えば、作業部2の太さの最大径は、1.45mm以下であることが好ましく、1.3mm以下であることがより好ましい。最大径が1.45mm以下の場合は、歯科用器具1の作業部2が歯の間に入り込みやすく、後述の歯又は歯科硬化物の研磨作業を細部にわたって良好に行なうことができる。また、作業部2の最大径は、0.95mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。最大径が0.95mm以上の場合は、作業部2の剛性が十分であり、研磨作業を良好に行なうことができる。作業部2の太さとは、作業部2の外表面の任意の点における長さ方向に対して垂直な断面に外接する円の直径をいう。作業部2の太さの最大径とは、作業部2の太さのうち最大のものをいう。
【0021】
作業部2の長さLは、歯科用器具1の種類における規格により異なり、いずれも採用することができるが、25mm以上であることが好ましく、30mm以上であることがより好ましい。作業部2の長さLは、45mm以下であることが好ましく、40mm以下であることがより好ましい。作業部2の長さLを上記の長さとすることで、後述のダイヤモンド研磨部を形成しやすい利点がある。本実施の形態において、作業部2の長さLとは、柄部3端の点から、柄部3の中心線と作業部2の先端に接する直線とが直交する点までを結ぶ直線の長さをいう。
【0022】
(ダイヤモンド研磨部)
歯科用器具1は、作業部2の表面の少なくとも一部にダイヤモンド研磨部4を備える。ダイヤモンド研磨部4は、歯又は歯科用硬化物を研磨するための部位である。
【0023】
ダイヤモンド研磨部4は、作業部2の表面の少なくとも一部に設けられればよいが、例えば、作業部2の先端から作業部2の長さLの1/4以上の長さまで設けられることが好ましく、作業部2の先端から作業部2の長さLの1/3以上の長さまで設けられることがより好ましく、作業部2の先端から作業部2の長さLの1/3以上の長さまで設けられることがさらに好ましい。また、必ずしも先端を含むように設けられなくてもよく、例えば、作業部2の先端から作業部2の長さLの1/10以下の長さまでは設けないような態様であっても、作業部2が歯又は歯科硬化物に接する部分にダイヤモンド研磨部4が設けられていればよい。さらに、ダイヤモンド研磨部4を作業部2の表面全体に設ける態様としてもよい。
【0024】
ダイヤモンド研磨部4は、ダイヤモンド粒子を作業部2表面に固着したものである。ダイヤモンド粒子は、天然ダイヤモンド、化学気相合成ダイヤモンド、ダイヤモンド焼結体のいずれでもよい。ダイヤモンド粒子の平均粒子径は、100μm以上であることが好ましく、140μm以上であることがより好ましい。ダイヤモンド粒子の平均粒子径は、270μm以下であることが好ましく、260μm以下であることがより好ましい。ダイヤモンド粒子の平均粒子径が上記のような範囲にある場合は、歯科用器具1の作業部2にダイヤモンド粒子が強固に固着されるので好ましい。また、平均粒径が上記範囲である場合は、より効率的にダイヤモンド研磨部4による歯科硬化物の研磨を行なうことができるので特に好ましい。平均粒子径は、ふるい分け試験を用いて求められる値である。
【0025】
作業部2表面へのダイヤモンド粒子の固着は、ダイヤモンド電着により形成されることが好ましい。ダイヤモンド電着方法は、公知の方法であって、ダイヤモンド粒子をNiなどのめっき相を用いた電解めっき方法により固着する方法である。形成されるダイヤモンド研磨部4は、作業部2本体表面にめっき層が形成され、該めっき層にダイヤモンド粒子が固着された構造となる。ダイヤモンド研磨部4が、ダイヤモンド電着により形成されることで、強固な固着であるため、作業時に粒子の剥離や落下等を生じさせにくく、かつダイヤモンドであるため、治療時に必要とされるグラスアイオノマーなどの形成作業に十分な強度を保つことができる。
【0026】
ダイヤモンド研磨部4の電着部分の厚さは、用いるダイヤモンド粒子の粒径にもよるが、例えば、0.05mm以上、0.1mm以下であることが好ましい。電着部分の厚さが0.05mm以上であると、ダイヤモンド研磨部4による歯科硬化物の研磨のために十分な硬度を達成しやすい。電着部分の厚さが0.1mm以下の場合は、ダイヤモンド粒子のめっき層との固着が十分強固であり、ダイヤモンド粒子が脱落するおそれがなく、歯科硬化物の研磨を効率よく行なうことができる。また、歯間のような細部も研磨が可能であることから、歯科硬化物を望ましい形に仕上げることができる。ダイヤモンド研磨部4の電着部分の厚さとは、作業部2の表面に固着したダイヤモンド粒子による層の厚さをいう。
【0027】
ダイヤモンド研磨部の外径は、ダイヤモンド研磨部4の電着部分を含む作業部2の合計径であって、最大径が1.0mm以上であることが好ましく1.2mm以上であることがより好ましい。最大径が、1.5mm以下であることが好ましく、1.3mm以下であることがより好ましい。ダイヤモンド研磨部4の電着部分を含む作業部の最大径が、上記範囲にある場合は、歯間や歯の根元のような微細な部分であっても研磨が可能となり、歯科硬化物を望ましい形に仕上げることができる。ダイヤモンド研磨部4の外径とは、ダイヤモンド研磨部4を設けた作業部2の外表面の任意の点における長さ方向に対して垂直な断面に外接する円の直径をいう。ダイヤモンド研磨部4の外径の最大径とは、ダイヤモンド研磨部4の外径のうち最大のものをいう。
【0028】
ダイヤモンド研磨部4を備えた作業部2の表面粗さRa(算術平均粗さ)は、所望の研磨効果にあわせて適宜調整すればよく、歯又は歯科硬化物を研磨する観点からは表面粗さRaを100以上とすることが好ましく、140以上とすることがより好ましい。表面粗さRaの上限は特に限定されないが、400以下であることが好ましく、270以下であることがより好ましい。表面粗さRa(算術平均粗さ)は、ダイヤモンド粒子の平均粒子径の選択により調整することができる。ダイヤモンド粒子の平均粒子径の大きい粒子を用いる場合は、表面粗さRaが大きくなり、ダイヤモンド粒子の平均粒子径が小さい粒子を用いる場合は、表面粗さRaを小さくできる。
【0029】
ダイヤモンド研磨部4を備えた作業部2の硬度は、ビッカース硬度が70GPa以上であることが好ましい。ビッカース硬度が70GPa以上であると、歯科硬化物の研磨を良好に行なうことができる。また、ビッカース硬度は150GPa以下であることが好ましい。本明細書においてビッカース硬度は、JIS Z2244に規定される試験方法により測定される値をいう。上記硬度は、電着部分に対するダイヤモンド粒子の含有量や、めっき条件を調整することにより、調整することができる。
【0030】
(柄部)
歯科用器具1の柄部3は、歯科用器具1を用いる際に、作業者が把持する部分である。柄部3を構成する材料は、歯科用器具として好適な材料や、作業者が把持して作業をするのに好適な材料であれば、特に限定されず、いずれも用いることができる。例えば、柄部3を構成する材料として、マルテンサイト系ステンレス鋼や、オーステナイト系ステンレス鋼などのステンレス鋼を用いることができる。また、柄部3は、シリコーンなどのプラスチック材料からなることとしてもよい。費用が安くなるという点からは、歯科用器具1の柄部3の材料は、シリコーンなどのプラスチック材料であることが好ましい。また、歯科用器具1が歯科用エキスプローラの場合は、研磨作業の性能の点からは、柄部3の材料は、上記ステンレス鋼であることが好ましい。
【0031】
柄部3の形状は、特に限定されず、歯科用器具1の柄部3として公知の形状をいずれも採用することができる。例えば、柄部3の形状は、円柱や多角柱状であってよい。柄部3の外径は、8mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましい。柄部3の外径が8mm以下の場合は、柄部3を把持して歯科硬化物を研磨する作業において、把持部分に力を込めやすく、研磨作業を良好に行なうことができる。柄部3の外径は、特に限定されないが、歯科用器具1の柄部3としての剛性を十分に確保する観点からは、3mm以上であることが好ましい。
【0032】
柄部3の長さLは、特に限定されないが、110mm以上であることが好ましい。柄部3の長さLが110mm以上の場合は、柄部3を把持しやすく、歯科硬化物の研磨作業を効率的に行なうことができる。また、柄部3の長さLは120mm以下であることが好ましい。作業部2のLと柄部3の長さLを合わせた全長が、JIS規格では178mm以下と定められていることから、概ねこの範囲とすることが好ましい。
【0033】
柄部3には、PC(ポリカーボネート)などのプラスチック製の被覆を設けることができる。被覆を設ける場合、被覆は、柄部3の作業部側の少なくとも一部であって、作業時に把持する部分に設ければよいが、柄部3全体を覆うように設けてもよい。被覆は、柄部3を作業者の手に密着することで把持しやすくしたり、把持における滑り止めの機能を付与したりすることができる。
【0034】
柄部3は、柄部3の作業部側の少なくとも一部であって、作業時に作業者が把持する部分に、滑り止め部5を設けることが好ましい。滑り止め部5は、研磨作業において作業者が把持する部分が滑るのを止める機能をより向上させるものである。滑り止め部5は、柄部3表面に模様を施したり、柄部3に被覆を設ける場合は、被覆表面に模様を施したりすることにより形成することができる。
【0035】
滑り止め部5を模様を施すことで形成する場合、例えば、交差する直線の溝を設ける、柄部3の長手方向に水平な筋又は溝を設ける、図1に示すように、柄部3の被覆であって、柄部3の長手方向に垂直な筋又は溝を設けることで形成することができる。滑り止め部5の形成方法はこれらに限定されず、例えば、滑り止め機能のあるテープを巻き付けるなど、研磨作業に耐える滑り止め機能を向上させることができれば、いずれも採用することができる。
【0036】
通常のエキスプローラなどの歯科用切削器具は、ハンドピースの代わりに歯又は歯科硬化物の研磨に用いることは想定されていない。一方、本発明の歯科用器具1は、歯又は歯科硬化物の研磨に用いるので、歯又は歯科硬化物の研磨作業時の把持摩擦に対して、滑り止め部5を設けることで、さらなる滑り止め効果を付与することが好ましい。
【0037】
歯科用器具1を用いる際には、作業者は、柄部3を把持して作業を行なう。作業部2にダイヤモンド研磨部4を備えた本実施の形態による医療用やすり、及び、歯科用切削器具は、歯又は歯科硬化物を効率的に研磨することができる。また、電気又は圧縮空気駆動式の治療器具を使用できない状況においても、使用することが可能であるので、訪問歯科などの治療において非常に有用である。さらに、ハンドピースなどに比べて器具が軽量であるので、訪問歯科の持ち運びにおける負担を軽減することができる。
【実施例0038】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1及び実施例2)
歯科用エキスプローラ(株式会社歯愛メディカル製、型番#9)の作業部の先端から、柄部側に向かって10mmの長さまで、ダイヤモンド電着によりダイヤモンド研磨部を設けた。ダイヤモンド研磨部として、実施例1は、表面粗さが100(以下、SD100という)、実施例2は、表面粗さが270(以下、SD270という)である歯科用エキスプローラを作成した。
【0040】
得られたダイヤモンド研磨部は、外径が1.4mmで、作業部のビッカース硬度は100GPaであった。電着部分の厚みをノギスにより測定したところ0.1mmであった。
【0041】
(実施例3及び実施例4)
歯科用スケーラー(株式会社歯愛メディカル製、型番#H5)の作業部の先端から、柄部側に向かって10mmの長さまで、ダイヤモンド電着によりダイヤモンド研磨部を設けた。ダイヤモンド電着は、実施例1と同様の条件で行なった。ダイヤモンド研磨部として、実施例3は、表面粗さが100(以下、SD100という)、実施例4は、表面粗さが270(以下、SD270という)である歯科用スケーラーを作成した。
【0042】
得られたダイヤモンド研磨部は、外径が1.2mmで、作業部のビッカース硬度は100GPaであった。電着部分の厚みをノギスにより測定したところ0.05mmであった。
【0043】
(比較例1)
歯科用エキスプローラ(株式会社歯愛メディカル製、型番#9)の作業部及び柄部を含む全体に、ダイヤモンド研磨部を設けるなどの加工を施さず、購入した状態のままとした。
【0044】
(比較例2)
歯科用スケーラー(株式会社歯愛メディカル製、型番#H5)の作業部及び柄部を含む全体に、ダイヤモンド研磨部を設けるなどの加工を施さず、購入した状態のままとした。
【0045】
(評価)
歯科硬化物として、グラスアイオノマー(株式会社ジーシー製)シリカ(ガラス)と合成樹脂成分などが混合されたセメントとを混合し、歯状に形成し、3分間自然放置し硬化させたものを用意した。得られた歯科用硬化物の研磨前の表面粗さRa(算術平均粗さ)を、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX-5000型)により測定したところ、8.31であった。結果を表1に示す。
【0046】
実施例1及び実施例2で得られた歯科用エキスプローラと、実施例3及び実施例4で得られた歯科用スケーラーと、比較例1のダイヤモンド研磨部を設けないエキスプローラと、比較例2のダイヤモンド研磨部を設けないスケーラーとの6本それぞれについて、室内温度:25℃、硬化時間:練和から5分、湿度:55%、研摩時間:1分の条件で歯科用硬化物表面を研磨した。
【0047】
研磨後の歯科用硬化物の表面粗さRa(算術平均粗さ)を、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX-5000型)により測定した結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
研磨前後の歯科用硬化物の表面粗さRaをそれぞれ比較すると、比較例1のダイヤモンド研磨部を設けないエキスプローラでは、研磨前と研磨後の歯科用硬化物の表面粗さRaにはほとんど変化がなく、研磨ができていなことがわかった。また、比較例2のダイヤモンド研磨部を設けないスケーラーでは、研磨前と研磨後の歯科用硬化物の表面粗さRaの差は1.08であり、歯石を削るスケーラーであっても歯科硬化物の研磨は困難であることがわかった。一方、実施例1及び実施例2で得られたダイヤモンド研磨部を備える歯科用エキスプローラでは、研磨前と研磨後の歯科用硬化物の表面粗さRaの差は、実施例1のSD100で12.11であり、実施例2のSD270で8.62であった。また、実施例3及び実施例4で得られたダイヤモンド研磨部を備えた歯科用スケーラーでは、研磨前と研磨後の歯科用硬化物の表面粗さRaの差は、実施例3のSD100で9.65であり、実施例4のSD270で4.35であった。以上から、作業部にダイヤモンド研磨部を備える場合は、歯科硬化物の研磨に有用であることがわかった。
【符号の説明】
【0050】
1 歯科用器具
2 作業部
3 柄部
4 ダイヤモンド研磨部
5 滑り止め部
図1
図2