(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006408
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】作業機械、及び、作業機械を制御するための方法。
(51)【国際特許分類】
E02F 3/85 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
E02F3/85 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108991
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西原 健
(72)【発明者】
【氏名】石橋 永至
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA02
2D003AB04
2D003BA02
2D003BA03
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB03
2D003DB04
2D003DB05
(57)【要約】
【課題】作業機械においてスリップの発生を抑えると共に、作業効率の低下を抑える。
【解決手段】ブレードは、車体に対してピッチ軸回りに回動可能に支持される。ピッチアクチュエータは、ブレードをピッチ軸回りにピッチ動作させる。コントローラは、ブレードによる作業中に走行装置においてスリップが発生しているかを判定する。コントローラは、スリップが発生していると判定したときにはブレードを後傾方向にピッチ動作させる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置を含む車体と、
前記車体に対してピッチ軸回りに回動可能に支持されるブレードと、
前記ブレードを前記ピッチ軸回りにピッチ動作させるピッチアクチュエータと、
前記ブレードによる作業中に前記走行装置においてスリップが発生しているかを判定し、前記スリップが発生していると判定したときには前記ブレードを後傾方向にピッチ動作させるコントローラと、
を備える作業機械。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記走行装置がスリップから脱出したかを判定し、
前記走行装置がスリップから脱出していないと判定したときには、前記ブレードを上昇させる、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記車体に対してリフト軸回りに回動可能に支持されるリフトフレームと、
前記リフトフレームを前記リフト軸回りに上下にリフト動作させるリフトアクチュエータと、
を備え、
前記ブレードは、前記リフトフレームを介して前記車体に支持されており、
前記コントローラは、
作業対象である現況地形を示す現況地形データを取得し、
少なくとも一部が前記現況地形の下方に位置する目標地形を示す目標地形データを取得し、
前記ブレードの刃先が前記目標地形に従って移動するように前記リフトアクチュエータを制御することで、前記作業を行う、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項4】
前記車体の位置を検出する位置センサと、
前記走行装置の動作速度を検出する速度センサと、
をさらに備え、
前記コントローラは、
前記車体の位置に基づいて、前記作業機械の実車速を算出し、
前記走行装置の動作速度に基づいて、前記作業機械の理論車速を算出し、
前記実車速と前記理論車速とに基づいて、前記走行装置においてスリップが発生しているかを判定する、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項5】
走行装置を含む車体と、前記車体に対してピッチ軸回りに回動可能に支持されるブレードと、前記ブレードを前記ピッチ軸回りにピッチ動作させるピッチアクチュエータとを備える作業機械を制御するための方法であって、
前記ブレードによる作業中に前記走行装置においてスリップが発生しているかを判定することと、
前記スリップが発生していると判定したときには前記ブレードを後傾方向にピッチ動作させること、
を備える方法。
【請求項6】
前記走行装置がスリップから脱出したかを判定することと、
前記走行装置がスリップから脱出していないと判定したときには、前記ブレードを上昇させること、
をさらに備える請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記作業機械は、
前記車体に対してリフト軸回りに回動可能に支持されるリフトフレームと、
前記リフトフレームを前記リフト軸回りに上下にリフト動作させるリフトアクチュエータと、
を備え、
前記ブレードは、前記リフトフレームを介して前記車体に支持されており、
作業対象である現況地形を示す現況地形データを取得することと、
少なくとも一部が前記現況地形の下方に位置する目標地形を示す目標地形データを取得することと、
前記ブレードの刃先が前記目標地形に従って移動するように前記リフトアクチュエータを制御することで、前記作業を行うこと、
をさらに備える請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記車体の位置を取得することと、
前記走行装置の動作速度を取得することと、
前記車体の位置に基づいて、前記作業機械の実車速を算出することと、
前記走行装置の動作速度に基づいて、前記作業機械の理論車速を算出することと、
前記実車速と前記理論車速とに基づいて、前記走行装置においてスリップが発生しているかを判定すること、
をさらに備える請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械、及び、作業機械を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械には、ブレードを備えており、ブレードによって掘削などの作業を行うものがある。例えば、特許文献1の作業機械は、コントローラが設計面に従ってブレードを移動させることで、掘削作業を行う。また、コントローラは、作業機械の走行装置にスリップが発生しているかを判定する。コントローラは、スリップが発生していると判定した時には、設計面を上昇させる。コントローラは、設計面に従って、ブレードを上昇させる。それにより、ブレードへの負荷が軽減されることで、作業機械が、スリップから脱出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した作業機械は、掘削作業中にスリップが発生すると、ブレードをリフト動作させることで上昇させる。それにより、作業機械はスリップから脱出することができるが、ブレードによって掘削される土量が少なくなる。その場合、掘削の作業効率が低下してしまう。本発明の目的は、作業機械においてスリップの発生を抑えると共に、作業効率の低下を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る作業機械は、車体と、ブレードと、ピッチアクチュエータと、コントローラとを備える。車体は、走行装置を含む。ブレードは、車体に対してピッチ軸回りに回動可能に支持される。ピッチアクチュエータは、ブレードをピッチ軸回りにピッチ動作させる。コントローラは、ブレードによる作業中に走行装置においてスリップが発生しているかを判定する。コントローラは、スリップが発生していると判定したときにはブレードを後傾方向にピッチ動作させる。
【0006】
本発明の他の態様に係る方法は、作業機械を制御するための方法である。作業機械は、車体と、ブレードと、ピッチアクチュエータとを備える。車体は、走行装置を含む。ブレードは、車体に対してピッチ軸回りに回動可能に支持される。ピッチアクチュエータは、ブレードをピッチ軸回りにピッチ動作させる。本態様に係る方法は、ブレードによる作業中に走行装置においてスリップが発生しているかを判定することと、スリップが発生していると判定したときにはブレードを後傾方向にピッチ動作させること、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スリップが発生していると判定されたときには、ブレードが後傾方向にピッチ動作する。それにより、ブレードへの抵抗が軽減されることで、作業機械がスリップから脱出することができる。また、ブレードのリフト動作によらずにピッチ動作によって作業機械をスリップから脱出させるため、ブレードの上昇が抑えられる。それにより、作業効率の低下が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る作業機械を示す側面図である。
【
図2】作業機械の駆動系と制御システムとの構成を示すブロック図である。
【
図5】第1実施形態に係る作業機械の自動制御を示すフローチャートである。
【
図6】現況地形と目標地形との一例を示す図である。
【
図7】スリップの発生を抑えるための制御の処理を示すフローチャートである。
【
図8】スリップが発生しているときのブレードのピッチ動作を示す図である
【
図9】ピッチ動作後にスリップから脱出していないときのブレードのリフト動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係る作業機械について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る作業機械1を示す側面図である。本実施形態に係る作業機械1は、ブルドーザである。作業機械1は、車体11と作業機12とを備えている。
【0010】
車体11は、運転室13と、エンジン室14と、走行装置15とを含む。運転室13には、図示しない運転席が配置されている。エンジン室14は、運転室13の前方に配置されている。走行装置15は、車体11の下部に設けられている。走行装置15は、左右一対の履帯16を含む。なお、
図1では、左側の履帯16のみが図示されている。履帯16が回転することによって、作業機械1が走行する。
【0011】
作業機12は、車体11に取り付けられている。作業機12は、リフトフレーム17と、ブレード18と、リフトアクチュエータ19と、ピッチアクチュエータ20とを有する。リフトフレーム17は、車体11に対してリフト軸X1回りに回動可能に支持される。リフト軸X1は、車体11の横方向に延びている。リフトフレーム17は、リフト軸X1回りに回動することで、上下にリフト動作する。なお、リフトフレーム17は、走行装置15に取り付けられてもよい。リフトフレーム17は、走行装置15の内側に配置されてもよく、或いは走行装置15の外側に配置されてもよい。
【0012】
ブレード18は、車体11の前方に配置されている。ブレード18は、リフトフレーム17に対してピッチ軸X2回りに回動可能に支持される。ピッチ軸X2は、車体11の横方向に延びている。ブレード18は、ピッチ軸X2回りに回動することで、前後にピッチ動作する。ブレード18は、リフトフレーム17の上下動に伴って上下に移動する。
【0013】
リフトアクチュエータ19は、車体11とリフトフレーム17とに連結されている。リフトアクチュエータ19は、油圧シリンダである。リフトアクチュエータ19が伸縮することによって、リフトフレーム17は、上下にリフト動作する。リフトアクチュエータ19が縮むことによって、ブレード18が上昇する。リフトアクチュエータ19が延びることによって、ブレード18が下降する。なお、リフトアクチュエータ19は、ブレード18に取り付けられてもよい。
【0014】
ピッチアクチュエータ20は、リフトフレーム17とブレード18とに連結されている。ピッチアクチュエータ20は、油圧シリンダである。ピッチアクチュエータ20が伸縮することによって、ブレード18は、前後にピッチ動作する。ブレード18の一部、例えば上端が、前後に動作することで、ブレード18がピッチ軸X2回りにピッチ動作する。ピッチアクチュエータ20が伸びることによって、ブレード18は前傾する。ピッチアクチュエータ20が縮むことによって、ブレード18は後傾する。
【0015】
図2は、作業機械1の駆動系2と制御システム3との構成を示すブロック図である。
図2に示すように、駆動系2は、エンジン22と、油圧ポンプ23と、動力伝達装置24と、を備えている。油圧ポンプ23は、エンジン22によって駆動され、作動油を吐出する。油圧ポンプ23から吐出された作動油は、リフトアクチュエータ19とピッチアクチュエータ20とに供給される。なお、
図2では、1つの油圧ポンプが図示されているが、複数の油圧ポンプが設けられてもよい。
【0016】
動力伝達装置24は、エンジン22の駆動力を走行装置15に伝達する。動力伝達装置24は、例えば、HST(Hydro Static Transmission)であってもよい。或いは、動力伝達装置24は、例えば、トルクコンバータ、或いは複数の変速ギアを有するトランスミッションであってもよい。
【0017】
制御システム3は、コントローラ26と制御弁27とを備える。コントローラ26は、取得したデータに基づいて作業機械1を制御するようにプログラムされている。コントローラ26は、記憶装置28とプロセッサ29とを含む。プロセッサ29は、例えばCPUを含む。記憶装置28は、例えばメモリと補助記憶装置とを含む。記憶装置28は、例えば、RAM、或いはROMなどであってもよい。記憶装置28は、半導体メモリ、或いはハードディスクなどであってもよい。記憶装置28は、非一時的な(non-transitory)コンピュータで読み取り可能な記録媒体の一例である。記憶装置28は、プロセッサ29によって実行可能であり作業機械1を制御するためのコンピュータ指令を記録している。
【0018】
制御弁27は、比例制御弁であり、コントローラ26からの指令信号によって制御される。制御弁27は、リフトアクチュエータ19及びピッチアクチュエータ20などの油圧アクチュエータと、油圧ポンプ23との間に配置される。制御弁27は、油圧ポンプ23からリフトアクチュエータ19に供給される作動油の流量を制御する。制御弁27は、油圧ポンプ23からピッチアクチュエータ20に供給される作動油の流量を制御する。なお、制御弁27は、圧力比例制御弁であってもよい。或いは、制御弁27は、電磁比例制御弁であってもよい。
【0019】
制御システム3は、操作装置31と入力装置32とを備えている。操作装置31は、例えばレバーを含む。或いは、操作装置31は、ペダル、或いはスイッチを含んでもよい。オペレータは、操作装置31を用いて、作業機械1の走行と、作業機12の動作とを手動で操作することができる。操作装置31は、操作装置31の操作を示す操作信号を出力する。コントローラ26は、操作装置31から操作信号を受信する。
【0020】
操作装置31は、ブレード18のリフト動作を操作可能である。詳細には、操作装置31は、ブレード18の上げ操作と下げ操作との操作が可能である。オペレータが操作装置31に対して上げ操作を行うと、コントローラ26は、ブレード18が上昇するように、リフトアクチュエータ19を制御する。オペレータが操作装置31に対して下げ操作を行うと、コントローラ26は、ブレード18が下降するように、リフトアクチュエータ19を制御する。
【0021】
図3は、作業機械1のリフト動作を示す模式図である。
図3において、P0は、ブレード18の刃先の現在位置を示している。P1は、ブレード18の刃先の最高位置を示している。P2は、ブレード18の刃先の最低位置を示している。作業機械1は、最高位置P1と最低位置P2との間で、ブレード18をリフト動作させることができる。
【0022】
操作装置31は、ブレード18のピッチ動作を操作可能である。詳細には、操作装置31は、ブレード18の前傾操作と後傾操作との操作が可能である。オペレータが操作装置31に対して前傾操作を行うと、コントローラ26は、ブレード18が前傾するように、ピッチアクチュエータ20を制御する。オペレータが操作装置31に対して後傾操作を行うと、コントローラ26は、ブレード18が後傾するように、ピッチアクチュエータ20を制御する。
【0023】
図4A~
図4Cは、ブレード18のピッチ角を示す図である。
図4A~
図4Cに示すように、ブレード18のピッチ角θ0-θ2は、ブレード18の刃先と履帯16の接地面G1との間のなす角である。
図4Bは、標準状態のブレード18のピッチ角(以下、「標準ピッチ角」と呼ぶ)θ0を示している。
図4Aは、標準状態よりも前傾したブレード18のピッチ角θ1を示している。
図4Cは、標準状態よりも後傾したブレード18のピッチ角θ2を示している。ブレード18が前傾するほどピッチ角は大きくなる。ブレード18が後傾するほどピッチ角は小さくなる。すなわち、θ1>θ0>θ2である。
【0024】
なお、操作装置31は、油圧パイロット式の装置であってもよい。例えば、操作装置31は、操作装置31の操作に応じたパイロット油圧を出力してもよい。操作装置31からのパイロット油圧によって制御弁27が制御されることで、リフトアクチュエータ19、或いはピッチアクチュエータ20が制御されてもよい。コントローラ26は、パイロット油圧を示す信号を、操作信号として受信してもよい。
【0025】
入力装置32は、例えばタッチパネルを含む。ただし、入力装置32は、スイッチなどの他の装置を含んでもよい。オペレータは、入力装置32を用いて、コントローラ26によるブレード18のピッチ角の制御モードの設定を行うことができる。制御モードは、手動モードと自動制御とを含む。手動モードでは、オペレータは、操作装置31を用いて、手動でブレード18のピッチ角を変更可能である。ピッチ角の自動制御については、後に詳細に説明する。
【0026】
図2に示すように、制御システム3は、ブレード18の刃先の現在位置(以下、「刃先位置P0」と呼ぶ)を検出するセンサ33を備えている。センサ33は、車体センサ34と、フレームセンサ35と、ブレードセンサ36と、位置センサ37とを含む。車体センサ34は、車体11に取り付けられている。車体センサ34は、車体11の姿勢を検出する。フレームセンサ35は、リフトフレーム17に取り付けられている。フレームセンサ35は、リフトフレーム17の姿勢を検出する。ブレードセンサ36は、ブレード18に取り付けられている。ブレードセンサ36は、ブレード18の姿勢を検出する。位置センサ37は、車体11の現在位置を検出する。
【0027】
車体センサ34と、フレームセンサ35と、ブレードセンサ36とは、それぞれIMU(慣性計測装置、Inertial Measurement Unit)である。ただし、フレームセンサ35とブレードセンサ36とは、IMUに限らず、角度センサ、或いはシリンダのストロークセンサなどの他のセンサであってもよい。
【0028】
車体センサ34は、水平に対する車体11の前後方向の角度(車体ピッチ角)を検出する。フレームセンサ35は、リフトフレーム17の回転角度を検出する。ブレードセンサ36は、ブレード18のピッチ角を検出する。車体センサ34と、フレームセンサ35と、ブレードセンサ36とは、それぞれ検出した角度を示す検出信号を出力する。
【0029】
位置センサ37は、例えばGPS(Global Positioning System)などのGNSS(Global Navigation Satellite System)の位置センサである。位置センサ37は、例えばGNSSレシーバとアンテナとを備える。位置センサ37は、位置センサ37の現在位置を検出する。位置センサ37は、車体11に配置されている。従って、位置センサ37は、車体11の現在位置を検出する。車体11の現在位置は、地球を基準とするグローバル座標で示される。ただし、車体11の現在位置は、作業機械1が作業を行う作業現場を基準とするローカル座標で示されてもよい。コントローラ26は、位置センサ37から、車体11の現在位置を示す検出信号を取得する。
【0030】
コントローラ26は、車体センサ34と、フレームセンサ35と、ブレードセンサ36と、位置センサ37とから検出信号を受信する。コントローラ26は、車体11と、リフトフレーム17と、ブレード18との寸法及び位置関係を示す機械寸法データを記憶している。コントローラ26は、車体センサ34とフレームセンサ35とブレードセンサ36とによって検出された角度と、位置センサ37によって検出された車体11の現在位置と、機械寸法データとに基づいて、ブレード18の刃先位置P0を算出する。
【0031】
作業機械1は、速度センサ38を備える。速度センサ38は、走行装置15の動作速度を検出する。速度センサ38は、走行装置15の動作速度を示す検出信号を出力する。コントローラ26は、速度センサ38から、走行装置15の動作速度を示す検出信号を取得する。例えば、速度センサ38は、動力伝達装置24の出力軸の回転速度を検出する。コントローラ26は、動力伝達装置24の出力軸の回転速度から、履帯16の動作速度を算出する。或いは、速度センサ38は、動力伝達装置24の他の回転要素の回転速度を検出してもよい。或いは、速度センサ38は、スプロケットなどの走行装置15の回転要素の回転速度を検出してもよい。或いは、速度センサ38は、エンジン回転速度を検出してもよい。
【0032】
コントローラ26は、作業機械1を自動的に制御する。以下、コントローラ26によって実行される、作業機械1の自動制御について説明する。
図5は、自動制御の処理を示すフローチャートである。
【0033】
図5に示すように、ステップS101では、コントローラ26は、作業機械1の現在位置を取得する。ここでは、コントローラ26は、上述したブレード18の刃先位置P0を、作業機械1の現在位置として取得する。
【0034】
ステップS102では、コントローラ26は、現況地形データを取得する。現況地形データは、作業対象の現況地形50を示す。
図6は、現況地形50の一例を示す図である。現況地形データは、作業機械1の進行方向に位置する現況地形50上の複数の地点の座標と高度を含む。コントローラ26は、外部のコンピュータから、現況地形データを取得してもよい。コントローラ26は、履帯16の底面の軌跡により、更新された現況地形データを取得してもよい。
【0035】
ステップS103では、コントローラ26は、目標地形データを取得する。目標地形データは、現況地形50に対する目標地形60を示す。目標地形データは、作業機械1の進行方向に位置する目標地形60上の複数の地点の座標と高度を含む。
図6に示すように、目標地形60の少なくとも一部は、現況地形50に対して鉛直方向に変位している。目標地形60の少なくとも一部は、現況地形50の下方に位置する。
【0036】
コントローラ26は、現況地形50に基づいて目標地形60を決定してもよい。例えば、コントローラ26は、現況地形50を下方に変位させることで、目標地形60を決定してもよい。コントローラ26は、作業の所定の開始位置から所定角度で延びる軌道を、目標地形60として決定してもよい。コントローラ26は、ブレード18の容量、或いは負荷に基づいて、目標地形60を決定してもよい。コントローラ26は、ブレード18が保持している土量に基づいて、目標地形60を決定してもよい。或いは、コントローラ26は、外部のコンピュータから、目標地形データを取得してもよい。
【0037】
ステップS104では、コントローラ26は、目標地形60に従って、作業機12を制御する。コントローラ26は、目標地形60に従ってブレード18の刃先が移動するように、リフトアクチュエータ19を制御する。それにより、作業機械1が前進しながら、ブレード18の刃先が目標地形60に沿って移動するように、ブレード18が上下にリフト動作する。それにより、現況地形50がブレード18によって掘削される。なお、作業機械1の前進は、オペレータによる操作装置31の操作によって手動で行われてもよい。或いは、作業機械1の前進は、コントローラ26による自動制御によって行われてもよい。
【0038】
本実施形態に係る作業機械1では、コントローラ26は、目標地形60に従うブレード18の高さの自動制御を実行しながら、走行装置15のスリップの発生を監視する。コントローラ26は、スリップが発生した時には、スリップを抑えるためのブレード18のピッチ角の自動制御を実行する。
図7は、スリップを抑えるための制御の処理を示すフローチャートである。
【0039】
図7に示すように、ステップS201では、コントローラ26は、第1スリップ判定を行う。第1スリップ判定では、コントローラ26は、第1スリップ条件が満たされているときに、履帯16のスリップが発生していると判定する。第1スリップ条件は、スリップ率が第1閾値より小さいことである。スリップ率は、車体11の理論車速に対する実車速の比である。コントローラ26は、走行装置15の動作速度に基づいて、車体11の理論車速を算出する。コントローラ26は、車体11の位置に基づいて、車体11の実車速を算出する。すなわち、第1スリップ条件は以下の式(1)で表される。
Rs=Va/Vt<Th1
Rsはスリップ率である。Vaは実車速である。Vtは理論車速である。Th1は第1閾値である。
【0040】
なお、第1スリップ条件は、理論車速が増加していないことを含んでもよい。ステップS201において、コントローラ26が、スリップが発生していると判定した時には、処理はステップS202に進む。
【0041】
ステップS202では、コントローラ26は、
図8に示すように、ブレード18を後傾方向にピッチ動作させる。例えば、コントローラ26は、ブレード18のピッチ角を、所定角度だけ減少させる。所定角度は、一定値であってもよい。或いは、所定角度は、スリップ率、或いはブレード18が受ける負荷などのパラメータに応じた角度であってもよい。
【0042】
ステップS203では、コントローラ26は、走行装置15がスリップから脱出したかを判定する。コントローラ26は、第1スリップ脱出条件が満たされたときに、走行装置15がスリップから脱出したと判定する。第1スリップ脱出条件は、スリップ率が第1閾値以上であることである。コントローラ26は、第1スリップ脱出条件が満たされているときに、走行装置15がスリップから脱出したと判定する。
【0043】
ステップS203において、コントローラ26が、走行装置15がスリップから脱出したと判定したときには、コントローラ26は、ステップS208において、ピッチ角を標準状態に戻した後、上述した目標地形60に従うブレード18の制御を継続する。ステップS203において、コントローラ26が、走行装置15がスリップから脱出していないと判定したときには、処理はステップS204に進む。
【0044】
ステップS204では、コントローラ26は、第2スリップ判定を行う。第2スリップ判定では、コントローラ26は、第2スリップ条件が満たされているときに、走行装置15のスリップが発生しているかを判定する。第2スリップ条件は、理論車速が第2閾値より大きいことである。コントローラ26は、スリップが発生していると判定したときには、処理はステップS205に進む。
【0045】
ステップS205では、コントローラ26は、
図9に示すように、目標地形60を上昇させる。それにより、コントローラ26は、ブレード18を上昇させる。なお、コントローラ26は、ブレード18のピッチ動作を継続しながら、ブレード18を上昇させてもよい。ステップS206では、コントローラ26は、走行装置15がスリップから脱出したかを判定する。ここでは、コントローラ26は、第2スリップ脱出条件が満たされたときに、走行装置15がスリップから脱出したと判定する。第2スリップ脱出条件は、理論車速が第2閾値以下であることである。ステップS206においてコントローラ26が、走行装置15がスリップから脱出していないと判定したときには、処理はステップS205に戻る。従って、コントローラ26は、引き続き目標地形60を上昇させる。
【0046】
ステップS206においてコントローラ26が、走行装置15がスリップから脱出したと判定したときには、処理はステップS207に進む。ステップS207では、コントローラ26は、目標地形60を再設定する。コントローラ26は、走行装置15がスリップから脱出したと判定したときの目標地形60’を、新たな目標地形60として再設定する。そして、コントローラ26は、再設定された目標地形60に従ってブレード18の制御を継続する。また、ステップS208において、コントローラ26は、ピッチ角を標準状態に戻す。
【0047】
以上説明した本実施形態に係る作業機械1では、スリップが発生していると判定されたときには、ブレード18が後傾方向にピッチ動作する。それにより、ブレード18への掘削抵抗が軽減されることで、走行装置15がスリップから脱出することができる。また、ブレード18のリフト動作によらずにピッチ動作によって走行装置15をスリップから脱出させるため、ブレード18の上昇が抑えられる。それにより、作業効率の低下が抑えられる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0049】
作業機械1は、ブルドーザに限らず、ホイールローダ、モータグレーダ等の他の車両であってもよい。コントローラ26は、互いに別体の複数のコントローラを有してもよい。複数のコントローラの一部は、作業機械1の外部に配置されてもよい。すなわち、作業機械1は、遠隔から制御可能であってもよい。コントローラ26による処理は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。上述した自動制御の処理の一部が省略されてもよい。或いは、上述した処理の一部が変更されてもよい。
【0050】
リフトアクチュエータ19と、ピッチアクチュエータ20とは、油圧シリンダに限らない。リフトアクチュエータ19と、ピッチアクチュエータ20とは、例えば電動モータなどの他のアクチュエータであってもよい。位置センサ37は、車体11に限らず、作業機械1の他の部分に配置されてもよい。例えば、位置センサ37はブレード18に配置されてもよい。
【0051】
スリップを抑えるための制御の処理は、上記した処理に限らず、変更されてもよい。例えば、スリップの発生を判定するための処理、及び、スリップから脱出したかを判定するための処理は、上記した処理に限らず、変更されてもよい。コントローラ26は、スリップが発生していると判定したときに、目標地形60の上昇によらずに、ブレード18を直接的に上昇させてもよい。
【0052】
理論車速は、位置センサ37によって取得された車体11の位置の時間当たりの変化より算出されてもよい。或いは、理論車速は、車体センサ34によって取得された車体11の加速度の積算値より算出されてもよい。或いは、理論車速は、車体11からレーダ等の測位手段によって取得された外部の対象物の位置の時間当たりの変化から算出されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、作業機械においてスリップの発生を抑えると共に、作業効率の低下を抑えることができる。
【符号の説明】
【0054】
11 車体
17 リフトフレーム
18 ブレード
19 リフトアクチュエータ
20 ピッチアクチュエータ
26 コントローラ
37 位置センサ
38 速度センサ
50 現況地形
60 目標地形