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  • 特開-スタッド及びその設置構造 図1
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  • 特開-スタッド及びその設置構造 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064176
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】スタッド及びその設置構造
(51)【国際特許分類】
   F27D 1/10 20060101AFI20230501BHJP
   F27B 7/28 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
F27D1/10
F27B7/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174281
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593213342
【氏名又は名称】株式会社日向製錬所
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高下 耕平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊久
(72)【発明者】
【氏名】森 晶宣
(72)【発明者】
【氏名】高野 斉
【テーマコード(参考)】
4K051
4K061
【Fターム(参考)】
4K051AA03
4K051AA04
4K051AA06
4K051AB03
4K051GA05
4K051GA09
4K061AA08
4K061BA02
4K061BA12
4K061CA17
4K061GA09
(57)【要約】
【課題】工業炉に不定形耐火物をライニングする際に鉄皮に設置するスタッドにおいて、使用中に不定形耐火物の動きに追従して移動可能なスタッド、及びその設置構造を提供する。
【解決手段】不定形耐火物をライニングする工業炉の鉄皮6に設置されるスタッド1であって、貫通孔21を有し鉄皮6に固定されるベース部2と、この貫通孔に挿通されるスタッド本体3とを備える。スタッド本体3は曲がり部31を有し、この曲がり部が貫通孔21の内面と接する側でベース部2にタック溶接5で固定され、曲がり部31の貫通孔21の内面と接する側以外の面と貫通孔21の内面との間に隙間を有している。このスタッド隣接するスタッド1をロータリーキルンの鉄皮に、互いにスタッド本体3の中心軸に対して90度回転させて複数設置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不定形耐火物をライニングする工業炉の鉄皮に設置されるスタッドであって、
貫通孔を有し鉄皮に固定されるベース部と、
この貫通孔に挿通されるスタッド本体とを備え、
スタッド本体は曲がり部を有し、この曲がり部が貫通孔の内面と接する側でベース部にタック溶接で固定され、
曲がり部の貫通孔の内面と接する側以外の面と貫通孔の内面との間に隙間を有している、スタッド。
【請求項2】
ベース部の貫通孔の2つの開口面のうちの一方の開口面側のみで曲がり部がタック溶接で固定されている、請求項1に記載のスタッド。
【請求項3】
スタッド本体は、曲がり部を有するV字型をしている、請求項1又は請求項2に記載のスタッド。
【請求項4】
不定形耐火物をライニングするロータリーキルンの鉄皮に設置される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスタッド。
【請求項5】
不定形耐火物をライニングするロータリーキルンの鉄皮に、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスタッドを複数設置してなるスタッドの設置構造であって、
隣接するスタッドが、互いにスタッド本体の中心軸に対して90度回転させて設置されている、スタッドの設置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属容器、廃棄物処理炉、熱処理炉、ロータリーキルン等の工業炉に不定形耐火物をライニングする際に鉄皮に設置されるスタッドとその設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、キャスタブル等の不定形耐火物がライニングされるロータリーキルンには、使用中の不定形耐火物の脱落や剥離を防止するために、一般的にスタッド(アンカーとも称される)が鉄皮に設置されている。通常スタッドは鉄皮に溶接固定されているため、使用中の不定形耐火物の膨張収縮に伴う不定形耐火物の動きに追従できないため、不定形耐火物に亀裂が発生し、脱落や剥離を招くことがある。
【0003】
その対策として特許文献1には、アンカーメタルとこれを固定するアンカーメタル固定金物からなり、アンカーメタルが上下左右方向に移動可能なアンカーメタル構造が開示されている。しかし、特許文献1のアンカーメタル構造では、アンカーメタルの移動量がアンカーメタルとアンカーメタル固定金物との隙間の範囲内に限られるため、使用中の不定形耐火物の膨張収縮に伴う不定形耐火物の動きが限定されることになり、亀裂抑制効果が不十分である。さらに、この隙間を大きくすると不定形耐火物をライニングする際に不定形耐火物が隙間に充填されるため、アンカーメタルが移動できなくなる問題が生じる。
【0004】
一方、特許文献2には、横孔をあけた短いスタッドと、横孔よりもやや小径の丸棒をV字型に折り曲げたアンカーからなり、アンカーをスタッドに直交する姿勢で横孔に挿通できかつアンカーを引き起こすとその折曲部が横孔で突っ張られて半固定となる耐火材用アンカーが開示されている。しかし、特許文献2の耐火材用アンカーにおいては、アンカーがスタッドの横孔の上下に接して突っ張った状態になっているため、アンカーが動くためにはかなりの力が必要になり、不定形耐火物の動きに対する追従は不十分である。また、大きな力が働きアンカーが移動したとしても、横孔を中心軸として回転する方向にしか自由に動くことができず、これ以外の方向への移動が難しいため、不定形耐火物中に発生する亀裂を抑制する効果は小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-136155号公報
【特許文献2】実公昭53-49065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、工業炉に不定形耐火物をライニングする際に鉄皮に設置するスタッドにおいて、使用中に不定形耐火物の動きに追従して移動可能なスタッド、及びその設置構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は次の通りである。
1.
不定形耐火物をライニングする工業炉の鉄皮に設置されるスタッドであって、
貫通孔を有し鉄皮に固定されるベース部と、
この貫通孔に挿通されるスタッド本体とを備え、
スタッド本体は曲がり部を有し、この曲がり部が貫通孔の内面と接する側でベース部にタック溶接で固定され、
曲がり部の貫通孔の内面と接する側以外の面と貫通孔の内面との間に隙間を有している、スタッド。
2.
ベース部の貫通孔の2つの開口面のうちの一方の開口面側のみで曲がり部がタック溶接で固定されている、前記1に記載のスタッド。
3.
スタッド本体は、曲がり部を有するV字型をしている、前記1又は2に記載のスタッド。
4.
不定形耐火物をライニングするロータリーキルンの鉄皮に設置される、前記1から3のいずれか一項に記載のスタッド。
5.
不定形耐火物をライニングするロータリーキルンの鉄皮に、前記1から3のいずれか一項に記載のスタッドを複数設置してなるスタッドの設置構造であって、
隣接するスタッドが、互いにスタッド本体の中心軸に対して90度回転させて設置されている、スタッドの設置構造。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、使用中の不定形耐火物の亀裂の発生を抑制できるため、不定形耐火物の剥離や脱落を抑制することができる。これにより工業炉の寿命が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態であるスタッドの縦断面図。
図2図1のスタッドの側面図。
図3図1のスタッドの平面図。
図4図1のスタッドを鉄皮に複数設置した平面図(展開図)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、本発明の一実施形態であるスタッド1を縦断面で示している。また、図2にはスタッド1を側面視で示し、図3にはスタッド1を平面視で示している。
スタッド1は、貫通孔21を有し鉄皮6に固定されるベース部2と、貫通孔21に挿通されるスタッド本体3とを備えている。
【0011】
ベース部2は直方体形状で、その側面である2つの開口面22A,22Bに対して垂直に貫通する断面が円形の貫通孔21を有している。ベース部2は、その底面である設置面23が鉄皮6に確実に当接して使用中に外れることがないように、ベース部2の設置面23の周囲と鉄皮6とが溶接によって固定されている(図1及び図2ではこの溶接部を符号4で示している。)。ベース部2の寸法は高さが50mm、幅が60mm、厚みが16mmで、貫通孔21の内径は25mmである。なお、溶接作業性の面から、2つの開口面22A,22Bの設置面23側には開先を設けている。
【0012】
スタッド本体3は曲がり部31を有するV字型をしており、ベース部2の設置面23に対してほぼ垂直になるようにベース部2の貫通孔21に挿通されて取り付けられている。具体的にはスタッド本体31の曲がり部31が、貫通孔21の内面に接する側でベース部2の開口面22Aにタック溶接によって固定されている。そして、曲がり部31の貫通孔21内面と接する側以外の面と貫通孔21の内面との間に隙間(空間)が確保されている。
なお、スタッド本体3は直径16mmの丸鋼を曲がり部31を有するV字型に加工したもので、曲がり部31は内側がR20となっている。スタッド本体3の長さは200mmである。また、スタッド本体2と貫通孔21内面との間の隙間の最大長L(図2参照)は7mmとしている。また、貫通孔21へのスタッド本体3の挿通性及びタック溶接の作業性の面から、2つの開口面22A,22Bの貫通孔21上部側をそれぞれ削ることで円弧状としている。
【0013】
図3に明確に表れているようにスタッド本体3は、ベース部2の2つの開口面22A,22Bのうちの一方の開口面22A側のみで曲がり部31がタック溶接で固定されている。このタック溶接部5は、溶接長が15mmで、溶接脚長が5mmである。ここで、タック溶接とは、本溶接をすることはなく、定められた位置にスタッド本体3を一時的に保持するための溶接のことである。例えば、タック溶接の大きさは、溶接長が5~18mm、溶接脚長が3~10mmとすることができる。
【0014】
スタッド1の組立及び設置方法は、ベース部2を鉄皮6に溶接した後にベース部2にスタッド本体3をタック溶接する方法と、ベース部2とスタッド本体3をタック溶接した後ベース部2を鉄皮6に溶接する方法のいずれの方法でもよい。
【0015】
本実施形態においてタック溶接は、スタッド本体3とベース部2の開口面22Aとの間で行うが、タック溶接は2つの開口面22A,22Bとの間の合計2か所で行ってもよい。本実施形態のように、スタッド本体3を一方の開口面側のみでタック溶接で固定することで、スタッド本体3のベース部2への取付作業の効率が高くなるメリットがある。
【0016】
タック溶接は、スタッド本体3の曲がり部31がベース部2の貫通孔21の内面と接する側の任意の位置で行うことができる。使用中に不定形耐火物は膨張収縮によって鉄皮6に対して複数の方向へ動いていると考えられ、不定形耐火物の施工直後の早い段階でいずれかの方向へ移動する際にタック溶接部5が外れると考えられ、タック溶接の位置の影響を受けないと考えられるためである。
【0017】
使用中にタック溶接部5が外れることで、スタッド本体3が任意の方向にある程度移動できるため、不定形耐火物が鉄皮6に対して任意の方向に移動することができる。そのため、不定形耐火物の剥離や脱落を抑制することができる。なお、タック溶接部5が外れると、スタッド本体3は貫通孔21内で移動可能になるが、ベース部2から外れることはないため、不定形耐火物が鉄皮6から脱落することはない。
【0018】
ベース部2の大きさは特に限定するものではないが、大きすぎても溶接作業に手間を要するため、使用中に鉄皮6から外れない程度の大きさであれば問題ない。ベース部2の貫通孔21の径については、スタッド本体2と貫通孔21の内面との間の隙間の最大長L(図2参照)が3mm以上確保できれば十分である。貫通孔21の長さは長すぎるとスタッド本体3の曲がり部31の半径(R)が大きくなり、しかも貫通孔21内に侵入した不定形耐火物がスタッド本体3の移動を阻害するおそれもあるため、炉の種類、使用温度、作業性、溶接強度、及びスタッドの大きさ等を考慮して短くする方がよい。具体的には5~25mmとすることができる。
【0019】
スタッド本体3はベース部2から外れないように曲がり部31が必要で、V字型、U字型、J字型などを採用することができる。特にスタッド本体3を、曲がり部31を有するV字型とすることで、不定形耐火物の脱落を防止する効果がより大きくなる。
【0020】
本実施形態のスタッド1は、不定形耐火物をライニングするロータリーキルンの鉄皮に設置することで、その不定形耐火物の脱落や剥離を防止する効果が顕著に得られる。ロータリーキルンでは不定形耐火物が回転しているため、他の工業炉と違って不定形耐火物にはロータリーキルンの回転軸を中心に回転する方向へ大きな応力が生じ、さらに回転しているため方向が変化する応力も掛かる。この応力に対して本実施形態のスタッド1は不定形耐火物の移動をある程度許容できるため、応力を緩和することで不定形耐火物の脱落や剥離を防止することができる。
【0021】
また、ロータリーキルンの鉄皮に本実施形態のスタッド1を設置する際には、図4に示すように隣接するスタッドを互いにスタッド本体3の中心軸に対して90度回転させて設置することが好ましい。このような設置構造とすることで、不定形耐火物が鉄皮に対してより移動しやすくなるため、応力を緩和することで不定形耐火物の脱落や剥離をより効果的に防止することができる。ここで、スタッド本体3の中心軸とは図1に示すようにスタッド本体の長手方向中心軸Cである。さらに、隣接するスタッド1どうしの間隔(ピッチ)は、150mm~250mmとすることで不定形耐火物の脱落防止効果が十分に得られる。なお、隣接するスタッドどうしの間隔(ピッチ)とは、隣接するスタッドのベース部の中心点どうしの間隔である。
【実施例0022】
図1~3に示したスタッド1を、ロータリーキルンの鉄皮に図4のパターンで約200mm間隔(ピッチ)で設置し、不定形耐火物(アルミナ質キャスタブル)を流し込み約300mmの厚みで長さ10mの範囲に施工したところ、V字型スタッドを直接鉄皮に溶接した従来例と比較して寿命が20%向上した。なお、ロータリーキルンの鉄皮の場合、図4のパターンは展開図で示している。
【符号の説明】
【0023】
1 スタッド
2 ベース部
21 貫通孔
22A,22B 開口面
23 設置面
3 スタッド本体
31 曲がり部
4 溶接部
5 タック溶接部
6 鉄皮
図1
図2
図3
図4