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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000642
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】制震構造体
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20221222BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20221222BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
E04H9/02 301
F16F7/08
F16F15/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101585
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】593089046
【氏名又は名称】青木あすなろ建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】波田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】土田 尭章
(72)【発明者】
【氏名】上田 英明
(72)【発明者】
【氏名】諸沢 柾治
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC26
2E139AC27
2E139AC33
2E139BA19
2E139BD23
2E139BD24
3J048AA06
3J048AC01
3J048BE12
3J048EA38
3J066AA26
3J066CA05
(57)【要約】
【課題】 間柱や方立壁としての機能を十分に保持するとともに、室内の意匠性や居住性を維持しつつ、繰返し地震への優れた制震性を有し、後付けの設置や交換、メンテナンスが容易な制震構造体を提供する。
【解決手段】 建築物の上梁41と下梁42の間に設けられた間柱2又は方立壁3の少なくとも上端部、中間部、下端部のいずれかの位置に、ロッド51及びダイス52を有する摩擦ダンパー5が設置する壁面6に対して平行かつ水平に配設されていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の上梁と下梁の間に設けられた間柱又は方立壁の少なくとも上端部、中間部、下端部のいずれかの位置に、ロッド及びダイスを有する摩擦ダンパーが、壁面に対して平行かつ水平に配設されていることを特徴とする制震構造体。
【請求項2】
前記ロッドの両端部にブラケットが配設されており、該ブラケットが、前記上梁又は下梁、前記間柱又は方立壁の上端部又は下端部のいずれか、前記間柱又は方立壁の中間部の下端部又は上端部のいずれかに固定されているとともに、前記ダイスにダイス固定部材が設けられており、該ダイス固定部材が、前記下梁又は上梁、前記間柱又は方立壁の下端部又は上端部のいずれか、前記間柱又は方立壁の中間部の下端部又は上端部のいずれかに固定されていることを特徴とする請求項1に記載の制震構造体。
【請求項3】
前記ロッドの端部に幅調整部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の制震構造体。
【請求項4】
前記ロッドの端部に前記ブラケットが固定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の制震構造体。
【請求項5】
前記建築物が、鉄筋コンクリート造建築物、鉄骨造建築物又は鉄骨鉄筋コンクリート造建築物のいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の制震構造体。
【請求項6】
前記建築物が鉄骨造建築物の場合、前記間柱又は方立壁が鉄骨で構成されており、前記鉄筋コンクリート造建築物又は鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の場合、前記間柱又は方立壁が鉄骨、鉄筋コンクリート、鉄筋鉄骨コンクリートのいずれかで構成されていることを特徴とする請求項5に記載の制震構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震構造体に関するものであり、詳しくは、建築構造物の桁行方向あるいは梁間方向の間柱又は方立壁に地震エネルギー吸収要素を付加した制震構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の一般的な架構形式として、柱と梁の骨組からなる純ラーメン架構がある。純ラーメン架構は、ブレースや耐震壁がなく柱と梁の曲げ剪断強度で地震荷重に抵抗する構造である。また、居住性確保の為、適宜、間柱や方立壁、床を設けて室を形成又は間仕切りしている。
【0003】
一方、近年では、上記純ラーメン架構に対してより高い耐震性を付加するため、地震エネルギー吸収要素である各種ダンパーを付加した制震構造が開発、実用化されている。具体的な制震構造としては、例えば、直接接合型(筋交型)、間接接合型(間柱型)などがある。
【0004】
直接接合型(筋交型)は、筋交いの中間部にダンパーを設けることにより、壁面による制震性を付加するものである。しかしながら、直接接合型(筋交型)の構造は、筋交いによる制震構造であるため、居住性確保のために壁を要しない箇所でも部屋が遮られ、あるいは窓の設置が困難となるため、採光の妨げとなり、意匠性や機能性の面から新築建物には普及しづらいという問題があった。
【0005】
これに対して間接接合型(間柱型)は、採光の妨げとならないため意匠性や機能性に優れている。このような間接接合型の制震構造としては、これまでに低降状点鋼材製のせん断型パネルダンパーを用いた制震構造物が提案されている(特許文献1を参照)。この提案によれば、降状点鋼材製のせん断型パネルダンパーを用いることにより、地震による軸力(地震エネルギー)が建造物からせん断型パネルダンパーへ円滑に伝達され、せん断型パネルダンパーの塑性変形により地震エネルギーを十分に減衰させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-27195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の提案のせん断型パネルダンパーを用いた制震構造物は、鋼材製のせん断型パネルダンパーを用いることから、繰り返しの地震動や鉛直荷重のエネルギー吸収性能に関し、また、せん断型パネルダンパーを間柱の中に埋め込み固定するため後付け施工性や、設置後のメンテナンス性に関して改善の余地を残すものであった。
【0008】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、間柱や方立壁としての機能を十分に保持するとともに、室内の意匠性や居住性を維持しつつ、繰り返しの地震動への優れた制震性を有し、後付けの設置や交換、メンテナンスが容易な制震構造体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の制震構造体は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0010】
第1に、本発明の制震構造体は、建築物の上梁と下梁の間に設けられた間柱又は方立壁の少なくとも上端部、中間部、下端部のいずれかの位置に、ロッド及びダイスを有する摩擦ダンパーが、壁面に対して平行かつ水平に配設されていることを特徴とする。
第2に、上記第1の発明の制震構造体において、前記ロッドの両端部にブラケットが配設されており、該ブラケットが、前記上梁又は下梁、前記間柱又は方立壁の上端部又は下端部のいずれか、前記間柱又は方立壁の中間部の下端部又は上端部のいずれかに固定されているとともに、前記ダイスにダイス固定部材が設けられており、該ダイス固定部材が、前記下梁又は上梁、前記間柱又は方立壁の下端部又は上端部のいずれか、前記間柱又は方立壁の中間部の下端部又は上端部のいずれかに固定されていることが好ましい。
第3に、上記第1又は第2の発明の制震構造体において、前記ロッドの端部に幅調整部材が設けられていることが好ましい。
第4に、上記第1から第3の発明の制震構造体において、前記ロッドの端部に前記ブラケットが固定されていることが好ましい。
第5に、上記第1から第4の発明の制震構造体において、前記建築物が、鉄筋コンクリート造建築物、鉄骨造建築物又は鉄骨鉄筋コンクリート造建築物のいずれかであることが好ましい。
第6に、上記第5の発明の制震構造体において、前記建築物が鉄骨造建築物の場合、前記間柱又は方立壁が鉄骨で構成されており、前記鉄筋コンクリート造建築物又は鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の場合、前記間柱又は方立壁が鉄骨、鉄筋コンクリート、鉄筋鉄骨コンクリートのいずれかで構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の制震構造体によれば、間柱や方立壁としての機能を十分に保持するとともに、室内の意匠性や居住性を維持しつつ、繰返し地震への優れた制震性を有し、後付けの設置や交換、メンテナンスが容易な制震構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】間柱に摩擦ダンパーを配設した制震構造体の実施形態を示す概略図であり、(A)は間柱の中間部に摩擦ダンパーを配設した実施形態の概略図、(B)は間柱の上端部に摩擦ダンパーを配設した実施形態の概略図、(C)は間柱の下端部に摩擦ダンパーを配設した実施形態の概略図である。
図2】摩擦ダンパーの概略断面図である。
図3】ボルト頭の突出を解消させた摩擦ダンパーの概略断面図である。
図4】ブラケットとロッドベース部材のボルト孔の実施形態を示す概略側面図であり、(A)はボルト孔を45度間隔で設けた実施形態であり、(B)は、長孔状のボルト孔を設けた実施形態である。
図5】方立壁に摩擦ダンパーを配設した制震構造体の実施形態を示す概略図であり、(A)は方立壁の中間部に摩擦ダンパーを配設した実施形態の概略図、(B)は方立壁の上端部に摩擦ダンパーを配設した実施形態の概略図、(C)は方立壁の下端部に摩擦ダンパーを配設した実施形態の概略図である。
図6】上梁と方立壁の上端部との間隔、方立壁3の中間部の下端部と上端部の間隔、方立壁3の下端部と下梁42との間隔を0mmにした実施形態を示す概略図である。
図7】本発明の制震構造体に地震動が作用した状態を示す概略説明図である。
図8】ロッドを下方に、ダイスを上方に接続して配設した状態の摩擦ダンパーを示す概略断面図である。
図9】方立壁の中間部に横方向(直列)に2基の摩擦ダンパーを配設した実施形態を示す概略図である。
図10】方立壁の中間部に横方向に2基の摩擦ダンパーを連結して配設した実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態をあげて、図面により本発明の制震構造体を詳細に説明する。図1は、間柱に摩擦ダンパーを設置した実施形態の制震構造体の概略図であり、図5は方立壁に摩擦ダンパーを設置した実施形態の制震構造体の概略図である。
【0014】
本発明の制震構造体1は、建築物の上梁41と下梁42の間に設けられた間柱2又は方立壁3の少なくとも上端部、中間部、下端部のいずれかの位置に、ロッド51及びダイス52を有する摩擦ダンパー5が壁面6に対して平行かつ水平に配設されたものである。
【0015】
建築物の間柱2及び方立壁3は、柱と柱の間で、かつ上梁41と下梁42の間に設けられる補助的な小柱や壁であり、通常は、壁を構築するための下地材として設けられるものである。特に、柱と柱の間が離れた構造において、壁仕切りや壁下地材が渡せないときに用いられ、表面に真壁、石膏ボード、合板、ベニヤ板等が張られ、外からは視認できなくなる部材である。
【0016】
本発明の制震構造体1は、間柱2又は方立壁3が使用されている建物であれば特に制限なく適用が可能であるが、特に、鉄筋コンクリート造(RC造)建築物、鉄骨造(S造)建築物又は鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)建築物のいずれかであることが好ましい。
また、建築物が鉄骨造(S造)建築物の場合、間柱2又は方立壁3は鉄骨で構成されていることが好ましく、鉄筋コンクリート造(RC造)建築物又は鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)建築物の場合、間柱2又は方立壁3は鉄骨、鉄筋コンクリート、鉄筋鉄骨コンクリートのいずれかで構成されていることが好ましい。
【0017】
本実施形態の制震構造体1に用いる摩擦ダンパー5は、図1図5に示すように、上梁41と下梁42の間に設けられた間柱2又は方立壁3の上端部、下端部、中間部の少なくともいずれかの位置に配設される。該摩擦ダンパー5は、摩擦力が移動方向に逆向きの抵抗力として作用することを利用した減衰機構を有するダンパーであり、より具体的には、図2に示すように、ロッド51(棒状部材)とダイス52(環状部材)を有しており、ロッド51の外面とダイス52の内面が摺動して、一定の摩擦荷重を保持したまま軸方向に変位し、ロッド51の外面とダイス52の内面の摩擦により地震動等のエネルギーを熱エネルギーに変換し吸収する機構を有するものである。
【0018】
摩擦ダンパー5に用いられるロッド51の長手直角方向の断面形状は、円形、角形等の形状のものでよいが、特に円形のものが好ましい。摩擦ダンパー5の構成要素の材質としては、強度と耐摩耗性を有していれば特に制限はないが、ロッド51が銅合金で、ダイス52が合金工具鋼が好適であり、ロッド51とダイス52の摩擦面には、より安定した摩擦荷重を得るために被膜潤滑剤を塗布してあるのが望ましい。また、他の実施形態としては、ロッド51とダイス52が炭素鋼鋼管であり、ロッド51とダイス52がより安定した摩擦力を得るために、ダイス52の内面にポリテトラフルオロエチレン系の摩擦材を被覆してあるものが望ましい。
【0019】
上記摩擦ダンパー5は、比較的構造が単純であるため、経済的であるとともに優れたメンテナンス性を有し、繰り返し動作に対し高い耐久性があり、エネルギー吸収装置として高い信頼性が得られる点において優れている。また、上記構成の摩擦ダンパー5は、上方からの重量を十分に支えることが可能であるため、本発明の制震構造体1に用いた場合の地震エネルギーの吸収性能が鉛直荷重に影響されることが少ない。
【0020】
図1は、間柱2に摩擦ダンパー5を設置した制震構造体1であり、図1(A)は間柱2の中間部に摩擦ダンパー5を設置した実施形態、図1(B)は間柱2の上端部に摩擦ダンパー5を設置した実施形態、図1(C)は間柱2の下端部に摩擦ダンパー5を設置した実施形態を示している。
【0021】
図1(A)に示す間柱2の中間部に摩擦ダンパー5を配設する実施形態では、間柱2の中間部の配設位置を水平方向に切断して上側間柱21と下側間柱22に分断するとともに、導入可能な空間を設け、当該空間に、ロッド51の長手方向が、間柱2を設ける壁面6に対して平行かつ水平となるように摩擦ダンパー5を配設している。具体的には、上側間柱21の下端部にブラケット510とロッドベース部材511をボルト53で固定し、該ロッドベース部材511を介してロッド51を固定している。また、下側間柱22の上端部にベースプレート520をボルト53で固定し、該ベースプレート520にダイス52を固定している。
【0022】
なお、ロッド51とブラケット510の接続は、ロッド51とブラケット510を溶接等により直接接続してもよいが、図2に示すように、ロッド51の両端部にフランジ状のロッドベース部材511を接続し、該ロッドベース部材511を介してロッド51とブラケット510を接続するのが好ましい。なお、ロッドベース部材511とロッド51の接続は、ロッド51端部に雄ねじを設けるとともにロッドベース部材511に雌ねじを設け、ロッド51端部の雄ねじとロッドベース部材511の雌ねじとの螺合により幅調整機能を付与し、ロッドベース部材511を幅調整部材として機能させることができるためより好ましい。
【0023】
また、上側間柱21の上端部に対するダイス52の固定は、直接ダイス52を接続してもよいが、ダイス52と上端部の間にベースプレート520を介在させてボルト53により接続するのが好ましい。また、ダイス52とベースプレート520の接続は、配設位置の微調整等を考慮してダイス52又はベースプレート520に高さ調整機能を付与することが好ましい。
【0024】
ここで、ブラケット510とロッドベース部材511のボルト53による固定、また、ダイス52とベースプレート520のボルト53による固定については、図3に示すように、ロッドベース部材511又はベースプレート520にザグリ孔54を設け、ボルト53として、六角穴付きボルト等を用いてボルト頭が隠れるようにすることが好ましい。これにより、ボルト頭の突出が解消されるため、ダンパーの稼働ストロークを広く確保できる。
【0025】
また、ブラケット510とロッドベース部材511をボルト53により固定する場合、ボルト53の取り付け誤差を吸収する調節用として、ボルト53を取り付けるボルト孔の形状や間隔を適宜設定することができる。具体的には、例えば図4(A)に示すようにボルト孔を45度間隔に多めに配置したり、図4(B)に示すように、長孔に設けて遊びを設けることが好ましい。これにより、摩擦ダンパー5の取り付け施工性を向上させることが可能となる。
【0026】
なお、摩擦ダンパー5を配設する間柱2の中間部の位置は、建物の構造や間柱2自体の位置、また、強度設計等を考慮して適宜決定することができ、例えば、間柱2の上下均等の中間の位置や、中間部から上寄りの位置、中間部から下寄りの位置等とすることができる。
【0027】
また、図1(B)に示す間柱2の上端部に摩擦ダンパー5を配設する実施形態では、上梁41と間柱2の上端部の間に摩擦ダンパー5が導入可能な空間を設け、当該空間に摩擦ダンパー5を配設している。摩擦ダンパー5の固定は、基本的には図1(A)に示す間柱2の中間部に配設する実施形態と同様であるが、本実施形態では、上梁41にブラケット510とロッドベース部材511をボルト53で固定し、該ロッドベース部材511を介してロッド51を固定している。また、間柱2の上端部にベースプレート520をボルト53で固定し、該ベースプレート520にダイス52を固定している。ここで、上梁41に固定するブラケット510は、地震動により破損等しないように、ブラケット510の大きさや幅を適宜決定することができる。
【0028】
さらに、図1(C)に示す間柱2の下端部に摩擦ダンパー5を配設する実施形態では、下梁42と間柱2の下端部の間に摩擦ダンパー5が導入可能な空間を設け、当該空間に摩擦ダンパー5を配設している。具体的には、間柱2の下端部にブラケット510とロッドベース部材511をボルト53で固定し、該ロッドベース部材511を介してロッド51を固定している。また、下梁42にベースプレート520をボルト53で固定し、該ベースプレート520にダイス52を固定している。なお、ボルト53による固定におけるボルト頭の突出の解消についは、図1(a)の説明と同様の構成とすることができる。
【0029】
次に、方立壁3に摩擦ダンパー5を配設する実施形態について詳述する。図5は、方立壁3に摩擦ダンパー5を設置した実施形態の制震構造体1であり、図5(A)は方立壁3の中間部に摩擦ダンパー5を設置した実施形態、図5(B)は方立壁3の上端部に摩擦ダンパー5を設置した実施形態、図5(C)は方立壁3の下端部に摩擦ダンパー5を設置した実施形態を示している。
【0030】
図5(A)に示す方立壁3の中間部に摩擦ダンパー5を配設する実施形態では、方立壁3の中間部の配設位置を水平方向に切断して上側方立壁31と下側方立壁32に分断するとともに、導入可能な空間を設け、当該空間に摩擦ダンパー5を配設している。具体的には、上側方立壁31の下端部にブラケット510をボルト53で固定し、該ブラケット510にロッドベース部材511を介してロッド51を固定している。また、下側方立壁32の上端部にベースプレート520をボルト53で固定し、該ベースプレート520にダイス52を固定している。
【0031】
摩擦ダンパー5を配設する方立壁3の中間部の位置は、建物の構造や方立壁3の位置、また、強度設計等を考慮して適宜決定することができ、例えば、方立壁3の中間の位置や、中間部から上寄りの位置、中間部から下寄りの位置等とすることができる。
【0032】
また、図5(B)に示す方立壁3の上端部に摩擦ダンパー5を配設する実施形態では、基本的には上記図5(A)の方立壁3の中間部に配設する場合と同様であるが、本実施形態では、上梁41にブラケット510をボルト53で固定し、該ブラケット510にロッドベース部材511を介してロッド51を固定している。また、方立壁3の上端部にベースプレート520をボルト53で固定し、該ベースプレート520にダイス52を固定している。ここで、上梁41に固定するブラケット510は、地震動により破損等しないように、ブラケット510の大きさや幅を適宜決定することができる。
【0033】
また、図5(C)に示す方立壁3の下端部に摩擦ダンパー5を配設する実施形態では、下梁42と間柱2の下端部の間に摩擦ダンパー5が導入可能な空間を設け、当該空間に摩擦ダンパー5を配設している。具体的には、間柱2の下端部にブラケット510をボルト53で固定し、該ブラケット510にロッドベース部材511を介してロッド51を固定している。また、下梁42にベースプレート520をボルト53で固定し、該ベースプレート520にダイス52を固定している。
【0034】
なお、図5(A)~(C)に示す上記実施形態の方立壁3に対するロッド51及びダイス52の固定は、図1(A)~(C)上記実施形態1の間柱2に対するロッド51及びダイス52の固定と同様の方法である。
【0035】
本発明の制震構造体1においては、間柱2又は方立壁3の上端部、中間部、下端部のいずれかの位置に摩擦ダンパー5が設置された状態において、上梁41と間柱2又は方立壁3の上端部との間隔、間柱2又は方立壁3の中間部の下端部と上端部の間隔、間柱2又は方立壁3の下端部と下梁42との間隔が0~50mmに設定されていることが好ましい。
【0036】
具体的には、例えば、図1(A)に示す間柱2の中間部に摩擦ダンパー5を配設する実施形態の制震構造体1では、分断した下側間柱22と、上側間柱21に固定したブラケット510の下部との間の間隔を0~50mmに設定する。
【0037】
また、図1(B)に示す上梁41と間柱2の上端部に摩擦ダンパー5を配設する実施形態の制震構造体1では、間柱2上端部と、上梁41に固定したブラケット510の下部との間の間隔を上記所定の間隔に設定する。さらに、図5(C)に示す下梁42と間柱2の下端部に摩擦ダンパー5を配設する実施形態の制震構造体1では、下梁42と、間柱2下端部に固定したブラケット510の下部との間の間隔を上記所定の間隔に設定する。
【0038】
なお、上記間隔の条件は、図5(A)~(C)に示す方立壁3の実施形態についても同様である。上梁41と間柱2又は方立壁3の上端部との間隔、間柱2又は方立壁3の中間部の上側と下側の間隔、間柱2又は方立壁3の下端部と下梁42との間隔を上記所定の間隔に設定することにより、安定した間柱2又は方立壁3の機能と制震構造体1としての機能を両立させることができる。
【0039】
ここで、図6に示すように、上梁41と方立壁3の上端部との間隔、方立壁3の中間部の下端部と上端部の間隔、方立壁3の下端部と下梁42との間隔を0mmに設定する場合には、上梁41の下面、下梁42の上面あるいは方立壁3の上端部、中間部、下端部に鋼板製の残置型枠により縁を切り、接触面に低摩擦材を介在させるができる。この場合の低摩擦材としては、黒鉛、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、鋼板などを例示することができる。
【0040】
上梁41と方立壁3の上端部との間隔、方立壁3の中間部の下端部と上端部の間隔、方立壁3の下端部と下梁42との間隔を0mmに設定することにより、隙間がなくなるため、断熱性能を確保することができる。また、鉛直荷重(自重、積載重量)を方立壁3により伝達できるため、ロッドに曲げ(撓み)変形が生じることがない。
【0041】
また、本発明において方立壁3が鉄筋コンクリート造(RC造)建築物又は鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)建築物の場合には、予め上梁41又は方立壁3の一部、或いは下梁42又は方立壁3の一部に矩形状の空間を設けておき、該空間内に摩擦ダンパー5を内設するようにしてもよい。
【0042】
以下に、本発明の制震構造体1に地震動が作用した場合の動作について詳述する。例えば、図1(B)に示す実施形態の制震構造体1に対して、図7に示すように、上梁41に右方向(矢印方向)の地震動が作用した場合には、摩擦ダンパー5のロッド51にも右方向に移動する力が働くが、ダイス52がその移動を抑制して相対的にロッド51の中央部から左方向に移動する力が作用する。その際、ロッド51とダイス52の摩擦により地震エネルギーは熱エネルギーに変換されて制震効果が発現する。
【0043】
なお、上記摩擦ダンパー5による制震効果は、図1(A)、(C)に示す間柱2の制震構造体1においても、図5(A)~(C)に示す方立壁3の制震構造体1においても摩擦ダンパー5による同様の制震効果を得ることができる。
【0044】
以上、本発明の制震構造体1を実施形態に基づいて説明したが、本発明の制震構造体1は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0045】
例えば、上記図1図5に示す実施形態では、摩擦ダンパー5の配設において、ロッド51を上側に固定し、ダイス52を下側に固定しているが、図8に示すように、これを逆にしてダイス52を上側に固定し、ロッド51を下側に固定するように配設することも可能である。
【0046】
また、図5に示す実施形態のように、方立壁3に摩擦ダンパー5を配設する制震構造体1の場合、例えば、図9に示すように、横方向(直列)に区画を分けて複数の摩擦ダンパー5を配設したり、図10に示すように、複数基の摩擦ダンパー5を直接連結することもできる。これにより、省スペースで制震構造体1の制震性能を2倍以上向上させることが可能となる。
【0047】
上記構成の本発明の制震構造体1によれば、建物の壁厚内に収まるコンパクトな摩擦ダンパー5を用いることにより、間柱2や方立壁3としての機能を十分に保持するとともに、外観から認識されない優れた意匠性を有する制震構造体1とすることができる。また、室内からの摩擦ダンパー5へのアプローチが容易であるため、後付けの設置や交換、メンテナンスを容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 制震構造体
2 間柱
21 上側間柱
22 下側間柱
3 方立壁
31 上側方立壁
32 下側方立壁
41 上梁
42 下梁
5 摩擦ダンパー
51 ロッド
510 ブラケット
511 ロッドベース部材
52 ダイス
520 ベースプレート
53 ボルト
54 ザグリ孔
6 壁面
7 柱
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10