IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特開2023-64204BCTZ膜形成用液組成物、BCTZ膜形成用液組成物の製造方法、および、BCTZ膜、BCTZ膜の製造方法
<>
  • 特開-BCTZ膜形成用液組成物、BCTZ膜形成用液組成物の製造方法、および、BCTZ膜、BCTZ膜の製造方法 図1
  • 特開-BCTZ膜形成用液組成物、BCTZ膜形成用液組成物の製造方法、および、BCTZ膜、BCTZ膜の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064204
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】BCTZ膜形成用液組成物、BCTZ膜形成用液組成物の製造方法、および、BCTZ膜、BCTZ膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20230501BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20230501BHJP
   C23C 18/12 20060101ALI20230501BHJP
   H01G 4/33 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C01G25/00
C23C18/12
H01G4/33 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174334
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】辻内 直人
(72)【発明者】
【氏名】曽山 信幸
【テーマコード(参考)】
4G047
4G048
4K022
5E082
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CA08
4G047CB05
4G047CC02
4G047CD02
4G047CD08
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC01
4G048AD02
4G048AD08
4G048AE06
4K022AA05
4K022AA41
4K022BA15
4K022BA22
4K022BA26
4K022BA27
4K022BA33
4K022DA06
5E082BC35
5E082EE05
5E082FF05
5E082FG03
5E082FG26
5E082FG46
5E082FG54
(57)【要約】
【課題】結晶粒子径を制御し、安定した特性のBCTZ膜を成膜することが可能なBCTZ膜形成用液組成物、このBCTZ膜形成用液組成物の製造方法、および、BCTZ膜、BCTZ膜の製造方法を提供する。
【解決手段】BCTZ膜形成用液組成物であって、カルボン酸バリウム、カルボン酸カルシウム、チタンアルコキシドおよびジルコニウムアルコキシドが、モル比でBa:Ca:Ti:Zr=(1-X):X:(1-Y):Y(ただし0.03≦X≦0.20、0.05≦Y≦0.25)となるように有機溶剤中に混合されるとともに、安定化剤が添加されており、前記カルボン酸バリウムおよび前記カルボン酸カルシウムは、一般式C2n+1COOH(ただし、5≦n≦7)で表されるカルボン酸の金属塩とされており、前記有機溶剤がカルボン酸と酢酸エステルとを含む混合溶剤であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリウムとカルシウムとチタンとジルコニウムとの混合酸化物で構成されたBCTZ膜を成膜する際に用いられるBCTZ膜形成用液組成物であって、
カルボン酸バリウム、カルボン酸カルシウム、チタンアルコキシドおよびジルコニウムアルコキシドが、モル比でBa:Ca:Ti:Zr=(1-X):X:(1-Y):Y(ただし0.03≦X≦0.20、0.05≦Y≦0.25)となるように有機溶剤中に混合されるとともに、安定化剤が添加されており、
前記カルボン酸バリウムおよび前記カルボン酸カルシウムは、一般式C2n+1COOH(ただし、5≦n≦7)で表されるカルボン酸の金属塩とされており、
前記有機溶剤がカルボン酸と酢酸エステルとを含む混合溶剤であることを特徴とするBCTZ膜形成用液組成物。
【請求項2】
前記有機溶剤に含まれる前記カルボン酸は、前記カルボン酸バリウムおよび前記カルボン酸カルシウムを形成するカルボン酸と同一のカルボン酸であることを特徴とする請求項1に記載のBCTZ膜形成用液組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のBCTZ膜形成用液組成物の製造方法であって、
バリウム化合物と、カルシウム化合物と、BaとCaの合計モル数の3倍以上8倍以下の量のカルボン酸と、を混合する第1混合工程と、
前記第1混合工程で得られた第1混合物を還流して有機バリウムカルシウム化合物を調製する第1還流工程と、
前記有機バリウムカルシウム化合物と、チタンアルコキシドと、ジルコニウムアルコキシドと、TiとZrの合計モル数の0.5倍以上4.0倍以下の量の安定化剤と、を混合する第2混合工程と、
前記第2混合工程で得られた第2混合物と酢酸エステルとを混合して還流する第2還流工程と、
を備えていることを特徴とするBCTZ膜形成用液組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第1還流工程の後に、減圧蒸留する蒸留工程を備えていることを特徴とする請求項3に記載のBCTZ膜形成用液組成物の製造方法。
【請求項5】
バリウムとカルシウムとチタンとジルコニウムとの混合酸化物で構成されたBCTZ膜であって、
厚さ方向に沿った断面における結晶粒子径が30nm以上50nm以下の範囲内とされていることを特徴とするBCTZ膜。
【請求項6】
結晶方位がランダム配向とされていることを特徴とする請求項5に記載のBCTZ膜。
【請求項7】
バリウムとカルシウムとチタンとジルコニウムとの混合酸化物で構成されたBCTZ膜の製造方法であって、
請求項1または請求項2に記載のBCTZ膜形成用液組成物を塗布する塗布工程と、
塗布した前記BCTZ膜形成用液組成物を200℃以上500℃以下の温度範囲で加熱してBCTZゲル膜を形成する第1加熱工程と、
所定の膜厚のBCTZゲル膜となるように前記塗布工程と前記第1加熱工程を繰り返し実施した後、前記BCTZゲル膜を600℃以上800℃以下の温度範囲で加熱する第2加熱工程と、
を備えていることを特徴とするBCTZ膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜コンデンサやキャパシタ等に用いられるバリウムとカルシウムとチタンとジルコニウムとの混合酸化物からなるBCTZ膜を形成する際に使用されるBCTZ膜形成用液組成物、BCTZ膜形成用液組成物の製造方法、および、BCTZ膜、BCTZ膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、(Ba1-XCa)(Ti1-YZr)O等のバリウムとカルシウムとチタンとジルコニウムとの混合酸化物からなるBCTZ膜は、高い誘電率を有することから、例えば、特許文献1~5に示すように、積層セラミックスコンデンサ等を構成する誘電体膜として利用されている。
上述のBCTZ膜は、例えば特許文献1~5においては、BCTZ粉末を焼結することによって成膜している。また、BCTZ膜を、スパッタリングターゲットを用いたスパッタ法によって成膜する方法も提案されている。
【0003】
最近では、積層セラミックスコンデンサ等の電子部品においては、薄型化および大容量化が求められており、BCTZ膜に対して、薄膜化および大面積化が要求されている。
ここで、BCTZ粉末を焼結することによってBCTZ膜を成膜した場合、粉末の粒径が比較的大きいため、BCTZ膜の薄膜化が困難であった。
また、スパッタリングターゲットを用いたスパッタ法によってBCTZ膜を成膜した場合、均一な大面積のBCTZ膜を成膜することは困難であった。また、成膜したBCTZ膜において酸素欠陥が多く発生するおそれがあった。
【0004】
そこで、BCTZ膜の薄膜化および大面積化に対応する方法として、例えば、特許文献6~8に開示されているように、ゾルゲル法を適用することが考えられる。
ゾルゲル法においては、ゾルゲル液を所定の厚さに塗布して焼成することによりBCTZ膜を成膜することから、薄く、かつ、大面積のBCTZ膜を、比較的安定して成膜することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-022890号公報
【特許文献2】特開2009-173473号公報
【特許文献3】再公表WO2013/022064号公報
【特許文献4】特開2016-017028号公報
【特許文献5】特開2016-213297号公報
【特許文献6】特開2019-220571号公報
【特許文献7】特開2019-220572号公報
【特許文献8】特開2019-220573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献6~8に記載されたBCTZ膜においては、配向性を有する積層構造とされており、製造方法が複雑であり、均一な特性のBCTZ膜を安定して成膜することができなかった。特に、大面積のBCTZ膜においては、特性のばらつきがおおきくなるおそれがあった。
また、特許文献6~8に記載されたBCTZ膜においては、結晶粒子径を制御していないため、リーク電流を低く抑えることができず絶縁耐性が不十分となったり、チューナビリティ特性が低下したりして、誘電体膜として安定した特性を得ることができないおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、結晶粒子径を制御し、安定した特性のBCTZ膜を成膜することが可能なBCTZ膜形成用液組成物、このBCTZ膜形成用液組成物の製造方法、および、BCTZ膜、BCTZ膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、BCTZ膜形成用液組成物において、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムを含み、これらカルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムを、一般式C2n+1COOHで表されるカルボン酸の金属塩とし、このカルボン酸の一般式のn(炭素数)を調整することで、カルボン酸の鎖長により分解温度が調整される。ここで、BCTZ膜形成用液組成物を第1加熱工程と第2加熱工程の2段階で加熱することで、第1加熱工程での核発生、および、第2加熱工程における核成長を調整でき、成膜したBCTZ膜の結晶粒子径を制御可能であるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明のBCTZ膜形成用液組成物は、バリウムとカルシウムとチタンとジルコニウムとの混合酸化物で構成されたBCTZ膜を成膜する際に用いられるBCTZ膜形成用液組成物であって、カルボン酸バリウム、カルボン酸カルシウム、チタンアルコキシドおよびジルコニウムアルコキシドが、モル比でBa:Ca:Ti:Zr=(1-X):X:(1-Y):Y(ただし0.03≦X≦0.20、0.05≦Y≦0.25)となるように有機溶剤中に混合されるとともに、安定化剤が添加されており、前記カルボン酸バリウムおよび前記カルボン酸カルシウムは、一般式C2n+1COOH(ただし、5≦n≦7)で表されるカルボン酸の金属塩とされており、前記有機溶剤がカルボン酸と酢酸エステルとを含む混合溶剤であることを特徴としている。
【0010】
この構成のBCTZ膜形成用液組成物によれば、モル比でBa:Ca:Ti:Zr=(1-X):X:(1-Y):Y(ただし0.03≦X≦0.20、0.05≦Y≦0.25)とされているので、誘電特性に優れたBCTZ膜を成膜することができる。
そして、前記カルボン酸バリウムおよび前記カルボン酸カルシウムが一般式C2n+1COOHで表されるカルボン酸の金属塩とされており、カルボン酸の一般式におけるn(炭素数)が5以上とされているので、BCTZ膜の結晶粒子径が小さくなりすぎず、BCTZ膜のチューナビリティ特性の低下を抑制することができる。一方、カルボン酸の一般式におけるn(炭素数)が7以下とされているので、BCTZ膜の結晶粒子径が大きくなりすぎず、BCTZ膜のリーク電流を低く抑えることができ、絶縁耐性を確保することができる。
また、前記有機溶剤がカルボン酸と酢酸エステルとを含む混合溶剤とされているので、長期保存安定性を高めることが可能となる。
【0011】
ここで、本発明のBCTZ膜形成用液組成物においては、前記有機溶剤に含まれる前記カルボン酸は、前記カルボン酸バリウムおよび前記カルボン酸カルシウムを形成するカルボン酸と同一のカルボン酸であることが好ましい。
この場合、前記有機溶剤に含まれる前記カルボン酸と、前記カルボン酸バリウムおよび前記カルボン酸カルシウムを形成するカルボン酸とが同一とされていることから、長期保存安定性をさらに高めることが可能となる。
【0012】
本発明のBCTZ膜形成用液組成物の製造方法は、上述のBCTZ膜形成用液組成物の製造方法であって、バリウム化合物と、カルシウム化合物と、BaとCaの合計モル数の3倍以上8倍以下の量のカルボン酸と、を混合する第1混合工程と、前記第1混合工程で得られた第1混合物を還流して有機バリウムカルシウム化合物を調製する第1還流工程と、前記有機バリウムカルシウム化合物と、チタンアルコキシドと、ジルコニウムアルコキシドと、TiとZrの合計モル数の0.5倍以上4.0倍以下の量の安定化剤と、を混合する第2混合工程と、前記第2混合工程で得られた第2混合物と酢酸エステルとを混合して還流する第2還流工程と、を備えていることを特徴としている。
【0013】
この構成のBCTZ膜形成用液組成物の製造方法によれば、バリウム化合物と、カルシウム化合物と、BaとCaの合計モル数の3倍以上8倍以下の量のカルボン酸と、を混合して還流することで、有機バリウムカルシウム化合物を形成しているので、バリウム化合物およびカルシウム化合物がカルボン酸と十分に反応することになる。
また、前記有機バリウムカルシウム化合物と、チタンアルコキシドと、ジルコニウムアルコキシドと、TiとZrの合計モル数の0.5倍以上3.0倍以下の量の安定化剤と、を混合し、この混合物を酢酸エステルと混合して還流しているので、上述のBCTZ膜形成用液組成物を製造することが可能となる。
【0014】
ここで、本発明のBCTZ膜形成用液組成物の製造方法においては、前記第1還流工程の後に、減圧蒸留する蒸留工程を備えていることが好ましい。
【0015】
本発明のBCTZ膜は、バリウムとカルシウムとチタンとジルコニウムとの混合酸化物で構成されたBCTZ膜であって、厚さ方向に沿った断面における結晶粒子径が30nm以上50nm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0016】
この構成のBCTZ膜によれば、厚さ方向に沿った断面における結晶粒子径が30nm以上とされているので、チューナビリティ特性の低下を抑制することができる。一方、厚さ方向に沿った断面における結晶粒子径が50nm以下とされているので、リーク電流を低く抑えることができ、絶縁耐性を確保することができる。
【0017】
ここで、本発明のBCTZ膜においては、結晶方位がランダム配向とされていることが好ましい。
この場合、結晶方位がランダム配向とされており、特定の方向に配向されておらず、厚さ方向および面方向での特性が安定することになる。
【0018】
本発明のBCTZ膜の製造方法は、バリウムとカルシウムとチタンとジルコニウムとの混合酸化物で構成されたBCTZ膜の製造方法であって、上述のBCTZ膜形成用液組成物を塗布する塗布工程と、塗布した前記BCTZ膜形成用液組成物を200℃以上500℃以下の温度範囲で加熱してBCTZゲル膜を形成する第1加熱工程と、所定の膜厚のBCTZゲル膜となるように前記塗布工程と前記第1加熱工程を繰り返し実施した後、前記BCTZゲル膜を600℃以上800℃以下の温度範囲で加熱する第2加熱工程と、を備えていることを特徴としている。
【0019】
この構成のBCTZ膜の製造方法によれば、塗布した前記BCTZ膜形成用液組成物を200℃以上500℃以下の温度範囲で加熱してBCTZゲル膜を形成する第1加熱工程において、結晶核を十分に発生させることができ、これにより、その後の前記BCTZゲル膜を600℃以上800℃以下の温度範囲で加熱する第2加熱工程において、核成長が抑制され、BCTZ膜の結晶粒子径を調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、結晶粒子径を制御し、安定した特性のBCTZ膜を成膜することが可能なBCTZ膜形成用液組成物、このBCTZ膜形成用液組成物の製造方法、および、BCTZ膜、BCTZ膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るBCTZ膜形成用液組成物の製造方法を示すフロー図である。
図2】本発明の一実施形態に係るBCTZ膜の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態であるBCTZ膜形成用液組成物、BCTZ膜形成用液組成物の製造方法、および、BCTZ膜、BCTZ膜の製造方法について説明する。
本実施形態であるBCTZ膜形成用液組成物は、例えば、積層セラミックスコンデンサの誘電体膜として使用される(Ba1-XCa)(Ti1-YZr)O等のバリウムとカルシウムとチタンとジルコニウムとの混合酸化物からなるBCTZ膜を成膜する際に使用されるものである。
【0023】
本実施形態であるBCTZ膜形成用液組成物は、カルボン酸バリウム、カルボン酸カルシウム、チタンアルコキシドおよびジルコニウムアルコキシドが、モル比でBa:Ca:Ti:Zr=(1-X):X:(1-Y):Y(ただし0.03≦X≦0.20、0.05≦Y≦0.25)となるように、有機溶剤に混合されており、さらに安定化剤が添加されたものとされている。
【0024】
そして、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムは、一般式C2n+1COOH(ただし、5≦n≦7)で表されるカルボン酸の金属塩とされている。
有機溶剤は、カルボン酸と酢酸エステルとを含む混合溶剤とされている。
カルボン酸としては2-エチルヘキサン酸、エチル酪酸、2-エチルペンタン酸等を用いることができる。
なお、本実施形態では、有機溶剤に含まれる前記カルボン酸と、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムを構成するカルボン酸とが、同一のカルボン酸であることが好ましい。
【0025】
酢酸エステルとしては、例えば、酢酸イソアミル、酢酸アミル、酢酸エチル等を用いることができる。
本実施形態では、有機溶剤において、カルボン酸のモル数Aと酢酸エステルのモル数Bの比A/Bは、0.05以上0.30以下の範囲内とすることが好ましい。
【0026】
安定化剤としては、例えば、アセチルアセトンなどのβケトエステル類やプロピレングリコールなどを用いることができる。
また、カルボン酸バリウム、カルボン酸カルシウム、チタンアルコキシドおよびジルコニウムアルコキシドの合計モル数Cと安定化剤の合計モル数Eとの比C/Eは、0.5以上4以下の範囲内とすることが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態であるBCTZ膜形成用液組成物の製造方法について、図1のフロー図を参照して説明する。
【0028】
本実施形態であるBCTZ膜形成用液組成物の製造方法においては、図1に示すように、バリウム化合物と、カルシウム化合物と、BaとCaの合計モル数の3倍以上8倍以下の量のカルボン酸と、を混合する第1混合工程S01と、第1混合工程S01で得られた第1混合物を還流する第1還流工程S02と、第1還流工程S02後に減圧蒸留して有機バリウムカルシウム化合物を調製する蒸留工程S03と、有機バリウムカルシウム化合物と、チタンアルコキシドと、ジルコニウムアルコキシドと、TiとZrの合計モル数の0.5倍以上3.0倍以下の量の安定化剤と、を混合する第2混合工程S04と、第2混合工程S04で得られた第2混合物と酢酸エステルとを混合して還流する第2還流工程S05と、を備えている。
【0029】
ここで、バリウム化合物としては、例えば、炭酸バリウム、水酸化バリウム等を用いることができる。
カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。
また、第1還流工程S02の条件は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気で、保持温度を130℃以上170℃以下の範囲内、保持時間を0.5時間以上5.0時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
蒸留工程S03の減圧蒸留の条件は、絶対圧力で0.01MPa以上0.05MPa以下の範囲内、温度が130℃以上170℃以下の範囲内、保持時間が30分以上5時間以下の範囲内とする。なお、蒸留工程S03を省略してもよい。
【0031】
チタンアルコキシドとしては、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンブトキシド、チタンエトキシド等を用いることができる。
ジルコニウムアルコキシドとしては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド等を用いることができる。
また、第2還流工程S05の条件は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気で、保持温度を130℃以上170℃以下の範囲内、保持時間を1.0時間以上5.0時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0032】
以上のような工程により、本実施形態であるBCTZ膜形成用液組成物を製造することが可能となる。
【0033】
次に、本実施形態であるBCTZ膜について説明する。
本実施形態であるBCTZ膜は、上述した本実施形態であるBCTZ膜形成用組成物を用いて成膜されるものであり、(Ba1-XCa)(Ti1-YZr)O等のバリウムとカルシウムとチタンとジルコニウムとの混合酸化物で構成されている。
なお、BCTZ膜は、Ba:Ca:Ti:Zr=(1-X):X:(1-Y):Y(ただし0.03≦X≦0.20、0.05≦Y≦0.25)の組成とすることが好ましい。
【0034】
そして、本実施形態であるBCTZ膜においては、その厚さ方向に沿った断面における結晶粒子径が30nm以上50nm以下の範囲内とされている。
ここで、BCTZ膜の厚さ方向に沿った断面における結晶粒子径は、以下のようにして測定することができる。
本実施形態では、FE-SEMを用いたBCTZ膜の断面観察において、一視野の断面における結晶を見た際にランダムで選んだ3つの粒子の粒径(長径)を測定している。
【0035】
また、本実施形態であるBCTZ膜においては、結晶方位がランダム配向とされていることが好ましい。すなわち、特定の優先方位に配向していないことが好ましい。
なお、成膜したBCTZ膜が、ランダム配向であるかは、次の方法で測定できる。XRD装置を用いて集中法により測定を行う。2θ/θ=10~90°の範囲で、PDF(Powder diffraction data)において、(110)のピーク強度を100としたときの(100)のピーク強度が10~30、かつ、(111)のピーク強度が15~40である場合を「ランダム配向」とする。
【0036】
次に、本実施形態であるBCTZ膜の製造方法について、図2のフロー図を参照して説明する。
【0037】
本実施形態であるBCTZ膜の製造方法においては、図2に示すように、本実施形態であるBCTZ膜形成用液組成物を塗布する塗布工程S11と、塗布したBCTZ膜形成用液組成物を200℃以上500℃以下の温度範囲で加熱してBCTZゲル膜を形成する第1加熱工程S12と、所定の膜厚のBCTZゲル膜となるように塗布工程S11と第1加熱工程S12を繰り返し実施した後、BCTZゲル膜を600℃以上800℃以下の温度範囲で加熱する第2加熱工程S13と、を備えている。
【0038】
塗布工程S11では、例えば、Siウエハ上にTiやTiOからなる密着層およびこの密着層の上にPtやAuからなる電極を形成した基板の上に、本実施形態であるBCTZ膜形成用液組成物を塗布する。塗布方法としては、スピンコート、ディップコート等を適用することが好ましい。
【0039】
第1加熱工程S12においては、例えば、ホットプレート等の加熱装置を用いて、塗布したBCTZ膜形成用組成物を200℃以上500℃以下の温度範囲で加熱し、BCTZゲル膜を形成する。このとき、形成されるBCTZゲル膜において、結晶核が発生することになる。
なお、第1加熱工程S12における加熱温度の下限は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。また、第1加熱工程S12における加熱温度の上限は、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。
【0040】
第2加熱工程S13においては、例えば、マッフル炉やRTA等の焼成炉を用いて、BCTZゲル膜を600℃以上800℃以下の温度範囲で加熱して焼成する。焼成時には、第1加熱工程で発生した結晶核が成長することになる。
なお、第2加熱工程S13における加熱温度の下限は、650℃以上であることが好ましい。また、第2加熱工程S13における加熱温度の上限は、800℃以下であることが好ましい。
【0041】
ここで、本実施形態であるBCTZ膜形成用液組成物において、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムが一般式C2n+1COOHで表されるカルボン酸の金属塩とされており、カルボン酸の一般式におけるn(炭素数)が5以上7以下の範囲内とされていることにより、分解温度が調整されており、第1加熱工程S12において、十分に結晶核が生成し、第2加熱工程S13における核成長が抑制される。これにより、結晶粒の粗大化が抑制されることになる。
よって、厚さ方向に沿った断面における結晶粒子径が30nm以上50nm以下の範囲内に制御されたBCTZ膜を成膜することが可能となる。
【0042】
以上のような構成とされた本実施形態であるBCTZ膜形成用液組成物によれば、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムが一般式C2n+1COOHで表されるカルボン酸の金属塩とされており、カルボン酸の一般式におけるn(炭素数)が5以上とされているので、BCTZ膜の結晶粒子径が小さくなりすぎず、BCTZ膜のチューナビリティ特性の低下を抑制することができる。一方、カルボン酸の一般式におけるn(炭素数)が7以下とされているので、BCTZ膜の結晶粒子径が大きくなりすぎず、BCTZ膜のリーク電流を低く抑えることができ、絶縁耐性を確保することができる。
【0043】
また、モル比でBa:Ca:Ti:Zr=(1-X):X:(1-Y):Y(ただし0.03≦X≦0.20、0.05≦Y≦0.25)とされているので、誘電特性に優れたBCTZ膜を成膜することができる。
さらに、有機溶剤がカルボン酸と酢酸エステルとを含む混合溶剤とされているので、長期保存安定性を高めることが可能となる。
【0044】
本実施形態のBCTZ膜形成用液組成物において、有機溶剤に含まれるカルボン酸と、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムを形成するカルボン酸とが、同一のカルボン酸とされている場合には、長期保存安定性をさらに高めることが可能となる。
【0045】
本実施形態のBCTZ膜形成用液組成物の製造方法によれば、バリウム化合物と、カルシウム化合物と、BaとCaの合計モル数の3倍以上8倍以下の量のカルボン酸と、を混合する第1混合工程S01と、第1混合工程S01で得られた第1混合物を還流する第1還流工程S02と、第1還流工程S02後に減圧蒸留して有機バリウムカルシウム化合物を調製する蒸留工程S03と、を備えているので、バリウム化合物およびカルシウム化合物とカルボン酸とを十分に反応させることができる。
【0046】
また、有機バリウムカルシウム化合物と、チタンアルコキシドと、ジルコニウムアルコキシドと、TiとZrの合計モル数の0.5倍以上3.0倍以下の量の安定化剤と、を混合する第2混合工程S04と、第2混合工程S04で得られた第2混合物と酢酸エステルとを混合して還流する第2還流工程S05と、を備えているので、上述のBCTZ膜形成用液組成物を製造することが可能となる。
【0047】
本実施形態のBCTZ膜によれば、厚さ方向に沿った断面における結晶粒子径が30nm以上とされているので、チューナビリティ特性の低下を抑制することができる。一方、厚さ方向に沿った断面における結晶粒子径が50nm以下とされているので、リーク電流を低く抑えることができ、絶縁耐性を確保することができる。
さらに、本実施形態のBCTZ膜において、結晶方位がランダム配向とされている場合には、結晶方位が特定の方向に配向されていないことから、厚さ方向および面方向での特性が安定することになる。
【0048】
本実施形態のBCTZ膜の製造方法によれば、塗布したBCTZ膜形成用液組成物を200℃以上500℃以下の温度範囲で加熱してBCTZゲル膜を形成する第1加熱工程S02において、結晶核を十分に発生させることができ、これにより、BCTZゲル膜を600℃以上800℃以下の温度範囲で加熱する第2加熱工程S03において、核成長が抑制され、BCTZ膜の結晶粒子径を調整することが可能となる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0050】
以下に、本発明の作用効果について評価した評価試験の結果を説明する。
【0051】
(本発明例1)
BCTZの組成比が94:6:84:16、およびBCTZの酸化物換算濃度が4mass%となるように、バリウム原料として炭酸バリウム、カルシウム原料として炭酸カルシウムを用い、BaとCaの合計モル数の6倍量の2-エチルヘキサン酸とともに、150℃で4時間還流を行い、その後、チタン原料としてチタンテトライソプロポキシド、ジルコニウム原料としてジルコニウムn-ブトキシドを用い、溶媒として酢酸イソアミル、ZrとTiの合計モル数の1倍量のアセチルアセトンを安定化剤として混合し、150℃で1時間、窒素雰囲気の中で還流し、BCTZ膜形成用液組成物を得た。
得られたBCTZ膜形成用液組成物を、Pt/Ti/Siの構造を持つ基板に滴下し、スピンコートを用いて塗布した。その塗布された基板を、ホットプレートを用いて300℃で5分間保持して仮焼きしたのち、RTAを用いて700℃で1分間保持(昇温速度10℃/秒)の条件で焼成し、BCTZ膜を得た。
【0052】
(本発明例2)
BCTZの組成比が94:6:84:16、およびBCTZの酸化物換算濃度が4mass%となるように、バリウム原料として炭酸バリウム、カルシウム原料として炭酸カルシウムを用い、BaとCaの合計モル数の6倍量の2-エチル酪酸とともに、150℃で4時間還流を行い、その後、チタン原料としてチタンテトライソプロポキシド、ジルコニウム原料としてジルコニウムn-ブトキシドを用い、溶媒として酢酸イソアミル、ZrとTiの合計モル数の1倍量のアセチルアセトンを安定化剤として混合し、150℃で1時間、窒素雰囲気の中で還流し、BCTZ膜形成用液組成物を得た。
得られたBCTZ膜形成用液組成物を、Pt/Ti/Siの構造を持つ基板に滴下し、スピンコートを用いて塗布した。その塗布された基板を、ホットプレートを用いて300℃で5分間保持して仮焼きしたのち、RTAを用いて700℃で1分間保持(昇温速度10℃/秒)の条件で焼成し、BCTZ膜を得た。
【0053】
(本発明例3)
BCTZの組成比が94:6:84:16、およびBCTZの酸化物換算濃度が4mass%となるように、バリウム原料として炭酸バリウム、カルシウム原料として炭酸カルシウムを用い、BaとCaの合計モル数の6倍量の2-エチル酪酸とともに、150℃で4時間還流を行い、その後、チタン原料としてチタンテトライソプロポキシド、ジルコニウム原料としてジルコニウムn-ブトキシドを用い、溶媒として酢酸イソアミル、ZrとTiの合計モル数の1倍量のアセチルアセトンを安定化剤として混合し、150℃で1時間、窒素雰囲気の中で還流し、BCTZ膜形成用液組成物を得た。
得られたBCTZ膜形成用液組成物を、Pt/Ti/Siの構造を持つ基板に滴下し、スピンコートを用いて塗布した。その塗布された基板を、ホットプレートを用いて200℃で5分間保持して仮焼きしたのち、RTAを用いて800℃で1分間保持(昇温速度10℃/秒)の条件で焼成し、BCTZ膜を得た。
【0054】
(本発明例4)
BCTZの組成比が94:6:84:16、およびBCTZの酸化物換算濃度が4mass%となるように、バリウム原料として炭酸バリウム、カルシウム原料として炭酸カルシウムを用い、BaとCaの合計モル数の6倍量の2-エチル酪酸とともに、150℃で4時間還流を行い、その後、チタン原料としてチタンテトライソプロポキシド、ジルコニウム原料としてジルコニウムn-ブトキシドを用い、溶媒として酢酸イソアミル、ZrとTiの合計モル数の1倍量のアセチルアセトンを安定化剤として混合し、150℃で1時間、窒素雰囲気の中で還流し、BCTZ膜形成用液組成物を得た。
得られたBCTZ膜形成用液組成物を、Pt/Ti/Siの構造を持つ基板に滴下し、スピンコートを用いて塗布した。その塗布された基板を、ホットプレートを用いて500℃で5分間保持して仮焼きしたのち、RTAを用いて600℃で1分間保持(昇温速度10℃/秒)の条件で焼成し、BCTZ膜を得た。
【0055】
(本発明例5)
BCTZの組成比が90:10:80:20、およびBCTZの酸化物換算濃度が4mass%となるように、バリウム原料として炭酸バリウム、カルシウム原料として炭酸カルシウムを用い、BaとCaの合計モル数の6倍量の2-エチル酪酸とともに、150℃で4時間還流を行い、その後、チタン原料としてチタンテトライソプロポキシド、ジルコニウム原料としてジルコニウムn-ブトキシドを用い、溶媒として酢酸イソアミル、ZrとTiの合計モル数の1倍量のアセチルアセトンを安定化剤として混合し、150℃で1時間、窒素雰囲気の中で還流し、BCTZ膜形成用液組成物を得た。
得られたBCTZ膜形成用液組成物を、Pt/Ti/Siの構造を持つ基板に滴下し、スピンコートを用いて塗布した。その塗布された基板を、ホットプレートを用いて300℃で5分間保持して仮焼きしたのち、RTAを用いて700℃で1分間保持(昇温速度10℃/秒)の条件で焼成し、BCTZ膜を得た。
【0056】
(本発明例6)~(本発明例8)
表記載の条件に変更した以外は本発明例1と同様にしてBCTZ膜を得た。
【0057】
(比較例1)
BCTZの組成比が94:6:84:16、およびBCTZの酸化物換算濃度が4mass%となるように、原料として、バリウムジ-1-プロポキシド、チタニウムn-プロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、カルシウムジエトキシドを用い、主溶媒として2-メトキシエタノールを用いて、100℃で2時間還流を行った。その後、安定化剤として、2-エチルヘキサン酸をバリウム原料の2倍モル添加し、100℃で2時間還流を行い、BCTZ膜形成用液組成物を得た。
得られたBCTZ膜形成用液組成物を、Pt/Ti/Siの構造を持つ基板に滴下し、スピンコートを用いて塗布した。その塗布された基板を、ホットプレートを用いて450℃で5分間保持して仮焼きしたのち、RTAを用いて1000℃で1分間保持(昇温速度10℃/秒)の条件で焼成し、BCTZ膜を得た。
【0058】
(比較例2)
BCTZの組成比が94:6:84:16、およびBCTZの酸化物換算濃度が4mass%となるように、バリウム原料として炭酸バリウム、カルシウム原料として炭酸カルシウムを用い、BaとCaの合計モル数の6倍量のn-酪酸とともに、150℃で4時間還流を行い、その後、チタン原料としてチタンテトライソプロポキシド、ジルコニウム原料としてジルコニウムn-ブトキシドを用い、溶媒として酢酸イソアミル、ZrとTiの合計モル数の1倍量のアセチルアセトンを安定化剤として混合し、150℃で1時間、窒素雰囲気の中で還流し、BCTZ膜形成用液組成物を得た。
得られたBCTZ膜形成用液組成物を、Pt/Ti/Siの構造を持つ基板に滴下し、スピンコートを用いて塗布した。その塗布された基板を、ホットプレートを用いて300℃で5分間保持して仮焼きしたのち、RTAを用いて700℃で1分間保持(昇温速度10℃/秒)の条件で焼成し、BCTZ膜を得た。
【0059】
(比較例3)
BCTZの組成比が94:6:84:16、およびBCTZの酸化物換算濃度が4mass%となるように、バリウム原料として炭酸バリウム、カルシウム原料として炭酸カルシウムを用い、BaとCaの合計モル数の6倍量の酢酸とともに、150℃で4時間還流を行い、その後、チタン原料としてチタンテトライソプロポキシド、ジルコニウム原料としてジルコニウムn-ブトキシドを用い、溶媒として酢酸イソアミル、ZrとTiの合計モル数の1倍量のアセチルアセトンを安定化剤として混合し、150℃で1時間、窒素雰囲気の中で還流し、BCTZ膜形成用液組成物を得た。
得られたBCTZ膜形成用液組成物を、Pt/Ti/Siの構造を持つ基板に滴下し、スピンコートを用いて塗布した。その塗布された基板を、ホットプレートを用いて300℃で5分間保持して仮焼きしたのち、RTAを用いて700℃で1分間保持(昇温速度10℃/秒)の条件で焼成し、BCTZ膜を得た。
【0060】
(比較例4)
表記載の条件に変更した以外は本発明例1と同様にしてBCTZ膜を得た。
【0061】
得られた本発明例および比較例のBCTZ膜について、厚さ方向に沿った断面における結晶粒子径、X線配向度を以下のようにして評価した。
【0062】
(結晶粒子径)
FE-SEMを用いたBCTZ膜の断面観察において、一視野の断面における結晶を見た際にランダムで選んだ3つの粒子の粒径(長径)を測定し、その平均値が30nm~50nmの範囲内であった場合には「○」、それ以外であった場合は「×」とし、表に記載した。
【0063】
(X線配向度)
成膜したBCTZ膜を、XRD装置を用いて集中法により測定を行う。2θ/θ=10°~90°の範囲で、PDF(Powder diffraction data)において、(110)のピーク強度を100とした時の(100)のピーク強度が10~30、かつ、(111)のピーク強度が15~40である場合を「ランダム配向」とした。「ランダム配向」の場合を「○」、それ以外の場合を「×」とし、表2に記載した。
【0064】
(膜厚)
成膜したBCTZ膜を、分光エリプソメーター(J.A.Woollam Japan社製M-2000DI)を用いて測定した。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
比較例1においては、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムを含有しておらず、成膜されたBCTZ膜の結晶粒子径が30nm以上50nm以下の範囲外となり、結晶が特定の方位に配向していた。
比較例2においては、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムが、一般式C2n+1COOH(n=3)で表されるカルボン酸の金属塩とされており、成膜されたBCTZ膜の結晶粒子径が30nm以上50nm以下の範囲外となった。
比較例3においては、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムが、一般式C2n+1COOH(n=1)で表されるカルボン酸の金属塩とされており、成膜されたBCTZ膜の結晶粒子径が30nm以上50nm以下の範囲外となった。
比較例4においては、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムが、一般式C2n+1COOH(n=9)で表されるカルボン酸の金属塩とされており、成膜されたBCTZ膜の結晶粒子径が30nm以上50nm以下の範囲外となった。
【0068】
これに対して、カルボン酸バリウムおよびカルボン酸カルシウムが、一般式C2n+1COOH(5≦n≦7)で表されるカルボン酸の金属塩とされており、有機溶剤がカルボン酸と酢酸エステルとを含む混合溶剤とされた本発明例1-5においては、成膜されたBCTZ膜の結晶粒子径が30nm以上50nm以下の範囲内となり、さらに結晶が特定の方位に配向していなかった。
【0069】
以上のことから、本発明例によれば、結晶粒子径を制御し、安定した特性のBCTZ膜を成膜することが可能なBCTZ膜形成用液組成物、このBCTZ膜形成用液組成物の製造方法、および、BCTZ膜、BCTZ膜の製造方法を提供可能であることが確認された。
図1
図2