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特開2023-64231レーザーダイオードバー、波長ビーム結合システム及び波長ビーム結合システムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064231
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】レーザーダイオードバー、波長ビーム結合システム及び波長ビーム結合システムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/042 20060101AFI20230501BHJP
   H01S 5/14 20060101ALI20230501BHJP
   H01S 5/026 20060101ALI20230501BHJP
   H01S 5/02325 20210101ALI20230501BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
H01S5/042 612
H01S5/14
H01S5/026 612
H01S5/02325
H01S5/343 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174376
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 貴敏
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB34
5F173AB43
5F173AB46
5F173AB62
5F173AD05
5F173AH22
5F173AR96
(57)【要約】
【課題】窒化物半導体を構成材料として含み、長時間使用時の信頼性低下が抑制された複数のエミッターを有するレーザーダイオードバーを提供する。
【解決手段】レーザーダイオードバー10は、窒化物半導体を構成材料として含む。また、レーザーダイオードバー10は、X方向に互いに間隔をあけて形成されたn個(nは4以上の整数)のエミッター21~2nを有している。n個のエミッター21~2nのそれぞれは、閾値電流以上の電流が流れることでレーザー発振する。両端のエミッター21,2nのうち少なくとも1つの閾値電流は、両端のエミッター21,2nを除いた残りのエミッター22~2n-1の閾値電流の平均値以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体を構成材料として含むレーザーダイオードバーであって、
前記レーザーダイオードバーは、第1方向に互いに間隔をあけて形成されたn(nは4以上の整数)個のエミッターを有しており、
n個の前記エミッターのそれぞれは、閾値電流以上の電流が流れることでレーザー発振し、
両端の前記エミッターのうち少なくとも1つの前記エミッターの前記閾値電流は、両端の前記エミッターを除いた残りの前記エミッターの前記閾値電流の平均値以下であることを特徴とするレーザーダイオードバー。
【請求項2】
両端の前記エミッターのうち少なくとも1つの前記エミッターの前記閾値電流は、両端の前記エミッターを除いた残りの前記エミッターの前記閾値電流の平均値の1/2以下であることを特徴とする請求項1に記載のレーザーダイオードバー。
【請求項3】
両端の前記エミッターのうち少なくとも1つの前記エミッターの前記閾値電流は、130mA以上、150mA以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザーダイオードバー。
【請求項4】
窒化物半導体を構成材料として含むレーザーダイオードバーであって、
前記レーザーダイオードバーは、第1方向に互いに間隔をあけて形成されたn(nは4以上の整数)個のエミッターを有しており、
n個の前記エミッターのそれぞれは、閾値電流以上の電流が流れることでレーザー発振し、
n個の前記エミッターのそれぞれは、前記第1方向と交差する第2方向が長手方向であるストライプ形状のストライプ部を有しており、
両端の前記エミッターのうち少なくとも1つの前記エミッターにおける前記ストライプ部の前記第1方向の幅は、両端の前記エミッターを除いた残りの前記エミッターにおける前記ストライプ部の前記第1方向の幅の平均値以下であることを特徴とするレーザーダイオードバー。
【請求項5】
両端の前記エミッターのうち少なくとも1つの前記エミッターにおける前記ストライプ部の前記第1方向の幅は、両端の前記エミッターを除いた残りの前記エミッターにおける前記ストライプ部の前記第1方向の幅の平均値の1/3以下であることを特徴とする請求項4に記載のレーザーダイオードバー。
【請求項6】
両端の前記エミッターのうち少なくとも1つの前記エミッターにおける前記ストライプ部の前記第1方向の幅は、5μm以上、10μm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載のレーザーダイオードバー。
【請求項7】
n個の前記エミッターのそれぞれに所定値の電流を流した場合、両端の前記エミッターの一方または両方がレーザー発振し、残りの前記エミッターはレーザー発振しないように構成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のレーザーダイオードバー。
【請求項8】
n個の前記エミッターのそれぞれから出射されるレーザー光の波長は、380nm以上、450nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のレーザーダイオードバー。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のレーザーダイオードバーをそれぞれ有する1または複数のレーザーモジュールと、
前記レーザーダイオードバーに含まれる複数の前記エミッターからそれぞれ出射されるレーザー光を結合する光結合素子と、
前記光結合素子で結合された前記レーザー光を前記光結合素子に向けて反射する外部共振ミラーと、
1または複数の前記レーザーモジュールと前記光結合素子と前記外部共振ミラーとを収容するケーシングと、を少なくとも備え、
前記レーザーダイオードバーは、n個の前記エミッターにおける前記レーザー光の出射端面と反対側の面に所定の反射率を有する反射層が設けられており、
前記外部共振ミラーと前記レーザー光が出射される前記エミッターの前記反射層との間に外部共振器が構成され、
前記光結合素子で結合された結合レーザー光が前記ケーシングの外部に出射されることを特徴とする波長ビーム結合システム。
【請求項10】
請求項9に記載の波長ビーム結合システムの製造方法であって、
前記レーザーダイオードバーを準備する第1工程と、
前記レーザーダイオードバーを有する前記レーザーモジュールを組み立てる第2工程と、
前記ケーシングの内部に前記レーザーモジュールと前記光結合素子と前記外部共振ミラーとを所定の配置関係を保った状態で固定配置する第3工程と、
前記第3工程の後に、前記ケーシングを封止する第4工程と、
前記第4工程の後に、前記レーザーモジュールを駆動して、前記レーザーダイオードバーに含まれる両端の前記エミッターのうち少なくとも一方から前記レーザー光を所定時間、連続して出射させる第5工程と、を少なくとも備え、
前記第2工程では、前記レーザーモジュールを組み立てるにあたって、シロキサンを含む接着材が用いられ、
前記第5工程では、前記レーザー光の出力がモニターされた状態で、両端の前記エミッターのうち少なくとも一方から前記レーザー光を出射させるとともに、残りの前記エミッターからは前記レーザー光が出射されないように、前記レーサーモジュールを駆動し、
前記所定時間は、前記レーザー光の出力の低下度合いに応じて決定されることを特徴とする波長ビーム結合システムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザーダイオードバー、波長ビーム結合システム及び波長ビーム結合システムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、銅、金、樹脂など種々の材料において、レーザー加工への期待が高まっている。例えば、自動車産業では、電動化、小型化、高剛性化、デザイン自由度向上、及び生産性向上などが求められ、レーザー加工への期待は高い。特に、電気自動車用のモーターやバッテリーの、銅加工においては、光吸収効率の高い青色(波長350~450nm)のレーザー光源が求められており、生産性の高い加工を実現するには、高出力で集光性の高いビーム品質を備えたレーザー光源が要求されている。この要求に、好適なレーザー光源として、窒化物半導体を主たる半導体材料として含む、いわゆる窒化ガリウム(以降GaNと表記する)系半導体レーザー素子が知られている。
【0003】
一方、GaN系半導体レーザー素子から高出力のレーザー光を連続して出射する場合、所定の時間を超えるとレーザー光の出力が大幅に低下すること、つまり、GaN系半導体レーザー素子の信頼性低下が知られている。これは、窒化物半導体内部での結晶欠陥の発生、伝播に起因する信頼性低下と、GaN系半導体レーザーが有する波長に起因して、素子の光出射端面近傍の雰囲気に含まれるシロキサンに、350~450nmの波長を有したレーザー光を照射することによってシロキサンの光分解が促進され、分解したSiが光強度の最も強い出射端面に付着する光ピンセット現象に起因する信頼性低下がある。後者の影響は、レーザー加工においては、深刻な課題となっており、本発明も後者に着眼している。
【0004】
したがって、シロキサン分解物の光出射端面への付着を抑制する技術がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、GaN系半導体レーザー素子をCANパッケージに気密封止した後、CANパッケージを101℃以上にするとともに、420nm以下の波長の光を照射する方法が開示されている。このようにすることで、CANパッケージの内部にあるシロキサンを含む汚染物質を確実に気化させつつ、これを光分解し、シロキサン分解物が光出射端面に付着するのを防止している。
【0005】
また、特許文献2には、GaN系半導体レーザー素子をサブマウントに接着剤を用いて接着し、さらに、これらをCANパッケージの内部に気密封止する構成が開示されている。また、接着剤を、常温において、有機物からなる溶剤に有機物の気化温度よりも高い分解温度を有する保護膜で覆われた金属粒子が漂う構造としている。気密封止前に、真空中または露点-20℃以下の乾燥空気中で、保護膜の分解温度よりも高い温度でCANパッケージをベーキングする。その後、真空を破ることなく、または乾燥空気の露点を維持した状態で、CANパッケージを気密封止する。このようにすることで、シロキサンを含む雰囲気が、CANパッケージの内部に残留するのを抑制し、シロキサン分解物が光出射端面に付着するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5095091号公報
【特許文献2】特許第5722553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザー加工を行うために、数kWにもなる高出力および高品質のレーザー光を得るには、複数のGaN系半導体レーザーを用いる必要があり、さらに、それぞれから出力されるレーザー光も高出力化する必要がある。半導体レーザー素子を高出力化するには、単一基板の、一次元方向に光源(以降、エミッターと表記する)を複数配置する、いわゆるレーザーアレイ構造を有した素子(以降、レーザーダイオードバーと表記する)とするのが一般的である。しかし、単一のレーザーダイオードバーから得られる光出力を百~数百W程度にしようとすると、エミッターの数が数十~百程度となり、レーザーダイオードバーのサイズが大きくなってしまう。このような大きなサイズの半導体レーザー素子を一般的なCANパッケージに、気密封止することは困難である。
【0008】
本開示はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、窒化物半導体を構成材料として含むレーザーダイオードバーであって、長時間使用時の信頼性低下を抑制することができるレーザーダイオードバー、波長ビーム結合システム及び波長ビーム結合システムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本開示に係るレーザーダイオードバーは、窒化物半導体を構成材料として含むレーザーダイオードバーであって、前記レーザーダイオードバーは、第1方向に互いに間隔をあけて形成されたn(nは4以上の整数)個のエミッターを有しており、n個の前記エミッターのそれぞれは、閾値電流以上の電流が流れることでレーザー発振し、両端の前記エミッターのうち少なくとも1つの前記エミッターの前記閾値電流は、両端の前記エミッターを除いた残りの前記エミッターの前記閾値電流の平均値以下であることを特徴とする。
【0010】
本開示に係る波長ビーム結合システムは、前記レーザーダイオードバーをそれぞれ有する単一または複数のレーザーモジュールと、前記レーザーダイオードバーに含まれる複数の前記エミッターからそれぞれ出射されるレーザー光を結合する光結合素子と、前記光結合素子で結合された前記レーザー光を前記光結合素子に向けて反射する外部共振ミラーと、単一または複数の前記レーザーモジュールと前記光結合素子と前記外部共振ミラーとを収容するケーシングと、を少なくとも備え、前記レーザーダイオードバーは、n個の前記エミッターにおける前記レーザー光の出射端面と反対側の面に所定の反射率を有する反射層が設けられており、前記外部共振ミラーと前記レーザー光が出射される前記エミッターの前記反射層との間に外部共振構造が構成され、前記光結合素子で結合された結合レーザー光が前記ケーシングの外部に出射されることを特徴とする。
【0011】
本開示に係る波長ビーム結合システムの製造方法は、前記レーザーダイオードバーを準備する第1工程と、前記レーザーダイオードバーを有するレーザーモジュールを組み立てる第2工程と、前記ケーシングの内部に前記レーザーモジュールと前記光結合素子と前記外部共振ミラーとを所定の配置関係を保った状態で固定配置する第3工程と、前記3工程の後に、前記ケーシングを封止する第4工程と、前記4工程の後に、前記レーザーモジュールを駆動して、前記レーザーダイオードバーに含まれる両端の前記エミッターのうち少なくとも一方から前記レーザー光を所定時間、連続して出射させる第5工程と、を少なくとも備え、前記第2工程では、前記レーザーモジュールを組み立てるにあたって、シロキサンを含む絶縁性接着材が用いられ、前記第5工程では、前記レーザー光の出力がモニターされた状態で、両端の前記エミッターのうち少なくとも一方から前記レーザー光を出射させるとともに、残りの前記エミッターからは前記レーザー光が出射されないように、前記レーサーモジュールを駆動し、前記所定時間は、前記レーザー光の出力の低下度合いに応じて決定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、光出射端面へのシロキサン分解物の付着を抑制できる。このことにより、シロキサン付着によるレーザーダイオードバーの長時間使用時の信頼性低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る波長ビーム結合システムの概略構成図である。
図2】波長ビーム結合システムの動作を説明する模式図である。
図3】レーザーモジュールの分解斜視図である。
図4】レーザーダイオードバーの斜視図である。
図5図4のV-V線での断面図である。
図6】連続発振時の単一のエミッターで構成されたレーザーモジュールのレーザー光出力の時間変化を示す図である。
図7】38個のエミッターを有するレーザーダイオードバーを実装したレーザーモジュールを所定時間駆動させた前後での各エミッターからのレーザー光出力の変化を示す図である。
図8】レーザーモジュールを所定時間駆動させた後でのエミッターの光出射端面への付着物を観察した模式図である。
図9】ストライプ幅と閾値電流との関係を示す図である。
図10】波長ビーム結合システムの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図11図10に示すステップS5におけるレーザーモジュールからのレーザー光の出射状態を示す図である。
図12図10に示すステップS5におけるモニター出力の時間変化を示す図である。
図13図10に示すステップS5におけるレーザーダイオードバーの好適な駆動範囲を示す図である。
図14】変形例に係るダミーエミッターを示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0015】
(実施形態)
[波長ビーム結合システムの構成]
図1は、実施形態に係る波長ビーム結合システムの概略構成図を示し、図2は、波長ビーム結合システムの動作を説明する模式図を示す。なお、図1において、内部の構造を説明するために、ケーシング160の一部を省略して図示している。
【0016】
図1に示すように、波長ビーム結合システム100は、複数のレーザーモジュール110と複数の光整形部品120と複数の回折格子素子130と外部共振ミラー140とケーシング160と光出力モニター150とを有している。
【0017】
レーザーモジュール110は、レーザーダイオードバー10(図2,3参照)を備え、青色の波長域のレーザー光を出射する。なお、本願明細書において、「青色の波長域」とは、350nm以上、450nm以下の波長範囲をいう。また、レーザーダイオードバー10には、8個のエミッター21~28(図4参照)が形成されており、それぞれのエミッター21~28から青色の波長域のレーザー光が出射される。レーザーモジュール110の構成については後で述べる。なお、以降の説明において、種類や位置を特に限定しない場合、8個のエミッター21~28を総称してエミッター20と呼ぶことがある。
【0018】
光整形部品120は、レーザーダイオードバー10から出射されたレーザー光のビーム形状を整形する光学部品である。レーザーダイオードバー10から出射された直後のレーザー光は、光軸と直交する仮想面で切断した断面が楕円形である。レーザー光を用いたレーザー加工時には、当該断面の形状は円形に近いのが好ましいため、光整形部品120を用いて、レーザー光を整形している。例えば、光整形部品120はコリメーターレンズである。
【0019】
回折格子素子130は、レーザーダイオードバー10の各エミッター20から出射されたレーザー光をそれぞれ回折して外部共振ミラー140に向かわせる。
【0020】
外部共振ミラー140は、入射したレーザー光の一部を透過するとともに、残部を回折格子素子130に向けて反射する。このようにすることで、外部共振ミラー140と複数のレーザーモジュール110のそれぞれとの間に外部共振器が構成される。図2を用いて波長ビーム結合システムを説明する。
【0021】
図2に1個のレーザーダイオードバー10を用いて、波長ビーム結合システムを説明する。レーザーダイオードバー10から出射されたレーザー光が、回折格子素子130によって回折された後、外部共振ミラー140に入射されている。入射したレーザー光の一部が透過する一方、残部が回折格子素子130に向けて反射され、さらに、レーザーダイオードバー10に戻ってくる。この反射戻り光のほとんどは、レーザーダイオードバー10の光出射端面10a(図4参照。)を透過し、反対側の面である後端面10b(図4参照。)に形成された反射層に到達する。さらに、レーザー光は、反射層で反射されて、再度、光出射端面10aからレーザーダイオードバー10の外部に出射される。
【0022】
レーザーダイオードバー10の各エミッター20から出射されるレーザー光のうち、回折格子素子130の回折条件を満たし、かつ、外部共振ミラー140により反射される波長(以降、ロック波長と表記する)の光のみが、もとのエミッター20に帰還することで、後端面10bに形成された第2反射層19b(図4参照)と外部共振ミラー14038との間で、外部共振器が構成され、レーザーダイオードバー10から、具体的には、複数のエミッター20のそれぞれからレーザー光が出力される。
【0023】
各エミッター20のロック波長をλ、回折格子の周期をd、入射角をα、出射角をβ、次数をmとすると、ロック波長λは、式(1)で表現される。
d(sinα+sinβ)=mλ・・・・・・(1)
なお、回折格子の次数m=1とするのが一般的である。
【0024】
例えば、図2に示すようレーザーダイオードバー10において、回折格子素子130の入射面に対する入射角αがエミッター20毎の配置位置毎、に変化するように、エミッター20を形成する。この場合、レーザーダイオードバー10に形成されたエミッター20のロック波長はレーザーダイオードバー10の一端から他端にかけて段階的に変化することになる。
【0025】
なお、各エミッター20が外部共振によって、レーザー発振できるのは、レーザーダイオードバーが本来有するゲイン波長強度が所定値以上の波長に限られる。換言すれば、各エミッター20のゲインピーク波長λから所定範囲内のロック波長は発振し、所定範囲外のロック波長は発振しない。よって、本実施形態の波長ビーム結合システム100においては、各エミッター20のゲインピーク波長λの上下限範囲が、レーザーダイオードバー10の両端のエミッター21,28のロック波長λの差ΔλL_barの範囲に収まるように、レーザーダイオードバー10及び各エミッター20の光学設計が行われている。なお、両端のエミッター21,28のロック波長λの差ΔλL_barは、レーザーダイオードバー10と回折格子素子130との間の距離L1に応じて変化する。
【0026】
レーザーダイオードバー10の各エミッターからそれぞれ出射されたレーザー光の光軸が、回折格子素子130を透過した時点で互いに重なるように、レーザーダイオードバー10と回折格子素子130との配置関係が規定されている。また、図1に示す波長ビーム結合システム100では、ケーシング160の側面を基準としたレーザー光の出射方向が互いに異なるように、複数のレーザーモジュール110がケーシング160の内部に配置されている。また、1個のレーザーモジュール110と、これから出射されたレーザー光を受け取る光整形部品120と回折格子素子130とで構成される部品の組が複数組存在する。複数の部品の組のそれぞれにおいて、内部の配置及び部品の組の間での配置関係を調整することで、複数のレーザーモジュール110に形成された複数のエミッター20のそれぞれから出射されたレーザー光が、外部共振ミラー140に入射した時点で互いに重なるようにしている。このようにすることで、複数のレーザー光が重ね合わせられて高出力の結合レーザー光が生成される。
【0027】
図1に戻って、波長ビーム結合システムの構成の説明を続ける。ケーシング160は、遮光材料からなる箱状の部品である。ケーシング160は、複数のレーザーモジュール110と複数の光整形部品120と複数の回折格子素子130と外部共振ミラー140とを内部の空間に収容する。これらの部品が収容された後、図示しない蓋がケーシング160に取り付けられることで、各部品がケーシング160の内部に封止される。
【0028】
ケーシング160には、レーザー光出射ブロック161が取り付けられている。外部共振ミラー140を透過した結合レーザー光は、レーザー光出射ブロック161の光出射口161aを通過して、ケーシング160の外部に出射される。レーザー光出射ブロック161の内部には、結合レーザー光の光路を変更するための反射ミラー(図示せず)等が設けられている。また、外部共振ミラー140の近傍のケーシング160やレーザー光出射ブロック161を冷却するための冷却管162がレーザー光出射ブロック161に取り付けられている。
【0029】
また、ケーシング160の側面に排気口160aを設けることで。加熱等によりケーシング160の内部で発生したガスは、排気口160aからケーシング160の外部に排出される。
【0030】
光出力モニター150は、ケーシング160の内部であって、レーザーモジュール110から回折格子素子130に向かうレーザー光の光路中に配置されている。なお、図1に示す例では、光出力モニター150は、1個のレーザーモジュール110に対応した位置に配置されている。なお、光出力モニター150は、複数のレーザーモジュール110のそれぞれに対応した位置に配置されていてもよい。ただし、すべてのレーザーモジュール110毎に光出力モニター150を設ける必要は無い。また、後で述べるように、光出力モニター150は、波長ビーム結合システム100から最終的に取り外す。このため、光出力モニター150は、ケーシング160の外部であって、結合レーザー光の光路中に配置されていてもよい。
【0031】
[レーザーモジュールの構成]
図3の分解斜視図を使って、レーザーモジュール110の構成を説明する。レーザーモジュール110は、第1電極ブロック30とサブマウント40とレーザーダイオードバー10と絶縁シート50と第2電極ブロック70とを有している。なお、図3に示すレーザーモジュール110及び図4,5に示すレーザーダイオードバー10において、エミッター20の配列方向をX方向と呼び、レーザーダイオードバー10の厚さ方向をY方向と呼ぶことがある。また、エミッター20の長手方向をZ方向と呼ぶことがある。X方向、Y方向及びZ方向は互いに略直交している。また、Z方向において、レーザー光が出射される側を前または前方と呼び、その反対側を後または後方と呼ぶことがある。
【0032】
第1電極ブロック30は、銅または銅合金からなる板状の部材である。第1電極ブロック30には、前方が開放された凹部33が形成されている。また、凹部33を挟んでX方向で両側に、かつZ方向に沿って2箇所ずつ、計4箇所にねじ孔31が設けられている。また、凹部33のZ方向に沿った後方にねじ孔32が設けられている。
【0033】
凹部33にはサブマウント40とレーザーダイオードバー10とが設置されている。サブマウント40は、板状の導電部材であり、Au-Snはんだ等の導電性接着材(図示せず)により凹部33の上面に接合されている。サブマウント40の材質は、ダイヤモンドと金属の複合材料や、SiCなどの導電性の半導体材料で構成され、窒化物半導体と線膨張係数が近く、また、ヤング率が高いことが好ましい。
【0034】
レーザーダイオードバー10は、X方向に互いに間隔をあけて8個のエミッター21~28を有している(図4参照)。レーザーダイオードバー10は、Au-Snはんだ等の導電性接着材91(図5参照)によりサブマウント40に接合されている。本構成では、導電性接着材91を挟んで、レーザーダイオードバー10のp側電極18(図5参照)がサブマウント40の表面に接合されている。レーザーダイオードバー10の構成については後で述べる。
【0035】
レーザーダイオードバー10のn側電極17(図5参照)の表面には複数のバンプ電極60が形成されている。バンプ電極60を介して、n側電極17が第2電極ブロック70に電気的に接続される。バンプ電極60と第2電極ブロック70との間に金箔等の導電シートが設けられてもよい。
【0036】
第2電極ブロック70は、銅または銅合金からなる板状の部材である。第2電極ブロック70には、第1電極ブロック30のねじ孔31に対応する位置にねじ孔71が計4箇所設けられている。また、ねじ孔71とは別の位置、この場合は、X方向に沿ってねじ孔71の間にねじ孔72が設けられている。
【0037】
絶縁シート50は、例えば、窒化アルミニウムからなるシート状の部材である。絶縁シート50には、第1電極ブロック30のねじ孔31及び第2電極ブロック70のねじ孔71に対応する位置に貫通孔51が設けられている。なお、本実施形態では、絶縁性と放熱性を両立させる観点から、絶縁シート50の材質を窒化アルミニウムとしたが、他の材質を選択してもよい。
【0038】
レーザーモジュール110を組み立てるにあたって、第1電極ブロック30の凹部33に位置決めを行った上でサブマウント40とレーザーダイオードバー10とを実装する。さらに、第1電極ブロック30の表面に絶縁性接着材90を配置する。絶縁性接着材90には、シロキサンが含まれている。貫通孔51とねじ孔31とが重ね合わせられた状態で、絶縁性接着材90を用いて絶縁シート50を第1電極ブロック30の表面に接着するため、絶縁性接着材90はレーザーモジュール110を構成するためには必要となる。
【0039】
次に、ねじ孔71とねじ孔31とが重なるように、第2電極ブロック70を第1電極ブロック30の表面に配置する。さらに、ワッシャ83を介在させて、ボルト80を第1電極ブロック30のねじ孔31と絶縁シート50の貫通孔51と第2電極ブロック70のねじ孔71とに挿通し、締結する。
【0040】
このようにすることで、サブマウント40とレーザーダイオードバー10とが第1電極ブロック30と第2電極ブロック70とに挟み込まれて固定される。この際、レーザーダイオードバー10は、サブマウント40と導電性接着材91とを介して、第1電極ブロック30と電気的に接続される。また、レーザーダイオードバー10は、バンプ電極60を介して、第2電極ブロック70に電気的に接続される。
【0041】
レーザーダイオードバー10の表面にバンプ電極60を形成することで、締結時にレーザーダイオードバー10に加わる圧力を緩和でき、レーザーダイオードバー10が破損したり、信頼性が低下したりするのを抑制できる。なお、貫通孔51とねじ孔71とが重ね合わせられた状態で、絶縁性接着材90を用いて絶縁シート50を第2電極ブロック70の裏面に接着してもよい。
【0042】
なお、外部電源(図示せず)から引き出されたマイナス側配線(図示せず)は、ボルト81により、第1電極ブロック30のねじ孔32に締結され、マイナス側配線と第1電極ブロック30とが電気的に接続される。また、外部電源から引き出されたプラス側配線(図示せず)は、ボルト82により、第2電極ブロック70のねじ孔72に締結され、プラス側配線と第2電極ブロック70とが電気的に接続される。
【0043】
このように高い光出力を得るためのレーザーモジュール110の構成では、レーザーモジュール110を気密封止、あるいは、絶縁性接着材だけを分離して、気密封止することは極めて困難である。
【0044】
[レーザーダイオードバーの構成]
図4は、レーザーダイオードバーの斜視図を示し、図5は、図4のV-V線での断面図を示す。
【0045】
図4に示すように、レーザーダイオードバー10は、X方向に8個のエミッター21~28が互いに間隔をあけて形成されている。このうち、両端に位置するエミッター21,28とそれ以外のエミッター22~27とでは、X方向の幅が異なっている。具体的には、両端に位置するエミッター21,28において、後で述べるストライプ部20aのX方向の幅(以下、ストライプ幅という)W2は、それ以外のエミッター22~27におけるストライプ幅W1よりも狭くなっている。なお、両端のエミッター21,28もそれ以外のエミッター22~27も、Z方向の長さL(以下、ストライプ長Lと呼ぶことがある。)はそれぞれ同じである。また、レーザーダイオードバー10のZ方向の前方端面が光出射端面10aである。光出射端面10aからZ方向の前方にレーザー光が出射される。光出射端面10aには第1反射層19aが、レーザーダイオードバー10の後端面10bには第2反射層19bがそれぞれ形成されている。レーザー光が有する波長に対して、第2反射層19bの反射率は高く、第1反射層19aの反射率は低くなるように設定されている。好ましくは第2反射層19bのレーザー光の波長に対する反射率は90%以上が好ましく、第1反射層19aの反射率は1%以下が好ましい。したがって、第1反射層19a及び第2反射層19bは、互いに屈折率の異なる2種または3種の誘電体膜を積層させてなる。ただし、第1反射層19a及び第2反射層19bの構成とも、特にこれに限定されない。
【0046】
また、図5に示すように、エミッター20は、Y方向に積層された複数の窒化物半導体層で構成されている。具体的には、エミッター20は、窒化物半導体層として、n型基板11とn型クラッド層12と活性層13とp型クラッド層14とp型コンタクト層15とを有している。n型基板11の裏面にn側電極17が形成されている。p型コンタクト層15の表面にp側電極18が形成されている。
【0047】
p型クラッド層14とp型コンタクト層15とは、Z方向に延びる直線状のストライプ形状に加工されており、これらを総称してストライプ部20aと呼ぶことがある。p側電極18を除いて、ストライプ部20a及びp型クラッド層14の表面を覆うように絶縁層16が形成されている。絶縁層16を設けることで、p側電極18が設けられていないp型クラッド層14から活性層13に通電されるのを防止し、X方向において、活性層13への電流閉じ込めを実現している。
【0048】
第1電極ブロック30と第2電極ブロック70との間に外部から所定以上の電圧を印加することで、レーザーモジュール110に電流が流れる。
【0049】
エミッター20毎に見れば、n側電極17とp側電極18との間に所定以上の電圧を印加されて、活性層13に電荷が注入され、活性層13が発光し始める。活性層13に閾値電流以上の電流が流れると、第1反射層19aと第2反射層19bとの間でレーザー発振し、光出射端面10aからレーザー光がZ方向の前方に向けて出射される。
【0050】
なお、ストライプ幅の違いに起因して、両端のエミッター21,28とそれ以外のエミッター22~27とでは閾値電流が異なってくる。具体的には、両端のエミッター21,28の閾値電流は、それ以外のエミッター22~27の閾値電流よりも小さくなる。
【0051】
[本願発明に至った知見]
図6は、連続発振時の単一のエミッターで構成されたレーザーモジュールのレーザー光出力の時間変化を示し、図7は、38個のエミッターを有するレーザーダイオードバーを実装したレーザーモジュールを所定時間駆動させた前後での各エミッターからのレーザー光出力の変化を示す。
【0052】
図8は、レーザーモジュールを所定時間駆動させた後でのエミッターの光出射端面への付着物を観察した模式図を示す。図9は、ストライプ幅と閾値電流との関係を示す。なお、図面を分かりやすくするため、図8において、絶縁層16の図示を省略している。
【0053】
図6に示す例では、レーザーダイオードバー10は単一のエミッター20を有している。このレーザーダイオードバー10はCANパッケージに実装し、気密封止することができる。気密封止している場合において、100時間連続駆動した後、レーザー光の出力の低下度合いは10%程度であった。一方、同程度の光出力を有する別のレーザーダイオードバー10を気密封止せずに、シロキサンが一定濃度存在する大気に晒した場合で、100時間連続駆動した後、レーザー光の出力の低下度合いは60%程度に及んだ。これは、前述したように、光出射端面10aにシロキサン分解物が付着したことに起因すると考えられる。
【0054】
一方、図7に示す例では、レーザーダイオードバー10は38個のエミッター20を有している。このレーザーダイオードバー10を図3に示すレーザーモジュール110に組み立てた後、レーザーモジュール110を一定時間連続して駆動させた。連続駆動の前後で、各エミッター20からのレーザー光出力を測定した。図7から明らかなように、中央に位置するエミッター20では、レーザー光の出力の低下度合いは20%以下であった。一方、中央から両端に向かうにつれて、エミッター20から出射されるレーザー光の出力の低下度合いは大きくなった。
【0055】
この結果を受けて、各エミッター20の光出射端面10aをSEM(Scanning Electron Microscopy)によって観察したところ、図8に示すように、両端のエミッター、例えば、エミッターNo.1~3やエミッターNo.36~38において、光出射端面10aに付着物が観察された。また、EDX分析(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によって、その付着物は、シロキサン由来とされるSiが主な成分として構成されていることがわかった。つまり、当該付着物は、雰囲気中に滞留するシロキサンの分解物であると推定された。
【0056】
図3に示したレーザーモジュール110の構造から考えて、絶縁性接着材90に含まれるシロキサンが、その近傍に位置している両端のエミッター20の光出射端面10aにより付着しやすいと推定される。本願発明者等は、このことに起因して、両端のエミッター20では、それ以外のエミッター20よりも光出力が低下したものと推定した。
【0057】
そこで、本願発明者は、図4に示すレーザーダイオードバー10において、両端のエミッター21,28(以下、ダミーエミッター21,28と呼ぶことがある。)の光出射端面10aのみにシロキサン分解物を付着させるようにした。このようにすることで、レーザーモジュール110全体として見た場合に長時間使用時のレーザー光出力の低下を抑制できることを見出した。また、これを実現するために、閾値電流が他のエミッター22~27よりも小さいエミッター21,28を両端に設けるようにした。このことについてさらに説明する。
【0058】
図9に示すように、一般に、エミッター20の閾値電流Ithは、ストライプ幅が広くなるにつれて大きくなる。この傾向は、ストライプ長Lが変化した場合も変わらない。このことを利用して、互いに閾値電流が異なるエミッター20を1個のレーザーダイオードバー10に同時に形成する。
【0059】
例えば、図4に示すレーザーダイオードバー10において、ダミーエミッター21,28のストライプ幅W2を5μmとし、それ以外のエミッター22~27(以下、本エミッター22~27と呼ぶことがある。)のストライプ幅W1を30μmとする。また、各エミッター21~28にそれぞれ200mAの電流が流れるようにする。図9からも、明らかなように、ダミーエミッター21,28に流れる電流は閾値電流を超えている。よって、ダミーエミッター21,28はレーザー発振し、光出射端面10aからレーザー光が出射される。一方、本エミッター22~27では、閾値電流より小さい電流しか流れず、発光しない。
【0060】
この場合、ダミーエミッター21,28の近傍では、シロキサンの分解が進み、シロキサン分解物が光出射端面10aに付着する。一方、本エミッター22~27の近傍では、シロキサンの分解は起こらず、シロキサン分解物が光出射端面10aに付着しない。レーザー光を所定時間以上出射することで、絶縁性接着材90に由来するシロキサン分解物のダミーエミッター21,28の光出射端面10aへの付着が進み、ケーシング160の内部のシロキサン濃度は所定以下に低下する。その結果、レーザーダイオードバー10の各エミッター21~28に閾値電流を超える電流を流した場合、本エミッター22~27がそれぞれレーザー発振し、レーザー光がそれぞれ出射される。このとき、光出射端面10aの近傍でシロキサン濃度が低下しているため、光出射端面10aへのシロキサン分解物の付着が抑制される。その結果、本エミッター22~27からレーザー光を長時間出射させても、光出力の低下が抑制される。つまり、レーザーモジュール110、ひいては波長ビーム結合システム100を長時間動作させた場合の信頼性の低下を抑制できる。
【0061】
なお、ダミーエミッター21,28は、シロキサン分解物の付着により、光出力が低下するだけでなく、破壊に至る場合がある。しかし、このようなことが起こっても、ダミーエミッター21,28は通電時に微小な発熱源となるだけで、レーザーダイオードバー10の動作自体に大きな影響は与えない。また、レーザーダイオードバー10から出力されるレーザー光の全体の出力は低下するが、低下分を見込んで、本エミッター22~27とダミーエミッター21,28との個数比を設定することで、所望の光出力を得ることができる。
【0062】
なお、ダミーエミッター21,28の両方が必ずしもレーザー発振していなくてもよく、少なくとも一方をレーザー発振させればよい。また、ダミーエミッター21,28からレーザー光を出射させる場合、本エミッター22~27は、確実に発光させないことが好ましい。このために、レーザー光を出射させるダミーエミッター21,28の閾値電流は、本エミッター22~27の閾値電流の1/2以下にすることが好ましい。
【0063】
また、図9に示したように、閾値電流Ithは、ストライプ幅に対して単調に増加する。よって、ストライプ幅を調整することで、エミッター20に流れる閾値電流を変化させることができる。ダミーエミッター21,28からレーザー光を出射させる一方、本エミッター22~27を確実に発光させないことが好ましい。このために、レーザー光を出射させるダミーエミッター21,28のストライプ幅は、本エミッター22~27のストライプ幅の1/3以下にすることが好ましい。
【0064】
なお、加工ばらつきによって、各エミッター21~28のストライプ幅は変動することが多い。この場合、各エミッター21~28の閾値電流も変動する。このことを考慮すれば、レーザー光を出射させるダミーエミッター21,28の閾値電流は、本エミッター22~27の閾値電流の平均値の1/2以下にすることが好ましい。また、レーザー光を出射させるダミーエミッター21,28のストライプ幅は、本エミッター22~27のストライプ幅の平均値の1/3以下にすることが好ましい。
【0065】
以上、得られた知見に基づいて、波長ビーム結合システム100の製造方法について以下に説明する。
【0066】
[波長ビーム結合システムの製造方法]
図10は、波長ビーム結合システムの製造方法を説明するためのフローチャートを示す。図11は、図10に示すステップS5におけるレーザーモジュールからのレーザー光の出射状態を示し、図12は、図10に示すステップS5におけるモニター出力の時間変化を示す。
【0067】
図4,5に示すレーザーダイオードバー10を準備する(ステップS1;第1工程)。ステップS1で準備されたレーザーダイオードバー10を組み込んで、図3に示すレーザーモジュール110を組み立てる(ステップS2;第2工程)。レーザーモジュール110の組み立て方法は、前述した通りである。
【0068】
次に、ケーシング160の内部に複数のレーザーモジュール110と複数の回折格子素子130と外部共振ミラー140とを所定の配置関係を保った状態で固定配置し(ステップS3;第3工程)、さらに、図示しない蓋を用いてケーシング160を封止する(ステップS4;第4工程)。
【0069】
ステップS4の後に、図示しない電源を用いてレーザーモジュール110を駆動する。このとき、レーザーダイオードバー10に含まれる両端のエミッター21,28からレーザー光を所定時間、連続して出射させる。また、出射されたレーザー光の出力を光出力モニター150でモニターする(ステップS5;第5工程)。所定時間は、モニターされたレーザー光の出力の低下度合いに応じて決定される。これについては後で述べる。
【0070】
図11に示すように、ステップS5において、レーザー光が出射されていない残りのエミッター22~27が発光しないように、レーサーモジュール110を駆動する。
【0071】
光出力モニター150でのモニター結果に基づいて、レーザー発振を停止させる(ステップS6)。具体的には、図12に示すように、駆動時間に対する光出力の変化率が小さくなった時点で、レーザー発振を停止させ、光出力モニター150を取り外す。以上で、すべての工程が終了する。
【0072】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係るレーザーダイオードバー10は、窒化物半導体を構成材料として含む。また、レーザーダイオードバー10は、X方向(第1方向)に互いに間隔をあけて形成された8個のエミッター21~28を有している。8個のエミッター21~28のそれぞれは、閾値電流以上の電流が流れることでレーザー発振する。
【0073】
両端のエミッター21,28のうち少なくとも1つの閾値電流は、両端のエミッター21,28を除いた本エミッター22~27の閾値電流の平均値の1/2以下である。
【0074】
また、8個のエミッター21~28のそれぞれは、X方向と交差するZ方向(第2方向)が長手方向であるストライプ形状のストライプ部20aを有している。
【0075】
両端のエミッター21,28のうち少なくとも1つのストライプ幅、つまり、ストライプ部20aのX方向の幅は、両端のエミッター21,28を除いた本エミッター22~27におけるストライプ幅の平均値の1/3以下である。
【0076】
8個のエミッター21~28のそれぞれに所定値の電流を流した場合、両端のエミッター21,28の一方または両方がレーザー発振し、本エミッター22~27はレーザー発振しないように構成されている。
【0077】
また、8個のエミッター21~28のそれぞれから出射されるレーザー光の波長は、350nm以上、450nm以下の範囲、いわゆる、青色光の波長域である。
【0078】
ダミーエミッター21,28から出射されるレーザー光の波長がこの範囲にあることで、レーザーダイオードバー10の近傍に滞留するシロキサンを確実に分解できる。また、シロキサン分解物をダミーエミッター21,28の光出射端面10aに確実に付着させることができる。
【0079】
本実施形態によれば、本エミッター22~27の光出射端面10aにシロキサン分解物が付着するのを抑制できる。このことにより、レーザーモジュール110、ひいては波長ビーム結合システム100を長時間動作させた場合に信頼性が低下するのを抑制できる。
【0080】
なお、8個のエミッター21~28のそれぞれに所定値の電流を流した場合、両端のエミッター21,28の一方または両方がレーザー発振し、本エミッター22~27がLEDモードで発光するように構成されてもよい。なお、LEDモードでの発光とは、レーザー発振していない状態での発光をいう。
【0081】
図13は、図10に示すステップS5におけるレーザーダイオードバーの好適な駆動範囲を示す。図13に示す範囲Iでは、前述した通り、両端のエミッター21,28の一方または両方がレーザー発振し、本エミッター22~27はレーザー発振せず、発光しない。この範囲でレーザーダイオードバー10を動作させると、本エミッター22~27の光出射端面10aには、シロキサン分解物は確実に付着しない。
【0082】
一方、図13に示す範囲IIでは、両端のエミッター21,28の一方または両方がレーザー発振し、本エミッター22~27はLEDモードで発光する。このモードで発光し、光出射端面10aから出射された光は、空間的にも時間的にも位相が揃った状態ではない。また、LEDモードでの光密度は、レーザー光の光密度よりも大幅に小さい。つまり、レーザーダイオードバー10の動作範囲を範囲IIに設定しても、本エミッター22~27の光出射端面10aの近傍でシロキサンの分解は起こらず、光ピンセット効果による端面へのSiの付着もない。したがって、前述した効果を得ることができる。すなわち、本エミッター22~27の光出射端面10aにシロキサン分解物が付着するのを抑制できる。このことにより、レーザーモジュール110、ひいては波長ビーム結合システム100を長時間動作させた場合に信頼性が低下するのを抑制できる。なお、本エミッター22~27をLEDモードで発光させる場合、図10におけるステップS6において、発光しているエミッター20のすべてにおいて、発光を停止させる。
【0083】
レーザーダイオードバー10を範囲Iまたは範囲IIで動作させるにあたって、両端のエミッター21,28のうち少なくとも1つの閾値電流を、両端のエミッター21,28を除いた本エミッター22~27の閾値電流の平均値以下となるようにすればよい。また、両端のエミッター21,28のうち少なくとも1つにおけるストライプ幅を、本エミッター22~27におけるストライプ幅の平均値以下となるようにすればよい。
【0084】
なお、ストライプ長Lが1000μm~2000μm程度である場合、両端のエミッター21,28のうち少なくとも1つの閾値電流は、130mA以上、150mA以下であることが好ましい。また、両端のエミッター21,28のうち少なくとも1つのストライプ幅は、5μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0085】
なお、本実施形態では、レーザーダイオードバー10に8個のエミッター21~28が形成された構成を示したが、エミッター20の個数はこれに限定されず、n個(nは4以上の整数)のエミッター21~2nが形成されていればよい。
【0086】
また、n個のエミッター21~2nのそれぞれに所定値の電流を流した場合、両端のエミッター21,2nの一方または両方がレーザー発振し、本エミッター22~2n-1がLEDモードで発光するように構成されてもよい。
【0087】
本実施形態に係る波長ビーム結合システム100は、レーザーダイオードバー10をそれぞれ有する1または複数のレーザーモジュール110と、レーザーダイオードバー10に含まれる複数のエミッター21~2nからそれぞれ出射されるレーザー光を結合する回折格子素子130(光結合素子)と、を少なくとも備えている。
【0088】
また、波長ビーム結合システム100は、回折格子素子130で結合されたレーザー光を回折格子素子130に向けて反射する外部共振ミラー140と、1または複数のレーザーモジュール110と回折格子素子130と外部共振ミラー140とを収容するケーシング160と、を備えている。
【0089】
レーザーダイオードバー10は、n個のエミッター21~2nにおけるレーザー光の出射端面(光出射端面10a)と反対側の面である後端面10bに所定の反射率を有する第2反射層(反射層)19bが設けられている。
【0090】
外部共振ミラー140とレーザー光が出射されるエミッター20の第2反射層19bとの間に外部共振器が構成され、回折格子素子130で結合された結合レーザー光がケーシング160の外部に出射される。
【0091】
波長ビーム結合システム100をこのように構成することで、レーザー光が出射されるエミッター20の光出射端面10aにシロキサン分解物が付着するのを抑制できる。このことにより、波長ビーム結合システム100を長時間動作させた場合に信頼性が低下するのを抑制できる。また、複数のエミッター20からそれぞれ出射されるレーザー光を結合して高出力の結合レーザー光を得ることができる。
【0092】
本実施形態に係る波長ビーム結合システム100の製造方法は、レーザーダイオードバー10を準備する第1工程(図10のステップS1)と、レーザーダイオードバー10を有するレーザーモジュール110を組み立てる第2工程(図10のステップS2)と、を少なくとも備えている。
【0093】
また、波長ビーム結合システム100の製造方法は、ケーシング160の内部にレーザーモジュール110と回折格子素子130と外部共振ミラー140とを所定の配置関係を保った状態で固定配置する第3工程(図10のステップS3)と、第3工程の後に、ケーシング160を封止する第4工程(図10のステップS4)と、を備えている。さらに、第4工程の後に、レーザーモジュール110を駆動して、レーザーダイオードバー10に含まれる両端のエミッター21,2nのうち少なくとも一方からレーザー光を所定時間、連続して出射させる第5工程(図10のステップS5)と、を備えている。
【0094】
第2工程では、レーザーモジュール110を組み立てるにあたって、シロキサンを含む接着材、つまり、絶縁性接着材90が用いられる。
【0095】
第5工程では、レーザー光の出力がモニターされた状態で、両端のエミッター21,2nのうち少なくとも一方からレーザー光を出射させるとともに、残りのエミッター22~2n-1からはレーザー光が出射されないように、レーサーモジュール110を駆動する。所定期間は、レーザー光の出力の低下度合いに応じて決定される。
【0096】
本実施形態によれば、レーザー光が出射されるエミッター20の光出射端面10aにシロキサン分解物が付着するのを抑制できる。このことにより、波長ビーム結合システム100を長時間動作させた場合に信頼性が低下するのを抑制できる。なお、シロキサンは、絶縁性接着材90から揮発して周辺の雰囲気中に滞留すると考えられる。
【0097】
<変形例>
図14は、本変形例に係るダミーエミッターの平面模式図を示す。なお、説明の便宜上、ダミーエミッター21,28のうち、ストライプ部20aのみを簡略化して図示している。
【0098】
実施形態に示したように、ダミーエミッター21,28のストライプ幅を本エミッター22~27のストライプ幅の所定値以下に狭くすることで、ダミーエミッター21,28の閾値電流を本エミッター22~27の閾値電流よりも小さくできる。
【0099】
しかし、ストライプ幅を一様に狭くすると、ダミーエミッター21,28において、通電時の電気抵抗が大きくなり、レーザー発振できない状態になることがある。
【0100】
そこで、例えば、図14に示すように、ストライプ部20aのZ方向の中央部分の幅をW3(≧W1)とし、Z方向で端部の向かうにつれてストライプ幅を徐々に狭くするようにする。
【0101】
このようにすることで、ストライプ部20aの面積低下、ひいては通電時の電気抵抗増加を抑制できる。また、閾値電流は、ストライプ幅の狭い部分で主に決まるため、閾値電流が増加することも抑制できる。これらのことにより、n個のエミッター21~2nのそれぞれに所定値の電流を流した場合、両端のエミッター21,2nの一方または両方がレーザー発振し、本エミッター22~2n-1が発光しないか、またはLEDモードで発光する状態を作り出すことができる。
【0102】
よって、本エミッター22~2nの光出射端面10aにシロキサン分解物が付着するのを抑制できる。このことにより、レーザーモジュール110、ひいては波長ビーム結合システム100を長時間動作させた場合に信頼性が低下するのを抑制できる。
【0103】
なお、ダミーエミッター21,28のストライプ部20aの形状は、図14に示す形状に特に限定されない。また、電気抵抗の増加と閾値電流の増加とをそれぞれ抑制する観点から、図14に示す幅W2、W3は適宜決定される。例えば、幅W3がW1以下であってもよい。
【0104】
(その他の実施形態)
実施形態では、1個のレーザーモジュール110に対して、1個の回折格子素子130を配置する構成を示したが、複数のレーザーモジュール110に対して1個の回折格子素子130が配置されてもよい。また、透過型の回折格子素子130を示したが、反射型の回折格子素子130であってもよい。
【0105】
また、複数のエミッターのそれぞれから出射されるレーザー光を結合するにあたって、回折格子素子130以外の光結合素子が用いられてもよい。例えば、プリズムを使用しうる。
【0106】
また、図1に示すように、レーザーモジュール110が収容されるケーシング160は、必ずしも気密封止されていなくてもよい。
【0107】
なお、実施形態では、ダミーエミッター21,28をX方向の両端にそれぞれ1個づつ配置した構成を示したが、特にこれに限定されない。ダミーエミッターをX方向の両端にそれぞれ複数個づつ配置してもよい。この場合、ダミーエミッターの個数は、レーザーダイオードバー10に形成されたエミッター20の全体の個数及びレーザーダイオードバー10に要求されるトータルの光出力の大きさ、絶縁性接着材90から発生するシロキサンの量に応じて適宜設定される。
【0108】
また、ダミーエミッター21,2nは、n個のエミッター21~2nの両端以外の位置に設けられてもよい。例えば、絶縁性接着材90が中央のエミッター20の近傍に配置されている場合、中央のエミッター20のうち、1または複数個のエミッターをダミーエミッターとしてもよい。
【0109】
なお、実施形態では、ダミーエミッター21,28のストライプ幅W2を本エミッター22~27のストライプ幅W1よりも狭くすることで、両差の間に閾値電流の差を付ける構成を示した。しかし、閾値電流の差を付ける構成は特にこれに限定されない。例えば、ダミーエミッター21,28に電気的に接続される電極ブロックと本エミッター22~27に電気的に接続される電極ブロックとを電気的に分離して、それぞれが独立して駆動できるようにしてもよい。この場合は、ダミーエミッター21,28と本エミッター22~27とで同じストライプ幅とすることができる。ただし、電極ブロックの形状が複雑化するとともに駆動電源が2種類必要となる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本開示のレーザーダイオードバーは、高出力の青色光を出射し、かつ信頼性の低下が抑制されたレーザー光源として有用である。
【符号の説明】
【0111】
10 レーザーダイオードバー
10a 光出射端面
10b 後端面
11 n型基板
12 n型クラッド層
13 活性層
14 p型クラッド層
15 p型コンタクト層
16 絶縁層
17 n側電極
18 p側電極
19a 第1反射層
19b 第2反射層(反射層)
20 エミッター
20a ストライプ部
21,28 ダミーエミッター
22~27 本エミッター
30 第1電極ブロック
40 サブマウント
50 絶縁シート
60 バンプ電極
70 第2電極ブロック
90 絶縁性接着材
91 導電性接着材
100 波長ビーム結合システム
110 レーザーモジュール
120 光整形部品
130 回折格子素子(光結合素子)
140 外部共振ミラー
150 光出力モニター
160 ケーシング
161 レーザ光出射ブロック
161a 光出射口
162 冷却管
図1
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