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特開2023-64240フィルベルトン誘導体、その製造方法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064240
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】フィルベルトン誘導体、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/24 20060101AFI20230501BHJP
   C07C 45/66 20060101ALI20230501BHJP
   A61K 31/121 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C07C49/24 CSP
C07C45/66
A61K31/121
A61P43/00 111
A61P25/28
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174390
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】506388130
【氏名又は名称】宮澤 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 三雄
(72)【発明者】
【氏名】丸本 真輔
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206CB12
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA15
4C206ZC20
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB20
4H006AC13
(57)【要約】
【課題】新規なフィルベルトン誘導体、その製造方法及び用途を提供する。
【解決手段】本発明は、式(2):
で表される、1-ヒドロキシフィルベルトンを提供する。1-ヒドロキシフィルベルトンは、優れたβ-セクレターゼ阻害作用を有しているため、β-セクレターゼ阻害剤として有用であり、脳疾患(例えば、認知症等)の予防剤又は認知機能賦活剤として利用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(2):
【化1】
で表される、1-ヒドロキシフィルベルトン。
【請求項2】
フィルベルトンのヒト代謝産物である、請求項1に記載の1-ヒドロキシフィルベルトン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の1-ヒドロキシフィルベルトンを有効成分として含有する、β-セクレターゼ阻害剤。
【請求項4】
式(2):
【化2】
で表される、1-ヒドロキシフィルベルトンを製造する方法であって、
式(8):
【化3】
で表される1,2-ジヒドロキシ-5-メチルヘプタン-4-オンを脱水して、前記式(2)で表される1-ヒドロキシフィルベルトンを得る工程、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルベルトン誘導体、その製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルベルトン(5-メチル-2-ヘプテン-4-オン)は、下記式(1):
【化1】
で表される。
【0003】
フィルベルトンは、ヘーゼルナッツ油等に含まれている化合物であり、香粧品用香料又は食品香料として広く使用されている(例えば、特許文献1)。フィルベルトンは、S体である(S)-(+)-フィルベルトン及びR体である(R)-(-)-フィルベルトンの2つの立体異性体を有する。
【0004】
フィルベルトンのS体である(S)-(+)-フィルベルトンは、下記式(1a):
【化2】
で表される(以下、「化合物(1a)」とも表記する)。
【0005】
特許文献1には、フィルベルトンのS体である(S)-(+)-フィルベルトンは、R体である(R)-(-)-フィルベルトンよりも約10倍低い臭気閾値を有するヘーゼルナッツのフレーバーを有することが記載されている。
【0006】
しかしながら、フィルベルトンの誘導体は従来報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008-530296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、フィルベルトン誘導体として新規な化合物を提供することにある。本発明はまた、その新規化合物の製造方法及び用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、フィルベルトン誘導体を合成することに成功し、上記課題を達成できることを見出した。本発明は、さらに研究を重ね、完成させたものである。
【0010】
本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.
式(2):
【化3】
で表される、1-ヒドロキシフィルベルトン。
項2.
フィルベルトンのヒト代謝産物である、項1に記載の1-ヒドロキシフィルベルトン。
項3.
項1又は2に記載の1-ヒドロキシフィルベルトンを有効成分として含有する、β-セクレターゼ阻害剤。
項4.
式(2):
【化4】
で表される、1-ヒドロキシフィルベルトンを製造する方法であって、
式(8):
【化5】
で表される1,2-ジヒドロキシ-5-メチルヘプタン-4-オンを脱水して、前記式(2)で表される1-ヒドロキシフィルベルトンを得る工程、
を含む方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の式(2)で表される1-ヒドロキシフィルベルトンは本発明者らが初めて合成することに成功した新規化合物であり、β-セクレターゼ阻害作用を有しているため、β-セクレターゼ阻害剤として有用であり、脳疾患(例えば、認知症等)の予防剤又は認知機能賦活剤として利用できる。本発明の式(2)で表される1-ヒドロキシフィルベルトンは、式(1)で表されるフィルベルトンのヒト肝ミクロソームによる代謝によって製造することができる。また、本発明の製造方法を用いれば、式(3)で表される2-メチルブタノールからフィルベルトン誘導体を工業的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた化合物の各種解析結果を示す図である。
図2】実施例2の製造方法(原料である(S)-(-)-2-メチルブタノールから、各工程を経て(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトンを製造する方法)を説明するスキームである。
図3】(S)-(+)-フィルベルトン及び(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトンのβ-セクレターゼ活性阻害効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態及び具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明は、下記式(2):
【化6】
で表される1-ヒドロキシフィルベルトン(以下、「化合物(2)」とも表記する)である。化合物(2)は、フィルベルトンの誘導体であり、文献未記載の新規化合物である。化合物(2)は、β-セクレターゼ阻害作用を有しているため、β-セクレターゼ阻害剤として有用であり、脳疾患(例えば、認知症等)の予防剤又は認知機能賦活剤として利用できる。また、本発明のフィルベルトン誘導体は、香料基材として用いることができる。具体的には、本発明のフィルベルトン誘導体は、化粧品、入浴剤、石鹸、芳香剤、アロマテラピー用エッセンシャルオイル、消臭剤、香水、整髪料等の香粧品に加えて用いることができる。さらに、本発明のフィルベルトン誘導体は、食品添加剤として、例えば、清涼飲料、乳製品(加工乳、ヨーグルト)、菓子類(ゼリー、チョコレート、ビスケット、ガム、錠菓)等の各種飲食品に配合することもできる。
【0015】
化合物(2)は、ラセミ体であってもよいし、立体異性体であってもよい。化合物(2)の立体異性体には、S体である(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトン及びR体である(R)-(-)-1-ヒドロキシフィルベルトンが含まれる。本発明において、化合物(2)のS体である(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトンが好ましい。
【0016】
(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトン(以下、「化合物(2a)」とも表記する)は、下記式(2a):
【化7】
で表される。
【0017】
化合物(2)は、フィルベルトンのヒト代謝産物であることが好ましい。すなわち、化合物(2)は、フィルベルトンを、薬物代謝能力を有する酵素(例えば、ヒト肝ミクロソーム、P-450)による酵素反応によって得られる化合物であることが好ましい。
【0018】
化合物(2)は、フィルベルトンのヒト肝ミクロソームによる代謝によって製造することが好ましい。該ヒト肝ミクロソームとしては、市販の製品を用いてもよいし、公知の方法(例えば、「実験生物学講座6 細胞分画法」、編集:毛利秀雄、香川靖雄、発行所:丸善株式会社、ISBN:4-621-02950-9 C3345、発行日:1984/12/25、「Method in Enzymolozy, Volume 206, Cytochrome P450」、EDITED BY Michael R. Waterman、Eric F. Johnson、ACADEMIC PRESS, INC. 1991等の文献参照)に従って調製してもよい。具体的には、ヒト肝ミクロソームは、由来の明らかなヒトの肝臓をホモジナイズして得られる組織破砕物を遠心分離(例えば、4℃、10000×g、30分間)した後、その上清をさらに遠心分離(例えば、4℃、100000×g、90分間)し、得られた沈殿を、100mMピロリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)に再度懸濁し、遠心分離(例えば、4℃、100000×g、60分間)して得られる沈殿を、適切な緩衝液に懸濁して得られる画分を試料として用いればよい。
【0019】
フィルベルトンの代謝は、フィルベルトンをヒト肝ミクロソームで処理し、産生された代謝産物を採取することにより行われる。ここで、「処理」とは、フィルベルトンとヒト肝ミクロソームとの接触、フィルベルトンをヒト肝ミクロソームの培養培地に含有させて行う培養等の該技術分野で通常行われる代謝手段を含む意味で用いられている。「採取」とは、該技術分野で通常行われる分離、抽出及び精製手段を含む工程を意味している。
【0020】
本発明は、化合物(2)を製造する方法であって、
下記式(8):
【化8】
で表される1,2-ジヒドロキシ-5-メチルヘプタン-4-オン(以下、「化合物(8)」とも表記する)を脱水して、該化合物(2)を得る工程(以下、「脱水工程」とも表記する)を含む。
【0021】
本発明は、好ましくは、化合物(2a)を製造する方法であって、
下記式(8a):
【化9】
で表される(5S)-1,2-ジヒドロキシ-5-メチルヘプタン-4-オン(以下、「化合物(8a)」とも表記する)を脱水して、化合物(2a)を得る工程(以下、「脱水工程a」とも表記する)を含む。
【0022】
該脱水工程及び脱水工程aは、脱水剤を用いて脱水を行うことにより、化合物(8)又は化合物(8a)から水(HO)が除去されて、化合物(2)又は化合物(2a)を生成することができる反応条件を、広く適用することができる。
【0023】
脱水工程及び脱水工程aで使用する脱水剤としては、例えば、バージェス(Burgess)試薬等を挙げることができる。
【0024】
脱水工程及び脱水工程aにおける反応温度は、通常10~80℃程度、好ましくは20~50℃である。脱水工程における反応時間は、通常0.5~3時間、好ましくは1~2時間である。
【0025】
化合物(2)は、原料である2-メチルブタノールから、下記に示す各工程(第1工程、第2工程、第3工程、第4工程及び第5工程)を経て製造することが好ましい。以下、該各工程について詳細に説明する。
【0026】
化合物(2a)は、原料である(S)-(-)-2-メチルブタノールから、下記に示す各工程(第1工程、第2工程、第3工程、第4工程及び第5工程)を経て製造することが好ましい。
【0027】
(第1工程)
第1工程は、下記式(3):
【化10】
で表される2-メチルブタノール(以下、「化合物(3)」とも表記する)のヒドロキシ基を酸化して、下記式(4):
【化11】
で表される2-メチルブタナール(以下、「化合物(4)」とも表記する)を得る工程である。
【0028】
第1工程で得られた生成物は反応液のまま、又は粗生成物として次の工程に用いることができる。或いは、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、第1工程で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0029】
原料である化合物(3)としては、市販品を使用することができる。
【0030】
第1工程は、化合物(3)のヒドロキシ基をカルボニル基に酸化することができる条件を、特に制限なく用いて行うことができる。
【0031】
例えば、酸化剤として2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を用いて酸化反応を行うTEMPO酸化;酸化剤としてジメチルスルホキシドを用いて酸化反応を行うスワーン(Swern)酸化;酸化剤として超原子価ヨウ素化合物(デス・マーチン試薬)を用いて酸化反応を行うデス・マーチン(Dess-Martin)酸化等の公知の反応条件を広く適用することができる。
【0032】
TEMPO酸化とは、一般的に、酸化剤であるTEMPOと再酸化剤とを組み合わせて、アルコール等の基質を酸化する反応である。また、TEMPO酸化は、塩基の存在下で行うこともできる。
【0033】
TEMPO酸化におけるTEMPOの使用量は、化合物(3)1モルに対して、通常0.001~1モルであり、好ましくは0.005~0.5モルであり、より好ましくは0.01~0.25モルである。
【0034】
TEMPO酸化における再酸化剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、ヨードベンゼンジアセテート等が挙げられる。該再酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。TEMPO酸化における次亜塩素酸ナトリウムの使用量は、化合物(3)1モルに対して、通常1~5モル、好ましくは1.1~2モルである。
【0035】
TEMPO酸化は、塩基の存在下で行うことができ、例えば、塩基としての炭酸水素ナトリウム(NaHCO)の使用量は、化合物(3)1モルに対して、通常0.1~2モル、好ましくは0.25~1モルである。
【0036】
TEMPO酸化における臭化カリウム(KBr)の使用量は、化合物(3)1モルに対して、通常0.0001~1モルであり、好ましくは0.0002~0.5モルであり、より好ましくは0.0004~0.1モルである。
【0037】
TEMPO酸化は、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、アセトニトリル、アセトン、水等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、ジクロロメタン、水、又はジクロロメタンと水との混合溶媒が好ましい。
【0038】
TEMPO酸化の反応温度は、通常-10~10℃、好ましくは-5~5℃であり、反応時間は、通常0.1~2時間、好ましくは0.5~1.5時間である。
【0039】
TEMPO酸化反応後に、TEMPOを除去する為に、次亜硫酸ナトリウム(Na)水溶液等の還元剤を用いることができる。
【0040】
Swern酸化は、一般的に、ジメチルスルホキシドがアリル位又はベンジル位のアルコールを還流条件下で酸化してカルボニル化合物へと変換する反応である。該酸化には、活性化剤として塩化オキサリルを添加することが好ましい。
【0041】
Swern酸化は、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒中で行うことが好ましい。このような溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でも、ジクロロメタンが好ましい。
【0042】
Swern酸化の反応温度は、通常-90~-40℃、好ましくは-80~-70℃であり、反応時間は、通常0.2~1.5時間、好ましくは0.5~1時間である。
【0043】
Swern酸化を行う場合、反応の完了前に、トリエチルアミン等の塩基を加えることが好ましい。塩基を加えることにより、式(4)で表されるカルボニル化合物と、ジメチルスルフィドとが生成する。
【0044】
Swern酸化における酸化剤の使用量は、化合物(3)1モルに対して、通常1~5モル、好ましくは1.1~2モルである。
【0045】
デス・マーチン酸化は、一般的に、超原子価ヨウ素化合物(デス・マーチン試薬)を用いてアルコールをカルボニル化合物へと変換する酸化反応である。酸化剤としては、デス・マーチン試薬である1,1,1-トリアセトキシ-1,1-ジヒドロ-1,2-ベンズヨードキソール-3(1H)-オン等が用いられる。
【0046】
デス・マーチン酸化は、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒中で行うことが好ましい。このような溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でも、ジクロロメタンが好ましい。
【0047】
デス・マーチン酸化の反応温度は、通常0~25℃、好ましくは0~10℃であり、反応時間は、通常0.1~2時間、好ましくは0.5~1.5時間である。
【0048】
デス・マーチン酸化における上記酸化剤の使用量は、化合物(3)1モルに対して、通常1~5モル、好ましくは1.1~2モルである。
【0049】
(第2工程)
第2工程は、第1工程で得られた化合物(4)と、下記式(5):
【化12】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるアリル化合物(以下、「化合物(5)」とも表記する)と、をカップリング反応させて、下記式(6):
【化13】
で表される5-メチルヘプト-1-エン-4-オール(以下、「化合物(6)」とも表記する)を得る工程である。
【0050】
第2工程におけるカップリング反応は、通常、金属触媒の存在下で行われる。該金属触媒は、亜鉛、パラジウム、ニッケルが好ましく、亜鉛がより好ましい。金属触媒の使用量は、化合物(4)1モルに対して、通常1~2倍モル、好ましくは1.2~1.8倍モルである。
【0051】
上記式(5)中のハロゲン原子(X)としては、臭素原子、塩素原子及びヨウ素原子が挙げられる。化合物(5)としては、臭化アリル、塩化アリル及びヨウ化アリルを使用することができる。
【0052】
化合物(5)の使用量は、化合物(4)1モルに対して、通常1~3倍モル、好ましくは1.2~2倍モルである。
【0053】
第2工程におけるカップリング反応は、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒中で行うことが好ましい。このような溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)が好ましい。
【0054】
第2工程におけるカップリング反応の温度は、通常0~30℃、好ましくは20~25℃である。第2工程におけるカップリング反応の時間は、通常0.2~1.5時間、好ましくは0.5~1時間である。
【0055】
化合物(4)としては、市販品を使用することもできる。
【0056】
第2工程で得られた生成物は反応液のまま、又は粗生成物として次の工程に用いることができる。或いは、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、第2工程で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0057】
(第3工程)
第3工程は、第2工程で得られた化合物(6)のヒドロキシ基を酸化して、下記式(7):
【化14】
で表される5-メチルヘプト-1-エン-4-オン(以下、「化合物(7)」とも表記する)を得る工程である。
【0058】
第3工程では、第2工程で得られた化合物(6)のヒドロキシ基をカルボニル基に酸化することができる反応条件を、広く適用することができる。
【0059】
例えば、酸化剤としてジメチルスルホキシドを用いて酸化反応を行うSwern酸化;酸化剤としてデス・マーチン試薬(例えば、1,1,1-トリアセトキシ-1,1-ジヒドロ-1,2-ベンズヨードキソール-3(1H)-オン等)を用いて酸化反応を行うデス・マーチン酸化等の反応条件を用いることができる。
【0060】
Swern酸化は、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒中で行うことが好ましい。このような溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でも、ジクロロメタンが好ましい。
【0061】
Swern酸化の反応温度は、通常-90~-40℃、好ましくは-80~-70℃であり、反応時間は、通常0.2~1.5時間、好ましくは0.5~1時間である。
【0062】
Swern酸化を行う場合、反応の完了前に、トリエチルアミン等の塩基を加えることが好ましい。塩基を加えることにより、化合物(7)と、ジメチルスルフィドとが生成する。
【0063】
Swern酸化における酸化剤の使用量は、化合物(6)1モルに対して、通常1~5モル、好ましくは1.1~2モルである。
【0064】
デス・マーチン酸化は、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒中で行うことが好ましい。このような溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でも、ジクロロメタンが好ましい。
【0065】
デス・マーチン酸化の反応温度は、通常0~25℃、好ましくは0~10℃であり、反応時間は、通常0.1~1.5時間、好ましくは0.5~1時間程度である。
【0066】
デス・マーチン酸化における酸化剤の使用量は、化合物(6)1モルに対して、通常1~5モル、好ましくは1.1~2モルである。
【0067】
第3工程で得られた生成物は反応液のまま、又は粗生成物として次の工程に用いることができる。或いは、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、第3工程で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0068】
(第4工程)
第4工程は、第3工程で得られた化合物(7)のビニル基をヒドロキシル化して、下記式(8):
【化15】
で表される1,2-ジヒドロキシ-5-メチルヘプタン-4-オン(以下、「化合物(8)」とも表記する)を得る工程である。
【0069】
第4工程で使用する酸化剤としては、四酸化オスミウム(OsO)、オスミウム酸、過マンガン酸カリウム等を使用することができ、四酸化オスミウム(OsO)が好ましい。酸化剤の使用量は、化合物(7)1モルに対して、通常0.01~1モル、好ましくは0.02~0.5モルである。
【0070】
第4工程において、酸化剤と再酸化剤とを共存させることが好ましい。該再酸化剤としては、N-メチルモルホリンN-オキシド(NMO)、トリメチルアミンオキシド((CHNO)等を使用することができ、N-メチルモルホリンN-オキシド(NMO)が好ましい。
【0071】
第4工程は、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、アセトニトリル、アセトン、水等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、ジクロロメタン、水、ジクロロメタンと水との混合溶媒、又はアセトンと水との混合冷媒が好ましく、アセトンと水との混合冷媒がより好ましい。アセトンと水との混合冷媒において、アセトンと水との容積比(アセトン:水)は、1:1~1:10が好ましく、1:3~1:6がより好ましい。
【0072】
第4工程の反応温度は、通常0~30℃、好ましくは10~25℃である。第4工程の反応時間は、通常0.5~3時間、好ましくは1~2時間である。
【0073】
第4工程で得られた生成物は反応液のまま、又は粗生成物として次の工程に用いることができる。或いは、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、第4工程で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0074】
(第5工程)
第5工程は、第4工程で得られた化合物(8)を脱水して、目的物である化合物(2)を得る工程である。
【0075】
第5工程では、第4工程で得られた化合物(8)から水(HO)が除去されて、化合物(2)を生成することができる反応条件を、広く適用することができる。
【0076】
目的物である化合物(2)を収率よく製造する観点から、第4工程で得られた化合物(8)の1位のヒドロキシ基を保護した後に、脱水剤を用いて脱水を行い、その後に脱保護して、化合物(2)を製造することが好ましい。
【0077】
本発明において、第5工程が、第4工程で得られた化合物(8)の1位のヒドロキシ基を保護して、下記式(9):
【化16】
(式中、Rは、ヒドロキシ基の保護基を示す。)
で表される第1中間体(以下、「化合物(9)」とも表記する)を得る工程(5-1)、該工程(5-1)で得られた化合物(9)を脱水して、下記式(10):
【化17】
(式中、Rは、前記と同じ。)
で表される第2中間体(以下、「化合物(10)」とも表記する)を得る工程(5-2)、及び該工程(5-2)で得られた化合物(10)を脱保護する工程(5-3)を含むことが好ましい。
【0078】
第5工程において、ヒドロキシ基の保護基としては、ヒドロキシ基の保護基として用いることができる基であれば特に制限なく使用することができる。ヒドロキシ基の保護基として、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基等のシリル系保護基;アセチル基、プロパノイル基、ベンゾイル基等のアシル系保護基が挙げられる。
【0079】
工程(5-1)において、化合物(9)へのヒドロキシ基の保護基の導入は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、ヒドロキシ基の保護基が、(i)tert-ブチルジメチルシリル基(TBDMS)の場合には、tert-ブチルジメチルシリルクロリド(TBDMSCl)を、(ii)tert-ブチルジフェニルシリル基(TBDPS)の場合には、tert-ブチルジフェニルクロロシラン(TBDPSCl)を使用することできる。
【0080】
工程(5-1)において、塩基存在下に、有機溶媒中で保護基の導入を行うことが好ましい。当該反応により、化合物(9)の側鎖末端のヒドロキシ基のみを保護することができ、化合物(10)を得ることができる。
【0081】
反応に用いられる塩基としては、例えば、イミダゾール、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等のアミンが挙げられる。
【0082】
反応に用いられる有機溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン等が挙げられる。
【0083】
工程(5-1)における反応温度は、通常0~30℃、好ましくは10~25℃である。工程(5-1)における反応時間は、通常0.15~1.5時間、好ましくは0.5~1時間である。
【0084】
工程(5-2)において、化合物(10)の脱水反応は、公知の脱水剤を用いて行うことができる。脱水剤として、例えば、バージェス(Burgess)試薬等を挙げることができる。
【0085】
工程(5-2)において、有機溶媒中で、化合物(10)にバージェス(Burgess)試薬を作用させることが好ましい。
【0086】
反応に用いられる有機溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン等が挙げられる。
【0087】
工程(5-2)における反応温度は、通常10~80℃程度、好ましくは20~50℃である。工程(5-2)における反応時間は、通常0.5~3時間、好ましくは1~2時間である。
【0088】
工程(5-3)において、化合物(10)のヒドロキシ基の保護基の脱保護は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、ヒドロキシ基の保護基が、tert-ブチルジメチルシリル基(TBDMS)又はtert-ブチルジフェニルシリル基(TBDPS)の場合には、有機溶媒中で、脱シリル化剤を作用させることが好ましい。
【0089】
当該反応により、化合物(10)の側鎖末端のヒドロキシ基の保護基が除去されて、目的物である化合物(2)を得ることができる。
【0090】
反応に用いられる有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、エタノール、ジオキサン等が挙げられる。これらの有機溶媒の中でも、THFが好ましい。
【0091】
反応に用いられる脱シリル化剤としては、例えば、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)、アンモニウムフロリド、セシウムフロリド等のフッ素含有試薬、トリフルオロ酢酸、塩酸等が挙げられる。これらの脱シリル化剤の中でも、TBAFが好ましい。
【0092】
工程(5-3)における反応温度は、通常-5~20℃程度、好ましくは0~10℃である。工程(5-3)における反応時間は、通常0.15~2時間、好ましくは0.5~1時間である。
【0093】
工程(5-3)で得られた生成物は、常法に従って反応混合物から生成物を単離することもでき、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留等の通常の分離手段によって容易に精製することもできる。また、工程(5-3)で得られた生成物の構造は、元素分析、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、比旋光度分析、IR分析、H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0094】
以上のように、化合物(2)を原料である化合物(3)から化学的に合成することができる。
【0095】
化合物(2)及び化合物(2a)は、それぞれβ-セクレターゼ阻害作用等の活性を有している。
【0096】
β-セクレターゼ阻害作用に関して、化合物(2a)は、(S)-(+)-フィルベルトン[化合物(1a)]よりも高いβ-セクレターゼ阻害活性を有している(試験例1参照)。
【0097】
本発明のβ-セクレターゼ阻害剤は、1-ヒドロキシフィルベルトンを有効成分として含有する。β-セクレターゼ阻害剤中の1-ヒドロキシフィルベルトンの含有割合は、通常0.001~100質量%、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.1~10質量%である。
【0098】
本発明のβ-セクレターゼ阻害剤は、好ましくは(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトンを有効成分として含有する。β-セクレターゼ阻害剤中の(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトンの含有割合は、通常0.001~100質量%、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.1~10質量%である。
【0099】
また、本発明のβ-セクレターゼ阻害剤は、各種用途に用いることができる。例えば、本発明のβ-セクレターゼ阻害剤は、哺乳動物(特に、ヒト)における脳疾患(例えば、認知症等)の予防剤又は認知機能賦活剤、特に認知症の予防剤又は認知機能賦活剤として用いることができる。さらに、本発明のβ―セクレターゼ阻害剤は、医薬としても有用である。本発明のβ-セクレターゼ阻害剤を医薬として用いる場合、哺乳動物(特に、ヒト)における脳疾患(例えば、認知症等)の予防薬又は治療薬、特に認知症の予防薬又は治療薬として用いることができる。
【0100】
化合物(2)又は化合物(2a)をヒト又は動物用の医薬組成物として用いる場合、化合物(2)又は化合物(2a)を、そのままの状態で又は適当な媒体で希釈して、医薬品等の製造分野における公知の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又は液剤等の種々の形態にして用いることができる。
【0101】
これらの形態においては、適当な媒体を添加してもよい。適当な媒体としては、医薬的に許容される賦形剤、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガント、ポリビニルピロリドン等)、充填剤(例えば、乳糖、砂糖、トウモロコシデンプン、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、錠剤用滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(例えば、馬鈴薯デンプン)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0102】
錠剤とする場合は、通常の製薬における周知の方法でコートしてもよい。液体製剤とする場合は、例えば、水性又は油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ、又はエリキシルの形態であってもよい。また、使用前に水等の適切な賦形剤と混合する乾燥製品として提供してもよい。
【0103】
液体製剤は、通常の添加剤、例えば、ソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂等の懸濁化剤;レシチン、ソルビタンモノオレエート、アラビアゴム等の乳化剤(食用脂を含んでもよい);アーモンド油、分画ココヤシ油又はグリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール等の油性エステル等の非水性賦形剤;p-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒドロキシ安息香酸プロピル、ソルビン酸等の保存剤を含んでもよく、さらに所望により着色剤、香料等を含んでもよい。
【0104】
医薬組成物における化合物(2)又は化合物(2a)の使用量は、使用目的、対象疾患、自覚症状の程度、使用者の体重、年齢等により、適宜調整される。
【0105】
製剤を投与する場合、その形態は特に限定されず、通常用いられる方法であればよく、経口投与でも非経口投与でもよい。本発明に係る投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態、塩の種類、疾患の具体的な種類等に応じて、製剤学的な有効量を適宜選ぶことができる。
【0106】
本発明のフィルベルトン誘導体は、強いβ-セクレターゼ阻害活性を有するだけでなく、重量感のある甘い香りを有することから、例えば、化粧品、入浴剤、石鹸、芳香剤、アロマテラピー用エッセンシャルオイル、消臭剤、香水、整髪料等の香粧品に加えて用いることができる。
【0107】
上記香粧品における本発明のフィルベルトン誘導体の含有割合は、通常0.001~100質量%、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.1~10質量%である。
【0108】
本発明のフィルベルトン誘導体を含む上記香粧品を用いた場合には、精油の香りによるリラクゼーション効果、リフレッシュ効果が発揮され、またストレスの多い現代社会において心身の癒し効果が発揮される。上記香粧品を、高齢者、病人等が生活する環境で用いることにより、脳疾患(例えば、認知症等)の予防効果(例えば、認知症予防効果)及び/又は脳疾患(例えば、認知症等)の改善効果(例えば、認知機能賦活効果)を発揮することが期待できる。それ故、本発明のフィルベルトン誘導体は、健康長寿のためのケア商品に応用できると考えられる。
【0109】
本発明のフィルベルトン誘導体は、アロマテラピー用エッセンシャルオイルとして用いることがより好ましい。該アロマテラピー用エッセンシャルオイルを所定の場所に撒布して、吸入し得る形態で使用することもできる。撒布場所としては、例えば、家庭の部屋内、ホテルの部屋、会議室、病室の他、人の集まる催し物会場、休憩広場、各種リラクゼーション施設等に撒布することができる。これらの中でも、認知症の患者が生活する病院、施設等で用いることにより、認知症の予防効果及び/又は認知機能賦活効果が期待される。
【0110】
また、本発明のフィルベルトン誘導体は、重量感のある甘い香りを有することから、食品添加剤として、例えば、清涼飲料、乳製品(加工乳、ヨーグルト)、菓子類(ゼリー、チョコレート、ビスケット、ガム、錠菓)等の各種飲食品に配合することもできる。本発明のフィルベルトン誘導体は、このような人間用の飲食品に食品添加剤として配合されるだけでなく、イヌ、ネコ等のペットフードに食品添加剤として配合することも可能である。
【0111】
上記各種飲食品における本発明のフィルベルトン誘導体の含有割合は、通常0.001~100質量%、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.1~10質量%である。
【実施例0112】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0113】
実施例で使用した機器は、以下の通りである。
【0114】
<NMRスペクトル>
NMRスペクトルの測定には、JEOL RESONANCE株式会社製のECA800(800MHz、H;200MHz、13C)分光器を使用した。CDCl中のテトラメチルシラン(TMS)を標準物質として使用した。多重度は、DEPT135°により決定した。
【0115】
<比旋光度>
比旋光度の測定は、日本分光株式会社製のP-2200を使用した。
【0116】
<ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)>
GC-MSの測定は、株式会社島津製作所製のQP-2010plusを使用した。
【0117】
(実施例1)
<ヒト肝ミクロソームを用いた(S)-(+)-フィルベルトンの代謝による(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトンの製造>
試験管にヒト肝ミクロソーム(HLM)、(S)-(+)-フィルベルトン[化合物(1a)]、リン酸緩衝液(pH7.4)、NADPH-generating systemを加え、37℃で30分間培養を行った。その後、反応停止剤及び抽出溶媒として塩化メチレン(CHCl)(0.2mL)を加えて攪拌し、遠心分離を行い、得られた有機層をGC-MS測定により変換生成物の確認を行った。GC-MS測定にて解析を行った結果、ヒト肝ミクロソームによる化合物(1a)の代謝により、新規化合物である(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトン[化合物(2a)]が生成したことが確認された。各種解析結果を、図1に示す。
【0118】
(実施例2)
<(S)-(-)-2-メチルブタノールから(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトンの製造>
(S)-(-)-2-メチルブタノールから(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトン[化合物(2a)]を合成する操作の一例を、図2に示す。以下の工程において、減圧濃縮は、ロータリーエバポレーターを用いて行った。なお、以下の「a:第1工程」乃至「g:工程(5-3)」は、それぞれ図2に記載の「a」乃至「g」の工程に対応している。
【0119】
a:第1工程
次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)(200mL、70.0ミリモル)及び炭酸水素ナトリウム(2.2g、25.7ミリモル)の溶液に、(S)-(-)-2-メチルブタノール(5.0g、57.6ミリモル)、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)(0.16g、1.0ミリモル)及び臭化カリウム(0.04g、0.03ミリモル)、水(5mL)、ジクロロメタン(50mL)を0℃で加えて1時間撹拌した。抽出、精製処理を行い、(S)-(+)-2-メチルブタナールを4.5g得た(収率90%)。
【0120】
b:第2工程
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(30mL)中において、第1a工程で得られた(S)-(+)-2-メチルブタナール(2.0g、23.2ミリモル)とアリルブロミド(3.8mL、45.0ミリモル)とを、亜鉛(2.0g、30ミリモル)を触媒として、25℃で0.5時間反応させ、(5S)-5-メチルヘプト-1-エン-4-オールを2.5g得た(収率85%)。
【0121】
c:第3工程
ジクロロメタン(50mL)中において、第2工程で得られた(5S)-5-メチルヘプト-1-エン-4-オール(2.0g、15.6ミリモル)とデス・マーチン試薬である1,1,1-トリアセトキシ-1,1-ジヒドロ-1,2-ベンズヨードキソール-3(1H)-オン(8.5g、20ミリモル)と、を0℃で1時間反応させ、ケトン体である(5S)-5-メチルヘプト-1-エン-4-オンを1.71g得た(収率87%)。
【0122】
d:第4工程
アセトンと水との混合溶媒[5:25(容積比=アセトン:水)、30mL]中において、第3工程で得られた(5S)-5-メチルヘプト-1-エン-4-オン(1.5g、11.9ミリモル)を、再酸化剤であるN-メチルモルホリン N-オキシド(NMO)(1.6g、15.0ミリモル)の共存下、四酸化オスミウム(0.13g、0.5ミリモル)と25℃で2時間反応させ、(5S)-5-メチルヘプト-1-エン-4-オンのビニル基のジヒドロキシル化を行うことにより、ジオール体である(5S)-1,2-ジヒドロキシ-5-メチルヘプタン-4-オンを1.24g得た(収率65%)。
【0123】
第5工程
e:工程(5-1)
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(30mL)中において、第4a工程で得られたジオール体である(5S)-1,2-ジヒドロキシ-5-メチルヘプタン-4-オン(1.0g、6.2ミリモル)とtert-ブチルジメチルシリルクロリド(TBDMSCl)(0.93g、6.2ミリモル)、イミダゾール(0.68g、10.0ミリモル)とを25℃で1時間反応させることにより、(5S)-1,2-ジヒドロキシ-5-メチルヘプタン-4-オンの第1級アルコールを選択的に保護した化合物を1.4g得た(収率82%)。
【0124】
f:工程(5-2)
テトラヒドロフラン(THF)(10mL)中において、工程(5-1)で得られた化合物(0.5g、1.82ミリモル)とバージェス試薬(0.6g、2.5ミリモル)とを40℃で2時間反応させることにより、脱水された化合物を0.34g得た(収率73%)。
【0125】
g:工程(5-3)
THF(10mL)中において、工程(5-2)で得られた化合物とテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)(0.5g、2.0ミリモル)とを0℃で0.5時間反応させることにより、目的化合物である(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトン[化合物(2a)]を0.18g得た(収率95%)。
【0126】
<試験例1(β-セクレターゼ阻害試験)>
β-セクレターゼ阻害活性を、PanVera社から購入したBACE1(組換えヒトBACE1)アッセイキットを用いて評価した。評価試験は、メーカーが作製したキットの取扱説明書の記載を改変した方法(Jeon S.Y., et. al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 13: 3905-3908 (2003))に従って行った。以下、評価方法について簡単に説明する。
【0127】
10μLのBACE1(1.0U/ml)、10μLの基質(50mM重炭酸アンモニウム中の750nM Rh-EVNLDAEFK-Quencher)、及び10μLの試料溶液(試料を30%DMSOに溶かした溶液)を混合して試験試料とした。また、上記試料溶液の替わりに10μLのアッセイバッファー(30%DMSO含有、50mM酢酸ナトリウム、pH4.5)を加えたものをコントロールとした。これらを暗所において室温で60分間インキュベーションした後に、550nmの波長の光を照射して励起させ、590nmの波長における発光強度を測定した。
【0128】
β-セクレターゼ活性の阻害パーセントを以下の式:
セクレターゼ活性(%)=[1-{(S-S)/(C-C)}]×100
[式中、Cは60分間のインキュベーション後のコントロール(酵素、バッファー及び基質)の発光強度を示し、Cは0時におけるコントロールの発光強度を示し、Sはインキュベーション後の試験試料(酵素、試料溶液及び基質)の発光強度を示し、Sは0時における試料の発光強度を示す。]に従って計算した。なお、全データは、3回の試験結果の平均である。試験結果を図3に示す。この試験結果から、(S)-(+)-1-ヒドロキシフィルベルトンは、(S)-(+)-フィルベルトンよりも高いβ-セクレターゼ阻害活性を有していることが示された。
図1
図2
図3