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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064324
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】プラズマアークシステム
(51)【国際特許分類】
   B23K 10/02 20060101AFI20230501BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B23K10/02 A
B23K31/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174543
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】高田 主税
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BA04
4E001DE01
4E001DE03
4E001DE04
4E001EA01
(57)【要約】
【課題】パイロットアークによるトーチの焼損を抑制できるプラズマアークシステムを提供する。
【解決手段】プラズマアーク溶接システムB1において、非消耗電極121および非消耗電極121を囲むプラズマノズル122を有するトーチ12と、非消耗電極121とプラズマノズル122との間にパイロットアーク電流Ipを流すパイロットアーク電源回路31と、非消耗電極121とプラズマノズル122との間のパイロットアーク電圧Vpの電圧値を検出するパイロットアーク電圧検出回路36とを備えた。パイロットアーク電源回路31は、電圧値が閾値V0以上の場合に、アーク異常を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非消耗電極および前記非消耗電極を囲むプラズマノズルを有するトーチと、
前記非消耗電極と前記プラズマノズルとの間にパイロットアーク電流を流すパイロットアーク電源回路と、
前記非消耗電極と前記プラズマノズルとの間のパイロットアーク電圧の電圧値を検出するパイロットアーク電圧検出回路と、
を備え、
前記パイロットアーク電源回路は、前記電圧値が閾値以上の場合に、アーク異常を検出する、
プラズマアークシステム。
【請求項2】
前記パイロットアーク電源回路は、定常電流値より小さい初期電流値に制御された前記パイロットアーク電流を流し、アーク異常を検出しなかった場合に、前記定常電流値に制御された前記パイロットアーク電流を流す、
請求項1に記載のプラズマアークシステム。
【請求項3】
前記初期電流値は、前記定常電流値の10%以下であり、かつ、1A以下である、
請求項2に記載のプラズマアークシステム。
【請求項4】
前記閾値は、正常なパイロットアークが発生したときの前記パイロットアーク電圧の電圧値より大きく、パイロットアークが意図しないところに発生したときの前記パイロットアーク電圧の電圧値が取り得る値より小さい値である、
請求項1ないし3のいずれかに記載のプラズマアークシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマアークシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラズマアーク溶接システムが知られている。プラズマアーク溶接システムは、電極とプラズマノズルとの間にパイロットアークを発生させ、パイロットアークによりプラズマガスを電離させて放出した状態で、電極と母材との間で空気絶縁破壊を起こしてメインアークを点弧させる(後述する図2(a)参照)。そして、メインアークが発生している状態で、母材の溶接を行う。プラズマアーク溶接システムは、たとえば、特許文献1などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-62912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、トーチ内部において汚れなどにより絶縁性能が低下すると、パイロットアークが意図してないところに点弧してしまう場合がある。例えば、電極との通電を防ぐためにトーチ内部の導電体と電極との間には絶縁物が介在しているが、当該絶縁物の劣化部分が破壊されて、電極とトーチ内部の導電体との間にパイロットアークが点弧してしまう場合がある(後述する図2(b)参照)。また、プラズマノズルの内部にプラズマガスを通過させるための穴を介して、電極とトーチ内部の導電体との間にパイロットアークが点弧してしまう場合がある。これらの場合、メインアークが点弧できないうえに、トーチ内部が焼損する可能性がある。プラズマアーク溶接システムだけでなく、プラズマアーク切断システムなどの他のプラズマアークシステムにおいても、上述した問題は発生する。
【0005】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、パイロットアークによるトーチの焼損を抑制できるプラズマアークシステムを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明の第1の側面によって提供されるプラズマアークシステムは、非消耗電極および前記非消耗電極を囲むプラズマノズルを有するトーチと、前記非消耗電極と前記プラズマノズルとの間にパイロットアーク電流を流すパイロットアーク電源回路と、前記非消耗電極と前記プラズマノズルとの間のパイロットアーク電圧の電圧値を検出するパイロットアーク電圧検出回路とを備え、前記パイロットアーク電源回路は、前記電圧値が閾値以上の場合に、アーク異常を検出する。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記パイロットアーク電源回路は、定常電流値より小さい初期電流値に制御された前記パイロットアーク電流を流し、アーク異常を検出しなかった場合に、前記定常電流値に制御された前記パイロットアーク電流を流す。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記初期電流値は、前記定常電流値の10%以下であり、かつ、1A以下である。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記パイロットアーク電源回路は、アーク異常を検出した場合に、前記パイロットアーク電流の出力を停止する。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記閾値は、正常なパイロットアークが発生したときの前記パイロットアーク電圧の電圧値より大きく、パイロットアークが意図しないところに発生したときの前記パイロットアーク電圧の電圧値が取り得る値より小さい値である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、パイロットアーク電源回路は、非消耗電極とプラズマノズルとの間にパイロットアーク電流を流し、パイロットアーク電圧検出回路は、非消耗電極とプラズマノズルとの間のパイロットアーク電圧の電圧値を検出する。発生したパイロットアークが長くなるほど、パイロットアーク電圧の電圧値は大きくなる。パイロットアーク電源回路は、パイロットアーク電圧の電圧値が閾値以上の場合に、意図したパイロットアークより長いアークが発生したと判断して、アーク異常を検出する。これにより、アーク異常の発生が検出できるので、パイロットアークによるトーチの焼損を抑制できる。
【0013】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係るプラズマアーク溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
図2図1のプラズマアーク溶接システムにおけるトーチを示す簡略化された拡大断面図である。
図3図1のプラズマアーク溶接システムの起動時のパイロットアーク用回路の各信号のタイミングチャートである。
図4図1のプラズマアーク溶接システムの変形例の起動時のパイロットアーク用回路の各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係るプラズマアークシステムをプラズマアーク溶接システムとして用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0016】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係るプラズマアーク溶接システムB1の全体構成を示すブロック図である。図2は、プラズマアーク溶接システムB1におけるトーチ12を示す簡略化されて拡大断面図である。図2(a)においては、正常なパイロットアークPaにより、メインアークMaが発生した状態を示している。図2(b)においては、意図しないパイロットアークPaが発生している状態を示している。
【0017】
プラズマアーク溶接システムB1は、図1に示すように、溶接ロボット1と、動作制御回路2と、パイロットアーク用回路3と、メインアーク用回路4と、プラズマガス供給装置81と、シールドガス供給装置82と、制御装置5と、を備える。
【0018】
溶接ロボット1は、母材Wに対してプラズマアーク溶接を自動で行うものである。溶接ロボット1は、マニピュレータ11と、トーチ12と、を含む。マニピュレータ11は、たとえば多関節ロボットである。トーチ12は、マニピュレータ11の駆動により、上下前後左右に自在に移動できる。
【0019】
図2によく表れているように、トーチ12は、非消耗電極121と、プラズマノズル122と、シールドガスノズル123とを有する。
【0020】
非消耗電極121は、たとえばタングステンからなる金属棒である。プラズマノズル122は筒状の部材である。プラズマノズル122は非消耗電極121を囲んでいる。プラズマノズル122は、非消耗電極121の先端側に、ノズル開口が配置されている。
【0021】
プラズマノズル122内をプラズマガスPGが流れる。図2(a)に示すように、プラズマガスPGを媒体として、プラズマノズル122と非消耗電極121との間にパイロットアークPaが発生する。パイロットアークPaが発生している際、プラズマノズル122と非消耗電極121との間には、パイロットアーク電流Ipが流れる。なお、パイロットアーク電流Ipの電流値とは、特に断りのない限り、パイロットアーク電流Ipの電流値の絶対値の時間平均値のことを意味する。なお、プラズマノズル122は、冷却手段(図示略)によって、適宜冷却される。
【0022】
非消耗電極121と母材Wとの間には、メインアークMaが発生する。メインアークMaは、プラズマノズル122のノズル開口に拘束される。メインアークMaが発生している際、非消耗電極121と母材Wとの間には、メインアーク電流Imが流れる。メインアーク電流Imは、母材Wの材質に応じて、直流もしくは交流いずれかが選択される。メインアーク電流Imは、直流のパルス電流である場合もあるし、交流のパルス電流である場合もある。なお、メインアーク電流Imの電流値とは、特に断りのない限り、メインアーク電流Imの電流値の絶対値の時間平均値のことを意味する。メインアークMaが発生している際、非消耗電極121と母材Wとの間には、メインアーク電圧Vmが印加される。
【0023】
シールドガスノズル123は筒状の部材である。シールドガスノズル123はプラズマノズル122を囲んでいる。シールドガスノズル123とプラズマノズル122との間を、シールドガスSGが流れる。本実施形態とは異なり、トーチ12は、シールドガスノズル123を含まなくてもよい。
【0024】
動作制御回路2は、マイクロコンピュータおよびメモリ(ともに図示略)を有している。このメモリには、溶接ロボット1の各種の動作が設定された作業プログラムが記憶されている。動作制御回路2は、上記作業プログラムに応じて、溶接ロボット1に対して動作制御信号Msを送る。溶接ロボット1は、動作制御信号Msを受け、マニピュレータ11を駆動させて、トーチ12を母材W上で移動させる。動作制御回路2は、制御装置5からの指令に基づいて、溶接ロボット1の動作を開始させる。
【0025】
パイロットアーク用回路3は、非消耗電極121とプラズマノズル122との間にパイロットアーク電流Ipを流す。本実施形態では、パイロットアーク用回路3は、パイロットアーク電流Ipの電流値を、設定された値となるように制御する。すなわち、パイロットアーク用回路3は、定電流制御を行う。パイロットアーク用回路3は、パイロットアーク電源回路31と、パイロットアーク電流検出回路33と、パイロットアーク電圧検出回路36と、を含む。
【0026】
パイロットアーク電源回路31は、たとえば200V等の商用電源を整流し抵抗器を直列に挿入した回路を含む。これにより、パイロットアーク電源回路31は、非消耗電極121とプラズマノズル122との間にパイロットアーク電流Ipを流す。パイロットアーク電源回路31は、パイロットアーク電流Ipの電流値を、設定された値となるように制御する。パイロットアーク電源回路31のその他の説明については、パイロットアーク電流検出回路33およびパイロットアーク電圧検出回路36の説明の後に記載する。
【0027】
パイロットアーク電流検出回路33は、非消耗電極121とプラズマノズル122との間に流れるパイロットアーク電流Ipの電流値を検出するためのものである。パイロットアーク電流検出回路33は、パイロットアーク電流Ipの電流値に対応するパイロットアーク電流検出信号Idpを送る。パイロットアーク電流検出信号Idpは、パイロットアーク電源回路31に送られる。
【0028】
パイロットアーク電圧検出回路36は、非消耗電極121とプラズマノズル122との間のパイロットアーク電圧Vpの電圧値を検出するためのものである。パイロットアーク電圧検出回路36は、パイロットアーク電圧Vpの電圧値に対応するパイロットアーク電圧検出信号Vdpを送る。パイロットアーク電圧検出信号Vdpは、パイロットアーク電源回路31に送られる。
【0029】
パイロットアーク電源回路31は、設定電流値に応じて、パイロットアーク電流Ipを出力する。パイロットアーク電源回路31は、パイロットアーク電流検出回路33が検出したパイロットアーク電流Ipの電流値が、設定電流値になるように、フィードバック制御を行う。本実施形態では、パイロットアーク電源回路31には、設定電流値として、定常電流値および初期電流値が設定されている。定常電流値は、パイロットアークPaによってプラズマガスPGを電離させるための設定電流値である。初期電流値は、定常電流値より小さく、定常電流値の10%以下、かつ、1A以下が望ましい。本実施形態では、定常電流値が10~20Aであり、初期電流値が0.1~0.5Aである。なお、定常電流値および初期電流値は限定されない。初期電流値は、パイロットアークPaを発生させることができる電流値であればよい。初期電流値は、定常電流値およびトーチ12の構成などに応じて、実験やシミュレーションに基づいて適宜設定される。
【0030】
また、パイロットアーク電源回路31は、パイロットアーク電圧検出回路36が検出したパイロットアーク電圧Vpの電圧値を閾値と比較し、パイロットアーク電圧Vpの電圧値が閾値以上である場合に、アーク異常を検出する。アーク異常は、パイロットアークPaが意図しないところに発生する異常である(図2(b)参照)。図2(b)の例では、絶縁物124の劣化部分が破壊されて、非消耗電極121とトーチ内部の導電体125との間にパイロットアークPaが発生している。アーク異常が発生した場合、パイロットアークPaの長さは、正常なパイロットアークPaより長くなる。発生したパイロットアークPaが長くなるほど、パイロットアーク電圧Vpの電圧値は大きくなる。正常なパイロットアークPaが発生したとき(図2(a)参照)のパイロットアーク電圧Vpの電圧値は、トーチ12の構成(例えば、非消耗電極121とプラズマノズル122との間隔など)からあらかじめ把握できる。また、アーク異常が発生したとき(図2(b)参照)のパイロットアーク電圧Vpの電圧値も、トーチ12の構成などからあらかじめ想定できる。正常なパイロットアークPaが発生したときのパイロットアーク電圧Vpの電圧値より大きく、アーク異常が発生したときのパイロットアーク電圧Vpの電圧値が取り得る値より小さい値が、閾値として設定される。例えば、正常なパイロットアークPaが発生したときのパイロットアーク電圧Vpの電圧値が5~6V程度であるところ、アーク異常が発生したときのパイロットアーク電圧Vpの電圧値が9~10V程度である場合、閾値が9V程度に設定される。なお、閾値は、限定されない。また、閾値は、接続されうるトーチ12のすべてをカバーできる固定値が設定されていてもよいし、接続されたトーチ12に応じた値が設定されてもよい。接続されたトーチ12の特定は、作業者が入力したトーチの型番などに基づいて行ってもよいし、パイロットアーク電源回路31が自動的に認識してもよい。
【0031】
パイロットアーク電源回路31は、制御装置5からの指令に基づいて、パイロットアーク電流Ipの出力の開始および停止を行う。本実施形態では、パイロットアーク電源回路31は、制御装置5からパイロットアーク電流Ipの出力の開始指令を入力された場合、まず、初期電流値に制御されたパイロットアーク電流Ipを出力する。そして、パイロットアーク電源回路31は、アーク異常を検出しなかった場合、定常電流値に制御されたパイロットアーク電流Ipを出力する。パイロットアーク電源回路31は、定常電流値に制御されたパイロットアーク電流Ipを出力している間も、パイロットアーク電圧検出回路36が検出したパイロットアーク電圧Vpの電圧値を閾値と比較してアーク異常の判定を継続する。なお、アーク異常が発生している場合は、通常、初期電流値のパイロットアーク電流Ipを流している間にアーク異常が検出される。したがって、パイロットアーク電源回路31は、定常電流値のパイロットアーク電流Ipを出力している間はアーク異常の判定を継続しなくてもよい。
【0032】
一方、パイロットアーク電源回路31は、アーク異常を検出した場合、パイロットアーク電流Ipの出力を停止する。この場合、パイロットアーク電源回路31は、アーク異常を検出したことを知らせる異常検出信号を制御装置5に出力する。なお、パイロットアーク電源回路31は、アーク異常を検出した場合に、図示しない報知手段によって、操作者に異常を報知(ブザー、警告灯、または警告表示など)してもよい。また、パイロットアーク電源回路31は、アーク異常を検出した場合、パイロットアーク電流Ipの出力を停止することなく、異常検出信号を制御装置5に出力してもよいし、操作者に異常を報知してもよい。
【0033】
図3は、プラズマアーク溶接システムB1の起動時のパイロットアーク用回路3の各信号のタイミングチャートである。同図(a)は、パイロットアーク電流Ipの電流値の変化状態を示す。同図(b)は、パイロットアーク電圧Vpの電圧値の変化状態を示す。
【0034】
制御装置5からパイロットアーク電流Ipの出力の開始を指令されると、パイロットアーク電源回路31は、初期電流値I1に制御されたパイロットアーク電流Ipを出力する。図3(a)に示すように、時刻t1から時刻t3において、パイロットアーク電流Ipが初期電流値I1になっている。時刻t1から時刻t3までの時間、すなわち、初期電流値I1に制御されたパイロットアーク電流Ipを出力する時間は限定されないが、例えば50~100ミリ秒程度である。この期間の時刻t2から、パイロットアーク電源回路31は、パイロットアーク電圧検出回路36が検出したパイロットアーク電圧Vpの取得を開始する。本実施形態では、パイロットアーク電流Ipの出力開始時のパイロットアーク電圧Vpの変動を検知しないように、パイロットアーク電流Ipが初期電流値I1に安定した時刻t1より後の時刻t2から、パイロットアーク電圧Vpの取得を開始している。なお、パイロットアーク電源回路31は、パイロットアーク電流Ipの出力当初から、パイロットアーク電圧Vpの取得を開始してもよい。
【0035】
図3(b)に実線で示すように、時刻t2から時刻t3の間で、パイロットアーク電圧Vpが閾値V0以上にならず、パイロットアーク電源回路31は、アーク異常を検出しなかったので、パイロットアーク電流Ipを初期電流値I1から定常電流値I2に引き上げている。図3(a)に示すように、時刻t4以降において、パイロットアーク電流Ipが定常電流値I2になっている。図3(b)に示すように、パイロットアーク電流Ipの引き上げに応じて、パイロットアーク電圧Vpも上昇している。しかし、パイロットアーク電圧Vpが閾値V0以上にならないので、アーク異常は検出されない。
【0036】
一方、図3(b)に破線で示すように、時刻t2以降において、パイロットアーク電圧Vpが閾値V0以上になった場合、パイロットアーク電源回路31は、アーク異常を検出して、パイロットアーク電流Ipの出力を停止する。
【0037】
メインアーク用回路4は、非消耗電極121と母材Wとの間にメインアーク電流Imを流す。本実施形態では、メインアーク用回路4は、メインアーク電流Imの電流値を、設定された値となるように制御する。すなわち、メインアーク用回路4は、定電流制御を行う。メインアーク用回路4は、メインアーク電源回路41を含む。実際には、メインアーク用回路4は、メインアーク電流Imおよびメインアーク電圧Vmを検出する構成を含んでいるが、記載および説明を省略する。
【0038】
メインアーク電源回路41は、たとえば3相200V等の商用電源を入力として、インバータ制御、サイリスタ位相制御等の出力制御を行う。これにより、メインアーク電源回路41は、非消耗電極121と母材Wとの間にメインアーク電流Imを流す。メインアーク電源回路41は、メインアーク電流Imの電流値またはメインアーク電圧Vmの電圧値を、設定された値となるように制御する。メインアーク電源回路41は、制御装置5からの指令に基づいて、メインアーク電流Imの出力の開始および停止を行う。
【0039】
プラズマガス供給装置81は、プラズマガスPGをプラズマノズル122の内部に供給するためのものである。プラズマガス供給装置81は、制御装置5からの指令に基づいて流量を制御して、プラズマガスPGを供給する。シールドガス供給装置82は、シールドガスSGをプラズマノズル122とシールドガスノズル123との間に供給するためのものである。シールドガス供給装置82は、制御装置5からの指令に基づいて流量を制御して、シールドガスSGを供給する。
【0040】
制御装置5は、プラズマアーク溶接システムB1を制御する。制御装置5は、プラズマアーク溶接システムB1による溶接を開始するとき、まず、プラズマガス供給装置81にプラズマガスPGの供給を開始させ、シールドガス供給装置82にシールドガスSGの供給を開始させる。次に、パイロットアーク電源回路31にパイロットアーク電流Ipの出力を開始させる。そして、パイロットアーク電源回路31から異常検出信号を入力されない場合、メインアーク電源回路41にメインアーク電流Imの出力を開始させる。制御装置5は、メインアークMaが安定した後は、パイロットアーク電源回路31にパイロットアーク電流Ipの出力を停止させてもよいし、パイロットアーク電流Ipの出力を継続させてもよい。そして、制御装置5は、動作制御回路2に、溶接ロボット1の動作を開始させる。一方、制御装置5は、パイロットアーク電源回路31から異常検出信号を入力された場合、メインアーク電源回路41にメインアーク電流Imを出力させることなく、プラズマガス供給装置81およびシールドガス供給装置82を停止させる。なお、この場合、制御装置5は、図示しない報知手段によって、操作者に異常を報知(ブザー、警告灯、または警告表示など)してもよい。
【0041】
次に、プラズマアーク溶接システムB1の作用効果について説明する。
【0042】
本実施形態によると、パイロットアーク電源回路31は、非消耗電極121とプラズマノズル122との間にパイロットアーク電流Ipを流す。パイロットアーク電圧検出回路36は、非消耗電極121とプラズマノズル122との間のパイロットアーク電圧Vpの電圧値を検出する。発生したパイロットアークPaが長くなるほど、パイロットアーク電圧Vpの電圧値は大きくなる。パイロットアーク電源回路31は、パイロットアーク電圧Vpの電圧値が閾値以上である場合に、アーク異常を検出する。パイロットアーク電源回路31は、アーク異常を検出した場合、パイロットアーク電流Ipの出力を停止する。これにより、パイロットアークPaによるトーチ12の焼損を抑制できる。
【0043】
また、本実施形態によると、パイロットアーク電源回路31は、定常電流値に制御されたパイロットアーク電流Ipを出力する前に、定常電流値より小さい初期電流値に制御されたパイロットアーク電流Ipを出力する。これにより、アーク異常が発生している場合に、定常電流値に制御されたパイロットアーク電流Ipが流れることにより、トーチ12が焼損することを防止できる。また、本実施形態では、初期電流値は、定常電流値の10%以下、かつ、1A以下である。したがって、アーク異常が発生している場合でも、初期電流値に制御されたパイロットアーク電流Ipが流れてトーチ12が焼損することは、抑制される。
【0044】
なお、上記第1実施形態においては、パイロットアーク電源回路31は、まず、初期電流値のパイロットアーク電流Ipを出力し、その後、定常電流値のパイロットアーク電流Ipを出力する場合について説明したが、これに限られない。パイロットアーク電源回路31は、初期電流値のパイロットアーク電流Ipを出力することなく、初めから定常電流値のパイロットアーク電流Ipを出力してもよい。
【0045】
図4は、当該変形例の起動時のパイロットアーク用回路3の各信号のタイミングチャートである。図3と同様、図4(a)がパイロットアーク電流Ipの電流値の変化状態を示し、図4(b)がパイロットアーク電圧Vpの電圧値の変化状態を示す。制御装置5からパイロットアーク電流Ipの出力の開始を指令されると、パイロットアーク電源回路31は、定常電流値I2に制御されたパイロットアーク電流Ipを出力する。図4(a)に示すように、時刻t1において、パイロットアーク電流Ipが定常電流値I2になっている。時刻t1以降の時刻t2から、パイロットアーク電源回路31は、パイロットアーク電圧検出回路36が検出したパイロットアーク電圧Vpの取得を開始する。図4(b)に実線で示すように、時刻t2以降において、パイロットアーク電圧Vpが閾値V0以上にならない場合、パイロットアーク電源回路31は、アーク異常を検出しないので、定常電流値I2のパイロットアーク電流Ipの出力を継続する。一方、図4(b)に破線で示すように、時刻t2以降において、パイロットアーク電圧Vpが閾値V0以上になった場合、パイロットアーク電源回路31は、アーク異常を検出して、パイロットアーク電流Ipの出力を停止する。本変形例においても、パイロットアーク電源回路31は、パイロットアーク電圧Vpの電圧値が閾値以上である場合にアーク異常を検出してパイロットアーク電流Ipの出力を停止するので、パイロットアークPaによるトーチ12の焼損を抑制できる。
【0046】
また、上記第1実施形態においては、プラズマアーク溶接システムB1は、マニピュレータ11がトーチ12を移動させる溶接ロボット1を備える場合について説明したが、これに限られない。プラズマアーク溶接システムB1は、台車にトーチ12を取り付けて、当該台車を移動させる構成であってもよいし、作業者がトーチ12を把持して移動させる構成であってもよい。
【0047】
また、上記第1実施形態においては、本発明をプラズマアーク溶接システムに適用した場合について説明したが、これに限られない。本発明は、プラズマアーク切断システムなどの他のプラズマアークシステムにも適用可能である。
【0048】
本発明に係るプラズマアークシステムは、上記した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るプラズマアークシステムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0049】
B1:プラズマアーク溶接システム、12:トーチ、121:非消耗電極、122:プラズマノズル、31:パイロットアーク電源回路、36:パイロットアーク電圧検出回路
図1
図2
図3
図4