(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064370
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】水素発生材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/06 20060101AFI20230501BHJP
C01B 3/08 20060101ALI20230501BHJP
C01B 6/04 20060101ALI20230501BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20230501BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20230501BHJP
C08K 3/12 20060101ALI20230501BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20230501BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20230501BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C01B3/06
C01B3/08
C01B6/04
C08L101/12
C08K3/08
C08K3/12
C08L71/00 Y
C08L23/02
C08L25/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174614
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】泉田 博志
(72)【発明者】
【氏名】松井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅喜
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 啓介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB03W
4J002BB12W
4J002BC03W
4J002CF06W
4J002CH03W
4J002CH05X
4J002DA096
4J002DB016
4J002FD206
4J002GA00
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】使用時間が短い用途でもより多くの水素を供給することが可能な水素発生材料を提供する。
【解決手段】水と反応して分子状水素を発生する水素発生剤と、吸水性樹脂とを含むことを特徴とする水素発生材料に係る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と反応して分子状水素を発生する水素発生剤と、吸水性樹脂とを含むことを特徴とする水素発生材料。
【請求項2】
前記水素発生剤が、金属及び水素化金属の少なくとも1種である、請求項1に記載の水素発生材料。
【請求項3】
前記水素発生剤は粒子状であり、前記粒子の体積平均粒子径が1~100μmである、請求項1又は2に記載の水素発生材料。
【請求項4】
前記吸水性樹脂としてポリアルキレンオキサイド系樹脂を含む、請求項1~3のいずれかに記載の水素発生材料。
【請求項5】
さらにポリオレフィン樹脂及びスチロール樹脂の少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれかに記載の水素発生材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水素発生材料に関する。より具体的には、水又は水を含む液体と接触した際に水素を発生する材料に関する
【背景技術】
【0002】
近年、水素ガスあるいは水素を含む水又は液体を人体に作用させた際に、人体にいろいろな有益な効能が得られることが明らかとなりつつある。このため、水素を発生させる材料、水素を密封した製品等が種々提案されている。
【0003】
例えば、水と接触することにより水素を発生する材料であって、(1)a)水と反応して水素を発生し得る水素発生粒子、b)被覆用樹脂及びc)マトリックス用樹脂を含み、(2)少なくとも当該材料表面から突出する水素発生粒子の表面が被覆用樹脂を含む被覆層で覆われている、ことを特徴とする水素発生材料が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術のような水素発生材料では、水素発生速度が遅く、短時間では十分な水素量を供給することは困難である。従って、このような水素発生材料は、例えば使用時間が短い用途には適していない。
【0006】
従って、本発明の主な目的は、使用時間が短い用途でもより多くの水素を供給することが可能な水素発生材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する材料が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の水素発生材料に係る。
1. 水と反応して分子状水素を発生する水素発生剤と、吸水性樹脂とを含むことを特徴とする水素発生材料。
2. 前記水素発生剤が、金属及び水素化金属の少なくとも1種である、前記項1に記載の水素発生材料。
3. 前記水素発生剤は粒子状であり、前記粒子の体積平均粒子径が1~100μmである、前記項1又は2に記載の水素発生材料。
4. 前記吸水性樹脂がポリアルキレンオキサイド系樹脂を含む、前記項1~3のいずれかに記載の水素発生材料。
5. 前記吸水性樹脂が、さらにポリオレフィン樹脂又はスチロール樹脂の少なくとも1種を含む、前記項1~4のいずれかに記載の水素発生材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用時間が短い用途でもより多くの水素を供給することが可能な水素発生材料を提供することができる。特に、本発明では、水素発生剤のいわば支持体として吸水性樹脂を用いているので、本発明材料中で水素発生剤が水と接触できる機会(頻度)が高まり、それによって効果的に水素を発生させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の水素発生材料(本発明材料)は、水と反応して分子状水素を発生する水素発生剤と、吸水性樹脂とを含むことを特徴とする。従って、本発明材料は、基本的には水素発生剤と吸水性樹脂から構成されるが、本発明の効果を妨げない範囲内で他の成分(樹脂成分、添加剤等)が含まれていても良い。
【0011】
水素発生剤は、水と反応して分子状水素を供給する物質であれば限定的でなく、特に金属及び水素化金属(金属水素化物)の少なくとも1種を好適に用いることができる。ここで、上記の水としては、液体単体の水(H2O)(純水、水道水等)のほか、水を含む組成物(水溶液又は水分散液)中に含まれる水、水蒸気等のいずれであっても良い。
【0012】
金属としては、例えばマグネシウム、アルミニウム等の金属単体及びそれらを含む合金からなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0013】
水素化金属としては、例えば水素化マグネシウム、水素化カルシウム、水素化バリウム、水素化ベリリウム、水素化ストロンチウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウムナトリウム、水素化ケイ素、水素化アルミニウム等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。
【0014】
水素発生剤の形態は、特に限定さないが、通常は粉末状であることが好ましい。この場合の粉末を構成する粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば体積平均粒子径が1~100μmのものが好ましい。従って、例えば体積平均粒子径が10~50μmの粒子も好適に用いることができる。体積平均粒子径が1μm未満である場合は、粒子どうしが凝集しやすくなり、吸水性樹脂への分散性が低下するおそれがある。また、平均粒径が100μmを超えると、粒子の重さが樹脂への分散性低下に影響するおそれがある。ここで、体積平均粒子径とは、レーザー回折法により測定された粒子群の体積累積粒度分布の結果から平均粒径D50(50%粒子径)を算出した値である。
【0015】
また、粒子は、上記金属又は水素化金属のみにより構成されても良いが、本発明の効果を妨げない限り、例えば樹脂に粒子が混練された造粒物の形態でも良いし、粒子の表面が樹脂等で被覆された複合粒子の形態等であっても良い。
【0016】
本発明材料における水素発生剤の含有量は、所望の水素発生量等に応じて適宜設定することができ、例えば本発明材料中0.1~10重量%程度とすることができるが、これに限定されない。この範囲内に設定することによって、水素発生剤の分散性がより高くなり、より高い水素発生速度を得ることができる。
【0017】
吸水性樹脂は、特に水素発生剤の支持体として機能するとともに、水との接触を促進する機能を有する。このため、吸水性樹脂が水素発生剤を内包したり、あるいは吸水性樹脂に水素発生剤が分散されることで支持体等として機能できる。
【0018】
吸水性樹脂は、樹脂材料として吸水性を謳うものであれば特に限定されないが、例えばアクリル酸-ビニルアルコール共重合体、ポリアルキレンオキサイド系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等の少なくとも1種を吸水性樹脂(本発明吸水性樹脂)として好適に用いることができる。その中でも、ポリアルキレンオキサイド系樹脂(例えば変性ポリアルキレンオキサイド)が、コンパウンド時の取扱いが容易であるとともに、比較的少ない配合量でベース樹脂に吸水性能を付与できるという点でより好ましい。
【0019】
なお、本発明において、吸水性樹脂とは、デシケータにて十分に乾燥した吸収性樹脂(粒状又はシート状)を十分な量の純水(23℃)に浸して24時間後に取り出し、表面の水分をふき取ったときの重量(吸水率)が元の吸収性樹脂の重量よりも0.2%以上増加するものと定義する。
【0020】
本発明材料中における吸水性樹脂の含有量は、例えば用いる水素発生剤の種類、所望の水素発生量等に応じて適宜設定することができる。従って、例えば20~99.9重量%程度(さらには30~95質量%程度)の範囲内で設定することもできるが、これに限定されない。
【0021】
本発明材料では、主として吸水速度の制御、強度、加工性等の向上の目的で、上記吸水性樹脂(特に本発明吸水性樹脂)とは別途に、例えばスチロール樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエチレングリコール等の少なくとも1種の樹脂を適宜併用しても良い。これらの樹脂の配合量は、例えば本発明材料中30~80重量%程度とすることもできるが、これに限定されない。
【0022】
また、本発明では、必要に応じて、例えばでんぷん、セルロース等の吸水剤を併用することもできる。例えば、比較的吸水性が低い樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、スチロール樹脂等)に添加することにより吸水性を高めた樹脂組成物を用いることもできる。この場合の吸水剤の添加量は、特に限定されないが、通常は樹脂100重量部に対して5~50重量部程度とすることができる。
【0023】
本発明材料の形態は、本発明の効果を妨げない範囲内において、特に限定されず、例えば粉末状(造粒物)、成形体等のいずれでも良い。
【0024】
本発明材料の製造方法は、特に限定されず、例えば所望の形態、用いる原料の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0025】
一般的には、吸水性樹脂を含む樹脂成分に水素発生剤を添加する工程を含む方法を採用すれば良い。添加方法は、公知又は市販の混合機、ニーダー等の各種の装置を用いれば良い。
【0026】
水素発生剤を添加する方法は、特に限定されないが、例えばa)水素発生剤を熱可塑性の樹脂成分(例えば、吸水性樹脂を含む溶融物)と混練する方法、b)樹脂成分(吸水性樹脂等)が溶剤に溶解した溶液又は溶剤に分散した分散液に水素発生剤を分散する方法等を採用することができる。
【0027】
混合した後においては、必要に応じて所望の形態に成形することもできる。例えば、プレス成形、押出し成形等の公知の成形方法を採用することができる。
【0028】
例えば、本発明材料は、シート状の成形体として提供することができる。本発明材料がシート状である場合、その厚みは限定されないが、例えば0.1~10mmの範囲であると、水素供給先へ過不足なく効率的に水素を供給することができる。
【0029】
本発明材料では、一般に水素発生剤を含む量が多いほど、表面に露出する水素発生剤の量が増えるため、水と反応しやすくなる。かかる見地より、前記のように、水素発生剤の含有量は、例えば0.1~10重量%程度とすることができる。
【0030】
また、このシート状成形体の一方の面又は両面に、例えば紙、金属缶、金属板、金属箔、金属蒸着膜、不織布、布、樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上の層が積層された積層体の形態を採用することもできる。
【0031】
さらに、本発明材料は、平坦なシート状のまま使用してもよいが、エンボス状に成形しても良いし、容器形状に成形しても良い。また、発泡させて発泡体としても良い。
【0032】
また、本発明材料が粒子状(造粒物)の形態をとることもできる。この場合の造粒物の大きさは特に限定されないが、例えば体積平均粒子径が0.1~10mm程度が好ましい。体積平均粒子径が0.1mm未満の場合は、造粒物が舞いやすく作業性が悪くなるおそれがある。また、10mmを超えると、単位重量当たりの表面積が小さいため、水素発生速度が低下するおそれがある。本発明材料が上記の構成を備えることによって、水素発生速度が大きくなり、すなわち短時間での水素発生量が多くなる。
【0033】
本発明材料において、その発生した水素を利用する対象(水素供給先)としては、本発明材料と直接又は間接的に接触させて水素を供給する対象であれば良い。特に、水素の作用(例えば還元作用)により物性を維持ないしは改善できるものが好ましい。
【0034】
また、水素供給先は、水又は水を含む液体であっても良いし、水を含む固体あるいは気体であっても良い。従って、例えばa)飲料、食肉類、魚介類、野菜、果物等の食材、b)前記食材を原材料とする加工食品のほか、例えば生花、菌類、細菌類、植物の種子、輸血用血液、輸液、風呂水、洗濯水、洗剤、大気、創傷被覆材、化粧品、オムツ、ペット用飲料、飼育水槽水、微生物、土壌、餌、室内空間、人体、動物、植物等が水素供給先として挙げられる。これらは、水素供給先であると同時に水素発生材料への水分供給源にもなり得るが、水分供給源と水素供給先とが異なっていても良い。特に、水素供給先は、水素発生材料への水分供給源であることが好ましい。
【実施例0035】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0036】
実施例1
市販の水素化マグネシウム粉末(和光純薬工業株式会社 体積平均粒子径D50:15μm)を、変性ポリアルキレンオキサイド系吸水性樹脂(住友精化株式会社「アクアコークTWB」)に練り込み、水素化マグネシウム含有コンパウンドを作製した。その割合は、吸水性樹脂全量に対して水素化マグネシウム粉末6重量%とした。
水素化マグネシウム含有コンパウンドを凍結粉砕し、粒子径10mm以下の吸水性水素発生材料を得た。なお、原材料樹脂の吸水能(水を含んだときの水分率)は2000%であった。
【0037】
実施例2
市販の水素化マグネシウム粉末(和光純薬工業株式会社 体積平均粒子径D50:15μm)を事前に市販のポリエチレン樹脂(株式会社プライムポリマー「SP2020」)68重量%と変性ポリアルキレンオキサイド系吸水性樹脂(住友精化株式会社「アクアコークTWB」、吸水率:約3100重量%)32重量%との混合樹脂を溶融させて練り込み、水素化マグネシウム含有コンパウンドを作製した。その割合は、混合樹脂全量に対して水素化マグネシウム粉末5重量%とした。
水素化マグネシウム含有コンパウンドを十分に乾燥させた状態で溶融押出成形法によりフィルム状(厚み約1mm)に製膜し、吸水性水素発生材料を得た。このとき、吸水性水素発生材料に対する水素化マグネシウム粉末は5重量%とし、吸水性水素発生材料に対する吸水性樹脂の含有量は約30重量%とした。なお、原材料の混合樹脂の吸水能は700%であった。
【0038】
比較例1
市販の水素化マグネシウム粉末(和光純薬工業株式会社 体積平均粒子径D50:15μm)を市販のポリエチレン樹脂に練り込み、水素化マグネシウム含有コンパウンドを作製した。その割合は、ポリエチレン樹脂全量に対して水素化マグネシウム粉末6重量%とした。得られた水素発生材料の粒子径は10mm以下であった。なお、原材料樹脂の吸水能は0.05%であった。
【0039】
比較例2
市販の水素化マグネシウム粉末(和光純薬工業株式会社 体積平均粒子径D50:15μm)を市販のポリエチレン樹脂に練り込み、水素化マグネシウム含有コンパウンドを作製した。その割合は、ポリエチレン樹脂全量に対して水素化マグネシウム粉末5重量%とした。水素化マグネシウム含有コンパウンドを溶融押出成形法によりフィルム状(厚み約1mm)に製膜し、水素発生材料を得た。
【0040】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた試料の水素発生能を以下の手順にて評価した。まず、500mLスリ付き三角フラスコに試料1gを投入した後、三角フラスコの口まで純水を満たした。次いで、特製のガラス管貫通スリつき蓋を被せた。これにより、蓋を被せた際に、三角フラスコ内の純水が溢れ、三角フラスコ内の気層が除かれた。その後、水素発生により内圧が高くなり、純水がガラス管を通って排出された。気温が約20℃に管理された室内に保管し、4時間経過後に溶存水素濃度及び水に溶けなかった水素ガス量を測定した。溶存水素濃度は、溶存水素センサー(製品名「H2-500sensor」UNISENSE社製,隔膜電極法による溶存水素濃度測定装置)を用いて測定した。溶存水素濃度及び水に溶けなかった水素ガス量を各試料の水素化マグネシウム濃度(重量%)で除した値、すなわち単位水素化マグネシウム量当たりの水素発生量として比較した。その結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
表1の結果からも明らかなように、本発明の水素発生材料は、吸水性樹脂中に水素発生剤を含有させることで、4時間という比較的短時間でより多くの水素を供給できることがわかる。