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  • 特開-目覚め感改善剤又は時差ボケ予防剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064392
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】目覚め感改善剤又は時差ボケ予防剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20230501BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 25/26 20060101ALI20230501BHJP
   A61P 5/44 20060101ALI20230501BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20230501BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230501BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
A61K31/353
A61P43/00 111
A61P25/02 104
A61P25/26
A61P5/44
A61K36/752
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174652
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 隆人
(72)【発明者】
【氏名】上原 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】對馬 千沙都
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD07
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK06
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA35
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA25
4C086ZC02
4C086ZC08
4C088AB62
4C088AC04
4C088BA08
4C088BA32
4C088CA03
4C088MA16
4C088MA17
4C088MA35
4C088MA52
4C088MA55
4C088MA66
4C088NA14
4C088ZA01
4C088ZA25
4C088ZC02
4C088ZC08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の課題は、食経験豊富で安全性の高い食品由来であって、起床時刻を生理学的に調整し、起床時の目覚め感、又は時差ボケを予防できる成分を有効成分とする飲食品等を提供することにある。また、糖質コルチコイド分泌促進剤又はアドレナリン分泌促進剤を提供することにある。
【解決手段】起床直後又は起床2時間以内に摂取されることを特徴とする、有効成分としてノビレチンを含有する目覚め感改善剤である。また、目指す起床時刻の2時間前から目指す起床時刻までの間に摂取されることを特徴とする、有効成分としてノビレチンを含有する時差ボケ予防剤、である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起床直後又は起床2時間以内に摂取されることを特徴とする、有効成分としてノビレチンを含有する目覚め感改善剤。
【請求項2】
目指す起床時刻の2時間前から目指す起床時刻までの間に摂取されることを特徴とする、有効成分としてノビレチンを含有する時差ボケ予防剤。
【請求項3】
飲食品である、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
ノビレチンを有効成分とする、糖質コルチコイド分泌促進剤。
【請求項5】
ノビレチンを有効成分とする、アドレナリン分泌促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目覚め感改善剤、時差ボケの予防剤、糖質コルチコイド分泌促進剤、又はアドレナリン分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会に特有な光環境(人工照明)や労働環境に端を発する生活時間の慢性的な不規則化・夜型化が、睡眠覚醒障害に端を発する様々な不定愁訴や疾病の原因となることがわかってきている(非特許文献1参照)。従って、日々継続して睡眠覚醒サイクルを規則的に維持することは、様々な不定愁訴や疾病を予防または改善する有効な手段となるものと期待され、睡眠に関わる生活者ニーズは今後ますます拡大していくものと考えられる。
【0003】
実際これまでにも多くの医薬品(睡眠薬)または食品・サプリメント等が睡眠覚醒障害に対処するための手段として発売されてきてはいるが、日々継続的に睡眠覚醒サイクルを規則的に維持するという目的を達するためには、新規化合物や医薬品よりも、毎日の摂取が可能な安全性の高い食品由来成分を用いることが望ましい。例えば、そのような食品由来成分を用いた睡眠サポートサプリメントとして、グリシン、GABA、L-テアニンを配合した機能性表示食品が発売されている。これら機能性表示食品はどれもが就寝時に摂取することでいわゆる「睡眠の質」を高める機能を有するものである(非特許文献2、3、4参照)。
【0004】
しかしながら一方で、睡眠覚醒サイクルを規則的に維持するという観点においては就寝時よりもむしろ1日のスタートとなる起床時に着目した対処がより重要である(非特許文献5参照)。すなわち、毎朝規則的な時刻に起床することにより、結果として朝の目覚め感が改善され、日中の活動能力、そして夜間の休息の質を向上させることができると考えられる。
【0005】
決まった時刻に起床するという目的においては一般的にいわゆる「目覚まし時計」が広く用いられているものの、「目覚まし時計」は起床への動機付けに結び付くものでもなく、使用者の日々の生理学的に自律した目覚めを助長する機能もない(特許文献1参照)。従って、「目覚まし時計」には使用者の起床時刻を生理学的なレベルで調整し、自律的で気持ち良い目覚めをもたらす機能がないという課題がある。
【0006】
上記課題を解決するための発明の一つとして、朝起きることへの動機づけを付与することを目的とした仮想生命体育成ゲームについて報告されている(特許文献1、ポケモンスリープのHP参照)。このゲームを使用することで楽しく自律的に起床することができるようになり、結果として規則正しい睡眠覚醒リズムを得ることが期待できる。しかし、上記課題を解決しうる食品もしくは食品由来成分については未だ報告はない。
【0007】
糖質コルチコイドやアドレナリンの血中濃度は毎朝起床直後にピークとなることが知られており(非特許文献6参照)、起床後の活動に先立って血糖値や血圧等を上昇させるための、いわゆる目覚ましホルモンと考えられている。また、糖質コルチコイドの起床後の血中濃度が、夜型の人と比べて朝型の人でより高かったという報告もある(非特許文献7参照)。さらに、糖質コルチコイドの血中濃度のピーク時刻を前進もしくは後退させることによって、起床時刻をより早めにもしくはより遅めに調整することが可能であることを示唆する動物実験の報告もある(非特許文献8参照)。すなわち、糖質コルチコイドやアドレナリンは日々の生理学的に自律した目覚めを支えるホルモンであると言える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「体内時計の科学と産業応用」柴田重信 監修、株式会社シーエムシー出版、2011年
【非特許文献2】”「グリナ」(睡眠アミノ酸グリシン)”、[online]、[令和3年9月9日検索]、インターネット<URL:https://direct.ajinomoto.co.jp/supplement/ff/glyna/>
【非特許文献3】”商品情報シート”、[online]、[令和3年9月9日検索]、インターネット<URL:https://www.house-wf.co.jp/update/pdf/infosheet_drink.pdf>
【非特許文献4】”ネナイト”、[online]、[令和3年9月9日検索]、インターネット<URL:https://www.asahi-gf.co.jp/special/nenaito/#products>
【非特許文献5】「「もっと時計を見る」と健康になる」大塚邦明 著、株式会社マキノ出版、2012年
【非特許文献6】Blood. 2009 May 21;113(21):5134-43.
【非特許文献7】Biol Psychol. 2006 May;72(2):141-6.
【非特許文献8】J Clin Invest. 2010 Jul;120(7):2600-9.
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-89772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、食経験豊富で安全性の高い食品由来であって、起床時刻を生理学的に調整し、起床時の目覚め感、又は時差ボケを予防できる成分を有効成分とする飲食品等を提供することにある。また、糖質コルチコイド分泌促進剤又はアドレナリン分泌促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、ノビレチンに糖質コルチコステロン及びアドレナリン分泌増強作用があることを見出した。さらに、ノビレチン摂取直後から2時間にわたって、糖質コルチコステロイドとアドレナリンの分泌が増強されることを見出した。そして、ノビレチンを適切なタイミングで摂取することにより、起床時の目覚め感を改善すること、又は時差ボケを予防できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の態様は、
(1)起床直後又は起床2時間以内に摂取されることを特徴とする、有効成分としてノビレチンを含有する目覚め感改善剤、
(2)目指す起床時刻の2時間前から目指す起床時刻までの間に摂取されることを特徴とする、有効成分としてノビレチンを含有する時差ボケ予防剤、
(3)飲食品である、(1)又は(2)に記載の剤、
(4)ノビレチンを有効成分とする、糖質コルチコイド分泌促進剤、
(5)ノビレチンを有効成分とする、アドレナリン分泌促進剤、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、目覚め感を改善する飲食品等の提供が可能となった。そのため、起床時にすっきりと、気持よく目覚めることができる。また、時差ボケを予防可能な飲食品等の提供が可能となった。また、糖質コルチコイドの分泌、アドレナリンの分泌を促進し得る新たな素材を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ノビレチンのマウス起床時刻調整作用を示すグラフである(N=10)。* : p<0.05 コントロール VS.ノビレチン(Studentのt検定)
【0015】
図2】ノビレチンのマウス血清中コルチコステロン濃度上昇作用を示すグラフである(N=4)。
【0016】
図3】ノビレチンのマウス血清中アドレナリン濃度を示すグラフである(N=4)。** : p<0.01 コントロール VS.ノビレチン(Studentのt検定)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のノビレチンとは、シイクワシャー果皮に存在する成分で、ポリメトキシフラボンの一種である。ノビレチンには、その薬学的に許容される塩が含まれる。また、ノビレチンの態様としては、ノビレチンを含有するシイクワシャー果皮抽出エキスであってもよい。
【0018】
ノビレチンの有効投与量は、年齢等に応じて異なるが、通常成人で1日当たり1mg~1000mgであり、1mg~50mgが好ましく、1mg~10mgがより好ましい。
【0019】
本発明の目覚め感改善剤、又は時差ボケ予防剤は、その有効成分であるノビレチンの投与のタイミングが重要である。本発明において、ノビレチンを目覚め感改善剤として摂取するタイミングは、通常成人で起床直後もしくは起床時刻から2時間以内であり、1時間以内が好ましく、起床直後がより好ましい。また、時差ボケ予防剤として摂取するタイミングは、目指す起床時刻の2時間前から目指す起床時刻までであり、目指す起床時刻の1時間前から目指す起床時刻までが好ましく、目指す起床時刻がより好ましい。すなわち、海外渡航の場合であれば、渡航先で目指す起床時刻が日本時刻の22時にあたる際、その2時間前の20時から22時の間に摂取することが好ましく、1時間前の21時から22時の間に摂取することがより好ましく、22時に摂取することが最も好ましい。交代勤務の場合であれば、目指す起床時刻が22時である際、その2時間前の20時から22時の間に摂取することが好ましく、1時間前の21時から22時の間に摂取することがより好ましく、22時摂取することが最も好ましい。本発明の目覚め感改善剤、又は時差ボケの予防剤は、適切なタイミングで摂取されることにより、起床時の目覚め感を効果的に改善し、又は時差ボケを効果的に予防することができる。
【0020】
本発明の目覚め感改善剤は、健常人に対して継続的に摂取されることが好ましく、5日間以上継続して摂取されることがより好ましい。また、本発明の時差ボケ予防剤は、健常人に対し、海外渡航や交代勤務等によって起床時刻に時差が生じる前からあらかじめ継続的に摂取されることが好ましく、5日前より継続して摂取されることがより好ましい。
【0021】
また、有効投与量の範囲内で、使用態様や使用者の生活リズムの状態などに応じ用量を適宜に設定することができる。
【0022】
本発明のノビレチンは摂取直後から2時間にわたって、糖質コルチコステロイドとアドレナリンの分泌を増強する。
本発明によれば、ノビレチンは糖質コルチコイドやアドレナリン分泌を促進する作用を有するので、起床時又は起床2時間以内に摂取することによって、日々の規則正しい時刻にすっきりと目覚め、そして気持ちの良い生き生きとした目覚めを得て、1日を意欲的に始めることが期待できる。
本発明の目覚め感改善剤が起床直後又は起床2時間以内に摂取されることや、本発明の時差ボケ予防剤が目指す起床時刻の2時間前から目指す起床時刻までの間に摂取されることは、製品名、製品の本体、容器又は包装への表示、あるいは商品に関するポスターやテレビCM、店頭POP、説明会などでの説明などにより判断することができる。
【0023】
本発明の目覚め感改善剤、又は時差ボケの予防剤には、その効果を損なわない質的及び量的範囲で、他の有効成分を配合することができる。また、公知の添加剤等を配合して、固形剤や内服液剤等の経口製剤、外用剤等の非経口製剤として提供することができる。さらに、経口製剤とする場合、医薬品、医薬部外品、及び食品(機能性食品、栄養機能食品、特定保健用食品等)等として提供することができるが、毎日の摂取や服用のし易さ、保存の便宜等を勘案すると、経口の固形剤を食品として提供するのが最も好ましい。
【0024】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例0025】
試験例1
<試験方法>
ノビレチンの起床時刻調整作用を評価した。具体的なプロトコールは以下の通りである。
(1)マウスを明暗環境下(消灯19:00~7:00)にて14日間飼育した。
(2)その後1日1回計5日間、10時にノビレチン100mg/kgを腹腔内投与した。コントロール群には媒体を腹腔内投与した。
(3)その翌日、明暗環境を8時間前進(消灯11:00~23:00)させ、起床すべき時刻を11時としてから10日間飼育した。
(4)実験中は、個体別の自発運動量を赤外線センサーにより測定し、起床時刻(自発運動開始時刻)はクロックラボにより算出した。
【0026】
<結果>
ノビレチンを起床すべき時刻の1時間前(10時)に投与することにより、コントロールと比較して起床時刻が19時から起床すべき時刻の11時に調整されるまでに要する時間の短縮が認められた(図1参照)。
【0027】
試験例2
<試験方法>
ノビレチンのコルチコステロン及びアドレナリン分泌作用を評価した。具体的なプロトコールは以下の通りである。
(1)マウスを明暗環境下(消灯19:00~7:00)にて3日間以上飼育した。
(2)その後、10時にノビレチン100mg/kgを腹腔内投与した。コントロール群には媒体を腹腔内投与した。
(3)その後、11時(1時間後)、12時(2時間後)、及び14時(4時間後)に採血し、得られた血液サンプルより血清を得た。
(4)得られた血清中のコルチコステロン及びアドレナリン濃度を、市販のELISAキットを用いて測定した。
【0028】
<結果>
ノビレチンを投与することにより、コントロールと比較して1時間及び2時間後のコルチコステロン及びアドレナリン血清中濃度の上昇が認められた(図2及び3参照)。
【産業上の利用可能性】
【0029】
起床時刻を調整し、起床時の目覚め感を改善又は時差ボケを予防することができるので、規則的な睡眠覚醒サイクルに端を発する様々な健康増進に寄与することが期待される。
図1
図2
図3