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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064395
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】発信機
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/00 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
G08B17/00 H
G08B17/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174656
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】大下 剛
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠馬
【テーマコード(参考)】
5G405
【Fターム(参考)】
5G405AA02
5G405BA04
5G405DA07
5G405FA04
(57)【要約】
【課題】内部に電話ジャックを備えた発信機において、発信機の前方から電話ジャックを使用可能にする機能を保証しつつ、部品同士の境界を減らして建物の内装との調和をとり違和感を生じにくくする。
【解決手段】前部に開口が設けられオン、オフ動作可能なスイッチ(11)を内蔵した収納ケース(13)を有し設置面に取り付けられる発信機本体部(10)と、前記スイッチを作動させる押しボタンおよび表示部を有する前面パネル部(20)と、を備えた発信機において、前記発信機本体部には、収納ケースの開口に臨むように電話ジャック(12)が配設され、前記前面パネル部は、当該前面パネル部と収納ケースとの間に設けられたリンク機構(28A,28B)によって、収納ケースに連結され、収納ケースの前部の開口を閉塞する第1状態と、収納ケースの開口の少なくとも一部が開放され前記電話ジャックが前方より操作可能な第2状態と、に変換可能に構成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部に開口が設けられオン、オフ動作可能なスイッチを内蔵した収納ケースを有し設置面に取り付けられる発信機本体部と、前記スイッチを作動させる押しボタンを有する前面パネル部と、を備えた発信機であって、
前記発信機本体部には、前記収納ケースの前記開口に臨むように電話ジャックが配設され、
前記前面パネル部は、
当該前面パネル部と前記収納ケースとの間に設けられたリンク機構によって、前記収納ケースに連結され、
前記収納ケースの前部の開口を閉塞する第1状態と、前記収納ケースの前記開口の少なくとも一部が開放され前記電話ジャックが前方より操作可能な第2状態と、に変換可能に構成されていることを特徴とする発信機。
【請求項2】
前記リンク機構は互いに平行な一対のアーム部材を有する平行リンク機構であり、
前記前面パネル部は、前記平行リンク機構により前記設置面と平行な姿勢を保持したまま前記第1状態と前記第2状態とに変換可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の発信機。
【請求項3】
前記収納ケースを挟むようにして、前記平行リンク機構が2組設けられていることを特徴とする請求項2に記載の発信機。
【請求項4】
前記アーム部材は、前端部に前記前面パネル部を連結するピンの挿通穴が形成され、後端部に前記収納ケースを連結するピンを挿通可能であって当該アーム部材の長手方向に長い長穴が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の発信機。
【請求項5】
前記収納ケースには、前記第1状態において前記長穴に係合する突起部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の発信機。
【請求項6】
前記リンク機構は、前記前面パネル部の所定部位にピン結合され前記収納ケースの壁体に沿って前後方向へ移動可能なスライド部材により構成され、
前記収納ケースには、前記スライド部材を案内するガイド部材が設けられ、
前記前面パネル部の前記所定部位と異なる部位には前記収納ケースの対応する部位に設けられた係止部に係脱可能な係止片が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の発信機。
【請求項7】
前記スライド部材は板状をなし、前記ガイド部材は前記収納ケースの壁部に設けられ前記スライド部材の側部が係合可能な溝を形成するリブ状のガイドレールにより構成されていることを特徴とする請求項6に記載の発信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急報知用の発信機に関し、例えば建物の壁部に設けられ火災発生時に操作されることで警報を発するための火災報知用の発信機に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建物内部には火災の発生を知らせるために、火災報知システムが設けられている。火災報知システムは、火災感知器や押しボタン式スイッチを備えた手動の火災報知用の発信機、受信機、火災報知用のベル、表示灯などから構成され、このうち火災報知用の発信機は建物の廊下等の壁面に適切な高さで設置されている。火災発生時には、発見者が火災報知用の発信機の押しボタン式スイッチを強く押すことにより、火災発生を知らせる信号が受信機に伝送されると共に、発信機の近傍に設けられるベルから警報音が発せられて、周囲の人に対し火災発生を知らせることができる。
【0003】
従来の火災報知用発信機は、室内露出部分を覆う円盤状の前面パネル部を発信機本体の前面に備えたものが一般的であり、発信機本体は上記押しボタン式スイッチと、火災受信機の監視員と通話するため送受話器を接続する電話ジャックと、電話ジャックを収納する収納凹部の前面を覆い必要に応じて開閉することができる開閉扉を備えており、建物の壁面に埋め込むように設置される。また、離れたとこからでもまた暗がりであっても発見し易いように、火災報知用発信機の近傍に砲弾状をなす表示灯が設けられていた。
【0004】
一方、近年、前面が平坦もしくは円盤状をなすフラットタイプの表示灯や、表示灯が一体に構成された火災報知用発信機も実用化されている。表示灯が一体に構成された火災報知用発信機に関する発明としては、例えば特許文献1や2に記載されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-144951号公報
【特許文献2】特開2021-152944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や2に記載されている火災報知用発信機は、発信機の前面パネルに電話ジャックの前面を覆う開閉扉が設けられているため、前面に設けられている表示灯と押しボタンや開閉扉の各部品同士の境界が視覚的にはっきりと分かるような形態で構成されている。一方、近年、建物内部のデザイン性に対する要求が高くなってきており、各部品の境界がはっきりと分かる発信機は、建物の内壁に設置した際に、内装との調和がとれず違和感が生じるという課題がある。
【0007】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、内部に電話ジャックを備えた発信機において、発信機の前方から電話ジャックを使用可能にする機能を保証しつつ、部品同士の境界を減らして建物の内装との調和をとり違和感を生じにくくし、もって美観を向上させることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、
前部に開口が設けられオン、オフ動作可能なスイッチを内蔵した収納ケースを有し設置面に取り付けられる発信機本体部と、前記スイッチを作動させる押しボタンを有する前面パネル部と、を備えた発信機において、
前記発信機本体部には、前記収納ケースの前記開口に臨むように電話ジャックが配設され、
前記前面パネル部は、
当該前面パネル部と前記収納ケースとの間に設けられたリンク機構によって、前記収納ケースに連結され、
前記収納ケースの前部の開口を閉塞する第1状態と、前記収納ケースの前記開口の少なくとも一部が開放され前記電話ジャックが前方より操作可能な第2状態と、に変換可能に構成したものである。
【0009】
上記構成によれば、内部にスイッチおよび電話ジャックを備えた発信機本体部と前面パネル部とを備えた発信機において、前面パネル部と収納ケースとの間にリンク機構を設けて前面パネル部を移動させて発信機本体部の前部を解放可能に構成しているので、前面パネル部に電話ジャックの前方を覆う開閉扉を設けることなく、内部の電話ジャックを使用可能な状態に変換することができる。そのため、発信機の前面における部品同士の境界を少なくすることができ、建物の内装との調和をとり違和感を生じにくくし、それによって発信機の美観を向上させることができる。また、電話ジャックの前方を開閉扉がないため、いたずらを防止できるという利点もある。
【0010】
ここで、望ましくは、前記リンク機構は互いに平行な一対のアーム部材を有する平行リンク機構であり、
前記前面パネル部は、前記平行リンク機構により前記設置面と平行な姿勢を保持したまま前記第1状態と前記第2状態とに変換可能に構成する。
かかる構成によれば、平行リンク機構により設置面と平行な姿勢を保持したまま前面パネル部を移動させて発信機本体部の前部を解放した状態に変換することができるため、前面パネル部を開いた状態における前面パネル部の前方への突出量を少なくすることができ、それによって電話ジャックを使用する際の作業がやり易くなる。
【0011】
さらに、望ましくは、前記収納ケースを挟むようにして、前記平行リンク機構が2組設けられているように構成する。
かかる構成によれば、平行リンク機構が2組あるため、前面パネル部の変換動作の安定性およびリンク機構の耐久性を高めることができる。
【0012】
また、望ましくは、前記アーム部材は、前端部に前記前面パネル部を連結するピンの挿通穴が形成され、後端部に前記収納ケースを連結するピンを挿通可能であって当該アーム部材の長手方向に長い長穴が形成されているようにする。
かかる構成によれば、アーム部材の後端部に長穴が形成されているため、前面パネル部を一旦前方へ引き出してから設置面と平行に移動させるという2段階動作が可能となり、前面パネル部を開く作業を円滑に行うことができる。
【0013】
さらに、望ましくは、前記収納ケースには、前記第1状態において前記長穴に係合する突起部が設けられているようにする。
かかる構成によれば、簡単な構成で、発信機本体部の前部を前面パネル部によって閉じた状態をロックして維持することができる。
【0014】
また、 前記リンク機構は、前記前面パネル部の所定部位にピン結合され前記収納ケースの壁体に沿って前後方向へ移動可能なスライド部材により構成され、
前記収納ケースには、前記スライド部材を案内するガイド部材が設けられ、
前記前面パネル部の前記所定部位と異なる部位には前記収納ケースの対応する部位に設けられた係止部に係脱可能な係止片が設けられているように構成しても良い。
【0015】
上記構成によれば、前面パネル部を前方へ引き出して回動させることで発信機本体部の前部を解放した状態にすることができるとともに、前面パネル部の上部に設けられた係止片を収納ケースの上部に設けられた係止部に係合させることで、発信機本体部の前部前面パネル部によって閉じた状態をロックして維持することができる。
【0016】
また、望ましくは、前記スライド部材は板状をなし、前記ガイド部材は前記収納ケースの壁部に設けられ前記スライド部材の側部が係合可能な溝を形成するリブ状のガイドレールにより構成する。
かかる構成によれば、比較的簡単な構成でスライド部材を案内する構造を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の発信機によれば、内部に電話ジャックを備えた発信機において、発信機の前方から電話ジャックを使用可能にする機能を保証しつつ、部品同士の境界を減らして建物の内装との調和をとり違和感を生じにくくし、それによって美観を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明を火災報知用発信機に適用した場合の第1の実施例を示す全体斜視図で、(A)は前面パネルを閉じた状態を示す図、(B)は前面パネルを開いた状態を示す図ある。
図2】第1実施例の発信機の内部構造を示すもので、(A)は発信機全体の中央断面側面図、(B)は発信機本体の収納ケースを断面した状態を示す一部断面側面図である。
図3図2に示す発信機の前面パネルの開動作の手順を示す断面側面図である。
図4】本発明を適用した火災報知用発信機の第2の実施例を示す断面構造図である。
図5】第2実施例の発信機の前面パネルの開動作の手順を示す断面構造図である。
図6】第3実施例の火災報知用発信機の内部構造および前面パネルの開動作の手順を示すである。
図7】第4実施例の火災報知用発信機の内部構造および前面パネルの開動作の手順を示す断面構造図である。
図8】第4実施例の火災報知用発信機の前面パネルの開動作の手順を示す斜視図である。
図9】第5実施例の火災報知用発信機の前面パネルの構成および前面パネルを開いた状態を示す正面図である。
図10】第5実施例の変形例の火災報知用発信機の前面パネルを開いた状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明を適用した火災報知用発信機の実施形態について説明する。
本実施形態の火災報知用発信機(以下、単に発信機と記す)10は、火災等の異常が発生した際に、前面に設けられている押しボタンを強く押して内部のスイッチをオンさせることにより異常の発生を知らせる信号を火災受信機に伝送する機能を備え、建造物の壁面あるいは消火栓箱の扉などに設置されて使用されるように構成されている。
【0020】
(第1実施例)
図1図3は、第1実施例の発信機を示す。このうち、図1は発信機の全体斜視図、図2は発信機の内部構造を示す断面側面図、図3図2に示す発信機の前面パネルの開動作の手順を示す断面側面図である。
第1実施例の発信機は、図1(A)に示すように、箱状をなす発信機本体部10と、発信機本体部10の前部に設けられた前面パネル部20とから構成されている。
【0021】
発信機本体部10は、図1(B)に示すように、内部に押しボタン式スイッチ11や送受話器のコード先端のプラグを差し込む電話ジャック12等を内蔵した箱状の収納ケース13を備えている。
一方、前面パネル部20は、前面中央に円形状の押しボタン21が設けられその周囲に円環状をなす放光部22が配設されている。なお、押しボタン21および放光部22は、アクリル樹脂のような光透過性を有する導光材で形成され、収納ケース13内に配設された発光素子17からの光を誘導し前面へ放出させることで発光表示を行うように構成されている。
【0022】
図2(A)に示すように、発信機本体部10の収納ケース13は、開口部側(図では左側)に凹部を有するバネ受け部材14が嵌挿され、このバネ受け部材14の開口部には、内側(図では右側)に圧縮バネ15を収納するバネ収納部16aを有しバネ受け部材14の周壁に沿って移動可能なスライド部材16が嵌挿され、スライド部材16の前面に押しボタン21の背面が接合されている。
また、上記バネ受け部材14の中央には円筒状をなす内側ガイド壁14aおよび外側ガイド壁14bが形成されているとともに、スライド部材16の内面中央には上記ガイド壁14aに嵌合する押圧部16bが形成され、この押圧部16bの周囲に、2重円筒状をなし上記内側ガイド壁14aおよび外側ガイド壁14b内に挿入される上記バネ収納部16aが形成されている。
【0023】
さらに、発信機本体部10の収納ケース13内に収納された押しボタン式スイッチ11のアクチュエータ部11aが、上記バネ受け部材14の外側ガイド壁14bに挿入されて押圧部16bに対向するように配設されている。
また、上記バネ受け部材14と上記スライド部材16とは、隙間δを有するように配設されており、押しボタン21を発信機本体部10側へ押し込むと上記スライド部材16が移動し、押圧部16bがアクチュエータ部11aに当接してこれを押圧することでスイッチ11の接点を閉じてオン状態にさせることができるように構成されている。
【0024】
上記バネ受け部材14は、前面プレート部14cに複数のビス挿通孔を形成して、これらのビス挿通孔にビスを挿通して前面パネル20に結合させるように構成することができる。また、上記バネ受け部材14の開口側端部には前面プレート部14cが形成されており、この前面プレート部14cに導光材からなり円環状をなす放光部22が接合されている。一方、放光部22の外縁部には、バネ受け部材14の前面プレート部14cの外周面を覆う庇部22bが設けられている。
さらに、上記スライド部材16の外縁部の前面側には、図1に破線で示すように、所定の角度間隔をおいて複数個(図では8個)の発光素子(LED)17が、押しボタン21の周りに周方向に沿って並んで配設されている。
【0025】
また、円板状をなす押しボタン21は、環状をなす放光部22の中央開口部に嵌合する押圧部21aが中央部に設けられているとともに、裏面側外周に鍔部21bが設けられており、この鍔部21bの周縁部の上記発光素子17と対向する部位に、後方へ向って突出する柱状突起部からなる複数の光導入部21cが形成されている。
上記発光素子17の発光色は、例えば従来の表示灯と同様な赤色とされる。赤色の発光素子を使用する代わりに、白色の発光素子を使用し押しボタン21および放光部22を形成する導光材として赤色に着色されたものを使用するようにしても良い。なお、端面が発光素子17に対向するように突出した光導入部を放光部22に設けて、押しボタン21は不透明な部材で形成し放光部22のみを発光表示させるように構成しても良い。さらに、押しボタン21と放光部22は、ガラスやアクリル樹脂のような光透過性を有する樹脂などの導光材で形成されていると説明したが、この導光材は、内部に粒子状の拡散材が混入されていても良い。
【0026】
本実施例の発信機においては、図2(B)に示すように、一対の平行なアーム28A,28Bの前面パネル20に近い側の端部がバネ受け部材14の側面にピン27A,27Bにて結合され、アーム28A,28Bの他端に形成された長穴28a,28bに、発信機本体部10の収納ケース13の側面に植設されたピン29A,29Bが係合されることによって構成された平行リンク機構が設けられている。図示しないが、反対側の側面にも同様な平行リンク機構が設けられている。つまり、平行リンク機構を構成する2組のアーム28A,28Bが設けられている。
【0027】
これによって、図3に示すように、前面パネル20は、垂直な姿勢を保ったまま下方へ回動させ、収納ケース13内に設けられている電話ジャック12を露出させて前方より送受話器のプラグを差し込むことができるように構成されている。
しかも、このとき、上記リンク機構を構成する一対のアーム28A,28Bの回転中心側の端部に、ピン29A,29Bが係合する長穴28a,28bが形成されているため、図3(A)に示すように、前面パネル20を一旦前方へ引き出して移動させてから、図3(B)に示すように、下方へ回動させることができる。
【0028】
さらに、図2(B)に示すように、収納ケース13の側面にはアーム28Aの端部の長穴28aの幅とほぼ同一の大きさの径を有しアーム28A,28Bが上部位置に回動された際に長穴28aと係合し回動を抑止する突起29Cが設けられている。これにより、前面パネル20が自重によって下方へ回動してしまうのを防止することができる。突起29Cの先端は半球状をなすように形成されており、図2(B)の状態で前面パネル20を手前へ強く引くと、アーム28Aの端部の長穴28aと突起29Cとの係合が外れて回動させることができるように構成されている。
【0029】
なお、設置面としての壁面または取付けパネルへの発信機の取付けは、例えば壁面または取付けパネルに収納ケース13を挿入可能な開口を形成するとともに開口の周辺にビス穴を設け、この開口に収納ケース13を挿入してフランジ部13aを壁面または取付けパネルに接合させた状態で、ビスをフランジ部13aのビス穴と取付けパネルの開口周辺のビス穴に螺合させることで行なえるように構成することができる。あるいは、収納ケース13の開口側端部の外周に雄ネジ部を形成し、この雄ネジ部に前述の先行特許文献2に記載されているリング状ナットを螺合させて、リング状ナットとフランジ部13aや前面プレート部14cとの間に取付けパネルを挟み込むことで取り付けるようにしても良い。
【0030】
上述したように、本実施例の発信機は、前面パネル20を下方へ移動させて電話ジャック12を露出させる構成であるため、前面パネル20に電話ジャック12の前方を覆う開閉扉を設ける必要がないため、前面の部品の数および部品同士の境界が少なくなって境界が目立たなくなる。また、押しボタン21と放光部22の前面全体が放光面となって光を放出するため、押しボタン21と放光部22の境界が目立たなくなる。
そのため、建物の内装との調和がとれ違和感が生じにくくなって美観を向上させることができるとともに、開閉扉が不要であるので、発信機が小型化されたとしても、放光部22を相対的に大きくすることができ、発光表示面積が小さくなって視認性が低下するのを回避することができる。また、開閉扉がないため、発信機全体が小型であっても押しボタン21を相対的に大きくすることができ、操作性を向上させることができる。
【0031】
(他の実施例)
図4図10は、本発明の発信機の他の実施例を示す。このうち、図4および図5は第2実施例の発信機の断面構造図、図6は第3実施例の発信機の断面構造図、図7および図8は第4実施例の発信機の断面構造図、図9および図10は第5実施例およびその変形例を示す正面図である。
第2実施例の発信機は、図4に示すように、第1実施例(図1)の発信機と同様に、押しボタン式スイッチ11を内蔵した収納ケース13を備えた発信機本体部10と、前面中央に円形状の押しボタン21が設けられその周囲に円環状をなす放光部22が設けられている前面パネル部20とから構成されている。
【0032】
第2実施例においては、押しボタン21の前面側に鍔部21bが、また背面側にスイッチ11の押圧部21gとこれを囲繞するスリーブ部材21fが後方へ突出するように設けられているとともに、第1実施例(図1)の発信機のスライド部材16およびバネ受け部材14に相当する保持部材25が前面パネル20の裏面側に一体に設けられている。
また、スリーブ部材21fを挟むようにして、圧縮バネ15a,15bによって中央側へ付勢される一対の押圧部材24a,24bが、中心軸と直交する向きに配設されているとともに、押圧部材24a,24bの先端とスリーブ部材21fの外周面には互いに接触する同一角度をなすテーパ部がそれぞれ設けられており、圧縮バネからテーパ部に作用する復元力の分力で押しボタン21が前方へ押し出されるように構成されている。そして、押しボタン21を前方より押圧するとバネ力に抗して押しボタン21が後方へ移動され、背面の円柱状押圧部21gが押しボタン式スイッチ11のアクチュエータ部11aに当接してこれを押し込むことでスイッチ11がオン状態にされるように構成されている。
【0033】
さらに、第2実施例においては、保持部材25に第1実施例のバネ受け部材14の外側ガイド壁14bに相当する円筒状部材25bに、押しボタン21のスリーブ部材21fが嵌合して前後方向に案内されるように構成されているとともに、押しボタン21の鍔部21bの後方に発光素子17が配設されている。
また、保持部材25は、前端側の前面プレート部25cにて放光部22の裏面に接合した状態で前面パネル20に結合されており、下部には後方へ向かって突出し収納ケース13の底壁内面に沿って摺動するスライドプレート26が設けられている。収納ケース13の側壁内面下部には底壁と平行にリブ状のガイドレール13bが設けられており、上記スライドプレート26の側端部がこのガイドレール13bと収納ケース13の底壁とにより形成された溝に係合することで、図4(B)に示すように、水平姿勢のまま前方向に移動可能にされ支持されている。
【0034】
図示しないが、スライドプレート26の前端には、保持部材25の側壁下部がピンにて回動可能に連結されており、図5(A)に示すように、前面パネル20を前方へ引き出した状態で傾倒させることで、収納ケース13の前部を開口させて内部にある図外の電話ジャックを露出させることができるように構成されている。また、収納ケース13のフランジ部13aの上部に収納ケース13を取付けパネルに固定するネジを挿通するネジ挿通孔13cが形成されている場合に、前面パネル20を前方へ傾倒させてこのネジ挿通孔13cを露出させ取付けネジを前方より操作することができる。
【0035】
また、保持部材25の上壁後端には後方へ向かって突出する係止片25dが設けられているとともに、収納ケース13の対応する位置に係合穴13dが形成されており、係止片25dの先端の爪を係合穴13dに係合させることで、前面パネル20が前方へ移動しないようにロックできるように構成されている。なお、前面パネル20の上端を手前に引くと係止片25dの先端の爪を係合穴13dから外すことができる。前面パネル20の上端を手前に引く代わりに、前面パネル20を回動させることで、係止片25dの先端の爪と係合穴13dとの係合を外してロックを解除できるように構成しても良い。
【0036】
さらに、ガイドレール13bの前端部に上方へ突出する山形の折曲部13eが、またスライドプレート26の後端にリブが通過可能な切欠きが設けられ、図5(B)に示すように、スライドプレート26の前端を上方へ回動させることができるように構成されており、収納ケース13のフランジ部13aの下部に形成されているネジ挿通孔13cを露出させて前方より取付けネジを操作することができるようになっている。
また、第2実施例においては、前面パネル部20を構成する放光部22は、上記LED基板19上の複数の発光素子17に対向する部位に光導入部22cが形成された導光部材22Aと、該導光部材22Aの表面を覆う光透過可能なカバー部材22Bとから構成されている。このうち、導光部材22Aは、表面側に湾曲面を有するとともに裏面側に平坦面を有し、この平坦面に光反射加工で反射層が形成されている。
【0037】
カバー部材22Bは、シリコーン樹脂等の透光性を有し形状を保持可能な軟質材料で形成された保形部材と、該保形部材の表面を覆うように設けられた合成樹脂製シートや布のような柔軟性のある材料で形成された光拡散膜とから構成されている。そして、カバー部材22Bは導光部材22Aの外縁部の庇部22bが側部から背部まで覆うように形成されている。
これにより、カバー部材22Bに外部から衝撃が加わったとしても保形部材が変形して衝撃を吸収し、表面の損傷を防止することができる。また、保形部材の表面が光拡散膜で覆われているため、導光部材22Aにより導かれて来た光を拡散させて前方へ放出することで、ぼんやりとした柔らかな質感を与えることができる。また、前面パネル部20の表面側が湾曲しているため、デザイン性が向上し、発信機の設置環境である建物の内装との調和がとれ違和感が生じにくくなる。
【0038】
図6に示す第3実施例の発信機は、前面パネル部20が第2実施例(図4)の発信機と同様な構成を有しており、下部には後方へ向かって突出し収納ケース13の底壁内面に沿って摺動するスライドプレート26が設けられている。また、収納ケース13の側壁内面下部には底壁と平行にリブ状のガイドレール13bが設けられている。
第2実施例との差異は、前面パネル部20に設けられている保持部材25がなく、第3実施例では代わりに第1実施例におけるスライド部材16(図2)と同様な部材が前面パネル部20側に設けられている点と、第1実施例のバネ受け部材14(図2)と同様な部材が収納ケース13側に設けられ、圧縮バネ15a,15bが第1実施例の発信機と同様に押しボタン21の押圧方向と平行に設けられている点にある。
【0039】
また、前面パネル部20側のスライド部材16の背面に後方へ向かって突出する係止爪16eが設けられているとともに、バネ受け部材14の上壁前端の対応する位置に係止片14eが設けられており、係止爪16eを係止片14eの先端の爪に係合させることで、前面パネル20が前方へ移動しないロック状態にできるように構成されている。
本実施例においても、第2実施例の発信機と同様、図6(C)に示すように、前面パネル20を前方へ引き出した状態で傾倒させることで、収納ケース13の前部を開口させて内部にある図外の電話ジャックを露出させることができる。また、収納ケース13のフランジ部13aの上部および下部に成されている取付けネジを挿通するネジ挿通孔13cを露出させてネジを前方より操作することができる。
【0040】
図7に示す第4実施例の発信機は、前面パネル部20の背面の上部に後方へ向けて突出する回転軸27を設けるとともに、収納ケース13の上部に前記回転軸27を挿入可能な穴を有する軸支承部13fを設けている。これにより、図7(B)に示すように、前面パネル部20を前方へ引き出した後、図7(C)に示すように、前記回転軸27を中心にして前面パネル部20を回転させることで、図8(B)に示すように、収納ケース13の前端開口を開放して電話ジャック12を露出させることができるように構成されている。
【0041】
第5実施例の発信機は、図9および図10に示すように、前面パネル部20を中央で左右に2分割することができるように構成し、前面パネル部20を左右に移動あるいは回動させて収納ケース13の前端開口の一部が前方より見えるようにすることで、電話ジャック12およびネジ挿通孔13cを露出させるように構成したものである。
【0042】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではない。例えば、第1の実施例においては、リンク機構を構成するアーム28A,28Bを鉛直面内で回動可能に設けて前面パネル20を上下方向に平行移動させるように構成しているが、アーム28A,28Bを水平面内で回動可能に設けて前面パネル20を左右方向に平行移動させるように構成しても良い。第2の実施例についても同様である。また、上記実施例ではリンク機構を構成するアーム28A,28Bを、前面パネル20と収納ケース13の側壁との間に設けているが、前面パネル20と収納ケース13の側壁以外の部位(例えばフランジ部13a)との間に設けても良い。
【0043】
さらに、上記実施形態では、本発明を、発信機本体と発光表示部(放光部)とが一体に構成された発信機に適用した場合について説明したが、本発明は発光表示部のない従来タイプの発信機にも適用することができる。
また、上記実施形態では、本発明を、火災報知システムを構成する火災報知用発信機に適用したものを説明したが、本発明は火災報知用発信機に限定されず、駅のプラットホームや踏切に設置される列車緊急停止用の発信機などに広く利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 発信機本体部
11 押しボタン式スイッチ
12 電話ジャック
13 収納ケース
14 バネ受け部材
15,15a,15b 圧縮バネ
16 スライド部材
16a バネ収納部
17 発光素子
20 前面パネル部
21 押しボタン
22 放光部
24a,24b 押圧部材
25 保持部材
26 スライドプレート
27 回転軸
28A,28B リンク機構のアーム
28a,28b 長穴
29A,29B ピン
29C 突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10