(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064434
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】MFI型/MEL型ゼオライト複合体
(51)【国際特許分類】
C01B 39/36 20060101AFI20230501BHJP
C01B 39/38 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C01B39/36
C01B39/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174718
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】水谷 英人
(72)【発明者】
【氏名】小泉 寿夫
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA75
4G073BA82
4G073BB06
4G073BB15
4G073BB48
4G073BD07
4G073BD15
4G073CZ13
4G073CZ14
4G073CZ50
4G073DZ01
4G073FC04
4G073FC13
4G073FC19
4G073FD23
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA11
4G073GA40
4G073GB02
(57)【要約】
【課題】従来のゼオライトよりもコーキングが起きにくい構造のゼオライトを提供する。
【解決手段】ZSM-5(MFI)型ゼオライトとZSM-11(MEL)型ゼオライトの複合体であって、該MFI型/MEL型ゼオライト複合体は、一次粒子のアスペクト比(粒子の平均長軸径/粒子の平均短軸径)が1.5以上、10以下であり、X線回折で観測される、結晶格子(101)面及び/又は(011)面に帰属される回折ピークの強度I1と、結晶格子(200)面及び/又は(020)面に帰属される回折ピークの強度I2との比(I2/I1)が1以上、3以下であることを特徴とするMFI型/MEL型ゼオライト複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZSM-5(MFI)型ゼオライトとZSM-11(MEL)型ゼオライトの複合体であって、
該MFI型/MEL型ゼオライト複合体は、一次粒子のアスペクト比(粒子の平均長軸径/粒子の平均短軸径)が1.5以上、10以下であり、
X線回折で観測される、結晶格子(101)面及び/又は(011)面に帰属される回折ピークの強度I1と、結晶格子(200)面及び/又は(020)面に帰属される回折ピークの強度I2との比(I2/I1)が1以上、3以下であることを特徴とするMFI型/MEL型ゼオライト複合体。
【請求項2】
前記MFI型/MEL型ゼオライト複合体は、一次粒子の長軸径が9μm以上、20μm以下であり、一次粒子の短軸径が2μm以上、6μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のMFI型/MEL型ゼオライト複合体。
【請求項3】
前記MFI型/MEL型ゼオライト複合体は、以下の方法により算出するZSM-11の比率が、0.6以上、1以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のMFI型/MEL型ゼオライト複合体。
<ZSM-11比率の測定方法>
粉末X線回折測定によるX線回折パターンから得られる、ZSM-11の回折線と、ZSM-5の回折線との強度比を用いて、参照強度比(RIR:Reference Intensity Ratio)法により、ZSM-11の比率を算出する。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のMFI型/MEL型ゼオライト複合体を製造する方法であって、
該製造方法は、ケイ素原子含有化合物と第4級アルキルアンモニウム化合物と塩基とを混合し熟成する工程(I)と、
該熟成工程(I)で得られた生成物を水熱反応する工程(II)とを含むことを特徴とするMFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法。
【請求項5】
前記MFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法は、前記水熱工程(II)で得られた生成物を焼成する工程(III)を含むことを特徴とする請求項4に記載のMFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MFI型/MEL型ゼオライト複合体に関する。より詳しくは、メタノール転化反応等に用いられる触媒等に有用なMFI型/MEL型ゼオライト複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは結晶性アルミノ珪酸塩の総称であり、その組成式は、M2/nO・Al2O3 ・xSiO2・yH2Oで表され(Mは陽イオン、nは陽イオンの価数、x≧2,y≧0である)、吸着材や種々の反応の触媒等として用いられる。ゼオライトは結晶構造による分類がなされており、例えば、3.8×3.4オングストロームの酸素8員環から構成される3次元細孔構造を有するABW型ゼオライト(例えば特許文献1参照)、3.8×3.4オングストロームの酸素8員環から構成される3次元細孔構造を有するCHA型ゼオライト(例えば特許文献2参照)や、酸素5員環が連結した構造を有するペンタシル型ゼオライトが挙げられる。
【0003】
上記ペンタシル型ゼオライトは、低級炭化水素合成反応や流動接触分解のような石油精製プロセスにおける触媒として、従来種々検討されている(例えば、特許文献3参照)。
ペンタシル型ゼオライトの中でもZSM-5型ゼオライトは、酸素10員環で構成された結晶構造を有し、b軸方向に直線状の貫通細孔と、a軸方向にジグザグ状の貫通細孔を有している。ZSM-5型ゼオライトは特有の細孔構造と固体酸性により、炭化水素の異性化反応やアルキル化反応の酸触媒として種々検討されている。
【0004】
ZSM-5型ゼオライトに関して例えば、特許文献4には、所定の構成を有する、ZSM-5型ゼオライトが開示されている。
また、特許文献5には、MFI型ゼオライトをシリケートで被覆したシリケート被覆MFI型ゼオライトであって、前記シリケート被覆MFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0~8.4°にあるピークaと、2θ=8.4~9.7°にあるピークbとのピーク面積比b/aが1以上で、かつ、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上であることを特徴とするシリケート被覆MFI型ゼオライトが開示されている。
更に特許文献6には、コーティングされるMFI型ゼオライト結晶のa軸長が350nm以上8μm未満、b軸長が200nm以上3μm未満、c軸長が500nm以上20μm未満であり、かつ、a軸長、b軸長、c軸長の比率が、所定の関係を満たすゼオライト結晶のコーティング方法が開示されている。
【0005】
ペンタシル型ゼオライトの一種であるZSM-11型ゼオライトは、ZSM-5型と同じ交差する細孔により形成される空洞のほかに、これより約30%容量の大きい空洞を有しているため、例えばメタノール転化反応において、C1~C3炭化水素が少なく、C6以上の炭化水素が多いという反応選択性を得やすいことが知られており、非特許文献1には、ZSM-11型ゼオライトの触媒性能について報告されている。
ZSM-11型ゼオライトは、細孔容量がZSM-5型に比べて大きいため、炭化水素合成反応の触媒として使用した際に、炭素質物質の析出が抑制され、結果として触媒の長寿命化が期待される。しかし、ZSM-11型ゼオライトはZSM-5型ゼオライトよりも不安定であり、単体として合成することが難しい。
【0006】
ZSM-5型ゼオライトとZSM-11型ゼオライトとは結晶を構成する二次構成単位が同じであるため、合成条件によっては1つの結晶粒子中にZSM-5型とZSM-11型が同時に存在(インターグロース)することがある。非特許文献2には、ZSM-5/ZSM-11共結晶の合成及びメタノールからプロピレンへの触媒活性について報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-237585号公報
【特許文献2】特開2017-007912号公報
【特許文献3】特開2019-178049号公報
【特許文献4】特開2017-178745号公報
【特許文献5】国際公開第2013/147261号
【特許文献6】特開2004-002160号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】川村吉成 他4名「石油学会誌」(日本)1991年、第34巻、第3号p273-279
【非特許文献2】J タオ(Jiayi Tao)他5名「クリスタル リサーチ アンド テクノロジー(Crystal Research and Technology)」(独国)2020年、第55巻、第7号、200027
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のとおり、従来種々のゼオライト及びゼオライトの製造方法が開示されているものの、従来のゼオライトは、ポリマー状の炭化水素が生成すること(コーキング)による触媒劣化を充分に抑制しうる構造ではなく、よりコーキングが起きにくい構造のゼオライトを開発する余地があった。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、従来のゼオライトよりもコーキングが起きにくい構造のゼオライトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ゼオライトについて種々検討したところ、所定の材料を用いて所定の条件でZSM-5(MFI)型ゼオライトとZSM-11(MEL)型ゼオライトの複合体を合成すると、アスペクト比が所定の範囲であって、b軸方向に大きく成長した細孔(長いストレートチャネル)を有する粒子が得られ、このような特徴を有することによりコーキングが起きにくくなると考えられ、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0012】
すなわち本発明は、ZSM-5(MFI)型ゼオライトとZSM-11(MEL)型ゼオライトの複合体であって、該MFI型/MEL型ゼオライト複合体は、一次粒子のアスペクト比(粒子の平均長軸径/粒子の平均短軸径)が1.5以上、10以下であり、X線回折で観測される、結晶格子(101)面及び/又は(011)面に帰属される回折ピークの強度I1と、結晶格子(200)面及び/又は(020)面に帰属される回折ピークの強度I2との比(I2/I1)が1以上、3以下であるMFI型/MEL型ゼオライト複合体である。
【0013】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体は、一次粒子の長軸径が9μm以上、20μm以下であり、一次粒子の短軸径が2μm以上、6μm以下であることが好ましい。
【0014】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体は、ZSM-11の比率が、0.6以上、1以下であることが好ましい。
【0015】
本発明は、上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体を製造する方法であって、該製造方法は、ケイ素原子含有化合物と第4級アルキルアンモニウム化合物と塩基とを混合し熟成する工程(I)と、該熟成工程(I)で得られた生成物を水熱反応する工程(II)とを含むMFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法でもある。
【0016】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法は、上記水熱工程(II)で得られた生成物を焼成する工程(III)を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のMFI型/MEL型ゼオライト複合体は、上述の構成よりなり、b軸方向に大きく成長した細孔を有することから、従来のゼオライトよりもコーキングが起きにくい構造であるため、触媒の劣化が抑制され、長寿命化を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】棒状度の算出のための棒状粒子の模式図を表す。
【
図2】実施例1で得られたMFI型/MEL型ゼオライト複合体のSEM写真(倍率:1000倍)である。
【
図3】比較例1で得られたMFI型/MEL型ゼオライト複合体のSEM写真(倍率:1000倍)である。
【
図4】比較例2で得られたMFI型/MEL型ゼオライト複合体のSEM写真(倍率:1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0020】
本発明のMFI型/MEL型ゼオライト複合体は、一次粒子のアスペクト比が1.5以上、10以下であり、X線回折で観測される、結晶格子(101)面及び/又は(011)面に帰属される回折ピークの強度I1と、結晶格子(200)面及び/又は(020)面に帰属される回折ピークの強度I2との比(I2/I1)が1以上、3以下であることを特徴とする。本明細書においてMFI型/MEL型ゼオライト複合体とは、1つの結晶粒子中にMFI型ゼオライトの骨格構造とMEL型ゼオライトの骨格構造を有するゼオライトを意味する。
本発明のMFI型/MEL型ゼオライト複合体は、一次粒子のアスペクト比が上記範囲であるから棒状であること、及び、上記回折ピーク強度比I2/I1が上記範囲であることから、b軸方向に大きく成長した細孔(長いストレートチャネル)を有することとなるため、コーキングが起きにくい構造であり、このため触媒の劣化が抑制され、長寿命化を期待することができる。
また、MFI型/MEL型ゼオライト複合体は粒子がアスペクト比の高い棒状粒子であることにより、触媒として使用する際に配向させやすい。
一次粒子のアスペクト比は、実施例に記載の方法により算出することができる。
【0021】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体の一次粒子のアスペクト比として好ましくは 1.7~7.6であり、更に好ましくは2~6である。
【0022】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体は一次粒子のアスペクト比が上記範囲であって棒状であるが、以下の方法により算出する平均棒状度L
2’/L
1’が0.25以上であることが好ましい。平均棒状度L
2’/L
1’としてより好ましくは0.3以上であり、更に好ましくは0.35以上である。
上記棒状度とは、ゼオライトの形状に関する指標であり、ゼオライトのSEM画像を二次元的に観察した場合の棒状の度合いを意味する。ゼオライトが多角柱状に近いほど棒状度は高くなり、長球状に近いほど棒状度は小さくなる。
<棒状度L
2/L
1の算出方法>
図1の模式図のとおり、粒子が長軸径に平行な扁平部分を有する棒状であると仮定し、粒子の長軸径に平行な扁平部分の長さをL
2とし、長軸径において残りの部分を2L
1として、長軸径を(2L
1+L
2)と表し、粒子の短軸径を2Wと表す。
上記粒子における長軸径(2L
1+L
2)及び短軸径(2W)を用いて粒子の面積S
0、及び、粒子に外接する四角形の面積S
1は、それぞれ下記式(1)、(2)で表すことができ、実際の粒子のS
0、S
1は、SEM画像に基づく、画像処理により測定することができる。
S
1=4L
1W+2L
2W (1)
S
0=πL
1W+2L
2W (2)
上記式(1)、(2)より、S
0/S
1は、(πL
1+2L
2)/(4L
1+2L
2)=1-(4-π)/(4+2L
2/L
1)と表されるため、棒状度L
2/L
1は、S
0、S
1の測定値を下記式(3)に代入して求めることができる。
L
2/L
1=(2(S
0/S
1)-π/2)/(1-S
0/S
1) (3)
上記SEM画像に基づく画像処理を電子顕微鏡写真上に無作為に引いた直線上にある粒子20個に対して行い、L
2/L
1の平均値を平均棒状度(粒子20個の棒状度の平均値)L
2’/L
1’とする。棒状度が測定しにくい場合は、適宜倍率を上げて撮影したものを用いて測定する。
【0023】
上記回折ピーク強度比(I2/I1)として好ましくは1~2.5であり、より好ましくは1~2である。
【0024】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体における、b軸方向上の成長の指標として上記回折ピークの強度比(I2/I1)が1以上、3以下であればよいが、X線回折で観測される、2θ=7.0~8.4°に現れるピーク強度I1’と、2θ=8.4~9.7°に現れるピーク強度I2’との比(I2’/I1’)が1以上、3以下であることが好ましい。上記ピーク強度比(I2’/I1’)として好ましくは1~2.5であり、より好ましくは1~2である。
【0025】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体は、下記方法により算出するZSM-11の比率が、0.6以上、1以下であることが好ましい。
ZSM-11は細孔容量がZSM―5に比べて大きいため、ZSM-11の比率が0.6以上であればコーキングをより充分に抑制することができるため、より触媒の寿命を延ばすことができる。また、ZSM-11は、ZSM―5と同じ交差する細孔により形成される空洞のほかに、これより約30%容量の大きい空洞を有しているため、例えばメタノール転化反応において、C1~C3炭化水素が少なく、C6以上の炭化水素が多いという反応選択性を得やすい。そのため、ZSM-11の比率が上記範囲であると、メタノール転化反応においてC6以上の炭化水素の割合をより高めることができる。ZSM-11の比率としてより好ましくは0.65以上であり、更に好ましくは0.7以上である。
<ZSM-11比率の測定方法>
粉末X線回折測定によるX線回折パターンから得られる、ZSM-11の回折線と、ZSM-5の回折線との強度比を用いて、参照強度比(RIR:Reference Intensity Ratio)法により、ZSM-11の比率を算出する。
【0026】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体は、一次粒子の長軸径が9μm以上、20μm以下であって、一次粒子の短軸径が2μm以上、6μm以下であることが好ましい。
これにより、触媒反応における結晶の配向制御が容易となるため、より高い触媒活性を発揮することができる。一次粒子の長軸径としてより好ましくは10~18μmである。一次粒子の短軸径としてより好ましくは3~5μmである。
【0027】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体におけるSiO2とAl2O3とのモル比(SiO2/Al2O3)は特に制限されないが、20以上であることが好ましい。より好ましくは30~3000であり、更に好ましくは50~2000である。
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体におけるSiO2とAl2O3とのモル比は、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製:型番 ZSX PrimusII)の含有元素スキャニング機能であるEZスキャンにより測定することができる。
【0028】
<MFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法>
本発明のMFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法は特に制限されないが、ケイ素原子含有化合物と第4級アルキルアンモニウム化合物と塩基とを混合し熟成する工程(I)と、該熟成工程(I)で得られた生成物を水熱反応する工程(II)とを行って製造することが好ましい。このような方法により、一次粒子のアスペクト比が1.5以上、10以下であって、上記回折ピーク強度比I2/I1が1以上、3以下であるMFI型/MEL型ゼオライト複合体を充分に得ることができる。
上記熟成工程(I)と、上記水熱工程(II)とを含むMFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法もまた本発明の1つである。
【0029】
上記熟成工程(I)で使用するケイ素原子含有化合物は、ケイ素原子を含むものであれば特に制限されないが、シリカを含むものであることが好ましい。シリカを含むケイ素原子含有化合物としては工業用シリカ、ケイ素アルコキシドや籾殻灰等が挙げられるが、籾殻灰等のバイオマス資源を有効活用することは、持続可能な社会への課題解決にもつながるため、より好ましい。
【0030】
上記熟成工程(I)で使用する第4級アルキルアンモニウム化合物としては、4つのアルキル基を有する第4級アンモニウム化合物であれば特に制限されないが、下記式(4);
[NR1
4]+ X- (4)
(式中、R1は、同一又は異なって、炭素数1~10のアルキル基を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。)で表される化合物が好ましい。
上記R1におけるアルキル基の炭素数としてより好ましくは1~9であり、更に好ましくは2~8である。
第4級アルキルアンモニウム化合物としてより好ましくはテトラブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムブロミドであり、より好ましくはテトラブチルアンモニウムブロミドである。
【0031】
上記熟成工程(I)で使用する塩基としては特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩;アンモニア;有機アミン等が挙げられる。中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましく、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0032】
上記熟成工程(I)におけるケイ素原子含有化合物及び第4級アルキルアンモニウム化合物の使用量は、得られるMFI型/MEL型ゼオライト複合体におけるSiO2とAl2O3とのモル比を考慮して決定すればよいが、第4級アルキルアンモニウム化合物の使用量は、上記ケイ素原子含有化合物100モル%に対して1~25モル%であることが好ましい。より好ましくは4~20モル%であり、更に好ましくは8~15モル%である。
【0033】
上記熟成工程(I)における塩基の使用量は、ケイ素原子含有化合物を加水分解することができる限り特に制限されないが、ケイ素原子含有化合物100モル%に対して5~40モル%であることが好ましい。より好ましくは10~35モル%であり、更に好ましくは15~30モル%である。
【0034】
上記熟成工程(I)において、ケイ素原子含有化合物と第4級アルキルアンモニウム化合物と塩基とを混合する順序は特に制限されないが、ケイ素原子含有化合物と塩基とを混合した後に、第4級アルキルアンモニウム化合物を混合することが好ましい。
【0035】
上記熟成工程(I)において、上記ケイ素原子含有化合物と塩基とを予め混合する場合、これらを混合した後、1~300分間攪拌することが好ましい。
上記混合及び攪拌における温度は、10~50℃であることが好ましい。
【0036】
上記熟成工程(I)において、ケイ素原子含有化合物と第4級アルキルアンモニウム化合物と塩基との混合物の熟成温度は、60~100℃であることが好ましい。これにより得られるMFI型/MEL型ゼオライト複合体における回折ピーク強度比I2/I1、及び、ZSM-11の比率を高めることができる。熟成温度としてより好ましくは65~95℃であり、更に好ましくは70~90℃である。
上記混合物の熟成時間は、1~200時間であることが好ましい。水熱反応前に上記好ましい温度で1~200時間で熟成することでZSM-11の比率をより高めることができ、ケイ素原子含有化合物の原料として籾殻灰等を用いる場合に、このような好ましい形態で熟成工程(I)を行うことの技術的意義がより発揮される。
熟成時間としてより好ましくは20~100時間である。
【0037】
上記水熱工程(II)では、熟成工程(I)で得られた生成物を水熱することが好ましい。これにより得られるMFI型/MEL型ゼオライト複合体における回折ピーク強度比I2/I1、及び、ZSM-11の比率を高めることができる。水熱温度は、好ましくは105~220℃であり、より好ましくは110~200℃である。
【0038】
上記水熱工程(II)における水熱反応の時間は特に制限されないが、1~200時間であることが好ましい。より好ましくは2~100時間である。
【0039】
上記水熱工程(II)における水の量は、上記ケイ素原子含有化合物と第4級アルキルアンモニウム化合物と塩基との合計100質量%に対して200~1000質量%であることが好ましい。より好ましくは400~900質量%である。
【0040】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法は、上記水熱工程(II)で得られた生成物を焼成する工程(III)を含むことが好ましい。これによりMFI型/MEL型ゼオライト複合体のb軸方向への成長をより促進することができる。
【0041】
上記焼成工程(III)における焼成温度は特に制限されないが、150~800℃であることが好ましい。より好ましくは200~750℃であり、更に好ましくは250~700℃である。
【0042】
上記焼成工程(III)における焼成時間は特に制限されないが、0.1~72時間であることが好ましい。より好ましくは0.5~48時間であり、更に好ましくは1~24時間である。
【0043】
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法は、上記焼成工程(III)の前に水熱工程(II)で得られた生成物を洗浄する工程を含むことが好ましい。これによりMFI型/MEL型ゼオライト複合体のb軸方向への成長をより促進することができる。
上記洗浄工程における洗浄方法は特に制限されないが、ろ過等により行うことが好ましい。
上記MFI型/MEL型ゼオライト複合体の製造方法は、上記洗浄工程後、乾燥を行うことも好ましい。
【0044】
<MFI型/MEL型ゼオライト複合体の用途>
本発明のMFI型/MEL型ゼオライト複合体は、石油精製プロセスにおける触媒等に好適に用いることができる。好ましくはメタノール転化反応等に用いられる触媒である。
【実施例0045】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
<物性評価>
以下の手順により、得られたMFI型/MEL型ゼオライト複合体の物性を評価した。
(1)アスペクト比の測定
電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM-7000F)により、粒子が50~10000個程度写るように電子顕微鏡写真を撮影した。この電子顕微鏡写真上に無作為に引いた直線上にある粒子20個の長軸の平均値を、複合体の平均長軸径とした。長軸径が測定しにくい場合は、適宜倍率を上げて撮影したものを用いて測定した。同様の方法で平均短軸径(粒子20個の短軸径の平均値)を算出し、(平均長軸径/平均短軸径)によってアスペクト比を求めた。
【0047】
(2)XRD測定
以下の条件により粉末X線回折パターン(単にX線回折(XRD)パターンともいう)を測定した。
-分析条件-
使用機:リガク社製、RINT-TTRIII
線源:CuKα
電圧:50kV
電流:300mA
試料回転速度:60rpm
発散スリット:1.00mm
発散縦制限スリット:10mm
散乱スリット:開放
受光スリット:開放
走査モード:連続
スキャンスピード:1
計数単位:Counts
ステップ幅:0.0100°
操作軸:2θ/θ
走査範囲:10.0000~70.0000°
ZSM-5およびZSM-11の同定には、JCPDSカードを用いた。なお、JCPDSカードとは、各種物質のX線回折法によるピークプロファイルをまとめたものである。
ZSM-5:JCPDSカード 01-089-142
ZSM-11:JCPDSカード 01-088-178
RIR法によるZSM-11比率の測定方法は、2θ=22.5~25°を対象とし、ZSM-11のRIR値は4.09(JCPDSカード 01-088-178)、ZSM-5のRIR値は1.79(JCPDSカード 01-089-142)とした。
【0048】
(3)SEM観察
電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM-7000F)により各粉体の表面等を観察した。また、SEM写真から、ソフトウェアWinROOF2015(三谷商事社製)を用いて粒子の実際の面積S0、粒子に外接する四角形の面積S1を求め、棒状度を算出した。
【0049】
(実施例1)
<熟成工程(I)>
0.3mol/Lの水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製(製品コード198-13765(試薬特級)))水溶液18.0gに1.5gの籾殻灰(非晶質SiO2含有率:91重量%)を添加した。これを25℃で30分間撹拌した後、有機構造規定剤としてテトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業社製)0.82gを添加して混合した。得られた混合物を80℃で68時間熟成することにより、混合ゲルを調製した。
<水熱工程(II)及び焼成工程(III)>
上記熟成工程(I)で得られた混合ゲルをフッ素樹脂内筒の入った100mLのステンレス製オートクレーブに仕込み、170℃で48時間水熱合成した。得られた生成物をろ過して120℃で乾燥した。得られた乾燥粉を、550℃にて2時間焼成することにより、粉末状のゼオライトを得た。
XRDスペクトルより、得られたゼオライトがMFI型/MEL型ゼオライトの複合体であることを確認した。また、他のゼオライトや非晶質シリカアルミナなどに由来するピークは見られなかった。得られた粒子は、ZSM-11:ZSM-5=0.74:0.26、S0/S1=0.82、L2’/L1’=0.58であった。
【0050】
(比較例1)
熟成工程(I)において、熟成温度を25℃に、熟成時間を30分間に変更した以外は実施例1と同様にしてMFI型/MEL型ゼオライト複合体を製造した。
【0051】
(比較例2)
熟成工程(I)において、80℃での熟成時間を68時間から30分間に変更した以外は実施例1と同様にしてMFI型/MEL型ゼオライト複合体を製造した。
【0052】
実施例1及び比較例1,2で得られた生成物(MFI型/MEL型ゼオライト複合体)の物性を表1に示し、これらのSEM写真を
図2~4に示した。
比較例1ではゼオライトの粒子が得られなかったため、ZSM-11の比率、短軸径、長軸径、アスペクト比及び平均棒状度を測定できなかった。比較例2では籾殻由来の形骸が残っているため、短軸径、長軸径、アスペクト比及び平均棒状度を測定できなかった。
【0053】
【0054】
実施例1において、所定の条件で反応を行うことにより、結晶格子(101)面及び/又は(011)面に帰属される回折ピークの強度I1と、結晶格子(200)面及び/又は(020)面に帰属される回折ピークの強度I2との比(I2/I1)が1以上、3以下であるMFI型/MEL型ゼオライト複合体が得られた。このような特徴を有する複合体はb軸方向に大きく成長した細孔(長いストレートチャネル)を有するため、コーキングが起きにくくなると考えられる。