(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064454
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230501BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20230501BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20230501BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230501BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230501BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230501BHJP
H01B 1/04 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C08J5/18
C01B32/168
C09D179/08 A
C09D7/61
C08L101/00
C08K3/04
H01B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174749
(22)【出願日】2021-10-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年10月27日に日本機械学会 第11回マイクロ・ナノ工学シンポジウム(オンライン開催)にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 庸久
(72)【発明者】
【氏名】大金 健太
【テーマコード(参考)】
4F071
4G146
4J002
4J038
5G301
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AB03
4F071AD01
4F071AE15
4F071AF15Y
4F071AF39Y
4F071AH17
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4G146AA11
4G146AB07
4G146AC02B
4G146AC03B
4G146AC19A
4G146AC19B
4G146AC21A
4G146AC21B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD17
4G146AD28
4G146AD40
4G146CB10
4G146CB13
4G146CB17
4G146CB19
4G146CB23
4G146CB35
4J002AA001
4J002CC041
4J002CM041
4J002DA016
4J002FD116
4J038DJ021
4J038HA026
4J038MA14
4J038NA20
4J038NA25
5G301BA01
(57)【要約】
【課題】樹脂薄膜の中により高濃度で、かつ均一な分散状態で、高いひずみエネルギーを有し、柔軟性があり、かつ、高誘電率、高シート抵抗を有するカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜およびその製造方法に提供する。
【解決手段】樹脂と、前記樹脂に複数のカーボンナノチューブとを含み、前記カーボンナノチューブの添加量をx(vol%)としたとき、前記カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の引張試験における応力-歪み曲線から求めるひずみエネルギーy(GPa)が、下記式(1)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜。y>-15.837x+291.85 ・・・(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、前記樹脂に複数のカーボンナノチューブとを含み、
前記カーボンナノチューブの添加量をx(vol%)としたとき、
前記カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の引張試験における応力-歪み曲線から求めるひずみエネルギーy(GPa)が、下記式(1)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜。
y>-15.837x+291.85 ・・・(1)
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの添加量が0.1~14.3vol%の範囲において、引張弾性率の増加率(GPa/vol%)が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの添加量が0.1~6.9vol%の範囲において、
引張試験における最大ひずみ(%)が20%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの添加量が6.9~14.3vol%の範囲において、
引張試験における最大ひずみ(%)が10%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブの添加量をx(vol%)としたとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜のシート抵抗y[Ω/sq]が、下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜。
y>1E+12x-8 ・・・(2)
【請求項6】
前記樹脂が、ポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜。
【請求項7】
樹脂前駆体と溶剤からなるワニスAにカーボンナノチューブを混合し、貧溶媒を用いた再沈殿法により溶剤を除去し、カーボンナノチューブを樹脂前駆体で被覆した樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブを生成する工程1と、
前記樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブ、前記樹脂前駆体、および溶剤を混合してワニスBを調製する工程2と、
前記ワニスBを基板に塗布する工程3と、
前記基板に塗布されたワニスBを加熱して溶剤を揮発させる工程4と、
前記樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブと前記樹脂前駆体を化学反応させることにより、前記基板上にカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜を形成する工程5と、
を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記工程1において、前記カーボンナノチューブの直径の1.1倍から30倍の前記樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブを作製し、
前記工程2において、被覆された樹脂前駆体量と前記ワニスBに加えた樹脂前駆体量により、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜中におけるカーボンナノチューブの濃度を制御することを特徴とする請求項7に記載のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂前駆体がイミド化率が80%以下のポリアミック酸であり、
前記ポリアミック酸を加熱することによって、該ポリアミック酸中のカルボキシル基とイミノ基とがイミド結合を形成して、ポリイミド樹脂を生成することを特徴とする請求項7または8に記載のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂中に所定濃度で均一にカーボンナノチューブが分散されたカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ炭素材料の代表的な素材であるカーボンナノチューブは、炭素原子からなるシートを単層または多層の同軸管状にした直径数ナノメートル~数百ナノメートルの高アスペクト比の材料である。カーボンナノチューブは、電気伝導性、熱伝導性、弾性率などが高く、樹脂や金属などのマトリックスに混合し成形することにより、マトリックスの強度や伝導性が向上することが知られている。
【0003】
このカーボンナノチューブを含む樹脂成形体、すなわち、カーボンナノチューブ複合樹脂成形体を製造する方法として、樹脂粉とカーボンナノチューブとを混合して複合化粒子を形成し、所定の形状に成形後、加熱成形する方法が知られている。
【0004】
しかしながら、前記方法では、隣接する樹脂粉の境界面にカーボンナノチューブが存在することとなり、成形体におけるカーボンナノチューブの分散状態は均一とはいえない。また、この方法では薄膜を形成することは困難であった。
【0005】
さらに、カーボンナノチューブが高濃度化すると、樹脂粉間にカーボンナノチューブがより凝集し、導電パスが形成されて電気伝導率や熱伝導率が向上することが期待できる一方で、成形体としての強度を得ることができないという課題があった。
【0006】
カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜を製造する方法として、カーボンナノチューブを有機ポリマー系バインダー中に分散させた塗布液を基板に塗布する方法(特許文献1)、樹脂の前駆体にカーボンナノチューブを混合し、再沈殿法により樹脂被覆カーボンナノチューブ粒子を生成した後、成形すると共に加熱し、化学反応により複合樹脂成形体を製造する方法(特許文献2)、および、カーボンナノチューブを未硬化の熱硬化樹脂前駆体で被覆し、反応成形により複合体を製造する方法(特許文献3)などが報告されている。また、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜には、例えば、カーボンナノチューブと熱硬化性ポリイミド(フェニルエチニル末端ポリイミド)とを複合化したCNT/TriA-PI複合材料や(非特許文献1)、多層カーボンナノチューブを3wt%含有する、ポリイミド/多層カーボンナノチューブ複合薄膜(非特許文献1)などがある。
【0007】
これらの文献に示されるように、溶剤を用いて溶液化した樹脂前駆体とカーボンナノチューブとを混合し、塗布して反応および乾燥させることで、カーボンナノチューブが分散した複合薄膜が得られることが提案されている。
【0008】
しかしながら、前記した文献の方法では、前駆体溶液中でカーボンナノチューブを分散させることができても、得られるカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜は導電性を発現し、シート抵抗が低下する。乾燥工程において、カーボンナノチューブの再凝集が起こり、カーボンナノチューブが凝集して導電パスが形成されることがその原因として考えられる。
【0009】
非特許文献2においては、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の湿度センサへの応用が検討されているが、カーボンナノチューブを高濃度化して、凝集体による導電パスが形成され、シート抵抗が下がると、湿度センサとしての感度が低下してしまうという課題があった。また、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜は、ウェアラブルデバイスや各種センサへの応用が期待されているが、非特許文献1のカーボンナノチューブ複合樹脂被膜は、凝集体が破壊の起点となるため、ひずみエネルギーが小さく、延性がないという課題があった。
【0010】
特許文献3では、カーボンナノチューブを高濃度に含むカーボンナノチューブ複合成形体の分散状態を向上させることで、強度低下の課題を解決している。この方法によれば、前駆体の被覆により、硬化中のカーボンナノチューブの凝集を防止することができ、反応成形により良分散状態で成形できるため、樹脂マトリクスの強度等の特性を向上させることができる。しかし、粉体からの成形であるため、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜を形成することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008-200613号公報
【特許文献2】特開2019-178223号公報
【特許文献3】特開2015-72899号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】小笠原 俊夫他, 日本複合材料学会誌 29 (2003) 143-149
【非特許文献2】Q. Y. Tang et al., Sensor and Actuators B 152 (2011) 99-106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、特許文献3に開示された発明にあっては、前記したように、前駆体の被覆により、硬化中のカーボンナノチューブの凝集を防止することができ、反応成形により良分散状態で成形できるため、樹脂マトリクスの強度等の特性を向上することができる。しかし、粉体からの成形であるため、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜を形成することが困難である。
【0014】
本発明の目的は、樹脂薄膜の中により高濃度でかつ均一な分散状態でカーボンナノチューブが配合され、高いひずみエネルギーを有し、柔軟性があり、高誘電率および高シート抵抗を有するカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜は、樹脂と、前記樹脂に分散された複数のカーボンナノチューブとを含み、前記カーボンナノチューブの添加量をx(vol%)としたとき、前記カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の引張試験における応力-歪み曲線から求めるひずみエネルギーy(GPa)が、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
y>-15.837x+291.85 ・・・(1)
【0016】
前記カーボンナノチューブの添加量が0.1~14.3vol%の範囲において、引張弾性率の増加率(GPa/vol%)は10%以下であることが好ましい。つまり、カーボンナノチューブの含有量が増加しても、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の引張弾性率の増大は小さい。
前記カーボンナノチューブの添加量が0.1~6.9vol%の範囲において、引張試験における最大ひずみ(%)が20%以上であることが好ましい。
【0017】
前記カーボンナノチューブの添加量は6.9~14.3vol%の範囲において、引張試験における最大ひずみ(%)が10%以上であることが好ましい。
【0018】
前記カーボンナノチューブの添加量をx(vol%)としたとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜のシート抵抗y[Ω/sq]は、下記式(2)を満たすことが好ましい。
y>1E+12x-8 ・・・(2)
【0019】
本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の製造方法は、樹脂前駆体と溶剤からなるワニスAにカーボンナノチューブを混合し、貧溶媒を用いた再沈殿法により溶剤を除去し、カーボンナノチューブを樹脂前駆体で被覆した樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブを生成する工程1と、前記樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブ、前記樹脂前駆体、および溶剤を混合してワニスBを調製する工程2と、前記ワニスBを基板に塗布する工程3と、前記基板に塗布されたワニスBを加熱して溶剤を揮発させる工程4と、前記樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブと前記樹脂前駆体を化学反応させることにより、前記基板上にカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜を形成する工程5とを有することを特徴とする。
【0020】
前記工程1において、前記カーボンナノチューブの直径の1.1倍から30倍の前記樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブを作製し、前記工程2において、被覆された樹脂前駆体量と前記ワニスBに加えた樹脂前駆体量により、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜中におけるカーボンナノチューブの濃度を制御することが好ましい。
【0021】
前記樹脂前駆体はイミド化率が80%以下のポリアミック酸であり、前記ポリアミック酸を加熱することによって、該ポリアミック酸中のカルボキシル基とイミノ基とがイミド結合を形成して、ポリイミド樹脂を生成することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、樹脂薄膜の中により高濃度でかつ均一な分散状態で数nm~数百nmのカーボンナノチューブが配合された複合樹脂薄膜を提供することができる。前記複合樹脂薄膜は、高いひずみエネルギーを有し、柔軟性があり、高誘電率および高シート抵抗を有する。
本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜は、カーボンナノチューブを添加しても、引張弾性率の増大は小さい。前記カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜は、高いひずみエネルギーを有し、カーボンナノチューブの含有量の増大に伴い、ひずみエネルギーは低下する。よって、本発明によれば、高濃度のカーボンナノチューブを複合化させた各種センサをフレキシブルデバイスに内蔵できる。
本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜は、高シート抵抗を有し、カーボンナノチューブの含有量の増大に伴い、シート抵抗が低下する。よって、本発明によれば、カーボンナノチューブの優れた特性を発現させながらも絶縁性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜に分散された樹脂被覆カーボンナノチューブの断面を模式的に表した図である。
【
図2】
図2は、本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の断面を模式的に表した図である。
【
図3】
図3は、樹脂を被覆しないカーボンナノチューブを用いて作製した複合樹脂薄膜の断面を観察した透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【0024】
【
図4】
図4は、本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の断面を観察した透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【
図5】
図5(a)は、樹脂被覆カーボンナノチューブの軸方向に沿った断面図であり、
図5(b)は、樹脂被覆カーボンナノチューブの径方向の断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1、比較例1、比較例2のカーボンナノチューブの添加量に対してシート抵抗をプロットした結果を示すグラフである。
【0025】
【
図7】
図7は、
図6の実施例1、比較例1、比較例2のシート抵抗にカーボンナノチューブの体積分率の8乗を乗じた値を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜(カーボンナノチューブ添加量:3.4~14.3vol%)と、カーボンナノチューブを添加していない樹脂薄膜(カーボンナノチューブ添加量:0vol%)の引張応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例1のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜と、カーボンナノチューブを添加していない樹脂薄膜とのひずみエネルギーの結果を示すグラフである。
【0026】
【
図10】
図10は、本発明の実施例1のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の比誘電率の結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例1のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜と、カーボンナノチューブを添加していない樹脂薄膜膜の弾性率の結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜およびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
〔カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜〕
本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100は、樹脂と、前記樹脂に分散された複数のカーボンナノチューブ3とを含み、前記カーボンナノチューブ3の含有量をx(vol%)としたとき、前記カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100のマイクロマシン及びMEMS(第2部,第3部)に準拠した引張試験における応力-歪み曲線から求めるひずみエネルギーy(GPa)は、下記式(1)を満たす。
y>-15.837x+291.85 ・・・(1)
【0028】
図9は、カーボンナノチューブ3の添加量をx(vol%)としたとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100のひずみエネルギーy(GPa)をプロットしたグラフである。実施例のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100では、カーボンナノチューブ3の添加量(vol%)に対するひずみエネルギーy(GPa)がしきい値y=-15.837x+291.85より上の領域にプロットされているのがわかる。つまり、前記カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100はy>-15.837x+291.85の関係を満たすとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100の機械強度が向上する。
【0029】
カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100におけるカーボンナノチューブ3の濃度、すなわち、カーボンナノチューブ3の添加量が0.1~14.3vol%の範囲であるとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100の引張弾性率(GPa)の増加率は10%以下であることが好ましい。引張弾性率の増加率(GPa/vol%)が10%以下であるとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100はフレキシブルデバイス向けの材料として使用するのに充分な強度を有する。つまり、高濃度のカーボンナノチューブ3を添加しても、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100の引張弾性率は急激に増加しない。このため、本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100はその柔軟性を活かし、フレキシブルデバイスへの適用が可能である。一方、引張弾性率の増加率(GPa/vol%)が10%を超えると、伸びづらくなり、フレキシブルデバイス向けの材料として適用できなくなることがある。
【0030】
カーボンナノチューブ3の添加量が0.1~6.9vol%であるとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100の引張試験における最大ひずみ(%)は20%以上であることが好ましい。ただし、カーボンナノチューブの添加量が0.1~6.9vol%であって、ひずみの増加率が20%以上であると、伸びづらくなり、フレキシブルデバイス向けの材料として適用できなくなる。
【0031】
また、カーボンナノチューブ3の添加量が6.9~14.3vol%であるとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100の引張試験における最大ひずみ(%)は10%以上であることが好ましい。ただし、カーボンナノチューブの添加量が6.9~14.3vol%であって、ひずみの増加率が10%以上であると、伸びづらくなり、フレキシブルデバイス向けの材料として適用できなくなる。
【0032】
前記カーボンナノチューブ3の添加量をx(vol%)としたとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100のシート抵抗y(Ω/sq)は、下記式(2)を満たすことが好ましい。
y>1E+12x-8 ・・・(2)
【0033】
図6は、カーボンナノチューブ3の添加量をx(vol%)としたとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100のシート抵抗y(Ω/sq)をプロットしたグラフである。シート抵抗は、四端子法で測定した値である。実施例1では、比較例1および2と異なり、カーボンナノチューブ3の添加量に対するシート抵抗値が、y=1E+12x
-8のしきい値よりも上の領域にプロットされているのがわかる。
図7は、カーボンナノチューブ3の含有量(vol%)に対して、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100のシート抵抗(Ω/sq)を体積分率でプロットしたグラフである。本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100は、y>1E+12x
-8の関係を満たすとき、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100は、導電性があるカーボンナノチューブ3を十分に高い濃度で含有し、かつ、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100中でカーボンナノチューブ3が良分散状態であることを示している。つまり、前記カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100において、カーボンナノチューブ3同士の接触がなく、導電パスが極めて形成しにくい状態である。
【0034】
カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100中で、カーボンナノチューブ3は、例えば、
図2に示すように分散している。前記カーボンナノチューブ3は、
図1に示すような樹脂層2で被覆された形態を有する。樹脂で被覆されたカーボンナノチューブ3は、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜中で分散されており、連結した複数の樹脂被覆カーボンナノチューブ1の間には、空隙(樹脂マトリックス4)が形成されている。一方、樹脂を被覆しないカーボンナノチューブを用いた場合、
図3の透過電子顕微鏡(TEM)画像からわかるように、複合樹脂薄膜でカーボンナノチューブが凝集している。樹脂層2の表面同士は一部連結していてもよい。
【0035】
カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100に用いられるカーボンナノチューブは、直径は、数nm~数百nm、長さは、数μm~数十μmである。カーボンナノチューブの大きさは、例えば、直径10nm、長さ1.5μmである。なお、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100中のカーボンナノチューブの大きさは、市販品のカーボンチューブの大きさと同じである。
【0036】
図4の透過電子顕微鏡(TEM)画像は、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100中で樹脂被覆カーボンナノチューブ1粒子が分散している様子を示している。
【0037】
前記樹脂には、通常、ポリイミド樹脂またはフェノール樹脂が用いられる。
前記樹脂がポリイミド樹脂である場合、その樹脂前駆体はイミド化率80%以下のポリアミック酸であることが好ましい。ポリアミック酸は加熱されると、カルボキシル基とイミノ基とがイミド化反応してポリイミド樹脂を形成する。
【0038】
フェノール樹脂には、ノボラック型フェノール樹脂と、ホルムアルデヒド源となる硬化剤(例えば、ヘキサメチレンテトラミン)と、少量の塩基触媒とを反応させ、生成するメチロール基が加熱により脱水反応することにより架橋硬化した樹脂、または、レゾール型フェノール樹脂を加熱してメチロール基を脱水反応させることにより架橋硬化した樹脂が用いられる。
これらのうち、耐熱性に優れる点でポリイミド樹脂が好ましい。
【0039】
前記樹脂中に、本発明の効果を損なわない範囲内で、付加物質、例えば、ダイヤモンドや立方晶窒化ホウ素(CBN)等の砥粒、セラミックスや金属粉(例えば、炭化ケイ素、銅、ニッケル)等を含んでいてもよい。樹脂中に砥粒または金属粉などを含む場合、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100は、例えば、研削または研磨用の砥石に好適に使用することができる。
【0040】
カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜10の膜厚は、用途に応じて適宜設定すればよいが、通常0.1~100μmである。
【0041】
〔カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の製造方法〕
本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100の製造方法は、樹脂前駆体と溶剤からなるワニスAにカーボンナノチューブ3を混合し、貧溶媒を用いた再沈殿法により溶剤を除去し、カーボンナノチューブ3を樹脂前駆体で被覆した樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブ1を生成する工程1と、前記樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブ、前記樹脂前駆体、および溶剤を混合してワニスBを調製する工程2と、前記ワニスBを基板に塗布する工程3と、前記基板に塗布されたワニスBを加熱して溶剤を揮発させる工程4と、前記樹脂前駆体被覆カーボンナノチューブと前記樹脂前駆体を化学反応させることにより、前記基板上にカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100を形成する工程5とを有する。
【0042】
このような構成によれば、樹脂の中に所定濃度で、かつ均一な分散状態でカーボンナノチューブが配合されたカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100を得ることができる。
【0043】
工程1において、樹脂前駆体として、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を用いた場合、樹脂被覆カーボンナノチューブ1は、ポリアミック酸溶液にカーボンナノチューブ3を混合し、再沈殿させる方法により生成する。具体例を挙げて説明すると、カーボンナノチューブ(ナノシル社製NC7000(登録商標))とポリアミック酸ワニス(宇部興産社製 U-Varnish A)を任意の割合で混合する。ポリアミック酸ワニスの溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)である。混合溶液(ワニスA)をイソプロピルアルコール(IPA)などの貧溶媒中へ滴下し再沈殿後、吸引濾過し任意の被覆量のポリアミック酸で被覆されたカーボンナノチューブ、すなわち、樹脂被覆カーボンナノチューブ1を得る。
【0044】
樹脂前駆体にカーボンナノチューブ3を混合し、再沈殿法により樹脂被覆カーボンナノチューブ1を生成するとき、樹脂前駆体およびカーボンナノチューブ3の添加量を調節して、
図5に示すように、樹脂被覆カーボンナノチューブ1の直径Bがカーボンナノチューブ3の直径Aの1.1~30倍となるように、カーボンナノチューブ3を被覆する樹脂層2の厚さを調節する。直径Aに対する直径Bは倍率15万倍程度の電子顕微鏡観察によって測定することができる。なお、
図5(a)は、樹脂被覆カーボンナノチューブ1の軸方向に沿った断面図を表し、
図5(b)樹脂被覆カーボンナノチューブ1の径方向の断面図を表す。
【0045】
カーボンナノチューブ3を被覆する樹脂層2の厚さにより、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100中におけるカーボンナノチューブ3の濃度を制御することができる。カーボンナノチューブ3の濃度が充分に高いと、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100の機械強度、弾性率、耐熱性および耐熱性をより向上させることができる。
【0046】
工程2では、前記樹脂被覆カーボンナノチューブ1、前記樹脂前駆体、および溶剤を混合してワニスBを調製する。
前記樹脂前駆体には、工程1でカーボンナノチューブ3を被覆するのに用いた樹脂前駆体が用いられる。この樹脂前駆体は、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100のマトリックスを形成する。溶剤には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が用いられる。
前記ワニスBには、付加物質を添加してもよい。付加物質を添加する場合、その添加量は、樹脂前駆体、カーボンナノチューブおよび付加物質の合計100vol%中、12.5~37.5vol%程度とする。セラミックスや金属粉など、砥粒以外の付加物質も添加する場合、付加物質の合計添加量は10~70vol%とすることが望ましい。
【0047】
付加物質を添加する場合、具体的には、ロッキングミル、遊星ボールミル、自転公転ミキサーおよび乳鉢などを用いて混合する。また、付加物質とともに有機溶媒を添加して混合物を液相にして、回転式または超音波を用いた撹拌装置を用いて混合してもよい。その場合、混合後に有機溶媒を乾燥除去する。
【0048】
付加物質を添加しない場合、すなわち、樹脂被覆カーボンナノチューブ1のみの場合には、混合せずに、真空ホットプレス装置で所定形状に成形することができる。
【0049】
工程3では、ワニスBを基板に塗布し、数Pa以下の減圧下で反応成形を行う。これにより、ワニスBを加熱して溶剤が揮発する(工程4)。工程2で付加物質を添加する場合は、前記ワニスBを金型に充填し、真空ホットプレス装置を用いて、数Pa以下の減圧下で反応成形を行う。
【0050】
ポリアミック酸被覆カーボンナノチューブを用いる場合、反応温度で真空度の変動が収まるまで保温し、その後、380℃まで昇温し数時間加熱する。付加物質を添加しない場合は、プレス圧は20~50MPa程度で充分である。付加物質を添加する場合は、その添加量が多くなると、約200MPaのプレス圧が必要な場合がある。
【0051】
工程5で、加熱された樹脂被覆カーボンナノチューブ1の樹脂層2は、加熱すると化学反応してポリイミド化するとともに、隣接する樹脂被覆カーボンナノチューブ1間において樹脂層2同士が連結する。このとき、カーボンナノチューブ3は樹脂で被覆されているために、凝集が抑制され、均一な分散状態を保ったままで、樹脂被覆カーボンナノチューブ1粒子の樹脂層2が化学反応によりポリイミド化する。これにより、樹脂被覆カーボンナノチューブ1が高濃度でかつ均一に分散されたカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜100が得られる。
【実施例0052】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜の作製]
[実施例1]
ポリアミック酸をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた溶液中に、平均長さ1.5μm、直径約10nmのカーボンナノチューブを、カーボンナノチューブの濃度が30wt%となるように混合し、超音波ホモジナイザー(ヒールッシャー社製、UP400S)を用いて、出力70%および処理時間1分間の条件下に混合・分散して、イソプロパノール中に再沈殿した。NMPを除去することにより樹脂被覆カーボンナノチューブを得た。
ふるいを用いて、53μm以下の樹脂被覆カーボンナノチューブの集合粉末を選定し、得られた樹脂被覆カーボンナノチューブ粒子と、前記ポリアミック酸と、前記NMPとを、カーボンナノチューブの濃度が3.4~14.3vol%の範囲となるように混合し、超音波ホモジナイザーで攪拌してワニスを調製し、スピンコート法により基板上に塗布した。
塗布したワニスを350℃まで10分間かけて徐々に加熱し、溶媒を揮発(イミド化)させることで、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜を得た。
【0053】
[比較例1]
溶媒であるN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)中に、長さ約5μm、直径約40~60nmの多層カーボンナノチューブ、界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)とポリビニルピロリドン(PVP)、モノマーであるピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を入れ、4時間撹拌して原材料を重合させ、カーボンナノチューブを分散させたポリアミック酸溶液を形成した。そして、その混合溶液を基板に塗布し、強制対流式オーブンを用いて60℃で12時間加熱して溶媒を揮発させた後、段階的に温度を上げ、300℃で60分間加熱してカーボンナノチューブ複合ポリイミド薄膜を形成した。カーボンナノチューブの濃度は0.3~2.0vol%とした。
【0054】
[比較例2]
実施例1において、樹脂を被覆しないカーボンナノチューブと、ポリアミック酸と、NMPとを混合してワニスを調製した以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜を作製した。カーボンナノチューブの濃度は3.4vol%とした。
【0055】
[シート抵抗]
四端子法を用いて測定した。
図6にカーボンナノチューブの添加量(vol%)に対するシート抵抗[Ω/sq]の結果を示し、
図7にカーボンナノチューブの添加量(vol%)に対するシート抵抗(体積分率)[Ω/sq]の結果に示す。
【0056】
[引張応力]
試験片作製のための供試材料として、300nm厚さのSiO
2層を有するSiウェハを準備した。前記Siウェハの表面にシランカップリング剤(信越化学工業(株)製、KBE―903)を塗布して、実施例1のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜を成膜した。
チャック間距離6.5mm、引張速度0.5μm/s、初期荷重0Nで引張試験を実施した。引張試験機には、駆動部、変位・荷重測定部、および試験把持部から構成され、駆動部にはPZTアクチュエータ、変位測定部には差動変位計(LVDT)、荷重測定部には微小荷重ロードセルを用いた。
大気中、常温下で試験装置の最大引張変位に至るまで引張負荷を付与した。
結果を
図8に示す。
【0057】
[ひずみエネルギー]
引張応力―ひずみ曲線の面積から算出した。
カーボンナノチューブの添加量(vol%)に対するひずみエネルギー(GPa)の結果を
図9に示す。
【0058】
[比誘電率]
カーボンナノチューブ複合樹脂薄膜を2枚の電極で挟み込んでコンデンサを形成させ、LCRメータ((株)エヌエフ回路設計ブロック製、ZM2376)を用いて測定したインピーダンス値から算出した。
樹脂薄膜の厚さを約3μm、電極材料をAu、電極の面積を約180mm
2とした。
カーボンナノチューブの添加量(vol%)に対する比誘電率(-)の結果を
図10に示す。
【0059】
[ヤング率]
引張応力―ひずみ曲線の弾性域の傾きから算出した。
ひずみが0.05~0.5%の範囲を弾性域として用いた。
カーボンナノチューブの添加量(vol%)に対するヤング率(GPa)の結果を
図11に示す。
本発明のカーボンナノチューブ複合樹脂薄膜は、ウェアラブルデバイス等の機械要素部品やセンサの樹脂薄膜、研削また研磨等の加工用の冶具の樹脂薄膜等として広く用いることができる。