(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064476
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】樹脂ゴム複合体及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
B32B 25/04 20060101AFI20230501BHJP
B60C 5/01 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B32B25/04
B60C5/01 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174785
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畠中 晃人
【テーマコード(参考)】
3D131
4F100
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA30
3D131BA18
3D131BA20
3D131BC05
3D131BC07
3D131BC36
3D131BC55
3D131CB10
3D131HA12
3D131HA28
3D131HA36
3D131KA06
3D131LA28
4F100AA37B
4F100AH02B
4F100AH03A
4F100AH10B
4F100AK28B
4F100AK28C
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4F100BA03
4F100GB32
4F100GB51
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】樹脂層と前記樹脂層に直接接するゴム層との150℃における接着性に優れた樹脂ゴム複合体を提供する。
【解決手段】エポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むゴム層である第1の層と、前記第1の層に直接接して設けられ、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含有する樹脂を含む樹脂層である第2の層と、を有する樹脂ゴム複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むゴム層である第1の層と、
前記第1の層に直接接して設けられ、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含有する樹脂を含む樹脂層である第2の層と、
を有する樹脂ゴム複合体。
【請求項2】
前記カーボンブラックの含有量は、前記ゴム100質量部に対し、25質量部~65質量部である、請求項1に記載の樹脂ゴム複合体。
【請求項3】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有率は、前記第2の層全体に対し、50質量%以上である、請求項1又は請求項2に記載の樹脂ゴム複合体。
【請求項4】
前記フェノール樹脂の含有率は、前記第2の層全体に対し、3質量%以上である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の樹脂ゴム複合体。
【請求項5】
前記ゴムにおけるエポキシ化比率が30%~60%である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の樹脂ゴム複合体。
【請求項6】
前記有機リン化合物の含有量は、前記ゴム100質量部に対し、0.5質量部以上である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の樹脂ゴム複合体。
【請求項7】
前記第2の層がカルボジイミド化合物を含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の樹脂ゴム複合体。
【請求項8】
前記第1の層に直接接し、前記第1の層における前記第2の層と反対側の面に設けられ、ジエン系ゴムを含むゴム層である第3の層をさらに有する、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の樹脂ゴム複合体。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の樹脂ゴム複合体を有するタイヤ。
【請求項10】
環状のタイヤ骨格部材と、
前記タイヤ骨格部材のタイヤ径方向外側に設けられ、前記第2の層を含むベルト部材と、
前記ベルト部材のタイヤ径方向外側に設けられ、前記第1の層を含むゴム部材と、
を有する、請求項9に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記第2の層を含む環状のタイヤ骨格部材と、
前記タイヤ骨格部材のタイヤ幅方向外側及びタイヤ幅方向内側の少なくとも一方に設けられ、前記第1の層を含むゴム部材と、
を有する、請求項9に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記第1の層を含む環状のタイヤ骨格部材を有し、
前記タイヤ骨格部材におけるビード部が、前記第2の層を含むビードコア及び前記第2の層を含むビードフィラーの少なくとも一方を含む、請求項9に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ゴム複合体及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量化、成形容易性、リサイクル等の観点から、例えばタイヤ等の分野において、樹脂層を含む部材をタイヤ部材の一部として用いることが検討されている。例えば、特許文献1には、樹脂として熱可塑性高分子材料であるポリアミド系熱可塑性エラストマーを用いたタイヤが提案されている。
一方で、樹脂層を含む部材をタイヤ部材の一部として用いる場合、前記樹脂層が、他の部材のゴム層と接する位置に配置されることがあるが、材料の違いから、樹脂層とゴム層との接着性を高めることは容易ではない。そこで、例えば、有機溶剤系の接着剤の層を樹脂層とゴム層との間に設けることにより、樹脂層とゴム層との界面における剥離の回避が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、有機溶剤系の接着剤を使うと塗膜形成後に溶剤を揮発させる必要があり、乾燥工程に時間を要する。また、作業環境面から排気設備等の設置が求められることもあり、製造面の簡易化、コストの低減等の観点で更なる改良の余地がある。
そのため、樹脂層とゴム層とが接するように配置された樹脂ゴム複合体において、接着剤を介さずに両者が直接接した状態であっても、両者間での優れた接着性を得ることが望まれている。特にタイヤ等の材料が繰り返し入力を受ける製品においては、使用時に高温になることがあり、高温下においても優れた接着性を保つことが望まれている。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、樹脂層と前記樹脂層に直接接するゴム層との150℃における接着性に優れた樹脂ゴム複合体、及び前記樹脂ゴム複合体を有するタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
<1> エポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックとを含むゴム層である第1の層と、
前記第1の層に直接接して設けられ、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含有する樹脂を含む樹脂層である第2の層と、
を有する樹脂ゴム複合体。
<2> 前記カーボンブラックの含有量は、前記ゴム100質量部に対し、25質量部~65質量部である、<1>に記載の樹脂ゴム複合体。
<3> 前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有率は、前記第2の層全体に対し、50質量%以上である、<1>又は<2>に記載の樹脂ゴム複合体。
<4> 前記フェノール樹脂の含有率は、前記第2の層全体に対し、3質量%以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂ゴム複合体。
<5> 前記ゴムにおけるエポキシ化比率が30%~60%である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂ゴム複合体。
<6> 前記有機リン化合物の含有量は、前記ゴム100質量部に対し、0.5質量部以上である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂ゴム複合体。
<7> 前記第2の層がカルボジイミド化合物を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂ゴム複合体。
<8> 前記第1の層に直接接し、前記第1の層における前記第2の層と反対側の面に設けられ、ジエン系ゴムを含むゴム層である第3の層をさらに有する、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂ゴム複合体。
<9> <1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂ゴム複合体を有するタイヤ。
<10> 環状のタイヤ骨格部材と、
前記タイヤ骨格部材のタイヤ径方向外側に設けられ、前記第2の層を含むベルト部材と、
前記ベルト部材のタイヤ径方向外側に設けられ、前記第1の層を含むゴム部材と、
を有する、<9>に記載のタイヤ。
<11> 前記第2の層を含む環状のタイヤ骨格部材と、
前記タイヤ骨格部材のタイヤ幅方向外側及びタイヤ幅方向内側の少なくとも一方に設けられ、前記第1の層を含むゴム部材と、
を有する、<9>に記載のタイヤ。
<12> 前記第1の層を含む環状のタイヤ骨格部材を有し、
前記タイヤ骨格部材におけるビード部が、前記第2の層を含むビードコア及び前記第2の層を含むビードフィラーの少なくとも一方を含む、<9>に記載のタイヤ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂層と前記樹脂層に直接接するゴム層との150℃における接着性に優れた樹脂ゴム複合体、及び前記樹脂ゴム複合体を有するタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係るタイヤの構成を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【
図3】第2実施形態に係るタイヤの構成を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である
【
図4】第3実施形態に係るタイヤの構成を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である
【
図5】第4実施形態に係るタイヤのビード部を拡大した断面図である
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0010】
本明細書において「樹脂」とは、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、及び熱硬化性樹脂を含む概念であり、加硫ゴムは含まない。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において「工程」との語には、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その目的が達成されるものであれば、当該工程も本用語に含まれる。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、各成分に該当する物質が組成物中に複数存在する場合には、特に断りがない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「主成分」とは、特に断りがない限り、混合物中における質量基準の含有率が最も多い成分を意味する。
【0011】
また、本明細書において「熱可塑性樹脂」とは、温度上昇とともに材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になるが、ゴム状弾性を有しない高分子化合物を意味する。
本明細書において「熱可塑性エラストマー」とは、ハードセグメント及びソフトセグメントを有する共重合体を意味する。熱可塑性エラストマーとして具体的には、例えば、結晶性で融点の高いハードセグメント又は高い凝集力のハードセグメントを構成するポリマーと、非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーと、を有する共重合体が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、温度上昇とともに材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になり、かつ、ゴム状弾性を有するものが挙げられる。
なお、上記ハードセグメントは、例えば、主骨格に芳香族基若しくは脂環式基等の剛直な基を有する構造、又は分子間水素結合若しくはπ-π相互作用による分子間パッキングを可能にする構造等のセグメントが挙げられる。また、ソフトセグメントは、例えば、主鎖に長鎖の基(例えば長鎖のアルキレン基等)を有し、分子回転の自由度が高く、伸縮性を有する構造のセグメントが挙げられる。
【0012】
[樹脂ゴム複合体]
本実施形態に係る樹脂ゴム複合体(以下「複合体」ともいう)は、エポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むゴム層である第1の層と、第1の層に直接接して設けられ、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含有する樹脂を含む樹脂層である第2の層と、を有する。
以下、第1の層を「エポキシゴム層」、第2の層を「樹脂層」ともいう。また、第1の層を含むゴム部材を「エポキシゴム部材」ともいう。
【0013】
前記の通り、樹脂層がゴム層と接する位置に配置された複合体では、材料の違いから、樹脂層とゴム層との接着性を高めることは容易ではない。一方、有機溶剤系の接着剤の層を樹脂層とゴム層との間に設ける方法においては、接着性は高まるものの、塗膜形成後に溶剤を揮発させる必要があることから、製造面の簡易化、コストの低減等の観点で改良の余地がある。
そのため、樹脂層とゴム層とが接するように配置された複合体において、接着剤を介さずに両者が直接接した状態であっても、両者間での優れた接着性を得ることが望まれている。
また、例えば複合体をタイヤに適用する場合、走行時の繰り返しひずみによって自然に発熱し150℃前後にまで達することもあり、150℃においても優れた接着性が得られることが望まれる場合がある。
【0014】
これに対し、本実施形態の複合体は、樹脂層に直接接するゴム層がエポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むエポキシゴム層であり、かつ、樹脂層がポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含有する樹脂を含む。そのため、樹脂層と前記樹脂層に直接接するゴム層との150℃における接着性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
樹脂層とエポキシゴム層との界面において、エポキシゴム層に含まれるエポキシ化ジエン系ゴムのエポキシ基と、樹脂層に含まれるポリエステル系熱可塑性エラストマーのカルボキシ基と、が反応し共有結合が形成される。そして、樹脂層に含まれるフェノール樹脂の水酸基の一部がエポキシ化ジエン系ゴムのエポキシ基と反応し共有結合が形成されるとともに、フェノール樹脂の水酸基の他の一部がポリエステル系熱可塑性エラストマーのカルボキシ基と反応し共有結合が形成される。加えて、エポキシゴム層がカーボンブラックを含むことにより、エポキシ基の反応性を損なうことなく、エポキシ化ジエン系ゴムのカーボンブラックによる補強効果を発現できることとなるため、樹脂層とゴム層とがさらに強固に接着される。このとき、エポキシゴム層に含まれる有機リン化合物により、エポキシ化ジエン系ゴムのエポキシ基とフェノール樹脂の水酸基との反応を促進することで、樹脂層とゴム層とがさらに強固に接着され、150℃の高温においても接着性に優れると推測される。
【0015】
特に、本実施形態では、有機リン化合物がエポキシゴム層に含まれているため、樹脂層に有機リン化合物を含ませる場合に比べ、樹脂層とエポキシゴム層との接着時に有機リン化合物の反応促進作用が得られやすいと考えられる。具体的には、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含有する樹脂層に有機リン化合物を含ませると、樹脂層形成過程においてポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点以上の温度(例えば250℃前後)で混練することで、官能基同士の反応により官能基の数が減少し、エポキシゴム層に対する接着力が発現しにくくなることがある。これに対し、エポキシゴム層に有機リン化合物を含ませた場合は、上記官能基数の減少は起こりにくく、反応促進作用が得られやすいと考えられる。なお、本実施形態に係る複合体では、樹脂層が有機リン化合物を含んでもよい。
【0016】
そして、本実施形態では、上記のように樹脂層と前記樹脂層に直接接するゴム層との接着性に優れるため、樹脂層とゴム層との間に有機溶剤系の接着剤の層を設ける必要がなく、作業性を向上しつつ樹脂層とゴム層との接着性の高い複合体が得られる。
【0017】
本実施形態の複合体は、前記の通り、少なくともエポキシゴム層と、前記エポキシゴム層に直接接する樹脂層と、を有していればよく、必要に応じて他の層をさらに有してもよい。他の層としては、例えば、エポキシゴム層に直接接し、エポキシゴム層における樹脂層と反対側の面に設けられ、ジエン系ゴムを含むゴム層である第3の層(以下、「ジエンゴム層」ともいう)等が挙げられる。
以下、本実施形態に係る複合体を構成する各層について説明する。
【0018】
<エポキシゴム層>
本実施形態に係る複合体は、樹脂層に直接接するゴム層としてエポキシゴム層を有する。
エポキシゴム層は、少なくともエポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含み、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。
エポキシゴム層は、エポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むゴム組成物の加硫体である層であってもよい。つまり、エポキシゴム層は、エポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むゴム組成物である未加硫のエポキシゴム層が、樹脂層に直接接した状態で加硫された、加硫体の層であってもよい。また、ゴム組成物は、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。
【0019】
(ゴム)
エポキシゴム層は、ゴムを主成分として含むことが好ましい。
エポキシゴム層の総量に対するゴムの含有率としては、例えば、50質量%以上が挙げられ、55質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよい。また、エポキシゴム層の総量に対するゴムの含有率は、80質量%以下であってもよい。
【0020】
ゴムは、少なくともエポキシ化ジエン系ゴムを含有し、必要に応じてその他のゴムをさらに含有してもよい。
エポキシ化ジエン系ゴムの含有率は、樹脂層との接着性向上の観点から、ゴムの総量に対して、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0021】
ここで、エポキシ化ジエン系ゴムは、ジエン系ゴムに含まれる炭素-炭素二重結合の一部がエポキシ化されたものである。また、ジエン系ゴムは、ゴムの主鎖に炭素-炭素二重結合を含むものである。
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)の他、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、及びポリクロロプレンゴム(CR)等の合成ゴムなどが挙げられる。
エポキシ化ジエン系ゴムは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いてもよい。
エポキシ化ジエン系ゴムは、これらの中でも、天然ゴムをエポキシ化したエポキシ化天然ゴムを含むことが好ましい。
【0022】
ゴムがその他のゴムを含む場合、その他のゴムの種類は特に限定されるものではない。
その他のゴムとしては、例えば、エポキシ化されていないジエン系ゴム、非ジエン系ゴム等が挙げられる。その他のゴムは、これらの中でも、樹脂層との接着性向上の観点から、エポキシ化されていないジエン系ゴムが好ましく、エポキシ化されていない天然ゴムがより好ましい。その他のゴムは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いてもよい。
【0023】
エポキシゴム層に含まれるゴムのエポキシ化比率は、樹脂層との接着性向上の観点から、30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。また、エポキシ化ゴム層に含まれるゴムのエポキシ化比率は、エポキシゴム層における発熱の抑制、低温脆化の抑制、及び機械的入力等に対する疲労耐久性の向上などの観点から、60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。
エポキシ化ゴム層に含まれるゴムのエポキシ化比率は、30%~60%であることが好ましく、35%~55%であることがより好ましく、40%~50%であることがさらに好ましい。
【0024】
ここで、上記エポキシ化比率は、ゴム全体に含まれるエポキシ基の数をEp、ゴム全体に含まれる炭素-炭素二重結合のうちエポキシ化されずに残った二重結合の数をEnとしたとき、下記式(1)で表される値をいう。
式(1):エポキシ化比率(%)=(Ep/(Ep+En))×100
なお、エポキシゴム層に含まれるゴムがエポキシ化ジエン系ゴム以外のその他のゴムを含有する場合、上記二重結合の数Enはその他のゴムが有する二重結合の数も含んだ値である。
【0025】
複合体が有するエポキシゴム層に含まれるゴムのエポキシ化比率は、例えば、複合体から切り取ったエポキシゴム層の試験片を用いて、フーリエ変換核磁気共鳴分光試験法により測定し、求めることができる。
【0026】
(カーボンブラック)
エポキシゴム層に含まれるカーボンブラックは、特に限定されるものではなく、例えば、ファーネス法により得られるファーネスブラック、チャンネル法により得られるチャンネルブラック、アセチレン法により得られるアセチレンブラック、サーマル法により得られるサーマルブラック等が挙げられる。カーボンブラックは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
エポキシゴム層に含まれるカーボンブラックの含有量は、エポキシゴム層の補強性、及び樹脂層との接着性向上の観点から、エポキシゴム層に含まれるゴム100質量部に対し、25質量部~65質量部であることが好ましく、30質量部~60質量部であることがより好ましく、35質量部~55質量部であることがさらに好ましい。
【0027】
カーボンブラックの窒素吸着表面積は、特に限定されるものではなく、樹脂層との接着性向上の観点から、20m2/g以上であることが好ましく、25m2/g以上であることがより好ましく、30m2/g以上であることがさらに好ましい。カーボンブラックの窒素吸着表面積の上限値は、特に限定されない。カーボンブラックの窒素吸着表面積は、250m2/g以下であってもよい。
なお、カーボンブラックの窒素吸着表面積は、BET法により、ASTM D3037-88に準拠してN2ガスを用いて測定することで求められる。
【0028】
(有機リン化合物)
有機リン化合物は、炭素-リン結合を含む有機化合物であれば特に限定されるものではなく、ホスフィン類、ホスフィンオキサイド類、ホスホニウム塩類、ダイホスフィン類等が挙げられる。
ホスフィン類としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、トリ-m-トリルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジクロロ(エチル)ホスフィン、ジクロロ(フェニル)ホスフィン、クロロジフェニルホスフィン等が挙げられる。
【0029】
ホスフィンオキサイド類としては、例えば、トリ-n-オクチルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン等が挙げられる。
ホスホニウム塩類としては、例えば、テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、メチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、n-プロピルトリフェニルホスホニウムブロマイド、i-プロピルトリフェニルホスホニウムヨウ化物、n-ブチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン等が挙げられる。
ダイホスフィン類としては、例えば、1,2-ビス(ヂフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ヂフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ヂフェニルホスフィノ)ブタン等が挙げられる。
【0030】
有機リン化合物は、これらの中でも、樹脂層との接着性向上の観点から、ホスフィン類が好ましく、その中でも芳香族環を有するホスフィン類がより好ましく、芳香族環を3つ以上有するホスフィン類がさらに好ましく、トリアリールホスフィン類が特に好ましい。また、有機リン化合物は、樹脂層との接着性向上の観点から、トリフェニルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、トリ-m-トリルホスフィン、及びトリ-p-トリルホスフィンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
有機リン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
有機リン化合物の含有量は、接着性向上の観点から、エポキシゴム層に含まれるゴム100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましく、0.7質量部以上であることがより好ましく、0.9質量部以上であることがさらに好ましい。また、有機リン化合物の含有量は、エポキシゴム層内における有機リン化合物自体の分散性向上の観点から、エポキシゴム層に含まれるゴム100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であることがより好ましく、6質量部以下であることがさらに好ましい。
有機リン化合物の含有量は、エポキシゴム層に含まれるゴム100質量部に対し、0.5質量部~10質量部であることが好ましく、0.7質量部~8質量部であることがより好ましく、0.9質量部~6質量部であることがさらに好ましい。
【0032】
(その他の成分)
エポキシゴム層に含まれるその他の成分としては、例えば、カーボンブラック以外の補強材、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、脂肪酸又はその塩、金属酸化物、プロセスオイル、プロセスオイル以外のオイル、老化防止剤、粘着付与剤、スコーチ防止剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
カーボンブラック以外の補強材としては、例えばシリカが挙げられる。補強材としてカーボンブラックに加えてシリカを併用する場合、シリカの分散性向上を目的としてシランカップリング剤をさらに用いてもよい。
その他の成分としてシリカ等の補強材を用いる場合、カーボンブラック及びシリカを含む補強材全体の含有量は、ゴム層の補強性の観点及び繰り返し歪が生じた場合に発熱しにくくする観点から、エポキシゴム層に含まれるゴム100質量部に対し、25質量部~65質量部であることが好ましく、30質量部~60質量部であることがより好ましく、35質量部~55質量部であることがさらに好ましい。
【0034】
加硫剤としては、公知の加硫剤、例えば硫黄、有機過酸化物、樹脂加硫剤等が用いられる。その中でも、加硫剤として硫黄が用いられていることが好ましい。
加硫促進剤としては、公知の加硫促進剤、例えばアルデヒド類、アンモニア類、アミン類、グアニジン類、チオウレア類、チアゾール類、スルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカーバメイト類、キサンテート類等が用いられる。
脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸などが挙げられ、また、これらはステアリン酸亜鉛のように塩の状態で配合されてもよい。これらの中でも、ステアリン酸が好ましい。
また、金属酸化物としては、亜鉛華(ZnO)、酸化鉄、酸化マグネシウム等が挙げられ、中でも亜鉛華が好ましい。
プロセスオイルは、アロマティック系、ナフテン系、パラフィン系のいずれを用いてもよい
老化防止剤としては、アミン-ケトン系、イミダゾール系、アミン系、フェノール系、硫黄系及び燐系などが挙げられる。
粘着付与剤としては、フェノール系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等が挙げられる。
スコーチ防止剤としては、例えば、N-シクロヘキシルチオフタルイミド等が挙げられる。
【0035】
<樹脂層>
本実施形態に係る複合体は、エポキシゴム層に直接接する樹脂層を有する。
樹脂層は、少なくともポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含有する樹脂を含み、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。なお、樹脂層は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含有する樹脂を含む樹脂組成物の反応生成物である層であってもよい。樹脂組成物は、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。
樹脂層は、樹脂を主成分として含むことが好ましい。具体的には、樹脂層の総量に対する樹脂の含有率が、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。
【0036】
樹脂は、少なくともポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含有し、必要に応じてその他の樹脂をさらに含有してもよい。
【0037】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有率は、エポキシ化ゴム層との接着性向上の観点から、樹脂層の総量に対して、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有率の上限値は特に限定されるものではない。ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有率としては、例えば、樹脂層の総量に対して99質量%以下の範囲が挙げられる。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いてもよい。
【0038】
フェノール樹脂の含有率は、エポキシ化ゴム層との接着性向上の観点から、樹脂層の総量に対して、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることがさらに好ましい。
また、フェノール樹脂の含有率は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。フェノール樹脂の含有率が上記範囲であると、上記範囲よりも多い場合に比べて、低温(例えば-10℃)における樹脂層の耐久性が向上する。また、フェノール樹脂の含有率が上記範囲であると、例えば複合体の樹脂層をタイヤ骨格部材に適用した場合、上記範囲よりも多い場合に比べてタイヤの転がり抵抗が低くなる傾向にある。
フェノール樹脂の含有率は、3質量%~40質量%であることが好ましく、5質量%~35質量%であることがより好ましく、7質量%~30質量%であることがさらに好ましい。
ここで、フェノール樹脂の含有率は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等の他の成分と反応して共有結合した状態のものも含む値とする。
フェノール樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いてもよい。
【0039】
(ポリエステル系熱可塑性エラストマー)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、少なくともポリエステルが結晶性で融点の高いハードセグメントを形成し、他のポリマー(例えば、ポリエステル又はポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成している材料が挙げられる。
【0040】
ハードセグメントを形成するポリエステルとしては、芳香族ポリエステルを用いることができる。芳香族ポリエステルは、例えば、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールとから形成することができる。芳香族ポリエステルは、好ましくは、テレフタル酸及びジメチルテレフタレートの少なくとも1種と、1,4-ブタンジオールと、から誘導されるポリブチレンテレフタレートである。また、芳香族ポリエステルは、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、若しくはこれらのエステル形成性誘導体等のジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロール等の脂環式ジオール;キシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、4,4’-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニル等の芳香族ジオール;等)と、から誘導されるポリエステル、又はこれらのジカルボン酸成分及びジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルであってもよい。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分、多官能ヒドロキシ成分等を5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
ハードセグメントを形成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0041】
また、ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエーテル等が挙げられる。
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等が挙げられる。
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が挙げられる。
これらの脂肪族ポリエーテル及び脂肪族ポリエステルの中でも、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性の観点から、ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が好ましい。
【0042】
また、ソフトセグメントを形成するポリマーの数平均分子量は、強靱性及び低温柔軟性の観点から、300~6000が好ましい。さらに、ハードセグメント(x)とソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、99:1~20:80が好ましく、98:2~30:70が更に好ましい。
【0043】
上述のハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、例えば、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。これらの中でも、上述のハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレートであり、ソフトセグメントが脂肪族ポリエーテルである組み合わせが好ましく、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレートであり、ソフトセグメントがポリ(エチレンオキシド)グリコールである組み合わせが更に好ましい。
【0044】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、東レ・デュポン(株)製の「ハイトレル」シリーズ(例えば、3046、5557、6347、4047N、4767N等)、東洋紡(株)製の「ペルプレン」シリーズ(例えば、P30B、P40B、P40H、P55B、P70B、P150B、P280B、E450B、P150M、S1001、S2001、S5001、S6001、S9001等)等を用いることができる。
【0045】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0046】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂としては、例えば、フェノール、m-クレゾール、3,5-キシレノール、p-アルキルフェノール、レゾルシン等の各種フェノール類と、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類と、の縮合物が挙げられる。フェノール樹脂として具体的には、上記各種フェノール類と上記アルデヒド類とを酸触媒で縮合反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、上記各種フェノール類と上記アルデヒド類とをアルカリ触媒で付加反応させたレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
また、フェノール樹脂としては、例えば、未変性のストレートフェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、アラルキル変性フェノール樹脂、キシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、オイル変性フェノール等が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、フェノール樹脂は、樹脂層の物性及び樹脂層形成時の作業性の観点から、ノボラック型フェノール樹脂であることが好ましく、その中でもノボラック型ストレートフェノール樹脂、ノボラック型テルペン変性フェノール樹脂、ノボラック型オイル変性フェノール樹脂、ノボラック型アラルキル変性フェノール樹脂、ノボラック型キシリレン変性フェノール樹脂、及びノボラック型メラミン変性フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましく、ノボラック型ストレートフェノール樹脂、ノボラック型テルペン変性フェノール樹脂、及びノボラック型オイル変性フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含むことがさらに好ましい。
【0048】
フェノール樹脂の水酸基当量は、100g/eq~300g/eqであることが好ましく、100g/eq~200g/eqであることがより好ましく、100g/eq~150g/eqであることが更に好ましい。
フェノール樹脂の水酸基当量が上記範囲であることにより、上記範囲よりも大きい場合に比べて接着性に優れるという利点がある。また、水酸基当量が上記範囲であるフェノール樹脂は、上記範囲よりも小さいフェノール樹脂に比べて構造的に入手しやすいという利点がある。
なお、上記水酸基当量は、JIS K0070:1992に準拠して測定される。
【0049】
(その他の樹脂)
樹脂がその他の樹脂を含む場合、その他の樹脂の種類は特に限定されるものではない。
その他の樹脂としては、例えば、ポリエステル系熱可塑性樹脂、ポリアミド系熱可塑性樹脂、ポリスチレン系熱可塑性樹脂、ポリウレタン系熱可塑性樹脂、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂、塩化ビニル系熱可塑性樹脂等の熱可塑性樹脂;ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー;熱硬化性樹脂;などが挙げられる。その他の樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いてもよい。
その他の樹脂は、これらの中でも、エポキシ化ゴム層との接着性向上の観点から、ポリエステル系熱可塑性樹脂が好ましい。また、その他の樹脂は、樹脂層に含まれるポリエステル系熱可塑性エラストマーのハードセグメントと同じ構造を有するポリエステル系熱可塑性樹脂であってもよい。
【0050】
ポリエステル系熱可塑性樹脂としては、前述のポリエステル系熱可塑性エラストマーのハードセグメントを形成するポリエステルを挙げることができる。
ポリエステル系熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ-3-ブチル酪酸、ポリヒドロキシ-3-ヘキシル酪酸、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等の芳香族ポリエステルなどを例示することができる。これらの中でも、耐熱性及び加工性の観点から、ポリエステル系熱可塑性樹脂としては、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0051】
ポリエステル系熱可塑性樹脂の市販品としては、例えば、ポリプラスチック(株)製の「ジュラネックス」シリーズ(例えば、2000、2002等)、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製の「ノバデュラン」シリーズ(例えば、5010R5、5010R3-2等)、東レ(株)製の「トレコン」シリーズ(例えば、1401X06、1401X31等)等を用いることができる。
【0052】
(カルボジイミド化合物)
樹脂層は、その他の成分として、カルボジイミド化合物を含むことが好ましい。樹脂層がカルボジイミド化合物を含むことで、樹脂層の機械的耐久性が向上するとともに、エポキシゴム層との接着性も向上する。その理由は定かではないが、以下のように推測される。具体的には、カルボジイミド化合物は2官能性を示すカルボジイミド基(-N=C=N-)を有するため、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが有する基(例えばカルボキシ基(-COOH))と反応して共有結合が形成される。そして、ポリエステル系熱可塑性エラストマーがカルボジイミド化合物に架橋される形で結合することで、樹脂層の機械的耐久性が向上するとともに、架橋したカルボジイミド化合物由来の新たなカルボキシ基が形成されることによりエポキシゴム層との接着性も向上するものと推測される。
【0053】
カルボジイミド化合物は、官能基として、分子内に少なくとも1つのカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。
カルボジイミド化合物としては、例えばN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-ジ(o-トルイル)カルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド等の一官能カルボジイミド化合物;p-フェニレン-ビス(2,6-キシリルカルボジイミド)、p-フェニレン-ビス(t-ブチルカルボジイミド)、p-フェニレン-ビス(メシチルカルボジイミド)、テトラメチレン-ビス(t-ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン-1,4-ビス(メチレン-t-ブチルカルボジイミド)等の二官能カルボジイミド化合物;有機イソシアネートの縮合物等の多官能カルボジイミド化合物;などが挙げられる。
【0054】
有機イソシアネートとしては、芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、及び、それらの混合物が挙げられる。有機イソシアネートが有する有機基としては、芳香族の有機基及び脂肪族の有機基のいずれでもよく、芳香族の有機基及び脂肪族の有機基を組み合わせてもよい。
有機イソシアネートの具体例としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート等の有機ジイソシアネート;イソホロンイソシアネート、フェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等の有機モノイソシアネート;などが挙げられる。
【0055】
カルボジイミド化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いてもよい。
カルボジイミド化合物としては、これらの中でも多官能カルボジイミド化合物が好ましい。ここで、多官能カルボジイミド化合物とは、2個以上のカルボジイミド基を有する化合物をさす。
【0056】
なお、カルボジイミド化合物は市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば日清紡ケミカル(株)製のカルボジライト(登録商標)(例えばHMV-15CA、LA-1、ラインケミー社のスタバクゾール(登録商標)(例えばP、P-100等)が挙げられる。
【0057】
カルボジイミド化合物の官能基当量は、100g/eq~500g/eqであることが好ましく、100g/eq~400g/eqであることがより好ましく、100g/eq~300g/eqであることが更に好ましい。
カルボジイミド化合物の官能基当量が上記範囲であることにより、上記範囲よりも大きい場合に比べて樹脂層の機械的耐久性が向上し、上記範囲よりも小さい場合に比べて貯蔵安定性が高いという利点がある。
【0058】
カルボジイミド化合物は、二軸混練配合時の供給安定性及びポリエステル系熱可塑性エラストマーとの溶融混練のし易さの点から、軟化点(軟化温度)が50℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0059】
カルボジイミド化合物の含有率は、機械的耐久性向上及びエポキシゴム層との接着性向上の観点から、樹脂層全体に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、カルボジイミド化合物の含有率は、樹脂層製造時における粘度上昇抑制による加工性向上の観点から、樹脂層全体に対し、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
カルボジイミド化合物の含有率は、0.1質量%~10質量%であることが好ましく、0.3質量%~5質量%であることがより好ましく、0.5質量%~3質量%であることがさらに好ましい。
ここで、カルボジイミド化合物の含有率は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等の他の成分と反応して共有結合した状態のものも含む値とする。
【0060】
(硬化剤)
樹脂層は、その他の成分として、硬化剤を含んでもよい。硬化剤としては、加熱によりホルムアルデヒドを発生するホルムアルデヒド供与体が使用される。硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、パラホルムアルデヒド、ヘキサメトキシメチルメラミン、アセトアルデヒドアンモニア、α-ポリオキシメチレン、多価メチロールメラミン誘導体、オキサゾリジン誘導体、多価メチロール化アセチレン尿素等が挙げられ、好適にはヘキサメチレンテトラミン及びヘキサメトキシメチルメラミンが使用される。特に好ましくは、ヘキサメトキシメチルメラミンである。
【0061】
硬化剤の含有率は、樹脂層全体に対し、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。硬化剤の含有率が上記範囲であることにより、上記範囲よりも多い場合に比べて硬化速度の上昇に伴う粘度上昇が抑制され、加工性に優れるという利点がある。なお、樹脂層が硬化剤を含む場合、硬化剤の含有率は、樹脂層全体に対し、0.1質量%以上であってもよい。
また、硬化剤の含有率は、フェノール樹脂とポリエステル系熱可塑性エラストマー等との相溶性を上げ、混練後の樹脂の成形性を保つ観点から、フェノール樹脂の含有率の0.5倍以下であることが好ましく、0.4倍以下であることがより好ましく、0.3倍以下であることがさらに好ましい。樹脂層が硬化剤を含む場合、硬化剤の含有率は、フェノール樹脂の含有率の0.01倍以上であってもよい。
ここで、硬化剤の含有率は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等の他の成分と反応して共有結合した状態のものも含む値とする。
【0062】
(その他の成分)
樹脂層は、効果を損なわない範囲で添加剤等の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、各種充填剤(例えば、シリカ、炭酸カルシウム、クレイ等)、老化防止剤、オイル、可塑剤、発色剤、耐候剤等が挙げられる。
【0063】
<ジエンゴム層>
本実施形態に係る複合体は、必要に応じて、エポキシゴム層に直接接するジエンゴム層が、エポキシゴム層における樹脂層と反対側の面に設けられていてもよい。
ジエンゴム層は、少なくともジエン系ゴムを含み、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。
ジエンゴム層は、ゴムを主成分として含むことが好ましい。ゴムは、少なくともジエン系ゴムを含有し、必要に応じてその他のゴムをさらに含有してもよい。ゴムの総量に対するジエン系ゴムの好ましい含有率は、エポキシゴム層におけるエポキシ化ジエン系ゴムの好ましい含有率と同様である。
また、ジエン系ゴムの具体例、その他のゴムの具体例、ゴム以外の成分の具体例は、エポキシゴム層において説明したものと同様である。
【0064】
<複合体の製造方法>
本実施形態の複合体を製造する方法としては、例えば、未加硫のエポキシゴム層と未加硫のエポキシゴム層に直接接して設けられた樹脂層とを有する積層体を形成する工程と、積層体を加熱することで未加硫のエポキシゴム層を加硫する工程と、を経る方法が挙げられる。
【0065】
未加硫のエポキシゴム層は、例えば、エポキシゴム層を構成する材料を混練し、目的とする形状に成形することで得られる。未加硫のエポキシゴム層形成時の混練温度としては、未加硫の状態を維持する観点から、例えば80℃~180℃の範囲が挙げられる。また、混練機としては、例えば、ミキシングロール、シグマ型回転羽根付混練機、バンバリミキサー、高速二軸連続ミキサー、一軸、二軸、多軸押出機型混練機等の通常の混練機が挙げられる。成形方法としては、例えば、押出成形、圧延成形等が挙げられる。
【0066】
樹脂層は、例えば、樹脂層を構成する材料を溶融混練し、目的とする形状に成形することで得られる。樹脂層形成時の混練温度としては、例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点をTm℃としたとき、Tm℃~(Tm+80)℃の範囲が挙げられる。また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーよりも融点の高いその他の樹脂が樹脂層に含まれる場合、混練温度は、その他の樹脂の融点よりも高い温度であることが好ましい。溶融混練に用いる混練機は、未加硫のエポキシゴム層を得るために用いる混練機と同様である。また、成形方法としては、例えば、射出成形、真空成形、圧空成形、メルトキャスティング等が挙げられる。
【0067】
積層体を形成する工程では、樹脂層を、未加硫のエポキシゴム層に直接接触させる。
なお、本実施形態では、エポキシゴム層及び樹脂層が前記構成であるため、樹脂層における未加硫のエポキシゴム層に接する面及び未加硫のエポキシゴム層における樹脂層と接する面に対して、表面処理等の加工を施さずに接触させても、高い接着性が得られる。
未加硫のエポキシゴム層を加硫する工程における加硫温度は、エポキシゴム層の組成に応じて適宜設定され、例えば110℃~220℃の範囲が挙げられる。また、加硫時間としては、例えば、1分間~30時間が挙げられる。
【0068】
なお、エポキシゴム層と樹脂層とジエンゴム層とを有する複合体を製造する場合は、例えば、未加硫のエポキシゴム層と未加硫のエポキシゴム層に直接接して設けられた樹脂層と未加硫のエポキシゴム層に直接接し未加硫のエポキシゴム層における樹脂層と反対側の面に設けられた未加硫のジエンゴム層とを有する積層体を形成する工程と、積層体を加熱することで未加硫のエポキシゴム層及び未加硫のジエンゴム層を加硫する工程と、を経ることで複合体が製造される。未加硫のジエンゴム層は、未加硫のエポキシゴム層と同様の方法で得ることができる。
【0069】
<複合体の用途>
本実施形態に係る複合体は、樹脂層を含む部材及びゴム層を含む部材が用いられる種々の分野に適用され、例えばタイヤ、防振ゴム、ゴムホース、ゴム樹脂複合型ホース、ベルト、ゴムクローラ、ゴルフボール、ベローズ、免震ゴム、シーリング材、コーキング材、自転車等の分野が挙げられる。
【0070】
なお、複合体がタイヤに用いられる場合、複合体における樹脂層及びエポキシゴム層の組合せとしては、例えば以下の組合せが挙げられる。
・樹脂層としてのベルト部材と、エポキシゴム層としてのトレッド、タイヤ骨格部材、及びベルト部材の表面に接着されたゴムシートからなる群より選択される少なくとも1種の部材と、の組合せ。
・樹脂層としてのビード部材と、エポキシゴム層としてのタイヤ骨格部材、及びビード部材の表面に接着されたゴムシートからなる群より選択される少なくとも1種の部材と、の組合せ。
・樹脂層としてのタイヤ骨格部材と、エポキシゴム層としてのトレッド、ベルト部材、ビード部材、及びタイヤ骨格部材の表面に接着されたゴムシートからなる群より選択される少なくとも1種の部材と、の組合せ。
・樹脂層としてのベルトコードと、エポキシゴム層としてのベルトコードを被覆するコード被覆層、及び前記ベルトコードの表面に接着されたゴムシートからなる群より選択される少なくとも1種の部材と、の組合せ(つまりベルト部材が複合体である)。
・樹脂層としてのプライコードと、エポキシゴム層としてのプライコードを被覆するコード被覆層、及び前記プライコードの表面に接着されたゴムシートからなる群より選択される少なくとも1種の部材と、の組合せ(つまりカーカスプライが複合体である)。
・樹脂層としてのビードワイヤーと、エポキシゴム層としてのビードワイヤーを被覆するワイヤー被覆層、及び前記ビードワイヤーの表面に接着されたゴムシートからなる群より選択される少なくとも1種の部材と、の組合せ(つまりビードコアが複合体である)。
【0071】
また、複合体が樹脂層、エポキシゴム層、及びジエンゴム層を有する場合、これらの組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせが挙げられる。
・樹脂層としてのベルト部材と、エポキシゴム層としてのゴムシートと、ジエンゴム層としてのトレッド及びタイヤ骨格部材からなる群より選択される少なくとも1種の部材と、の組合せ。
・樹脂層としてのビード部材と、エポキシゴム層としてのゴムシートと、ジエンゴム層としてのタイヤ骨格部材と、の組合せ。
・樹脂層としてのタイヤ骨格部材と、エポキシゴム層としてのゴムシートと、ジエンゴム層としてのトレッド、ベルト部材及びビード部材からなる群より選択される少なくとも1種の部材と、の組合せ。
・樹脂層としてのベルトコードと、エポキシゴム層としてのゴムシートと、ジエンゴム層としてのコード被覆層と、の組合せ。
・樹脂層としてのプライコードと、エポキシゴム層としてのゴムシートと、ジエンゴム層としてのコード被覆層と、の組合せ。
・樹脂層としてのビードワイヤーと、エポキシゴム層としてのゴムシートと、ジエンゴム層としてのワイヤー被覆層と、の組合せ。
【0072】
[タイヤ]
本発明のタイヤは、少なくとも前述の複合体を有する。
以下、前述の複合体を有するタイヤの実施形態について、図を参照して説明するが、本発明のタイヤはこれらの例に限定されるものではない。
【0073】
<第1実施形態>
第1実施形態のタイヤは、樹脂を含む環状のタイヤ骨格部材と、タイヤ骨格部材のタイヤ径方向外側に設けられ、複数の補強コードと補強コードを被覆する被覆樹脂とを含むベルト部材と、ベルト部材のタイヤ径方向外側の面にベルト部材の被覆樹脂と直接接して設けられたエポキシゴム部材であるゴムシートと、ゴムシートのタイヤ径方向外側の面にゴムシートと直接接して設けられたトレッドと、を有する。第1実施形態では、前記樹脂層に相当するベルト部材の被覆樹脂と、前記エポキシゴム層に相当するゴムシートと、前記ジエンゴム層に相当するトレッドと、を有する複合体を有する。トレッドは、複数のジエンゴム層の複層体となっていてもよい。
なお、ジエンゴム層に相当するトレッドの代わりに他のゴム層に相当するトレッドを用いてもよく、エポキシゴム層に相当するトレッドを、ゴムシートを介さずにベルト部材の被覆樹脂と直接接して設けられたエポキシゴム部材としてもよい。
【0074】
以下、第1実施形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。なお、
図2中、矢印Wはタイヤ回転軸と平行な方向(以下、「タイヤ幅方向」と称する場合がある)を示し、矢印Sはタイヤの回転軸を通りタイヤ幅方向と直交する方向(以下、「タイヤ径方向」と称する場合がある)を示す。さらに、一点鎖線CLは、タイヤのセンターライン(以下「タイヤ赤道面」ともいう)を示す。
【0075】
図1は、第1実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図であり、
図2は、第1実施形態に係るタイヤの構成を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である。
図1及び
図2に示すように、第1実施形態に係るタイヤ10は、樹脂を含む樹脂材料で構成された環状のタイヤ骨格部材であるタイヤケース17と、タイヤケース17のタイヤ径方向外側に設けられたベルト部材12と、タイヤケース17のタイヤ径方向外側の面のうちベルト部材12が設けられてない領域並びにベルト部材12のタイヤ径方向外側の面及びタイヤ幅方向外側の面に設けられたエポキシゴム部材の一例であるゴムシート11と、ゴムシート11のタイヤ径方向外側の面に設けられたトレッド30と、を備えている。また、ベルト部材12は、被覆樹脂26で被覆された複数の補強コード24を備えている。
【0076】
-タイヤ骨格部材-
タイヤケース17は、例えば、樹脂材料の一例である熱可塑性エラストマーを用いて構成され、タイヤ周方向に円環状に形成されている。
タイヤケース17は、タイヤ幅方向に間隔をあけて配置された一対のビード部14と、これら一対のビード部14からタイヤ径方向外側へそれぞれ延出する一対のサイド部16と、一対のサイド部16を連結するクラウン部18と、を含んで構成されている。ビード部14は、リム(図示せず)に接触する部位である。また、サイド部16は、タイヤ10の側部を形成し、ビード部14からクラウン部18に向かってタイヤ幅方向外側に凸となるように緩やかに湾曲している。
【0077】
クラウン部18は、一方のサイド部16のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部16のタイヤ径方向外側端とを連結する部位であり、タイヤ径方向外側に配設されるトレッド30を支持する。
【0078】
また、本実施形態では、クラウン部18は、略一定厚みとされている。タイヤケース17のクラウン部18における外周面18Aは、タイヤ幅方向断面において平坦状に形成されていてもよいし、またタイヤ径方向外側に膨らんだ湾曲形状であってもよい。なお、本実施形態のクラウン部18の外周面18Aは、ベルト部材12が設けられるタイヤケース17の外周である。
【0079】
また、タイヤケース17は、1つのビード部14、1つのサイド部16、及び半幅のクラウン部18を有する円環状のタイヤ半体17Hを一対形成し、これらのタイヤ半体17Hを互いに向かい合わせ、各々の半幅のクラウン部18の端部同士をタイヤ赤道面CLで接合して形成されている。この端部同士は、例えば溶接用樹脂材料17Aを用いて接合されている。
【0080】
ビード部14には、タイヤ周方向に沿って延びる円環状のビードコア20が埋設されている。このビードコア20は、ビードコード(図示せず)で構成されている。このビードコードは、スチールコード等の金属コード、有機繊維コード、樹脂被覆した有機繊維コード、または硬質樹脂などで構成される。なお、ビード部14の剛性を十分に確保できれば、ビードコア20自体を省略してもよい。
【0081】
なお、タイヤケース17を一体成形品としてもよく、タイヤケース17を3以上の樹脂部材に分けて製造し、これらを接合して形成してもよい。例えば、タイヤケース17を各部位(例えば、ビード部14、サイド部16、クラウン部18)ごとに分けて製造し、これらを接合して形成してもよい。このとき、タイヤケース17の各部位(例えば、ビード部14、サイド部16、クラウン部18)を異なる特徴を有する樹脂材料で形成してもよい。
【0082】
また、タイヤケース17に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置してもよい。
【0083】
また、ビード部14の表面のうち、リム(図示せず)との接触部分に、該リムとの間の気密性を高めるための被覆層21を形成してもよい。被覆層21の材料としては、例えば、タイヤケース17よりも軟質で且つ耐候性が高いゴム等の材料が挙げられる。被覆層21は、ビード部14のタイヤ幅方向内側の内面からタイヤ幅方向外側へ折り返され、サイド部16の外面を経由して、ベルト部材12のタイヤ幅方向外側の端部近傍まで延びているように設けられてもよい。また、被覆層の延出端部は、後述するトレッド30によって覆われていてもよい。ただし、タイヤケース17のビード部14のみにより、リム(図示せず)との間のシール性(気密性)を確保できれば、被覆層21を設けなくてもよい。
なお、被覆層21がゴムを含む場合、タイヤケース17がポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含む樹脂層に相当し、被覆層21がエポキシ化ジエン系ゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むエポキシゴム層に相当する複合体としてもよい。
【0084】
-ベルト部材-
次に、ベルト部材12について説明する。
ベルト部材12は、樹脂被覆コード28がタイヤケース17の外周にタイヤ周方向に螺旋状に巻かれてタイヤケース17に接合されると共に、樹脂被覆コード28におけるタイヤ幅方向に互いに隣接する部分同士が接合されることで構成されている。なお、樹脂被覆コード28は、補強コード24を被覆樹脂26で被覆して構成されている
【0085】
補強コード24は、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又はこれらの繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)で構成され、被覆樹脂26はポリエステル系熱可塑性エラストマーとフェノール樹脂とを含有する樹脂を含む樹脂材料で構成されている。
補強コード24としては、例えば、一本の金属コードからなるモノフィラメント(単線)、複数本の金属コードを撚ったマルチフィラメント(撚り線)等が挙げられるが、タイヤの耐久性をより向上させる観点からは、マルチフィラメントが好ましい。複数本の金属コードの数としては、例えば2本~10本が挙げられ、5本~9本が好ましい。
タイヤの耐内圧性と軽量化とを両立する観点からは、補強コード24の太さは、0.2mm~2mmであることが好ましく、0.8mm~1.6mmであることがより好ましい。
【0086】
なお、
図1及び
図2に示すベルト部材12では、樹脂被覆コード28の層が単層であり、補強コード24がタイヤ幅方向に一列に並んだ構成となっているが、これに限られない。ベルト部材12は、樹脂被覆コード28がタイヤ周方向に螺旋状に巻かれて層を形成した後に、前記層の外周面にさらに樹脂被覆コード28が巻かれた積層構造のベルト部材であってもよい。
【0087】
また、
図1及び
図2に示すベルト部材12は、タイヤケース17の外周面に樹脂被覆コード28を螺旋状に巻いて接合することで構成されているが、これに限られない。例えば、複数本の補強コード24と被覆樹脂26とがシート状に一体化されたものをタイヤケース17の外周面に巻くことで構成されたベルト部材であってもよい。
【0088】
-ゴムシート及びトレッド-
次に、ゴムシート11(エポキシゴム部材の一例)及びトレッド30について説明する。
図1及び
図2に示すように、ベルト部材12のタイヤ径方向外側にベルト部材12に直接接してゴムシート11が配置され、ゴムシート11のタイヤ径方向外側にゴムシート11に直接接してトレッド30が配置されている。
ゴムシート11はエポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むゴム材料で構成され、トレッド30はジエン系ゴムを含むゴム材料で構成されている。トレッド30は、ジエン系ゴムを含むゴム材料の層が複数積層した複層体であってもよい。
なお、ゴムシート11及びトレッド30は、例えば、タイヤケース17上のベルト部材12に、未加硫の状態で積層された後、加硫接着される。
なお、ゴムシート11の厚さは、特に限定されるものではなく、例えば0.1mm~100mmの範囲が挙げられる。
【0089】
トレッド30のタイヤ径方向の外周面には、タイヤ周方向に延びる排水用の溝30Aが形成されている。本実施形態では、2本の溝30Aが形成されているが、これに限らず、さらに多くの溝30Aを形成してもよい。また、トレッドパターンとしては、公知のものを用いることができる。
【0090】
なお、
図1及び
図2においては、トレッド30がゴムシート11を介してベルト部材12に設けられているが、これに限られず、例えば、エポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むトレッドがベルト部材12に直接接して設けられてもよい。
【0091】
-タイヤの製造方法-
次に、本実施形態のタイヤ10の製造方法について説明する。まず、熱可塑性材料を用いた射出成形により、ビードコア20を含むタイヤ半体17Hを一組形成する。
次に、一対のタイヤ半体17Hを互いに向かい合わせ、クラウン部18となる部分の端部同士を突き合わせ、突き合わせ部分に溶融状態の溶接用樹脂材料17Aを付着させて一対のタイヤ半体17Hを接合する。このようにして、円環状のタイヤケース17が形成される。
【0092】
次に、タイヤケース17の外周に樹脂被覆コード28を巻き付ける工程について説明する。具体的には、クラウン部18の外周面18Aに向かって樹脂被覆コード28を送り出しつつ、樹脂被覆コード28の熱可塑性樹脂及びクラウン部18の外周面18Aに熱風を吹き当てて加熱し溶融させる。そして、熱可塑性樹脂が溶融した状態の樹脂被覆コード28を、溶融した状態のクラウン部18の外周面18Aに押し付けて接合させ、これらを冷却することで固化させる。
このようにして、タイヤケース17の外周、具体的には、クラウン部18の外周に樹脂被覆コード28の層が形成され、ベルト部材12となる。
なお、必要に応じて、タイヤケース17とベルト部材12との間に接着層を設けてもよい。
【0093】
次に、ベルト部材12の外周面に、ゴムシート11及びトレッド30を形成する。
具体的には、まず、ベルト部材12の外周面に、未加硫のゴムシートを巻き付ける。次に、未加硫のゴムシートの外周面に、未加硫のトレッドを巻き付ける。なお、未加硫のゴムシートの巻き付け及び未加硫のトレッドの巻き付けは、ベルト部材12が設けられたタイヤケース17を回転させながら行ってもよい。
そして、ベルト部材12、未加硫のゴムシート、及び未加硫のトレッドが積層されたタイヤケース17(すなわち、生タイヤ)を加硫する。具体的には、例えば、タイヤケース17を加硫缶やモールドに収容して加熱することで、未加硫のゴムシートが加硫されてゴムシート11が形成され、かつ、未加硫のトレッドが加硫されてトレッド30が形成される。加硫温度としては、例えば110℃~220℃が挙げられ、加硫時間としては、例えば1分間~30時間が挙げられる。
以上のようにして、第1実施形態のタイヤ10が得られる。
【0094】
<第2実施形態>
第2実施形態のタイヤは、ゴムを含む環状のタイヤ骨格部材と、タイヤ骨格部材のタイヤ径方向外側に設けられ、複数の補強コードと補強コードを被覆する被覆樹脂とを含むベルト部材と、ベルト部材のタイヤ径方向外側の面に設けられたトレッドと、タイヤ骨格部材とベルト部材との間及びベルト部材とトレッドとの間にタイヤ骨格部材及びトレッドと直接接して設けられたエポキシゴム部材であるゴムシートと、を有する。第2実施形態では、前記樹脂層に相当するベルト部材の被覆樹脂と、前記エポキシゴム層に相当するゴムシートと、前記ジエンゴム層に相当するゴム層を有するタイヤ骨格部材と、前記ジエンゴム層に相当するトレッドと、を有する複合体を有する。トレッドは、複数のジエンゴム層の複層体となっていてもよい。
なお、第2実施形態においても、ジエンゴム層に相当するトレッドの代わりに他のゴム層に相当するトレッドを用いてもよく、エポキシゴム層に相当するトレッドを、ゴムシートを介さずにベルト部材の被覆樹脂と直接接して設けられたエポキシゴム部材としてもよい。また、ジエンゴム層に相当するゴム層を有するタイヤ骨格部材の代わりに他のゴム層に相当するゴム層を有するタイヤ骨格部材を用いてもよく、エポキシゴム層に相当するゴム層を有するタイヤ骨格部材を、ゴム層がゴムシートを介さずにベルト部材の被覆樹脂と直接接して設けられたエポキシゴム部材としてもよい。
【0095】
以下、第2実施形態について、
図3を参照して説明する。
図3は、第2実施形態に係るタイヤの構成を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である。
図3において他の図と共通する部材については同様の符号を付して説明を省略する。
図3に示すように、第2実施形態に係るタイヤ80は、ゴムを含有するゴム材料を含んで構成された環状のタイヤ骨格部材の一例であるタイヤケース94と、ベルト部材12と、エポキシゴム部材の一例であるゴムシート11と、トレッド30と、を備えている。
ベルト部材12、ゴムシート11、及びトレッド30については、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0096】
図3に示すように、本実施形態のタイヤ80は、例えば、所謂ラジアルタイヤであり、ビードコア20が埋設された一対のビード部14を備え、一方のビード部14と他方のビード部14との間に、1枚のカーカスプライ82からなるカーカス86が跨っている。なお、
図3は、タイヤ80の空気充填前の自然状態の形状を示している。
【0097】
カーカスプライ82は、空気入りタイヤ80のラジアル方向に延びる複数本のコード(図示せず)をコーティングゴム(図示せず)で被覆して形成されている。カーカスプライ82のコードの材料は、例えば、PETが挙げられるが、従来公知の他の材料であってもよい。また、コーティングゴムは、ジエン系ゴムを含むゴム材料であり、ジエンゴム層に相当する被覆層(図示せず)を構成している。
【0098】
カーカスプライ82は、タイヤ幅方向の端部分がビードコア20においてタイヤ径方向外側に折り返されている。カーカスプライ82は、一方のビードコア20から他方のビードコア20に跨る部分が本体部82Aと呼ばれ、ビードコア20から折り返されている部分が折り返し部82Bと呼ばれる。
【0099】
カーカスプライ82の本体部82Aと折返し部82Bとの間には、ビードコア20からタイヤ径方向外側に向けて厚さが漸減するビードフィラー88が配置されている。なお、タイヤ80において、ビードフィラー88のタイヤ径方向外側端88Aからタイヤ径方向内側の部分がビード部14とされている。
【0100】
カーカス86のタイヤ内側にはゴムからなるインナーライナー90が配置されており、カーカス86のタイヤ幅方向外側には、ゴムを含有するゴム材料からなるサイドゴム層92が配置されている。
なお、本実施形態では、ビードコア20、カーカス86、ビードフィラー88、インナーライナー90、及びサイドゴム層92によってタイヤケース94が構成されている。
【0101】
なお、
図3においては、ベルト部材12がゴムシート11を介してカーカス86のタイヤ径方向外側に設けられているが、これに限られず、例えば、エポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むコーティングゴムでコードが被覆されて形成されたカーカスプライからなるカーカスに直接接してベルト部材12が設けられてもよい。
また、
図3においては、ベルト部材12のタイヤ径方向外側にゴムシート11を介してジエンゴム層に相当するトレッド30が配置されているが、これに限られず、例えば、エポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むトレッドがベルト部材12に直接接して設けられてもよい。
なお、トレッド30には、排水用の溝30Aが形成されている。トレッド30の溝30Aにおけるパターンは、従来一般公知のものが用いられる。
【0102】
(タイヤの製造方法)
次に、本実施形態のタイヤ80の製造方法の一例を説明する。
まず、公知のタイヤ成形ドラム(不図示)の外周に、ゴム材料からなるインナーライナー90、ビードコア20、ゴム材料からなるビードフィラー88、コードをゴム材料で被覆したカーカスプライ82、及びサイドゴム層92からなる未加硫のタイヤケース94を形成する。
【0103】
一方、ベルト部材12は、以下のようにして形成する。
具体的には、ベルト成形ドラム(図示せず)の外周面に向かって樹脂被覆コード28を送り出す。樹脂被覆コード28は、熱風により加熱され溶融した状態でベルト成形ドラムの外周面に押し付けられ、その後冷却される。このようにして、樹脂被覆コード28をベルト成形ドラムの外周面に螺旋状に巻き付けると共に該外周面に押し付けていくことで、ベルト成形ドラムの外周面に樹脂被覆コード28の層が形成される。
【0104】
次に、樹脂被覆コード28が冷却されて被覆樹脂26が固化したベルト部材12を、ベルト成形ドラムから取り外す。そして、取り外したベルト部材12の内周面に、未加硫のゴムシート11を貼り付けた後、タイヤ成形ドラムにおける前記未加硫のタイヤケース94の径方向外側に上記ベルト部材12を配置する。その後、タイヤケース94を拡張し、タイヤケース94の外周面、言い換えればカーカス86の外周面を、ベルト部材12の内周面に圧着する。
最後に、ベルト部材12の外周面に、未加硫のゴムシート11を貼り付けた後、未加硫のゴムシート11上に未加硫のトレッド30を貼り付け、生タイヤが完成する。
このようにして製造された生タイヤは、加硫成形モールドで加硫成形され、タイヤ80が完成する。
【0105】
<第3実施形態>
第3実施形態のタイヤは、樹脂を含む環状のタイヤ骨格部材と、タイヤ骨格部材のタイヤ径方向外側に設けられ、複数の補強コードと補強コードを被覆する被覆樹脂とを含むベルト部材と、ベルト部材のタイヤ径方向外側の面にベルト部材の被覆樹脂と直接接して設けられたゴムシートと、ゴムシートのタイヤ径方向外側の面にゴムシートと直接接して設けられたトレッドと、タイヤ骨格部材のタイヤ幅方向外側に設けられたエポキシゴム部材であるサイドゴムと、を有する。第3実施形態では、前記樹脂層に相当するタイヤ骨格部材と、前記エポキシゴム層に相当するサイドゴムと、を有する複合体を有する。
なお、第3実施形態においては、エポキシゴム層に相当するサイドゴムがタイヤ骨格部材に直接接して設けられているが、これに限られず、エポキシゴム層に相当するゴムシートを介してジエンゴム層に相当するサイドゴムが設けられている構成でもよい。
また、第3実施形態においては、ベルト部材の被覆樹脂も前記樹脂層に相当し、ゴムシートが前記エポキシゴム層に相当し、トレッドが前記ジエンゴム層に相当するが、これに限られるものではない。また、トレッドは、複数のジエンゴム層の複層体となっていてもよい。
【0106】
図4は、第3実施形態に係るタイヤの構成を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である。
図4において他の図と共通する部材については同様の符号を付して説明を省略する。
図4に示すように、第3実施形態に係るタイヤ110は、樹脂を含む樹脂材料で構成された環状のタイヤ骨格部材であるタイヤケース17と、タイヤケース17のタイヤ径方向外側に設けられたベルト部材12と、タイヤケース17のタイヤ径方向外側の面のうちベルト部材12が設けられてない領域並びにベルト部材12のタイヤ径方向外側の面及びタイヤ幅方向外側の面に設けられたゴムシート11と、ゴムシート11のタイヤ径方向外側の面に設けられたトレッド30と、タイヤケース17のタイヤ幅方向外側の面に設けられたエポキシゴム部材の一例であるサイドゴム13と、を備えている。
タイヤケース17、ベルト部材12、ゴムシート11、及びトレッド30については、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。また、サイドゴム13は、エポキシ化ジエン系ゴムを含有するゴムとカーボンブラックと有機リン化合物とを含むゴム材料で構成されている。
【0107】
なお、第3実施形態では、エポキシゴム部材として、タイヤケース17のタイヤ幅方向外側に直接接してサイドゴム13を設けたが、タイヤケース17のタイヤ幅方向内側に直接接してエポキシゴム層に相当するインナーゴムを設けてもよく、タイヤケース17のタイヤ幅方向内側にエポキシゴム層に相当するゴムシートを介してジエンゴム層に相当するインナーゴムが設けられている構成でもよい。
【0108】
<第4実施形態>
第4実施形態では、ゴムを含む環状のタイヤ骨格部材のビード部に前記複合体を有する形態の一例である。具体的には、ビードワイヤーが被覆樹脂で被覆されたビードコアと、前記ビードコア間に位置する本体部と前記ビードコア周りに内側から外側へ折り返された折返し部とを有するカーカスと、ビードコアと前記本体部と前記折返し部との間に設けられた樹脂製のビードフィラーと、ビードコア及びビードフィラーの周囲に設けられたエポキシゴム部材であるゴムシートと、ゴムシートの周囲に設けられたゴム部材と、によりタイヤ骨格部材が構成されている。つまり、第4実施形態では、前記樹脂層に相当するビードコアの被覆樹脂及びビードフィラーと、前記エポキシゴム層に相当するゴムシートと、前記ジエンゴム層に相当するゴム部材と、を有する複合体を有する。
なお、第4実施形態においては、エポキシゴム層に相当するゴムシートを介して、ビードコア及びビードフィラーの周囲にゴム部材が設けられているが、これに限られず、エポキシゴム層に相当するゴム部材を、ゴムシートを介さずにビードコア及びビードフィラーに直接接して設けられたエポキシゴム部材としてもよい。
また、第4実施形態においては、ビードコア及びビードフィラーの両方が樹脂層を有しているが、ビードコア及びビードフィラーの少なくとも一方が樹脂層を有していればよい。例えば、ビードフィラーがゴム製である場合、前記樹脂層に相当するビードコアの被覆樹脂の周囲にエポキシゴム層に相当するゴムシートを介して、前記ジエンゴム層に相当するビードフィラーが設けられていてもよく、前記樹脂層に相当するビードコアの被覆樹脂に直接接してエポキシゴム層に相当するビードフィラーが設けられていてもよい。
【0109】
図5は、第4実施形態に係るタイヤのビード部を拡大した断面図である。
図5において他の図と共通する部材については同様の符号を付して説明を省略する。
図5に示すように、第4実施形態に係るタイヤのビード部14は、ゴム部材91と、樹脂製のビードフィラー89と、ビードコア20と、ビードフィラー89及びビードコア20の周囲を取り囲むゴムシート11と、カーカス86と、を備えている。
図5に示すビード部14では、ビードコア20とビードフィラー89とが、ゴム部材91内に埋設され、ビードコア20とビードフィラー89とが、一体に構成されたコア・フィラ部材50を構成し、その周囲にゴムシート11が設けられている。ただし、ビードコア20とビードフィラー89とは別体でもよい。
【0110】
図5に示すように、ビードコア20は、それぞれ、タイヤ幅方向断面を観たときに、ビードワイヤー束62と、ビードワイヤー束62の周囲を囲むとともに樹脂材料から構成された被覆層65と、を有している。
図5の例では、ビードフィラー89が、ビードコア20の被覆層65と一体に、被覆層65と同じ樹脂材料から構成されている。ただし、ビードフィラー89を構成する樹脂材料は、ビードコア20の被覆層65とは異なるものでもよい。また、ビードフィラー89を構成する樹脂材料は、ビードフィラー89の部分ごとに異なっていてもよい。
【0111】
図5の例において、ビードコア20のビードワイヤー束62は、タイヤ幅方向断面を観たときに、ビードコア20を構成するビードワイヤーの断面が複数現れる構成を指しているにすぎず、ビードコア20を構成するビードワイヤーの実際の本数は、1本でも複数本でもよい。すなわち、ビードワイヤー束62は、1本のビードワイヤーがタイヤ周方向に複数回にわたって巻回されることによって構成されてもよいし、複数本のビードワイヤーがそれぞれタイヤ周方向に1回又は複数回にわたって巻回されることによって構成されてもよい。
ビードワイヤーは、任意の既知の材料を用いることができ、例えばスチールコードを用いることができる。スチールコードは、例えば、スチールのモノフィラメント又は撚り線からなるものとすることができる。また、有機繊維やカーボン繊維等を用いることもできる。
【0112】
ビードコア20の被覆層65は、タイヤ周方向に沿って連続して延在しているとともに、タイヤ周方向の少なくとも一部において、タイヤ幅方向断面を観たときに、ビードコア20のビードワイヤー束62を全周にわたって囲むように、環状に構成されている。被覆層65は、タイヤ周方向の一部において、タイヤ幅方向断面を観たときに、環状でなくてもよく、例えばC字型等でもよい。
本例では、タイヤ幅方向断面を観たときに、被覆層65のなす環形状の内側で、各ビードワイヤーが、樹脂材料からなる被覆樹脂63によって被覆されている。言いかえれば、被覆層65と各ビードワイヤーとの間の隙間領域が、被覆樹脂63によって埋められている。
本例では、被覆樹脂63を構成する樹脂材料は、被覆層65を構成する樹脂材料とは異なる。ただし、被覆樹脂63を構成する樹脂材料は、被覆層65を構成する樹脂材料と同じでもよい。
本例では、ビードコア20の被覆層65及びビードフィラー89の両方が樹脂材料で構成されているが、少なくとも一方が樹脂材料で構成されていればよい。つまり、ビードコア20の被覆層65が樹脂材料で構成されている場合はビードフィラー89がゴム製であってもよく、ビードフィラー89が樹脂製である場合は、被覆層65がゴム材料で構成されていてもよい。
本例に限られず、タイヤ幅方向断面を観たときに、被覆層65のなす環形状の内側で、各ビードワイヤーは、被覆樹脂63の代わりに、ゴムからなる被覆ゴムによって被覆されていてもよい。言いかえれば、被覆層65と各ビードワイヤーとの間の隙間領域が、被覆ゴムによって埋められていてもよい。
【0113】
本実施形態のタイヤの製造は、前述の第2実施形態のタイヤと同様にして行われる。
なお、本実施形態では、ビードフィラー89とビードコア20とを一体に成形することにより得られたコア・フィラ部材50を用いる。本実施形態では、コア・フィラ部材50の周囲に、未加硫のゴムシートを貼り付けた後、未加硫のゴム部材91を貼り付け、未加硫のタイヤケースを形成する。そして、必要に応じてベルト部材及び未加硫のトレッドを設けて得られた生タイヤを、加硫成形することにより、タイヤを得る。
【0114】
以下、コア・フィラ部材50を製造する方法の一例について、説明する。
コア・フィラ部材50の製造方法は、例えば、環状体形成工程と、射出成形工程と、冷却工程と、を含んでいる。
【0115】
環状体形成工程では、1本以上のビードワイヤーを被覆樹脂63で被覆してなるストリップ部材を巻回して、環状体を形成する。
図5に示すビードコア20では、例えば、3本のビードワイヤーを被覆樹脂63で被覆してなるストリップ部材が渦巻状に巻回されて3段積層されている。
本例では、環状体形成工程において、溶融状態の被覆樹脂63をビードワイヤーの外周側に被覆し、冷却により固化させることによって、ストリップ部材を形成する。そして、環状体は、ストリップ部材を巻回して段積みすることにより形成することができ、段同士の接合は、例えば、熱板溶着等で被覆樹脂63を溶融させながらストリップ部材を巻回して、溶融した被覆樹脂63を固化することにより行うことができる。あるいは、段同士を接着剤等により接着することにより接合することもできる。
【0116】
環状体形成工程に次いで、射出成形工程では、環状体形成工程において形成した環状体を、樹脂材料で被覆することにより、被覆層65と、被覆層65と一体のビードフィラー89と、を形成する。
【0117】
射出成形工程に次いで、冷却工程では、被覆層65及びビードフィラー89を、冷却により固化させる。コア・フィラ部材50におけるビードコア20は、環状体の周囲が、固化した被覆層65により覆われた構成となっている。また、被覆層65のタイヤ径方向外側には、ビードフィラー89が被覆層65と一体に構成されている。
【0118】
以上、本発明における実施形態の一例を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、他の種々の実施形態が可能である。
さらに、前記第1実施形態~第4実施形態は、適宜組み合わせることができる。
【実施例0119】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。なお、特に断りのない限り「部」は質量基準を表す。
【0120】
<未加硫のゴム層の作製>
表1に示す成分のうち、加硫促進剤及び加硫剤以外の成分を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)で110℃3分間混合撹拌した後、加硫促進剤及び加硫剤を添加して90℃1.5分間撹拌した。その後、ロールにより圧延成形して厚さ2.5mmの未加硫のゴムシートであるゴム1~ゴム6をそれぞれ得た。
【0121】
<樹脂層の作製>
表2に示す成分のうち、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びカルボジイミド化合物を、下記表2に示す添加量(質量部)で二軸押出機(株式会社テクノベル製、品名:KZW31TW-45HG、スクリュー径30mm、L/D=45)により、230℃~250℃において軸回転数100rpm、押出量10kg/hの条件で混練した。その後、得られた混練樹脂に、下記表2に示すフェノール樹脂を、下記表2に示す添加量(質量部)で添加して上記二軸押出機に投入し、230℃~250℃において軸回転数100rpm、押出量10kg/hの条件でさらに混練し、射出成形により、厚さ2mmの樹脂シートである樹脂1~樹脂2をそれぞれ得た。
【0122】
【0123】
【0124】
なお、表中の数字は「添加量(質量部)」を意味する。また、表1~表2における空欄は、該当する成分を含んでいないことを意味する。
表1~表2に示す各成分の詳細は以下の通りである。
・ジエンゴム1:天然ゴム(TSR20)
・ジエンゴム2:ブタジエンゴム(JSR製、品名:BR01)
・エポキシゴム1:エポキシ化天然ゴム(Muang Mai Guthrie Company Limited製、品名:ENR25、エポキシ化比率:25%)
・エポキシゴム2:エポキシ化天然ゴム(Muang Mai Guthrie Company Limited製、品名:ENR50、エポキシ化比率:50%)
【0125】
・カーボンブラック:N330カーボンブラック(旭カーボン株式会社製、品名:旭#70K、BET法・窒素吸着比表面積:71m2/g)
・プロセスオイル(ENEOS製、品名:プロセス油)
・脂肪酸:ステアリン酸
・粘着付与剤:ブチルフェノールアセチレン縮合物樹脂(BASF製、品名:Koresin)
・有機リン化合物1:トリ-p-トリルホスフィン(TPTP)
・有機リン化合物2:トリフェニルホスフィン(TPP)
・金属酸化物:亜鉛華
・加硫剤:硫黄
・スコーチ防止剤:N-シクロヘキシルチオフタルイミド(東レ株式会社製、品名:リターダーCTP)
なお、老化防止剤及び加硫促進剤は、上述した公知のものを適宜組み合わせて用いた。
【0126】
・TPC:ポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン株式会社製、品名:ハイトレル5557)
・PBT:ポリブチレンテレフタレート(東レ株式会社製、品名:トレコン1401X06)
・カルボジイミド:カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル株式会社製、品名:カルボジライトHMV-15CA)
・フェノール樹脂:未変性固形ストレートノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、品名:PR-50235)
【0127】
[実施例1~5、比較例1~2]
<試験片の作製>
得られた樹脂シート及び未加硫のゴムシートを用い、樹脂シート、未加硫のゴムシート1(表中の「ゴムシート1」)、未加硫のゴムシート2(表中の「ゴムシート2」)、未加硫のゴムシート1(表中の「ゴムシート1」)、及び樹脂シートの順に互いに接するように貼り合せ、圧力2MPa、下記表3~表4に示す加硫温度及び加硫時間で加硫して、試験片を得た。
得られた試験片のゴムシートにおけるゴム100質量部に対するカーボンブラックの含有量(表中の「CB量(質量部)」)、ゴム100質量部に対する有機リン化合物の含有量(表中の「リン量(質量部)」)、及びゴムのエポキシ化比率、並びに樹脂シート全体に対するポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有率(表中の「TPC量(質量%)」)、フェノール樹脂の含有率(表中の「PH量(質量%)」)、及びカルボジイミド化合物の含有率(表中の「CI量(質量%)」)を表3~表4に示す。
【0128】
<接着力の評価>
各例で得られた試験片を用いて、精密万能試験機(オートグラフAG-X 5kN、株式会社島津製作所製)により、150℃の環境下において、引張速度100mm/分で一方の樹脂シートと他方の樹脂シートを180度に引っ張る剥離試験を行い、剥離抗力が比較的安定する、ストローク20mm~70mmの範囲の平均値を剥離抗力(単位:N/25mm)として求めた。その結果及び破壊箇所を下記表3~表4に示す。なお、表中「母材/界面」は母材及び界面の両方で破壊が起こったことを示す。
【0129】
【0130】
【0131】
表3~表4に示した評価結果から分かるように、本実施例は、比較例に比べ、150℃において、剥離抗力が高く、ゴム層と樹脂層との接着性に優れている。