(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064539
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】コンピュータプログラム、情報処理装置、情報処理方法及び学習モデル生成方法
(51)【国際特許分類】
G16H 30/20 20180101AFI20230501BHJP
【FI】
G16H30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174874
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】517168211
【氏名又は名称】株式会社Splink
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】藤林 大毅
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】将来の画像異常を可視化できるコンピュータプログラム、情報処理装置、情報処理方法及び学習モデル生成方法を提供する。
【解決手段】情報処理システムにおいて、コンピュータプログラムを実行する情報処理装置50は、入力装置20への入力に基づき、MRI装置100、PET装置200、画像データサーバ300より、通信ネットワーク1を経由して医用画像及び予測期間を取得する。そして取得した医用画像に基づいて予測期間経過後における所定の異常部位に関する異常情報を特定する。さらに、特定した異常情報を表示装置30に表示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
医用画像及び予測期間を取得し、
取得した医用画像に基づいて、前記予測期間経過後における所定の異常部に関する異常情報を特定し、
特定した異常情報を表示する、
処理を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項2】
コンピュータに、
脳の断面画像上に前記異常情報を表示する、
処理を実行させる請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
コンピュータに、
脳の領域毎に前記異常情報を表示する、
処理を実行させる請求項1又は請求項2に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記異常情報は、
前記異常部の位置、及び前記異常部の確度の少なくとも一方を含む、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
コンピュータに、
前記予測期間を変更する操作を受け付け、
受け付けた予測期間に連動して前記予測期間経過後における異常情報を表示する、
処理を実行させる請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
コンピュータに、
脳に関する医用画像及び予測期間を入力した場合、前記予測期間経過後における前記脳の異常部に関する異常情報を出力する学習モデルに、取得した医用画像及び予測期間を入力し、前記予測期間経過後における前記脳の異常部に関する異常情報を特定する、
処理を実行させる請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項7】
コンピュータに、
取得した医用画像を複数の分割画像に分割し、
分割した分割画像を前記学習モデルに入力し、前記分割画像毎に前記異常情報を特定する、
処理を実行させる請求項6に記載のコンピュータプログラム。
【請求項8】
コンピュータに、
前記分割画像毎に特定した異常情報を脳の断面画像上に割り当てる、
処理を実行させる請求項7に記載のコンピュータプログラム。
【請求項9】
コンピュータに、
前記分割画像毎に特定した異常情報を脳の領域に割り当てる、
処理を実行させる請求項7又は請求項8に記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
医用画像及び予測期間を取得する取得部と、
取得した医用画像に基づいて、前記予測期間経過後における所定の異常部に関する異常情報を特定する特定部と、
特定した異常情報を表示する表示部と
を備える、
情報処理装置。
【請求項11】
医用画像及び予測期間を取得し、
取得した医用画像に基づいて、前記予測期間経過後における所定の異常部に関する異常情報を特定し、
特定した異常情報を表示する、
情報処理方法。
【請求項12】
複数の撮像時点での医用画像、前記複数の撮像時点での所定の異常部に関する異常情報を含む訓練データを取得し、
取得した訓練データに基づいて、第1時点での医用画像及び前記第1時点と第2時点との間の期間を入力した場合に、前記第2時点での前記所定の異常部に関する異常情報を出力するように学習モデルを生成する、
学習モデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータプログラム、情報処理装置、情報処理方法及び学習モデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置で撮影される頭部MRI画像には、T1強調画像、T2強調画像、プロトン密度強調画像、FLAIR(Fluid-Attenuated Inversion Recovery)画像、拡散強調画像、MRA(Magnetic Resonance Angiography)画像、T2*(T2スター)強調画像、SWI(Susceptibility-Weighted Imaging)画像などがあり、脳内の病変に応じて、最適な画像が選択されて診断や検査が行われている。
【0003】
特許文献1には、MRI信号に基づいて生成された複数の複素画像から、組織の磁化率を示す磁化率画像を算出し、予め定めた特定組織の組織画像及び磁化率画像に基づいて予め定めた疾患を診断するための診断指標を算出する画像処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、現状の診断指標を算出することはできるが、画像異常が将来発生するかを予測することができない。このため、現在の患者の医用画像に基づいて、将来の画像異常を可視化できる臨床上利用可能なシステムが望まれていた。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、将来の画像異常を可視化できるコンピュータプログラム、情報処理装置、情報処理方法及び学習モデル生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、コンピュータプログラムは、コンピュータに、医用画像及び予測期間を取得し、取得した医用画像に基づいて、前記予測期間経過後における所定の異常部に関する異常情報を特定し、特定した異常情報を表示する、処理を実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、現在の患者の医用画像に基づいて、将来の画像異常を可視化できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の情報処理システムの構成の一例を示す図である。
【
図3】情報処理装置による脳の異常部の特定方法の一例を示す図である。
【
図4】分割画像を用いた場合の情報処理装置による脳の異常部の特定方法の一例を示す図である。
【
図5】情報処理装置による異常部の可視化方法の一例を示す図である。
【
図6】学習モデルを生成するための訓練データの一例を示す図である。
【
図7】学習モデルの生成方法の一例を示す図である。
【
図8】情報処理装置による処理手順の一例を示す図である。
【
図9】学習モデルの生成処理の一例を示す図である。
【
図10】脳の異常部発生リスク解析画面の第1例を示す図である。
【
図11】脳の異常部発生リスク解析画面の第2例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態の情報処理システムの構成の一例を示す図である。情報処理システムは、情報処理装置50を備える。情報処理装置50には、入力装置20、及び表示装置30が接続されている。情報処理装置50には、通信ネットワーク1を介してMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置100、PET(Positron Emission Tomography)装置200、及び画像データサーバ300が接続されている。
【0011】
MRI装置100は、磁気共鳴現象を利用して断層画像を撮像することができる装置であり、MRI画像(MR画像とも称する)を得ることができる。撮像条件を選択することにより、組織の密度、緩和時間(縦緩和時間T1、横緩和時間T2)、血流、水素原子の量(プロトン密度)などを反映したMRI画像が得られる。MRI画像は、位置情報を含むMRI信号に再構成処理を施すことで生成できる。MRI画像には、例えば、T1強調画像、T2強調画像、プロトン密度強調画像、FLAIR(Fluid-Attenuated Inversion Recovery)画像、拡散強調画像、MRA(Magnetic Resonance Angiography)画像、T2*(T2スター)強調画像、SWI(Susceptibility-Weighted Imaging)画像などがある。また、MRI画像には、QSM(Quantitative Susceptibility Mapping)画像やR2*画像が含まれる。QSM画像は、T2*強調画像に所定の演算を施して生成することができる。また、T2*強調画像に所定の演算を施してR2*(R2スター)画像を生成することもできる。MRI装置100は、例えば、病院などの医療機関内に設置されている。MRI装置100で得られたMRI画像は、画像データサーバ300に蓄積される。
【0012】
PET装置200は、陽電子を放出する検査薬を静脈から注射し、検査薬を取り込む細胞から放出される陽電子が消滅する際に放出されるガンマ線を検出することで、PET画像を得ることができる。PET装置200には、PET専用機だけでなく、X線CT(Computed Tomography)装置を組み込んだ装置、あるいはSPECT(single photon emission CT)装置を組み込んだ装置も含まれる。すなわち、PET装置200から、PET画像、PET-CT画像、SPECT画像を取得することができる。PET装置200は、例えば、病院などの医療機関内に設置されている。PET装置200で得られた各種画像は、画像データサーバ300に蓄積される。
【0013】
PET画像及びSPECT画像は、静脈注射等により、放射性薬剤を被験者の体内に投与し、体内において当該薬剤から放出される放射線を撮像することにより、画像が生成される。薬剤を用いた画像によれば、体内の各部位の形態のみならず、体内に投与された薬剤がどのように分布するか、または当該薬剤と反応する体内の物質の集積の様子などを医師に把握させることができるので、疾病の診断精度の向上に寄与しうる。例えば、通称ピッツバーグ化合物BをPET用放射性薬剤(トレーサー)として用いてPET画像を撮像し、撮像されたPET画像を基に脳内のアミロイドβ蛋白の蓄積度合いを測定することにより、アルツハイマー型認知症の鑑別診断又は早期診断に役立たせることができる。また、SPECT画像についても、薬剤の種類によって、脳血管障害や認知症に対する脳血流検査など様々な部位の検査が可能である。
【0014】
本明細書では、医用画像は、MRI画像、PET画像、PET-CT画像、SPECT画像、CT画像などを含む。また、医用画像は、脳に関する医用画像だけでなく、脳以外の部分に関する医用画像も含む。
【0015】
画像データサーバ300は、患者毎の医用画像を記録している。例えば、患者毎に、医用画像を撮影した撮影日、撮影条件、撮影時の投薬の有無又は投薬回数、投薬時の治療薬の名称や量などが、医用画像と関連付けて記録されている。また、画像データサーバ300は、所定の演算処理機能を設けてもよい。例えば、MRI信号に所定の演算を施すことによってQSM画像を得ることができる。所定の演算処理機能は、MRI装置100に設けてもよく、情報処理装置50に設けてもよく、あるいは、通信ネットワーク1に接続された、図示しない別の装置に設けてもよい。本実施形態では、医用画像の例としてQSM画像を用いた例について説明するが、前述のとおり、医用画像はQSM画像に限定されない。
【0016】
QSM(定量的磁化率マッピング)は、MRIの位相画像から局所の磁化率を算出する方法であり、磁化率は、物質固有の物性値であるので、磁化率からボクセル内の物質情報を推定することができる。QSM画像は、磁化率を定量的に表す画像であり、QSMでは、磁化率の大きい常磁性体(例えば、出血のヘモジデリンやデオキシヘモグロビンなど)は白く表示され、磁化率の小さい反磁性体は黒く表示される。
【0017】
表示装置30は、液晶表示パネル、有機EL表示パネル等を備え、情報処理装置50による処理結果を表示することができる。例えば、表示装置30は、QSM画像を含む医用画像に基づく脳の異常部に関する異常情報を表示することができる。
【0018】
入力装置20は、情報処理装置50の操作等を受け付けるキーボード、マウス等の入力インタフェースである。入力装置20は、表示装置30に設けられたタッチパネル、ソフトキー、ハードキー等であってもよい。医師などの医療従事者は、入力装置20を操作して、情報処理装置50による処理結果を表示装置30に表示することができる。なお、入力装置20及び表示装置30は、情報処理装置50内に組み込んでもよい。
【0019】
なお、図示していないが、医師などの医療従事者が使用するクライアント装置(パーソナルコンピュータ等)を通信ネットワーク1に接続し、サーバとしての情報処理装置50に対して、クライアント装置から情報処理装置50にアクセス可能にしておく。医療従事者は、MRI装置100又はPET装置200から医用画像をクライアント装置に取り込み、情報処理装置50に対してアップロードする。情報処理装置50は、後述の処理を行って、処理結果をクライアント装置へ送信し、クライアント装置で処理結果を表示させるようにしてもよい。
【0020】
図2は情報処理装置50の構成の一例を示す図である。情報処理装置50は、コンピュータで構成することができ、情報処理装置50全体を制御する制御部51、通信部52、メモリ53、表示制御部54、インタフェース部55、記憶部56、及び記録媒体読取部59を備える。記憶部56は、コンピュータプログラム57、及び学習モデル58を格納する。
【0021】
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)、TPU(Tensor Processing Unit)等が所要数組み込まれて構成されている。また、制御部51は、DSP(Digital Signal Processors)、FPGA(Field-Programmable Gate Arrays)などを組み合わせて構成してもよい。制御部51は、コンピュータプログラム57で定められた処理を実行することができ、制御部51による処理は、コンピュータプログラム57による処理でもある。
【0022】
通信部52は、例えば、通信モジュールを備え、通信ネットワーク1を介してMRI装置100、PET装置200、及び画像データサーバ300との間の通信機能を有する。通信部52は、MRI装置100、PET装置200、及び画像データサーバ300から医用画像を取得することができる。
【0023】
メモリ53は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリで構成することができる。コンピュータプログラム57をメモリ53に展開して、制御部51がコンピュータプログラム57を実行することができる。
【0024】
インタフェース部55は、入力装置20、及び表示装置30との間のインタフェース機能を提供する。情報処理装置50(制御部51)は、インタフェース部55を通じて、入力装置20、及び表示装置30との間でデータや情報の授受を行うことができる。
【0025】
表示制御部54は、インタフェース部55を介して、表示装置30で表示する情報を制御する。表示制御部54は、例えば、情報処理装置50による処理結果を表示装置30に表示させることができる。
【0026】
記憶部56は、例えば、ハードディスク又は半導体メモリ等で構成することができ、コンピュータプログラム57及び学習モデル58に加えて、所要の情報を記憶することができる。学習モデル58は、学習前のモデル、学習途中のモデル、又は学習済みモデルを含む。
【0027】
記録媒体読取部59は、例えば、光学ディスクドライブで構成することができ、記録媒体591(例えば、CD-ROM等の光学可読ディスク記憶媒体)に記録されたコンピュータプログラム(プログラム製品)を記録媒体読取部59で読み取って記憶部56に格納することができる。コンピュータプログラム57は、メモリ53に展開されて、制御部51により実行される。なお、コンピュータプログラム57は、通信部52を介して、外部の装置からダウンロードして記憶部56に格納してもよい。
【0028】
学習モデル58は、医用画像(例えば、脳に関する医用画像など)及び予測期間を入力した場合、当該予測期間経過後における所定(例えば、脳)の異常部に関する異常情報を出力するように生成されている。制御部51は、取得した医用画像及び予測期間を学習モデル58に入力して、当該予測期間経過後における所定(例えば、脳)の異常部に関する異常情報を特定することができる。異常情報は、異常部の位置(たとえば、発生個所)、及び異常部の確度(例えば、発生リスク)の少なくとも一方を含めてもよい。異常部は、脳に関する異常部でもよく、脳以外の部分の異常部でもよい。本明細書では、脳に関する異常部について説明するが、本実施形態は、脳以外の異常部に対しても適用できる。
【0029】
QSM画像は、位相画像から局所の磁化率を定量的に求めてマップ化したものである。磁化率は、物質が外部磁場に反応して生じる磁気分極(磁化)の起こりやすさを表す物性値で、すべての物質は弱い反磁性を持つため、生体組織はわずかに負の磁化率を示し、鉄沈着が起きると正の磁化率を示す。なお、磁化率の変化は鉄沈着以外の要因、例えば、線維化やヘモグロビンの脱酸素化などによっても起こり得る。磁化率を定量的に画像化できることにより、生体組織での鉄沈着の量、分布やその経時変化も確認することができる。脳内の鉄沈着は広範囲に生じるが、特定の部位に過剰に沈着すると認知機能障害を引き起こす。QSM画像が示す磁化率の大小によって、アミロイド関連画像異常(ARIA)の有無を特定できる。ARIAには、体液の蓄積を伴う浮腫(ARIA-E)と、脳微小出血(ARIA-H)と称される脳上の小さな出血とが含まれる。脳微小出血は、小さなヘモジデリン沈着物である。
【0030】
QSM画像に基づくARIA(異常部)の特定は、例えば、磁化率が所定の磁化率閾値以上であること、及び異常部のサイズがARIAの規定サイズであることを条件とすることができる。ARIAの規定サイズは、1cm以下の場合、ARIA-Hとすることができ、1cmを超える場合、ARIA-Eとすることができる。特に、ARIAのサイズが5cm以下の場合、ARIAの重症度が軽度であり、5cm~9cmの場合、中程度であり、9cmを超える場合、重度とすることができる。
【0031】
また、QSMでは、常磁性体(主に鉄成分)と反磁性体の2つの物性からコントラストが得られ、脳内の各部位での鉄沈着を確認することができ、アルツハイマー型認知症等の診断にも利用することができる。
【0032】
図3は情報処理装置50による脳の異常部の特定方法の一例を示す図である。制御部51は、MRI装置100又は画像データサーバ300から、QSM画像を取得する。
図3の例では、QSM画像は、n枚の断層画像であり、Q1、Q2、…Qnと表す。制御部51は、QSM画像に対して、前処理を行う。前処理は、例えば、正規化処理、及び標準化処理を含めてよい。
【0033】
正規化処理は、ボクセル値の最小値を0とし、最大値を1とするスケーリング法である。スケーリング後の値x′は、x′=(x-xmin )/(xmax -xmin )という式で計算できる。ここで、xはスケーリング前の値を示し、xmax はxのとり得る最大値を示し、xmin はxのとり得る最小値を示す。
【0034】
標準化処理は、解剖学的標準化とも称され、標準脳画像へのボクセルの位置合わせを行う処理である。
【0035】
制御部51は、前処理後のQSM画像Qi(i=1~n)、及び予測期間Δtを学習モデル58に入力する。予測期間Δtは、患者の現時点のQSM画像から、予測期間経過後の異常部を予測するための期間であり、適宜設定することができる。学習モデル58は、現時点から予測期間Δt経過後における、脳の異常部(例えば、ARIA)の位置(発生個所)及び確度(発生リスク)を出力する。位置は、例えば、ARIAの領域を示し、確度は、ARIAの発生リスクを示す。
図3の例では、便宜上、異常部の位置をWi1、Wi2と表し、位置に対応する角度をPi1、Pi2と表している。確度は、0~1の数値で表すことができ、数値が大きいほど、発生リスクが高い。
【0036】
より具体的には、前処理後のQSM画像Qiは、制御部51によって、複数の正方形状の分割画像に分割され、各分割画像が学習モデル58に入力される。分割画像のサイズは適宜設定することができる。
【0037】
図4は分割画像を用いた場合の情報処理装置50による脳の異常部の特定方法の一例を示す図である。
図4に示すように、QSM画像Qiは、分割画像Si1、Si2、Si3、Si4、…Simのm個の画像に分割されているとする。制御部51は、各分割画像Si1、Si2、Si3、Si4、…Sim、及び予測期間Δtを学習モデル58に入力する。学習モデル58は、分割画像毎に、現時点から予測期間Δt経過後における、脳の異常部(例えば、ARIA)の位置(発生個所)及び確度(発生リスク)を出力する。なお、この場合、分割画像毎に異常部の有無を出力することによって、分割画像のQSM画像上の位置によって、間接的に異常部の位置を特定してもよい。
図4の例では、分割画像Si1、Si2については、異常部が存在しない。分割画像Si3、Si4については、それぞれ異常部が存在し、その位置はWi3、Wi4であり、異常部の確度は、それぞれPi3、Pi4で表している。他の分割画像についても同様である。このように、制御部51は、取得した医用画像を複数の分割画像に分割し、分割した分割画像を学習モデル58に入力し、分割画像毎に異常情報を特定してもよい。
【0038】
なお、分割画像のサイズによっては、分割画像の中に異常部と異常部でない部分とが混在してもよい。
【0039】
学習モデル58は、例えば、ランダムフォレスト、SVM(Support Vector Machine)、アダブースト、勾配ブースティング、ロジスティック回帰、決定木などの2値分類識別を行うモデルでもよく、畳み込み層やプーリング層を備えるニューラルネットワークなどの機械学習モデルでもよい。
【0040】
次に、脳の異常部に関する異常情報の可視化方法について説明する。
【0041】
図5は情報処理装置50による異常部の可視化方法の一例を示す図である。便宜上、3つのQSM画像Q(k-1)、Qk、Q(k+1)を図示している。学習モデル58によって、QSM画像Q(k-1)に対しては、異常部の位置W(k-1)、異常部の確度P(k-1)が特定され、異常部が領域R内に存在するとする。同様に、QSM画像Qkに対しては、異常部の位置Wk1、Wk2、異常部の確度Pk1、Pk2が特定され、異常部(Wk1、Pk1)が領域R内に存在するとする。QSM画像Q(k+1)に対しては、異常部の位置W(k+1)、異常部の確度P(k+1)が特定され、異常部が領域R内に存在するとする。なお、便宜上、領域Rは、QSM画像Q(k-1)、Qk、Q(k+1)だけに含まれるものとする。
【0042】
可視化の第1例は、スライス画像上に異常部をマッピングする。例えば、
図5に示すように、脳画像(例えば、FLAIR画像、T1強調画像、T2強調画像など)のQSM画像Qkに対応するスライス画像上に、異常部を表示してもよい。スライス画像上の位置が異常部の位置に対応し、異常部の確度に応じて、異常部の表示態様を変えることができる。例えば、確度の大小を、色のグラデーションで表現してもよい。このように、制御部51は、分割画像毎に特定した異常情報を脳の断面画像上に割り当ててもよい。
【0043】
可視化の第2例は、脳の領域毎の確度を表示する。脳の領域としては、例えば、右前頭葉、右側頭葉、右後頭葉、右頭頂葉、左前頭葉、左側頭葉、左後頭葉、及び左頭頂葉のように8個の領域で脳を区分してもよい。なお、脳の領域は、これらに限定されない。
図5に示すように、領域Rには、異常部が位置W(k-1)、Wk1、W(k+1)に存在し、その確度はP(k-1)、Pk1、P(k+1)である。領域Rの確度は、領域R内の各異常部の確度の平均として算出する。
図5の例では、領域Rの確度は、{P(k-1)+Pk1+P(k+1)}/3 で求めることができる。このように、制御部51は、分割画像毎に特定した異常情報を脳の領域に割り当ててもよい。
【0044】
次に、学習モデル58の生成方法について説明する。
【0045】
図6は学習モデル58を生成するための訓練データの一例を示す図である。学習モデル58を生成(構築)するためには、一人の患者に対して複数の異なる撮像時点で得られたQSM画像を収集するとともに、このようなQSM画像を多くの患者についても収集する。より具体的には、
図6に示すように、患者A1に対して、撮像時点t1、t2、t3、…、tnでのQSM画像(QSM1、QSM2、QSM3、…、QSMn)、各撮像時点での異常情報W1、W2、W3、…、Wnを収集する。予測期間Δt12は、t2-t1(撮像時点間の期間)で計算できる。予測期間Δt13は、t3-t1で計算できる。図示していないが、予測期間Δt23は、t3-t2で計算できる。他の予測期間も同様にして計算できる。患者A1のデータと同様のデータを、他の患者A2、…、Asについても収集することにより、訓練データを準備できる。
【0046】
図7は学習モデル58の生成方法の一例を示す図である。制御部51は、脳に関する複数の撮像時点での医用画像、当該複数の撮像時点での脳の異常部に関する異常情報を含む訓練データを取得し、取得した訓練データに基づいて、第1時点での医用画像及び第1時点と第2時点との間の期間を入力した場合に、第2時点での脳の異常部に関する異常情報を出力するように学習モデル58を生成する。具体的には、
図7に示すように、学習モデル58に、QSM画像(QSMi)及び予測期間Δtijが入力される。iは第1時点を示すインデックスであり、jは第2時点(第1時点よりも後の時点)を示すインデックスである。学習モデル58は、出力データとして、異常情報Wj′を出力する。制御部51は、学習モデル58が出力する異常情報Wj′と、教師データとして訓練データに含まれる異常情報Wjとに基づく損失関数の値が最小になるように、学習モデル58のパラメータを調整すればよい。なお、学習モデル58の生成は、情報処理装置50で行うことができるが、これに限定されるものではなく、情報処理装置50以外の別の学習処理装置で学習モデル58を生成し、生成した学習モデル58を情報処理装置50に送信してもよい。
【0047】
次に、情報処理装置50の処理について説明する。
【0048】
図8は情報処理装置50による処理手順の一例を示す図である。以下では便宜上、処理の主体を制御部51として説明する。制御部51は、QSM画像を取得し(S11)、予測期間を取得する(S12)。制御部51は、取得したQSM画像に対して、正規化処理、標準化処理を行う(S13)。制御部51は、QSM画像を分割して分割画像を生成する(S14)。
【0049】
制御部51は、分割画像を学習モデル58に入力して、脳の異常部に関する異常情報を特定する(S15)。異常情報は、例えば、異常部の位置(たとえば、発生個所)、及び異常部の確度(例えば、発生リスク)の少なくとも一方を含めてもよい。制御部51は、すべての分割画像の処理が完了したか否かを判定し(S16)、処理が完了していない場合(S16でNO)、ステップS15以降の処理を続ける。
【0050】
すべての分割画像の処理が完了した場合(S16でYES)、制御部51は、分割画像毎の異常情報を脳画像(スライス画像)にマッピングし(S17)、特定した異常情報を脳の領域毎に割り当てる(S18)。ステップS17、S18の処理は、
図5に例示したものである。制御部51は、異常情報を可視化すべく、スライス画像と脳の領域とに分けて異常情報を表示し(S19)、処理を終了する。異常情報の表示例は後述する。
【0051】
図9は学習モデル58の生成処理の一例を示す図である。制御部51は、複数の撮像時点でのQSM画像、当該撮像時点での脳の異常部に関する異常情報が患者毎に関連付けられたデータを含む訓練データを取得する(S31)。制御部51は、学習モデル58のパラメータの初期値を設定し(S32)、第1時点でのQSM画像及び第1時点と第2時点との間の期間(予測期間)を学習モデル58に入力する(S33)。
【0052】
制御部51は、学習モデル58が出力する異常情報と、訓練データに含まれる第2時点での異常情報とに基づく損失関数が最小になるようにパラメータを調整する(S34)。制御部51は、損失関数の値が許容範囲内であるか否かを判定し(S35)、許容範囲内でない場合(S35でNO)、第1時点又は第2時点を変更して、異なる訓練データを用いて、ステップS33以降の処理を続ける。損失関数の値が許容範囲内である場合(S35でYES)、制御部51は、生成した学習モデル58を記憶部56に記憶し(S37)、処理を終了する。
【0053】
次に、異常情報の表示例、すなわち、情報処理装置50の処理結果の表示例について説明する。
【0054】
図10は脳の異常部発生リスク解析画面400の第1例を示す図である。
図10に示すように、異常部発生リスク解析画面400には、患者に関する属性情報として、患者ID(氏名を含めてもよい)、生年月日、性別、年齢、MRIの撮影日(投薬時の撮影日)、投薬回数、治療薬などの情報が表示される。患者IDは、複数の患者の中から選択できるようにしてもよい。また、撮影日が複数ある場合、撮影日を選択できるようにしてもよい。
【0055】
異常部発生リスク解析画面400では、医師などの医療従事者が、予測期間を設定することができる。予測期間は、例えば、6か月、1年、2年、3年など所要の期間を選択することができる。
図10の例では、6か月が設定されている。
【0056】
異常部発生リスク解析画面400には、スライス画像表示欄401が表示される。スライス画像表示欄401では、脳の断面画像から所要数のスライス画像が選定され、各スライス画像上で異常部が表示される。異常部は、例えば、ARIAである。また、異常部の色をグラデーションさせることにより、異常部の発生リスク(確度)を0から1の範囲で可視化することができる。ここで、数値0はリスクなしを表し、数値1はリスクが最大であることを表す。表示させるスライス画像の枚数を任意に選定できるようにしてもよい。このように、制御部51は、脳の断面画像上に異常情報を表示してもよい。
【0057】
異常部発生リスク解析画面400には、設定した予測期間の範囲内において、期間を調整できる調整アイコン403が表示される。
図10の例では、調整アイコン403を操作することにより、予測期間を6か月内の範囲で調整できる。調整アイコン403を操作することにより、調整された予測期間に連動して、スライス画像も調整された予測期間でのスライス画像を表示することができる。この場合に表示されるスライス画像は、二点間のスライス画像に基づいて補間処理を行うことで生成してもよい。このように、制御部51は、予測期間を変更する操作を受け付け、受け付けた予測期間に連動して当該予測期間経過後における異常情報を表示してもよい。
【0058】
異常部発生リスク解析画面400には、領域表示欄402が表示される。領域表示欄402では、領域毎に、異常部の発生リスクが表示される。ここで、数値0はリスクなしを表し、数値1はリスクが最大であることを表す。領域の例は、例えば、右前頭葉、右側頭葉、右後頭葉、右頭頂葉、左前頭葉、左側頭葉、左後頭葉、及び左頭頂葉であるが、これに限定されるものではない。このように、制御部51は、脳の領域毎に異常情報を表示してもよい。
【0059】
図11は脳の異常部発生リスク解析画面410の第2例を示す図である。
図11では、脳の異常部(ARIA)の薬物の薬効を評価する場合の一例を示す。薬物は承認されていない薬物も承認されている薬物も含まれる。また、薬物は、既承認薬、未承認薬、医薬品、治験薬、被験薬、対照薬等であってよい。なお、薬物の薬効の評価だけでなく、薬物以外の、例えば、健康食品、機能性表示食品、特別用途食品、栄養補助食品、サプリメント又は特定保健用食品等の飲食品等の評価を含めてもよい。
【0060】
図11に示すように、薬物の投薬が無い場合の、QSM画像が時系列に表示される領域411、ARIAの変化が表示される領域412が表示されている。また、薬物の投薬がある場合の、QSM画像が時系列に表示される領域413、ARIAの変化が表示される領域414が表示されている。ARIAの変化については、
図11では、一本の直線で図示されているが、これに限定されるものではなく、例えば、ARIAのサイズ、個数、磁化率の値それぞれの変化を図示してもよい。時系列の時点t1、t2、t3は、適宜設定することができるが、例えば、6か月間隔、1年間隔、2年間隔などとすることができる。また、必ずしも等間隔である必要はなく、例えば、t1、t2、t3を、6か月後、1年後、2年後のようにしてもよい。期間は、医師や研究者が適宜設定できる。これにより、医師などは、将来に亘る薬剤の効用を予測することができ、現在の治療方針が有効であるのか否かを早いタイミングで見極めるための情報として役立てることが可能となる。
【0061】
なお、
図11の例では、薬剤の投薬の有無に応じて予測期間経過後の異常部の状態を比較して判断することができるが、薬剤に限定されるものではない。例えば、治療継続の有無、患者の運動の有無、サプリメントの有無、飲食品等の有無に応じて予測期間経過後の異常部の状態を比較して表示してもよい。
【0062】
上述のように、本実施形態によれば、患者の現時点のQSM画像から、設定した予測期間経過後の異常部の発生個所と異常部の発生確率(リスク)が可視化されるので、現在の患者の医用画像に基づいて、将来の画像異常を可視化できる。また、異常部の発生個所や発生確率を考慮した、投薬、治療、診断が可能となる。
【0063】
上述の実施形態では、QSM画像に基づく異常部の例としてARIAを説明したが、これに限定されるものではない。例えば、MRI画像に基づいて、異常部として脳萎縮の箇所とその発生確率を表示してもよい。脳萎縮を評価する手法は、たとえば、3DのT1強調の全脳MRIを灰白質、白質、髄液に分離(セグメンテーション)し、標準脳のテンプレートに形態変換して個々の被験者の灰白質濃度や容積絶対値をボクセルごとに正常データベースと統計学的に比較するVBM(Voxel Based Morphometry)を用いることができる。
【0064】
また、PET画像に基づいてアミロイドβの集積(SUV:Standardized Uptake Value:アミロイドβ蛋白の集積度)の箇所とその発生確率、タウの集積の箇所とその発生確率を表示してもよい。また、T2*強調画像やSWI画像に基づく画像異常の箇所とその発生確率を表示してもよい。
【0065】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、医用画像及び予測期間を取得し、取得した医用画像に基づいて、前記予測期間経過後における所定の異常部に関する異常情報を特定し、特定した異常情報を表示する、処理を実行させる。
【0066】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、脳の断面画像上に前記異常情報を表示する、処理を実行させる。
【0067】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、脳の領域毎に前記異常情報を表示する、処理を実行させる。
【0068】
本実施の形態のコンピュータプログラムにおいて、前記異常情報は、前記異常部の位置、及び前記異常部の確度の少なくとも一方を含む。
【0069】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、前記予測期間を変更する操作を受け付け、受け付けた予測期間に連動して前記予測期間経過後における異常情報を表示する、処理を実行させる。
【0070】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、脳に関する医用画像及び予測期間を入力した場合、前記予測期間経過後における前記脳の異常部に関する異常情報を出力する学習モデルに、取得した医用画像及び予測期間を入力し、前記予測期間経過後における前記脳の異常部に関する異常情報を特定する、処理を実行させる。
【0071】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、取得した医用画像を複数の分割画像に分割し、分割した分割画像を前記学習モデルに入力し、前記分割画像毎に前記異常情報を特定する、処理を実行させる。
【0072】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、前記分割画像毎に特定した異常情報を脳の断面画像上に割り当てる、処理を実行させる。
【0073】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、前記分割画像毎に特定した異常情報を脳の断面画像上に割り当てる、処理を実行させる。
【0074】
本実施の形態の情報処理装置は、医用画像及び予測期間を取得する取得部と、取得した医用画像に基づいて、前記予測期間経過後における所定の異常部に関する異常情報を特定する特定部と、特定した異常情報を表示する表示部とを備える。
【0075】
本実施の形態の情報処理方法は、医用画像及び予測期間を取得し、取得した医用画像に基づいて、前記予測期間経過後における所定の異常部に関する異常情報を特定し、特定した異常情報を表示する。
【0076】
本実施の形態の学習モデル生成方法は、複数の撮像時点での医用画像、前記複数の撮像時点での所定の異常部に関する異常情報を含む訓練データを取得し、取得した訓練データに基づいて、第1時点での医用画像及び前記第1時点と第2時点との間の期間を入力した場合に、前記第2時点での前記所定の異常部に関する異常情報を出力するように学習モデルを生成する。
【符号の説明】
【0077】
1 通信ネットワーク
20 入力装置
30 表示装置
50 情報処理装置
51 制御部
52 通信部
53 メモリ
54 表示制御部
55 インタフェース部
56 記憶部
57 コンピュータプログラム
58 学習モデル
59 記録媒体読取部
591 記録媒体
100 MRI装置
200 PET装置
300 画像データサーバ