(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064546
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】噴射装置の漏出防止構造及び噴射装置
(51)【国際特許分類】
B61C 15/10 20060101AFI20230501BHJP
B60B 39/08 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B61C15/10
B60B39/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174888
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】599032349
【氏名又は名称】株式会社テス
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 匠
(57)【要約】
【課題】安価で簡単な構造によって収容部からの噴射物の漏出を防止することができる噴射装置の漏出防止構造及び噴射装置を提供する。
【解決手段】漏出防止構造10は、レールと車輪との間に噴射する噴射物M
1を収容する収容部6Rからのこの噴射物M
1の漏出を防止する構造であって、収容部6R内で噴射物M
1を吸い込む吸込管部11を備えている。吸込管部11は、収容部6Rの下方で噴射物M
1と圧縮気体Gとを混合する混合部7に、この収容部6Rの下方からこの収容部6Rの上方を経由して噴射物M
1を導く。噴射装置は、収容部6R内と混合部7内とを接続する通気管部9を備えている。吸込管部11は、吸込管部11の一部が通気管部9の内部に配管されている。吸込管部11は、この吸込管部11の中心線が通気管部9の中心線よりも混合部7の上流側にずらして、この通気管部9の内部に配管されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールと車輪との間に噴射する噴射物を収容する噴射装置の収容部からのこの噴射物の漏出を防止する噴射装置の漏出防止構造であって、
前記収容部内で前記噴射物を吸い込む吸込管部を備え、
前記吸込管部は、前記収容部の下方で前記噴射物と圧縮気体とを混合する混合部に、この収容部の下方からこの収容部の上方を経由してこの噴射物を導くこと、
を特徴とする噴射装置の漏出防止構造。
【請求項2】
請求項1に記載の噴射装置の漏出防止構造において、
前記噴射装置は、前記収容部内と前記混合部内とを接続する通気管部を備え、
前記吸込管部は、この吸込管部の一部が前記通気管部の内部に配管されていること、
を特徴とする噴射装置の漏出防止構造。
【請求項3】
請求項2に記載の噴射装置の漏出防止構造において、
前記吸込管部は、この吸込管部の中心線が前記通気管部の中心線よりも前記混合部の上流側にずらして、この通気管部の内部に配管されていること、
を特徴とする噴射装置の漏出防止構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の噴射装置の漏出防止構造において、
前記吸込管部は、前記混合部で前記圧縮気体を噴射する噴射口の中心線と、この吸込管部の排出口との間の距離が所定範囲内であること、
を特徴とする噴射装置の漏出防止構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の噴射装置の漏出防止構造において、
前記吸込管部は、前記収容部内の前記噴射物の表面よりも、この吸込管部の最上部が上方に位置すること、
を特徴とする噴射装置の漏出防止構造。
【請求項6】
レールと車輪との間に噴射物を噴射する噴射装置であって、
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の噴射装置の漏出防止構造を備えること、
を特徴とする噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レールと車輪との間に噴射する噴射物を収容する噴射装置の収容部からのこの噴射物の漏出を防止する噴射装置の漏出防止構造、及びレールと車輪との間に噴射物を噴射する噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両では、セラミックス又は珪砂などの増粘着材をレールと車輪との間に噴射する噴射装置を台車に取り付けて、車両の空転又は滑走を防止するとともに、ブレーキ距離を確保している。従来の噴射装置は、増粘着材を収納する収納容器と、圧縮空気が導入される空気導入管と、収納容器内の増粘着材を吸込孔から吸い込み、増粘着材と圧縮空気とを混合する混合管と、この混合管内に空気導入管から圧縮空気を噴射するノズル部と、増粘着材と圧縮空気とを混合管から噴射する噴射管と、混合管と収容容器とを接続する通気管などを備えている(例えば、特許文献1参照)。このような従来の噴射装置では、増粘着材を噴射するときには、空気導入管から0.5Mp程度の圧縮空気を導入して、混合管内及び収容容器内の圧力を0.2MPa程度にしている。従来の噴射装置では、混合管を貫通するようにこの混合管の下側に吸込孔が形成されており、この吸込孔の下方の収納容器内の増粘着材をこの吸込孔を通じて混合管内に吸い上げて、増粘着材と圧縮空気とを混合管内で混合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図12及び
図13に示す従来の噴射装置101は、混合管107内に流入する圧縮空気G
Aを可動絞り部108の噴射口108cから混合室107g内に噴射している。従来の噴射装置101は、混合室107g内に圧縮空気G
Aが噴射されると、収納容器106内の増粘着材Mが吸込孔107fから混合室107g内に吸い込まれて、混合室107g内で混合した圧縮空気G
Aと増粘着材Mとを混合管107から排出している。吸込孔107fは、収納容器106内の増粘着材Mが混合室107g内に吸い込まれるように、内径が2.5mm程度に形成されている。
【0005】
従来の噴射装置101では、鉄道車両が線路上を走行するとこの鉄道車両の台車とともに振動する。このため、従来の噴射装置101では、混合管107に圧縮空気GAが供給されていない非噴射時であるにもかかわらず、鉄道車両が振動したときには、収納容器106内の増粘着材Mが混合管107の吸込孔107fから上がり、混合管107に自然漏出する現象が起きることがある。その結果、従来の噴射装置101では、収納容器106から増粘着材Mが自然漏出して、収納容器106内の増粘着材Mが無駄に消費されてしまう問題点がある。また、従来の噴射装置101では、混合管107内に漏出した増粘着材Mが上流側の可動絞り部108に移動して、混合管107内に漏出した増粘着材Mによって可動絞り部108を通過して混合管107の上流側に移動する現象が起きることがある。その結果、混合管107に圧縮空気GAが供給されると、混合管107の上流側に溜まった増粘着材Mが可動絞り部108側に押し出されて、増粘着材Mによって可動絞り部108が詰まってしまう問題点がある。
【0006】
この発明の課題は、安価で簡単な構造によって収容部からの噴射物の漏出を防止することができる噴射装置の漏出防止構造及び噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、
図1、
図2、
図3及び
図7に示すように、レール(R
R,R
L)と車輪(W
R,W
L)との間に噴射する噴射物(M
1)を収容する噴射装置(1)の収容部(6R,6L)からのこの噴射物の漏出を防止する噴射装置の漏出防止構造であって、前記収容部内で前記噴射物を吸い込む吸込管部(11)を備え、前記吸込管部は、前記収容部の下方で前記噴射物と圧縮気体(G)とを混合する混合部(7)に、この収容部の下方からこの収容部の上方を経由してこの噴射物を導くことを特徴とする噴射装置の漏出防止構造(10)である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の噴射装置の漏出防止構造において、
図3及び
図7に示すように、前記噴射装置は、前記収容部内と前記混合部内とを接続する通気管部(9)を備え、前記吸込管部は、この吸込管部の一部(11d)が前記通気管部の内部に配管されていることを特徴とする噴射装置の漏出防止構造である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2に記載の噴射装置の漏出防止構造において、
図8(A)(C)に示すように、前記吸込管部は、この吸込管部の中心線(L
2)が前記通気管部の中心線(L
1)よりも前記混合部の上流側にずらして、この通気管部の内部に配管されていることを特徴とする噴射装置の漏出防止構造である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の噴射装置の漏出防止構造において、
図8(A)(B)に示すように、前記吸込管部は、前記混合部で前記圧縮気体を噴射する噴射口(8c)の中心線(L
3)と、この吸込管部の排出口(11e)との間の距離(d)が所定範囲内であることを特徴とする噴射装置の漏出防止構造である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の噴射装置の漏出防止構造において、
図3及び
図7に示すように、前記吸込管部は、前記収容部内の前記噴射物の表面(S)よりも、この吸込管部の最上部(11c)が上方に位置することを特徴とする噴射装置の漏出防止構造である。
【0012】
請求項6の発明は、
図1~
図3に示すように、レール(R
R,R
L)と車輪(W
R,W
L)との間に噴射物(M
1)を噴射する噴射装置であって、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の噴射装置の漏出防止構造(10)を備えることを特徴とする噴射装置(1)である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、安価で簡単な構造によって収容部からの噴射物の漏出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の実施形態に係る噴射物の漏出防止構造を備える噴射装置を模式的に示す斜視図である。
【
図2】この発明の第1実施形態に係る噴射物の漏出防止構造を備える噴射装置を模式的に示す構成図である。
【
図3】この発明の実施形態に係る噴射装置の漏出防止構造を備える噴射装置の収容部の縦断面図である。
【
図4】この発明の実施形態に係る噴射装置の漏出防止構造を備える噴射装置の混合部を部分的に拡大して示す縦断面図である。
【
図5】
図3のV-V線で切断した状態を示す断面図である。
【
図6】
図3のVI-VI線で切断した状態を示す断面図である。
【
図7】この発明の実施形態に係る噴射装置の漏出防止構造の吸込管部を通気管部の内部に配管した状態を示す縦断面図である。
【
図8】この発明の実施形態に係る噴射装置の漏出防止構造の吸込管部の排出口と可動絞り部の噴射口との位置関係を示す部分断面図であり、(A)は混合部の混合室を部分的に拡大して示す縦断面図であり、(B)は(A)のVIII-VIIIB線で切断した状態を示す断面図であり、(C)は(A)のVIII-VIIIC線で切断した状態を示す断面図である。
【
図9】この発明の実施形態に係る噴射装置の漏出防止構造の吸込管部と通気管部との位置関係を部分的に示す縦断面図であり、(A)は通気管部内で吸込管部を混合部の上流側にずらして配管したときの動作を模式的に示す縦断面図であり、(B)は通気管部内で吸込管部を混合部の下流側にずらして配管したときの動作を模式的に示す縦断面図である。
【
図10】この発明の実施形態に係る噴射装置の漏出防止構造を備える噴射装置の可変絞り部の噴射口の位置と噴射量との関係を一例として示すグラフである。
【
図11】この発明の実施形態に係る噴射装置の漏出防止構造を備える噴射装置の噴射モード毎に吸込管部の排出口の位置を変化させたときの可変絞り部の噴射口の位置と噴射量との関係を一例として示すグラフであり、(A)は中速噴射モード時のグラフであり、(B)は低速噴射モード時のグラフである。
【
図12】従来の噴射装置の収容部の縦断面図である。
【
図13】従来の噴射装置の混合部を部分的に拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1及び
図2に示す線路Rは、鉄道車両が走行する通路(軌道)である。線路Rは、
図1に示すように車輪W
R,W
Lを案内する一対のレールR
R,R
Lなどを備えている。レールR
R,R
Lは、車輪W
R,W
Lを直接支持する頭頂面(頭部上面)R
1と、この頭頂面R
1と連続する内側頭側面R
2とを備えている。
図2に示すように、レールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの接触点Pには垂直力W及び接線力Fが作用し、垂直力Wに対する接線力Fの比例係数(接線力係数(トラクション係数))F/Wが摩擦係数であり、この摩擦係数の最大値が粘着係数である。
【0016】
図1及び
図2に示す車輪W
R,W
Lは、左右のレールR
R,R
Lとそれぞれ回転接触する部材である。車輪W
R,W
Lは、
図1に示すように、レールR
R,R
Lの頭頂面R
1と接触して摩擦抵抗を受ける車輪踏面W
1と、鉄道車両が急曲線を通過するときに、外軌側のレールR
R,R
Lの内側頭側面R
2と接触して摩擦抵抗を受けるフランジ面W
2とを備えている。
【0017】
図1及び
図2に示す噴射装置1は、レールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの間に噴射物M
1を噴射する装置である。噴射装置1は、線路R上を走行する鉄道車両側から噴射物M
1を噴射する車上式噴射装置であり、この鉄道車両に搭載された状態でこの鉄道車両とともに移動する。ここで、噴射物M
1は、レールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの間の粘着係数を向上させる増粘着材である。噴射物M
1は、例えば、粘着係数(摩擦係数)を増加させる機能を有するアルミナなどのセラミックス粒子である。噴射装置1は、鉄道車両の進行方向前側からレールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの間に噴射物M
1を噴射する。噴射装置1は、
図1に示す矢印方向とは反対方向に鉄道車両が走行するときにはこの噴射装置1と同一構造の噴射装置によって
図1に示す矢印方向とは反対方向からレールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの間に噴射物M
1を噴射する。噴射装置1は、
図1及び
図2に示す気体噴射部2と、流路3と、開閉部4R,4Lと、流路5R,5Lと、収容部6R,6Lと、
図3、
図4及び
図6に示す混合部7と、
図3、
図4、
図6及び
図7に示す可動絞り部8と、
図3~
図5、
図7及び
図8に示す通気管部9と、
図3~
図8に示す漏出防止構造10と、
図1及び
図2に示す流路12R,12Lと、噴射部13R,13Lと、制御装置14などを備えている。
【0018】
図1及び
図2に示す気体噴射部2は、圧縮気体Gを噴射する部分である。気体噴射部2は、例えば、圧縮空気のような圧縮気体Gを収容するエアタンクを備えており、このエアタンク内にコンプレッサによって気体が供給される。気体噴射部2は、エアタンク内の気体の圧力が所定値を下回るときには、このエアタンク内の気体の圧力が所定値に達するまで、このエアタンク内にコンプレッサによって気体が供給される。気体噴射部2は、制御装置14が出力する動作開始信号に基づいてこのエアタンクから圧縮気体Gを流路3に供給する。流路3は、圧縮気体Gが流れる管路である。流路3は、上流側が気体噴射部2に接続されており、下流側が二つに分岐して開閉部4R,4Lにそれぞれ接続されている。
【0019】
開閉部4R,4Lは、流路5R,5Lを開閉する部分である。開閉部4R,4Lは、例えば、電流が流れたときに磁力を発生して流路5R,5Lを開閉する電磁弁のような開閉弁である。開閉部4R,4Lは、流路5R,5Lの上流側にそれぞれ設置されており、制御装置14が出力する開閉信号に基づいて流路5R,5Lを開閉する。
【0020】
流路5R,5Lは、開閉部4R,4Lを通過した圧縮気体Gが流れる管路である。流路5Rは、上流側が開閉部4Rに接続されており、下流側が収容部6Rに接続されている。流路5Lは、上流側が開閉部4Lに接続されており、下流側が収容部6Lに接続されている。流路5R,5Lは、この流路5R,5L内を流れる圧縮気体Gの流量が同一になるようにいずれも断面積が同一に形成されている。
【0021】
図1及び
図2に示す収容部6R,6Lは、噴射物M
1を収容する部分である。収容部6Rは、進行方向右側のレールR
Rと進行方向右側の車輪W
Rとの間に噴射する噴射物M
1を収容し、収容部6Lは進行方向左側のレールR
Lと進行方向左側の車輪W
Lとの間に噴射する噴射物M
1を収容する。収容部6R,6Lは、例えば、噴射物M
1を収容するタンクなどである。収容部6R,6Lは、開閉部4R,4Lを通過した圧縮気体Gが流入すると、噴射物M
1を圧縮気体Gとともに流路12R,12Lに排出する。収容部6R,6Lは、
図3及び
図7に示すように、この収容部6R,6Lの上方に空間が形成されるように、規定の容量限界(いわゆる満タン)に達するまで噴射物M
1を充填可能である。
図1及び
図2に示す収容部6R,6Lは、いずれも同一構造であり、以下では一方の収容部6Rを中心に説明し、他方の収容部6Lについては詳細な説明を省略する。収容部6Rは、
図1~
図3に示す本体部6aと、
図1及び
図3に示す蓋部6bと、
図3に示す取付部6cなどを備えている。
【0022】
図1~
図3に示す本体部6aは、収容部6Rの本体を構成する部分である。本体部6aは、
図3及び
図5~
図7に示す側部6dと、
図3、
図4及び
図7に示す底部6eと、
図3に示す開口部6fと、
図3及び
図4に示す排出孔6gと、塞ぎ部6hなどを備えている。
図3及び
図5~
図7に示す側部6dは、本体部6aの側面を構成する円筒状の部分である。
図3、
図4及び
図7に示す底部6eは、本体部6aの底面を構成する円板状の部分である。
図3に示す開口部6fは、本体部6aの上側を開放するための部分である。
図3及び
図4に示す排出孔6gは、収容部6R内の噴射物M
1を排出する部分である。排出孔6gは、底部6eを貫通する貫通孔であり、
図12及び
図13に示す混合部7の吸込孔107fの直下に形成されている。
図3及び
図4に示す塞ぎ部6hは、排出孔6gを塞ぐ部分である。塞ぎ部6hは、排出孔6gに着脱自在に装着可能であり、排出孔6gの内周面に形成された雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部を有するプラグなどである。
【0023】
図1及び
図3に示す蓋部6bは、本体部6aを開閉する部分である。蓋部6bは、本体部6aの開口部6fを開閉するようにこの本体部6aに着脱自在に装着されており、開口部6fを通じて本体部6a内に噴射物M
1を充填するときに開閉される。
図3に示す取付部6cは、本体部6aを着脱自在に取り付ける部分である。取付部6cは、本体部6aの背面に本体部6aと一体に固定された板状部材であり、鉄道車両の台車の台車枠に着脱自在に取り付けられる。
【0024】
図3、
図4及び
図6に示す混合部7は、噴射物M
1と圧縮気体Gとが混合する部分である。混合部7は、
図3に示すように、外観が略L字状に形成された円管状の部材であり、
図3及び
図6に示すように本体部6aを貫通するように本体部6aと一体に固定されている。混合部7は、本体部6aの内部に配管されており、噴射物M
1と圧縮気体Gとを混合する混合管として機能する。混合部7は、
図3及び
図4に示すように、本体部6aの底部6eとの間に僅かに隙間をあけて、本体部6aの下方に底部6eに対して平行に配管されている。混合部7は、
図3及び
図5に示す圧縮気体供給部7aと、
図3、
図4、
図6及び
図7に示す圧縮気体通過部7bと、
図3及び
図6に示す調整孔7cと、
図3、
図5及び
図6に示す塞ぎ部7dと、
図4に示す塞ぎ部7eと、
図3、
図4及び
図7に示す通気管接続部7fと、
図3、
図4及び
図6~
図8に示す混合室7gと、
図3、
図4及び
図6~
図8に示す混合物通過部7hと、
図3及び
図5~
図7に示す混合物排出部7iなどである。
【0025】
図3及び
図5に示す圧縮気体供給部7aは、混合部7に圧縮気体Gを供給する部分である。圧縮気体供給部7aは、
図3に示すように、混合部7の上流側の端部の上面に形成されており、
図1及び
図2に示す流路5Rの下流側の端部が接続される。圧縮気体供給部7aは、流路5Rを構成する配管の端部を着脱自在に接続可能な管継手である。
【0026】
図3、
図4、
図6及び
図7に示す圧縮気体通過部7bは、圧縮気体Gが通過する部分である。圧縮気体通過部7bは、圧縮気体供給部7aから供給される圧縮気体Gが流れる管路である。圧縮気体通過部7bは、
図3に示すように、上流側が上方に向って略直角に屈曲して圧縮気体供給部7aに接続されており、下流側が混合室7gに向って水平に伸びている。
【0027】
図3及び
図6に示す調整孔7cは、可動絞り部8の絞り位置を調整するために使用される部分である。調整孔7cは、
図3及び
図6に示すように、混合部7の上流側の端部に形成されており、混合部7を貫通する貫通孔である。調整孔7cは、
図8(A)(B)に示す可動絞り部8の噴射口8cと吸込管部11の排出口11eとの間の距離dを調整するための工具を混合部7内に挿入するときに使用される。調整孔7cは、可動絞り部8の中心線L
3上に形成されている。
【0028】
図3、
図5及び
図6に示す塞ぎ部7dは、調整孔7cを塞ぐ部材である。塞ぎ部7dは、調整孔7cの内周部に形成された雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部がこの塞ぎ部7dの外周部に形成されており、調整孔7cに着脱自在に装着されるプラグなどである。
【0029】
図4に示す塞ぎ部7eは、吸込孔107fを塞ぐ部分である。塞ぎ部7eは、
図12及び
図13に示す従来の噴射装置101の混合管107に形成された吸込孔107fから噴射物M
1が吸い込まれるのを防ぐために、排出孔6gから挿入されて吸込孔107fに装着される。塞ぎ部7eは、例えば、ねじ自身によってねじ立てが可能であり、吸込孔107fの内周部にねじ込まれるタッピングねじなどである。
【0030】
図3、
図4及び
図7に示す通気管接続部7fは、通気管部9が接続される部分である。通気管接続部7fは、混合部7の下流側の上部を貫通する貫通孔であり、通気管部9の下端開口部9aが接続されている。通気管接続部7fは、通気管部9の下端開口部9aの外周部に形成された雄ねじ部と噛み合う雌ねじ部がこの通気管接続部7fの内周部に形成されている。
【0031】
図3、
図4及び
図6~
図8に示す混合室7gは、噴射物M
1と圧縮気体Gとを混合する部分である。混合室7gは、可動絞り部8の下流側であって通気管接続部7fの下方に形成されている。混合室7gは、
図3及び
図4に示すように、可動絞り部8の噴射口8cから噴射する圧縮気体Gと、吸込管部11の排出口11eから排出する噴射物M
1とを混合し、これらの混合物M
2を混合物通過部7hに流出させる。
【0032】
図3、
図4及び
図6~
図8に示す混合物通過部7hは、混合物M
2が通過する部分である。混合物通過部7hは、混合室7gから排出される混合物M
2が流れる管路である。混合物通過部7hは、
図3及び
図6に示すように、上流側が混合室7gに接続されており、下流側が混合物排出部7iに接続されている。
【0033】
図3、
図5、
図6及び
図7に示す混合物排出部7iは、混合部7から混合物M
2を排出する部分である。混合物排出部7iは、混合部7の下流側の端部に形成されており、
図1及び
図2に示す流路12Rの上流側の端部が接続される。混合物排出部7iは、流路12Rを構成する配管の端部を着脱自在に接続可能な管継手である。
【0034】
図3、
図4、
図6及び
図7に示す可動絞り部8は、流れの断面積を減少させて圧縮気体Gを噴射させる部分である。可動絞り部8は、この可動絞り部8の噴射口8cの位置を前後方向に変更可能な位置調整機能を備えており、この可動絞り部8の前後方向の位置を調整することによって、吸込管部11から吸い込まれる噴射物M
1の吸込量を変化させる。可動絞り部8は、圧縮気体通過部7bを塞ぐように圧縮気体通過部7bに収容されている。可動絞り部8は、
図8(A)(B)に示すように、この可動絞り部8の中心線L
3が通気管部9の中心線L
1と直交するように配置されている。可動絞り部8は、従来の噴射装置101の構造を大幅に改造せずに、
図13及び
図14に示す従来の可動絞り部108と交換可能であり、従来の可動絞り部108と同様に圧縮気体通過部7bの内周部に着脱自在に装着可能である。可動絞り部8は、
図4、
図6及び
図7に示す固定部8aと、可動部8bと、
図4、
図6、
図7及び
図8(A)(B)に示す噴射口8cなどを備えている。
【0035】
図4、
図6及び
図7に示す固定部8aは、圧縮気体通過部7bの内周部に固定される部分である。固定部8aは、外観が円筒状の部材であり、この固定部8aの内部に圧縮気体Gが流れる流路が形成されている。固定部8aは、この固定部8aの外周部に形成された雄ねじ部と噛み合う雌ねじ部が圧縮気体通過部7bの内周部に形成されており、圧縮気体通過部7bの雌ねじ部にこの固定部8aの雄ねじ部がねじ込まれて圧縮気体通過部7b内に装着される。
【0036】
可動部8bは、固定部8aに対して前後方向に可動する部分である。可動部8bは、固定部8aの内周部に形成された雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部がこの可動部8bの外周部に形成されている。可動部8bは、外観が円筒状の部材であり、固定部8a側の流路と接続するように、この可動部8b内部に圧縮気体Gが流れる可動部8b側の流路が形成されている。可動部8bは、この可動部8b内の流路の断面積が減少するように、上流側の内径よりも下流側の内径が小さく形成されている。可動部8bは、圧縮気体Gの流れを絞ることによって圧力を低下させて流速を増加させるベンチュリ管のような絞りとして機能する。可動部8bは、調整孔7cから挿入される六角レンチのような工具が着脱自在に嵌合する六角穴がこの可動部8bの上流側の端部に形成されている。可動部8bは、
図8(A)に示す中心線L
3を回転中心として工具によって回転されることによって、この可動部8bの雄ねじ部が固定部8aの雌ねじ部と噛み合って前後方向に移動し、吸込管部11の排出口11eと噴射口8cとの間の距離dを可変する。可動部8bは、送り方向(時計回り)に回転することによって噴射口8cを排出口11eに近づけ、戻り方向(反時計回り)に回転することによって噴射口8cを排出口11eから遠ざける。可動部8bは、
図12及び
図13に示す従来の噴射装置101の吸込孔107fの位置よりも排出口11eの位置が噴射口8cから遠くなるため、従来の噴射装置101の可動絞り部108の噴射口108cまでのノズル部分の長さに比べて、噴射口8cまでのノズル部分の長さが長く形成されている。
【0037】
図4、
図6、
図7及び
図8(A)(B)に示す噴射口8cは、圧縮気体Gを噴射する部分である。噴射口8cは、可動部8bの先端部に形成されているノズル口であり、混合室7gに向けて圧縮気体Gを噴射する。噴射口8cは、可動部8b内の断面積が比較的大きい上流側から、可動部8b内の断面積が比較的に小さい下流側に向って、圧縮気体Gが通過することによって、圧力が低下した高速の圧縮気体Gを混合室7g内に噴射する。噴射口8cは、
図8(A)に示すように、この噴射口8cの中心線L
3が混合部7の混合室7gの中心線と一致するように配置されている。
【0038】
図3~
図5、
図7及び
図8に示す通気管部9は、収容部6R内と混合部7内とを接続する部分である。通気管部9は、収容部6Rと混合部7との間で気体が通過して、収容部6R内の圧力が混合部7内の圧力とをほぼ同一になるように、収容部6R内と混合部7内とを接続する管路(通気管)である。通気管部9は、
図3及び
図7に示すように、所定長さの筒状の部材であり、収容部6R内で上下方向に直線状に配管されている。通気管部9は、
図7に示すように、下端開口部9aと上端開口部9bなどを備えている。下端開口部9aは、混合部7内に開口する部分であり、混合部7の通気管接続部7fに接続されている。上端開口部9bは、収容部6R内に開口する部分であり、噴射物M
1の表面Sよりも上方に突出している。
【0039】
通気管部9は、
図3及び
図4に示すように、収容部6R内から混合室7g内に噴射物M
1が噴射するときには、この通気管部9を通じて混合室7g内から収容部6R内に圧縮気体Gを流入させる。一方、通気管部9は、収容部6R内から混合室7g内に噴射物M
1が噴射した後には、この通気管部9を通じて収容部6R内から混合室7g内に気体を流出させる。通気管部9は、噴射物M
1の噴射後に収容部6R内の気体を混合室7g内に排出させることによって、収容部6R内の圧力を高圧状態から通常状態に変化させ、この通気管部9を通じて収容部6R内から混合部7内に噴射物M
1が漏出するのを防ぐ。
【0040】
図3~
図8に示す漏出防止構造10は、レールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの間に噴射する噴射物M
1を収容する収容部6Rからの噴射物M
1の漏出を防止する構造である。漏出防止構造10は、噴射装置1が動作していないときに、噴射装置1から漏出する噴射物M
1の噴射量を低減する。漏出防止構造10は、鉄道車両が線路R上を走行したときに発生する振動によって、噴射装置1から噴射物M
1が漏出するのを防止する。漏出防止構造10は、
図3~
図8に示す吸込管部11などを備えている。
【0041】
図3~
図8に示す吸込管部11は、収容部6R内で噴射物M
1を吸い込む部分である。吸込管部11は、
図3及び
図7に示すように、収容部6Rの下方からこの収容部6Rの上方を経由して、この収容部6Rの下方において噴射物M
1と圧縮気体Gとが混合する混合部7にこの噴射物M
1を導く。吸込管部11は、所定の長さの筒状の部材であり、外観が略逆U字状の管路(吸引管)である。吸込管部11は、
図3~
図5、
図7及び
図8に示すように、この吸込管部11の一部が通気管部9の内部に配管されている。吸込管部11は、
図8に示すように、通気管部9内に吸込管部11を配管したときに、通気管部9内を気体が通過可能なように、この吸込管部11の外周部と通気管部9の内周部との間に間隙部を形成するために、この吸込管部11の外径が通気管部9の内径よりも小さく設定されている。吸込管部11は、例えば、この吸込管部11内を噴射物M
1が通過するときの摩擦接触に対して耐摩耗性に優れ、交換が容易なニトリルゴム(NBR)などの合成ゴム製のホースである。吸込管部11は、
図6及び
図8に示すように、断面が円形(例えば、内径3mm程度)に形成されている。吸込管部11は、噴射装置1が噴射動作していないときに、車両の振動などによって収容部6R内の噴射物M
1が漏出しないように、
図3及び
図7に示すように収容部6R内の噴射物M
1の表面Sよりも、この吸込管部11の最上部が上方に位置している。ここで、表面Sは、収容部6R内で堆積している噴射物M
1の最上面である。吸込管部11は、
図7に示す直管部11aと、吸込口11bと、曲管部11cと、直管部11dと、
図7及び
図8に示す排出口11eなどを備えている。吸込管部11は、略逆U字状に配管することによって、吸込口11bから排出口11eまでの距離を比較的長くして収容部6R内の噴射物M
1が混合室7g内に漏れ出すのを防止する。
【0042】
図7に示す直管部11aは、収容部6R内を上下方向に延びた流路である。直管部11aは、噴射装置1が噴射動作したときに、収容部6R内の噴射物M
1がこの直管部11aの下方から上方に向けて流れるように直線状に配管されており、噴射物M
1を上昇させる上昇用管路として機能する。吸込口11bは、吸込管部11内に噴射物M
1を吸い込む部分である。吸込口11bは、吸込管部11の上流側の開口部であり、収容部6R内で開口する吸込管部11の下端部である。吸込口11bは、収容部6Rの底部6eに存在する噴射物M
1を可能な限り消費可能なように、収容部6Rの底部6eとの間に僅かに隙間をあけて、混合部7よりも下方で底部6eの近傍に位置している。
【0043】
曲管部11cは、噴射物M1の流れる方向を変える部分である。曲管部11cは、下方から上方に向って流れる噴射物M1が上方から下方に流れるように、噴射物M1の流れる方向を180°変えており、噴射物M1の流れる方向を変更する方向変更用管路として機能する。曲管部11cは、噴射物M1の表面Sよりも高く、吸込管部11の最上部に曲線状に配管されている。
【0044】
直管部11dは、通気管部9内を上下方向に延びた流路である。直管部11dは、噴射装置1が噴射動作したときに、収容部6R内の噴射物M
1がこの直管部11dの上方から下方に向けて流れるように直線状に配管されており、噴射物M
1を下降させる下降用管路として機能する。直管部11dは、直管部11aと所定の間隔をあけて平行には配置されている。直管部11dは、
図8(A)に示すように、この直管部11dの中心線L
2が通気管部9の中心線L
1と平行になるように配置されており、この直管部11dの中心線L
2が可動絞り部8の中心線L
3と直交するように配置されている。直管部11dは、
図8(C)に示すように、この直管部11dの外周面が通気管部9の内周面と接触しており、この直管部11dの外周面が通気管部9の内周面に接着剤などによって固定されている。直管部11dは、
図8(A)に示すように、この直管部11dの下端部が混合室7g内に突出している。
図7に示す排出口11eは、吸込管部11内から噴射物M
1を排出する部分である。排出口11eは、吸込管部11の下流側の開口部であり、吸込管部11の下端部に形成されており、混合部7の混合室7g内で開口している。
【0045】
吸込管部11は、
図8(A)(C)に示すように、この吸込管部11の中心線L
2が通気管部9の中心線L
1よりも混合部7の上流側にずらして、通気管部9の内部に配管されている。吸込管部11は、例えば、直管部11dの外周面が通気管部9の内周面と接触するように、直管部11dの外周面が通気管部9の内周面に接着剤などによって固定、又は通気管部9に固定金具などによって固定されている。吸込管部11は、
図8(A)に示すように、この吸込管部11の下流側の端部が混合部7の混合室7gに突出量Δだけ突出している。吸込管部11は、混合室7g内に圧縮気体Gを噴射する噴射口8cの中心線L
3よりも、この吸込管部11の排出口11eの突出量Δが所定範囲内(例えば、突出量Δ=0~1mm)に設定されている。
【0046】
図1及び
図2に示す流路12R,12Lは、混合物M
2が流れる管路である。流路12R,12Lは、レールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの間に混合物M
2を供給するために、収容部6R,6Lから噴射部13R,13Lに向かって混合物M
2を送出する。流路12R,12Lは、
図3、
図5及び
図7に示す収容部6R,6Lの混合物排出部7iにこの流路12R,12Lの上流側が接続されており、
図1及び
図2に示す噴射部13R,13Lにこの流路12R,12Lの下流側が接続されている。
【0047】
図1及び
図2に示す噴射部13R,13Lは、混合物M
2を噴射する部分である。噴射部13Rは、車輪W
RとレールR
Rとの間に混合物M
2を噴射し、噴射部13Lは車輪W
LとレールR
Lとの間に混合物M
2を噴射する。噴射部13R,13Lは、
図2に示す接触点Pに向けて混合物M
2を噴射する噴射ノズルなどである。
【0048】
図1及び
図2に示す制御装置14は、噴射装置1の動作を制御する装置である。制御装置14は、例えば、レールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの間の巨視的な滑りである空転を検知する空転検知装置が出力する空転検知信号が入力したとき、又は非常ブレーキ装置の作動を検知する非常ブレーキ動作検知装置が出力する非常ブレーキ動作検知信号が入力したときに、開閉部4R,4Lを開閉する開閉信号を出力する。制御装置14は、例えば、車両の低速走行時に噴射物M
1を低速(低圧)で噴射する低速噴射モード、車両の中速走行時に噴射物M
1を中速(中圧)で噴射する中速噴射モード、又は車両の高速走行時に噴射物M
1を高速(高圧)で噴射する低速噴射モードに切り替える噴射モード信号が入力したときには、各噴射モードに応じて気体噴射部2が圧縮気体Gの噴射速度を調整する。
【0049】
次に、この発明の実施形態に係る噴射装置の漏出防止構造の作用について説明する。
図1及び
図2に示すレールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの間に発生する空転が検出されたり、非常ブレーキ装置の作動が検出されたりすると、制御装置14が開閉部4R,4Lを動作させるとともに、制御装置14が噴射モード信号に応じて気体噴射部2が噴射速度を可変して圧縮気体Gを供給する。その結果、気体噴射部2から流路3,5R,5Lを通じて、
図3に示す混合部7の圧縮気体供給部7aに圧縮気体Gが流入する。
図4に示すように、圧縮気体供給部7aから圧縮気体通過部7bを通じて可動絞り部8の可動部8bに圧縮気体Gが流入すると、圧力の低下した圧縮気体Gが高速で噴射口8cから噴射する。
【0050】
図4に示すように、吸込管部11の排出口11eの近傍を圧縮気体Gが通過すると、排出口11eの近傍の圧力が低下する。このとき、
図7に示す噴射口8cから噴射する圧縮気体Gが通気管部9の下端開口部9aから上端開口部9bに向かって流れ、収容部6R内に圧縮気体Gが流入し収容部6R内の圧力が上昇する。このため、混合室7g内と収容部6R内との間の圧力差がなくなり、
図3に示すように収容部6R内の噴射物M
1が吸込管部11の吸込口11bから吸い込まれる。その結果、
図7に示す直管部11a内を噴射物M
1が上昇して、曲管部11c内で噴射物M
1が向きを変え、噴射物M
1が直管部11d内を下降して、
図3及び
図4に示すように排出口11eから混合室7g内に噴射物M
1が排出される。
【0051】
図9(B)に示すように、通気管部9に対して吸込管部11を混合部7の下流側にずらして配管した場合には、噴射口8cから圧縮気体Gが噴射して通気管部9の下端開口部9aの近傍を通過すると、通気管部9の下端開口部9aの近傍の圧力が低下してしまう。このとき、噴射口8cから噴射した圧縮気体Gが吸込管部11の排出口11eから流入し、吸込管部11の吸込口11bから収容部6R内に流入してしまう。その結果、収容部6R内の噴射物M
1を混合部7内に吸引することができないため、噴射物M
1と圧縮気体Gとが混合されず混合物M
2を噴射することができない。
【0052】
一方、
図9(A)に示すように、通気管部9に対して吸込管部11を混合部7の上流側にずらして配管した場合には、噴射口8cから圧縮気体Gが噴射して吸込管部11の排出口11eの近傍を通過すると、排出口11eの近傍の圧力が低下する。このとき、噴射口8cから噴射した圧縮気体Gが通気管部9の下端開口部9aから流入し、通気管部9の上端開口部9bから収容部6R内に流入する。その結果、収容部6R内の圧力が上昇して、収容部6R内の噴射物M
1を吸込口11bから吸引することができ、排出口11eから混合室7g内に噴射物M
1が排出されて、噴射物M
1と圧縮気体Gとが混合され混合物M
2を噴射することができる。
【0053】
図8(A)(B)に示す距離dが近いと噴射口8cから噴射する圧縮気体Gの圧力低下量が大きくなって、吸込管部11に吸引される噴射物M
1の吸引量が多くなる。一方、距離dが遠いと噴射口8cから噴射する圧縮気体Gの圧力低下量が小さくなって、吸込管部11に吸引される噴射物M
1の吸引量が少なくなる。
【0054】
図4に示す噴射口8cから圧縮気体Gの噴射が停止すると、排出口11eの近傍の圧力が通常の圧力(大気圧)に戻る。その結果、
図3に示す収容部6R内に圧縮気体Gが流入して圧力が上昇していた収容部6R内の気体が通気管部9の上端開口部9bから下端開口部9aに向かって流れ、収容部6R内の余剰な気体が収容部6R内から瞬時に排出されて、収容部6R内の圧力が通常の圧力(大気圧)に戻る。その結果、噴射装置1の噴射動作が停止したにもかかわらず、収容部6R内の噴射物M
1が吸込管部11を通じて排出口11eから漏れ出すのが防止される。
【0055】
図3及び
図4に示すように、噴射物M
1と圧縮気体Gとが混合室7g内で混合して混合物M
2が混合物排出部7iから排出すると、
図1及び
図2に示す流路12R,12Lを通じて噴射部13R,13LからレールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの間に混合物M
2が噴射される。その結果、レールR
R,R
Lと車輪W
R,W
Lとの間の粘着係数が噴射物M
1によって増加して、空転が防止されるとともにブレーキ性能が向上する。
【0056】
図1及び
図2に示すように、線路R上を鉄道車両が走行すると、この鉄道車両の台車が振動して、この台車に装着された収容部6Rも振動する。
図7に示すように、収容部6R内に規定の容量限界まで噴射物M
1が収容されているときに、吸込管部11の最上部である曲管部11cがこの噴射物M
1の表面Sよりも上方に常に位置する。このため、収容部6Rが振動しても、吸込管部11の直管部11a内に残存する噴射物M
1や、吸込口11bから浸入した噴射物M
1が曲管部11cを超えて、直管部11d内に流入するのが防止される。その結果、噴射装置1が噴射動作していないにもかかわらず、台車の振動などによって噴射物M
1が収容部6Rから漏れ出すのが防止される。
【0057】
図10は、
図8(A)に示す突出量Δ=0mmであるときの可変絞り部8の噴射口8cの位置と噴射量との関係を一例として示すグラフである。
図10に示す縦軸は、噴射量(g/30sec)であり、噴射物M
1の単位時間(30秒)当たりの平均噴射量である。横軸は、可動絞り戻し回転数(回転)であり、噴射口8cが排出口11eに最も近い位置にあるときの可動部8bの回転数0から、噴射口8cが排出口11eから最も遠い位置にあるときの回転数20まで、可動部8bを中心線回りに回転させたときの回転数である。
図10に示すように、可動絞り部8の可動部8bを回転させることによって、噴射物M
1の噴射量を調整可能である。例えば、噴射装置1の基本仕様における噴射量10~50(g/sec30)の範囲内の常用域で噴射物M
1を噴射可能である。
【0058】
図11は、吸込管部の排出口の位置を上下方向に変化させた状態で、可変絞り部の噴射口の位置を変化させて、噴射物M
1を中速又は低速で噴射させたときの噴射物M
1の噴射量の変化を一例として示すグラフである。
図11に示す縦軸は、噴射量(g/30sec)であり、横軸は可動絞り位置(回転戻し)である。突出量Δは、
図8(A)に示す可変絞り部8の噴射口8cを中心(0mm)として、吸込管部11の排出口11eが上側に位置する場合を+、下側に位置する場合を-として、-3~3mmの範囲内で変化させた。
【0059】
図11(A)に示す中速噴射モード時では、
図8(A)に示す可動絞り部8の噴射口8cの中心線L
3よりも下方に、吸込管部11の排出口11eの突出量Δ=-1~0mmの範囲内に設定した。その結果、可動絞り部8の回転数を調整し、距離dを調整することによって、300(kPa)程度の中速噴射の条件において噴射物M
1の噴射量を噴射装置の基本仕様に設定可能である。また、
図11(B)に示す低速噴射モード時では、中速噴射モード時と同様に吸込管部11の排出口11eの突出量-1mm~0mmの範囲内に設定した。その結果、可動絞り部8の回転数を調整し、中速噴射モード時よりも距離dが小さくなるように距離dを調整することによって、100(kPa)程度の定速噴射の条件であっても噴射物M
1の噴射量を噴射装置の基本仕様に設定可能である。
【0060】
排出口11eの突出量Δ=-3~3mmの範囲内で変化させて、圧縮気体Gとして圧縮空気を流量147(NL/min)で、噴射物M
1としてアルミナを噴射した。その結果、排出口11eの突出量-1mmの場合には、アルミナの噴射量55.0(g/30sec)の最大値であり、排出口11eの突出量0mmである場合にはアルミナの噴射量47.1(g/30sec)であった。突出量Δ=-1~0mmの範囲内に設定して、可動絞り位置を0~20回転の範囲内に設定することによって、噴射速度にかかわらず基本仕様における噴射量10~50(g/30sec)の範囲内(
図11に示す濃色の範囲内)に調整可能であることが確認された。
【実施例0061】
対策品及び従来品について振動試験を実施して、対策品の漏出防止効果について確認した。ここで、対策品は、
図3~
図8に示す漏出防止構造10を備えている噴射装置1である。従来品は、漏出防止構造10を備えていない
図12及び
図13に示す従来の噴射装置101である。振動試験は、公益財団法人鉄道総合技術研究所の振動試験機(エミック株式会社製、型式:F-40000BDH/LA-TS)を使用して行った。
【0062】
(振動試験による漏出の確認)
【0063】
【0064】
表1は、対策品及び従来品の試験条件毎の漏出確認結果を示す表である。ここで、表1に示す対策品の「φ2.2特殊」は、従来品の可変絞りのノズル部分を長くした構造である。「入口」及び「出口」は、
図4に示す吸込孔107fを基準として圧縮空気の入り口側及び出口側を意味する。「入口」は、
図4に示す可動絞り部8よりも上流側におけるアルミナ漏出量である。「出口」は、
図7に示す可動絞り部8よりも下流側におけるアルミナ漏出量である。従来品でアルミナが漏れ出した条件で対策品に振動を加えて、対策品による漏出防止対策の有効性を確認した。表1に示すように、対策品及び従来品のタンク内にアルミナを3.0(kg)収容した場合及び2.0(kg)収容した場合について、振動試験機によってタンクを鉛直加振方向(
図3に示すZ軸方向(上下方向))に加速度実効値(Root Mean Square(RMS))2(G)、周波数10(Hz)の加振条件で加振した。アルミナを3.0(kg)収容した場合については10分間振動させ、アルミナを2.0(kg)収容した場合については20分間振動させて、タンク内からのアルミナの漏出量(g)を測定した。その結果、従来品についてはタンク内からのアルミナの漏出が確認されたが、対策品についてはタンク内からのアルミナの漏出は確認されなかった。
【0065】
(振動試験による噴射量の変化の確認)
【0066】
【0067】
表2は、対策品について加振前後及び加振中の噴射量の変化を示す表である。ここで、表2に示す「加振前1回目」及び「加振前2回目」は、タンクを加振する前にアルミナを1回又は2回噴射したときの噴射量である。「加振後1回目」「加振後2回目」及び「加振前3回目」は、タンクを加振した後にアルミナを1回、2回又は3回噴射したときの噴射量である。「加振中」は、タンクを加振しているときにアルミナを噴射したときの噴射量である。対策品のタンク内にアルミナを2.0(kg)収容した場合及び3.0(kg)収容した場合について、振動試験機によってタンクをZ軸方向に加速度実効値2(G)、周波数10(Hz)の加振条件で振動させて、加振前後及び加振中に噴射量が変化するかを確認した。圧縮空気の噴射圧300(kPa)、可動絞り戻し回転数7で加振による噴射量の変化を確認したところ、加振後及び加振中の噴射量が加振前の噴射量に比べて噴射量が数g増えたものの、加振後及び加振中に噴射した場合であっても安定して噴射可能であることが確認された。
【0068】
(振動試験による耐久性の確認)
【0069】
【0070】
表3は、対策品の加振方向毎の耐久性の確認結果を示すグラフである。振動試験機によって「JIS E4031:2013.鉄道車両用品-振動及び衝撃試験方法 区分2.台車枠に取り付ける製品による振動耐久試験規格」でタンクを加振して耐久性を確認した。先ず、タンク内のアルミナを空にした状態で、水平加振方向(
図3に示すX軸方向(前後方向)及びY軸方向(左右方向))並びにZ軸方向に加振した。ここで、X軸方向は、タンクの正面がまくらぎ方向となる条件である。X軸方向については加速度実効値1.4(G)で、Y軸方向については加速度実効値2.7(G)で、Z軸方向については加速度実効値3.1(G)で、いずれも周波数5~250(Hz)、加振時間300(分)の加振条件で加振した。その結果、X軸方向及びY軸方向の加振時に金属の接触音が稀にしたが耐久性に問題は確認されなかった。次に、タンク内のアルミナを1(kg)収容した状態(タンク容量の1/3程度の状態)で、X軸方向に加速度実効値1.4(G)、周波数5~250(Hz)、加振時間5(分)の加振条件で加振した。その結果、金属の接触音が確認されなくなった。また、従来品では自然漏出現象が生じる営業線において、営業車を使用して、約35000キロ走行するまで複数回増粘着材の量を確認したところ、増粘着材の漏出は確認されなかった。
【0071】
この発明の実施形態に係る噴射装置の漏出防止構造及び噴射装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、収容部6R内で噴射物M1を吸込管部11が吸い込み、この収容部6Rの下方において噴射物M1と圧縮気体Gとが混合する混合部7に、この収容部6Rの下方からこの収容部6Rの上方を経由して、噴射物M1を吸込管部11が導く。このため、一旦収容部6Rの上まで噴射物M1が上昇した後に、噴射物M1が混合部7まで下降する必要があり、収容部6R内から混合部7内まで噴射物M1が移動する距離を長くすることができる。その結果、噴射装置1が噴射動作していないにもかかわらず車両の振動などによって、収容部6R内から混合部7内に噴射物M1が漏れ出すのを防ぐことができる。
【0072】
(2) この実施形態では、収容部6R内と混合部7内とを通気管部9が接続し、吸込管部11の一部が通気管部9の内部に配管されている。このため、通気管部9の内部空間を利用して吸込管部11を通気管部9内に吸込管部11を簡単に配管することができる。また、既存の通気管部9を利用して吸込管部11を通気管部9に簡単に固定することができる。その結果、従来の噴射装置101の基本構造を大規模に改変せずに、安価で簡単な構造の吸込管部11を追加で設置することができ、従来の噴射装置101のメンテナンスが容易な構造を維持しつつ低コストで噴射装置1に改造することができる。さらに、内径が異なる複数種類の吸込管部11を用意しておき、噴射物M1の大きさに応じて最適な内径の吸込管部11を選択して使用することができる。
【0073】
(3) この実施形態では、吸込管部11の中心線L2が通気管部9の中心線L1よりも混合部7の上流側にずらして、通気管部9の内部に吸込管部11が配管されている。このため、吸込管部11を通じて噴射物M1を収容部6R内から混合部7内に確実に吸い込むことができるとともに、収容部6R内と混合部7内との間で通気管部9を通じて気体を確実に流通させることができる。
【0074】
(4) この実施形態では、混合部7で圧縮気体Gを噴射する噴射口8cの中心線L3と、吸込管部11の排出口11eとの間の距離dが所定範囲内である。このため、距離dを理想値に設定することによって、噴射装置1の噴射量などの噴射条件が基本仕様を満たすように噴射装置1を設定することができる。
【0075】
(5) この実施形態では、収容部6R内の噴射物M1の表面よりも、吸込管部11の最上部が上方に位置する。このため、収容部6R内にいわゆる満タンの状態で収容されている噴射物M1の最上面よりも上方を、噴射装置1が噴射動作しているときだけ、吸込管部11内に噴射物M1を通過させることができる。その結果、噴射装置1が噴射動作していないときに車両の振動などによって、収容部6R内に堆積する噴射物M1の最上面を超えて、吸込管部11内の噴射物M1が漏出するのを防止することができる。
【0076】
(6) この実施形態では、噴射装置1が漏出防止構造10を備えている。このため、従来の噴射装置101の構造を大規模に改変せずに、既存の構造を利用して低コストで簡単に漏出防止構造10を付加することができ、噴射動作していないときに噴射物M1が漏出するのを防止することができる。また、予め漏出防止構造10を組み込んだ状態で、低コストで新製品として噴射装置1を提供することができる。
【0077】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、レールRR,RLと車輪WR,WLとの間の粘着係数を向上させる増粘着材を噴射物M1として噴射する場合を例に挙げて説明したが、これらの間の摩擦係数を緩和させる摩擦緩和材を噴射物M1として噴射する場合や、増粘着材又は摩擦緩和材以外の噴射物を噴射する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、噴射物M1がアルミナである場合を例に挙げて説明したが、アルミナ以外のセラミックス粒子又は珪砂などの噴射物M1についても、この発明を適用することができる。
【0078】
(2) この実施形態では、噴射物M1が粒状物である場合を例に挙げて説明したが、粉状物又は液状物である場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、圧縮気体Gとして圧縮空気を噴射する場合を例に挙げて説明したが、圧縮空気以外の気体を噴射する場合についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、噴射装置1が鉄道車両側から噴射物M1を噴射する車上式噴射装置である場合を例に挙げて説明したが、噴射装置1が線路R側から噴射物M1を噴射する地上式噴射装置である場合についても、この発明を適用することができる。この場合には、鉄道車両の走行によって振動を受ける収容部6R,6Lから噴射物M1が漏出するのを防止することができる。
【0079】
(3) この実施形態では、吸込管部11が合成ゴム製である場合を例に挙げて説明したが、吸込管部11の一部又は全部を金属製又は合成樹脂製にする場合についても、この発明を適用することができる。例えば、吸込管部11の全体をステンレスなどの金属製にする場合や、吸込管部11の直管部11a及又は曲管部11cをステンレスなどの金属製にしたり、直管部11dをニトリルゴムなどの合成ゴム製にしたりすることもできる。この場合には、吸込管部11の金属製の部分を通気管部9にろう付けなどによって固定することができる。また、この実施形態では、従来の可動絞り部108と同様に圧縮気体通過部7bに可動絞り部8をねじ込み装着可能であり、噴射口8cまでの長さが長い可動絞り部8を例に挙げて説明したが、このような構造にこの発明を限定するものではない。例えば、圧縮気体通過部7bの内周部に形成された雌ねじ部を排出口11eの近傍まで形成して、噴射口までの長さが短い従来の可動絞り部108を圧縮気体通過部7bに装着することもできる。