(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064618
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】トルクリミッタおよび摩擦試験装置
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20230501BHJP
F16D 1/06 20060101ALI20230501BHJP
B65H 3/52 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
F16D7/02 C
F16D1/06 220
B65H3/52 330A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174990
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000114710
【氏名又は名称】ヤマウチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】平山 正
【テーマコード(参考)】
3F343
【Fターム(参考)】
3F343FA02
3F343FB02
3F343FC27
3F343GA01
3F343JD09
3F343KB05
3F343LD30
(57)【要約】
【課題】弾性体の摩擦係数の測定時に弾性体が空転することを防止できるトルクリミッタおよび摩擦試験装置を提供する。
【解決手段】トルクリミッタは、第1軸部および前記第1軸部の径方向に延びる第1ピン部を有する第1シャフトの前記第1軸部が挿入される円筒状の内側回転体と、前記内側回転体と同軸上において前記内側回転体に対して相対的に回転できるように前記内側回転体の外側に嵌められた円筒状の外側回転体と、前記内側回転体と前記外側回転体との間で回転力を伝達する伝達部と、を備える。前記内側回転体の軸方向における一方側の端部に、前記第1ピン部を嵌めるための複数の第1溝部が形成されている。前記軸方向における前記外側回転体の他方側の端部に凹部が形成されている。前記凹部は、前記軸方向において前記外側回転体の前記他方側の縁から一方側に向かって凹むように形成されている。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸部および前記第1軸部の径方向に延びる第1ピン部を有する第1シャフトの前記第1軸部が挿入される円筒状の内側回転体と、
前記内側回転体と同軸上において前記内側回転体に対して相対的に回転できるように前記内側回転体の外側に嵌められた円筒状の外側回転体と、
前記内側回転体と前記外側回転体との間で回転力を伝達する伝達部と、を備え、
前記内側回転体の軸方向における一方側の端部に、前記第1ピン部を嵌めるための複数の第1溝部が形成されており、
前記外側回転体の前記軸方向における他方側の端部に凹部が形成されており、
前記凹部は、前記軸方向において前記外側回転体の前記他方側の縁から一方側に向かって凹むように形成されている、
トルクリミッタ。
【請求項2】
前記内側回転体の前記軸方向における前記他方側の端部に、第2溝部が形成されており、
前記軸方向において、前記凹部の少なくとも一部は、前記第2溝部の前記一方側の端と前記第2溝部の前記他方側の端との間に位置している、
請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記軸方向における前記凹部の長さは、前記内側回転体の周方向における前記第2溝部の長さの1/2以上である、
請求項2に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
前記外側回転体の周方向における前記凹部の長さは、前記内側回転体の周方向における前記第2溝部の長さよりも長い、
請求項2または3に記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
前記外側回転体の前記端部に複数の前記凹部が形成されており、
前記凹部の数は、前記第2溝部の数よりも多い、
請求項2から4のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項6】
前記伝達部が、
前記内側回転体および前記外側回転体のうちの一方に固定された永久磁石と、
前記内側回転体の径方向において前記永久磁石に対向するように前記内側回転体および前記外側回転体のうちの他方に固定され、かつ前記永久磁石との間でヒステリシストルクを生じさせるヒステリシス材と、を備える、
請求項1から5のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項7】
前記外側回転体と一体回転するように前記外側回転体の外側に嵌められた円筒状の弾性体を備える、請求項1から6のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項8】
請求項7に記載のトルクリミッタの前記弾性体の摩擦係数を測定する際に利用される摩擦試験装置であって、
前記内側回転体に挿入される第2軸部および前記第2軸部の径方向に延びる第2ピン部を有する第2シャフトと、
前記第2軸部を回転駆動する駆動源と、
前記弾性体の外周面に押し付けられる摺動部材と、を備え、
前記第2ピン部は、前記第2軸部を前記内側回転体に挿入した状態において前記外側回転体の前記凹部に嵌るように、前記第2軸部に固定されている、
摩擦試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクリミッタおよび摩擦試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機等の給紙装置において、送りこまれた用紙を一枚ずつ分離しながら搬送するために、トルクリミッタが用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、給紙ローラと、給紙ローラに対向して配置されたトルクリミッタとを備えた分離機構が開示されている。給紙ローラは、給紙ローラとトルクリミッタとの間に送り込まれた用紙を送り出すことができるように、図示しない駆動源によって回転駆動されている。トルクリミッタは、シャフトと、シャフトの外周面に設けられる永久磁石と、シャフトに対して回転可能にシャフトの外側に嵌められたハウジングと、永久磁石に対向するようにハウジングの内周面に設けられたヒステリシス材と、ハウジングの外周面に設けられた弾性体とを備えている。シャフトが回転することによって、永久磁石とヒステリシス材との間にヒステリシストルクが発生する。これにより、シャフトの回転力がハウジングおよび弾性体に伝達される。その結果、弾性体には、用紙搬送方向とは反対方向の回転力が与えられる。
【0004】
特許文献1の分離機構では、給紙ローラとトルクリミッタとの間に1枚の用紙が送り込まれた場合には、給紙ローラから用紙を介して弾性体に与えられる力(用紙搬送方向の力)が、シャフトから弾性体に与えられる力(用紙搬送方向とは反対方向の力)よりも大きくなる。この場合、ハウジングおよび弾性体は、シャフトに対して空転(逆回転)する。これにより、給紙ローラとトルクリミッタとの間から用紙が送り出される。
【0005】
一方、給紙ローラとトルクリミッタとの間に複数枚の用紙が送り込まれた場合には、シャフトから弾性体に与えられる力(用紙搬送方向とは反対方向の力)が、給紙ローラから複数枚の用紙を介して弾性体に与えられる力(用紙搬送方向の力)よりも大きくなる。この場合、ハウジングおよび弾性体はシャフトと同じ方向に回転する。これにより、2枚目以降の用紙(給紙ローラに接触していない用紙)が1枚目の用紙(給紙ローラに接触している用紙)から分離される。その結果、給紙ローラとトルクリミッタとの間から複数の用紙が送り出されることを防止することができる。すなわち、用紙の重送を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような分離機構において用紙の重送を適切に防止するためには、弾性体の摩擦係数を適切に管理する必要がある。そのためには、組み立てられた状態のトルクリミッタにおいて、ハウジングおよび弾性体を回転させつつ弾性体の摩擦係数を測定することが好ましい。具体的には、シャフトを回転させることによってハウジングおよび弾性体を回転させて、弾性体の表面の摩擦係数を測定することが好ましい。
【0008】
しかしながら、従来のトルクリミッタでは、上述したように、シャフトが回転している状態において弾性体に大きな力が作用すると、シャフトに対してハウジングおよび弾性体が空転する。このため、従来のトルクリミッタの構成では、弾性体を回転させつつ弾性体の摩擦係数を測定することは容易ではなかった。
【0009】
そこで、本発明は、弾性体の摩擦係数の測定時に弾性体が空転することを防止できるトルクリミッタおよび摩擦試験装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記のトルクリミッタおよび摩擦試験装置を要旨とする。
【0011】
(1)第1軸部および前記第1軸部の径方向に延びる第1ピン部を有する第1シャフトの前記第1軸部が挿入される円筒状の内側回転体と、
前記内側回転体と同軸上において前記内側回転体に対して相対的に回転できるように前記内側回転体の外側に嵌められた円筒状の外側回転体と、
前記内側回転体と前記外側回転体との間で回転力を伝達する伝達部と、を備え、
前記内側回転体の軸方向における一方側の端部に、前記第1ピン部を嵌めるための複数の第1溝部が形成されており、
前記外側回転体の前記軸方向における他方側の端部に凹部が形成されており、
前記凹部は、前記軸方向において前記外側回転体の前記他方側の縁から一方側に向かって凹むように形成されている、
トルクリミッタ。
【0012】
(2)前記内側回転体の前記軸方向における前記他方側の端部に、第2溝部が形成されており、
前記軸方向において、前記凹部の少なくとも一部は、前記第2溝部の前記一方側の端と前記第2溝部の前記他方側の端との間に位置している、
上記(1)に記載のトルクリミッタ。
【0013】
(3)前記軸方向における前記凹部の長さは、前記内側回転体の周方向における前記第2溝部の長さの1/2以上である、
上記(2)に記載のトルクリミッタ。
【0014】
(4)前記外側回転体の周方向における前記凹部の長さは、前記内側回転体の周方向における前記第2溝部の長さよりも長い、
上記(2)または(3)に記載のトルクリミッタ。
【0015】
(5)前記外側回転体の前記端部に複数の前記凹部が形成されており、
前記凹部の数は、前記第2溝部の数よりも多い、
上記(2)から(4)のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【0016】
(6)前記伝達部が、
前記内側回転体および前記外側回転体のうちの一方に固定された永久磁石と、
前記内側回転体の径方向において前記永久磁石に対向するように前記内側回転体および前記外側回転体のうちの他方に固定され、かつ前記永久磁石との間でヒステリシストルクを生じさせるヒステリシス材と、を備える、
上記(1)から(5)のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【0017】
(7)前記外側回転体と一体回転するように前記外側回転体の外側に嵌められた円筒状の弾性体を備える、上記(1)から(6)のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【0018】
(8)上記(7)に記載のトルクリミッタの前記弾性体の摩擦係数を測定する際に利用される摩擦試験装置であって、
前記内側回転体に挿入される第2軸部および前記第2軸部の径方向に延びる第2ピン部を有する第2シャフトと、
前記第2軸部を回転駆動する駆動源と、
前記弾性体の外周面に押し付けられる摺動部材と、を備え、
前記第2ピン部は、前記第2軸部を前記内側回転体に挿入した状態において前記外側回転体の前記凹部に嵌るように、前記第2軸部に固定されている、
摩擦試験装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、弾性体の摩擦係数の測定時に弾性体が空転することを防止できるトルクリミッタおよび摩擦試験装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るトルクリミッタを示す概略斜視図である。
【
図3】
図3は、軸方向Xからトルクリミッタを見た図である。
【
図4】
図4は、内側回転体の第2溝部および外側回転体の凹部の形成位置および大きさを比較した図である。
【
図5】
図5は、通常使用時のトルクリミッタを示す概略斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5に示すトルクリミッタを軸方向Xにおける一方側から見た図である。
【
図7】
図7は、トルクリミッタの通常使用時に利用されるシャフトを示す図である。
【
図8】
図8は、弾性体の摩擦係数測定時に利用される摩擦試験装置を示す概略図である。
【
図9】
図9は、弾性体の摩擦係数測定時のトルクリミッタを示す概略斜視図である。
【
図10】
図10は、
図9に示すトルクリミッタを軸方向Xにおける他方側から見た図である。
【
図11】
図11は、弾性体の摩擦係数測定時に利用されるシャフトを示す図である。
【
図12】
図12は、外側回転体に形成される凹部の変形例を説明するための図である。
【
図13】
図13は、外側回転体に形成される凹部の他の変形例を説明するための図である。
【
図14】
図14は、外側回転体の縁が内側回転体の縁に対して軸方向Xにおける一方側に位置付けられた構成を有するトルクリミッタを示す概略斜視図である。
【
図15】
図15は、
図14に示すトルクリミッタの摩擦係数測定時の状態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係るトルクリミッタについて図面を用いて説明する。
【0022】
(トルクリミッタの構造)
図1は、本発明の一実施形態に係るトルクリミッタ10を示す概略斜視図であり、(a)は内側回転体12の軸方向における一方側からトルクリミッタ10を見た図、(b)は内側回転体12の軸方向における他方側からトルクリミッタ10を見た図である。また、
図2は、
図1のトルクリミッタ10のII-II部分を示す断面図である。
図1および
図2に示すように、本実施形態に係るトルクリミッタ10は、円筒状の内側回転体12と、円筒状の外側回転体14と、内側回転体12と外側回転体14との間で回転力を伝達する伝達部16(
図2参照)と、円筒状の弾性体18と、中空円板状のキャップ20とを備えている。なお、
図1および
図2においては、内側回転体12の軸方向を矢印Xで示している。以下においては、内側回転体12の軸方向を軸方向Xと記載する。本実施形態では、外側回転体14の軸方向および弾性体18の軸方向は、内側回転体12の軸方向Xに一致する。
【0023】
図3は、軸方向Xからトルクリミッタ10を見た図であり、(a)は軸方向Xにおける一方側からトルクリミッタ10を見た図、(b)は軸方向Xにおける他方側からトルクリミッタ10を見た図である。
図1~
図3に示すように、内側回転体12の軸方向Xにおける一方側の端部には、複数(本実施形態では2つ)の第1溝部22が形成されている。本実施形態では、第1溝部22は、軸方向Xにおいて、内側回転体12の一方側の縁12aから他方側に向かって凹むように形成されている。より具体的には、第1溝部22は、後述するピン部30(
図5参照)が嵌るように、内側回転体12の径方向から見て略U字形状に形成されている。本実施形態では、2つの第1溝部22は、軸方向Xから見て、内側回転体12の径方向において互いに対向するように形成されている。なお、第1溝部22は、内側回転体12の径方向から見て矩形状に形成されていてもよい。
【0024】
また、
図1~3に示すように、内側回転体12の軸方向Xにおける他方側の端部には、2つの第2溝部23が形成されている。本実施形態では、第2溝部23は、軸方向Xにおいて、内側回転体12の他方側の縁12bから一方側に向かって凹むように形成されている。より具体的には、第2溝部23は、後述するピン部36(
図9参照)が嵌るように、内側回転体12の径方向から見て略U字形状に形成されている。本実施形態では、2つの第2溝部23は、軸方向Xから見て、内側回転体12の径方向において互いに対向するように形成されている。なお、第2溝部23は、内側回転体12の径方向から見て矩形状に形成されていてもよい。
【0025】
内側回転体12は、例えば、合成樹脂材料を用いて構成することができる。合成樹脂材料としては、公知のトルクリミッタにおいて用いられている材料を用いることができる。具体的には、合成樹脂材料として、例えば、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリプロピレン樹脂(PP)等が挙げられる。外側回転体14についても同様である。
【0026】
外側回転体14は、内側回転体12と同軸上において内側回転体12に対して相対的に回転できるように、内側回転体12の外側に嵌められている。本実施形態では、軸方向Xにおける外側回転体14の一方側は、キャップ20を介して回転可能に内側回転体12に支持されている。キャップ20は、内側回転体12の外周面に対して摺動できるように、外側回転体14の内周面に固定されている。
【0027】
軸方向Xにおける外側回転体14の他方側は、内側回転体12の外周面に対して摺動できるように、内側回転体12の外周面に支持されている。なお、詳細な説明は省略するが、外側回転体14は、転がり軸受等の公知の軸受を介して内側回転体12に回転可能に支持されてもよい。
【0028】
図1および
図3に示すように、軸方向Xにおける外側回転体14の他方側の端部には、凹部24が形成されている。本実施形態では、凹部24は、軸方向Xにおいて、外側回転体14の他方側の縁15から一方側に向かって凹むように形成されている。より具体的には、凹部24は、後述するピン部36(
図9参照)が嵌るように、外側回転体14の径方向から見て略U字形状に形成されている。なお、凹部24、外側回転体14の径方向から見て矩形状に形成されていてもよい。
【0029】
図4は、内側回転体12の第2溝部23および外側回転体14の凹部24の形成位置および大きさを比較した図である。なお、
図4には、内側回転体12(外側回転体14)の径方向から見た第2溝部23および凹部24が示されている。
【0030】
図4に示すように、凹部24の少なくとも一部は、軸方向Xにおいて、第2溝部23の一方側の端と第2溝部23の他方側の端との間に位置付けられている。本実施形態では、軸方向Xにおいて内側回転体12の縁12bおよび外側回転体14の縁15の位置は略等しく、軸方向Xにおける第2溝部23および凹部24の位置も略等しい。なお、軸方向Xにおける凹部24の長さL1は、内側回転体12の周方向における第2溝部23の長さL2の1/2以上に設定されることが好ましく、長さL2以上であることがより好ましい。本実施形態では、長さL1は、長さL2の約2倍に設定されている。
【0031】
図2に示すように、伝達部16は、永久磁石16aと、ヒステリシス材16bとを備えている。永久磁石16aおよびヒステリシス材16bはそれぞれ、円筒形状を有している。永久磁石16aおよびヒステリシス材16bは、内側回転体12の径方向において互いに対向するように設けられている。本実施形態では、内側回転体12の径方向において永久磁石16aの外側にヒステリシス材16bが設けられている。
【0032】
なお、本明細書において永久磁石16aおよびヒステリシス材16bが径方向において対向している状態とは、永久磁石16aおよびヒステリシス材16bのうちの一方が他方の内側に位置付けられている状態を意味する。
【0033】
本実施形態では、永久磁石16aは、内側回転体12の外周面に固定されている。また、ヒステリシス材16bは、外側回転体14の内周面に固定されている。なお、詳細な説明は省略するが、内側回転体12の外周面にヒステリシス材が固定され、外側回転体14の内周面に永久磁石が固定されていてもよい。
【0034】
永久磁石16aとしては、フェライト磁石および希土類磁石等の公知の磁石を用いることができる。本実施形態では、永久磁石16aは、例えば、外周面が周方向に多極着磁された構成を有している。トルクリミッタの小型化およびヒステリシストルクの向上の観点からは、永久磁石16aとして、例えば、Nd-Fe-B系磁石、Sm-Fe-N系磁石、およびSm-Co系磁石等の希土類磁石を用いることが好ましい。
【0035】
ヒステリシス材16bは、半硬質磁性材料を用いて構成される。具体的には、例えば、Fe-Cr-Co系合金またはFe-Co系合金等の半硬質磁性材料に所定の磁場処理を行うことによってヒステリシス材16bを構成することができる。
【0036】
図1~3に示すように、弾性体18は、外側回転体14と一体回転するように外側回転体14の外側に嵌められている。本実施形態では、弾性体18は、例えば、外側回転体14の外周面に固定されている。弾性体18は、熱硬化性エラストマーまたは熱可塑性エラストマー(TPE)で構成される。熱硬化性エラストマーとしては、例えば、天然ゴムまたは合成ゴムを用いて構成される。合成ゴムとしては、エチレンプロピレンジエン共重合体(EPDM)等の公知の材料を用いることができる。
【0037】
(トルクリミッタの回転駆動方法)
本実施形態に係るトルクリミッタ10を回転駆動する際には、内側回転体12にシャフトが挿入される。ただし、本実施形態では、トルクリミッタ10の通常の使用時と、弾性体18の摩擦係数測定時とで、異なるシャフトが、軸方向Xにおける異なる方向から内側回転体12に挿入される。以下、具体的に説明する。
【0038】
(通常使用時の回転駆動方法)
まず、トルクリミッタ10の通常使用時の回転駆動方法について説明する。
図5は、通常使用時のトルクリミッタ10を示す概略斜視図であり、
図6は、
図5に示すトルクリミッタ10を軸方向Xにおける一方側から見た図である。また、
図7は、トルクリミッタ10の通常使用時に利用されるシャフト26を示す図である。なお、通常使用時のトルクリミッタ10の回転駆動方法は、従来のトルクリミッタの駆動方法と同様であるので、通常使用時のトルクリミッタ10の回転駆動方法については簡単に説明する。また、通常使用時に用いられるシャフト26は、従来のトルクリミッタにおいて用いられるシャフトと同様であるので、シャフト26についても簡単に説明する。
【0039】
図5~
図7に示すように、トルクリミッタ10の通常使用時には、内側回転体12に、軸方向Xの一方側から、シャフト26が挿入される。シャフト26は、柱状の軸部28および軸部28の径方向に延びるピン部30を有する。本実施形態では、シャフト26が第1シャフトに対応し、軸部28が第1軸部に対応し、ピン部30が第1ピン部に対応する。なお、本実施形態において軸部28の径方向とは、軸部28の軸線方向(延伸方向)に直交する方向を意味する。本実施形態では、軸部28およびピン部30はそれぞれ円柱形状を有している。
【0040】
ピン部30は、軸部28を径方向に貫通するように軸部28に設けられている。
図5および
図6に示すように、ピン部30の両端部が内側回転体12の一対の第1溝部22に嵌るように、内側回転体12に軸部28が挿入される。これにより、内側回転体12は、シャフト26と一体的に回転するように、シャフト26に連結される。
【0041】
トルクリミッタ10の通常使用時には、図示しない駆動源(例えば、モータ)によって軸部28が回転駆動される。軸部28の回転力は、ピン部30を介して内側回転体12に伝達され、内側回転体12および永久磁石16aが回転する。これにより、永久磁石16aとヒステリシス材16bとの間にヒステリシストルクが発生し、ヒステリシス材16bが回転する。その結果、外側回転体14および弾性体18が回転する。このようにして、シャフト26から弾性体18へ回転力が伝達される。
【0042】
(摩擦係数測定時の回転駆動方法)
次に、弾性体18の摩擦係数測定時のトルクリミッタ10の回転駆動方法について説明する。
図8は、弾性体18の摩擦係数測定時に利用される摩擦試験装置40を示す概略図である。
図9は、弾性体18の摩擦係数測定時のトルクリミッタ10を示す概略斜視図であり、
図10は、
図9に示すトルクリミッタ10を軸方向Xにおける他方側から見た図である。
【0043】
図8に示すように、摩擦試験装置40は、シャフト32と、駆動源42と、回転しないよう固定された摺動部材44とを備えている。
図8~
図10に示すように、弾性体18の摩擦係数測定時には、摩擦試験装置40のシャフト32にトルクリミッタ10が取り付けられる。
【0044】
図11は、シャフト32を示す図である。
図8~
図11に示すように、シャフト32は、柱状の軸部34および軸部34の径方向に延びるピン部36を有する。本実施形態では、シャフト32が第2シャフトに対応し、軸部34が第2軸部に対応し、ピン部36が第2ピン部に対応する。なお、本実施形態において軸部34の径方向とは、軸部34の軸線方向(延伸方向)に直交する方向を意味する。本実施形態では、軸部34およびピン部36はそれぞれ円柱形状を有している。
【0045】
ピン部36は、軸部34を径方向に貫通するように軸部34に設けられている。本実施形態では、軸部34に対して、ピン部36の一端部36aの突出長さが、ピン部36の他端部36bの突出長さよりも大きくなるように、ピン部36が軸部34に固定されている。
【0046】
図9および
図10に示すように、ピン部36の一端部36aが内側回転体12の一方の第2溝部23および外側回転体14の凹部24に嵌るように、かつピン部36の他端部36b(
図10参照)が内側回転体12の他方の第2溝部23に嵌るように、内側回転体12に、軸方向Xの他方側から軸部34が挿入される。これにより、内側回転体12および外側回転体14は、シャフト32と一体的に回転するように、シャフト32に連結される。
【0047】
駆動源42は、例えば、モータを含み、シャフト32の軸部34を回転駆動する。上記のように、外側回転体14はシャフト32と一体的に回転するようにシャフト32に連結されているので、軸部34が回転駆動されることによって、外側回転体14および弾性体18が回転する。
【0048】
弾性体18の摩擦係数を測定する際には、駆動源42によって弾性体18を回転させつつ、弾性体18の表面に摺動部材44が押し付けられる。本実施形態では、例えば、所定の荷重で摺動部材44を弾性体18の表面に押し付けつつ弾性体18を回転させて、摺動部材44と弾性体18との間に生じる最大静摩擦力および動摩擦力を測定することができる。これにより、弾性体18の静摩擦係数および動摩擦係数を測定することができる。なお、摩擦係数の測定方法としては、公知の種々の測定方法を利用できるので詳細な説明は省略する。
【0049】
(トルクリミッタの効果)
以上のように、本実施形態に係るトルクリミッタ10では、外側回転体14の凹部24に、シャフト32のピン部36を嵌めることができる。この場合、シャフト32の軸部34を回転駆動することによって、外側回転体14をシャフト32と一体的に回転させることができる。したがって、弾性体18の表面の摩擦係数を測定する際に弾性体18に大きな力が加わったとしても、弾性体18および外側回転体14がシャフト32に対して空転することを防止することができる。その結果、弾性体18の表面の摩擦係数を適切に測定することができる。
【0050】
また、本実施形態では、
図4を用いて説明したように、凹部24の少なくとも一部が、軸方向Xにおいて、第2溝部23の一方側の端と第2溝部23の他方側の端との間に位置付けられている。これにより、直線状に延びるピン部36を、第2溝部23および凹部24に嵌めることができる。この場合、屈曲した形状のピン部(例えば、後述の
図15のピン部39)を設ける場合に比べて、シャフト32の製造が容易になる。
【0051】
また、本実施形態では、
図4を用いて説明したように、軸方向Xにおける凹部24の長さL1は、例えば、内側回転体12の周方向における第2溝部23の長さL2の1/2以上に設定される。この場合、凹部24の軸方向Xにおける長さ(深さ)を十分に確保することができるので、凹部24においてピン部36と外側回転体14とを確実に係止させることができる。
【0052】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、
図10に示したように、内側回転体12に軸部34が挿入された状態において、ピン部36の他端部36bは、外側回転体14の内周面よりも内側に位置付けられているが、ピン部36の形状は上記の例に限定されない。例えば、外側回転体14の径方向において対向するように一対の凹部24を外側回転体14に形成する場合には、軸部34に対する他端部36bの突出長さを、軸部34に対する一端部36aの突出長さと同様の大きさにしてもよい。この場合、ピン部36の両端部36a,36bを一対の凹部24に嵌めることによって、外側回転体14をシャフト32に連結することができる。なお、詳細な説明は省略するが、ピン部36の他端部36bが軸部34から突出していなくてもよい。この場合、内側回転体12に形成される第2溝部23の数は1つであってもよい。
【0053】
上述の実施形態では、外側回転体14に1つまたは2つの凹部24が形成される場合について説明したが、外側回転体14に3つ以上の凹部24が形成されてもよい。なお、外側回転体14に複数の凹部24を形成する場合、複数の凹部24は、外側回転体14の周方向に等間隔で形成されることが好ましい。
【0054】
凹部24の数は、第2溝部23の数以下であってもよく、第2溝部23の数よりも多くてもよい。なお、凹部24の数が第2溝部23の数よりも多い場合には、トルクリミッタ10を摩擦試験装置40に設置する際に、ピン部36といずれかの凹部24との位置合わせが容易になる。これにより、摩擦試験装置40へのトルクリミッタ10の設置が容易になる。
【0055】
上述の実施形態では、凹部24は、外側回転体14の内周面から外周面に貫通するように形成されていたが、凹部24の形状は上述の例に限定されない。
図12は、凹部24の他の例を説明するための図であり、(a)は、トルクリミッタ10aを軸方向X(
図1参照)における他方側から見た図、(b)は凹部24を外側回転体14の内側から見た図である。
図12に示すトルクリミッタ10aのように、凹部24は、外側回転体14の内周面側から外周面側に向かって凹むように形成されてもよい。この場合、ピン部36の一端部36aが凹部24に嵌るように、軸部34に対する一端部36aの突出長さを調整すればよい。
【0056】
上述の実施形態では、外側回転体14の周方向における凹部24の長さL3(
図4参照)は、内側回転体12の周方向における第2溝部23の長さL2に略等しいが、凹部24の長さL3が第1溝部23の長さL2よりも大きくてもよいし、小さくてもよい。したがって、例えば、
図13に示すトルクリミッタ10bのように、外側回転体14の軸方向Xにおける他方側の端面の大部分が凹部24として形成されていてもよい。このように、外側回転体14の周方向における凹部24の長さを大きくすることによって、トルクリミッタ10bを摩擦試験装置40に設置する際に、ピン部36と凹部24との位置合わせが容易になる。これにより、摩擦試験装置40へのトルクリミッタ10bの設置が容易になる。
【0057】
上述の実施形態では、
図4で説明したように、内側回転体12の他方側の縁12bおよび外側回転体14の他方側の縁15の軸方向Xにおける位置は略等しいが、内側回転体12と外側回転体14との位置関係は上述の例に限定されない。例えば、外側回転体14の縁15が、内側回転体12の縁12bに対して軸方向Xにおける一方側に位置付けられてもよい。
【0058】
図14は、外側回転体14の縁15が内側回転体12の縁12bに対して軸方向Xにおける一方側に位置付けられた構成を有するトルクリミッタ10cを示す概略斜視図である。
図14に示すトルクリミッタ10cでは、内側回転体12の第2溝部23の軸方向Xにおける一方側の端23a(第2溝部23の底部23a)は、外側回転体14の縁15よりも、軸方向Xにおける他方側に位置付けられている。
【0059】
トルクリミッタ10cを摩擦試験装置40に取り付ける場合には、上述のシャフト32(
図9~
図11参照)の代わりに、例えば、
図15に示すシャフト38を用いればよい。なお、
図15に示すシャフト38が上述のシャフト32と異なるのは、ピン部36の代わりにピン部39を備えている点である。ピン部39のうち軸部34から突出した部分は、第2溝部23および凹部24の両方に嵌ることができるように屈曲した形状を有している。このような構成のシャフト38を用いることによって、弾性体18の摩擦係数測定時に弾性体18が空転することを防止することができる。
【0060】
なお、図示は省略するが、軸方向Xに関して、
図14に示した縁12b,15の位置関係とは反対に、外側回転体14の縁15が内側回転体12の縁12bに対して軸方向Xにおける他方側に位置付けられていてもよい。より具体的には、例えば、外側回転体14の凹部24の軸方向Xにおける一方側の端(凹部24の底部)が、内側回転体12の縁12bよりも、軸方向Xにおける他方側に位置付けられていてもよい。この場合も、弾性体18の摩擦係数測定時には、例えば、上述のシャフト32(
図9~
図11参照)を用いて、外側回転体14および弾性体18を回転させることができる。これにより、弾性体18の摩擦係数測定時に弾性体18が空転することを防止することができる。なお、本実施形態においては、第2溝部23は形成されていなくてもよい。この場合、内側回転体12の軸方向Xにおける他方側の端部の構造が、第2溝部23が形成される場合に比べて簡単になるため、内側回転体12の製造が容易になる。
【0061】
なお、上述の実施形態では、トルクリミッタが磁気式の伝達部16を備える場合について説明したが、トルクリミッタが備える伝達部の構成は上述の例に限定されず、伝達部は、内側回転体と外側回転体との間で回転力を伝達できるように構成されていればよい。したがって、トルクリミッタが、例えば、コイルもしくは板ばねを用いた摩擦方式、磁性粉と摩擦板とを用いたパウダー式、またはフェルト方式等の公知の構成を有する他の伝達部を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、弾性体の摩擦係数の測定時に弾性体が空転することを防止できるトルクリミッタおよび摩擦試験装置が得られる。
【符号の説明】
【0063】
10,10a,10b,10c トルクリミッタ
12 内側回転体
12a 内側回転体の一方側の縁
12b 内側回転体の他方側の縁
14 外側回転体
15 外側回転体の他方側の縁
16 伝達部
18 弾性体
20 キャップ
22 第1溝部
23 第2溝部
23a 第2溝部の底部
24 凹部
26,32,38 シャフト
28,34 軸部
30,36,39 ピン部
40 摩擦試験装置
42 駆動源
44 摺動部材