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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064640
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】三半規管模型
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/30 20060101AFI20230501BHJP
   A61F 11/00 20220101ALI20230501BHJP
【FI】
G09B23/30
A61F11/00 350
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175029
(22)【出願日】2021-10-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(71)【出願人】
【識別番号】518194246
【氏名又は名称】株式会社ジャパン・メディカル・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100210675
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 潤
(72)【発明者】
【氏名】將積 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】高倉 大匡
(72)【発明者】
【氏名】大野 秀晃
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンキャスペル 愛美
(72)【発明者】
【氏名】白川 勇仁
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA02
2C032CA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】前半規管と後半規管との間の耳石模型の移動を防止することができる、および/または外側半規管型の良性突発性頭位めまい症にも応用することができる、三半規管模型を提供する。
【解決手段】中空を有する透明の合成樹脂から形成されている、ヒトにおける三半規管模型であって、該三半規管模型の内部には、液体が封入されていると共に前記液体の比重よりも大きい比重を有する複数の耳石模型が移動自在に収容されており、前半規管と後半規管とがなす角度が、鋭角である、三半規管模型。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空を有する透明の合成樹脂から形成されている、ヒトにおける三半規管模型であって、
該三半規管模型の内部には、液体が封入されていると共に前記液体の比重よりも大きい比重を有する複数の耳石模型が移動自在に収容されており、
前半規管と後半規管とがなす角度が、鋭角である、
三半規管模型。
【請求項2】
総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に小さい、請求項1に記載の三半規管模型。
【請求項3】
総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に1/4~3/4である、請求項2に記載の三半規管模型。
【請求項4】
膜迷路の模型である、請求項1~3のいずれか一項に記載の三半規管模型。
【請求項5】
三半規管障害の検査用もしくは治療用の、または三半規管障害の治療教育用の、請求項1~4のいずれか一項に記載の三半規管模型。
【請求項6】
三半規管障害が、良性発作性頭位めまい症である、請求項5に記載の三半規管模型。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の三半規管模型を備える、患者の頭部に装着する平衡機能検査器。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の三半規管模型を備える、頭部実態模型。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の三半規管模型を製造するための、三次元データ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前半規管と後半規管との間の耳石模型の移動を防止することができる、および/または外側半規管型の良性突発性頭位めまい症にも応用することができる、三半規管模型に関する。
【背景技術】
【0002】
良性発作性頭位めまい症(BPPV:benign paroxysmal positional vertigo)は、頭の向きを変える動作をして特定の頭位をとった時に短時間の回転性めまいを感じる良性疾患である。BPPVを発症する原因は、内耳の前庭の障害であることが知られている。
【0003】
平衡感覚を司る前庭は、回転加速度を感受する三半規管と、重力等の直線加速度を感受する耳石器とを含む。三半規管は、互いにほぼ直交する前半規管、後半規管および外側半規管の3つの半周状の管の総称である。各半規管の両側端部は耳石器に接続され、各半規管の内部はリンパ液で満たされている。耳石器の内面には炭酸カルシウムからなる多数の微小な耳石が固定されているが、何らかの原因(例えば、加齢)により耳石器から耳石が剥離して半規管の内部に入り込んでしまうことがある。半規管内に耳石が入り込んだ状態で頭の向きを変えると、重力の影響で耳石が移動することにより、半規管内において異常なリンパ液の流れが生じる。これによって、半規管内の神経受容体が過剰に刺激され、めまい症状が出現する。
【0004】
BPPVの病因が半規管内に存在する耳石であることから、頭部の運動により半規管内から耳石器に耳石を移動させる理学頭位療法がBPPVの患者に対して行われている。理学頭位療法は、半規管に入り込んだ耳石の位置に応じて頭の向きを所定の順序で変えることで、半規管内の耳石を重力の影響により耳石器に移動させる治療方法である。理学頭位療法を行う際に医師は、各頭位における患者の眼振を確認することにより耳石の位置を推定しているが、三半規管は互いに直交する3個の半周状の管であると共に左右対称に一対存在することから、各頭位における半規管と耳石器との位置関係や、耳石の移動方向および耳石の位置をイメージすることは容易ではない。そのため、三半規管の模型を用いた治療法や治療教育法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、耳石の移動方向および耳石の位置を理学療法士や若手の医師、医学部生等に理解させることができると共に、理学頭位療法の内容を事前に患者理学頭位療法の内容を事前に患者に理解させることができる良性発作性頭位めまい症の治療教育用器具が開示されている。また、特許文献2には、理学頭位療法の際に各頭位における半規管と耳石器との位置関係、耳石の移動方向および耳石の位置ならびに患者の眼振を使用者が確認することができる良性発作性頭位めまい症の検査治療器具が開示されている。これらの治療教育用具や検査治療器具により、良性発作性頭位めまい症の治療や教育に一定程度の効果が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-212252号公報
【特許文献2】特開2021-97912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らは、特許文献1の治療教育用具を用いた場合、前半規管と後半規管との間で耳石模型が移動するという実際の臨床で生じえない耳石模型の移動が起こるため、臨床症状を正確に反映できていないという新たな課題を見出した。また、本発明者らは、特許文献1および2に記載の治療教育用具や検査治療器具を外側半規管型の良性突発性頭位めまい症に応用しようとした場合、該治療器具や該検査治療器具を約90°回転させただけで耳石模型が外側半規管から出て、あたかも約90°の回転で治療効果が認められるように見えてしまい、通常は患者の頭位を約180°以上回転させなければ治療効果が得られないという実際の臨床症状との乖離がある、という新たな課題を見出した。
【0008】
したがって、本発明は、前半規管と後半規管との間の耳石模型の移動を防止することができる、および/または外側半規管型の良性突発性頭位めまい症にも応用することができる、三半規管模型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特許文献1等に記載されている公知の三半規管模型が、ヒトの骨迷路を模倣した模型である一方、実際に耳石が移動するのは骨迷路の内側に存在する膜迷路である点に着目し、膜迷路を模倣した模型であれば、前半規管と後半規管との間の耳石模型の移動を防止できる、および/または外側半規管型の良性突発性頭位めまい症にも応用することができうるとの着想を新たに得た。
【0010】
しかし、ヒトにおける膜迷路は、骨迷路とは異なり、CTスキャンやMRIでの可視化が極めて困難であり、かつ正確な立体構造を保持したまま解剖学的に取り出すことも極めて困難であったため、従来公知の技術では2次元構造は把握しうるものの、正確な3次元構造(立体構造)を把握することができなかった。そこで、上記課題に鑑み、本発明者らは、良性発作性頭位めまい症の検査または治療における長年の経験を総動員し、鋭意検討を重ねたところ、意外にも、前半規管と後半規管とがなす角度を鋭角にすることで、前半規管と後半規管との間の耳石模型の移動を防止することができる、および/または外側半規管型の良性突発性頭位めまい症にも応用することができる、三半規管模型が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
よって、本発明は、要旨、以下のものを提供する。
〔1〕 中空を有する透明の合成樹脂から形成されている、ヒトにおける三半規管模型であって、
該三半規管模型の内部には、液体が封入されていると共に前記液体の比重よりも大きい比重を有する複数の耳石模型が移動自在に収容されており、
前半規管と後半規管とがなす角度が、鋭角である、
三半規管模型。
〔2〕 総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に小さい、〔1〕に記載の三半規管模型。
〔3〕 総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に1/4~3/4である、〔2〕に記載の三半規管模型。
〔4〕 膜迷路の模型である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の三半規管模型。
〔5〕 三半規管障害の検査用もしくは治療用の、または三半規管障害の治療教育用の、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の三半規管模型。
〔6〕 三半規管障害が、良性発作性頭位めまい症である、〔5〕に記載の三半規管模型。
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の三半規管模型を備える、患者の頭部に装着する平衡機能検査器。
〔8〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の三半規管模型を備える、頭部実態模型。
〔9〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の三半規管模型を製造するための、三次元データ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前半規管と後半規管との間の耳石模型の移動を防止することができる、および/または外側半規管型の良性突発性頭位めまい症にも応用することができる、三半規管模型を提供することができる。
さらに、三半規管障害(特に、良性突発性頭位めまい症)の中には、耳石が三半規管中でいわば「渋滞」状態となり、三半規管内(膜迷路内)での耳石の移動が制限される難治性のものあることが知られている(Otol Neurotol.2010 Feb;31(2):250-5)。本明細書中に記載の三半規管模型(特に、膜迷路の模型)によれば、従来公知の三半規管模型と比較して耳石の移動がより実際の臨床症状に近いため、このような難治性の症状に対しても応用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本明細書中に記載の三半規管模型(右側)の一例を、右側(耳の穴側)から見た図である。
図2】本明細書中に記載の三半規管模型(右側)の一例を、正面から見た図である。
図3】本明細書中に記載の三半規管模型(右側)の一例を、左側(脳側)から見た図である。
図4】本明細書中に記載の平衡機能検査器の一例を示す図である。
図5】本明細書中に記載の頭部実態模型の一例を、表側から見た図である。
図6】本明細書中に記載の頭部実態模型の一例を、裏側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書中に記載の三半規管模型の構成
【0015】
本発明の一実施態様では、中空を有する透明の合成樹脂から形成されている、ヒトにおける三半規管模型であって、
該三半規管模型の内部には、液体が封入されていると共に前記液体の比重よりも大きい比重を有する複数の耳石模型が移動自在に収容されており、
前半規管と後半規管とがなす角度が、鋭角である、
三半規管模型を提供する。
【0016】
[透明の合成樹脂]
本明細書中に記載の「透明の合成樹脂」としては、本発明の目的を達成することができるものである限り特段限定されるものではない。これらに限定されるものではないが、例えば、光重合性樹脂であれば、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレート系オリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレート系オリゴマー、ポリオールアクリレート系オリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエーテル(メタ)アクリレート系樹脂等が挙げられる。
【0017】
[液体]
本明細書中に記載の「液体」としては、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではないが、例えば、ヒトの三半規管内のリンパ液の粘性に近いものが挙げられる。ヒトの三半規管内のリンパ液の粘性に近い液体としては、これらに限定されるものではないが、例えば、食用油、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0018】
[耳石模型]
本明細書中に記載の「耳石模型」としては、使用する前記液体の比重よりも大きい比重を有するものである限り、特段限定されるものではない。耳石模型の比重としては、前記液体の比重に対して、例えば1超~約5倍、好ましくは1超~約3倍、より好ましくは約1.1~約1.5倍が挙げられる。耳石模型の材質としては、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではないが、例えば、プラスチック、ガラスなどが挙げられる。また、耳石模型の粒径は、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されるものではなく、三半規管模型の大きさを考慮して適宜変更することができるが、例えば、約0.1~約10mm、好ましくは約0.5~約5mm、より好ましくは約1~約2mmである
【0019】
[三半規管の構造]
本明細書中に記載の三半規管模型は、3つの半規管(前半規管、後半規管および外側半規管)を有しており、かつ前半規管と後半規管とがなす角度が、鋭角(例えば、約10~約89°、好ましくは約25~約70°、より好ましくは約30~約60°、さらに好ましくは約40~約50°、よりさらに好ましくは約45°)となっている。
【0020】
本明細書中に記載の三半規管模型は、前半規管と後半規管とが合流する総脚を備えていることが好ましい。
【0021】
本明細書中に記載の三半規管模型は、3つの半規管の両側端部に接続された耳石器を含んでいてもよい。耳石器は、ヒトの各半規管の両側端部に接続されている卵形嚢の一部または全部、および/または球形嚢が再現されていてもよい。
【0022】
本明細書中に記載の三半規管模型は、三半規管の位置関係が実際のヒトの三半規管(好ましくは、ヒトの膜迷路における三半規管)に近い構造となっている。すなわち、例えば図3を用いて説明するのであれば、以下のとおりとなる。前半規管の内側に形成される略円形の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、総脚の起始部と該略円形の中心とを結ぶ直線が右回りで約80~約110°(好ましくは約90~約100°、より好ましくは約93~約99°、さらに好ましくは約96°)をなしている。前半規管の内側に形成される略円形の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、総脚が卵形嚢に結合する部分と該略円形の中心とを結ぶ直線が右回りで約120~約160°(好ましくは約130~約150°、より好ましくは約135~約145°、さらに好ましくは約140°)をなしている。前半規管の内側に形成される略円形の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、前半規管の膨大部が卵形嚢に結合する部分と該略円形の中心とを結ぶ直線が右回りで約10~約40°(好ましくは約15~約35°、より好ましくは約20~約30°、さらに好ましくは約25°)をなしている。前半規管の内側に形成される略円形の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、前半規管の膨大部の起始部と前半規管の該略円形の中心とを結ぶ直性が右回りで約235~約265°(好ましくは約240~約260°、より好ましくは約245~約255°、さらに好ましくは約251°)をなしている。
【0023】
本明細書中に記載の三半規管模型は、総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に小さいことが好ましい。より好ましくは、本明細書中に記載の三半規管模型は、総脚、前半規管、後半規管および外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に小さい。「ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に小さい」とは、本明細書中に記載の三半規管模型における総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、略等倍スケールにおけるヒトの骨迷路と比較した場合に(例えば、本明細書中に記載の三半規管模型がヒトの三半規管の略5倍スケールであれば、ヒトの骨迷路を略5倍スケールに拡大したものと比較した場合に)、ヒトの骨迷路の総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径よりも小さいことを意味する。「ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に小さい」とは、例えば、本明細書中に記載の三半規管模型は、総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に、約1/4~約3/4、好ましくは約1/4~約1/2、より好ましくは約1/3である。
【0024】
本発明の一実施態様では、総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に小さい、本明細書中に記載の三半規管模型を提供する。
【0025】
本発明の一実施態様では、総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に1/4~3/4である、本明細書中に記載の三半規管模型を提供する。
【0026】
本明細書中に記載の三半規管模型の大きさは、特段限定されるものではないが、例えば、実際のヒトの三半規管の大きさに対して、約1~約30倍、好ましくは約2~約20倍、より好ましくは約4~約15倍、さらに好ましくは約5~約10倍であってもよい。
【0027】
[開口部]
本明細書中に記載の三半規管模型には、液体および/または耳石模型を封入する際に用いられうる開口部が形成されていてもよい。開口部は、開閉可能であってもよいし、開閉不可なように閉じられていてもよい。
【0028】
開口部を封止する手段としては、本発明の目的を達成することができる限り特段限定されることはないが、例えば、紙製、ゴム製、プラスチック製、光重合性樹脂製の栓などを用いる手段などがあげられる。
【0029】
[係止部]
本明細書中に記載の三半規管模型には、三半規管のクプラに対応する位置に阻止片が配設されていてもよい。阻止片は、液体の通過を許容するが、耳石模型の通過を阻止することができる。阻止片は、たとえば、耳石模型の通過を阻止することができる程度の大きさの開口を有する板状、網状などの部材、多孔質のフィルタ部材、ヒトのクプラの形状を模したクプラ状部材から構成されてもよい。クプラ状部材は、ヒトのクプラの形状が正確に再現されていなくてもよい。阻止片の材質は、特段限定されるものではないが、例えば、合成樹脂(例えば、本明細書中に記載の三半規管模型に用いられる透明の合成樹脂と同じ樹脂)、金属、セラミックスなどを用いることができる。
【0030】
本明細書中に記載の三半規管模型は、好ましくは膜迷路の模型である。そのため、本発明の一実施態様では、膜迷路の模型である、本明細書中に記載の三半規管模型を提供する。
【0031】
平衡機能検査器
【0032】
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の三半規管模型を備える、患者の頭部に装着する平衡機能検査器を提供する。
【0033】
本明細書中に記載の平衡機能検査器は、患者の頭部に装着される平衡機能検査用機器と、該平衡機能検査用機器に装着された本明細書中に記載の三半規管模型とを備える。
【0034】
本明細書中に記載の「平衡機能検査用機器」としては、患者の眼振を観察するための機器であれば特段限定されることはないが、例えば、レンズおよび照明ランプを備えるフレンツェル眼鏡、患者の両目を覆う遮光ゴーグルに赤外線CCDカメラ等の撮像手段が内蔵された機器、ビデオ式眼振計測装置(VOG)等が挙げられる。
【0035】
本明細書中に記載の三半規管模型は、患者が平衡機能検査器を装着した際に、患者の三半規管(または前庭)の向きと三半規管模型の向きとが一致するように平衡機能検査用機器に装着されていてもよい。三半規管模型は、平衡機能検査用機器の側面壁に左右一対備えられていても、左右いずれか1つ備えられていてもよいし、前面壁や上面壁等に三半規管模型が備えられていてもよい。
【0036】
三半規管模型は、例えばネジや接着剤等を介して平衡機能検査用機器に固定されてもよいし、平衡機能検査用機器に着脱自在に装着されていてもよい。例えば、平衡機能検査用機器と三半規管模型とのいずれか一方に突起が付設され、平衡機能検査用機器と三半規管模型とのいずれか他方に上記突起に対応する孔が形成されており、上記突起を上記孔に差し込むことによって、ドライバー等の工具を用いることなく平衡機能検査用機器に三半規管模型が着脱自在に装着されてもよい。
【0037】
装着される三半規管模型の大きさは、平衡機能検査用機器の大きさにより任意に変更することができるが、例えば、ヒトにおける三半規管の約1~約10倍、好ましくは約2~約8倍、より好ましくは約3~約5倍であってもよい。
【0038】
頭部実態模型
【0039】
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の三半規管模型を備える頭部実態模型を提供する。
【0040】
本明細書中に記載の頭部実態模型は、ヒト頭部模型に、本明細書中に記載の三半規管模型が内蔵された頭部の実態模型である。
【0041】
ヒト頭部模型は、ヒトの頭部の形状であると認識し得る程度の者であればよく、必ずしも、ヒトの頭部の形状を正確に反映したものである必要はない。ヒト頭部模型の材質は、特段限定されるものではなく、紙、プラスチック、樹脂(例えば、ポリアミド樹脂)、金属、木製のものであってもよい。
【0042】
三半規管模型は、例えばネジや接着剤等を介してヒト頭部模型に固定されていてもよいし、ヒト頭部模型に着脱自在に装着されていてもよい。例えば、ヒト頭部模型と三半規管模型とのいずれか一方に突起が付設され、ヒト頭部模型と三半規管模型とのいずれか他方に上記突起に対応する孔が形成されており、上記突起を上記孔に差し込むことによって、ドライバー等の工具を用いることなくヒト頭部模型に三半規管模型が着脱自在に装着されてもよい。
【0043】
本明細書中に記載の頭部実態模型は、任意の大きさを採用することができるが、例えば、ヒトの頭部の大きさに一定程度近く、動かすことが容易な大きさであり、ヒトの頭部の約0.5~約2.0倍、好ましくはヒトの頭部の約1.0~約1.7倍、さらに好ましくはヒトの頭部の約1.5倍であってもよい。内蔵される三半規管模型の大きさは、頭部実態模型の大きさにより任意に変更することができるが、例えば、ヒトにおける三半規管の約1~約30倍、好ましくは約2~約20倍、より好ましくは約4~約15倍、さらに好ましくは約5~約10倍であってもよい。
【0044】
本明細書中に記載の三半規管模型、平衡機能検査器および頭部実態模型の用途
【0045】
本明細書中に記載の三半規管模型、平衡機能検査器および/または頭部実態模型は、三半規管障害の検査用もしくは治療用の器具として、または三半規管障害の治療教育用の器具として使用することができる。
【0046】
本明細書中に記載の「三半規管障害」としては、例えば、良性突発性頭位めまい症(例えば、外側半規管型の良性突発性頭位めまい症、後半規管型の良性突発性頭位めまい症、前半規管型の良性突発性頭位めまい症)などが挙げられる。
【0047】
そのため、本発明の一実施態様では、三半規管障害の検査用もしくは治療用の、または三半規管障害の治療教育用の、本明細書中に記載の三半規管模型、平衡機能検査器または頭部実態模型を提供する。本発明の好ましい一実施態様では、良性発作性頭位めまい症の検査用もしくは治療用の、または三半規管障害の治療教育用の、本明細書中に記載の三半規管模型、平衡機能検査器または頭部実態模型を提供する。本発明のより好ましい実施態様では、後半規管型または外側半規管型の良性発作性頭位めまい症の検査用もしくは治療用の、または三半規管障害の治療教育用の、本明細書中に記載の三半規管模型、平衡機能検査器または頭部実態模型を提供する。本発明のさらに好ましい一実施態様では、外側半規管型の良性発作性頭位めまい症の検査用もしくは治療用の、または三半規管障害の治療教育用の、本明細書中に記載の三半規管模型、平衡機能検査器または頭部実態模型を提供する。
【0048】
本明細書中に記載の三半規管模型を、三半規管障害を有する患者の検査用または治療用器具として用いる場合、例えば、特開2010-265213号公報に記載されているように、本明細書中に記載の三半規管模型を額帯部材に取付け、本明細書中に記載の三半規管模型が取付けられた額帯部材を患者の額に装着してもよい。あるいは、例えば特許文献2に記載されるように、フレンツェル眼鏡や、患者の両目を覆う遮光ゴーグルに赤外線CCDカメラ等の撮像手段が内蔵された機器、ビデオ式眼振計測装置(VOG)等とともに用いてもよい。通常、三半規管障害を有する患者には、三半規管障害を起こしている側の本明細書中に記載の三半規管模型が備えられた本明細書中に記載の検査用または治療用器具が取付けられる。ただし、本明細書中に記載の検査用または治療用器具は、必要に応じて、右側及び左側の両方の本明細書中に記載の三半規管模型を備えていてもよい。
【0049】
本明細書中に記載の三半規管模型または頭部実態模型を三半規管障害の検査用または治療用の器具として用いる場合には、外部から本明細書中に記載三半規管模型の内部に位置する耳石模型の動きを目視しながら、耳石模型が所定の場所に移動するように、患者の頭を動かして、治療を行うことができる。
【0050】
本明細書中に記載の三半規管模型または頭部実態模型を三半規管障害の治療用教育用の器具として用いる場合には、三半規管模型または頭部実態模型を使用しながら、頭位治療の施術を受ける患者に対しては、治療内容を説明してもよいし、医療従事者(例えば、理学療法士、医師など)に対しては、各頭位での各半規管や耳石の位置を説明してもよい。あるいは、本明細書中に記載の平衡機能検査器を三半規管障害の治療教育用の器具として用いる場合には、平衡機能検査器を装着しながら、頭位治療の施術を受ける患者に対しては、治療内容を説明してもよいし、医療従事者(例えば、理学療法士、医師など)に対しては、各頭位での各半規管や耳石の位置を説明してもよい。
【0051】
本明細書中に記載の三半規管模型、平衡機能検査器および頭部実態模型の製造方法
【0052】
本明細書中に記載の三半規管模型は、例えば、光造形法により製造してもよい。
【0053】
したがって、本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の三半規管模型を製造するための方法であって、レーザー光の照射により硬化する光重合性樹脂を用い、光造形法により、透明樹脂製の中空体からなる三半規管の成形体を作製し、この成形体の開口部から、複数の耳石模型と液体とを入れ、該開口部を封止することを含む、方法を提供する。
【0054】
本明細書中に記載の方法においては、まず、レーザー光の照射により硬化する光重合性樹脂を用い、光造形法により、中空を有する透明の合成樹脂からなる、三半規管の成形体(好ましくは三半規管の拡大形状の成型体)を形成することができる。
【0055】
光重合成性樹脂としては、光造形法で使用できるものである限り特段限定されるものではない。本明細書中に記載の方法では、成形速度と、得られる成形体の透明性及び精度に優れる光造形法を採用することが好ましい。したがって、光重合性樹脂としては、紫外光レーザービームを照射することにより硬化するものが好ましい。光重合性樹脂としては、これらに限定されるものではないが、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレート系オリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレート系オリゴマー、ポリオールアクリレート系オリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエーテル(メタ)アクリレート系樹脂等を使用することができる。
【0056】
この光造形法は、具体的には、本明細書中に記載の三半規管模型を製造するための対象被験者を撮影した、できるだけピッチの細かい(1mm以下、望ましくは0.3mm程度)一連のスライスデータをDICOM(Digital Imaging and Communication in Medicineの略で、米国放射線学会(ACR)と北米電子機器工業会(NEMA)が開発した、CTやMRIなどで撮影した医用画像のフォーマットと、それらの画像を扱う医用画像機器間の通信プロトコルを定義した標準規格のことである。)データとしてCD-Rに書き込んだ。本明細書中に記載の三半規管模型においては、対象領域が半規管(ヒトの骨内において管空構造を形成する部位)であるため、抽出する閾値(ハンスフィールド値)を骨・軟組織いずれにも当て嵌まらない低い値に設定した(ここにおいては抽出下限を空気として設定されている-1024にし、上限を少しずつ上げて行き、最も半規管の形状として好ましい値225にて基本となる抽出領域を設定する)。しかし、このようにして得られたデータは、半規管のうち「骨迷路」と呼ばれる部位であり、実際に耳石が移動する環構造である「膜迷路」を反映したデータではない。そのため、得られたデータを「スライスデータ3次元化・編集ソフト Mimics」にて読み込み、造形対象の部位(特に、前半規管と後半規管とがなす角度、総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径、各半規管の位置関係など)が良好な形状になるように補正及び立体化の計算パラメータ等を調整し、立体化を行う。
【0057】
このようにして得られた成形体の開口部から内部にある樹脂を取り出すことで、中空体とすることができる。そして、この開口部から、複数の耳石模型と液体とを入れ、かつ空気ができるだけ入らないように封止することにより、本明細書中に記載の三半規管模型が得られる。
【0058】
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の三半規管模型を製造するための三次元データを提供する。
【0059】
本明細書中に記載の頭部実態模型は、例えば、ヒト頭部の軟組織CT画像をベースとして、頭部形状を粉末焼結積層造形法によりポリアミド樹脂等の樹脂で再現したヒト頭部模型を製造し、その内部に左右1対の本明細書中に記載の三半規管模型を後半規管が矢状面と45度の角度をなすように固定するか着脱可能に装着することで、製造してもよい。
【0060】
以下、図面を用いて本明細書中に記載の三半規管模型、平衡機能検査器および頭部実態模型をより詳細に説明する。ただし、本明細書中に記載の三半規管模型、平衡機能検査器および頭部実態模型を何ら限定することを意図するものではない。
【0061】
図1図2および図3は、本明細書中に記載の三半規管模型の一実施態様を示す。図1は、右側の三半規管模型を右側(耳の穴側)から見た形状を示し、図2は、右側の三半規管模型を正面から見た形状を示し、図3は、右側の三半規管模型を左側(脳側)から見た形状を示す。
【0062】
図1図3に示されている実施態様では、互いにほぼ直交する前半規管10a、後半規管10bおよび外側半規管10cの3個の半周状の管を有する三半規管10と、各半規管10a、10bおよび10cの両側端部に接続された耳石器22と、耳石模型30と、開口部40(図示していない)を含んでいる。開口部40は、耳石器20の下端に設けられており、液体および耳石模型30を三半規管模型1の内部に封入するための開口となっている。開口部40は、栓(図示していない)が着脱自在に装着されている。
【0063】
図1図3に示されている実施態様では、各半規管10a、10bおよび10cの片側端部は、他の部分よりも膨らんだ膨大部12a、12bおよび12cを形成している。各膨大部12a、12bおよび12cには、液体の通過を許容すると共に耳石模型30(図示していない)の通過を阻止する阻止片13a、13bおよび13cが、例えば、ヒトの三半規管のクプラの位置に対応する位置に配置されていてもよい。なお、耳石模型30は、耳石器20の内部と各半規管10a、10bおよび10cの内部との間を、各半規管10a、10bおよび10cの他側端部(膨大部の反対側の端部)を通って移動することができるようになっている。ただし、前半規管10aと後半規管10bとの間の耳石模型30の移動を防止するために、および/または外側半規管型の良性突発性頭位めまい症にも応用可能とするために、前半規管10aと後半規管10bとがなす角度が、鋭角(約45°)となっている。また、図1図3に示されている実施態様では、耳石器20において卵形嚢14および球形嚢15が再現されている。さらに、図1図3で示されている実施態様では、総脚11、前半規管10a、後半規管10bおよび外側半規管10cの内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に小さく(約1/3程度)なっているため、なお一層、前半規管10aと後半規管10bとの間の耳石模型30の移動を防止すること、および/または外側半規管型の良性突発性頭位めまい症にも応用可能とすることができる。
【0064】
また、図1図3に示さされている実施態様では、三半規管の位置関係が実際のヒトの三半規管に近い構造となっている。前半規管の内側に形成される略円形16の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、総脚の起始部11aと該略円形16の中心とを結ぶ直線が右回りで約96°をなしている。前半規管の内側に形成される略円形16の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、総脚が卵形嚢に結合する部分11bと該略円形16の中心とを結ぶ直線が右回りで約140°をなしている。前半規管の内側に形成される略円形16の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、前半規管の膨大部が卵形嚢に結合する部分18と該略円形16の中心とを結ぶ直線が右回りで約25°をなしている。前半規管の内側に形成される略円形16の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、前半規管の膨大部の起始部17と前半規管の該略円形16の中心とを結ぶ直性が右回りで約251°をなしている。
【0065】
三半規管模型1を、三半規管障害の治療用器具として用いる場合には、例えば額帯部材に三半規管模型1(片側でもよいし、両側でもよい)を取付けたのち、該額帯部材の額帯部を、三半規管障害を有する患者の額に装着し、外部から該三半規管模型1の内部に封入された耳石模型30の動きを目視しながら、耳石模型30が所定の場所に移動するように、患者の頭を動かして、治療を行ってもよい。
【0066】
図4は、患者の頭部に装着される平衡機能検査用機器50と、平衡機能検査用機器50に装着された三半規管模型1とを備える、平衡機能検査器60を示す。なお、図4には、レンズ61を上下方向に沿わせて位置づけた状態における平衡機能検査器60の正面図が示されている。
【0067】
図4に示す平衡機能検査器60は、一対のレンズ51と、一対のレンズ51を支持するフレーム52と、フレーム52を患者に固定するためのバンド(図示していない)とを含むフレンツェル眼鏡である。患者の両目の周囲を覆うフレーム52は、一対のレンズ51が設けられている前面壁53と、前面壁53の上端から後方(図4において紙面奥側)に延びる上面壁54と、前面壁53の左右両側端部から後方に延びる一対の側面壁55と、前面壁53の下端から後方に延びる下面壁56とを有する。
【0068】
三半規管模型1は、患者が平衡機能検査器60を装着した際に、患者の三半規管(または前庭)の向きと三半規管模型1の向きとが一致するように平衡機能検査用機器50に装着されている。
【0069】
平衡機能検査器60を三半規管障害の検査用器具として用いる場合には、医師は、三半規管障害を訴える患者に対して上述したとおりの平衡機能検査器60を装着させ、頭の向きを変える動作をした時に誘発される眼振の有無を平衡機能検査用機器50により確認することができる。誘発された眼振の性状により、患側が推定されると共に、いずれの半規管に耳石が入り込んでいるかが推定される。
【0070】
平衡機能検査器60を三半規管障害の治療用器具として用いる場合には、まず、耳石が入り込んでいると推定された半規管に対応する三半規管模型1の半規管10a、10bまたは10cに複数の耳石模型30を移動させる。次いで、患者に平衡機能検査器60を装着させた後、患者の頭の向きを所定の順序で変えていく。そうすると、頭の向きを変える動作に応じて、三半規管模型1の向きが変わると共に耳石模型30が重力の影響により三半規管模型1の内部を移動する。三半規管模型1は、患者が平衡機能検査器60を装着した際に、患者の前庭の向きと三半規管模型1の向きとが一致するように平衡機能検査用機器50に装着されているので、医師や理学療法士等の使用者は、理学頭位療法を行っている際に三半規管模型1を観察することにより、各頭位における患者の三半規管と耳石器との位置関係、耳石の移動方向および耳石の位置を確認することができると共に、平衡機能検査用機器50により各頭位における患者の眼振を確認することができる。
【0071】
図5および図6は、頭部実態模型70の一例の前面像及び裏面像であり、左右1対の三半規管模型1が、後半規管10bが矢状面と45度の角度をなすようにヒト頭部模型71に内蔵されている。
【実施例0072】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるもの
ではない。
【0073】
[実施例1:本明細書中に記載の三半規管模型(膜迷路模型)を備えた頭部実態模型の製造]
(1)三半規管模型の製造
ヒトの右及び/又は左側頭骨部位の高詳細断層画像データ[0.3mmピッチにて撮影されたCTより出力されるDICOM(前出)データ]をスライス画像編集ソフト[マテリアライズ社製、「Mimics」]に読み込み、該ソフトウエア上にて、三半規管の内部管空形状に該当する閾値(-1024から225までのハンスフィールド値)を用いて、該三半規管の内部立体形状データを作成した。
次に、得られた該三半規管の内部立体形状データにおいて、下記のとおりになるようにパラメータを調整した。
・前半規管と後半規管とがなす角度:約45°
・総脚の内径:得られたデータ(骨迷路の内径)の約1/3
・前半規管の内径:得られたデータ(骨迷路の内径)の約1/3
・後半規管の内径:得られたデータ(骨迷路の内径)の約1/3
・外側半規管の内径:得られたデータ(骨迷路の内径)の約1/3
・卵形嚢と球形嚢を再現
図3のような視点において、前半規管の内側に形成される略円形16の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、総脚の起始部11aと該略円形16の中心とを結ぶ直線が右回りで約96°
図3のような視点において、前半規管の内側に形成される略円形16の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、総脚が卵形嚢に結合する部分11bと該略円形16の中心とを結ぶ直線が右回りで140°
図3のような視点において、前半規管の内側に形成される略円形16の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、前半規管の膨大部が卵形嚢に結合する部分18と該略円形16の中心とを結ぶ直線が右回りで約25°
図3のような視点において、前半規管の内側に形成される略円形の中心を通る正中線(垂直方向の線)に対して、前半規管の膨大部の起始部17と前半規管の該略円形16の中心とを結ぶ直性が右回りで約251°
該三半規管の内部立体形状の表面形状に膜厚さを付加した三半規管の中空環状構造の立体的形状データを得て、該三半規管の中空環状構造の立体的形状データが宙に浮かぶ三次元データを作成した。
次に、該三次元データを、10倍に拡大して光重合性樹脂を0.2mmの薄膜積層にて、0.25mmのスポット径のレーザー光にて硬化させるヘッドを備えた精密積層造型機[シーメット株式会社製、半導体励起固体レーザー「SOLIFORM-600」]のコンピュータに入力した。次いで、該コンピュータに入力された三次元データに基づき、三次元データの底面に平行な水平面により、三次元データを厚さ0.2mmの薄膜単位毎に輪切りにして得た、三半規管壁部分領域のデータを出力して、光重合性樹脂へのレーザー光照射(液面入力値は、200mW、60kHz)によって、薄膜単位厚さの三半規管部分を形成することにより、三半規管壁成形操作を行った。この操作を三次元データの下端から上端までの薄層単位毎に順次反復することによって、三次元データに対応する立体的三半規管壁形状を有する光重合性樹脂の塊状マトリックスを得た。
次に、該塊状マトリックスから、内部に存在する未硬化樹脂を、三半規管形状の成形体における開口部から取り出し、中空を有する透明の合成樹脂からなる、実際のヒトの三半規管の約10倍スケールに相当する形状の成形体を形成した。
なお、前記光重合性樹脂としては、エポキシ系光重合性樹脂[シーメット株式会社製、商品名「TSR-829」、レーザーダイオードによるレーザー光硬化性であって、25℃粘度:205mPa・s、25℃比重:1.08]を用いた。この光重合性樹脂のレーザー光による硬化樹脂物性は、引張強度:46MPa、引張伸度:7~10%、引張弾性率:1750MPa、曲強度:68MPa、曲弾性率:2070MPa、衝撃強度:34J/m、高荷重HDT:49~50℃、低荷重HDT:54℃、ガラス転移温度:66℃、表面硬化(ショアD):83、収縮率:5.1%、外観:透明である。
また、各三半規管におけるクプラに対応する位置には、光重合性樹脂製の阻止片(シリコーンオイルは通過するが、耳石模型は通過しない目の粗さを有する網)を配設した。
次に、このようにして形成した中空の成形体における開口部から、耳石模型(粒径1.5mmのビーズ)を10個入れると共に、シリコーンオイルを中空が満たされるまで入れ、開口部を化学実験用ゴム栓で封止して、実施例1用の三半規管模型を得た。
(2)頭部模型の製造
ヒト頭部のCT画像より軟組織部分を抽出し、ソフトウェア[Materialise社製、Mimics]を用いて造形用データに変換した。このデータを造形装置に入力し、すなわち、粉末焼結材料として、平均粒径58μmの球状のナイロン11の粉末を用い、造形装置として、100W炭酸ガスレーザーを備えた粉末焼結積層造形装置[アスペクト社製、ラファエロ550]を用いて、積層ピッチ0.10mmで粉末焼結材料を逐次積層焼結し、実寸大の側頭部位模型を製造した(両目、鼻、口および両耳介の形状を1.5倍に拡大し、外形を3mm厚とした)。
人頭部のCT画像より軟組織部分を抽出して三次元化し、このデータに基づき両目、鼻、口、両耳介の形状を1.5倍に拡大し、外形を3mm厚で再現してポリアミド樹脂で積層造形にて製造した。
(3)頭部実態模型の製造
頭部模型内に、一側前半規管と対側後半規管は矢状面と45度の角度をなす同一平面上に位置するように、上記(1)で製造した三半規管模型(左右1対)を配置し、実施例1の頭部実態模型を製造した。なお、三半規管模型の下端中央は、頭部実態模型の前方から10cm、正中から3cmの位置に配置した。頭部実態模型の上下には透明のアクリル板を使用し、後方左右には大きな観察窓を設け、頭位治療手技中の三半規管模型内の耳石模型の動きを観察できるようにした。
【0074】
[比較例1:三半規管模型(骨迷路模型)の製造]
(1)三半規管模型の製造
ヒトの右及び/又は左側頭骨部位の高詳細断層画像データ[0.3mmピッチにて撮影されたCTより出力されるDICOM(前出)データ]をスライス画像編集ソフト[マテリアライズ社製、「Mimics」]に読み込み、該ソフトウエア上にて、三半規管の内部管空形状に該当する閾値(-1024から225までのハンスフィールド値)を用いて、該三半規管の内部立体形状データを作成し、該三半規管の内部立体形状の表面形状に膜厚さを付加した三半規管の中空環状構造の立体的形状データを得て、該三半規管の中空環状構造の立体的形状データが宙に浮かぶ三次元データを作成した。
次に、該三次元データを、10倍に拡大して光重合性樹脂を0.2mmの薄膜積層にて、0.25mmのスポット径のレーザー光にて硬化させるヘッドを備えた精密積層造型機[シーメット株式会社製、半導体励起固体レーザー「SOLIFORM-600」]のコンピュータに入力した。次いで、該コンピュータに入力された三次元データに基づき、三次元データの底面に平行な水平面により、三次元データを厚さ0.2mmの薄膜単位毎に輪切りにして得た、三半規管壁部分領域のデータを出力して、光重合性樹脂へのレーザー光照射(液面入力値は、200mW、60kHz)によって、薄膜単位厚さの三半規管部分を形成することにより、三半規管壁成形操作を行った。この操作を三次元データの下端から上端までの薄層単位毎に順次反復することによって、三次元データに対応する立体的三半規管壁形状を有する光重合性樹脂の塊状マトリックスを得た。
次に、該塊状マトリックスから、内部に存在する未硬化樹脂を、三半規管形状の成形体における開口部から取り出し、中空を有する透明の合成樹脂からなる、実際のヒトの三半規管の約10倍スケールに相当する形状の成形体を形成した。
なお、前記光重合性樹脂としては、エポキシ系光重合性樹脂[シーメット株式会社製、商品名「TSR-829」、レーザーダイオードによるレーザー光硬化性であって、25℃粘度:205mPa・s、25℃比重:1.08]を用いた。この光重合性樹脂のレーザー光による硬化樹脂物性は、引張強度:46MPa、引張伸度:7~10%、引張弾性率:1750MPa、曲強度:68MPa、曲弾性率:2070MPa、衝撃強度:34J/m、高荷重HDT:49~50℃、低荷重HDT:54℃、ガラス転移温度:66℃、表面硬化(ショアD):83、収縮率:5.1%、外観:透明である。
また、各三半規管におけるクプラに対応する位置には、光重合性樹脂製の阻止片(シリコーンオイルは通過するが、耳石模型は通過しない目の粗さを有する網)を配設した。
次に、このようにして形成した中空環状の成形体における開口部から、耳石模型(粒径1.5mmのビーズ)を10個入れると共に、シリコーンオイルを中空が満たされるまで入れ、開口部を化学実験用ゴム栓で封止して、比較例1用の三半規管模型を得た。
(2)頭部模型の製造
ヒト頭部のCT画像より軟組織部分を抽出し、ソフトウェア[Materialise社製、Mimics]を用いて造形用データに変換した。このデータを造形装置に入力し、すなわち、粉末焼結材料として、平均粒径58μmの球状のナイロン11の粉末を用い、造形装置として、100W炭酸ガスレーザーを備えた粉末焼結積層造形装置[アスペクト社製、ラファエロ550]を用いて、積層ピッチ0.10mmで粉末焼結材料を逐次積層焼結し、実寸大の側頭部位模型を製造した(両目、鼻、口および両耳介の形状を1.5倍に拡大し、外形を3mm厚とした)。
人頭部のCT画像より軟組織部分を抽出して三次元化し、このデータに基づき両目、鼻、口、両耳介の形状を1.5倍に拡大し、外形を3mm厚で再現してポリアミド樹脂で積層造形にて製造した。
(3)頭部実態模型の製造
頭部模型内に、一側前半規管と対側後半規管は矢状面と45度の角度をなす同一平面上に位置するように、上記(1)で製造した三半規管模型(左右1対)を配置し、比較例1の頭部実態模型を製造した。なお、三半規管模型の下端中央は、頭部実態模型の前方から10cm、正中から3cmの位置に配置した。頭部実態模型の上下には透明のアクリル板を使用し、後方左右には大きな観察窓を設け、頭位治療手技中の三半規管模型内の耳石模型の動きを観察できるようにした。
【0075】
[試験例1:後半規管型の良性突発性頭位めまい症に対する試験]
後半規管型の良性突発性頭位めまい症における用途を評価するために、実施例1および比較例1の頭部実態模型を用いて、以下の試験を実施した。
右後半規管型の良性突発性頭位めまい症に対して施行される頭位治療であるEpleyの浮遊耳石置換法に準じて、実施例1および比較例1の頭部実態模型を動かした。Epleyの浮遊耳石置換法では、ベッドの端から頭を出し、懸垂頭位をとらせ、坐位→右懸垂頭位(45度)→左懸垂頭位(45度)→左懸垂頭位(左下135度)→坐位(45度前屈)の順で頭位を変換する。
この際に、耳石模型が、前半規管に入り込むか評価した。
【0076】
[試験例2:外側半規管型の良性突発性頭位めまい症に対する試験]
外側半規管型の良性突発性頭位めまい症に対しても応用可能か評価するために、実施例1および比較例1の頭部実態模型を用いて以下の試験を実施した。
左外側半規管型の良性突発性頭位めまい症に対して施行される頭位治療であるLempert法に準じて、実施例1および比較例1の頭部実態模型を動かした。
Lempert法では、仰臥位からスタートし(この状態を0°とする)、健側方向(右向き)に90°頭部を回転させ(この状態を90°とする)、次いで、さらに右が向きに90°回転させて体ごとうつ伏せになるようにし(この状態を180°とする)、次いで、さらに右側に90°回転させる(この状態を270°とする)。最後に坐位に戻す。
耳石模型が外側半規管から出た際(卵形嚢に移動した際)の各頭部実態模型の角度(回転させた角度)を評価した。
【0077】
[結果]
試験例1の結果より、比較例1の頭部実態模型は、後半規管と前半規管との間で耳石の移動が多く認められた。一方、実施例1の頭部実態模型は、後半規管と前半規管との間で耳石の移動が比較例1の頭部実態模型と同程度以下か、むしろ移動が少なかった。したがって、本明細書中に記載の三半規管模型は、前半規管と後半規管との間の耳石模型の移動を防止することができ、後半規管型の良性突発性頭位めまい症において、より精度よく検査、治療または治療教育することができるものである。
試験例2の結果より、比較例1の三半規管模型は、該模型を90°回転させるだけで、耳石模型が外側半規管から出てしまい、90°の回転だけであたかも治療効果が得られるかのような耳石模型の挙動が見られた。一方、実施例1の三半規管模型は、該模型を90°回転させただけでは、耳石模型は外側半規管から出ることはなく、それよりもさらに回転させなければ(少なくとも約180°以上回転させなければ)、耳石模型が外側半規管から出なかった。したがって、本明細書中に記載の三半規管模型は、外側半規管型の良性突発性頭位めまい症の検査、治療または治療教育に対しても応用が可能なものである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本明細書中に記載の三半規管模型は、前半規管と後半規管との間の耳石模型の移動を防止することができる、および/または外側半規管型の良性突発性頭位めまい症にも応用することができるため、産業上十分に利用可能なものである。
【符号の説明】
【0079】
1:三半規管模型
10a:前半規管
10b:後半規管
10c:外側半規管
11:総脚
11a:総脚の起始部
11b:総脚が卵形嚢に結合する部位
12a:前半規管の膨大部
12b:後半規管の膨大部
12c:外側半規管の膨大部
13a:前半規管の阻止片
13b:後半規管の阻止片
13c:外側半規管の阻止片
14:卵形嚢
15:球形嚢
16:前半規管の内側に形成される略円形
17:前半規管の膨大部の起始部
18:前半規管の膨大部が卵形嚢に結合する部位
20:耳石器
30:耳石模型
50:平衡機能検査用機器
51:レンズ
52:フレーム
53:前面壁
54:上面壁
55:側面壁
56:下面壁
60:平衡機能検査器
70:頭部実態模型
71:頭部模型

図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-02-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空を有する透明の合成樹脂から形成されている、ヒトにおける三半規管模型であって、
該三半規管模型は、三半規管と該三半規管に接続された耳石器を含み、
該三半規管模型の内部には、液体が封入されていると共に前記液体の比重よりも大きい比重を有する複数の耳石模型が移動自在に収容されており、
前半規管と総脚の起始部と後半規管とがなす角度が、30~60°である、
三半規管模型。
【請求項2】
総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に小さい、請求項1に記載の三半規管模型。
【請求項3】
総脚、前半規管、後半規管および/または外側半規管の内径が、ヒトの骨迷路におけるそれぞれの内径よりも相対的に1/4~3/4である、請求項2に記載の三半規管模型。
【請求項4】
前半規管と総脚の起始部と後半規管とがなす角度が、40~50°である、請求項1~3のいずれか一項に記載の三半規管模型。
【請求項5】
三半規管障害の検査用もしくは治療用の、または三半規管障害の治療教育用の、請求項1~4のいずれか一項に記載の三半規管模型。
【請求項6】
三半規管障害が、良性発作性頭位めまい症である、請求項5に記載の三半規管模型。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の三半規管模型を備える、患者の頭部に装着する平衡機能検査器。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の三半規管模型を備える、頭部実態模型