(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064655
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】溶接用コンタクトチップ
(51)【国際特許分類】
B23K 9/26 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
B23K9/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175056
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】521470076
【氏名又は名称】アルファエクセレント有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】桑原 恒美
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LE02
4E001LE09
4E001LH03
4E001MC01
4E001MC02
4E001MC04
(57)【要約】
【課題】ランニングコストおよび製造コストを削減可能な溶接用コンタクトチップを提供する。
【解決手段】アダプター1が溶接ワイヤ6を挿通可能な挿通孔16を有する。チップ本体3の後端部がアダプター1に着脱可能に接続される。チップ本体3は、内部に挿通孔16に連通する収容部33を有する。チップ本体3は、先端部に収容部33に連通し溶接ワイヤ6を挿通可能な貫通する先端孔35を有する。耐摩耗部材4が、収容部33に先端部に接して配置される。耐摩耗部材4は、チップ本体3より耐摩耗性が高い。耐摩耗部材4は、先端孔35に連通し溶接ワイヤ6を挿通可能な貫通孔41を有する。ワイヤーガイド5が導電性を有し先端部との間に耐摩耗部材4を挟んで保持するよう収容部33に配置される。ワイヤーガイド5は、挿通孔16および貫通孔41に連通し溶接ワイヤ6を接触させて挿通可能なガイド孔51を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有し溶接ワイヤを挿通可能な挿通孔を有するアダプターと、
導電性を有し後端部が前記アダプターに着脱可能に接続され、内部に前記挿通孔に連通する収容部を有し、先端部に前記収容部に連通し前記溶接ワイヤを挿通可能な貫通する先端孔を有するチップ本体と、
前記チップ本体より耐摩耗性が高く、前記収容部に前記先端部に接して配置され、前記先端孔に連通し前記溶接ワイヤを挿通可能な貫通孔を有する耐摩耗部材と、
導電性を有し前記先端部との間に前記耐摩耗部材を挟んで保持するよう前記収容部に配置され、前記挿通孔および前記貫通孔に連通し前記溶接ワイヤを接触させて挿通可能なガイド孔を有し、前記チップ本体に接触して固定されたワイヤーガイドとを、
有することを特徴とする溶接用コンタクトチップ。
【請求項2】
前記挿通孔、前記収容部、前記ガイド孔、前記貫通孔および前記先端孔は同一の中心軸線上に位置し、
前記挿通孔の内部にアダプター内ガイドを有し、前記アダプター内ガイドは前記溶接ワイヤを案内するためのガイド溝またはアダプター内ガイド孔を有し、前記ガイド溝または前記アダプター内ガイド孔の先端は前記中心軸線上からずれた位置にあることを、
特徴とする請求項1記載の溶接用コンタクトチップ。
【請求項3】
前記ワイヤーガイドは前記チップ本体に圧入されて固定され、前記耐摩耗部材はセラミックから成ることを、
特徴とする請求項1または2記載の溶接用コンタクトチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用コンタクトチップに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶接用コンタクトチップは、溶接時に先端部が約500~600℃の高温にさらされるため、先端部が傷みやすく、内部を通る溶接ワイヤによりワイヤ貫通孔が次第に摩耗して拡大し、溶接位置狙いずれを生じるようになる。従って、溶接用コンタクトチップの寿命は、通常、ワイヤ貫通孔の摩耗の程度によって決まる。溶接用コンタクトチップの寿命が短いと、交換回数が多く、作業性が悪い。そのうえ、交換によるコストが嵩み、生産コストの点で大きな負担となる。
【0003】
溶接用コンタクトチップの寿命を延ばすには、一般に使用されるクロム銅より硬い材料を用いればよいが、ベリリウム銅その他の硬い材料のものを用いると、加工しにくいうえ、材料費が高いため、製品価格がクロム銅のものより数倍になってしまう。
【0004】
従来の溶接用コンタクトチップとして、チップ本体の内部に耐摩耗部材を設け、耐摩耗部材の内側通路を溶接ワイヤが通るようにしたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、側部に挿入用穴を有するチップ本体と、挿入用穴に挿入された硬質部材とを有し、硬質部材はチップ本体より硬い通電性材料から成り、チップ本体の長さ方向に伸びてチップ本体および硬質部材を貫通するワイヤ貫通孔が形成されている溶接用コンタクトチップが本発明者によって開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表昭58-501986号公報
【特許文献2】特開2001-121268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1または2に記載の溶接用コンタクトチップでは、製品寿命は延びるものの、交換の際にはチップ全体を交換するため、ランニングコストが嵩むという課題があった。また、特許文献1または2に記載の溶接用コンタクトチップでは、通電性材料から成る硬質部材を用いるため、硬質部材の材料が限定され、製造コストが嵩むという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、ランニングコストおよび製造コストを削減可能な溶接用コンタクトチップを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る溶接用コンタクトチップは、導電性を有し溶接ワイヤを挿通可能な挿通孔を有するアダプターと、導電性を有し後端部が前記アダプターに着脱可能に接続され、内部に前記挿通孔に連通する収容部を有し、先端部に前記収容部に連通し前記溶接ワイヤを挿通可能な貫通する先端孔を有するチップ本体と、前記チップ本体より耐摩耗性が高く、前記先端部に接して前記収容部に配置され、前記先端孔に連通し前記溶接ワイヤを挿通可能な貫通孔を有する耐摩耗部材と、導電性を有し前記先端部との間に前記耐摩耗部材を挟んで保持するよう前記収容部に配置され、前記挿通孔および前記貫通孔に連通し前記溶接ワイヤを接触させて挿通可能なガイド孔を有し、前記チップ本体に接触して固定されたワイヤーガイドとを、有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る溶接用コンタクトチップは、耐摩耗部材がチップ本体の先端部に接して収容部に配置されているので、溶接ワイヤによる摩耗を抑え、製品寿命を延ばすことができる。ワイヤーガイドは、チップ本体の先端部との間に耐摩耗部材を挟んで保持する。ワイヤーガイドは、溶接ワイヤをガイド孔に接触させて挿通させ、溶接ワイヤに給電可能である。耐摩耗部材は、耐久性が高く、拡径を抑えて溶接位置狙いずれを防止することができる。チップ本体はアダプターに着脱可能なため、チップ本体のみを交換することによりランニングコストを削減可能である。また、耐摩耗部材はセラミックなどの絶縁体から成ってもよいため、安価な材料を用いて製造コストを削減することができる。
【0010】
本発明に係る溶接用コンタクトチップにおいて、前記挿通孔、前記収容部、前記ガイド孔、前記貫通孔および前記先端孔は同一の中心軸線上に位置し、前記挿通孔の内部にアダプター内ガイドを有し、前記アダプター内ガイドは前記溶接ワイヤを案内するためのガイド溝またはアダプター内ガイド孔を有し、前記ガイド溝または前記アダプター内ガイド孔の先端は前記中心軸線上からずれた位置にあることが好ましい。
この場合、ガイド溝またはアダプター内ガイド孔で案内された溶接ワイヤは、ガイド溝またはアダプター内ガイド孔の先端で中心軸線上からずれた位置にあるので、中心軸線上に位置するガイド孔に接触しやすい。このため、溶接ワイヤに確実に給電し、給電効率が高く、給電の安定性を向上させることができる。
【0011】
前記ワイヤーガイドは前記チップ本体に圧入されて固定され、前記耐摩耗部材はセラミックから成ることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ランニングコストおよび製造コストを削減可能な溶接用コンタクトチップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態の溶接用コンタクトチップを示す縦断面図である。
【
図2】
図1の溶接用コンタクトチップの耐摩耗部材の(A)斜視図および(B)縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態の溶接用コンタクトチップは、アダプター1と、アダプター内ガイド2と、チップ本体3と、耐摩耗部材4と、ワイヤーガイド5とを有している。
アダプター1は、導電性を有し、筒状であって先端部11が次第に細くなり、後端部12が段差13をなして細くなっている。後端部12の外周には、トーチノズルの内部に取り付けるためのおねじ部14が形成されている。先端部11の内周には、めねじ部15が形成されている。アダプター1は、縦方向中心軸線上に溶接ワイヤ6を挿通可能な挿通孔16を有している。
【0015】
アダプター内ガイド2は、挿通孔16の内部に配置されている。挿通孔16の内部には段差17が設けられ、挿通孔16の前部16aは後部16bより小径となっている。挿通孔16の先端部16cは、溶接ワイヤ6の径よりやや大径をなす大きさに窄まっている。アダプター内ガイド2は、円柱状で、側部に両端まで伸びる、溶接ワイヤ6を案内するためのガイド溝21を有している。ガイド溝21は、後端から先端まで底部が前記中心軸線上からずれた位置にある。
【0016】
チップ本体3は、導電性を有し、後端部31の外周にアダプター1のめねじ部15に螺合するおねじ部32が形成されている。チップ本体3は、螺合によりアダプター1に着脱可能に接続されている。チップ本体3は、内部に挿通孔16に連通する収容部33を有し、先端部34に収容部33に連通し溶接ワイヤ6を挿通可能な貫通する先端孔35を有している。先端孔35は、溶接ワイヤ6の径よりやや大径をなす大きさに窄まっている。
【0017】
耐摩耗部材4は、チップ本体3より耐摩耗性が高い素材、例えばセラミックから成っている。
図2に示すように、耐摩耗部材4は、円筒状であって、溶接ワイヤ6を挿通可能な貫通孔41を有している。貫通孔41の両端は、外側に傾斜して広がっている。耐摩耗部材4はチップ本体3の先端部34に接して収容部33に配置され、貫通孔41が先端孔35に連通している。
【0018】
ワイヤーガイド5は、円筒状であって導電性を有している。ワイヤーガイド5は、先端部34との間に耐摩耗部材4を挟んで保持するよう収容部33に配置されている。ワイヤーガイド5は、前記中心軸線上に挿通孔16および貫通孔41に連通し溶接ワイヤ6を接触させて挿通可能なガイド孔51を有している。ワイヤーガイド5は、チップ本体3に接触し、チップ本体3の収容部33に圧入されて固定されている。ワイヤーガイド5は、耐摩耗部材4の脱落を防止する機能を有する。
アダプター1の挿通孔16、チップ本体3の収容部33、ワイヤーガイド5のガイド孔51、耐摩耗部材4の貫通孔41およびチップ本体3の先端孔35は、同一の中心軸線上に位置している。
【0019】
次に、作用について説明する。
溶接用コンタクトチップは、トーチノズルの内部に配置され、溶接用ワイヤ給電部に取り付けて使用される。溶接ワイヤ6をアダプター1の挿通孔16から、チップ本体3の収容部33、ワイヤーガイド5のガイド孔51、耐摩耗部材4の貫通孔41およびチップ本体3の先端孔35に挿入させる。使用の際、溶接ワイヤ6は、給電されて溶接金属を溶かす。
図1に示すように、溶接用コンタクトチップは、耐摩耗部材4がチップ本体3の先端部34に接して収容部33に配置されているので、溶接ワイヤ6による摩耗を抑え、製品寿命を延ばすことができる。耐摩耗部材4は、耐久性が高く、拡径を抑えて溶接位置狙いずれを防止することができる。ワイヤーガイド5は、チップ本体3の先端部34との間に耐摩耗部材4を挟んで保持する。ワイヤーガイド5は、溶接ワイヤ6をガイド孔51に接触させて挿通させ、溶接ワイヤ6に給電可能である。
ガイド溝21で案内された溶接ワイヤ6は、ガイド溝21の先端で前記中心軸線上からずれた位置にあるので、前記中心軸線上に位置するガイド孔51に接触しやすい。このため、溶接ワイヤ6に確実に給電し、給電効率が高く、給電の安定性を向上させることができる。
【0020】
チップ本体3はアダプター1に着脱可能なため、チップ本体3のみを交換することによりランニングコストを削減可能である。また、耐摩耗部材4はセラミックなどの絶縁体から成ってもよいため、安価な材料を用いて製造コストを削減することができる。
また、アダプター内ガイド2は、ガイド溝21の代わりに、アダプター内ガイド孔を有していてもよい。この場合、アダプター内ガイド孔の先端は前記中心軸線上からずれた位置にある。
【符号の説明】
【0021】
1 アダプター、2 アダプター内ガイド、3 チップ本体、4 耐摩耗部材、
5 ワイヤーガイド、6 溶接ワイヤ、11 先端部、12 後端部、13 段差、
14 おねじ部、15 めねじ部、16 挿通孔、16a 前部、16b 後部、
16c 先端部、17 段差、21 ガイド溝、31 後端部、32 おねじ部、
33 収容部、34 先端部、35 先端孔、41 貫通孔、51 ガイド孔