(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064666
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】運転支援システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/09 20060101AFI20230501BHJP
G08G 1/08 20060101ALI20230501BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
G08G1/09 D
G08G1/08 A
G08G1/09 F
G08G1/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175071
(22)【出願日】2021-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181146
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(72)【発明者】
【氏名】畑崎 由季子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 義典
(72)【発明者】
【氏名】荻島 由彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 芳憲
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181JJ06
5H181JJ08
5H181LL06
5H181LL14
(57)【要約】
【課題】自動運転車両の個体特性に応じて、インフラ側において、より的確にジレンマ回避に関する判断をして、自動運転車両の運転支援を行う運転支援システムを提供すること。
【解決手段】運転支援システム100は、自動運転車両VEに固有の走行性能の情報を含む個体特性情報に基づき、信号灯器SGに向かう自動運転車両VEがジレンマ領域に存在することになるか否かを判定する判定部52aと、判定部52aでの判定結果に応じて、ジレンマ回避に要する信号灯器SGの灯色動作の調整を行う調整部52bと、調整部52bにおける調整結果の情報を自動運転車両VEに対して送信する通信部30とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転車両に固有の走行性能の情報を含む個体特性情報に基づき、信号灯器に向かう前記自動運転車両がジレンマ領域に存在することになるか否かを判定する判定部と、
前記判定部での判定結果に応じて、ジレンマ回避に要する前記信号灯器の灯色動作の調整を行う調整部と、
前記調整部における調整結果の情報を前記自動運転車両に対して送信する通信部と
を備える運転支援システム。
【請求項2】
前記調整部は、前記判定部において前記自動運転車両がジレンマ領域に存在することになると判定された場合に、ジレンマ回避に要する前記信号灯器の灯色切替の調整時間を算出する算出部を有する、請求項1に記載の運転支援システム。
【請求項3】
前記調整部は、前記信号灯器を制御する交通信号制御機に、前記算出部で算出された前記調整時間を確保させ、
前記通信部は、確保された前記調整時間の情報を前記自動運転車両に対して送信する、請求項2に記載の運転支援システム。
【請求項4】
前記算出部は、前記交通信号制御機において時間調整可能な範囲に応じて、前記調整時間として、前記信号灯器における青色点灯の状態を長くして前記自動運転車両を通過させるための時間と、前記信号灯器における赤色点灯への変更を早めて前記自動運転車両を前記信号灯器の手前で停止させるための時間とのうち、いずれかを選択する、請求項2及び3のいずれか一項に記載の運転支援システム。
【請求項5】
前記判定部は、前記個体特性情報に基づき抽出される前記自動運転車両の将来位置情報から、前記信号灯器が設置された交差点に向かう前記自動運転車両がジレンマ領域に存在することになるか否かを判定し、
前記将来位置情報には、前記自動運転車両が前記交差点を通過する通過予測時刻の情報が含まれている、請求項1~4のいずれか一項に記載の運転支援システム。
【請求項6】
前記個体特性情報に基づく前記将来位置情報は、所定間隔で更新される、請求項5に記載の運転支援システム。
【請求項7】
前記個体特性情報は、前記自動運転車両が前記交差点を通過するまでの間、連続的に前記自動運転車両から送信され、都度更新される、請求項5及び6のいずれか一項に記載の運転支援システム。
【請求項8】
前記個体特性情報は、前記自動運転車両の現在位置及び現在速度の情報に加え、車種、天候及び乗車人数のうちいずれかに基づく前記走行性能の情報を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の運転支援システム。
【請求項9】
前記判定部は、前記自動運転車両から所定の車間距離内に存在する車両を含めた車群の長さに基づいて、前記自動運転車両がジレンマ領域に存在することになるか否かを判定する、請求項1~8のいずれか一項に記載の運転支援システム。
【請求項10】
インフラ側に設けられ、前記自動運転車両を検知するセンサー部を備え、
前記判定部は、前記自動運転車両から送信される自己位置推定情報と、前記センサー部での検知結果とを照合して、判定対象としての前記自動運転車両を特定する、請求項1~9のいずれか一項に記載の運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動運転車両による自動運転に際して、道路に沿って設けられた設備側(路側)から運転支援を行うための運転支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、信号灯器の設置された交差点における信号制御に関して、当該交差点における通過車両と通信をして通行制御する技術が知られている(特許文献1,2参照)。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1,2では、例えば通信をする車両の性能等によっては、いわゆるジレンマ制御が必要となるかいなかや、なった場合における信号のタイミング切替え等の判断について、必ずしも適切なものになっていない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-27416号公報
【特許文献2】特開2020-34964号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、自動運転車両の個体特性に応じて、インフラ側において、より的確にジレンマ回避に関する判断をして、自動運転車両の運転支援を行う運転支援システムを提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するための運転支援システムは、自動運転車両に固有の走行性能の情報を含む個体特性情報に基づき、信号灯器に向かう自動運転車両がジレンマ領域に存在することになるか否かを判定する判定部と、判定部での判定結果に応じて、ジレンマ回避に要する信号灯器の灯色動作の調整を行う調整部と、調整部における調整結果の情報を自動運転車両に対して送信する通信部とを備える。
【0007】
上記運転支援システムでは、自動運転車両の個体特性情報に基づいて、ジレンマ領域に存在することになるか否かを判定し、ジレンマ回避のための信号灯器の灯色動作の調整を行うことで、個々の車両個体の特性を踏まえ、より的確にジレンマ回避を可能とした運転支援を行える。
【0008】
本発明の具体的な側面では、調整部は、判定部において自動運転車両がジレンマ領域に存在することになると判定された場合に、ジレンマ回避に要する信号灯器の灯色切替の調整時間を算出する算出部を有する。この場合、算出部において、動運転車両の走行性能等に応じた適切な灯色切替の調整時間が算出される。
【0009】
本発明の別の側面では、調整部は、信号灯器を制御する交通信号制御機に、算出部で算出された調整時間を確保させ、通信部は、確保された調整時間の情報を自動運転車両に対して送信する。この場合、自動運転車両は、送信された調整時間の情報に基づいて、ジレンマ回避ができる。
【0010】
本発明のさらに別の側面では、算出部は、交通信号制御機において時間調整可能な範囲に応じて、調整時間として、信号灯器における青色点灯の状態を長くして自動運転車両を通過させるための時間と、信号灯器における赤色点灯への変更を早めて自動運転車両を信号灯器の手前で停止させるための時間とのうち、いずれかを選択する。この場合、自動運転車両を通過させるか、信号灯器の手前で停止させるかが適切に判定される。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、判定部は、個体特性情報に基づき抽出される自動運転車両の将来位置情報から、信号灯器が設置された交差点に向かう自動運転車両がジレンマ領域に存在することになるか否かを判定し、将来位置情報には、自動運転車両が交差点を通過する通過予測時刻の情報が含まれている。この場合、将来位置情報に含まれる通過予測時刻に基づいて、ジレンマ回避のための処理の要否判定が可能になる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、個体特性情報に基づく将来位置情報は、所定間隔で更新される。この場合、将来位置情報が更新されるのに応じて、インフラ側の判断ができる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、個体特性情報は、自動運転車両が交差点を通過するまでの間、連続的に自動運転車両から送信され、都度更新される。この場合、個体特性情報の内容に応じて、灯色動作を調整できる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、個体特性情報は、自動運転車両の現在位置及び現在速度の情報に加え、車種、天候及び乗車人数のうちいずれかに基づく走行性能の情報を含む。この場合、インフラ側の判断を、自動運転車両の現状における走行性能に対応させることができる。
【0015】
本発明のさらに別の側面では、判定部は、自動運転車両から所定の車間距離内に存在する車両を含めた車群の長さに基づいて、自動運転車両がジレンマ領域に存在することになるか否かを判定する。この場合、車群をひとまとまりとして、ジレンマ回避のための処理を行える。
【0016】
本発明のさらに別の側面では、インフラ側に設けられ、自動運転車両を検知するセンサー部を備え、判定部は、自動運転車両から送信される自己位置推定情報と、センサー部での検知結果とを照合して、判定対象としての自動運転車両を特定する。この場合、対象とすべき自動運転車両をインフラ側において確実の捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係る運転支援システムを設けた交差点における一動作例について概要説明をするための概念図である。
【
図2】運転支援システムの一構成例について示すブロック図である。
【
図3】(A)は、通信内容について概要の一例を示すデータ図であり、(B)~(D)は、将来位置情報について概念的に示す図である。
【
図4】(A)及び(B)は、青延長によりジレンマ領域を回避する場合について説明するための概念図である。
【
図5】(A)~(C)は、ジレンマ領域とその回避について説明するための概念的なグラフである。
【
図6】自動運転車両における将来位置情報の生成について一例を説明するためのブロック図である。
【
図7】通信内容について概要の他の一例を示すデータ図である。
【
図8】(A)及び(B)は、運転支援システムにおける一連の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図9】運転支援システムを設けた交差点における別の一動作例について概要説明をするための概念図である。
【
図10】(A)~(C)は、第2実施形態に係る運転支援システムにおけるジレンマ領域とその回避について説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1実施形態〕
以下、
図1等を参照して、第1実施形態に係る運転支援システムについて、一例を説明する。
図1は、本実施形態に係る運転支援システム100を導入した交差点CSについて概要説明をするための概念図であり、
図2は、運転支援システム100の一構成例について示すブロック図である。ここでは、運転支援システム100により、交差点CSを通過する車両に対して、運転支援のための情報提供が路側からなされる場合について、一例を説明する。
【0019】
図1では、運転支援システム100による支援の対象となる自動運転車両VEが、向かう先にある交差点CSを直進して通過しようとする場合について、一動作例を示している。具体的には、図中において、自動運転車両VEが、現時点における自己の存在位置を実線で示しており、走行予定の位置(将来位置)を破線で示している。自動運転車両VEは、実線で示す現時点において、運転支援システム100を構成する路側装置である運転支援装置SSに対して、自身に関する情報(将来位置情報等)を発信し、自動運転車両VEと運転支援装置SSとの間で通信が開始されることで、運転支援システム100による支援の対象となる。ここでは、自身に関する情報(将来位置情報等)として、自動運転車両VEは、例えば実線で示す現在地点を示す緯度経度の情報(自己位置推定情報)のほか、破線で示す今後の走行予定ルートや各位置に到達する予想時刻(到達予想時刻)等を、運転支援装置SSに対して送信し、また、この通信を、交差点CSを通過するまで継続的に行う。つまり、自動運転車両VEは、継続的に将来位置情報の送信を行う。したがって、例えば最初の将来位置情報として発信した破線位置に自動運転車両VEが実際に到達すると、そこを現時点における自己の存在位置として、新たな将来位置情報が運転支援装置SSに対して送信され、これが繰り返される、といった態様となっている。
【0020】
運転支援システム100は、交差点CSにおける交通整理を行う信号機TLに対して付随的に設けられた路側装置である運転支援装置SSを主体として構成される。より具体的には、まず、運転支援装置SSは、上述した支援の対象となる自動運転車両VEから送信される自身に関する情報(自己位置推定情報)を受けつつ、交差点CSあるいはその周辺を含む検出領域DDにおいて監視を行って支援の対象となる自動運転車両VEをセンシングして、センシングによる検知結果とを照合して、支援対象としての自動運転車両VEを特定する。また、運転支援装置SSは、自動運転車両VEからの情報や、信号機TLにおける灯色情報を勘案して、自動運転車両がいわゆるジレンマ領域(ジレンマゾーン:信号が黄になった際、進むべきか停止すべきか迷う範囲)に存在することになるか否かについて判定する判定装置JDとして機能し、さらに、判定結果に応じて、ジレンマ回避に要する信号機TLの灯色動作の調整を行う調整を行うことで、自動運転車両VEによる自動運転に対する運転支援をする。
【0021】
ここで、図示の一例では、信号機TLは、交差点CSに設けられた4つの信号灯器SGと、4つの信号灯器SGの全てについて統括的制御を行う交通信号制御機である信号制御機SCとで構成されており、特に、本実施形態では、現示情報についての調整が可能になっている。すなわち、各信号灯器SGにおける青時間の延長及び短縮が可能となっている。運転支援装置SSは、信号制御機SCを介して交差点CSに設けられた信号灯器SGについての情報(灯色情報、信号予定情報)を取得したり、信号制御機SCに対して灯色動作の時間調整(青延長又は短縮)を依頼したりすることで、ジレンマ回避のための調整を可能にしている。なお、図示の一例では、4つの信号灯器SGのうち、支援の対象となる自動運転車両VEの通行に関与するものを、信号灯器SGαとしている。
【0022】
以上のように、運転支援装置SSを中心として、各部が協働することで、運転支援システム100としての機能が成立している。図示の一例では、運転支援装置SSは、信号制御機SCに近接して設けられ、これと有線接続されることで、上記のような信号機の制御に関して必要な情報(灯色情報等)の取得が可能となっている。なお、以上のような構成において、運転支援装置SSのみをもって運転支援システム100と捉えることもできる。
【0023】
なお、交差点CSへの自動運転車両VEの到達の定義については、種々考えられ、例えば交差点CSの中心点(中心の座標)を代表点とすることや、信号灯器SGαの設置位置を基準とすること、すなわちこれらのいずれかを基準位置とすること等が考えられる。
【0024】
図2に示すように、運転支援システム100において、運転支援装置SS(判定装置JD)は、上記態様となるべく、例えばセンサー部10と、通信部30と、主制御部50とを備える。
【0025】
まず、運転支援システム100のうち、センサー部10は、カメラ部11と、測距部12とで構成され、監視の対象となる所定範囲としての検出領域DDに存在する移動体MBや障害物等を検知することで、例えば支援対象とすべき自動運転車両VEを含む各車両の検知が可能となっている。なお、ここで、移動体MBについては、支援の対象となる自動運転車両VEを含む各車両のほか、自転車や歩行者等も想定されるものとしてもよい。カメラ部(インフラカメラ)11は、交差点CSについて監視すべく、撮像を行って画像データを生成する。また、測距部12については、例えばLiDARのほか、ミリ波センサーや、レーダーを採用することが考えられ、測距を行って測距データを生成することで、移動体MBの位置等を取得可能にする。なお、図中では、1つのセンサー部10のみ示しているが、種々の方向から交差点CSを通過する支援対象について隈なく運転支援を行うべく、複数のカメラ等を場内に設置する構成にできる。また、自動運転車両VEの進行方向によって検出領域DDが変更される場合には、これに応じて、使用するカメラ等を適宜選択する等も可能である。ここで、センサー部10により取得される検知結果であり、検出領域DDに存在する移動体MBに関する画像データや測距データ等の各種情報を、物標情報とする。すなわち、物標情報には、検出領域DDに存在する歩行者や各種車両等の動作状況や、障害物の存在等についての情報が含まれている。また、この場合において、支援対象とすべき自動運転車両VEを特定する情報に加え、その前後を走行する他の車両に関する情報が含まれていることも想定される。
【0026】
以上のように、センサー部10は、インフラ側に設けられ、自動運転車両VEを検知するものとなっている。また、運転支援装置SS(判定装置JD)は、自動運転車両VEから送信される情報(自己位置推定情報)と、センサー部10での検知結果とを照合して、ジレンマ領域の存在に関する判定対象としての自動運転車両VEを特定する。
【0027】
運転支援システム100のうち、通信部30は、自動運転車両VEと無線通信を行うための無線部である。ここで、通信相手である自動運転車両VEについては、既述のように、判定装置JDである運転支援装置SSに対して、ジレンマ発生及びその回避手法についての判定を行うためのデータとして、自己の将来位置を示す将来位置情報を送信するものとなっている。より具体的に説明すると、まず、自動運転車両VEは、自動運転を行うための各種制御を行うべく、各種回路機構等で構成される自動運転制御部AOを有しており、特に、自動運転制御部AOにおいて、将来位置情報生成部FGを有している。将来位置情報生成部FGは、自動運転車両VE自身についての現在位置や現在位置に基づく今後の進路予定の情報等で構成される将来位置情報を生成する。したがって、この将来位置情報には、自動運転車両VEの現在位置(現在時刻における位置)や、これに基づき作成される将来位置(到達予測時刻を含む)のほか、これらの各時刻(予定時刻)における速度や方位(方位角)等の情報が含まれている。つまり、将来位置情報には、自動運転車両VEの基準位置(交差点CSの中心点や、信号灯器SGαの設置位置)への到達予測時刻や、交差点CSの通過所要時間等が含まれており、通信部30は、自動運転車両VEの通信部(無線部)TTを介して自動運転車両VEから将来位置情報を受け付ける。また、到達予測時刻と同様なものとして、交差点CSを通過する時刻(通過予測時刻)が、将来位置情報に含まれているものとしてもよい。
【0028】
ここで、上記のように、自動運転車両VEの将来位置情報生成部FGにおいて、到達予測時刻(あるいは通過予測時刻)の情報が作成される場合、自動運転車両VEの基準位置(信号灯器SGαの設置位置等)への到達予測時刻(通過予測時刻)は、自動運転車両VEに固有の走行性能の情報を含む個体特性情報に基づき算出されるものとなる。この場合、結果的に、その後における判定装置JDとしての運転支援装置SSにおいて、間接的に自動運転車両VEごとの性能等に応じつつ、インフラ側で統一化された基準に沿って、いずれジレンマ領域に属することになるか否かの判定について、さらに、ジレンマ領域に属することになる場合にこれを回避するための信号予定情報の調整量をどの程度とするかの判定について、適正に行えるものとなる。なお、この場合、自動運転車両VEの側で算出される到達予測時刻(通過予測時刻)については、その日の天候や、自動運転車両VEの乗員数、積載量等を反映したものともなっている。また、将来位置情報は、その生成の由来から結果的に自動運転車両VEに固有の走行性能の情報を内在するものとなっており、その観点からすると、将来位置情報も、個体特性情報の一種である、と捉えることもできる。
【0029】
運転支援システム100のうち、主制御部50は、例えば各種回路機構等で構成され、図示の一例では、センサー制御部51と、ジレンマゾーン回避判定ユニット(判定ユニット)52とを有する、あるいはこれらとして機能するものとする。
【0030】
センサー制御部51は、センサー部10を構成する各部の動作を制御するとともに、センサー部10において取得される物標情報を、ジレンマゾーン回避判定ユニット52に対して出力する。
【0031】
ジレンマゾーン回避判定ユニット52は、判定部52aと、調整部52bとを有する。さらに、調整部52bには、調整時間算出部(算出部)CCが設けられている。
【0032】
判定部52aは、通信部30で受け付けた自動運転車両VEの交差点CSへの到達予測時刻等を含む将来位置情報や、対応する信号灯器SGαの灯色切り替えのタイミング(信号予定情報)に基づき、信号灯器SGαが設置された交差点CSに向かう自動運転車両VEがジレンマ領域に存在することになるか否かを判定する。典型的には、
図1に示すように、交差点CSを直進して通過しようとする場合であれば、自動運転車両VEの各予想時刻での到達予定位置とその際の予定速度と、信号灯器SGαの灯色動作つまり信号灯器SGαが青から黄、さらに赤へと切り替わるタイミングとを比較して、自動運転車両VEが将来位置情報に示される内容で交差点CS近づいていった場合にジレンマ領域に入るか否かを予測し、判定する。予測の結果、ジレンマ領域に存在することになるおそれがあると判定された場合には、これを回避すべく、ジレンマゾーン回避判定ユニット52は、調整部52bに、ジレンマ回避に要する信号灯器SGαの灯色動作の調整(時間調整)を行わせる。
【0033】
なお、判定部52aは、上記判定を行うための前提として、センサー制御部51から受け取ったセンサー部10による検知結果としての物標情報等に基づき、複数検知される車両等の移動体MBの中から自動運転車両VEの特定を行うことが可能である。
【0034】
調整部52bは、上記のように、判定部52aにおいて自動運転車両VEがジレンマ領域に存在することになると判定された場合、この判定結果に応じた時間調整を行うべく、まず、調整時間算出部(算出部)CCにおいて、ジレンマ回避に要する信号灯器SGαの灯色切替の調整時間ΔTを算出する。
【0035】
なお、以下では、ジレンマ回避の一例として、信号灯器SGαにおける青信号表示の時間を延長し、自動運転車両VEが交差点CSを通過する時点において青信号を維持して通過可能な状態にすることで、ジレンマ回避を達成する場合について説明する。この場合、調整時間算出部(算出部)CCは、ジレンマ回避のために、自動運転車両VEが交差点CSを通過するのに必要な延長時間を、将来位置情報と信号予定情報とから算出する。
【0036】
調整部52bは、調整時間算出部(算出部)CCにおいて延長時間として算出された結果を調整時間ΔTとし、ジレンマゾーン回避判定ユニット52は、調整時間ΔTの情報を含む調整依頼を、信号制御機(交通信号制御機)SCに対して送信する。
【0037】
なお、信号制御機SCは、ジレンマゾーン回避判定ユニット52からの調整依頼に応じて、信号灯器SGαにおける青信号表示の時間を延長した新たな信号予定情報の作成(信号予定情報の更新)を行い、当該新たな信号予定情報を、ジレンマゾーン回避判定ユニット52に返信する。また、これを受けたジレンマゾーン回避判定ユニット52は、通信部30を介して、当該結果(新たな信号予定情報)を、自動運転車両VEに対して送信する。
【0038】
以上の一連の動作について、見方を変えてまとめると、調整部52bは、信号灯器SGαを制御する信号制御機(交通信号制御機)SCに、算出部CCで算出された調整時間ΔTを確保させ、通信部30は、確保された調整時間ΔTの情報(新たな信号予定情報)を自動運転車両VEに対して送信する態様となっている。
【0039】
図3(A)は、上記のような態様における車両側と路側との間での通信内容について、概要を一例として示すデータ図であり、車両側から路側に対して送信される情報、つまり、将来位置情報等を主体として構成される情報を示している。なお、図示の一例では、路側については、交差点CSに設置される信号灯器SG等についてのID(信号機ID)により特定をしており、車両側については、自動運転車両VEを特定するための車両IDが採用されているものとする。
【0040】
また、
図3(B)~
図3(D)は、
図3(A)に例示した将来位置情報について説明するための概念図である。
【0041】
まず、
図3(A)に示すように、また、既述のように、車両側からは、各種IDや作成日時に加え、自動運転車両VEの位置情報(現在位置)及び将来位置情報が、路側に対して送信される。なお、図示の一例では、位置情報(現在位置)については、現時点(送信時点)での自動運転車両VEが存在する地点を示す緯度、経度に加え、自動運転車両VEの速度(走行速度)や方位(方位角)の情報が、含まれている。なお、これらについては、図示等を省略するが、例えば自動運転車両VEにおいて、GNSS(GPS等)を利用した自己位置推定や、各種演算処理等により算出される。これに対して、将来位置情報については、位置情報(現在位置)の場合と同様の情報に加えて、位置情報(現在位置)からのオフセット(距離)についての情報がさらに付加されている。将来位置情報については、現在時刻から一定時間経過ごと(例えば100ミリ秒経過ごと)の予測値が複数個(n個)含まれている。つまり、路側の設備は、例えばn×0.1秒後までの自動運転車両VEの進行予定ルートを把握できることになる。
【0042】
次に、
図3(B)~
図3(D)は、上記のような将来位置情報について概念的に示すものである。まず、
図3(B)は、自動運転車両VEから運転支援装置SSに対して送信される最初の将来位置情報について示している。自動運転車両VEが描かれている位置を現在位置として、進行方向(Z方向とする)に沿って示されている点FP1~FP4は、自動運転車両VEの将来位置を示している。より具体的には、現在位置(現時点)における時刻TをT=T
0として、点FP1が、現時点からt秒後(例えば100ミリ秒後)の時刻T
1=T
0+tにおける自動運転車両VEの位置を示している。同様に、点FP2が、現時点から2t秒後(T
2=T
0+2t)における自動運転車両VEの位置を示し、点FP3が、現時点から3t秒後(T
3=T
0+3t)における自動運転車両VEの位置を示し、点FP4が、現時点から4t秒後(T
4=T
0+4t)における自動運転車両VEの位置を示している。
【0043】
次に、
図3(C)は、
図3(B)の状態からt秒後において、自動運転車両VEから運転支援装置SSに対して送信される2回目の将来位置情報について示している。この場合、
図3(B)の状態からt秒経過していることで、自動運転車両VEは、
図3(B)における点FP1に相当する位置まで進行していることになる。この上で、自動運転車両VEは、自身の新たな将来位置情報について、すなわち新たな点FP1~FP4の情報について、運転支援装置SSに対して送信する。以下、同様にして、
図3(D)に示すように、さらにt秒後に、3回目の将来位置情報(点FP1~FP4の情報)が送信される。
【0044】
以上の場合、点FP1~FP4における各点間の距離は、物理的な移動距離を示すとともに、速度の変化の様子を示すものともなっている。また、各点を結んだ線(軌跡)は、自動運転車両VEの経路や方位(方位角)を示すものとなっている。
【0045】
なお、図示では、点FP4の場合についてまでしか示しておらず、点FP4より先については、省略しているが、さらに先の将来位置についての情報まで含まれる態様としてもよい。
【0046】
また、以上について、インフラ側である運転支援装置SSの立場から見ると、
図3(B)~
図3(D)のように、自動運転車両VEが走行を継続していく過程で、一定時間ごと(例えばt=100ミリ秒ごと)に、新たな将来位置情報が、自動運転車両VEから送信されることとなり、これに応じて、都度、将来位置情報が更新されていくことになる。つまり、必要に応じて修正されたより的確な走行予定ルートが、自動運転車両VEから継続的に送られてくるものとなっている。本実施形態では、この情報を利用することで、ジレンマ発生の可能性について、事前の予測を的確に行い、ジレンマ発生の前にジレンマ領域を回避するための信号調整を行うことで、自動運転車両VEの運転支援を可能にしている。
【0047】
以下、
図4として示す概念図等を参照して、上記のようなジレンマ領域を回避する手法の一例について説明する。なお、図示において、自動運転車両VEの走行速度をV(km/h)とし、信号灯器SGαからの距離をx(m)とする。
【0048】
まず、
図4(A)の一例では、信号灯器SGαよりもかなり手前の位置(距離)に自動運転車両VEが存在する時点(T=T
0)から運転支援装置SSと自動運転車両VEとの通信が開始されているものとする。
図4(A)では、この場合において、運転支援装置SSにおける将来位置情報と信号予定情報とに基づく算出の結果、将来位置情報の通りに走行し、仮に現状の信号予定情報を維持したままとすると、信号灯器SGαの直近手前に到達する時点(T=T
k>T
0)おいて、信号灯器SGαが青から黄に変わり、ジレンマ領域DZに入ってしまうことが判明した場合を示している。
【0049】
このような場合に、本実施形態では、信号予定情報を更新する、すなわち信号灯器SGαにおける青表示時間を、通常より調整時間ΔT(秒)延長することで、ジレンマ領域DZに入ってしまうことを回避している。具体的には、
図4(B)として示す一例のように、自動運転車両VEが交差点CSの通過を完了した後となるようにすべく、信号制御機(交通信号制御機)SCにおいて、青延長をし、信号灯器SGαが青から黄に変わるタイミングをT=T
k+ΔTに変更して(タイミングを遅くして)いる。
【0050】
ここで、上記について、
図5として示す概念的なグラフを参照して、ジレンマ領域とその回避について考察する。
【0051】
まず、
図5(A)等において、横軸は、自動運転車両VEの信号灯器SGαからの距離x(m)を示し、縦軸は、自動運転車両VEの走行速度V(km/h)を示している。
図5(A)は、信号機TLが標準的に動作している場合、つまり、信号予定情報の更新を行うことなく、信号灯器SGαが青から黄に変わった時点(T=T
k)において、ジレンマ領域となる範囲とならない範囲とを示している。より具体的に説明すると、図中において、まず、曲線C1と直線L1とのうち、曲線C1は、自動運転車両VEが通常の減速動作によって安全に停止できる限界を示すものである。一方、直線L1は、自動運転車両VEがその時点(T=T
k)における速度を維持することで、信号灯器SGαが赤になる前に交差点CSの基準位置(例えば信号灯器SGαの設置位置)を通過できる限界を示している。
【0052】
この場合、曲線C1と直線L1とで分けられる図中の4つの領域のうち、領域Z1がジレンマ領域(ジレンマゾーン)を示すものとなる。例えば、領域Z2や領域Z4は、直線L1よりも上側(交差点CSに十分近く走行速度が速い)であり、
図4(B)に例示したように、自動運転車両VEの交差点CSの通過を完了させられる領域を示している。また、領域Z3や領域Z4は、曲線C1よりも下側(交差点CSから十分離れていて走行速度が遅い)であり、交差点CSの手前で自動運転車両VEを停止させることができる領域を示している。なお、領域Z4は、通過も停止も可能な範囲を示していることになる。以上のような各領域Z2~Z4とは異なり、領域Z1は、上記のいずれの態様ともならず、信号が黄になった際、進むべきか停止すべきか迷う範囲すなわちジレンマ領域(ジレンマゾーン)を示すものとなる。
【0053】
例えば
図5(A)において、領域Z1に属する点Q1に示すような速度V(例えばVα:法定最高速度、指定速度)及び位置(距離)x(例えばxα)に、自動運転車両VEがあると、自動運転車両VEは、ジレンマ領域に存在している、ということになる。見方を変えると、図示のように、時刻T=T
kにおいて、法定最高速度(又は指定速度)Vαで自動運転車両VEが走行しているとすると、破線PPと直線L1及び曲線C1との交点に対応する距離x1~距離x2までの間がジレンマ領域DZ(
図4参照)に相当し、この中に自動運転車両VEが位置することになると判明した場合、これに応じて、ジレンマ回避の処理が行われることになる。
【0054】
より具体的には、
図5(B)に例示するように、信号灯器SGαが青から黄に変わるタイミングをT=T
k+ΔTに変更すれば、自動運転車両VEが、例えば領域Z2に属する点Q2に示すような位置、すなわち点Q1と比べて、信号灯器SGαにより近づいた位置(距離)xβ(<x1)に到達した時点において、信号が切り替わることになり、ジレンマ回避ができる。
【0055】
また、以上では、青延長によるジレンマ回避について説明したが、青短縮によるジレンマ回避、すなわち信号を早めに黄、赤に切り替えて交差点CSの手前で自動運転車両VEを停止させることによるジレンマ回避を行う、という手法も考えられる。より具体的には、
図5(C)に例示するように、信号灯器SGαが青から黄に変わるタイミングをT=T
k-ΔTに変更することで、自動運転車両VEが、例えば領域Z3に属する点Q3に示すような位置、すなわち点Q1と比べて、信号灯器SGαからまだ遠い位置(距離)xγ(>x2)に存在する時点において、信号が切り替わることになり、ジレンマ回避ができる。
【0056】
青延長によるジレンマ回避を選択するか、青短縮によるジレンマ回避を選択するかについては、条件等によって、種々の態様がとり得ると考えられるが、例えば信号機TLにおいて延長や短縮を許容できる限界の時間に基づいて、選択することができる。この場合、例えば、調整部52bにおいて、算出部CCが、信号制御機(交通信号制御機)SCにおいて時間調整可能な範囲に応じて、調整時間ΔTとして、信号灯器SGαにおける青色点灯の状態を長くして自動運転車両VEを通過させるための時間と、信号灯器SGαにおける赤色点灯への変更を早めて自動運転車両VEを信号灯器の手前で停止させるための時間とのうち、いずれかを選択する態様としておくことが考えられる。
【0057】
以下、
図6として示すブロック図を参照して、自動運転車両VEにおける将来位置情報の生成について一例を説明する。
【0058】
既述のように、将来位置情報は、自動運転車両VEのうち、自動運転制御部AOに設けた将来位置情報生成部FGにより生成される。ここでは、将来位置情報生成部FGにおける将来位置情報の生成についてより具体的な一例について説明する。
【0059】
図示のように、ここでの一例では、まず、自動運転車両VEにおいて、自動運転制御部AOは、将来位置情報生成部FGに加え、データ受付部DRを有するものとする。データ受付部DRは、自動運転制御部AOを構成する各部からの情報を受け付ける。ここでは、自動運転制御部AOにおいて、自動運転車両VEの外的環境についての情報(外部情報)を取得する箇所全般を外部情報取得部ORとし、自動運転車両VEの内的環境についての情報(内部情報)を取得する箇所全般を内部情報取得部IRとし、データ受付部DRは、これらからの情報を受け付けるものとする。内部情報取得部IRには、例えば自動運転車両VEの現状の乗車人数を検知する搭乗者数検知部DTaや、自動運転車両VEの現状の総重量を検知する重量検知部DTbといった自動運転車両VEの現状の状態に関する各種情報を取得するものが含まれる。また、内部情報取得部IRには、車種や車両サイズ、エンジンの種類や走行履歴等といった自動運転車両VE自体に関する固有事項を示す情報を格納した車両情報格納部VDのようなものも含まれる。一方、外部情報取得部ORについては、典型的には、各種センシングシステムや外部との通信システム等が含まれ、これらにより検知される外部環境には、物体位置や路面状況、あるいは温度や湿度、天候等といった各種事項についての情報が含まれる。
【0060】
一方、将来位置情報生成部FGは、個体特性情報抽出部ESと、将来位置情報算出部CFとを有する、あるいは、これらとして機能する。
【0061】
個体特性情報抽出部ESは、データ受付部DRにおいて受け付けた各種情報のうちから、自動運転車両VEに固有の走行性能の情報を含む個体特性情報を抽出する。ここで、個体特性情報は、自動運転車両VEの特性を示す種々の情報が含まれ得るが、既述のように、例えば自動運転車両VEの現在位置及び現在速度の情報に加え、車種、天候及び乗車人数のうちいずれかに基づく走行性能の情報が含まれる。ここでは、個体特性情報抽出部ESにおいて、データ受付部DRを介して取得した種々の情報について、適宜峻別等がなされることで、走行性能に関与するものが、個体特性情報となるべきものとして抽出される。
【0062】
将来位置情報算出部CFは、個体特性情報抽出部ESにおいて抽出された個体特性情報から、将来位置情報となるべき情報、すなわち
図3(A)に例示したような現在地点を示す緯度経度の情報(自己位置推定情報)等に基づく単位時間ごと(例えば100ミリ秒経過ごと)の予測値の位置情報として、現在位置からのオフセット(距離)の値を算出する。このような値の算出に際しては、自動運転車両VEに元々固有の情報に加え、現時点での乗車人数や路面状態、天候等といった種々の要素が関係し得る。これらの要素を加味した上で将来位置情報を算出することで、より精度の高い将来位置予測が可能となる。延いては、このような個体特性情報に基づく将来位置情報を利用することで、より適切なジレンマ発生及びその回避のための各種処理がなされることになる。なお、既述のように、将来位置情報も、自動運転車両VEに固有の走行性能の情報を内在するものとなっているという観点からは、個体特性情報の一種である、とも言える。
【0063】
本実施形態の運転支援システム100では、判定部52aにおいて、自動運転車両VEに固有の走行性能の情報を含む個体特性情報に基づいて、より詳しくは、当該個体特性情報に基づき抽出される自動運転車両の将来位置情報から、信号灯器SGαに向かう(信号灯器SGαが設置された交差点CSに向かう)自動運転車両VEがジレンマ領域DZに存在することになるか否かを判定している。これにより、個々の車両個体の特性を踏まえ、より的確にジレンマ回避を可能とした運転支援を行えることが可能になっている。
【0064】
また、上記一例では、自動運転車両VEから運転支援装置SSへは、結果的に個体特性情報に基づき抽出された自動運転車両の将来位置情報が送信されるものとなっているが、これに限らず、例えば、
図3(A)に対応する
図7において示す他の一例のように、個体特性情報そのものを、他の情報と併せて、自動運転車両VEから運転支援装置SSに対して送信するものとしてもよい。すなわち、上記一例では、個体特性情報に基づく将来位置情報が、所定間隔で更新されるものとなっているが、これに限らず、例えば、自動運転車両VEが交差点CSを通過するまでの間、個体特性情報が、連続的に自動運転車両VEから運転支援装置SSへ送信され、都度更新されるものとなっていてもよい。
【0065】
例えば、
図5(A)等において示した曲線C1は、自動運転車両VEが通常の減速動作によって安全に停止できる限界を示すものであるが、この曲線の形状については、例えば通常の車両について平均的なものを予め固定的に設定しておくことも考えられるが、より正確には、個々の自動運転車両VEごとに、さらには自動運転車両VEの状況ごとに異なるものである。したがって、運転支援装置SS側すなわちインフラ側におけるジレンマ発生及びその回避の判断基準となる曲線C1を設定する上で、個体特性情報そのものを加味することで、判定部52aにおいて、より適切な判定が行える。特に、
図5(C)に示す青短縮により自動運転車両VEを交差点CSの手前で停止させる場合には、より的確に曲線C1を設定することで、判断精度の向上を図ることができる。
【0066】
以下、
図8として示すフローチャートを参照して、運転支援システム100のうち、運転支援装置SS(判定装置JD)を構成するジレンマゾーン回避判定ユニット(判定ユニット)52と、信号機TLを構成する信号制御機(交通信号制御機)SCとにおける一連の動作について、一例を説明する。
図8のうち、
図8(A)は、判定ユニット52における一連の動作について示すフローチャートであり、
図8(B)は、信号制御機SCにおける一連の動作について示すフローチャートである。
【0067】
まず、
図8(A)に示すように、路側装置である運転支援装置SSを構成している判定ユニット52は、運転支援の対象となる車両から将来位置情報を受信(取得)したか否かについて、確認がなされる(ステップS101:Yes)まで確認動作を継続する。特に、通信開始のためのトリガーとなる最初の将来位置情報を受信(取得)した場合、判定ユニット52は、運転支援対象となるべき自動運転車両VEを検出した旨の通知(車両検出通知)を、信号制御機SCに対して送信する。
【0068】
ステップS101において、将来位置情報の取得が確認されると(ステップS101:Yes)、判定ユニット52は、その将来位置情報から自動運転車両VEについてのジレンマ予測及び判定を行う(ステップS102)。すなわち、判定ユニット52は、判定部52aとして、自動運転車両VEが交差点CSを通過しようとするものであり、かつ、交差点CSの手前でジレンマ領域に存在することになるか(ジレンマ発生となるか)否かについて、予測し、判定する。
【0069】
ステップS102での判定の結果、ジレンマが発生することになると判定された場合(ステップS103:Yes)、判定ユニット52は、調整部52bとして、自動運転車両VEの進路に対応する信号灯器SGについて、青表示の延長(又は短縮)時間を算出し(ステップS104)、算出した時間に基づく調整依頼すなわち信号予定情報の更新依頼(時間調整依頼)を、信号制御機SCに対して送信する(ステップS105)。
【0070】
その後、判定ユニット52は、信号制御機SCからの応答(ステップS106)を待ち、応答としての新たな信号予定情報が来ると(ステップS106:Yes)、信号予定情報の更新をして(ステップS107)、更新した信号予定情報を、自動運転車両VEに対して送信する(ステップS108)。
【0071】
その後、判定ユニット52は、自動運転車両VEが交差点CSを通過したか否かを確認し(ステップS109)、完了が確認されれば(ステップS109:Yes)、一連の処理を終了する。なお、ステップS109において完了が確認された場合、判定ユニット52は、信号制御機SCに対してその旨の通知(通過完了通知)を行う。
【0072】
一方、ステップS109において、完了が確認されなければ(ステップS109:No)、ステップS101に戻って、次の将来位置情報(2回目またはそれ以降の将来位置情報)を待ち、以後の動作を、自動運転車両VEが交差点CSを通過完了したことが確認されるまで繰り返す。
【0073】
また、テップS103において、ジレンマが発生しないと判定された場合(ステップS103:No)、判定ユニット52は、特段の処理を行うことなく、現状の信号予定情報がそのまま維持され、維持された信号予定情報が、自動運転車両VEに対して送信される(ステップS108)。なお、この場合、2回目以降の将来位置情報においても変化が無ければ、ステップS108の送信は省略してもよい。
【0074】
次に、
図8(B)に示すように、他の路側装置である信号機TLを構成している信号制御機(交通信号制御機)SCは、判定ユニット52からの車両検知通知すなわち運転支援対象となるべき自動運転車両VEを検出したことの通知を待ち(ステップS201)、車両検知通知を受けると(ステップS201:Yes)、ステップS105に示す調整依頼すなわち信号予定情報の更新依頼(時間調整依頼)があるか否かを確認する(ステップS202)。
【0075】
ステップS202において、時間調整依頼があることを確認すると(ステップS202:Yes)、信号制御機SCは、依頼内容に応じて、対応する信号灯器SGの青表示の時間について延長(又は短縮)するための処理を行う(ステップS203)。すなわち、信号制御機SCは、信号予定情報の更新を行う。さらに、信号制御機SCは、更新した信号予定情報を判定ユニット52に対して送信する(ステップS204)。すなわち、信号制御機SCは、判定ユニット52からの時間調整依頼に対する返信をする。
【0076】
その後、信号制御機SCは、ステップS109において完了が確認された場合に判定ユニット52から送信される通過完了通知についての受信確認を行う(ステップS205)。
【0077】
また、ステップS202において、時間調整依頼がないことが確認された場合(ステップS202:No)にも、信号制御機SCは、通過完了通知についての受信確認を行う(ステップS205)。この場合、信号制御機SCは、特段の処理を行うことなく、通過完了通知の受信確認をすることになる。
【0078】
ステップS205において、通過完了通知の受信が確認されれば(ステップS205:Yes)、信号制御機SCは、対応する一の自動運転車両VEのためのジレンマに関する処理が完了したものとして、初期化処理を行い(ステップS206)、一連の処理を終了する。なお、初期化処理には、例えば当該自動運転車両VEに関する情報のクリアや、青表示の時間について変更した場合の整合処理等が含まれる。
【0079】
一方、ステップS205において、通過完了通知の受信が確認されない場合(ステップS205:No)、信号制御機SCは、ステップS202からの動作を繰り返す。すなわち、ジレンマ発生に伴う時間調整依頼の有無を確認する処理を再開し、通過完了通知の受信が確認されるまで、すなわち一の自動運転車両VEのためのジレンマに関する処理が完了するまで一連の動作を繰り返す。
【0080】
図9は、上述した運転支援システム100の構成や動作についての概要を示す概念図である。図示のように、また、既述のように、上述した運転支援システム100では、自動運転車両VEと通信をすることで、自動運転車両VEから、自動運転車両VEに固有の走行性能の情報を含む個体特性情報、あるいはこれに基づくことで自動運転車両VEに固有の走行性能の情報を含んでいる将来位置情報を取得し、判定部52aにおいて、取得した将来位置情報に基づきジレンマ領域に存在することになるか否かを判定している。さらに、運転支援システム100では、判定部52aでの判定結果に応じて、調整部52bを介してジレンマ回避のための信号灯器SGの動作調整を行うとともに、調整結果としての信号予定情報を、通信部30を介して自動運転車両VEに送信している。
【0081】
以上のように、本実施形態に係る運転支援システム100は、自動運転車両VEに固有の走行性能の情報を含む個体特性情報に基づき、信号灯器SGに向かう自動運転車両VEがジレンマ領域に存在することになるか否かを判定する判定部52aと、判定部52aでの判定結果に応じて、ジレンマ回避に要する信号灯器SGの灯色動作の調整を行う調整部52bと、調整部52bにおける調整結果の情報を自動運転車両VEに対して送信する通信部30とを備える。これにより、運転支援システム100では、自動運転車両VEの個体特性情報に基づいて、ジレンマ領域に存在することになるか否かを事前に判定し、ジレンマ回避のための信号灯器SGの灯色動作の調整を行うことで、個々の車両個体の特性を踏まえ、より的確にジレンマ回避を可能とした運転支援を行える。
【0082】
〔第2実施形態〕
以下、
図10を参照して、第2実施形態に係る運転支援システムについて一例を説明する。
図10(A)~
図10(C)は、本実施形態に係る運転支援システム100を設けた交差点CSにおける一動作例について概要説明をするための概念図であり、特に、運転支援システム100におけるジレンマ領域とその回避について説明するための図である。また、
図10(A)~
図10(C)は、
図4(A)等に対応する図である。本実施形態に係る運転支援システム100は、支援対象とすべき自動運転車両VEに対してこれに後続する車両が存在する場合に、これらの車両を一群のもの(車群)として取り扱う点において、第1実施形態の場合と異なっている。なお、上記相違点を除き、第1実施形態の場合と同様であるので、運転支援システム100の全体構成等については、説明を省略し、必要に応じて他の図を援用するものとする。
【0083】
本実施形態に係る一態様について、具体的に説明すると、まず、
図10(A)に例示するように、運転支援装置SSと自動運転車両VEとの通信が開始されているものとした場合において、自動運転車両VEの後続車両(例えば運転支援装置SSと通信しない一般車両)VVが、単数または複数存在しているとする。さらに、運転支援装置SSは、例えばセンサー部10(
図2等参照)での監視により、自動運転車両VEのみならず、後続車両VVまでも検知しているものとする。この場合、運転支援システム100は、例えば後続車両VVが自動運転車両VEから一定範囲内の距離に存在することを条件として、
図10(B)に例示するように、これらを一群のものとして、すなわち1つの車群GVとして取り扱い、車群GVがジレンマ領域DZに属するか否か等の判定を行うものとなっている。
【0084】
なお、この場合、先頭車両である自動運転車両VEから後続車両VVの末尾までの長さLL(進行方向に沿った距離)が例えば数十mあるいはそれ以上となる可能性がある。したがって、ここでは、第1実施形態の場合と同様の事項に加えて、さらに、長さLLを考慮して判定を行う。つまり、上記態様では、判定部52a(
図2等参照)は、自動運転車両VEから所定の車間距離内に存在する車両VVを含めた車群GVの長さLLに基づいて、自動運転車両VEがジレンマ領域に存在することになるか否かを判定するものとなっている。例えば、
図10(B)において、運転支援システム100の判定ユニット52(判定部52a)が、自動運転車両VEの将来位置情報から車群GVについてのジレンマ領域DZが存在するか否かを判定するに際して、長さLLの範囲まで考慮して判定する。また、ジレンマ回避に際しても、例えば、
図10(C)に例示するように、判定ユニット52(調整部52bの算出部CC)において、長さLLである車群GVの末尾までが対象となる信号灯器SGαを通過するか否かを基準として、調整時間ΔTが算出される。例えば、図示のように、青延長によりジレンマ回避を行う場合であれば、通常の延長時間に、長さLLを、交差点CSを通過する際の標準速度Vsで割った値に、さらにマージンの時間まで考慮した時間Te(>LL/Vs)を加えるようにして調整時間ΔTを算出することが考えられる。
【0085】
本実施形態においても、自動運転車両VEの個体特性情報に基づいて、ジレンマ領域に存在することになるか否かを事前に判定し、ジレンマ回避のための信号灯器SGの灯色動作の調整を行うことで、個々の車両個体の特性を踏まえ、より的確にジレンマ回避を可能とした運転支援を行える。特に、本実施形態では、複数連なる車両に対して、一括してジレンマ回避のための対応を行える。
【0086】
なお、上記一例では、自動運転車両VEが先頭車両であるものとしているが、これに限らず、車群GV中の2番目以降の車両が、運転支援システム100からの運転支援を受ける自動運転車両VEであってもよい。
【0087】
〔その他〕
この発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0088】
まず、上記においては、説明を簡略化するため、交差点CSを直進する自動運転車両VEについて、説明したが、運転支援システム100を導入する箇所等については、このような場合に限らず、信号機を有する種々の箇所において運転支援システム100を導入することが可能である。
【0089】
また、交差点CSの形状や構成等については、一例であり、これに限らず、種々の形状や構造となっている場合において適用可能である。
【0090】
また、運転支援システム100を構成するものとしては、上記以外にも種々の態様が考えられ、例えば、信号灯器SGにおいて、監視用のセンサー部が設けられている場合には、これをセンサー部10として援用する態様としてもよい。
【符号の説明】
【0091】
10…センサー部、11…カメラ部、12…測距部、30…通信部、50…主制御部、51…センサー制御部、52…ジレンマゾーン回避判定ユニット(判定ユニット)、52a…判定部、52b…調整部、100…運転支援システム、AO…自動運転制御部、C1…曲線、CC…調整時間算出部(算出部)、CF…将来位置情報算出部、CS…交差点、DD…検出領域、DR…データ受付部、DTa…搭乗者数検知部、DTb…重量検知部、DZ…ジレンマ領域、ES…個体特性情報抽出部、FG…将来位置情報生成部、FP1~FP4…点、GV…車群、IR…内部情報取得部、JD…判定装置、L1…直線、MB…移動体、OR…外部情報取得部、PP…破線、Q1~Q3…点、SC…信号制御機(交通信号制御機)、SG,SGα…信号灯器、SS…運転支援装置、T…時刻、TL…信号機、TT…通信部(無線部)、Te…時間、V…走行速度(速度)、VD…車両情報格納部、VE…自動運転車両、VV…後続車両(一般車両)、Vs…標準速度、Vα…法定最高速度(指定速度)、Z1~Z4…領域、x…位置(距離)、ΔT…調整時間