(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064699
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】光学測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/49 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
G01N21/49 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139055
(22)【出願日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021174531
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206967
【氏名又は名称】大塚電子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福谷 義樹
(72)【発明者】
【氏名】牟田口 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】長沢 広也
(72)【発明者】
【氏名】村上 典彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 幸次
(72)【発明者】
【氏名】古谷 勉
(72)【発明者】
【氏名】小島 広之
(72)【発明者】
【氏名】古賀 毅
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE01
2G059FF01
2G059GG01
2G059JJ19
2G059JJ20
2G059KK04
2G059LL02
2G059NN06
(57)【要約】
【課題】試料に光ビームを照射することで試料を測定する光学測定システムにおいて、測定精度を高めることができる新規な構成を提供する。
【解決手段】光学測定システムは、光ビームを発生する光源と、光源と試料との間に配置され、光ビームの偏光方向を制限する偏光子と、光ビームが試料に照射されて生じる散乱光を観測する検出器と、試料と検出器との間に配置された検光子とを含む。検光子は、光ビームの光軸との交差位置を含む光軸中心領域に入射する光に対して、光軸中心領域以外の領域に入射する光より大きな減衰を与える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームを発生する光源と、
前記光源と試料との間に配置され、前記光ビームの偏光方向を制限する偏光子と、
前記光ビームが前記試料に照射されて生じる散乱光を観測する検出器と、
前記試料と前記検出器との間に配置された検光子とを備え、
前記検光子は、前記光ビームの光軸との交差位置を含む光軸中心領域に入射する光に対して、前記光軸中心領域以外の領域に入射する光より大きな減衰を与える、光学測定システム。
【請求項2】
前記検光子は、前記光軸中心領域に入射した光の少なくとも一部を前記検出器へ透過させる、請求項1に記載の光学測定システム。
【請求項3】
前記検光子は、
第1の透過軸を有する第1の偏光板と、
前記第1の透過軸と直交する第2の透過軸を有する第2の偏光板と、
前記第1の偏光板と前記第2の偏光板との間に配置され、偏光方向をかく乱する、前記光軸中心領域に相当する領域に開口が設けられている光学素子とを含む、請求項1に記載の光学測定システム。
【請求項4】
前記光学素子は、前記第1の透過軸と前記第2の透過軸との間にある角度の第3の透過軸を有する第3の偏光板を含む、請求項3に記載の光学測定システム。
【請求項5】
前記光学素子は、位相差板および偏光解消板のいずれかを含む、請求項3に記載の光学測定システム。
【請求項6】
前記開口の大きさは、前記光ビームのビーム径に応じて設計される、請求項3に記載の光学測定システム。
【請求項7】
前記検光子は、同一面内に配置された、第1の透過軸を有する第1の領域と、前記第1の透過軸と直交する第2の透過軸を有する第2の領域とから構成され、
前記第1の領域と前記第2の領域とは、前記光軸中心領域に相当する部分を除いて、前記光ビームの光軸を含む平面に沿って接合されるとともに、前記光軸中心領域に相当する部分は前記第1の領域の一部として構成される、請求項1に記載の光学測定システム。
【請求項8】
前記第1の透過軸は、前記偏光子の透過軸と直交している、請求項7に記載の光学測定システム。
【請求項9】
前記光軸中心領域の大きさは、前記光ビームのビーム径に応じて設計される、請求項7に記載の光学測定システム。
【請求項10】
前記検光子と前記検出器との間に配置され、前記光ビームの光軸からの距離に依存して透過率が変化するように構成されたフィルタをさらに備える、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学測定システム。
【請求項11】
前記フィルタは、予め設計された濃淡パターンを印刷することで作成される、請求項10に記載の光学測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に生じる散乱パターンを測定するための光学測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高分子物質のミクロ構造を測定する方法の一つとして、小角光散乱法が知られている。小角光散乱法は、試料に光ビームを照射し、光ビームの照射によって生じる散乱光のパターンを観測することで、ミクロ構造を決定する方法である。例えば、特許文献1(特開平07-301602号公報)は、試料に偏光子を通った平行ビームを照射し、検光子を通して結像面に形成された散乱光のパターンを測定する光散乱測定装置において、粒子の大きさ、形態、配向等の物性値の情報を最大限引き出すことのできる物質の構造解析装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料に光ビーム(入射光)を照射することで、試料を透過した光(透過光)と、透過光が試料で散乱および/または回折された光(散乱光および/または回折光;以下、「散乱光」と総称する。)とが発生する。検出器には、透過光および散乱光の両方が入射する。測定対象である散乱光に比較して、透過光の強度は桁違いに大きく、検出器で検出可能なダイナミックレンジを十分に確保しなければ、部分的な飽和などが生じるため、十分な測定精度を維持できない。
【0005】
本発明の一つの目的は、試料に光ビームを照射することで試料を測定する光学測定システムにおいて、測定精度を高めることができる新規な構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある局面に従う光学測定システムは、光ビームを発生する光源と、光源と試料との間に配置され、光ビームの偏光方向を制限する偏光子と、光ビームが試料に照射されて生じる散乱光を観測する検出器と、試料と検出器との間に配置された検光子とを含む。検光子は、光ビームの光軸との交差位置を含む光軸中心領域に入射する光に対して、光軸中心領域以外の領域に入射する光より大きな減衰を与える。
【0007】
検光子は、光軸中心領域に入射した光の少なくとも一部を検出器へ透過させるようにしてもよい。
【0008】
検光子は、第1の透過軸を有する第1の偏光板と、第1の透過軸と直交する第2の透過軸を有する第2の偏光板と、第1の偏光板と第2の偏光板との間に配置され、偏光方向をかく乱する、光軸中心領域に相当する領域に開口が設けられている光学素子とを含んでいてもよい。
【0009】
光学素子は、第1の透過軸と第2の透過軸との間にある角度の第3の透過軸を有する第3の偏光板を含んでいてもよい。
【0010】
光学素子は、位相差板および偏光解消板のいずれかを含んでいてもよい。
【0011】
開口の大きさは、光ビームのビーム径に応じて設計されてもよい。
【0012】
検光子は、同一面内に配置された、第1の透過軸を有する第1の領域と、第1の透過軸と直交する第2の透過軸を有する第2の領域とから構成されてもよい。第1の領域と第2の領域とは、光軸中心領域に相当する部分を除いて、光ビームの光軸を含む平面に沿って接合されるとともに、光軸中心領域に相当する部分は第1の領域の一部として構成されてもよい。
【0013】
第1の透過軸は、偏光子の透過軸と直交していてもよい。
【0014】
光軸中心領域の大きさは、光ビームのビーム径に応じて設計されてもよい。
【0015】
光学測定システムは、検光子と検出器との間に配置され、光ビームの光軸からの距離に依存して透過率が変化するように構成されたフィルタをさらに含んでいてもよい。
【0016】
フィルタは、予め設計された濃淡パターンを印刷することで作成されてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のある実施の形態によれば、測定精度を高めることができる新規な構成を有する光学測定システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施の形態に従う光学測定システムの構成例を示す模式図である。
【
図2】本実施の形態に従う光学測定システムの偏光子および検光子の第1の構成例を示す模式図である。
【
図3】本実施の形態に従う光学測定システムの偏光子および検光子の第1の構成例を示す模式図である。
【
図4】
図2および
図3に示す光学測定システムを用いた測定手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本実施の形態に従う光学測定システム1の偏光子および検光子の第1の構成例の第1の変形例を示す模式図である。
【
図6】本実施の形態に従う光学測定システム1の偏光子および検光子の第1の構成例の第2の変形例を示す模式図である。
【
図7】本実施の形態に従う光学測定システム1の偏光子および検光子の第1の構成例の第3の変形例を示す模式図である。
【
図8】本実施の形態に従う光学測定システムの偏光子および検光子の第2の構成例を示す模式図である。
【
図9】
図8に示す検光子のより詳細な構成例を示す模式図である。
【
図10】
図8および
図9(B)に示す光学測定システムを用いた測定手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】本実施の形態に従う光学測定システムにおけるアポダイジングフィルタの配置例を示す模式図である。
【
図12】本実施の形態に従う光学測定システムにおいて使用されるアポダイジングフィルタの一例を示す模式図である。
【
図13】
図12に示すアポダイジングフィルタによる観測像に対する改善効果の一例を示す模式図である。
【
図14】本実施の形態に従う光学測定システムにおけるアポダイジングフィルタの作成手順の一例を示すフローチャートである。
【
図15】本実施の形態に従う光学測定システムに含まれる処理装置の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0020】
<A.光学測定システムの構成例>
まず、本実施の形態に従う光学測定システム1の構成例について説明する。光学測定システム1は、小角光散乱法を実現するための光学系を有している。
【0021】
図1は、本実施の形態に従う光学測定システム1の構成例を示す模式図である。
図1を参照して、光学測定システム1は、筐体16に配置された光学系として、光源10と、シャッタ12と、ND(Neutral Density)フィルタ14と、ミラー20,22と、偏光子30と、試料ホルダ24と、検光子40と、スクリーン50と、検出器60とを含む。
【0022】
光源10は、試料2に対して照射される入射光4である光ビームを発生する。光源10は、ヘリウムネオンレーザといったガスレーザ、固体レーザ、半導体レーザなどを用いることができる。光ビームのビーム径(直径)は、例えば、1mm程度である。
【0023】
シャッタ12は、ユーザが試料ホルダ24に試料2などを配置する際に、入射光4が照射されないように遮光する。シャッタ12は、筐体16に設けられた試料2を出し入れするための扉(図示しない)と連動するように構成されてもよい。すなわち、ユーザが扉を開けている状態では、入射光4が試料2に照射できないようにしてもよい。
【0024】
NDフィルタ14は、光源10が発生する入射光4の強度を調整する。NDフィルタ14は、減衰量を調整できるようになってもよい。これによって、試料2に照射される入射光4の強度を試料2の厚さなどに応じて調整できる。
【0025】
ミラー20およびミラー22は、入射した入射光4を反射することで、光源10が照射する入射光4の光路を折り曲げる。
【0026】
偏光子30は、光源10と試料2との間に配置され、光源10が発生する入射光4の偏光方向を制限する。偏光子30は、光軸を中心として回転可能に構成されており、入射光4の偏光方向を制限する向きを変化させることができる。
【0027】
試料ホルダ24は、偏光子30と検光子40との間に配置され、試料2を保持する。
【0028】
検光子40は、試料2と検出器60との間に配置され、試料2を観測して得られる像の偏光方向を選択する。
【0029】
スクリーン50は、検光子40を透過した後の光を受光する。すなわち、スクリーン50には、検光子40を透過した後の光(透過光6および散乱光8を含む)の像が現れる。
【0030】
検出器60は、入射光4が試料2に照射されて生じる像を観測する。検出器60は、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary MOS)イメージセンサなどの2次元検出器であってもよいし、フォトマルチプライヤなどの1次元検出器であってもよい。
【0031】
なお、
図1には、スクリーン50に投影された像を検出器60が観測する構成例を示すが、スクリーン50を取り除き、試料2を透過した後の光(透過光6および散乱光8を含む)が検出器60に直接入射するようにしてもよい。この場合には、試料2を透過した後の光の像は、検出器60内部の撮像素子上に投影されることになる。
【0032】
また、
図1には、光学系をコンパクト化するために、2つのミラー20,22を用いて光路を折り曲げているが、ミラー20,22は必ずしも必要はなく、光源10から検出器60までを一直線としてもよいし、その他の光路の形態を採用してもよい。
【0033】
光学測定システム1は、検出器60の検出結果を解析して、試料2のミクロ構造を特定するための測定結果を算出する。スクリーン50には、試料2の結晶状態や構造の物性情報を反映した散乱パターンが現れる。現れる散乱パターンは、試料2が有する構造のフーリエ変換パターンに相当する。処理装置100は、スクリーン50に現れる散乱パターンに基づいて、試料2の構造および形態を解析する。
【0034】
光学測定システム1は、Vv散乱およびHv散乱により現れる像を観測する。Vv散乱は、偏光子30の透過軸と検光子40の透過軸とが平行である状態において生じる散乱である。Vv散乱により生じる散乱パターン(以下、「Vv散乱パターン」とも称す。)は、偏光維持成分を反映したものとなる。一方、Hv散乱は、偏光子30の透過軸と検光子40の透過軸とが直交した測定状態で生じる散乱である。Hv散乱により生じる散乱パターン(以下、「Hv散乱パターン」とも称す。)は、偏光解消成分を反映したものとなる。
【0035】
試料2が光学的に等方的な内部構造を有している場合には、内部構造を反映したVv散乱パターンが現れ、Hv散乱パターンは現れない。これに対して、試料2が光学的に異方的な内部構造を有している場合には、内部構造を反映したVv散乱パターンおよびHv散乱パターンが現れる。Vv散乱とHv散乱との強度比は、光学異方性の存在の指標になる。
【0036】
光学測定システム1においては、光源10が発生する入射光4の光軸との交差位置を含む光軸中心領域に入射する光に対して、光軸中心領域以外の領域に入射する光より大きな減衰を与える検光子40を採用する。このような検光子40を採用することで、検出器60が観測する像において、試料2からの透過光6と散乱光8との強度差を抑制できる。これによって、検出器60がより正確に像を観測でき、測定精度を高めることができる。
【0037】
<B.偏光子および検光子の第1の構成例>
次に、本実施の形態に従う光学測定システム1の偏光子および検光子の第1の構成例について説明する。
【0038】
図2および
図3は、本実施の形態に従う光学測定システム1の偏光子および検光子の第1の構成例を示す模式図である。
図2には、Vv散乱パターンを測定する場合の光学系を示し、
図3には、Hv散乱パターンを測定する場合の光学系を示す。
【0039】
図2を参照して、偏光子30は、第1の透過軸を有する偏光板31からなる。一例として、偏光板31は、90°方向に透過軸(時間表示で3時-9時の方向)を有している。
【0040】
なお、説明の便宜上、各偏光板の透過軸の具体的な角度を示すが、各偏光板の透過軸の具体的な角度は、便宜上でのものであり、技術的な意味はない。後述するような、偏光板の透過軸間の相対的な関係が維持される限り、透過軸の角度についてはどのように定義してもよい。
【0041】
検光子40は、偏光板41,42,43からなる。Vv散乱パターンを測定するために、偏光板41は、偏光子30の偏光板31と平行な方向に偏光方法を制限する。
図2に示す例では、偏光板41は、90°方向に透過軸(時間表示で3時-9時の方向)を有している。偏光子30の偏光板31の透過軸と検光子40の偏光板41の透過軸とは、平行な状態に構成される。
【0042】
偏光板42,43は、偏光板41を透過した透過光6および散乱光8のうち、透過光6をより大きく減衰させる。より具体的には、偏光板42には、入射光4の光軸AXとの交差位置を含む光軸中心領域に相当する領域に開口44が設けられている。開口44は、主として、透過光6を偏光状態に影響を受けることなく偏光板42を通過させることを目的に構成されている。そのため、開口44の大きさは、透過光6のビーム径に応じて決定される。より具体的には、開口44は、試料2を透過した透過光6のみを通過させ、試料2で生じた散乱光8がなるべく通過しないような大きさに設計される。
【0043】
より具体的には、開口44の大きさは、入射光4のビーム径の数倍程度(好ましくは、1~3倍程度)に設計してもよい。例えば、入射光4のビーム径が1mmである場合には、開口44の径(直径)は、1~3mmとすることができる。
【0044】
偏光板42は、偏光板41の透過軸から時計回りに45°傾いた透過軸(135°方向;時間表示で4時半-10時半の方向)を有している。偏光板43は、偏光板42の透過軸からさらに時計回りに45°傾いた透過軸(180°方向;時間表示で6時-12時の方向)を有している。すなわち、偏光板43は、偏光板41の透過軸と直交する透過軸を有している。
【0045】
図2に示す光学系において、試料2で生じた透過光6の偏光方向は、偏光板31の透過軸(90°方向;時間表示で3時-9時の方向)に制限されているので、透過光6は、偏光板31の透過軸と平行な透過軸を有する偏光板41を透過する。続いて、透過光6は、偏光板42の開口44を通過するので、偏光板42の影響を受けることなく、偏光板43に入射する。偏光板43の透過軸は、180°方向(時間表示で6時-12時の方向)であり、透過光6の偏光方向と直交する。その結果、透過光6は、偏光板43において大きく減衰することになる。すなわち、偏光板43が透過光6のビームストッパーになる。
【0046】
なお、理論的には、透過光6は偏光板43を透過できない(すなわち、透過率がゼロ)が、実際には、若干の漏れ出しがあり、この漏れ出た透過光6を検出器60により観測することができる。このように、検光子40は、光軸中心領域である開口44に入射した光の少なくとも一部を検出器60へ透過させる。
【0047】
検光子40に入射する漏れ出た透過光6の強度は、試料2に入射する透過光6の強度の1/1000~1/10000程度になる。
【0048】
一方、試料2で生じた散乱光8は、偏光板41に入射する。偏光板41は、90°方向に透過軸(時間表示で3時-9時の方向)を有している。そのため、散乱光8に含まれる成分のうち偏光維持成分(偏光方向が試料2で変化しない成分)は、偏光板41を透過することができる。
【0049】
続いて、散乱光8のうち偏光維持成分は、偏光板42を透過することで、偏光方向が135°方向(時間表示で4時半-10時半の方向)に変化する。すなわち、散乱光8が偏光板42を透過することで、偏光方向が時計回りに45°変化するとともに、強度は1/2(=cos245°)に減衰する。
【0050】
さらに続いて、散乱光8のうち偏光維持成分は、偏光板43を透過することで、偏光方向が180°方向(時間表示で3-9時の方向)に変化する。すなわち、散乱光8が偏光板43を透過することで、偏光方向がさらに時計回りに45°変化するとともに、強度はさらに1/2(=cos245°)に減衰する。
【0051】
その結果、試料2で生じた散乱光8のうち偏光維持成分は、強度が1/4に減衰した上で、スクリーン50に投影されることになる。
【0052】
上述したように、スクリーン50には、試料2で生じた散乱光8のうち偏光維持成分(強度は1/4に減衰している)と、漏れ出した微弱な透過光6とが投影されることになる。この投影された像は、微弱な透過光6を含むVv散乱パターンとなる。検出器60は、スクリーン50に投影された像を観測する。
【0053】
図3を参照して、Hv散乱パターンを測定する場合の光学系は、
図2に示すVv散乱パターンを測定する場合の光学系に比較して、偏光板31の透過軸が90°回転している点のみが異なっている。
【0054】
すなわち、偏光子30の偏光板31は、180°方向に透過軸(時間表示で6時-12時の方向)を有している。
【0055】
Hv散乱パターンを測定するために、偏光板41は、偏光子30の偏光板31と直交する方向に偏光方向を制限する。
図3に示す例では、偏光板41は、90°方向に透過軸(時間表示で3時-9時の方向)を有している。偏光子30の偏光板31の透過軸と検光子40の偏光板41の透過軸とは、直交した状態に構成される。
【0056】
検光子40の偏光板42,43は、
図2において説明したものと同様である。
【0057】
図3に示す光学系において、試料2で生じた透過光6の偏光方向は、偏光板31の透過軸(180°方向;時間表示で6時-12時の方向)に制限されている。そのため、透過光6は、偏光板31の透過軸と直交する透過軸を有する偏光板41において大きく減衰することになる。すなわち、偏光板41が透過光6のビームストッパーになる。
【0058】
なお、透過光6の一部は、偏光板41から漏れ出ることになるが、偏光板43によりほぼ遮光される。そのため、
図3に示す光学系においては、実質的に、検出器60により透過光6が測定されることはない。
【0059】
一方、試料2で生じた散乱光8は、偏光板41に入射する。偏光板41は、90°方向に透過軸(時間表示で3時-9時の方向)を有している。そのため、散乱光8に含まれる成分のうち偏光解消成分(偏光方向が試料2で変化した成分)は、偏光板41を透過することができる。
【0060】
続いて、散乱光8のうち偏光解消成分は、偏光板42を透過することで、偏光方向が135°方向(時間表示で4時半-10時半の方向)に変化する。すなわち、散乱光8が偏光板42を透過することで、偏光方向が時計回りに45°変化するとともに、強度は1/2(=cos245°)に減衰する。
【0061】
さらに続いて、散乱光8のうち偏光解消成分は、偏光板43を透過することで、偏光方向が180°方向(時間表示で3-9時の方向)に変化する。すなわち、散乱光8が偏光板42を透過することで、偏光方向がさらに時計回りに45°変化するとともに、強度はさらに1/2(=cos245°)に減衰する。
【0062】
その結果、試料2で生じた散乱光8のうち偏光解消成分は、強度が1/4に減衰した上で、スクリーン50に投影されることになる。
【0063】
上述したように、スクリーン50には、試料2で生じた散乱光8のうち偏光解消成分(強度は1/4に減衰している)が投影されることになる。この投影された像は、Hv散乱パターンとなる。検出器60は、スクリーン50に投影された像を観測する。
【0064】
なお、Vv散乱パターンおよびHv散乱パターンを測定するためには、偏光子30の透過軸と検光子40の透過軸とを平行および直交にそれぞれ切り替えることができればよい。
図2および
図3に示す光学系においては、検光子40(偏光板41,42,43の全体)を維持した状態で、偏光子30(偏光板31)を90°回転することで、2つの状態を構成する例を示すが、偏光子30(偏光板31)を維持した状態で、検光子40(偏光板41,42,43の全体)全体を90°回転させるようにしてもよい。
【0065】
また、
図3に示す光学系においては、検出器60により透過光6が観測されることはない。そのため、試料2を透過した透過光6に基づく偏光解消透過率を算出できない。偏光解消透過率を算出する必要がある場合には、
図3に示す光学系において、偏光子30の偏光板31の透過軸と検光子40の偏光板41の透過軸とが直交した状態で両者を一体として90°回転させるとともに、偏光板41の透過軸と偏光板43の透過軸とが平行となるようにした状態で、透過光6を測定する。あるいは、検光子40の偏光板43の透過軸を90°回転させるとともに、偏光板41の透過軸と偏光板43の透過軸とが平行となるようにした状態で、透過光6を測定する。
【0066】
また、
図2および
図3に示す光学系においては、偏光板41の透過軸と偏光板43の透過軸との間にある角度の透過軸を有する(典型的には、45°回転した)偏光板42が1枚配置されているが、複数枚の偏光板42を配置してもよい。
【0067】
図4は、
図2および
図3に示す光学測定システム1を用いた測定手順の一例を示すフローチャートである。
図4を参照して、ユーザは、Vv散乱パターンを測定するための光学系(
図2)、または、Hv散乱パターンを測定するための光学系(
図3)を構成する(ステップS10)。続いて、ユーザは、試料ホルダ24に試料2を配置する(ステップS11)。そして、ユーザは、入射光4を試料2に照射して、スクリーン50に現れる像を検出器60で観測する(ステップS12)。
【0068】
処理装置100は、観測された像(Vv散乱パターンまたはHv散乱パターン)に基づいて解析処理を行って、測定結果を出力する(ステップS13)。
【0069】
なお、光学測定システム1に対するキャリブレーションが予め行われているとする。
【0070】
一般的に、Vv散乱パターンおよびHv散乱パターンのいずれか一方のみが測定されることが多いが、Vv散乱パターンおよびHv散乱パターンの両方を測定する場合には、光学系を変更して、
図4に示す処理手順が繰り返される。
【0071】
上述したように、透過軸が90°回転している2つの偏光板41および偏光板43を配置するとともに、偏光板41と偏光板43との間に、偏光板41の透過軸と偏光板43の透過軸との間にある角度の透過軸を有する偏光板42が配置される。また、偏光板42には、入射光4の光軸AXとの交差位置を含む光軸中心領域に相当する部分に開口44が設けられている。
【0072】
このような光学系を採用することによって、小角光散乱法に用いられる検光子40としての機能とともに、透過光6のビームストッパーとしての機能を実現できる。このように、検光子40は、入射光4の光軸AXとの交差位置を含む光軸中心領域(偏光板42に設けられた開口44)に入射する光に対して、光軸中心領域以外の領域に入射する光より大きな減衰を与える。
【0073】
なお、
図2に示す光学系においては、透過光6は完全に遮光されるのではなく、一部は漏れ出すので、透過光6を含む像を検出器60により観測できる。そのため、検出器60のダイナミックレンジを大きくすることなく、透過光6を含む像を観測できることで、散乱光8だけではなく、透過光6の情報も取得できる。検光子40に入射する漏れ出た透過光6の強度は、試料2に入射する透過光6の強度の1/1000~1/10000程度になる。
【0074】
散乱光8だけではなく、透過光6の情報を同時に取得することで、例えば、散乱光8の強度が変化した場合に、当該変化を生じさせた要因(例えば、入射光4の強度変化、試料2の透明度の変化、試料2の散乱体の変化など)を推定することができる。
【0075】
また、偏光板42に開口44を設けるだけでよいので、作成が容易である。例えば、ビームストッパーの構成例としては、検光子40とスクリーン50との間に遮光物を配置する、あるいは、スクリーン50上に直接遮光物を配置するなどの方法もあるが、これらの方法に比較して、本実施の形態に従うビームストッパーの構成は容易である。また、スクリーン50に投影される像に対するノイズなどの影響も低減できる。
【0076】
このように、第1の構成例によれば、光学的原理が明解であり、開口44を設けるための加工も比較的容易である。
【0077】
<C.偏光子および検光子の第1の構成例の変形例>
上述の第1の構成例においては、偏光板41の透過軸と偏光板42の透過軸との間に45°の差を設けることで、散乱光8は、透過光6に比較して偏光板43を透過しやすくなる。すなわち、偏光板41を透過した散乱光8の偏光方向をかく乱することで、偏光板43に対する透過性を高める。
【0078】
このように、本実施の形態に従う光学測定システム1の検光子40は、偏光板41と、偏光板41の透過軸と直交する透過軸を有する偏光板43とを含む。検光子40は、偏光板41と偏光板42との間に配置され、偏光板41を透過した光の偏光方向をかく乱する光学素子をさらに含む。
図2および
図3には、光学素子として、偏光板42を採用する構成例を示すが、偏光板41を透過した散乱光8の偏光方向をかく乱する別の光学素子を採用してもよい。偏光方向をかく乱する光学素子としては、位相差板や偏光解消板を用いることができる。以下、第1の構成例のいくつかの変形例について説明する。
【0079】
(c1:1/4波長板)
まず、位相差板の一例として、1/4波長板を用いる構成例について説明する。
【0080】
図5は、本実施の形態に従う光学測定システム1の偏光子および検光子の第1の構成例の第1の変形例を示す模式図である。説明の便宜上、
図5には、Vv散乱パターンを測定する場合の光学系を示すが、Hv散乱パターンを測定する場合には、
図3と同様に、偏光板31の透過軸を90°回転させればよい。
【0081】
図5を参照して、検光子40Aは、
図2および
図3に示す検光子40に比較して、偏光板42を1/4波長板42Aに変更している。1/4波長板42Aは、入射する光に含まれる直交する偏光成分間にπ/2(=1/4波長)の位相差を与える。偏光板41を透過した散乱光8は、直線偏光となっているが、1/4波長板42Aを透過することで、円偏光となる。円偏光の散乱光8が偏光板43に入射することで、その一部が偏光板43を透過する。
【0082】
試料2で生じた散乱光8の偏光維持成分および偏光解消成分のいずれについても、強度が1/2に減衰した上で、スクリーン50に投影されることになる。第1の変形例によれば、上述の第1の構成例と同様に、光学的原理が明解であり、開口44を設けるための加工も比較的容易であるという利点に加えて、散乱光8の像をより高い強度で観測できるという利点もある。
【0083】
(c2:1/2波長板)
次に、位相差板の別の一例として、1/2波長板を用いる構成例について説明する。
【0084】
図6は、本実施の形態に従う光学測定システム1の偏光子および検光子の第1の構成例の第2の変形例を示す模式図である。説明の便宜上、
図6には、Vv散乱パターンを測定する場合の光学系を示すが、Hv散乱パターンを測定する場合には、
図3と同様に、偏光板31の透過軸を90°回転させればよい。
【0085】
図6を参照して、検光子40Bは、
図2および
図3に示す検光子40に比較して、偏光板42を1/2波長板42Bに変更している。1/2波長板42Bは、入射する光に含まれる直交する偏光成分間にπ(=1/2波長)の位相差を与える。その結果、偏光板41を透過した散乱光8が1/2波長板42Bを透過すると、偏光方向が90°回転することになる。1/2波長板42Bを透過した散乱光8の偏光方向は、偏光板43の透過軸と一致することになるため、偏光板43を透過する。
【0086】
試料2で生じた散乱光8の偏光維持成分および偏光解消成分のいずれについても、(理論的には)強度を維持したままスクリーン50に投影されることになる。第2の変形例によれば、光学的原理が明解であり、散乱光8の像をより高い強度で観測できる。
【0087】
なお、位相差板の一例として、1/4波長板および1/2波長板を用いる構成例について説明したが、入射する光に含まれる偏光成分に対して所定の位相差を与える(すなわち、偏光方向をかく乱する)ものであれば、どのような位相差板(光学素子)を用いてもよい。
【0088】
(c3:偏光解消板)
次に、偏光解消板を用いる構成例について説明する。
【0089】
図7は、本実施の形態に従う光学測定システム1の偏光子および検光子の第1の構成例の第3の変形例を示す模式図である。説明の便宜上、
図7には、Vv散乱パターンを測定する場合の光学系を示すが、Hv散乱パターンを測定する場合には、
図3と同様に、偏光板31の透過軸を90°回転させればよい。
【0090】
図7を参照して、検光子40Cは、
図2および
図3に示す検光子40に比較して、偏光板42を偏光解消板42Cに変更している。偏光解消板42Cは、入射する光の偏光方向をランダム化することによって、偏光状態を緩和する。その結果、偏光板41を透過した散乱光8が偏光解消板42Cを透過すると、偏光板41を透過することで生じている直線偏光が緩和される。偏光解消板42Cを透過した散乱光8の偏光状態が緩和される(理想的には、解消される)ので、偏光板43の透過軸に影響を受けず、偏光板43を透過する。
【0091】
偏光解消板42Cとしては、典型的には、(1)偏光解消機能(偏光状態を緩和する機能)を有しているが、拡散機能は有していないもの(例えば、デポラライザーなど)と、(2)偏光解消機能および拡散機能の両方を有しているもの(例えば、トレーシングペーパなど)との2種類が想定される。なお、(1)偏光解消機能のみを有する偏光解消板42Cを用いる場合には、偏光解消板42Cを透過する光の強度の減衰は無視できる。
【0092】
(1)偏光解消機能のみを有する偏光解消板42Cを用いる場合には、試料2で生じた散乱光8の偏光維持成分および偏光解消成分のいずれについても、強度の減衰は偏光板43を透過する際の減衰(理論的には、強度が1/2に減衰)のみであるので、散乱光8の像をより高い強度で観測できる。
【0093】
また、(2)偏光解消機能および拡散機能の両方を有している偏光解消板42Cを用いる場合には、偏光解消板42C自体がスクリーン50として機能する。そのため、
図7に示すスクリーン50を省略することもできる。その結果、スクリーン50に投影することで生じる強度の減衰を無くすことができるので、光学系全体としては、散乱光8の像をより高い強度で観測できる。
【0094】
<D.偏光子および検光子の第2の構成例>
次に、本実施の形態に従う光学測定システム1の偏光子および検光子の第2の構成例について説明する。
【0095】
図8は、本実施の形態に従う光学測定システム1の偏光子および検光子の第2の構成例を示す模式図である。
図8を参照して、光学測定システム1は、検光子40として、複合型の偏光板を含んでいる。検光子40は、Vv散乱パターンおよびHv散乱パターンを同時に観測するように2種類の透過軸を有している。
【0096】
より具体的には、検光子40は、偏光子30(偏光板32)の透過軸と平行な透過軸を有する偏光板と、偏光子30の透過軸と直交した透過軸を有する偏光板とから構成される。そのため、スクリーン50には、Vv散乱パターンとHv散乱パターンとを組み合わせた像が現れる。
【0097】
図9は、
図8に示す検光子40のより詳細な構成例を示す模式図である。
【0098】
図9(A)には、比較例として、いずれも長方形の断面をもつ偏光板45および偏光板46からなる検光子40を示す。偏光板45の透過軸は、偏光板32(
図8参照)の透過軸と直交しており、偏光板46の透過軸は、偏光板32(
図8参照)の透過軸と平行である。
【0099】
偏光板45と偏光板46とを接着テープで接合した場合に観測される像51の一例を示す。この構成例においては、偏光板45と偏光板46とを接着テープで接合するだけで済むので、検光子40の作成は容易である。但し、像51においては、接着テープに対応する部分が欠落しており、測定できる散乱光8の情報量が少なくなってしまう。
【0100】
また、偏光板45と偏光板46とを接着剤で接合した場合に観測される像52の一例を示す。この構成例においては、偏光板45と偏光板46とを接着剤で接合するだけで済むので、検光子40の作成は比較的容易である。但し、像52においては、偏光板45と偏光板46との接合面に試料2からの透過光6が漏れ出すので、観測される像52に含まれるVv散乱パターンおよびHv散乱パターンに対してノイズが生じてしまう。
【0101】
そこで、本実施の形態に従う光学測定システム1は、
図9(B)に示すような、断面が非対称な検光子40を採用する。
【0102】
より具体的には、検光子40は、偏光板47と偏光板48とを接合させた構造となっている。偏光板47の透過軸は、偏光子30(偏光板32(
図8参照))の透過軸と直交しており、偏光板48の透過軸は、偏光子30(偏光板32(
図8参照))の透過軸と平行である。このように、検光子40は、同一面内に配置された、所定方向の透過軸を有する偏光板47(第1の領域)と、偏光板47の透過軸と直交する透過軸を有する偏光板48(第2の領域)とから構成される。
【0103】
偏光板47の断面形状は、長方形に加えて、入射光4の光軸AXとの交差位置を含む光軸中心領域に相当する半円部49が追加されている。半円部49は、偏光板47の一部として構成されている。
【0104】
偏光板48の断面形状は、偏光板47と組み合わせられることで、略正方形になるように設計されている。また、偏光板47と偏光板48とは接着剤で接合されている。その結果、偏光板47と偏光板48とは、光軸中心領域(半円部49)に相当する部分を除いて、入射光4の光軸AXを含む平面に沿って接合されることになる。また、光軸中心領域(半円部49)に相当する部分については、光軸AXから所定距離だけ離れて、光軸AXに平行な半円柱の表面形状に沿って、偏光板48と接合することになる。
【0105】
試料2からの透過光6は、主として半円部49に入射することになる。半円部49を含む偏光板47の透過軸は、偏光板32(
図8参照)の透過軸と直交している。そのため、透過光6は、偏光板32の透過軸と直交する透過軸をもつ半円部49において大きく減衰することになる。すなわち、半円部49が透過光6のビームストッパーになる。なお、理論的には、透過光6は半円部49を透過できない(すなわち、透過率がゼロ)が、実際には、若干の漏れ出しがあり、この漏れ出た透過光6を検出器60により測定することができる。このように、検光子40は、光軸中心領域である開口44に入射した光の少なくとも一部を検出器60へ透過させる。
【0106】
光軸中心領域(半円部49)の大きさは、透過光6のビーム径に応じて決定される。より具体的には、半円部49の大きさ(半径)は、入射光4のビーム半径の数倍程度(好ましくは、1~3倍程度)に設計してもよい。例えば、入射光4のビーム半径が0.5mmである場合には、半円部49の半径は、0.5~1.5mmとすることができる。
【0107】
図9(B)に示す検光子40を用いた場合に観測される像53の一例を示す。像53においては、Vv散乱パターンおよびHv散乱パターンの両方が現れるとともに、透過光6も観測することができる。
【0108】
図10は、
図8および
図9(B)に示す光学測定システム1を用いた測定手順の一例を示すフローチャートである。
図10を参照して、ユーザは、
図8および
図9(B)に示す光学系を構成する(ステップS20)。続いて、ユーザは、試料ホルダ24に試料2を配置する(ステップS21)。そして、ユーザは、入射光4を試料2に照射して、スクリーン50に現れる像を検出器60で観測する(ステップS22)。処理装置100は、ステップS22において観測された像(Vv散乱パターンおよびHv散乱パターンを含む)に基づいて解析処理を行って、測定結果を出力する(ステップS23)。
【0109】
なお、光学測定システム1に対するキャリブレーションが予め行われているとする。
【0110】
上述したように、小角光散乱法の検光子40として、偏光子30を透過後の透過光6の偏光方向に対して、水平方向および直交方向の透過軸をそれぞれ有する偏光板を採用することで、Hv散乱パターンおよびVv散乱パターンを同時に観測できる。
【0111】
但し、2つの偏光板を接合した場合には、接合面から漏れ出た入射光が検出器60に入射し得る。そこで、本実施の形態に従う光学測定システム1においては、透過光6の偏光方向に対して直交方向の透過軸を有する偏光板47に対して、入射光4の光軸AXとの交差位置を含む光軸中心領域に相当する半円部49を設ける。半円部49は、ビームストッパーとして機能することになる。このように、検光子40は、入射光4の光軸AXとの交差位置を含む光軸中心領域(偏光板47に設けられた半円部49)に入射する光に対して、光軸中心領域以外の領域に入射する光より大きな減衰を与える。なお、透過光6は半円部49で完全に遮光されるのではなく、一部は漏れ出すので、透過光6を含む像を検出器60により観測できる。そのため、検出器60のダイナミックレンジを大きくすることなく、透過光6を含む像を観測できることで、散乱光8だけではなく、透過光6の情報も取得できる。
【0112】
散乱光8だけではなく、透過光6の情報を同時に取得することで、例えば、散乱光8の強度が変化した場合に、当該変化を生じさせた要因(例えば、入射光4の強度変化、試料2の透明度の変化、試料2の散乱体の変化など)を推定することができる。
【0113】
本実施の形態に従う光学測定システム1においては、ビームストッパーを独立して用意する必要がない上に、Hv散乱パターンおよびVv散乱パターンを同時に観測できるため、製造コストを低減できるとともに、測定時間を短縮できる。
【0114】
また、Vv散乱パターンおよびHv散乱パターンを同じタイミングで観測できるので、動的評価(例えば、時間および温度に対する物質の構造変化の評価)をより正確に行うことができる。すなわち、同一の試料2について、Vv散乱パターンおよびHv散乱パターンを別々に観測した場合には、測定タイミングおよび温度などの測定環境が異なるため、時間および温度を一致させたVv散乱パターンとHv散乱パターンとの対比を正確に行うことができない。これに対して、本実施の形態に従う光学測定システム1においては、Vv散乱パターンおよびHv散乱パターンを同じタイミングで観測できるので、測定タイミングおよび測定環境を一致させて、Vv散乱パターンとHv散乱パターンとを対比することができる。
【0115】
<E.アポダイジングフィルタ>
次に、測定精度を高めるアポダイジングフィルタについて説明する。
【0116】
小角光散乱法で測定を行った場合において、小角領域の散乱光の強度が広角領域の散乱光の強度に比較して数桁も大きくなることがある。このような場合には、検出器60の検出可能なダイナミックレンジを超えてしまうことがある。そのため、アポダイジングフィルタを使用することで、検出器60のダイナミックレンジを大きくすることなく、透過光6を含む像を観測できる。アポダイジングフィルタは、光軸の中心から外側に向かって透過率を連続的に変化させるフィルタである。
【0117】
図11は、本実施の形態に従う光学測定システム1におけるアポダイジングフィルタ55の配置例を示す模式図である。
図11を参照して、アポダイジングフィルタ55は、例えば、スクリーン50の検出器60の側に配置されている。
【0118】
但し、アポダイジングフィルタ55は、検光子40と検出器60との間の任意の位置に配置できる。例えば、スクリーン50の検光子40の側に配置されてもよいし、検光子40の検出器60の側に配置されてもよい。さらに、スクリーン50とは独立して、アポダイジングフィルタ55単独で配置されてもよい。
【0119】
アポダイジングフィルタ55は、強度プロファイルを変換するフィルタである。
【0120】
図12は、本実施の形態に従う光学測定システム1において使用されるアポダイジングフィルタ55の一例を示す模式図である。
図12を参照して、アポダイジングフィルタ55は、入射光4の光軸AXを中心として、光軸AXからの距離に依存して透過率が変化するように構成されている。
【0121】
例えば、
図12に示すアポダイジングフィルタ55の光軸AXからの距離と透過率との関係は、以下のようになる。(0%,0%),(7%,10%),(14%,20%),(21%,30%),(28%,40%),(35%,50%),(42%,60%),(49%,70%),(56%,80%),(63%,90%)。
【0122】
図13は、
図12に示すアポダイジングフィルタ55による観測像に対する改善効果の一例を示す模式図である。
図13には、説明の便宜上、単純な回折光の測定例を示す。
【0123】
図13(A)には、アポダイジングフィルタ55を配置していない状態で観測された回折像の一例を示し、
図13(B)には、アポダイジングフィルタ55を配置した状態で観測された回折像の一例を示す。
【0124】
図13(A)と
図13(B)とを比較すると、
図13(A)に示す像に比較して、
図13(B)に示す像においては回折模様がより明瞭に表現されている。任意の特性を有するアポダイジングフィルタ55を配置することで、散乱光をより明確に観測でき、それに伴って、測定精度を高めることができる。
【0125】
本実施の形態に従う光学測定システム1においては、例えば、予め設計された濃淡パターンをフィルムなどの任意の透明部材に印刷することにより、製造コストを低減したアポダイジングフィルタ55を作成できる。より具体的には、パーソナルコンピュータを用いて、中心ほど透過率が低く(濃度が高く)、かつ、外側に向かうに沿って透過率が高く(濃度が低く)なる濃淡パターンを作成し、当該濃淡パターンをスクリーン50または透明なフィルムに印刷することで、アポダイジングフィルタ55を作成する。
【0126】
なお、アポダイジングフィルタ自体は市販されているが、サイズの大きなもの(例えば、φ100mm以上)は高価である。しかしながら、上述したような印刷により作成することで、安価に容易できる。なお、事前のキャリブレーションを行うために、透過率の直線性の優劣が実質的に測定結果に影響を与えることはない。
【0127】
グラディエーションパターンをスクリーン50に印刷した場合には、そのままスクリーン50として使用することができ、フィルムに印刷することで作成したアポダイジングフィルタ55は、スクリーン50に接するように配置する。
【0128】
図14は、本実施の形態に従う光学測定システム1におけるアポダイジングフィルタ55の作成手順の一例を示すフローチャートである。
図14を参照して、ユーザは、パーソナルコンピュータを用いて、任意の濃淡パターンを作成する(ステップS30)。ユーザは、作成した濃淡パターンをスクリーン50または透明部材(例えば、フィルム)に印刷する(ステップS31)。最終的に、ユーザは、濃淡パターンを印刷したスクリーン50または透明部材を光学系に配置する(ステップS32)。
【0129】
小角光散乱の散乱パターンは、通常、中心部の強度が高く、外側にいくほど強度が小さくなるため、アポダイジングフィルタを使用することで、強度の勾配を小さくできる。アポダイジングフィルタがない場合には、中心部が飽和してしまうような像であっても、適切な濃淡パターンを用いることで、中心部の飽和を抑制できる。
【0130】
このように、本実施の形態によれば、任意の濃淡パターンをもつアポダイジングフィルタを作成することができるとともに、印刷によりアポダイジングフィルタを作成するためにコストを大幅に抑制できる。また、適切な濃淡パターンを選択することで、像の中心部が飽和するような事態を抑制して、検出器60に過大なダイナミックレンジが要求されることを回避できる。これによって、測定精度を高めることもできる。
【0131】
<F.処理装置>
図15は、本実施の形態に従う光学測定システム1に含まれる処理装置100の構成例を示す模式図である。
図15を参照して、処理装置100は、プロセッサ102と、主メモリ104と、入力部106と、表示部108と、ストレージ110と、通信インターフェイス120と、メディアドライブ122とを含む。
【0132】
プロセッサ102は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などの演算処理部であり、ストレージ110に格納されている1または複数のプログラムを主メモリ104に読み出して実行する。主メモリ104は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)またはSRAM(Static Random Access Memory)といった揮発性メモリであり、プロセッサ102がプログラムを実行するためのワーキングメモリとして機能する。
【0133】
入力部106は、キーボードやマウスなどを含み、ユーザからの操作を受け付ける。表示部108は、プロセッサ102によるプログラムの実行結果などをユーザへ出力する。
【0134】
ストレージ110は、ハードディスクやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリからなり、各種プログラムやデータを格納する。より具体的には、ストレージ110は、オペレーティングシステム112(OS:Operating System)と、測定プログラム114と、観測像116と、測定結果118とを保持する。
【0135】
オペレーティングシステム112は、プロセッサ102がプログラムを実行する環境を提供する。測定プログラム114は、プロセッサ102によって実行されることで、本実施の形態に従う光学測定方法などを実現する。
【0136】
測定結果118は、散乱パターンを含む観測像116を解析することによって決定される試料2のミクロ構造の情報などを含む。なお、測定結果118は、図示しないネットワークを介して上位装置へ転送されるようにしてもよい。
【0137】
通信インターフェイス120は、処理装置100と検出器60との間でのデータ伝送を仲介する。
【0138】
メディアドライブ122は、プロセッサ102で実行されるプログラムなどを格納した記録媒体124(例えば、光学ディスクなど)から必要なデータを読出して、ストレージ110に格納する。なお、処理装置100において実行される測定プログラム114などは、記録媒体124などを介してインストールされてもよいし、ネットワーク上のサーバ装置からダウンロードされてもよい。
【0139】
なお、処理装置100のプロセッサ102がプログラムを実行することで提供される機能の全部または一部をハードワイヤードロジック回路(例えば、FPGA(field-programmable gate array)やASIC(application specific integrated circuit)など)によって実現してもよい。
【0140】
<G.利点>
本実施の形態に従う光学測定装置によれば、入射光4の光軸AXとの交差位置を含む光軸中心領域に入射する光に対して、当該光軸中心領域以外の領域に入射する光より大きな減衰を与えるビームストッパーを検光子40に設ける。これによって、検出器60が観測する像において、散乱光と透過光との強度差が極端に大きくなるようなことを抑制することができる。これによって、検出器60に過大なダイナミックレンジが要求されることを回避できるとともに、適切なダイナミックレンジで観測することで、測定精度を高めることもできる。
【0141】
また、本実施の形態に従う光学測定システムにおいては、検光子40に設けるビームストッパーを比較的容易に構成できる。そのため、ビームストッパーに要するコストを低減できる。
【0142】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0143】
1 光学測定システム、2 試料、4 入射光、6 透過光、8 散乱光、10 光源、12 シャッタ、14 NDフィルタ、20,22 ミラー、24 試料ホルダ、30 偏光子、31,32,41,42,43,45,46,47,48 偏光板、40,40A,40B,40C 検光子、42A 1/4波長板、42B 1/2波長板、42C 偏光解消板、44 開口、49 半円部、50 スクリーン、51,52,53 像、55 アポダイジングフィルタ、60 検出器、100 処理装置、102 プロセッサ、104 主メモリ、106 入力部、108 表示部、110 ストレージ、112 オペレーティングシステム、114 測定プログラム、116 観測像、118 測定結果、120 通信インターフェイス、122 メディアドライブ、124 記録媒体、AX 光軸。