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特開2023-64731正極活物質及びこれを含むリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064731
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】正極活物質及びこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230501BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230501BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230501BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230501BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/131
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169762
(22)【出願日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】10-2021-0143300
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100189474
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 修
(72)【発明者】
【氏名】チョン ユ ギョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ムン ホ
(72)【発明者】
【氏名】チェ ユン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シン ジョン スン
(72)【発明者】
【氏名】ベ ジン ホ
(72)【発明者】
【氏名】リ ジン ウォン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050FA12
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA28
5H050HA02
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】充放電の進行に伴うガス発生が抑制され、粒子内のクラックの発生が抑制された正極活物質を提供すること。
【解決手段】少なくともニッケル及びコバルトを含有するリチウム複合酸化物を含む正極活物質であって、前記リチウム複合酸化物のうちコバルトは、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少する濃度勾配を持ち、前記コバルトの濃度勾配は、少なくとも異種の勾配を持ち、前記異種の傾きの符号は、互いに同一である、正極活物質である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともニッケル及びコバルトを含有するリチウム複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物のうちコバルトは、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少する濃度勾配を持ち、
前記コバルトの濃度勾配は、少なくとも異種の勾配を持ち、前記異種の傾きの符号は、互いに同一である、正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物のうち、前記コバルトが相対的に前記リチウム複合酸化物の表面部に近い傾きの絶対値は、相対的に前記リチウム複合酸化物の中心部に近い傾きの絶対値より大きい、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物の表面に対して1kVから30kVまで増加する加速電圧で照射される電子ビームを用いて、前記リチウム複合酸化物の表面から前記電子ビームが浸透した深さまでのコバルトの累積濃度を測定するEP-EDS(Energy Profiling-Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)分析時に加速電圧が7.5kV~12.5kVの領域内で、前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きが変化する変曲点が存在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であり、
前記二次粒子のうちコバルトは、前記二次粒子の表面部から中心部に向かって減少する濃度勾配を持ち、
前記二次粒子の表面に対して1kVから30kVまで増加する加速電圧で照射される電子ビームを用いて、前記二次粒子の表面から前記電子ビームが浸透した深さまでのコバルトの累積濃度を測定するEP-EDS(Energy Profiling-Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)分析時、加速電圧が7.5kV~12.5kVの領域内で前記二次粒子のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きが変化する変曲点が存在する、請求項3に記載の正極活物質。
【請求項5】
加速電圧が1kV~10kVの領域内で前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きをs1とすると、
前記s1は、下記の式1を満たす、請求項3に記載の正極活物質。
[式1]
2.0≦s1≦3.6
【請求項6】
加速電圧が10kV~30kVの領域内で前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きをs2とすると、
前記s2は、下記の式2を満たす、請求項3に記載の正極活物質。
[式2]
0.2≦s2≦0.7
【請求項7】
加速電圧が1kV~10kVの領域内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きをs1とし、加速電圧が10kV~30kVの領域内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きをs2とすると、前記s1と前記s2は、下記の式3を満たす、請求項3に記載の正極活物質。
[式3]
1.7≦s1-s2≦3.0
正極活物質。
【請求項8】
前記リチウム複合酸化物は、下記化1で表される、請求項1に記載の正極活物質。
[化1]
LiNi1-(x+y+z+z’)CoM1M2z’
(ここで、
M1は、Mn及びAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、P、Sr、Ba、Ti、Zr、Mn、Al、W、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、Cr、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、Gd及びCuから選ばれる少なくとも1つであり、
M1とM2は、互いに異なり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20、0≦z’≦0.20である。)
【請求項9】
前記リチウム複合酸化物は、前記一次粒子間の界面及び前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層をさらに含み、
前記コーティング層には、下記化2で表される少なくとも1種の金属酸化物が存在する、請求項4に記載の正極活物質。
[化2]
LiM3
(ここで、
M3は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、Gd及びNdから選ばれる少なくとも1つであり、
0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13であり、但し、a及びbが同時に0の場合を除く。)
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極。
【請求項11】
請求項10に記載の正極を使用するリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質及びこれを含むリチウム二次電池に関し、より具体的に、少なくともニッケル及びコバルトを含有するリチウム複合酸化物を含むが、前記リチウム複合酸化物のうちコバルトが表面部から中心部に向かって少なくとも異種の傾きを持つ濃度勾配を持つことにより、前記リチウム複合酸化物の表面部だけでなく、中心部で粒子の安定性を向上させることが可能な正極活物質、前記正極活物質を含む正極、前記正極を使用するリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、正極と負極に電気化学反応が可能な物質を使用することで電力を貯蔵するものである。このような電池の代表的な例としては、正極及び負極においてリチウムイオンがインターカレーション/デインターカレーションされる際の化学電位(chemical potential)の差によって電気エネルギーを貯蔵するリチウム二次電池がある。
【0003】
前記リチウム二次電池は、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な物質を正極と負極活物質として用い、前記正極と負極との間に有機電解液またはポリマー電解液を充填して製造する。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム複合酸化物が用いられており、その例として、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMnOなどの複合酸化物が研究されている。
【0005】
前記正極活物質の中で、LiCoOは、寿命特性及び充放電効率に優れているため、最も多く使用されているが、原料として使用されるコバルトの資源的限界により高価であるため、価格競争力に限界があるという短所を持っている。
【0006】
LiMnO、LiMnなどのリチウムマンガン酸化物は、熱的安全性に優れており、価格が安いという長所があるが、容量が小さく、高温特性に劣るという問題点がある。また、LiNiO系正極活物質は、高い放電容量の電池特性を示しているが、Liと遷移金属間のカチオン混合(cation mixing)問題により合成が難しく、それに伴いレート(rate)特性において大きな問題点がある。
【0007】
また、このようなカチオン混合の深化度合いに応じて多量のLi副産物が発生することになり、これらLi副産物の殆どは、LiOH及びLiCOの化合物からなり、正極ペーストの製造時にゲル(gel)化する問題点と電極製造後の充放電の進行に伴うガス発生の原因となる。残留LiCOは、セルのスウェリング現象を増加させてサイクルを減少させるだけでなく、電池が膨らむ原因となる。
【0008】
一方、正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物は、充放電時にリチウム複合酸化物に対するリチウムイオンのインターカレーション/デインターカレーションによって体積変化を伴うことになる。通常、リチウム複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集された二次粒子の形態であるが、充放電時に一次粒子の急激な体積変化が発生するか、または繰り返し充放電によるストレスが累積する場合、二次粒子内のクラック(crack)が発生するか、または結晶構造の崩壊や結晶構造の変化(相転移)が発生するという問題がある。
【0009】
このような問題は、結局、正極活物質の安定性及び信頼性を低下させる原因として作用するため、充放電時にリチウム複合酸化物の体積変化を緩和させるか、または体積変化による応力発生を最小化して粒子の損傷を防止するための様々な研究が続いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
リチウム二次電池の市場では、電気自動車用リチウム二次電池の成長が市場を牽引する役割を果たしている中で、リチウム二次電池に使用される正極材の需要も持続的に変化している
【0011】
例えば、従来は、安全性確保などの観点からLFPを用いたリチウム二次電池が主に使用されてきたが、近年、LFPに対して重量当たりのエネルギー容量が大きいニッケル系リチウム複合酸化物の使用が拡大する傾向にある。
【0012】
これにより、より高仕様のリチウム二次電池に使用される正極活物質は、より厳しい動作条件下でも適切に期待される安定性及び信頼性をすべて満たす必要がある。
【0013】
従来は、充放電時にリチウム複合酸化物の体積変化を緩和させるか、または体積変化による応力の発生を最小化して粒子の損傷を防止するため、一次粒子の凝集度を意図的に低下させて一次粒子間の所定の空隙を存在させることにより、一次粒子の体積変化による応力が分散されるようにした。しかし、このようなリチウム複合酸化物は、単位体積当たりのエネルギー密度が低いという限界がある。
【0014】
このような諸般の事情の下で、少なくともニッケル及びコバルトを含むリチウム複合酸化物のうちコバルトが表面部から中心部に向かって少なくとも異種の傾きを持つ濃度勾配を持つ場合、前記リチウム複合酸化物の表面部だけでなく、中心部における粒子の安定性を向上させることができるということが本発明者らによって明らかにされた。
【0015】
これにより、本発明は、少なくともニッケル及びコバルトを含むリチウム複合酸化物を含む正極活物質であって、前記リチウム複合酸化物のうちコバルトは、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少する濃度勾配を持ち、前記コバルトの濃度勾配は、少なくとも異種の傾きを持ち、前記異種の傾きの符号は、互いに同一の正極活物質を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であり、前記一次粒子間の界面及び前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層が形成されたリチウム複合酸化物を含む正極活物質であって、前記リチウム複合酸化物のうちコバルトは、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少する濃度勾配を持ち、前記コバルトの濃度勾配は、少なくとも異種の傾きを持ち、前記異種の傾きの符号は、互いに同一の正極活物質を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明の他の目的は、本願で定義される正極活物質を含む正極を提供することである。
【0018】
また、本発明のさらに他の目的は、本願で定義される正極を使用するリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様によれば、少なくともニッケル及びコバルトを含むリチウム複合酸化物を含む正極活物質として、前記リチウム複合酸化物のうちコバルトは、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少する濃度勾配を持ち、前記コバルトの濃度勾配は、少なくとも異種の傾きを持つ正極活物質が提供される。
【0020】
前記リチウム複合酸化物内に存在する前記コバルトの濃度勾配は、少なくとも異種の勾配を持ち、前記異種の勾配の符号は、互いに同一である。すなわち、前記リチウム複合酸化物内に存在する前記コバルトは、異種の傾きが存在する領域において濃度が減少する程度が異なるだけで、濃度が減少する方向は同一である。
【0021】
一実施例において、前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトが相対的に前記リチウム複合酸化物の表面部分に近い傾きの絶対値は、相対的に前記リチウム複合酸化物の中心部に近い傾きの絶対値より大きくてもよい。
【0022】
一実施例において、前記リチウム複合酸化物の表面に対して1kVから30kVまで増加する加速電圧で照射される電子ビームを用いて、前記二次粒子の表面から前記電子ビームが浸透した深さまでのコバルトの累積濃度を測定するEP-EDS(Energy Profiling-Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)分析時、加速電圧が7.5kV~12.5kVの領域内で前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きが変化する変曲点が存在してもよい。
【0023】
また、前記リチウム複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であり、前記二次粒子のうちコバルトは、前記二次粒子の表面部から中心部に向かって減少する濃度勾配を持つことができる。
【0024】
このとき、前記二次粒子の表面に対して1kVから30kVまで増加する加速電圧で照射される電子ビームを用いて、前記二次粒子の表面から前記電子ビームが浸透した深さまでのコバルトの累積濃度を測定するEP-EDS(Energy Profiling-Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)分析時、加速電圧が7.5kV~12.5kVの領域内で前記二次粒子のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きが変化する変曲点が存在してもよい。
【0025】
一実施例において、加速電圧が1kV~10kVの領域内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きをs1とすると、前記s1は、下記式1を満たすことができる。
【0026】
[式1]
2.0≦s1≦3.6
【0027】
また、加速電圧が10kV~30kVの領域内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きをs2とすると、前記s2は、下記の式2を満たすことができる。
【0028】
[式2]
0.2≦s2≦0.7
【0029】
好ましくは、加速電圧が1kV~10kVの領域内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きをs1とし、加速電圧が10kV~30kVの領域内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きをs2とすると、前記s1と前記s2は、下記式3を満たすことができる。
【0030】
[式3]
1.7≦s1-s2≦3.0
【0031】
一実施例において、前記リチウム複合酸化物は、下記化1で表される。
【0032】
[化1]
LiNi1-(x+y+z+z’)CoxM1M2z’
【0033】
(ここで、
M1は、Mn及びAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、P、Sr、Ba、Ti、Zr、Mn、Al、W、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、Cr、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、Gd及びCuから選ばれる少なくとも1つであり、
M1とM2は、互いに異なり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20、0≦z’≦0.20である。)
【0034】
前記リチウム複合酸化物は、前記一次粒子間の界面及び前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層をさらに含んでもよい。このとき、前記コーティング層には、下記化2で表される少なくとも1種の金属酸化物が存在してもよい。
【0035】
[化2]
LiM3
【0036】
(ここで、
M3は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、Gd及びNdから選ばれる少なくとも1つであり、0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13であり、但し、a及びbが同時に0の場合を除く。)
【0037】
また、本発明の他の態様によれば、本願で定義される正極活物質を含む正極が提供される。
【0038】
また、本発明のさらに他の態様によれば、本願で定義される正極を使用するリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0039】
前述したように、正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物は、充放電時にリチウム複合酸化物に対するリチウムイオンのインターカレーション/デインターカレーションによって体積変化を必然的に伴うしかない。このとき、充放電時のリチウム複合酸化物の体積変化を緩和させるか、または体積変化による応力発生を最小化して粒子の損傷を防止できる方案は、種々存在できるが、未だ正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物の損傷に起因するリチウム二次電池の劣化問題は、十分に解消されたとは見なし難い。
【0040】
しかし、本発明によれば、少なくともニッケル及びコバルトを含有するリチウム複合酸化物において、前記リチウム複合酸化物のうちコバルトは、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少する濃度勾配を持つとともに、前記コバルトの濃度勾配が互いに符号が同一である少なくとも異種の傾きを持つ場合、繰り返し充放電にもかかわらず、二次粒子内のクラック(crack)の発生、結晶構造の崩壊または結晶構造の変化(相転移)などのような問題が改善され得る。
【0041】
これにより、本発明による正極活物質を用いる場合、正極活物質に起因するリチウム二次電池の性能劣化を遅らせることが可能となる。
【0042】
上述した効果に加えて、本発明の具体的な効果は、以下の発明を実施するための具体的な事項を説明するとともに、記述する。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明による正極活物質及び前記正極活物質を含むリチウム二次電池について、より詳細に説明する。
【0044】
正極活物質
本発明の一態様によれば、少なくともニッケル及びコバルトを含有するリチウム複合酸化物を含む正極活物質が提供される。また、前記リチウム複合酸化物は、ニッケル及びコバルトの他にリチウムを含み、リチウムイオンのインターカレーション及びデインターカレーションが可能な複合金属酸化物である。
【0045】
前記リチウム複合酸化物のうちコバルトは、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって減少する濃度勾配を持つことができる。前記リチウム複合酸化物のうち遷移金属の濃度は、公知の様々な方法で測定されてもよい。例えば、前記リチウム複合酸化物を断面処理した後、EDSマッピングを通じてターゲット遷移金属の濃度をline scanning方式でターゲット遷移金属の濃度を分析してもよい。この場合、リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かう方向にターゲット遷移金属の濃度変化を確認しうる。また、前記リチウム複合酸化物の表面に照射する電子ビーム(electron beam)の加速電圧(Vacc)を変化させつつ、前記リチウム複合酸化物の表面から加速電圧別電子ビームが浸透した特定の深さまで累積されたターゲット遷移金属の濃度を測定するEnergy Profiling-Energy Dispersive X
-ray Spectroscopy(EP-EDS)方式がある。
【0046】
本願では、前述したEP-EDS方式で遷移金属の濃度を分析した。具体的に、本願による前記リチウム複合酸化物の表面に対して1kVから30kVまで増加する加速電圧で照射される電子ビームを用いて前記二次粒子の表面から前記電子ビームが浸透した深さまでのコバルトの累積濃度を測定するEP-EDS(Energy Profiling-Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)分析時、前記リチウム複合酸化物は、表面部から中心部に向かってコバルトの濃度が減少する濃度勾配を示す。
【0047】
例えば、前記リチウム複合酸化物の表面に対して10kVの加速電圧の電子ビームを照射し、前記リチウム複合酸化物の表面から約300nmの深さまで電子ビームを浸透させることが可能な場合、前記EP-EDS分析を通じて前記リチウム複合酸化物の表面から300nmの深さの領域内に存在するターゲット遷移金属の濃度を測定しうる。また、前記リチウム複合酸化物の表面に対して20kVの加速電圧の電子ビームを照射し、前記リチウム複合酸化物の表面から約800nmの深さまで電子ビームを浸透させることが可能な場合、前記EP-EDS分析を通じて前記リチウム複合酸化物の表面から800nmの深さの領域内に存在するターゲット遷移金属の濃度を測定しうる。
【0048】
すなわち、前記リチウム複合酸化物の表面に対して照射される電子ビームの加速電圧が大きくなることにより測定されるターゲット遷移金属の累積濃度が減少する場合、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かってターゲット遷移金属の濃度が減少する勾配を持つものと解釈できる。
【0049】
このとき、前記コバルトの濃度勾配は、前記リチウム複合酸化物は、表面部から中心部に向かってコバルトの濃度が連続的に減少するか、または不連続的に減少する濃度勾配であってもよい。
【0050】
すなわち、前記コバルトの濃度を測定する任意の区間内の始点から終点まで前記コバルトの濃度が減少する場合、前記コバルトは、前記任意の区間内の始点から終点に向かって減少する濃度勾配を持つと言える。
【0051】
また、前記リチウム複合酸化物内の前記コバルトの濃度勾配は、少なくとも異種の傾きを持つことができる。すなわち、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かう方向に互いに異なる傾きを持つ複数の濃度勾配区間が存在してもよい。
【0052】
このとき、前記リチウム複合酸化物内の前記コバルトの濃度勾配が示す異種の傾きとは、有意な差がある異種の傾きが存在することを意味する。すなわち、前記異種の傾きは、誤差範囲外の差を示し、好ましくは、2倍以上、より好ましくは、3倍以上の差を示す異種の傾きを意味する。例えば、前記異種の傾きのうち任意の1つの傾きがxの傾きを持つ場合、他の1つの傾きは、好ましくは、2x以上、より好ましくは、3x以上の傾きを持つ場合、本願で定義される異種の傾きが存在するものと見なすことができる。
【0053】
前記リチウム複合酸化物の最外郭に最も隣接する濃度勾配区間を第1の濃度勾配区間とし、前記第1の濃度勾配区間の内側に存在する濃度勾配区間を第2の濃度勾配区間とすると、前記第1の濃度勾配区間内の前記コバルトの濃度勾配の傾きと前記第2の濃度勾配区間内の前記コバルトの濃度勾配の傾きは、互いに独立的であり、同じ符号を有する。
【0054】
一方、前述したEP-EDS方式で前記リチウム複合酸化物内の遷移金属の濃度を分析する場合、前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトが相対的に前記リチウム複合酸化物の表面部に近い傾きの絶対値は、相対的に前記リチウム複合酸化物の中心部に近い傾きの絶対値より大きくてもよい。
【0055】
前述した例示によれば、前記第1の濃度勾配区間内の前記コバルトの濃度勾配の傾きの絶対値は、前記第2の濃度勾配区間内の前記コバルトの濃度勾配の傾きの絶対値よりも大きい。
【0056】
すなわち、相対的に前記リチウム複合酸化物の表面部に近い領域でコバルトの濃度の減少幅が大きくなり、相対的にリチウム複合酸化物の中心部に近い領域でコバルトの濃度の減少幅が小さくなる。
【0057】
このように前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かって前記コバルトの濃度勾配の傾きの絶対値が異なる前記第1の濃度勾配区間と前記第2の濃度勾配区間が形成されることにより、比較的リチウムイオンのインターカレーション/デインターカレーションが集中的に行われる前記リチウム複合酸化物の表面部における粒子安定性を高めることができ、前記第2の濃度勾配区間における前記コバルトの減少幅を緩和することにより、前記リチウム複合酸化物の表面部だけでなく中心部における粒子安定性を高めることができる。
【0058】
具体的に、前記リチウム複合酸化物の表面に対して1kVから30kVまで増加する加速電圧で照射される電子ビームを用いて前記二次粒子の表面から前記電子ビームが浸透した深さまでのコバルトの累積濃度を測定するEP-EDS(Energy Profiling-Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)分析時、加速電圧が7.5kV~12.5kVの領域内で前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きが変化する変曲点が存在してもよい。
【0059】
ここで、変曲点とは、前述した前記第1の濃度勾配区間が前記第2の濃度勾配区間に切り替わる地点をいう。
【0060】
前記リチウム複合酸化物内のコバルトの総量が同一であるという前提の下で、前記で定義した変曲点が加速電圧が7.5kV未満の位置に存在する場合、前記第1の濃度勾配区間が前記第2の濃度勾配区間に切り替わる地点が前記リチウム複合酸化物の最外郭に過度に近く存在することにより、前記リチウム複合酸化物の内側にクラック(crack)の発生、結晶構造の崩壊または結晶構造の変化(相転移)などの粒子損傷を十分に防止することが困難である。
【0061】
一方、前記リチウム複合酸化物内のコバルトの総量が同一であるという前提の下で、前記で定義した変曲点が加速電圧が12.5kVを超える位置に存在する場合、前記第1の濃度勾配区間が前記第2の濃度勾配区間に切り替わる地点が前記リチウム複合酸化物の最外郭から過度に遠く離れることにより、前記リチウム複合酸化物の表面部におけるクラック(crack)の発生、結晶構造の崩壊または結晶構造の変化(相転移)などの粒子損傷を十分に防止することが困難である。
【0062】
本願で定義される前記リチウム複合酸化物は、下記化1で表される。
【0063】
[化1]
LiNi1-(x+y+z+z’)CoM1M2z’
【0064】
(ここで、
M1は、Mn及びAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、P、Sr、Ba、Ti、Zr、Mn、Al、W、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、Cr、V、Fe、Zn、Si、Y、Ga、Sn、Mo、Ge、Nd、Gd及びCuから選ばれる少なくとも1つであり、
M1とM2は、互いに異なり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20、0≦z’≦0.20である。)
【0065】
前記リチウム複合酸化物は、前記化1において、Ni、Co、M1、M2及びBの濃度(mol%)が下記の関係式1を満たすhigh―Ni型のリチウム複合酸化物であってもよい。
【0066】
[関係式1]
i/(Ni+Co+M1+M2+B)≧80.0
【0067】
また、前記リチウム複合酸化物は、前記化1において、Ni、Co、M1、M2及びBの濃度(mol%)が前記関係式1を満たすとともに、Coの含量が10mol%以下、好ましくは、5mol%以下であるhigh-Ni/low-Co型のリチウム複合酸化物であってもよい。
【0068】
すなわち、前記リチウム複合酸化物は、前記化1において、Ni、Co、M1、M2及びBの濃度(mol%)が下記の関係式2を満たすことができる。
【0069】
[関係式2]
Co/(Ni+Co+M1+M2+B)≦5.0
【0070】
一般に、少なくともニッケル及びコバルトを含むリチウム複合酸化物において、Niの含量が増加するほどLi/Ni cation mixingによるリチウム複合酸化物の構造的不安定性がもたらされることが知られている。また、少なくともNi及びCoを含むリチウム複合酸化物において、Coの含量が減少するほど初期の過電圧(抵抗)が増加し、これによってレート特性の低下は避けられないことが報告されている。
【0071】
しかし、本発明の一実施例による正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物は、前記リチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かってコバルトの濃度が少なくとも異種の傾きを示し、減少する濃度勾配を持つことにより、high-Ni型またはhigh-Ni/low-Co型のリチウム複合酸化物の構造的不安定性及びレート特性の低下を緩和及び/又は防止しうる。
【0072】
一方、本願で定義される正極活物質に含まれる前記リチウム複合酸化物は、少なくとも1つの一次粒子(primary particle)を含む二次粒子(secondary particle)であってもよい。
【0073】
ここで、「少なくとも1つの一次粒子を含む二次粒子」は、「複数の一次粒子が凝集して形成された粒子」または「単一の一次粒子を含む非凝集状の粒子」をすべて含むものと解釈されるべきである。
【0074】
前記一次粒子及び前記二次粒子は、それぞれ独立して棒状、楕円状及び/又は不定形であってもよい。
【0075】
前記一次粒子及び前記二次粒子のサイズを示す指標として平均長軸の長さを使用する場合、前記リチウム複合酸化物を構成する前記一次粒子の平均長軸の長さは0.1μm~5μmであってもよく、前記二次粒子の平均長軸の長さは、1μm~30μmであってもよい。前記二次粒子の平均長軸の長さは、前記二次粒子を構成する前記一次粒子の数によって異なり得、前記正極活物質内には様々な平均長軸の長さを有する粒子が含まれてもよい。
【0076】
前記リチウム複合酸化物が「単一の一次粒子を含む非凝集状の粒子」であるか、または「比較的少い数の一次粒子が凝集して形成された粒子」である場合、「単一の一次粒子を含む非凝集状の粒子」または「比較的少ない数の一次粒子が凝集して形成された粒子」内に含まれる一次粒子のサイズ(平均粒径)は、「数十~数百個またはそれ以上の一次粒子が凝集して形成された二次粒子」内に含まれる一次粒子(平均粒径)より大きくてもよい。
【0077】
このように、「単一の一次粒子を含む非凝集状の粒子」であるか、または「比較的少い数の一次粒子が凝集して形成された粒子」であるリチウム複合酸化物は、一般に「数十~数百個またはそれ以上の一次粒子が凝集して形成された二次粒子」を製造する場合に対して、強い熱処理条件(高い熱処理温度/長時間熱処理)が要求される。一般に、1,000℃に近い温度で長時間熱処理を行う場合、粒子成長(結晶成長)が促進されて単一の粒子のサイズが大きくなるとともに、粒子の凝集度が低くなった正極活物質が得られることが知られている。
【0078】
例えば、前記リチウム複合酸化物が「単一の一次粒子を含む非凝集状の粒子」であるか、または「比較的少ない数の一次粒子が凝集して形成された粒子」である場合、前記一次粒子の平均長軸の長さは0.5μm~20μmの範囲内に存在してもよい。一方、前記リチウム複合酸化物が「複数(数十~数百個またはそれ以上)の一次粒子が凝集して形成された粒子」である場合、前記一次粒子の平均長軸の長さは、0.1μm~5μmの範囲内に存在してもよい。
【0079】
また、前記一次粒子は、少なくとも1つの結晶子(crystallite)を含んでもよい。すなわち、前記一次粒子は、単一の結晶子として構成されてもよく、複数の結晶子を含む粒子として存在してもよい。
【0080】
一実施例において、前記リチウム複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であり、前記二次粒子のうちコバルトは、前記二次粒子の表面部から中心部に向かって減少する濃度勾配を持つことができる。
【0081】
この場合、前記二次粒子内に形成された前記コバルトの濃度勾配は、少なくとも異種の傾きを持ち、前記異種の傾きの符号は、互いに同一である。
【0082】
また、前記二次粒子の表面に対して1kVから30kVまで増加する加速電圧で照射される電子ビームを用いて、前記二次粒子の表面から前記電子ビームが浸透した深さまでのコバルトの累積濃度を測定するEP-EDS(Energy Profiling-Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)分析時、加速電圧が7.5kV~12.5kVの領域内で、前記二次粒子のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きが変化する変曲点が存在してもよい。
【0083】
前述したように、前記変曲点とは、前記第2の粒子内に前述した第1の濃度勾配区間が前記第2の濃度勾配区間に切り替わる地点をいう。
【0084】
このとき、前記変曲点の位置は、前記二次粒子内の前記コバルトの濃度勾配の傾きが急激に変化する位置として決定されてもよいが、EP-EDS分析時に任意の加速電圧が浸透する位置として決定されてもよい。
【0085】
例えば、加速電圧が1kV~10kVの領域を前記第1の濃度勾配区間と定義し、前記第1の濃度勾配区間内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きをs1という。また、加速電圧が10kV~30kVの領域を前記第2の濃度勾配区間と定義し、前記第2の濃度勾配区間内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きをs2という。もちろん、前記第2の濃度勾配区間の内側に追加的な濃度勾配区間が存在してもよいが、前記第1の濃度勾配区間内の前記コバルトの濃度勾配の傾きと前記第2の濃度勾配区間内の前記コバルトの濃度勾配区間の傾きを通じて本願で意図した前記リチウム複合酸化物の粒子安定性を十分に向上させることができる。
【0086】
前記第1の濃度勾配区間内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きs1は、下記式1を満たすことができる。
【0087】
[式1]
2.0≦s1≦3.6
【0088】
前記リチウム複合酸化物内のコバルトの総量が同一であるという前提の下で、前記第1の濃度勾配区間内の濃度勾配の傾きs1が3.6より大きいということは、前記第1の濃度勾配区間が前記第2の濃度勾配区間に切り替わる地点が前記リチウム複合酸化物の最外郭に過度に近く存在することを意味しうる。この場合、前記リチウム複合酸化物の内側にクラック(crack)の発生、結晶構造の崩壊または結晶構造の変化(相転移)などの粒子損傷を十分に防止することが困難である。
【0089】
一方、前記リチウム複合酸化物内のコバルトの総量が同一であるという前提の下で、前記第1の濃度勾配区間内の濃度勾配の傾きs1が2.0より小さいということは、前記第1の濃度勾配区間が前記第2の濃度勾配区間に切り替わる地点が前記リチウム複合酸化物の最外郭から過度に遠く離れていることを意味しうる。この場合、かえって前記リチウム複合酸化物の表面部におけるコバルトの含量が減少することにより、前記リチウム複合酸化物の表面部におけるクラック(crack)の発生、結晶構造の崩壊または結晶構造の変化(相転移)などの粒子損傷を十分に防止することが困難である。
【0090】
また、前記第2の濃度勾配区間内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きs2は、下記式2を満たすことができる。
【0091】
[式2]
0.2≦s2≦0.7
【0092】
前記リチウム複合酸化物内のコバルトの総量が同一であるという前提の下で、前記第2の濃度勾配区間内の濃度勾配の傾きs2が0.7より大きいということは、前記第2の濃度勾配区間におけるコバルトの濃度の減少幅が過度に大きいことを意味しうる。この場合、前記リチウム複合酸化物の内側(前記第2の濃度勾配区間の内側)におけるクラック(crack)の発生、結晶構造の崩壊または結晶構造の変化(相転移)などの粒子損傷を十分に防止することが困難である。
【0093】
一方、前記リチウム複合酸化物内のコバルトの総量が同一であるという前提の下で、前記第2の濃度勾配区間内の濃度勾配の傾きs2が0.2より小さいということは、前記第2の濃度勾配区間におけるコバルトの濃度の減少幅が過度に少ないことを意味しうる。この場合、かえって前記リチウム複合酸化物の表面部と隣接する領域におけるコバルトの含量が減少することにより、前記リチウム複合酸化物の表面部と隣接する領域におけるクラック(crack)の発生、結晶構造の崩壊または結晶構造の変化(相転移)などの粒子損傷を十分に防止することが困難である。
【0094】
また、前記リチウム複合酸化物の粒子安定性と関連して、前記第1の濃度勾配区間内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の勾配s1と前記第2の濃度勾配区間内の前記リチウム複合酸化物のうち前記コバルトの濃度勾配の傾きs2は、所定の相関関係を持つことが確認された。
【0095】
具体的に、前記s1と前記s2が下記式3を満たす場合、前記リチウム複合酸化物の第1の濃度勾配区間と第2の濃度勾配区間はもちろん、前記リチウム複合酸化物の中心部でも粒子安定性が向上できる。
【0096】
[式3]
1.7≦s1-s2≦3.0
【0097】
さらに、前記リチウム複合酸化物は、前記一次粒子間の界面及び前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層をさらに含んでもよい。このとき、前記コーティング層には、下記化2で表される少なくとも1種、好ましくは、少なくとも2種の金属酸化物が存在してもよい。
【0098】
[化2]
LiM3
【0099】
(ここで、
M3は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、Gd及びNdから選ばれる少なくとも1つであり、
0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13であり、但し、a及びbが同時に0の場合を除く。)
【0100】
前記コーティング層は、1つの層内に異種の金属酸化物が同時に存在するか、または前記化2で表される異種の金属酸化物がそれぞれ別々の層に存在する形態であってもよい。
【0101】
前記化2で表される金属酸化物は、前記一次粒子及び/又は前記二次粒子と物理的及び/又は化学的に結合した状態であってもよい。また、金属酸化物は、前記一次粒子及び/又は前記二次粒子と固溶体を形成した状態で存在してもよい。
【0102】
前記金属酸化物は、リチウムとM3で表される元素とが複合化された酸化物であるか、またはM3の酸化物であって、前記金属酸化物は、例えば、Li、LiZr、LiTi、LiNi、Li、LiCo、LiAl、Co、Al、W、Zr、TiまたはBなどであってもよいが、上述した例は、理解を助けるために便宜上記載したものに過ぎず、本願で定義された前記金属酸化物は、上述した例に制限されるものではない。
【0103】
また、前記金属酸化物は、リチウムとM3で表される少なくとも2種の元素が複合化された酸化物であるか、またはリチウムとM3で表される少なくとも2種の元素が複合化された金属酸化物をさらに含んでもよい。リチウムとM3で表される少なくとも2種の元素が複合化された金属酸化物は、例えば、Li(W/Ti)、Li(W/Zr)、Li(W/Ti/Zr)、Li(W/Ti/B)などであってもよいが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0104】
本願による正極活物質に含まれる前記リチウム複合酸化物のうちコバルトが示す異種の濃度勾配パターンは、前記コーティング層によって形成されてもよい。すなわち、前記リチウム複合酸化物のうちコバルトが示す異種の濃度勾配パターンは、一次粒子及び/又は二次粒子内に存在するコバルトの濃度と一次粒子及び/又は二次粒子の表面に存在する金属酸化物内に存在するコバルトの濃度によって具現されてもよい。
【0105】
このように、異種の濃度勾配パターンを示す前記リチウム複合酸化物は、表面部と中心部における粒子安定性が向上でき、さらに中心部におけるイオン及び電子の移動が改善されてリチウム二次電池の効率特性を向上させるのに寄与できる。
【0106】
他の実施例において、前記正極活物質は、小粒子である第1のリチウム複合酸化物及び大粒子である第2のリチウム複合酸化物を含むバイモーダル(bimodal)形態の正極活物質であってもよい。前記第1のリチウム複合酸化物及び前記第2のリチウム複合酸化物は、前述したリチウム複合酸化物の定義に従う。
【0107】
本願において小粒子及び大粒子の平均粒径(D50)の範囲は、特に制限されるものではないが、任意のリチウム複合酸化物が小粒子または大粒子であるかを区別するため、以下のような小粒子及び大粒子の平均粒径(D50)の基準範囲が決定されてもよい。
【0108】
小粒子とは、平均粒径(D50)が7.0μm以下のリチウム複合酸化物を意味し、大粒子とは、平均粒径(D50)が7.0μm以上のリチウム複合酸化物を意味する。このとき、小粒子の平均粒径(D50)が7.0μmの場合、大粒子の平均粒径(D50)は7.0μmより大きい。前記大粒子の平均粒径D50の上限は制限はないが、例えば、前記大粒子は、7.0~30.0μmの平均粒径を有してもよい。
【0109】
本発明の様々な実施形態によるバイモーダル形態の正極活物質は、前記で定義された平均粒径(D50)を表す前記第1のリチウム複合酸化物及び前記第2のリチウム複合酸化物が5:95~50:50の重量比で混合された状態で存在してもよい。
【0110】
このとき、前記第1のリチウム複合酸化物は、前記第2のリチウム複合酸化物間の空隙内に充填された形態で存在するか、または前記第2のリチウム複合酸化物の表面に付着されるか、または前記第1のリチウム複合酸化物同士が凝集した形態で存在してもよい。
【0111】
前記正極活物質のうち前記第2のリチウム複合酸化物に対して前記第1のリチウム複合酸化物の割合が過度に多かったり過度に少ない場合、かえって前記正極活物質のプレス密度が減少することにより、前記正極活物質の単位体積当たりのエネルギー密度の向上効果が微々たるものとなる。
【0112】
リチウム二次電池
本発明のさらに他の態様によれば、正極集電体及び前記正極集電体上に形成された正極活物質層を含む正極が提供され得る。ここで、前記正極活物質層は、本発明の様々な実施例による正極活物質を含んでもよい。したがって、正極活物質は、前述のとおりであるので、便宜上具体的な説明を省略し、以下では、残りの前述されない構成についてのみ説明する。
【0113】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素又はアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが用いられてもよい。また、前記正極集電体は、通常3~500μmの厚さを有してもよく、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布などの様々な形態で使用されてもよい。
【0114】
前記正極活物質層は、前記正極活物質とともに導電材及び必要に応じて選択的にバインダーを含む正極スラリー組成物を前記正極集電体に塗布して製造されてもよい。
【0115】
このとき、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80~99wt%、より具体的には、85~98.5wt%の含量で含まれてもよい。前記含量範囲に含まれるとき、優れた容量特性を示すことができるが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0116】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サマーブラック、炭素繊維などの炭素系物質、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して0.1~15重量%で含まれてもよい。
【0117】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着及び正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して0.1~15重量%で含まれてもよい。
【0118】
前記正極は、前記正極活物質を用いることを除いては、通常の正極製造方法によって製造されてもよい。具体的には、前記正極活物質及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒中に溶解又は分散させて製造した正極スラリー組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することにより製造してもよい。
【0119】
前記溶媒としては、当該技術分野で一般的に使用される溶媒であってよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して、前記正極活物質、導電材及びバインダーを溶解又は分散させ、その後、正極製造のための塗布時に優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を持たせる程度であれば十分である。
【0120】
また、他の実施例において、前記正極は、前記正極スラリー組成物を別途の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネーションすることによって製造されてもよい。
【0121】
また、本発明のさらに他の態様によれば、前述の正極を含む電気化学素子が提供されてもよい。前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的には、リチウム二次電池であってもよい。
【0122】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極、前記正極と対向して位置する負極、及び前記正極と前記負極との間に介在する分離膜及び電解質を含んでもよい。ここで、前記正極は、前述の通りであるので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、前述しない残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0123】
前記リチウム二次電池は、前記正極、前記負極及び前記分離膜の電極組立体を収納する電池容器及び前記電池容器を封止する封止部材を選択的にさらに含んでもよい。
【0124】
前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含んでもよい。
【0125】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが用いられてもよい。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有してもよく、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布などの様々な形態で使用されてもよい。
【0126】
前記負極活物質層は、前記負極活物質とともに導電材及び必要に応じて選択的にバインダーとを含む負極スラリー組成物を前記負極集電体に塗布して製造されてもよい。
【0127】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションが可能な化合物が使用されてもよい。具体例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料、Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などのリチウムと合金化が可能な金属質化合物、SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープ及び脱ドープ可能な金属酸化物、またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか1つまたは2つ以上の混合物が使用されてもよい。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料としては、低結晶炭素及び高結晶性炭素などがすべて用いられてもよい。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)及び硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては無定形、板状、鱗片状、球状又は繊維状の天然黒鉛又は人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0128】
前記負極活物質は、負極活物質層の全重量を基準に80~99wt%で含まれてもよい。
【0129】
前記バインダーは、導電材、活物質及び集電体間の結合に助力する成分として、通常、負極活物質層の全重量を基準に0.1~10wt%で添加されてもよい。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの多様な共重合体などが挙げられる。
【0130】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分として、負極活物質層の全重量を基準に10重量%以下、好ましくは、5重量%以下で添加されてもよい。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウイスキー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリフェニレン誘導体などの導電性材料などが用いられてもよい。
【0131】
一実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を溶媒中に溶解又は分散させて製造した負極スラリー組成物を塗布して乾燥することにより製造されるか、または前記負極スラリー組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミーネイションすることにより製造されてもよい。
【0132】
また、他の実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を溶媒中に溶解又は分散させて製造した負極スラリー組成物を塗布して乾燥するか、または前記負極スラリー組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミーネイションすることにより製造されてもよい。
【0133】
一方、前記リチウム二次電池において、分離膜は、負極と正極を分離してリチウムイオンの移動通路を提供するもので、通常、リチウム二次電池において分離膜として使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗であるとともに電解液含湿能力に優れていることが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が用いられてもよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するため、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされた分離膜が使用されてもよく、選択的に単層または多層構造として使用されてもよい。
【0134】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0135】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含んでもよい。
【0136】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割を果たすものであれば、特に制限なく使用されてもよい。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒、ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒、シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒、ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒、ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、R-CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含んでもよい。)などのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類、またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されてもよい。これらの中でもカーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート又はジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用すると電解液の性能が優秀になりうる。
【0137】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供できる化合物であれば、特に制限なく使用されてもよい。具体的には、前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO)、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが使用されてもよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0M範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動しうる。
【0138】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他に、電池の寿命特性向上、電池容量の減少抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤がさらに1種以上含まれてもよい。このとき、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1~5重量%で含まれてもよい。
【0139】
前記のように本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性及び寿命特性を安定的に示すため、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0140】
本発明によるリチウム二次電池の外形は、特に制限がないが、缶を用いた円筒状、角状、ポーチ(pouch)状またはコイン(coin)状などであってもよい。また、リチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用できるだけでなく、複数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用されてもよい。
【0141】
本発明のさらに他の態様によれば、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュール及び/又はこれを含む電池パックを提供しうる。
【0142】
前記電池モジュールまたは前記電池パックは、パワーツール(Power Tool)と、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気自動車と、または電力貯蔵用システムのいずれか1つ以上の中大型デバイスの電源として利用できる。
【0143】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範疇がこれらの実施例によって制限されるとは解釈されない。
【0144】
製造例1.正極活物質の製造
(1)実施例1
(a)硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸アルミニウムを用いた公知の共沈法(co-precipitation method)によりNiCoAl(OH)水酸化物前駆体(Ni:Co:Al=95:4:1(at%))を合成した。合成された水酸化物前駆体を400℃まで毎分2℃ずつ昇温し、400℃で6時間焼成して酸化物前駆体に切り替えた。
【0145】
(b)前記段階(a)で製造された前記酸化物前駆体とLiOH(Li/(Ni+Co+Al)mol ratio=1.05)を混合した後、焼成炉でO雰囲気を維持し、800℃まで毎分2℃ずつ昇温し、800℃で12時間熱処理してリチウム複合酸化物を得た。
【0146】
(c)前記リチウム複合酸化物内の遷移金属の濃度を基準として3.0mol%の硫酸コバルト水溶液を準備し、前記リチウム複合酸化物に1時間攪拌しつつ添加して混合物を製造した。前記混合物を脱水した後、120℃で12時間乾燥して乾燥品を製造した。
【0147】
(d)前記乾燥品とB(B/(Ni+Co+Al)mol%=0.3)を混合した後、焼成炉でO雰囲気を維持し、700℃まで毎分2℃ずつ昇温し、700℃で12時間熱処理して、LiNi0.9179Co0.0691Al0.01000.0030組成を持つリチウム複合酸化物を得た。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて確認した。
【0148】
(2)実施例2
(a)硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸アルミニウムを用いた公知の共沈法(co-precipitation method)によりNiCoAl(OH)水酸化物前駆体(Ni:Co:Al=95:4:1(at%))を合成した。合成された水酸化物前駆体を400℃まで毎分2℃ずつ昇温し、400℃で6時間焼成して酸化物前駆体に切り替えた。
【0149】
(b)前記段階(a)で製造された前記酸化物前駆体とLiOH(Li/(Ni+Co+Al)mol ratio=1.05)をB(Li/(Ni+Co+Al)mol%=0.2)とともに混合した後、焼成炉でO雰囲気を維持し、800℃まで毎分2℃ずつ昇温し、800℃で12時間熱処理してリチウム複合酸化物を得た。
【0150】
(c)前記リチウム複合酸化物内の遷移金属の濃度を基準として3.0mol%の硫酸コバルト水溶液を準備し、前記リチウム複合酸化物に1時間攪拌しつつ添加して混合物を製造した。前記混合物を脱水した後、120℃で12時間乾燥して乾燥品を製造した。
【0151】
(d)前記乾燥品とB(B/(Ni+Co+Al)mol%=0.3)を混合した後、焼成炉でO雰囲気を維持し、700℃まで毎分2℃ずつ昇温し、700℃で12時間の熱処理してLiNi0.9161Co0.0689Al0.01000.0050の組成を持つリチウム複合酸化物を得た。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて確認した。
【0152】
(3)実施例3
段階(d)で前記乾燥品とB(B/(Ni+Co+Al)mol%=0.5)を混合した後、熱処理したことを除いて、実施例1と同じ方法でリチウム複合酸化物を得た。ICP分析の結果、得られたリチウム複合酸化物は、LiNi0.9161Co0.0689Al0.01000.0050の組成を持つことが確認された。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて確認した。
【0153】
(4)実施例4
段階(d)で前記乾燥品とB(B/(Ni+Co+Al)mol%=0.3)及びZrO(Zr/(Ni+Co+Al)mol%=0.2)を混合した後、熱処理したことを除いて、実施例3と同じ方法でリチウム複合酸化物を得た。ICP分析の結果、得られたリチウム複合酸化物は、LiNi0.9161Co0.0689Al0.0100.0050の組成を持つことが確認された。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて確認した。
【0154】
(5)実施例5
段階(b)で前記乾燥品とB(B/(Ni+Co+Al)mol%=0.3)とTiO(Ti/(Ni+Co+Al)mol%=0.2)を混合した後、焼成したことを除いて、実施例1と同じ方法でリチウム複合酸化物を得た。ICP分析の結果、得られたリチウム複合酸化物は、LiNi0.9161Co0.0689Al0.0100.0030Ti0.0020の組成を持つことが確認された。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて確認した。
【0155】
(6)実施例6
段階(b)で前記乾燥品とB(B/(Ni+Co+Al)mol%=0.3)とMgO(Mg/(Ni+Co+Al)mol%=0.2)を混合した後、焼成したことを除いて、実施例1と同じ方法でリチウム複合酸化物を得た。ICP分析の結果、得られたリチウム複合酸化物は、LiNi0.9161Co0.0689Al0.0100.0030Mg0.0020の組成を持つことが確認された。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて確認した。
【0156】
(7)比較例1
(a)硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸アルミニウムを用いた公知の共沈法(co-precipitation method)によりNiCoAl(OH)水酸化物前駆体(Ni:Co:Al=95:4:1(at%))を合成した。合成された水酸化物前駆体を400℃まで毎分2℃ずつ昇温し、400℃で6時間焼成して酸化物前駆体に切り替えた。
【0157】
(b)前記段階(a)で製造された前記酸化物前駆体とLiOH(Li/(Ni+Co+Al)mol ratio=1.05)及びB(B/(Ni+Co+Al)mol%=0.3)を混合した後、焼成炉でO雰囲気を維持し、800℃まで毎分2℃ずつ昇温し、800℃で12時間熱処理してリチウム複合酸化物を得た。
【0158】
(c)前記リチウム複合酸化物内の遷移金属の濃度を基準として3.0mol%の硫酸コバルト水溶液を準備し、前記リチウム複合酸化物に1時間攪拌しつつ添加して混合物を製造した。前記混合物を脱水した後、120℃で12時間乾燥して乾燥品を製造した。
【0159】
(d)前記乾燥品を焼成炉でO雰囲気を維持し、700℃まで毎分2℃ずつ昇温し、700℃で12時間熱処理してLiNi0.9179Co0.0691Al0.01000.0030の組成を持つリチウム複合酸化物を得た。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて確認した。
【0160】
(8)比較例2
段階(d)で前記乾燥品とB(B/(Ni+Co+Al)mol%=0.8)を混合した後、焼成したことを除いて、実施例2と同じ方法でリチウム複合酸化物を得た。ICP分析の結果、得られたリチウム複合酸化物は、 LiNi0.9113Co0.0687Al0.01000.0100の組成を持つことが確認された。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて確認した。
【0161】
(9)比較例3
段階(d)で前記乾燥品とB(B/(Ni+Co+Al)mol%=1.0)を混合した後、焼成したことを除いて、実施例1と同じ方法でリチウム複合酸化物を得た。ICP分析の結果、得られたリチウム複合酸化物は、LiNi0.9113Co0.0687Al0.01000.0100の組成を持つことが確認された。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて確認した。
【0162】
(10)比較例4
(a)硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸アルミニウムを用いた公知の共沈法(co-precipitation method)によりNiCoAl(OH)水酸化物前駆体(Ni:Co:Al=95:4:1(at%))を合成した。合成された水酸化物前駆体を400℃まで毎分2℃ずつ昇温し、400℃で6時間焼成して酸化物前駆体に切り替えた。
【0163】
(b)前記段階(a)で製造された前記酸化物前駆体とLiOH(Li/(Ni+Co+Al)mol ratio=1.05)を混合した後、焼成炉でO雰囲気を維持し、800℃まで毎分2℃で昇温し、800℃で12時間熱処理してリチウム複合酸化物を得た。
【0164】
(c)前記リチウム複合酸化物を焼成炉でO雰囲気を維持し、700℃まで毎分2℃ずつ昇温し、700℃で12時間熱処理してLiNi0.950Co0.040Al0.010の組成を持つリチウム複合酸化物を得た。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて確認した。
【0165】
製造例2.リチウム二次電池の製造
製造例1によって製造した正極活物質それぞれ92wt%、人造黒鉛4wt%、PVDFバインダー4wt%をN-メチル-2ピロリドン(NMP)30gに分散させて正極スラリーを製造した。前記正極スラリーを厚さ15μmのアルミニウム薄膜に均一に塗布し、135℃で真空乾燥してリチウム二次電池用正極を製造した。
【0166】
前記正極に対してリチウムホイルを相対電極(counter electrode)とし、多孔性ポリエチレン膜(Celgard 2300、厚さ:25μm)を分離膜とし、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートが3:7の体積比で混合された溶媒にLiPFが1.15M濃度で存在する電解液を用いてコイン電池を製造した。
【0167】
実験例1.正極活物質のEP-EDS分析
製造例1によって製造された正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物のうちコバルトの含量を測定するため、EP-EDS分析を行った。EP-EDS分析は、製造例1によって製造された正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物を選別した後、選別されたリチウム複合酸化物の表面に照射する電子ビームの加速電圧を1kVから30kV(1kV、3kV、5kV、7.5kV、10kV、12.5kV、15kV、22.5kV、30kV)まで変化させつつ加速電圧別電子ビームが浸透した特定の深さまでのコバルトの累積濃度(at%)を分析した。
【0168】
前記リチウム複合酸化物の表面に照射する電子ビームの加速電圧が1kVから10kVまでの領域を第1の濃度勾配区間とし、加速電圧が10kVから30kVまでの領域を第2の濃度勾配区間とした。また、前記第1の濃度勾配区間内のコバルトの濃度勾配の傾きをs1とし、前記第2の濃度勾配区間内のコバルトの濃度勾配の傾きをs2とした。
【0169】
コバルトの濃度勾配の傾きを示すs1及びs2は、y軸をコバルトの濃度の変化量(Δat%)とし、x軸をEDS加速電圧変化量(ΔkV%)として計算され、各測定領域の傾きを合算して求めた平均値として計算した。
【0170】
製造例1によって製造された正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物に対する前記EP-EDS分析結果は、下記表1及び表2に示した。
【0171】
【表1】
【0172】
【表2】
【0173】
前記表1及び表2の結果を参照すると、実施例1~実施例6による正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物の表面部から中心部に向かってコバルトの濃度が減少する濃度勾配が形成され、このとき、前記リチウム複合酸化物の表面に照射する電子ビームの加速電圧が1kVから10kVまでの領域を第1の濃度勾配区間とし、加速電圧が10kVから30kVまでの領域を第2の濃度勾配区間とするとき、濃度勾配の傾きの間に有意な差が存在することが確認できる。
【0174】
一方、比較例4による正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物の場合、表面部から中心部に向かってコバルトの濃度が減少する濃度勾配が形成されるが、前記リチウム複合酸化物の表面に照射する電子ビームの加速電圧が1kVから10kVまでの領域を第1の濃度勾配区間とし、加速電圧が10kVから30kVまでの領域を第2の濃度勾配区間内の濃度勾配の傾きの間に有意な差が存在しないことが確認できる。
【0175】
実験例2.リチウム二次電池の電気化学的特性評価
製造例2で製造されたリチウム二次電池(コインセル)に対して電気化学分析装置(Toyo,Toscat-3100)を用いて25℃、電圧範囲3.0V~4.25V、0.2Cの放電率を適用して充放電実験を行い、充電及び放電容量を測定した。
【0176】
また、同じリチウム二次電池に対して25℃、3.0V~4.25Vの駆動電圧範囲内で1C/1Cの条件で50回充/放電を行った後、初期容量に対して50サイクル目の放電容量の割合(サイクル容量維持率;capacity retention)を測定した。
【0177】
前記測定結果は、下記表3に示した。
【0178】
【表3】
【0179】
実験例3.正極活物質及びリチウム二次電池の安定性評価
(1)正極活物質の寿命後のcrack面積
製造例2で製造されたリチウム二次電池(コインセル)に対して25℃、3.0V~4.25Vの駆動電圧範囲内で1C/1Cの条件で50回充/放電を行った後、正極を分離し、分離された正極から正極活物質を回収した後、断面SEMイメージを撮影した。
【0180】
断面SEMイメージのうちクラック面積を数値化するため(2進化された)、断面SEMイメージから確認された複数の粒子の外郭を設定し、前記外郭内の暗い領域をクラックとみなし、前記外郭内の全面積のうち暗い領域の面積の割合をクラック発生率(%)と定義した。
【0181】
上述した方法によって測定されたクラック発生率は、下記表4に示した。
【0182】
【表4】
【0183】
前記表4の結果を参照すると、実施例1~実施例6による正極活物質において、比較例1~比較例4による正極活物質よりリチウム二次電池の寿命後のクラック発生率が減少したことが確認できる。
【0184】
(2)リチウム二次電池のガス発生量の測定
製造例2によって製造されたリチウム二次電池を定電流0.2Cで4.25Vまで充電した後、60℃で14日間保管し、リチウム二次電池内のガス発生によるリチウム二次電池の体積変化を測定した。体積変化測定結果は、下記表5に示した。
【0185】
【表5】
【0186】
繰り返し充放電によって正極活物質内にクラックが発生し、前記クラックを通じて前記正極活物質と電解液が副反応を起こしてガスが発生する可能性が高くなりうる。前記表6の結果を参照すると、実施例1~実施例6による正極活物質を用いたリチウム二次電池の体積変化量は、比較例1~比較例4による正極活物質を用いたリチウム二次電池の体積変化量より小さいことが確認できる。