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特開2023-64739破砕の準備として、最初に低温で塩化カルシウム溶液に浸漬し、続いて電気的短絡を行うことによって、電気化学的アキュムレータ、特に金属イオンアキュムレータを不活性化する方法
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  • 特開-破砕の準備として、最初に低温で塩化カルシウム溶液に浸漬し、続いて電気的短絡を行うことによって、電気化学的アキュムレータ、特に金属イオンアキュムレータを不活性化する方法 図1
  • 特開-破砕の準備として、最初に低温で塩化カルシウム溶液に浸漬し、続いて電気的短絡を行うことによって、電気化学的アキュムレータ、特に金属イオンアキュムレータを不活性化する方法 図2A
  • 特開-破砕の準備として、最初に低温で塩化カルシウム溶液に浸漬し、続いて電気的短絡を行うことによって、電気化学的アキュムレータ、特に金属イオンアキュムレータを不活性化する方法 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064739
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】破砕の準備として、最初に低温で塩化カルシウム溶液に浸漬し、続いて電気的短絡を行うことによって、電気化学的アキュムレータ、特に金属イオンアキュムレータを不活性化する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022170675
(22)【出願日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】2111377
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】レミ・ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】カメル・バシル・エレザール
(72)【発明者】
【氏名】クレメンス・リー
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】破砕の準備として、最初に低温において塩化カルシウム溶液に浸漬し、続いて電気的短絡を行うことによって、電気化学的アキュムレータ、特に金属イオンアキュムレータを不活性化する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、本質的に、CaCl水溶液に浸漬された電気化学的アキュムレータにおける短絡の生成からなり、液体状態での低温、典型的には-50℃により、アキュムレータによって発生した熱の熱吸収が確実になり、したがって、アキュムレータが熱暴走を起こすことを確実に防ぐものであり、前記短絡は、アキュムレータが破砕される前におよびその破砕とは別に起こされる。
【選択図】図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電気化学的アキュムレータ(A)を不活性化する方法であって、
0/ 塩または塩の混合物のタイプを選択し、水溶液中の前記塩または塩の混合物の重量濃度を選択し、前記アキュムレータが「熱暴走温度」T2と呼ばれる温度以下の温度に留まることを可能にする前記水溶液の冷却温度を選択し、前記選択がさらに、前記水溶液が冷却中に液体状態のままであることを確実にする、ステップと、
i/ ステップ0/で選択された前記塩または塩の混合物の水溶液を供給するステップと、
ii/ 前記塩または塩の混合物の前記水溶液をステップ0/で決定された温度に冷却するステップと、
iii/ 前記アキュムレータを前記塩または塩の混合物の冷却された水溶液の中に沈めるステップと、
iv/ 前記アキュムレータを放電させるために、短絡させるステップと
を含む、方法。
【請求項2】
ステップi/が塩化カルシウム(CaCl)の水溶液を供給することからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CaCl濃度が0重量%から30重量%の間である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ0/で決定された温度が-50℃以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップiv/が、前記アキュムレータのケーシングを穿孔する、または押しつぶすことによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップiv/が、0.5から7時間の間、好ましくは4時間未満の時間(t)で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
複数の電気化学的アキュムレータが、ステップiii/とステップiv/との間にモジュール内またはバッテリーパック内に集められ、必要に応じて、ステップiv/の終わりに分解される、複数の電気化学的アキュムレータを不活性化する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法に従って放電される、電気化学的アキュムレータ。
【請求項9】
負極の素材が、グラファイト、リチウム、およびチタン酸酸化物LiTiO12を含む群から選択され、
正極の素材が、LiFePO、LiCoOおよびLiNi0.33Mn0.33Co0.33を含む群から選択される、
リチウムイオンアキュムレータからなる、請求項8に記載の電気化学的アキュムレータ。
【請求項10】
請求項8に記載のアキュムレータを破砕するステップを含む、電気化学的アキュムレータをリサイクルするための方法。
【請求項11】
前記破砕するステップが、ステップiv/に続いて実行され、必要に応じて、ステップi/からステップiv/を実行するものとは異なるプロセスシステムで実行される、請求項10に記載のリサイクルするための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的アキュムレータの分野に関し、より具体的には、金属イオンアキュムレータ、または他の化学物質(鉛など)のアキュムレータに関する。
【0002】
本発明は、第1に、アキュムレータがリサイクルされる前に短絡によって、および前記アキュムレータに熱暴走を発生させることなく、アキュムレータの放電を確実にすることを目的とする。
【0003】
リチウムイオンアキュムレータを参照して説明されるが、本発明は、任意の金属イオン電気化学的アキュムレータ、すなわちナトリウムイオン、マグネシウムイオン、およびアルミニウムイオンのアキュムレータ、または他の化学物質(鉛など)のアキュムレータにも適用可能である。
【背景技術】
【0004】
リチウムイオンバッテリーを使用した大衆市場向け電気自動車の大幅な増大に伴い、リチウムイオンバッテリーの生産はかなり増加した。
【0005】
リチウムイオンバッテリーの寿命戦略の中で、使用済みバッテリーのリサイクルは、持続可能性と最小限の環境汚染を達成するための1つの解決策である。
【0006】
リサイクル中の人と環境との安全を確保するために、リチウムイオンバッテリーの不活性化は、リサイクルプロセス自体以前に不可欠なステップである。これは、リサイクルにおけるステップの1つにアキュムレータの破砕が含まれているためである。
【0007】
この破砕中に、アキュムレータが完全に放電されていない場合、短絡のリスクがあり、短絡によりアキュムレータが加熱され熱暴走が引き起こされる可能性がある。熱暴走が発生した場合、爆発や火災の可能性による物理的なリスクだけでなく、暴走中に発生し得る有毒ガスによる化学的なリスクもある。同様に、リサイクルを目的とした使用済みアキュムレータの輸送を提供する必要がある場合、前もって不活性化されたアキュムレータを輸送することは安全に貢献している。
【0008】
大量のアキュムレータを、後でリサイクルされ得るように、迅速で安全に放電できるようにする方法は、アキュムレータを、最初に互いに分離したのち、所与の濃度のNaCl溶液を含むタンクに浸漬することからなる。
【0009】
図1は、そのような方法を実行するシステムの概略を示す図であり、電気化学性がまだ活性なアキュムレータA1、A2、…Axが、供給導管2を通して導入されたNaCl溶液を含むタンク1に沈められる。NaCl溶液は、出口導管3を通して引き出され得る。
【0010】
アキュムレータA1、A2、…Axの出力端子間の電圧Vが1.23Vより高い場合、塩水は次の反応式
‐マイナス端子側:HO=1/2O+2H+2e
‐プラス端子側:2H+2e=H
に従って加水分解される。
【0011】
その結果、電気化学的に活性な各アキュムレータは徐々に放電する。加水分解に起因する水素放出速度はかなりのものであり得る。アキュムレータの数が多いほど、加水分解によって生成される二水素の量が多くなる。
【0012】
例として、濃縮5重量%NaCl溶液中に8,000個のタイプ18650アキュムレータ相当数を沈めた場合、二水素量は103.7l/sと測定されている。この量の二水素が放出されると、爆発性雰囲気(ATEX)のリスクが高まる。放電溶液(NaCl)を収容する換気装置は、許容範囲内に留まりながら、水素の放出に対処できなければならない。このことはその寸法に影響を与え、同時に放電できるアキュムレータの個数にも影響を与え、この個数は、アキュムレータの残留電気化学的活性の関数である。
【0013】
本文献には、冷却によってアキュムレータを不活性化する技術に関する掲載が含まれている。
【0014】
したがって、米国特許第7,833,646(B2)号は、連続的に冷却されたCOガス流の下でリチウムバッテリーが破砕される解決策を開示している。Coガスの温度は言及されていない。この解決策には多くの欠点があり、まず、大規模なプロセスシステムを伴う環境下での不活性化が必要である。また、ガス流による冷却は、液体へ沈めることによる冷却よりも先験的に効果が低い。
【0015】
米国特許第5,888,463(A)号は、リチウムバッテリーを-196℃程度の温度の液体窒素に浸漬してから破砕することを提案している。この技術により、バッテリーが熱暴走しないようにしながら破砕することができる。一方で、液体窒素の使用にはコストがかかり、非常に低い温度(-196℃)まで下げることを意味する。したがって、装置、特に破砕装置をそのような温度に耐えられるように特別に設計する必要があり、方法への追加コストが生じる。
【0016】
したがって、電気化学的アキュムレータ、特に金属イオンアキュムレータを不活性化するための、信頼できる、すなわち火災や爆発のリスクなしにアキュムレータを破砕でき、先行技術の解決策よりも低コストで実現され得る解決策を提供する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第7,833,646(B2)号
【特許文献2】米国特許第5,888,463(A)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、この必要性を少なくとも部分的に満たすことである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的のために、本発明は、その態様の1つにおいて、電気化学的アキュムレータ(A)、特に金属イオンアキュムレータを不活性化する方法に関し、以下のステップ:
0/ 塩または塩の混合物のタイプを選択し、水溶液中の塩または塩の混合物の重量濃度を選択し、アキュムレータが「熱暴走温度」T2と呼ばれる温度以下の温度に留まることを可能にする水溶液の冷却温度を選択し、前記選択がさらに、水溶液が冷却中に液体状態のままであることを確実にする、ステップと、
i/ ステップ0/で選択された塩または塩の混合物の水溶液を供給するステップと、
ii/ 塩または塩の混合物の水溶液をステップ0/で決定された温度に冷却するステップと、
iii/ アキュムレータを塩または塩の混合物の冷却された水溶液の中に沈めるステップと、
iv/ アキュムレータを放電させるために、短絡させるステップと
を含む。
【0020】
有利な実施形態によれば、ステップi/は、塩化カルシウム(CaCl)の水溶液を供給することからなる。この実施形態によれば、濃度は有利にはCaClの0重量%から30重量%の間である。
【0021】
好ましくは、ステップ0/で決定された温度は、-50℃以上である。
【0022】
より好ましくは、ステップiv/は、アキュムレータのケーシングを穿孔する、または押しつぶすことによって実行される。
【0023】
より好ましくは、ステップiv/は、0.5から7時間の間、好ましくは4時間未満の時間(t)で実行される。
【0024】
本発明はまた、前述したような複数の電気化学的アキュムレータを不活性化する方法を提供し、複数のアキュムレータがステップiii/とステップiv/との間にモジュール内またはバッテリーパック内に集められ、必要に応じて、ステップiv/の終わりに分解される。
【0025】
本発明はさらに、前述の方法に従って放電されたアキュムレータを提供する。
【0026】
それぞれのアキュムレータは、Liイオンアキュムレータであることがあり、ここで
‐負極の素材は、グラファイト、リチウム、およびチタン酸酸化物LiTiO12を含む群から選択され、
‐正極の素材は、LiFePO、LiCoOおよびLiNi0.33Mn0.33Co0.33を含む群から選択される。
【0027】
本発明は、電気化学的アキュムレータをリサイクルするための方法にも関し、前述の方法に由来するアキュムレータを破砕するステップを含む。
【0028】
破砕するステップは、有利にはステップiv/に続いて実行され、必要に応じて、ステップi/からステップiv/を実行するものとは異なるプロセスシステムで実行される。
【0029】
したがって、本発明は、本質的に、CaCl水溶液に浸漬された電気化学的アキュムレータにおける短絡の生成からなり、前記水溶液の液体状態での低温、典型的には-50℃により、アキュムレータによって発生した熱の熱吸収が確実になり、したがって、アキュムレータが熱暴走を起こすことを確実に防ぐものであり、前記短絡は、アキュムレータが破砕される前におよびその破砕とは別に起こされる。
【0030】
熱暴走の現象に関しては、掲載(1)およびその中に記載されているプロトコルを参照されたい。「熱暴走温度」と呼ばれる温度は、本掲載ではT2と指定されている。
【0031】
本掲載の図2における温度T2、典型的には150℃は、アキュムレータが断熱条件下で10℃/分の典型的な加熱速度で加熱される温度またはそれ以上の温度であり、アキュムレータの電気化学的アレイ内のセパレータの溶融、短絡、ひいては電圧の崩壊を引き起こす。
【0032】
したがって「熱暴走」は、本明細書および本発明の文脈において、加熱温度の増分値と時間の増分値との比率が、少なくとも毎分0.02℃であることを意味すると理解することができる。
【0033】
本発明は、以下、
‐リサイクルされるべきアキュムレータが、破砕される前に完全に安全に輸送され、破砕され得ることを確実にすること、
‐投資と運転費用の点で非常に費用がかかる先行技術による液体窒素(-196℃)での極低温破砕プロセスの代わりの、典型的には-50℃での低コスト、低温プロセスの実行、
‐同じモジュール内またはバッテリーパック内の2つ以上のアキュムレータを同時に不活性化する可能性であって、これにより、破砕ステップの前にモジュールまたはバッテリーパックを無電圧で取り出すことが簡単で安全になり、したがって、モジュールまたはバッテリーパック全体を破砕機に導入する必要がなくなり、その代わりにこれは別々のアキュムレータの群でも、一度に1つのアキュムレータでも行うことができる、可能性、
‐2つの別々の産業システムであって、1つは低温に冷却された水溶液にアキュムレータを沈めている間に短絡を実行すること専用で、もう1つは短絡したアキュムレータの破砕専用で、その物理的完全性が(押しつぶす)以前に損なわれていない、産業システムでのアキュムレータの完全なリサイクルの可能性、
を含む多くの利点を有する。
【0034】
本発明の他の利点および特徴は、以下の図を参照して非限定的な例示として与えられる本発明の実施例の詳細な説明を読むことによって明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】NaCl溶液に沈めることによってリチウムイオンアキュムレータを不活性化するための先行技術によるシステムの概略図である。
図2A】冷却チャンバー内で冷却された塩化カルシウム(CaCl)の水溶液に沈めるステップを実行することにより、リチウムイオンアキュムレータを不活性化するための本発明によるシステムの概略図である。
図2B】冷却された溶液中に沈められたアキュムレータがスパイクによって穿孔される、次のステップを示す概略図である。
図2C】溶液とアキュムレータが短絡し溶液の水が電気分解される、アキュムレータを穿孔した結果として生じるステップを示す概略図である。
図3】アキュムレータを押しつぶすことによる短絡の変形を示す概略図である。
図4】本発明の方法による試験中のCaCl水溶液とその中に沈められたLiイオンアキュムレータの温度の経時変化をグラフプロット形式で示す図である。
図5】本発明の方法による試験中の沈められたアキュムレータの電圧の経過をグラフプロット形式で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、先行技術による複数のLiイオンアキュムレータの直接不活性化を実行するシステムに関する。この図1は、プリアンブルですでにコメントされており、したがって以下ではそれ以上コメントしない。
【0037】
明瞭化のために、先行技術および本発明による同じ要素を示す同じ参照番号が、図1から図2Bのすべてに使用される。
【0038】
次に、本発明による少なくとも1つのLiイオンアキュムレータを不活性化する方法について説明する。
【0039】
ステップ0/ 塩または塩の混合物のタイプを選択し、水溶液中の塩または塩の混合物の重量濃度を選択し、
‐短絡アキュムレータによって生成された熱出力の、アキュムレータ内の熱暴走を防ぐのに十分な冷却、すなわち、アキュムレータの内部抵抗の増加により、電流とその結果発生する熱とを制限し、熱暴走が始まる温度T2よりも低い温度に留めることを可能にする温度、
‐冷却中の水溶液中の液体状態、特に、溶液が固体状態から液体状態に移行する温度以上の温度、
を確実にする水溶液の温度を選択する。
【0040】
冷却温度は、アキュムレータAの固有特性、すなわち、電気化学的セルの内部抵抗と、アキュムレータを構成するセル内の電解質の内部抵抗とによって決まる。これは、短絡によって発生する熱出力が、式P=V/Rint、ここで、Vはセルの電圧、Rintはセルの内部抵抗、に従ってアキュムレータを構成する電気化学的セルの内部抵抗に依存するためである。一方、内部抵抗はセルの温度に依存するため、セルを強力に冷却する必要がある。したがって、セルの内部抵抗を温度の関数として知ることは、実験的に決定できるものであり、所与の温度でのバッテリーの放電によって発生する熱出力を推定することが可能であり、したがって、セルが周囲によって十分に冷却され、それにより、セルが最終的に熱暴走を引き起こす恐れがある過剰な電力を生成しないようにすることを確実にすることが可能である。
【0041】
アキュムレータの放電によって生成されるエネルギーは、Edischarge=V/R_intdischarge、ここでtdischargeは放電時間、の式で管理され、Q=m_solution[Cp]_solution(T_cell-T_solution)、ここで、Vはセルの電圧、Rintはセルの内部抵抗、mは塩の溶液の重量、Cpは塩の溶液の比熱容量、の式で定義される熱交換量と等しくなければならない。
【0042】
溶液自体の冷却システム、およびアキュムレータと液体媒体との間の熱交換の質からも、他の影響が生じ得る。他の影響は、メカニカルスターラー、液体の流れなど、さまざまな手段によって改善され得る。これらの環境要因を考慮し、適切なマージンを許容することにより、当業者は、内部抵抗の増加の結果として生成される熱を制限すること、ならびに発生した熱を冷却により放散することからなるツイン効果によりアキュムレータの熱暴走を防止し得る、選択された水溶液の最高温度を決定することができる。安全上の理由から、追加の冷却手段を使用することなく、すなわち、溶液の熱交換または積極的な冷却を促進することなく、パッシブ冷却の効果のみを選択することが可能である。この最大温度よりも低い温度が溶液のために選択され、同時に、特に冷却中は固体状態ではなく液体状態のままであることが確実になる。
【0043】
所与の溶液が、固体状態ではなく液体状態が可能な冷却温度を持たない場合、他の塩または塩の混合物と同様に、他の重量濃度も考慮しなければならない。
【0044】
混合物が所望の温度で共晶を有するならば、水性混合物中の異なる塩を使用することができる。たとえば、23.3重量%の塩NaClを使用すると、-21℃を達成できる。これはKCl、MgCl、または塩の混合物など、他の塩でも可能である。
【0045】
0重量%から30重量%の間のCaCl濃度を有するCaCl水溶液は、液体状態で、0℃から-50℃の間の温度を達成することを可能にする。
【0046】
典型的には、濃度30重量%の塩化カルシウムCaClの水溶液の場合、液相の最低冷却温度は-50℃程度である。この重量濃度では、溶液は実際に-50℃まで液体であり、これは放電中に発生した熱を吸収するのに十分なアキュムレータとの受動的な熱交換係数を持ち、同時に熱暴走を防ぐことを可能にする温度である。選ばれたのは下記である。
【0047】
ステップi/ 前述で定義した塩または塩の混合物の水溶液、この場合は濃度30重量%の塩化カルシウムの水溶液を供給する。
【0048】
ステップii/ この濃度で、溶液を前述で定義した温度に冷却する。
【0049】
ステップiii/ 濃度30重量%の塩化カルシウムCaClの水溶液で満たされたタンク1に、少なくとも1つのLiイオンアキュムレータAを沈め、これを-50℃に冷却され維持されているチャンバー2内に配置する(図2A)。
【0050】
ステップiv/ 次いで、アキュムレータAと-50℃に冷却された水溶液とを含むタンク1をチャンバー2から取り出し、抽出フード(図示せず)の下で周囲空気中に放置する。
【0051】
アキュムレータAのケーシングを、次いで、短絡を生成するためにスパイク3によって穿孔する(図2B)。ここで、スパイクの代わりに、アキュムレータのケーシングを穿孔するのに適した任意の他の穿孔手段を使用することが可能であることに留意されたい。
【0052】
次いで、スパイク3が引っ込められ(図2C)、これによりCaCl水溶液がアキュムレータ内に浸透する。-50℃の温度では、アキュムレータAの内部抵抗は、短絡によって生成される電流が非常に弱いほどのものである。
【0053】
アキュムレータAと水溶液を含む槽が短絡によって加熱されると、アキュムレータAも短絡によって放電する。
【0054】
CaCl水溶液は導電性があるので、および以下の反応により、端子間の電圧が1.23Vの電圧よりも大きくなるので、アキュムレータAは、その出力端子で溶液中の水の電気分解によってさらに放電する。
‐マイナス端子側(式1):HO=1/2O+2H+2e
‐プラス端子側(式2):2H+2e=H
【0055】
これらの反応中に放出される水素と酸素は、フードによって引き出される。
【0056】
短絡に伴う加熱は、アキュムレータAの放電が完了するまで、冷却された溶液によって熱的に吸収される。
【0057】
したがって、アキュムレータAは、火災または爆発のリスクなしに、その後のリサイクルのために破砕することができる。
【0058】
短絡の発生には、アキュムレータAをスパイクで穿孔する代わりに、アキュムレータAを押しつぶすこともできる。スパイクで穿孔して短絡する場合と同様に、塩化カルシウム水溶液の温度を制御することで、アキュムレータを押しつぶすときの安全を確保する。
【0059】
断面が半円形のバー4をアキュムレータAのケーシングを押しつぶすように動かす、円筒形状のアキュムレータAの押しつぶし解決策の1つを図3に示す。押しつぶし解決策の利点は、アキュムレータAに含まれる液体電解質がそのケーシングから排出されるのを防ぐことができ、したがって、槽の汚染を防ぎ、アキュムレータの物理的完全性を維持することができることである。アキュムレータAの物理的完全性を維持することで、今度はリサイクルのために破砕する前のアキュムレータAの輸送と保管が容易になる。これにより、完全に安全に、短絡を伴う水浸とは異なる場所で破砕ステップを実行することが可能になる。
【0060】
本発明者らは、本発明による不活性化方法の実現可能性を検証するために試験を行った。
【0061】
試験は3Ahに充電されたタイプ18650Liイオンアキュムレータを使用して行われた。
【0062】
電流遮断装置(CID:current interruption device)が開いているアキュムレータをシミュレートするために、アキュムレータのプラス端子は樹脂で電気的に絶縁された。アキュムレータ内のガス圧が指定された限界を超えた場合、アキュムレータ内の内部CIDデバイスが電流を遮断することを、ここでは覚えておかなければならない。
【0063】
前記タイプ18650アキュムレータを、濃度30重量%のCaCl水溶液を含む槽に浸漬し、-50℃に冷却した。
【0064】
次に、この水溶液に沈められたタイプ18650アキュムレータをタングステンスパイクにより穿孔し、1分後にタングステンスパイクを引っ込めて溶液をアキュムレータ内に浸透させた。
【0065】
アキュムレータの加熱を監視するために、アキュムレータの端子とCaCl溶液内に熱電対を配置した。
【0066】
試験温度の経時変化が図4に示されており、ここで、TC1は周囲空気に、TC2はCaCl水溶液中に、TC3はアキュムレータのプラスの出力端子に、TC4はアキュムレータのマイナス端子に、TC5は穿孔を行ったタングステンスパイクに、それぞれ配置された熱電対によって測定された温度を示す。
【0067】
これらの曲線から、試験中に熱暴走が観察されなかったことがわかる。
【0068】
図5に示すように、アキュムレータ電圧の経時変化も監視した。図5から、アキュムレータは約5時間でその電気容量をすべて失ったことがわかる。すなわち、この時間の終わりには、タイプ18650アキュムレータは完全に放電されたということである。
【0069】
本発明は、説明してきた例に限定されない。特に、図示されていない変形において、図示された例の特徴を互いに組み合わせることが可能である。
【0070】
本発明の範囲から逸脱することなく、他の変形および改良を想定し得る。
【0071】
示されている例は、単一のアキュムレータに関するものであるが、もちろん複数のアキュムレータに対して同じステップを実行することも同様に可能であり、必要に応じて、穿孔または押しつぶしによる短絡中にモジュール内またはバッテリーパック内に集められたままである。
【符号の説明】
【0072】
A アキュムレータ
V 電圧
T2 熱暴走温度
1 タンク
2 チャンバー
3 スパイク
4 断面が半円形のバー
TC1 周囲空気に配置された熱電対によって測定された温度
TC2 CaCl水溶液中に配置された熱電対によって測定された温度
TC3 アキュムレータのプラスの出力端子に配置された熱電対によって測定された温度
TC4 アキュムレータのマイナス端子に配置された熱電対によって測定された温度
TC5 穿孔を行ったタングステンスパイクに配置された熱電対によって測定された温度
(参考文献)
[1] Xuning Feng, et al. “Key Characteristics for Thermal Runaway of Li-ion Batteries” Energy Procedia, 158 (2019) 4684-4689.
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
【外国語明細書】