IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エスケー イノベーション  カンパニー リミテッドの特許一覧 ▶ エスケー アイイー テクノロジー カンパニー リミテッドの特許一覧

特開2023-64749ポリアミドイミド前駆体、それにより製造されたポリアミドイミド、およびそれを含むポリアミドイミドフィルム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064749
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド前駆体、それにより製造されたポリアミドイミド、およびそれを含むポリアミドイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/14 20060101AFI20230501BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C08G73/14
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171527
(22)【出願日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0143655
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】519214271
【氏名又は名称】エスケー アイイー テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK IE TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 03188 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョン チャン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン スン ミン
(72)【発明者】
【氏名】クァク ヒョ シン
(72)【発明者】
【氏名】イ ソ ユン
【テーマコード(参考)】
4F071
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AC12
4F071AE19
4F071AF20Y
4F071AF30Y
4F071AG05
4F071AG28
4F071AG34
4F071AH12
4F071AH16
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4J043QB15
4J043QB23
4J043QB26
4J043QB31
4J043QB33
4J043RA05
4J043SA06
4J043SA54
4J043SB02
4J043TA22
4J043TA26
4J043TB02
4J043UA022
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UA261
4J043UB062
4J043UB222
4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA32
4J043ZA52
4J043ZB11
4J043ZB21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高いモジュラスおよび卓越した光学特性を実現することができるポリアミドイミド前駆体を提供する。
【解決手段】例えば下記構造を有する、フッ素原子含有基を有するベンゼン環を2個または3個有し、これらのベンゼン環がアミド基で直線的に結合されており、両端のベンゼン環にアミノ基を有するジアミンと、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジカルボン酸クロライドとを反応させてなるポリアミドイミド前駆体、それにより製造されたポリアミドイミド、およびそれを含むポリアミドイミドフィルムを提供する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジアミンから誘導された構造単位、二無水物から誘導された構造単位、および芳香族二酸二塩化物から誘導された構造単位を含み、
前記芳香族ジアミンは、下記化学式1で表される化合物を含む、ポリアミドイミド前駆体。
[化学式1]
【化1】
前記化学式1中、X、X、およびYは、それぞれ独立して、フルオロ(C1-C7)アルキル、パーフルオロ(C1-C7)アルキル、またはフルオロ基であり、aは、0~4の整数である。
【請求項2】
前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2または化学式3で表される、請求項1に記載のポリアミドイミド前駆体。
[化学式2]
【化2】
[化学式3]
【化3】
前記化学式2および3中、X、X、およびYは、それぞれ独立して、パーフルオロ(C1-C7)アルキルまたはフルオロ基であり、aは、0~4の整数である。
【請求項3】
前記化学式1で表される化合物は、下記構造から選択される、請求項1に記載のポリアミドイミド前駆体。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項4】
前記芳香族ジアミンは、前記化学式1で表される化合物とは異なる第2芳香族ジアミンをさらに含む、請求項1に記載のポリアミドイミド前駆体。
【請求項5】
前記第2芳香族ジアミンは、トリフルオロアルキル基で置換された芳香族環を含有する、請求項4に記載のポリアミドイミド前駆体。
【請求項6】
前記第2芳香族ジアミンは、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-ベンジジンである、請求項4に記載のポリアミドイミド前駆体。
【請求項7】
前記化学式1で表される化合物から誘導された構造単位は、前記芳香族ジアミンから誘導された構造単位の総モル数を基準として5~30モル%で含まれる、請求項1に記載のポリアミドイミド前駆体。
【請求項8】
前記二無水物は、芳香族二無水物および脂環式二無水物を含む、請求項1に記載のポリアミドイミド前駆体。
【請求項9】
前記芳香族二無水物は、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)-ジフタル酸無水物を含み、前記脂環式二無水物は、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含む、請求項8に記載のポリアミドイミド前駆体。
【請求項10】
前記芳香族二酸二塩化物は、テレフタロイルジクロライド、イソフタロイルジクロライド、1,1’-ビフェニル-4,4’-ジカルボニルジクロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、1,5-ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のポリアミドイミド前駆体。
【請求項11】
前記芳香族二酸二塩化物から誘導された構造単位は、前記芳香族ジアミンから誘導された構造単位100モルに対して50モル~90モルで含まれる、請求項1に記載のポリアミドイミド前駆体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のポリアミドイミド前駆体から製造される、ポリアミドイミド。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載のポリアミドイミド前駆体、前記ポリアミドイミド前駆体から製造されたポリアミドイミド、またはこれらの組み合わせを含む、ポリアミドイミドフィルム形成用組成物。
【請求項14】
請求項13に記載のポリアミドイミドフィルム形成用組成物から形成される、ポリアミドイミドフィルム。
【請求項15】
厚さが20~500μmであり、ASTM D882に準じたモジュラスが7GPa以上であり、ASTM D1003に準じたヘイズが3.0以下であり、ASTM D1003に準じて400~700nmで測定された全光線透過率が85%以上である、請求項14に記載のポリアミドイミドフィルム。
【請求項16】
請求項14に記載のポリアミドイミドフィルムを含む、ウィンドウカバーフィルム。
【請求項17】
請求項16に記載のウィンドウカバーフィルムを含む、ディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリアミドイミド前駆体、それにより製造されたポリアミドイミド、およびそれを含むポリアミドイミドフィルムに関する。
【0002】
より具体的に、本開示は、特定の組成の組み合わせから誘導されたポリアミドイミドを含み、高いモジュラスおよび卓越した光学特性を実現することができるポリアミドイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0003】
近年、ディスプレイ装置の軽量化、スリム化、およびフレキシブル化が重要視されるにつれ、既存のディスプレイ装置に広く用いられてきたガラス基板、カバーガラスなどをポリイミドに代替するための研究が活発に行われている。次世代ディスプレイ装置に適用するためには、優れた光学的物性の確保はいうまでもなく、機械的物性の向上が伴わなければならないため、ディスプレイ装置用ポリイミド系重合体の要求性能は益々高度化している。
【0004】
このために、透明ポリイミド(Colorless polyimide、CPI)系樹脂に直線性とリジッド性の強い単量体を組み合わせるかまたはアミド基を導入して機械的物性を向上させるための研究が行われている。しかし、ポリイミド系樹脂の光学的物性と機械的物性はトレードオフ(trade-off)関係にあり、このような試みは、ポリイミド系樹脂の機械的物性が向上しても光学的物性が悪くなる限界がある。また、ポリイミド系樹脂の溶液の取り扱い性を低下させる問題があるため、工程の難易度が上昇するかまたは樹脂を得ることが不可能な限界がある。
【0005】
そこで、無色透明な性能を有しながらも、向上した機械的物性、特に高いモジュラスを実現することで、適用範囲をさらに広げることができるポリイミド系フィルムの開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一実施形態は、優れた機械的物性および光学的物性を同時に向上させることができるポリアミドイミドフィルムを提供する。
また、一実施形態は、前記物性を有するポリアミドイミドフィルムを提供できる特定の単量体の組み合わせから製造されるポリアミドイミド前駆体を提供する。
【0007】
また、一実施形態は、前記ポリアミドイミド前駆体を用いて高強度の無色透明なポリアミドイミドフィルムを提供する。
また、一実施形態は、前記ポリアミドイミドフィルムを含む多層構造体およびそれを含むディスプレイ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係るポリアミドイミド前駆体は、芳香族ジアミンから誘導された構造単位、二無水物から誘導された構造単位、および芳香族二酸二塩化物から誘導された構造単位を含み、前記芳香族ジアミンは、下記化学式1で表される化合物を含んでもよい。
【0009】
[化学式1]
【化1】
【0010】
(前記化学式1中、X、X、およびYは、それぞれ独立して、フルオロ(C1-C7)アルキル、パー(C1-C7)アルキル、またはフルオロ基であり、aは、0~4の整数である。)
【0011】
一実施形態に係る前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2または化学式3で表されてもよい。
【0012】
[化学式2]
【化2】
【0013】
[化学式3]
【化3】
【0014】
(前記化学式2および3中、X、X、およびYは、それぞれ独立して、パーフルオロ(C1-C7)アルキルまたはフルオロ基であり、aは、0~4の整数である。)
【0015】
一実施形態に係る前記化学式1で表される化合物は、下記構造から選択されてもよい。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0016】
一実施形態に係る前記芳香族ジアミンは、前記化学式1で表される化合物とは異なる第2芳香族ジアミンをさらに含んでもよい。
一実施形態に係る前記第2芳香族ジアミンは、トリフルオロアルキル基で置換された芳香族環を含有してもよい。
【0017】
一実施形態に係る前記第2芳香族ジアミンは、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-ベンジジンであってもよい。
一実施形態に係る前記化学式1で表される化合物から誘導された構造単位は、前記芳香族ジアミンから誘導された構造単位の総モル数を基準として5~30モル%で含まれてもよい。
【0018】
一実施形態に係る前記二無水物は、芳香族二無水物および脂環式二無水物を含んでもよい。
一実施形態に係る前記芳香族二無水物は、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)-ジフタル酸無水物を含み、前記脂環式二無水物は、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含んでもよい。
【0019】
一実施形態に係る前記芳香族二酸二塩化物は、テレフタロイルジクロライド、イソフタロイルジクロライド、1,1’-ビフェニル-4,4’-ジカルボニルジクロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、1,5-ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0020】
一実施形態に係る前記芳香族二酸二塩化物から誘導された構造単位は、前記芳香族ジアミンから誘導された構造単位100モルに対して50モル~90モルで含まれてもよい。
【0021】
また、一実施形態は、前記ポリアミドイミド前駆体から製造される、ポリアミドイミドを提供する。
また、一実施形態は、前記ポリアミドイミド前駆体、前記ポリアミドイミド前駆体から製造されたポリアミドイミド、またはこれらの組み合わせを含む、ポリアミドイミドフィルム形成用組成物を提供する。
また、一実施形態は、前記ポリアミドイミドフィルム形成用組成物から形成される、ポリアミドイミドフィルムを提供する。
【0022】
一実施形態に係る前記ポリアミドイミドフィルムは、厚さが20~500μmであり、ASTM D882に準じたモジュラスが7GPa以上であり、ASTM D1003に準じたヘイズが3.0以下であり、ASTM D1003に準じて400~700nmで測定された全光線透過率が85%以上であってもよい。
【0023】
また、一実施形態は、前記ポリアミドイミドフィルムを含む、ウィンドウカバーフィルムを提供する。
また、一実施形態は、前記ウィンドウカバーフィルムを含む、ディスプレイ装置を提供する。
【発明の効果】
【0024】
一実施形態に係るポリアミドイミド前駆体から製造されたポリアミドイミドフィルムは、優れた機械的物性および光学的物性を同時に実現することができる。
【0025】
具体的に、前記ポリアミドイミド前駆体は、機械的物性を向上できる単位と、電荷移動錯体(Charge Transfer Complex、CTC)効果を減少できる単位を同時に有する構造の組み合わせから製造され、ポリアミドイミドフィルムの透明度が低下することなく機械的強度をさらに効果的に向上させることができる。
【0026】
また、一実施形態に係るポリアミドイミド前駆体は、溶液の取り扱い性に優れ、製造工程性を改善することができ、十分な厚さのフィルムを製造することができる。
【0027】
一実施形態に係るポリアミドイミド前駆体は、無色透明でありながらも、機械的強度に優れたポリアミドイミドフィルムを提供できるだけでなく、製造工程性にも優れ、ディスプレイ装置を含む多様な産業分野に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、他に定義しない限り、全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。本発明で用いられる用語は、単に特定の具体例を効果的に記述するためのものであって、本発明を制限するためのものではない。
本明細書で用いられる単数の形態は、文脈上、特に指示しない限り、複数の形態も含むことを意図し得る。
【0029】
本明細書の用語、「含む」とは、「備える」、「含有する」、「有する」、または「特徴とする」などの表現と等価の意味を有する開放型記載であって、追加的に列挙されていない要素、材料、または工程を排除するものではない。
【0030】
本明細書の用語、「これらの組み合わせ」とは、構成物の混合または共重合を意味し得る。
本明細書の用語、「重合体」は、オリゴマーを含み、単独重合体および共重合体を含む。前記共重合体は、交互重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、分岐共重合体、架橋共重合体、またはこれらを全て含んでもよい。
【0031】
本明細書の用語、「ポリアミック酸」は、アミック酸(amic acid)モイエティを有する構造単位を含む重合体を意味し、「ポリイミド」は、イミドモイエティを有する構造単位を含む重合体を意味し、「ポリアミド」は、アミドモイエティを有する構造単位を含む重合体を意味し、「ポリアミドイミド」は、イミドモイエティおよびアミドモイエティを有する構造単位を含む重合体を意味し、「ポリアミック酸アミド」は、アミック酸モイエティおよびアミドモイエティを有する構造単位を含む重合体を意味し得る。本明細書の用語、「ポリアミドイミド前駆体溶液」は、「ポリアミック酸アミド溶液」と等価の意味を有するものであってもよく、ポリアミドイミドおよび/またはポリアミック酸アミドを含む溶液を意味し得る。また、前記「ポリイミド」は、ポリイミド、またはポリアミドイミドを含む意味として用いられてもよく、「ポリアミック酸」は、ポリアミック酸、またはポリアミック酸アミドを含む意味として用いられてもよい。
【0032】
本明細書の用語、「アルキル」は、1つの水素除去により脂肪族炭化水素から誘導された有機ラジカルであり、直鎖状または分岐鎖状のいずれを含んでもよい。前記アルキルは、1~10個の炭素原子、具体的に1~7個の炭素原子、具体的に1~5個の炭素原子を有してもよい。前記アルキルは、一例として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、エチルヘキシルなどを含むが、これに限定されない。
【0033】
ポリイミドフィルムをディスプレイ装置に応用するためには、ポリイミドフィルム固有の黄色度特性を改善し、無色透明な性能を確保するとともに、機械的物性の向上が伴わなければならない。しかし、透明ポリイミド(Colorless polyimide、CPI)の機械的物性を改善するためにリジッド(rigid)な構造の化合物やアミド基を導入する場合、機械的物性は向上しても光学的物性が悪くなるという問題がある。また、溶液の取り扱い性が低下して工程の難易度が上昇し、その樹脂を用いてフィルムを得るのに限界を有し得る。そこで、ポリイミドフィルムに優れた機械的物性および光学的物性を同時に付与することができ、また、取り扱い性に優れた、新しいポリイミド系樹脂を得るための試みが活発に展開されている。
【0034】
一実施形態に係るポリアミドイミド前駆体は、特定の単量体組成の組み合わせから誘導された構造単位を含み、光学的物性および機械的物性が同時に改善されたポリアミドイミドフィルムを提供することができる。
【0035】
具体的に、一実施形態に係るポリアミドイミド前駆体は、特定の芳香族ジアミン、二無水物、および芳香族二酸二塩化物の組み合わせから製造されることで、可視光線領域の全般にわたって高い光透過率を示し、ヘイズが低いだけでなく、高いモジュラスをはじめとする優れた機械的強度を有するポリアミドイミドフィルムを提供することができる。
【0036】
具体的に、一実施形態に係るポリアミドイミド前駆体は、芳香族ジアミンから誘導された構造単位、二無水物から誘導された構造単位、および芳香族二酸二塩化物から誘導された構造単位を含み、前記芳香族ジアミンは、下記化学式1で表される化合物を含んでもよい。
【0037】
[化学式1]
【化8】
【0038】
(前記化学式1中、X、X、およびYは、それぞれ独立して、フルオロ(C1-C7)アルキル、パーフルオロ(C1-C7)アルキル、またはフルオロ基であり、aは、0~4の整数である。)
【0039】
前記化学式1の化合物は、複数の芳香族環を含んでフィルムの機械的強度を向上できるとともに、前記芳香族環にフルオロを含む置換基が導入されて電荷移動錯体(Charge Transfer Complex、CTC)効果を減少させることができる。また、ポリアミドイミド構造内または鎖間のパッキング密度を低くし、また、十分な厚さを有するにもかかわらず、光学的物性が顕著に改善されたフィルムを提供することができる。特定の理論に拘るものではないが、一例として、上記のようにフルオロを含む置換基が導入されていない場合には、CTCが大きく発生して光学特性が脆弱になり得、溶液の取り扱い性が悪くなってフィルムの製造が不可能になり得る。
【0040】
また、前記化学式1の芳香族ジアミンは、複数のアミド結合を有し、π-共役(π-conjugation)が減少することで、CTC効果をさらに効果的に減少させることができる。
【0041】
一実施形態に係るポリアミドイミド前駆体は、前記化学式1のような特定の構造の化合物を含む芳香族ジアミンとともに、二無水物および芳香族二酸二塩化物単量体の組み合わせから製造され、卓越した機械的強度および光学的物性を同時に実現可能なポリアミドイミドフィルムを提供することができる。
【0042】
具体的に、前記化学式1で表される化合物は、下記化学式2または化学式3で表されてもよい。
【0043】
[化学式2]
【化9】
【0044】
[化学式3]
【化10】
【0045】
(前記化学式2および3中、X、X、およびYは、それぞれ独立して、パーフルオロ(C1-C7)アルキルまたはフルオロ基であり、aは、0~4の整数である。)
【0046】
一例として、前記XおよびXは、互いに同一であってもよく、パーフルオロ(C1-C5)アルキルまたはフルオロ基であってもよい。
一例として、前記Yは、フルオロ基であってもよく、aは、0または4であってもよい。
【0047】
より具体的に、一実施形態に係る前記化学式1で表される化合物は、下記構造から選択されてもよいが、これに限定されない。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0048】
具体的に、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、優れた高光透過率および低ヘイズ特性を維持するとともに、モジュラスを画期的に向上可能な相乗効果を実現することができる。
【0049】
一実施形態において、前記芳香族ジアミンは、前記化学式1で表される化合物を単独で用いるか、または必要に応じて当該分野で通常用いられる芳香族ジアミンを混合して2種以上の芳香族ジアミン化合物を用いてもよい。
【0050】
一例として、一実施形態において、前記芳香族ジアミンは、前記化学式1で表される化合物の他に、前記化学式1で表される化合物とは異なる第2芳香族ジアミンをさらに含んでもよい。前記第2芳香族ジアミンは、置換もしくは非置換のC6-30芳香族環を含んでもよく、前記芳香族環は、単環であるか;2個以上の芳香族環が縮合した縮合環であるか;または2個以上の芳香族環が単結合、C1-5アルキレン基、O、またはC(=O)により連結された非縮合環であってもよい。
【0051】
一例として、前記第2芳香族ジアミンは、フッ素系置換基が導入された芳香族ジアミン化合物であってもよく、前記フッ素系置換基は、フルオロ(C1-C7)アルキル、パーフルオロ(C1-C7)アルキル、またはフルオロ基を含んでもよい。具体的に、前記第2芳香族ジアミンは、1つまたは2つ以上のトリフルオロアルキル基で置換された芳香族環を含んでもよく、前記トリフルオロアルキル基で置換された芳香族環は、トリフルオロアルキル基以外の他の置換基でさらに置換されていても置換されていなくてもよい。
【0052】
より具体的に、前記第2芳香族ジアミンは、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-ベンジジン(2,2’-bis(trifluoromethyl)benzidine、TFMB)であってもよい。これは、フッ素置換基の電荷移動効果(Charge Transfer effect)を誘導し、フィルムにさらに優れた光学的物性を付与することができる。
【0053】
一例として、前記芳香族ジアミンが化学式1で表される化合物とは異なる芳香族ジアミンをさらに含む場合、前記化学式1で表される化合物から誘導された構造単位は、全体芳香族ジアミンから誘導された構造単位の総モル数を基準として5~30モル%、具体的には10~30モル%で含まれてもよい。前記範囲を満たす場合、他の単量体の構成成分と組み合わせた際に、ポリアミドイミドフィルムのさらに優れた機械的物性および光学的物性の同時改善効果を示すことができるため好まれるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0054】
一実施形態に係る前記二無水物は、芳香族二無水物、脂環式二無水物、またはこれらの組み合わせを含んでもよく、例えば、前記二無水物は、芳香族二無水物および脂環式二無水物を含んでもよい。
【0055】
前記芳香族二無水物は、少なくとも1つの芳香族環を含む二無水物を意味し、ここで、芳香族環は、前述したとおりである。前記芳香族二無水物は、例えば、BPAF(9,9-Bis(3,4-dicarboxyphenyl)fluorene dianhydride、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物)、6FDA(4,4’-(Hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)-ジフタル酸無水物)、BPDA(3,3’,4,4’-Biphenyltetracarboxylic dianhydride、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)、ODPA(4,4’-Oxydiphthalic anhydride、4,4’-オキシジフタル酸無水物)、SODPA(Sulfonyldiphthalic anhydride、スルホニルジフタル酸無水物)、6HDBA((isopropylidenediphenoxy)bis(phthalic anhydride)、イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物))、TDA(4-(2,5-Dioxotetrahydrofuran-3-yl)-1,2,3,4-tetrahydronaphthalene-1,2-dicarboxylic anhydride、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物)、PMDA(1,2,4,5-Benzenetetracarboxylic anhydride、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸無水物)、およびBTDA(Benzophenonetetracarboxylic dianhydride、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物)から選択される1つまたは2つ以上を用いてもよいが、これに限定されない。
【0056】
具体的に、前記芳香族二無水物は、フッ素系置換基が導入されたフッ素系芳香族二無水物化合物であってもよく、前記フッ素系置換基は、フルオロ(C1-C7)アルキル、パーフルオロ(C1-C7)アルキル、またはフルオロ基を含んでもよい。具体的に、前記芳香族二無水物は、1つまたは2つ以上のトリフルオロアルキル基で置換された芳香族環を含んでもよく、前記トリフルオロアルキル基で置換された芳香族環は、トリフルオロアルキル基以外の他の置換基でさらに置換されていても置換されていなくてもよい。例えば、前記芳香族二無水物としては、6FDAを用いてもよい。上記のようなフッ素系芳香族二無水物を用いることで、ポリアミドイミドフィルムの光学的物性の向上だけでなく、機械的強度、特にモジュラスをさらに効果的に改善させることができる。
【0057】
前記脂環式二無水物(alicyclic dianhydride)は、少なくとも1つの脂肪族環を含む二無水物を意味し、前記脂肪族環は、単環であるか、2個以上の脂肪族環が縮合した縮合環であるか、または2個以上の脂肪族環が単結合、置換もしくは非置換の(C1-C5)アルキレン基、O、またはC(=O)により連結された非縮合環であってもよい。例えば、前記脂環式二無水物は、CBDA(1,2,3,4-Cyclobutanetetracarboxylic dianhydride、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物)、DOCDA(5-(2,5-Dioxotetrahydrofuryl)-3-methyl-3-cyclohexene-1,2-dicarboxylic anhydride、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチルシクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物)、BTA(Bicyclo[2.2.2]oct-7-ene-2,3,5,6-tetracarboxylic dianhydride、ビシクロ[2.2.2]オクタ-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物)、BODA(Bicyclooctene-2,3,5,6-tetracarboxylic dianhydride、ビシクロオクテン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物)、CPDA(1,2,3,4-cyclopentanetetracarboxylic dianhydride、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物)、CHDA(1,2,4,5-Cyclohexanetetracarboxylic dianhydride、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物)、TMDA(1,2,4-tricarboxy-3-methylcarboxycyclopentane dianhydride、1,2,4-トリカルボキシ-3-メチルカルボキシシクロペンタン二無水物)、TCDA(1,2,3,4-tetracarboxycyclopentane dianhydride、1,2,3,4-テトラカルボキシシクロペンタン二無水物)、およびこれらの誘導体からなる群から選択されるいずれか1つまたは2つ以上を用いてもよいが、これに限定されない。具体的に、前記脂環式二無水物は、CBDAであってもよい。
【0058】
より具体的に、一実施形態に係る前記二無水物化合物としては、芳香族二無水物と脂環式二無水物の組み合わせを用いてもよく、例えば、フッ素系芳香族二無水物と脂環式二無水物の組み合わせを用いてもよく、例えば、6FDAとCBDAの組み合わせを用いる場合、上述したような芳香族ジアミンと芳香族二酸二塩化物と組み合わせた際に、ポリアミドイミドフィルムのさらに優れた機械的物性および光学的物性の同時改善効果を示すことができる。
【0059】
一実施形態に係る前記芳香族二酸二塩化物は、上述したジアミン化合物と反応して高分子鎖中にアミド構造を形成することで、フィルムの光学特性を低下させない範囲で、モジュラスを含むさらに優れた機械的物性を示すことができる。
【0060】
前記芳香族二酸二塩化物は、例えば、IPC(isophthaloyl dichloride、イソフタロイルジクロライド)、TPC(Terephthaloyl dichloride、テレフタロイルジクロライド)、BPC([1,1’-Biphenyl]-4,4’-dicarbonyl dichloride、[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジカルボニルジクロライド)、NPC(1,4-naphthalene dicarboxylic dichloride、1,4-ナフタレンジカルボン酸ジクロライド)、NTC(2,6-naphthalene dicarboxylic dichloride、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジクロライド)、NEC(1,5-naphthalene dicarboxylic dichloride、1,5-ナフタレンジカルボン酸ジクロライド)、DEDC(4,4’-Oxybis(benzoylchloride)、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロライド))、およびこれらの誘導体からなる群から選択される1つまたは2つ以上を用いてもよいが、例えば、TPCを用いてもよく、これに限定されない。
【0061】
一実施形態において、前記芳香族二酸二塩化物の含量は、特に制限されないが、例えば、芳香族ジアミン100モルに対して50モル以下で含まれてもよく、50モル以上で含まれてもよい。前記芳香族二酸二塩化物が前記芳香族ジアミン100モルに対して50モル以上で含まれても、前記化学式1のジアミンと組み合わせられることで、優れた光学的物性を維持しながらも、機械的物性をさらに向上させることができる。
【0062】
一実施形態に係る前記芳香族二酸二塩化物から誘導された構造単位は、前記芳香族ジアミンから誘導された構造単位100モルに対して50モル~90モル、具体的には60モル~90、または60モル~80モルを用いてもよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0063】
上述した範囲の芳香族二酸二塩化物を他の単量体と組み合わせて用いる場合、ポリアミドイミドフィルムのさらに優れた光学的物性および機械的強度を示すことができる。具体的に、高い光透過率および低いヘイズ特性を実現するとともに、モジュラスをさらに画期的に向上可能な相乗効果を実現することができる。
【0064】
また、一実施形態に係る前記ポリアミドイミド前駆体は、芳香族ジアミン、二無水物、および芳香族二酸二塩化物を共に投入して製造されてもよく、または芳香族ジアミンと芳香族二酸二塩化物を反応させてアミン末端を有するポリアミドオリゴマーを製造した後、前記ポリアミドオリゴマーと追加の芳香族ジアミンおよび二無水物を反応させて製造されてもよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。アミン末端を有するポリアミドオリゴマーを製造した後、追加の芳香族ジアミンおよび二無水物を反応させる場合には、ブロック型ポリアミドイミドが製造されることができ、フィルムの機械的物性がさらに向上することができる。
【0065】
また、一実施形態は、前記ポリアミドイミド前駆体から製造される、ポリアミドイミドを提供する。
また、一実施形態は、前記ポリアミドイミド前駆体および/またはポリアミドイミドを含む、ポリアミドイミドフィルム形成用組成物を提供する。
【0066】
具体的に、前記ポリアミドイミドフィルム形成用組成物は、一実施形態に係るポリアミドイミド前駆体、前記ポリアミドイミド前駆体から製造されたポリアミドイミド、またはこれらの混合物と、有機溶媒と、を含んでもよい。
【0067】
一実施形態に係る前記ポリアミドイミドフィルム形成用組成物は、上述したポリアミドイミド前駆体および/またはポリアミドイミドを含むことで、顕著に向上した機械的物性を有するポリアミドイミドフィルムを提供することができる。特に、一実施形態に係る前記組成物は、無色透明な性質を維持しながらも、モジュラス値が顕著に向上したポリアミドイミドフィルムを提供することができる。
【0068】
一実施形態に係る前記組成物に含まれる有機溶媒は、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのアセテート類;メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、カルビトールなどのアルコール類;N,N-ジメチルプロピオンアミド(DMPA)、N,N-ジエチルプロピオンアミド(DEPA)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド(DEAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド(DEF)、N-メチルピロリドン(NMP)、N-エチルピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルメトキシアセトアミドなどのアミド類;などから選択される1つまたは2つ以上であってもよいが、これに限定されない。
【0069】
具体的に、前記有機溶媒は、上述したアミド類から選択される1つまたは2つ以上の混合物であってもよい。一例として、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド(DEAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、N-エチルピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルプロピオンアミド(DMPA)、N,N-ジエチルプロピオンアミド(DEPA)、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0070】
一実施形態に係るポリアミドイミドフィルム形成用組成物は、その後のフィルム形成工程時の塗布性などを考慮して、前記組成物が適した粘度を有するようにする量に固形分含量を調節することができる。一例として、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルム形成用組成物は、組成物の総重量を基準として、固形分含量が5~40重量%、10~30重量%、または10~20重量%であってもよい。ここで、固形分は、ポリアミドイミド前駆体および/またはポリアミドイミドを意味する。
【0071】
具体的に、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルム形成用組成物は、前記固形分含量を満たすときの粘度が5,000~100,000cpsまたは15,000~50,000cpsであってもよい。上述した粘度範囲を満たす場合、ポリアミドイミドフィルム加工時、脱泡の効率性にさらに優れ、工程上の利点を提供することができる。そこで、より均一な表面を実現することができる。この際、前記粘度は、ブルックフィールド(Brookfield DV2TRV)粘度計スピンドル(Spindle)No.52を用いて、常温(25℃)で試料を載せ、トルク値が80%となった時点で安定化作業を経て測定した値を意味する。
【0072】
また、一実施形態は、前記ポリアミドイミドフィルム形成用組成物を用いて製造されたポリアミドイミドフィルムを提供する。
一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、前記化学式1で表される化合物を含む芳香族ジアミン、二無水物、および芳香族二酸二塩化物から誘導された構造単位を含むことで、透明性に優れるとともに、モジュラスが高く、優れた機械的強度を示すことができる。
【0073】
一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、厚さが10~500μm、例えば10~300μm、例えば20~100μm、例えば30~100μmであってもよい。
【0074】
また、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、ASTM D882に準じたモジュラスが6GPa以上、7GPa以上、または7.2GPa以上であってもよい。
【0075】
また、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、前記モジュラス値を満たすとともに、ASTM D1003に準じたヘイズが5.0以下、3.0以下、または2.0以下であってもよく、ASTM D1003に準じた全光線透過率が80%以上、85%以上、または87%以上であってもよい。
【0076】
すなわち、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、20~100umの厚さ範囲でも、無色透明な性質を維持するとともに、優れた機械的強度を実現することができる。
【0077】
一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、特定の単量体組成の組み合わせから誘導された構造単位を含むことで、上記のような優れた光学的物性および機械的物性を実現することができる。具体的に、一実施形態は、前記化学式1で表される化合物を含む芳香族ジアミン、二無水物、および芳香族二酸二塩化物から誘導された構造単位を含むことで、光学性、機械的強度、および柔軟性のいずれにも優れたポリアミドイミドフィルムを提供することができる。したがって、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、素子用基板、ディスプレイ用カバー基材、光学フィルム、IC(integrated circuit)パッケージ、粘着フィルム、多層FPC(flexible printed circuit)、テープ、タッチパネル、光ディスク用保護フィルムなどのような多様な分野に適用することができる。
【0078】
以下、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムの製造方法について具体的に説明する。
一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、化学的硬化または熱硬化により製造されてもよく、延伸するステップをさらに含んでもよい。
【0079】
前記化学的硬化は、ポリアミドイミド前駆体の化学的イミド化により行われてもよい。具体的に、一実施形態に係るポリアミドイミド前駆体溶液を化学的イミド化してポリアミドイミド樹脂を製造するステップと、前記ポリアミドイミド樹脂を含む樹脂組成物(ポリアミドイミドフィルム形成用組成物)を塗布して製膜するステップと、を含んでもよい。
【0080】
前記化学的イミド化は、イミド化触媒および脱水剤の中から選択されたいずれか1つまたは2つ以上をさらに含んでイミド化してもよい。前記イミド化触媒としては、ピリジン(pyridine)、イソキノリン(isoquinoline)、およびβ-キノリン(β-quinoline)などから選択されるいずれか1つまたは2つ以上を用いてもよい。また、脱水剤としては、酢酸無水物(acetic anhydride)、フタル酸無水物(phthalic anhydride)、およびマレイン酸無水物(maleic anhydride)などから選択されるいずれか1つまたは2つ以上を用いてもよく、必ずしもこれに制限されるものではない。この際、ポリアミドイミド前駆体のイミド化を行った後、溶媒に沈殿し精製して固形分(ポリアミドイミドパウダー)を得、それを有機溶媒に溶解させて固形分含量を調節し、フィルム形成用組成物を得ることができる。
【0081】
前記製膜ステップは、ポリアミドイミドフィルム形成用組成物を基材に塗布した後、熱処理を介した乾燥によりフィルムを成形するステップである。基材は、例えば、ガラス、ステンレス鋼、またはフィルムなどを用いてもよく、塗布は、ダイコータ、エアナイフ、リバースロール、スプレー、ブレード、キャスティング、グラビア、スピンコーティングなどにより行われてもよいが、これに限定されない。
【0082】
前記熱処理は、例えば、段階的に行われてもよい。例えば、70℃~160℃で1分~2時間一次乾燥し、150℃~350℃で1分~2時間二次乾燥して段階的な熱処理をして行われてもよい。しかし、必ずしも前記温度および時間条件に制限されるものではなく、例えば、前記一次乾燥は、80℃~150℃、70℃~110℃、130℃~150℃、90℃、120℃、または140℃で、10分~90分、10分~60分、20分~50分、または30分間行われてもよく、前記二次乾燥は、200℃~300℃、220℃~300℃、または250℃~300℃で、10分~90分、30分~90分、または40分~80分間行われてもよい。この際、段階的な熱処理は、各段階に移動時、好ましくは、1~20℃/minの範囲で昇温させてもよい。また、熱処理は、別の真空オーブンまたは不活性気体で充填されたオーブンなどで行われてもよく、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0083】
また、一実施形態に係る前記熱硬化は、ポリアミドイミド前駆体の熱イミド化により行われてもよい。具体的に、ポリアミドイミド前駆体、またはポリアミドイミド前駆体およびポリアミドイミドの混合物を含むポリアミドイミドフィルム形成用組成物を基材に塗布した後に熱硬化して行われてもよい。
【0084】
前記熱硬化は、100~450℃、120~450℃、または150~450℃で行われてもよい。より具体的に、前記熱硬化は、80~100℃で1分~2時間、100超過~200℃で1分~20時間、または200超過~450℃で1分~2時間行われてもよく、これらから選択される2以上の温度条件下で段階的な熱硬化が行われてもよい。また、熱硬化は、別の真空オーブンまたは不活性気体で充填されたオーブンなどで行われてもよいが、必ずしもこれに制限されるものではない。また、前記熱硬化ステップ以前に、必要に応じて乾燥ステップをさらに行ってもよい。前記乾燥ステップは、50℃~150℃、50℃~130℃、60℃~100℃、または約80℃の温度で行われてもよいが、必ずしも前記範囲に制限されるものではない。
【0085】
また、前記ポリアミドイミドフィルム形成用組成物に難燃剤、接着力向上剤、無機粒子、酸化防止剤、紫外線防止剤、および可塑剤などから選択される1つまたは2つ以上の添加剤を混合してポリアミドイミドフィルムを製造してもよい。
【0086】
また、一実施形態に係る前記ポリアミドイミドフィルムは、2以上の層を含む形態である多層構造体として提供されてもよい。
具体的に、前記多層構造体は、必要に応じて、ポリアミドイミドフィルムまたは基板の少なくとも1つの他面に機能性コーティング層をさらに含んでもよい。前記機能性コーティング層の非限定的な一例としては、ハードコーティング層、帯電防止層、指紋防止層、防汚層、スクラッチ防止層、低屈折層、反射防止層、および衝撃吸収層などが挙げられ、少なくとも1つまたは2つ以上の機能性コーティング層を備えてもよい。
【0087】
また、一実施形態は、前記ポリアミドイミドフィルムを用いて多様な形態の成形品を製造することができる。前記成形品の一例としては、フィルム、保護膜、または絶縁膜を含むプリント配線板、フレキシブル回路基板などに適用可能であり、これに制限されない。具体的には、カバーガラスを代替できる保護フィルムに適用することができ、ディスプレイ装置を含めて多様な産業分野にその応用の幅が広いという長所がある。
より具体的に、フレキシブルディスプレイ装置などのウィンドウカバーフィルムとして用いることができる。
【0088】
一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、前記化学式1で表される化合物を含む芳香族ジアミン、二無水物、および芳香族二酸二塩化物から誘導された構造単位を含むことで、高い透明度のような優れた光学的物性および優れたモジュラスを実現することができる。これにより、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、フレキシブルディスプレイパネルなどのウィンドウカバーフィルムとして用いることができる。一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムを含むウィンドウカバーは、さらに優れた光学的物性を有し、視認性に優れるだけでなく、モジュラスが高く、機械的強度に優れるため、強化ガラスの代替素材として用いることができる。
【0089】
以下、本発明の具体的な説明のために一実施例を挙げて説明するが、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
実施例の物性は次のように測定した。
【0090】
(1)重量平均分子量
0.05MのLiClを含有するDMAc溶離液にフィルムを溶解して測定した。GPCはWaters GPC system、Waters 1515 isocratic HPLC Pump、Waters 2414 Refractive Index detectorを用い、ColumnはOlexis、Polypore、およびmixed Dカラムを連結し、標準物質としてポリメチルメタクリレート(PMMA STD)を用いた。この際、35℃、1mL/minのフローレート(flow rate)で分析した。
【0091】
(2)粘度
粘度は、ブルックフィールド(Brookfield DV2TRV)粘度計スピンドル(Spindle)No.52を用いて、常温(25℃)で試料を載せ、トルク値が80%となった時点で2分間安定化作業を経た後にその結果を測定した。粘度の単位はcpsである。
【0092】
(3)全光線透過率
実施例および比較例で製造された厚さ50μmのフィルムを基準とし、ASTM D1003の規格に準じて、400~700nmの波長領域の全体で分光光度計(Nippon Denshoku社、COH-400)を用いて測定した。
【0093】
(4)ヘイズ
実施例および比較例で製造された厚さ50μmのフィルムを基準とし、ASTM D1003の規格に準じて、分光光度計(Nippon Denshoku社、COH-400)を用いて測定した。
【0094】
(5)モジュラス
ASTM D882の規格に準じて、実施例および比較例で製造された厚さ50μm、長さ50mm、および幅10mmのポリアミドイミドフィルムを25℃で50mm/minで引っ張る条件で、Instron社のUTM 3365を用いて測定した。モジュラスの単位はGPaである。
【0095】
[製造例1]ジアミン化合物1の製造
【化15】
【0096】
化合物Aの製造
窒素雰囲気下で、丸底フラスコに、4-ニトロ-2-(トリフルオロメチル)アニリン30.0g(145.5mmol)と、テレフタロイルジクロライド(TPC)17.4g(72.8mmol)、4-(ジメチルアミノ)ピリジン35.6g(291.1mmol)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)300mLを入れ、80℃に昇温して12時間撹拌した。常温に冷却した後、セライトパッドで濾過した濾液に水200mLを入れ、強く撹拌して個体を析出させた後に再濾過し、固体34.6gを得た。メタノール(MeOH)200mLを入れ、常温(25℃)で2時間撹拌した後、濾過した反応生成物を乾燥し、アイボリー色の固体として化合物Aを32.8g(収率83%)得た。
【0097】
H-NMR(DMSO-d): 10.65ppm(2H, s), 8.58-8.60ppm(2H, q), 8.53-8.54ppm(2H, d), 8.13ppm(4H, s), 7.97-7.99ppm(2H, d)
【0098】
ジアミン化合物1の製造
得られた化合物A32.8gと、メタノール(MeOH)80mL、Pd/C(10wt% Pd basis)3gを1Lのオートクレーブに入れて撹拌した。オートクレーブの内部を水素に置き換えた後、内部圧力が10barとなるまで水素を加圧投入し、40℃で24時間水素化反応を行った。反応の終了後、常温(25℃)に冷却した後、透明な上澄み液を取り出し、N,N-ジメチルフォルムアミド(DMF)400mLを入れて撹拌し溶解した。溶液をセライトパッドに通過させてPd/Cを除去した後に濃縮し、反応溶液状態で120℃に加熱した後、常温(25℃)に冷却して固体を結晶化した。生成された固体を濾過した後に真空乾燥し、最終生成物としてジアミン化合物1を18.4g(収率66%)得た。
【0099】
H-NMR(DMSO-d): 9.86ppm(2H, s), 8.01ppm(4H, s), 7.09-7.11ppm(2H, s), 6.93ppm(2H, s), 6.81-6.83ppm(2H, s), 5.61ppm(4H, s)
【0100】
[実施例1]
窒素雰囲気下で、反応器に、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-ベンジジン(TFMB)を入れて十分に撹拌させた後、テレフタロイルジクロライド(TPC)を入れ、常温(25℃)で6時間撹拌して溶解および反応させた。その後、過量の水を用いて沈殿および濾過させて得た反応生成物を90℃で6時間以上真空乾燥し、数平均分子量1,700g/molのポリアミドオリゴマーを得た。
【0101】
再び窒素雰囲気下で、反応器に、DMAc、前記ポリアミドオリゴマーと、追加のTFMBおよび前記製造例1で得られたジアミン化合物1を入れ、この際、芳香族ジアミンの使用量は、TFMB:ジアミン化合物1=70:30のモル比となるようにした。その後、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)を順次投入し、この際、各単量体の総使用量がTFMB:ジアミン化合物1:TPC:6FDA:CBDA=70:30:55:15:30のモル比となるようにした。前記混合溶液を40℃で12時間撹拌して溶解および反応させ、ポリアミドイミド前駆体溶液を製造した。
【0102】
次いで、前記ポリアミドイミド前駆体溶液にピリジン(Pyridine)と酢酸無水物(Acetic Anhydride)をそれぞれ総二無水物の含量に対して2.5倍モルで順次投入し、60℃で12時間撹拌し、ポリアミドイミド樹脂を含む組成物(ポリアミドイミドフィルム形成用組成物)を製造した。製造された組成物の粘度は24,300cpsであり、最終的な固形分含量は10重量%であった。
【0103】
前記ポリアミドイミド樹脂溶液をガラス基板上にアプリケータ(applicator)を用いて溶液キャスティングを行った。その後、乾燥オーブンで90℃で30分間一次乾燥した後、N条件の硬化オーブンで300℃で30分間熱処理した後に常温に冷却させ、ガラス基板上に形成されたフィルムを基板から分離し、厚さ50μmのポリアミドイミドフィルムを得た。得られたポリアミドイミドフィルムの物性を下記表1に示した。
【0104】
[実施例2および3]
単量体の添加量を下記表1のように異にしたことを除いては、前記実施例1と同様に行ってポリアミドイミドフィルムを得た。製造された試料の物性を測定し、下記表1に記載した。
【0105】
[比較例1]
【化16】
【0106】
ジアミン化合物1の代わりにC1化合物を用いたことを除いては、前記実施例1と同様に行ってポリアミドイミドフィルムを得た。製造された試料の物性を測定し、下記表1に記載した。
【0107】
[比較例2]
ジアミン化合物1を用いず、単量体の添加量を下記表1のように異にしたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で行ってポリアミドイミドフィルムを得た。製造された試料の物性を測定し、下記表1に記載した。
【0108】
[比較例3]
テレフタロイルジクロライド(TPC)を用いず、単量体の添加量を下記表1のように異にしたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で行ってポリアミドイミドフィルムを得た。製造された試料の物性を測定し、下記表1に記載した。
【0109】
【表1】
【0110】
前記表1のように、化学式1で表される化合物を含む芳香族ジアミン、二無水物、および芳香族二酸二塩化物を含む単量体の組み合わせを用いる実施例1~3は、十分な厚さを有するフィルムを形成可能であることを確認することができる。これに対し、比較例1の場合は、パッキング密度が高くなってフィルムの製造が不可能であった。
【0111】
また、実施例1~3のポリアミドイミドフィルムは、いずれも光学的物性および機械的強度に優れるものであった。具体的に、比較例2および3のポリアミドイミドフィルムに比べて、同等な程度の光学的物性を維持しながらも、モジュラス値が顕著に向上することを確認することができる。
【0112】
以上、限定された実施例により本発明を説明したが、これは本発明のより全般的な理解のために提供されたものにすぎず、本発明は上記の実施例に限定されない。本発明が属する分野における通常の知識を有する者であれば、このような記載から多様な修正および変形が可能である。
【0113】
したがって、本発明の思想は、説明された実施例に限定されて決まってはならず、後述の特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的変形を有するものは、いずれも本発明の思想の範囲に属するといえる。