(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064769
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 3/32 20230101AFI20230501BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20230501BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C02F3/32
C12N1/12 A
C12N1/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175091
(22)【出願日】2021-10-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)集会の開催日:令和2年10月29日 イッカクプロジェクト中間報告会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (2)集会の開催日:令和2年11月9日 情報機構セミナー(オンライン)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (3)集会の開催日:令和2年11月11日 しが水環境ビジネスフォーラム
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (4)ウェブサイトの掲載日:令和3年2月8日 https://ikkaku.lne.st/team/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (5)ウェブサイトの掲載日:令和3年2月8日 https://novelgen.jp/2021/02/08/「プロジェクト・イッカク」二期リーダー機関と/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (6)集会の開催日:令和2年11月28日 アントレプレナーラボツアー
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (7)集会の開催日:令和3年2月10日 環境・農水常任委員会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (8)ウェブサイトの掲載日:令和3年2月10日 https://www.shigaken-gikai.jp/voices/cgi/voiweb.exe?ACT=200&KENSAKU=1&SORT=0&KTYP=1,2,3,0&FBKEY1=%8F%AC%91q%8F%7E&FBMODE1=SYNONYM&FBMODE2=SYNONYM&FBMODE3=SYNONYM&FBMODE4=SYNONYM&FBCHK=AND&KGTP=1,2,3&TITL_SUBT=%97%DF%98a%81@%82R%94N%81@%82Q%8C%8E%82P%82O%93%FA%8A%C2%8B%AB%81E%94_%90%85%8F%ED%94C%88%CF%88%F5%89%EF%81%7C02%8C%8E10%93%FA-01%8D%86&KGNO=1366&FINO=2540&HUID=194000&UNID=K_R03021012011 https://www.shigaken-gikai.jp/voices/GikaiDoc/attach/Nittei/Nt15346_01.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (9)ウェブサイトの掲載日:令和3年3月4日 https://minsaku.com/articles/post704/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (10)集会の開催日:令和3年4月28日 藤森科学技術振興財団授与式(オンライン)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (11)集会の開催日:令和3年7月21日 福島アクセラレーションプログラムキックオフシンポジウム(オンライン)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (12)集会の開催日:令和3年9月30日 マイクロプラスチック問題の実態・影響評価とその除去・回収技術~微細藻類の利用、社会実装・事業化への取り組み~(オンライン) https://www.monodukuri.com/seminars/detail/18918
(71)【出願人】
【識別番号】520385537
【氏名又は名称】株式会社ノベルジェン
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】小倉 淳
(72)【発明者】
【氏名】河田 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】澤田 祐衣
(72)【発明者】
【氏名】田端 裕正
【テーマコード(参考)】
4B065
4D040
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA83X
4B065AC15
4B065BB12
4B065BD14
4B065CA56
4D040CC03
(57)【要約】
【課題】 被処理水に含まれる窒素を効率的に除去するとともに、被処理水からマイクロプラスチックを効率的に回収することができる技術を提供する。
【解決手段】 本発明のある態様は、養殖槽20および水処理槽30を備える水処理システム10である。養殖槽20において水生生物が養殖される。水処理槽30において、養殖槽20から導入された被処理水中でマイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類が成長する。当該藻類により、被処理水に含まれるマイクロプラスチックが回収されるとともに、被処理水に含まれる窒素化合物が除去される。当該藻類が分泌する粘着性物質の量は、細胞容積に比べて、細胞外に分泌した粘着物質の容積が0.25倍以上100倍以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロプラスチックおよび窒素化合物を含有する被処理水を浄化する水処理方法であって、
マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類を前記被処理水中に存在させ、マイクロプラスチックおよび窒素化合物を含有する被処理水から前記マイクロプラスチックを回収し且つ前記被処理水から前記窒素化合物を除去する工程を備え、
前記藻類が、粘着性物質を分泌する藻類であり、且つ、前記藻類が分泌する粘着性物質の量は、細胞容積に比べて、細胞外に分泌した粘着物質の容積が0.25倍以上100倍以下である水処理方法。
【請求項2】
前記粘着性物質が多糖類である、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記藻類が、珪藻、渦べん毛藻、クロララクニオン藻、緑藻、紅藻、接合藻、ユーグレナ藻及び藍藻から選択される少なくとも一種である、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記被処理水の浄化に供された前記藻類を回収する工程と、
新たな藻類を補充する工程と、
を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記藻類を回収するタイミングが、前記藻類の成長度合いに応じて設定される請求項4に記載の水処理方法。
【請求項6】
重金属、放射性物質、リン化合物およびカリウム化合物からなる群から選ばれる1種以上が前記被処理水から除去される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項7】
アスタキサンチン、ベータカロテン、ルテイン、DHA、EPA、パラミロン、ワックスエステル、水素、バイオディーゼル、バイオエタノール、クロスタニン、スクワレンからなる群より選ばれる1種以上が生成される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項8】
マイクロプラスチックおよび窒素化合物を含有する被処理水を浄化する水処理システムであって、
前記被処理水から前記マイクロプラスチックを回収する際及び前記被処理水から前記窒素化合物を除去する際、マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類を利用し、前記藻類が、粘着性物質を分泌する藻類であり、且つ、前記藻類が分泌する粘着性物質の量は、細胞容積に比べて、細胞外に分泌した粘着物質の容積が0.25倍以上100倍以下である水処理システム。
【請求項9】
前記粘着性物質が多糖類である、請求項8に記載の水処理システム。
【請求項10】
前記藻類が、珪藻、渦べん毛藻、クロララクニオン藻、緑藻、紅藻、接合藻、ユーグレナ藻及び藍藻から選択される少なくとも一種である、請求項8または9に記載の水処理システム。
【請求項11】
前記被処理水の浄化に供された前記藻類を回収する手段と、
新たな藻類を補充する手段と、
を備える、請求項8~10のいずれか一項に記載の水処理システム。
【請求項12】
前記藻類を回収するタイミングが、前記藻類の成長度合いに応じて設定される請求項11に記載の水処理システム。
【請求項13】
重金属、放射性物質、リン化合物およびカリウム化合物からなる群から選ばれる1種以上が前記被処理水から除去される、請求項8乃至12のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項14】
アスタキサンチン、ベータカロテン、ルテイン、DHA、EPA、パラミロン、ワックスエステル、水素、バイオディーゼル、バイオエタノール、クロスタニン、スクワレンからなる群より選ばれる1種以上が生成される、請求項8乃至13のいずれか1項に記載の水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法および水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、魚介類などの水生生物を陸上で養殖する陸上養殖が注目されている。陸上養殖では、魚介類の排泄物、残餌などが水中で微生物により分解されることによって生じる亜硝酸態窒素(NO2-N)、アンモニア態窒素(NH4
+-N)などの窒素化合物が蓄積し、濃度が高くなると、水生生物の生息に悪影響をもたらす。このため、陸上養殖においては、窒素化合物の除去、換言すると脱窒素が不可欠である。
【0003】
従来、脱窒素手段として、活性汚泥を用いた脱窒素手段(特許文献1参照)や、細菌を用いた脱窒素手段が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
一方、近年、プラスチックが砕ける等して生成したマイクロプラスチックが環境に与える影響が問題になっている。陸上養殖に用いられる水についても、マイクロプラスチックが混入することが避けられないため、養殖水からマイクロプラスチックを回収する技術が求められている。マイクロプラスチックを回収する技術として、微細藻類を用いたマイクロプラスチックの除去技術が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-130685号公報
【特許文献2】特開2015-061513号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】コンバーテック 2020年7月号2~5頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来知られた、陸上養殖で用いられる脱窒素手段は、マイクロプラスチックを回収または除去する機能を持たないため、マイクロプラスチックを回収または除去するための装置が別途必要となり、陸上養殖設備が複雑化することが避けられない。
そこで、本発明では、陸上養殖で使用される被処理水(養殖水)に含まれる窒素化合物を効率的に除去するとともに、当該被処理水からマイクロプラスチックを効率的に回収することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、水処理方法である。当該水処理方法は、マイクロプラスチックおよび窒素化合物を含有する被処理水を浄化する水処理方法であって、マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類を前記被処理水中に存在させ、マイクロプラスチックおよび窒素化合物を含有する被処理水から前記マイクロプラスチックを回収し且つ前記被処理水から前記窒素化合物を除去する工程を備え、前記藻類が、粘着性物質を分泌する藻類であり、且つ、前記藻類が分泌する粘着性物質の量は、細胞容積に比べて、細胞外に分泌した粘着物質の容積が0.25倍以上100倍以下である。
上記態様の水処理方法において、前記粘着性物質が多糖類であってもよい。前記藻類が、珪藻、渦べん毛藻、クロララクニオン藻、緑藻、紅藻、接合藻、ユーグレナ藻及び藍藻から選択される少なくとも一種であってもよい。前記被処理水の浄化に供された前記藻類を回収する工程と、新たな藻類を補充する工程と、を備えてもよい。前記藻類を回収するタイミングが、前記藻類の成長度合いに応じて設定されてもよい。重金属、放射性物質、リン化合物およびカリウム化合物からなる群から選ばれる1種以上が前記被処理水から除去されてもよい。アスタキサンチン、ベータカロテン、ルテイン、DHA、EPA、パラミロン、ワックスエステル、水素、バイオディーゼル、バイオエタノール、クロスタニン、スクワレンからなる群より選ばれる1種以上が生成されてもよい。
【0009】
本発明の他の態様は、水処理システムである。当該水処理システムは、マイクロプラスチックおよび窒素化合物を含有する被処理水を浄化する水処理システムであって、前記被処理水から前記マイクロプラスチックを回収する際及び前記被処理水から前記窒素化合物を除去する際、マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類を利用し、前記藻類が、粘着性物質を分泌する藻類であり、且つ、前記藻類が分泌する粘着性物質の量は、細胞容積に比べて、細胞外に分泌した粘着物質の容積が0.25倍以上100倍以下である。
上記態様の水処理システムにおいて、前記粘着性物質が多糖類であってもよい。前記藻類が、珪藻、渦べん毛藻、クロララクニオン藻、緑藻、紅藻、接合藻、ユーグレナ藻及び藍藻から選択される少なくとも一種であってもよい。前記被処理水の浄化に供された前記藻類を回収する手段と、新たな藻類を補充する手段と、を備えてもよい。重金属、放射性物質、リン化合物およびカリウム化合物からなる群から選ばれる1種以上が前記被処理水から除去されてもよい。アスタキサンチン、ベータカロテン、ルテイン、DHA、EPA、パラミロン、ワックスエステル、水素、バイオディーゼル、バイオエタノール、クロスタニン、スクワレンからなる群より選ばれる1種以上が生成されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被処理水に含まれる窒素を効率的に除去するとともに、被処理水からマイクロプラスチックを効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る水処理システムの概要を示す図である。
【
図2】
図2は、第1フィルタにより、マイクロプラスチックが付着した藻類が除去される様子を示す概念図である。
【
図3】
図3は、藻類の回収および補充に関する処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、第2の実施形態に係る水処理システムの概要を示す図である。
【
図5】
図5は、藻類が分泌する粘着性物質の量の測定手順を示した図である。
【
図6】
図6は、実施例における、マイクロプラスチック吸着後に沈殿物が確認された様子を示す図(写真)である。
【
図7】
図7は、実施例にて使用した各種藻類の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。
【0013】
[用語の定義]
<被処理水>
本明細書において、被処理水は、亜硝酸態窒素(NO2-N)、アンモニア態窒素(NH4
+-N)などの窒素化合物およびマイクロプラスチックが存在する水又は存在する可能性のある海水、淡水、汽水等の水である。当該被処理水の具体例として、養殖用海水、養殖用淡水が挙げられる。
【0014】
<マイクロプラスチック>
本明細書において、「マイクロプラスチック」とは、0.1μm以上5000μm以下の粒子を指す(最大長部分)。但し、処理の対象である被処理水中に存在する(又は存在する可能性のある)プラスチックとしては、マイクロプラスチックのみならず、0.1μm未満や5000μmを超えるプラスチック粒子を含んでいても構わない。また、マイクロプラスチックの実態としては、大半(例えば、全粒子個数の80%以上、90%以上、95%以上)が、例えば、0.1μm以上、0.5μm以上、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、10μm以上、50μm以上、100μm以上、500μm以上、1000μm以上、2500μm以上;2500μm以下、1000μm以下、500μm以下、100μm以下、50μm以下、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4μm以下、3μm以下である(最大長部分)。尚、周知のように、マイクロプラスチックとしては、一次マイクロプラスチック(マイクロサイズで製造されたプラスチック:例えば、洗顔剤・柔軟剤・緩効性肥料のカプセル等に利用)及び二次マイクロプラスチック(大きなプラスチックが、自然環境で破砕細分化されてマイクロサイズになったもの)とがある。
【0015】
<マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類>
本明細書において、「マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類」とは、藻類を存在させた場合における被処理水中のマイクロプラスチック濃度が、藻類を存在させない場合における被処理水中のマイクロプラスチック濃度と比較し、所定量(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%)以上低下させることが可能な藻類を指す。ここで、粘着性物質を分泌する藻類としては、ストラメノパイルに属する珪藻・褐藻、アルベオラータに属する渦べん毛藻、リザリアに属するクロララクニオン藻、アーケプラスチダに属する緑藻・紅藻、接合藻、エクスカバータに属するユーグレナ藻、真正細菌に属する藍藻を挙げることができる。ここで、微細藻類は、細胞外に様々な粘着性物質を放出することが知られている。粘着性物質は、典型的には多糖類であり、例えばテングサ等の紅藻、接合藻類であればアガロースやポルフィラン、コンブ等の褐藻類であればアルギン酸やフコース含有多糖といった物質である。因みに、多種存在する珪藻の中では、Skeletonema tropicumが特に好適である。また、藍藻及び緑藻は、藻類の増殖速度が優れているという点で好適である。更に、ユーグレナは、鞭毛を有しているので、能動的にマイクロプラスチックを吸着し得る点で好適である。
【0016】
その他の藻類としては、マイクロプラスチックを捕捉する物理的構造(例えば、多孔質構造、凹凸構造)を有する藻類(例えば、褐藻);マイクロプラスチックと逆電荷に帯電した藻類、を挙げることができる。例えば、微細藻類は形状もサイズも様々だが、表面積の大きな多孔性藻類や、糸状の群体を形成する物が存在する。このような構造にもマイクロプラスチックをからめとる機能がある。このような藻類は、粘着性物質を有する藻類と異なり、環境変化等による構造変化をし難いため、捕捉したマイクロプラスチックを安定保持できるという点で優れている。
【0017】
マイクロプラスチックの除去に用いられる藻類として、上述した藻類の中から選ばれる1種類を用いてもよいが、特定の2種類以上の藻類を組み合わせて用いてもよい。
たとえば、珪藻と、当該珪藻より増殖速度が速い藻類(たとえば、藍藻、緑藻)を組み合わせることにより、培養初期においても、マイクロプラスチックの吸着効果を十分に得ることができる。
また、珪藻と、当該珪藻よりサイズが大きい藻類(たとえば、渦べん毛藻、褐藻)を組み合わせることにより、珪藻では吸着が難しい、よりサイズの大きなマイクロプラスチックの吸着効果を十分に得ることができる。
【0018】
ここで、藻類の大きさは、特に限定されない。但し、処理対象のマイクロプラスチックのサイズが0.1μm以上5000μm以下であることを踏まえると、5000μm以上であること(例えば、連なったり群がったりした藻類の場合、連なったり群がったりした藻類の大きさ)が好適である。但し、藻類の大きさを被処理水に存在するマイクロプラスチックの主たる大きさに依存させてもよく、この場合、想定される藻類の大きさは、例えば、0.1μm以上、1μm以上、2μm以上、5μm以上、10μm以上、50μm以上、100μm以上、500μm以上、1000μm以上、2500μm以上、5000μm以下、2500μm以下、1000μm以下、500μm以下、250μm以下、100μm以下、50μm以下、25μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下、1μm以下である。尚、ここでの「大きさ」は、最大径部分(例えば、棒状の藻類である場合には、長径部分)を指す。また、系内には様々な大きさの藻類が存在するが、ここでいう「大きさ」は、ランダムに取得した100個の藻類の大きさの平均値を指す。
【0019】
藻類が分泌する粘着性物質の量は、細胞容積に比べて、細胞外に分泌した粘着性物質の容積が0.25倍以上100倍以下であることが好適である。この範囲内であると、長期に亘り安定してマイクロプラスチックを回収可能な手段を提供することが可能となる。尚、粘着性物質の容積の測定方法は下記の通りである。スライドガラス上に微細藻類培養液10μLを添加する。さらに5倍に希釈した墨汁を10μL添加して、墨汁と微細藻類培養液をよく混ぜ、カバーガラスをかけて顕微環境下で微細藻類の細胞容積と細胞外粘質物の容積を測定する。Kishimoto et al.の手法{Kishimoto N., Ichise S., Suzuki K., Yamamoto C.: Analysis of long-term variation in phytoplankton biovolume in the northern basin of Lake Biwa. Limnology 14: 117-128(2013)}に則り、各藻類を楕円柱、楕円形、直方体及びこれらの組み合わせで近似し、細胞容積の算出を行う。細胞外粘質物の容積に関しては、墨汁で染色されなかった部分を含む容積を算出し、細胞容積を除算することによって細胞外粘質物の容積を求める。
図5は、上記手順を示した図である。また、系内には様々な大きさの藻類が存在するが、ここでいう「量」は、ランダムに取得した100個の藻類の容積の平均値を指す。
【0020】
マイクロプラスチックの除去に用いられる藻類の細胞増加率は、250%以上が好ましく、300%以上がより好ましく、400%以上がさらに好ましい。藻類の細胞増加率が上記範囲であることにより、培養後速やかに粘着性物質が分泌されるため、マイクロプラスチックの吸着効果を培養後早期に発揮させることができる。ここで、細胞増加率は以下の条件および計算式にしたがって算出される。
<培養条件>
培地(f/2、ただし、硝酸ナトリウムを通常の10倍濃度である750mg/Lに変更)200ml中で藻類の培養を実施する。表1に培地(f/2)の成分を示す。また、表2に培地(f/2)に含まれるf/2 metalsの成分を示す。
【0021】
【0022】
【0023】
(細胞増加率)
上述の培地を用いて各藻類を培養する。培養前の細胞数は、たとえば、5000~20000個/mlであり、典型的には10000個/mlである。紫外可視光分光光度計を用いて、培養開始6時間後および3日後の波長490nmにおける吸光度をそれぞれ測定する。細胞増加率は、以下の式に従って算出される。
細胞増加率=(3日後に測定された吸光度)/(6時間後に測定された吸光度)×100
表3に8種類の藻類について得られた細胞増加率を示す。
【0024】
【0025】
(水処理システム)
図1は、第1の実施形態に係る水処理システム10の概要を示す図である。
図1に示すように、水処理システム10は、養殖槽20および水処理槽30を備える、養殖システムとしての一例である。
養殖槽20を用いて養殖される水生生物には特に制限がないが、たとえば、淡水を用いてニジマス、イワナ、サクラマス、ウナギ、チョウザメなどの淡水生物が養殖されてもよく、海水を用いて、ヒラメ、トラフグ、バナメイエビ、アワビ、サーモンなどの海水生物が養殖されてもよい。
【0026】
養殖槽20と水処理槽30とは、導入管40および排出管50によって接続されている。
導入管40を通じて、養殖槽20内のマイクロプラスチックおよび窒素化合物を含む被処理水(淡水または海水)が水処理槽30に流入するように構成されている。導入管40には、流量制御用ポンプ42が設けられている。流量制御用ポンプ42により、導入管40を流れる被処理水の流速が制御される。本実施形態では、流量制御用ポンプ42が作動している間、養殖槽20と水処理槽30との間で、水が常時循環する。
なお、養殖槽20に接続される導入管40の吸入口を養殖槽20の下部に設置することにより、養殖槽20の下部に沈殿した窒素化合物を水処理槽30に効率的に導入することができる。
【0027】
水処理槽30において、養殖槽20から導入された被処理水中でマイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類が成長する。当該藻類により、被処理水に含まれるマイクロプラスチックが回収されるとともに、被処理水に含まれる窒素化合物が除去される。
【0028】
具体的には、上記藻類が分泌する吸着性物質に、被処理水に含まれるマイクロプラスチックが吸着する。マイクロプラスチックが吸着した藻類をフィルタなどの除去手段を用いて除去することにより、被処理水からマイクロプラスチックが除去される。
また、アンモニア態窒素および亜硝酸態窒素などの窒素化合物は、藻類が成長するに伴って、藻類の細胞内に蓄積される。これにより、水処理槽30内の被処理水における窒素化合物の濃度を低下させることができる。蓄積された藻類を除去することにより、被処理水から窒素化合物(アンモニア態窒素および亜硝酸態窒素)が除去される。
【0029】
水処理槽30には、藻類予備槽60に収容された藻類を適宜添加することができるように構成されている。藻類予備槽60に収容された藻類は、マイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去に供される前の藻類であり、発芽直後、または、成長初期段階の藻類が好ましい。
【0030】
水処理槽30には、以下に説明するように、藻類の成長に必要な環境を確保するための様々な機構が備えられている。
【0031】
<藻類へ光照射する機構>
水処理槽30内の藻類に光が照射されるように構成されている。水処理槽30内の藻類に照射される光は、太陽光に限られず、藻類の成長に適した波長の光を含む、LED、蛍光灯、白熱灯などの人工照明であってもよい。
人工照明を用いる場合、光を常時(24時間)照射してもよいが、藻類の成長や休息に合わせて、1日のうちの照射時間を適宜設定(たとえば、10~12時間)してもよい。人工照明の照射時間を調節することにより、藻類の種類に応じて、藻類の成長を一層促すことができる。
また、人工照明の設置場所は、水処理槽30の上方に限られず、水処理槽30の内部であってもよい。人工照明を水処理槽30の内部に設置することにより、水処理槽30外に人工照明を設置した場合に比べて、水処理槽30内のより多くの藻類に対して、光を照射することができる。この結果、水処理槽30において藻類の成長がより一層促進され、マイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去をより効率的に行うことができる。
【0032】
<水処理槽内の被処理水を撹拌する機構>
水処理槽30には、撹拌機構32が設けられている。撹拌機構32を作動させることにより、水処理槽30内の藻類および被処理水が撹拌され、藻類が水処理槽30内の被処理水全体に分散する。
撹拌機構32による撹拌の具体例としては、ポンプ、プロペラ、撹拌子(たとえば、マグネチックスターラー)などによって生じる水流により藻類および被処理水を撹拌すること、空気や二酸化炭素などの気体により藻類および被処理水を撹拌すること、水処理槽30全体を振盪させる振盪機を用いて藻類および被処理水を撹拌することが挙げられる。
【0033】
<水処理槽内の被処理水に二酸化炭素を供給する機構>
水処理槽30には、槽内の被処理水に二酸化炭素を供給するためのガス導入管36が設置されている。ガス導入管36には、ガス流量調節ポンプ38が設けられている。ガス流量調節ポンプ38により、水処理槽30に収容された被処理水に二酸化炭素または二酸化炭素を含むガス(たとえば、空気)が供給される。なお、水処理槽30に収容された被処理水に空気を供給することにより、水処理槽30内の藻類から分泌される粘着性物質の量が増加し、ひいては、藻類に吸着回収されるマイクロプラスチックの量を増加させることができる。
ガス導入管36の吐出口を水処理槽30の下部に設置することが好ましい。これによれば、ガス導入管36から吐出された二酸化炭素によるバブリングにより、被処理水の二酸化炭素濃度を上昇させつつ、撹拌専用の機構を備えることなく、藻類および被処理水を撹拌する効果を奏することができる。
被処理水への二酸化炭素の供給は、連続して行ってもよいが、
図1に示すように、水処理槽30内の被処理水中の二酸化炭素濃度を測定可能なガスセンサ34が設け、ガスセンサ34によって測定された二酸化炭素濃度に応じて、ガス流量調節ポンプ38を用いてガス導入管36から吐出されるガス流量を調節してもよい。
【0034】
次に、水処理槽30において、マイクロプラスチックおよび窒素化合物を含有する被処理水から当該マイクロプラスチックおよび当該窒素化合物を回収する方法における好適な回収条件を説明する。
【0035】
水処理槽30内における好適な藻類濃度は、被処理水におけるマイクロプラスチック濃度・マイクロプラスチックの大きさ、被処理水における窒素化合物濃度、および、使用する藻類の種類等により変動する。この条件設定は、例えば実施例に記載されたモデル実験を実行することにより決定可能である。
【0036】
水処理槽30内における好適な回収時間は、被処理水におけるマイクロプラスチック濃度・マイクロプラスチックの大きさ、被処理水における窒素化合物濃度、使用する藻類の種類、低減目標とするマイクロプラスチック濃度・窒素化合物濃度等により変動する。この条件設定は、例えば実施例に記載されたモデル実験を実行することにより決定可能である。
【0037】
排出管50を通じて、水処理槽30においてマイクロプラスチックが回収され、かつ、窒素化合物が除去された処理水が養殖槽20に流入するように構成されている。排出管50には、第1フィルタ52aおよび第2フィルタ52bが設けられている。
【0038】
第1フィルタ52aは、被処理水中からマイクロプラスチックが付着した藻類を除去する機能を担う。第1フィルタ52aの目開きまたは孔径は、マイクロプラスチックが付着した藻類が除去できれば特に限定されないが、たとえば、5μmである。
図2は、第1フィルタ52aにより、マイクロプラスチックが付着した藻類が除去される様子を示す概念図である。
図2に示すように、目開きまたは孔径が調節された第1フィルタ52aを用いることにより、藻類が分泌する物質によってマイクロプラスチックが付着した藻類と、マイクロプラスチックが未付着の藻類とが選別される。被処理水を第1フィルタ52aに通過させることにより、マイクロプラスチックが除去された一次処理水が得られる。
【0039】
第2フィルタ52bは、第1フィルタ52aを通過した藻類を除去する機能を担う。第2フィルタ52bの目開きまたは孔径は、使用する藻類の種類にもよるが、たとえば、5μmである。第2フィルタ52bにより、上記一次処理水に含まれる、窒素化合物が蓄積した藻類が選別される。換言すると、上記一次処理水を第2フィルタ52bに通過させることにより、窒素化合物が蓄積した藻類が除去された二次処理水が得られる。
【0040】
第1フィルタ52aおよび第2フィルタ52bで用いられるフィルタとしては、化学繊維系フィルタ、天然繊維系フィルタ、金属メッシュなどの金属製フィルタ、糸状や紙状の形態のフィルタなどが挙げられる。
【0041】
<撹拌制御>
撹拌機構32による、水処理槽30内の藻類および被処理水の撹拌を、藻類が成長する過程において停止させることなく連続して実施してもよいが、以下に説明するように、藻類の成長や状態に合わせて撹拌を断続的に実施してもよい。
【0042】
<<撹拌制御方法1>>
導入管40から導入される被処理水の流量を測定する流量センサ(図示せず)を設け、流量センサで測定された流量に応じて、撹拌機構32の撹拌速度を変化させる。この場合、当該撹拌速度を上記流量に比例させてもよい。また、上記流量に応じて、当該撹拌速度を段階的に設定してもよい。
【0043】
<<撹拌制御方法2>>
カメラ(図示せず)を用いて、水処理槽30内の藻類の分散度をモニタする。得られた画像に基づいて、藻類が水処理槽30の底に沈殿しているか、否かを判定し、水処理槽30の底に藻類が沈殿していると判定された場合に、撹拌速度を上昇させる。
【0044】
<藻類の回収および補充>
浄化に供された藻類を回収および補充するタイミングとしては、藻類の成長度合いに応じて設定される場合、フィルタの能力に応じて設定される場合などが挙げられる。
【0045】
<<藻類回収タイミング1>>
カメラ(図示せず)により水処理槽30内の藻類の状態を撮像する。カメラを水処理槽30の上方に設置し、水処理槽30内の被処理水中の藻類を撮像してもよい。また、カメラを水処理槽30内の被処理水内部に設置し、水処理槽30内の被処理水中の藻類を水中撮像してもよい。
【0046】
撮像した画像内の単位面積当たりにおいて、藻類が占める面積の割合を算出する。藻類が占める割合が基準値以上の場合には、藻類が十分に成長したと判断し、第1フィルタ52aおよび第2フィルタ52bの交換を実施する。これによれば、マイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去の能力が低くなった藻類を水処理槽30から除去することができる。
【0047】
この他、カメラによる撮像を所定間隔で実施し、撮像した画像内の単位面積当たりにおいて、藻類が占める面積の割合から藻類の増殖曲線を描き、細胞増殖が終期に到達した時点(たとえば、増殖対数曲線がプラトーに達した時点)を藻類が十分に成長したと判断し、第1フィルタ52aおよび第2フィルタ52bの交換を実施してもよい。これによれば、マイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去の能力が低くなった藻類を水処理槽30から除去することができる。
【0048】
<<藻類回収タイミング2>>
吸光度計(図示せず)を用いて、藻類の密度を示す指標として、水処理槽30内の被処理水の濁度を測定してもよい。測定された濁度が基準値以上の場合には、藻類が十分に成長したと判断し、第1フィルタ52aおよび第2フィルタ52bの交換を実施する。これによれば、マイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去の能力が低くなった藻類を水処理槽30から除去することができる。
【0049】
<<藻類回収タイミング3>>
藻類の成長に伴い脂肪酸(オイル)が生成される場合には、水処理槽30内の被処理水における脂肪酸の濃度を測定してもよい。測定された濃度が基準値以上の場合には、藻類が十分に成長したと判断し、第1フィルタ52aおよび第2フィルタ52bの交換を実施する。これによれば、マイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去の能力が低くなった藻類を水処理槽30から除去することができる。
【0050】
<<藻類回収タイミング4>>
藻類の成長とともに藻の色が変色する場合には、藻類の色に応じて成長度合いを判断することができる。具体的には、上記と同様に、カメラにより水処理槽30内の藻類の状態を撮像し、撮像された藻類の色が成長途上(増殖期)の色(たとえば、緑色)から、成長末期の色(たとえば、茶褐色)になったかどうかを判断し、成長末期の色と判断されたときに、第1フィルタ52aおよび第2フィルタ52bの交換を実施する。これによれば、マイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去の能力が低くなった藻類を水処理槽30から除去することができる。
【0051】
<<藻類回収タイミング5>>
第1フィルタ52aおよび第2フィルタ52bの交換を、導入管40または排出管50を流れる水流の速度が所定値未満になったときに実施することにより、藻類を回収してもよい。これによれば、第1フィルタ52aおよび第2フィルタ52bのフィルタリング効率を一定以上に保った状態で、マイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去を実施することができる。
【0052】
<藻類補充>
所定のタイミングにおいて、一定程度まで成長した藻類を除去した後、藻類予備槽60から、除去された藻類の数に相当する発芽直後、または、成長初期段階の藻類を補充することが好ましい。これによれば、マイクロプラスチック回収および窒素化合物除去の効率が藻類の成長に伴って徐々に低下する場合に、当該効率を回復することができる。
【0053】
図3は、藻類の回収および補充に関する処理を示すフローチャートである。
図3に示すように、まず、導入管40に設置された流量制御用ポンプ42を起動し、養殖槽20から水処理槽30に被処理水を導入する(S10)。被処理水が導入された水処理槽30において、藻類の成長に伴う脱窒素および藻類が分泌する粘着性物質によるマイクロプラスチックの回収が実施される(S20)。続いて、起動開始後、所定時間が経過したことなどにより、システムの停止が必要か否かが判定される(S30)。システム停止が必要な場合には(S30のyes)、導入管40に設けられた流量制御用ポンプ42を停止する。一方、システムの動作を継続する場合には(S30のno)、カメラで撮影された画像に基づいて、藻類の成長度合いを判定する。藻類の成長度合いの判定は、上述したように、撮像した画像内の単位面積当たりにおいて、藻類が占める面積の割合に基づいて行われてもよく、撮像した藻類の色に基づいて行われてもよい。判定された藻類の成長度合いにより、藻類の回収が必要と判断される場合には(S50のyes)、フィルタ52aを交換することで藻類を回収した後、回収された藻類に相当する新たな藻類を水処理槽30に補充し(S60)、S20の処理に戻る。一方、藻類の回収が必要ないと判断される場合には(S50のno)、S20の処理に戻る。
【0054】
≪藻類組成物≫
本実施形態で用いられる藻類は、藻類組成物であってもよい。具体的には、同種又は異種の藻類の群れである。ここで、該藻類の群れは、例えば、該藻類が生存可能な状態(例えば液体培地内)にて容器等に収納されていることが好適である。また、フリーズドライしても生存可能な藻類については、乾燥形態で取り扱ってもよい。尚、必要に応じ、該藻類組成物は、藻類以外の成分を含有していてもよい。
【0055】
<温度管理>
本実施形態では、養殖槽20と水処理槽30との間で水が循環するため、水処理槽30における水温は、養殖槽20における水温と同等になる。この場合、水処理槽30で培養される藻類を、養殖槽20における水温が成長に適した水温範囲にある藻類から選択してもよい。水温が0~20℃の低温領域の場合には、たとえば、低温耐性を持つ藍藻のクロオコッカス属やユレモ属やネンジュモ目など、低温耐性を持つ緑藻のクラミドモナス属やクロロモナス属などの藻類を用いることができる。また、水温が20~30℃の中高温領域の場合には、たとえば、一般的な珪藻、藍藻、接合藻、ユーグレナ、褐藻などの藻類を用いることができる。
【0056】
養殖槽20内の水温と、水処理槽30で培養される藻類の生育適温とが異なる場合には、養殖槽20から水処理槽30に流入する被処理水の温度を調節するとともに、水処理槽30から養殖槽20に流入する処理済水の温度を調節してもよい。
具体的には、養殖槽20における水温を測定する温度センサを設け、当該温度センサによって測定された温度に基づいて、被処理水の温度を藻類の成長に適した所望の温度になるように加温または冷却する。一方、水処理槽30における水温を測定する温度センサを設け、当該温度センサによって測定された温度に基づいて、水処理槽30から養殖槽20に流入する処理済水の温度が養殖槽20の水温となるように加温または冷却する。
加温する手段としては、太陽光、地熱、ゴミ焼却場などの余剰排熱との熱交換や、ヒータによる加熱が挙げられる。一方、冷却する手段としては、河川などの環境水とのエネルギー・電力消費を伴わない熱交換、またはエネルギー・電力などを利用した冷却(たとえば、冷媒との熱交換)が挙げられる。
【0057】
<栄養、pHなどの調節>
水処理槽30内の被処理水に、リン・窒素・カリウム、珪酸ナトリウムなどの栄養塩などのミネラルやビタミン類などの藻類の成長に資する添加成分を適宜投入してもよい。各添加成分の投入タイミングとしては、各添加成分の濃度を測定し、当該濃度が所定値未満になった時点が挙げられる。被処理水に上記添加成分を適宜投入することにより、水処理槽内の藻類の成長をより一層促進させることができ、ひいては、マイクロプラスチックの回収効率および窒素化合物の除去効率を向上させることができる。
【0058】
また、水処理槽30内の被処理水にpHを調整するための酸(たとえば、酢酸)またはアルカリ(たとえば、水酸化ナトリウム)を適宜添加してもよい。具体的には、被処理水のpHを測定し、測定されたpH値が所定の範囲、たとえば、5~9になるように、適量の酸またはアルカリを添加してもよい。この結果、水処理槽30において藻類の成長がより一層促進され、マイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去をより効率的に行うことができる。
【0059】
図4は、第2の実施形態に係る水処理システム10の概要を示す図である。本実施形態の水処理システム10に関して、第1の実施形態の水処理システム10と同様な構成については、同様な符号を付し、説明を適宜省略する。
【0060】
本実施形態の水処理システム10では、導入管40の経路および排出管50の経路に、それぞれ第1開閉弁44、第2開閉弁54が設置されている。第1開閉弁44および第2開閉弁54は、手動式の弁でもよく、電磁弁のような電動式の弁でもよい。
本実施形態では、第1開閉弁44および第2開閉弁54の開閉が所定のタイミングで実施される。たとえば、第1開閉弁44および第2開閉弁54を閉状態とした状態で、養殖槽20において養殖を一定期間実施する。次に、養殖槽20内の窒素化合物の濃度が上昇したタイミングで、第1開閉弁44および第2開閉弁54を開状態とするとともに、流量制御用ポンプ42を作動させ、養殖槽20と水処理槽30との間の水循環を開始させる。
【0061】
養殖槽20内の水と水処理槽30内の水との入れ替えが完了したタイミングで、第1開閉弁44および第2開閉弁54を閉状態とするとともに、流量制御用ポンプ42の動作を停止させる。この状態で、水処理槽30において、所定の期間が経過するまで藻類を成長させることにより、藻類による、水処理槽30内の被処理水からマイクロプラスチックの回収および窒素化合物の蓄積を実行する。所定の期間経過後、第1開閉弁44および第2開閉弁54を開状態とするとともに、流量制御用ポンプ42を作動させることにより、マイクロプラスチックおよび窒素化合物の濃度が低減された処理水を養殖槽20に供給することができる。
【0062】
(水処理システムの他の態様)
水処理システムの他の態様は、マイクロプラスチックおよび窒素化合物を含有する被処理水が導入される水処理槽を備える。前記水処理槽に収容された前記被処理水に光が照射されるように構成され、前記水処理槽において、マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類を利用して、前記被処理水に含まれる前記マイクロプラスチックが回収されるとともに、前記藻類の生育により、前記被処理水に含まれる前記窒素化合物が当該窒素化合物のまま、または、窒素を含む炭化水素あるいはタンパク質として前記藻類に蓄積される。
【0063】
≪有用性≫
上述した実施形態に係る水処理システム10は、陸の無農薬(オーガニック)農産物に相当する、NonMicroPlastic水産物・safe and secure seafoodを作る点で有用である。特に、水処理システム10は、環境中のマイクロプラスチックを摂取しないために、陸上養殖施設へ導入が好適である。
【0064】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0065】
<藻類を回収する手段>
上述した実施形態では、フィルタを利用して藻類を回収しているが、藻類の回収手段はこれに限られない。
被処理水の比重と藻類の比重との差を利用し、被処理水より軽い藻類を、被処理水の上部から回収してもよい。また、被処理水より重い藻類を被処理水の下部より回収してもよい。
また、袋状のネットに水処理槽30内の被処理水を通過させることにより水処理槽30内の被処理水に含まれる、マイクロプラスチックが付着した藻類および十分に成長しサイズが大きくなった藻類を捕集するようにしてもよい。
この他、水処理槽30内の藻類をタモ網などを用いて掻き出してもよい。
【0066】
<被処理水>
上述した実施形態では、水処理槽30で処理される被処理水として、養殖槽20に用いられる養殖水が例示されているが、被処理水はこれに限られず、下水処理水、工業排水、生活排水、農業排水、ごみ処理場の排水、発電所の排水などを被処理水としてもよい。
【0067】
<窒素化合物以外の水質浄化>
上述した実施形態では、藻類の成長に伴い被処理水から窒素化合物が除去されるが、藻類の細胞内に取り込める化合物であれば、被処理水から除去される化合物に限定はない。たとえば、カドミウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マンガンなどの重金属、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素などの放射性物質、還元型リン化合物やリン酸エステル化合物などのリン化合物、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウムなどのカリウム化合物からなる群から選ばれる1種以上を被処理水から除去し、水質浄化を図ることが可能である。
【0068】
<有用物質の生成>
本実施形態では、マイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去が図られるだけでなく、有用物質が生成される。藻類の成長に伴って生成される有用物質としては、アスタキサンチン、ベータカロテン、ルテイン、DHA、EPA、パラミロン、ワックスエステル、水素、バイオディーゼル、バイオエタノール、クロスタニン、スクワレンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。当該有用物質を分離・精製することにより、各種用途への適用を図ることができる。
【0069】
本発明の一態様は、マイクロプラスチックおよび窒素化合物を含有する被処理水を浄化する水処理方法である。当該水処理方法は、マイクロプラスチック吸着回収能を有する藻類を前記被処理水中に存在させ、マイクロプラスチックおよび窒素化合物を含有する被処理水から前記マイクロプラスチックを回収し且つ前記被処理水から前記窒素化合物を除去する工程を備える。
上記態様において、前記藻類が、粘着性物質を分泌する藻類であってもよい。前記粘着性物質が多糖類であってもよい。前記藻類が、珪藻、褐藻、渦べん毛藻、クロララクニオン藻、緑藻、紅藻、接合藻、ユーグレナ藻及び藍藻から選択される少なくとも一種であってもよい。前記被処理水の浄化に供された前記藻類を回収する工程と、新たな藻類を補充する工程と、を備えてもよい。また、前記藻類を回収するタイミングが、前記藻類の成長度合いに応じて設定されてもよい。
【実施例0070】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
≪藻類の培養≫
実験に使用する藻類(表4参照)を1Lスケールで培養した。この際、濁度計(CO8000 Biowave)を使用し、濁度を測定、記録した。例えば、スケルトネマ属又は5~10μm程度の藻類は、7000cells/mlを目安とした。尚、藻類細胞数が7000cells/mlより多い場合は、培地等で希釈した。他方、藻類細胞数が7000cells/mlより少ない場合は、2~3時間後に上静を取り除き調整した。その後、よく懸濁した19.648mlの培養液を70ml細胞培養フラスコに入れた(3個用意)。また、コントロールとして19.648mlの培地を新しい70ml細胞培養フラスコに入れた{4個用意(4個の内1つは検量線作成用)}。更に、紫外可視光分光光度計で吸光度を測定する際のベースライン補正用として、よく懸濁した培養液を20ml程度用意した。次に、培養液の入った70ml細胞培養フラスコに2μmのビーズ液(マイクロプラスチックを模したPVC(ポリ塩化ビニル)製のビーズが分散された水溶液)352μl(5.68×10
8ビーズ/ml)を入れた。その後、ピペッティングにより混合し、20℃人工気象器に入れ静置培養を行った(1日間)。尚、
図7は、使用した各種藻類の拡大写真である。図中、点線が細胞表面を示しており、実線が粘着性物質の界面を示している。また、表5は、一般的記載にて記載した手法にて算出した粘着性成分の量である。
【0072】
【0073】
【0074】
≪マイクロプラスチック回収試験≫
上述した≪藻類の培養≫で得られたフラスコ{上記各藻類が培養された、終濃度1×10
7ビーズ(2μm)/mlの液}を揺らさないように、人工気象器から該フラスコを取り出した。この際、
図6に示すように、沈殿物が確認された。この後、旋回とピペッティングにより懸濁させた。次に、50mlチューブに50μmセルストレーナー(pluriStrainer 50μm)を、コネクターリングを使いセット・ラベルした(検量線用以外の細胞培養フラスコの数用意)。そして、全培養フラスコを各セルストレーナーでシリンジを使い減圧濾過した(検量線用は濾過しない)。その後、一次濾過したサンプルは蓋をして実験台に保管した。そして、検量線を作成し、藻類によるビーズ回収率を推定するため、検量線用のビーズ希釈系列を作成した。具体的には、ビーズ未添加の培地をビーズ濃度0として、ストック濃度1.00×10
7ビーズ/mlから1/2希釈を繰り返して3.13×10
5ビーズ/ml、6.25×10
5ビーズ/ml、1.25×10
6ビーズ/ml、2.50×10
6ビーズ/ml、5.00×10
6ビーズ/mlを調製した。
【0075】
≪マイクロプラスチック回収測定試験≫
紫外可視光分光光度計BioSpec-Mini(島津製作所)を使用してビーズの蛍光である267nmの吸光度測定を行った。この際、藻類のビーズ回収率を推定するため、検量線用のビーズ希釈系列を測定し、検量線を作成して一次回帰式を得た。そして、藻類培養培地+ビーズ溶液の50μmセルストレーナー透過液をサンプルとして吸光度測定を行い、検量線によって得られた一次回帰式から透過液中のビーズ濃度を算出した。同様の作業を培養していない培地+ビーズ溶液の50μmセルストレーナー透過液をコントロールとして吸光度測定を行い、検量線によって得られた一次回帰式から透過液中のビーズ濃度を算出した。そして、サンプル中のビーズ濃度とコントロール中のビーズ濃度からビーズの回収率を算出した。その結果を表6に示す。
【0076】
【0077】
≪MP除去および窒素除去試験≫
藻類種として、珪藻 s.toropicumを用い、培地(f/2、ただし、硝酸ナトリウムを通常の10倍濃度である750mg/Lに変更)200ml中で培養を実施し、窒素除去効果を調べた。表7に培地(f/2)の成分を示す。また、表8に培地(f/2)に含まれるf/2 metalsの成分を示す。
【0078】
【0079】
【0080】
以下の各試料について、培養実験を実施し、培養時間の経過に伴う、アンモニア態窒素濃度、亜硝酸態窒素濃度および硝酸窒素濃度の各濃度の経時変化を調べた。
・上述した培地に、終濃度1×107ビーズ(2μm)/mlのビーズを添加し、さらに、細胞数が対数増殖期の細胞数に相当する5.0×105セルである珪藻を添加したもの(以下。「珪藻+MP」試料とよぶ)
・上述した培地に、細胞数が対数増殖期の細胞数に相当する5.0×105セルである珪藻を添加したもの(以下、「珪藻」試料とよぶ)
・コントロール(水)
具体的には、静置培養を行っているフラスコの上清を取り、共立理化学研究所製のキット(デジタルパックテスト)を用いて測定を行った。培養0時間は珪藻を加える前の培地とし、その後は1日1回(AM11:00頃)のペースで測定を行った。表9、10および11に、それぞれ、アンモニア態窒素濃度、亜硝酸態窒素濃度および亜硝酸窒素濃度の測定結果(N=2の平均値)を示す。なお、「珪藻+MP」試料については、マイクロプラスチックの除去効率を調べた。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
以上の結果より、アンモニア態窒素および亜硝酸態窒素については「珪藻+MP」試料、「珪藻」試料ともに、24時間で十分な脱窒素効果がみられた。硝酸態窒素については、「珪藻+MP」試料では、48時間で十分な脱窒素効果がみられ、「珪藻」試料では、24時間で十分な脱窒素効果がみられた。また、藻類を用いることにより、被処理水からマイクロプラスチックの回収および窒素化合物の除去が可能であることが確認された。
10 水処理システム、20 養殖槽、30 水処理槽、32 撹拌機構、34 ガスセンサ、36 ガス導入管、38 ガス流量調節ポンプ、40 導入管、42 流量制御用ポンプ、44 第1開閉弁、50 排出管、54 第2開閉弁、60 藻類予備槽