(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064803
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】制御装置、および駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230502BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20230502BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/06
B60L9/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175150
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(72)【発明者】
【氏名】梶原 智
(72)【発明者】
【氏名】國永 宏明
【テーマコード(参考)】
5H125
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB02
5H125CD09
5H125FF27
5H505AA16
5H505AA19
5H505BB02
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE49
5H505EE59
5H505HA07
5H505HB02
5H505MM12
5H505PP02
5H770AA21
5H770BA02
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA13
5H770PA02
5H770PA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】モータの各相のコイルにバランスよく発熱させることで全体の発熱量を増加させることができる制御装置及び駆動装置の提供する。
【解決手段】駆動装置1において、中性点Nにおいて互いに接続されスター結線される複数相のコイル22を有するモータ20の制御装置10は、直流電源の電圧を複数相の交流電圧に変換して各相のコイルに供給するインバータ回路11と、中性点に繋がる中性点接続回路13と、インバータ回路及び中性点接続回路を制御する制御部12と、を有する。中性点接続回路は、直流電源の正極および負極の間でインバータ回路と並列接続される並列配線部11aと、並列配線部と中性点とを繋ぐ接続配線部13bと、並列配線部の経路中であって接続配線部との接続部13pより正極側及び負極側に夫々設けられるスイッチング素子QN1、QN2と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性点において互いに接続されスター結線される複数相のコイルを有するモータの制御装置であって、
直流電源の電圧を複数相の交流電圧に変換して各相の前記コイルに供給するインバータ回路と、
前記中性点に繋がる中性点接続回路と、
前記インバータ回路および前記中性点接続回路を制御する制御部と、を有し、
前記中性点接続回路は、
前記直流電源の正極および負極の間で前記インバータ回路と並列接続される並列配線部と、
前記並列配線部と前記中性点とを繋ぐ接続配線部と、
前記並列配線部の経路中であって前記接続配線部との接続部より正極側および負極側にそれぞれ設けられるスイッチング素子と、を有する、
制御装置。
【請求項2】
複数相の前記コイルに同位相の交流電流を流す発熱モードを有する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記中性点接続回路の一対のスイッチング素子を交互にデューティ比50%でON/OFF制御する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記発熱モードにおいて、複数相の前記コイルに流す交流電流の周波数を変化させる、
請求項2又は3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記発熱モードにおいて、複数相の前記コイルに流す交流電流の振幅を変化させる、
請求項2~4の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の制御装置と、
前記制御装置に接続される前記モータと、を備える、
駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、および駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車又はハイブリッド自動車では、モータ、インバータなどを冷却する冷却回路が搭載される。特許文献1には、モータおよびインバータから回収された廃熱を暖房装置に利用して、車室内の暖房の立ち上がりを早める技術が開示されている。また、特許文献2には、モータに流れる電流のうち出力トルクに寄与しないd軸電流の比率を増加させることで銅損を高め、除霜に利用する空気調和機が開示されている。この構成によれば、モータの発熱量を増加させることでヒータを用いることなく必要な熱量を確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3112042号公報
【特許文献2】特開2010-32102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複数相のコイルをスター結線してモータの多相回路を構成する場合、全ての相のコイルに流れる正の電流と負の電流の総和が0となる。このため、1つの相のコイルに流すことができる電流量は、他の相のコイルに流れる電流量に制限されることとなり、全ての相のコイルからバランスよく熱量を得ることが難しい。一方で、1つの相に流すことができる電流量は、コイル線の絶縁被膜やスイッチング素子の性能によって制限される。このため、特定の相に集中して電流を流して十分な発熱量を得ることも難しい。
【0005】
本発明の一つの態様によれば、モータの各相のコイルにバランスよく発熱させることで全体の発熱量を増加させることができる制御装置および駆動装置の提供を目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制御装置の一つの態様は、中性点において互いに接続されスター結線される複数相のコイルを有するモータの制御装置であって、直流電源の電圧を複数相の交流電圧に変換して各相の前記コイルに供給するインバータ回路と、前記中性点に繋がる中性点接続回路と、前記インバータ回路および前記中性点接続回路を制御する制御部と、を有する。前記中性点接続回路は、前記直流電源の正極および負極の間で前記インバータ回路と並列接続される並列配線部と、前記並列配線部と前記中性点とを繋ぐ接続配線部と、前記並列配線部の経路中であって前記接続配線部との接続部より正極側および負極側にそれぞれ設けられるスイッチング素子と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一つの態様によれば、モータの各相のコイルにバランスよく発熱させることができる制御装置および駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態の駆動装置、および温調装置の断面模式図である。
【
図2】
図2は、一実施形態における制御装置およびモータの構成を模式的に示す回路ブロック図である。
【
図3】
図3は、一実施形態の駆動装置において、車両駆動モードおよび発熱モードにおいて各相のコイルに流れる電流値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴部分を強調する目的で、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、同様の目的で、特徴とならない部分を省略して図示している場合がある。
【0010】
図1は、本実施形態の駆動装置1、および当該駆動装置1を備える温調装置3の断面模式図である。温調装置3は、駆動装置1と冷媒回路50と熱交換器54と送風機55とを有する。また、駆動装置1は、モータ20と、モータ20を制御する制御装置10と、を有する。
【0011】
本実施形態の駆動装置1は、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)など、モータを動力源とする車両に搭載され、その動力源として使用される。一方で、温調装置3は、車両の居住空間の気温を調整する。
【0012】
冷媒回路50は、冷媒が流れる循環経路である。冷媒回路50は、冷媒を介してモータ20から熱を受け取り、この熱を車両内の空気に移動させることで車両内の空気を温める。冷媒回路50は、駆動装置1のオイルクーラ76と熱交換器54とを通過する。熱交換器54は、冷媒と空気との間で熱交換を行う。熱交換器54には、送風機から55から送られた空気が当てられる。熱交換器54に当たった空気は、熱交換器54によって温められた後に車両内に放出される。
【0013】
なお、冷媒回路50は、コンプレッサ、アキュムレータ、室外熱交換器、膨張弁などを通過してもよい。本実施形態の冷媒回路50の構成は一例であり、他の構成を採用してもよい。すなわち温調装置3は、駆動装置1と、駆動装置1を通過する冷媒回路50と、を有し、冷媒回路50において駆動装置1の熱を取り出して利用するものであればよい。
【0014】
モータ20は、電動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えた電動発電機である。モータ20は、図示略の減速機構を介して、車両の車輪に接続される。モータ20は、インバータ回路から供給される交流電流により駆動し、車輪を回転させる。また、モータ20は、車輪の回転を回生し交流電流を発電する。発電された電力は、インバータ回路を通じてバッテリに蓄えられる。
【0015】
本実施形態のモータ20は、インナーロータ型の三相ブラシレスDCモータである。モータ20は、ロータ71と、ステータ25と、一対のベアリング73、ハウジング74と、オイルポンプ75と、オイルクーラ76と、油路77と、オイルOと、を有する。
【0016】
ハウジング74は、ロータ71、ステータ25を収容する。また、ハウジング74内には、ロータ71およびステータ25を冷却および潤滑させるオイルOが貯留される。オイルOは、ハウジングに接続される油路77を流れる。
【0017】
油路77の経路中には、オイルポンプ75およびオイルクーラ76が配置される。オイルポンプ75は、ハウジング74内に溜まったオイルOをモータ20の上側に送り、モータ20に上側からかける。モータ20にかけられたオイルOは、モータ20の表面から熱を奪いながらモータ20の表面を伝う。オイルクーラ76は、油路77中のオイルOと冷媒回路50の冷媒との間で熱交換を行う。
【0018】
ロータ71は、シャフト71aとロータ本体71bとを有する。ロータ71は、モータ軸Jを中心として回転可能である。シャフト71aは、一対のベアリング73を介してハウジング74に支持される。シャフト71aは、減速機構(図示略)を介して車輪に繋がる。ロータ本体71bは、ロータコアとロータマグネットとを有する。
【0019】
ステータ25は、径方向に隙間を介してロータ71と対向する。ステータ25は、ステータコア25aと、ステータコア25aに装着されるコイル22と、を有する。ステータコア25aは、モータ軸Jの径方向内側に突出する複数のティースを有する。コイル22は、ステータコア25aのティースに巻き付けられる。
【0020】
ステータ25は、電流が流されることで磁場を発生する。ロータ71は、ステータ25の磁場によって回転する。より具体的には、ステータ25のコイル22には、交流電流が流される。これにより、ステータ25に発生する磁場の磁極が切り替わり、その作用によってロータ71に回転トルクが発生する。
【0021】
ステータ25は、電流が流されることで、コイル22の電気抵抗、およびステータコア25aに生じる渦電流などに起因して発熱する。ステータ25の熱は、ハウジング74内に貯留されるオイルOに移動する。さらにオイルOに移動した熱は、オイルクーラ76において温調装置3の冷媒回路50の冷媒に移動する。
【0022】
モータ20は、モータ20を回転駆動させて車両を駆動させる車両駆動モードと、モータ20への通電を停止させるモータ停止モードと、ロータ71を停止させたままステータ25に電流を流してモータ20を発熱させる発熱モードと、を有する。
【0023】
発熱モードは、車両が停止中にモータ20に電流を流しモータ20から発生する熱を、オイルクーラ76を介して冷媒回路50の冷媒に移動し、車内の居住空間の暖房に利用するモードである。発熱モードにおけるモータ20の制御方法については、後段において詳細に説明する。
【0024】
車両駆動モードは、ロータ71を回転させる磁場をステータ25に発生させるモードである。車両駆動モードでは、車両の走行のために必要なトルクを最も効率良く出力する振幅および位相の交流電流が、コイル22に流される。モータ20は、車両駆動モードにおいても発熱する。車両駆動モードでは、コイル22の電気抵抗による発熱を利用してオイルOが温められる。
【0025】
モータ20が発する熱は、オイルOを加熱してオイルOの粘性を低下させる。これによって、油路77内での、オイルOの循環効率が高められる。また、ステータ25が発する熱は、オイルクーラ76を介して冷媒回路50の冷媒に移動し、廃熱として利用される。モータ20は、発熱モード、および車両駆動モードで駆動される何れの場合において発熱する。車両駆動モードは、廃熱の利用と車両の走行とを並行して行うモードである。一方で、発熱モードは、車両を走行させることなく廃熱を利用するモードである。発熱モードでは、電力を全て熱に変換するため、発熱量の制御が容易となる。すなわち、発熱モードでは、必要な発熱量を容易に確保し易く、モータ20の廃熱の暖房への利用を効率的に行うことができる。
【0026】
本実施形態では、モータ20の廃熱は、オイルOおよびオイルクーラ76を介して冷媒回路50の冷媒に移動する。しかしながら、モータ20から冷媒への熱移動の手段は、これに限定されない。例えば、冷媒回路50の冷媒がステータ25の外周面を通過しており、モータ20の廃熱が冷媒に直接的に移動する構成であってもよい。
【0027】
図2は、本実施形態における制御装置10およびモータ20の構成を模式的に示す回路ブロック図である。制御装置10は、上述の車両駆動モードおよび発熱モードで、モータ20を制御する。
【0028】
本実施形態のモータ20は、中性点Nにおいて互いに接続されスター結線されるU相、V相、W相のコイル22を有する三相交流モータである。しかしながら、モータ20は、中性点Nにおいて互いに接続されスター結線される複数相のコイル22を有するモータであればよい。
【0029】
モータ20は、U相端子21Uと、V相端子21Vと、W相端子21Wと、U相コイル22Uと、V相コイル22Vと、W相コイル22Wと、中性点端子21Nと、を有する。U相コイル22U、V相コイル22V、およびW相コイル22Wは、
図1のコイル22を構成する。
【0030】
U相端子21U、V相端子21V、W相端子21W、および中性点端子21Nは、それぞれハウジングの外側に引き出される金属端子である。U相端子21U、V相端子21V、およびW相端子21Wは、制御装置10のインバータ回路11と電気的に接続される。また、中性点端子21Nは、制御装置10の中性点接続回路13に接続される。U相コイル22U、V相コイル22V、およびW相コイル22Wは、それぞれステータ25に設けられた励磁コイルである。
【0031】
U相コイル22Uは、U相端子21Uと中性点Nとの間に電気的に接続される。V相コイル22Vは、V相端子21Vと中性点Nとの間に電気的に接続される。W相コイル22Wは、W相端子21Wと中性点Nとの間に電気的に接続される。車両駆動モードでは、U相コイル22U、V相コイル22V、およびW相コイル22Wの通電状態が制御装置10によって制御されることにより、ロータを回転させるのに必要な電磁力が発生する。ロータが回転することにより、出力軸もロータに同期して回転する。また、発熱モードでは、U相コイル22U、V相コイル22V、およびW相コイル22Wの通電状態が制御装置10によって制御されることにより、ロータを回転させることなくステータ25を発熱させる。
【0032】
制御装置10は、直流電源30に接続される。直流電源30は、ハイブリッド車両に搭載される複数のバッテリの一つである。また、直流電源30には、コンデンサ40が並列接続される。コンデンサ40は、インバータ回路11に供給される直流電圧を平滑化する。
【0033】
制御装置10は、インバータ回路11と、中性点接続回路13と、制御部12と、を有する。インバータ回路11は、モータ20の各相のコイルの端子21U、21V、21Wに接続される。一方で、中性点接続回路13は、モータ20の中性点Nの中性点端子21Nに接続される。制御部12は、インバータ回路11および中性点接続回路13を制御する。
【0034】
インバータ回路11は、直流電源30の電圧を複数相(本実施形態では三相)の交流電圧に変換してモータ20の各相のコイル22に供給する三相フルブリッジ回路である。インバータ回路11は、直流電源30から供給される直流電源電圧を三相交流電圧に変換してモータ20に出力する。
【0035】
インバータ回路11は、U相正極側スイッチング素子QU1と、V相正極側スイッチング素子QV1と、W相正極側スイッチング素子QW1と、U相負極側スイッチング素子QU2と、V相負極側スイッチング素子QV2と、W相負極側スイッチング素子QW2と、第1並列配線部11aと、第1接続配線部11bと、を有する。
【0036】
第1並列配線部11aは、直流電源30の正極および負極の間で相ごとに並列接続される。第1接続配線部11bは、第1並列配線部11aから各相のコイル22U、22V、22Wの端子21U、21V、22Wに相ごとに繋がる。スイッチング素子QU1、QV1、QW1、QU2、QV2、QW2は、相ごとの第1並列配線部11aの経路中であって第1接続配線部11bとの第1接続部11pより正極側および負極側にそれぞれ設けられる。
【0037】
なお、インバータ回路11に含まれる正極側スイッチング素子の数、および負極側スイッチング素子の数は、モータ20の相数と一致する。インバータ回路11は、制御部12によって各スイッチング素子がスイッチング制御されることにより、直流電源30から供給される直流電源電圧を三相交流電圧に変換してモータ20に出力する。
【0038】
U相正極側スイッチング素子QU1のコレクタ端子、V相正極側スイッチング素子QV1のコレクタ端子、およびW相正極側スイッチング素子QW1のコレクタ端子は、第1並列配線部11aによってそれぞれ直流電源30の正極端子と電気的に接続される。U相負極側スイッチング素子QU2のエミッタ端子、V相負極側スイッチング素子QV2のエミッタ端子、およびW相負極側スイッチング素子QW2のエミッタ端子は、第1並列配線部11aによってそれぞれ直流電源30の負極端子と電気的に接続される。なお、直流電源30の負極端子は車内グランドと電気的に接続される。
【0039】
U相正極側スイッチング素子QU1のエミッタ端子とU相負極側スイッチング素子QU2のコレクタ端子とは、第1接続配線部11bによってモータ20のU相端子21Uに電気的に接続される。V相正極側スイッチング素子QV1のエミッタ端子とV相負極側スイッチング素子QV2のコレクタ端子とは、第1接続配線部11bによってモータ20のV相端子21Vに電気的に接続される。W相正極側スイッチング素子QW1のエミッタ端子とW相負極側スイッチング素子QW2のコレクタ端子とは、第1接続配線部11bによってモータ20のW相端子21Wに電気的に接続される。
【0040】
中性点接続回路13は、1つの正極側スイッチング素子QN1と1つの負極側スイッチング素子QN2とを有するブリッジ回路によって構成される。中性点接続回路13は、制御部12によって各スイッチング素子がスイッチング制御される。中性点接続回路13は、中性点正極側スイッチング素子(スイッチング素子)QN1と、中性点負極側スイッチング素子(スイッチング素子)QN2と、第2並列配線部(並列配線部)13aと、第2接続配線部(接続配線部)13bと、を有する。
【0041】
第2並列配線部13aは、直流電源30の正極および負極の間でインバータ回路11と並列接続される。第2接続配線部13bは、第2並列配線部13aと中性点Nとを繋ぐ。スイッチング素子(QN1,QN2)は、第2並列配線部13aの経路中であって第2接続配線部13bとの第2接続部(接続部)13pより正極側および負極側にそれぞれ設けられる。
【0042】
中性点正極側スイッチング素子QN1は、第2並列配線部13aによってそれぞれ直流電源30の正極端子と電気的に接続される。中性点負極側スイッチング素子QN2は、第1並列配線部11aによってそれぞれ直流電源30の負極端子と電気的に接続される。
【0043】
中性点正極側スイッチング素子(スイッチング素子)QN1のエミッタ端子と中性点負極側スイッチング素子QN2のコレクタ端子とは、第2接続配線部13bによって中性点Nに電気的に接続される。
【0044】
制御部12は、制御部コア12aと、PWMモジュール12bと、を有する。
制御部コア12aは、インバータ回路11、および中性点接続回路13の複数のスイッチング素子QU1、QV1、QW1、QU2、QV2、QW2、QN1、QN2をスイッチング制御するための指令値を算出してPWMモジュールに送信する。PWMモジュール12bは、制御部コア12aから入力される制御信号に基づいて、スイッチング素子QU1、QV1、QW1、QU2、QV2、QW2、QN1、QN2の駆動電力であるPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成する。
【0045】
PWMモジュール12bは、U相正極側スイッチング素子QU1のゲート端子、V相正極側スイッチング素子QV1のゲート端子、W相正極側スイッチング素子QW1のゲート端子、中性点正極側スイッチング素子QN1のゲート端子、U相負極側スイッチング素子QU2のゲート端子、V相負極側スイッチング素子QV2のゲート端子、W相負極側スイッチング素子QW2のゲート端子、および中性点負極側スイッチング素子QN2のゲート端子に接続される。
【0046】
制御部12は、車両制御装置などの上位装置に接続される。制御部12は、上位装置から入力される制御信号に基づいて、インバータ回路11および中性点接続回路13を介したモータ20の駆動制御を実行する。
【0047】
上述したように、本実施形態の制御装置10に制御されるモータ20のモードは、車両駆動モードと発熱モードとを有する。なお、本明細書において、インバータ回路11および中性点接続回路13の正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子を、単にスイッチ素子と呼ぶ場合がある。
【0048】
<車両駆動モード>
図3は、車両駆動モードおよび発熱モードにおいて、U相コイル22U,V相コイル22V、およびW相コイル22Wに流れる電流値を示すグラフである。
【0049】
図3に示すように、車両駆動モードにおいて、制御装置10は、モータ20のU相コイル22U、V相コイル22V、およびW相コイル22Wにそれぞれ120°ごとに位相をずらした交流電流を流す。
【0050】
図2に示すインバータ回路11、および中性点接続回路13のそれぞれのスイッチング素子(すなわち、正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子)QU1、QV1、QW1、QN1、QU2、QV2、QW2、QN2は、制御部12によってON又はOFFの何れかの状態に切り替えられる。これらのスイッチング素子QU1、QV1、QW1、QN1、QU2、QV2、QW2、QN2は、ONの場合に電流を流し、OFFの場合に電流を遮断する。
【0051】
制御部12は、車両駆動モードにおいて、インバータ回路11のU相、V相、W相の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1を120°ごとに位相をずらしてON/OFFを切り替える。また、制御部12は、U相、V相、W相の負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2を相ごとに正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1と反転してON/OFFを切り替えられる。
【0052】
一方で、制御部12は、車両駆動モードにおいて、中性点接続回路13の中性点正極側スイッチング素子QN1、および中性点負極側スイッチング素子QN2を何れもOFFとする。すなわち、車両駆動モードにおいて、第2並列配線部13aおよび第2接続配線部13bには、電流が流れない。
【0053】
<発熱モード>
図3に示すように、発熱モードにおいて、制御部12は、モータ20のU相コイル22U、V相コイル22V、およびW相コイル22Wに同位相の交流電流を流す。
【0054】
モータ20のコイル22U、22V、22Wに電流を流すと、モータ20は、鉄損および銅損に起因して発熱する。銅損は、電気抵抗により消費される損失である。このため、銅損に起因する発熱は、コイル22U、22V、22Wのみならず、インバータ回路11や中性点接続回路13など電流が流れる全ての配線部分で発生する。一方で、鉄損は、ステータコア25a(
図1参照)が励磁されることに伴い発生する損失である。鉄損に起因する発熱は、ステータコア25aに渦電流が生じることなどによる発熱であるため、主にステータ25から発生し配線部分からは発生しない。
【0055】
コイル22U、22V、22Wに流す電流は、直流成分と交流成分とに分けることができる。直流成分は銅損のみを生じさせ、交流成分は銅損と鉄損とを生じさせる。このため、コイル22U、22V、22Wに流す電流の直流成分をゼロに近づけるように減少させ、交流成分の割合を増加させることでことで、鉄損の比率が高められる。
【0056】
本実施形態によれば、制御装置10は、複数相のコイル22U、22V、22Wに同位相の交流電流を流す発熱モードを有する。本実施形態の発熱モードによれば、ロータにトルクを発生させることなく、ステータ25を発熱させることができる。また、本実施形態の発熱モードによれば、コイル22に直流電流を流す場合と比較して、モータ20に鉄損に起因する発熱を生じさせることができる。すなわち、全体の発熱量のうち、配線部分における発熱の比率を低減し、ステータ25の発熱の比率を高めることができる。結果的に、モータ20の熱を暖房などに利用する場合に、モータ20から効率的に熱を回収することができる。なお、銅損に起因する発熱については、モータ20から生じる発熱は回収が可能であるが、その他の配線部分からの発熱は回収が困難となる。本実施形態によれば、銅損に起因する発熱の比率を減らすことで、発熱量の回収が容易となり、エネルギ効率の高い発熱モードを実現できる。
【0057】
図2の制御装置10の発熱モードにおいて、インバータ回路11のU相、V相、W相の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1は、互いに同期してON/OFFが切り替えられる。また、U相、V相、W相の負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2は、相ごとに正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1と反転してON/OFFが切り替えられる。すなわち、各相の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1は、同時にON又はOFFとなる。同様に、各相の負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2は、同時にON又はOFFとなる。さらに、正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1のON/OFFと、負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2のON/OFFは、常に反転している。
【0058】
制御装置10の発熱モードにおいて、中性点接続回路13の中性点正極側スイッチング素子QN1、および中性点負極側スイッチング素子QN2は、ON/OFFが交互に切り替えられる。すなわち、中性点正極側スイッチング素子QN1がONの場合に中性点負極側スイッチング素子QN2がOFFとされ、逆に中性点正極側スイッチング素子QN1がOFFの場合に中性点負極側スイッチング素子QN2がONとされる。
【0059】
本実施形態によれば、中性点Nが中性点接続回路13を介して直流電源30に接続される。このため、U相コイル22U、V相コイル22V、およびW相コイル22Wを流れる電流を中性点Nから直流電源30に流すことができる。本実施形態によれば、各相のコイル22U、22V、22Wに流す電流を、他相のコイル22に流れる電流の位相および振幅に依存することなく独立して制御することが可能となる。これにより、各相のコイル22U、22V、22Wに流す電流によって各相のコイル22U、22V、22Wをバランスよく発熱させることができる。さらに、それぞれの相のコイル22U、22V、22Wに、上限値近くの電流を流すことができ、モータ20全体としての発熱量を増加させることができる。本実施形態によれば、個別のコイル22の温度が局所的に高くなることを抑制しつつ、全体として大きな発熱量を確保でき、暖房、バッテリ加熱、ハウジング内のオイルの温度上昇・粘性低下などに、モータ20の発熱を効果的に利用できる。
【0060】
中性点正極側スイッチング素子QN1、および中性点負極側スイッチング素子QN2のON/OFFの切り替えのタイミングとしては、例えば、以下の第1切り替え制御方法と第2切り替え制御方法の2つの切り替えタイミングが例示される。
【0061】
第1切り替え制御方法において、中性点接続回路13のスイッチング素子QN1、QN2は、インバータ回路11のスイッチング素子と同期させてON/OFFが切り替えられる。上述したように、発熱モードにおいて、インバータ回路11の各相の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1と負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2とは、交互にON/OFFが切り替えられる。第1切り替え制御方法において、中性点接続回路13とインバータ回路11とは、正極側、負極側スイッチング素子のON/OFFを逆転させて同期させる。すなわち、中性点接続回路13の正極側スイッチング素子QN1のON/OFFと、インバータ回路11の負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2のON/OFFと、を互いに一致させる。同様に、中性点接続回路13の負極側スイッチング素子QN2のON/OFFと、インバータ回路11の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1のON/OFFと、を互いに一致させる。
【0062】
第1切り替え制御方法において、インバータ回路11の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1、および中性点接続回路13の負極側スイッチング素子QN2がONとされる瞬間、インバータ回路11の負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2、および中性点接続回路13の正極側スイッチング素子QN1がOFFとされる。この瞬間、直流電源30の正極側から流れる電流は、インバータ回路11の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1を通過して、モータ20のU相コイル22U、V相コイル22V、W相コイル22Wに流れる。この電流は、さらに中性点Nから第2接続配線部13b、および中性点負極側スイッチング素子QN2を通過して、直流電源30の負極側に達する。
【0063】
第1切り替え制御方法において、インバータ回路11の負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2、および中性点接続回路13の正極側スイッチング素子QN1がONとされる瞬間、インバータ回路11の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1、および中性点接続回路13の負極側スイッチング素子QN2がOFFとされる。この瞬間、直流電源30の正極側から流れる電流は、中性点正極側スイッチング素子QN1、第2接続配線部13bを通過してモータ20の中性点Nに流れる。この電流は、さらにモータ20のU相コイル22U、V相コイル22V、W相コイル22Wを流れインバータ回路11の負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2を通過し、直流電源30の負極側に達する。
【0064】
第1切り替え制御方法において、インバータ回路11および中性点接続回路13のスイッチング素子QU1、QV1、QW1、QN1、QU2、QV2、QW2、QN2のデューティ比は、50%である。第1切り替え制御方法において、コイル22U、22V、22Wに交流電流を流すことができ、ステータ25の鉄損を大きくすることができる。結果的に、モータ20の発熱において配線部分全体の発熱量に対してステータ25での発熱量の比率を高めることができる。
【0065】
第1切り替え制御方法において、インバータ回路11および中性点接続回路13のスイッチング素子の切り替えの周波数は、互いに一致する。また、これらのスイッチング素子の周波数は、U相コイル22U、V相コイル22V、およびW相コイル22Wに流れる電流の周波数と一致する。後述するように、U相コイル22U、V相コイル22V、およびW相コイル22Wに流れる電流の周波数を変えることで、モータ20の発熱量を調整することができる。第1切り替え制御方法において、スイッチング素子の切り替えの周波数は、所望の発熱量に応じて調整される。
【0066】
第2切り替え制御方法において、中性点接続回路13のスイッチング素子QN1、QN2は、インバータ回路11のスイッチング素子のON/OFFの切り替え周期に対して、十分に短い周期でON/OFFが切り替えられる。上述したように、発熱モードにおいて、インバータ回路11の各相の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1と負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2とは、一定の周期(第1の周期と呼ぶ)で交互にON/OFFが切り替えられる。一方で、第2の切り替えタイミングにおいて、中性点接続回路13の正極側スイッチング素子QN1と負極側スイッチング素子QN2とは、インバータ回路のON/OFFの切り替え周期である第1の周期より短い第2の周期で交互にON/OFFが切り替えられる。第2の周期は、例えば、第1の周期の5分の1以下の十分に小さい周期とされる。
【0067】
第2切り替え制御方法において、インバータ回路11の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1がON、かつ負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2がOFFとされている間に、中性点接続回路13の正極側スイッチング素子QN1および負極側スイッチング素子QN2は、ON/OFFが繰り返し切り替えられる。この場合、中性点正極側スイッチング素子QN1がOFFであり、中性点負極側スイッチング素子QN2がONとなる瞬間に、U相コイル22U、V相コイル22V、W相コイル22Wに電流が流れる。一方で、中性点正極側スイッチング素子QN1がONであり、中性点負極側スイッチング素子QN2がOFFとなる瞬間に、U相コイル22U、V相コイル22V、W相コイル22Wへの電圧の付与は瞬間的に停止される。
【0068】
第2切り替え制御方法において、インバータ回路11の正極側スイッチング素子QU1、QV1、QW1がOFF、かつ負極側スイッチング素子QU2、QV2、QW2がONとされている間に、中性点接続回路13の正極側スイッチング素子QN1および負極側スイッチング素子QN2は、ON/OFFが繰り返し切り替えられる。この場合、中性点正極側スイッチング素子QN1がONであり、中性点負極側スイッチング素子QN2がOFFとなる瞬間に、U相コイル22U、V相コイル22V、W相コイル22Wに電流が流れる。一方で、中性点正極側スイッチング素子QN1がOFFであり、中性点負極側スイッチング素子QN2がONとなる瞬間に、U相コイル22U、V相コイル22V、W相コイル22Wへの電圧の付与は瞬間的に停止される。
【0069】
第2の切り替え制御方法では、インバータ回路11が生成してU相コイル22U、V相コイル22V、W相コイル22Wに付与される交流電圧は、中性点接続回路13によって細かいパルス波状に分断される。U相コイル22U、V相コイル22V、W相コイル22Wに流す交流電流の振幅は、中性点接続回路13のスイッチング素子QN1、QN2のON/OFFの周波数によって調整できる。
【0070】
第2切り替え制御方法において、中性点接続回路13のスイッチング素子QN1、QN2のデューティ比は、50%である。これにより、中性点Nの電位を直流電源30の電源電位に対し1/2一定に保つことができ、U相コイル22U、V相コイル22V、W相コイル22Wに流れる電流の位相振幅を独立して制御できる。したがって、第2切り替え制御方法において、コイル22U、22V、22Wに正の電流と負の電流のバランスを高めた正弦波に近い交流電流を流すことが可能となり、ステータ25の鉄損を大きくすることができる。結果的に、モータ20の発熱において配線部分全体の発熱量に対してステータ25での発熱量の比率を高めることができる。
【0071】
本実施形態の制御部12は、第1切り替え制御方法、および第2切り替え制御方法の何れにおいても、中性点接続回路13の一対のスイッチング素子QN1、QN2を交互にデューティ比50%でON/OFF制御する。中性点接続回路13の一対のスイッチング素子QN1、QN2のON/OFFのデューティ比を50%とすることで、正弦波波形に近づけることができる。すなわち、コイル22U、22V、22Wに流れる電流の直流成分を減らして銅損を抑制しつつ、鉄損を最大化できる。結果的に、ステータ25以外の配線部分の発熱を抑制しつつステータ25での発熱量を高めることができる。
【0072】
本実施形態の制御部12は、発熱モードにおいて、複数相のコイル22U、22V、22Wに流す交流電流の周波数を変化させる。以下の式1は、鉄損の算出方法を表す式である。なお、式1において、Piは鉄損を表し、fは交流周波数を表し、Bmは最大磁束密度を表し、K1、K2はそれぞれヒステリシス損と渦電流損とに対応する損失係数である。
【0073】
【0074】
式1からもわかるように、鉄損はコイル22U、22V、22Wに流れる交流電流の交流周波数fを増加させることで高めることができる。鉄損を高めることで、ステータ25で生じる発熱量を増加させることができる。本実施形態によれば、制御部12は、コイル22U、22V、22Wに流す交流電流の周波数を変化させることで、ステータ25における発熱量を調整できる。
【0075】
本実施形態の制御部12は、発熱モードにおいて、複数相のコイル22U、22V、22Wに流す交流電流の振幅を変化させることで、ステータ25における発熱量を調整してもよい。交流電流の振幅は、例えば、インバータ回路11の各相のスイッチング素子QU1、QV1、QW1、QU2、QV2、QW2の中性点電位を基準とした各相の電圧の振幅を大きくすることができる。
【0076】
本発明は上記実施形態に限定されず、本明細書において説明した各構成は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0077】
1…駆動装置、20…モータ、10…制御装置、11…インバータ回路、13p…第2接続部(接続部)、12…制御部、13…中性点接続回路、13a…第2並列配線部(並列配線部)、13b…第2接続配線部(接続配線部)、22,22U,22V,22W…コイル、30,30…直流電源、N…中性点、QN1…中性点正極側スイッチング素子(スイッチング素子)、QN2…中性点負極側スイッチング素子(スイッチング素子)