(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064838
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】銅管、伝熱管、冷媒配管、空調機器及び冷凍機器
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20230502BHJP
C23C 8/10 20060101ALI20230502BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20230502BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C22C9/00
C23C8/10
C22F1/08 A
C22F1/00 640A
C22F1/00 626
C22F1/00 651Z
C22F1/00 613
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691Z
C22F1/00 612
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 682
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175231
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】311014705
【氏名又は名称】NJT銅管株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤 聖健
(72)【発明者】
【氏名】諸井 努
(72)【発明者】
【氏名】小鹿 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】水藤 謙輔
(57)【要約】
【解決課題】蟻の巣状腐食に対する耐食性に優れており、且つ、SCCに対する耐食性に優れる銅管を提供すること。
【解決手段】0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなり、
銅管の外表面に、酸化性ガスを用いるショットブラスト処理を行うことにより形成された酸化銅の皮膜を有すること、
を特徴とする銅管。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなり、
銅管の外表面に、酸化性ガスを用いるショットブラスト処理を行うことにより形成された酸化銅の皮膜を有すること、
を特徴とする銅管。
【請求項2】
前記酸化銅の皮膜の厚みが、50~300Åであることを特徴とする請求項1記載の銅管。
【請求項3】
湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされる銅管であることを特徴とする請求項1又は2記載の銅管。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項記載の銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の伝熱管用であることを特徴とする伝熱管。
【請求項5】
請求項1~3いずれか1項記載の銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の冷媒配管用であることを特徴とする冷媒配管。
【請求項6】
請求項4記載の伝熱管を有することを特徴とする空調機器。
【請求項7】
請求項4記載の伝熱管を有することを特徴とする冷凍機器。
【請求項8】
請求項5記載の冷媒配管を有することを特徴とする空調機器。
【請求項9】
請求項5記載の冷媒配管を有することを特徴とする冷凍機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性の銅管に関し、特に、空調機器や冷凍機器における伝熱管、冷媒配管に好適に用いられる銅管であって、蟻の巣状腐食に対する耐食性及び応力腐食割れ(SCC)に対する耐食性のいずれも優れる銅管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空調機器の伝熱管や冷凍機器の冷媒配管(機内配管)等の管材には耐食性、ろう付け性、熱伝導性及び曲げ加工性等において優れた特徴を発揮する、りん(P)脱酸銅管(JIS-H3300-C1220T)が、主として用いられいる。
【0003】
そのような空調機器や冷凍機器に使用される管材であるりん脱酸銅管には、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する異常な腐食、いわゆる、蟻の巣状腐食が発生することがある。この蟻の巣状腐食は、蟻酸や酢酸等といった低級カルボン酸を腐食媒として、湿潤環境中で発生するとされている。また、1,1,1-トリクロロエタン等の塩素系有機溶剤や、ある種の潤滑油、ホルムアルデヒド等が存在する環境下においても、同様な腐食の発生が確認されている。
【0004】
特に、空調機器や冷凍機器における結露が惹起される管路として用いられた場合には、その発生が顕著となることが知られている。そして、そのような蟻の巣状腐食は、それが発生すると、腐食の進行速度が早く、短期間で銅管を貫通するまでに進行し、機器が使用出来なくなってしまうという問題を惹起することとなる。
【0005】
このため、特許文献1においては、P(りん)を0.05~1.0重量%の割合で含有し、残部がCu(銅)と不可避的不純物となるCu材質からなることを特徴とする高耐食性銅管が提案され、それにより、蟻の巣状腐食に対する耐食性が向上されるとが、明らかにされている。即ち、従来のりん脱酸銅からなる管材よりも、P含有量の大なる領域において、蟻の巣状腐食に対して、より一層の耐食性が向上される銅管を、実用的に有利に得ることが出来る事実が、指摘されている。
【0006】
また、特許文献2において、結晶粒度を0.005~0.050mmとすることで、さらに蟻の巣状腐食に対する耐食性を効果的に向上させることが明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/148127号
【特許文献2】国際公開第2018/061270号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1及び特許文献2の銅管では、アンモニア環境中で応力が作用した場合に、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking、以下SCC)を起こす場合があるという問題がある。
【0009】
そのため、蟻の巣状腐食に対する耐食性に優れ、且つ、SCCに対する耐食性に優れる銅管の開発が望まれている。
【0010】
従って、本発明の目的は、蟻の巣状腐食に対する耐食性に優れており、且つ、SCCに対する耐食性に優れる銅管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術背景の基、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、銅管の製造における最終熱処理後の長尺コイルからの銅管繰出しによる直管矯正加工管又はそれ以降のヘアピン曲げ加工等の二次加工管に対して、酸化性のガスを用いてショットブラスト処理を施すことにより、このショットブラスト過程において、銅管の外表面の表層に極めて薄く緻密な酸化銅の皮膜の層を形成させることができ、そのことにより、SCC感受性を低くすることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明(1)は、0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなり、
銅管の外表面に、酸化性ガスを用いるショットブラスト処理を行うことにより形成された酸化銅の皮膜を有すること、
を特徴とする銅管を提供するものである。
【0013】
また、本発明(2)は、前記酸化銅の皮膜の厚みが、50~300Åであることを特徴とする(1)の銅管を提供するものである。
【0014】
また、本発明(3)は、湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされる銅管であることを特徴とする(1)又は(2)の銅管を提供するものである。
【0015】
また、本発明(4)は、(1)~(3)いずれかの銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の伝熱管用であることを特徴とする伝熱管を提供するものである。
【0016】
また、本発明(5)は、(1)~(3)いずれかの銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の冷媒配管用であることを特徴とする冷媒配管を提供するものである。
【0017】
また、本発明(6)は、(4)の伝熱管を有することを特徴とする空調機器を提供するものである。
【0018】
また、本発明(7)は、(4)の伝熱管を有することを特徴とする冷凍機器を提供するものである。
【0019】
また、本発明(8)は、(5)の冷媒配管を有することを特徴とする空調機器を提供するものである。
【0020】
また、本発明(9)は、(5)の冷媒配管を有することを特徴とする冷凍機器を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、蟻の巣状腐食に対する耐食性に優れており、且つ、SCCに対する耐食性に優れる銅管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例において、蟻の巣状腐食試験を実施するための試験装置を示す図である。
【
図2】実施例において、応力腐食割れ試験を実施するための試験装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の銅管は、0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなり、
銅管の外表面に、酸化性ガスを用いるショットブラスト処理を行うことにより形成された酸化銅の皮膜を有すること、
を特徴とする銅管である。
【0024】
本発明の銅管は、0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなる。つまり、本発明の銅管は、0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材により形成されている。
【0025】
本発明の銅管を形成する銅材中のP含有量は、0.10~1.0重量%、好ましくは、0.15~0.50重量%である。銅管を形成する銅材中のP含有量が上記範囲にあることにより、厳しい腐食環境下においても、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状の腐食が進行する選択的腐食形態の発生が、効果的に抑制又は阻止され、且つ、公知の耐食性銅管よりも更に優れた耐食性が、長期間に亘って有利に発揮され得る。一方、銅管を形成する銅材中のP含有量が、上記範囲未満だと、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状の腐食が進行し易くなる。また、銅管を形成する銅材中のP含有量が、上記範囲を超えても、蟻の巣状腐食に対する耐食性に殆ど変化がなく、銅管の製造に際して、加工性が低下して、割れ等の問題が起こり易くなる。
【0026】
その一方で、本発明の銅管の添加元素であるPの存在により、アンモニア環境中で応力が作用した場合に、結晶粒界の腐食性が鋭敏化し、粒界を起点とする脆化が促進され、応力腐食割れが発生することがある。
【0027】
本発明の銅管は、銅管の外表面に、酸化性ガスを用いるショットブラスト処理を行うことにより形成された酸化銅の皮膜を有する。本発明において、銅管の外表面とは、銅管の外側の表面を指す。また、ショットブラスト処理とは、直径が10~100μmの金属粒子又は非金属粒子を、高速度で被加工材の表面に投射し、表面近傍を局所的に変質させる表面処理をいう。そして、本発明の銅管の外表面に形成されている酸化銅の皮膜は、ショットブラスト処理において、圧縮ガスとして、酸素ガス、乾燥空気等の酸化性ガスの圧縮ガスを用いて、金属粒子又は非金属粒子を銅管の外表面に向けて噴射させることにより、銅管の外表面に向けて、高速度で金属粒子又は非金属粒子を投射するともに酸化性ガスを噴射することで形成されたものである。そのため、本発明の銅管は、銅管の外表面に圧縮ガスとして酸化性ガスを用いるショットブラスト処理による酸化銅の皮膜を有する。圧縮ガスの噴射圧力は、特に制限されないが、好ましくは、0.4~0.6MPaである。
【0028】
本発明の銅管の外表面に形成されている酸化銅の皮膜は、ショットブラスト処理により形成されたものであり、緻密である。そして、本発明の銅管が、外表面に圧縮ガスとして酸化性ガスを用いるショットブラスト処理を行うことにより形成された緻密な酸化銅の皮膜を有することにより、SCCに対する耐食性に優れる。
【0029】
つまり、本発明の銅管は、0.10~1.0重量%のPを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅材からなる銅管の外表面を、圧縮ガスとして酸素ガス、乾燥空気等の酸化性ガスを用いるショットブラスト処理して得られる銅管であり、銅管の外表面に、酸化銅の皮膜を有する。
【0030】
本発明の銅管の外表面に形成されている酸化銅の皮膜の厚みは、好ましくは50~300Å(オングストローム)である。酸化銅の皮膜の厚みが、上記範囲にあることにより、緻密な酸化銅の皮膜となり、疑似的な防食層として機能し、酸やアルカリ等の腐食媒に暴露された直後に発生する酸化銅の皮膜の急激な成長に伴う皮膜の亀裂発生が抑制される。
【0031】
また、本発明の銅管は、外表面がショットブラスト処理されたものであり、銅管の外表面の表層に、圧縮残留応力が付与されたものである。
【0032】
本発明の銅管の引張強さ(σB)は、好ましくは270MPa以上、特に好ましくは275~290MPaである。また、本発明の銅管の0.2%耐力(σ0.2)は、好ましくは90MPa以上、特に好ましくは95~110MPaである。また、本発明の銅管の伸び(δ)は、好ましくは40%以上、特に好ましくは45~55%である。
【0033】
本発明の銅管の製造例について、以下に述べる。なお、以下に述べる本発明の銅管の製造例は、本発明の銅管を製造するための一例であって、本発明の銅管は、以下に示す方法によって製造されたものに限定されるものではない。
【0034】
本発明の銅管は、所定の化学組成の銅鋳塊を鋳造し、その後、種々の加工や熱処理を行うことにより製造されるが、本発明者らは、最終熱処理後の銅管に対して行うショットブラスト処理により、外表面の表層に圧縮の残留応力を付与すると同時に、外表面の表層に極めて薄く緻密な酸化銅の皮膜を形成させることで、SCC感受性を低くすることが可能であることを見出した。
【0035】
本発明の銅管の製造方法は、少なくとも、鋳造工程と、熱間加工と、冷間圧延、冷間抽伸などの冷間加工と、最終熱処理と、長尺コイル繰出し、直管矯正加工、又はそれ以降のヘアピン曲げ加工等の二次加工を行った銅管に対して行うショットブラスト処理を有し、且つ、ショットブラスト処理において、高速度で金属粒子又は非金属粒子を投射するための圧縮ガスとして、酸素ガス、乾燥空気等の酸化性のガスの圧縮ガスを用いることを特徴とする銅管の製造方法である。ショットブラスト処理とは、直径が10~100μmの金属粒子又は非金属粒子を、高速度で被加工材の表面に投射し、表面近傍を局所的に変質させる表面処理をいう。そして、本発明の銅管の製造方法では、ショットブラスト処理により、表面近傍を塑性変形させることによって、圧縮残留応力の付与及び加工硬化をさせる表面処理を行う。
【0036】
本発明の銅管の製造方法では、先ず、常法に従って、溶解及び鋳造を行い、0.10~1.0重量%、好ましくは0.15~0.50重量%のPを含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅鋳塊(ビレット)を得る鋳造工程を行う。
【0037】
次いで、本発明の銅管の製造方法では、銅鋳塊(ビレット)を加熱して、熱間加工を行い、次いで、冷間加工し、所望の形状に加工する。熱間加工は、一般的には熱間押出である。また、冷間加工としては、冷間圧延、冷間引抜、内面溝を形成させる転造加工が挙げられる。例示した何れの冷間加工においても、最終寸法に加工する過程において、外径と肉厚を減少させながら、数百m~数千mに及ぶ長尺のコイルを形成することが一般的である。
【0038】
次いで、本発明の銅管の製造方法では、最後に、最終熱処理を行う。最終熱処理は、冷間加工により加工硬化した銅材を、還元性ガス雰囲気中で再結晶温度以上に加熱保持することで、材料強度と伸びをその後の加工に適するように調質する処理である。
【0039】
なお、本発明の銅管の製造方法では、冷間加工の前、冷間加工のパス間等に、適宜、熱処理(中間焼鈍)を行うことができる。
【0040】
最終熱処理の方法としては、例えば、気密構造の炉中にて、バーナー燃焼による輻射熱を撹拌扇で強制対流させながら材料への熱伝達により所定の温度まで加熱保持し、その後の冷却を、低温の雰囲気ガスを撹拌扇で強制対流させながら徐冷する方法や、その他に、高周波誘導加熱コイルを使用して材料に渦電流を発生させながら急速加熱を行った直後に水冷させる方法などがある。
【0041】
本発明の銅管の製造方法では、最終熱処理を行った長尺コイルから銅管を繰出し、直材に矯正する直管矯正加工を行った後の銅管に、コイル全長を逐次送り出しながら銅管の外表面全面に対してショットブラスト処理を均一に実施する。あるいは、本発明の銅管の製造方法では、最終熱処理を行った長尺コイルから銅管を繰出し、直材に矯正する直管矯正加工を行った後、更に、ヘアピン曲げ加工等の二次加工を行った銅管の外表面全面に対してショットブラスト処理を均一に実施する。
【0042】
ショットブラスト処理は、銅管の外表面に対して、直径が10~100μmの金属粒子又は非金属粒子の投射材を、高速度で被加工材の表面に投射し、表面近傍を局所的に塑性変形させることによって、圧縮残留応力の付与及び加工硬化をさせる表面処理である。そして、本発明の銅管の製造方法では、高速度で金属粒子又は非金属粒子を投射するための圧縮ガスとして、酸素ガス、乾燥空気等の酸化性のガスの圧縮ガスを用いて、金属粒子又は非金属粒子を銅管の外表面に向けて噴射させることにより、銅管の外表面に向けて、高速度で金属粒子又は非金属粒子を投射すると共に、酸化性ガスを噴射して、ショットブラスト処理を行う。金属粒子又は非金属粒子を投射に用いられる酸化性ガスとしては、酸素ガス、乾燥空気等が挙げられ、コスト面で乾燥空気が好ましい。圧縮ガスを乾燥空気とすることで、銅管外表面に表層に、空隙の少ない、より緻密な酸化銅の皮膜を形成することができる。圧縮ガスの噴射圧力は、特に制限されないが、好ましくは0.4~0.6MPaである。ショットブラスト処理における粒子の投射用の圧縮ガスとして、酸化性ガスを用いることにより、投射された微粒子が銅管外表面に衝突した際の衝撃エネルギーによって、銅管の外表面において、微粒子の衝突頻度に応じた発熱が生じ、その際に、表層に噴射された酸化性ガス中の酸素と銅との酸化反応が生じ、Cu2Oを主体とした酸化銅の皮膜が形成される。このとき、素地の銅材に対して、Cu2Oを主体とした酸化銅の皮膜を、厚さ50~300Åの範囲で形成させることにより、緻密な酸化銅の皮膜となり、疑似的な防食層として機能し、酸やアルカリ等の腐食媒に暴露された直後に発生する酸化銅の皮膜の急激な成長に伴う皮膜の亀裂発生が抑制される。なお、乾燥空気とは、ドライヤーを通過させることで25℃における相対湿度が10%未満に除湿された空気を指す。
【0043】
本発明の銅管の製造方法において、ショットブラスト処理が施される銅管、すなわち、ショットブラスト処理がなされる前の銅管の0.2%耐力(σ0.2)は、好ましくは90MPa以上、特に好ましくは95~110MPaである。ショットブラスト処理が施される銅管の0.2%耐力(σ0.2)が上記範囲にあることにより、被加工物である銅管の弾性限度が高くなり、ショットブラスト処理時の微粒子衝撃が外表面に作用した際に、反りや変形が抑制され、管外面の表層の圧縮残留応力が適正に付与されるので、SCCに対する耐食性に優れた銅管が得られる。
【0044】
本発明の銅管の製造方法において、ショットブラスト処理が施される銅管、すなわち、ショットブラスト処理がなされる前の銅管の引張強さ(σB)は、好ましくは270MPa以上、特に好ましくは275~290MPaである。また、本発明の銅管の製造方法において、ショットブラスト処理が施される銅管、すなわち、ショットブラスト処理がなされる前の銅管の伸び(δ)は、好ましくは40%以上、特に好ましくは45~55%である。
【0045】
本発明の銅管の製造方法では、直管矯正加工後、又はそれ以降のヘアピン曲げ加工等の二次加工を行った銅管に対してショットブラスト処理を施すことにより、銅管の表層に一定値以上の圧縮残留応力を付与することができる。加えて、本発明の銅管の製造方法では、銅管に対して圧縮空気として酸化性ガスを用いてショットブラスト処理を施して、表層に極めて薄く緻密な酸化銅の皮膜を形成させることにより、酸やアルカリ等の腐食媒に暴露された直後に発生する酸化銅の皮膜の急激な成長が抑制される。より詳細に説明すると、銅管の表面に緻密な酸化銅の皮膜を形成しておくことで、再結晶粒界における局所的な酸化銅の皮膜の厚さの急増に伴う皮膜の割れと露出した素地である銅の酸化による皮膜再生の連鎖反応を抑制することにより、酸化皮膜破壊型で進展する応力腐食割れの感受性を低くすることが可能となる。
【0046】
本発明の銅管は、最終熱処理後に長尺コイルより繰出され、直管に矯正された後に、ショットブラスト処理がなされ、又は直管に矯正された後、更にヘアピン曲げ加工された後にショットブラスト処理がなされて、曲げ等の加工が行われ、空調機器又は冷凍機器の熱交換器等に組み込まれる。
【0047】
本発明の銅管及び本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管は、湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされる銅管として、好適に用いられる。そして、本発明の銅管及び本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管は、湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされても、蟻の巣状腐食に対する耐食性に優れており、且つ、SCCに対する耐食性に優れるので、銅管及び該銅管が用いられている熱交換器の寿命を長くすることができる。
【0048】
本発明の伝熱管は、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の伝熱管用の銅管である。つまり、本発明の伝熱管は、空調機器又は冷凍機器に用いられる伝熱管であり、空調機器又は冷凍機器の熱交換器を構成する伝熱管として用いられる。
【0049】
本発明の冷媒配管は、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなり、空調機器又は冷凍機器の冷媒配管用の銅管である。つまり、本発明の冷媒配管は、空調機器又は冷凍機器において、冷媒が流通する冷媒配管として用いられる。
【0050】
本発明の空調機器は、本発明の伝熱管、すなわち、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなる伝熱管を有する。
【0051】
本発明の冷凍機器は、本発明の伝熱管、すなわち、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなる伝熱管を有する。
【0052】
本発明の空調機器は、本発明の冷媒配管、すなわち、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなる冷媒配管を有する。
【0053】
本発明の冷凍機器は、本発明の冷媒配管、すなわち、本発明の銅管又は本発明の銅管の製造方法を行い得られる銅管からなる冷媒配管を有する。
【0054】
以下に、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0055】
(実施例及び比較例)
<銅管の組成>
化学成分:表1に記載のPを含有し、残部がCu及び不可避的不純物
<製造工程>
(1)鋳造工程
表1に記載の化学組成のビレットを作製した。
(2)熱間加工
上記で得たビレットを850℃に加熱後、熱間押出をし、急冷して、押出素管を得た。
(3)冷間加工
上記で得た押出素管を冷間圧延し、1回目の冷間抽伸加工によりコイルアップした。次いで、冷間抽伸加工を複数回繰返し行い、φ7mm、肉厚0.40mmまで引き抜いた。引抜後にドラム巻取り機を使用して外径900mm、内径560mm、コイル幅230mmの長尺コイルに巻取りを行った。
(4)最終熱処理
得られた長尺コイルの最終熱処理を行い、 外径7mm、肉厚0.40mmの軟質銅管を得た。得られた銅管の機械的性質を表1に示す。
【0056】
【0057】
(5)直管矯正加工
上記で得た最終熱処理を行った長尺銅管コイルを回転式台座に載せて、銅管を繰出し、後方に千鳥配置した水平及び垂直方向の駆動ロールのオフセットにより真直に矯正を行い、曲がりが1mm/1000mm以下の直材の銅管を得た。
【0058】
(6)ショットブラスト処理
直径が40μmの非金属粒子であるガラスビーズを、圧縮ガス式の投射方式で、高速度で被加工材である上記で得た直材の銅管の表面に投射した。ショットブラスト処理では、投射ノズルを、同管の円周方向に120°間隔で3箇所配置し、噴射圧力0.4MPaの乾燥空気(酸素濃度約21%、25℃における相対湿度が10%未満)又は100%窒素ガスを使用し、表2に示すショットブラスト条件で、ショットブラスト処理を行った。
【0059】
【0060】
<蟻の巣状腐食試験及び評価方法>
準備された各種の銅管について、
図1に示す試験装置を用いて、蟻の巣状腐食試験を実施した。なお、
図1において、2は、キャップ4にて密閉することの出来る2Lのポリ容器であり、そのキャップ4を貫通して取り付けられたシリコン栓6を貫通するように、供試銅管10が、ポリ容器2内に差し込まれている。一方、供試銅管10の下端開口部は、シリコン栓8にて閉塞せしめられている。ここで、供試銅管10は、18cmの長さを有し、ポリ容器2内に暴露されている部分の長さは15cmとされている。また、ポリ容器2内には、所定濃度の蟻酸水溶液の100mlが、供試銅管10に接触しない形態において収容されている。
また、蟻の巣状腐食試験においては、蟻酸水溶液12の濃度を、0.1%とし、その蟻酸水溶液12が収容されたポリ容器2に、所定の供試銅管10をセットした状態において、40℃の恒温槽内に放置すると共に、2時間/日だけ槽外に取り出して、室温(15℃)下において保持することにより、その温度差によって供試銅管10の表面への結露を促した。そして、そのような条件下での腐食試験を、80日間実施した。
かかる試験の実施された各供試銅管について、
図1に示されるポリ容器2内に暴露されていた部位のうちで、管軸方向に垂直な断面を、任意の位置において、5断面調べ、管外表面からの最大腐食深さを測定した。
得られた最大腐食深さについて、最大腐食深さが0.20mm以下の場合は、蟻の巣状腐食が浅く、耐食性に優れる:「○」とし、最大腐食深さが0.20mmを超える場合、蟻の巣腐食が深く、耐食性が劣る:「×」とした。
【0061】
<蟻の巣状腐食試験結果>
P含有量が0.27質量%である銅管1を使った実施例1、比較例1及び比較例2について、蟻の巣状腐食試験を行った結果、いずれも蟻の巣状最大浸食深さの評価は○であった。
また、P含有量が0.024質量%である銅管2を用いて、蟻の巣状腐食試験を行った結果、蟻の巣状最大浸食深さの評価は×であった。
【0062】
<酸化銅の皮膜厚さの評価方法>
長さ100mm、外表面溶解面積S(cm2)の試験片を5%チオ硫酸ナトリウム水溶液200ml中に15分間浸漬して酸化銅の皮膜を溶解させ、抽出液よりICPE発光分析装置で銅イオン質量w(mg)を計測した。酸化銅の化学式はCu2Oと見做し、格子定数4.27×10-8cmの単位格子セルにCu2Oが2式量含まれる条件下で計算されるCu原子2個分相当の密度ρ=5.4g/cm3より、酸化銅の皮膜の膜厚Δ(Å)=105w/(ρS)を計算して求めた。得られた酸化銅の皮膜の膜厚の値について、0~50Å未満の場合は、酸化銅の皮膜の膜厚が薄く、不合格:「×(下限外れ)」とし、50Å以上~300Åの場合は、酸化銅の皮膜の膜厚が適正範囲で、合格:「〇」とした。酸化銅の皮膜の厚さの判定を表2に示す。
【0063】
<応力腐食割れ(SCC)試験及び評価方法>
準備された各種の銅管について、
図2に示す試験装置を用いて、アンモニア雰囲気中で暴露試験(SCC評価試験)を実施した。
試験片は、φ7mm×t0.40mm直管の一方に圧力センサーを取付け、他端は継手で封止した。
管内は窒素ガス4.0MPaを負荷した状態でリークチェックを行い、気密性を事前確認した。
試験容器は、ポリエチレン製2Lを準備し、底部に1vol.%アンモニア水溶液200mlを入れて、その気層部分に試験片を暴露して、センサーにより内圧を監視した。内圧が3.8MPa以下となる時間を貫通時間として計測した。
貫通時間が100時間以上の場合は、耐食性に優れる:「○」とし、100時間未満の場合は、耐食性に劣る:「×」とした。
【0064】
<酸化銅の皮膜厚さの評価及び応力腐食割れ(SCC)試験結果>
実施例1は、乾燥空気(酸素濃度約21%)を使用して銅管1をショットブラストしたので、銅管の外表面の表層に、適切な膜厚の酸化銅の皮膜を得ることができ、SCC貫通時間の評価は○であった。
一方、比較例1は、100%窒素ガスを使用して銅管1をショットブラストしたために、銅管の外表面の表層に、適切な膜厚の酸化銅の皮膜を得ることができず、SCC貫通時間の評価は×であった。。
また、比較例2は、ショットブラスト処理を行わなかったため、銅管の外表面の表層に、酸化銅の皮膜が形成されず、SCC貫通時間の評価は×であった。