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特開2023-64856非加熱食肉製品の製造方法および塩漬推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064856
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】非加熱食肉製品の製造方法および塩漬推定装置
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/00 20160101AFI20230502BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20230502BHJP
   G01R 33/50 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
A23L13/00 Z
A23L13/00 A
G01N24/08 510Y
G01R33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175263
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】503005917
【氏名又は名称】エア・ウォーターアグリ&フーズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503096591
【氏名又は名称】学校法人酪農学園
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】操上 誠
(72)【発明者】
【氏名】三好 健二郎
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC03
4B042AC10
4B042AD01
4B042AD39
4B042AG03
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK04
4B042AK08
4B042AK09
4B042AP07
4B042AP16
4B042AP17
4B042AP18
4B042AP21
4B042AP30
4B042AT10
(57)【要約】
【課題】塩漬食肉の塩漬進行度を非破壊的に評価することにより、測定後の検体廃棄により製品の歩留りを低下させることがなく、塩漬の進行に伴う畜肉の状態変化を適切に評価できる、非加熱食肉製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】食肉の塩漬を行う塩漬工程S1と、前記塩漬中の塩漬食肉のMRI測定を行うMRI測定工程S2と、MRI測定結果に基づいて前記塩漬食肉の塩漬進行度を評価する進行度評価工程S3と、前記塩漬進行度が所定の条件を満たすか否かを判断する判断工程S4と、を備えている非加熱食肉製品の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉の塩漬を行う塩漬工程と、前記塩漬中の塩漬食肉のMRI測定を行うMRI測定工程と、MRI測定結果に基づいて前記塩漬食肉の塩漬進行度を評価する進行度評価工程と、前記塩漬進行度が所定の条件を満たすか否かを判断する判断工程と、を備えている非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項2】
前記進行度評価工程において、前記塩漬進行度として前記塩漬食肉の水分活性、塩分濃度、または水分含有量のいずれか一つを評価する、請求項1に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項3】
前記判断工程において、前記MRI測定結果をT2強調画像として表示し、前記塩漬進行度が所定の条件を満たすか否かを判断する、請求項1に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項4】
前記判断工程において、前記MRI測定結果を拡散係数マップとして表示し、前記塩漬進行度が所定の条件を満たすか否かを判断する、請求項1に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項5】
塩分濃度の異なる複数の標準溶液を調製する標準溶液調製工程を備え、
前記MRI測定工程が、複数の前記標準溶液と前記塩漬食肉とのMRI測定を行い、
前記進行度評価工程が、複数の前記標準溶液と前記塩漬食肉との前記MRI測定結果を比較して、前記塩漬食肉の前記塩漬進行度を評価する、請求項1に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項6】
前記標準溶液調製工程における前記標準溶液は、ゲル化剤を含む水溶液である、請求項5に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項7】
前記進行度評価工程において、前記MRI測定結果を拡散係数マップとして表示して、前記塩漬食肉の前記塩漬進行度を評価する、請求項6に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【請求項8】
塩漬食肉のMRI画像と、前記塩漬食肉の塩漬進行度と、を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記塩漬食肉のMRI画像と前記塩漬食肉の前記塩漬進行度とを教師データとして用い、入力を塩漬食肉のMRI画像とし、出力をその塩漬食肉の塩漬進行度とする判定モデルを機械学習により生成するモデル生成部と、
塩漬中の塩漬食肉のMRI測定を行うMRI測定部と、
前記MRI測定部の前記MRI測定に基づいてMRI画像を生成する画像生成部と、
前記モデル生成部により生成された前記判定モデルを用いて、前記画像生成部により作成された前記MRI画像から推定される塩漬食肉の塩漬進行度を出力する処理部と、を備えている、非加熱食肉製品の塩漬推定装置。
【請求項9】
前記MRI画像がT2強調画像または拡散係数マップである、請求項8に記載の塩漬推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生ハム、生ベーコンなどの非加熱食肉製品の製造方法および塩漬推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、優れた食味を有する生ハム、生ベーコン等の非加熱食肉製品が嗜好されるようになってきている。非加熱食肉製品の製法における肉塊の塩漬方法としては、乾塩漬法と湿塩漬法とがある。乾塩漬法は手間がかかることから、工業的に塩漬する場合、塩漬液に肉塊を浸漬して所定の水分活性になるまで保存した後、乾燥、燻煙処理などを行う湿塩漬法が用いられることが多い。たとえば、特許文献1には、やわらかで、肉色鮮明な、生ハム、生ベーコンなどの非加熱食肉製品を短期間の塩漬工程で製造することを目的として、畜肉塊に、食塩、必要な発色剤、発色助剤、調味料、安定剤と糖類とを同時に、または前者の浸透を待って後者を加えて、塩漬食肉として要求される水分活性、堅さ、熟成風味、光沢になるまで低温で塩漬し、常法により充填、乾燥、燻煙する非加熱食肉製品の製造方法が記載されている。当該製造方法における塩漬工程では、肉の水分活性が所定の値となったことを確認するため、中間製品検査として水分活性の測定が行われる。中間製品検査では、塩漬終了予定の塩漬食肉の中から一定の割合で検体が抽出される。例えば、72本の豚肉の中から一本が抽出され、そこから約0.5kgが切除されて検体として用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-284877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、水分活性の測定は破壊検査により行われるため、検体として用いられた塩漬食肉が測定後に廃棄される。上記の中間製品検査の例では、72本(約250kg)のうち約0.5kgの塩漬食肉が廃棄される。破壊検査による水分活性の測定は、製品の歩留まりが低下する原因となるから、検体を廃棄しない非破壊検査により水分活性を測定する方法が望まれている。特に、豚熱(CSF)やアフリカ豚コレラ(ASF、アフリカ豚熱)等の家畜伝染病が発生した場合、原料肉が品薄によって高騰するため、歩留り低下を招かない非破壊検査の重要性が高くなる。
【0005】
また、非破壊検査により水分活性を測定できれば、塩漬の追加が必要となったとき、追加の塩漬の後に同じ部分を評価できる。このため、測定する部位の違いによる影響を受けることなく、追加塩漬の効果をより適切に評価することができる。この点でも破壊検査よりも優れている、非破壊検査により水分活性を測定する方法が望まれている。
本発明の課題は、塩漬食肉の塩漬進行度を非破壊検査により評価し、測定後の検体廃棄により製品の歩留りを低下させることがなく、塩漬の進行に伴う畜肉の状態変化を適切に評価できる、非加熱食肉製品の製造方法および塩漬推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
[1]食肉の塩漬を行う塩漬工程と、前記塩漬中の塩漬食肉のMRI測定を行うMRI測定工程と、MRI測定結果に基づいて前記塩漬食肉の塩漬進行度を評価する進行度評価工程と、前記塩漬進行度が所定の条件を満たすか否かを判断する判断工程と、を備えている非加熱食肉製品の製造方法。
【0007】
[2]前記進行度評価工程において、前記塩漬進行度として前記塩漬食肉の水分活性、塩分濃度、または水分含有量のいずれか一つを評価する、[1]に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【0008】
[3]前記判断工程において、前記MRI測定結果をT2強調画像として表示し、前記塩漬進行度が所定の条件を満たすか否かを判断する、[1]に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
[4]前記判断工程において、前記MRI測定結果を拡散係数マップとして表示し、前記塩漬進行度が所定の条件を満たすか否かを判断する、[1]に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【0009】
[5]塩分濃度の異なる複数の標準溶液を調製する標準溶液調製工程を備え、前記MRI測定工程が、複数の前記標準溶液と前記塩漬食肉とのMRI測定を行い、前記進行度評価工程が、複数の前記標準溶液と前記塩漬食肉との前記MRI測定結果を比較して、前記塩漬食肉の前記塩漬進行度を評価する、[1]に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
[6]前記標準溶液調製工程における前記標準溶液は、ゲル化剤を含む水溶液である、[5]に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
[7]前記進行度評価工程において、前記MRI測定結果を拡散係数マップとして表示して、前記塩漬食肉の前記塩漬進行度を評価する、[6]に記載の非加熱食肉製品の製造方法。
【0010】
[8]塩漬食肉のMRI画像と、前記塩漬食肉の塩漬進行度と、を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された前記塩漬食肉のMRI画像と前記塩漬食肉の前記塩漬進行度とを教師データとして用い、入力を塩漬食肉のMRI画像とし、出力をその塩漬食肉の塩漬進行度とする判定モデルを機械学習により生成するモデル生成部と、塩漬中の塩漬食肉のMRI測定を行うMRI測定部と、前記MRI測定部の前記MRI測定に基づいてMRI画像を生成する画像生成部と、前記モデル生成部により生成された前記判定モデルを用いて、前記画像生成部により作成された前記MRI画像から推定される塩漬食肉の塩漬進行度を出力する処理部と、を備えている、非加熱食肉製品の塩漬推定装置。
[9]MRI画像がT2強調画像または拡散係数マップである、[8]に記載の塩漬推定装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、MRI測定結果に基づいて塩漬食肉の状態を評価することで、塩漬進行度を非破壊検査により評価できる。このため、測定後の検体の廃棄による製品の歩留り低下が生じない。また、追加の塩漬が必要になった場合、塩漬食肉の同じ部位を測定できるため、塩漬の進行に伴う塩漬食肉の変化を適切に評価できる。したがって、本発明によれば、非加熱食肉製品を歩留まりよく、かつ効率的に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る製造方法を示すフローチャート
図2】本発明の実施形態の変形例に係る製造方法を示すフローチャート
図3】本発明の実施形態に係る製造装置を機能的に示すブロック図
図4】生ハムと生肉のMRI画像
図5】食塩濃度が異なるミンチ肉のMRI画像
図6】塩漬食肉のMRI画像(a)T1強調画像、(b)T2強調画像、(c)拡散係数マップ
図7】MRI画像(T2強調画像)(a)塩漬前の生肉、(b)塩漬5日目の塩漬食肉、(c)塩漬10日目の塩漬食肉、(d)塩漬14日目の塩漬食肉
図8】(a)MRI測定を模式的に説明する説明図、(b)MRI測定によりシグナルが得られる部位を説明する断面図
図9】塩、糖アルコール濃度の異なる水溶液のMRI画像(T2強調画像)および水溶液の構成
図10】塩、糖アルコール濃度の異なる水溶液のMRI画像(拡散係数マップ)および水溶液の構成
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態:製造方法)
図面を参照して、本発明の実施形態について、以下に説明する。
図1は、本実施形態に係る製造方法を示すフローチャートである。同図に示すように、本実施形態の非加熱食肉製品の製造方法は、塩漬工程(S1)と、MRI測定工程(S2)と、進行度評価工程(S3)と、判断工程(S4)とを備えている。
【0014】
塩漬工程(S1)では、豚肉、牛肉、鶏肉等の畜肉塊を加熱せずに塩漬けする。塩漬工程は、塩漬中の畜肉塊(適宜、塩漬食肉ともいう)の水分活性が所定の値に到達するまで行われる。塩漬工程(S1)は、塩および他の成分を直接食肉に擦り込んで塩漬けにする乾塩漬法、塩および他の成分を水に溶かした外液(ピックル液)に食肉を漬け込む湿塩漬法のいずれでもよい。湿塩漬法の場合、畜肉塊を一種の外液のみに浸漬しても、二種以上の外液に連続して浸漬してもよい。
【0015】
MRI測定工程(S2)では、塩漬進行度を評価するために塩漬食肉をMRIにより測定(撮影)する。MRI測定により、塩漬食肉の塩漬進行度を非破壊的に評価できるため、検体として用いた塩漬食肉を測定後に廃棄する必要がなく、製品の歩留まりが向上する。MRI測定を行う部位は、塩漬食肉における平均的な部位とし、筋肉外マトリクスを避けて測定する。筋肉外マトリクスは、脂肪層、筋(スジ)のような筋肉以外の構成要素であり、食塩等の物質移動を阻害する可能性がある。MRI測定の際、測定者は目視により筋肉外マトリクスを識別できるため、その部分を避けることができる。
【0016】
MRI測定工程(S2)により得られるシグナルは、水素のプロトンの密度を示しており、絶対値ではなく相対的な信号として得られるため、測定の都度、シグナルの値が変化する。これを補正するため、コントロールを定めて塩漬食肉と一緒に撮影する。一緒に撮影するコントロールとしては、例えば、水分活性が所定の値に到達している塩漬食肉や、非加熱食品製品が挙げられる。
【0017】
進行度評価工程(S3)では、MRI測定工程(S2)で得られたMRI測定結果に基づいて塩漬食肉の塩漬進行度を評価する。MRI測定結果は、塩漬食肉の状態を示す画像として表示することが好ましい。MRI測定により得られたシグナルを画像として表示することにより、塩漬進行度を評価することが容易になる。また、塩漬進行度の評価に、種々の画像解析の手法を用いることが可能になる。当該画像としては、T1強調画像、T2強調画像、拡散係数マップ等が挙げられる。塩漬進行度がより明確に反映されるため、T2強調画像、拡散係数マップが好ましい。塩漬進行度としては、水分活性、塩分濃度、水分含有量が挙げられる。
【0018】
MRI測定は、水素のプロトンをイメージングするものであり、T1強調画像とT2強調画像とは、強磁石によって一定の向きに固定されたプロトンが磁力の緩和によって歳差運動し元に戻ろうとする過程で伸びる方向が相違する。T1強調画像は縦、T2強調画像は横であり、画像上の見え方が異なる。T2強調画像は緩和時間が長いほど白く見え、T1強調画像は緩和時間が短いほど白く見える。
【0019】
判断工程(S4)では、進行度評価工程(S3)により得られた塩漬進行度が所定の条件を満たすか否を判断する。塩漬進行度が所定の条件を満たす場合(S4のYes)食肉の塩漬が完了したとし(S5)、塩漬進行度が所定の条件を満たさない場合(S4のNo)、再度、塩漬工程(S1)を行う。
【0020】
所定の条件としては、例えば、塩漬進行度として、水分活性、塩分濃度、水分含有量を用いる場合、これらの値が、塩漬の進行に伴って到達する所定の閾値に到達したことが挙げられる。塩漬進行度が所定の条件を満たすか否の判断は、人またはコンピュータにより行われる。
【0021】
判断工程(S4)の結果、塩漬工程を追加して実施した後、再度、同じ部位を用いて塩漬進行度を評価することができる。このため、追加した塩漬工程の塩漬食肉に対する効果を精度よく評価できる。
【0022】
(変形例)
図2は本実施形態の変形例に係る製造方法を示すフローチャートである。
同図の製造方法は、塩分濃度の異なる複数の標準溶液を調製する標準溶液調製工程(S21)を備えており、MRI測定工程(S2)に代えて、複数の標準溶液と塩漬食肉とのMRI測定を行う(S22)点において図1の製造方法とは異なっている。進行度評価工程(S3)では、S22のMRI測定により得られた複数の標準溶液と塩漬食肉とのMRI測定結果を比較して、塩漬食肉の塩漬進行度を評価する。
【0023】
MRI測定工程(S2)では、測定により得られるシグナルの値の変化を補正するため、コントロールを定めて塩漬食肉と一緒に撮影する。対して、S22のMRI測定では、コントロールとして、標準溶液調製工程(S21)で調製した塩分濃度の異なる複数の標準溶液を塩漬食肉と一緒に測定する。これにより、標準溶液の測定結果に照らして、塩漬食肉の状態を評価できる。例えば、塩漬食肉のMRI測定結果、標準溶液のMRI測定結果および、標準溶液のMRI測定結果と塩漬食肉の破壊検査の計測値との相関性に基づいて、塩漬食肉の塩漬進行度を評価することができる。
【0024】
水の動きを鈍くする観点から、標準溶液調製工程(S21)において調製する複数の標準溶液として、ゲル化剤を含む水溶液を用いることが好ましい。また、MRI測定の結果が標準溶液の相違を反映し易くする観点から、進行度評価工程(S3)は、S22のMRI測定により得られたMRI測定結果を拡散係数マップとして表示して、塩漬食肉の塩漬進行度を評価することが好ましい。
【0025】
(第2の実施形態:塩漬進行度の推定装置)
図3は、本実施形態に係る非加熱食肉製品の塩漬推定装置を機能的に示すブロック図である。同図に示すように、本実施形態の推定装置1は、記憶部11、モデル生成部12、MRI測定部13、画像生成部14および処理部15を備えている。
【0026】
記憶部11は、塩漬食肉のMRI画像と、塩漬食肉の塩漬進行度と、を関連付けて記憶する手段であり、一般的なメモリを用いることができる。
【0027】
モデル生成部12は、記憶部11に記憶された塩漬食肉のMRI画像と塩漬食肉の塩漬進行度とを教師データとして用い、入力を塩漬食肉のMRI画像とし、出力をその塩漬食肉の塩漬進行度とする判定モデルを機械学習により生成する。MRI画像と塩漬食肉の塩漬進行度との教師データは、推定装置1が取得したものでも、他の装置が取得したものでもよい。
【0028】
MRI測定部13は、塩漬食肉のMRI測定を行うものであり、MRI測定によって塩漬食肉の状態に関する情報を取得する。
【0029】
画像生成部14は、MRI測定部13により測定されたMRI測定の結果に基づいてMRI画像を生成する。MRI測定の結果として得られるシグナルに基づいてシグナルMRI画像を生成することで、様々な画像解析の手法を用いて塩漬進行度を推定することができる。MRI画像としては、例えば、T1強調画像、T2強調画像、拡散係数マップなどが挙げられる。食肉の塩漬けの塩漬進行度の違いが反映されやすいことから、T2強調画像および拡散係数マップが好ましい。
【0030】
処理部15は、モデル生成部12により生成された判定モデルを用いて、画像生成部14により生成されたMRI画像から推定される塩漬食肉の塩漬進行度を出力する。モデル生成部12、画像生成部14および処理部15には、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置)などが用いられる。また、各部の機能は、コンピュータにより実現されるプログラムの機能として実現してもよい。
【実施例0031】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(生ハムの製法)
凍結した原料肉塊(豚ロース肉)を水に食塩20%を溶解した第1外液に浸漬して0~5℃の冷蔵庫内で8日間保存し、原料肉塊の水分活性を低下させて塩漬食肉とした(第1の塩漬工程)。その後、第1外液から塩漬食肉を取り出し、水に食塩6重量%および糖アルコール(ソルビトールとマルチトールとの混合液)30重量%を溶解させた第2外液に浸漬して0~5℃の冷蔵庫内で8日間保存し、塩漬食肉中の成分を均一化した(第2の塩漬工程)。第1の塩漬工程および第2の塩漬工程が終了した塩漬食肉をファイブラスケーシングに充填し、アルミ線で縛って固定し、吊りひもを付け架台に懸架した。これを温度18℃、湿度70%で約64時間乾燥してから温度18℃、湿度65%で2時間燻煙して生ハムを製造した。上述した第1外液および第2外液は、表1に示すコントロール(生ハム)と同じものを用いた。
【0032】
(生ハムと生肉のMRI測定)
MRI測定は、0.3TコンパクトMRIを用い、T2強調、TE(エコータイム)40から320ミリ秒間/mの条件で行った。
上記のようにして製造した生ハムと、原料肉塊を解凍した生肉とを、それぞれ、磁気共鳴画像法(MRI)を用いてMRI画像を測定した。
図4は、原料肉塊を解凍した生肉をO型に加工し(上段)、生ハムを□型に加工し(下段)、MRI画像を撮影した結果を示している。同図の横方向にエコータイムの異なるMRI画像を並べており、各MRI画像のエコータイムは、左から順に40、80、120、160、200、240、280および320(ミリ秒間/m)である。同図に示すように、O型の生肉(上段)と、□型の生ハム(下段)とでは、異なるMRI画像が得られた。すなわち、この結果から、MRI測定(画像)を用いて非破壊的に、生ハムと生肉(解凍肉)とを判別できることが分かった。
【0033】
(ミンチ肉(練肉)のMRI測定)
原料肉塊を解凍した生肉をミンチした豚ロース肉(赤身)に所定濃度の食塩を添加し、塩分濃度の異なるミンチ肉を真空包装した試料を製造し、MRI測定を行った。
図5は、上から一段目:左から食塩濃度が2重量%、1重量%および0重量%の3つの試料、二段目:左から食塩濃度が10重量%、7重量%、4重量%および1重量%の4つの試料を並べて、MRI測定を行った結果である。各段に示すエコータイムの異なる8つのMRI画像は、左側から右側に行くにしたがいエコータイムが長くなっている。
【0034】
図6a~図6cは、第2の塩漬工程後の段階における塩漬食肉のMRI画像であり、図6aがT1強調画像、図6bがT2強調画像、図6cが拡散係数マップである。
【0035】
図6aおよび図6bのMRI画像により、塩漬食肉の表層から約10mm程度までの部分と、約10mm程度から中心部にかけての部分とで、明らかに状態が異なることが確認できた。図6aと図6bとの比較により、T1強調画像よりもT2強調画像のほうが、塩漬食肉の部位による状態の相違を明確に反映することが分かった。また、図6cの拡散係数マップの画像から、塩漬食肉における筋束が、第1および第2の塩漬工程で浸漬させた成分の浸潤に大きく影響することが示されている。
【0036】
(塩漬経過とMRI測定)
第1の塩漬工程の進行に伴う塩漬食肉の状態の変化をMRI画像により確認した。
図7a~図7dは、第1の塩漬工程の経過日数に伴うMRI画像(T2強調画像)の変化を示しており、図7aが塩漬前の生肉、図7bが塩漬5日目の塩漬食肉、図7cが塩漬10日目の塩漬食肉、図7dが塩漬14日目の塩漬食肉の状態を示している。
【0037】
図7aと図7b~図7dとでは、MRI画像(T2強調画像)に明らかな違いがあり、MRI画像を用いて生肉と塩漬食肉とを区別できることが分かった。図7dの塩漬14日目の塩漬食肉のMRI画像が、図7bの塩漬食肉のMRI画像に最も近い状態であった。
【0038】
(種々の塩漬条件で製造した塩漬食肉のMRI測定と破壊検査)
上述した第1の塩漬工程、第2の塩漬工程で浸漬に用いる塩漬液(第1外液、第2外液)の成分を変化させて、異なる条件により塩漬食肉を製造し、MRI測定と破壊検査による塩分濃度、水分、水分活性の測定を行った。測定には、筋肉繊維がほぼ均一な典型的な部分を用いた。
図8aはMRI測定を模式的に説明する説明図であり、図8bはMRI測定によりシグナルを得ると共に、破壊検査による塩分濃度、水分、水分活性の測定を行った部位を説明する、塩漬食肉20の断面図である。同図は、長手方向に対して直交する方向に切断した塩漬食肉20の断面を示している。
【0039】
図8aに示す塩漬食肉20は、手前側から奥側に向かって、豚の肩からお尻に向かう部分である。同図に示す例では、尻側端近傍Rに濃色の部分が存在するから、肩側端近傍Pおよび、中心部近傍Qを測定に用いる。破壊測定は、実際にMRI測定を行った場所の肉を用いて、中心、内側、外側を各均質になるようにして測定した。
【0040】
図8bに示すように、MRI測定および塩分濃度、水分、水分活性の測定は、表面Sからの距離に応じて分けた3つの部位について行った。すなわち、表面Sからの距離が0mm以上10mm未満の外側O、表面Sからの距離が10mm以上30mm未満の内側I、および、表面Sからの距離が30mm以上の中心C、についてそれぞれ測定した。
【0041】
表1に塩漬条件を示し、表2に測定結果を示す。現行生ハム、食塩濃度調整区1および2、重曹濃度調整区、糖アルコール濃度調整区、ならびにエリスリトール濃度調整区のいずれも、第2の塩漬工程の後の塩漬食肉を測定対象とした。
【0042】
表1に示す各試験区では、以下の成分からなる第1外液および第2外液を用いた。
(コントロール(生ハム))
(第1外液)食塩:20重量%、亜硝酸Na:0.7重量%、アスコルビン酸:0.1重量%、グルタミン酸ナトリウム:6.0重量%、ぶどう糖:6.0%、乳酸:1.0重量%、水:残
(第2外液)食塩:6重量%、亜硝酸Na:0.2重量%、アスコルビン酸:0.1重量%、グルタミン酸ナトリウム:0.7重量%、糖アルコール(ソルビトールとマルチトールとの混合液):30重量%、乳酸:0.3重量%、水:残
【0043】
(食塩濃度調整区1)
(第1外液)食塩:0~20重量%、食塩以外の成分・濃度はコントロールと同じであり、食塩の濃度に応じて水の量を調整した。
(第2外液)食塩:0~20重量%、食塩以外の成分・濃度はコントロールと同じであり、食塩の濃度に応じて水の量を調整した。
(食塩濃度調整区2)
(第1外液)食塩:0~20重量%、食塩以外の成分・濃度はコントロールと同じであり、食塩の濃度に応じて水の量を調整した。
(第2外液)食塩:0~20重量%、食塩以外の成分・濃度はコントロールと同じであり、食塩の濃度に応じて水の量を調整した。
【0044】
(pH調整区)
(第1外液)炭酸水素Na:1~8重量%、炭酸水素Na(重曹)以外の成分・濃度はコントロールと同じであり、重曹の濃度に応じて水の量を調整した。
(第2外液)炭酸水素Na:1~8重量%、炭酸水素Na(重曹)以外の成分・濃度はコントロールと同じであり、重曹の濃度に応じて水の量を調整した。
【0045】
(糖アルコール区)
(第1外液)糖アルコール(ソルビトールとマルチトールとの混合液):0~50重量%、糖アルコール以外の成分および濃度はコントロールと同じであり、糖アルコールの濃度に応じて水の量を調整した。
(第2外液)糖アルコール(ソルビトールとマルチトールとの混合液):0~50重量%、糖アルコール以外の成分および濃度はコントロールと同じであり、糖アルコールの濃度に応じて水の量を調整した。
(エリスリトール区)
(第1外液)エリスリトール:0~30重量%、エリスリトール以外の成分・濃度はコントロールと同じであり、エリスリトールの濃度に応じて水の量を調整した。
(第2外液)エリスリトール:0~30重量%、エリスリトール以外の成分・濃度はコントロールと同じであり、エリスリトールの濃度に応じて水の量を調整した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示すMRI測定により得られたシグナルと、破壊検査による塩分濃度(塩分)、水分活性(AW)および水分量(水分)の実測値との間の相関係数を表3に示す。相関係数は、2つの変数の間にある線形な関係の強さを示す指標であり、絶対値が1に近い程、2つの変数の線形な関係が強いといえる。
【表3】
【0049】
MRI測定により得られたシグナルとの相関関係は、塩分濃度区の重曹区とエリスリトール区で相関係数の絶対値が0.7以下の部位があった。これに対して、MRI画像と水分活性(AW)との関係は、すべての塩漬条件区のすべての部位において、相関係数の絶対値が0.7以上となった。この結果から、MRI測定は、塩漬食肉の水分活性(AW)を非破壊的に評価する手段として有用といえる。
【0050】
なお、塩漬液の塩分濃度を0~20%の範囲で変化させたNaCl(1)区、NaCl(2)区の試料では、MRI測定と塩分濃度との相関係数が高かった。このことから、積極的に塩漬食肉の塩分濃度を変化させる工程では、MRI測定に基づいて塩漬食肉の塩分濃度を評価可能であるといえる。
【0051】
対して、塩漬液の塩分濃度を20%に固定した上で重曹の濃度を変化させた重曹区では、いずれの部位もMRI測定と塩分濃度との相関係数が低かった。また、エリスリトール区では、部位によってMRI測定と塩分濃度との相関係数に違いが生じた。これは、脂肪層、筋(スジ)のような筋肉以外の構成要素である、筋肉外マトリクスにより食塩の移動が阻害された影響による可能性がある。本実施例では、筋肉外マトリクスはMRI測定において画像により識別できるから、その部分自体を避けて測定した。しかし、例えば、筋肉外マトリクスの近傍の試料が食塩の拡散の阻害を受けた可能性があり、糖アルコールとエリスリトール区は、糖類の濃度を高くすることで、いわゆる糖絞りと呼ばれる現象が起こった影響を受けた可能性もある。
【0052】
(水溶液のMRI測定)
標準溶液として食塩濃度の異なる水溶液の入った試験管を作製し、その断面をMRI測定した。MRI測定する際、水の動きを鈍くするために水溶液をゲル化した。ゲル化剤としてグアーガムを1重量%で使用した。
図9は、塩や糖アルコール濃度を調整した水溶液をMRI測定して得られたT2強調画像および、ゲル化した水溶液の構成を示す表である。同表では、%は重量%を示している。同図に示すように、ゲル化した水溶液の糖アルコール濃度および食塩濃度の違いはT2強調画像には現れなかった。
【0053】
図10は、塩や糖アルコール濃度を調整した水溶液をMRI測定して得られた拡散強調像をもとに作成した拡散係数マップ(拡散係数map)および、ゲル化した水溶液の構成を示す表である。同表では、%は重量%を示している。同図に示すように、ゲル化した水溶液の糖アルコール濃度および食塩濃度の違いは拡散係数マップに反映され、イメージング(画像化)することができた。拡散係数マップに示された差は、水溶液の塩濃度や糖アルコール濃度、あるいは、水分活性や束縛度合を反映していると考えられる。
【0054】
なお、肉のT2強調画像では現れた糖アルコール濃度および食塩濃度の違いが、水溶液のT2強調画像では現れなかったことは、塩漬食肉とゲル化した標準溶液における水分量の違いによると考えられる。ただし、上述した通り、水溶液のT2強調画像では現れた糖アルコール濃度および食塩濃度の違いが現れたことから、ゲル化剤を含有する水溶液を標準溶液として使用して、塩漬食肉の塩漬進行度を評価することができると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、塩漬中の食肉の塩漬進行度を非破壊的に評価して、塩漬の完了を判断できるから、歩留まりが高く、効率的に非加熱食肉製品の製造する方法として有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 :推定装置
11 :記憶部
12 :モデル生成部
13 :MRI測定部
14 :画像生成部
15 :処理部
20 :塩漬食肉
S :表面
O :外側
I :内側
C :中心
P :肩側端近傍
Q :中心部近傍
R :尻側端近傍
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10