(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064859
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】装飾部材、時計および装飾部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/27 20060101AFI20230502BHJP
G04B 45/00 20060101ALI20230502BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230502BHJP
A44C 25/00 20060101ALI20230502BHJP
A44C 1/00 20060101ALI20230502BHJP
A44C 5/00 20060101ALI20230502BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20230502BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C23C16/27
G04B45/00 Z
C23C26/00 B
C23C26/00 C
A44C25/00 A
A44C1/00
A44C25/00 Z
A44C5/00 C
C23C16/50
C23C14/06 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175276
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陸人
【テーマコード(参考)】
3B114
4K029
4K030
4K044
【Fターム(参考)】
3B114AA01
3B114AA03
3B114AA04
3B114AA06
3B114AA11
3B114AA14
3B114BB08
3B114BB09
3B114BB11
3B114BB12
3B114BF01
3B114CC02
3B114JA01
3B114JA07
3B114JA09
4K029AA02
4K029AA24
4K029BA07
4K029BA17
4K029BA31
4K029BA35
4K029BB02
4K029BC00
4K029BD06
4K029BD07
4K029CA05
4K029DC03
4K029EA01
4K030AA09
4K030AA16
4K030BA28
4K030CA02
4K030CA17
4K030FA01
4K030HA04
4K030JA01
4K030LA24
4K044AA03
4K044AB06
4K044BA01
4K044BA02
4K044BA11
4K044BB04
4K044BB05
4K044BB16
4K044BC01
4K044BC09
4K044CA13
4K044CA14
(57)【要約】
【課題】優れた硬度および摩擦係数を有すると共に、青色の外観色を有する装飾部材を提供すること。
【解決手段】装飾部材は、基材上に、第1密着層、第2密着層、硬質層および最表層が、この順で積層された装飾部材であって、前記硬質層は、ダイヤモンドライクカーボン(以下DLCと記載)を含み、厚さが0.4μm以上1.2μm以下であり、前記最表層は、DLCを含み、前記基材、前記第1密着層および前記第2密着層が、この順で積層された積層体上に形成した前記硬質層について、L
*a
*b
*表色系におけるL
*値が48以上49以下であり、a
*値が0以上0.1以下であり、b
*が1.5以上1.7以下であり、前記装飾部材の最表にある前記最表層について、L
*a
*b
*表色系におけるL
*値が30以上31以下であり、a
*値が1.1以上1.7以下であり、b
*が-11以上-9以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、第1密着層、第2密着層、硬質層および最表層が、この順で積層された装飾部材であって、
前記第1密着層は、TiおよびCrから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、
前記第2密着層は、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、
前記硬質層は、ダイヤモンドライクカーボンを含み、厚さが0.4μm以上1.2μm以下であり、
前記最表層は、ダイヤモンドライクカーボンを含み、
前記基材、前記第1密着層および前記第2密着層が、この順で積層された積層体上に形成した前記硬質層について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が48以上49以下であり、a*値が0以上0.1以下であり、b*値が1.5以上1.7以下であり、
前記装飾部材の最表にある前記最表層について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が30以上31以下であり、a*値が1.1以上1.7以下であり、b*値が-11以上-9以下である
装飾部材。
【請求項2】
前記最表層は、厚さが0.05μm以上0.07μm以下である
請求項1に記載の装飾部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装飾部材を含む
時計。
【請求項4】
基材上に、第1密着層、第2密着層、硬質層および最表層が、この順で積層された装飾部材の製造方法であって、
前記基材上に、TiおよびCrから選ばれる少なくとも1種の元素を含む前記第1密着層を形成する第1密着層形成工程と、
前記第1密着層形成工程で形成された前記第1密着層上に、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1種の元素を含む前記第2密着層を形成する第2密着層形成工程と、
前記第2密着層形成工程で形成された前記第2密着層上に、プラズマCVD法により、前記第1密着層および前記第2密着層が形成された前記基材に、2kV以上5kV以下の負バイアス電圧を印加しながら、ダイヤモンドライクカーボンを含む前記硬質層を形成する硬質層形成工程と、
前記硬質層形成工程で形成された前記硬質層上に、プラズマCVD法により、前記第1密着層、前記第2密着層および前記硬質層が形成された前記基材に、0.05kV以上0.4kV以下の負バイアス電圧を印加しながら、ダイヤモンドライクカーボンを含む前記最表層を形成する最表層形成工程と、を含み、
前記硬質層は、厚さが0.4μm以上1.2μm以下であり、
前記基材、前記第1密着層および前記第2密着層が、この順で積層された積層体上に形成した前記硬質層について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が48以上49以下であり、a*値が0以上0.1以下であり、b*値が1.5以上1.7以下であり、
前記装飾部材の最表にある前記最表層について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が30以上31以下であり、a*値が1.1以上1.7以下であり、b*値が-11以上-9以下である
装飾部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾部材、時計および装飾部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材と、上記基材上に形成されたダイヤモンドライクカーボン(以下DLCと記載)からなる黒色硬質皮膜とを有する装飾品が記載されている。具体的には、上記黒色硬質皮膜は、DLCからなる傾斜層を含み、上記傾斜層中の水素含有量が上記基材から離れるにしたがって増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装飾品は、硬度および摩擦係数といった黒色硬質皮膜の性能に優れているが、黒色以外の外観色を表現できないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、優れた硬度および摩擦係数を有すると共に、青色の外観色を有する装飾部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の装飾部材は、基材上に、第1密着層、第2密着層、硬質層および最表層が、この順で積層された装飾部材であって、前記第1密着層は、TiおよびCrから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、前記第2密着層は、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、前記硬質層は、DLCを含み、厚さが0.4μm以上1.2μm以下であり、前記最表層は、DLCを含み、前記基材、前記第1密着層および前記第2密着層が、この順で積層された積層体上に形成した前記硬質層について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が48以上49以下であり、a*値が0以上0.1以下であり、b*値が1.5以上1.7以下であり、前記装飾部材の最表にある前記最表層について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が30以上31以下であり、a*値が1.1以上1.7以下であり、b*値が-11以上-9以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の装飾部材は、優れた硬度および摩擦係数を有すると共に、青色の外観色を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る装飾部材を説明するための図である。
【
図2】
図2は、参考例の装飾部材を説明するための図である。
【
図3】
図3は、参考例で得られた装飾部材の硬質層14について、SEM観察を行った結果を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例で得られた装飾部材の最表層15について、SEM観察を行った結果を示す図である。
【
図5】
図5は、参考例で得られた装飾部材の硬質層14について測定したXPSスペクトルを示す図である。
【
図6】
図6は、実施例で得られた装飾部材の最表層15について測定したXPSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0010】
<実施形態に係る装飾部材>
図1は、実施形態に係る装飾部材を説明するための図である。
図1は、装飾部材10の断面図を模式的に表している。装飾部材10では、基材11上に、第1密着層12、第2密着層13、硬質層14および最表層15が、この順で積層されている。
【0011】
基材11は、金属、セラミックスまたはプラスチックから形成される基材である。金属(合金を含む)として、具体的には、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、銅、銅合金、タングステン、または硬質化処理したステンレス鋼、チタン、チタン合金などが挙げられる。これらの金属は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。また、上記基材の形状については限定されない。
【0012】
第1密着層12は、TiおよびCrから選ばれる少なくとも1種の元素を含む。第1密着層12が設けられていると、基材11と、第1密着層12の上に積層される層との密着性を高めることができる。第1密着層12は、密着性の観点から、厚さが、好ましくは0.1μm以上0.2μm以下である。
【0013】
第2密着層13は、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1種の元素を含む。第2密着層13が設けられていると、第1密着層12と、第2密着層13の上に積層されるDLCを含む層との密着性を高めることができる。
【0014】
第2密着層13は、具体的には、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1種の元素を含んでいればよい。たとえば、第2密着層13は、SiまたはGeの1種で形成されていてもよく、SiおよびGeで形成されていてもよい。さらに、第2密着層13は、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物または炭窒化物を含んでいてもよい。窒化物、炭化物および炭窒化物としては、たとえば、SiN、SiC、SiCN、GeN、GeC、GeCNが挙げられる。
【0015】
第2密着層13は、密着性の観点から、厚さが、好ましくは0.1μm以上0.2μm以下である。
【0016】
硬質層14は、DLCを含む。DLCは、炭素と水素とを含み、ダイヤモンド構造に対応するsp3結合を有する炭素と、グラファイト構造に対応するsp2結合を有する炭素とが不規則に混在する非晶質の構造を有する。
【0017】
硬質層14は、厚さが0.4μm以上1.2μm以下である。厚さが上記範囲にあると、後述するDLC層としての性能(好適な硬度および摩擦係数など)を発揮でき、また、後述する黒色を示せる点からも好ましい。
【0018】
硬質層14は、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が48以上49以下であり、a*値が0以上0.1以下であり、b*値が1.5以上1.7以下である。ここで、L*値、a*値およびb*値は、基材11、第1密着層12および第2密着層13が、この順で積層された積層体上に形成した硬質層14について求めた値である。L*値、a*値およびb*値が上記範囲にあると、黒色を示す。なお、本明細書において、この「黒色」には、濃いグレー色も含む。
【0019】
硬質層14は、高い硬度を有し、通常、ビッカース硬さHVが1800以上2200以下である。ここで、ビッカース硬さHVは、基材11、第1密着層12および第2密着層13が、この順で積層された積層体上に形成した硬質層14について求めた値である。具体的には、ビッカース硬さは、微小押し込み硬さ試験機(FISCHER製、HM2000XYp)を使用し、試料表面に対してビッカース圧子を5mNで荷重し、10秒間保持した後に除荷を行い、挿入されたビッカース圧子の深さからビッカース硬さを算出することで測定を行う。
【0020】
硬質層14は、低い摩擦係数を有し、通常、摩擦係数(JIS R 1613)が0.12以上0.15以下である。ここで、摩擦係数は、基材11、第1密着層12および第2密着層13が、この順で積層された積層体上に形成した硬質層14について求めた値である。
【0021】
また、硬質層14は、耐摩耗性にも優れる。
【0022】
最表層15は、DLCを含む。
【0023】
最表層15は、厚さが好ましくは0.05μm以上0.07μm以下である。厚さが上記範囲にあると、後述するように、装飾部材10が優れた硬度および摩擦係数を発揮でき、また、装飾部材10が青色を示せる点からも好ましい。
【0024】
最表層15は、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が30以上31以下であり、a*値が1.1以上1.7以下であり、b*が-11以上-9以下である。ここで、L*値、a*値およびb*値は、装飾部材10の最表にある最表層15について求めた値である。いいかえると、基材11、第1密着層12、第2密着層13および硬質層14が、この順で積層された積層体上に形成した最表層15について求めた値である。L*値、a*値およびb*値が上記範囲にあると、青色を示す。なお、本明細書において、この「青色」は、具体的には、黒みがかった青色、濃紺色を意味する。
【0025】
また、最表層15では、硬質層14の優れた硬度および摩擦係数が維持されており、通常、ビッカース硬さHVおよび摩擦係数の数値範囲は、硬質層14と同程度である。ここで、ビッカース硬さHVおよび摩擦係数は、装飾部材10の最表にある最表層15について求めた値である。いいかえると、基材11、第1密着層12、第2密着層13および硬質層14が、この順で積層された積層体上に形成した最表層15について求めた値である。さらに、最表層15は、耐摩耗性にも優れる。
【0026】
このように、装飾部材10では、DLC層として硬質層14および最表層15の2層構造を採用したため、優れた硬度および摩擦係数を有すると共に、青色の外観色を表現できる。いいかえると、装飾部材10では、耐久性および審美性が両立されている。
【0027】
これは、構造変化させた最表層15においても、硬質層14と同様のsp3比率((sp3/(sp3+sp2))を有するため、少なくともHV1400以上の優れた硬さが維持できることによると考えられる。また、最表層15では、硬質層14よりも水素の量が多いため、色が薄くなり(透明に近くなり)薄膜干渉が発生していると考えられる。このため、青色の外観色が表現できると考えられる。
【0028】
また、装飾部材10は、優れた光沢を有する。これは、最表層15に含まれるDLCの粒径が、硬質層14に含まれるDLCの粒径よりも小さいことによると考えられる。さらに、装飾部材10では、硬質層14および最表層15の2層構造により、耐指紋性、耐食性および耐候性も向上されており、2層構造をバリア膜として利用することもできる。
【0029】
<実施形態に係る装飾部材の製造方法>
実施形態に係る装飾部材の製造方法は、上述した装飾部材の製造方法、すなわち、基材11上に、第1密着層12、第2密着層13、硬質層14および最表層15が、この順で積層された装飾部材10の製造方法である。実施形態に係る装飾部材の製造方法は、第1密着層形成工程、第2密着層形成工程、硬質層形成工程および最表層形成工程を含む。
【0030】
第1密着層形成工程は、基材11上に、TiおよびCrから選ばれる少なくとも1種の元素を含む第1密着層12を形成する工程である。第2密着層形成工程は、第1密着層形成工程で形成された第1密着層12上に、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1種の元素を含む第2密着層13を形成する工程である。これらの工程は、具体的には、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法、イオンプレーティング法により行うことができる。
【0031】
硬質層形成工程は、第2密着層形成工程で形成された第2密着層13上に、プラズマCVD法により、第1密着層12および第2密着層13が形成された基材11に、2kV以上5kV以下、より好ましくは3.5kVの負バイアス電圧を印加しながら、DLCを含む硬質層14を形成する工程である。
【0032】
硬質層形成工程では、具体的には、真空装置にセットした、第2密着層13まで形成した基材11に上記範囲の電圧を印加する。これにより、原料物質を含むガスをプラズマ化し、上記基材に原料物質を堆積させて硬質層14を形成する。原料物質を含むガスとしては、メタン、アセチレン、ベンゼンなどの炭化水素ガスが好適に用いられる。これにより、炭素および水素を含むDLCを含む層が形成できる。
【0033】
電圧を印加する時間(成膜時間)を適宜調整することにより、上記特定の範囲の厚さを有する硬質層14が形成できる。成膜時間は、たとえば60分以上120分以下である。また、上記適宜調整した成膜時間の間、上記特定の範囲の電圧を印加することにより、L*値、a*値およびb*値を上記範囲に調整できる。すなわち、黒色を示す硬質層14が形成できる。さらに、上記適宜調整した成膜時間の間、上記特定の範囲の電圧を印加することにより、好適な硬度および摩擦係数を有する硬質層14が形成できる。
【0034】
最表層形成工程は、硬質層形成工程で形成された硬質層14上に、プラズマCVD法により、第1密着層12、第2密着層13および硬質層14が形成された基材11に、0.05kV以上0.4kV以下の負バイアス電圧を印加しながら、DLCを含む最表層15を形成する工程である。
【0035】
最表層形成工程では、具体的には、真空装置にセットされている、硬質層14まで形成した基材11に上記範囲の電圧を印加する。これにより、原料物質を含むガスをプラズマ化し、上記基材に原料物質を堆積させて最表層15を形成する。原料物質を含むガスとしては、硬質層形成工程の場合と同様のガスが好適に用いられる。これにより、炭素および水素を含むDLCを含む層が形成できる。
【0036】
電圧を印加する時間(成膜時間)を適宜調整することにより、上記特定の範囲の厚さを有する最表層15が形成できる。成膜時間は、たとえば7分以上11分以下である。また、上記適宜調整した成膜時間の間、上記特定の範囲の電圧を印加することにより、L*値、a*値およびb*値を上記範囲に調整できる。すなわち、青色を示す最表層15が形成できる。さらに、上記適宜調整した成膜時間の間、上記特定の範囲の電圧を印加することにより、好適な硬度および摩擦係数が維持された最表層15が形成できる。
【0037】
<変形例>
実施形態に係る装飾部材において、硬質層14と最表層15との間に、DLCを含む傾斜層が設けられていてもよい。傾斜層では、たとえば、水素含有量またはsp3比率が、厚さ方向で変化している。傾斜層が設けられていると、色の再現性などを向上できる。この変形例は、硬質層形成工程と最表層形成工程との間に傾斜層形成工程を設けて、作製できる。傾斜層は、その形成開始時から終了時までに負バイアス電圧を徐々に変えて形成することができる。
【0038】
<実施形態に係る時計>
実施形態に係る時計は、上述した装飾部材を含む。実施形態に係る時計は、少なくとも一部が上記装飾部材で構成されている。上記時計は、腕時計、置時計、掛け時計のいずれであってもよい。また、上記時計は、光発電時計、熱発電時計、電波受信型自己修正時計、機械式時計、一般の電子式時計のいずれであってもよい。このような時計は、上記装飾部材を用いて公知の方法により製造される。特に腕時計はシャツとの擦れや、机、壁などに衝突することにより傷が入りやすい傾向にある。実施形態に係る時計は、上記装飾部材を含むため、耐久性に優れ、青色色調や外観が非常にきれいな状態で維持できる。
なお、上述した装飾部材は、時計以外の装飾品に含まれていてもよい。このような装飾品としては、ネックレス、ペンダント、ブローチ、眼鏡などが挙げられる。これらは、一部が上記装飾部材で構成されていても、全部が上記装飾部材で構成されていてもよい。上記装飾品は、上記装飾部材を含むため、耐久性に優れ、青色色調や外観が非常にきれいな状態で維持できる。
【0039】
以上より、本発明は以下に関する。
[1] 基材上に、第1密着層、第2密着層、硬質層および最表層が、この順で積層された装飾部材であって、上記第1密着層は、TiおよびCrから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、上記第2密着層は、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、上記硬質層は、DLCを含み、厚さが0.4μm以上1.2μm以下であり、上記最表層は、DLCを含み、上記基材、上記第1密着層および上記第2密着層が、この順で積層された積層体上に形成した上記硬質層について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が48以上49以下であり、a*値が0以上0.1以下であり、b*値が1.5以上1.7以下であり、上記装飾部材の最表にある上記最表層について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が30以上31以下であり、a*値が1.1以上1.7以下であり、b*値が-11以上-9以下である装飾部材。
[2] 上記最表層は、厚さが0.05μm以上0.07μm以下である[1]に記載の装飾部材。
上記[1]または[2]の装飾部材は、優れた硬度および摩擦係数を有すると共に、青色の外観色を有する。
[3] [1]または[2]に記載の装飾部材を含む時計。
上記時計は耐久性に優れ、青色色調や外観が非常にきれいな状態で維持できる。
[4] 基材上に、第1密着層、第2密着層、硬質層および最表層が、この順で積層された装飾部材の製造方法であって、上記基材上に、TiおよびCrから選ばれる少なくとも1種の元素を含む上記第1密着層を形成する第1密着層形成工程と、上記第1密着層形成工程で形成された上記第1密着層上に、SiおよびGeから選ばれる少なくとも1種の元素を含む上記第2密着層を形成する第2密着層形成工程と、上記第2密着層形成工程で形成された上記第2密着層上に、プラズマCVD法により、上記第1密着層および上記第2密着層が形成された上記基材に、2kV以上5kV以下の負バイアス電圧を印加しながら、DLCを含む上記硬質層を形成する硬質層形成工程と、上記硬質層形成工程で形成された上記硬質層上に、プラズマCVD法により、上記第1密着層、上記第2密着層および上記硬質層が形成された上記基材に、0.05kV以上0.4kV以下の負バイアス電圧を印加しながら、DLCを含む上記最表層を形成する最表層形成工程と、を含み、上記硬質層は、厚さが0.4μm以上1.2μm以下であり、上記基材、上記第1密着層および上記第2密着層が、この順で積層された積層体上に形成した上記硬質層について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が48以上49以下であり、a*値が0以上0.1以下であり、b*値が1.5以上1.7以下であり、上記装飾部材の最表にある上記最表層について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が30以上31以下であり、a*値が1.1以上1.7以下であり、b*値が-11以上-9以下である装飾部材の製造方法。
上記装飾部材の製造方法によれば、優れた硬度および摩擦係数を有すると共に、青色の外観色を有する装飾部材が得られる。
【0040】
[実施例]
以下実施例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[参考例]
図2は、参考例の装飾部材を説明するための図である。
図2は、装飾部材20の断面図を模式的に表している。装飾部材20では、基材11(SUS基板)上に、第1密着層12(Ti層)、第2密着層13(Si層)、および硬質層14(DLC層)を作製した。
第1密着層形成工程では、SUS基板上に、スパッタリング法により、厚さ0.2μmのTi層を形成した。第2密着層形成工程では、Ti層上に、スパッタリング法により、厚さ0.2μmのSi層を形成した。
硬質層形成工程では、Si層上に、プラズマCVD法により、DLCを含む硬質層14を形成した。具体的には、真空装置内に、Si層まで形成した基板を配置し、真空装置内に不活性ガスとしてのArガスに加え、原料ガスとしてベンゼンを導入した。装置内圧力を0.3Paに保った上で、プラズマCVD法によりベンゼンを分解し、Si層上にDLC層(硬質層14)を形成した。成膜開始時から成膜終了時において、負バイアス電圧を3.5kVで一定とした。また、最表層形成工程での成膜時間は90分間であった。このようにして、装飾部材20を作製した。
【0042】
[実施例]
実施例では、
図1に示す装飾部材10を作製した。すなわち、基材11(SUS基板)上に、第1密着層12(Ti層)、第2密着層13(Si層)、硬質層14(DLC層)、および最表層15(DLC層)を作製した。
硬質層形成工程までは、参考例と同様に行った。次いで、最表層形成工程では、硬質層14上に、プラズマCVD法により、DLCを含む最表層15を形成した。具体的には、最表層形成工程では、真空装置内に配置されている、硬質層14まで形成した基板をそのまま用いた。また、硬質層形成工程から引き続き、真空装置内に、不活性ガスとしてのArガスに加え、原料ガスとしてベンゼンを導入し、装置内圧力を0.4Paに保った。そして、硬質層形成工程と同様に、プラズマCVD法によりベンゼンを分解し、硬質層14上にDLC層(最表層15)を形成した。硬質層形成工程での基材印加負電圧から最表層形成工程での基材印加負電圧への切り替えは瞬時に行い、成膜開始時から成膜終了時において、負バイアス電圧を0.1kVで一定とした。また、最表層形成工程での成膜時間は10分間であった。このようにして、装飾部材10を作製した。
【0043】
<評価方法>
〔色調〕
参考例で得られた装飾部材の硬質層14および実施例で得られた装飾部材の最表層15について、L*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値、a*値およびb*値を求めた。具体的には、分光測色計(コニカミノルタ社製、CM-2600d)を用い、光源としてD65光源、視野として10°を設定して測定した。
〔粒径〕
参考例で得られた装飾部材の硬質層14の表面および実施例で得られた装飾部材の最表層15の表面について、SEM観察を行った。具体的には、Carl Zeiss社製、Gemini300を用い、試料入射電圧=5kV、WD=6mmで5万倍の倍率で観察を行った。これより、粒径範囲を求めた。
〔水素含有量〕
参考例で得られた装飾部材の硬質層14および実施例で得られた装飾部材の最表層15について、水素含有量は、RBS-ERDA ラザフォード後方散乱分析法-反跳粒子検出法(Rutherford Backscattering Spectrometry - Elastic Recoil Detection Analysis)により、National Electrostatics Corporation社製、Pelletron3SDHを用いて測定を行った。
〔sp3比率(sp3/(sp3+sp2))〕
参考例で得られた装飾部材の硬質層14および実施例で得られた装飾部材の最表層15について、XPSのC1sスペクトルを得た。具体的には、XPS X線光電子分光装置(Thermo Fisher Scientific社製、Nexsa)を用いてC(カーボン)のナロースペクトルの波形分離を行いsp3及びsp2の比を測定した。
〔硬さ〕
参考例で得られた装飾部材の硬質層14および実施例で得られた装飾部材の最表層15について、硬さを求めた。具体的には、ビッカース硬さHVは、微小押込み硬さ試験機(FISCHER製、HM2000XYp)を用いて測定した。測定子にはビッカース圧子を使用し、5mN荷重で10秒間保持した後に除荷を行い、挿入されたビッカース圧子の深さから硬さを算出した。
〔摩擦係数〕
参考例で得られた装飾部材の硬質層14および実施例で得られた装飾部材の最表層15について、摩擦係数(JIS R 1613)を求めた。具体的には、多機能式摩擦試験機(Bruker社製、UMT Tribo Lab)を用いて、荷重5N、線速度0.1m/s、摺動半径5mm、摺動距離1000mの条件でボールオンディスク試験を行った。なおボール側にφ5mmのSUS304製のボールを用い、ディスク側にSUS316L上に対象のDLCを成膜して行った。
【0044】
<評価結果>
図3は、参考例で得られた装飾部材の硬質層14について、SEM観察を行った結果を示す図である。
図4は、実施例で得られた装飾部材の最表層15について、SEM観察を行った結果を示す図である。
また、
図5は、参考例で得られた装飾部材の硬質層14について測定したXPSスペクトルを示す図である。
図6は、実施例で得られた装飾部材の最表層15について測定したXPSスペクトルを示す図である。
また、評価結果をまとめて表1に示す。
【0045】
【符号の説明】
【0046】
10、20 装飾部材
11 基材
12 第1密着層
13 第2密着層
14 硬質層
15 最表層