(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006492
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】制御装置、駆動装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/62 20160101AFI20230111BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
H02P29/62
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109118
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(72)【発明者】
【氏名】森 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】仁田 哲広
【テーマコード(参考)】
5H125
5H501
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125CD06
5H125CD09
5H125EE05
5H125FF22
5H125FF27
5H501AA20
5H501BB08
5H501CC04
5H501GG11
5H501HB07
5H501JJ17
5H501LL39
5H501MM05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】モータの温度上昇を抑制しつつモータの性能を十分に発揮させることができる制御装置、駆動装置および制御方法を提供する。
【解決手段】モータを制御する制御装置であって、モータの温度を測定する温度センサと、温度センサによる測定温度を基にモータのトルクを制限するトルク制限部と、を有する。トルク制限部は、測定温度が、第1閾値以上である場合に、モータのトルクを測定温度に対し第1定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第1トルク制限を行い、測定温度が、第1閾値より高い第2閾値以上である場合に、モータのトルクを測定温度に対し第2定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第2トルク制限を行い、測定温度が、第2閾値より高い第3閾値以上である場合に、モータへの通電を停止する第3トルク制限を行う。第1定数は、第2定数より大きい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御する制御装置であって、
前記モータの温度を測定する温度センサと、
前記温度センサによる測定温度を基に前記モータのトルクを制限するトルク制限部と、を有し、
前記トルク制限部は、
前記測定温度が、第1閾値以上である場合に、前記モータのトルクを前記測定温度に対し第1定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第1トルク制限を行い、
前記測定温度が、前記第1閾値より高い第2閾値以上である場合に、前記モータのトルクを前記測定温度に対し第2定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第2トルク制限を行い、
前記測定温度が、前記第2閾値より高い第3閾値以上である場合に、前記モータへの通電を停止する第3トルク制限を行い、
前記第1定数は、前記第2定数より大きい、
制御装置。
【請求項2】
前記トルク制限部は、前記測定温度が上昇する場合に行う昇温モードと、前記測定温度が下降する場合に行う降温モードと、を有し、
前記昇温モードの前記トルク制限部は、前記第1トルク制限、前記第2トルク制限、および前記第3トルク制限を行い、
前記降温モードの前記トルク制限部は、
前記測定温度が、第4閾値以上である場合に、前記モータのトルクを前記測定温度に対し前記第1定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第4トルク制限を行い、
前記測定温度が、前記第4閾値より高い第5閾値以上である場合に、前記モータのトルクを前記測定温度に対し前記第2定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第5トルク制限を行い、
前記測定温度が、前記第5閾値より高い第6閾値以上である場合に、前記モータへの通電を停止する第6トルク制限を行い、
前記第4閾値は、前記第1閾値より温度定数だけ低い温度であり、
前記第5閾値は、前記第2閾値より前記温度定数だけ低い温度であり、
前記第6閾値は、前記第3閾値より前記温度定数だけ低い温度である、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記トルク制限部は、前記測定温度と前記モータのトルクの制限率の関係を表すマップを基に、前記モータのトルクを制限する、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記トルク制限部は、前記マップとして、前記測定温度が上昇する場合に第1マップを用い、前記測定温度が下降する場合に第2マップを用いる、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記トルク制限部は、前記測定温度と前記モータのトルクの制限率の関係を表す数式を基に、前記モータのトルクを制限する、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項6】
トルクの制限を行う場合に、前記モータを冷却する冷却装置を駆動させる駆動指令を出力する、
請求項1~5の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記冷却装置は、前記モータを冷却する冷却水を循環させるウォータポンプを有し、前記駆動指令により前記冷却水を循環させる、
請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記冷却装置は、前記モータとともにハウジング内に収容されるオイルを冷却するオイルクーラを有し、前記駆動指令により前記オイルを冷却させる、
請求項6に記載の制御装置。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の制御装置と、
前記モータと、を備える、
駆動装置。
【請求項10】
モータの制御方法であって、
温度センサによって測定した前記モータの測定温度が、第1閾値以上である場合に、前記モータのトルクを前記測定温度に対し第1定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第1トルク制限を行い、
前記測定温度が、前記第1閾値より高い第2閾値以上である場合に、前記モータのトルクを前記測定温度に対し第2定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第2トルク制限を行い、
前記測定温度が、前記第2閾値より高い第3閾値以上である場合に、前記モータのトルクへの通電を停止する第3トルク制限を行い、
前記第1定数は、前記第2定数より大きい、
制御方法。
【請求項11】
前記測定温度が上昇する場合に行う昇温モードと、前記測定温度が下降する場合に行う降温モードと、を有し、
前記昇温モードで、前記第1トルク制限、前記第2トルク制限、および前記第3トルク制限を行い、
前記降温モードで
前記測定温度が、第4閾値以上である場合に、前記モータのトルクを前記測定温度に対し前記第1定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第4トルク制限を行い、
前記測定温度が、前記第4閾値より高い第5閾値以上である場合に、前記モータのトルクを前記測定温度に対し前記第2定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第5トルク制限を行い、
前記測定温度が、前記第5閾値より高い第6閾値以上である場合に、前記モータのトルクへの通電を停止する第6トルク制限を行い、
前記第4閾値は、前記第1閾値より温度定数だけ低い温度であり、
前記第5閾値は、前記第2閾値より前記温度定数だけ低い温度であり、
前記第6閾値は、前記第3閾値より前記温度定数だけ低い温度である、
請求項10に記載の制御方法。
【請求項12】
前記測定温度と前記モータのトルクの制限率の関係を表すマップを基に、前記モータのトルクを制限する、
請求項10又は11に記載の制御方法。
【請求項13】
前記マップとして、前記測定温度が上昇する場合に第1マップを用い、前記測定温度が下降する場合に第2マップを用いる、
請求項12に記載の制御方法。
【請求項14】
前記測定温度と前記モータのトルクの制限率の関係を表す数式を基に、前記モータのトルクを制限する、
請求項10又は11に記載の制御方法。
【請求項15】
トルクの制限を行う場合に、前記モータを冷却する冷却装置を駆動させる駆動指令を出力する、
請求項10~14の何れか一項に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、駆動装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車に搭載される駆動用のモータの開発が盛んに行われている。このようなモータにおいて、モータの温度が高まり過ぎると、モータのコイル線の絶縁被覆に損傷が生じる虞がある。特許文献1には、モータの温度が高まった場合に、モータの駆動トルクを制限する駆動装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の駆動装置において、モータの駆動トルクの制限は、モータの温度によって線形制御される。しかしながら、温度センサによる温度の測定結果は、実際のモータの温度変化に対して遅延して出力されるため、モータの温度が急速に上昇する場合に、駆動トルクの制限が不十分となり、モータの温度上昇を抑制できない虞がある。一方で、温度センサの遅延を考慮して、モータの温度の上昇に対する駆動トルクの制限を単純に大きくすると、モータの性能を必要以上に制限しかねない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、モータの温度上昇を抑制しつつモータの性能を十分に発揮させることができる制御装置、駆動装置および制御方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置の一つの態様は、モータを制御する制御装置であって、前記モータの温度を測定する温度センサと、前記温度センサによる測定温度を基に前記モータのトルクを制限するトルク制限部と、を有する。前記トルク制限部は、前記測定温度が、第1閾値以上である場合に、前記モータのトルクを前記測定温度に対し第1定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第1トルク制限を行い、前記測定温度が、前記第1閾値より高い第2閾値以上である場合に、前記モータのトルクを前記測定温度に対し第2定数を傾きとする一次関数で表される制限率で制限する第2トルク制限を行い、前記測定温度が、前記第2閾値より高い第3閾値以上である場合に、前記モータへの通電を停止する第3トルク制限を行う。前記第1定数は、前記第2定数より大きい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一つの態様によれば、モータの温度上昇を抑制しつつモータの性能を十分に発揮させることができる制御装置、駆動装置および制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態の駆動装置1の模式図である。
【
図2】
図2は、一実施形態のトルク制限部によるモータのトルク制限を説明するための図である。
【
図3】
図3は、一実施形態トルク制限部による昇温モードのトルク制御の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、一実施形態トルク制限部による高温モードのトルク制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴部分を強調する目的で、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、同様の目的で、特徴とならない部分を省略して図示している場合がある。
【0010】
図1は、本実施形態の駆動装置1の模式図である。
駆動装置1は、車両に搭載され車両を駆動する。駆動装置1が搭載される車両は、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)等、モータを動力源とする車両である。
【0011】
本実施形態の駆動装置1は、モータ2と、モータ2を制御する制御装置10と、制御装置10を介してモータ2に電力を供給するバッテリ7と、モータ2を冷却する第1の冷却装置(冷却装置)80および第2の冷却装置(冷却装置)90と、を有する。
【0012】
本実施形態のモータ2は、三相交流モータである。また、モータ2は、アウターロータ型のモータである。モータ2は、電動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備える。
【0013】
モータ2は、ハウジング1aに収容される。モータ2は、図示略の伝達機構を介して車両の車輪に接続される。モータ2は、ステータと、ステータに対して回転するロータとを有する。ステータは、コイル線を有する。コイル線は、制御装置10のインバータ3に接続され交流電圧が付与される。
【0014】
モータ2は、インバータ3から供給される交流電流により駆動し、車輪を回転させる。これにより、モータ2は、車両を駆動する。また、モータ2は、車輪の回転を回生し交流電流を発電する。発電された電力は、インバータ3を通じてバッテリ7に蓄えられる。
【0015】
モータ2には、温度センサ20が取り付けられる。温度センサ20は、モータ2のコイル線の温度を測定する。すなわち、温度センサ20は、モータ2の温度を測定する。モータ2が収容されるハウジング1aの内部には、オイルOが貯留される。すなわち、オイルOは、モータ2とともにハウジング1a内に収容される。
【0016】
第1の冷却装置80は、ウォータジャケット82と、冷却水路81と、ウォータポンプ(ポンプ)88と、を有する。また、第1の冷却装置80は、冷却水路81中に配置され冷却水を冷却するラジエータ(図示略)を有していてもよい。
【0017】
ウォータジャケット82は、ハウジング1aの外周を囲む。冷却水路81は、冷却水が循環する循環流路である。冷却水路81は、ウォータジャケット82に接続され、ウォータジャケットの内部を通過する。ウォータポンプ88は、冷却水路81中の冷却水を圧送する。すなわち、ウォータポンプ88は、モータ2を冷却する冷却水を、冷却水路81において循環させる。
【0018】
第1の冷却装置80は、ハウジング1aを介してハウジング1a内のモータ2を冷却する。本実施形態の第1の冷却装置80は、ハウジング1a内のオイルOを冷却する。これにより、第1の冷却装置80は、オイルOに浸漬するモータ2を間接的に冷却する。
【0019】
第2の冷却装置90は、油路91と、オイルポンプ98と、オイルクーラ99と、を有する。油路91には、オイルOが循環する。油路91は、ハウジング1aの内部を通過する。オイルポンプ98は、油路91中のオイルOを圧送する。オイルクーラ99は、油路91中のオイルOを冷却する。第2の冷却装置90は、オイルクーラ99によって冷却されたオイルOを、ハウジング1a内に通過させることでモータ2を冷却する。
【0020】
制御装置10は、インバータ3と、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)10aと、温度センサ20と、を有する。
【0021】
インバータ3は、バッテリ7およびモータ2に接続される。インバータ3は、ECU10aからの信号に基づいて、バッテリ7から供給される直流電圧を三相交流電圧に変換し、その変換した三相交流電圧をモータ2へ出力する。これにより、モータ2は、ECU10aから指定された目標トルクTTを発生するように駆動される。また、インバータ3は、車両の回生制動時、モータ2が発電した三相交流電圧を直流電圧に変換しインバータ3に出力する。
【0022】
バッテリ7は、充放電可能な直流電源である。バッテリ7は、インバータ3へ直流電力を供給する。バッテリ7は、車両の回生制動時にインバータ3から出力される直流電力を受けて充電される。
【0023】
ECU10aは、トルク制限部11と、電圧演算部12と、信号変換部13と、を有する。すなわち、制御装置10は、トルク制限部11と、電圧演算部12と、信号変換部13と、を有する。
【0024】
ECU10aは、VCU(Vehicle Control Units:車両制御装置)9に接続される。VCU9は、駆動装置1の外部装置であり、車両に搭載される。VCU9は、車両の各部を統括して制御する。VCU9は、アクセルペダルおよびブレーキペダルの踏込量ならびに車両の走行状態に基づいて、モータ2が出力するべきトルクである目標トルクTTを演算する。
【0025】
ECU10aは、VCU9および温度センサ20から受信した情報を基にモータ2の目標トルクTTを算出し、さらに当該目標トルクTTを得るための信号を生成してインバータ3へ出力する。
【0026】
トルク制限部11は、温度センサ20からモータ2の測定温度Tを受信する。トルク制限部11は、測定温度Tに基づいてトルクの制限率LRを演算する。また、トルク制限部11は、VCU9から指令トルクRTを受信する。トルク制限部11は、演算した制限率LRと、受信した指令トルクRTから、モータ2の目標トルクTTを算出する。目標トルクTTは、トルク制限を加味したモータ2が出力するべきトルクである。目標トルクTTは、100%から制限率LRを引いた値(100%-LR)を指令トルクRTに乗じて算出される。
【0027】
電圧演算部12は、トルク制限部11からの目標トルクTTに基づいて、モータ2のU,V,W各相のコイルに印加する電圧を演算し、その演算した各相コイル電圧を信号変換部13へ出力する。
【0028】
信号変換部13は、電圧演算部12から受ける各相コイル電圧に基づいて、実際にインバータ3の各トランジスタをオン/オフするための信号を生成し、その生成した信号をインバータ3の各トランジスタへ出力する。
【0029】
<制御方法>
次に、ECU10aのトルク制限部11におけるトルクの制御方法について説明する。ECU10aは、モータ2の保護のため、モータの温度が高まると、トルク制限部11によりモータ2の目標トルクTTを低減させる。
【0030】
図2は、トルク制限部11によるモータ2のトルク制限を説明するための図である。なお、
図2において、横軸は温度センサ20によるモータ2の測定温度Tであり、縦軸はトルク制限部11によるモータ2のトルクの制限率LRである。
【0031】
トルク制限部11は、測定温度Tが上昇する場合に行う昇温モードと、測定温度が下降する場合に行う降温モードと、を有する。昇温モードおよび降温モードは、それぞれ一定の条件を満たすときに互いに遷移する。なお、トルク制限部11は、初期モードとして昇温モードが選択されている。
【0032】
(昇温モード)
図3は、昇温モードのトルク制御の手順を示すフローチャートである。
昇温モードでは、トルク制限部11は、例えば、以下に説明するステップS101~S111に沿った制御を行う。
【0033】
昇温モードのトルク制限部11は、まず、温度センサ20において測定したモータ2の測定温度Tを取得する(ステップS101)。
【0034】
次いで、昇温モードのトルク制限部11は、昇温モードを維持すべきか否かを確認し(ステップS102、およびステップS103)、維持すべきでない場合に、降温モードに移行する。
【0035】
より具体的には、まず、ステップS102において、トルク制限部11は、測定温度Tが下降しているか否かを判定する。すなわち、トルク制限部11は、測定温度Tの経時的な変化(ΔT)が負の値(ΔT<0)となるか否かを判定する。測定温度Tが下降する場合(ステップS102:YES)、トルク制限部11は、さらにステップS103において、温度変化(|ΔT|)が温度定数Tb以上であるか否かを判定する。温度変化が温度定数Tb以上である場合(ステップS103:YES)、トルク制限部11は降温モードに移行する(ステップS104)。一方で、温度変化が温度定数Tb未満である場合(ステップS103:NO)、トルク制限部11は測定温度Tが下降していても昇温モードを維持する。
【0036】
昇温モードのトルク制限部11は、測定温度Tに応じて、トルク制限なし(ステップS106)、第1トルク制限(ステップS108)、第2トルク制限(ステップS110)、第3トルク制限(ステップS111)の何れかの制御を行う。各制御については、後段において詳細に説明する。
【0037】
トルク制限部11は、測定温度Tが下降しない場合(ステップS102:NO)、すなわち測定温度Tが一定である場合又は上昇する場合に、さらに測定温度Tが第1閾値T1未満であるか否かを判定する(ステップS105)。トルク制限部11は、測定温度Tが第1閾値T1未満である場合(ステップS105:YES)、トルク制限をしない(ステップS106)。したがって、制御装置10は、VCU9から受けた指令トルクRTでモータ2を駆動させる。
【0038】
トルク制限部11は、測定温度Tが第1閾値T1未満ではない場合(ステップS105:NO)、すなわち測定温度Tが第1閾値T1以上である場合に、さらに測定温度Tが第2閾値T2未満であるか否かを判定する(ステップS107)。トルク制限部11は、測定温度Tが第2閾値T2未満である場合(ステップS107:YES)、第1トルク制限を行う(ステップS108)。
【0039】
トルク制限部11は、測定温度Tが第2閾値T2未満ではない場合(ステップS107:NO)、すなわち測定温度Tが第2閾値T2以上である場合に、さらに測定温度Tが第3閾値T3未満であるか否かを判定する(ステップS109)。トルク制限部11は、測定温度Tが第3閾値T3未満である場合(ステップS109:YES)、第2トルク制限を行う(ステップS110)。トルク制限部11は、測定温度Tが第3閾値T3未満ではない場合(ステップS109:NO)、すなわち測定温度Tが第3閾値T3以上である場合に、第3トルク制限を行う(ステップS111)。
【0040】
次に、
図2を基に、昇温モードで行うトルク制限について具体的に説明する。
昇温モードのトルク制限部11は、第1閾値T1以上で実質的なトルク制限を開始する。昇温モードのトルク制限部11は、測定温度Tが、第1閾値T1以上である場合に第1トルク制限を行い、第2閾値T2以上である場合に第2トルク制限を行い、第3閾値T3以上である場合に第3トルク制限を行う。なお、第2閾値T2は、第1閾値T1より高い温度である。第3閾値T3は、第2閾値T2より高い温度である。
【0041】
第1トルク制限は、測定温度Tが第1閾値T1から第2閾値T2の間に行われる。第1トルク制限は、モータ2のトルクを測定温度Tに対し第1定数a1を傾きとする一次関数で表される制限率LRで制限する制御方法である。ここで、第1定数a1は、ΔLR/ΔTで表される。第1トルク制限におけるトルク制限部11は、測定温度TがΔTだけ上昇すると制限率LRをa1×ΔT(=ΔLR)だけ上昇させる。
【0042】
第2トルク制限は、測定温度Tが第2閾値T2から第3閾値T3の間に行われる。第2トルク制限は、モータ2のトルクを測定温度Tに対し第2定数a2を傾きとする一次関数で表される制限率LRで制限する制御方法である。第2トルク制限におけるトルク制限部11は、測定温度TがΔTだけ上昇すると制限率LRをa2×ΔT(=ΔLR)だけ上昇させる。
【0043】
一般的に、モータ2の発熱時に温度センサ20から出力されるモータ2の測定温度Tは、現実のモータ2の温度に対して遅延が生じる。このため、測定結果に応じた制限率LRでモータ2にトルク制限を加えると、制限率LRが不十分となって温度上昇を適切に抑制できない虞がある。
【0044】
本実施形態において、第1定数a1は、第2定数a2より大きい。このため、トルク制限部11は、測定温度Tが第1閾値T1以上第2閾値T2未満の範囲で、温度上昇にする制限率LRを急激に上昇させることができる。これにより、温度センサ20によるモータ2の測定温度Tに遅延が生じても、第2閾値T2以下の範囲で、トルク制限部11がモータ2の温度上昇を抑制し易い。
【0045】
また、測定温度Tが第2閾値T2以上となる場合、モータ2の駆動には既にトルク制限が付され、これにより温度上昇の速度は比較的緩やかになる。このため、測定温度Tが第2閾値T2以上の範囲では、温度上昇にする制限率LRを第2定数a2で緩やかに上昇させても、温度センサ20の遅延の影響が少ない。また、トルク制限部11が第2閾値T2以上の温度範囲で制限率LRを緩やかに上昇させることで、制限率が100%になるまでの測定温度Tの範囲を上側に広げることができ、モータ2の高速運転時においても、最高速度特性を損なわず制御できる。
【0046】
第3トルク制限は、モータ2への通電を停止し、モータ2の駆動トルクを0とする制御方法である。このため、第3トルク制限を行うトルク制限部11は、VCU9から受信した指令トルクRTに関わらず、目標トルクTTを0として電圧演算部12に送る。なお、第3トルク制限は、モータ2の駆動トルクの制限率を100%とすると言い換えることができる。
【0047】
本実施形態によれば、トルク制限部11が、第3閾値T3以上の温度範囲で測定温度Tが上昇する場合にモータ2への通電を停止するため、モータ2の発熱要因をなくすことができる。したがって、トルク制限部11は、第3閾値T3以上の温度範囲でモータ2の温度を急速に下降させることができ、モータ2の信頼性を高めることができる。
【0048】
(降温モード)
図4は、降温モードのトルク制御の手順を示すフローチャートである。
降温モードでは、トルク制限部11は、例えば、以下に説明するステップS201~S211に沿った制御を行う。
降温モードのトルク制限部11は、まず、温度センサ20において測定したモータ2の測定温度Tを取得する(ステップS201)。
【0049】
次いで、降温モードのトルク制限部11は、降温モードを維持すべきか否かを確認し(ステップS202、およびステップS203)、維持すべきでない場合に、昇温モードに移行する。
【0050】
より具体的には、トルク制限部11は、ステップS202において、測定温度Tが上昇しているか否かを判定する。すなわちステップS202において、トルク制限部11は、測定温度Tの経時的な変化(ΔT)が正の値(ΔT>0)となるか否かを判定する。測定温度が下降する場合(ステップS202:YES)、トルク制限部11は、さらにステップS203において、温度変化(|ΔT|)が温度定数Tb以上であるか否かを判定する。温度変化が温度定数Tb以上である場合(ステップS203:YES)、トルク制限部11は昇温モードに移行する(ステップS204)。一方で、温度変化が温度定数Tb未満である場合(ステップS203:NO)、トルク制限部11は測定温度Tが上昇していても降温モードを維持する。
【0051】
降温モードのトルク制限部11は、測定温度Tに応じて、トルク制限なし(ステップS206)、第4トルク制限(ステップS208)、第5トルク制限(ステップS210)、第6トルク制限(ステップS211)の何れかの制御を行う。各制御については、後段において詳細に説明する。
【0052】
トルク制限部11は、測定温度Tが上昇しない場合(ステップS202:NO)、すなわち測定温度Tが一定である場合又は上昇する場合に、さらに測定温度Tが第4閾値T4未満であるか否かを判定する(ステップS205)。トルク制限部11は、測定温度Tが第4閾値T4未満である場合(ステップS205:YES)、トルク制限をしない(ステップS206)。したがって、制御装置10は、VCU9から受けた指令トルクRTでモータ2を駆動させる。
【0053】
トルク制限部11は、測定温度Tが第4閾値T4未満ではない場合(ステップS205:NO)、すなわち測定温度Tが第4閾値T4以上である場合に、さらに測定温度Tが第5閾値T5未満であるか否かを判定する(ステップS207)。トルク制限部11は、測定温度Tが第5閾値T5未満である場合(ステップS207:YES)、第4トルク制限を行う(ステップS208)。
【0054】
トルク制限部11は、測定温度Tが第5閾値T5未満ではない場合(ステップS207:NO)、すなわち測定温度Tが第5閾値T5以上である場合に、さらに測定温度Tが第6閾値T6未満であるか否かを判定する(ステップS209)。トルク制限部11は、測定温度Tが第6閾値T6未満である場合(ステップS209:YES)、第5トルク制限を行う(ステップS210)。トルク制限部11は、測定温度Tが第6閾値T6未満ではない場合(ステップS209:NO)、すなわち測定温度Tが第6閾値T6以上である場合に、第6トルク制限を行う(ステップS211)。
【0055】
次に、
図2を基に、降温モードで行うトルク制限について具体的に説明する。
降温モードのトルク制限部11は、第4閾値T4以上の範囲で、トルク制限を行う。降温モードのトルク制限部11は、測定温度Tが、第4閾値T4以上である場合に第4トルク制限を行い、第5閾値T5以上である場合に第5トルク制限を行い、第6閾値T6以上である場合に第6トルク制限を行う。
【0056】
なお、第4閾値T4は、第1閾値T1より低い温度である。第5閾値T5は、第1閾値T1および第4閾値T4より高い温度であり、第2閾値T2より低い温度である。第6閾値T6は、第2閾値T2および第5閾値T5より高い温度であり、第3閾値T3より低い温度である。
【0057】
第4トルク制限は、測定温度Tが第4閾値T4から第5閾値T5の間に行われる。第4トルク制限は、モータ2のトルクを測定温度Tに対し第1定数a1を傾きとする一次関数で表される制限率LRで制限する制御方法である。温度変化ΔTに対する制限率の変化ΔLRを表す傾き(ΔLR/ΔT)は、第4トルク制限と第1トルク制限とで、互いに一致する。
【0058】
第5トルク制限は、測定温度Tが第5閾値T5から第6閾値T6の間に行われる。第5トルク制限は、モータ2のトルクを測定温度Tに対し第2定数a2を傾きとする一次関数で表される制限率LRで制限する制御方法である。温度変化ΔTに対する制限率の変化ΔLRを表す傾き(ΔLR/ΔT)は、第5トルク制限と第2トルク制限とで、互いに一致する。
【0059】
第6トルク制限は、第3トルク制限と同様に、モータ2への通電を停止し、モータ2の駆動トルクを0とする制御方法である。このため、第6トルク制限を行うトルク制限部11は、VCU9から受信した指令トルクRTに関わらず、目標トルクTTを0として電圧演算部12に送る。なお、第6トルク制限は、モータ2の駆動トルクの制限率を100%とすると言い換えることができる。
【0060】
本実施形態によれば、トルク制限部11が、第6閾値T6以上の温度範囲で測定温度Tが下降する場合にモータ2への通電を停止するため、モータ2の発熱要因をなくすことができる。結果的に、モータ2の温度を急速に下降させることができ、モータ2の信頼性を高めることができる。
【0061】
本実施形態において、第4閾値T4は、第1閾値T1より温度定数Tbだけ低い温度である。第5閾値T5は、第2閾値T2より温度定数Tbだけ低い温度である。第6閾値T6は、第3閾値T3より温度定数Tbだけ低い温度である。また上述したように、温度変化ΔTに対する制限率の変化ΔLRを表す傾き(ΔLR/ΔT)は、第1トルク制限と第4トルク制限とで互いに一致し、第2トルク制限と第5トルク制限とで互いに一致する。
【0062】
本実施形態によれば、
図2に示すように、降温モードのトルク制限部11は、昇温モードに対してマイナス方向に温度定数Tbだけオフセットさせた関数で制限率LRを変化させる。本実施形態のトルク制限部11は、降温モードでは、昇温モードより低い温度で同等の制限率のトルク制限を行うヒステリシス特性の制御を行う。これによりトルク制限部11は、温度が低下する際に、十分なトルク制限を付与することができ、モータ2の信頼性を高めることができる。
【0063】
さらに、本実施形態によれば、温度定数Tbの未満の温度変化である場合には、昇温モードから降温モード、又は、降温モードから昇温モードへの移行を行わない。このため、温度変化の誤差等に起因する測定値の変化に対し安定したトルク制限を行うことができる。
【0064】
本実施形態において、トルク制限部11は、第1の冷却装置80のウォータポンプ88、第2の冷却装置90のオイルポンプ98、およびオイルクーラ99に接続される。
【0065】
トルク制限部11は、第1~第6トルク制限の何れかのトルクの制限を行う場合に、モータ2を冷却する第1の冷却装置80、および第2の冷却装置90を駆動させる駆動指令を出力する。これにより、トルク制限部11は、モータ2を第1の冷却装置80によって冷却し、モータ2の温度が低下することを促進する。
【0066】
より具体的には、トルク制限部11は、第1の冷却装置80の冷却水路81において冷却水を循環させるウォータポンプを、駆動指令により駆動させる。すなわち、第1の冷却装置80は、モータ2を冷却する冷却水を循環させるウォータポンプ88を有し、トルク制限部11から発された駆動指令により冷却水を循環させる。これにより、トルク制限部11は、第1の冷却装置80によって、モータ2を冷却させる。
【0067】
さらに、トルク制限部11は、駆動指令により、第2の冷却装置90のオイルクーラ99を駆動させてオイルクーラ99によりオイルを冷却させるとともに、オイルポンプ98を駆動させてオイルを圧送させる。すなわち、第2の冷却装置90は、モータ2とともにハウジング1a内に収容されるオイルOを冷却するオイルクーラ99およびオイルポンプ98を有し、トルク制限部11から発された駆動指令によりオイルOを冷却させ、循環させる。これにより、トルク制限部11は、第2の冷却装置90によって、モータ2を冷却させる。
【0068】
(マップを基にする制御)
トルク制限部11は、モータ2の測定温度Tとモータ2のトルクの制限率の関係を表すマップを基に、モータ2のトルクを制限することができる。
【0069】
トルク制限部11は、マップとして、測定温度Tが上昇する場合(昇温モード)に、表1に示す第1マップを用い、測定温度Tが下降する場合(降温モード)に表2に示す第2マップを用いる。
【0070】
なお、表1および表2において、昇温モードで制限率を100%とする測定温度Tを基準温度Tsとして各温度を表現する。基準温度Tsは、上述の第3閾値T3に対応する。基準温度Tsは、例えば200℃~250℃の温度であり、モータ2のコイル線の耐熱温度以下である。
【0071】
【0072】
【0073】
昇温モードおよび降温モードにおいて、表中の測定温度の間の領域では制限率LRは線形制御される。また、昇温モードおよび降温モードにおいて、表中のTs-25以下の領域では制限率LRを0%とし、Ts以上の領域では制限率LRを100%とする。
【0074】
昇温モードにおいて、第1閾値T1は「Ts-20」に対応し、第2閾値T2は「Ts-10」に対応し、第3閾値T3は「Ts」に概ね対応する。降温モードにおいて、第4閾値T4は「Ts-25」に対応し、第5閾値T5は「Ts-20」に対応し、第6閾値T6は「Ts-5」に概ね対応する。
【0075】
昇温モードにおいて測定温度Tが「Ts-20」未満である場合に、制限率LRを0とする。昇温モードにおいて測定温度Tが「Ts-20」以上「Ts-10」未満である場合に、第1定数a1を7.5(%/℃)として、測定温度Tに対して制限率LRを変化させる。また、昇温モードにおいて測定温度Tが「Ts-10」以上「Ts」未満である場合に、第2定数a2を2.5(%/℃)として、測定温度Tに対して制限率LRを変化させる。
【0076】
降温モードにおいて測定温度Tが「Ts-25」未満である場合に、制限率LRを0とする。降温モードにおいて測定温度Tが「Ts-25」以上「Ts-15」未満である場合に、第1定数a1を7.5(%/℃)として、測定温度Tに対して制限率LRを変化させる。また、降温モードにおいて測定温度Tが「Ts-15」以上「Ts-5」未満である場合に、第2定数a2を2.5(%/℃)として、測定温度Tに対して制限率LRを変化させる。
【0077】
トルク制限部11は、昇温モードと降温モードとで使用するマップを切り替える。トルク制限部11が上述の第1のマップおよび第2のマップを基にトルクの制限率を算出することで、トルク制限部11による制御を簡素化することができる。
【0078】
(数式を基にする制御)
トルク制限部11は、モータ2の測定温度Tとモータ2のトルクの制限率の関係を表す数式を基に、モータ2のトルクを制限してもよい。この場合、トルク制限部11は、例えば第1トルク制限、第2トルク制限、第3トルク制限、第4トルク制限、第5トルク制限、および第6トルク制限に対して以下の数式を用いることができる。
【0079】
第1トルク制限: 制限率LR=(第1閾値T1-測定温度T)×第1定数a1
第2トルク制限: 制限率LR=(第2閾値T2-測定温度T)×第2定数a2+定数b
第3トルク制限: 制限率LR=100
第4トルク制限: 制限率LR=(第4閾値T4-測定温度T)×第1定数a1
第5トルク制限: 制限率LR=(第5閾値T5-測定温度T)×第2定数a2+定数b
第6トルク制限: 制限率LR=100
【0080】
なお、上記の数式において定数bは、
図2中の縦軸に図示されている。定数bは、第1トルク制限と第2トルク制限との境界温度(すなわち第2閾値T2)、並びに第4トルク制限と第5トルク制限との境界温度(すなわち第5閾値T5)におけるトルクの制限率LRを表す。
【0081】
トルク制限部11は、測定温度Tの変化に応じて第1~第6のトルク制限が切り替わる度に、使用する上述の何れかに数式を切り替える。トルク制限部11が上述の数式を基にトルクの制限率を算出することで、トルク制限部11による制御を簡素化することができる。
【0082】
以上に、本発明の様々な実施形態を説明したが、各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0083】
1…駆動装置、1a…ハウジング、2…モータ、10…制御装置、11…トルク制限部、20…温度センサ、80…第1の冷却装置(冷却装置)、88…ウォータポンプ(ポンプ)、90…第2の冷却装置(冷却装置)、99…オイルクーラ、a1…第1定数、a2…第2定数、b…定数、LR…制限率、O…オイル、T…測定温度、T1…第1閾値、T2…第2閾値、T3…第3閾値、T4…第4閾値、T5…第5閾値、T6…第6閾値、Tb…温度定数