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特開2023-6495溶解除去組成物およびそれを用いた洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006495
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】溶解除去組成物およびそれを用いた洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/06 20060101AFI20230111BHJP
   C02F 5/12 20230101ALI20230111BHJP
   C02F 5/00 20230101ALI20230111BHJP
   C11D 7/34 20060101ALI20230111BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20230111BHJP
   C11D 7/36 20060101ALI20230111BHJP
   F28G 9/00 20060101ALI20230111BHJP
   C02F 5/14 20230101ALI20230111BHJP
【FI】
C23G1/06
C02F5/12
C02F5/00 620D
C11D7/34
C11D7/32
C11D7/36
F28G9/00 L
C02F5/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109122
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野口 良典
(72)【発明者】
【氏名】今道 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】大塚 瑞希
(72)【発明者】
【氏名】江川 薫
(72)【発明者】
【氏名】和田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】植田 篤斉
(72)【発明者】
【氏名】服部 聖也
(72)【発明者】
【氏名】室田 沙織
【テーマコード(参考)】
4H003
4K053
【Fターム(参考)】
4H003AC08
4H003BA12
4H003DB01
4H003EA21
4H003EB08
4H003EB13
4H003EB16
4H003EB20
4H003EB21
4H003EB24
4H003EB37
4H003ED02
4H003FA04
4H003FA15
4H003FA28
4K053PA02
4K053PA13
4K053PA18
4K053QA02
4K053RA07
4K053RA31
4K053RA41
4K053RA51
4K053RA52
4K053RA54
4K053RA59
4K053RA62
4K053RA63
4K053RA64
4K053RA66
4K053RA69
4K053SA08
4K053TA16
4K053TA17
4K053TA18
(57)【要約】
【課題】本開示は、金属酸化物を含むスケールを溶解除去する洗浄において、従来よりも短時間でスケールを除去できる溶解除去組成物および洗浄方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示に係る溶解除去組成物は、母材に付着した金属酸化物を含むスケールを溶解除去する主剤と、母材と反応して反応物を生成する母材反応物生成成分と、反応物を溶解除去する母材反応物溶解成分と、を含む。この溶解除去組成物を用いた洗浄では、スケールを表面側から溶解除去しつつ、母材側から剥離除去できる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に付着した金属酸化物を含むスケールを溶解除去する主剤と、
前記母材と反応して反応物を生成する母材反応物生成成分と、
前記反応物を溶解除去する母材反応物溶解成分と、
を含む溶解除去組成物。
【請求項2】
前記母材反応物溶解成分は、チオール基およびカルボン酸基を有するC3化合物またはその塩である請求項1に記載の溶解除去組成物。
【請求項3】
全重量に対して、前記母材反応物溶解成分は0.7重量%以上5重量%以下で含まれる請求項1または請求項2に記載の溶解除去組成物。
【請求項4】
前記主剤は、アミノカルボン酸類、ホスホン酸類およびそれらの塩からなる群から選択される請求項1~3のいずれかに記載の溶解除去組成物。
【請求項5】
全重量に対して、前記主剤は11重量%以上25重量%以下で含まれる請求項1~4のいずれかに記載の溶解除去組成物。
【請求項6】
pHは5から7である請求項1~5のいずれかに記載の溶解除去組成物。
【請求項7】
前記母材反応物生成成分は、平面骨格を有するチアジアゾール系化合物である請求項1~6のいずれかに記載の溶解除去組成物。
【請求項8】
前記平面骨格は、1,3,4-チアジアゾールである請求項7に記載の溶解除去組成物。
【請求項9】
全重量に対して、前記母材反応物生成成分は、0.003重量%以上で含まれる請求項1~8のいずれかに記載の溶解除去組成物。
【請求項10】
金属酸化物を含むスケールが付着した母材を含む洗浄対象を洗浄する方法であって、
主剤、母材反応物生成成分および母材反応物溶解成分を含む洗浄液で前記洗浄対象を洗浄し、
主剤によって前記母材から前記スケールの少なくとも一部を溶解除去し、
母材反応物生成成分を前記母材と反応させて前記母材と前記スケールの間に反応物を生成させ、
母材反応物溶解成分によって前記反応物を溶解除去する、洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶解除去組成物およびそれを用いた洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汽力発電プラントなどの伝熱管では、運転によりその内面に酸化鉄(Fe,Fe等)を主とするスケールが付着する。一定期間の運転によりスケールが成長すると、伝熱管内を流通する流体の差圧上昇、伝熱効率の低下、伝熱阻害により伝熱管のメタル温度が過昇することに起因した損傷が生じる可能性がある。
【0003】
このようなトラブルの発生を未然に防止するため、保守点検にて酸化鉄等のスケール付着量の推移を調査し、定期的に酸化鉄等のスケールを除去する化学洗浄が実施されている。
【0004】
特許文献1には、金属酸化物を含むスケールを溶解する主剤とした洗浄液を用いて、母材に付着した酸化鉄等のスケールを溶解除去する方法が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の溶解除去組成物(洗浄液)は、ヘマタイト(Fe)およびマグネタイト(Fe)の両方のスケールを溶解除去できる。マグネタイトは自己酸化スケール、ヘマタイトはボイラの給水管理としての酸素処理で生成されるパウダースケールである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-84304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、スケールの表面側から徐々に溶解させて除去することをコンセプトとしているため、スケールの溶解除去に時間がかかる。例えば、40℃の洗浄で100時間程度を要する。
【0008】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、金属酸化物を含むスケールを溶解除去する洗浄において、従来よりも短時間でスケールを除去できる溶解除去組成物および洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の溶解除去組成物およびそれを用いた洗浄方法は以下の手段を採用する。
【0010】
本開示は、母材に付着した金属酸化物を含むスケールを溶解除去する主剤と、前記母材と反応して反応物を生成する母材反応物生成成分と、前記反応物を溶解除去する母材反応物溶解成分と、を含む溶解除去組成物を提供する。
【0011】
本開示は、金属酸化物を含むスケールが付着した母材を含む洗浄対象を洗浄する方法であって、前記洗浄対象を主剤、母材反応物生成成分および母材反応物溶解成分を含む洗浄液で洗浄し、主剤によって前記母材から前記スケールの少なくとも一部を溶解除去し、母材反応物生成成分を前記母材と反応させて前記母材と前記スケールの間に反応物を生成させ、母材反応物溶解成分によって前記反応物を溶解除去する、洗浄方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
上記開示では、主剤によってスケール表面からスケールの少なくとも一部を溶解除去することに加え、母材反応物生成成分をスケールが溶解除去されて露出した母材表面と反応させて母材表面とスケールの間に母材反応物を生成し、その母材反応物を母材反応物溶解成分で溶解することで、スケールと母材の間に隙間を生じさせ、溶解途中のスケールであっても、洗浄液の流体力で母材からスケールを剥離除去できる。
【0013】
上記開示では、2つの除去機構によりスケールを除去することによって、主剤で溶解除去していた従来法よりも短時間で洗浄を完了できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】母材反応物が生成されるイメージ図である。
図2】母材反応物のより具体的なイメージ図である。
図3】スケール除去(剥離)機構のイメージ図である。
図4】スケール除去(剥離)のより具体的なイメージ図である。
図5】スケール除去性の評価図である。
図6】防食性の評価図である。
図7】主剤、母材反応物生成成分および母材反応物溶解成分の有無が、スケール除去性および防食性に与える影響を示す図である。
図8】主剤の含有量を変化させた結果を示す図である。
図9】主剤の含有量とスケール除去面積率との関係を示す図である。
図10】母材反応物生成成分の含有量を変化させた結果を示す図である。
図11】母材反応物生成成分の含有量とスケール除去面積率との関係を示す図である。
図12】母材反応物溶解成分の含有量を変化させた結果を示す図である。
図13】母材反応物溶解成分の含有量とスケール除去面積率との関係を示す図である。
図14】母材反応物溶解成分の含有量と腐食量との関係を示す図である。
図15】母材反応物溶解成分の含有量と硫黄残量との関係を示す図である。
図16】試験液のpHを変化させた結果を示す図である。
図17】試験液のpHとスケール除去面積率との関係を示す図である。
図18】主剤の種類を替えた結果を示す図である。
図19】母材反応物生成成分の種類を替えた結果を示す図である。
図20】母材反応物溶解成分の種類を替えた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態における洗浄対象は、母材に、金属酸化物を含むスケールが付着した構成である。母材は、金属からなる。母材は鉄を含む。母材は、モリブデンを含んでもよい。金属酸化物は、酸化鉄(FeおよびFe)等である。
【0016】
〔溶解除去組成物〕
本実施形態に係る溶解除去組成物は、(A)主剤、(B)母材反応物生成成分および(C)母材反応物溶解成分を含む。
【0017】
(A)主剤は、金属酸化物を含むスケールを溶解できる成分である。主剤は、アミノカルボン酸類、ホスホン酸類およびそれらの塩からなる群から選択され得る。
【0018】
より具体的には、主剤は、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミン四酢酸である。
【0019】
主剤は、溶解除去組成物の全重量に対して、11重量%以上25重量%以下、好ましくは15重量%以上20重量%以下で含まれ得る。主剤は少なすぎても多すぎてもスケール除去性が不十分となる。
【0020】
(B)母材反応物生成成分は、母材と反応して反応物を生成する成分である。反応物は防食性を有する。
【0021】
母材反応物生成成分は、平面骨格を有するチアゾール系化合物である。
【0022】
母材反応物生成成分の平面骨格は、式(1)に示す1,3,4-チアジアゾールを含む。
【化1】
【0023】
は、チオール基(メルカプタン基)またはアミノ基に置換できる。
は、水素原子、メチル基、メチルチオ基またはチオール基(メルカプタン基)に置換できる。
【0024】
より具体的には、母材反応物生成成分は、例えば、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-メチルチオ-1,3,4-チアジアゾール、1,3,4-チアジアゾール-2-チオール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、または5-メチル-1,3,4-チアジアゾール-2-チオールである。
【0025】
母材反応物生成成分は、溶解除去組成物の全重量に対して、0.003重量%以上0.1重量%以下で含まれるとよい。母材反応物生成成分が少ないと、母材とスケールの間で生成される母材反応物の生成速度が鈍化し、スケール除去性が不十分となる。
【0026】
(C)母材反応物溶解成分は、母材反応物を溶解するとともに、母材に防食性を付与できる成分である。
【0027】
母材反応物溶解成分は、チオール基およびカルボン酸基を含有するC3化合物である。C3化合物において、最長の炭素鎖数は3である。炭素鎖数が少ないと、分子構造が小さいため立体障害能が低くなり、溶解後の防食能が低下する。炭素数が多いと、分子構造が大きくなるため反応物への頻度因子が小さくなり、反応物溶解能が低下する。
【0028】
より具体的には、母材反応物溶解成分は、3-メルカプトプロピオン酸、チオ乳酸およびそれらの塩からなる群から選択され得る。
【0029】
母材反応物溶解成分は、溶解除去組成物の全重量に対して、0.7重量%以上5重量%以下で含まれ得る。母材反応物溶解成分が少なすぎると、スケール除去性が低くなり、腐食量が増加する。また、母材反応物溶解成分が少なすぎても多すぎても、洗浄後の母材における硫黄残量が多くなる。残留した硫黄は、ボイラ運転時の腐食原因となるため、少ないことが好ましい。
【0030】
溶解除去組成物は、(D)腐食抑制剤、(E)還元剤および(F)消泡剤を含んでもよい。
【0031】
(D)腐食抑制剤は、母材における錆発生を抑制する防食成分である。腐食抑制剤は、界面活性剤を含む。界面活性剤は、両性界面活性剤および非イオン界面活性剤である。
【0032】
両性界面活性剤としては、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、2-アルキル-N-カルボキシエチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、β-アルキルアミノカルボン酸のアルカリ金属塩(例えば、β-アルキルアミノプロピオン酸ナトリウム)およびアルキルアミノジカルボン酸のアルカリ金属塩(例えば3-[ラウリル[3-(ソジオオキシ)-3-オキソプロピル]アミノ]プロピオン酸ナトリウム)が挙げられる。両性界面活性剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記両性界面活性剤はカルボン酸基および窒素原子を有するので、これらの置換基により両性界面活性剤が金属母材の表面に吸着する。これにより、露出した金属母材の表面が硫黄と反応することで生じる金属硫化物の生成量を低減できる。
【0033】
両性界面活性剤の含有量は、溶解除去組成物の全質量に対して、0.001重量%以上10重量%以下、好ましくは0.005重量%以上5重量%以下、より好ましくは0.01重量%以上2重量%以下である。
【0034】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類およびポリオキシアルキレンアルキルエーテル類が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、金属酸化物を含むスケールの除去および金属母材の腐食抑制の観点から、非イオン界面活性剤は、ポリエチレングリコールモノオレイン酸エステル、ポリエチレングリコールモノラウリン酸エステルおよびポリエチレングリコールモノステアリン酸エステルであることが望ましい。
【0035】
非イオン界面活性剤の含有量は、溶解除去組成物の全質量に対して、0.001重量%以上10重量%以下、好ましくは0.005重量%以上5重量%以下、より好ましくは0.01重量%以上2重量%以下である。
【0036】
(E)還元剤は、その還元作用によってスケール成分の溶解を促す成分である。還元剤は、還元性の強い硫黄化合物であってよい。還元性の強い硫黄化合物としては、チオ尿素系化合物または亜ジチオン酸塩等が挙げられる。チオ尿素系化合物は、二酸化チオ尿素、グアニルチオ尿素等である。硫黄化合物に含まれる硫黄原子が金属に吸着し保護皮膜を強化する。
【0037】
還元性の強い硫黄化合物の含有量は、溶解除去組成物の全質量に対して、0.01重量%以上1重量%以下、好ましくは0.01重量%以上0.1重量%以下、より好ましくは0.02重量%以上0.08重量%以下である。0.01重量%未満ではスケール除去性が不十分となる。1重量%を超えると、防食性が不十分となる。
【0038】
還元剤は、酸素還元性を有する有機酸を含んでもよい。酸素還元性を有する有機酸には、酸素除去性および持続性に優れる成分を選定するとよい。そのような有機酸としては、アスコルビン酸およびエルソルビン酸(Erythorbic acid)等が挙げられる。
【0039】
酸素還元性を有する有機酸の含有量は、溶解除去組成物の全質量に対して、0.01重量%以上8重量%以下、好ましくは0.1重量%以上5重量%以下、より好ましくは0.5重量%以上3重量%以下である。0.01%重量%未満ではスケール除去性が不十分となる。8重量%を超えると、防食性が不十分となる。
【0040】
(F)消泡剤は、溶解除去組成物の泡立ちを抑制する成分である。消泡剤は、例えば、シリコーン系消泡剤であってよい。
【0041】
溶解除去組成物のpHは、5以上7以下である。pHは水酸化ナトリウム(NaOH)および水酸化カリウム(KOH)等で調整されうる。
【0042】
〔洗浄方法〕
上記溶解除去組成物を洗浄液として用い、洗浄対象を洗浄することで、母材に付着したスケールを除去する。
【0043】
洗浄時間は、スケールの性状および量に応じて適宜設定され得る。例えば、酸化鉄を含むスケールが10~20mg/cm付着している場合、洗浄時間は、20時間から50時間程度である。
【0044】
洗浄液の温度は、15~55℃程度であってよい。洗浄液の温度は、55℃より高くてもよい。
【0045】
例えば、洗浄対象が発電プラントの伝熱管である場合、伝熱管内に洗浄液を循環させて(循環洗浄)、または、伝熱管内を循環液で満たして静置して(浸漬洗浄)、洗浄対象を洗浄する。循環洗浄を行う際、好ましくは洗浄液を脈動させる(スウィングブロー)。洗浄液を脈動させることで、洗浄液の流体力に強弱が発生し、効果的にスケールを剥離除去することができる。
【0046】
本実施形態に係る溶解除去組成物および洗浄方法は、発電プラント等の鉄を主成分とする配管内に付着するスケール(特に鉄錆)を除去するのに好適である。本実施形態に係る溶解除去組成物およびそれを用いた洗浄方法は、発電プラントや化学プラントの熱交換器および内燃機の冷却ジャケット等に付着した鉄系酸化物および/または水酸化物の除去にも広く転用可能である。
【0047】
図1~4に、本実施形態の溶解除去組成物を用いた洗浄のイメージ図を示す。図1は、母材反応物が生成されるイメージ図である。図2は、母材反応物のより具体的なイメージ図である。図3は、スケール除去(剥離)機構のイメージ図である。図4は、スケール除去(剥離)のより具体的なイメージ図である。
【0048】
本実施形態に係る溶解除去組成物を洗浄液として用いた洗浄では、洗浄液に含まれる主剤によって母材からスケール(図1では酸化鉄スケール)が溶解除去される。
【0049】
洗浄対象に付着しているスケールは、膜厚が不均一であり、クラックが存在し得る。
【0050】
スケールの隙間、または、主剤によりスケールが溶解された箇所では、図1に示すように、母材が露出している。母材の露出部分では、母材反応物生成成分が母材中のMoFe成分(Mon+およびFe2+)と反応し、スケールと母材との間に母材反応物が生成される。母材反応物は、極薄膜であるが、母材腐食を抑制できる。
【0051】
母材反応物生成成分は、有機環中にヘテロ原子を含む平面骨格を有する。このヘテロ原子が有する非共有電子対が母材金属に対して高い反応性を示し、スケールと母材との間に図2に示されるような層状の強固な反応物(母材反応物)が生成される。
【0052】
母材反応物溶解成分は、母材反応物を溶解する。スケールと母材との間に生成された母材反応物が溶解されると、図3に示すように、スケールと母材との間に隙間が生じ、スケールが剥離しやすくなる。
【0053】
また、図4に示されるように、母材反応物溶解成分により溶解された母材反応物は、母材表面から除去される。この際、母材反応物上にあるスケールは洗浄液の流体力によって剥離除去され得る。露出した母材には母材反応物溶解成分が吸着し、母材に防食性を付与する。
【0054】
主剤、母材反応物生成成分および母材反応物溶解成分が共存する溶解除去組成物を用いることで、スケールを除去しつつ、母材を防食できる。
【0055】
なお、本実施形態に係る洗浄方法では、剥離したスケールを回収する工程を備えていてもよい。
【0056】
次に、上記溶解除去組成物における成分の選定根拠について説明する。
【0057】
溶解除去組成物(試験液)のベース組成は以下の通りとし、各成分の含有量または種類を適宜変更して、溶解除去組成物のスケール除去性、防食性および洗浄後の硫黄残量を評価するための試験を実施した。
【0058】
1.試験液
1.1 ベース組成(pH5.5)
成分A:1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸 15重量%
成分B:2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(MTD) 0.0015重量%
成分C:3-メルカプトプロピオン酸 1.5重量%
成分D-1:3-[ラウリル[3-(ソジオオキシ)-3-オキソプロピル]アミノ]プロピオン酸 0.5重量%
成分D-2:ポリオキシアルキレンオレイルエーテル 0.1重量%
成分E:亜ジチオン酸ナトリウム 0.1重量%
成分F:シリコーン系消泡剤 0.015重量%
【0059】
1.2 製造方法
試験液は、純水に、(A)主剤、(B)母材反応物生成成分、(C)母材反応物溶解成分、(D-1)両性界面活性剤、(D-2)非イオン界面活性剤、(E)還元剤および(F)消泡剤を室温にて順次添加して混合し、水酸化カリウム(KOH)を用いてpHを調整して製造した。
【0060】
2.スケール除去性
2.1 試験体の作成
まず、内面にマグネタイト(Fe)およびヘマタイト(Fe)が付着したボイラ火炉抜管チューブを長さ24mmに切断した後、縦に半割りした。次に、スケール付着部分以外、すなわち、チューブ外周および切断面をエポキシ樹脂で被覆した。
【0061】
試験体(半割チューブ2つ)におけるスケール付着部分の表面積は、12.1cmであった。試験体におけるスケール付着量は、マグネタイト18mg/m、ヘマタイト0.6mg/cmであった。
【0062】
2.2 洗浄試験
図5に示すように、直径30mmのアクリルビーカーに回転子を入れ、孔をあけた直径26mmの台を回転子にかぶせるよう設置した。スケール付着面が内側になるように、台の上に半割チューブ2つ(試験体)を置いた。スケール付着部分の表面積に対する比率が1.3(mL/cm)となるよう、アクリルビーカー内に試験液15.7mLを投入した。
【0063】
大気環境下でアクリルビーカーをゴム栓で密閉し、スターラー付き恒温水槽中に設置した。恒温水槽の液温は40℃とした。スターラーで撹拌しながら30時間反応させた後、試験体をアクリルビーカーから取り出した。
【0064】
取り出した試験体を数秒間水洗した後、80℃に加熱したヒドラジン水溶液(0.05重量%)中で30分間、防錆処理をした。
【0065】
防錆処理した後の試験体について、目視でスケール残面積を確認し、以下の式(2)にてスケール除去面積率(%)を算出した。
【0066】
スケール除去面積率(%)
=(初期スケール面積-スケール残面積)/初期スケール面積×100 ・・・(2)
【0067】
3.防食性
3.1 試験体の作成
スケールの付着していないボイラチューブ(STBA23)を縦に半割した後、横5cmに切断した。#150のサンドペーパーで研磨後、トルエン、アセトンで順次脱脂し、試験体とした。試験体の表面積は26cmであった。
【0068】
3.2 腐食試験
図6に示すように、ガラス容器に回転子を入れ、孔をあけた台を回転子にかぶせるよう設置し、台の上に試験体を置いた。試験体の表面積に対する比率が4(mL/cm)となるよう、ガラス容器内に試験液104mLを投入した。
【0069】
溶解時の全鉄量が2.25重量%となるように試薬酸化鉄粉末を試験液に投入して、大気環境下でガラス容器に蓋をして密閉した。試薬酸化鉄粉末は、試薬マグネタイト粉末および試薬ヘマタイト粉末を9:1で含む。
【0070】
スターラーで撹拌しながら、40℃で20時間放置した後、試験体をガラス容器から取り出した。取り出した試験体を数秒間水洗した後、80℃に加熱したヒドラジン水溶液(0.05重量%)中で30分間、防錆処理をした。
【0071】
試験前後の試験体の重量変化から、腐食量(mg/cm)を算出した。
【0072】
4.硫黄残量
上記2.2と同様に洗浄し、アクリルビーカーから取り出して数秒間水洗した後の試験体に下記の処理(リンス処理)を行った。
【0073】
まず、過酸化水素水(2重量%)に試験体を浸漬した。50℃の恒温槽中で1時間撹拌した後、試験体を2重量%クエン酸水溶液に移した。2重量%クエン酸水溶液量は、試験体の表面積に対して1.3倍とした。
【0074】
50℃の恒温槽中で1時間撹拌した後、試験体をヒドラジン水溶液に移し、防錆処理を行った。試験体を十分に乾燥させ、走査型電子顕微鏡(SEM)により元素分析(EDX)を行った。電圧20kV、拡大倍率200倍で、測定位置を変えながら3点測定して平均をとり、硫黄元素の重量%を求めた。
【0075】
硫黄残量は、0.4重量%以上0.8重量%未満であってよく、0.4重量%未満であると好ましい。
【0076】
5.結果
5.1 成分A,B,Cの作用効果
図7に、成分A(主剤)、成分B(母材反応物生成成分)および成分C(母材反応物溶解成分)の有無が、スケール除去性および防食性に与える影響を示す。
【0077】
ベース組成の試験液を用いた洗浄では、スケール除去面積率が90%、腐食量が2.6mg/cmであった。
【0078】
スケール除去面積率は、40%以上であってよく、70%以上であることが好ましい。スケール除去面積率の合格判定基準を70%としても、ベース組成の試験液は合格判定基準を満たす。
【0079】
腐食量は、5~10mg/cmであってよく、5mg/cm未満であることが好ましい。腐食量(防食性)の合格判定基準を5mg/cm未満としても、ベース組成の試験液は合格判定基準を満たす。
【0080】
成分Aを含まない試験液では、スケール除去面積率が低くなり、合格判定基準を満たさなかった。この結果から、成分Aの有無が、スケール除去性に影響を与えることが確認された。
【0081】
成分Bを含まない試験液では、スケール除去面積率が20%であった。成分Cを含まない試験液では、スケール除去面積率が90%であった。成分Bおよび成分Cを含まない試験液ではスケール除去面積率が90%となった。このことから、成分Cを含まなければ、腐食反応により成分A単独で高いスケール除去性が示されるが、成分Cを含む場合には、成分Bの有無がスケール除去性に影響を与えることが示唆された。
【0082】
成分Aを含まない試験液および成分Bを含まない試験液では、腐食量が5mg/cm未満であり、合格判定基準を満たしていた。一方、成分Cを含まない試験液では、腐食量が46.1mg/cmとなり、合格判定基準を満たさなかった。これにより、成分Cの有無が、防食性に影響を与えることが確認された。
【0083】
上記結果によれば、成分A,成分Bおよび成分Cが共存する試験液が、スケール除去性が最も高く、かつ、防食性に優れていた。付着しているスケール量が同じであれば、上記実施形態に係る溶解除去組成物を用いることで、洗浄時間を短縮できる。
【0084】
5.2 主剤の含有量
図8に、試験液の主剤(成分A)の含有量を0~28重量%で変化させた結果を示す。図9は、主剤の含有量とスケール除去面積率との関係を示す図である。同図において、横軸は試験液における主剤の含有量(重量%)、縦軸はスケール除去面積率(%)である。
【0085】
図8および図9によれば、主剤の含有量が少なすぎても、多すぎても、スケール除去面積率は低くなった。これは、主剤の含有量が少ないことでスケール溶解速度が低くなる一方で、主剤の含有量が多いことで試験液の粘度と水分量が低下してスケール溶解速度が低くなったことに起因すると推測される。
【0086】
主剤の含有量が11重量%以上25重量%以下の試験液(No.4~6)で、スケール除去面積率は70%以上となった。主剤の含有量が15重量%以上20重量%では、90%程度のスケール除去面積率となった。
【0087】
図9によれば、主剤の含有量が10重量%の試験液(No.3)と、11重量%の試験液(No.4)との間で、スケール除去面積率が顕著に変化することがわかる。主剤の含有量が25重量%の試験液(No.6)の後でも、スケール除去面積率は顕著に変化しているようであった。
【0088】
腐食量については、試験液No.1~7のいずれにおいても、5mg/cmを下回り、合格判定基準を満たしていた(図8参照)。
【0089】
5.3 母材反応物生成成分の含有量
図10に、試験液の母材反応物生成成分(成分B)の含有量を0~0.004重量%で変化させた結果を示す。図11は、母材反応物生成成分の含有量とスケール除去面積率との関係を示す図である。同図において、横軸は試験液における母材反応物生成成分の含有量(重量%)、縦軸はスケール除去面積率(%)である。
【0090】
図10および図11によれば、母材反応物生成成分の含有量が増えるにつれて、スケール除去面積率は高くなった。図11によれば、母材反応物生成成分の含有量が0.003重量%以上の試験液で、スケール除去面積率が70%以上となることがわかる。
【0091】
腐食量については、試験液No.8~11のいずれにおいても、5mg/cmを下回っていた(図10参照)。
【0092】
5.4 母材反応物溶解成分の含有量
図12に、試験液の母材反応物溶解成分(成分C)の含有量を0~5.5重量%で変化させた結果を示す。図13は、母材反応物溶解成分の含有量とスケール除去面積率との関係を示す図である。同図において、横軸は試験液における母材反応物溶解成分の含有量(重量%)、縦軸はスケール除去面積率(%)である。図14は、母材反応物溶解成分の含有量と腐食量との関係を示す図である。同図において、横軸は試験液における母材反応物溶解成分の含有量(重量%)、縦軸は腐食量(mg/cm)である。図15は、母材反応物溶解成分の含有量と硫黄残量との関係を示す図である。同図において、横軸は試験液における母材反応物溶解成分の含有量(重量%)、縦軸は硫黄残量(重量%)である。
【0093】
図12および図13によれば、母材反応物溶解成分が含まれない試験液(No.12)では、スケール除去面積率が90%であった。母材反応物溶解成分を添加すると、一旦、スケール除去面積率は45%まで低下したが、その後、上昇に転じ、母材反応物溶解成分の含有量が0.7重量%以上含まれる試験液(No.15~17)では、スケール除去面積率が85%以上となった。
【0094】
図12および図14によれば、腐食量は、母材反応物溶解成分が含まれない試験液(No.12)で10mg/cmを大きく超えていたが、母材反応物溶解成分の含有量が増えるにつれて低下した。母材反応物溶解成分の含有量が0.7重量%以上の試験液(No.15~17)で、腐食量は5mg/cmよりも低くなった。
【0095】
図12および図15によれば、リンス処理後の硫黄残量は、母材反応物溶解成分の含有量の増加とともに一旦低下したが、母材反応物溶解成分の含有量が増えすぎると、上昇に転じた。母材反応物溶解成分の含有量が0.7重量%以上5重量%以下の試験液(No.15,16)で、リンス処理後の硫黄残量を0.4重量%未満に抑えられた。
【0096】
5.5 pH
図16に、試験液のpHを5.5~9.0の範囲で変化させた結果を示す。図17は、試験液のpHとスケール除去面積率との関係を示す図である。同図において、横軸は試験液のpH、縦軸はスケール除去面積率(%)である。
【0097】
試験液のpHが高いと、スケール除去面積率は低くなった。図17によれば、pHが7以下であれば、スケール除去面積率が70%以上となる。
【0098】
腐食量は、pHが高くなるにつれて上昇し、pH7以下で、腐食量が5mg/cmを下回ると考えられた。
【0099】
5.6 主剤の種類
図18に、主剤(成分A)の種類を替えた結果を示す。
成分Aとして、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミン四酢酸を用いた試験液では、スケール除去面積率が80%以上、腐食量は5mg/cm未満、硫黄残量は0.4重量%未満となった。
【0100】
一方、成分Aとしてクエン酸を用いた試験液では、スケール除去面積率は低くなり、腐食量は5mg/cmよりも高くなった。
【0101】
5.7 母材反応物生成成分の種類
図19に、母材反応物生成成分(成分B)の種類を替えた結果を示す。
成分Bとして、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-メチルチオ-1,3,4-ジアジアゾール、1,3,4-チアジアゾール-2-チオール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、または5-メチル-1,3,4-チアジアゾール-2-チオールを用いた試験液では、スケール除去面積率が80%以上、腐食量は5mg/cm未満、硫黄残量は0.4重量%未満となった。
【0102】
一方、成分Bとしてベンゾトリアゾールを用いた試験液では、腐食量が5mg/cm未満、硫黄残量が0.4重量%未満である一方、スケール除去面積率は20%と低くなった。
【0103】
5.8 母材反応物溶解成分の種類
図20に、母材反応物溶解成分(成分C)の種類を替えた結果を示す。
成分Cとして、3-メルカプトプロピオン酸、チオ乳酸を用いた試験液では、スケール除去面積率が85%以上、腐食量は5mg/cm未満、硫黄残量は0.4重量%未満となった。
【0104】
一方、成分Cとして、チオリンゴ酸を用いた試験液では、スケール除去面積率が85%以上、腐食量は5mg/cm未満であったが、硫黄残量は0.8重量%を超えた。
【0105】
チオリンゴ酸は、C4化合物であり、分子構造が大きいため、立体障害能が高く、溶解後の防食性が高い。しかしながら、分子構造が大きいことで、チオール基の母材反応物への頻度因子が小さくなり、母材反応物に対する溶解能が低下したものと推測される。
【0106】
成分Cとして、チオグリコール酸を用いた試験液では、スケール除去面積率が85%以上、硫黄残量は0.4重量%未満であったが、腐食量は10mg/cmよりも高かった。
【0107】
チオグリコール酸は、母材反応物に対する溶解能は強い。しかしながら、チオグリコール酸は、C2化合物であり、分子構造が小さいため、立体障害能が低く、溶解後の防食能に劣ったと推測される。
【0108】
成分Cとして、チオ酢酸を用いた試験液では、スケール除去面積率が20%以上であり、腐食量は10mg/cmを超えた。
【0109】
チオ酢酸は、分子構造が小さいため、チオグリコール酸と同様に溶解後の防食能に劣ったと推測される。チオ酢酸は、母材反応物溶解性を示すと考えられるカルボン酸基を有しないため、スケール除去性が低くなったと推測される。
【0110】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載の溶解除去組成物および洗浄方法は、例えば以下のように把握される。
【0111】
本開示は、母材に付着した金属酸化物を含むスケールを溶解除去する主剤と、前記母材と反応して反応物を生成する母材反応物生成成分と、前記反応物を溶解除去する母材反応物溶解成分と、を含む溶解除去組成物を提供する。
【0112】
本開示は、金属酸化物を含むスケールが付着した母材を含む洗浄対象を洗浄する方法であって、主剤、母材反応物生成成分および母材反応物溶解成分を含む洗浄液で前記洗浄対象を洗浄し、主剤によって前記母材から前記スケールの少なくとも一部を溶解除去し、母材反応物生成成分を前記母材と反応させて前記母材と前記スケールの間に反応物を生成させ、母材反応物溶解成分によって前記反応物を溶解除去する、洗浄方法を提供する。
【0113】
金属酸化物を含むスケールは、主剤によって表面側から溶解除去される。
【0114】
スケールが溶解した箇所またはスケールの隙間部分で母材が露出している部分では、母材成分が母材反応物生成成分と反応して母材反応物が生成される。母材反応物は、母材に防食性を付与する。
【0115】
母材反応物溶解成分は、母材反応物を溶解する。これにより、スケールが剥離除去される。
【0116】
上記開示では、2つの除去機構によりスケールを除去することによって、主剤で溶解除去していた従来法よりも洗浄時間を短縮できる。
【0117】
母材反応物溶解成分が含まれない条件では、スケールの剥離は進行するが、腐食量が大きくなる。上記開示では、母材反応物溶解成分を含むことで、母材の腐食量を抑えつつ、スケールの剥離を促進させ、洗浄時間を短縮できる。
【0118】
上記開示の一態様において、前記母材反応物溶解成分は、チオール基およびカルボン酸基を有するC3化合物またはその塩であってよい。
【0119】
チオール基およびカルボン酸基を有するC3化合物またはその塩は、反応物溶解能および溶解後の適度な防食能を備えている。
【0120】
上記開示の一態様において、全重量に対して、前記母材反応物溶解成分は0.7重量%以上5重量%以下で含まれ得る。
【0121】
母材反応物溶解成分が少なすぎると、スケール除去性および防食性が低下し、リンス処理後の硫黄残量も多くなる。母材反応物溶解成分が多すぎると、リンス処理後の硫黄残量が増える。
【0122】
上記開示の一態様において、前記主剤は、アミノカルボン酸類、ホスホン酸類およびそれらの塩からなる群から選択され得る。
【0123】
上記開示の一態様において、全重量に対して、前記主剤は11重量%以上25重量%以下で含まれ得る。
【0124】
主剤は、多すぎても少なすぎても、スケール除去性が低下する。主剤の含有量が上記範囲であれば、スケール除去性が高くなる。
【0125】
上記開示の一態様において、溶解除去組成物のpHは5から7であり得る。
【0126】
上記開示の一態様において、前記母材反応物生成成分は、平面骨格を有するチアジアゾール系化合物であり得る。
【0127】
平面骨格を有することで、層状で強固な母材反応物が生成され得る。層状で強固な母材反応物は、剥離性が良好であり得る。
【0128】
上記開示の一態様において、前記平面骨格は、1,3,4-チアジアゾールであってよい。
【0129】
上記開示の一態様において、全重量に対して、前記母材反応物生成成分は、0.003重量%以上で含まれ得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20