(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064976
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】ボトル缶及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 3/00 20060101AFI20230502BHJP
B41M 1/28 20060101ALI20230502BHJP
B65D 1/16 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
B41M3/00 Z
B41M1/28
B65D1/16 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175477
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】村山 朗
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 賢太
【テーマコード(参考)】
2H113
3E033
【Fターム(参考)】
2H113AA04
2H113AA06
2H113BA05
2H113BB10
2H113BB24
2H113CA25
2H113CA44
2H113CA46
2H113EA06
2H113FA05
2H113FA06
2H113FA10
2H113FA29
2H113FA36
3E033AA07
3E033BA09
3E033DA03
3E033DB01
3E033DD02
3E033EA09
3E033FA01
3E033GA02
(57)【要約】
【課題】首部に施される印字を印刷層に対して明瞭に識別して、検査機での誤検出を低減する。
【解決手段】有底円筒状の胴部と、該胴部の缶軸方向上端に連続し、該缶軸方向上方に向かうにしたがって漸次縮径する縮径部と、該縮径部の缶軸方向に配置された首部と、該首部の缶軸方向上方に配置され、首部よりも径方向外方に膨出する膨出部及び該膨出部の缶軸方向上方に配置された雄ねじ部を有する口部と、を備え、胴部から少なくとも膨出部の下部までの外周面に印刷層が形成されており、該印刷層は、胴部及び縮径部において二回以上インキを転写してなるオーバーラップ部が形成されるとともに、首部及び膨出部の下部においては隙間が缶軸方向に沿って形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状の胴部と、該胴部の缶軸方向上端に連続し、該缶軸方向上方に向かうにしたがって漸次縮径する縮径部と、該縮径部の缶軸方向に配置された首部と、該首部の缶軸方向上方に配置され、前記首部よりも径方向外方に膨出する膨出部及び該膨出部の缶軸方向上方に配置された雄ねじ部を有する口部と、を備え、前記胴部から少なくとも前記膨出部の下部までの外周面に印刷層が形成されており、該印刷層は、前記胴部及び前記縮径部において二回以上インキを転写してなるオーバーラップ部が形成されるとともに、前記首部及び前記膨出部の下部においては隙間が缶軸方向に形成されていることを特徴とするボトル缶。
【請求項2】
前記隙間は周方向に1.0mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のボトル缶。
【請求項3】
前記印刷層における前記隙間を形成している端部は、前記隙間に近づくにしたがって漸次淡くなるようにグラデーションが付与されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のボトル缶。
【請求項4】
有底円筒状の筒体を成形する筒体成形工程と、前記筒体の外周面に印刷を施す印刷工程と、印刷済みの前記筒体を加工して、有底円筒状の胴部、該胴部の缶軸方向上端に連続し、該缶軸方向上方に向かうにしたがって漸次縮径する縮径部、該縮径部の缶軸方向に配置された首部、該首部の缶軸方向上方に配置され、前記首部よりも径方向外方に膨出する膨出部及び該膨出部の缶軸方向上方に配置された雄ねじ部を有する口部、を備えるボトル缶を成形するボトル缶成形工程と、を備え、
前記印刷工程は、前記筒体を缶軸を中心に一周以上回転させながら外周面にインキを転写して印刷層を形成するとともに、前記胴部及び前記縮径部となる領域においては、前記印刷層に二回以上インキを転写してなるオーバーラップ部を形成し、前記首部及び前記膨出部となる領域においては、前記印刷層の隙間を缶軸方向に沿って形成することを特徴とするボトル缶の製造方法。
【請求項5】
前記印刷工程では、前記印刷層のうち、前記胴部から前記縮径部となる領域までの外周面に比べて、前記首部及び前記膨出部の下部となる領域の外周面のインキの転写量が少ないことを特徴とする請求項4に記載のボトル缶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料等の内容物が充填されるボトル缶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料等の内容物が充填、密封される缶体として、缶の開口端部にキャップが装着されたボトル缶が知られている。このボトル缶は、絞りしごき加工等を経た有底円筒状の筒体の胴部の上部が、縮径加工により大きく縮径され、その縮径した口部に膨出部や雄ねじ部等を成形して製造される。このようなボトル缶において、印刷は、胴部の縮径加工の前の有底円筒状の筒体に対して行われる。
【0003】
このような筒体の外面に印刷する方法として、特許文献1や特許文献2に記載された方法が知られている。
特許文献1に記載の方法は、凸版を用いた印刷法であり、凹凸のある版の凸部にインキを付けて、筒体に転写する方法である。
特許文献2に記載の方法は、水なし平版を用いた印刷法であり、画像部以外の部分のインキ反発部をシリコーン樹脂により形成し、画像部にインキを付けて、筒体に転写する方法である。
いずれの場合も、印刷版からブランケットを介して筒体にインキを転写する。
【0004】
ところで、キャップの下端とボトル缶に形成された印刷層の上端との間に印刷がされていないボトル缶のアルミ地が見えることを避けるため、この部分にも印刷を施す要望があり、その要望に応えるために、特許文献3に記載のボトル缶及びその製造方法が提案された。
このボトル缶では、円筒状の胴部、テーパ部、首部並びに膨出部の下部となる領域に対してインキを塗布し、膨出部の下部となる第1塗布領域の単位面積当たりのインキの塗布量を円筒状の胴部となる第2塗布領域の単位面積当たりのインキの塗布量より少なくしており、縮径加工時に印刷層が凝集されることによる印刷層の剥がれを抑制するとともに、キャップの装着時及び開封時にキャップが印刷層にこすれることによる印刷層の剥がれを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63‐162241号公報
【特許文献2】特開2002‐36710号公報
【特許文献3】特開2021‐17007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ボトル缶の充填工場にて、インクジェットプリンター等にて首部あるいは膨出部に製造ロット等の識別のための印字を施すことがあり、上述のように膨出部にまで印刷した状態で印字すると、印刷層において二回以上インキを転写してなるオーバーラップ部と印字が重なった場合などに、印字の検査工程で、検査機がオーバーラップ部を誤認識して印字不良とされる不具合が生じる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、首部に施される印字を印刷層に対して明瞭に識別して、検査機での誤検出を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のボトル缶は、有底円筒状の胴部と、該胴部の缶軸方向上端に連続し、該缶軸方向上方に向かうにしたがって漸次縮径する縮径部と、該縮径部の缶軸方向に配置された首部と、該首部の缶軸方向上方に配置され、前記首部よりも径方向外方に膨出する膨出部及び該膨出部の缶軸方向上方に配置された雄ねじ部を有する口部と、を備え、前記胴部から少なくとも前記膨出部の下部までの外周面に印刷層が形成されており、該印刷層は、前記胴部及び前記縮径部において二回以上インキを転写してなるオーバーラップ部が形成されるとともに、前記首部及び前記膨出部の下部においては隙間が缶軸方向に沿って形成されている。
【0009】
このボトル缶は、首部及び膨出部の下部まで印刷層が形成されているので、キャップを装着した際に、キャップの下方でアルミ地が露出せずにキャップ下縁から印刷層が露出するので、優れた意匠を施すことができる。
また、首部及び膨出部の下部においては、印刷層のオーバーラップ部に対応する位置の付近に、オーバーラップ部ではなく隙間が形成されているので、これら首部又は膨出部に施した印字がオーバーラップ部の延長上で重なったとしても、隙間により印字を明瞭に識別することができ、誤検出を低減できる。
この場合、隙間に代えてオーバーラップ部とし、そのオーバーラップ部付近の印刷が淡くなるように、色の明暗や色調を徐々に変化させたグラデーションとすることも考えられるが、その場合でも印字を識別するのは難しい。
【0010】
なお、印刷層とその上に付される印字とは、オーバーラップ部以外の部分では、明度等において識別できる関係のものが用いられる。ただし、印刷層に付される印字であるので、ある程度、色調が近いものが選択される。例えば、シルバー、金属光沢のある濃いグレー(いわゆるガンメタリック:略してガンメタ)の印刷層に対して、黒色又は黒系の濃い色の印字を付す場合が該当する。その印字に対して金色の印刷層の場合は、印字を識別し易く、誤検出のおそれが少ない。
【0011】
本発明のボトル缶において、前記隙間は周方向に1.0mm以下であるとよい。隙間が大きすぎると、アルミ地が目立つことになり、意匠性が損なわれる。その限界が1.0mmであり、0.5mm以下がより好ましい。隙間の下限はオーバーラップ部が形成されない範囲であればよい。
【0012】
本発明のボトル缶において、前記印刷層における前記隙間を形成している端部は、前記隙間に近づくにしたがって漸次淡くなるようにグラデーションが付与されていてもよい。
【0013】
印刷層に隙間を形成する場合、印刷層の端縁部にインキが集中して塗布される場合があり、端縁部が濃くなって、オーバーラップ部と同様の誤検出が生じるおそれがあるが、隙間を形成している端部に、隙間に近づくにしたがって漸次淡くなるようにグラデーションを付与しておくことにより、印字を明瞭に識別でき、検査精度をより向上させることができる。
【0014】
本発明のボトル缶の製造方法は、有底円筒状の筒体を成形する筒体成形工程と、前記筒体の外周面に印刷を施す印刷工程と、印刷済みの前記筒体を加工して、有底円筒状の胴部、該胴部の缶軸方向上端に連続し、該缶軸方向上方に向かうにしたがって漸次縮径する縮径部、該縮径部の缶軸方向に配置された首部、該首部の缶軸方向上方に配置され、前記首部よりも径方向外方に膨出する膨出部及び該膨出部の缶軸方向上方に配置された雄ねじ部を有する口部、を備えるボトル缶を成形するボトル缶成形工程と、を備え、
前記印刷工程は、前記筒体を缶軸を中心に一周以上回転させながら外周面にインキを転写して印刷層を形成するとともに、前記胴部及び前記縮径部となる領域においては、前記印刷層に二回以上インキを転写してなるオーバーラップ部を形成し、前記首部及び前記膨出部となる領域においては、前記印刷層の隙間を缶軸方向に沿って形成する。
【0015】
本発明のボトル缶の製造方法において、前記印刷層のうち、前記胴部から前記縮径部となる領域までの外周面に比べて、前記首部及び前記膨出部の下部となる領域の外周面のインキの転写量が少ないとよい。
【0016】
首部付近は縮径されるので、単位面積当たりのインキの塗布量が増加する。このため、首部付近のインキの転写量を予め少なくしておくことにより、縮径加工されたときに適切な印刷層に仕上げることができる。
具体的には、胴部から縮径部となる領域までの外周面をいわゆるベタ印刷、首部付近を網点印刷とするとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ボトル缶の首部に施される印字を印刷層に対して明瞭に識別して、検査機での誤検出を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態のボトル缶とキャップとを示す正面図である。
【
図2】
図1に示すボトル缶の縮径部より上方部分の拡大図である。
【
図3】
図1に示すボトル缶の膨出部近傍の拡大図である。
【
図4】上記実施形態のボトル缶の製造工程を(a)~(c)の順に示す図であり、(a)及び(b)が缶軸を通る縦断面図、(c)が正面図である。
【
図5】筒体の外周面に印刷を施すための印刷機の概略構成を示す模式図である。
【
図6】印刷工程の際に用いられる印刷版の模式図であり、(a)が主印刷版、(b)が控印刷版である。
【
図7】主印刷版の他の例を示す
図6(a)同様の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態の製造方法により製造されるボトル缶1は、アルミニウム又はアルミニウム合金等からなる金属板をプレス加工等して形成され、
図1に示すように、底部2aを有する円筒状の胴部2と、該胴部2の缶軸方向上端に連続し、該缶軸方向上方に向かうにしたがって漸次縮径する縮径部3と、該縮径部3の缶軸方向上方に配置された首部4と、該首部4の缶軸方向上方に配置され、首部4よりも径方向外方に膨出する膨出部5及び該膨出部5の缶軸方向上方に配置された雄ねじ部6、該雄ねじ部6の上端で開口部の周縁部が丸められてなるカール部7を有する口部8と、を備えている。
図1において、符号Cは缶軸を示す。膨出部5は、キャップ30のスリット31部を含む裾部32を巻き締めるために用いられる。
【0020】
縮径部3の上端部から口部8を
図2及び
図3に拡大して示すように、縮径部3と首部4との間には、首部4よりわずかに外径の大きい段部11が形成されている。この段部11は、縮径部3の上端から凹状にわずかにくぼむように形成された凹溝部12を介してほぼストレートの円筒状部13が缶軸Cに沿って形成され、その円筒状部13の上端に凸円弧面14が連続して形成されている。そして、この凸円弧面14の上端と首部4の下端との間が凹円弧面15により滑らかに接続されている。
【0021】
首部4は缶軸Cに沿って延びるほぼ円筒状に形成され、その上端と膨出部5の下端との間が凹円弧状の湾曲面21に形成されている。膨出部5は、
図3に示す例では、首部4から缶軸Cの上方に向かうにしたがって徐々に拡径する下側傾斜部22と、径方向外方に凸状に形成されて最大外径となる頂部23と、頂部23から缶軸Cの上方に向かうにしたがって徐々に縮径する上側傾斜部24とを有しており、その上側傾斜部24の上端が雄ねじ部6の下端に接続される。
なお、下側傾斜部22及び上側傾斜部24はテーパ面状に形成されていてもよいが、若干径方向外側に膨らむ円弧面状に形成されてもよい。
【0022】
本実施形態のボトル缶1は、胴部2の外径が公称径で211径(65mm以上67mm以下)に用いられるものであるが、これに限定されるものではなく、それ以外の例えば204径等に適用してもよい。口部8の雄ねじ部6の外径は例えば公称38mm(37mm以上38mm以下)に形成される。
【0023】
このボトル缶1は、口部8にキャップ30を被せて、そのキャップ30を口部8の雄ねじ部6に倣うようにねじ加工するとともに、裾部32の下端部を膨出部5の下側傾斜部22に巻き込むことにより、内部が密封される。なお、キャップ30の裾部32が膨出部5の下側傾斜部22に巻き込まれるので、膨出部5の大部分はキャップ30により覆われ、外部から視認できない状態となる。膨出部5及び首部4の領域においては、下側傾斜部22の一部、あるいは凹円弧状の湾曲面21の一部又は全部が首部4とともに露出した状態となる。
【0024】
そして、このボトル缶1において、底部2aを除く胴部2、縮径部3、首部4、膨出部5の一部の外面に印刷が施されている。この印刷により形成される印刷層40は、底部2aを除く胴部2及び縮径部3とともに、首部4及び口部8の下端部まで形成される。具体的には、前述したようにキャップ30を装着したときに、膨出部5の下側傾斜部22の一部、あるいは湾曲面21の一部又は全部が露出した状態となるので、印刷層40は、湾曲面21を超えて膨出部5の下側傾斜部22の少なくとも途中まで形成される。
【0025】
また、この印刷層40は、後述するように、印刷機のブランケットから外周面に一周以上インキを転写することにより形成され、したがって、周方向の一か所に二回以上インキが転写されてなるオーバーラップ部41が缶軸Cに沿って形成される。
このオーバーラップ部41は、底部2aを除く胴部2及び縮径部3の外周面に形成され、インキが二回重ね塗りされることにより、他の部位よりも濃く形成され、
図2に示すようにボトル缶1の外面に缶軸Cに沿って線状に形成される。
【0026】
一方、首部4及び膨出部5においては、オーバーラップ部41に代えて、隙間42が缶軸方向に沿って形成されている。この隙間42は、インキが転写されていないため、アルミ地が露出している。ただし、アルミ地の上には透明塗料又はホワイトコーティングによる下地塗装が施されている。
なお、この隙間42はオーバーラップ部41を延長する方向に形成される場合もあるが、印刷位置(印刷版とブランケットの位置)の関係で、必ずしもオーバーラップ部の真上に隙間が配置されるとは限らず、オーバーラップ部41を延長する方向から若干周方向にずれて形成される場合もある。
ボトル缶1の周方向に沿うオーバーラップ部41の幅は1.0mm程度、隙間42の幅Wは1.0mm以下(好ましくは0.5mm以下)に形成される。
【0027】
このボトル缶1を製造するには、まず、アルミニウム板材を打ち抜いて絞り加工することにより、
図4(a)に示すように比較的大径で浅いカップ51を成形する(カップ成形工程)。その後、このカップ51に再度の絞り加工及びしごき加工を加えて同図(b)に示すように所定高さの有底円筒状の筒体52を成形する。この絞りしごき加工により、筒体52の上端部に耳部が発生するので、上端部をトリミングして、高さを周方向に揃えた状態とする(筒体成形工程)。この筒体成形工程により、筒体52の底部は最終のボトル缶1としての底部2aの形状に成形される。
【0028】
次いで、筒体52を脱脂及び化成処理した後、下地塗装した(下地塗装工程)後、印刷機60に供給して、外周面52aに印刷を施すとともに、その印刷層40を含む外周面52a全体に透明な塗膜(オーバーコート又は仕上げニス)を形成し、この外面塗装後の筒体52をオーブン内に通して印刷層40及び塗膜を焼き付け、乾燥する(印刷工程)。印刷層40の下の下地層及び印刷層40の上の塗膜はいずれも印刷層40よりも広い面積で形成される。
【0029】
下地塗装は、筒体52と印刷層40との密着性を高めるために形成され、例えば高分子ポリエステル‐アミノ樹脂系塗料を塗布することにより形成される。透明な塗料による下地塗装もあるが、チタンホワイト等の白色顔料を添加したホワイトコートによる下地塗装もある。
【0030】
印刷機60は、
図5に示すようにインキ付着機構70と缶移動機構80とを備えている。インキ付着機構70は、色毎のインキを供給する複数のインカーユニット71と、各インカーユニット71の印刷版胴72に接触してインキを写し取った後、筒体52に接触してインキを筒体52の外周面52aに転写するブランケット胴73とから構成されている。印刷版胴72の外周面には、筒体52に印刷される図柄に応じた印刷版が巻き付けられている。この印刷版については後述する。ブランケット胴73はその外周に各印刷版胴72の印刷版よりインキが転写される複数のブランケット74を備えている。
【0031】
一方、缶移動機構80は、筒体52を取り入れる供給シュータ81と、この供給シュータ81から供給された筒体52を回転自在に保持する複数のマンドレル82と、このマンドレル82に装着された筒体52を順次インキ付着機構70のブランケット胴73側に移動させるマンドレルターレット83とを備えており、印刷後の筒体52は、マンドレル82からチェーンコンベア(図示略)に渡されてオーブン(図示略)に搬送される。また、マンドレルターレット83において、印刷後の筒体52を移送する途中位置に、筒体52の外面に塗膜を形成するためのロールコーター85が設けられている。
【0032】
そして、ブランケット胴73の各ブランケット74に、各インカーユニット71の印刷版胴72から各色のインキが図柄パターンとして順次転写され、そのブランケット74に、マンドレル82により内側から支持された筒体52が接触して転動することにより、筒体52の外周面52aに印刷される。印刷後、ロールコーター85によって印刷層40を含む外周面52a全体に樹脂塗膜のオーバーコートが形成される。印刷・外面塗装後の筒体52は、乾燥・焼き付け処理される。
印刷層40の上に形成される塗膜は、印刷層40の表面を保護し滑り性を向上させるためのもので、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂等の透明塗料が用いられる。
【0033】
次いで、筒体52の内周面にスプレー等により塗料を吹き付けて内面塗装を行い、焼き付け、乾燥する(内面塗装工程)。
その後、筒体52の上端部を成形して、
図4(c)に示すように、下側部分をそのまま胴部2とし、胴部2より上方部分を縮径して、縮径部3、及びその上方に小径部18を形成する。この縮径加工により、外形がボトル形状の缶(ボトル形状缶19とする)となり、胴部2から縮径部3までの部分は最終形状となる。最後に、このボトル形状缶19の小径部18に首部4と、膨出部5及び雄ねじ部6、カール部7等を有する口部8と、を形成する(ボトル缶成形工程)。
【0034】
この一連の製造工程において、筒体52への印刷はオフセット印刷形式が採用されており、前述したように、色毎に設けた印刷版胴72に各色のインキを付着させ、これら印刷版胴72から一旦ブランケット74に順次転写してから、そのブランケット74から筒体52に転写する。その印刷版胴72の印刷版としては、凸版又は水なし平版が用いられ、印刷画像は、凸版の凸部や水なし平板の画線部により形成される。
【0035】
印刷版胴72に巻き付けられる印刷版としては、
図6に示すような主印刷版91と控印刷版92との2種類の印刷版が用いられる。
主印刷版91は、ボトル缶1に成形したときに底部2aを除く胴部2から膨出部5の下側傾斜部22の途中まで到達する領域にインキを転写するもので、第1領域部93と第2領域部94とを有している。第1領域部93は、缶軸方向に沿う高さは、ボトル缶1に成形したときに、底部2aを除く胴部2から縮径部3の上端までの範囲にインキを転写できる高さに形成される。周方向の長さは、ボトル缶1の胴部2の全周を完全に覆うまでには至らず、胴部2の周方向長さより若干短い長さに形成される。この第1領域部93は、いわゆる「ベタ」でインキを転写するベタ版により構成される。
第2領域部94は、第1領域部93がベタ版により構成されるのに対して、網点版により構成されている。ベタ版に比べて網点版は、単位面積当たりのインキの転写量が少なくなる。そして、第1領域部93の長さ方向の一端部に、周方向に延長するように配置された周方向延長部941と、第1領域部93の上端に連続して高さ方向に延びる高さ方向延長部942とにより形成されている。
【0036】
この網点版からなる第2領域部94において、周方向延長部941は、第1領域部93が胴部2の一周分に足りない長さであるのに対して、この周方向延長部941が継ぎ足されることにより、第1領域部93と合わせると、胴部2の一周以上の長さに形成される。したがって、二回以上インキが転写されるオーバーラップ部41は、この周方向延長部941により形成される。
高さ方向延長部942は、第1領域部93が、ボトル缶1に成形されたときの縮径部3の上端までの範囲であるのに対して、その上方の膨出部5の下側傾斜部22の少なくとも一部まで延びて形成される。また、この高さ方向延長部942は、周方向延長部941の上方には形成されておらず、周方向延長部941の上方には版のない欠落部95とされている。したがって、筒体52の外周面に印刷を施すと、この高さ方向延長部942の両端縁間で隙間42が形成される。
【0037】
一方、控印刷版92は、その大きさを
図6(a)の二点鎖線で示したように、主印刷版91における第1領域部93よりわずかに小さい大きさに形成され、印刷時は、主印刷版91の周方向延長部941とは反対側の端縁に位置決めされる。したがって、この控印刷版92は、主印刷版91の第1領域部93で転写したインキの上に重ねてインキを転写する。この控印刷版92も、主印刷版91の第1領域部93と同様、ベタ版により構成される。
【0038】
なお、主印刷版91の第1領域部93及び控印刷版92と、主印刷版91の第2領域部94とは、単位面積当たりのインキの塗布量が前者に比べて後者が少なければよく、ベタ版と網点版とによる構成以外にも、いずれも網点とし、その網点の密度を変えることでインキの塗布量を異ならせてもよい、例えば、網点の密度(スクリーン線数)又は網点直径、あるいはこれらの双方を、主印刷版91の第1領域部93及び控印刷版92が大きく、主印刷版91の第2領域部94が小さくなるように設定することで、単位面積当たりのインキの塗布量を、前者に比べて後者を少なくしてもよい。
【0039】
このような印刷版91,92を用いて印刷され、ボトル缶1として成形されると、主印刷版91の第1領域部93が、印刷層40のうち、オーバーラップ部41を除く胴部2及び縮径部3の外面部分を形成するとともに、第2領域部94の周方向延長部941がオーバーラップ部41を形成する。一方、第2領域部94の高さ方向延長部942が縮径部3の上端から膨出部5の下側傾斜部22の一部までの範囲を形成する。なお、控印刷版92は、印刷版胴72において、主印刷版91に加えて第1領域部93の一部に重ねてインキを転写する。
【0040】
そして、印刷工程の後の縮径工程において、筒体52の上端部が縮径加工されることにより、縮径加工された部分(縮径部3及び小径部18)は、それぞれ単位面積当たりのインキの塗布量が、胴部2表面におけるものよりもそれぞれ増加することになる。印刷工程では、この成型後の外観を考慮して、単位面積当たりのインキの塗布量を設定しておけばよい。
【0041】
次いで、上記のようにして印刷され、成形されたボトル缶1は、充填工場にて飲料が充填され、キャッピングされる。その際に、製造ロット等を表示するために、ボトル缶1の首部4付近にインクジェットプリンター等により印字が施され、検査を経て出荷される。その検査には、印字の検査も含まれる。
この印字は、一般には黒色が多く、検査機において、印刷層40に対して識別できる色が用いられる。この印字がオーバーラップ部41に重なって形成されると、オーバーラップ部41が線状に形成されることから、印字の一部と誤検出されるおそれがあるが、前述したように、首部4付近には、印刷層40のオーバーラップ部41が形成されずに隙間42が形成されているので、この隙間42の上に印字がされた場合でも、検査機により正確に印字を検査することができ、誤検出を低減することができる。
【0042】
上述の実施形態では、印刷工程で用いられる主印刷版91において、第2領域部93の高さ方向延長部942は一様な網点に形成したが、隙間42を形成する両端縁部にグラデーションを形成してもよい。
具体的には、
図7に示す主印刷版97のように、第2領域部98の高さ方向延長部982の両端部に、その端縁に向かうにしたがって周方向に徐々に網点の密度を小さくし、端縁おいて網点の密度が最も小さくなるようにしたグラデーション部99とする。このグラデーション部99の周方向長さは3mm以上5mm以下がよい。
第1領域部83及び周方向延長部941は、
図6(a)に示す主印刷版91と同じである。
【0043】
インキを転写することにより印刷を施すため、版の周縁部でインキが凝集し易く、同じ網点密度でも、印刷層40の周縁部でインキの塗布量が多くなる傾向にある。高さ方向延長部の両端縁は印刷された際に隙間42を形成する部分であるため、インキの塗布量が多くなると、隙間42の両側が濃く印刷されることがあり、オーバーラップ部41で印字の誤検出が生じるのと同様に、印字が重なったときに誤検出を生じる原因となり易い。
このため、高さ方向延長部982における両端縁部の網点密度を徐々に小さくしたにグラデーション部99を形成することにより、隙間42の両側でインキの塗布量が増大しないようにするのである。
【実施例0044】
次に、印刷したボトル缶について、以下の実験を行い、評価した。
実施例は、上記実施形態の方法で印刷したボトル缶であり、胴部2及び縮径部3のオーバーラップ部41に対して、その縮径部3の上端から膨出部5の下側傾斜部22までの範囲に0.5mmの幅Wの隙間42を形成した。比較例は、隙間42を形成することなく、膨出部5の下側傾斜部22まで含めてオーバーラップ部とした。印刷色は、いずれもグレーと金の二種類ずつとした。
これら実施例及び比較例のボトル缶に対して、実施例では首部4の隙間42の部分に、比較例では首部4のオーバーラップ部に重なるようにして、黒色の印字を施し、光学式検査機により印字部分を読み取らせた。
その結果、印字を識別(文字が認識)できたものを「〇」、識別できなかったものを「×」とした。結果は表1の通りであった。
【0045】
【0046】
表1に示すように、実施例では印刷層40がグレー、金のいずれであっても印字を識別できたが、比較例の場合は、いずれも識別できずに誤検出された。
したがって、印刷層40において、首部4付近ではオーバーラップ部41を形成せずに隙間42を形成することにより、その上に形成される印字が隙間42の部分に重なった場合でも、明確に識別できることがわかった。