(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064993
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】発酵ビール様発泡性飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 12/04 20060101AFI20230502BHJP
C12G 3/025 20190101ALI20230502BHJP
C12C 7/04 20060101ALI20230502BHJP
C12H 3/00 20190101ALI20230502BHJP
C12G 3/021 20190101ALI20230502BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C12C12/04
C12G3/025
C12C7/04
C12H3/00
C12G3/021
A23L2/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175512
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋生
(72)【発明者】
【氏名】松島 健将
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B115AG02
4B115AG17
4B117LG13
4B117LG24
4B117LK11
4B117LK24
4B117LK25
4B117LP10
4B117LP20
4B128CP23
4B128CP39
(57)【要約】
【課題】本発明は、最終発酵度が低いにもかかわらず、苦味とうまみのバランスが良好な発酵ビール様発泡性飲料、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルコール度数が1~4容量%であり、最終発酵度が80%以下であり、アミノ態窒素濃度が5~12mg/100mLであり、苦味価が15~25BUである、発酵ビール様発泡性飲料、及び、仕込工程が、仕込槽内で、麦芽と水とトランスグルコシダーゼを含有する混合物を、45~55℃で所定時間保持するタンパク質分解工程と、仕込釜内で、前記麦芽の一部と麦芽以外の発酵原料と水とを含有する混合物を、68~80℃で所定時間保持する液化工程と、前記タンパク質分解工程後の仕込槽内の混合物と、前記液化工程後の仕込釜内の混合物とを混合し、得られた混合物に糖化処理を行う糖化工程と、を含む、発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール度数が1~4容量%であり、最終発酵度が80%以下であり、アミノ態窒素濃度が5~12mg/100mLであり、苦味価が15~25BUである、発酵ビール様発泡性飲料。
【請求項2】
苦味価(BU)に対するアミノ態窒素濃度(mg/100mL)の比率が0.2~0.7である、請求項1に記載の発酵ビール様発泡性飲料。
【請求項3】
イソコフムロンとイソアドフムロンとイソノルマルフムロンの合計濃度に対するイソコフムロン濃度の比率が40%以上である、請求項1又は2に記載の発酵ビール様発泡性飲料。
【請求項4】
麦芽を含む発酵原料を糖化して麦汁を調製する仕込工程と、
前記仕込工程で得られた麦汁に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
を有し、
前記仕込工程が、
仕込槽内で、麦芽と水とトランスグルコシダーゼを含有する混合物を、45~55℃で所定時間保持するタンパク質分解工程と、
前記タンパク質分解工程後、前記仕込槽内の一部と麦芽以外の発酵原料と水とを含有する混合物を、仕込釜内で、68~80℃で所定時間保持する液化工程と、
前記液化工程後に、前記仕込槽内の混合物と、前記仕込釜内の混合物とを混合し、得られた混合物に糖化処理を行う糖化工程と、
を含み、
苦味価を15~25BUに調整し、
前記タンパク質分解工程を、最終製品である飲料のアミノ態窒素濃度が5~12mg/100mLとなるように実施し、
アルコール度数が1~4容量%であり、最終発酵度が80%以下である発酵ビール様発泡性飲料を製造する、発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項5】
前記タンパク質分解工程において、前記混合物を、45~55℃で30~90分間保持する、請求項4に記載の発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項6】
飲料中のイソコフムロンとイソアドフムロンとイソノルマルフムロンの合計濃度に対するイソコフムロン濃度の比率が30%以上である発酵ビール様発泡性飲料を製造する、請求項4又は5に記載の発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項7】
飲料中のイソコフムロンとイソアドフムロンとイソノルマルフムロンの合計濃度に対するイソコフムロン濃度の比率が40%以上である発酵ビール様発泡性飲料を製造する、請求項4~6のいずれか一項に記載の発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項8】
前記発酵工程を、最終発酵度が60~72%となるように実施する、請求項4~7のいずれか一項に記載の発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項9】
麦芽使用量が発酵原料中の20~80質量%である、請求項4~8のいずれか一項に記載の発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項10】
麦芽、コーンスターチ、コーングリッツ、米、及び液糖からなる群より選択される一種以上のみを発酵原料とする、請求項4~8のいずれか一項に記載の発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最終発酵度が低く、アルコール度数が低い発酵ビール様発泡性飲料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビールと同様のテイストを有しつつ、アルコール濃度の低い、ローアルコールビールやノンアルコールビールに対する消費者のニーズが高まっている。これらのアルコール濃度の低いビール類は、一般的には、アルコール濃度が高いビールが飲めない場合に、ビールの代替として飲まれるものであるため、アルコール濃度以外は、ビールと同等のテイストを有することが好ましい。このため、よりビールと同等のテイストを有する低アルコールビールの開発が望まれている。
【0003】
アルコール濃度の低いビール類の製造方法としては、例えば、通常の製法により製造されたビール類に対して、加水希釈したり、アルコール分を除去することによってアルコール濃度を低下させる方法がある。また、発酵工程において、発酵時間や発酵温度を制御することにより、発酵を途中で停止させる方法や、濃度の薄い麦汁を発酵させる方法もある。しかしながら、これらの方法で製造された低アルコール飲料は、通常のビール類と比べて味が淡白であり、旨味やコク感に乏しいなど、味感や風味に関して普通のビール類には及ばない。
【0004】
低アルコールビールのコク感や香味を改善する方法としては、例えば、ビール製造における仕込工程において、α-グルコシダーゼ(トランスグルコシダーゼの別称)を添加する方法が開示されている(例えば、特許文献1又は2参照。)。トランスグルコシダーゼにより、麦汁中の発酵性糖類が非発酵性糖類に転換されるため、その後の発酵工程におけるアルコール生成量が抑制される。こうして得られた低アルコールビールは、非発酵性糖類を多く含むため、濃度の薄い麦汁を発酵させる方法等により得られた低アルコールビールよりも、コク味が高くなる。
【0005】
しかしながら、発酵性糖類からトランスグルコシダーゼにより合成されたイソマルトオリゴ糖はある程度の甘味性を有している。このため、低アルコールビールの製造において、ビールと同様のコク味やボディ感が得られる程度にまで、充分な量のイソマルトオリゴ糖を製品中に含有させた場合には、突出した甘味も付与されることになる。そこで、トランスグルコシダーゼにより非発酵性糖類を増大させた低アルコールビールの香味を、ビール類として好ましい香味へ改善する方法として、有機酸を添加して最終製品のpHを3.5~4.4に調整する方法(特許文献3)や、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)を1.0~11.0に調整する方法(特許文献4)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-68528号公報
【特許文献2】特開平5-68529号公報
【特許文献3】特開2012-239460号公報
【特許文献4】特開2015-133924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、最終発酵度が低いにもかかわらず、苦味とうまみのバランスが良好な発酵ビール様発泡性飲料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、仕込工程において、糖化処理する前に、原料の麦芽の少なくとも一部を特定の条件でトランスグルコシダーゼ処理することにより、最終飲料のアルコール度数が4%以下になるように最終発酵度を低く抑えた場合であっても、苦味とうまみのバランスが良好な発酵ビール様発泡性飲料を製造し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、下記の構成をとる。
[1] アルコール度数が1~4容量%であり、最終発酵度が80%以下であり、アミノ態窒素濃度が5~12mg/100mLであり、苦味価が15~25BUである、発酵ビール様発泡性飲料。
[2] 苦味価(BU)に対するアミノ態窒素濃度(mg/100mL)の比率が0.2~0.7である、前記[1]の発酵ビール様発泡性飲料。
[3] イソコフムロンとイソアドフムロンとイソノルマルフムロンの合計濃度に対するイソコフムロン濃度の比率が40%以上である、前記[1]又は[2]に記載の発酵ビール様発泡性飲料。
[4] 麦芽を含む発酵原料を糖化して麦汁を調製する仕込工程と、
前記仕込工程で得られた麦汁に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、
を有し、
前記仕込工程が、
仕込槽内で、麦芽と水とトランスグルコシダーゼを含有する混合物を、45~55℃で所定時間保持するタンパク質分解工程と、
前記タンパク質分解工程後、前記仕込槽内の一部と麦芽以外の発酵原料と水とを含有する混合物を、仕込釜内で、68~80℃で所定時間保持する液化工程と、
前記液化工程後に、前記仕込槽内の混合物と、前記仕込釜内の混合物とを混合し、得られた混合物に糖化処理を行う糖化工程と、
を含み、
苦味価を15~25BUに調整し、
前記タンパク質分解工程を、最終製品である飲料のアミノ態窒素濃度が5~12mg/100mLとなるように実施し、
アルコール度数が1~4容量%であり、最終発酵度が80%以下である発酵ビール様発泡性飲料を製造する、発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
[5] 前記タンパク質分解工程において、前記混合物を、45~55℃で30~90分間保持する、前記[4]の発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
[6] 飲料中のイソコフムロンとイソアドフムロンとイソノルマルフムロンの合計濃度に対するイソコフムロン濃度の比率が30%以上である発酵ビール様発泡性飲料を製造する、前記[4]又は[5]の発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
[7] 飲料中のイソコフムロンとイソアドフムロンとイソノルマルフムロンの合計濃度に対するイソコフムロン濃度の比率が40%以上である発酵ビール様発泡性飲料を製造する、前記[4]~[6]のいずれかの発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
[8] 前記発酵工程を、最終発酵度が60~72%となるように実施する、前記[4]~[7]のいずれかの発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
[9] 麦芽使用量が発酵原料中の20~80質量%である、前記[4]~[8]のいずれかの発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
[10] 麦芽、コーンスターチ、コーングリッツ、米、及び液糖からなる群より選択される一種以上のみを発酵原料とする、前記[4]~[8]のいずれかの発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料の製造方法により、アルコール度数が1~4容量%でありながら、アルコール濃度が4容量%よりも高い通常のビール類と同様に充分なコク感をもち、かつ香味のバランスがとれており、ビールらしいキレや軽快感を有している発酵ビール様発泡性飲料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明及び本願明細書において、「ビール様発泡性飲料」とは、炭酸ガスを含有する飲料のうち、「ビールらしさ」を有している飲料を意味する。「ビールらしさ」とは、製品名称・表示にかかわらず、香味上ビールを想起させる呈味のことを意味する。つまり、「ビール様発泡性飲料」とは、アルコール含有量、麦芽及びホップの使用の有無、発酵の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有し、高い止渇感・ドリンカビリティー(飽きずに何杯も飲み続けられる性質)を有する発泡性飲料を意味する。
【0012】
本発明及び本願明細書において、「発酵ビール様発泡性飲料」とは、発酵工程を経て製造されるビール様発泡性飲料を意味する。発酵方法は特に限定されるものではなく、単発酵であってもよく、単行複発酵であってもよく、並行複発酵であってもよいが、伝統的なビールの製造と同様に、麦芽等の原料に含まれるでんぷんを1~3糖に分解する糖化工程と、酵母により糖からアルコールを生成する発酵工程を、別個に経て製造される単行複発酵であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料としては、具体的には、ビールや、発泡酒、ローアルコールビール様発泡性飲料、ノンアルコールビール等のうち、発酵工程を経て製造される飲料が挙げられる。その他、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類であってもよい。
【0014】
なお、アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、一般に蒸留酒に分類されるものを用いることができる。例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒等を用いることができる。
【0015】
本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料は、アルコール度数が1~4容量%であり、最終発酵度が80%以下であり、アミノ態窒素濃度が5~12mg/100mLであり、苦味価が15~25BUである。本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料は、最終発酵度が80%以下であり、酵母非資化性糖の含有量が比較的多いため、十分なコク感を有する低アルコール飲料である。また、本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料では、アミノ態窒素濃度と苦味価をそれぞれ所定の範囲内に調整することによって、苦味とうまみのバランスが良好であり、豊富な酵母非資化性糖によるビールらしからぬ突出した甘味が抑えられている。
【0016】
発酵ビール様発泡性飲料の最終発酵度とは、発酵原料液(麦汁エキス)に含まれる糖に占める、酵母資化性糖の割合である。最終発酵度が低いほど、最終的に製造される飲料に含まれる酵母非資化性糖の割合が多くなる。本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料の最終発酵度としては、80%以下であれば特に限定されるものではないが、香味のバランスの点から、50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。また、本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料の最終発酵度としては、75%以下が好ましく、72%以下がより好ましい。なお、発酵ビール様発泡性飲料の最終発酵度は、改訂BCOJ(Brewery Convention of Japan)分析法((財)日本醸造協会発行)に記載の方法(7.3及び8.11最終発酵度)に準じて測定することができる。
【0017】
本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料のアミノ態窒素濃度は、5~12mg/100mLの範囲内であれば、特に限定されるものではない。本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料のアミノ態窒素濃度としては、7~11mg/100mLが好ましく、7~10がより好ましい。発酵ビール様発泡性飲料のアミノ態窒素濃度は、ビール分析の国際基準とされているEBC(European Brewery Convention)のAnalytica-EBC標準法に準じて測定することができる。
【0018】
本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料の苦味価は、15~25BUの範囲内であれば、特に限定されるものではない。本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料の苦味価としては、17~23BUが好ましく、18~22BUがより好ましく、19~21BUがさらに好ましい。なお、本発明及び本願明細書において、苦味価とは、イソフムロンを主成分とするホップ由来物質群により与えられる苦味の指標である。発酵ビール様発泡性飲料をはじめとする飲料の苦味価は、ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、8.15(2004)に記載の方法により測定することができる。
【0019】
本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料は、一般的な発酵ビール様発泡性飲料と同様に、麦芽を含む発酵原料を糖化して麦汁を調製する仕込工程と、前記仕込工程で得られた麦汁に酵母を接種して発酵させる発酵工程と、を有していることに加えて、さらに、仕込工程で、発酵原料となる麦芽中の糖をトランスグルコシダーゼ処理により分解する。仕込工程におけるトランスグルコシダーゼ処理により、酵母非資化性糖を増大させ、発酵工程における発酵を、最終発酵度が80%以下となるように実施することができ、アルコール度数が1~4容量%の低アルコールの発酵ビール様発泡性飲料が製造できる。
【0020】
本発明において用いられるトランスグルコシダーゼとしては、糖転移反応に対する触媒活性を有する酵素であれば、特に限定されるものではなく、各種生物由来のトランスグルコシダーゼを使用することができる。例えば、市販されているトランスグルコシダーゼのうち、いずれの酵素を用いても良く、またこれらを組み合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明において用いられる麦芽は、一般的な製麦処理により、大麦等を発芽させたものを用いることができる。具体的には、収穫された大麦、小麦、燕麦等を、水に浸けて適度に発芽させた後、熱風により焙燥することにより、麦芽を製造することができる。麦芽は常法により破砕してもよい。
【0022】
本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料は、仕込工程において、発酵原料の麦芽と水とトランスグルコシダーゼを含有する混合物を、所定温度で所定時間保持するタンパク質分解工程を行うことによって製造できる。当該工程におけるタンパク質分解反応の反応温度と時間を調整することによって、最終的に飲料中に含まれるアミノ態窒素の量を調整することができる。反応温度が40℃以下である場合には、麦芽由来のタンパク質分解酵素が働きすぎ、アミノ態窒素の量が多くなりすぎる傾向にある。本発明においては、タンパク質分解反応の反応温度を45~55℃の範囲内で調整することにより、麦芽中のタンパク質の過剰な分解を抑制でき、最終製品たる飲料中のアミノ態窒素濃度を5~12mg/100mLに調整しやすい。
【0023】
タンパク質分解反応において、反応時間が長くなるほど、タンパク質分解反応が進行し、得られた発酵ビール様発泡性飲料のアミノ態窒素の量が多くなる。タンパク質分解反応の反応時間は、最終製品たる飲料中のアミノ態窒素濃度を5~12mg/100mLの範囲内とすることが可能な時間であれば、特に限定されるものではなく、反応に供される麦芽の量や反応温度、反応系のスケール等を考慮して適宜決定することができる。本発明において、タンパク質分解反応のスケールが数百L程度の場合、反応時間としては、10~100分間が好ましく、15~100分間がより好ましく、30~90分間がさらに好ましい。
【0024】
タンパク質分解工程の後、仕込槽内の混合物(マイシェ)の一部と水とを仕込釜に投入し、仕込釜内の混合物を所定温度で所定時間保持して液化させる液化工程を行う。当該混合物には、発酵原料として用いる麦芽以外の原料も混合させる。麦芽以外の発酵原料としては、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉質原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。
【0025】
本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料を製造するに際して、使用する発酵原料としては、麦芽のみであってもよく、麦芽と麦芽以外の発酵原料を用いてもよい。発酵原料全体に占める麦芽使用量の比率(麦芽使用比率)は、20~80質量%であることが好ましく、25~75質量%であることがより好ましい。麦芽以外の発酵原料としては、コーンスターチ、コーングリッツ、米、及び液糖からなる群より選択される一種以上であることが好ましい。
【0026】
液化工程においては、麦芽を含む発酵原料と水とを含有する混合物を、麦芽中の澱粉が液化するために十分に高い温度で、具体的には68~80℃で保持する。この際、耐熱性α-アミラーゼ、プルナラーゼ等の糖化酵素を添加することも好ましい。仕込釜内の混合物が液化した後、澱粉の液化に使用された酵素を失活させたり、殺菌処理のために、煮沸処理を行ってもよい。
【0027】
その後、糖化工程として、仕込槽内の混合物(マイシェ)と仕込釜内の混合物(マイシェ)とを混合し、得られた混合物(マイシェ)に糖化処理を行う。糖化処理は、例えば、58~65℃で10~90分間保持する等、常法により行うことができる。前記混合物には、必要に応じて、α-アミラーゼ、プルナラーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。その他、本発明に係る効果を阻害しない限りにおいて、スパイスやハーブ類、果物等を添加してもよい。
【0028】
糖化処理後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な麦汁が得られる。
【0029】
得られた麦汁は煮沸される。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。煮沸処理前又は煮沸処理中に、ハーブや香料等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵ビール様発泡性飲料を製造することができる。
【0030】
本発明においては、煮沸処理前又は煮沸処理中に、ホップを添加することが好ましい。
ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気を煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。本発明においては、最終的に得られる発酵ビール様発泡性飲料の苦味価が15~25BUとなる量のホップを使用することが好ましい。
【0031】
本発明及び本願明細書においては、特に記載のない限り、「ホップ」には、生ホップ、乾燥ホップ、ホップペレット等に加えて、ホップ加工品も含まれる。ホップ加工品としては、例えば、ホップから苦味成分を抽出したホップエキス、イソ化ホップエキス、テトラハイドロイソフムロン、ヘキサハイドロイソフムロン等のホップ中の苦味成分をイソ化した成分を含むホップ加工品が挙げられる。
【0032】
イソフムロンには、主に、イソコフムロンとイソアドフムロンとイソノルマルフムロンがある。本発明においては、より発酵ビール様発泡性飲料のキレを良好に改善できる点から、飲料中のイソコフムロンとイソアドフムロンとイソノルマルフムロンの合計濃度に対するイソコフムロン濃度の比率([イソコフムロン(ppm)]/([イソコフムロン(ppm)]+[イソアドフムロン(ppm)]+[イソノルマルフムロン(ppm)])×100%)(イソコフムロン比率)が30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。また、本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料のイソコフムロン比率としては、60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。発酵ビール様発泡性飲料のイソコフムロン比率は、イソコフムロンの含有量が多いホップを原料として用いることにより増大させることができる。
【0033】
煮沸した麦汁を、ワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去しておくことが好ましい。その後、プレートクーラーにより適切な発酵温度まで冷却する。冷麦汁は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。
【0034】
次いで発酵工程として、冷麦汁に酵母を接種して、発酵タンクに移し、発酵を行う。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0035】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去して、目的の発酵ビール様発泡性飲料を得ることができる。また、酵母による発酵工程以降の工程において、例えばスピリッツと混和することにより、酒税法におけるリキュール類を製造することもできる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4~1.0μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。
【0036】
得られた発酵ビール様発泡性飲料は、通常、充填工程により瓶詰めされて、製品として出荷される。容器への充填及び密封は、常法により行うことができる。
【0037】
濾過後の発酵液は、容器に充填される前に、ガス圧が所望の範囲内となるように炭酸ガスを導入してもよい。本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料のガス圧としては、0.10MPa以上とすることが好ましく、0.21MPa以上とすることがより好ましく、0.21~0.30MPaとすることがさらに好ましい。
【実施例0038】
次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0039】
<発酵ビール様発泡性飲料の発酵度の測定>
発酵ビール様発泡性飲料の発酵度の測定は、改訂BCOJ(Brewery Convention of Japan)分析法((財)日本醸造協会発行)に記載の方法(7.3及び8.11最終発酵度)に準じて行った。すなわち、麦汁に酵母を加えて発酵可能なエキスを全て発酵させた後にエキス濃度を測定し、得られた測定値と予め測定した元の麦汁(発酵前の麦汁)のエキス濃度より算出した。
[最終発酵度(%)]=([元の麦汁のエキス濃度]-[発酵後のエキス濃度])/[元の麦汁のエキス濃度]×100
【0040】
[製造例1]
まず、麦芽の一部と10kgのコーンスターチと湯を仕込釜に投入し、70℃に温度を上げて澱粉を液化させた後、100℃で煮沸した。次いで、仕込槽に、30kgの粉砕麦芽と湯とトランスグルコシダーゼを入れ、50℃で60分間保持して、タンパク質分解反応を行った。
その後、仕込槽のマイシェと仕込釜のマイシェを合わせて、62℃で30分間糖化反応を行った後、得られた麦汁を濾過した。濾過後の麦汁に、ナゲット種ホップ(イソコフムロン比率:32%)を投入して、100℃で30分間煮沸した。煮沸処理後、沈殿物を取り除いた麦汁は、エキス12%、200Lに調整した後、冷却した。冷却後の麦汁に酵母を適量添加した。主発酵は、10℃で10日間、熟成は10℃で10日間、それぞれ実施した。熟成後に得られた発酵ビール様発泡性飲料を冷却して濾過した後、瓶詰した。苦味価は20BUに、アルコール度数は3.0容量%に、それぞれ調整した。
【0041】
[製造例2]
まず、麦芽の一部と30kgのコーンスターチと湯を仕込釜に投入し、70℃に温度を上げて澱粉を液化させた後、100℃で煮沸した。次いで、仕込槽に、20kgの粉砕麦芽と湯とトランスグルコシダーゼを入れ、50℃で30分間保持して、タンパク質分解反応を行った。その後、製造例1と同様にして、仕込槽のマイシェと仕込釜のマイシェを合わせて糖化反応を行った後、ナゲット種ホップを投入して煮沸処理した後、発酵及び熟成させて、瓶詰した発酵ビール様発泡性飲料を得た。
【0042】
[製造例3]
ナゲット種ホップに代えてヘラクレス種ホップ(イソコフムロン比率:45%)を用いた以外は、製造例2と同様にして、瓶詰した発酵ビール様発泡性飲料を得た。
【0043】
[製造例4]~[製造例15]
タンパク質分解反応の温度と時間を表1及び2に記載の条件で行った以外は、製造例1と同様にして、瓶詰した発酵ビール様発泡性飲料を得た。
【0044】
[対照製造例1]
まず、仕込槽に、30kgの粉砕麦芽と湯を入れ、また、仕込釜に一部の麦芽と10kgのコーンスターチと湯を入れ、常法に従って麦汁を製造した。得られた麦汁を濾過し、濾過後の麦汁に、ナゲット種ホップ(イソコフムロン比率:32%)を投入して、100℃で30分間煮沸した。煮沸処理後、沈殿物を取り除いた麦汁は、エキス12%、200Lに調整した後、冷却した。冷却後の麦汁に酵母を適量添加した。主発酵は、10℃で10日間、熟成は10℃で10日間、それぞれ実施した。熟成後に得られた発酵ビール様発泡性飲料を冷却して濾過した後、瓶詰した。苦味価は20BUに、アルコール度数は5.0容量%に、それぞれ調整した。
【0045】
[試験例1]
製造例1~15、及び対照製造例1で製造された発酵ビール様発泡性飲料について、アミノ態窒素濃度と最終発酵度を測定した。また、訓練された識別能力のあるパネル6名により、コクの強さ、キレの良さ(爽快感)、及び甘味について、官能評価を行った。官能評価は、対照製造例1で製造された発酵ビール様発泡性飲料を基準とする相対評価を行った。全パネルの評価点の平均値を、評価対象の評価点とした。
【0046】
具体的には、コクの強さとキレの良さ(爽快感)については、対照(対照製造例1で製造された発酵ビール様発泡性飲料)よりかなり強い場合に5点、対照より強い場合に4点、対照と同程度の場合に3点、対照より弱い場合に2点、対照よりかなり弱い場合に1点、と評価した。甘味については、対照(対照製造例1で製造された発酵ビール様発泡性飲料)と同程度の場合に1点、対照よりやや強い場合に2点、対照より強い場合に3点、対照よりかなり強い場合に4点、対照より非常に強い場合に5点、と評価した。評価結果を表1~2に示す。コクの強さとキレの良さ(爽快感)については、評点3以上を良好とし、甘味については、評点2以下を良好とした。
【0047】
【0048】
【0049】
製造例1、製造例4~15の発酵ビール様発泡性飲料を比較したところ、最終発酵度が同等であり、酵母非資化性糖の量が同等である場合には、アミノ態窒素濃度が高いほど、コクが強くなり、キレや爽快感が低下し、甘味が強くなる傾向にあった。ただし、アミノ態窒素濃度が5mg/100mL未満の場合には、キレは良好であるものの、コクが弱すぎた(製造例13)。使用したホップ種が異なる製造例2と製造例3を比較したところ、イソコフムロン比率の高いホップを使用した製造例3のほうがキレが改善されていた。