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特開2023-65007ヘッドライトテスタの光軸算出システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065007
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】ヘッドライトテスタの光軸算出システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/06 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
G01M11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175536
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】392035352
【氏名又は名称】株式会社豊電子工業
(71)【出願人】
【識別番号】520121474
【氏名又は名称】株式会社KICONIA WORKS
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 和希
(72)【発明者】
【氏名】雪本 直哉
(72)【発明者】
【氏名】高山 智司
(72)【発明者】
【氏名】千葉 優輝
(57)【要約】
【課題】ノイズの減少と輝度勾配を用いたアルゴリズムの適用とを両立させることが可能なヘッドライトテスタの光軸算出システムを提供する。
【解決手段】多重露光での撮影が可能な光軸用カメラ5を備え、該光軸用カメラ5による多重露光での撮影によって取得された各画像(スクリーン4に照射された配光パターンの画像)から各ピクセルの合成輝度値を算出し、該合成輝度値に基づいて得られた合成画像上のエッジ点を2回微分して得られる曲線の極大値および極小値をエルボ点とするカットオフラインを設定する。これにより、ノイズの減少と輝度勾配を用いたアルゴリズムの適用とを両立させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のヘッドランプの光軸を算出するヘッドライトテスタの光軸算出システムであって、
多重露光での撮影が可能な撮影手段と、
前記撮影手段による多重露光での撮影によって取得された各画像から各画素の合成輝度値を算出する合成輝度値算出部と、
前記合成輝度値算出部によって算出された前記合成輝度値に基づいて前記ヘッドランプの光軸を算出する光軸算出部と、
を備えていることを特徴とするヘッドライトテスタの光軸算出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドライトテスタの光軸算出システムに係る。特に、本発明は、高い光軸算出精度を得るための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のヘッドランプ(ヘッドライト)にあっては、その配光パターン(具体的にはロービームと呼ばれるすれ違い用前照灯の配光パターン)が、車両の保安基準で定められている規格範囲内にあるか否かを、ヘッドライトテスタによってテストすることが行われている。
【0003】
このヘッドライトテスタによる配光パターンのテストとしては、例えば特許文献1にも開示されているように、車両とヘッドライトテスタとを正対させた状態で、ヘッドランプからスクリーンに照射された配光パターンをカメラ等により撮影し、その撮影画像に対して画像処理を行って、カットオフライン(明瞭境界線とも呼ばれる)のエルボ点を求め、このエルボ点が所定の規格範囲内の位置(例えば所定距離前方を照射した場合におけるエルボ点のズレ量が所定の範囲内)にあるかを検査している。このエルボ点とは、周知の如く配光パターンにおける水平カットオフライン(対向車側に設定される水平カットオフライン)と斜めカットオフライン(自車側(路肩側)に設定される斜めカットオフライン)との交点である。光軸(ヘッドランプからの照射光の照射方向)の算出精度を高めるためには、このエルボ点が安定的に得られていることが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-79359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記配光パターンの光軸の算出には高い精度が要求されるが、カメラ等により撮影された配光パターンの画像にあっては、各ピクセル(画素)毎にノイズが存在している。このため、ランプ光量の微小な変化に起因し、特にエッジ(配光パターンにおけるy方向(上下方向)の輝度値の変化量の最大位置となっている点)付近の輝度値も変化してしまい、カットオフラインが不安定となって、画像上でエルボ点がちらついてしまうことになる。このような状況では、エルボ点が安定的に得られないことから、高い光軸算出精度を得ることができない。
【0006】
また、カメラの露光を大きくすることで前記ノイズを減少させることはできるものの、この場合、画像全体の輝度が高くなることに起因して当該輝度が階調上限に達しやすくなり、輝度勾配を用いたアルゴリズム(輝度値の変化量の最大位置をエッジとして求めるアルゴリズム)の適用を妨げることになってしまう。このため、従来技術にあっては、ノイズを減少させることと、輝度勾配を用いたアルゴリズムの適用とを両立させることが困難であった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ノイズの減少と輝度勾配を用いたアルゴリズムの適用とを両立させることが可能なヘッドライトテスタの光軸算出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、車両のヘッドランプの光軸を算出するヘッドライトテスタの光軸算出システムを前提とする。そして、このヘッドライトテスタの光軸算出システムは、多重露光での撮影が可能な撮影手段と、前記撮影手段による多重露光での撮影によって取得された各画像から各画素の合成輝度値を算出する合成輝度値算出部と、前記合成輝度値算出部によって算出された前記合成輝度値に基づいて前記ヘッドランプの光軸を算出する光軸算出部とを備えていることを特徴とする。
【0009】
この特定事項により、撮影手段による多重露光での撮影によって取得した各画像から算出された合成輝度値は、露光が互いに異なる各画像それぞれに存在していたノイズが互いに打ち消し合うことで当該ノイズが減少されたものとして得られることになる。また、複数の画像の合成による輝度値を算出するようにしているため、無限階調化された輝度値の情報が得られている。このため、この合成輝度値に応じて得られた画像上の配光パターンのカットオフラインとしては安定したものとして得ることができ、光軸の調整点(例えばエルボ点)が安定的に得られ、高い光軸算出精度を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、撮影手段による多重露光での撮影によって取得された各画像から各画素の合成輝度値を算出し、該合成輝度値に基づいてヘッドランプの光軸を算出するようにしている。このため、ノイズの減少と輝度勾配を用いたアルゴリズムの適用とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】光軸算出システムの概略構成を示す模式図である。
図2】光軸算出システムの制御ブロック図である。
図3】多重露光での撮影によって取得された各画像およびそれらの合成画像のイメージの一例を示す図である。
図4】多重露光での撮影によって取得された各画像それぞれの1つのピクセルにおける各露光毎の輝度値の一例を示す図である。
図5】合成輝度値算出処理におけるデータ絞り込み動作を説明するための図である。
図6】合成輝度値算出処理における線形モデル作成動作を説明するための図である。
図7】合成輝度値算出処理における基準露光算出動作を説明するための図である。
図8】光軸算出処理における合成画像のエッジ算出動作を説明するための図である。
図9】光軸算出処理における合成画像のエッジに対する微分動作を説明するための図である。
図10】光軸算出処理におけるカットオフライン設定動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
-光軸算出システムの概略構成-
図1は、本実施形態に係るヘッドライトテスタの光軸算出システム1の概略構成を示す模式図である。図示しないが、この光軸算出システム1は、ヘッドライトテスタの台車上に立設された支柱に支持されている。台車は、水平方向の移動(例えばレール上での水平移動)が自在となっている。また、光軸算出システム1は支柱に対して鉛直方向の移動(昇降機構による上下移動)が自在となっている。これにより、テスト対象である車両のヘッドランプHLに対して光軸算出システム1を正対させることが可能な構成とされている。
【0014】
光軸算出システム1は、ケーシング2内にフレネルレンズ3、スクリーン4、および、光軸用カメラ(撮影手段)5が収容され、ケーシング2の上部に正対用カメラ6が載置された構成となっている。
【0015】
フレネルレンズ3は、ケーシング2の前面(車両のヘッドランプHLに対向する側の面)に配設されていると共に、水平方向に延びる中央光軸を有し、車両のヘッドランプHLから照射された光(照射光)を集光してケーシング2の内部に向けて(スクリーン4に向けて)透過させる。
【0016】
スクリーン4は、フレネルレンズ3によって集光された照射光を受像する。これにより、スクリーン4上には、車両のヘッドランプHLからの照射光の配光パターンが投影されるようになっている。この配光パターンのうち、光が当って明るくなる部分と、光が当らずに暗くなる部分との境界部分には明度に大きな差が生じ、カットオフラインが生じている。このカットオフラインは、前述したように水平カットオフラインと斜めカットオフラインとで成る。水平カットオフラインは、対向車側に設定され、対向車のドライバーに眩惑を生じさせることがないように所定高さ位置で水平方向に延びている。斜めカットオフラインは、自車側(路肩側)に設定され、路肩を歩行する歩行者の存在の視認性を高めるべく路肩側に向かって上方に延びている。そして、これら水平カットオフラインと斜めカットオフラインとの交点がエルボ点と呼ばれ、ヘッドライトテスタによる配光パターンのテストにあっては、このエルボ点が所定の規格範囲内の位置(例えば所定距離前方を照射した場合におけるエルボ点のズレ量が所定の範囲内)にあるかを検査することになる。尚、斜めカットオフラインよりも路肩側にも水平カットオフラインが設定される場合もある。
【0017】
光軸用カメラ5は、例えばCCD(Charge Coupled Device)カメラやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ等で成り、スクリーン4の背面側において、光軸が前記フレネルレンズ3の光軸に一致するように配設されている。また、この光軸用カメラ5は、多重露光での撮影が可能となっており、複数段階(例えば15段階)で露光を変化させながらスクリーン4に投影されている照射光の配光パターンの撮影が可能となっている。多重露光の段階数としては前述したものには限定されない。また、この多重露光を実現するための露光調整のパラメータとしては、シャッタ速度、撮影レンズの絞り数値、ISO感度値等が挙げられる。
【0018】
正対用カメラ6は、車両のヘッドランプHLに対して光軸算出システム1(より具体的にはフレネルレンズ3および光軸用カメラ5)を正対させるために使用されるものであり、光軸算出システム1の前方で停止された車両を撮影することにより、ヘッドランプHLが正対されているか否かの判定に使用される。つまり、この正対用カメラ6によって撮影された画像に基づいてヘッドランプHLが正対されたと判断された状態でヘッドライトテスタによる光軸算出が行われることになる。尚、この正対用カメラ6に代えて、公知の正対用レーザ照準器等を適用することも可能である。
【0019】
-光軸算出システムの制御系の構成-
次に、光軸算出システム1の制御系の構成について説明する。図2は、光軸算出システム1の制御ブロック図である。光軸算出システム1の制御系は、ハード構成として、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、制御プログラムを記憶するROM(Read-Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random-Access Memory)、および、入出力ポート等を備えている。これらのハード構成部品は、光軸用カメラ5に内蔵されていてもよいし、光軸用カメラ5とは別の制御ユニットとして構成されていてもよい。
【0020】
そして、この光軸算出システム1の制御系は、光軸用カメラ5による多重露光での撮影によって取得された各画像から各ピクセルの合成輝度値を算出し、この算出された合成輝度値に基づいてヘッドランプHLの光軸(ヘッドランプHLからの照射光の照射方向)を算出する機能を有している。図3は、多重露光での撮影によって取得された各画像およびそれらの合成画像のイメージの一例を示す図である。図3(a)~(b)は互いに異なる露光で撮影された各画像の例を示している。ここでは2つの画像のみを示しているが、多重露光の段階数に応じた画像が撮影されることになる。例えば互いに露光が異なる15個の画像が撮影されることになる。また、図3(c)は、これら画像(露光が異なる各画像)に基づいて作成された合成画像の例を示している。
【0021】
前述した合成輝度値の算出機能を実現するために、光軸算出システム1の制御系は、前記制御プログラムによって実現される機能部として、図2に示すように、画像受信部71、合成輝度値算出部72および光軸算出部73を備えている。
【0022】
画像受信部71は、同一のテスト対象(ヘッドランプHLの照射光の配光パターン)に対して、互いに異なる露光で光軸用カメラ5によって撮影された各画像のデータ(露光別の画像データ)を取得する。これら画像のデータは前記RAMに一旦格納されることになる。
【0023】
合成輝度値算出部72は、前記各画像のデータを利用し、画像上の各ピクセル毎における露光の変化に対する輝度値の変化を利用して合成輝度値を算出する。
【0024】
以下、この合成輝度値算出部72によって実施される合成輝度値算出処理について説明する。この合成輝度値算出処理では、データ絞り込み動作、線形モデル作成動作、基準露光算出動作が順に行われる。
【0025】
先ず、合成輝度値算出処理の開始に際し、多重露光での撮影によって取得された各画像それぞれにおける各ピクセルでの露光に対応する輝度値のデータが取得される。これは、ある露光での撮影が実行された際に、この撮影された画像上における各ピクセルの輝度値が取得され、前記露光と輝度値とがピクセル毎に対応付けられた情報として取得されることになる。このため、全ての露光での撮影が完了した状態では、各露光数と画像のピクセル数との積に相当する数の露光と輝度値とが対応付けられた情報が取得されることになる。図4は、多重露光での撮影によって取得された各画像それぞれの1つのピクセルにおける各露光毎(横軸)の輝度値(縦軸)の一例を示す図である。図4に示すように、殆どの輝度値は露光が大きくなるに従って大きくなっている。尚、この図4に示すものでは、外乱等の影響により、露光が大きくなっても輝度値が小さく現れているデータが存在した状態となっている。
【0026】
図5は、データ絞り込み動作を説明するための図である。このデータ絞り込み動作は、図4に示したデータに対し、外乱等の影響により露光に対する輝度値が適切に得られていない可能性のあるデータを排除するものである。図5では、露光が所定値ex1以下の範囲および所定値ex2以上の範囲のデータ(図5において斜線を付した範囲のデータ)を除去することで、露光と輝度値との関係において信頼性の高い情報のみを残すようにしている。前記所定値ex1,ex2は任意に設定が可能である。
【0027】
図6は、線形モデル作成動作を説明するための図である。前述のデータ絞り込み動作によって絞り込まれたデータ(露光と輝度値との関係を示すデータ)に対し、最小二乗法によって線形モデル「y=ax+b」を求める。ここでの係数aは線形モデルの傾きを表しており、露光の増大に対する輝度値の増加の割合を表す。
【0028】
例えば、カットオフラインよりも上側に相当する領域(カットオフライン付近の領域よりも上側の領域)は、光が当らずに暗くなる部分であることから、露光を増大させても輝度値は殆ど増加しない。このため、この領域に該当するピクセルでは、線形モデルとしては傾き(係数a)が小さいものとして得られることになる。また、カットオフラインよりも下側に相当する領域(カットオフライン付近の領域よりも下側の領域;例えば輝度値が最大のホットゾーンおよびその周辺の領域)は、光が当たって明るくなる部分であることから、この場合も、露光を増大させても輝度値の増加は僅かである。このため、この領域に該当するピクセルでも、線形モデルとしては傾きが小さいものとして得られることになる。これに対し、カットオフライン付近の領域にあっては、露光を増大させていくに従って輝度値は大きく増加していく。このため、この領域に該当するピクセルでは、線形モデルとしては傾きが大きいものとして得られることになる。
【0029】
図7は、基準露光算出動作を説明するための図である。この基準露光算出動作では、前記線形モデル作成動作で得られたデータ(線形モデルのデータ)に対し、予め設定された輝度値の基準値Y0に対応する露光を基準露光X0として算出する。この輝度値の基準値Y0としては任意に設定可能である。
【0030】
このようにして各ピクセル毎に基準露光X0が算出された後、これらの逆数(1/X0)を算出し、これを各ピクセル毎に対応した合成輝度値として設定する。つまり、各ピクセルそれぞれに対して算出された基準露光X0の集合(X0∈R)における各基準露光X0(集合の要素)の逆数を合成輝度値vとして設定する(v=1/X0)。
【0031】
前述したようにカットオフラインよりも上側に相当する領域やカットオフラインよりも下側に相当する領域にあっては線形モデルの傾きが小さいため、これらのピクセルにおいて算出される基準露光X0は比較的大きな値となっており、この基準露光X0の逆数である合成輝度値(1/X0)は小さい値として得られることになる。これに対し、カットオフライン付近の領域にあっては線形モデルの傾きが大きいため、これらのピクセルにおいて算出される基準露光X0は比較的小さい値となっており、この基準露光X0の逆数である合成輝度値(1/X0)は大きな値として得られることになる。これにより、カットオフライン付近の領域を上下方向でスキャンしていった場合における輝度値(合成輝度値)の変化量が大きくなる位置が生じていることになり、この位置を配光パターンのエッジとして認識することによって当該エッジを安定的に得ることが可能になる。
【0032】
次に、光軸算出部73によって実施される光軸算出処理について説明する。この光軸算出処理では、合成輝度値算出部72によって算出された各ピクセル毎の合成輝度値から合成画像を作成し、この合成画像上におけるエッジを算出するエッジ算出動作、合成画像のエッジに対する微分動作、および、カットオフラインを設定するカットオフライン設定動作が順に行われる。
【0033】
エッジ算出動作では、合成画像に対して所定領域(エルボ点が存在すると推定される領域)を切り出し、この切り出した画像に対して、前述したようにカットオフライン付近の領域を上下方向でスキャンしていった場合における輝度値(合成輝度値)の変化量が大きくなる位置を検出することによって行われる。図8における線EDは、このエッジ算出動作によって設定されたエッジを表している。
【0034】
微分動作では、エッジ算出動作によってエッジとして認識された線EDに対して2回微分動作を行う。図9は、この微分動作を説明するための図(画像の一部を拡大して示す図)である。この図9における一点鎖線は、エッジとして認識された線EDに対して1回微分動作を行った際に得られる曲線の一例である。また、この図9における二点鎖線は、エッジとして認識された線EDに対して2回微分動作を行った際に得られる曲線の一例である。この2回微分動作によって得られた曲線には、極大点(最大点)P1と極小点(最小点)P2とが現れている。
【0035】
カットオフライン設定動作では、図10(a)に示すように、前記2回微分動作によって得られた曲線における極大点P1と極小点P2とに基づきBOXを設けた直線近似処理を行うことによってカットオフラインを設定する。このカットオフラインとしては、図10(b)に示すように、極大点P1に対応する位置よりも左側に水平方向に延びる第1水平線(水平カットオフライン)CL1、極小点P2に対応する位置よりも右側に水平方向に延びる第2水平線CL2が得られることになる。この場合、画像上では第1水平線CL1よりも第2水平線CL2の方が所定寸法だけ上側の位置となる。そして、前記BOXを設けた直線近似処理により極大点P1と極小点P2とを繋ぐ斜線(斜めカットオフライン)CL3が得られることになる。そして、第1水平線CL1と斜線CL3との交点EL1および第2水平線CL2と斜線CL3との交点EL2がそれぞれエルボ点として求められる。前述したように、カットオフライン付近の領域にあっては、合成輝度値に基づいて安定的にエッジが得られているので、画像上の配光パターンのカットオフラインとしても安定したものとして得ることができ、エルボ点EL1,EL2が安定的に得られ、高い光軸算出精度を得ることができる。
【0036】
尚、実際のテスト(ヘッドライトテスタによる配光パターンのテスト)時においてエルボ点が所定の規格範囲内の位置にあるか否かを判定するに際しては、テストで使用するエルボ点が車両の仕向け地に応じて異なるものとなる。例えば、日本等にあっては第1水平線CL1と斜線CL3との交点(エルボ点)EL1が規格範囲内の位置にあるか否かを判定することになり、米国等にあっては第2水平線CL2と斜線CL3との交点(エルボ点)EL2が規格範囲内の位置にあるか否かを判定することになる。
【0037】
また、道路が左側通行である仕向け地にあっては、車両側から見て右側(対向車側)に第1水平線CL1が位置し、左側(路肩側)に斜線CL3および第2水平線CL2が位置する。本実施形態では、スクリーン4の背面側に光軸用カメラ5が配設されているため、取得される画像としては、図8図10に示すように左側に第1水平線CL1が位置し、右側に斜線CL3および第2水平線CL2が位置することになる。これに対し、道路が右側通行である仕向け地にあっては、車両側から見て左側(対向車側)に第1水平線CL1が位置し、右側(路肩側)に斜線CL3および第2水平線CL2が位置することになるが、本実施形態では、光軸用カメラ5によって取得した画像を左右反転させて、前述の場合(左側通行である仕向け地の場合)と同様に、左側に第1水平線CL1を位置させ、右側に斜線CL3および第2水平線CL2を位置させるようにする。これにより、同一の光軸算出システム1を、左側通行である仕向け地および右側通行である仕向け地それぞれにおいて同等に扱うことが可能になり、光軸算出システム1の汎用性が高められている。
【0038】
-実施形態の効果-
前述したように本実施形態では、光軸用カメラ5による多重露光での撮影によって取得された各画像から各ピクセルの合成輝度値を算出し、この算出された合成輝度値に基づいてヘッドランプHLの配光パターンのエルボ点EL1,EL2を算出するようにしている。このため、前記合成輝度値は、露光が互いに異なる各画像それぞれに存在していたノイズが互いに打ち消し合うことで当該ノイズが減少されたものとして得られることになる。また、複数の画像の合成による輝度値を算出するようにしているため、無限階調化された輝度値の情報が得られている。従って、この合成輝度値に応じて得られた画像上の配光パターンのカットオフラインとしては安定したものとして得ることができ、光軸の調整点(エルボ点)が安定的に得られ、高い光軸算出精度を得ることができる。従来の技術にあっては、カメラの露光を大きくすることでノイズを減少させようとした場合には、画像全体の輝度が高くなることに起因して当該輝度が階調上限に達しやすくなり、輝度勾配を用いたアルゴリズムの適用を妨げることになってしまっていたが、本実施形態では、ノイズを減少させるためにカメラの露光を大きくするといった手段を用いる必要がなく、このためノイズの減少と輝度勾配を用いたアルゴリズムの適用とを両立させることができる。
【0039】
-他の実施形態-
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および該範囲と均等の範囲で包含される全ての変形や応用が可能である。
【0040】
例えば、前記実施形態では、スクリーン4に投影された配光パターンを該スクリーン4の背面側から光軸用カメラ5によって撮影するようにしていた。本発明はこれに限らず、ヘッドランプからの照射光をハーフミラーによって分光し、この分光された照射光を光軸用カメラによって撮影するようにしたヘッドライトテスタの光軸算出システムにも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ノイズの減少と輝度勾配を用いたアルゴリズムの適用とを両立させることができるヘッドライトテスタの光軸算出システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 光軸算出システム
5 光軸用カメラ(撮影手段)
72 合成輝度値算出部
73 光軸算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10