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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065055
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】固形燃料
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/00 20060101AFI20230502BHJP
   C10L 7/00 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C10L5/00
C10L7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175626
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000190736
【氏名又は名称】株式会社ニイタカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】米川 怜史
(72)【発明者】
【氏名】土井 啓右
(72)【発明者】
【氏名】原 淳貴
【テーマコード(参考)】
4H015
【Fターム(参考)】
4H015AA20
4H015AA21
4H015AA22
4H015AB01
4H015AB04
4H015AB05
4H015AB09
4H015BA01
4H015BA07
4H015BA13
4H015CA02
4H015CB01
4H015CB02
4H015CB04
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れると共に、固形燃料として好適に使用可能な固形燃料を提供する。
【解決手段】メタノール、エタノール、及びプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種の1価アルコール(A)と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール及び/又は水(B)と、炭素数が12~22の脂肪酸塩(C)とを含み、前記1価アルコール(A)の含有量が50~90質量%であり、前記脂肪酸塩(C)の含有量が3~20質量%である固形燃料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール、エタノール、及びプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種の1価アルコール(A)と、
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール及び/又は水(B)と、
炭素数が12~22の脂肪酸塩(C)とを含み、
前記1価アルコール(A)の含有量が50~90質量%であり、
前記脂肪酸塩(C)の含有量が3~20質量%である固形燃料。
【請求項2】
前記多価アルコールの含有量が1~40質量%である請求項1に記載の固形燃料。
【請求項3】
前記水の含有量が1~40質量%である請求項1又は2に記載の固形燃料。
【請求項4】
増粘剤を含む請求項1~3のいずれかに記載の固形燃料。
【請求項5】
前記増粘剤が多糖類を含む請求項4に記載の固形燃料。
【請求項6】
表面がパラフィンにより覆われている請求項1~5のいずれかに記載の固形燃料。
【請求項7】
前記パラフィンの厚さが0.1~2.0mmである請求項6に記載の固形燃料。
【請求項8】
前記脂肪酸塩(C)が炭素数16~20の脂肪酸塩である請求項1~7のいずれかに記載の固形燃料。
【請求項9】
前記1価アルコール(A)がメタノールであり、
前記多価アルコール及び/又は水(B)がエチレングリコール及び/又はジエチレングリコール、並びに水であり、
前記脂肪酸塩(C)がステアリン酸塩であり、
さらにメチルセルロースを含む、請求項1に記載の固形燃料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
調理済み料理等の加熱用燃料として、円柱形状又は角柱形状の樹脂フィルムで密封された固形燃料本体が外装材により包装された固形燃料が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、固形燃料の表面をポリエチレンにより覆うことにより、燃料成分の揮散を抑制できることが開示されている。また、特許文献2には、固形燃料の表面を覆わずに、多価アルコールの脂肪酸エステルを配合することによって燃料成分の揮散を抑制し、保存安定性を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1-267133号公報
【特許文献2】特開平8-231970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、固体燃料の表面をポリエチレンなどの保護層により覆う手法では、保管時などに保護層に傷が生じたり、剥がれたりすることがあり、保存安定性に改善の余地があることが判明した。また、固形燃料の表面を覆わずに、多価アルコールの脂肪酸エステルを配合する手法では、保存安定性に改善の余地があることが判明した。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、保存安定性に優れると共に、固形燃料として好適に使用可能な固形燃料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の固形燃料は、メタノール、エタノール、及びプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種の1価アルコール(A)と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール及び/又は水(B)と、炭素数が12~22の脂肪酸塩(C)とを含み、前記1価アルコール(A)の含有量が50~90質量%であり、前記脂肪酸塩(C)の含有量が3~20質量%である。
本発明の固形燃料は、保存安定性に優れると共に、固形燃料として好適に使用可能である。本発明において、このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。
上記1価アルコール(A)の含有量を上記特定量に低減すると、通常は、固形燃料として必要な火勢が得られなかったり、良好な固化性が得られず燃焼中に固形燃料が液化し、意図しない範囲にまで燃え広がったり、そもそも、固形とすることができない。しかしながら、上記1価アルコール(A)の含有量を低減しつつ、上記多価アルコール及び/又は水(B)を配合することにより、保存安定性に優れると共に、固形燃料として必要な火勢と、良好な固化性も得られる。さらに、特定量の上記1価アルコール(A)と、上記多価アルコール及び/又は水(B)と共に、特定量の上記脂肪酸塩(C)を含むことにより、上記1価アルコール(A)の含有量が少ない場合であっても、好適に固形状態の燃料とすることができる。
また、本発明では、多価アルコールの脂肪酸エステルを配合する手法に比べて、さらに効果的に燃料の揮散を抑制して保存安定性を向上でき、同時に着火性、固化性などの固形燃料としての性能を維持できる。
なお、本明細書において、固形とは、固体の性状を示すことを意味し、ゲル状も包含する概念である。
【0008】
本発明の固形燃料は、前記多価アルコールの含有量が1~40質量%であることが好ましい。
これにより、本発明の効果がより顕著なものとなる。
【0009】
本発明の固形燃料は、前記水の含有量が1~40質量%であることが好ましい。
これにより、本発明の効果がより顕著なものとなる。
【0010】
本発明の固形燃料は、増粘剤を含むことが好ましく、前記増粘剤が多糖類を含むことがより好ましい。
これにより、燃焼の際の粉粒状の飛び散りも抑制できる。
【0011】
本発明の固形燃料は、表面がパラフィンにより覆われていることが好ましく、前記パラフィンの厚さが0.1~2.0mmであることがより好ましい。
これにより、燃料成分の揮散がより効果的に防止され、本発明の効果がより顕著なものとなる。また、燃料として必要な着火性を有しつつ、固形燃料が意図せず着火することを防ぎ、より安全に配慮した固形燃料となる。
【0012】
本発明の固形燃料は、前記脂肪酸塩(C)が炭素数16~20の脂肪酸塩であることが好ましい。
これにより、より好適に固形状態の燃料とすることができると共に、本発明の効果がより顕著なものとなる。
【0013】
本発明の固形燃料は、前記1価アルコール(A)がメタノールであり、
前記多価アルコール及び/又は水(B)がエチレングリコール及び/又はジエチレングリコール、並びに水であり、
前記脂肪酸塩(C)がステアリン酸塩であり、
さらにメチルセルロースを含むことが好ましい。
これにより、本発明の効果がより顕著なものとなり、固化性、火勢、燃焼時のにおい、燃焼時の形状に特に優れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の固形燃料は、保存安定性に優れると共に、固形燃料として好適に使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の固形燃料は、メタノール、エタノール、及びプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種の1価アルコール(A)と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール及び/又は水(B)と、炭素数が12~22の脂肪酸塩(C)とを含み、前記1価アルコール(A)の含有量が50~90質量%であり、前記脂肪酸塩(C)の含有量が3~20質量%である。
以下において、各成分について説明する。
【0016】
(1価アルコール(A))
1価アルコール(A)は、メタノール、エタノール、及びプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールである。1価アルコール(A)は、燃焼成分として機能する成分であり、含有量が多くなるほど、着火性、火勢、形状安定性が向上するものの、含有量が90質量%を超えると、保存安定性が低下する。
1価アルコール(A)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
1価アルコール(A)としては、燃焼時の形状安定性、においの抑制という理由から、メタノール、及びエタノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールであることが好ましく、メタノールであることがより好ましい。
【0018】
1価アルコール(A)の含有量は、固形燃料100質量%中、50~90質量%である。50質量%未満であると、充分な火勢、着火性が得られず、90質量%を超えると、充分な保存安定性が得られない。1価アルコール(A)の含有量は、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、特に好ましくは68質量%以上であり、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下、特に好ましくは73質量%以下、最も好ましくは70質量%未満である。
ここで、1価アルコール(A)の含有量は、2種以上の1価アルコール(A)を含有する場合、合計含有量を意味する。他の成分の含有量についても同様である。
【0019】
(多価アルコール及び/又は水(B))
多価アルコール及び/又は水(B)は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール及び/又は水である。多価アルコール及び/又は水(B)は、前記1価アルコール(A)と共に配合することにより、保存安定性に優れると共に、固形燃料として必要な適度な火勢も得られる。
多価アルコール及び/又は水(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
多価アルコール及び/又は水(B)としては、火勢、保存性、着火性に優れるという理由から、多価アルコールが好ましく、良好な固化性が得られると共に、適度な燃焼性も得られるという理由から、多価アルコール、水を併用することがより好ましい。
【0021】
多価アルコールとしては、着火性、燃焼の継続性という理由から、エチレングリコール、及びジエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールであることが好ましく、燃焼時のにおいを低減できるという理由から、エチレングリコールであることがより好ましい。
【0022】
多価アルコール及び/又は水(B)の含有量は、固形燃料100質量%中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10質量%以上、最も特に好ましくは15質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。1質量%未満であると、充分な保存安定性が得られない傾向があり、40質量%を超えると、充分な火勢、着火性、燃焼の継続性が得られない傾向がある。
【0023】
多価アルコールの含有量は、固形燃料100質量%中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは8質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下、最も好ましくは20質量%以下、より最も好ましくは15質量%以下である。1質量%未満であると、充分な保存安定性が得られない傾向があり、40質量%を超えると、充分な火勢、着火性、燃焼の継続性が得られない傾向がある。
【0024】
水の含有量は、固形燃料100質量%中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは8質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下、最も好ましくは20質量%以下、より最も好ましくは15質量%以下である。1質量%未満であると、充分な保存安定性が得られない傾向があり、40質量%を超えると、充分な火勢、着火性が得られず、また、十分な固化性が得られない傾向がある。
【0025】
(脂肪酸塩(C))
脂肪酸塩(C)は、炭素数が12~22の脂肪酸塩である。
脂肪酸塩(C)は、例えば、脂肪酸とアルカリとの中和反応により形成される塩であり、脂肪酸がアルカリとの中和反応により脂肪酸塩となることにより、充分な固化性を発揮する。
脂肪酸塩(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
脂肪酸塩の炭素数は12~22であり、好ましくは16~20である。
【0027】
脂肪酸塩(C)の脂肪酸としては、特に限定されないが、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、ペンタデシル酸、マルガリン酸、アラキジン酸等の飽和脂肪酸;パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸;等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、固化性の安定性という理由から、飽和脂肪酸が好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、及びベヘン酸からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、ステアリン酸、パルミチン酸がさらに好ましく、ステアリン酸が特に好ましい。
【0028】
脂肪酸塩(C)の塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、固化性の安定性という理由から、ナトリウム塩が好ましい。
【0029】
脂肪酸塩(C)の含有量は、固形燃料100質量%中、3~20質量%である。脂肪酸塩(C)の含有量が20質量%超えでも、3質量%未満でも、充分な固化性が得られず、また燃焼時の形状にも劣る。脂肪酸塩(C)の含有量は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上、特に好ましくは8質量%以上であり、好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下、さらに好ましくは14質量%以下、特に好ましくは12質量%以下である。
【0030】
前記固形燃料は、増粘剤を含むことが好ましい。これにより、燃焼の際の粉粒状の飛び散りも抑制できると共に、固化性の安定性をより向上できる傾向がある。
増粘剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
増粘剤としては、特に限定されないが、例えば、多糖類、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、ポリビニルアルコール等が挙げられる。なかでも、燃焼時の燃料の粉粒状の飛び散り抑制という理由から、多糖類が好ましい。すなわち、前記増粘剤が多糖類を含むことが好ましい。
【0032】
多糖類としては、特に限定されないが、例えば、セルロース誘導体、デンプン、アルギン酸及びその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)、グアーガム、ジェランガム、ゼラチン、ペクチン、キサンタンガム、カラギナン等が挙げられる。なかでも、燃焼時の燃料の粉粒状の飛び散り抑制という理由から、セルロース誘導体が好ましい。すなわち、前記増粘剤がセルロース誘導体を含むことが好ましい。
【0033】
セルロース誘導体としては、特に限定されないが、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテル等が挙げられる。なかでも、燃焼時の燃料の粉粒状の飛び散り抑制という理由から、セルロースエーテルが好ましく、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、メチルセルロースがさらに好ましい。すなわち、前記増粘剤がメチルセルロースを含むことが好ましい。
【0034】
増粘剤の20℃における2質量%水溶液粘度は、好ましくは100mPa・s以上100,000mPa・s以下、より好ましくは150mPa・s以上50,000mPa・s以下、さらに好ましくは200mPa・s以上10,000mPa・s以下である。
本明細書において、増粘剤の20℃における2質量%水溶液粘度は、JISZ8803(2011)に準拠して、Brookfield型回転粘度計により測定される。
【0035】
増粘剤の含有量は、固形燃料100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0036】
前記固形燃料には、前記成分の他、固形燃料において一般的に用いられている添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、香料、色粉、安定化剤等が挙げられる。これら各添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記固形燃料は、前記1価アルコール(A)がメタノールであり、
前記多価アルコール及び/又は水(B)がエチレングリコール及び/又はジエチレングリコール、並びに水であり、
前記脂肪酸塩(C)がステアリン酸塩であり、
さらにメチルセルロースを含むことが好ましく、
前記固形燃料は、前記1価アルコール(A)がメタノールであり、
前記多価アルコール及び/又は水(B)がエチレングリコール及び水であり、
前記脂肪酸塩(C)がステアリン酸塩であり、
さらにメチルセルロースを含むことがより好ましい。
これにより、本発明の効果がより顕著なものとなり、固化性、火勢、燃焼時のにおい、燃焼時の形状に特に優れる。
【0038】
前記固形燃料は、一般的な方法で製造される。すなわち、調合槽中で加温しながら前記各成分を混合、中和し、その後冷却して固化する方法等により製造できる。
前記固形燃料は、アルコールを主成分として含む固形物である。通常、液体であるアルコールを固体にするため、固形燃料用組成物には、脂肪酸とアルカリを配合し、脂肪酸がアルカリとの中和反応により脂肪酸塩となることにより、充分な固化性が得られ、固形燃料用組成物を固形物である固形燃料とすることができる。なお、塊状の固形燃料を切断等により所定形状(円柱形状等)に成形してもよい。
【0039】
前記固形燃料は、表面がパラフィンにより覆われていることが好ましい。すなわち、前記固形燃料は、パラフィンにより密封されていることが好ましい。固形燃料表面がパラフィンにより覆われていると、固形燃料の燃料成分の蒸発を防ぐことができ、より良好な保存安定性が得られる傾向がある。また、燃料として必要な着火性を有しつつ、固形燃料が意図せず着火することを防ぎ、より安全に配慮した固形燃料となる傾向がある。また、燃焼時の形状にもより優れる傾向がある。
【0040】
パラフィンとしては、炭化水素であれば特に限定されず、例えば、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、ヘンイコサン、ドコサン、トリコサン、テトラコサン、ペンタコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン等の鎖式飽和炭化水素等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
パラフィンの融点は、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは78℃以下、さらに好ましくは75℃以下である。
本明細書において、パラフィンの融点は、JISK2235(2009)に準拠して、パラフィンワックス融点試験器により測定される。
【0042】
固形燃料の表面の面積100%中、パラフィンにより覆われている割合は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは100%である。
【0043】
前記パラフィンの厚さは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上であり、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.5mm以下、さらに好ましくは1.3mm以下である。
本明細書において、パラフィンの厚さは、ノギスにより測定される切断面5箇所の測定値の平均値である。
【0044】
固形燃料表面をパラフィンで覆う方法は特に限定されないが、例えば、固形燃料表面に液状のパラフィンを噴霧する方法、加温溶解した液状のパラフィンに浸漬する方法等により行うことができる。
【0045】
前記固形燃料の形状は、特に限定されないが、例えば、円柱形状、角柱形状、塊状、粉状等が挙げられる。なかでも、着火性、火勢の安定性という理由から、円柱形状、角柱形状が好ましい。
【0046】
前記固形燃料は、缶に充填してもよい。例えば、缶の中に固形燃料を充填して、缶に入れたまま蓋を開けて固形燃料に着火することで燃料として使用する製品形態も想定される。
【0047】
前記固形燃料は、調理済み食品の保温、加温用途、加熱調理用途等に使用できる。なかでも、火勢、燃焼時間が適度であるという理由から、調理済み食品の保温、加温用途に用いられることが好ましい。
【0048】
前記固形燃料の重量は、特に限定されるものではなく、使用目的等にあわせて適宜設定すればよい。調理済み食品の保温、加温用途に用いるのであれば、3~70gであることが好ましく、3~60gであることがより好ましく、5~50gであることがさらに好ましい。
【0049】
前記固形燃料を燃焼させる際には、受け皿の内部に固形燃料を設置し、着火して燃焼させる。このような形状の固形燃料は、既に調理等が終了した鍋料理等の保温に適している。
【実施例0050】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0051】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。なお、下記にて説明しない薬品は試薬メーカーから購入したものを用いた。
メチルセルロース:信越化学工業製のメトローズSM400(20℃における2質量%水溶液の粘度:400mPa・s)
ヘキサグリセリンステアリン酸トリエステル:阪本薬品工業製のSYグリスターTS-5S
香料:富士フイルム和光純薬製のD-リモネン
色粉:Clariant製のSavinyl Blue GLS
パラフィン:米山薬品工業製のパラフィン(融点:68-70℃)
【0052】
(実施例及び比較例)
<固形燃料の作製>
表1に示す配合内容に従い、ホットスターラーを用いて、各薬品を55~65℃の条件下で10分間混合し、固形燃料用組成物を得た。ここで、脂肪酸塩が表1の組成となるように、脂肪酸と水酸化ナトリウムを配合した。また、各配合において、合計量が100質量部となるようにした。
得られた固形燃料用組成物を冷却して固化させた後、切断して円柱形状に成形し、固形燃料を得た。
なお、実施例8、9、10、18、25では、80℃で加温溶解したパラフィンに浸漬することにより、固形燃料の表面の90%をパラフィンにより覆った(パラフィンの厚さ:0.5mm)。
得られた固形燃料を用いて下記評価を行い、結果を表1に示した。
【0053】
(保存性)
固形燃料を25℃、湿度50%RHの環境に24時間静置して乾燥させた。試験前後の重量を測定し、重量減少率を算出した。下記基準により評価した。
◎:重量減少率が40%未満
〇:重量減少率が40%以上70%未満
×:重量減少率が70%以上
【0054】
(固化性)
固形燃料を0.1N/mm2で圧縮し、形状の変化と液の染み出しを観察した。下記基準により評価した。
◎:形状が崩れず、液の染み出しがない
〇:形状が崩れず、わずかに液が染み出す
×:形状が崩れ、液体の染み出しが顕著、もしくは固化しない
【0055】
(着火性)
固形燃料の上面に着火ライターの炎を当て、着火するまでの時間を測定した。下記基準により評価した。
〇:着火時間が2秒未満
△:着火時間が2秒以上10秒未満
×:着火しない
【0056】
(火勢)
固形燃料をコンロに置いて着火し、コンロ上に300mLの水が入ったアルミ鍋を置いた。固形燃料の燃焼中の火勢と、水の沸騰の様子を目視で観察した。下記基準により評価した。
◎:火がコンロからあふれず、速やかに沸騰する
〇:火がコンロからあふれず、沸騰する
×:火がコンロからあふれる、もしくは沸騰しない
【0057】
(燃焼時のにおい)
固形燃料をコンロに置いて着火し、コンロ上に300mLの水が入ったアルミ鍋を置いた。コンロから50cm離れた場所からにおいを嗅いだ。下記基準により評価した。
◎:においを感じない
〇:特異なにおいを感じるが、不快ではない
×:不快なにおいを感じる
【0058】
(燃焼時の形状)
固形燃料をコンロに置いて着火し、コンロ上に300mLの水が入ったアルミ鍋を置いた。燃焼中の固形燃料の様子を目視で観察した。下記基準により評価した。
◎:燃焼中の液化がほぼない
〇:燃焼中の液化が3割未満
△:燃焼中の液化が3割以上5割未満
×:燃焼中に全量が液化する
【0059】
【表1】
【0060】
表1より、メタノール、エタノール、及びプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種の1価アルコール(A)と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール及び/又は水(B)と、炭素数が12~22の脂肪酸塩(C)とを含み、前記1価アルコール(A)の含有量が50~90質量%であり、前記脂肪酸塩(C)の含有量が3~20質量%である実施例の固形燃料は、保存安定性に優れると共に、固形燃料として好適に使用可能であることが分かった。