(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065112
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】物体検出装置及び物体検出方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/60 20060101AFI20230502BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20230502BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
G01S13/60 202
G01S13/931
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175731
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】李 明宇
【テーマコード(参考)】
5H181
5J070
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF05
5H181LL01
5H181LL04
5J070AB24
5J070AC01
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AE01
5J070AE07
5J070AF03
5J070AK36
(57)【要約】
【課題】レーダセンサによる物体検出精度を向上可能な物体検出装置及び物体検出方法を提供する。
【解決手段】移動体1に搭載されたレーダセンサ11による測定点のデータに基づいて移動体1の周囲の物体を検出する処理を実行する物体検出装置50は、測定点が、速度がゼロを超える測定点である場合、レーダセンサ11の位置oと測定点の位置との間に静止物91が存在するか否かを判定し、静止物91が存在する場合に測定点を誤検出点として物体を検出する処理を実行する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体(1)に搭載されたレーダセンサ(11)により検出される測定点のデータを取得する取得部(61)と、
取得した前記測定点のデータに基づいて前記移動体(1)の周囲の物体を検出する処理を実行する物体検出処理部(63)と、を備え、
前記物体検出処理部(63)は、
前記測定点が、速度がゼロを超える測定点である場合、
前記レーダセンサ(11)の位置(o)と前記測定点の位置との間に静止物(91)が存在するか否かを判定し、
前記静止物(91)が存在する場合に前記測定点を誤検出点として前記物体を検出する処理を実行する、物体検出装置。
【請求項2】
前記物体検出処理部(63)は、
前記測定点の速度と前記移動体(1)の速度との差が所定範囲内であり、
前記レーダセンサ(11)の位置(o)と前記測定点の位置(g)との間に静止物(91)が存在する場合に、
前記測定点を前記移動体(1)での反射による誤検出点と判定する、請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記物体検出処理部(63)は、
前記測定点の速度と他の測定点の速度との差が所定範囲内であり、
前記レーダセンサ(11)の位置(o)と前記測定点の位置(g)との間に前記静止物(91)が存在し、
下記条件式を満たす場合に、
前記測定点を複数段階反射による誤検出点と判定する、請求項1に記載の物体検出装置。
(条件式) |om|+|mn|+|on|=2|og|
o:レーダセンサ(11)の位置
g:測定点の位置
n:レーダセンサ(11)の位置と測定点の位置とを結ぶ直線上の静止物(91)の位置
m:測定点の速度との差が所定範囲内である他の測定点の位置
om:二つの位置(o,m)間の距離
mn:二つの位置(m,n)間の距離
on:二つの位置(o,n)間の距離
og:二つの位置(o,g)間の距離
【請求項4】
前記物体検出処理部(63)は、
前記レーダセンサ(11)の位置(o)と前記測定点の位置(g)との間に前記静止物(91)が存在し、
前記測定点の速度と他の測定点の速度との差が所定範囲内であり、かつ、前記レーダセンサ(11)の位置(o)から前記測定点の位置(g)までの距離と前記レーダセンサ(11)の位置(o)から前記他の測定点の位置(m)までの距離との差が所定範囲内である、当該他の測定点が存在する場合に、
前記測定点を方位角の誤りによる誤検出点とする、請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項5】
移動体(1)に搭載されたレーダセンサ(11)による測定点のデータに基づいて前記移動体(1)の周囲の物体を検出する物体検出方法において、
前記測定点が、速度がゼロを超える測定点である場合に前記レーダセンサ(11)の位置(o)と前記測定点の位置との間に静止物(91)が存在するか否かを判定するステップと、
前記静止物(91)が存在する場合に前記測定点を誤検出点と判定するステップと、
を備える、物体検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の移動体に適用される物体検出装置及び物体検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両等の移動体は、該移動体の周囲環境を検出するセンサを備えるものがある。例えば車両では、検出される周囲環境の情報に基づいて、自車両と先行車両と間の車間距離が目標車間距離となるように維持しながら自車両を自動で走行させるクルーズコントロール制御(ACC:Adaptive Cruise Control)や、先行車両を含む障害物等との衝突を回避あるいは衝突時の衝撃を軽減する衝突安全機能が実行されるものがある。このような周囲環境を検出するセンサの一つとして、ミリ波レーダ等のレーダ波を用いたレーダセンサが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーダセンサにより検出される測定点群のデータはそれぞれの測定点の位置情報及び速度情報を含み、また、検出可能範囲(距離)が広いことから、レーダセンサは主に走行中の他車両等の動体の検出に用いられている。
【0005】
本発明は、レーダセンサによる物体検出精度を向上可能な物体検出装置及び物体検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、移動体に搭載されたレーダセンサにより検出される測定点のデータを取得する取得部と、取得した測定点のデータに基づいて移動体の周囲の物体を検出する処理を実行する物体検出処理部と、を備え、物体検出処理部は、測定点が、速度がゼロを超える測定点である場合、レーダセンサの位置と測定点の位置との間に静止物が存在するか否かを判定し、静止物が存在する場合に測定点を誤検出点として物体を検出する処理を実行する物体検出装置が提供される。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、移動体に搭載されたレーダセンサにより検出される測定点のデータに基づいて移動体の周囲の物体を検出する物体検出方法において、測定点が、速度がゼロを超える測定点である場合にレーダセンサの位置と測定点の位置との間に静止物が存在するか否かを判定するステップと、静止物が存在する場合に測定点を誤検出点と判定するステップと、を備える物体検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本発明によれば、レーダセンサによる物体検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る移動体の構成例を説明するための図である。
【
図2】物体検出装置の構成例を説明するための図である。
【
図3】物体検出装置による処理動作を説明するための図である。
【
図4】固定座標系、車両座標系及びセンサ座標系を説明するための図である。
【
図5】物体検出装置が実行する静止物検出処理を説明するための図である。
【
図6】物体検出装置が実行する静止物検出判定処理を説明するための図である。
【
図7】物体検出装置が実行する静止物検出判定処理を説明するための図である。
【
図8】物体検出装置が実行する移動物体検出処理を説明するための図である。
【
図9】誤検出点の第1の例を説明するための図である。
【
図10】誤検出点の第2の例を説明するための図である。
【
図11】誤検出点の第3の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
<1.移動体の構成例>
まず、本実施形態に係る物体検出装置を適用可能な移動体の構成例を説明する。
【0012】
本実施形態に係る物体検出装置は、四輪自動車や自動二輪車等の車両、船舶、航空機、ロボット等の種々の移動体に適用することができる。本実施形態では、移動体として四輪自動車に物体検出装置を適用した例を説明する。
【0013】
図1は、移動体の一例としての車両1の構成例を示す模式図である。
図1に示した車両1は、左前輪3LF、右前輪3RF、左後輪3LR及び右後輪3RR(以下、特に区別を要しない場合には「車輪3」と総称する)を備えた四輪自動車であって、内燃機関や駆動用モータ等の駆動力源13から出力される駆動トルクを左前輪3LF及び右前輪3RFに伝達する二輪駆動の車両1として構成されている。車両1は、四つの車輪3へ駆動力を伝達する四輪駆動の車両であってもよい。また、車両1が電気自動車やハイブリッド電気自動車の場合、車両1には、駆動用モータへ供給される電力を蓄積する二次電池や、駆動用モータへ供給される電力及びバッテリに充電される電力を発電する発電機が搭載される。
【0014】
車両1は、車両1の走行を制御する機器として、駆動力源13、電動ステアリング装置15及びブレーキ液圧制御ユニット30を備えている。駆動力源13は、図示しない変速機や差動機構を介して車輪3に伝達される駆動トルクを出力する。駆動力源13や変速機の駆動は車両制御装置40により制御される。
【0015】
電動ステアリング装置15は図示しない電動モータやギヤ機構を含み、車両制御装置40により制御されることによって左前輪3LF及び右前輪3RFの操舵角を調節する。車両制御装置40は、手動運転中には、ドライバによるステアリングホイールの操舵角に基づいて電動ステアリング装置15を制御する。また、車両制御装置40は、自動運転中には、目標操舵角に基づいて電動ステアリング装置15を制御する。
【0016】
ブレーキ液圧制御ユニット30は、それぞれの車輪3に設けられたブレーキキャリパに供給する油圧を調節し、制動力を発生させる。ブレーキ液圧制御ユニット30の駆動は、車両制御装置40により制御される。車両1が電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の場合、ブレーキ液圧制御ユニット30は、駆動用モータによる回生ブレーキと併用される。
【0017】
車両制御装置40は、駆動力源9、電動ステアリング装置15及びブレーキ液圧制御ユニット30の駆動を制御する一つ又は複数の電子制御装置を含む。車両制御装置40は、物体検出装置50から送信される信号を取得可能に構成され、車両1の自動運転制御を実行可能に構成されている。なお、自動運転制御には、緊急ブレーキ制御やACC(Adaptive Cruise Control)を含むものとする。また、車両制御装置40は、車両1の手動運転時においては、ドライバの運転操作量の情報を取得し、駆動力源9、電動ステアリング装置15及びブレーキ液圧制御ユニット30の駆動を制御する。
【0018】
車両1は、レーダセンサ11及び位置検出センサ17を備えている。
図1に示した車両1では、レーダセンサ11は車両1のフロント部分の中央に設置されている。レーダセンサ11は、照射軸を車長方向前方に向けて設置されている。レーダセンサ11は、例えば照射軸X
Rと照射軸に直交する軸Y
Rの2軸が成すX
R-Y
R平面が車高方向に直交するようにアライメントされた状態で設置される。ただし、レーダセンサ11の設置位置及び照射軸X
Rの軸方向はこの例に限定されるものではなく、任意の位置に任意の方向へ向けて設置されてよい。また、車両1に搭載されるレーダセンサ11の数は一つに限られない。
【0019】
レーダセンサ11は、例えばミリ波を放射するものであってよいが、このほかにマイクロ波やサブミリ波を放射するものであってもよい。また、レーダセンサ11は長距離レーダセンサであってもよく、中距離レーダセンサであってもよい。
【0020】
レーダセンサ11は、所定の角度範囲(角度解像度)に向けてレーダ波を送信するとともに当該レーダ波の反射波を受信し、送信波及び受信波の情報に基づいて反射点(以下「測定点」という)の位置及び速度を算出する。測定点の位置の情報は、レーダセンサ11から測定点までの距離の情報、及び、レーダ波の照射軸に対してレーダセンサ11から見た測定点の向きが成す角度(以下、「方位角」ともいう)の情報を含む。
【0021】
具体的に、レーダセンサ11は、所定の時間間隔に設定された処理サイクルごとに、照射軸を中心とする所定の角度範囲に対してレーダ波を照射するとともに反射波を受信する。レーダセンサ11がそれぞれの処理サイクルごとに受信する反射波は、複数の反射波を含み得る。レーダセンサ11は、受信したすべての反射波について、従来公知の処理を実行して測定点の位置及び速度を算出し、それぞれ所定範囲に区分されるロケーションデータに関連付けて物体検出装置50へ送信する。つまり、それぞれのロケーションデータは、一つ又は複数の測定点のデータを含む。
【0022】
位置検出センサ17は、例えばGPS(Global Positioning System)センサであり、GPS衛星からの衛星信号を受信し、GPSデータ上での位置検出センサ17の経度及び緯度の位置情報(Lo,La)を取得する。位置検出センサ17は、取得した位置情報(Lo,La)と、位置検出センサ17に設定されている基準方向の情報とを位置データとして物体検出装置50へ送信する。基準方向は、位置検出センサ17の設置位置を原点(xv,yv=0V)とする車両座標系CV(0V,XV,YV)のXV軸を規定する方向であり、車両1の車長方向前方に一致する方向に設定されている。なお、GPSセンサの代わりに、位置検出センサ17の位置を特定する他の衛星システムからの衛星信号を受信するアンテナが用いられてもよい。
【0023】
<2.物体検出装置>
続いて、本実施形態に係る物体検出装置50の構成例を説明する。
物体検出装置50は、レーダセンサ11から送信される測定点のデータに基づいて物体を検出する処理を実行する。本実施形態では、物体検出装置50は、レーダセンサ11から送信される測定点のデータに基づいて所定の速度で移動する移動物体を検出する処理と、停止しあるいは固定又は設置されて速度を持たない静止物を検出する処理とを実行可能に構成されている。
【0024】
(2-1.構成例)
図2は、物体検出装置50の構成例を示すブロック図である。物体検出装置50は、CPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置を含むマイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサユニット等として構成されている。これらの装置の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0025】
物体検出装置50は、通信部51、処理部53及び記憶部55を備える。通信部51は、レーダセンサ11、位置検出センサ17及び車両制御装置40と信号あるいはメッセージを送受信するためのインタフェースであり、LAN(Local Area Network)又はLIN(Local Inter Net)等の一つ又は複数の通信プロトコルの規格に適合する構成を有する。処理部53は、演算処理装置を含んで構成され、種々の演算処理を実行する。
【0026】
記憶部55は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子、あるいは、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の記録媒体を含んで構成される。記憶部55は、処理部53により実行されるコンピュータプログラムや、演算処理に用いられる種々のパラメータ、レーダセンサ11及び位置検出センサ17から取得された情報、処理部53による演算処理結果等のデータを記憶する。
【0027】
以下、処理部53の機能を簡単に説明した後に処理部53の具体的な動作例を説明する。処理部53は、取得部61及び物体検出処理部63を備える。取得部61及び物体検出処理部63の一部又は全部は、演算処理装置によるプログラムの実行により実現される機能である。
【0028】
取得部61は、レーダセンサ11及び位置検出センサ17から送信されるデータを取得する。具体的に、取得部61は、所定の時間間隔に設定された処理サイクルごとにレーダセンサ11から送信される測定点のデータと、位置検出センサ17から送信される位置データを取得する。
【0029】
物体検出処理部63は、取得部61により取得された測定点のデータに基づいて車両1の周囲の物体を検出する処理を実行する。具体的に、物体検出処理部63は、レーダセンサ11の位置を原点(xr,yr=0R)とするセンサ座標系CR(0R,XR,YR)上でのそれぞれの測定点の座標(xr,yr)を、レーダセンサ11の位置が変化する場合であっても座標系が変化しない固定座標系CW(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に変換する。また、物体検出処理部63は、固定座標系CW(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に変換した各測定点の速度を算出し、移動物体による反射点と仮定される測定点を除いた複数の測定点群のうちの固定座標系CW(0W,XW,YW)上でクラスタを形成する静止物判定用測定点Pa_iを用いて静止物の存在を特定する。
【0030】
本実施形態では、車両1のシステム起動時に位置検出センサ17から取得される、システム起動時のGPSデータ上の位置検出センサ17の位置(Lo,La)を原点(xw,yw=0W)とし、世界地図上の経度に沿う方向をXW軸、緯度に沿う方向をYW軸とする固定座標系CW(0W,XW,YW)が用いられる。
【0031】
ただし、固定座標系CW(0W,XW,YW)は、緯度に沿う方向をXW軸、経度に沿う方向をYW軸とするものであってもよい。また、XW軸及びYW軸は、車両1の移動にかかわらず不変とできるものであれば経度及び緯度に関連付けられることなく任意に設定されてよい。例えば車両1のシステム起動時の位置検出センサ17の基準方向で示される車両1の車長方向をXW軸とし、車幅方向をYW軸とする固定座標系CW(0W,XW,YW)としてもよい。
【0032】
また、物体検出処理部63は、取得部61により取得された測定点のデータのうち、速度がゼロを超える値である測定点のデータに基づいて移動物体を検出する。本実施形態では、物体検出処理部63は、速度がゼロを超える測定点とレーダセンサ11の位置との間に静止物が存在する場合に当該測定点を誤検出点として判別し、誤検出点を除いた移動物体判定用測定点のデータを用いて移動物体を検出する。速度がゼロを超える測定点とは、車両1に対する測定点の相対位置や相対移動方向にかかわらず測定点自体の速度がゼロでない測定点をいう。
【0033】
そして、物体検出処理部63は、検出した物体の情報を車両制御装置40へ送信する。車両制御装置40は、受信した物体の情報に基づいて車両1の自動運転制御を実行し、物体との衝突を回避し、あるいは、衝突時の衝撃を緩和する。
【0034】
(2-2.動作例)
続いて、本実施形態に係る物体検出装置50により実行される処理の具体的な動作例をフローチャートに沿って説明する。
【0035】
図3は、物体検出装置50による処理動作のフローチャートを示す。なお、
図3に示す処理は、車両1のシステム起動中に常時実行されてもよく、運転開始から運転終了までの間に常時実行されてもよい。
【0036】
まず、取得部61は、レーダセンサ11及び位置検出センサ17から送信されるデータを取得する(ステップS1)。具体的に、取得部61は、レーダセンサ11から送信される測定点のデータ、及び、位置検出センサ17から送信される位置データを取得する。測定点の位置情報は、レーダセンサ11の照射軸XRに対してレーダセンサ11から見た測定点の向きが成す角度(方位角)の情報、及び、レーダセンサ11から測定点までの距離の情報を含む。また、位置データは、GPSデータ上での位置検出センサ17の位置情報(Lo,La)と、車両座標系CV(0V,XV,YV)のXV軸を表す位置検出センサ17の基準方向の情報とを含む。
【0037】
次いで、物体検出処理部63は、レーダセンサ11から取得した測定点のデータのそれぞれの測定点の座標(xr,yr)を、固定座標系CW(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に変換する処理を実行する(ステップS3)。つまり、車両1とともに移動するレーダセンサ11の位置を原点(xr,yr=0R)とするセンサ座標系CR(0R,XR,YR)の座標(xr,yr)を、レーダセンサ11の位置にかかわらず原点(xw,yw=0W)が維持される固定座標系CW(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に変換する。
【0038】
物体検出装置50の記憶部55には、あらかじめ位置検出センサ17の設置位置とレーダセンサ11の設置位置との相対関係を示す情報が記録されている。本実施形態では、位置検出センサ17の設置位置を原点(xv,yv=0V)とし、車長方向をXV軸、車幅方向をYV軸とする車両座標系CV(0V,XV,YV)上での、レーダセンサ11の設置位置の座標(xv,yv)の情報が記憶部55に記録されている。また、記憶部55には、レーダセンサ11の照射軸XRと車両座標系CVのXV軸との成す角度(αR)の情報が記録されている。また、GPSデータ上での位置検出センサ17の設置位置(Lo,La)及び基準方向は、常時位置検出センサ17から取得される。
【0039】
したがって、物体検出処理部63は、レーダセンサ11により測定された測定点のセンサ座標系CR(0R,XR,YR)の座標(xr,yr)を車両座標系CV(0V,XV,YV)の座標(xv,yv)に変換し、さらに車両座標系CV(0V,XV,YV)の座標(xv,yv)を固定座標系CW(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に変換することができる。
【0040】
図4を参照しながら、センサ座標系C
R(0
R,X
R,Y
R)の座標(x
r,y
r)を固定座標系C
W(0
W,X
W,Y
W)の座標(x
w,y
w)に変換する処理を具体的に説明する。
図1に示した車両1では、レーダセンサ11は、車両1のフロント部分に、照射軸X
Rを前方に向けて設置されているが、ここでは、説明の都合上、車両1のフロント部分の左側に設置されたレーダセンサ11LFを例に採って説明する。
【0041】
図4は、固定座標系C
W(0
W,X
W,Y
W)上に、車両座標系C
V(0
V,X
V,Y
V)及びレーダセンサ11LFのセンサ座標系C
R(0
R,X
R,Y
R)を示した説明図である。物体検出処理部63は、車両1のシステム起動時等、適宜の時期に位置検出センサ17から取得したGPSデータ上の位置検出センサ17の位置情報(L
o,L
a)を原点(x
w,y
w=0
W)とし、位置検出センサ17の基準方向をX
W軸とする座標系を固定座標系C
W(0
W,X
W,Y
W)として設定する。ここで設定された固定座標系C
W(0
W,X
W,Y
W)は、車両1のシステムが停止される等によってリセットされるまでの間、変更されることなく保持される。
【0042】
固定座標系CW(0W,XW,YW)が設定される時点において、車両座標系CV(0V,XV,YV)の原点(xv,yv=0V)は、固定座標系CW(0W,XW,YW)の原点(xw,yw=0W)に一致する。以降、車両座標系CV(0V,XV,YV)は、車両1の移動に伴って固定座標系CW(0W,XW,YW)上で原点(xv,yv=0V)が平行移動するとともにXV軸及びYV軸が原点(xv,yv=0V)を中心に回転移動する。
【0043】
また、レーダセンサ11LFは、位置検出センサ17とは異なる位置に固定されていることから、固定座標系CW(0W,XW,YW)が設定される時点において、センサ座標系CR(0R,XR,YR)の原点(xr,yr=0R)は、固定座標系CW(0W,XW,YW)の原点(xw,yw=0W)とは異なる位置に位置する。また、センサ座標系CR(0R,XR,YR)は、車両1の移動に伴って固定座標系CW(0W,XW,YW)上で原点(xr,yr=0R)が平行移動するとともにXR軸及びYR軸が原点(xr,yr=0R)を中心に回転移動する。一方、レーダセンサ11LFは車両1に固定されていることから、センサ座標系CR(0R,XR,YR)の原点(xr,yr=0R)、XR軸及びYR軸は、車両1の移動にかかわらず車両座標系CV(0V,XV,YV)上で変化することなく保持される。
【0044】
ここで、センサ座標系C
R(0
R,X
R,Y
R)の座標(x
r,y
r)を固定座標系C
W(0
W,X
W,Y
W)の座標(x
w,y
w)に変換することを考える。
図4に示した例では、センサ座標系C
R(0
R,X
R,Y
R)の原点(x
r,y
r=0
R)は、車両座標系C
V(0
V,X
V,Y
V)上において方位角α
rの方向に位置する。また、車両座標系C
V(0
V,X
V,Y
V)の原点(x
v,y
v=0
V)は、固定座標系C
W(0
W,X
W,Y
W)上において方位角α
vの方向に位置する。なお、方位角αは、それぞれのX
V軸あるいはX
W軸の左右のいずれかを正の値とする。例えば方位角αは、時計回り方向を正の値としてもよい。
【0045】
センサ座標系CR(0R,XR,YR)は、車両座標系(0V,XV,YV)を方位角αrだけ回転移動させるとともに、車両座標系(0V,XV,YV)の原点(xv,yv=0V)からセンサ座標系CR(0R,XR,YR)の原点(xr,yr=0R)までの距離だけ平行移動させたものに相当する。したがって、センサ座標系CR(0R,XR,YR)の座標(xr,yr)を車両座標系(0V,XV,YV)の座標(xv,yv)に同次変換するための式TR(V,R)は、下記式(1)で表すことができる。
【0046】
【0047】
同様に、車両座標系(0V,XV,YV)は、固定座標系(0W,XW,YW)を方位角αvだけ回転移動させるとともに、固定座標系(0W,XW,YW)の原点(xw,yw=0W)から車両座標系(0V,XV,YV)の原点(xv,yv=0V)までの距離だけ平行移動させたものに相当する。したがって、車両座標系CV(0V,XV,YV)の座標(xv,yv)を固定座標系(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に同次変換するための式TR(W,V)は、下記式(2)で表すことができる。
【0048】
【0049】
上記式(1)及び式(2)より、センサ座標系CR(0R,XR,YR)の座標(xr,yr)を固定座標系(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に同次変換するための式TR(W,R)は、下記式(3)で表すことができる。
【0050】
【0051】
物体検出処理部63は、上記式(1)~式(3)により、レーダセンサ11LFから取得した測定点群のデータのすべての測定点の座標(xr,yr)を、固定座標系CW(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に変換する。ここでは車両1のフロント部分の左側に設置されたレーダセンサ11LFを例に採って説明したが、車両座標系CV(0V,XV,YV)上でのレーダセンサ11の設置位置の座標(xv,yv)及び照射軸XRの方位角(αr)の情報をあらかじめ記憶部55に記憶しておくことで、上記式(1)~(3)により、測定点の座標(xr,yr)を固定座標系CW(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に変換することができる。
【0052】
なお、
図1に示した車両1の場合、レーダ波の照射軸X
Rが車長方向に一致しており、車両座標系C
V(0
V,X
V,Y
V)に対するセンサ座標系C
R(0
R,X
R,Y
R)の回転角度はゼロである。
【0053】
図3に戻り、次いで、物体検出処理部63は、座標(x
r,y
r)を固定座標系C
W(0
W,X
W,Y
W)の座標(x
w,y
w)に変換した測定点群のデータに基づいて静止物を検出する処理を実行する(ステップS5)。
【0054】
図5は、静止物を検出する処理のルーチンを示すフローチャートである。物体検出処理部63は、レーダセンサ11から取得した測定点群のデータのうち、移動物体による反射点と仮定される測定点のデータを除外する処理を実行する(ステップS11)。具体的に、それぞれの測定点のデータには、レーダセンサ11から見た視線方向の速度(視線速度)の情報、及び、レーダ波の照射軸X
Rに対してレーダセンサ11から見た測定点の向きが成す角度(方位角)の情報が含まれる。
【0055】
上記式(3)をベクトル表現すると下記式(4)で示すことができる。
【0056】
【0057】
固定座標系CW(0W,XW,YW)上でのXW軸に対する測定点の向き(方位角)をαnとすると、上記式(4)から、それぞれの測定点の速度は下記式(5)で表すことができる。
【0058】
【0059】
式(5)のうち、vncos(αn)*q11+vnsin(αn)*q12は、固定座標系CW(0W,XW,YW)上でのXW軸方向の速度を表し、vncos(αn)*q21+vnsin(αn)*q22は、固定座標系CW(0W,XW,YW)上でのYW軸方向の速度を表している。vncos(αn)*q11+vnsin(αn)*q12、又は、vncos(αn)*q21+vnsin(αn)*q22の少なくともいずれか一方がゼロでない場合、当該測定点は移動物体による反射点と仮定されることを意味する。物体検出処理部63は、上記式(5)を用いてそれぞれの測定点が移動物体による反射点と仮定されるか否かを判別し、移動物体による反射点と仮定される測定点を除外する。
【0060】
次いで、物体検出処理部63は、静止物を検出するための判定処理を実行する(ステップS13)。本実施形態では、物体検出処理部63は、レーダセンサ11から取得された測定点群のデータのうち、移動物体による反射点と仮定される測定点を除外した静止物判定用測定点Pa_i(i=1,2,…,n)に基づいて静止物の存在の確度を評価し、静止物を特定する処理を実行する。
【0061】
ここで、静止物検出判定処理方法の一例を説明する。以下に説明する静止物検出処理方法の例では、物体検出処理部63は、抽出したそれぞれの静止物判定用測定点Pa_iが、前回の処理サイクルまでに認識済みでありかつ特定前の静止物候補の測定点であるかを判定する。静止物判定用測定点Pa_iが静止物候補の測定点に該当しない場合、物体検出処理部63は、当該静止物判定用測定点Pa_iの位置に静止物候補の可能性を示す情報を設定する。静止物候補の可能性を示す情報を設定する場合、物体検出処理部63は、当該静止物候補についての存在の確度の評価をプラス側に更新する。また、静止物判定用測定点Pa_iが静止物候補の測定点に該当する場合、物体検出処理部63は、該当する静止物候補についての存在の確度の評価をさらにプラス側に更新する。
【0062】
そして、確度の評価が、あらかじめ設定された確度に到達した場合、物体検出処理部63は、該当する静止物候補を、存在する静止物として特定する。物体検出処理部63は、マッチング処理技術を利用して静止物の種類を特定してもよいが、静止物の種類の特定は必須ではない。
【0063】
一方、静止物候補についての存在の確度の評価を一旦プラス側に更新した後、静止物候補が存在する静止物として特定されるまでの処理サイクル中に、当該静止物候補の測定点に該当する静止物判定用測定点Pa_iが存在しなくなった場合、物体検出処理部63は、当該静止物候補の情報を消去する。また、静止物候補が存在する静止物として一旦特定された後、当該特定済みの静止物の測定点に該当する静止物判定用測定点Pa_iが存在しない場合、物体検出処理部63は、当該静止物についての評価をマイナス側に更新する。そして、確度の評価があらかじめ設定された所定の確度を下回る状態となった場合、物体検出処理部63は、特定済みの静止物の情報を消去する。
【0064】
これにより、ある静止物候補についての静止物判定用測定点Pa_iが連続して所定回数測定されたときに静止物の存在が特定される。一方、一旦存在が特定された静止物についての静止物判定用測定点Pa_iが、所定回数測定されなくなったときに、静止物が存在しなくなったと判定される。
【0065】
本実施形態では、確度の評価として、確度評価点を0.25加算することにより評価をプラス側に更新し、確度評価点が1.00に到達した場合に静止物候補を存在する静止物として特定する。静止物として特定された後は、当該静止物の測定点に該当する静止物判定用測定点Pa_iがあったとしても、確度評価点は最大値である1.00で維持される。一方、一旦存在が特定された静止物については、確度評価点を0.25減算することにより評価をマイナス側に更新し、確度評価点がマイナスになった場合に静止物の情報を消去する。
【0066】
図6は、静止物検出判定処理の具体例を示す説明図である。
時刻t1で、特定済みの静止物あるいは認識済みかつ特定前の静止物候補の測定点に該当しない静止物判定用測定点Pa_iが現れたとする。この場合、物体検出処理部63は、固定座標系C
W(0
W,X
W,Y
W)上の当該静止物判定用測定点Pa_iの座標(x
w,y
w)に関連付けて新たな静止物候補の可能性を示す情報を記録するとともに、確度評価点を0.25加算する。
【0067】
時刻t2で、時刻t1で記録した静止物候補に該当する静止物判定用測定点Pa_iが現れなかったとする。この場合、物体検出処理部63は、当該静止物候補の情報を消去する。
【0068】
時刻t3で、特定済みの静止物あるいは認識済みかつ特定前の静止物候補の測定点に該当しない静止物判定用測定点Pa_iが現れたとする。この場合、物体検出処理部63は、時刻t1で行った処理と同様に、固定座標系CW(0W,XW,YW)上の当該静止物判定用測定点Pa_iの座標(xw,yw)に関連付けて新たな静止物候補の可能性を示す情報を記録するとともに、確度評価点を0.25加算する。
【0069】
次いで、時刻t4~t6で、時刻t3で記録した静止物候補に該当する静止物判定用測定点Pa_iが測定されたとすると、それぞれの時刻において、物体検出処理部63は、確度評価点を0.25加算する。これにより、時刻t6では、確度評価点が1.00に到達することから、当該静止物候補を存在する静止物として特定する。
【0070】
次いで、時刻t7~t9で、時刻t6で特定した静止物に該当する静止物判定用測定点Pa_iが測定された場合、物体検出処理部63は、確度評価点を最大値である1.00に保持する。
【0071】
次いで、時刻t10~t13で、時刻t6で特定した静止物に該当する静止物判定用測定点Pa_iが測定されなくなった場合、それぞれの時刻において、物体検出処理部63は、確度評価点を0.25減算する。これにより、時刻t13では確度評価点がマイナスになることから、当該静止物の情報を消去する。この状態は、例えば駐車車両等の静止物の脇を車両1が通過し、駐車車両がレーダセンサ11の測定範囲から外れた状態である。
【0072】
このように、静止物の存在が特定される前の静止物候補の段階で、該当する静止物判定用測定点Pa_iが現れなくなったとき、物体検出処理部63は、静止物の存在の確度が低いことから静止物の存在を特定することなく静止物候補の情報を消去する。一方、静止物の存在が特定された後に、所定期間(上記の例では少なくとも5回の処理サイクル)該当する静止物判定用測定点Pa_iが現れなくなったとき、物体検出処理部63は、静止物がレーダセンサ11の測定範囲から外れたものとして特定済みの静止物の情報を消去する。確度評価点の最大値が設定されていることから、静止物がレーダセンサ11の測定範囲から外れたにもかかわらず特定された静止物として残り続けることを防ぐことができる。
【0073】
図7は、静止物検出判定処理のルーチンの一例を示すフローチャートである。
まず、物体検出処理部63は、ステップS17までの処理で抽出された静止物判定用測定点Pa_i(i=1,2,…,n)の中からいずれかの静止物判定用測定点Pa_iを選択する(ステップS31)。静止物判定用測定点Pa_iの選択順序は特に限定されるものではなく、ランダムに選択されてもよいし、車両1あるいはレーダセンサ11からの距離が近い順に選択されてもよい。
【0074】
次いで、物体検出処理部63は、選択した静止物判定用測定点Pa_iが、すでに存在を特定済みのいずれかの静止物の測定点に該当するか否かを判定する(ステップS33)。例えば物体検出処理部63は、静止物判定用測定点Pa_iの固定座標系CW(0W,XW,YW)上の座標(xw,yw)及び速度を、存在を特定済みの静止物の測定点の固定座標系CW(0W,XW,YW)上の座標(xw,yw)及び速度と比較することにより、選択した静止物判定用測定点Pa_iが、すでに存在を特定済みのいずれかの静止物の測定点に該当するか否かを判定する。具体的に、固定座標系CW(0W,XW,YW)上の静止物判定用測定点Pa_iの座標(xw,yw)が、固定座標系CW(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に関連付けて記録されているいずれかの静止物の座標(xw,yw)から所定の距離内にあり、かつ、静止物判定用測定点Pa_iの速度と当該静止物の速度とが同等である場合に、物体検出処理部63は、静止物判定用測定点Pa_iが当該特定済みの静止物の測定点に該当すると判定する。このとき、物体検出処理部63は、反射波の反射強度等、静止物判定用測定点Pa_iの信頼性を評価し、信頼性が保証される場合に、静止物判定用測定点Pa_iが当該特定済みの静止物の測定点に該当すると判定するようにしてもよい。
【0075】
選択した静止物判定用測定点Pa_iが、すでに存在を特定済みのいずれかの静止物の測定点に該当すると判定された場合(S33/Yes)、物体検出処理部63は、当該特定済みの静止物の情報を更新する(ステップS35)。例えば物体検出処理部63は、固定座標系CW(0W,XW,YW)上の静止物判定用測定点Pa_iの座標(xw,yw)に基づいて、固定座標系CW(0W,XW,YW)上の特定済みの静止物の位置を補正する。
【0076】
次いで、物体検出処理部63は、当該特定済みの静止物の確度評価点がすでに最大値(=1.00)となっているか否かを判定する(ステップS37)。確度評価点が最大値となっている場合(S37/Yes)、物体検出処理部63は、当該特定済みの静止物の確度評価点を最大値のまま保持し(ステップS39)、ステップS57に進む。一方、確度評価点が最大値となっていない場合(S37/No)、物体検出処理部63は、当該特定済みの静止物の確度評価点を加算(+0.25)することにより更新し(ステップS41)、ステップS57に進む。
【0077】
上記のステップS33において、選択した静止物判定用測定点Pa_iが、すでに存在を特定済みの静止物のいずれにも該当しないと判定された場合(S33/No)、物体検出処理部63は、選択した静止物判定用測定点Pa_iが、認識済みかつ特定前のいずれかの静止物候補の測定点に該当するか否かを判定する(ステップS43)。物体検出処理部63は、ステップS33と同様の手順で、静止物判定用測定点Pa_iが、認識済みかつ特定前のいずれかの静止物候補の測定点に該当すると判定する。
【0078】
選択した静止物判定用測定点Pa_iが、認識済みかつ特定前のいずれかの静止物候補の測定点に該当すると判定された場合(S43/Yes)、物体検出処理部63は、当該認識済みかつ特定前の静止物候補の情報を更新する(ステップS45)。例えば物体検出処理部63は、固定座標系CW(0W,XW,YW)上の静止物判定用測定点Pa_iの座標(xw,yw)に基づいて、固定座標系CW(0W,XW,YW)上の静止物候補の位置を補正する。
【0079】
次いで、物体検出処理部63は、当該静止物候補の確度評価点を加算することにより更新し(ステップS47)、当該静止物候補の確度評価点が最大値(=1.00)に到達したか否かを判定する(ステップS49)。当該静止物候補の確度評価点が最大値に到達した場合(S49/Yes)、物体検出処理部63は、当該静止物候補を、現実に存在する静止物として特定して静止物の情報を更新し(ステップS51)、ステップS57に進む。一方、当該静止物候補の確度評価点が最大値に到達していない場合(S49/No)、そのままステップS57に進む。
【0080】
上記のステップS43において、選択した静止物判定用測定点Pa_iが、認識済みかつ特定前の静止物候補のいずれにも該当しないと判定された場合(S43/No)、物体検出処理部63は、今回の静止物判定用測定点Pa_iを、新たな静止物候補の測定点として記録する(ステップS53)。さらに、物体検出処理部63は、新たに記録した静止物候補の確度評価点を加算し(+0.25)(ステップS55)、ステップS57に進む。
【0081】
特定済みの静止物、あるいは、認識済みかつ特定前の静止物候補の情報及び確度評価点の更新、又は、新たな静止物候補の記録及び確度評価点の更新を行った後、物体検出処理部63は、今回の処理サイクルで抽出されたすべての静止物判定用測定点Pa_i (i=1,2,…,n)を用いた判定処理が完了したか否かを判定する(ステップS57)。判定処理を行っていない静止物判定用測定点Pa_iがある場合(S57/No)、物体検出処理部63は、ステップS31に戻り、判定処理を行っていない静止物判定用測定点Pa_iを選択して、上述した各ステップの処理を実行する。
【0082】
一方、すべての静止物判定用測定点Pa_iを用いた判定処理が完了した場合(S57/Yes)、物体検出処理部63は、いずれの静止物判定用測定点Pa_iにも該当しなかった特定済みの静止物の確度評価点を減算(-0.25)する(ステップS59)。次いで、物体検出処理部63は、確度評価点がマイナスとなった特定済みの静止物が存在する場合には、当該特定済みの静止物の情報を消去し(ステップS61)、さらに、いずれの静止物判定用測定点Pa_iにも該当しなかった、認識済みかつ特定前の静止物候補の情報を消去する(ステップS63)。これにより、次回以降の処理サイクルで、当該特定済みの静止物、及び、認識済みかつ特定前の静止物候補の情報が判定処理に用いられないように設定される。
【0083】
なお、
図6及び
図7に基づいて説明した例では、静止物が存在する確度の評価として、1.00を最大値として、0.25ずつ加算又は減算される確度評価点が用いられていたが、評価の指標はこの例に限定されない。例えばA,B,C,D等の適宜の評価の指標を設定し、静止物判定用測定点Pa_iが該当する静止物あるいは静止物候補の評価の指標値を上昇させ又は下降させてもよい。
【0084】
このようにして、物体検出装置50は、レーダセンサ11を用いて静止物を検出することができる。特に、本実施形態に係る物体検出装置50は、レーダセンサ11から取得される測定点の位置を、レーダセンサ11の位置が変化する場合であっても座標系が変化しない固定座標系CW(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に変換し、各測定点の速度を算出する。そして、物体検出装置50は、複数の異なる処理サイクルに取得された複数の測定点のうち、速度がゼロではなく、移動物体による反射点と仮定される測定点を除外した測定点であって、固定座標系CW(0W,XW,YW)上でクラスタを形成する測定点を静止物判定用測定点Pa_i(i=1,2,…,n)として静止物の存在を判定する。
【0085】
静止物判定用測定点Pa_iには、移動物体による反射点と仮定される測定点が含まれていない。これにより、静止物によって反射された可能性が高い静止物判定用測定点Pa_iを用いて静止物の存在が特定され、レーダセンサ11による静止物の検出精度を高めることができる。ただし、静止物を検出する処理は、上記の例に限定されない。
【0086】
図3に戻り、物体検出装置50は、静止物を検出する処理を実行した後、移動物体を検出する処理を実行する(ステップS7)。
図8は、移動物体を検出する処理を示すフローチャートである。
【0087】
まず、物体検出処理部63は、取得部61により取得された測定点のデータのうち、速度がゼロを超える測定点を抽出する(ステップS71)。ここでは、上述したステップS11において除外された、速度がゼロではなく、移動物体による反射点と仮定される測定点が選択される。ただし、レーダセンサ11から送信される測定点のうち、測定点のデータに含まれる速度の情報がゼロを超える測定点が抽出されてもよい。
【0088】
次いで、物体検出処理部63は、抽出したそれぞれの測定点の位置と、レーダセンサ11の位置との間に、ステップS5で特定された静止物が存在するか否かを判定する処理を実行する(ステップS73)。具体的に、物体検出処理部63は、レーダセンサ11の位置の座標である測定点のセンサ座標系CR(0R,XR,YR)の原点の座標(xr,yr=0R)を車両座標系CV(0V,XV,YV)の座標(xv,yv)に変換し、さらに車両座標系CV(0V,XV,YV)の座標(xv,yv)を固定座標系CW(0W,XW,YW)の座標(xw,yw)に変換する。そして、固定座標系CW(0W,XW,YW)上のレーダセンサ11の位置と各測定点とを結ぶ直線上に、速度がゼロを超える測定点を除外した静止物判定用測定点Pa_i(i=1,2,…,n)に基づいて特定された静止物が存在している場合に、物体検出処理部63は、それぞれの測定点の位置とレーダセンサ11の位置との間に静止物が存在すると判定する。
【0089】
図9~
図11は、測定点の位置gとレーダセンサ11の位置oとの間に静止物が存在する場合に、当該測定点が誤検出点であり得る例を示す。
図9は、レーダセンサ11から放射されたレーダ波が静止物91及び自車両1による反射を繰り返し、その反射波がレーダセンサ11により受信される例を示す。静止物91としては、例えば側壁やガードレールなどが想定される。この場合、レーダセンサ11は、反射波を受信した方向における、反射を繰り返したレーダ波の経路の長さの和の1/2に相当する距離の位置gに、自車両1の車速と近似する速度を有する測定点(誤検出点)があると認識する。
【0090】
しかしながら、静止物91を超えた位置に存在する移動物体により反射された測定点をレーダセンサ11により検出することができないため、物体検出処理部63は、測定点の位置gとレーダセンサ11の位置oとの間に静止物91が存在することが分かった場合に当該測定点を誤検出点として判別することができる。つまり、
図9に示す例では、物体検出処理部63は、測定点の位置gとレーダセンサ11の位置oとの間に静止物91が存在し、かつ、測定点の速度と自車両1の車速との差が所定範囲内である場合に、当該測定点が誤検出点であると判定する。測定点の速度と自車両1の車速との差を比較する所定範囲は、判定結果の許容誤差を考慮してあらかじめ任意の値に設定されてよい。
【0091】
図10は、レーダセンサ11から放射され前方車両93により反射されたレーダ波が、さらに静止物91により反射されてレーダセンサ11により受信される例を示す。この場合、レーダセンサ11は、反射波を受信した方向における、反射を繰り返したレーダ波の経路の長さの和の1/2に相当する距離の位置gに、前方車両93の車速と近似する速度を有する測定点(誤検出点)があると認識する。
【0092】
しかしながら、静止物91を超えた位置に存在する移動物体により反射された測定点をレーダセンサ11により検出することができないため、物体検出処理部63は、測定点の位置gとレーダセンサ11の位置oとの間に静止物91が存在することが分かった場合に当該測定点を誤検出点として判別することができる。つまり、
図10に示す例では、物体検出処理部63は、測定点の速度と前方車両93による反射点である他の測定点の速度との差が所定範囲内であり、測定点の位置gとレーダセンサ11の位置oとの間に静止物91が存在し、かつ、下記式(6)を満たす場合に、当該測定点が誤検出点であると判定する。
【0093】
|om|+|mn|+|on|=2|og| …(6)
o:レーダセンサの位置
g:測定点の位置
n:レーダセンサの位置と測定点の位置とを結ぶ直線上の静止物の位置
m:測定点の速度との差が所定範囲内である他の測定点の位置
om:二つの位置(o,m)間の距離
mn:二つの位置(m,n)間の距離
on:二つの位置(o,n)間の距離
og:二つの位置(o,g)間の距離
【0094】
この場合においても、測定点の速度と他の測定点の速度との差を比較する所定範囲は、判定結果の許容誤差を考慮してあらかじめ任意の値に設定されてよい。
【0095】
図11は、レーダセンサ11から放射され前方車両93により反射されたレーダ波がレーダセンサ11により受信された場合に、レーダセンサ11の照射軸X
Rに対してレーダセンサ11から見た測定点の向きが成す角度(方位角)αが誤って検出される例を示す。この場合、レーダセンサ11は、反射波を受信した方向における、レーダセンサ11の位置oから前方車両93による反射点mまでの距離に相当する距離の位置gに、前方車両93の車速と近似する速度を有する測定点(誤検出点)があると認識する。
【0096】
しかしながら、静止物91を超えた位置に存在する移動物体により反射された測定点をレーダセンサ11により検出することができないため、物体検出処理部63は、測定点の位置gとレーダセンサ11の位置oとの間に静止物91が存在することが分かった場合に当該測定点を誤検出点として判別することができる。つまり、
図11に示す例では、物体検出処理部63は、測定点の位置gとレーダセンサ11の位置oとの間に静止物91が存在し、測定点の速度と前方車両93による反射点である他の測定点の速度との差が所定範囲内であり、かつ、レーダセンサ11の位置oから当該測定点の位置gまでの距離|og|とレーダセンサ11の位置oから他の測定点の位置mまでの距離|om|との差が所定範囲内である場合に、当該測定点が誤検出点であると判定する。この場合においても、測定点の速度と他の測定点の速度との差を比較する所定範囲、及び、上記二つの距離(|og|,|om|)の差を比較する所定範囲は、判定結果の許容誤差を考慮してあらかじめ任意の値に設定されてよい。
【0097】
図8に戻り、物体検出処理部63は、ステップS73において、測定点の位置とレーダセンサ11の位置との間に静止物が存在すると判定されなかった場合(S73/No)、物体検出処理部63は、当該測定点を移動物体による反射点である測定点として記録する(ステップS75)。一方、測定点の位置とレーダセンサ11の位置との間に静止物が存在すると判定された場合(S73/Yes)、物体検出処理部63は、当該測定点に対して、自車両1での反射による誤検出点、複数段階反射による誤検出点、又は方位角の誤りによる誤検出点の情報を付加して記録する(ステップS77)。
【0098】
次いで、物体検出処理部63は、速度がゼロを超えるすべての測定点について、測定点の位置とレーダセンサ11の位置との間に静止物が存在するか否かの判定を行ったかの判定を行う(ステップS79)。測定点の位置とレーダセンサ11の位置との間に静止物が存在するか否かの判定を行っていない測定点が残っている場合(S79/No)、物体検出処理部63は、ステップS71に戻り、新たに判定対象とする測定点を選択し、上述した各ステップの処理を繰り返す。
【0099】
一方、すべての測定点について、測定点の位置とレーダセンサ11の位置との間に静止物が存在するか否かの判定を行ったと判定された場合(S79/Yes)、物体検出処理部63は、移動物体による反射点である測定点として記録された複数の測定点を移動物体判定用測定点Pb_iとして、移動物体を特定する処理を実行する(ステップS81)。本実施形態において記録された複数の移動物体判定用測定点Pb_iを用いて移動物体を特定する処理は特に限定されるものではなく、従来公知のレーダセンサ11の測定点に基づく移動物体を検出する任意の処理と同様の手順で行われてよい。
【0100】
本実施形態では、速度がゼロを超える測定点のうち、レーダセンサ11の位置と測定点の位置との間に静止物が存在する測定点を誤検出点として移動物体を検出する処理が実行される。このため、従来と同様の手順に沿って移動物体を検出する処理を実行した場合であっても、移動物体の検出精度を向上させることができる。また、本実施形態では、速度がゼロを超える測定点のうち誤検出点となり得るケースにそれぞれ対応する判定方法により、自車両1での反射による誤検出点、複数段階反射による誤検出点、又は方位角の誤りによる誤検出点を判別する。したがって、高い精度で誤検出点を判別することができ、誤検出点を除外した移動物体判定用測定点Pb_iによる移動物体の判定精度を高めることができる。
【0101】
また、本実施形態では、物体検出処理部63は、複数の異なる処理サイクルに取得された複数の測定点のうち、移動物体による反射点と仮定される測定点を除外し、固定座標系CW(0W,XW,YW)上でクラスタを形成する測定点を静止物判定用測定点Pa_iとして静止物の存在を判定する。これにより、静止物によって反射された可能性が高い静止物判定用測定点Pa_iを用いて静止物の存在が特定され、レーダセンサ11による静止物の検出精度が高められている。したがって、レーダセンサ11の位置と測定点の位置との間に静止物が存在する測定点を誤検出点として判別する精度が高められ、移動物体の判定精度を向上させることができる。
【0102】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが本発明はこのような例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0103】
例えば上記実施形態では、レーダセンサ11が測定点の位置及び速度を算出し、算出した位置及び速度の情報を物体検出装置50へ送信していたが、レーダセンサ11が測定点の位置を算出するとともに算出した位置の情報を物体検出装置50へ送信し、物体検出装置50が測定点の速度の情報を算出してもよい。
【符号の説明】
【0104】
1:車両、11・11LF:レーダセンサ、17:位置検出センサ、40:車両制御装置、50:物体検出装置、51:通信部、53:処理部、55:記憶部、61:取得部、63:物体検出処理部、CR:センサ座標系、CV:車両座標系、CW:固定座標系、Pf:誤測定点、Pa_i・Pb_i:判定用測定点、αr・αv:方位角