(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065117
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】酸素溶解装置およびこれを用いた酸素溶解方法
(51)【国際特許分類】
B01F 21/00 20220101AFI20230502BHJP
B01F 23/232 20220101ALI20230502BHJP
B01F 25/40 20220101ALI20230502BHJP
B01F 35/71 20220101ALI20230502BHJP
【FI】
B01F1/00 A
B01F3/04 C
B01F5/00 D
B01F15/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175739
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】515288203
【氏名又は名称】安原環境テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安原 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】大内 光徳
【テーマコード(参考)】
4G035
4G037
【Fターム(参考)】
4G035AA01
4G035AB16
4G035AC01
4G035AE13
4G037AA02
4G037EA01
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で空気中の酸素を効率よく液体に溶解させることができる技術を提供する。
【解決手段】酸素溶解装置1は、液体が注入される上面4c、及び空気を巻き込みながら前記液体が落下する落下孔9が設けられた底部4bを有する上部タンク4と、底部4から下方に延び落下孔9に連通する円筒管8と、を備える。円筒管8は、筒本体10と、筒本体10の内周面10aに設けられ、筒本体10内を通過する液体にカルマン渦を生じさせる複数の円筒突起12と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が注入される開口部、及び空気を巻き込みながら前記液体が落下する落下孔が設けられた底部を有する上部タンクと、
前記底部から下方に延び前記落下孔に連通する円筒管と、を備え、
前記円筒管は、
筒本体と、
前記筒本体の内周面に設けられ、前記筒本体内を通過する前記液体にカルマン渦を生じさせる複数の円筒突起と、を有する
酸素溶解装置。
【請求項2】
前記複数の円筒突起の直径は、前記筒本体の内周直径の1/4以下である
請求項1に記載の酸素溶解装置。
【請求項3】
前記複数の円筒突起の直径をdとすると、
前記複数の円筒突起の高さは、(1/2)d以上、d以下である
請求項1又は請求項2に記載の酸素溶解装置。
【請求項4】
前記複数の円筒突起は、
上下方向における第1高さ位置において周方向に沿って配置された複数の第1円筒突起と、
前記第1高さ位置よりも下方の第2高さ位置において周方向に沿って配置された複数の第2円筒突起と、を含み、
前記複数の第1円筒突起の周方向位置と、前記複数の第2円筒突起の周方向位置とは、互いに異なっている
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の酸素溶解装置。
【請求項5】
前記複数の円筒突起の直径をdとすると、
前記複数の第2円筒突起のうちの互いに隣り合う一対の第2円筒突起同士の前記内周面における周方向の間隔は、6.2d以上であり、
前記複数の第1円筒突起のうちの1つである基準第1円筒突起と、前記複数の第2円筒突起のうちの周方向において前記基準第1円筒突起の隣に位置する対象第2円筒突起と、の前記内周面における周方向の間隔は、3.1d以上である
請求項4に記載の酸素溶解装置。
【請求項6】
液体が注入される開口部及び空気を巻き込みながら前記液体が落下する落下孔が設けられた底部を有する上部タンクへ前記液体を注入し、前記底部から下方に延び前記落下孔に連通する円筒管の内部に前記液体を導入するステップを含み、
前記円筒管は、筒本体と、前記筒本体の内周面に設けられ、前記筒本体内を通過する前記液体にカルマン渦を生じさせる複数の円筒突起と、を有する
酸素溶解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素溶解装置およびこれを用いた酸素溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浄化設備や湖沼、ため池、ダム等における水質改善を目的に、水の溶存酸素量を増加させる技術が利用されている。
このような技術としては、例えば、水中に投入された多孔質の散気管に圧縮空気を送気する方法や、水中に投入された回転羽根等によってせん断流を形成しその中に圧縮空気を送気する方法、マイクロバブルやナノバブルを水中内で発生させる方法等が挙げられる。
しかし、上記従来の方法では、気体圧縮用のコンプレッサ等が必要となり、装置が大掛かりとなるという課題を有していた。
【0003】
そこで、本願出願人は、簡易な構成で、液体に対する酸素の溶解を促進し、液体の溶存酸素量を増加させる装置について提案を行っている(特許文献1参照)。
本願出願人によって出願された特許文献1には、液体に対する酸素の溶解を促進し、液体の溶存酸素量を増加させる装置が開示されている。
この装置は、
図9に示すように、上下方向に延びる円筒管100と、円筒管100の外方に配置された外管102とを備える。円筒管100の側面には複数の吸気孔104が設けられている。
【0004】
円筒管100内には、水等の液体が供給される。円筒管100内に供給された液体は、円筒管100内を上方から下方へ向かって通過する。このとき、流体として円筒管100内を通過する液体と、円筒管100の内周面100aとの間で生じる負圧によって、円筒管100の外部の空気が吸気孔104を通過して円筒管100内へ導入される。円筒管100内へ導入された空気は、液体内に気泡として取り込まれる。
上記特許文献1の装置では、空気を気泡として液体内に取り込ませることで、空気中の酸素を効率よく液体に溶解させることができ、簡易な構成で、液体の溶存酸素量を増加させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、簡易な構成で空気中の酸素を効率よく液体に溶解させる装置について、鋭意研究を行った、その結果、空気中の酸素を効率よく液体に溶解させることができる、上記特許文献1に記載の装置とは異なる新たな構成を発明するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、簡易な構成で空気中の酸素を効率よく液体に溶解させることができる新たな技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る酸素溶解装置は、液体が注入される開口部、及び空気を巻き込みながら前記液体が落下する落下孔が設けられた底部を有する上部タンクと、前記底部から下方に延び前記落下孔に連通する円筒管と、を備え、前記円筒管は、筒本体と、前記筒本体の内周面に設けられ、前記筒本体内を通過する前記液体にカルマン渦を生じさせる複数の円筒突起と、を有する。
【0009】
上記構成によれば、空気を巻き込んだ液体が落下孔から円筒管内に導入されると、液体とともに落下する空気は当該液体に気泡として取り込こまれる。液体は気泡を取り込んだ状態で円筒管内を通過する。気泡を取り込んだ液体は、円筒管内の円筒突起の周囲を通過する。このとき、円筒突起の周囲を通過した液体には、カルマン渦が生じる。このカルマン渦によって、液体に取り込まれた気泡は、液体と攪拌、混合され、液体に対する酸素溶解が促進される。この結果、液体に対して空気中の酸素を効率よく溶解させることができる。
このように、上記構成によれば、筒本体の内周面に複数の円筒突起を設けるという簡易な構成で空気中の酸素を効率よく液体に溶解させることができる。
【0010】
(2)上記酸素溶解装置において、前記複数の円筒突起の直径は、前記筒本体の内周直径の1/4以下であることが好ましい。
複数の円筒突起の直径が筒本体の内周直径の1/4よりも大きいと、筒本体内の流路断面が必要以上に小さくなり、液体が筒本体内に導入されたときに、液体の流れを阻害してしまい、必要な流速が得られないおそれがある。
複数の円筒突起の直径を筒本体の内周直径の1/4以下とすることで、筒本体内の液体を必要な流速で通過させることができる。
【0011】
(3)上記酸素溶解装置において、前記複数の円筒突起の高さは、前記複数の円筒突起の直径をdとすると、(1/2)d以上、d以下であることが好ましい。
複数の円筒突起の高さを(2/3)dより小さくすると、カルマン渦による攪拌効果が十分に得られないおそれがある。
複数の円筒突起の高さが円筒突起の直径dよりも大きいと、筒本体内の流路断面が必要以上に小さくなり、液体が筒本体内に導入されたときに、液体の流れを阻害してしまい、必要な流速が得られないおそれがある。さらに、複数の円筒突起に異物が引っかかるおそれも生じる。
複数の円筒突起の高さを(2/3)dより小さくし、かつd以下とすることで、カルマン渦による撹拌効果を得つつ、複数の円筒突起に、液体に混入した異物が引っかかるのを抑制することができる。
【0012】
(4)上記酸素溶解装置において、前記複数の円筒突起は、上下方向における第1高さ位置において周方向に沿って配置された複数の第1円筒突起と、前記第1高さ位置よりも下方の第2高さ位置において周方向に沿って配置された複数の第2円筒突起と、を含み、前記複数の第1円筒突起の周方向位置と、前記複数の第2円筒突起の周方向位置とは、互いに異なっていることが好ましい。
この場合、複数の第1円筒突起の下流側で生じるカルマン渦が複数の第2円筒突起に干渉し、撹拌効果が低下するのを抑制することができる。
さらに、同じ高さ位置に多数の円筒突起を設けることで円筒管内の流路断面を狭めてしまうことがなく、同じ高さ位置の円筒突起の数を抑制しつつ、全体としてより多くの円筒突起を円筒管内に設けることができる。
【0013】
(5)上記酸素溶解装置において、前記複数の円筒突起の直径をdとすると、前記複数の第2円筒突起のうちの互いに隣り合う一対の第2円筒突起同士の前記内周面における周方向の間隔は、6.2d以上であり、前記複数の第1円筒突起のうちの1つである基準第1円筒突起と、前記複数の第2円筒突起のうちの周方向において前記基準第1円筒突起の隣に位置する対象第2円筒突起と、の前記内周面における周方向の間隔は、3.1d以上であることが好ましい。
この場合、基準第1円筒突起の下流側で生じるカルマン渦と、対象第2円筒突起の下流側で生じるカルマン流とが互いに干渉するのを抑制することができる。
【0014】
(6)他の観点から見た本開示に係る酸素溶解方法は、液体が注入される開口部及び空気を巻き込みながら前記液体が落下する落下孔が設けられた底部を有する上部タンクへ前記液体を注入し、前記底部から下方に延び前記落下孔に連通する円筒管の内部に前記液体を導入するステップを含む。
前記円筒管は、筒本体と、前記筒本体の内周面に設けられ、前記筒本体内を通過する前記液体にカルマン渦を生じさせる複数の円筒突起と、を有する。
本方法によれば、簡易な構成で空気中の酸素を効率よく液体に溶解させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、液体に対して空気中の酸素を効率よく溶解させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る酸素溶解装置の構成図である。
【
図2】
図2(a)は、上部タンクの断面図であり、
図2(b)は、上部タンクの平面図である。
【
図3】
図3(a)は、円筒管の中心軸を含む断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)中のB-B線矢視断面図である。
【
図4】
図4は、筒本体の内周面を展開したときの平面図である。
【
図5】
図5(a)は、変形例に係る円筒管の部分断面図であり、
図5(b)は、他の変形例に係る円筒管の部分断面図である。
【
図6】
図6は、円筒突起によってカルマン渦が発生する際の態様を説明するためのモデル図である。
【
図7】
図7は、実施例による第1円筒突起及び第2円筒突起によって生じるカルマン渦の態様を平面的に示した模式図である。
【
図8】
図8は、酸素飽和度の経時変化を示したグラフである。
【
図9】
図9は、従来の酸素溶解装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔実施形態について〕
図1は、本実施形態に係る酸素溶解装置の構成図である。
図1中、酸素溶解装置1は、注入機構2と、上部タンク4と、下部タンク6と、円筒管8とを備えている。
酸素溶解装置1は、注入機構2によって上部タンク4に注入される液体に対して空気中の酸素の溶解を促進させ、溶存酸素量を増加させるための装置である。
液体は、水道水や、湖沼、ため池、ダム等に貯留された水や、廃水処理施設において処理される廃水であるが、これら以外の液体であってもよい。
廃水処理施設において処理される廃水には、異物が含まれることがある。異物には、繊維くず、紙繊維くず、小麦粉粒子、米粉粒子、豆皮くず、ピーナッツ殻くず、金属粉、微生物の死骸等の微粒子や、比較的大きなゴミ等が含まれる。前記微粒子を含む廃水は、前記微粒子を含まない水と比較して粘性が大きい。
【0018】
上部タンク4は、注入機構2から注入される液体を貯留する。
図2(a)は、上部タンク4の断面図、
図2(b)は、上部タンク4の平面図である。
図1、
図2(a)、及び
図2(b)に示すように、上部タンク4は、円筒状の周壁4aと、底部4bとを備える。底部4bは、ステンレス鋼等からなる円板状の部材である。周壁4aは、ステンレス鋼等からなる円筒状の部材であり、底部4bの周縁に立設されている。
上部タンク4の上面4cは開口している。注入機構2からの液体は上面4cの開口から注入される。つまり、上面4cは、液体が注入される開口部を構成する。
【0019】
底部4bには、落下孔9が設けられている。落下孔9は、上部タンク4の内部に貯留される液体を下方へ落下させるための円形の孔である。落下孔9の中心は、周壁4a及び底部4bの中心軸Cに一致している。
【0020】
円筒管8は、底部4bの下面4b1に設けられている。円筒管8は、円筒管状の部材であり、下面4b1から下方に延びている。円筒管8は、下面4b1における落下孔9の端縁に沿って設けられている。これにより、円筒管8は、落下孔9に連通している。
また、円筒管8の長手方向の中心軸は、中心軸Cに一致している。
【0021】
注入機構2は、
図1に示すように、第1注入管2aと、第2注入管2bとを有する。第1注入管2a及び第2注入管2bは、図示しない液体貯留タンクに接続される。第1注入管2a及び第2注入管2bには、液体貯留タンクから液体が供給される。液体は、第1注入管2a及び第2注入管2bの管内を通過して上部タンク4に注入される。
【0022】
第1注入管2aは、管本体2a1と、流量調節器2a2とを有する。管本体2a1は、上部タンク4の上方に設けられ、上部タンク4へ液体を注入する。流量調節器2a2は、管本体2a1を通過する液体の流量を調節する機能を有する。
図2(b)中、底部4b上の点x1を通過する上下方向に平行な直線は、管本体2a1の中心軸を通過する。つまり、第1注入管2aは、底部4b上の点x1の直上に設けられている。よって、第1注入管2aから注入される液体は、底部4b上の点x1付近に衝突する。
【0023】
第2注入管2bは、
図1に示すように、管本体2b1と、流量調節器2b2とを有する。管本体2b1は、上部タンク4の上方に設けられ、上部タンク4へ液体を注入する。流量調節器2b2は、管本体2b1を通過する液体の流量を調節する機能を有する。
図2(b)中、底部4bの落下孔9の端縁上の点x2を通過する上下方向に平行な直線は、管本体2b1の中心軸を通過する。つまり、第2注入管2bは、底部4b上の点x2の直上に設けられている。よって、第2注入管2bから注入される液体は、底部4b上の点x2付近に衝突する。
なお、点x1と、点x2とは、中心軸Cを通過する直線H(
図2(b))上に位置する。
【0024】
点x2は、落下孔9の端縁上であるため、第2注入管2bから注入される液体は、その大部分が落下孔9へ直接的に導入される。
一方、第1注入管2aから注入される液体は、直接的に落下孔9へ導入されず、底部4b上に広がるように流れた後、落下孔9の周囲から落下孔9へ向けて落下する。
このため、第2注入管2bから直接的に落下孔9へ導入される液体と、第1注入管2aによって注入され落下孔9の周囲から落下する液体との間には、落下速度(流速)に差が生じる。この結果、第2注入管2bから直接的に落下孔9へ導入される液体の周囲には負圧が生じ、周囲の空気が落下孔9へ吸引される。
これにより、落下孔9へ導入される液体は、周囲の空気を巻き込みながら下方に落下する。
落下孔9へ導入され周囲の空気を巻き込みながら下方に落下する液体は、円筒管8内に導入される。
なお、第1注入管2aの流量及び第2注入管2bの流量は、落下孔9へ導入される液体は、周囲の空気を巻き込みながら下方に落下するように、適宜調整される。
【0025】
図3(a)は、円筒管8の中心軸を含む断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)中のB-B線矢視断面図である。
図3(a)、
図3(b)に示すように、円筒管8は、筒本体10と、複数の円筒突起12とを有する。
筒本体10は、ステンレス鋼等からなる円筒状の部材である。筒本体10の上端は、底部4bの下面4b1に接続されている。筒本体10は、落下孔9に連通している。よって、落下孔9から下方に落下する液体は、筒本体10内に導入される。
【0026】
複数の円筒突起12は、ステンレス鋼等からなる円筒状の部材であり、筒本体10の内周面10aに設けられている。複数の円筒突起12は、それぞれ同じ形状を有する。
複数の円筒突起12は、内周面10aから径方向内方へ突出している。
複数の円筒突起12は、円筒状の部材を溶接や接着層によって内周面10aに固定することで設けられている。
【0027】
本実施形態において、空気を巻き込んだ液体が落下孔9から円筒管8内に導入されると、液体とともに落下する空気は当該液体に気泡として取り込こまれる。液体は気泡を取り込んだ状態で円筒管8内を通過する。気泡を取り込んだ液体は、円筒管8内の円筒突起12の周囲を通過する。このとき、円筒突起12の周囲を通過した液体には、カルマン渦が生じる。このカルマン渦によって、液体に取り込まれた気泡は、液体と攪拌、混合され、液体に対する酸素溶解が促進される。この結果、液体に対して空気中の酸素を効率よく溶解させることができる。
このように、本実施形態によれば、筒本体10の内周面10aに複数の円筒突起12を設けるという簡易な構成で空気中の酸素を効率よく液体に溶解させることができる。
【0028】
ところで、上記従来の装置を廃水処理施設に設置し、廃水に対して酸素を溶解させるために用いた場合、廃水を円筒管内へ導入することとなる。
廃水には、水分だけではなく、様々な微粒子やごみ等の異物が含まれることがある。このような異物を含む液体を円筒管内へ導入した場合、異物の付着等によって円筒管の吸気孔が塞がれ、吸気孔に目詰まりが生じる。吸気孔に目詰まりが生じると、吸気孔から円筒管内へ導入される空気の量が減少し、液体内に空気(気泡)を十分に取り込ませることができず、酸素を液体に溶解する際の効率が低下するおそれがある。
【0029】
この点、本実施形態では、上記従来の装置のような吸気孔を持たないので、液体に異物が含まれていたとしても、酸素を液体に溶解する際の効率が低下するのを抑制することができ、空気中の酸素を効率よく溶解させることができる。
【0030】
円筒管8を通過した液体は、下部タンク6(
図1)に落下し、下部タンク6に貯留される。
下部タンク6に貯留された液体は、当該下部タンク6の下方に配置された排水タンク(図示省略)に排水され、排水タンクに貯留される。
排水タンクにはポンプが設置されている。
排水タンクに貯留された液体は、このポンプによって前記液体貯留タンクに還流される。よって、液体は、円筒管8を繰り返し通過する。
これにより、酸素溶解装置1は、液体に対して空気中の酸素を効率よく溶解させることができる。
【0031】
図3(a)に示すように、複数の円筒突起12は、円筒管8上下方向における4つの高さ位置(高さ位置T1、T2、T3、T4)のそれぞれに3個ずつ設けられている。
各高さ位置の3個の円筒突起12は、周方向に等間隔に配置されている。
【0032】
以下、複数の円筒突起12のうち、高さ位置T1に配置された3つの円筒突起12を第1円筒突起12Aとも呼び、高さ位置T2に配置された3つの円筒突起12を第2円筒突起12Bとも呼び、高さ位置T3に配置された3つの円筒突起12を第3円筒突起12Cとも呼び、高さ位置T4に配置された3つの円筒突起12を第4円筒突起12Dとも呼ぶ。
【0033】
高さ位置T1と高さ位置T2との間隔、高さ位置T2と高さ位置T3との間隔、及び、高さ位置T3と高さ位置T4との間隔は、互いに同じである。
第1円筒突起12Aの周方向位置と、第3円筒突起12Cの周方向位置とは、互いに同じである。
また、第2円筒突起12Bの周方向位置と、第4円筒突起12Dの周方向位置とは、互いに同じである。
【0034】
また、第1円筒突起12A(第3円筒突起12C)の周方向位置と、第2円筒突起12B(第4円筒突起12D)の周方向位置とは、互いに異なっている。より具体的に、第1円筒突起12A(第3円筒突起12C)のうちの周方向に互いに隣り合う一対の第1円筒突起12A(第3円筒突起12C)同士の間の周方向中央の位置に、第2円筒突起12B(第4円筒突起12D)が設けられている。
これにより、第1円筒突起12Aの下流側で生じるカルマン渦が第2円筒突起12Bに干渉し、撹拌効果が低下するのを抑制することができる。
さらに、同じ高さ位置に多数の円筒突起12を設けることで筒本体10内の流路断面を狭めてしまうことがなく、同じ高さ位置の円筒突起12の数を抑制しつつ、全体としてより多くの円筒突起12を筒本体10内に設けることができる。
【0035】
複数の円筒突起12の直径d(
図3(a))は、筒本体10の内周直径D(
図3(a))の1/4以下であることが好ましい。
複数の円筒突起12の直径dが内周直径Dの1/4よりも大きいと、筒本体10内の流路断面が必要以上に小さくなり、液体が筒本体10内に導入されたときに、液体の流れを阻害してしまい、必要な流速が得られないおそれがある。
複数の円筒突起12の直径dを筒本体10の内周直径Dの1/4以下とすることで、筒本体10内の液体を必要な流速で通過させることができる。
【0036】
また、複数の円筒突起12の高さt(
図3(b))は、(1/2)d以上、d以下であることが好ましい。
複数の円筒突起12の高さtを(1/2)dより小さくすると、カルマン渦による攪拌効果が十分に得られないおそれがある。
複数の円筒突起12の高さtが円筒突起12の直径dよりも大きいと、筒本体10内の流路断面が必要以上に小さくなり、液体が筒本体10内に導入されたときに、液体の流れを阻害してしまい、必要な流速が得られないおそれがある。さらに、複数の円筒突起12に異物が引っかかるおそれも生じる。
複数の円筒突起12の高さtを(1/2)dより小さくし、かつd以下とすることで、カルマン渦による撹拌効果を得つつ、複数の円筒突起12に、液体に混入した異物が引っかかるのを抑制することができる。
【0037】
図4は、筒本体10の内周面10aを展開したときの平面図である。
図4中、紙面左右方向が周方向である。
図4中、各円筒突起12A~12Dにおいて互いに隣り合う一対の円筒突起12同士の内周面10aにおける周方向の間隔S1は、内周面10aの周方向の長さを3等分した値であり、6.2d以上とされている。なお、間隔S1は、互いに隣り合う一対の円筒突起12A~12Dの中心軸が内周面10aに交差する交差点同士の間隔である。
【0038】
さらに、
図4中、間隔S2は、第1円筒突起12A(基準第1円筒突起)と、第2円筒突起12Bのうちの周方向において基準第1円筒突起である第1円筒突起12Aの隣に位置する第2円筒突起12B(対象第2円筒突起)と、の内周面10aにおける周方向の間隔である。間隔S2は、間隔S1の1/2とされている。つまり、間隔S2は、3.1d以上とされている。
【0039】
間隔S1が、6.2dより小さいと、第1円筒突起12Aの下流側で生じるカルマン渦が、第2円筒突起12B(隣接突起)に干渉するおそれがある。また、間隔S2が3.1dより小さい場合も、第1円筒突起12Aの下流側で生じるカルマン渦が、第2円筒突起12Bに干渉するおそれがある。
間隔S1を6.2d以上とし、間隔S2を3.1d以上とすることで、基準第1円筒突起である第1円筒突起12Aの下流側で生じるカルマン渦と、対象第2円筒突起である第2円筒突起12Bの下流側で生じるカルマン流とが互いに干渉するのを抑制することができる。
【0040】
また、各円筒突起12A~12D同士の上下方向の間隔hは、11.2d以上とされている。これにより、第1円筒突起12Aの下流側で生じるカルマン渦が第3円筒突起12Cに干渉する場合においても、渦が弱まった状態で干渉し、撹拌効果が低下するのを抑制することができる。
【0041】
〔変形例について〕
図5(a)は、変形例に係る円筒管8の部分断面図である。
上記実施形態では、円筒状の部材を溶接等によって内周面10aに固定することで円筒突起12を設けた場合を例示したが、筒本体10に貫通孔10cを設け、貫通孔10cに突起部材20を差し込むことで、円筒突起12を設けてもよい。
突起部材20は、筒本体10の外周面10bに当接する鍔部20aと、鍔部20aから延びる円筒部20bとを有する。
突起部材20の円筒部20bは、筒本体10の外周面10b側から貫通孔10cに差し込まれる。突起部材20は、鍔部20aが外周面10bに当接した状態で固定される。
このとき、円筒部20bは、内周面10aから径方向内方へ突出し、円筒突起12を構成する。
この変形例によれば、筒本体10内に円筒突起12を容易に設けることができる。また、突起部材20を筒本体10に対して着脱可能とすることで、突起部材20を容易に交換することができる。さらに、円筒部20bの長さや直径が異なる突起部材20を用意することで、円筒突起12の高さtや、円筒突起12の直径dを変更することができ、内部を通過する液体に応じて、適切な高さtや、直径dとすることができる。
【0042】
図5(b)は、他の変形例に係る円筒管8の部分断面図である。
他の変形例では、突起部材20に筒本体10の内外を連通する貫通孔20cが設けられている点において、上記変形例と相違する。
他の変形例において、突起部材20に貫通孔20cが設けられているので、筒本体10を液体が通過すると、その負圧によって、筒本体10の外部の空気が貫通孔20cを通過して筒本体10内へ導入される。筒本体10内で導入された空気は、液体内に気泡として取り込まれる。
【0043】
本変形例では、廃水等の異物を含む液体を通過させる場合、貫通孔20cが塞がれるため、貫通孔20cから筒本体10内へ導入される空気の量は減少する。このため、貫通孔20cによる、液体に対する酸素の溶解の促進効果は低下する。
しかし、異物を含まない水を液体として通過させる場合、円筒突起12による撹拌効果と、貫通孔20cによる空気の導入とにより、液体に対する酸素の溶解の促進効果をより効果的に高めることができる。
【0044】
また、上記実施形態では、第1注入管2aと、第2注入管2bとを有する注入機構2を用いた場合を例示したが、空気を巻き込みながら落下孔9に液体を落下させることができれば、1つの注入管によって液体を注入する注入機構2としてもよいし、より多数の注入管を有する注入機構2としてもよい。
【実施例0045】
以下、実施例によって本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例)
内周直径Dが30mm、長さ210mmの筒本体10を用意し、直径dが5mm、高さtが3mmの円筒突起12を
図4に示す配置で内周面10aに設け、円筒管8を得た。
図4中の間隔S1は31.4mm、間隔S2は15.7mm、間隔hは56mmとした。
上記円筒管8を用いて酸素溶解装置1を構成した。
【0046】
(比較例)
内周直径Dが30mm、長さ210mmの筒本体を用意し、実施例における円筒突起12の配置位置に筒本体10の内外を連通する吸気孔(内径2~3mm)を設けることで円筒管を得た。この吸気孔は、管本体内を通過する水と円筒管の内周面との間で生じる負圧によって、円筒管外の空気を円筒管内へ導くための孔である。
吸気孔を有する円筒管を用いて酸素溶解装置を構成した。この比較例は、上記従来技術に基づいた酸素溶解装置である。
【0047】
(実施例の円筒突起12によるカルマン渦について)
図6は、円筒突起12によってカルマン渦が発生する際の態様を説明するためのモデル図である。
図6中、下段には円筒突起12によってカルマン渦が発生する際のモデルを示しており、円筒突起12の周囲の流体(液体)の流れを模式的に示している。上段には、モデルにおける所定位置の圧力を示している。
【0048】
図6中、液体は紙面左から右へ向かって流れている。
液体の流れである層流は、剥離点P1で剥離する。剥離点P1よりも下流側においては、多数の渦が生じて圧力が低下する。
【0049】
図6中の上段のグラフは、剥離点P1よりも僅かに上流側の位置N1における層流の圧力と、円筒突起12の下流側の位置N2における層流の圧力とを示している。
このグラフに示すように、位置N2における層流の圧力は、位置N1における層流の圧力に対して大きく低下する。このため、位置N2において負圧が生じ、円筒突起12の下流側に多数の渦が生じる。
また、位置N1の圧力と、位置N2の圧力との差を大きく生じさせるためには、円筒突起12の外周面が凹凸のない滑らかな表面であることが好ましい。
その理由は、円筒突起12の外周面に凹凸がある場合、円筒突起12の外周面に沿って通過する流体の流れを阻害する要因となり、位置N1の圧力と、位置N2の圧力との差が小さくなるおそれがあるからである。
【0050】
後に説明するレイノルズ数Reが所定の条件を満たす場合、円筒突起12の下流側の多数の渦がカルマン渦となる。
【0051】
図7は、実施例による第1円筒突起12A及び第2円筒突起12Bによって生じるカルマン渦の態様を平面的に示した模式図である。
図7では、筒本体10の内周面10aを展開した平面図として示している。
【0052】
図7中、液体は、矢印のように紙面上方から下方へ向かって流体として移動する。
図7中、第1円筒突起12Aの下流側には、流体としての液体が通過することで第1円筒突起12Aが生じさせるカルマン渦列K1が示されている。カルマン渦列K1は、流体の流れる方向に平行な方向に沿って2列で千鳥状に現れる。カルマン渦列K1は、少なくともカルマン渦K11、K12、K13を含む。
また、
図7中、第2円筒突起12Bの下流側には、液体が通過することで第2円筒突起12Bが生じさせるカルマン渦列K2が示されている。カルマン渦列K2も、カルマン渦列K1と同様、流体の流れる方向に平行な方向に沿って2列で千鳥状に現れる。カルマン渦列K2は、少なくともカルマン渦K21、K22、K23を含む。
【0053】
この円筒管8において、上部タンク4から水を筒本体10内に導入したときの最大流量は、1050cm3/sであり、流速は、148.5cm/sとなる。
円筒突起12の周辺を流れる水のレイノルズ数Reは、下記式(1)で示される。
Re = Vd/ν ・・・(1)
なお、式(1)中、Vは流速(cm/s)、dは円筒突起12の直径(cm)、νは水の20℃での動粘性係数(cm2/s)である。
【0054】
水の20℃での動粘性係数を0.01cm2/sとすると、円筒突起12の周辺を流れる水のレイノルズ数Reは、上記式(1)より、7425となる。
一般にレイノルズ数Reが、500<Re<2×105の範囲にある場合、円筒突起12の下流側にはカルマン渦が発生する。よって、本例における円筒管8の円筒突起12は、下流側にカルマン渦を生じさせる。
【0055】
次に、本例において生じるカルマン渦の発生周期fと、生じたカルマン渦同士の間隔を求める。
カルマン渦の発生周期fは、下記式(2)に示すストローハル数Stから求める。
St = fd/V ・・・(2)
【0056】
レイノルズ数Reが500<Re<2×10
5の範囲にある場合、ストローハル数Stはほぼ一定の値となる。円筒形の場合、ストローハル数Stは、約0.18となる。
よって、上記式(2)より、発生周期fは、53.5Hzとなる。
発生周期fと流速Vとから、カルマン渦列に含まれるカルマン渦の上下方向(水の流れ方向)の間隔a(
図5参照)は、28mmとなる。
また、カルマン渦列に含まれるカルマン渦の上下方向の間隔aと、上下方向に直交する方向(周方向)の間隔b(
図5参照)と、の間には、b/a=0.281の関係がある。
よって、間隔bは、8mmとなる。
カルマン渦列K1と、カルマン渦列K2との間の上下方向に直交する方向(周方向)の間隔cは、7.7mmである。
なお、間隔a、間隔b、及び間隔cは、カルマン渦の中心を基準としたときのカルマン渦同士の間隔である。
【0057】
本実施例のように、間隔S1を31.4mm(6.2d以上)とし、間隔S2を15.7mm(3.1d以上)とすることで、カルマン渦列K1と、カルマン渦列K2とが互いに干渉するのを抑制することができる。
また、間隔S1、S2を上記のように設定することで、第1円筒突起12Aの下流側で生じるカルマン渦が第2円筒突起12Bに干渉し、撹拌効果が低下するのを抑制することができる。
【0058】
(評価試験)
実施例に係る酸素溶解装置、及び比較例に係る酸素溶解装置を用いて、水(水道水)に対する酸素溶解を行い、酸素濃度の変化を比較した。
実施例及び比較例それぞれに水20L(リットル)を投入し、投入した水を上部タンク下部タンクとの間で循環させた。
水の循環を開始してから所定の経過時間毎に水の酸素濃度を測定し、水の酸素飽和度(%)を求めた。なお、水の酸素飽和度は、下記式(3)のようにして求めた。
酸素飽和度(%)=溶存酸素量の計測値(mg/L)/飽和酸素量(mg/L)
・・・(3)
上記酸素飽和度を求める際、計測値及び飽和酸素量について水温に応じた補正を行った値を用いた。
【0059】
図8は、酸素飽和度の経時変化を示したグラフである。
図8において、縦軸は酸素飽和度を示しており、横軸は水の循環を開始してからの経過時間を示している。
また、
図8中、四角印は実施例に係る酸素飽和度を示しており、丸印は比較例に係る酸素飽和度を示している。
図8に示すように、実施例に係る酸素飽和度の経時変化と、比較例における酸素飽和度の経時変化とは、ほぼ同様であり、大きな差異は見られない。
この結果から、実施例の酸素溶解装置と、比較例の酸素溶解装置との間で水に対する酸素の溶解については同様の性能を有することが判る。
【0060】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。
本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。