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特開2023-65159受信機、測位システム、測位方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065159
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】受信機、測位システム、測位方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/43 20100101AFI20230502BHJP
   G01S 19/25 20100101ALI20230502BHJP
【FI】
G01S19/43
G01S19/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175808
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】513055610
【氏名又は名称】一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三神 泉
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雅行
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA07
5J062BB02
5J062CC07
5J062DD24
5J062EE02
(57)【要約】
【課題】測位補強情報のサービスエリア外であっても高精度な測位を実現することができる受信機を得ること。
【解決手段】測位信号を受信する測位信号受信部11と、測位補強情報を受信する測位補強情報受信部12と、コード単独測位と、補正値と搬送波受信による観測データとを用いたRTK測位とを行うことが可能な測位演算部13と、コード単独測位により得られた座標が、測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、サービスエリア外である場合は、サービスエリア内に仮想点を設定する仮想点決定部15と、サービスエリア内である場合、測位補強情報のうち1つ以上のグリッドに対応する情報を用いて座標上の補正値を算出して測位演算部13へ入力し、サービスエリア外である場合、測位補強情報のうち1つ以上のグリッドに対応する情報を用いて、仮想点上の補正値を算出して測位演算部13へ入力するRTK補正値生成部16と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位信号を受信する測位信号受信部と、
複数の基準点における観測データに基づいて生成された、位置を示すグリッドごとの電離層補正量および対流圏補正量のうち少なくとも一方を含む状態空間表現形式の測位補強情報を受信する測位補強情報受信部と、
前記測位信号を用いたコード単独測位と、入力される補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うことが可能な測位演算部と、
前記コード単独測位による測位結果として得られた座標が、前記測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、前記座標が前記サービスエリア外である場合は、前記サービスエリア内に仮想点を設定する仮想点決定部と、
前記座標が前記サービスエリア内である場合、前記座標と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の前記補正値を算出し、算出した前記補正値を前記測位演算部へ入力し、前記座標が前記サービスエリア外である場合、前記仮想点と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記仮想点上の前記補正値を算出し、算出した前記補正値を前記測位演算部へ入力する補正値生成部と、
を備えることを特徴とする受信機。
【請求項2】
前記仮想点は、前記サービスエリア内であって前記座標から最短の距離となる点であることを特徴とする請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
測位信号を受信する測位信号受信部と、
複数の基準点における観測データに基づいて生成され、位置を示すグリッドごとの電離層補正量および対流圏補正量のうち少なくとも一方を含む状態空間表現形式の測位補強情報を受信する測位補強情報受信部と、
前記測位信号を用いたコード単独測位と、入力される補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うことが可能な測位演算部と、
前記コード単独測位による測位結果として得られた座標が、前記測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、前記グリッドと前記座標との距離が最短となる前記グリッドを選択する仮想点決定部と、
前記座標が前記サービスエリア内である場合、前記座標と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の前記補正値を算出し、算出した前記補正値を前記測位演算部へ入力し、前記座標が前記サービスエリア外である場合、前記測位補強情報のうち、前記仮想点決定部によって選択された前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の前記補正値を算出し、算出した前記補正値を前記測位演算部へ入力する補正値生成部と、
を備えることを特徴とする受信機。
【請求項4】
前記受信機は、船舶またはライフジャケットに搭載されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の受信機。
【請求項5】
受信機と、
情報提供装置と、
を備え、
前記受信機は、
測位信号を受信する測位信号受信部と、
前記測位信号を用いたコード単独測位と、入力される補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うことが可能な測位演算部と、
前記コード単独測位による測位結果として得られた座標を前記情報提供装置へ送信する第1通信部と、
を備え、
前記情報提供装置は、
前記座標を受信する第2通信部と、
複数の基準点における観測データに基づいて生成された、位置を示すグリッドごとの電離層補正量および対流圏補正量のうち少なくとも一方を含む状態空間表現形式の測位補強情報を受信する測位補強情報受信部と、
前記コード単独測位による測位結果として得られた座標が、前記測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、前記座標が前記サービスエリア外である場合は、前記サービスエリア内に仮想点を設定する仮想点決定部と、
前記座標が前記サービスエリア内である場合、前記座標と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の前記補正値を算出し、算出した前記補正値を前記第2通信部へ入力し、前記座標が前記サービスエリア外である場合、前記仮想点と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記仮想点上の前記補正値を算出し、算出した前記補正値を前記第2通信部へ入力する補正値生成部と、
を備え、
前記第2通信部は、入力された前記補正値を前記受信機へ送信し、
前記第1通信部は、前記情報提供装置から受信した前記補正値を前記測位演算部へ入力することを特徴とする測位システム。
【請求項6】
受信機と、
情報提供装置と、
を備え、
前記受信機は、
測位信号を受信する測位信号受信部と、
前記測位信号を用いたコード単独測位と、入力される補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うことが可能な測位演算部と、
前記コード単独測位による測位結果として得られた座標を前記情報提供装置へ送信する第1通信部と、
を備え、
前記情報提供装置は、
前記座標を受信する第2通信部と、
複数の基準点における観測データに基づいて生成された、位置を示すグリッドごとの電離層補正量および対流圏補正量のうち少なくとも一方を含む状態空間表現形式の測位補強情報を受信する測位補強情報受信部と、
前記コード単独測位による測位結果として得られた座標が、前記測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、前記グリッドと前記座標との距離が最短となる前記グリッドを選択する仮想点決定部と、
前記座標が前記サービスエリア内である場合、前記座標と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の前記補正値を算出し、算出した前記補正値を前記第2通信部へ入力し、前記座標が前記サービスエリア外である場合、前記測位補強情報のうち、前記仮想点決定部によって選択された前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の前記補正値を算出し、算出した前記補正値を前記第2通信部へ入力する補正値生成部と、
を備え、
前記第2通信部は、入力された前記補正値を前記受信機へ送信し、
前記第1通信部は、前記情報提供装置から受信した前記補正値を前記測位演算部へ入力することを特徴とする測位システム。
【請求項7】
前記情報提供装置は、船舶に搭載され、前記受信機はライフジャケットに搭載されることを特徴とする請求項5または6に記載の測位システム。
【請求項8】
受信機における測位方法であって、
測位信号を受信するステップと、
複数の基準点における観測データに基づいて生成された、位置を示すグリッドごとの電離層補正量および対流圏補正量のうち少なくとも一方を含む状態空間表現形式の測位補強情報を受信するステップと、
前記測位信号を用いたコード単独測位を行うステップと、
前記コード単独測位による測位結果として得られた座標が、前記測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、前記座標が前記サービスエリア外である場合は、前記サービスエリア内に仮想点を設定するステップと、
前記座標が前記サービスエリア内である場合、前記座標と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の補正値を算出し、算出した前記補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うステップと、
前記座標が前記サービスエリア外である場合、前記仮想点と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記仮想点上の補正値を算出し、算出した前記補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うステップと、
を含むことを特徴とする測位方法。
【請求項9】
受信機における測位方法であって、
測位信号を受信するステップと、
複数の基準点における観測データに基づいて生成された、位置を示すグリッドごとの電離層補正量および対流圏補正量のうち少なくとも一方を含む状態空間表現形式の測位補強情報を受信するステップと、
前記測位信号を用いたコード単独測位を行うステップと、
前記コード単独測位による測位結果として得られた座標が、前記測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、前記グリッドと前記座標との距離が最短となる前記グリッドを選択するステップと、
前記座標が前記サービスエリア内である場合、前記座標と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の補正値を算出し、算出した前記補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うステップと、
前記座標が前記サービスエリア外である場合、前記測位補強情報のうち、選択された前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の補正値を算出し、算出した前記補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うステップと、
を含むことを特徴とする測位方法。
【請求項10】
受信機に、
測位信号を受信するステップと、
複数の基準点における観測データに基づいて生成された、位置を示すグリッドごとの電離層補正量および対流圏補正量のうち少なくとも一方を含む状態空間表現形式の測位補強情報を受信するステップと、
前記測位信号を用いたコード単独測位を行うステップと、
前記コード単独測位による測位結果として得られた座標が、前記測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、前記座標が前記サービスエリア外である場合は、前記サービスエリア内に仮想点を設定するステップと、
前記座標が前記サービスエリア内である場合、前記座標と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の補正値を算出し、算出した前記補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うステップと、
前記座標が前記サービスエリア外である場合、前記仮想点と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記仮想点上の補正値を算出し、算出した前記補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
受信機に、
測位信号を受信するステップと、
複数の基準点における観測データに基づいて生成された、位置を示すグリッドごとの電離層補正量および対流圏補正量のうち少なくとも一方を含む状態空間表現形式の測位補強情報を受信するステップと、
前記測位信号を用いたコード単独測位を行うステップと、
前記コード単独測位による測位結果として得られた座標が、前記測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、前記グリッドと前記座標との距離が最短となる前記グリッドを選択するステップと、
前記座標が前記サービスエリア内である場合、前記座標と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の補正値を算出し、算出した前記補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うステップと、
前記座標が前記サービスエリア外である場合、前記測位補強情報のうち、選択された前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の補正値を算出し、算出した前記補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信機、測位システム、測位方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)を用いた測位の利用が急速に拡大している。GNSSを用いた測位を、以下、GNSS測位と呼ぶ。GNSS測位の利用の拡大に伴い、GNSS測位の高精度化の検討も進んでいる。高精度なGNSS測位の一例として、衛星からの搬送波の位相を用いて測位演算を行うRTK(Real Time Kinematic:リアルタイムキネマティック)測位が知られている。RTK測位は、測量機器、車両の自動運転等で用いられている。RTK測位では、基準点と測定点の両方で衛星から送信される測位信号を受信する受信機を設ける必要があり、かつ、基準点の位置は高精度に計測されている必要がある。このため、基準点の設置、運用などにコストや工数を要する。
【0003】
基準点を設置する必要のない方式としては、例えば、下記非特許文献1に記載されているPPP(Precise Point Positioning)-RTK測位方式が知られている。PPP-RTK測位方式で測位を行う受信機は、まず、GNSS衛星から測距信号を受信し、測距信号を用いたコード単独測位を行う。そして、受信機は、コード単独測位によって得られた座標を仮想基準点の座標として用い、この座標上の人工的な観測データに相当するRTK補正値を、センチメータ級測位補強サービス(CLAS:Centimeter Level Augmentation Service)などの測位補強情報を用いて計算により生成し、生成したRTK補正値と測距信号の観測データとを用いてRTK測位を行うことで、高精度な測位結果を得ることができる。測位補強情報は、例えば、準天頂衛星(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)から送信される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】佐藤 一敏 他,4.準天頂衛星システムセンチメータ級測位補強サービスの運用・評価状況,写真測量とリモートセンシング 2019年58巻6号 p.308-312
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PPP-RTK測位を行う従来型の受信機は、測位補強情報の測位性能が保証される範囲であるサービスエリア内で使うことを前提に製作されており、当該サービスエリアの範囲外で使用する場合には、自動的にコード単独測位しかできないように切り替わり、精度が大きく劣化するという問題がある。例えば、CLASでは、日本の沿岸約22kmまでの領域内をサービスエリアとしているが、漁船などの船舶はこのサービスエリア外を航行する場合がある。船舶において転覆や船員の転落が発生した場合には、速やかな救助のために船舶や船員の位置をできるだけ正確に把握することが望まれる。例えば、船員を発見して救助を行うためには、初期転落位置を1mより高い精度で知る必要があるとされている。船舶や船員のライフジャケットにPPP-RTK測位を行う受信機を装備したとしても、船舶や船員が測位補強情報のサービスエリア外である場合には、上述したとおり、精度が大きく劣化し、船舶や船員の位置を精度よく知ることができない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、測位補強情報のサービスエリア外であっても高精度な測位を実現することができる受信機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる受信機は、測位信号を受信する測位信号受信部と、複数の基準点における観測データに基づいて生成された、位置を示すグリッドごとの電離層補正量および対流圏補正量のうち少なくとも一方を含む状態空間表現形式の測位補強情報を受信する測位補強情報受信部と、前記測位信号を用いたコード単独測位と、入力される補正値と前記測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたリアルタイムキネマティック測位とを行うことが可能な測位演算部と、前記コード単独測位による測位結果として得られた座標が、前記測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、前記座標が前記サービスエリア外である場合は、前記サービスエリア内に仮想点を設定する仮想点決定部と、前記座標が前記サービスエリア内である場合、前記座標と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記座標上の前記補正値を算出し、算出した前記補正値を前記測位演算部へ入力し、前記座標が前記サービスエリア外である場合、前記仮想点と前記グリッドとの距離に基づいて1つ以上の前記グリッドを選択し、前記測位補強情報のうち選択した前記グリッドに対応する情報を用いて、前記仮想点上の前記補正値を算出し、算出した前記補正値を前記測位演算部へ入力する補正値生成部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、測位補強情報のサービスエリア外であっても高精度な測位を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明にかかる実施例1の受信機による測位を説明するための図である。
図2】測位補強情報のサービスエリアの一例を示す図である。
図3】実施例1の受信機の構成例を示す図である。
図4】グリッドの一例を示す図である。
図5】長基線RTK測位を行った場合の測位結果の精度の一例を示す図である。
図6】実施例1の受信機における測位演算の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】情報提供装置と受信機とを備える測位システムの構成例を示す図である。
図8】実施例2の受信機における測位演算の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図9】長基線RTKを示す図である。
図10】実施例2の長基線RTKを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施例にかかる受信機、測位システム、測位方法およびプログラムを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施例1
図1は、本発明にかかる実施例の受信機による測位を説明するための図である。準天頂衛星2は、測位補強情報(以下、補強情報ともいう)および測位信号を地上に向けて送信する。測位信号はL1信号、L2信号およびL5信号のうちの少なくとも1つであり、C/Aコードなどの測距信号、および航法メッセージを含む信号である。図1に示した測位衛星3-1~3-mは、GNSS衛星の測位信号を送信する衛星である。mは、3以上の任意の整数である。以下、測位衛星3-1~3-mを区別せずに示すときには測位衛星3と記載する。また、図1では、準天頂衛星2を1機図示しているが、準天頂衛星2は複数であってもよい。なお、準天頂衛星2も、測位信号を送信する測位衛星である。以下、単に測位衛星と記載する場合には、測位衛星3と準天頂衛星2とを含む。
【0012】
受信機1は、準天頂衛星2および測位衛星3から受信する測位信号と準天頂衛星2から受信する測位補強情報とを用いてPPP-RTK測位を行うことが可能である。測位補強情報は、例えば、CLASにおける測位補強情報であり、以下、測位補強情報がCLASにおける測位補強情報である例を説明する。測位補強情報は、SSR(State Space Representation:状態空間表現)形式、またはCSSR(Compact State Space Representation)形式の補強情報であり、測位の誤差を補正するための情報である。本明細書では、SSR形式の測位補強情報およびCSSR形式の測位補強情報の両方を、状態空間表現形式の測位補強情報と呼ぶ。測位補強情報は、図示を省略した地上の装置によって、電子基準点と呼ばれる複数の基準点の観測データ等に基づいて算出される。地上の装置によって算出された測位補強情報は、準天頂衛星2に送信され、準天頂衛星2は、測位補強情報を地上に向けてL6信号として送信する。状態空間表現形式の測位補強情報では、特に、位置に依存する電離層あるいは対流圏等の補正量をグリッド上に配置して表す。すなわち、測位補強情報は、位置を示すグリッドごとの電離層補正量および対流圏補正量のうち少なくとも一方を含む。ユーザは、あらかじめ知らされ、記憶しているグリッドの位置(座標)を示す情報を含むグリッド情報から、コード単独測位等より得られたおおよその自己位置を仮想点として、その仮想点の周囲の最寄りのグリッドを1点ないし複数点求め、グリッドと自己位置との位置関係から内挿計算により仮想点における電離層および対流圏の補正量を計算し、その他の位置に関係しない補正量を求めPPP-RTK測位を行う。このグリッドで定義された範囲以内をサービスエリアと呼び、センチメートル級の測位性能が保証される。
【0013】
受信機1は、サービスエリア内において、測位補強情報を用いてPPP-RTK測位を行うことにより、センチメータ級の測位精度を実現することが可能である。PPP-RTK測位を行う一般的な受信機は、サービスエリア内で使うことを前提に製作されており、サービスエリアの範囲外で使用する場合には、自動的にコード単独測位に切り替わる。
【0014】
図2は、測位補強情報のサービスエリアの一例を示す図である。測位補強情報のサービスエリア(CLASサービスエリア)は、日本の領土と海岸線から22.2km(12海里)までの領海をカバーするように定められている。このため、図2に示した船舶10のように、測位補強情報のサービスエリア外である場合、船舶10にPPP-RTK測位を行う一般的な受信機が搭載されていると、この受信機はコード単独測位を行うことになり、数m級の精度の測位結果しか得られず、船舶10の正確な位置がわからないことになる。同様に、船舶10の船員のライフジャケットなどにPPP-RTK測位を行う一般的な受信機を装備していたとしても、測位補強情報のサービスエリア外では船員の位置を高精度に算出することができない。船員の救助のためには、測位補強情報のサービスエリア外であっても船舶および船員の位置を高精度に把握することが望まれる。
【0015】
本実施例の受信機1は、測位補強情報のサービスエリア(以下、単にサービスエリアともいう)の内外かを判定し、サービスエリア内では、一般的なPPP-RTK測位を実施する。一方、サービスエリア外では、本実施例の受信機1は、コード単独測位で得られる測位結果として得られた座標に対応する仮想点(第1仮想点)からサービスエリア内の最も近い仮想点(第2仮想点)を決定し、当該仮想点上で適用できる測位補強情報を用いてRTK補正値を生成し、受信機1が観測した観測データとRTK補正値とを用いてRTK測位を実施する。サービスエリア外のRTK測位は、例えば、図2に示した例において、船舶10に受信機1が搭載されており船舶10がサービスエリアから100km離れた位置に存在しているとすると、基線長が100kmの長基線RTK測位となる。長基線RTK測位では、電離層の局所的な変化の影響を受け精度が劣化するものの、後述するように測位精度は10cm~20cmRMS(Root Mean Square)のサブメートル級となり、数メートル級の測位精度のコード単独測位に比べると桁違いに正確である。これにより、本実施例の受信機1は、測位補強情報のサービスエリア外であっても高精度な測位を実現することができる。
【0016】
図3は、本実施例の受信機1の構成例を示す図である。図3に示すように、受信機1は、測位信号受信部11、測位補強情報受信部12、測位演算部13、グリッド情報記憶部14、仮想点決定部15、RTK補正値生成部16および通信部17を備える。なお、図3では、通信部17を受信機1内に設けているが、受信機1は、通信部17を備えなくてもよい。また、受信機1は、通信部17を備えず、外部の表示装置および通信装置のうちの少なくとも一方に接続されていてもよい。例えば、受信機1が船舶内に設置される場合には、受信機1は表示装置に接続され、船員が測位結果を確認できるようにしてもよい。また、受信機1がライフジャケットなどに装備される場合には、受信機1が通信部17を備え、測位結果を無線信号として送信できるようにしてもよい。または、通信部17を備えない受信機1と通信装置とがライフジャケットなどに装備され、受信機1の測位結果を通信装置が無線信号として送信できるようにしてもよい。また、受信機1がライフジャケットに装備されるかわりに、別の手段で船員が受信機1を身に着けてもよい。
【0017】
測位信号受信部11は、測位衛星3および準天頂衛星2から送信される測位信号を受信し、受信した測位信号を測位演算部13およびRTK補正値生成部16へ出力する。測位補強情報受信部12は、準天頂衛星2から送信される測位補強情報を受信し、受信した測位補強情報をRTK補正値生成部16へ出力する。
【0018】
測位演算部13は、測位信号を用いたコード単独測位と、入力される補正値(RTK補正値)と測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたRTK測位とを行うことが可能である。測位信号受信部11から受け取った測位信号を用いてコード単独測位を行い、コード単独測位の測位結果(座標)を仮想点決定部15へ出力する。また、測位演算部13は、RTK補正値生成部16から受け取ったRTK補正値を仮想点上のRTK補正値とし、RTK補正値と測位信号の搬送波受信によって取得した観測データとを用いてRTK測位を行い、RTK演算の測位結果を通信部17へ出力する。
【0019】
グリッド情報記憶部14は、グリッドの位置(座標)を示す情報を含むグリッド情報を記憶する。仮想点決定部15は、測位演算部13から受け取ったコード単独測位の測位結果を用いて、測位結果が示す仮想点P(座標Pの仮想点)に最も近い測位補強情報のサービスエリア内の仮想点P´(座標P´の仮想点)を決定する。
【0020】
図4は、グリッドの一例を示す図である。図4に示したグリッド31は、日本の領土および領海をカバーするように設けられている。なお、図4では、代表して一部のグリッドに符号31を付しているが、符号31を付した点と同様の円で示した符号が付されていない点もグリッドである。図4に示した例では、グリッド31のうち最も外側に位置するグリッド31を結ぶことで得られる境界線32の内側をサービスエリア(CLASサービスエリア)とし、境界線32より外側をサービスエリア外としている。境界線32の線上の場合はサービスエリア内とする。図4に示した例では、船舶33はサービスエリア内であり、船舶34はサービスエリア外である。
【0021】
グリッド情報記憶部14は、図4に例示した各グリッドの座標を示す情報をグリッド情報として保持している。仮想点決定部15は、コード単独測位による測位結果として得られた座標Pが、測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、座標Pがサービスエリア外である場合は、サービスエリア内に仮想点P´を設定する。詳細には、仮想点決定部15は、グリッド情報を用いて境界線32を求めることでサービスエリアの範囲を把握し、コード単独測位の測位結果がサービスエリア内であるか否かを判定し、サービスエリア内である場合には、RTK補正値生成部16に通常のPPP-RTK測位と同様に、コード単独測位の測位結果に対応する仮想点のRTK補正値を生成することを指示する。また、仮想点決定部15は、サービスエリア外である場合には、コード単独測位の測位結果に対応する仮想点から最も近いサービスエリア内の点を仮想点P´として決定し、仮想点P´に対応するRTK補正値を生成することをRTK補正値生成部16へ指示する。すなわち、仮想点P´は、例えば、サービスエリア内であって座標Pから最短の距離となる点である。
【0022】
RTK補正値生成部16は、座標Pがサービスエリア内である場合、座標Pとグリッドとの距離に基づいて1つ以上のグリッドを選択し、測位補強情報のうち選択したグリッドに対応する情報を用いて、座標P上のRTK補正値を算出し、算出したRTK補正値を測位演算部13へ入力する。なお、RTK補正値生成部16は、例えば、座標Pからの距離が近い3点のグリッドを選択するが、選択するグリッドの数はこれに限定されない。RTK補正値生成部16は、座標Pがサービスエリア外である場合、仮想点P´とグリッドとの距離に基づいて1つ以上のグリッドを選択し、測位補強情報のうち選択したグリッドに対応する情報を用いて、仮想点P´上のRTK補正値を算出し、算出したRTK補正値を測位演算部13へ入力する。なお、RTK補正値生成部16は、例えば、仮想点P´からの距離が近い3点のグリッドを選択するが、選択するグリッドの数はこれに限定されない。詳細には、RTK補正値生成部16は、測位信号に含まれる航法メッセージを用いて、測位衛星の座標を求め、仮想点決定部15から指定された仮想点(仮想点Pまたは仮想点P´)と測位衛星との幾何距離Lを算出する。そして、RTK補正値生成部16は、当該仮想点の近傍の1つ以上のグリッド上の測位補強情報を用いて仮想点上の仮想上の幾何距離の補正値を求めて幾何距離Lに加えることで仮想点上のRTK補正値を生成し、生成したRTK補正値を測位演算部13へ入力する。
【0023】
測位演算部13は、RTK補正値生成部16から受け取ったRTK補正値と、受信機1が受信した測位信号に基づく観測データとを用いてRTK測位を行い、測位結果を通信部17へ出力する。通信部17は、測位結果を無線信号として送信する。
【0024】
ここで、測位補強情報について説明する。上述したように地上の装置によって、電子基準点が測位信号を受信することにより得られる観測データを用いて、測位演算における誤差を補正するための測位補強情報が生成される。測位補強情報は、例えば、次のような方法で生成される。観測データに基づいて、状態空間モデルによるカルマンフィルタによる測位補強情報生成処理で、状態空間ベクトルが算出される。そして、状態空間ベクトルのうち、共通の誤差を、要因毎に、衛星時計誤差δt 、衛星軌道誤差δo(ベクトル)、衛星信号バイアス(衛星回路内信号遅延)δd 、対流圏伝搬誤差Tgrid 、電離層伝搬誤差に分離する。これらの各誤差は、それぞれ性質が異なる。衛星時計誤差δt は、発振器の内部雑音が原因であるため、予想不可能で、また、変化が速い。一方、衛星軌道誤差δo(ベクトル)は、主に重力ポテンシャル、大気、太陽圧の全体的な変化によって決定されるため、変化は速くない。電離層伝搬誤差は最も複雑な部分であり、一般には、誤差要因をさらに細分化して表現することにより帯域幅を減らして表現する。具体的には、関数によって表現するグローバルな部分Is,polinominal と、衛星/場所に依存する確率的な部分Is,grid とに分離する。グローバル部分Is,polinominal は、電離層の一般的な、そして滑らかな性質を表現する。電離層伝搬誤差のうち、グローバル部分Is,polinominal により表現した後に残るランダムな誤差は、衛星/場所に依存する確率的な部分Is,grid として表現する。このように、物理的な性質に基づき、誤差要因を分離する。
【0025】
電離層伝搬誤差のうち、衛星/場所に依存する確率的な部分Is,grid については、グリッドごとに、誤差補正値を定めている。対流圏伝搬誤差Tgrid についても同様である。また、Is,grid およびTgrid については、日本全域を12の網に分割し、網ごとに各グリッドにおける誤差補正値が決定される。測位補強情報には、全網に関する情報が含まれている。測位補強情報を用いてPPP-RTK測位を行う一般的な受信機は、測位を行う際には、測位補強情報のうち、グローバルな部分の情報とコード単独測位によって得られた測位結果の近傍のグリッドに対応する情報とを用いて、仮想点上のRTK補正値を算出し、算出したRTK補正値と受信機の観測データとを用いてRTK測位を行う。
【0026】
本実施例では、受信機1がサービスエリア外に存在するときには上述したように長基線RTK測位を行うことになる。長基線RTKでは、測位精度が一般には基線が短い場合のRTKに比べて測位精度が低下するが、本実施例で述べる手法によって長基線RTKを行った場合の測位精度は、以下に述べるように基線長が200kmの場合でも数十cm程度であり、コード単独測位に比べれば十分に高精度となる。
【0027】
図5は、長基線RTK測位を行った場合の測位結果の精度の一例を示す図である。図5では、CLASのサービスエリア内において、受信機と仮想点との距離を変化させた実験により得られた精度(RMS)を示している。図5に示した例では、CLASサービスエリア内で受信機の座標を正確に求めておき、この座標を真値とし、仮想点の位置を順次変更することで受信機と仮想点との位置を変化させ、仮想点の位置におけるRTK補正値をCLASの測位補強情報を用いてそれぞれ算出する。そして、受信機の観測データとRTK補正値とを用いてRTK測位を行い、測位結果と真値とを比較することで精度を算出している。図5に示した例では、基線長をそれぞれ20km、30km、50km、75km、160km、300km、400kmとした場合の、測位結果の誤差を水平方向と高さ方向のそれぞれについてRMS値で求めている。
【0028】
図5からわかるように、例えば、基線長100kmの場合には水平方向の誤差は10cm強であり、コード単独測位と比較して桁違いに高精度であることがわかる。基線長が長くなると精度は低下するものの海岸線から200海里(約370km)の排他的経済水域内では50cm程度より高精度な測位結果が得られることがわかる。
【0029】
次に、本実施例の動作について説明する。図6は、本実施例の受信機1における測位演算の処理手順の一例を示すフローチャートである。図6に示すように、受信機1は、測位衛星から測距信号、航法メッセージ、測位補強情報を受信する(ステップS1)。
【0030】
次に、受信機1は、測距信号を用いてコード単独測位を行い、仮想点の座標Pを算出する(ステップS2)。詳細には、測位演算部13が、測位信号受信部11が受信した測位信号における測距信号を用いてコード単独測位を行い、コード単独測位の測位結果として得られる座標Pを仮想点(仮想点P)とし、座標Pを仮想点決定部15へ通知する。
【0031】
次に、受信機1は、仮想点は測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判断する(ステップS3)。詳細には、仮想点決定部15が、座標Pとグリッド情報記憶部14に記憶されているグリッド情報とを用いて、座標Pがサービスエリア内であるか否かを判定する。なお、図4に例示したように、グリッドのうち最も外側のグリッドを結ぶ線がサービスエリア内とサービスエリア外との境界線32となるが、この境界線32を示す情報をあらかじめ求めてグリッド情報に記憶しておき、仮想点決定部15がこの情報を用いて座標Pがサービスエリア内であるか否かを判定してもよい。または、仮想点決定部15は、座標Pに近い順に3点のグリッドを求め、求めたグリッドを結んだ多角形内に座標Pが存在するか否かを判定することで、座標Pがサービスエリア内であるか否かを判定してもよい。なお各グリッドの位置を示す情報は、測位補強情報に含まれていてもよい。
【0032】
仮想点が測位補強情報のサービスエリア内である場合(ステップS3 Yes)、受信機1は、通常のPPP-RTK測位を実施する。すなわち、受信機1は、航法メッセージを用いて測位衛星の座標を求め、座標Pと測位衛星との幾何距離Lを算出し(ステップS4)、座標Pを仮想点(第1仮想点)とし、近傍の1つ以上のグリッド上の補強情報(測位補強情報)から座標P上の幾何距離の補正値を求めてLに加え、座標P上のRTK補正値を生成する(ステップS5)。受信機1は、座標P上のRTK補正値と搬送波受信で取得した観測データとを用いてRTK測位を行う(ステップS6)。
【0033】
仮想点が測位補強情報のサービスエリア外である場合(ステップS3 No)、受信機1は、座標Pから最短距離のサービスエリア内に仮想点(第2仮想点)の座標P´を設定する(ステップS7)。詳細には、仮想点決定部15が、グリッド情報記憶部14に記憶されているグリッド情報を用いて、サービスエリア内の点のうち座標Pとの間の距離が最短となる点を仮想点P´(座標P´の仮想点)として決定する。
【0034】
次に、受信機1は、航法メッセージを用いて測位衛星の座標を求め、座標P´と測位衛星との幾何距離Lを算出する(ステップS8)。詳細には、RTK補正値生成部16が、航法メッセージを用いて測位衛星の座標を求め、座標P´と測位衛星との幾何距離Lを算出する。
【0035】
次に、受信機1は、座標P´を仮想点とし、近傍の1つ以上のグリッド上の補強情報(測位補強情報)から座標P´上の幾何距離の補正値を求めてLに加え、座標P´上のRTK補正値を生成する(ステップS9)。詳細には、RTK補正値生成部16が、グリッド情報記憶部14に記憶されているグリッド情報を用いて、座標P´の近傍の1つ以上のグリッドを求める。例えば、座標P´に近いグリッドから順に定められた個数のグリッドを求める。そして、RTK補正値生成部16が、測位補強情報のうち、1つ以上のグリッドの各グリッドに対応する情報に基づいて、座標P´上の幾何距離の補正値を求めてLに加え、座標P´上のRTK補正値を生成する。なお、座標P´はサービスエリア内であり、ステップS9の処理は、座標Pの代わりに座標P´を用いる以外はステップS5と同様である。
【0036】
次に、座標P´上のRTK補正値と受信機1が搬送波受信で取得した観測データとを用いてRTK測位を行う(ステップS10)。詳細には、測位演算部13が、RTK補正値生成部16によって生成された座標P´上のRTK補正値と、受信機1が得た観測データとを用いてRTK測位を行う。ステップS10は、座標P上のRTK補正値の代わりに座標P´上のRTK補正値を用いる以外は、ステップS6と同様である。
【0037】
以上の処理により、本実施例の受信機1は、測位補強情報のサービスエリア外であっても高精度な測位を実現することができる。
【0038】
次に、受信機1のハードウェア構成について説明する。測位信号受信部11および測位補強情報受信部12および通信部17は、アンテナと受信回路により実現される。測位演算部13、仮想点決定部15およびRTK補正値生成部16は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)などのプロセッサが、メモリに記憶されたプログラムを実行することで実現される。このように、受信機1は、プロセッサおよびメモリを備えるコンピュータを有する。プログラムは、コンピュータに測位演算部13、仮想点決定部15およびRTK補正値生成部16の処理を実行させる。プログラムは、記憶媒体によって提供されてもよいし通信媒体によって提供されてもよい。測位演算部13、仮想点決定部15およびRTK補正値生成部16のうちの少なくとも一部が、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用回路で実現されてもよい。グリッド情報記憶部14は、メモリにより実現される。
【0039】
なお、図3に示した例では、受信機1がRTK補正値を算出するようにしたが、RTK補正値を生成して受信機へ提供する情報提供装置を設け、受信機は当該装置からRTK補正値を受信することで、同様の処理を行ってもよい。
【0040】
図7は、情報提供装置と受信機とを備える測位システムの構成例を示す図である。受信機1aは、測位信号受信部11と測位演算部13と通信部17(第1通信部)とを備える。情報提供装置20は、測位補強情報受信部21と、RTK補正値生成部22と、仮想点決定部23と、グリッド情報記憶部24と、通信部25(第2通信部)とを備える。情報提供装置20は、例えば船舶に搭載され、受信機1aは、ライフジャケットに装着され、情報提供装置20と受信機1aとは例えば無線ローカルエリアネットワークによって接続される。
【0041】
受信機1aの測位演算部13は、図3に示した例と同様に、コード単独測位を行う。測位演算部13は、コード単独測位の測位結果を通信部17へ入力し、通信部17はコード単独測位の測位結果として得られた座標Pを情報提供装置20へ送信する。
【0042】
情報提供装置20の通信部25は、受信機1aから座標Pを受信し、座標Pを仮想点決定部23へ出力する。仮想点決定部23は、コード単独測位の測位結果を仮想点Pとして、図3に示した仮想点決定部15と同様の処理を行う。RTK補正値生成部22の処理も図3に示したRTK補正値生成部16の処理と同様である。RTK補正値生成部16は、生成したRTK補正値を通信部25へ入力し、通信部25はRTK補正値を受信機1aへ送信する。なお、航法メッセージに関しては、受信機1aから情報提供装置20へ送信されてもよいし、情報提供装置20が航法メッセージを受信する受信部を備えていてもよい。
【0043】
受信機1aの通信部17は、RTK補正値を受信すると、受信したRTK補正値を測位演算部13へ入力する。図7に示した例では、情報提供装置20が、受信機1aのコード単独測位の測位結果である座標Pが測位補強情報のサービスエリア内であれば座標PのRTK補正値を受信機1aへ送信し、受信機1aのコード単独測位の測位結果である座標Pが測位補強情報のサービスエリア外であれば、座標P´のRTK補正値を受信機1aへ送信する。したがって、図7の例においても、図3の例と同様に、受信機1aは、測位補強情報のサービスエリア外であっても高精度な測位を実現することができる。また、この場合、受信機1aとして、測位補強情報の処理を行う機能を備えないRTK受信機を用いることができるため、受信機1aのコストを抑制することができる。
【0044】
次に、図7に示した受信機1aおよび情報提供装置20のハードウェア構成について説明する。受信機1a、情報提供装置20は、それぞれ、プロセッサおよびメモリを備えるコンピュータを有する。測位信号受信部11および測位補強情報受信部21、通信部25および通信部17は、アンテナと受信回路により実現される。測位演算部13、仮想点決定部23およびRTK補正値生成部22は、プロセッサが、メモリに記憶されたプログラムを実行することで実現される。測位信号受信部11および測位補強情報受信部21、通信部25および通信部17の動作も当該プログラムにより制御される。プログラムは、記憶媒体によって提供されてもよいし通信媒体によって提供されてもよい。測位演算部13、仮想点決定部23およびRTK補正値生成部22のうちの少なくとも一部が、FPGA、ASICなどの専用回路で実現されてもよい。グリッド情報記憶部24は、メモリにより実現される。
【0045】
本実施例のプログラムは、例えば、受信機1に、測位信号を受信するステップと、測位補強情報を受信するステップと、測位信号を用いたコード単独測位を行うステップと、コード単独測位による測位結果として得られた座標Pが、測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、座標Pがサービスエリア外である場合は、サービスエリア内に仮想点P´を設定するステップと、を実行させる。本実施例のプログラムは、例えば、さらに、受信機1に、座標Pがサービスエリア内である場合、座標Pとグリッドとの距離に基づいて1つ以上のグリッドを選択し、測位補強情報のうち選択したグリッドに対応する情報を用いて、座標P上のRTK補正値を算出し、算出したRTK補正値と測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたRTK測位とを行うステップと、座標Pがサービスエリア外である場合、仮想点P´とグリッドとの距離に基づいて1つ以上のグリッドを選択し、測位補強情報のうち選択したグリッドに対応する情報を用いて、仮想点P´上のRTK補正値を算出し、算出したRTK補正値と測位信号の搬送波受信による観測データとを用いたRTK測位とを行うステップと、を実行させる。
【0046】
なお、船舶が衛星回線などを用いてインターネットに接続される場合には、情報提供装置20が陸上に設けられ、船舶やライフジャケットに装備された受信機1aが、衛星回線を介して情報提供装置20と通信を行ってもよい。
【0047】
以上述べたように、図7に示した例では受信機1aのコストを抑えることができるため、受信機1aの数が多い場合にはコスト削減効果がある。一方で、図3に示した例では、情報提供装置20を用いずに受信機1が単独で高精度な測位を実現できるというメリットがあり無線ローカルエリアネットワークを構築する必要がない。また、図3に示した受信機1を用いる場合も、一般的なPPP-RTK受信機に仮想点決定部15を追加することで実現できるため、低コストで高精度な測位を実現できる。
【0048】
実施例2
次に、実施例2について説明する。実施例2の受信機1の構成は実施例1と同様である。以下実施例1と異なる部分を主に説明し、実施例1と重複する記載を省略する。図8は、実施例2の受信機1における測位演算の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0049】
ステップS1,S2は実施例1と同様である。ステップS2の後、受信機1は、実施例1で述べたステップS4を実施する。すなわち、受信機1は、航法メッセージを用いて測位衛星の座標を求め、座標Pと測位衛星との幾何距離Lを算出する。
【0050】
次に、受信機1は、実施例1のステップS3の判定を実施し、仮想点が測位補強情報のサービスエリア内である場合(ステップS3 Yes)、実施例1で述べたステップS5,S6を実施する。
【0051】
仮想点が測位補強情報のサービスエリア外である場合(ステップS3 No)、座標Pを仮想点とし、座標Pから最短距離にあるグリッド上の補強情報(測位補強情報)から座標P上の幾何距離の補正値を求めてLに加え、座標P上のRTK補正値を生成し(ステップS11)、ステップS6の処理を実施する。詳細には、仮想点決定部15が、コード単独測位の測位結果として得られた座標Pと、グリッド情報記憶部14に記憶されているグリッド情報とを用いて、座標Pから最短距離にあるグリッドG(座標Gのグリッド)を求め、グリッドG上の補強情報を用いて座標PのRTK補正値を生成することをRTK補正値生成部16へ指示する。RTK補正値生成部16は、測位補強情報における仮想点決定部15から指示されたグリッドGの情報を用いて座標PのRTK補正値を生成し、生成したRTK補正値を測位演算部13へ出力する。測位演算部13は、RTK補正値生成部16から出力されたRTK補正値と観測データとを用いてRTK測位を実施する。
【0052】
このように、本実施例では、仮想点決定部15は、座標Pが、測位補強情報のサービスエリア内であるか否かを判定し、グリッドと座標Pとの距離が最短となるグリッドを選択する。そして、RTK補正値生成部16は、座標Pがサービスエリア内である場合、実施例1と同様の処理を行い、座標Pがサービスエリア外である場合、測位補強情報のうち、仮想点決定部15によって選択されたグリッドに対応する情報を用いて、座標P上のPRK補正値を算出し、算出したRTK補正値を測位演算部13へ入力する。
【0053】
本実施例では、グリッド上の測位補強情報を仮想点Pに適用して仮想点P上のRTK補正値を算出するが、これは、グリッドGを仮想点とし、グリッドGの座標上で測位補強情報からグリッドG上のRTK補正値を作って、仮想点であるグリッドGのRTK補正値と受信機1の観測データとを用いて、長基線RTK測位を行うことと等価になる。実施例2の処理がグリッドGのRTK補正値と受信機1の観測データとを用いて長基線RTK測位を行うことと等価であることを、以下で簡単に説明する。
【0054】
図9は、長基線RTKを示す図である。なお、以下では、明細書の文中ではベクトルを示す文字の上の矢印を省略して記載する。図9に示すように、測位衛星から仮想点に向かう幾何ベクトルをVとし、測位衛星から受信機1に向かう幾何ベクトルをVとし、仮想点から受信機1に向かう幾何ベクトルをVとする。このとき、図9に示すように、以下の式(1)が成り立つ。
= -V+V …(1)
【0055】
図10は、実施例2の長基線RTKを説明するための図である。図10に示すように、受信機1の座標をRとし、航法メッセージから得る測位衛星の位置とグリッドとの間の幾何ベクトルをVとし、航法メッセージから得る測位衛星の位置と受信機との間の幾何ベクトルをVとし、航法メッセージから得る測位衛星の位置と受信機1近傍の仮想点(仮想点P)との間の幾何ベクトルをVとする。また、幾何ベクトルVの終点から幾何ベクトルVの終点へ向かうベクトルをVとする。
【0056】
このとき、以下の式(2)が成立する。
-V+V = V …(2)
【0057】
グリッド上でそのグリッドの補強情報から計算される衛星の誤差ベクトル(時計、バイアス、軌道)をEs1とし、グリッド上でそのグリッドの補強情報から計算される電離層・対流圏の誤差ベクトルをEe1とし、受信機1の位置上でグリッドの補強情報から計算される衛星の誤差ベクトル(時計、バイアス、軌道)をEs2とし、受信機1の位置上でそのグリッドの補強情報から計算される電離層・対流圏の誤差ベクトルをEe2とすると、仮想点上でグリッドの補強情報から計算される衛星の誤差ベクトル(時計、バイアス、軌道)をEs3とし、仮想点上でそのグリッドの補強情報から計算される電離層・対流圏の誤差ベクトルをEe3とすると、以下の式(3),(4)が成立する。
|Es1|=|Es3| …(3)
|Ee1|=|Ee3| …(4)
【0058】
|Es1|は1m程度、|Ee1|は10m程度の値となるため、|Es1|+|Ee1|は約11m程度の値である。また、VとVのなす角θ1とVとVの延長線とのなす角θ1´とは異なるが、θ1とθ1´との差が最大になるのは天頂に測位衛星が存在する場合であるが、測位衛星までの距離(約22000km)と基線長(例えば200km)を考慮すると、θ1とθ1´との差は最大でも0.5度程度である。ベクトルEs1+Ee1とベクトルEs3+Ee3との方向差により発生する誤差εは、以下の式(5)の通り、0.45mm程度となり、cm級精度のRTK測位を行う場合に許容される誤差5mm程度より一桁小さい。
ε=(|Es1|+|Ee1|)×(1-cos(θ1-θ1´))
≒11[m]×4.1×10-5=0.45[mm] …(5)
【0059】
よって、cm級精度のRTK測位より測位精度が劣化する長基線RTK測位の場合、下記の式(6)が成立するとみなして問題ない。
s1+Ee1=Es3+Ee3 …(6)
【0060】
このため、ベクトルV+Es1+Ee1からベクトルV+Es3+Ee3へ向かうベクトルをbとすると、以下の式(7)のように記載することができる。
-(V+Es1+Ee1)+(V+Es3+Ee3) = V= b …(7)
【0061】
したがって、V=bとなる。また、ベクトルV+Es3+Ee3とベクトルV+Es2+Ee2との間でcm級の短基線RTK測位ができることは自明であり、グリッドから受信機1へ向かうベクトルaは、仮想点から受信機1の位置に向かうベクトルをcとすると、以下の式(8)で表すことができる。
a=b+c=V+c …(8)
【0062】
このため、受信機1の近傍の仮想点に、遠方のグリッド上の測位補強情報を用いて仮想点上のRTK補正値を作り、そのRTK補正値と受信機1の観測データとの間でRTK測位を行うことは、グリッドの座標上で測位補強情報からRTK補正値を作って、そのRTK補正値と直接、長基線RTK測位を行うことと等価になる。したがって、本実施例における処理を行った場合も、実施例1と同様に、測位補強情報のサービスエリア外であっても高精度な測位を実現することができる。また、本実施例においても、図7に示した例と同様に情報提供装置20と受信機1aとで構成される測位システムを用いてもよい。
【0063】
以上述べた実施例は一例であり、上述した例に限らず、上述した構成および動作を組み合わせてもよく、上述した実施例と主旨が同様の範囲であれば、上述した構成および動作の一部の変更を行ってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1,1a 受信機、2 準天頂衛星、3-1~3-m 測位衛星、10,33,34 船舶、11 測位信号受信部、12,21 測位補強情報受信部、13 測位演算部、14,24 グリッド情報記憶部、15,23 仮想点決定部、16,22 RTK補正値生成部、17,25 通信部、20 情報提供装置、31 グリッド、32 境界線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10