(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065161
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/32 20060101AFI20230502BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C12P19/32 ZNA
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175812
(22)【出願日】2021-10-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】303046299
【氏名又は名称】旭化成ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松岡 毅
(72)【発明者】
【氏名】平田 竜也
(72)【発明者】
【氏名】山越 勝
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AE02
4B064AF23
4B064BJ10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE02
4B064DA01
(57)【要約】
【課題】1つの酵素によりヌクレオシドモノリン酸、ピロリン酸及びニコチンアミドを原料としてニコチンアミドモノヌクレオチドを製造するニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも下記の1)及び2)の工程を含む、ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法。
1)ヌクレオシドモノリン酸及びピロリン酸に実質的に1つの酵素を作用させてホスホリボシル二リン酸を生成する第一の工程
2)前記第一の工程の生成物であるホスホリボシル二リン酸、及びニコチンアミドに実質的に前記1つの酵素のみを作用させてニコチンアミドモノヌクレオチドを生成する第二の工程
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記の1)及び2)の工程を含む、ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法。
1)ヌクレオシドモノリン酸及びピロリン酸に実質的に1つの酵素を作用させてホスホリボシル二リン酸を生成する第一の工程
2)前記第一の工程の生成物であるホスホリボシル二リン酸、及びニコチンアミドに実質的に前記1つの酵素のみを作用させてニコチンアミドモノヌクレオチドを生成する第二の工程
【請求項2】
前記第一の工程及び第二の工程が、同時に進行させる工程である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酵素が、Pentosyltransferases(EC 2.4.2)に属する酵素である請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記Pentosyltransferases(EC 2.4.2)に属する酵素が、hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素が、HPT-C、HPT-W、HPT-Lのいずれか、又はこれらのアミノ酸配列と90%以上一致するアミノ酸配列を含むポリペプチドである請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ヌクレオシドモノリン酸が、イノシン酸、グアニル酸、又はイノシン酸とグアニル酸の混合物である請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ヌクレオシドモノリン酸の一部又は全部が、イノシン酸であり、
前記第一の工程は、当該工程で生成されるヒポキサンチンにキサンチンオキシダーゼを作用させる工程を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第一の工程及び前記第二の工程は、Mgイオン及び/又はMnイオンの存在下で前記酵素を作用させる工程である請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
ホスホリボシル二リン酸及びニコチンアミドにhypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する1つ又は複数の酵素を作用させてニコチンアミドモノヌクレオチドを製造するニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法。
【請求項10】
前記hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素の少なくとも1つが、HPT-C、HPT-W、HPT-Lのいずれか、又はこれらのアミノ酸配列と90%以上一致するアミノ酸配列を含むポリペプチドである請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
Mgイオン及び/又はMnイオンの存在下で前記酵素を作用させる請求項9又は請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニコチンアミドモノヌクレオチド(以下「NMN」と記載することがある)は抗老化物質として注目されており、健康サプリメントなどとしての需要が拡大している。
【0003】
NMNの製造方法としては、(1)有機合成による製造方法、(2)酵母を用いた発酵法による製造方法、(3)酵素を用いた酵素法による製造方法などが知られている。これらのうち、有機合成による製造方法は、数段階の合成工程が必要なため、時間とコストがかかるという問題がある。また、発酵法による製造方法は、NMNの生産性が非常に悪く大規模な培養設備などが必要である。
【0004】
NMNの酵素法による製造方法がいくつか報告されている。その中で、特許文献1~9には、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(nicotinamide phosphoribosyltransferase)(EC 2.4.2.12)(以下「NAMPT」と記載することがある)によりニコチンアミド(以下「NAM」と記載することがある)とホスホリボシル二リン酸(ホスホリボシルピロリン酸とも言う)(以下「PRPP」と記載することがある)からNMNに転換させる方法が開示されている。
【0005】
それらの中で特許文献7~9には、安価なヌクレオシドモノリン酸としてイノシン酸(IMP)、5'-グアニル酸(GMP)を原料としてヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hypoxanthine phosphoribosyltransferase)(EC 2.4.2.8)(以下「HGPRT」又は「HPT」と記載することがある)によりPRPPを生成させ、そのPRPPとNAMを原料としてNAMPTによりNMNを生成させる方法、つまりHGPRTとNAMPTという2つの酵素を用いてヌクレオシドモノリン酸からNMNを生成させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/185549号
【特許文献2】国際公開第2018/023206号
【特許文献3】国際公開第2018/023207号
【特許文献4】国際公開第2018/023208号
【特許文献5】国際公開第2018/023209号
【特許文献6】国際公開第2019/065876号
【特許文献7】国際公開第2018/023210号
【特許文献8】米国特許出願公開第2017/0121746号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2021/0246476号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、1つの酵素によりヌクレオシドモノリン酸からNMNを生成させる方法については知られていない。
【0008】
本発明の目的は、1つの酵素によりヌクレオシドモノリン酸、ピロリン酸及びニコチンアミドを原料としてニコチンアミドモノヌクレオチドを製造するニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、1つの酵素によりヌクレオシドモノリン酸、ピロリン酸及びニコチンアミドを原料としてニコチンアミドモノヌクレオチドを生成する反応を見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、下記のニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法を提供する。
【0011】
[1]少なくとも下記の1)及び2)の工程を含む、ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法。
1)ヌクレオシドモノリン酸及びピロリン酸に実質的に1つの酵素を作用させてホスホリボシル二リン酸を生成する第一の工程
2)前記第一の工程の生成物であるホスホリボシル二リン酸、及びニコチンアミドに実質的に前記1つの酵素のみを作用させてニコチンアミドモノヌクレオチドを生成する第二の工程
[2]前記第一の工程及び第二の工程が、同時に進行させる工程である前記[1]に記載の製造方法。
[3]前記酵素が、Pentosyltransferases(EC 2.4.2)に属する酵素である前記[1]又は前記[2]に記載の製造方法。
[4]前記Pentosyltransferases(EC 2.4.2)に属する酵素が、hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素である前記[3]に記載の製造方法。
[5]前記hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素が、HPT-C、HPT-W、HPT-Lのいずれか、又はこれらのアミノ酸配列と90%以上一致するアミノ酸配列を含むポリペプチドである前記[4]に記載の製造方法。
[6]前記ヌクレオシドモノリン酸が、イノシン酸、グアニル酸、又はイノシン酸とグアニル酸の混合物である前記[1]~[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
[7]前記ヌクレオシドモノリン酸の一部又は全部が、イノシン酸であり、
前記第一の工程は、当該工程で生成されるヒポキサンチンにキサンチンオキシダーゼを作用させる工程を含む前記[1]~[6]のいずれか1つに記載の製造方法。
[8]前記第一の工程及び前記第二の工程は、Mgイオン及び/又はMnイオンの存在下で前記酵素を作用させる工程である前記[1]~[7]のいずれか1つに記載の製造方法。
[9]ホスホリボシル二リン酸及びニコチンアミドにhypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する1つ又は複数の酵素を作用させてニコチンアミドモノヌクレオチドを製造するニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法。
[10]前記hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素の少なくとも1つが、HPT-C、HPT-W、HPT-Lのいずれか、又はこれらのアミノ酸配列と90%以上一致するアミノ酸配列を含むポリペプチドである前記[9]に記載の製造方法。
[11]Mgイオン及び/又はMnイオンの存在下で前記酵素を作用させる前記[9]又は前記[10]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1つの酵素によりヌクレオシドモノリン酸、ピロリン酸及びニコチンアミドを原料としてニコチンアミドモノヌクレオチドを製造するニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法の各工程を示す概略図である。
【
図2】実施例1におけるサンプルのHPLC溶出挙動を示す図である。
【
図3】実施例14における試料及びNMNのMS/MSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
図1は、本実施形態に係るニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法の各工程を示す概略図である。
【0016】
本実施形態に係るニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法は、少なくとも下記の1)及び2)の工程を含む。
1)ヌクレオシドモノリン酸及びピロリン酸に実質的に1つの酵素を作用させてホスホリボシル二リン酸を生成する第一の工程
2)前記第一の工程の生成物であるホスホリボシル二リン酸、及びニコチンアミドに実質的に前記1つの酵素のみを作用させてニコチンアミドモノヌクレオチドを生成する第二の工程
【0017】
上記第一の工程は、上記第二の工程に先立って行ってもよいが、上記第一の工程と第二の工程を同時に進行させることが好ましい。ここで、「同時に進行させる」とは、「同一反応器内で第一の工程を進行させつつ、第二の工程も並行して進行させる」ことを意味する。
【0018】
ヌクレオシドモノリン酸とはヌクレオチドの1種であり、リボース類似体(例えばリボース、デオキシリボースなど)の1位の炭素原子が塩基(例えばプリン塩基、ピリミジン塩基)の窒素原子と結合し、5位の炭素原子がリン酸基と結合しているものであり、例えばAMP、GMP、IMP、XMP、CMP、UMP、OMP、dAMP、dGMP、dCMP、dTMPなどである。
【0019】
酵素を用いてヌクレオシドモノリン酸であるIMP又はGMPとピロリン酸からPRPPを生成させ(本明細書では第一の工程という)、その生成物であるPRPPとNAMに酵素を作用させる(本明細書では第二の工程という)ことでNMNを生成させることは、前述の通り、これまでに報告されている(特許文献7~9)。
【0020】
この第一の工程に用いられる酵素としては、HGPRTが示されており、第二の工程に用いられる酵素としては、NAMPTが示されていた(特許文献7~9)。そして、この第一の工程と第二の工程を同時に行うことも示されている(特許文献7の実施例1~5、特許文献9の実施例32,33、54~56)。
【0021】
しかし、第一の工程と第二の工程を同時に行うことはできても、1つの酵素で反応触媒させることはこれまで知られておらず、少なくとも別の2つの酵素を用いる必要があった。酵素を用いる物質の製造方法において、酵素の種類や量を減らすことはコスト的に優れているだけでなく、反応系の制御を簡素にすることができ、さらに反応後の生成物の精製も簡素にすることができるので、生成物の品質向上にも大きく寄与するものである。
【0022】
本発明者らは、これまで全く別の酵素による反応であると思われていたヌクレオシドモノリン酸とピロリン酸からPRPPを生じさせる第一の工程と第一の工程の生成物であるPRPPとNAMからNMNを生じさせる第二の工程の反応を1つの酵素が触媒することを予想外に発見し、2つの酵素を用いることなく、
図1に示されるような、1つの酵素により反応が進行する第一の工程と第二の工程とを含むNMNの製造方法を完成した。
【0023】
ここでいう1つの酵素は、ヌクレオシドモノリン酸とピロリン酸からPRPPを生じさせる第一の工程と、第一の工程の生成物であるPRPPとNAMからNMNを生じさせる第二の工程の反応を触媒することができる酵素であれば天然型酵素や反応性や安定性や特異性を変化させるなどのために変異や欠失や付加や融合などをさせた改変型酵素などであってもよく、特に限定はしないが、例えばPentosyltransferases(EC 2.4.2)に属する酵素が挙げられる。中でも、例えばhypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素が好ましいものとして挙げられる。なお、本明細書においては、現在の分類では異なる酵素番号が付与されているものであっても旧分類にて上記の酵素番号が付与されていた酵素も含む。
【0024】
1つの酵素を作用させてとは、作用させて生成させる反応に関与する酵素が1つであることを言うのであって、作用させて生成させる反応に関与しない他の酵素の存在を除外するものではない。例えば、ヌクレオシドモノリン酸及びピロリン酸に1つの酵素を作用させてホスホリボシル二リン酸を生成するとは、ヌクレオシドモノリン酸及びピロリン酸からホスホリボシル二リン酸を生成する反応に関与する酵素が1つであり、この反応に関与しない他の酵素が共存することをも含む。
【0025】
実質的に1つの酵素とは、1つの酵素が90%以上であり他に混在する酵素が10%以下であることをいい、好ましくは1つの酵素が95%以上であり他に混在する酵素が5%以下であること、より好ましくは1つの酵素が99%以上であり他に混在する酵素が1%以下であることをいう。また、ここでいう酵素の%表示は、酵素のタンパク重量、酵素の活性単位であるユニットによるいずれの%表示であってよい。なお、他に混在する酵素とは、第一の工程及び/又は第二の工程の反応を触媒することができる1つ又は複数の酵素のことをいう。
【0026】
hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素としては、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなる酵素「HPT-W(本件発明者らが命名)」、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなる酵素「HPT-C(本件発明者らが命名)」、配列番号11に記載のアミノ酸配列からなる酵素「HPT-L(本件発明者らが命名)」が好適なものとして挙げられる。さらにこれらのアミノ酸配列と70%以上、もしくは80%以上、もしくは90%以上、もしくは95%以上、もしくは98%以上一致するアミノ酸配列を含むポリペプチドも挙げられる。
【0027】
特許文献7~9にはNAM、IMP又はGMP、ピロリン酸を原料としてHGPRTとNAMPTの2つの酵素を用いてNMNを製造する方法が開示されているが、HGPRTの活性とNAMPTの活性を共に持つ酵素の存在を示唆したり、そのような酵素の発見や開発を課題として認識しているものではない。つまり、これまでに開示されている先行技術を組み合わせても、1つの酵素により反応が進行する第一の工程と第二の工程とを含むNMNの製造方法に関する示唆はこれまで何ら無かった。
【0028】
特に、hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)のペプチドの長さは約200アミノ酸であり、一方、nicotinamide phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.12)のペプチドの長さは約450アミノ酸であり、構造的に大きく異なっているため、hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)がnicotinamide phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.12)と同様にニコチンアミドに対して活性を持つということはこれまで想定もされていなかった。
【0029】
本実施形態に係る、少なくとも上記第一の工程と上記第二の工程を含むニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法は、ニコチンアミドモノヌクレオチドを効率的に生産するために、工程の条件を工夫して最適化することができる。
【0030】
効率的に生産とは、投入する原料や酵素の量、時間、作業量や作業安全性及び環境への負荷に比較して、取得する生成物の量、純度などを増大させるように生産することである。特に、第一の工程と第二の工程とも平衡反応であるため、生成物の量が増大するように平衡を望ましい方向に移すように工程の条件を工夫、最適化し、ニコチンアミドモノヌクレオチドを効率的に生産することが重要である。
【0031】
以下に詳細に説明するが、工程の条件の最適化として、酵素の種類、酵素剤型、酵素濃度、基質原料の種類、基質原料の濃度と比率、反応温度、反応時間、溶存酸素濃度、pH、緩衝液の種類や濃度、イオン強度の調整、酵素安定化剤の添加、生成物安定化剤の添加、界面活性剤の添加、有機溶媒の添加、反応補因子や反応促進成分の添加、副産物の除去などがある。
【0032】
酵素の種類の最適化とは、第一の工程と第二の工程の反応を触媒できる酵素の群の中からニコチンアミドモノヌクレオチドを効率的に生産するために、基質原料の種類に応じて適切な種類の酵素を選ぶことである。例えばPentosyltransferases (EC 2.4.2)に属する酵素を選択することで最適化できる。また、Pentosyltransferases (EC 2.4.2)に属する酵素の中から、purine-nucleoside phosphorylase(EC 2.4.2.1)、pyrimidine-nucleoside phosphorylase(EC 2.4.2.2)、uridine phosphorylase(EC 2.4.2.3)、thymidine phosphorylase(EC 2.4.2.4)、nucleoside ribosyltransferase(EC 2.4.2.5)、nucleoside deoxyribosyltransferase(EC 2.4.2.6)、adenine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.7)、hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)、uracil phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.9)、orotate phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.10)、nicotinate phosphoribosyltransferase(EC 6.3.4.21、旧酵素番号:EC 2.4.2. 11)、nicotinamide phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.12)、methionine adenosyltransferase(EC 2.5.1.6、旧酵素番号:EC 2.4.2.13)、amidophosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.14)、guanosine phosphorylase(EC 2.4.2.15)、urate-ribonucleoside phosphorylase(EC 2.4.2.16)、ATP phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.17)、anthranilate phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.18)、nicotinate-nucleotide diphosphorylase (carboxylating)(EC 2.4.2.19)、dioxotetrahydropyrimidine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.20)、nicotinate-nucleotide-dimethylbenzimidazole phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.21)、xanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.22)、deoxyuridine phosphorylase (EC 2.4.2.2, EC 2.4.2.3, EC 2.4.2.4.、旧酵素番号:EC 2.4.2.23)、1,4-beta-D-xylan synthase(EC 2.4.2.24)、flavone apiosyltransferase(EC 2.4.2.25)、protein xylosyltransferase(EC 2.4.2.26)、dTDP-dihydrostreptose-streptidine-6-phosphate dihydrostreptosyltransferase(EC 2.4.2.27)、S-methyl-5'-thioadenosine phosphorylase(EC 2.4.2.28)、tRNA-guanosine34 transglycosylase(EC 2.4.2.29)、NAD+ ADP-ribosyltransferase(EC 2.4.2.30)、NAD+-protein-arginine ADP-ribosyltransferase(EC 2.4.2.31)、dolichyl-phosphate D-xylosyltransferase(EC 2.4.2.32)、dolichyl-xylosyl-phosphate-protein xylosyltransferase(EC 2.4.2.33)、indolylacetylinositol arabinosyltransferase(EC 2.4.2.34)、flavonol-3-O-glycoside xylosyltransferase(EC 2.4.2.35)、NAD+-diphthamide ADP-ribosyltransferase(EC 2.4.2.36)、NAD+-dinitrogen-reductase ADP-D-ribosyltransferase(EC 2.4.2.37)、glycoprotein 2-beta-D-xylosyltransferase(EC 2.4.2.38)、xyloglucan 6-xylosyltransferase(EC 2.4.2.39)、zeatin O-beta-D-xylosyltransferase(EC 2.4.2.40)、xylogalacturonan beta-1,3-xylosyltransferase(EC 2.4.2.41)、UDP-D-xylose:beta-D-glucoside alpha-1,3-D-xylosyltransferase(EC 2.4.2.42)、lipid IVA 4-amino-4-deoxy-L-arabinosyltransferase(EC 2.4.2.43)、S-methyl-5'-thioinosine phosphorylase(EC 2.4.2.44)、decaprenyl-phosphate phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.45)、galactan 5-O-arabinofuranosyltransferase(EC 2.4.2.46)、arabinofuranan 3-O-arabinosyltransferase(EC 2.4.2.47)、tRNA-guanine15 transglycosylase(EC 2.4.2.48)、neamine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.49)、cyanidin 3-O-galactoside 2''-O-xylosyltransferase(EC 2.4.2.50)、anthocyanidin 3-O-glucoside 2'''-O-xylosyltransferase(EC 2.4.2.51)、triphosphoribosyl-dephospho-CoA synthase(EC 2.4.2.52)、undecaprenyl-phosphate 4-deoxy-4-formamido-L-arabinose transferase(EC 2.4.2.53)、beta-ribofuranosylphenol 5'-phosphate synthase(EC 2.4.2.54)、nicotinate D-ribonucleotide:phenol phospho-D-ribosyltransferase(EC 2.4.2.55)、kaempferol 3-O-xylosyltransferase(EC 2.4.2.56)、AMP phosphorylase(EC 2.4.2.57)、hydroxyproline O-arabinosyltransferase(EC 2.4.2.58)、sulfide-dependent adenosine diphosphate thiazole synthase(EC 2.4.2.59)、cysteine-dependent adenosine diphosphate thiazole synthase(EC 2.4.2.60)、alpha-dystroglycan beta1,4-xylosyltransferase(EC 2.4.2.61)、xylosyl alpha-1,3-xylosyltransferase(EC 2.4.2.62)、EGF-domain serine xylosyltransferase(EC 2.4.2.63)、NAD+-protein-arginine ADP-ribosyltransferase(EC 2.4.2.B12)、NAD+-protein-arginine ADP-ribosyltransferase(EC 2.4.2.B13)、(KDO)2-lipid IV(A) 4-amino-4-deoxy-L-arabinosyltransferase(EC 2.4.2.B4)のいずれかに属する酵素を選択することで最適化できる。また、Archaeoglobus veneficus、Artemia sp.、Bos taurus、Caldanaerobacter subterraneus subsp. tengcongensis、Carboxydothermus hydrogenoformans、Cricetulus griseus、Cryptosporidium parvum、Escherichia coli、Gallus gallus、Giardia intestinalis、Giardia intestinalis Portland、Halobacterium salinarum、Haloferax volcanii、Homo sapiens、Hungateiclostridium thermocellum、Hungateiclostridium thermocellum DSM 1237、Legionella pneumophila、Leishmania donovani、Leishmania tarentolae、Lontra longicaudis、Methanococcus voltae、Mirounga angustirostris、Mus musculus、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium tuberculosis H37Rv、Plasmodium chabaudi、Plasmodium falciparum、Plasmodium lophurae、Pyrococcus horikoshii、Rattus norvegicus、Saccharolobus solfataricus、Saccharolobus solfataricus P2、Saccharomyces cerevisiae、Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhimurium、Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhimurium LT2、Schistosoma mansoni、Schizosaccharomyces pombe、Streptomyces cyanogenus、Sus scrofa、Thermus thermophilus、Thermus thermophilus HB8 / ATCC 27634 / DSM 579、Toxoplasma gondii、Tritrichomonas suis、Trypanosoma cruziのいずれかの菌由来のhypoxanthine phosphoribosyltransferase (EC 2.4.2.8)を選択することで最適化できる。また、上記の酵素をそのまま、又はアミノ酸配列において欠失、挿入、付加、融合などの改変した酵素として遺伝子組み換え生物等で生産させた酵素のいずれかを選択することで最適化できる。前述のHPT-W、HPT-C、HPT-Lのいずれかを選択する場合には、後述の実施例に記載のように生産したものが好ましいが、遺伝子組み換えをしたその他の菌から生産したものを選択してもよい。
【0033】
基質原料のヌクレオシドモノリン酸がIMP、GMP又はこれらの混合物の時は、hypoxanthine phosphoribosyltransferase (EC 2.4.2.8)、nicotinate phosphoribosyltransferase (EC 6.3.4.21)、nicotinamide phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.12)のいずれかに属する酵素を選択することが好ましい。
基質原料のヌクレオシドモノリン酸がAMP又はその含有物の時は、adenine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.7)、nicotinate phosphoribosyltransferase(EC 6.3.4.21)、nicotinamide phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.12)のいずれかに属する酵素を選択することが好ましい。
基質原料のヌクレオシドモノリン酸がUMP又はその含有物の時は、uracil phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.9)、nicotinate phosphoribosyltransferase (EC 6.3.4.21)、nicotinamide phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.12)のいずれかに属する酵素を選択することが好ましい。
基質原料のヌクレオシドモノリン酸がOMP又はその含有物の時は、orotate phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.10)、nicotinate phosphoribosyltransferase (EC 6.3.4.21)、nicotinamide phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.12)のいずれかに属する酵素を選択することが好ましい。
基質原料のヌクレオシドモノリン酸がXMP又はその含有物の時は、xanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.22)、nicotinate phosphoribosyltransferase (EC 6.3.4.21)、nicotinamide phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.12)のいずれかに属する酵素を選択することが好ましい。
【0034】
酵素剤型の最適化とは、酵素を含有する生きている微生物、酵素を含む不活化した微生物、酵素を含む微生物の粗抽出物又は粗抽出液、精製処理をした粉末酵素又は液体酵素、リンカーなど重合剤を用いて重合させた酵素、ポリスチレンやアクリルアミドやアガロースなどの担体上に固定化された酵素などからそれぞれの条件において最適なものを選択することである。さらに酵素を固定した担体をカラムに詰め、工程の反応液を通液、循環通液させることも可能である。
【0035】
酵素濃度の最適化とは、ヌクレオシドモノリン酸、ピロリン酸に作用し、かつその生成物であるPRPP、NAMに作用する酵素の濃度を他の様々な条件をも勘案しながら最適な濃度を選択することである。酵素のタンパク濃度では例えば0.001mg~100g/L、好ましくは1mg~100g/L、より好ましくは1~100g/Lの範囲、酵素の活性濃度では例えば0.01U~1000kU/L、好ましくは1U~100kU/L、より好ましくは10U~10kU/Lの範囲などから適切な濃度を選択することで最適化できる。
【0036】
基質原料の種類の最適化とは、ヌクレオシドモノリン酸を基質原料として酵素反応によりPRPPが生成するものであればよく、例えばIMP、GMP、AMP、UMP、OMP、XMP又はこれらのうちの2以上の混合物でもよく、他の様々な条件をも勘案しながら最適なヌクレオシドモノリン酸を選択することである。また、ヌクレオシドモノリン酸、ピロリン酸、NAMは各工程の反応液中で酵素と反応する際にその形態であればよく、原料として投入する際はそれらの塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩や水和物などでもよく、他の様々な条件をも勘案しながら最適な形態の原料を選択することで最適化できる。
【0037】
基質原料の濃度と比率の最適化とは、第一の工程開始時の反応液中のヌクレオシドモノリン酸、ピロリン酸の濃度とその比率を他の様々な条件をも勘案しながら最適な濃度と比率を選択することであり、第二の工程開始時の反応液中のヌクレオシドモノリン酸、ピロリン酸、NAMの濃度とその比率を他の様々な条件をも勘案しながら最適化することである。第一の工程開始時の反応液中の濃度とその比率としては、例えばヌクレオシドモノリン酸の濃度は0.01~500mM、好ましくは0.1~20mM、ピロリン酸の濃度は0.001~100mM、好ましくは0.02~10mMの範囲から、ヌクレオシドモノリン酸とピロリン酸の濃度の比率は例えば1:0.001~100の範囲から、適切な値を選択する。第二の工程開始時の反応液中の濃度とその比率は、例えばヌクレオシドモノリン酸の濃度は0~500mM、好ましくは0.1~20mM、ピロリン酸の濃度は0~100mM、NAMの濃度は0.01~500mM、好ましくは0.1~20mMの範囲から、ヌクレオシドモノリン酸とピロリン酸とNAMの濃度の比率は例えば0~10:0~100:1の範囲から、適切な値を選択する。例えば第一の工程と第二の工程を同時に開始し、ヌクレオシドモノリン酸としてIMPを用いる場合はIMPとピロリン酸とNAMの濃度の比率として0.1~10:0.001~100:1の範囲から、適切な値を選択する。また、工程の途中において濃縮や希釈もしくは原料の追加投入をして基質原料の濃度や比率を変化させて最適化することもある。
【0038】
反応温度の最適化とは、第一の工程を第二の工程に先立って行う場合には、それぞれの工程の温度を別に、第一の工程と第二の工程を同時に行う場合はその工程の温度を、他の様々な条件をも勘案しながら最適化することである。例えば0~70℃、好ましくは25~65℃の範囲で、一定の温度もしくは途中で変化させることを検討し、最適な温度、最適な温度変化プログラムを選択することで最適化できる。
【0039】
反応時間の最適化とは、第一の工程を第二の工程に先立って行う場合には、それぞれの工程の時間を別に、第一の工程と第二の工程を同時に行う場合はその工程の時間を、他の様々な条件をも勘案しながら最適化することである。例えば1~240hr、好ましくは1~72hrの範囲で選択することで最適化できる。
【0040】
溶存酸素濃度の最適化とは、第一の工程を第二の工程に先立って行う場合には、それぞれの工程における反応液中の酸素濃度を別に、第一の工程と第二の工程を同時に行う場合はその工程の反応液中の酸素濃度を、他の様々な条件をも勘案しながら最適化することである。例えば0~14.15mg/Lの範囲で、工程中に一定の濃度もしくは途中で変化させることを検討し、最適な濃度、最適な濃度変化プログラムを選択することで最適化できる。
【0041】
pHの最適化とは、第一の工程を第二の工程に先立って行う場合には、それぞれの工程における反応液中のpHを別に、第一の工程と第二の工程を同時に行う場合はその工程の反応液中のpHを、他の様々な条件をも勘案しながら最適化することである。例えばpH4~11の範囲で、工程中に一定のpHもしくは途中で変化させることを検討し、最適なpH、最適なpH変化プログラムを選択することで最適化できる。
【0042】
緩衝液の種類や濃度の最適化とは、第一の工程を第二の工程に先立って行う場合には、それぞれの工程における緩衝液の種類や濃度を別に、第一の工程と第二の工程を同時に行う場合はその工程における緩衝液の種類や濃度を、他の様々な条件をも勘案しながら選択し、最適化することである。緩衝液の種類としては例えばクエン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、Good緩衝液、トリス緩衝液、ビストリス緩衝液、アンモニウム緩衝液、トリエチルアミン緩衝液、グリシン緩衝液、マッキルベイン緩衝液やそれらを組み合わせた緩衝液などから、緩衝液の1~500mM濃度の範囲で最適な種類と濃度を選択することで最適化できる。
【0043】
イオン強度の調整の最適化とは、第一の工程を第二の工程に先立って行う場合には、それぞれの工程におけるイオン強度の調整を別に、第一の工程と第二の工程を同時に行う場合はその工程におけるイオン強度の調整を、他の様々な条件をも勘案しながら行うことである。イオン強度の調整方法としては例えば反応液中の緩衝液の濃度や、反応液にNaCl、KCl、(NH4)2SO4などの塩を加えることで調整でき、緩衝液は1~500mM、NaClは0~2M、KClは0~2M、(NH4)2SO4は0~1Mの範囲で濃度を選択し、最適なイオン強度を設定することで最適化できる。
【0044】
酵素安定化剤の添加の最適化とは、工程中の酵素の活性を維持するため酵素安定化剤を第一の工程又は第二の工程の反応液に、他の様々な条件をも勘案しながら種類、濃度を選択し添加することである。酵素安定化剤としては例えばNaCl、KCl、(NH4)2SO4を0.1~0.5M、グリセロール、エチレングリコール、シュークロース、トレハロース、ソルビトール、マンニトール、エタノールを0.1~50%、界面活性剤、スキムミルク、大豆プロテイン、ホエイ、カゼイン、アルブミンを0.001~1%の範囲で濃度を選択し、反応液に添加することで最適化できる。
【0045】
生成物安定化剤の添加の最適化とは、第一の工程での生成物と第二の工程での生成物が熱、酸素、混在物質、混在酵素などにより想定外の分解で収量が減ることを防ぐために第一の工程又は第二の工程の反応液に生成物安定化剤を、他の様々な条件をも勘案しながら種類、濃度を選択し添加することである。生成物安定化剤としては例えばEDTAなどのキレート剤、カタラーゼ、メルカプトエタノール、DTTやチオグリセロールなどの還元剤、亜硫酸ナトリウムなどから適宜選択して反応液に添加することで最適化できる。
【0046】
界面活性剤の添加の最適化とは、第一の工程又は第二の工程の酵素反応を促進、生成物量が増大するように反応の平衡を移動するために第一の工程又は第二の工程の反応液に界面活性剤を他の様々な条件をも勘案しながら種類、濃度を選択し添加することである。界面活性剤として例えばアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤、サポニン、リン脂質、ペプチド、バイオサーファクタント(糖脂質系、アシルペプタイド系、リン脂質系、脂肪酸系、高分子系)などから適宜選択して反応液に添加することで最適化できる。
【0047】
有機溶媒の添加の最適化とは、第一の工程又は第二の工程の酵素反応を促進、生成物量が増大するように反応の平衡を移動するために第一の工程又は第二の工程の反応液に有機溶媒を他の様々な条件をも勘案しながら種類、濃度を選択し添加することである。有機溶媒として例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサンなどから適宜選択して反応液に添加することで最適化できる。
【0048】
反応補因子や反応促進成分の添加の最適化とは、第一の工程又は第二の工程の酵素による反応に必要な補因子や、反応を活性化し反応時間を短縮及び/又は添加酵素量を減少させるために第一の工程又は第二の工程の反応液に反応補因子又は反応促進成分を他の様々な条件をも勘案しながら種類、濃度を選択し添加することである。反応補因子又は反応促進成分としては例えばMgCl2やMgSO4などのMg化合物、MnCl2などのMn化合物、FeCl3、FeCl2などのFe化合物、ZnCl2などのZn化合物、Co化合物、Mo化合物、Cu化合物、Ag化合物、Al化合物、Ca化合物、Ni化合物などを0.001~100mM、好ましくは0.1~100mM、より好ましくは2~50mMなどの範囲で適宜選択又は組み合わせて反応液に添加することで最適化できる。
【0049】
副産物の除去の最適化とは、第一の工程では反応液から塩基を、第二の工程では反応液からピロリン酸を除去する条件を他の様々な条件をも勘案しながら選択することである。第一の工程でヌクレオシドモノリン酸がIMPの場合はヒポキサンチンの除去、GMPの場合はグアニンの除去、AMPの場合はアデニンの除去である。
ヒポキサンチンの除去は、キサンチンオキシダーゼ、キサンチンデヒドロゲナーゼによりキサンチン及び尿酸へ変換することで除去できる。キサンチンオキシダーゼを用いる場合は、発生する過酸化水素をカタラーゼやパーオキシダーゼにより除去することで、より効率的にヒポキサンチンの除去ができる。キサンチンデヒドロゲナーゼを用いる場合は、生成するNADHをNADHオキシダーゼなどでNADに変換することで、より効率的にヒポキサンチンの除去ができる。キサンチンオキシダーゼは例えば東洋紡社製のXTO-212(コード名)を0.01~100U/mL、好ましくは0.1~10U/mLの酵素濃度で添加することでき、上記の変換反応を0~70℃、好ましくは25~65℃の反応温度で行えばよい。
グアニンの除去は、グアニンデアミナーゼによりグアニンをキサンチンへ変換した後、キサンチンを除去することで達成できる。
アデニンの除去は、アデニンデアミナーゼにより、アデニンをヒポキサンチンに変換した後、ヒポキサンチンを除去することで達成できる。
また、ヒポキサンチン、グアニン、アデニンはともに水への溶解度が低いため、高温で反応させておいて冷却して析出させて遠心分離やろ過で除去したのち高温に戻すことを繰り返すことで除去してもよい。例えば、高温は37~65℃で、冷却は0~10℃の範囲で行えばよい。さらにまた、ヒポキサンチン、グアニン、アデニンはともに水への溶解度が低いため、水を蒸発させるなど濃縮して析出させて遠心分離やろ過で除去したのち、再度水を添加して元に戻すことを繰り返すことで除去してもよい。ヘキサン、クロロホルムなどの有機溶媒に抽出、分液することで除去してもよい。また、ヒポキサンチン、グアニン、アデニンをレジンなどに吸着して除去してもよい。
第一の工程でヌクレオシドモノリン酸がIMPとGMPの混合物の場合は、上述の方法を適宜組み合わせて用いてもよい。
第二の工程で生成するピロリン酸は、第一の工程を第二の工程に先立って行う場合には、単純に除去すればよいが、第一の工程と第二の工程を同時に行う場合は、第一の工程が十分に進行したのちに除去を行う必要がある。第一の工程が十分に進行したとは、例えば投入原料であるヌクレオシドモノリン酸の10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上から塩基が生成したことをいう。
ピロリン酸の除去は、反応液に無機ジホスファターゼ(inorganic diphosphatase)(EC 3.6.1.1)などを加えてリン酸に加水分解する方法や、カチオン(cation)を添加し沈澱化する方法(例えばMgイオン、Mnイオン、Caイオンを過剰に加えて析出させる方法)などがある。Mgイオン、Mnイオン、Caイオンを過剰に加えるとは、反応液に50mM以上、好ましくは100mM以上、より好ましくは200mM以上、さらに好ましくは500mM以上、最も好ましくは1000mM以上の過剰な濃度のMg化合物やMn化合物やCa化合物を添加することである。また、ピロリン酸をレジンなどに吸着して除去してもよい。
【0050】
本実施形態によれば、1つの酵素によりヌクレオシドモノリン酸、ピロリン酸及びニコチンアミドを原料としてニコチンアミドモノヌクレオチドを製造するニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法を提供することができる。したがって、本実施形態によれば、少数の比較的安価な原料から、簡素な工程によりニコチンアミドモノヌクレオチドを製造するニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法を提供することができる。
【0051】
また、別の本実施形態によれば、ホスホリボシル二リン酸及びニコチンアミドにhypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素を作用させてニコチンアミドモノヌクレオチドを製造するニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法を提供することができる。当該製造方法を前述の第一及び第二の工程を含む上記本実施形態に係る製造方法に利用する場合には、作用させるhypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素は1つ(前述の実質的に1つの場合を含む)であるが、その他の場合、例えば第二の工程のみからなる製造方法を実施するような場合には複数であってもよく、例えば、HPT-C、HPT-W、HPT-L及びこれらのアミノ酸配列と90%以上一致するアミノ酸配列を含むポリペプチドから選ばれる2つ以上の酵素を作用させてもよい。なお、実質的に1つの酵素とは前述したとおりであるが、ここでの1つ又は複数の酵素はhypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素であり、他の混在する酵素はニコチンアミドモノヌクレオチドを製造する上記反応(第二の工程に相当)を触媒することができる1つ又は複数の酵素のことである。hypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素を1つ又は複数作用させる場合においても、他の混在する酵素が上記反応を触媒する酵素全体の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下混在されていてもよい。さらに、1つ又は複数のhypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する酵素以外にニコチンアミドモノヌクレオチドを製造する上記反応(第二の工程に相当)を触媒しない他の酵素が共存されていてもよい。
【0052】
本発明の実施例を以下に詳細に述べるが、本発明は何らこれにより限定されるものでは
ない。
【実施例0053】
〔実施例1:塩基、ヌクレオシドモノリン酸、ニコチンアミド、ニコチンアミドモノヌクレオチドのHPLCによる検出〕
[サンプル溶液の調製]
下記のサンプルを記載の濃度となるように精製水に溶解し、サンプル溶液を調製した。
0.05mg/mL IMP
0.05mg/mL GMP
0.05mg/mL NMN
0.02mg/mL ヒポキサンチン
0.02mg/mL グアニン
0.02mg/mL NAM
[検出条件]
HPLCシステム:ShimadzuLC-20A
検出:UV254nm
カラム:YMC-Triart C18
TA12S05-1546WT 150mmx4.6mm(YMC社、日本国)
流速、モード、カラム温度:1mL/min、アイソクラテック、37℃
移動相:10mMリン酸2水素1カリウム
サンプルインジェクション:5μL
[結果]
結果を
図2及び表1に示す。
図2は溶出挙動(横軸:溶出時間(分)、縦軸:検出強度(mV))を示す。各サンプルのリテンションタイムは表1に記載の通りであり、ヒポキサンチン、グアニン以外はピークが分離していることがわかる。
【0054】
【0055】
〔実施例2:HGPRTの製造〕
(1)大腸菌由来HGPRTが挿入されたプラスミドの形質転換体の作製
(1.1)大腸菌由来HGPRTの配列の確認
Escherichia coli W3110株の染色体DNAを鋳型として、センスプライマー(配列番号1)及びアンチセンスプライマー(配列番号2)並びにKOD PLUS NEO(品番:KOD-401、東洋紡株式会社)を用いてPCRを行い、HGPRT遺伝子を増幅してPCR産物を得た。得られたPCR産物をZero Blunt TOPO PCR cloning kitを用いてpCR-Blunt II-Topo(ThermoFisher社)に挿入後、得られたPCR産物の塩基配列をシーケンシングにより確認した。確認されたEscherichia coli W3110株由来のHGPRTの塩基配列及びその塩基配列から推定されるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3及び4に示す。
【0056】
(1.2)大腸菌由来HGPRTが挿入されたプラスミドの形質転換体の作製
大腸菌由来のHGPRT遺伝子が挿入されたpCR-Blunt II-Topoを鋳型として、センスプライマー(配列番号5)及びアンチセンスプライマー(配列番号6)並びにKOD PLUS NEO(品番:KOD-401、東洋紡株式会社)を用いてPCRを行い、5’末端の開始コドンの前にAAGGAGATATACAT配列、およびHGPRTの開始コドンの直後にHisタグをコードするCATCACCATCACCATCAC配列を、3’末端側の終始コドンの直後にGGATCCGAATTCGAGC配列をそれぞれ有するHGPRT遺伝子を増幅してPCR産物を得た。得られたPCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて発現ベクターであるpET-21a(+)ベクター(Novagen社)のNdeI-BamHI部位にIn-Fusion法により挿入して、HGPRT/pET21a(+)発現用プラスミドを得た。この発現用プラスミドでは、HGPRT遺伝子の5’末端にHisタグをコードする塩基配列が付加されている。この発現用プラスミドをOne shot BL21(DE3) Chemically Competent E.coli(Invitrogen社)に導入して、大腸菌由来のHGPRTをコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを有する形質転換体HGPRT/pET-21a(+)/BL21(DE3)を得た。
【0057】
(2)大腸菌由来HGPRT(HPT-W)の調製
(2.1)形質転換体におけるHGPRTの誘導発現及び粗酵素液の調製
上記(1.2)で得た形質転換体を1コロニー取り、これを50μg/mLアンピシリン含有LB液体培地(5mL)に植菌して、試験管にて約30℃で約22時間培養した。培養物(1.6mL)を、50μg/mLアンピシリン含有液体培地(1%グリセロール含有6%Overnight ExpressTM Instant TB Medium(Merck社)、0.1%アデカノールLG-109(ADEKA社製))(1.6L)に添加して、ジャーファーメンターにて30℃、通気1.6L/min、650rpmの条件で約24時間培養した。培養物を遠心分離して集菌し、得られた菌体を溶液A(20mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)、0.3M NaCl)で懸濁し、菌体を超音波で破砕して可溶化した後、遠心分離して粗酵素液を得た。
【0058】
(2.2)HPT-Wの精製
Chelating Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社)をカラムに充填してNi2+を固定化した後、溶液Aで平衡化した。得られたカラムに上記の粗酵素液を添加して、HPT-Wを吸着させた。カラムを溶液Aで洗浄した後、溶液A及び0.4Mイミダゾールを含有する溶液Aを用いた10CV(カラムボリューム)のリニアグラジエントにより、HPT-Wを溶出した。得られたHPT-Wの活性画分を、ペンシル型モジュール(UF)(旭化成ケミカルズ株式会社)で1/10量となるまで濃縮し、10mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)で平衡化したPD-10カラム(GEヘルスケア社)で脱塩して、HPT-Wの酵素液を得た。
【0059】
(3)HPT-C、HPT-Lの調製
(3.1)Hungateiclostridium thermocellum由来のHGPRT(HPT-C)の調製
Hungateiclostridium thermocellum由来のHGPRT(配列番号7)をコードするポリヌクレオチド(配列番号8)である人工合成遺伝子を鋳型として、センスプライマー(配列番号9)及びアンチセンスプライマー(配列番号10)を用いてPCRを行い、In-fusion法を用いてpET-21a(+)ベクターに挿入した点以外はHPT-Wと同様に形質転換体の作製、HGPRTの誘導発現、及び精製を行い、N末端にHisタグを有するHungateiclostridium thermocellum由来のHGPRT(HPT-C)の溶液を得た。
【0060】
(3.2)Archaeoglobus veneficus由来のHGPRT(HPT-L)の調製
Archaeoglobus veneficus由来のHGPRT(配列番号11)をコードするポリヌクレオチド(配列番号12)である人工合成遺伝子を鋳型として、センスプライマー(配列番号13)及びアンチセンスプライマー(配列番号14)を用いてPCRを行い、In-fusion法を用いてpET-21a(+)ベクターに挿入した点以外はHPT-Wと同様に形質転換体の作製、HGPRTの誘導発現、及び精製を行い、N末端にHisタグを有するArchaeoglobus veneficus由来のHGPRT(HPT-L)の溶液を得た。
【0061】
(4)HPT-C、HPT-W及びHPT-Lの活性測定
HPT-C、HPT-W及びHPT-Lのイノシン酸に対する酵素活性を、HGPRTの作用により生成したヒポキサンチンをキサンチン脱水素酵素により尿酸に変換することで生じるNADHの340nmにおける吸光度の変化に基づいて測定した。37℃で1分間に1μモルのヒポキサンチンを発生させる酵素量を1Uとした。測定は7080型日立自動分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて行った。活性測定試薬組成、酵素希釈液組成、自動分析装置の測定パラメータはそれぞれ以下の通りである。
[活性測定試薬組成]
20mM Tris-HCl pH7.5(Merck社)
5mM イノシン酸 (Merck社)
5mM 二リン酸ナトリウム (富士フイルム和光純薬株式会社)
5mM NAD (オリエンタル酵母株式会社)
5mM MgCl2 (富士フイルム和光純薬株式会社)
5U/mL XDH II(キサンチン脱水素酵素:T-134、旭化成ファーマ株式会社)
[酵素希釈液組成]
20mM Tris-HCl pH7.5(Merck社)
[自動分析装置の測定パラメータ]
分析方法 Rate-A
測定波長(副/主) 405nm/340nm
反応時間 5分
測光ポイント 10-13
試料量 5μL
活性測定試薬量 150μL
【0062】
〔実施例3:HGPRTによるヌクレオシドモノリン酸とピロリン酸から塩基の生成(第一の工程)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
50mM Tris-HCl(pH8.0)
5mM ピロリン酸
5mM ヌクレオシドモノリン酸(IMP又はGMP)
20mM MgSO4
2.5U/mL HGPRT(HPT-C、HPT-W又はHPT-L)
[測定]
37℃で1hr反応後、精製水にて20倍希釈して分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表2にIMP、ヒポキサンチン、GMP、グアニンのピーク面積を示す。3種類のHGPRTのいずれも、IMPからヒポキサンチンへ、GMPからグアニンへの反応を触媒していることがわかる。
【0063】
【0064】
〔実施例4:HGPRT又はNAMPTによるNAMとPRPPからNMNの生成(第二の工程)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
100mM 表3に示す各緩衝液
2mM NAM
2mM PRPP
20mM MgSO4
2.5U/mL HGPRT(HPT-C、HPT-W又はHPT-L)
又は0.2μg/mL NAMPT(MERCK社製のSPR0514)
[測定]
37℃で2hr反応後、精製水にて8倍希釈して分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表3にNMN及びNAMのピーク面積を示す。HPT-CはpH5、6の緩衝液において、HPT-WはpH5、6、7、8、9の緩衝液において、HPT-LはpH5の緩衝液において、NAMPTはpH6、7、8、9の緩衝液において、NAMからNMNへの反応を触媒していることがわかる。
【0065】
【0066】
〔実施例5:HGPRTによる塩基とPRPPからヌクレオシドモノリン酸の生成(第一の工程の逆反応)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
50mM Tris-HCl(pH8.0)
1mM 塩基(ヒポキサンチン又はグアニン)
1mM PRPP
5mM MgSO4
2.5U/mL HGPRT(HPT-C、HPT-W又はHPT-L)
[測定]
37℃で1hr反応後、精製水にて4倍希釈して分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表4にIMP、ヒポキサンチン、GMP、グアニンのピーク面積を示す。3種類のHGPRTのいずれも、ヒポキサンチンからIMPへ、グアニンからGMPへの反応を触媒していることがわかる。
【0067】
【0068】
〔実施例6:HGPRT又はNAMPTによるNMNとピロリン酸からNAMの生成(第二の工程の逆反応)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
50mM Tris-HCl(pH8.0)
5mM ピロリン酸
5mM NMN
20mM MgSO4
2.5U/mL HGPRT(HPT-C、HPT-W又はHPT-L)
又は0.2μg/mL NAMPT(MERCK社製のSPR0514)
[測定]
37℃で1hr反応後、精製水にて20倍希釈して分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表5にNMN及びNAMのピーク面積を示す。3種類のHGPRT及びNAMPTのいずれも、NMNからNAMへの反応を触媒していることがわかる。
【0069】
【0070】
〔実施例7:HGPRTによるIMP、ピロリン酸、NAMからNMNの生成(第一の工程及び第二の工程の同時進行)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
100mM 表6に示す各緩衝液
20mM IMP
2mM ピロリン酸
20mM NAM
20mM MgSO4
2.5U/mL HGPRT(HPT-C又はHPT-W)
[測定]
37℃で2hr反応後、精製水にて40倍希釈して分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表6にNMN、NAM、IMP、ヒポキサンチンのピーク面積を示す。HPT-C及びHPT-W(pH6におけるHPT-Wは除く)はいずれも、IMP、ピロリン酸、NAMからNMNへの反応を触媒していることがわかる。
【0071】
【0072】
〔実施例8:HGPRTによるIMP、ピロリン酸、NAMからNMNの生成反応にXODを添加(第一の工程及び第二の工程の同時進行)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
100mM 表7に示す各緩衝液
5mM IMP
5mM ピロリン酸
5mM NAM
20mM MgSO4
2.5U/mL HPT-C(XOD無添加)
又は2.5U/mL HPT-C(50U/mL XOD(東洋紡社製のXTO-212)を添加)
[測定]
37℃で5hr反応後、精製水にて20倍希釈して分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表7にNMN、NAM、IMP、ヒポキサンチンのピーク面積を示す。XODを添加することにより、IMP、ピロリン酸、NAMからNMNへの反応が促進することがわかる。
【0073】
【0074】
〔実施例9:HGPRTによるIMP、ピロリン酸、NAMからNMNの生成反応にXODを添加(第一の工程及び第二の工程の同時進行)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
100mM acetate(pH5)
1mM IMP
0.2mM ピロリン酸
1mM NAM
50mM MgSO4
2.5U/mL HGPRT(HPT-C、HPT-W又はHPT-L)
10U/mL XOD(東洋紡社製のXTO-212)
[測定]
37℃又は65℃で1hr反応後、精製水にて4倍希釈して分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表8にNMN、NAM、IMP、ヒポキサンチンのピーク面積を示す。HGPRTは37℃及び65℃においてIMP、ピロリン酸、NAMからNMNへの反応を触媒していることがわかる。
【0075】
【0076】
〔実施例10:HGPRTによるIMPとGMPの混合物、ピロリン酸、NAMからNMNの生成反応にXODを添加(第一の工程及び第二の工程の同時進行)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
100mM acetate(pH5)
0.5mM IMP
0.5mM GMP
0.2mM ピロリン酸
1mM NAM
50mM MgSO4
2.5U/mL HGPRT(HPT-C、HPT-W又はHPT-L)
10U/mL XOD(東洋紡社製のXTO-212)
[測定]
37℃又は65℃で1hr反応後、精製水にて4倍希釈して分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表9にNMN、NAM、IMP、GMPのピーク面積を示す。HGPRTは37℃及び65℃においてIMPとGMPの混合物、ピロリン酸、NAMからNMNへの反応を触媒していることがわかる。
【0077】
【0078】
〔実施例11:HGPRTによるIMP、ピロリン酸、NAMからNMNの生成反応にXODを添加、かつIMP、ピロリン酸、NAMの比率を変化(第一の工程及び第二の工程の同時進行)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
100mM acetate(pH5)
IMP 表10に示す各濃度
ピロリン酸 表10に示す各濃度
NAM 表10に示す各濃度
50mM MgSO4
2.5U/mL HPT-C
10U/mL XOD(東洋紡社製のXTO-212)
[測定]
37℃で3hr反応後、1mM NAMの反応液は精製水で4倍希釈して、0.5mM NAMの反応液は2倍希釈して、0.2mM NAMの反応液は希釈せず分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表10にNMN、NAM、IMPのピーク面積を示す。IMP、ピロリン酸、NAMの様々な比率においてNMNが生成していることがわかる。
【0079】
【0080】
〔実施例12:HGPRTによるGMP、ピロリン酸、NAMからNMNの生成反応にXODを添加、かつGMP、ピロリン酸、NAMの比率を変化(第一の工程及び第二の工程の同時進行)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
100mM acetate(pH5)
1mM GMP
ピロリン酸 表11に示す各濃度
1mM NAM
50mM MgSO4
2.5U/mL HPT-C
10U/mL XOD(東洋紡社製のXTO-212)
[測定]
37℃で6hr反応後、反応液を精製水で4倍希釈して、分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表11にNMN、NAM、GMPのピーク面積を示す。GMP、ピロリン酸、NAMの様々な比率においてNMNが生成していることがわかる。
【0081】
【0082】
〔実施例13:HGPRTによるIMP、ピロリン酸、NAMからNMNの生成反応にXODを添加、かつMgイオンをMnイオンに変更(第一の工程及び第二の工程の同時進行)〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
100mM acetate(pH5)
1mM IMP
0.2mM ピロリン酸
1mM NAM
50mM MgSO4又は50mM MnCl2
2.5U/mL HPT-C
10U/mL XOD(東洋紡社製のXTO-212)
[測定]
37℃で3hr反応後、反応液を精製水で4倍希釈して、分画分子量10000の膜でろ過をし、ろ液をHPLC分析した。
[検出条件]
実施例1と同様に行った。
[結果]
表12にNMN、NAM、IMPのピーク面積を示す。MgイオンをMnイオンに替えてもNMNが生成していることがわかる。
【0083】
【0084】
〔実施例14:HGPRTによるヌクレオシドモノリン酸、ピロリン酸、ニコチンアミドから生成したニコチンアミドモノヌクレオチドの分子量、構造の確認〕
[反応液の調製]
下記の試薬成分を記載の濃度となるように精製水に溶解し、これらを混合して反応液を調製した。
100mM acetate(pH5)
1mM IMP
0.2mM ピロリン酸
1mM NAM
50mM MgSO
4
2.5U/mL HPT-C
10U/mL XOD(東洋紡社製のXTO-212)
[測定]
37℃で3hr反応後、反応液を精製水で4倍希釈して、分画分子量10000の膜でろ過をし、LC-MS/MS分析をした。
[分析条件]
LCシステム:ACQUITY UPLC I-Class 日本ウォーターズ株式会社製
MS:micrOTOF-Q III ブルカー・ダルトニクス株式会社製
測定条件
Source Type:ESI、Scan Range:50~1,000 m/z、Ion Polarity:Positive、
Capillary:4,500V、End Plate:500V、Nebulizer:1.2bar、
Dry Heater:200℃、Dry Gas:6.0 L/min
ソフトウエア:DataAnalysis Ver.4.3 ブルカー・ダルトニクス株式会社製
NIST MS Search Ver.2.2 アメリカ国立標準技術研究所製
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 2.1 mm I.D. × 50 mm, 1.7 μm
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:10 mmol/L ギ酸アンモニウム溶液(pH 4.6)
流速:0.2mL/min
サンプルインジェクション:5又は20μL
[結果]
この反応で生成したNMNと同じリテンションタイムで溶出している物質(試料)は分子量測定値[M+H]
+が335.0637であり、
図3に示すMS/MSスペクトルでNMNと一致することが確認できる。
ホスホリボシル二リン酸及びニコチンアミドにhypoxanthine phosphoribosyltransferase(EC 2.4.2.8)に属する1つ又は複数の酵素を作用させてニコチンアミドモノヌクレオチドを製造するニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法。