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特開2023-65179フィルム形成剤及びこれを配合した化粧料
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  • 特開-フィルム形成剤及びこれを配合した化粧料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065179
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】フィルム形成剤及びこれを配合した化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20230502BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20230502BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230502BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
A61K8/73
C08B37/00 P
A61Q19/00
A61Q1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175839
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000226437
【氏名又は名称】日光ケミカルズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】段 中瑞
(72)【発明者】
【氏名】木村 和之
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC182
4C083AC302
4C083AC532
4C083AC792
4C083AD211
4C083AD212
4C083AD272
4C083CC02
4C083EE07
4C083EE11
4C090AA08
4C090BA44
4C090BB33
4C090BB40
4C090BC15
4C090DA03
4C090DA26
(57)【要約】
【課題】本発明は、皮膚の表面状態の改善と摩擦の軽減のフィルム形成剤を提供することを課題とする。
【解決手段】皮膚の表面状態の改善および摩擦による肌トラブルの回避を実現するには、皮膚表面の凹凸を隠すとともに摩擦を軽減する必要がある。本発明者は多糖フルクタンの一種であるレバンを含有するフィルム形成剤により、これが形成するフィルムによる皮膚表面の凹凸を改善し、フィルム表面の摩擦が減少することを見出し、これを配合した化粧料を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レバンを含有することを特徴とするフィルム形成剤。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルム形成剤を配合した化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レバンを含有するフィルム形成剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は身体の最も外側に存在する臓器であり、外界からの物理的刺激や化学物質の刺激から体内を防御する機能を有する。それのため皮膚は環境の影響を受けやすく、その状態は常に変化し続けている。皮膚の表面は一様に平滑ではなく、皮溝と皮丘で形成される小さな凹凸がある。それらの凹凸は肌のキメと呼ばれ、「細かいキメ」は美しい肌の要素の一つとして知られている(非特許文献1)。一方、ニキビや、傷跡、しわなどの皮膚の欠陥による大きな凹凸は肌の表面状態に対する影響が大きく、皮膚の外観も損なわれる。このような皮膚の欠陥を目立たなくするには、高屈折率分子を有する化粧料組成物による光の散乱を利用して、皮膚表面の凹凸の明度差を減少させることによって実現できる(特許文献1)。しかしながら、皮膚への化粧料組成物の適用直後に得られる光学的効果は、日中の皮脂分泌によって変わる傾向にあるため、皮膚表面の凹凸の明度差低減効果を日中持続させるのは難しい。それを改善するために、皮膚上に化粧持続性に優れる塗膜を形成する方法で、皮膚表面の凹凸を隠蔽して皮膚の表面状態を改善する試みも報告されている(特許文献2)。
【0003】
ヒトがものに触れたときに皮膚表面で摩擦力が発生し、その摩擦による刺激を受けて不快感を生じるだけでなく、摩擦は皮膚バリア機能の脆弱化や肌かぶれ、靴ずれなどの肌トラブルも発生させる(特許文献3)。ヒトの皮膚表面の紋様は、年齢の推移と共に少なくなり、皮膚表面の摩擦係数が増大する(非特許文献2)。このように凹凸が少ない皮膚は接触面積が増えるため摩擦が増大することが知られている。前述した塗膜を用いる凹凸の隠蔽は皮膚の表面状態を改善するが、平らな表面状態による摩擦の増加は肌トラブルを引き起こす問題点がある。以上のように、皮膚の表面状態改善と摩擦軽減を両方実現する技術については十分に検討されていない。
【0004】
皮膚の表面状態改善および摩擦による肌トラブルの回避を実現するには、皮膚表面の凹凸を隠すとともに摩擦を軽減する必要がある。フルクタンはスクロースにフルクトースがβ(2→1)結合やβ(2→6)結合で重合した多糖の総称である。そのうち主に植物が合成するβ(2→1)結合型はイヌリンと呼ばれ、主に微生物が合成するβ(2→6)結合型はレバンと言われている(非特許文献3)。糖類の重合体という特性から、レバンは増粘作用(特許文献4)や保湿作用(特許文献5)を発揮することが期待されている。一方で、これまでに皮膚の表面状態改善や摩擦軽減に着目したレバンの報告例はない。細菌Erwinia amylovoraが産生するレバンは固体表面上にバイオフィルムを形成することが報告されている(非特許文献4)。このような微生物の作用により物体表面に形成されたバイオフィルムはヌメリの原因でもあるため(非特許文献5)、低摩擦へ導くことも期待できる。さらに官能化レバンなどの多糖を含む被覆粒状物は摩擦低減、界面活性剤安定化、表面張力低減などの性質が報告されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015-520120号公報
【特許文献2】特開2020-089863号公報
【特許文献3】特開2017-171583号公報
【特許文献4】特開2010-275440号公報
【特許文献5】特開2018-203628号公報
【特許文献6】特開2020-520341号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】清水 宏 「新しい皮膚科学」中山書店 p1-2(2011)
【非特許文献2】中島 耕一、今田 康夫、奈良坂 ひろ子、毛利 尚武、斉藤 満、表面化学 5巻1号 p28-34(1984)
【非特許文献3】Rastall R.A. Annu Rev Food Sci Technol 1巻 p305-339(2010)
【非特許文献4】Koczan J.M.,McGrach M.J., Zhao Y., Sundin G.W. Bacterology 99巻 p1237-1244(2009)
【非特許文献5】Tanaka N.,Kogo T., Hirai N., Ogawa A.,Kanematsu H., Takahara J.,Awazu A.,Fujita N.,Haruzono Y.,Ichida S.,Tanaka Y.Scientific Reports 9巻 p8070(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、皮膚の表面状態の改善と摩擦の軽減のフィルム形成剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、レバンを含有することを特徴とするフィルム形成剤により、皮膚表面上にフィルムを形成し、表皮の凹凸を改善し滑らかな状態を示し、かつ表皮表面の摩擦が減少することを見出し、本発明を達成するに至った。なお化粧品および皮膚外用剤を塗布することによって、皮膚自体の状態を改善するスキンケアの報告例があるが、本発明は皮膚自体の生理状態を改善する点において異なり、表面凹凸改善と摩擦軽減のためのフィルム形成剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレバンを含有するフィルム形成剤により、皮膚の表面状態改善および摩擦軽減の効果を有し、本発明のレバンを含有するフィルム形成剤を用いることで、皮膚の外観性状の改善効果を有する化粧料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明品1(a)および比較品1(b)のフィルム表面状態の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフィルム形成剤は、レバンを含有するものである。本発明のレバンは、枯草菌を利用して合成されるが特に菌種に限定するものではなく、Bacillus polymyx,Aerobacter levanicum,Streptococcus sp,Pseudomonas sp,Corynebacterium laevaniformans,Zymomonas mobilisなどであってもよい。さらに合成に利用する生物種においても限定するものではなく、遺伝子改変した植物などであってもよい。
【0012】
本発明に用いるレバンとしては、化粧水およびローション、乳液、クリームなどの化粧料の市販品に用いることができる。
本発明におけるフィルム形成剤は、表皮表面にフィルムを形成することで、表皮表面の凹凸の改善および、表面の摩擦を低減することができる。本発明の皮膚表面状態の改善は、レバンにより作成したフィルム表面の状態を走査型電子顕微鏡を用いて観察し、写真画像を用いて評価した。また摩擦の軽減は、レバンにより作成したフィルムの表面摩擦係数をもって評価した。以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。
【実施例0013】
実施例1.フィルムの表面状態の改善作用
1、実験方法
本発明品及び比較品を、下記の表1で示す組成で混合し、室温で溶解して調製した。調整した発明品及び比較品をラップ上に滴下して均一に塗布した。その後、温度45℃で一日乾燥し、外気にて1日置いてから柔軟性が出たフィルムを観察した。前記のフィルムの表面について走査型電子顕微鏡を用いて画像を取得した。
【0014】
【表1】
【0015】
2、結果
結果を図1(aは本発明品1の表面写真、bは比較品1の表面写真)に示す。レバン未添加の比較品1のフィルム表面は凹凸が多い。一方、レバンを配合した本発明品1のフィルム表面は非常に滑らかであることが確認された。
【0016】
実施例2.フィルムの摩擦の軽減作用
1、実験方法
スライドガラス貼り付けた人工皮革 (2.5 × 5.0 cm) に表1で示す本発明品1を50 μL滴下 (4 μL/cm) し、ガラス棒で均一に塗布した。その後温度20℃、湿度50%に設定したテスティングルームで一晩乾かして馴化させた。翌日、摩擦感テスターの測定台を35℃に調整し、人工皮革を上にしてサンプルを測定台に固定した。そして、25 gの重りを乗せたシリコンラバー付センサーを人工皮革上にセットし、平均摩擦係数(MIU)および摩擦係数の変動(MMD)をn=3で測定して、平均値を求めた(速度:1 mm/sec、感度:H)。MIU値は人間が感じる滑りやすさを表し、MMD値はざらつき感を表す。
【0017】
2、結果
結果を表2と表3に示した。比較品1のMIU値は10.78 ± 0.21であった。それと比べて、本発明品1のMIU値は9.24 ± 0.02であり、 良好な滑り性が認められた。一方、比較品1のMMD値は1.73 ± 0.05であった。それと比べて、本発明品1のMMD値は1.63 ± 0.03であり、明らかに滑らかな性質が認められた。
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
実施例3.フィルム形成効果の化粧料の処方及び効果の確認
本発明品の化粧料例を示す。化粧料は、実施例1に記載の方法で効果を確認した。
(処方)
A相 NIKKOL SG-DTD630 0.40(質量%)
ブチレングリコール 3.00
フェノキシエタノール 0.50
B相 クエン酸(1%水溶液) 0.15
クエン酸ナトリウム(1%水溶液) 3.00
エデト酸2ナトリウム 0.05
グリセリン 3.00
レバン 5.00
水 84.90
合計 100.00
※NIKKOL SG-DTD630:POP(30)POP(6)デシルテトラデシルエーテル(日光ケミカルズ社製)
(調製方法)A相、B相を80℃下で加温し、均一溶解される。B相にA相を添加し、均一になるまで撹拌する。35℃下まで冷却し、化粧料を得た。
【産業上の利用の可能性】
【0021】
本発明のレバンを含有するフィルム形成剤により、皮膚表面状態の凹凸改善および摩擦の軽減効果を有する化粧品の提供が可能となる。
図1